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特開2024-111658運転評価方法、運転評価装置、及び走行ルート指示システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111658
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】運転評価方法、運転評価装置、及び走行ルート指示システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240809BHJP
   G08G 1/0962 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G08G1/00 D
G08G1/0962
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016290
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 瑠奈
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181CC12
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF14
5H181FF25
5H181MB02
(57)【要約】
【課題】運転者が実際に運転を行っている状況でほぼリアルタイムで正しい運転評価を可能にすること。
【解決手段】車両走行速度の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域α1~α4を割り当て、評価対象の車両の実速度と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数をS13~S15で前記速度域毎に計数し、計数した前記波状変動回数を運転評価に反映し、前記運転評価の結果を運転者に通知する。実車速が1つの速度域内にある状態が所定時間(TA)継続することを検知した後で判定を開始し、実速度が前記速度域を外れてから所定時間(TB)以内に同じ速度域に戻った場合に波状運転としてカウントする。実績データを分析した結果を利用して、波状運転が生じやすい道路を避けて運行するようにルート変更を指示する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行速度の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域を割り当て、
評価対象の車両の実速度と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数を前記速度域毎に計数し、
計数した前記波状変動回数を運転評価に反映し、
前記運転評価の結果を少なくとも運転者に通知する、
運転評価方法。
【請求項2】
前記実速度が第1の速度域内にある状態が所定時間継続することを検知した後で、
前記実速度が前記第1の速度域を外れた時間の長さを第1の時間として計測し、
前記第1の時間が所定の条件を満たした状況を前記波状変動回数として計数する、
請求項1に記載の運転評価方法。
【請求項3】
前記速度域毎に計数された前記波状変動回数と、各前記速度域内に滞留した時間の長さとを所定の条件と比較した結果を前記運転評価に反映する、
請求項1に記載の運転評価方法。
【請求項4】
車両走行速度の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域を表すデータを保持する基準データ保持部と、
評価対象の車両の実速度と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数を前記速度域毎に計数する波状変動計数部と、
前記波状変動計数部が計数した前記波状変動回数を運転評価に反映する運転評価部と、
前記運転評価の結果を少なくとも運転者に通知する評価結果通知部と、
を備える運転評価装置。
【請求項5】
各車両で検出された車速の波状変動回数の実績データに基づいて、車速に波状変動が生じやすい場所または道路を特定する傾向分析部と、
車速に波状変動が生じやすい場所または道路を走行中、または走行予定の特定車両を検知した場合に、前記特定車両に対してルート変更指示を提示するルート変更指示部と、
を備える走行ルート指示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転評価方法、運転評価装置、及び走行ルート指示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を運行する場合に、必要性がないにもかかわらず、運転者が一定の走行速度で車両を運行せず、加速および減速を繰り返すような運転を行う場合がある。このような加速および減速の繰り返しは、車両の実燃費に悪影響を及ぼすので、例えば運送会社やタクシー会社などにおいては燃料コストの上昇により不利益を及ぼす。また、二酸化炭素の排出量も増えてしまう。したがって、加速および減速を繰り返す波状の運転状況を減らすように運転者を指導することが必要になる。
【0003】
例えば特許文献1は、運行中に道路工事や事故など事前に予測できない道路状況が起こった場合でも、それを加味した評価を可能にして公平な評価を可能にするために、運行終了後に、取得したデータに基づいて評価基準を決めて波状運転を評価する技術を開示している。具体的には、時系列の関数である実際の速度データをフーリエ変換によって三角関数の和の形として表現し、適正速度データをなめらかな曲線として表す(段落0036)。また、適正速度データをもとに実際の速度データの変動を所定の演算方法で数値化する。これによって適正速度データに対する実際の速度データの乖離をみている。一方で、速度域によって異なる評価係数を設定しておき、上記数値と評価係数を使用し演算して、評価指数である波状運転指数を求める。この波状運転指数が、あらかじめ設定した基準値を超えた場合に波状運転と評価する(段落0037)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-90521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術を利用する場合には、事前に用意した当日の運行実績のデータに基づいて適正速度データを決定する必要があるので、車両の運行が終了した後でなければ評価を実行できない。そのため、車両の運行中にリアルタイムで運転者を指導することができない。つまり、実際に加速および減速を繰り返している状況でそれを止めるように指導できない。また、運転者はどのような運転操作が問題であるのかを把握しにくく、効果的な指導結果を期待し難い。また、特許文献1の技術では波状運転と急加減速とを区別して評価していないので、精度の高い正しい運転評価ができるのか否かは不明である。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転者が実際に運転を行っている状況でほぼリアルタイムで正しい運転評価を行うことが可能な運転評価方法、運転評価装置、及び走行ルート指示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 車両走行速度の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域を割り当て、
評価対象の車両の実速度と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数を前記速度域毎に計数し、
計数した前記波状変動回数を運転評価に反映し、
前記運転評価の結果を少なくとも運転者に通知する、
運転評価方法。
【0008】
(2) 車両走行速度の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域を表すデータを保持する基準データ保持部と、
評価対象の車両の実速度と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数を前記速度域毎に計数する波状変動計数部と、
前記波状変動計数部が計数した前記波状変動回数を運転評価に反映する運転評価部と、
前記運転評価の結果を少なくとも運転者に通知する評価結果通知部と、
を備える運転評価装置。
【0009】
(3) 各車両で検出された車速の波状変動回数の実績データに基づいて、車速に波状変動が生じやすい場所または道路を特定する傾向分析部と、
車速に波状変動が生じやすい場所または道路を走行中、または走行予定の特定車両を検知した場合に、前記特定車両に対してルート変更指示を提示するルート変更指示部と、
を備える走行ルート指示システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の運転評価方法、および運転評価装置によれば、運転者が実際に運転を行っている状況でほぼリアルタイムで正しい運転評価を行うことが可能である。また、本発明の走行ルート指示システムによれば、ルート変更指示により波状運転が生じやすい場所での走行を事前に回避して波状運転の発生を減らすことができる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、車両における実車速の推移と複数速度域との関係の例を示すタイムチャートである。
図2図2は、運転評価方法の処理手順の概要を示すフローチャートである。
図3図3は、運転評価装置における主要な構成要素を示すブロック図である。
図4図4は、速度域毎の波状回数および滞留時間のデータ例を示すグラフである。
図5図5は、1運行区間における速度変化の実績データを示すタイムチャートである。
図6図6は、運行管理システムの構成例を示すブロック図である。
図7図7は、運行管理サーバに備わった主要な機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0014】
車両における実車速Vsの時間推移と複数速度域α1~α4との関係の例を図1に示す。図1において、横軸は時間tの変化を表し、縦軸は車両の実車速(speed)Vsを表している。
【0015】
本発明の運転評価方法においては、図1に示すような実車速Vsのリアルタイムの推移状況に基づいて「波状運転」を表す走行状況を検知し、その結果を運転者の運転評価に反映する。
【0016】
また、「波状運転」を検知するために、図1に示すように車速の中に複数の速度域α1、α2、α3、α4等を割り当てる。図1に示した例では、複数の速度域α1~α4はそれぞれ所定の幅を有し、各々の範囲が互いに隣接するように割り当ててある。また、速度域α1の車速よりも速度域α2の車速の方が高く、速度域α2の車速よりも速度域α3の車速の方が高く、速度域α3の車速よりも速度域α4の車速の方が高くなっている。また、各速度域α1~α4の車速は所定の下限速度VLよりも高い位置にある。
【0017】
図1において、例えば時刻t11の時点では実車速Vsが1つの速度域α1の範囲内にあるので、この速度域α1の範囲内に車速が滞留している時間(滞留時間)の長さが十分に長くなるまで所定時間(TA)待機し、その後で車速と各速度域α1~α4との比較に基づき車速の波状変化の判定を開始する。
【0018】
図1の例では、例えば時刻t11から所定時間(TA)を経過するまで車速が速度域α1の範囲内に滞留した後、時刻t12で車速が速度域α1の範囲を外れている。更に、時刻t13で再び速度域α1の範囲内に戻り、その後の時刻t14で速度域α1の範囲を下方に外れるように変動している。
【0019】
そこで、時刻t12~t13の速度変動、つまり時刻t12で車速が速度域α1の範囲を外れてから所定時間(TB)以内に速度域α1の範囲内に戻った変化パターンを「波状運転」の1つのイベントとしてカウントする。
【0020】
更に、時刻t14~t15の速度変動、つまり時刻t14で車速が速度域α1の範囲を外れてから所定時間(TB)以内に速度域α1の範囲内に戻った変化パターンについても「波状運転」の1つのイベントとしてカウントする。
【0021】
また、図1の例では、時刻t16で車速が速度域α1の範囲を外れてから所定時間(TB)以内に速度域α1の範囲内に戻っていない。このような場合は、速度域の移行が発生したものとみなして判定対象の速度域を切り替える。すなわち、時刻t11~t12の区間と同様に同じ速度域内に滞留している時間が所定時間(TA)を経過するまで待機し、その後で現在の速度域と実車速との比較を行い、上記と同様に「波状運転」のイベントを検知してその回数をカウントする。
【0022】
<運転評価方法の処理手順>
運転評価方法の処理手順の概要を図2に示す。この処理手順は、例えば後述するように車載器のコンピュータ、あるいはネットワーク上のサーバを用いて実行可能である。図2の処理手順について以下に説明する。
【0023】
車載器は、車両上で検知された実車速Vsを監視すると共に、この実車速Vsと事前に定めた各速度域α1~α4の範囲とを比較する。そして、任意の速度域の範囲内で所定時間(TA)走行を継続した状態になるまでS11で待機する。この条件を満たすと次のS12の処理に進み、「波状運転」の判定処理を開始する。
【0024】
例えば、図1に示した実車速Vsの例では、時刻t11から所定時間(TA)を経過した後で、実車速Vsが速度域α1を外れたか否かを車載器のコンピュータがS13で比較して判定する。
【0025】
そして、実車速Vsが速度域α1を外れたことをS13で検知すると車載器は次のS14の処理に進み、更に実車速Vsが所定時間(TB)以内に速度域α1に戻ってきたか否かを比較して判定する。
【0026】
S13、S14の両方の条件を満たすと、車載器は次のS15の処理に進み、「波状運転」のイベントを判定しそのカウントを実行する。また、速度域毎の滞留時間やその累積時間などの時間情報や、車両の現在位置を表す位置情報なども「波状運転」の検出回数などと共に記録する。
【0027】
車載器は、「波状運転」を検出すると、「波状運転」が検出されたことを表す情報をS16で運転者(ドライバー)に通知する。これにより、自車両を一定の速度で運行するように運転者に対する運転の指導をリアルタイムで行うことができる。
【0028】
また、車載器は「波状運転」を検出すると、波状運転に関する情報をS17でレポートの作成に反映する。作成したレポートは、例えば無線通信によりサーバに送信される。このレポートは、例えば速度域毎の「波状運転」の検出回数、各「波状運転」を検出した位置、速度域毎の累積運転時間、運転者ID、車両IDなどの情報を含む。
車両の1回の運行が終了すると、車載器は処理を終了する(S18)。
【0029】
<運転評価装置の構成>
運転評価装置における主要な構成要素を図3に示す。図3に示した運転評価装置は、車載器10として各車両に搭載された状態で使用することができる。
【0030】
図3に示した車載器10は、主要な機能として定数テーブル11、車速比較機能12、滞留時間測定部13、波状運転判定開始部14、波状回数計数部15、速度域移行管理部16、下限速度判定部17、車両位置検出部18、判定結果処理部19、報知部20、無線通信モジュール21、及びアンテナ22を備えている。
【0031】
なお、これらの構成要素の大部分はコンピュータのハードウェアとこのコンピュータ上で実行される所定のソフトウェアとで構成できるが、専用のハードウェアを用いて構成することもできる。
【0032】
定数テーブル11は、例えば図1中に示した各速度域α1~α4の範囲や、下限速度VL、所定時間TA、TBなど、事前に定めた定数データの内容を保持している。この定数テーブル11は不揮発性メモリ上に配置される。
【0033】
車速比較機能12は、車両側から入力される最新の実車速Vsの値と定数テーブル11が保持している各速度域α1~α4とを比較して、実車速Vsが各速度域の範囲内か否かを識別する機能を有している。
【0034】
滞留時間測定部13は、実車速Vsが速度域α1~α4のいずれかの範囲内に継続的に滞留している時間の長さを計測する機能を有している。
波状運転判定開始部14は、実車速Vsが所定の条件を満たした時に、「波状運転」の判定を開始する機能を有している。具体的には、実車速Vsが現在の速度域(α1~α4の中から選択したいずれか1つ)の範囲内に滞留している時間が所定時間TAを超えた場合に「波状運転」の判定を開始する。
【0035】
波状回数計数部15は、波状運転判定開始部14が「波状運転」の判定を開始した後で、車速比較機能12の比較結果に基づき、実車速Vsが選択中の速度域の範囲を外れたことを検知し、更に所定時間TB以内に選択中の速度域の範囲内に戻ったことを検知した場合に、「波状運転」の1回のイベントをカウントして記録する。
【0036】
速度域移行管理部16は、車速比較機能12の比較結果に基づき、実車速Vsが選択中の速度域の範囲を外れた後で、所定時間TB以内に選択中の速度域の範囲内に戻らなかったことを検知した場合に、実車速Vsの速度域に移行が生じたことを検知し、選択中の速度域を他の速度域に切り替える。
【0037】
波状運転判定開始部14は、速度域移行管理部16が速度域の移行を検知すると、波状運転の判定を終了し、選択中の速度域を他の速度域(α1~α4のいずれか)に変更した後、実車速Vsが所定の条件を満たすまで次回の波状運転の判定開始を待機する。
【0038】
下限速度判定部17は、最新の実車速Vsと下限速度VLとを比較する。そして、実車速Vsが下限速度VL以下に下がった場合には、滞留時間測定部13の動作や波状運転判定開始部14の動作をリセットして初期状態に戻すように制御する。但し、波状回数計数部15がカウントした速度域毎の「波状運転」の回数や滞留時間など必要な情報の記録は残す。
【0039】
車両位置検出部18は、例えばGPS(Global Positioning System)などを利用して車両の現在位置の情報を取得する機能を有する。波状回数計数部15は、「波状運転」を検出した位置の情報を車両位置検出部18から取得できる。
【0040】
判定結果処理部19は、波状回数計数部15が出力するデータを判定結果として処理する。例えば、波状回数計数部15が1回または複数回の波状運転を検知する毎に、それをほぼリアルタイムで運転者に通知するために制御信号を報知部20に出力する。或いは、速度域毎の波状運転の回数と滞留時間の長さとに基づく評価を行い、その結果を運転者に通知する。報知部20は、判定結果処理部19が出力する制御信号に従い、波状運転を検知したことを表す通知を例えばスピーカを用いて音声で出力し、或いは画面表示で出力し、一定の速度で走行するように運転者を指導する。
【0041】
また、判定結果処理部19は波状回数計数部15が出力するデータを利用して判定結果のレポートを作成する。例えば、1回の車両運行における「波状運転」の検知回数、速度域毎の「波状運転」の検知回数、速度域毎に測定した当日の累積走行時間の長さ、各「波状運転」を検知した位置、時刻、運転者ID、車両ID、車速変化の履歴などの一覧を表すレポートを作成する。
【0042】
無線通信モジュール21は、アンテナ22を利用して、例えばLTE(Long Term Evolution)などの規格に対応した無線通信サービスを提供する広域無線通信網と車載器10との間で通信回線を接続することができる。また、無線通信モジュール21は広域無線通信網を経由して後述する所定のサーバとの間で通信を行うことができる。
【0043】
なお、各車両上の車載器10が無線通信モジュール21を介してサーバとの間で通信できる場合には、車載器10上の各機能の一部分をサーバ側の処理により実現することもできる。
【0044】
<車載器が生成するデータの具体例>
速度域毎の「波状運転」の検知回数および滞留時間(測定した走行時間:Time)の例を図4に示す。
【0045】
図3に示した車載器10の判定結果処理部19は、複数の速度域(α1~α5)のそれぞれについて、「波状運転」の検知回数を表すデータを取得できる。また、実車速Vsが複数の速度域のそれぞれに滞留した走行時間の合計を、速度域毎に集計して取得できる。したがって、図4に示すようなデータを得ることができる。図4において、折れ線グラフは「波状運転」の検知回数を示し、棒グラフは複数の速度域のそれぞれにおける滞留時間を示している。
【0046】
図4に示すようなデータを利用することで、速度域毎に「波状運転」が発生した回数および滞留時間に基づき、それぞれの運転者の運転を評価することができる。また、速度域毎にどれほど安定して走行しているか、及び速度域を外れている回数を評価することができる。
【0047】
(評価例1) 図4のデータのように速度域α2での走行時間が比較的長く、且つ速度域α2での「波状運転」回数が比較的少ない場合には、該当する運転者が速度域α2で安定した走行を行っているとみなすことができる。つまり、運転者が速度域α2で意識的に定速走行状態で運転している点を高く評価することが適切である。
【0048】
(評価例2) 図4のデータにおいては、速度域α4での「波状運転」回数が比較的多くなっているので、これが車両の実燃費に悪影響を及ぼす可能性が高い。したがって、実燃費が悪い傾向のある運転者の場合には、燃費悪化の要因が速度域α4での「波状運転」にあると推定できる。
【0049】
また、速度域毎の「波状運転」回数や、複数速度域の「波状運転」回数の総和を計測した走行時間(滞留時間)の長さで割ることで、波状運転の傾向を表す指数を評価結果として運転者毎に算出することができる。このような評価機能は、判定結果処理部19の機能の一部分として車載器10やサーバ上に実装する。
【0050】
<1運行区間の車速変化>
車両の1運行区間における走行速度変化の実績データの例を図5に示す。
図5に示した実績データにおいては、波状の速度変化が多頻度区間CA、CBで繰り返し現れている。しかし、このような多頻度区間CA、CBの速度変化が多数の運転者の全てに共通している場合には、運転者個人の運転傾向とは無関係の別の原因により波状の速度変化が発生していると考えられる。
【0051】
すなわち、各車両は様々な環境の道路を走行するので、運転者毎の運転操作の傾向とは無関係に走行速度に波状の変化が生じる場合がある。例えば、路面の状態が悪く車両の走行に悪影響を及ぼす凹凸などのある場所が繰り返す道路区間や、インターチェンジ付近のように交通状況の変化に伴って走行速度の変動が生じやすい道路区間においては、図5の多頻度区間CA、CBのような変化が生じやすい。
【0052】
したがって、各運転者が一定の速度で走行するように望ましい運転操作を心がけて運転している場合でも、図5の多頻度区間CA、CBのような道路を走行している限りは、走行速度の変動に起因して車両の燃費が悪化するのは避けられない。
【0053】
また、図5の多頻度区間CA、CBで生じるような走行速度の変動は、各車両に搭載される前述の車載器10において「波状運転」として検出することができ、その実績データは例えばレポートとして記録することができる。
【0054】
運転者個人の運転操作の傾向以外の要因で車両の燃費が悪化するのを避けるためには、例えば図5の多頻度区間CA、CBのように、走行速度の変動が生じやすい特定の道路を走行しないように車両が運行するルートを必要に応じて切り替えることが効果的である。そこで、後述する運行管理システムは、各車両の運行ルートの変更により走行速度の変動を減らす機能を備えている。
【0055】
<運行管理システムの構成>
運行管理システム100の構成例を図6に示す。
図6に示すように、各車両41は前述の車載器10を搭載している。この車載器10は、スピーカ23を用いて音声などで運転者に対して様々な情報を伝えることができる。また、GPSアンテナ24を用いて様々なGPS衛星からの電波を受信し、受信した電波を利用して車両の現在位置の緯度/経度を算出することができる。
【0056】
更に、車載器10はアンテナ22を利用して車両41の外部との間で無線通信を行うことができる。具体的には、広域通信網43の基地局と車載器10との間で無線通信ができるので、車載器10は広域通信網43を経由してインターネット網42と接続することができる。
【0057】
一方、多数の車両41を管理する運行管理サーバ30がインターネット網42と接続されている。この運行管理サーバ30は例えば所定のデータセンタ内に設置される。運行管理サーバ30は、インターネット網42および広域通信網43を経由して各車両41の車載器10との間でデータ通信を行うことができる。
【0058】
各車両41の車載器10は、車両41上で測定した各時点の車速データおよび位置データを運行管理サーバ30に送信することができる。また、図5に示した構成の車載器10を利用する場合には、車載器10は「波状運転」の検出回数や、判定結果処理部19で作成したレポートの情報も運行管理サーバ30に送信できる。
【0059】
運行管理サーバ30は、各車両41の車載器10から送信されたデータに基づいて、車両41毎に発生した速度域毎の「波状運転」の回数や滞留時間の長さを検出することができる。更に、多数の車両41の運行実績データを分析することで、例えば図5中の多頻度区間CA、CBのように「波状運転」が生じやすい特定の道路や走行区間を検出できる。また、各車両41が多頻度区間CA、CBの走行を避けるように、運行管理サーバ30はルート変更を指示することができる。
【0060】
<運行管理サーバの機能>
運行管理サーバ30に備わった主要な機能を図7に示す。図7の運行管理サーバ30について以下に説明する。
【0061】
運行管理サーバ30は通信部31、実績データ収集部32、運行実績DB(データベース)33、道路地図DB34、運行傾向分析部35、運行傾向DB36、ルート変更指示部37、および通信部38を備えている。
【0062】
通信部31、38は、インターネット網42と接続されている。したがって、運行管理サーバ30は通信部31、38、インターネット網42、広域通信網43を介して各車両41の車載器10との間でデータ通信することができる。
【0063】
実績データ収集部32は、多数の車両41のそれぞれに搭載された車載器10から運行実績のデータを収集し、そのデータを運行実績DB33に蓄積する機能を有している。したがって、様々な時点における車両毎の運行中の車速、位置、波状運転の検出回数などを表す実績データが運行実績DB33に登録される。
【0064】
道路地図DB34は、各車両41が走行する可能性がある地域の道路地図のデータを保持している。この道路地図のデータは、様々な道路の地点毎の緯度/経度を表す情報を含んでいる。
【0065】
運行傾向分析部35は、運行実績DB33に登録された実績データを分析し、複数の運転者、あるいは全ての運転者に共通の運行実績の傾向を道路毎、位置毎に検出してその結果を運行傾向DB36に記録する機能を有している。具体的には、図5中に示した各多頻度区間CA、CBのように、各運転者の個人的な運転傾向とは無関係に波状の速度変化が生じやすい特定の場所を運行傾向分析部35が検出する。
【0066】
ルート変更指示部37は、各車両の現在位置や予定運行ルートの情報と、運行傾向DB36に登録されている道路上の地点とを例えばリアルタイムで比較して、図5中の各多頻度区間CA、CBのように波状の速度変化が生じやすい特定の場所に向かう可能性が高いか否かを識別する。
【0067】
そして、ルート変更指示部37は波状の速度変化が生じやすい特定の場所に向かう可能性が高い車両の車載器10に対して、現在の予定ルートとは異なる別のルートを走行するように、ルート変更の指示を通信部38、インターネット網42、広域通信網43を経由して送信する。
【0068】
このルート変更指示により、該当する車両の車載器10は、ルート変更の提案をスピーカ23からの音声出力により運転者に伝える。あるいは、事前に選択した運行予定ルートを別の運行予定ルートに自動的に切り替える。これにより、多頻度区間CA、CBのような道路を通過するのを事前に回避することができ、車両の燃費効率の改善に繋がる。
【0069】
例えば、運行管理サーバ30が事前に各車両41の運行計画を作成する際に、同時に運行予定ルートも決定できる。また、その場合の運行予定ルートの選択をルート変更指示部37により最適化することもできる。すなわち、事前に選択した運行予定ルート上に多頻度区間CA、CBのような場所があるかどうかを運行傾向DB36を利用してルート変更指示部37が識別し、その条件に該当する場合は別の運行予定ルートを優先的に選択するように制御する。
【0070】
<運転評価方法、運転評価装置の利点>
例えば上述の車載器10は、図2に示したように実車速Vsと複数の車速域α1~α4の各範囲とを比較した結果に基づいて「波状運転」を判定するので、車両の運行中にほぼリアルタイムで「波状運転」を判定し、その結果を運転者に対して通知できる。したがって、各運転者が車両を一定の速度で運行して燃費効率を改善するように効率よく指導できる。
【0071】
また、車載器10は図2に示したように複数の車速域α1~α4のうちいずれか1つの速度域で所定時間(TA)走行したことをS11で検知した後で「波状運転」の判定を開始するので、急加減速のような状況での判定を排除し、安定した運転状態で「波状運転」を検出できる。また、実車速Vsがある速度域を外れてから所定時間(TB)以内に同じ速度域に戻った場合にS15で「波状運転」の判定を行うので、「波状運転」の発生回数を正確に把握可能になる。
【0072】
以上のように、例えば図6に示した運行管理システム100において、ルート変更指示部37を運行管理サーバ30に搭載した場合には、図5中の多頻度区間CA、CBのように波状の速度変化が生じやすい場所を含む道路上のルートで各車両41が走行する前に、車載器10を用いてルート変更を指示することができる。したがって、一定の速度で走行しやすい環境の道路を優先的に選択して各車両41を運行することが容易になり、実際の燃費効率を改善することができる。
【0073】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0074】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る運転評価方法、運転評価装置、及び走行ルート指示システムの特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両走行速度(実車速Vs)の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域(α1~α4)を割り当て、
評価対象の車両(41)の実速度(Vs)と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数を前記速度域毎に計数し(S11~S15)、
計数した前記波状変動回数を運転評価に反映し、
前記運転評価の結果を少なくとも運転者に通知する(S16)、
運転評価方法。
【0075】
上記[1]の手順の運転評価方法によれば、実速度と複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づいて実速度の波状変動回数を速度域毎に計数するので、車両の運行中にほぼリアルタイムで波状運転を検出し、効率よく運転者を指導できる。また、複数の速度域を利用することで精度の高い波状運転の検出が可能になる。
【0076】
[2] 前記実速度が第1の速度域内にある状態が所定時間(TA)継続することを検知(S11)した後で、
前記実速度が前記第1の速度域を外れた時間の長さを第1の時間として計測し、
前記第1の時間が所定の条件を満たした状況を前記波状変動回数として計数する(S13~S15)、
上記[1]に記載の運転評価方法。
【0077】
上記[2]の手順の運転評価方法によれば、道路状況に応じて発生する急加減速のような車速変化のパターンと、車両の定常運行中に発生する「波状運転」とを区別することが容易になる。
【0078】
[3] 前記速度域毎に計数された前記波状変動回数と、各前記速度域内に滞留した時間の長さとを所定の条件と比較した結果を前記運転評価に反映する(判定結果処理部19)、
上記[1]に記載の運転評価方法。
【0079】
上記[3]の手順の運転評価方法によれば、「波状運転」しないように配慮しながら車両を運行している優良運転者と、それ以外の運転者との違いを明確にすることが容易になり、より適切な運転者評価が可能になる。
【0080】
[4] 車両走行速度の基準として、それぞれが所定の幅を有する複数の速度域(α1~α4)を表すデータを保持する基準データ保持部(定数テーブル11)と、
評価対象の車両(41)の実速度(Vs)と前記複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づき、前記実速度の波状変動回数を前記速度域毎に計数する波状変動計数部(波状回数計数部15)と、
前記波状変動計数部が計数した前記波状変動回数を運転評価に反映する運転評価部(判定結果処理部19)と、
前記運転評価の結果を少なくとも運転者に通知する評価結果通知部(報知部20)と、
を備える運転評価装置(車載器10)。
【0081】
上記[4]の構成の運転評価装置によれば、実速度と複数の速度域のそれぞれとの比較結果に基づいて実速度の波状変動回数を速度域毎に計数するので、車両の運行中にほぼリアルタイムで波状運転を検出し、効率よく運転者を指導できる。また、複数の速度域を利用することで精度の高い波状運転の検出が可能になる。
【0082】
[5] 各車両で検出された車速の波状変動回数の実績データに基づいて、車速に波状変動が生じやすい場所または道路を特定する傾向分析部(運行傾向分析部35)と、
車速に波状変動が生じやすい場所または道路を走行中、または走行予定の特定車両を検知した場合に、前記特定車両に対してルート変更指示を提示するルート変更指示部(37)と、
を備える走行ルート指示システム(運行管理システム100)。
【0083】
上記[5]の構成の走行ルート指示システムによれば、各運転者個人の運転傾向とは無関係に波状の速度変化が生じやすい道路を車両が走行する前に、予定している走行ルートの変更を指示できる。これにより、各運転者は一定の速度で車両を運行するのが比較的容易な道路環境で走行できるので、車両の燃費効率を改善することが容易になる。
【符号の説明】
【0084】
10 車載器
11 定数テーブル
12 車速比較機能
13 滞留時間測定部
14 波状運転判定開始部
15 波状回数計数部
16 速度域移行管理部
17 下限速度判定部
18 車両位置検出部
19 判定結果処理部
20 報知部
21 無線通信モジュール
22 アンテナ
23 スピーカ
24 GPSアンテナ
30 運行管理サーバ
31 通信部
32 実績データ収集部
33 運行実績DB
34 道路地図DB
35 運行傾向分析部
36 運行傾向DB
37 ルート変更指示部
38 通信部
41 車両
42 インターネット網
43 広域通信網
100 運行管理システム
CA,CB 多頻度区間
VL 下限速度
Vs 実車速
α1,α2,α3,α4 速度域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7