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特開2024-11167レーザースキャンの制御装置、レーザースキャン装置、レーザースキャンの制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011167
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】レーザースキャンの制御装置、レーザースキャン装置、レーザースキャンの制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112959
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕晃
(57)【要約】
【課題】レーザースキャンにおける反射体ターゲットからの強い反射光に係る問題を解決する技術を提供する。
【解決手段】受光部202を備えたレーザースキャン装置200によるレーザースキャンを制御する処理装置500であって、反射プリズムからの反射光により受光部202での測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャン(通常スキャン)と、反射プリズム300,400からの反射光による受光部202での測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャン(調光スキャン)を実行させるレーザースキャン制御部501と、前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の受光部202における飽和の状態を判定する飽和判定部502と、飽和判定部502における判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける受光部202で受光する光の強度を調整する可変アッテネータの制御部504を備える。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光部を備えたレーザースキャン装置によるレーザースキャンを制御する装置であって、
反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させる制御部と、
前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定する飽和判定部と、
前記飽和判定部における判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整する調整部と
を備えるレーザースキャンの制御装置。
【請求項2】
前記飽和の状態の判定は、前記受光部の出力波形に基づき行われる請求項1に記載のレーザースキャンの制御装置。
【請求項3】
前記飽和の状態の判定は、前記受光部の出力波形の時間軸上における長さに基づき行われる請求項2に記載のレーザースキャンの制御装置。
【請求項4】
前記出力波形の前記時間軸上の長さと前記調整部における前記調整の関係が予め取得されている請求項3に記載のレーザースキャンの制御装置。
【請求項5】
前記出力波形の前記時間軸上の長さが相対的に長い場合に、前記調整部は前記受光部で受光する前記光の強度を相対的に大きく減衰させる請求項3に記載のレーザースキャンの制御装置。
【請求項6】
前記測距精度の低下が生じない状態と、前記出力波形の前記時間軸上での長さの関係は予め既知であり、
該関係に基づき、前記調整部は、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整する請求項3に記載のレーザースキャンの制御装置。
【請求項7】
受光部と、
反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させる制御部と、
前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定する飽和判定部と、
前記飽和判定部における判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整する調整部と
を備えるレーザースキャン装置。
【請求項8】
受光部を備えたレーザースキャン装置によるレーザースキャンを制御する方法であって、
反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させ、
前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定し、
前記飽和の状態の判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整するレーザースキャンの制御方法。
【請求項9】
受光部を備えたレーザースキャン装置によるレーザースキャンの制御をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに
反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させ、
前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定させ、
前記飽和の状態の判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整させるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザースキャンの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工事現場における測量手段としてレーザースキャンが利用されている。この技術では、ターゲットとして反射プリズムを設置してのレーザースキャンが行われる。
【0003】
この際、反射プリズムからの反射光が強く、レーザースキャン装置の受光素子が飽和する。そこで、反射プリズムの測位は、減光フィルタを介して行う。この技術については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2926521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の減光フィルタを介した反射プリズムの測位では、適切な減光状態に調整する作業が必要となる。これは、減光の程度が大きいと、検出される測距光の強度が小さく測距精度が低下し、他方で減光の程度が小さいと、検出される測距光の強度が大きく、受光部の飽和に起因する測距精度の低下を招くからである。また、反射プリズムに対する測距光の適切な強さは、雨、霧、埃等の影響も受けるので、その点に対する対応も必要である。
【0006】
測量の現場において、事前に反射プリズムに対して試験的に測位を行い、測距光が適切な検出レベルとなるように減光フィルタの調整や切り替えを細かく行う方法が考えられる。しかしこの方法は、作業の手順が増え、実用的でない。現状では、反射プリズムの測位精度の点で妥協し、大凡適切であると判断される減光フィルタを用いている。
【0007】
このような背景において、本発明は、レーザースキャンにおける反射プリズムからの強い反射光に係る問題を解決する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、受光部を備えたレーザースキャン装置によるレーザースキャンを制御する装置であって、反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させる制御部と、前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定する飽和判定部と、前記飽和判定部における判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整する調整部とを備えるレーザースキャンの制御装置である。
【0009】
本発明において、前記飽和の状態の判定は、前記受光部の出力波形に基づき行われる態様が挙げられる。本発明において、前記飽和の状態の判定は、前記受光部の出力波形の時間軸上における長さに基づき行われる態様が挙げられる。本発明において、前記出力波形の前記時間軸上の長さと前記調整部における前記調整の関係が予め取得されている態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、前記出力波形の前記時間軸上の長さが相対的に長い場合に、前記調整部は前記受光部で受光する前記光の強度を相対的に大きく減衰させる態様が挙げられる。本発明において、前記測距精度の低下が生じない状態と、記出力波形の前記時間軸上での長さの関係は予め既知であり、該関係に基づき、前記調整部は、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整する態様が挙げられる。
【0011】
本発明は、受光部と、反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させる制御部と、前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定する飽和判定部と、前記飽和判定部における判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整する調整部とを備えるレーザースキャン装置である。
【0012】
本発明は、受光部を備えたレーザースキャン装置によるレーザースキャンを制御する方法であって、反射プリズムからの反射光により前記受光部での測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させ、前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定し、前記飽和の状態の判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整するレーザースキャンの制御方法である。
【0013】
本発明は、受光部を備えたレーザースキャン装置によるレーザースキャンの制御をコンピュータに実行させるプログラムであって、コンピュータに反射プリズムからの反射光により測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャンと、前記反射プリズムからの反射光による測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャンを実行させ、前記第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の前記受光部における飽和の状態を判定させ、前記飽和の状態の判定に基づき、前記第2のレーザースキャンにおける前記受光部で受光する光の強度を調整させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザースキャンにおける反射プリズムからの強い反射光に係る問題が解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザースキャンの概要を示す図である。
図2】レーザースキャン装置の外観を示す図である。
図3】レーザースキャン装置と処理装置のブロック図である。
図4】光学系のブロック図である。
図5】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図6】光学系の他のバリエーションのブロック図である。
図7】光学系の他のバリエーションのブロック図である。
図8】レーザースキャンにおける距離と受光部の出力との関係を示すデータの図である。
図9】レーザースキャンにおける距離と受光部の出力との関係を示すデータの図である。
図10】レーザースキャンにおける距離と受光部の出力との関係を示すイメージ図である。
図11】受光素子の出力波形の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1の実施形態
(概要)
図1には、点群データの取得を行いたい現場にレーザースキャン装置200とターゲットとなる反射プリズム300と400が設置された状態が示されている。
【0017】
また、図1には、レーザースキャンにより得たデータの処理およびレーザースキャン装置200の制御を行う処理装置500が示されている。処理装置500はコンピュータであり、ここではPC(パーソナル・コンピュータ)を利用する例が示されている。
【0018】
反射プリズム300と400は、絶対座標系における位置が既知の点に設置されている。絶対座標系は、地図やGNSSで用いられる座標系である。なお、座標系としてローカル座標系を用いることもできる。
【0019】
図1には、反射プリズム以外のスキャン対象は図示省略されているが、実際は反射プリズム以外にレーザースキャンの対象(例えば、地形や建物)が存在している。
【0020】
反射プリズム300と400は、入射光を180°向きを変えて反射する。反射プリズム300と400は、測量用に市販されているものを利用している。反射プリズム以外に再帰反射体等の他の反射体を用いることもできる。
【0021】
レーザースキャン装置200は、レーザースキャンに適した位置に設置されているが、絶対座標系におけるその位置と姿勢は未知である。この例では、レーザースキャン装置200は、1回目の広範囲なレーザースキャン(例えば,全周スキャン)と2回目の反射プリズムに絞ったレーザースキャンを行う。
【0022】
ここで、1回目のレーザースキャンにより広範囲の点群データを得るが、その段階における各点の絶対座標系上での位置は未知である。これは、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の位置と姿勢が未知であるからである。
【0023】
そこで、2回目のレーザースキャンにより、絶対座標系での既知点に設置された反射プリズム300と400の測位を行い、後方交会法により、レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢を算出する。
【0024】
レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢が判ることで、1回目のレーザースキャンによって得た点群データに絶対座標系における座標が与えられ、絶対座標系上での点群データが得られる。なお、反射プリズムの数は、3以上であってもよい。
【0025】
上記1回目のレーザースキャンでは、反射プリズム300と400からの反射光が強すぎ、レーザースキャン装置200の受光部202が飽和し、反射プリズム300と400の測距精度が低下する。すなわち、1回目のレーザースキャンでは、反射プリズム300と400の測位精度が低下する。
【0026】
そこで、反射プリズム300と400の正確な測位を行うための2回目のレーザースキャンを行う。この際、高い測位精度が得られるように、測距光の受光素子への入力レベルを、可変光アッテネータを用いて弱める。この可変光アッテネータの制御は、1回目のレーザースキャンの結果に基づいて行う。
【0027】
なお、受光部202における強入力による飽和は、主に受光素子で生じる。この飽和の程度が小さければ、受光素子の出力の歪み、また出力の頭打ちが生じるが、測距の精度は確保される。飽和の程度が大きくなると、受光素子の出力の波形の歪みが顕著になり、波形の位相差を利用した距離の計測に誤差が生じ、測距の精度が低下する。
【0028】
2回目のスキャンは、後者の測距の精度に悪影響が出ない状態(測距の精度が確保された状態)で行われる。よって、2回目のスキャンでは、測距の精度に悪影響が出ないレベルの受光部202での飽和は許容される。
【0029】
(摘要)
図3には、受光部202を備えたレーザースキャン装置200と、レーザースキャン装置200によるレーザースキャンを制御する処理装置500が示されている。処理装置500は、反射プリズム300,400(図1参照)からの反射光によりレーザースキャン装置200における測距精度の低下が生じる条件で行う第1のレーザースキャン(通常スキャン)と、反射プリズム300,400からの反射光によりレーザースキャン装置200における測距精度の低下が生じない条件で行う第2のレーザースキャン(調光スキャン)を実行させるレーザースキャン装置制御部501を備える。
【0030】
また、処理装置500は、第1のレーザースキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の受光部202における飽和の状態を判定する飽和判定部502と、飽和判定部502における判定に基づき、第2のレーザースキャンにおける受光部202で受光する光の強度を調整する調整部である可変アッテネータの制御部504を備える。
【0031】
第2のレーザースキャンは、反射プリズム300,400の測位を高精度で行うためのレーザースキャンであり、受光部202の飽和に起因する測位の精度が低下しないようにする必要がある。
【0032】
この目的を達成するために、第2のレーザースキャンにおける受光部202に入射するスキャン光(測定光)の入射強度を第1のレーザースキャンの場合に比較して低下させる。この際、どの程度低下させればよいのかが問題となる。
【0033】
本実施形態では、第1のレーザースキャン時に得たレーザースキャン点群の中から強反射光による受光部202での飽和の発生の程度を受光部202内の受光素子の出力波形の形から判定する。
【0034】
反射プリズム300,400から反射光は、レーザースキャンに係る反射光の中で桁違いに大きい。よって、受光素子の出力波形も特異な波形の形となる。この特異な波形の形から、第1のレーザースキャンの条件において、受光部202で受光する光の強度をどのくらい低下させればよいのかを推定し、この推定に基づき第2のレーザースキャン時における可変光アッテネータ207の制御を行う。
【0035】
具体的には、入力光の強度が大きい程、受光素子の飽和の程度は大きく、受光素子の出力波形の時間軸上の長さが長くなる。そこで、受光素子の出力波形の時間軸上の長さにより飽和の程度を評価し、それに基づき可変光アッテネータ207の制御を行い、第2のレーザースキャンにおける受光部202への入射光の最大値が測位の精度が低下しないレベルとする。
【0036】
すなわち、飽和状態にある受光素子の出力波形の時間軸上の長さをどの程度短くすれば測距の精度が確保できるかに関する事前データを予め取得し、この事前データと検出された実際の上記出力波形に基づき、可変光アッテネータ207における減衰量を調整し、第2のレーザースキャンを行う。この第2のレーザースキャンでは、反射プリズム300,400からの反射光により、測距の精度が低下する受光部202での飽和が発生せず、高い測距精度が得られる。
【0037】
(ハードウェアの構成)
図2には、レーザースキャン装置(レーザースキャナ)200の外観が示されている。レーザースキャン装置200は、三脚211、三脚211の上部に固定されたベース部212、ベース部212上で水平回転が可能な回転体である水平回転部213、水平回転部213に対して鉛直回転が可能な回転体である鉛直回転部214を備えている。レーザースキャン装置200は、無線接続された図示しない外部のコントローラ(操作端末)によって操作される。
【0038】
鉛直回転部214は、レーザースキャン光の放射と受光を行う光学部215を備えている。光学部215からレーザースキャン光がパルス発光される。このパルス発光は、鉛直回転部214が回転しながら、その回転軸(水平方向に延長する軸)に直交する方向(鉛直面)に沿って行われる。この場合、光学部215から鉛直角の方向(仰角および俯角の角度方向)に沿ってレーザースキャン光がパルス発光される。
【0039】
水平回転部213を水平回転させ、且つ、鉛直回転部214を鉛直回転させながら、光学部215からレーザースキャン光をパルス発光させ、対象物からのその反射光を光学部215で受光することで、周囲に対するレーザースキャンが行われる。
【0040】
上記の鉛直角の方向に沿ったスキャン(縦スキャン)と同時に水平回転部213が水平回転することで、この鉛直角方向に沿ったスキャンライン(縦スキャンライン)が水平角方向(水平方向)に沿ってずれるようにして移動する。なお、鉛直回転時に水平回転も同時に行った場合、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦スキャンライン)は完全に鉛直方向に沿っておらず、僅かであるが少し斜めの線となる。なお、水平回転部213が回転しなければ、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦スキャンライン)は鉛直方向に沿ったものとなる。
【0041】
水平回転部213と鉛直回転部214の回転は、モータにより行われる。水平回転部213の水平回転角と、鉛直回転部214の鉛直回転角は、エンコーダにより精密に計測さる。
【0042】
各レーザースキャン光は、1条のパルス測距光であり、一つのレーザースキャン光により、当該レーザースキャン光が当たった反射点であるスキャン点の測距が行われる。この測距値とレーザースキャン光の照射方向から、レーザースキャン装置200に対するスキャン点(レーザースキャン光の反射点)の位置が算出される。
【0043】
レーザースキャン装置200から出力されるレーザースキャン点群の形態としては、各点(各スキャン点)に係る距離と方向のデータを出力する形態が挙げられる。レーザースキャン装置200の内部において、特定の座標系における各点の位置を計算し、各点の3次元座標位置を点群データとして出力する形態も可能である。また、レーザースキャン点群のデータには、各スキャン点の輝度(反射光の強度)の情報も含まれている。
【0044】
この例では、レーザースキャン点群のデータと、各点に係る受光部202の出力のデータとが関連付けされて記憶部209に記憶される。なお、後述するが受光部202の出力のデータには、図11に例示する受光素子の出力波形のデータが含まれる。
【0045】
図3は、レーザースキャン装置200と処理装置500のブロック図である。レーザースキャン装置200は、発光部201、受光部202、測距部203、方向取得部204、発光制御部205、駆動制御部206、可変光アッテネータ207、通信装置208、記憶部209を備える。
【0046】
図4は、レーザースキャン装置200の光学系のブロック図である。発光部201は、レーザースキャン光の発光を行う発光素子、発光に関係する光学系と周辺回路を有する。発光部201で発光されたレーザースキャン光は、光合成/分離部250を介して図2の光学部215から外部に出射される。光合成/分離部250は、ハーフミラーやダイクロイック一ミラーを用いて出射光と入射光の光路の分離及び合成を行う光学系である。
【0047】
受光部202は、レーザースキャン光の受光を行う受光素子、受光に関係する光学系と周辺回路を有する。受光素子としては光電効果や光起電力効果を利用した光検出デバイスが利用される。例えば、受光素子としてフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトセル等が利用される。
【0048】
光学部215から取り込まれたレーザースキャン光の反射光は、光合成/分離部250から可変光アッテネータ207に導かれ、更に受光部202に導かれる。可変光アッテネータ207は、可変光アッテネータ制御部504により制御され、受光部202に入射する光の強度を調整する。
【0049】
図3に戻り、測距部203は、受光部202の出力に基づき、レーザースキャン装置200からレーザースキャン光の反射点(スキャン点)までの距離を算出する。この例では、レーザースキャン装置200の内部に基準光路が設けられている。発光素子から出力されたレーザースキャン光は2分岐され、一方がレーザースキャン光として光学部215から対象に照射され、他方が参照光として上記基準光路に導かれる。
【0050】
対象から反射され、光学部215から取り込まれたレーザースキャン光と上記基準光路を伝搬した参照光とが合成され、受光部202に入力される。レーザースキャン光と参照光は、伝搬距離が異なり、最初に参照光が受光素子で検出され、次いでレーザースキャン光が受光素子で検出される。
【0051】
ここで、受光素子の出力波形を見ると、参照光の検出波形が最初に出力され、ついで時間差をおいてレーザースキャン光の検出波形が出力される。この2つの波形の位相差(時間差)からレーザースキャン光の反射点までの距離が算出される。なお、レーザースキャン光の飛翔時間から距離を算出する形態も可能である。
【0052】
なお、入力光が強すぎて受光素子で飽和が生じると、距離に関係なく時間軸上における上記検出波形の立ち上がりの位置や重心の位置が変化し、上記波形の位相差による距離の算出精度が低下する。これが本発明で問題としている受光素子の飽和による測距精度の低下の原因である。
【0053】
方向取得部204は、レーザースキャン光の光軸の方向を取得する。光軸の方向は、水平方向の光軸の角度(水平角)と鉛直方向の光軸の角度(仰角または俯角)を計測することで得る。方向取得部204は、水平角検出部204aと鉛直角検出部204bを有する。
【0054】
水平角検出部204aは、水平回転部213の水平回転角を検出する。水平回転は、鉛直方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。鉛直角検出部204bは、鉛直回転部214の鉛直回転角(仰角または俯角)を検出する。鉛直回転は、水平方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。
【0055】
水平回転部213の水平回転角と鉛直回転部214の鉛直回転角を計測することで、レーザースキャン装置200から見たレーザースキャン光の光軸の方向、すなわちスキャン点の方向が判る。
【0056】
発光制御部205は、発光部201におけるレーザースキャン光の発光タイミングの制御を行う。駆動制御部206は、水平回転部213を水平回転させるための駆動制御を行う水平回転駆動制御部206aと、鉛直回転部214を鉛直回転させるための駆動制御を行う鉛直回転駆動制御部206bを備える。
【0057】
可変光アッテネータ207は、受光部202の前に配置され、受光部202に入射する光を減衰させる。この減衰量(減衰率)は可変できる。減衰量の可変は、受光部202に配置された受光素子の出力波形に基づいて行われる。この処理の詳細は後述する。
【0058】
可変光アッテネータ207としては、周方向において透過率が漸次変化する状態に設定された半透過性の円板を回転させることで透過率を調整する形式、液晶の透過率を制御する形式等がある。可変光アッテネータのモジュールは市販されており、その中から適宜選択して利用できる。
【0059】
反射プリズムからの反射は強いので受光素子が飽和し、測距値には誤差が生じる。例えば、本発明者らの実験によれば、誤差数mmの精度の測距が可能なレーザースキャナにおいて、反射プリズムからの反射光の場合、cmレベルの誤差が生じることが判っている。この誤差の増大の程度は、受光素子の非線形動作の絡みもあり、一定しないが、通常の測定誤差の数倍~10倍程度となる。
【0060】
可変光アッテネータ207を受光部の前に配置することで、受光部に入る光の強度を弱め、上記の問題の発生を抑制する。
【0061】
通信装置208は、処理装置500、図示しない外部のコントローラ、その他の装置との間で通信を行う。通信は、有線、無線LAN、携帯電話回線等を用いて行われる。記憶部209は、半導体メモリやハードディスク装置により構成され、レーザースキャン装置200の動作に必要な動作プログラム、データ、動作の過程や動作の結果得られるデータを記憶する。
【0062】
処理装置500は、レーザースキャン装置200の動作制御およびレーザースキャン装置200が得た点群データ(レーザースキャン点群のデータ)の処理を行う。処理装置500の一部または全部をレーザースキャン装置200に内蔵させる形態も可能である。処理装置500の一部または全部の機能をデータ処理サーバで実現する形態も可能である。
【0063】
処理装置500は、PC(パーソナル・コンピュータ)により構成されている。処理装置500の一部または全部を専用のハードウェアで構成することも可能である。
【0064】
処理装置500は、レーザースキャン装置制御部501、飽和判定部(反射プリズム検出部)502、減衰量算出部503、可変光アッテネータの制御部504、反射プリズムの位置取得部505、点群データ作成部506、通信装置507、記憶部508を備える。
【0065】
レーザースキャン装置制御部501は、レーザースキャン装置200の動作を制御するための制御信号を生成する。この制御信号は、通信装置506からレーザースキャン装置200に送信される。この制御信号には、レーザースキャンを制御する制御信号と可変アッテネータ207の制御を行う制御信号が含まれる。レーザースキャン装置制御部501により、第1のレーザースキャン(通常スキャン)と第2のレーザースキャン(調光スキャン)の動作に係る制御が行われる。
【0066】
飽和判定部(反射プリズム検出部)502は、受光部202における受光素子の飽和の程度を判定する。この判定に基づいて後述の可変光アッテネータ制御部504による可変光アッテネータ207の制御が行われる。
【0067】
以下、飽和判定部502における処理の詳細を説明する。図8は、通常スキャンにおける各種の反射体からの反射光の検出強度(縦軸)と、レーザースキャナから反射対象までの距離(m)の関係の実測値である。ここで、縦軸の検出強度は、受光部202の出力の相対値である。ここで、受光部202の出力は受光素子の出力である。
【0068】
図8において、安全ベストは、シート状の反射材料を備えたベストである。標識、テールランプ、ガードレール用反射体は、視認性を高めるために光反射性の材質で構成された反射体を備えている。これらの反射体は、一般的なスキャン対象(地形など)に比較して可視光帯域における高い反射率を有している。従って、一般的なスキャン対象からの反射光の強度は、図8に示すレベルよりも更に低いものとなる。反射プリズム1と反射プリズム2は、測量用に市販されている型番の異なる反射プリズムである。
【0069】
図8から、レーザースキャナからの距離がある程度遠い場合(図8の場合は60m以上)、反射プリズムからの反射光を受光した受光部202の出力と、非反射プリズムからの反射光を受光した受光部202の出力とに差が生じることが判る。
【0070】
図9は、図8と同様なデータを調光スキャンの条件で得た結果である。この場合の調光スキャンでは、図8の通常スキャンに比較して、受光素子に入るスキャン光の強度が大きく低下している。なお、低下の割合は、距離に応じてアッテネータの減衰量を変えているので一様ではない。
【0071】
図9から判るように、調光スキャンにおいては、反射プリズムからの反射光と反射プリズムでない反射体からの反射光とにおいて、受光部202の出力に大きな(桁違いな)差が生じる。この理由は以下のように考えられる。
【0072】
図9の場合、非反射プリズムの反射光の検出レベルは、縦軸の相対値で見て50以下である。他方において、反射プリズムの反射光の検出レベルは、1000以上である。よって、受光部202の出力レベルで見ると、非反射プリズムの反射光は、反射プリズムの反射光に比較して、1/20以下となる。
【0073】
これについては、以下のように考えられる。まず、通常スキャンにおける反射プリズムからの反射光の検出では、受光素子の飽和が生じており、受光素子の入力(入射光)と出力の直線性は大きく失われている。
【0074】
そのため、測距の精度が低下すると共に、受光素子の出力は検出光の強度を正確に反映していない。具体的にいうと、入力が増えても出力は増えず、出力は本来の出力されるべき値よりも小さくなっている。
【0075】
よって、図8における反射プリズムからの反射光の検出値は、実際の値よりも低い値となる。言い換えると、縦軸の相対値10000のあたりで受光素子の出力は飽和しており、入力が大きくなっても、それより大きな値は出力されない。
【0076】
また、図8の距離40m以下の範囲において、反射プリズムと非反射プリズムの受光検出値が近い値になっているが、距離が近くなるとより強い反射光が受光されることを考慮すると、近距離における受光素子の飽和の程度は、(反射プリズムの反射光)>>(反射体の反射光)となる。
【0077】
従って、図9の調光スキャンとなっても反射プリズムの反射光の検出レベル(受光素子の出力レベル)は、線形に低下しない。言い換えると、受光素子の飽和の程度が大きい状況で入力が低下しても出力は入力に比例してそれ程低下しない。つまり、反射プリズムからの反射光に関しては、通常スキャン⇒調光スキャンとなっても受光素子の出力は、それ程低下しない。これは、通常スキャン⇒調光スキャンにおいて、大きく飽和している反射プリズムの反射光の検出レベルは、最大値に張り付いている状態であり、入力が低下しても出力の低下がそれ程見られない現象と理解できる。
【0078】
これに対して、反射体の反射光を受光している受光素子は、飽和の程度が小さい(あるいは飽和していない)ので、入力(入射光の強度)が下がれば、それに応じて出力のレベルも下がる。そのため、非反射プリズムからの反射光に関しては、通常スキャン⇒調光スキャンとなった場合に受光素子の出力は、入力に応じて低下する。
【0079】
以上の状況において、通常スキャン(図8)から調光スキャン(図9)に移行すると、反射プリズムの検出レベルの低下に比較して、非反射プリズムからの反射光の検出レベルの低下はより顕著になる。こうして、調光スキャンでは、非反射プリズムの反射光の検出レベルは、反射プリズムの検出レベルに比較して1/20以下となる。
【0080】
図8図9の違いは、受光部202への入射光の強度である。ここで、図8の状況から受光部202への入射光の強度を徐々に低下させた場合を考える。この場合、図8の状況において、受光部202への入射光の強度を徐々に低下させてゆくと、最終的に図9の状況に至ると考えることができる。
【0081】
この様子を示すイメージを図10に示す。図10に示すように、受光部202に入射する光の強度を下げてゆくと、反射プリズムの反射光の検出強度(受光部202の出力値)は低下しない傾向を示すが、非反射プリズムの反射光の検出強度は、受光部202に入射する光の強度に比例して低下する。その結果、受光素子への入射光のレベルがある程度下がった段階で、受光素子の出力レベルが、反射プリズム>>非反射プリズムの関係となる。
【0082】
図11は、通常スキャンでの受光部202における受光素子の出力波形である。ここでは、受光素子の出力をA/Dコンバータで読み取っており、このA/Dコンバータの出力が図11の縦軸である。図11の横軸は、上記A/Dコンバータの出力のタイミングに対応するアドレスであり、出力の時刻に対応する。図11の横軸は、時間軸と捉えることができる。
【0083】
図11において、プリズム中心波形は、反射プリズムの中心にスキャン光を入射させた際の反射光の検出波形である。ノンプリズム波形は、安全確保のために利用される反射シートからの反射光の検出波形である。プリズム淵波形は、反射プリズムの縁の部分を照準してスキャン光を照射した場合における反射光の検出波形である。なお、他の条件は全て同じである。
【0084】
プリズム中心波形とプリズム淵波形は、上端が平坦に潰れており、出力波形として飽和している状態が明確に表れている。また、ピークが潰れており、受光素子の出力が上限に達し、それ以上大きくならない状態が表れている。プリズム中心波形とプリズム淵波形の時間軸上の長さが長いのは、受光素子が飽和しているからである。例えば、フォトダイオードに耐入力を超える強度の光を照射すると、当該入射が絶えても、OFFの状態に回復せず、ダイオードがONとなった状態が継続する。プリズム中心波形は、この状態が特に顕著に表れている。
【0085】
プリズム淵波形では、OFF状態への回復の傾向が見られる。これは、反射プリズムの淵に照準した場合、反射プリズムに入射しないスキャンの光の成分が発生し、また反射プリズムの反射光率が中心に比較して低下するため、受光素子への入射光の強度が低下し、飽和の傾向が比較的小さいからであると考えられる。
【0086】
図11のプリズム中心波形やプリズム淵波形は、波形の形が本来のものでないので、位相差を用いた測距の精度が低下する。また、飽和動作では、時間軸上における波形の立ち上がりの位置が不安定になる(同じ条件における再現性が低下する)ので、この点も測距精度を低下させる。
【0087】
ノンプリズム波形は入射光のパルス波形に対応した単峰性が現れており、また素子がパルス入力に応答した場合に発生する減衰振動波形も再現されている。また、ノンプリズム波形の上端は、プリズム中心波形やプリズム淵波形に見られる受光素子の飽和を示す波形の形状が現れていない。
【0088】
それ故、図11のノンプリズム波形は、受光素子の飽和がない、あるいは飽和があってもその影響が小さい状態であると結論できる。すなわち、図11のノンプリズム波形は、測距精度の低下が生じない状態における受光素子の出力波形であると見ることができる。
【0089】
図11のように、受光素子の波形に着目することで、同じ可視光帯域で高い反射率を有する対象であっても、反射プリズムからの反射と非反射プリズムからの反射とを区別できる。また、飽和の程度を判定できる。
【0090】
調光スキャンにおいて求められるのは、反射プリズムからの反射光を、測距の精度が落ちない程度に弱めることにある。言い換えると、測距精度の低下が発生しない程度に受光素子への入射光の強度を抑える点が調光スキャンでは重要となる。
【0091】
この場合、受光素子への反射プリズム中心からの反射光に係り、図11のプリズム中心波形がノンプリズム波形と同様の波形となるように、受光部への入射強度を減衰させれば、反射プリズムに対する高い測距精度が得られることになる。
【0092】
そこで予め実験を行い、プリズム中心波形をノンプリズム波形と同様の波形にするのに必要な可変光アッテネータ207の減衰量(アッテネータ量)を求めておく。これを多様なプリズム中心波形を対象に行い、データテーブルを取得しておく。
【0093】
具体的には、受光素子の出力波形の持続時間(横軸における長さ)と、図11のノンプリズム波形にするのに必要な減衰量との関係を判定データとして予め取得しておく。このデータは記憶部508に記憶しておく。このデータの一例を下記表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
このデータは、受光素子の出力波形の時間軸上の長さと、可変光アッテネータの制御部における調整内容(可変光アッテネータでの減衰量)に係るデータとなる。また、このデータは、可変光アッテネータでの減衰量をパラメータとした測距精度の低下が生じない状態と飽和状態にある出力波形の時間軸上での長さとの関係を示すデータと把握することもできる。
【0096】
一般的な傾向として、前記出力波形の時間軸上の長さが相対的に長い場合に、受光部202で受光する光の強度を相対的に大きく減衰させる調整が行われる。
【0097】
上記波形の持続時間は、例えばピークを基準に90%以上の出力値が継続する時間が採用される。評価の対象とするパラメータは、波形の持続時間に限定されず、波形の面積であってもよい。
【0098】
飽和判定部502は、第1のレーザースキャンによって得たレーザースキャン点群の中から、受光素子の出力波形の時間軸上の長さが最も長い点を探し出す。なお、図11に示すように反射プリズムからの反射と非反射プリズムからの反射は、受光素子の出力波形から明確に区別できるので、上記の飽和判定に基づき、通常スキャンにより得たレーザースキャンデータの中から反射プリズムからの反射光を識別し検出できる。この意味で飽和判定部502は、反射プリズム検出部としての機能も有する。
【0099】
こうして第1のレーザースキャン(通常スキャン)における反射プリズムと非反射プリズムの識別が可能となる。
【0100】
減衰量算出部503は、飽和判定部502が得た受光素子の出力波形の時間軸上における長さが最も長い点に係り、その時間軸上の長さを上記の予め取得した判定データ(例えば、上記表1)に当てはめ、可変アッテネータ207の減衰量を求める。この減衰量のデータが可変アッテネータの制御部504に送られる。
【0101】
可変光アッテネータの制御部504は、可変光アッテネータ207の減衰量(光を減衰させる程度)を調整する制御信号を生成する。可変光アッテネータ制御部504は、減衰量算出部503で得られた減衰量が得られるように可変光アッテネータ207の調整を行う。この調整を行った条件で調光スキャンが行われる。上記の調整により、受光部202での測距に悪影響が生じる飽和が抑制される。
【0102】
反射プリズムの位置取得部505は、調光スキャンによって得たレーザースキャン点群の中から反射プリズム300と400のスキャン点を取得する。図9に関連して説明したように、受光素子(受光部202)への入力レベルを飽和の発生が抑えられるレベルに下げた場合(つまり、調光スキャンの場合)、反射プリズム以外の反射光の強度は、反射プリズムに比較して極端に弱い。そのため、調光スキャンにより得たレーザースキャン点群の中から反射プリズムの反射光を、閾値を用いて容易に識別できる。
【0103】
反射プリズムまでの距離、スキャン密度、反射プリズムの大きさによっては、一つの反射プリズムにおいて複数の反射点が得られる場合がある。この場合は、1群の反射点の重心の位置を算出することで、反射プリズムの位置を求める。
【0104】
なお、通常スキャンの結果から反射プリズムの輝点を特定し、調光スキャンを反射プリズムに絞って行っている場合であっても、反射プリズム周辺や背後からの反射に起因するノイズを排除するために、閾値を用いてあるレベル以上の反射光を反射プリズムの輝点として検出する。
【0105】
また、設置した反射プリズムの数を用いて、調光スキャンにおいて得られたレーザースキャン点群の中から反射プリズムの点を検出することもできる。例えば、設置した反射プリズムが2つであるとする。この場合、調教スキャンで得たレーザースキャン点群の中に顕著に強い2群の輝点群を反射プリズムからの反射光の輝点として検出する。
【0106】
点群データ作成部506は、2回目のレーザースキャン(調光スキャン)で得た反射プリズム300と400の測位データに基づくレーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢の算出、およびそれに基づく1回目のレーザースキャン(通常スキャン)で得た点群データを絶対座標系に関連付ける処理を行う。
【0107】
通信装置507は、レーザースキャン装置200やその他の装置との間で通信を行う。通信は、有線、無線LAN、携帯電話回線等を用いて行われる。記憶部509は、半導体メモリやハードディスク装置により構成され、処理装置500の動作に必要な動作プログラム、データ、動作の過程や動作の結果得られるデータを記憶する。
【0108】
(処理の一例)
図5に処理の手順の一例を示す。図5の処理を実行するプログラムは、処理装置500の記憶部508に記憶され、処理装置500を構成するコンピュータのCPUにより読み出されて実行される。当該プログラムを適当な記憶媒体に記憶させ、そこから読み出して利用する形態も可能である。
【0109】
図5の処理に先立ち、まずレーザースキャンを行う現場にレーザースキャン装置200と反射プリズム300,400を設置する。ここで、レーザースキャン装置200の位置と姿勢は未知であり、反射プリズム300と400は、絶対座標系における位置が既知の点に設置される。この絶対座標系における位置が既知の点は、事前の測量作業により測位され、位置が決められている。なお、座標系としてローカル座標系を用いることもできる。
【0110】
この段階で通常スキャン(1回目のレーザースキャン)を行う(ステップS101)。通常スキャンは、点群の取得を予定している範囲で行われる。この予定している範囲としては、全周や、ある限定された範囲が挙げられる。通常スキャンは、測量対象の点群を得るためのもので、通常のレーザースキャン点群を得る条件で行われる。
【0111】
通常スキャンにより、レーザースキャン装置200の光学原点(測位の原点となる点)から各点までの距離と方向のデータ(点群データ)が得られる。また、当該点群データは、各点に関して、受光素子の出力波形のデータ(図11参照)と関連付けされて記憶部508に記憶される。
【0112】
この段階では、レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢が未知であるので、上記の点群データと絶対座標系の関係は未知である。
【0113】
次に、ステップS101において得られたレーザースキャン点群の中の各点に係る受光素子の出力波形の時間軸上の長さに着目し、その最大値の点を取得する(ステップS102)。この点が反射プリズムからの反射光となる。この処理は飽和判定部502で行われる。
【0114】
次に、ステップS102で取得した点の出力波形の時間軸上の長さに基づき、可変光アッテネータ207の減衰量を算出する(ステップS103)。この処理は、減衰量算出部503で行われる。またこの際、反射プリズム300と400からの反射光に特有の受光素子の出力波形に着目することで、レーザースキャン装置200から見た反射プリズム300と400の方向を取得する。
【0115】
次に、ステップS103で得た減衰量に可変光アッテネータ207を設定し(ステップS104)、調光スキャンを行う(ステップS105)。調光スキャンの制御は、レーザースキャン装置制御部501(図3)で行われる。
【0116】
調光スキャンによって、反射プリズム300と400の正確な測位が可能となる。調光スキャンは、反射プリズム300と400に絞った範囲で行われる。これは、無駄なスキャンを抑制するためである。
【0117】
次に調光スキャンにおいて得たレーザースキャン点群の中から反射プリズムの点(スキャン点)を検出し、その測位位置のデータを取得する(ステップS106)この処理は、反射プリズムの位置取得部505で行われる。
【0118】
調光スキャンを行い、反射プリズム300と400の絶対座標系における位置を取得したら、後方交会法を用いてレーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢を求める(ステップS107)。
【0119】
以下、簡単にステップS107で行われる処理の原理について説明する。まず、ステップS105の調光スキャンの結果から、レーザースキャン装置200、反射プリズム300および反射プリズム400の位置関係が判る。よって、レーザースキャン装置200、反射プリズム300および反射プリズム400の位置を頂点とした三角形の形が決まる。
【0120】
他方において、反射プリズム300と400の絶対座標系における位置は既知である。つまり、上記三角形の頂点2つの絶対座標系における位置が決まる。よって、上記三角形の残りの頂点となるレーザースキャン装置200の絶対座標系における位置が求まる。
【0121】
また、上記三角形の各辺の絶対座標系における向きが判るので、レーザースキャン装置200の絶対座標系における姿勢が求まる。こうして、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の位置と姿勢が求まる。この処理は、点群データ作成部506で行われる。別途、外部標定要素算出部を用意し、そこでステップS107の処理を行ってもよい。
【0122】
ステップS107の後、通常スキャンで得た点群データを絶対座標系と関連付けたデータを得る(ステップS108)。この処理は、点群データ作成部506で行われる。
【0123】
例えば、各点に関連付けて、レーザースキャン装置200を原点とした各点の距離と方向、当該原点の絶対座標系における座標、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の姿勢のデータを作成する。これが絶対座標系上で扱うことができる点群データとなる。
【0124】
また、通常スキャンで得られた点群データを絶対座標系上で記述した点群データに変換してもよい。すなわち、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の位置と姿勢が判ることで、通常スキャンで得た点群データを絶対座標系における座標に座標変換できる。具体的にいうと、座標変換に必要な平行移動と回転の情報に係り、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の位置により、平行移動の情報が得られ、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の姿勢により、回転の情報が得られる。そして、これらの情報に基づき、通常スキャンで得た点群データを平行移動し、更に回転させることで、絶対座標系上で記述された点群データが得られる。この処理をステップS108において行ってもよい。
【0125】
(優位性)
受光部202への過大な入力が抑制され、レーザースキャンにおける反射プリズムからの強い反射光に係る問題を解決でき、反射プリズムの測距を高い精度で行える。そのため、最終的に得られる点群データの精度を高くできる。
【0126】
2.第2の実施形態
図6には、可変光アッテネータ207を発光部201の前に配置した例が示されている。この場合、発光部201から発光される測定光がアッテネータにより減衰され、反射プリズムの測位に適切な反射強度が得られるように調整される。
【0127】
3.第3の実施形態
図7には、発光強度が可変できる出力可変発光部260を用いる場合が示されている。この場合、反射プリズムの測位に適切な反射強度が得られるように出力可変発光部260での発光強度が制御部261により調整される。
【0128】
4.第4の実施形態
本明細書で説明した実施形態の複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0129】
200…レーザースキャン装置、211…三脚、212…ベース部、213…水平回転部、214…鉛直回転部、215…光学部、300…反射プリズム、400…反射プリズム、500…処理装置。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11