(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111648
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240809BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240809BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B1/02
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016275
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】仲本 朝嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA03
4K001CA04
4K001CA16
5H031EE01
5H031HH03
5H031HH06
5H031HH09
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】ブラックマスに含まれる炭素成分を効率的に除去できるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【解決手段】このリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、リチウムイオン二次電池を熱処理、粉砕して得られたブラックマスを、金属ジルコニウムと接触させて、低酸素雰囲気中で600℃以上1000℃以下の条件で加熱する第1工程を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を熱処理、粉砕して得られたブラックマスを、金属ジルコニウムと接触させて、低酸素雰囲気中で600℃以上1000℃以下の条件で加熱する第1工程を含む、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項2】
前記低酸素雰囲気がアルゴン雰囲気である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項3】
前記第1工程の加熱温度が800℃以上900℃以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項4】
前記第1工程後のブラックマスを新たなリチウムイオン二次電池の正極活物質として再生する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項5】
前記第1工程後の一部が炭化した金属ジルコニウムを大気中又は酸素雰囲気中で600℃以上900℃以下の条件で加熱する第2工程をさらに有し、
前記第2工程で再生した金属ジルコニウムを前記第1工程に再利用する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項6】
前記第2工程の加熱温度が700℃以上800℃以下である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は有価金属を含むため、有価金属を再回収し、リサイクルする試みが進められている。リチウムイオン二次電池のリサイクル法の一つとして、溶剤抽出法が知られている。溶剤抽出法は、廃リチウムイオン二次電池を熱処理、粉砕して得られた粉体(以下、これを「ブラックマス」という。)を酸に浸漬することで、有価金属を元素として抽出する方法である。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の抽出剤を組み合わせることで、ブラックマスを酸浸出した浸出後溶液から不純物を除去しつつ、有価金属を抽出できることが記載されている。また例えば、特許文献2には、溶剤抽出を行うことで、有価金属であるコバルトと不純物金属である銅を分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-181203号公報
【特許文献2】特開2021-139029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、ブラックマスに含まれる正極活物質を溶解して、有価金属を元素として抽出している。つまり、特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、有価金属を活物質として再利用するためには、抽出した元素から新しい正極活物質を構築するという処理が必要であり、効率的とは言えない。特に、正極活物質がリン酸鉄リチウム(LiFePO4)等のコバルト、ニッケル等の価値の高い有価金属を含まない場合、正極活物質を一度溶解した上で再生するという処理は、経済的ではない。
【0007】
またブラックマスは、ある程度の割合で炭素成分を含む。ブラックマスに含まれる炭素成分は、リチウムイオン二次電池の負極活物質、導電助剤、電解液等を熱処理した際に生じたものである。ブラックマスから正極活物質を再生する場合、正極活物質に含まれる炭素成分の比率が高いと、正極層の容量が低下する。正極側の炭素は、リチウムの吸蔵及び放出による充放電に寄与しないためである。
【0008】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、ブラックマスに含まれる炭素成分を効率的に除去できるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、リチウムイオン二次電池を熱処理、粉砕して得られたブラックマスを、金属ジルコニウムと接触させて、低酸素雰囲気中で600℃以上1000℃以下の条件で加熱する第1工程を含む。
【0011】
(2)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記低酸素雰囲気はアルゴン雰囲気でもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記第1工程の加熱温度は800℃以上900℃以下でもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記第1工程後のブラックマスを新たなリチウムイオン二次電池の正極活物質として再生してもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記第1工程後の一部が炭化した金属ジルコニウムを大気中又は酸素雰囲気中で600℃以上900℃以下の条件で加熱する第2工程をさらに有してもよい。前記第2工程で再生した金属ジルコニウムは、前記第1工程に再利用される。
【0015】
(6)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記第2工程の加熱温度は700℃以上800℃以下でもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記態様に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、ブラックマスに含まれる炭素成分を効率的に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法のフロー図である。
【
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、回収対象となるリチウムイオン二次電池の一例の模式図である。
【
図3】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法の特徴部分のフロー図である。
【
図4】第1工程前後の金属ジルコニウムのX線回折結果である。
【
図5】第1工程における熱処理前後のLiFePO
4のX線回折結果である。
【
図6】アルゴン雰囲気で加熱した金属ジルコニウムと窒素雰囲気で加熱した金属ジルコニウムのX線回折結果である。
【
図7】第2工程前後の金属ジルコニウムのX線回折結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
図1は、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法のフロー図である。本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、例えば、回収工程S1と放電工程S2と分解工程S3と熱処理工程S4と粉砕工程S5と篩分け工程S6と不純物除去工程S7と再生工程S8とを含む。本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、所定の不純物除去工程S7を行う。不純物は、例えば、ブラックマスに含まれる炭素成分であり、その他、銅、鉄等の正極活物質内に含まれる不純物金属である。
【0020】
回収工程S1では、使用済みのリチウムイオン二次電池を回収する。
図2は、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、回収対象となるリチウムイオン二次電池の一例の模式図である。
【0021】
リチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、発電素子40に接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
図2では、外装体50内に発電素子40が一つの場合を例示したが、発電素子40が複数積層されていてもよい。またリチウムイオン二次電池100は、円筒型、角型、ラミネート型、ボタン型等のいずれでもよい。発電素子40は、セパレータ10と正極20と負極30とを備える。
【0022】
正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0023】
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。
【0024】
正極活物質層24は、例えば、正極活物質を含む。正極活物質層24は、必要に応じて、導電助剤、バインダーを含んでもよい。
【0025】
正極活物質は、イオンの吸蔵及び放出、イオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、イオンとイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6
-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。イオンとしては、リチウム、マグネシウム等を用いることができる。
【0026】
正極活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンなどが挙げられる。
【0027】
特に、正極活物質がリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の場合、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は有用である。正極活物質を一度溶解する溶剤抽出法は、リン酸鉄リチウムが正極活物質の場合に適さないためである。溶剤抽出法は、正極活物質を一度分解して、所定の金属を元素として抽出する。コバルト、ニッケル等の有価金属は、元素として抽出してもコスト的な採算が得られるが、正極活物質がコバルト、ニッケル等の有価金属を含まないリン酸鉄リチウムの場合、コスト的な採算を得ることが難しい。詳細は後述するが、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、正極活物質をほとんど分解せず、ダイレクトに再利用できるため、正極活物質がリン酸鉄リチウムの場合でもコスト面での採算が得られる。
【0028】
導電助剤は、正極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤は、例えば、カーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、導電性酸化物である。カーボン粉末は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等である。金属微粉は、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の粉である。正極活物質層24におけるバインダーは、正極活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。
【0029】
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に接する。
【0030】
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0031】
負極活物質層34は、負極活物質とバインダーとを含む。負極活物質層34は、必要に応じて導電助剤を含んでもよい。
【0032】
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム合金、炭素材料、リチウムと合金化できる物質である。炭素材料は、例えば、イオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等である。リチウムと合金化できる物質は、例えば、シリコン、スズ、亜鉛、鉛、アンチモンを含む。リチウムと合金化できる物質は、例えば、これらの単体金属でも、これらの元素を含む合金又は酸化物でもよい。またリチウムと合金化できる物質は、その表面の少なくとも一部が導電性材料(例えば、炭素材料)等で被覆された複合体でもよい。
【0033】
負極活物質層34に用いられる導電助剤及びバインダーは、正極活物質層24と同様のものを用いることができる。
【0034】
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0035】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリオレフィンフィルムの単層体、積層体である。セパレータ10は、ポリエチレンやポリプロピレン等の混合物の延伸膜でもよい。セパレータ10は、セルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布でもよい。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。セパレータ10は、無機コートセパレータでもよい。
【0036】
電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解塩とを有する。電解塩は、非水溶媒に溶解している。電解液は、公知の電解液を用いることができる。電解液は、例えば、非水溶媒と電解質塩とを含む。
【0037】
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。外装体50は、例えば
図2に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、例えば、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。金属箔52は、例えばアルミ箔である。樹脂層54は、例えば、ポリプロピレン等の高分子膜である。
【0038】
端子60、62は、それぞれ負極30と正極20とに接続されている。正極20に接続された端子62は正極端子であり、負極30に接続された端子60は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。
【0039】
次いで、放電工程S2を行う。放電工程S2は、リチウムイオン二次電池100の残留電荷を放電する。放電工程S2は、分解工程S3の作業の安定性を高めるために行う。分解工程S3を行わずにリチウムイオン二次電池100を直接熱処理する場合、安全性が確保できる環境下にある場合は、放電工程S2を行わなくてもよい。放電工程S2は、公知の方法で行うことができる。
【0040】
次いで、分解工程S3を行う。分解工程S3では、リチウムイオン二次電池100から正極20を取りだす。正極20を事前に取り出すことで、ブラックマスに含まれる回収対象以外の不純物量を減らすことができる。ブラックマスは、熱処理工程S4及び粉砕工程S5後の選別対象となる試料である。分解工程S3は、行わなくてもよい。分解工程S3を省くことで、手間とコストを削減できる。
【0041】
次いで、熱処理工程S4を行う。熱処理工程S4では、少なくとも正極活物質層24を熱処理する。熱処理は、例えば、焼成処理である。分解工程S3を行った場合は、正極活物質層24又は正極20を焼成してもよい。分解工程S3を行わない場合は、リチウムイオン二次電池100全体を焼成してもよい。
【0042】
熱処理工程S4は、300℃以上の温度で行う。熱処理工程の温度は、好ましくは、300℃以上800℃未満であり、より好ましくは、400℃以上650℃未満である。熱処理工程S4で、電解液は熱分解され無害化され、セパレータ10、バインダー等の可燃物は熱分解する。この熱分解時に、ブラックマスに炭素成分が混在する。熱処理温度を650℃未満とすることで、電池材料の一つである金属アルミニウムの熱溶解を防ぎ、金属アルミニウムがブラックマスへ混入することを抑制できる。
【0043】
次いで、粉砕工程S5を行う。粉砕工程S5では、熱処理後の試料を粉砕する。熱処理後の試料を粉砕することで、ブラックマスとなる。粉砕は、公知の方法で行うことができる。粉砕工程S5は、例えば、二軸破砕機、ハンマーミル等の破砕装置で行う。正極集電体22、負極集電体32は、展性があり、粉砕工程S5を行うと1mm以上の粒子になりやすい。正極活物質、負極活物質は、粉砕工程S5を行うと1mm未満の粒子になりやすい。
【0044】
次いで、篩分け工程S6を行う。篩分け工程S6では、例えば、熱処理後の試料の平均粒径を100μm以下とする。篩分け工程S6を行うと、例えば、正極集電体22及び負極集電体32由来の1mm以上の粒子を除去できる。篩分け工程S6を行うと後述の不純物除去工程S7をより効率的に行うことができるが、篩分け工程S6は行わなくてもよい。
【0045】
次いで、不純物除去工程S7を行う。
図3は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のリサイクル方法の特徴部分のフロー図である。
図3は、不純物除去工程S7の一例を詳細に示したフロー図である。不純物除去工程S7では、ブラックマスから不純物を除去し、正極活物質を抽出する。不純物は、例えば、炭素成分、及び、銅、鉄等の金属である。
【0046】
不純物除去工程S7は、例えば、湿式分級工程S71と、フローティング工程S72と、磁選工程S73と、混合液作製工程S74と、ろ過工程S75、電解工程S76と、第1工程S77と、第2工程S78と、Li添加工程S79と、を含む。
【0047】
湿式分級工程S71は、ブラックマスを溶媒に浸漬して分級処理を行う。溶媒は、例えば、水、有機溶剤である。湿式分級工程S71を行うことで、ブラックマスから炭素の一部を除去できる。湿式分級工程S71を行うことで、ブラックマス中の炭素を、例えば20wt%以下にできる。湿式分級工程S71は、行わなくてもよい。
【0048】
フローティング工程S72は、湿式分級工程S71後のブラックマスを溶媒に浸漬し、ブラックマスを比重分離する。例えば、フローティング工程S72では、溶媒上に浮遊する成分と、溶媒に溶解沈殿する成分と、を分離する。フローティング工程S72を行うことで、ブラックマス中の炭素を、例えば10wt%以下にできる。フローティング工程S72は、行わなくてもよい。
【0049】
磁選工程S73では、磁力選別を行う。例えば、ブラックマス又は懸濁スラリーに磁石等を近づけることで、磁性体が磁石等に磁着する。例えば、正極活物質がリン酸鉄リチウム化合物の場合は、磁性体であるリン酸鉄リチウム化合物を磁着により選別する。磁選工程S73を行うことで、ブラックマス中の炭素を、例えば5wt%以下にできる。磁選工程S73は、行わなくてもよい。
【0050】
混合液作製工程S74では、ブラックマスを、塩化第二鉄(FeCl3)水溶液に浸漬し、混合液を作製する。混合液作製工程S74では、ブラックマスに含まれる金属不純物を溶液中に溶解させる。混合液作製工程S74は、不純物のうち特に金属不純物の除去を目的として行う。ブラックマスの浸漬時間は、例えば、60分以上であり、好ましくは120分以上である。
【0051】
またブラックマスを浸漬後の混合液は、撹拌することが好ましい。撹拌速度は、例えば、200rpm以上1000rpm以下であり、好ましくは400rpm以上800rpm以下であり、より好ましくは600rpmである。混合液の撹拌は、例えば、スターラー等を用いて行う。
【0052】
塩化第二鉄水溶液における塩化第二鉄の濃度は、例えば、1%以上50%以下であり、好ましくは10%以上40%以下であり、より好ましくは20%以上40%以下であり、さらに好ましくは30%以上40%以下である。塩化第二鉄の濃度が高い方が、ブラックマスから金属不純物を除去しやすい。
【0053】
塩化第二鉄水溶液の温度は、例えば、20℃以上120℃以下であり、好ましくは25℃以上100℃以下であり、より好ましくは25℃以上80℃以下であり、さらに好ましくは60℃以上80℃以下である。塩化第二鉄水溶液の温度が高い方が、ブラックマスから金属不純物を除去しやすい。
【0054】
ろ過工程S75では、混合液をろ過する。ろ過工程S75では、混合液をろ過し、溶解残渣を抽出、洗浄する。正極活物質は、塩化第二鉄水溶液にはほとんど溶解しないが、ブラックマス中に含まれるCu等の不純物金属は、塩化第二鉄水溶液に溶解する。そのため、ブラックマス中に含まれる正極活物質は、溶解残渣内に含まれる。また不純物金属は、ろ液側に含まれる。混合液作製工程S74及びろ過工程S75は、必ずしも行わなくてもよい。
【0055】
電解工程S76では、溶解残渣を含む溶液に電圧を印加することで、電解を行う。電解工程S76を行うことで、溶解残渣に残存した不純物金属をさらに分離することができる。電解工程S76は、行わなくてもよい。
【0056】
第1工程S77では、ブラックマスに対して熱処理を行う。混合液作製工程S74及びろ過工程S75を行った場合は、第1工程S77では、ブラックマスから得られた溶解残渣に対して熱処理を行う。熱処理は、ブラックマス(溶解残渣)と金属ジルコニウムとを接触させ、低酸素雰囲気中で行う。金属ジルコニウムの形状は問わず、板状でも、粉状でもよい。
【0057】
図4は、第1工程S77前後の金属ジルコニウムのX線回折結果である。第1工程S77前の金属ジルコニウムは、未処理の金属ジルコニウムである。第1工程S77後の金属ジルコニウムは、ブラックマスと接触させ、Ar雰囲気中で、900℃で加熱したものである。
図4に示すように、第1工程S77を行うことで、ブラックマスに含まれる炭素成分が金属ジルコニウムと反応し、金属ジルコニウムの一部が炭化ジルコニウムになっている。ブラックマスに含まれる炭素成分が金属ジルコニウムと反応することで、ブラックマスから炭素成分の一部が除去される。
【0058】
熱処理の温度は、例えば、600℃以上1000℃以下であり、好ましくは800℃以上900℃以下である。第1工程S77における熱処理温度が高すぎると、ブラックマスに含まれる正極活物質の構造が壊れる場合がある。また第1工程S77における熱処理温度が高すぎると、ブラックマスが凝集し、正極活物質の再利用が難しくなる。
図5は、第1工程S77における熱処理前後のLiFePO
4のX線回折結果である。LiFePO
4は、正極活物質の一例である。
図5の熱処理後の試料は、Ar雰囲気中で、900℃で加熱したものである。
図5に示すように、熱処理温度が900℃以下であれば、正極活物質の結晶構造が維持される。第1工程S77における熱処理温度が低すぎると、ブラックマスから炭素を除去する効率が低下する。
【0059】
低酸素雰囲気とは、大気より酸素濃度が低い雰囲気であり、例えば、不活性雰囲気又は真空である。不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムである。第1工程S77における低酸素雰囲気は、アルゴン又はヘリウム雰囲気が好ましく、アルゴン雰囲気が特に好ましい。
図6は、アルゴン雰囲気で加熱した金属ジルコニウムと窒素雰囲気化で加熱した金属ジルコニウムのX線回折結果である。
図6に示すように、不活性ガスが窒素の場合、金属ジルコニウムの窒化反応が生じる。そのため、不活性ガスが窒素の場合、金属ジルコニウムによるブラックマスからの炭素成分の除去効率が低下する。
【0060】
低酸素雰囲気で熱処理を行うと、ブラックマス中に含まれる炭素が金属ジルコニウムと反応し、炭化ジルコニウムとなる。ジルコニウムの炭化に溶解残渣中に含まれる炭素が消費されるため、溶解残渣から炭素が除去される。第1工程S77を行うことで、ブラックマス中の炭素を、例えば2wt%以下にできる。
【0061】
第2工程S78では、第1工程S77後の一部が炭化した金属ジルコニウムを大気中又は酸素雰囲気中で加熱する。
図7は、第2工程S78前後の金属ジルコニウムのX線回折結果である。
図7には、第2工程S78前の金属ジルコニウムと、第2工程S78後の金属ジルコニウムとのX線回折結果を示す。第2工程S78後の金属ジルコニウムとして、熱処理温度を500℃、600℃、700℃、800℃とした4つのサンプルの結果を示す。
【0062】
図7に示すように、第2工程S78前には確認されていた炭化ジルコニウムに由来するピークが、第2工程S78を行うことで確認できなくなっている。これは、一部が炭化した金属ジルコニウムを大気中又は酸素雰囲気中で加熱すると、炭素が酸素と反応し、二酸化炭素となり、金属ジルコニウムから炭素が除去されたためである。第2工程S78を行うことで、第1工程S77で用いられ一部が炭化ジルコニウムとなった金属ジルコニウムを、金属ジルコニウムに再生できる。
【0063】
第2工程S78の加熱温度は、例えば、600℃以上であり、好ましくは600℃以上900℃以下であり、より好ましくは600℃以上900℃未満であり、さらに好ましくは700℃以上900℃未満である。第2工程S78における加熱温度が低いと、第1工程S77で炭化した金属ジルコニウムから炭素成分を十分に除去できなくなる。第2工程S78における加熱温度が高いと、金属ジルコニウムが酸化する。
【0064】
第2工程S78で再生された金属ジルコニウムは、第1工程S77に再利用してもよい。
【0065】
Li添加工程S79では、ブラックマスをリチウム化合物と混合し、不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度条件で加熱する。リチウム化合物は、例えば、Li2CO3、LiOH、Li2O、LiClである。
【0066】
第1工程S77後のブラックマスに含まれる正極活物質は、Liが欠損している場合がある。Li添加工程S79を行うと、リチウム化合物から正極活物質にLiが補充され、正極活物質を再生できる。
【0067】
次いで、再生工程S8を行う。再生工程S8では、ブラックマスから再生された正極活物質を、新たなリチウムイオン二次電池に再利用する。
【0068】
本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、ブラックマスを金属ジルコニウムと接触させて反応させることで、ブラックマスから炭素成分を効率的に除去できる。
【0069】
また正極活物質を分解することなくブラックマス化することで、ブラックマス中に、結晶構造を維持した正極活物質が含まれる。そのため、ブラックマスから不純物を取り除くことで、ブラックマスに含まれる正極活物質を新たなリチウムイオン二次電池の正極活物質として再利用できる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0071】
「実施例1」
まず正極活物質にリン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン二次電池を回収し、放電した。次いで、回収したリチウムイオン二次電池を600℃で熱処理した。そして、熱処理後の試料を粉砕、篩分けし、平均粒径100μmのブラックマスを作製した。ブラックマスを誘導結合プラズマ発光分析法及び燃焼-赤外線吸収法で組成分析した。ブラックマス中には、5質量%のLiと、30質量%のCと、0.90質量%のAlと、12質量%のPと、19質量%のFeと、0.12質量%のCuと、33質量%のその他成分と、が含まれていた。
【0072】
次いで、ブラックマスを金属ジルコニウムの板と接触させて、アルゴン雰囲気下、600℃で2時間加熱した。そして、加熱処理後のブラックマスにおける残炭素量(質量%)を測定した。その結果、残炭素量は28質量%であった。
【0073】
「実施例2~5」
実施例2~5は、加熱温度を変更した点が実施例1と異なる。実施例2~5におけるその他の条件は、実施例1と同様である。それぞれの実施例における加熱温度は下記とした。
実施例2:700℃
実施例3:800℃
実施例4:850℃
実施例5:900℃
そして、それぞれの実施例において、実施例1と同様に、加熱処理後のブラックマスにおける残炭素量(質量%)を測定した。
【0074】
「実施例6~10」
実施例6~10は、加熱処理時の雰囲気を窒素雰囲気とした点が実施例1~5のそれぞれと異なる。実施例6~10におけるその他の条件は、実施例1~5のそれぞれと同様である。そして、それぞれの実施例において、実施例1と同様に、加熱処理後のブラックマスにおける残炭素量(質量%)を測定した。
【0075】
「比較例1」
比較例1は、ブラックマスを金属ジルコニウムと接触させずに加熱処理を行った(すなわち、ブラックマス単体で加熱した)点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様にし、加熱処理後のブラックマスにおける残炭素量(質量%)を測定した。
【0076】
「比較例2、3」
比較例2、3は、加熱温度を変更した点が実施例1と異なる。比較例2、3におけるその他の条件は、実施例1と同様である。それぞれの実施例における加熱温度は下記とした。
比較例2:500℃
比較例3:1050℃
そして、それぞれの実施例において、実施例1と同様に、加熱処理後のブラックマスにおける残炭素量(質量%)を測定した。
【0077】
「比較例4」
比較例4は、大気中で加熱処理を行った点が実施例1と異なる。大気中で加熱処理をすると、ブラックマスに含まれる正極活物質が酸化され、正極活物質としての結晶構造を維持できなくなった。すなわち、比較例4の方法では、ブラックマスから正極活物質を再生することはできなかった。
【0078】
以下の表1に実施例1~10、比較例1~3の結果をまとめた。
【0079】
【0080】
実施例1~10に示すように、ブラックマス中に30質量%含まれていた炭素の一部がブラックマスから除去された。これは、ブラックマス中の炭素が金属ジルコニウムと反応し、炭化ジルコニウムになったためと考えられる。また比較例3は、残炭素量は減少したが、ブラックマスが凝集し、正極活物質の再利用には適さなかった。
【0081】
「参考例1~3及び実施例11~15」
参考例1は、実施例5で使用した金属ジルコニウムの板を準備した。そして、参考例2~3及び実施例11~15では、実施例5で使用した金属ジルコニウムの板を大気中で2時間加熱した。参考例2~3及び実施例11~15のそれぞれは加熱温度が異なり、それぞれの加熱温度は下記とした。
参考例2:400℃
参考例3:500℃
実施例11:600℃
実施例12:700℃
実施例13:800℃
実施例14:850℃
実施例15:900℃
そして、それぞれの実施例において、加熱処理後の金属ジルコニウム板における残炭素量(mg/cm3)を測定した。金属ジルコニウム板における残炭素量は、ブラックマスの組成分析と同様の方法で測定した。
【0082】
以下の表2に参考例1~3及び実施例11~15の結果をまとめた。
【0083】
【0084】
表2に示すように、一部が炭化された金属ジルコニウムを大気中で600℃以上の温度で加熱することで、炭素が抜け、金属ジルコニウムが再生された。また実施例15は、加熱後に金属ジルコニウムの大部分が酸化して酸化ジルコニウムの状態になっていた。