(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111646
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】トンネルの防水塗工装置
(51)【国際特許分類】
E21D 11/38 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
E21D11/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016273
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 優介
(72)【発明者】
【氏名】扇畑 邦史
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 賢吾
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155DB02
2D155FB01
2D155FB05
2D155KB11
2D155LA02
2D155LA16
(57)【要約】
【課題】周方向レールの所要位置決め精度を緩和でき、かつトンネルに防水用塗膜をシームレスで均一な膜厚になるよう塗布可能な防水塗工装置を提供する。
【解決手段】防水塗工装置3の周方向レール12aをトンネル1の一次覆工内面からなる被塗布面2aの周方向に沿わせて設置する。延伸方向レール13aを周方向レール12aにスライド可能に支持させる。ノズルユニット20を延伸方向レール13aにスライド可能に支持させる。ノズルユニット20のノズル21から防水用塗膜4となる液状物4aを被塗布面2aへ塗布しながら、往復機構15dによってノズルユニット20をトンネル延伸方向へ往復させ、周方向スライド機構13dによって延伸方向レール13aをトンネル周方向へノズル塗布幅分だけスライドさせる。周方向レール12aをスパン移動機構12dによってトンネル延伸方向へ所定スパンずつ移動させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの地山掘削面を覆う一次覆工内面又は前記地山掘削面からなる被塗布面に防水用塗膜を塗布する防水塗工装置であって、
前記被塗布面に沿ってトンネル周方向へ延びる周方向レールと、
前記周方向レールをトンネル延伸方向へ所定スパンずつ移動させるスパン移動機構と、
前記トンネル延伸方向へ延びるとともに、前記周方向レールに前記トンネル周方向へスライド可能に支持された延伸方向レールと、
前記延伸方向レールを前記周方向レールに沿ってスライドさせる周方向スライド機構と、
前記防水用塗膜となる液状物の供給手段と接続されたノズルを有して、前記延伸方向レールに前記トンネル延伸方向へスライド可能に支持されたノズルユニットと、
前記ノズルユニットを前記延伸方向レールに沿って往復させる往復機構と、
を備えたことを特徴とするトンネルの防水塗工装置。
【請求項2】
前記ノズルがノズル軸方向へ伸縮可能であり、
前記ノズルユニットが、前記ノズルを前記ノズル軸方向へ伸縮させる伸縮機構と、前記ノズルを前記ノズル軸方向と直交する2軸まわりに角度調節する2軸角度調節機構とを含むことを特徴とする請求項1に記載の防水塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布面に防水用塗膜を塗布する防水塗工装置に関し、特にトンネルの一次覆工内面又は地山掘削面に防水用塗膜を形成するのに適した防水塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、山岳トンネルの一次覆工内面等の被塗布面にポリウレア等の防水用塗膜をシームレスに塗布することによって防水層を形成することが開示されている。塗布用のノズルを、トンネルのアーチ部の周方向へ延びる周方向レールの一端から他端までスライドさせながら塗布した後、周方向レールをトンネル延伸方向へ塗布幅分だけ少しずらす操作を繰り返すことで、トンネルの要防水領域の全域に防水層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-180489号公報([0026]~[0028])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲特許文献1に記載のものにおいては、周方向レールをトンネル延伸方向へずらす前に形成した防水用塗布膜と、ずらした後に形成する防水用塗布膜とが離れてしまうとシームレスにならないし、重なり過ぎると膜厚が不均一になる。そうならないように、周方向レールをノズルの塗布幅分だけ正確に移動させて位置決めする必要がある。
一方、周方向レールは、トンネルのアーチ長に相当する十数メートル~数十メートルの長さを有し、レール支柱も加えると、重量が数百kg~数トンになると思われ、これを動かすには大きな駆動力を要し、慣性力も大きい。そのような周方向レールを数ミリメートル~数センチメートル程度の塗布幅分だけ移動させ位置決めするのは容易でない。
本発明は、かかる事情に鑑み、周方向レールの所要位置決め精度を緩和でき、かつトンネルに防水用塗膜をシームレスで均一な膜厚になるよう塗布可能な防水塗工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明装置は、トンネルの地山掘削面を覆う一次覆工内面又は前記地山掘削面からなる被塗布面に防水用塗膜を塗布する防水塗工装置であって、
前記被塗布面に沿ってトンネル周方向へ延びる周方向レールと、
前記周方向レールをトンネル延伸方向へ移動させるスパン移動機構と、
前記トンネル延伸方向へ延びるとともに、前記周方向レールに前記トンネル周方向へスライド可能に支持された延伸方向レールと、
前記延伸方向レールを前記周方向レールに沿ってスライドさせる周方向スライド機構と、
前記防水用塗膜となる液状物の供給手段と接続されたノズルを有して、前記延伸方向レールに前記トンネル延伸方向へスライド可能に支持されたノズルユニットと、
前記ノズルユニットを前記延伸方向レールに沿って往復させる往復機構と、
を備えたことを特徴とする。
【0006】
当該防水塗工装置によれば、防水用塗膜となる液状物をノズルから塗布しながら、ノズルユニットを往復機構によって延伸方向へ往復移動させる。所定回数移動させたら、周方向スライド機構によって、延伸方向レールひいてはノズルユニットをノズルの塗膜幅と対応する距離だけトンネル周方向へスライドさせる。これを繰り返すことで、トンネル周方向の一端から他端まで塗布した後、スパン移動機構によって、周方向レールひいては延伸方向レール及びノズルユニットを前記往復移動の片道距離に対応する所定スパンだけトンネル延伸方向へスライドさせる。その後、新たなトンネル延伸方向の位置において前記往復移動及び前記周方向スライドを行なう。かかる操作を繰り返すことで、トンネルの被塗布面の全域に防水用塗膜を塗布することができる。
ノズルユニット及び延伸方向レールは、周方向レールと比べて小サイズの軽量にできる。したがって、前記往復移動の制御及び前記周方向スライドの制御を精度良く行うことができ、防水用塗膜を被塗布面の全域にシームレスかつ均一な膜厚になるよう塗布できる。
周方向レールの一回あたりの移動距離は、ノズル塗布幅分(例えば数mm~数cmオーダー)ではなく、前記往復移動の片道距離に対応するスパン(例えば数十cm~数mオーダー)であり、スパン移動機構による所要位置決め精度を緩和できる。また、周方向レールの移動回数を、延伸方向レールの移動回数と比べて十分に少なくでき、スパン移動機構の負荷を低減できる。
【0007】
好ましくは、前記ノズルがノズル軸方向へ伸縮可能であり、前記ノズルユニットが、前記ノズルを前記ノズル軸方向へ伸縮させる伸縮機構と、前記ノズルを前記ノズル軸方向と直交する2軸まわりに角度調節する2軸角度調節機構とを含む。
当該防水塗工装置によれば、被塗布面が凸凹な不整面である場合、伸縮機構でノズルを伸縮させることによって、ノズルと被塗布面との距離が常時一定になるようにできる。かつ2軸角度調節機構によって、ノズルが被塗布面に対して常時直交するようにできる。これによって、被塗布面が不整面であっても。該被塗布面に防水用塗膜を確実に均一に塗布することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周方向レールの所要位置決め精度を緩和でき、かつトンネルに防水用塗膜をシームレスで均一な膜厚になるよう塗布できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る防水塗工装置を示し、トンネル延伸方向と直交する正面図である。
【
図4】
図4は、前記防水塗工装置のノズルユニットを、凸凹な被塗布面に防水用塗膜を塗布する状態で示す側面図である。
【
図5】
図5は、前記ノズルユニットの球状歯車機構の構成を示す側面図である。
【
図6】
図6は、前記ノズルユニットによって被塗布面の傾斜部に防水用塗膜を塗布する様子を示す側面図である。
【
図7】
図7(a)は、前記ノズルユニットによって被塗布面の余掘部に防水用塗膜を塗布する様子を示す側面図である。
図7(b)は、前記ノズルユニットによって被塗布面のアタリ部に防水用塗膜を塗布する様子を示す側面図である。
【
図8】
図8(a)は、トンネルの被塗布面に対するノズルの移動軌跡を示す解説平面図である。
図8(b)は、更にトンネル延伸方向へ1スパンだけ塗布が進むまでのノズルの移動軌跡を示す解説平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1~
図3は、防水塗工装置3を示したものである。
図1に示すように、防水施工対象は構築中の山岳トンネル1である。
図4において誇張して示すように、山岳トンネル1において地山を掘削してなる実際の地山掘削面1cは、設計掘削面1dの通りになるとは限らず、設計掘削面1dより掘り過ぎた余掘部1eや、掘り足らずに設計掘削面1dに達していないアタリ部1fが形成され、凸凹の不整面となっている。掘削面1cに吹き付けられた吹付コンクリート2も凸凹の不整面となっている。吹付コンクリート2を含む一次覆工の内面(被塗布面2a)に、防水塗工装置3によって防水用塗膜4を塗布する。
【0011】
防水用塗膜4の成分としては、ポリウレア、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレアハイブリッド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシポリウレタン樹脂などの樹脂が挙げられ、好ましくは早乾性樹脂のポリウレアが用いられる。
吹付コンクリート2の内面にセメントミルク、モルタル等の下地層(第1の防水用塗膜)を塗布し、その下地層にポリウレア等の樹脂層(第2の防水用塗膜)を塗布してもよい。下地層及び樹脂層の両方の塗布に、本発明に係る防水塗工装置を用いてもよい。
地山掘削面1cに直接、防水用塗膜4を塗布してもよい。
好ましくは、防水用塗膜4は、要防水領域の被塗布面2aの全域にわたって継ぎ目なく、シームレスに塗布される。
【0012】
図1~
図3に示すように、防水塗工装置3は、フレーム10と、ノズルユニット20を備えている。フレーム10は、一対のベース架台11と、アーチ架台12と、スライド架台13を含む。一対のベース架台11は、それぞれトンネル1の軸方向(トンネル延伸方向、
図1において紙面と直交する方向、
図2において上下方向、
図3において左右方向)へ延びる板形状に形成され、互いにトンネル底部1bの左右に分かれて設置されている。各ベース架台11の底部には走行体11bが設けられており、ベース架台11がトンネル延伸方向へ移動可能である。ベース架台11の上面には、トンネル延伸方向へまっすぐ延びるベースレール11aが敷設されている。
【0013】
図1~
図3に示すように、アーチ架台12は、一対の周方向レール12aと、複数の桁部材12bと、一対の支柱12cを有している。周方向レール12aは、トンネル1のアーチ部1aからトンネル内側へ少し離れて、トンネルアーチ部1aの周方向(以下「トンネル周方向」と称す)に沿うアーチ状(円弧状)に形成されている。桁部材12bが、前記トンネル周方向に間隔を置いて、これら周方向レール12aに架け渡されている。
【0014】
周方向レール12aは、支柱12cによって支持されている。支柱12cはベース架台11に立設されている。支柱12cの底部にはスパン移動機構12dが設けられている。詳細な図示は省略するが、スパン移動機構12dは、ベースレール11aにトンネル延伸方向へ移動可能に係合する走行ガイド及びホイール等の走行体と、該走行体を駆動するモータ等を含む。スパン移動機構12dの作動によって、支柱12cひいては周方向レール12aがベースレール11aに沿ってトンネル延伸方向へ移動される。これによって、アーチ架台12が、ベース架台11にトンネル延伸方向へ移動可能に支持されている。
【0015】
図1~
図3に示すように、アーチ架台12にスライド架台13が搭載されている。スライド架台13は、長手方向をトンネル延伸方向へ向けた長板状に形成されている。スライド架台13の上面には一対の延伸方向レール13aが設けられている。これら延伸方向レール13aは、互いにスライド架台13の幅方向に離れて、トンネル延伸方向へ真っ直ぐ延びている。
【0016】
スライド架台13の底部に周方向スライド機構13dが設けられている。詳細な図示は省略するが、周方向スライド機構13dは、周方向レール12aにトンネル周方向へスライド可能に係合する走行ガイド及びホイール等の走行体と、該走行体を駆動するモータ等を含む。周方向スライド機構13dの作動によって、スライド架台13ひいては延伸方向レール13aが周方向レール12aに沿ってトンネル周方向へスライドされる。これによって、スライド架台13が、アーチ架台12にトンネル周方向へスライド可能に支持されている。
【0017】
スライド架台13の上面のトンネル延伸方向の前端部(
図3において右端部)には、塗布面計測手段14が設けられている。塗布面計測手段14は、対面する被塗布面2aの表面形状及び離間距離を好ましくは非接触で計測する。非接触計測手段としては、レーザー等による光学式計測器を用いてもよく、超音波式計測器を用いてもよい。
【0018】
図1~
図3に示すように、スライド架台13に支持台15がトンネル延伸方向へ移動可能に支持されている。支持台15は、長手方向をトンネル周方向へ向けた長板形状に形成されている。好ましくは、支持台15は、アーチ架台12の周方向に沿うよう円弧状に湾曲されている。支持台15の底部に往復機構15dが設けられている。詳細な図示は省略するが、往復機構15dは、延伸方向レール13aにトンネル延伸方向へ往復移動可能に係合する走行ガイド及びホイール等の走行体と、該走行体を駆動するモータ等を含む。
【0019】
図1及び
図3に示すように、支持台15の一端部15eは、スライド架台13からトンネル周方向の一側(
図3において下側)へ延び出ている。該延出端部15eの上面にノズルユニット20が設けられている。ノズルユニット20は、被塗布面2aと近接して配置されている。往復機構15dの作動によって、支持台15ひいてはノズルユニット20が延伸方向レール13aに沿ってトンネル延伸方向へ往復移動される。架台11~13及び支持台15を含むフレーム10によって、ノズルユニット20が、トンネル周方向及びトンネル延伸方向へ移動可能に支持されている。
【0020】
図1に示すように、ノズルユニット20は、ノズル21と、球状歯車機構30(2軸角度調節機構)を含む。ノズル21は、当該ノズル21の軸方向(以下「ノズル軸方向」と称す)に沿って支持台15から被塗布面2aへ向かって突出されている。ノズル21は、ノズル軸方向へ伸縮可能なテレスコピック構造になっている。詳しくは、
図4に示すように、ノズル21は、大径のノズル基部22と、小径の先端ノズル部23を含む。先端ノズル部23が、ノズル基部22に移動可能に挿通されている。
【0021】
図4に示すように、ノズル21に防水用塗膜4となる液状物4aの供給手段40が接続されている。
図1~
図3に示すように、供給手段40は、原料タンク41と、圧送ポンプ42と、供給管43を含む。原料タンク41にポリエレア等の防水用塗膜4の原料の液状物4aが蓄えられている。該原料タンク41がベース架台11に設置されている。原料タンク41に圧送ポンプ42が接続されている。圧送ポンプ42から供給管43が延びている。供給管43の先端部がノズル21に連なっている。
【0022】
図4に示すように、ノズル21には伸縮機構50が接続されている。伸縮機構50によって、ノズル21が伸縮される。伸縮機構50は、油圧シリンダ等を含む油圧駆動式でもよく、電動モータ等を含む電気駆動式でもよい。
【0023】
図4に示すように、ノズル21は、球状歯車機構30を介して支持台15に支持されている。球状歯車機構30によって、ノズル21が全方向すなわちノズル軸方向と直交する2軸まわりに角度調節される。詳しくは、球状歯車機構30は、球状歯車31と、球体ホルダ32と、駆動モジュール33とを含む。球状歯車31は、厚みが無い仮想の平歯車を当該平歯車と同一面上の互いに直交する2つの軸のまわりにそれぞれ回転させて得られた2つの回転体の重なり部分と対応する形状に形成されている。球状歯車31の全面(表面の全域)には、平歯車の歯を前記のように2方向へ回転させたパターン形状の四極歯31aが形成されている。四極歯31aは、4つの極31pを有している。これら4つの極31pは、球状歯車31の表面における前記2つの軸との交差部分に配置されている。
【0024】
図4に示すように、球状歯車31からノズル21が突出されている。ノズル基部22の基端部が球状歯車31に固定されている。ノズル21の軸線は、球状歯車31の中心を通り、球状歯車31の径方向に沿っている。
【0025】
図4に示すように、支持台15に球体ホルダ32が固定されている。球体ホルダ32は、球状凹面32aを有している。該球状凹面32aに球状歯車31が嵌め込まれている。これによって、球状歯車31が、球体ホルダ32によって全方向へ回転可能に保持されている。
【0026】
図4に示すように、球状歯車31に一対(2つ)の駆動モジュール33が接続されている。
図5に示すように、各駆動モジュール33は、主軸34と、球受け歯車35と、差動機構36と、2つの回転駆動部61,62を有している。主軸34は、球体ホルダ32に対して軸回転可能に保持されている。主軸34の軸線L34は、球状歯車35の中心を通り、球状歯車35の径方向に沿っている。2つの駆動モジュール33の主軸34の軸線L34どうしは、球状歯車31の中心において互いに直角に交差している。
なお、これら駆動モジュール33の軸線L34どうしが必ずしも直交している必要はなく、鈍角ないしは鋭角に交差していてもよく、2つの駆動モジュール33が単一の軸線上に180度離れて対峙していてもよい。駆動モジュール33が1つだけでもよい。
【0027】
図4及び
図5に示すように、主軸34の先端部には、概略円筒形状の球受け歯車35が回転可能に支持されている。球受け歯車35の外周面には、四極歯31aと噛み合う単極歯35aが形成されている。単極歯35aは、前記仮想の平歯車を当該平歯車上の1つの軸のまわりに回転させて得られた回転体の表面における前記1つの軸との片側の交差部分(極)から180°反対側の交差部分(極)までの前記回転体の外周形状を型にして球受け歯車35の外周面に転写させたパターン形状になっている。単極歯35aは、前記片側及び反対側の交差部分と対応する単一の極35pを有している。球受け歯車35の回転軸35cは、主軸34の軸線L34に対して直交している。球受け歯車35の回転軸方向の中央部の歯先径は、球受け歯車35の回転軸方向の両端部の歯先径より小さい。球受け歯車35と球状歯車31の歯数比は1:2である。つまり、球受け歯車35の一回転に対して、球状歯車31は半回転される。
【0028】
図5に示すように、主軸34と球受け歯車35との間には、差動機構36が設けられている。差動機構36は、内歯車37と、遊星歯車38を含む。内歯車37は、主軸34と同軸の環状に形成されて、主軸34に対して回転可能に設けられている。内歯車37の内周と球受け歯車35の外周との間に遊星歯車38が設けられている。遊星歯車38は、主軸34に回転可能に支持されるとともに、内歯車37及び球受け歯車35とそれぞれ噛み合っている。
【0029】
軸回転駆動部61は、駆動モータ及び減速ギア(図示省略)を含み、主軸34とトルク伝達可能に接続されている。軸回転駆動部61によって、主軸34が球体ホルダ32に対して軸回転される。該主軸34と一体に、球受け歯車35及び遊星歯車38が主軸34の軸線L34まわりに回転される。さらに、球受け歯車35と噛み合った球状歯車31が、球受け歯車35と一体に主軸34の軸線L34まわりに回転される。
【0030】
歯車回転駆動部62は、駆動モータ及び減速ギア(図示省略)を含み、内歯車37とトルク伝達可能に接続されている。歯車回転駆動部62によって、内歯車37が球体ホルダ32に対して回転される。これによって、遊星歯車38が自転され、球受け歯車35が回転軸35cまわりに回転される。さらに、球受け歯車35と噛み合った球状歯車31が、球受け歯車3の回転軸35cと平行な軸線のまわりに回転される。
【0031】
軸回転駆動部61及び歯車回転駆動部62の同時駆動によって、主軸34及び内歯車37が共に回転されるときは、遊星歯車38が主軸34の軸線L34まわりに公転されるとともに自転される。これによって、球受け歯車35の回転数が増減される。ひいては球状歯車31の回転数が増減される。一方の駆動モジュール33による球状歯車31の回転方向が、他方の駆動モジュール33の球受け歯車35の歯スジと一致しているときは、該他方の駆動モジュール33の球受け歯車35と球状歯車31とが相対スライドされる。
【0032】
図5に示すように、さらに、防水塗工装置3は、制御ユニット5を有している。
図1及び
図2に示すように、制御ユニット5は、例えば供給手段40とは反対側のベース架台11に設置されている。制御ユニット5は、スパン移動機構12d及び周方向スライド機構13d及び往復機構15dを制御するとともに、塗布面計測手段14の計測結果に基づいてノズルユニット20を制御する。すなわち、制御ユニット5によって、2つの駆動モジュール33の回転駆動部61,62が互いに連繋するよう制御されることで、球状歯車31が全方向に角度調節される。これによって、ノズル21が全方向に角度調節される。
【0033】
ノズル21の全方向への角度調節手段として球状歯車機構30を用いることによって、ノズルユニット20をコンパクトにできる。特に、球状歯車機構30は、1つの球状歯車31からなる1つの関節でノズル21を全方向へ角度調節できるから、ノズルユニット20を確実にコンパクトな構造にできる。さらには、制御を容易化できる。
【0034】
防水塗工装置3は、例えば次のように作動される。
構築中の山岳トンネル1の防水施工領域に防水塗工装置3を設置し、アーチ架台12をベース架台11の長手方向の一箇所に位置固定する。かつ、スライド架台13をアーチ架台12の延び方向の一箇所に位置固定する。そのうえで、支持台15をスライド架台13の長手方向(トンネル延伸方向)へ移動させながら、防水用塗膜4となる液状物4aを供給手段40からノズル21へ供給してノズル21から吐出し、被塗布面2aに防水用塗膜4を塗布する。
【0035】
塗布に先立って、又は塗布と併行して、塗布面計測手段14によって、被塗布面2aの表面形状及びノズルユニット20から被塗布面2aまでの距離を計測する。
計測データは、制御ユニット5に入力される。
制御ユニット5は、入力された計測データに基づいて、ノズル21が常時、被塗布面2aに対して直交するよう、球状歯車機構30を制御するとともに、ノズル21の先端から被塗布面2aまでの距離が所定の好適な大きさになるよう、伸縮機構50を制御する。
【0036】
詳しくは、
図6に示すように、余掘部1eやアタリ部1fの斜面に防水用塗膜4を塗布するときは、球状歯車機構30によって、ノズル21が余掘部1eやアタリ部1fの斜面と直交するように、ノズル21を支持台15に対して傾ける。球状歯車機構30を用いることによって、ノズル21の角度制御をスムーズに行なうことができる。
また、
図7(a)に示すように、余掘部1eに防水用塗膜4を塗布するときは、伸縮機構50によってノズル21を設計掘削面1dに対する設定ノズル長さより伸長させる。
図7(b)に示すように、アタリ部1fに防水用塗膜4を塗布するときは、伸縮機構50によってノズル21を設計掘削面1dに対する設定ノズル長さより短くする。
これによって、被塗布面2aが凸凹な不整面であっても、防水用塗膜4を一定の膜厚で被塗布面2aに塗布することができる。
【0037】
前記塗布と併行して、支持台15ひいてはノズルユニット20を、往復機構15dによって延伸方向レール13aに沿って往復移動させる。1回の片道移動(往行又は復行)を移動回数1回として、所定回数移動させたら、周方向スライド機構13dによって、スライド架台13ひいてはノズルユニット20をノズル21の塗膜幅と対応する距離だけアーチ架台12に沿ってトンネル周方向へスライドさせる。これによって、
図8(a)の太線矢印に示すように、ノズル21が平面視で蛇行するように移動される。
【0038】
図8(a)においては、トンネル延伸方向(
図8(a)の左右方向)への1回の片道移動ごとに、ノズル21の塗膜幅Wと同等の距離Dだけ周方向スライドを行なっている。これによって、直前の片道移動で形成した防水用塗膜4Aと、新たに形成する防水用塗膜4Bとの長手側縁4eどうしが重なる。
なお、1回の往復移動(2回の片道移動)ごとに周方向スライドさせてもよく、3回以上の片道移動ごとに周方向スライドさせてもよい。また、1回の周方向スライドでは、ノズル塗膜幅Wの複数倍の距離だけ周方向スライドさせることで、直前の片道移動又は往復移動で塗布した防水用塗膜との間に間隔を設け、その後、周方向の逆側へスライドさせて、前記間隔を埋めるように塗布を行なってもよい。
【0039】
このような操作を反復することによって、トンネルアーチ部1aの周方向の一端から他端まで防水用塗膜4を形成する。
ノズルユニット20を含む支持台15及びスライド架台13は、アーチ架台12と比べて十分に小サイズの軽量にできる。したがって、往復機構15d及び周方向スライド機構13dにかかる負荷を低減でき、前記往復移動の制御及び周方向スライドの制御を精度良く行うことができる。
【0040】
その後、アーチ架台12を、スパン移動機構12dによってベース架台11に沿ってトンネル延伸方向へ所定の移動スパンだけ移動させる。
図8(a)及び同図(b)に示すように、1回の移動スパンの大きさSは、前記往行ないしは復行の片道移動の距離Lと対応し、前記周方向スライド距離Dと比べて十分に大きい。具体的には、周方向スライド距離Dが数mm~数cmオーダーであるのに対し、移動スパンSは数十cmから数mのオーダーである。したがって、アーチ架台12ひいては周方向レール12aの所要位置決め精度を緩和できる。また、アーチ架台12の移動回数を、スライド架台13の移動回数と比べて十分に少なくでき、スパン移動機構12dの負荷を低減できる。
なお、
図8において、周方向スライド距離Dの大きさは、往行ないしは復行移動の距離L及び1スパンの大きさSに対して誇張されている。
【0041】
前記1スパンだけ移動させたアーチ架台12を移動後の新たな位置に固定して、塗布と併行して支持台の往復及びスライド架台13の周方向スライドを繰り返す。これによって、
図8(b)に示すように、アーチ架台12の移動前に形成した防水用塗膜4Cと、アーチ架台12の移動後に形成した防水用塗膜4Dとの短手側縁4fどうしが重なる。
アーチ架台12をベース架台11の一端から他端まで移動させた後は、ベース架台11をトンネル延伸方向へ移動させる。このようして、防水処理すべき被塗布面2aの全域にわたって一定の厚みの防水用塗膜4をシームレスに塗布することができる。
【0042】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、2軸角度調節機構が、ノズルをホルダに対して第1の回転軸まわりに角度調節する第1角度調節機構と、前記ホルダを前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸まわりに角度調節する第2角度調節機構とを有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えばNATM工法によるトンネルの防水施工に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 トンネル
1a アーチ部
1c 地山掘削面
2a 被塗布面(一次覆工内面)
3 防水塗工装置
4 防水用塗膜
4a 液状物
5 制御ユニット
10 フレーム
11 ベース架台
11a ベースレール
12 アーチ架台
12a 周方向レール
12d スパン移動機構
13 スライド架台
13a 延伸方向レール
13d 周方向スライド機構
14 塗布面計測手段
15 支持台
15d 往復機構
20 ノズルユニット
21 ノズル
30 球状歯車機構(2軸角度調節機構)
31 球状歯車
32 球体ホルダ
33 駆動モジュール
35 球受け歯車
36 差動機構
40 供給手段
50 伸縮機構
61 軸回転駆動部
62 歯車回転駆動部