(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111687
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】タイヤ管理装置及びタイヤ管理方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240809BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240809BHJP
B60C 23/06 20060101ALI20240809BHJP
B60C 23/04 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
B60C19/00 J
B60C23/06 A
B60C23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016333
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA22
3D131LA24
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出するタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法を提供する。
【解決手段】タイヤ管理装置は、タイヤが装着された車輪を備える車両において、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出する装置であって、転動中のタイヤに関するタイヤ情報を取得するタイヤ情報取得部と、タイヤ情報に基づき、車両が走行している最中の少なくともタイヤの接地部分の接地状態を導出する接地状態導出部と、導出された接地状態のうち、少なくともタイヤの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量を導出する導出部と、特徴量と、特徴量をもとにタイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルとを用いて、タイヤの内部故障の発生の有無を判定する判定部とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが装着された車輪を備える車両において、前記タイヤ内部に発生している内部故障を、前記車両が走行している状態で検出する装置であって、
転動中の前記タイヤに関するタイヤ情報を取得するタイヤ情報取得部と、
前記タイヤ情報に基づき、車両が走行している最中の少なくとも前記タイヤの接地部分の接地状態を導出する接地状態導出部と、
導出された前記接地状態のうち、少なくともタイヤの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量を導出する導出部と、
前記特徴量と、前記特徴量をもとに前記タイヤの前記内部故障の発生の有無を判定する前記タイヤ状態診断モデルとを用いて、前記タイヤの前記内部故障の発生の有無を判定する判定部と、を有する、タイヤ管理装置。
【請求項2】
前記タイヤ状態診断モデルを作成するモデル作成部を有する、請求項1に記載のタイヤ管理装置。
【請求項3】
前記モデル作成部は、前記特徴量を学習データとして用い、前記学習データを機械学習モデルに入力して、前記タイヤ状態診断モデルを作成する、請求項2に記載のタイヤ管理装置。
【請求項4】
前記モデル作成部は、前記特徴量を学習データとして用い、前記学習データを機械学習モデルに入力して、前記タイヤ正常状態確認モデルを作成し、
前記判定部は、前記特徴量が前記タイヤ状態診断モデルに適合しない場合、前記内部故障が発生していると判定する、請求項2に記載のタイヤ管理装置。
【請求項5】
前記特徴量導出部は、前記導出された前記接地状態のうち、少なくともタイヤ接地領域に相当する接地状態データ群を抽出し、前記接地状態データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量として用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ管理装置。
【請求項6】
前記タイヤは、空気圧検出部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ管理装置。
【請求項7】
前記タイヤは、個体識別情報が記録された記録部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ管理装置。
【請求項8】
前記判定部が前記タイヤ状態診断モデルを用いて、前記タイヤに内部故障が発生したと判定した場合、所定の連絡先に、前記タイヤに前記内部故障が発生したことを通知する通知部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ管理装置。
【請求項9】
前記判定部が前記タイヤ状態診断モデルを用いて、前記タイヤに内部故障が発生したと判定した場合、利用者に、利用状況に応じた特典を提供する出力処理部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ管理装置。
【請求項10】
タイヤが装着された車輪を備える車両において、前記タイヤ内部に発生している内部故障を、前記車両が走行している状態で検出する方法であって、
転動中の前記タイヤに関するタイヤ情報を取得するタイヤ情報取得工程と、
前記タイヤ情報に基づき、車両が走行している最中の少なくとも前記タイヤの接地部分の接地状態を導出する接地状態導出工程と、
導出された前記接地状態のうち、少なくともタイヤの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量導出工程と、
前記特徴量をもとに前記タイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを用いて、前記タイヤの前記内部故障の発生の有無を判定する判定工程とを有する、タイヤ管理方法。
【請求項11】
前記タイヤ状態診断モデルを作成するタイヤ状態診断モデル作成工程を有する、請求項10に記載のタイヤ管理方法。
【請求項12】
前記タイヤ状態診断モデル作成工程は、前記特徴量を学習データとして用い、前記学習データを機械学習モデルに入力して、前記タイヤ状態診断モデルを作成する、請求項11に記載のタイヤ管理方法。
【請求項13】
前記タイヤ状態診断モデル作成工程は、前記特徴量を学習データとして用い、前記学習データを機械学習モデルに入力して、前記タイヤ正常状態確認モデルを作成し、
前記判定工程は、前記特徴量が前記タイヤ状態診断モデルに適合しない場合、前記内部故障が発生していると判定する、請求項11に記載のタイヤ管理方法。
【請求項14】
前記特徴量導出工程は、前記導出された前記接地状態のうち、少なくともタイヤ接地領域に相当する接地状態データ群を抽出し、前記接地状態データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量として用いる、請求項10~13のいずれか1項に記載のタイヤ管理方法。
【請求項15】
前記タイヤは、空気圧検出部を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載のタイヤ管理方法。
【請求項16】
前記タイヤは、個体識別情報が記録された記録部を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載のタイヤ管理方法。
【請求項17】
前記判定工程で前記タイヤ状態診断モデルを用いて、前記タイヤに内部故障が発生したと判定された場合、所定の連絡先に、前記タイヤに前記内部故障が発生したことを通知する通知工程を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載のタイヤ管理方法。
【請求項18】
前記判定工程で前記タイヤ状態診断モデルを用いて、前記タイヤに内部故障が発生したと判定された場合、利用者に、利用状況に応じた特典を提供する出力処理工程を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載のタイヤ管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤが装着された車輪を備える車両において、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出するタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法に関し、特に、タイヤ状態診断モデルを用いてタイヤ内部における内部故障の発生の有無を判定するタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
何らかの原因でタイヤ内部にセパレーション等の故障が発生した場合、これを早急に検知し、乗員等に警告することは安全上、非常に重要である。このため、従来から、タイヤ内部の故障を検知する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に、タイヤ内部に発生する亀裂に起因するタイヤ故障を検知するタイヤ故障検知方法が開示されている。特許文献1では、タイヤ内部にゴム磁石を配置するとともに、上記タイヤに近接して磁場計測手段を配置して転動中のタイヤからの磁場を計測し、この計測された磁場の大きさ若しくは磁場波形に基づいて、タイヤ内部の破壊を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載のタイヤ故障検知方法では、タイヤ内部にゴム磁石を配置する必要があり、ゴム磁石自体もタイヤの耐久性と同等の耐久性をもつ必要があるため、配置位置やサイズ、物性を実現するための材料選定等が煩雑である。また、ゴム磁石自体の温度依存性も考慮しなければ、精度良い評価が困難である。さらには、タイヤに近接して磁場計測手段を配置する必要があり、更にはゴム磁石と磁場計測手段との配置位置を調整する必要があるため、煩雑である。
本発明の目的は、簡単な構成で、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出するタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、発明[1]は、タイヤが装着された車輪を備える車両において、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出する装置であって、転動中のタイヤに関するタイヤ情報を取得するタイヤ情報取得部と、タイヤ情報に基づき、車両が走行している最中の少なくともタイヤの接地部分の接地状態を導出する接地状態導出部と、導出された接地状態のうち、少なくともタイヤの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量を導出する導出部と、特徴量と、特徴量をもとにタイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルとを用いて、タイヤの内部故障の発生の有無を判定する判定部と、を有する、タイヤ管理装置である。
【0007】
発明[2]は、タイヤ状態診断モデルを作成するモデル作成部を有する、発明[1]に記載のタイヤ管理装置。
発明[3]は、モデル作成部は、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルを作成する、発明[2]に記載のタイヤ管理装置。
発明[4]は、モデル作成部は、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ正常状態確認モデルを作成し、判定部は、特徴量がタイヤ状態診断モデルに適合しない場合、内部故障が発生していると判定する、発明[2]に記載のタイヤ管理装置。
【0008】
発明[5]は、特徴量導出部は、導出された接地状態のうち、少なくともタイヤ接地領域に相当する接地状態データ群を抽出し、接地状態データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量として用いる、発明[1]~[4]のいずれか1つに記載のタイヤ管理装置。
発明[6]は、タイヤは、空気圧検出部を有する、発明[1]~[5]のいずれか1つに記載のタイヤ管理装置。
発明[7]は、タイヤは、個体識別情報が記録された記録部を有する、発明[1]~[6]のいずれか1つに記載のタイヤ管理装置。
発明[8]は、判定部がタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤに内部故障が発生したと判定した場合、所定の連絡先に、タイヤに内部故障が発生したことを通知する通知部を有する、発明[1]~[7]のいずれか1つに記載のタイヤ管理装置。
発明[9]は、判定部がタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤに内部故障が発生したと判定した場合、利用者に、利用状況に応じた特典を提供する出力処理部を有する、発明[1]~[8]のいずれか1つに記載の測定方法。
【0009】
発明[10]は、タイヤが装着された車輪を備える車両において、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出する方法であって、転動中のタイヤに関するタイヤ情報を取得するタイヤ情報取得工程と、タイヤ情報に基づき、車両が走行している最中の少なくともタイヤの接地部分の接地状態を導出する接地状態導出工程と、導出された接地状態のうち、少なくともタイヤの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量導出工程と、特徴量をもとにタイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤの内部故障の発生の有無を判定する判定工程とを有する、タイヤ管理方法である。
【0010】
発明[11]は、タイヤ状態診断モデルを作成するタイヤ状態診断モデル作成工程を有する、発明[10]に記載のタイヤ管理方法。
発明[12]は、タイヤ状態診断モデル作成工程は、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルを作成する、発明[10]に記載のタイヤ管理方法。
発明[13]は、タイヤ状態診断モデル作成工程は、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ正常状態確認モデルを作成し、判定工程は、特徴量がタイヤ状態診断モデルに適合しない場合、内部故障が発生していると判定する、発明[10]に記載のタイヤ管理方法。
発明[14]は、特徴量導出工程は、導出された接地状態のうち、少なくともタイヤ接地領域に相当する接地状態データ群を抽出し、接地状態データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量として用いる、発明[10]~[13]のいずれか1つに記載のタイヤ管理方法。
【0011】
発明[15]は、タイヤは、空気圧検出部を有する、発明[10]~[14]のいずれか1つに記載のタイヤ管理方法。
発明[16]は、タイヤは、個体識別情報が記録された記録部を有する、発明[10]~[15]のいずれか1つに記載のタイヤ管理方法。
発明[17]は、判定工程でタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤに内部故障が発生したと判定された場合、所定の連絡先に、タイヤに内部故障が発生したことを通知する通知工程を有する、発明[10]~[16]のいずれか1つに記載のタイヤ管理方法。
発明[18]は、判定工程でタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤに内部故障が発生したと判定された場合、利用者に、利用状況に応じた特典を提供する出力処理工程を有する、発明[10]~[17]のいずれか1つに記載のタイヤ管理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単な構成で、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態のタイヤ管理装置で管理されるタイヤを取り付けられた車両の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態のタイヤ管理装置の一例を示す模式図である。
【
図3】(a)は車両の走行時にタイヤの接地部分にかかる力について説明する模式図であり、(b)はタイヤのタイヤ周方向の時系列の変形量とタイヤ幅方向の時系列の変形量とをそれぞれ示すグラフである。
【
図4】(a)~(c)はタイヤのタイヤ周方向の時系列の変形量とタイヤ幅方向の時系列の変形量とをそれぞれ示すグラフであり、(a)は速度が異なる場合のグラフであり、(b)は走行を開始してからの走行経過時間が異なる場合のグラフであり、(c)は荷重が異なる場合のグラフである。
【
図5】(a)~(c)はK-Means法を用いたタイヤ状態診断モデルを説明するための模式図であり、(a)は変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の平均値とタイヤ周方向変形量の平均値を用いた例であり、(b)は変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の最大値とタイヤ周方向変形量の最大値を用いた例であり、(c)は変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の最大値と傾きを用いた例である。
【
図6】One-Class SVMを用いたタイヤ状態診断モデルを説明するための模式図であり、変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の平均値と周方向変形量の平均値を用いた例である。
【
図7】(a)~(d)はSVMを用いたタイヤ状態診断モデルの一例を説明するための模式図である。
【
図8】(a)~(c)はタイヤ正常状態確認モデルを説明するための模式図である。
【
図9】(a)及び(b)はSVMを用いたタイヤ状態診断モデルの他の例を説明するための模式図である。
【
図10】本発明の実施形態のタイヤ管理方法の第1の例を示すフロチャートである。
【
図11】本発明の実施形態のタイヤ管理方法の第2の例を示すフロチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明のタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法を詳細に説明する。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
また、以下において、「任意の角度」、「垂直」及び「直交」等の角度は、特に記載がなければ、一般的に許容される誤差範囲を含む。
【0015】
(タイヤ管理装置)
図1は本発明の実施形態のタイヤ管理装置で管理されるタイヤを取り付けられた車両の一例を示す模式図であり、
図2は本発明の実施形態のタイヤ管理装置の一例を示す模式図である。
図1に示す車両12は、4つの車輪13a~13dを有する。これら4つの車輪13a~13dは、同一種類のタイヤ14a~14dがそれぞれ装着されて構成された車輪である。同一種類のタイヤとは、タイヤサイズ、タイヤリム幅、ベルト構造、又はタイヤの充填空気圧等がそれぞれ同一であるタイヤのことである。なお、車両12は、
図1に示す構成に限定されるものではない。
タイヤは、空気入りタイヤと呼ばれるものであり、例えば、乗用車用タイヤ、重荷重用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、及びライトトラック用タイヤである。
【0016】
タイヤ管理装置10は、タイヤが装着された車輪13a~13dを備える車両12において、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両12が走行している状態で検出する装置である。タイヤ管理装置10は、センサユニット15a~15dと、データ処理ユニット20とを有する。例えば、センサユニット15a~15d及びデータ処理ユニット20は車両12に配置されている。
【0017】
センサユニット15a~15dは、4つの車輪13a~13dにそれぞれ備えられている。センサユニット15a~15dは、例えば、車両12が路面を走行する際に、各車輪のタイヤ14が路面から外力を受けることで発生する、このタイヤ14の所定部位の加速度情報を取得して無線信号で送信する。センサユニット15a~15dについては後に詳述する。
【0018】
データ処理ユニット20は、タイヤ14内部における内部故障の発生の有無を判定するものである。
また、データ処理ユニット20は、所定の連絡先に、タイヤ14内部に内部故障が発生したことを通知するものである。
また、データ処理ユニット20は、タイヤ14内部に内部故障が発生した場合、利用者に、利用状況に応じた特典を提供するものである。ここで、特典としては、例えば、割引クーポン及びポイント等が例示される。
割引クーポンは、例えば、商品又はサービスの費用を軽減することに利用できるものである。より具体的には、割引クーポンは、例えば、商品又はサービスの定価の何割引きのように定価を下げるものである。また、割引クーポン自体が金銭と同様の働きをして、商品又はサービスの定価に対して、幾らかを値引くものでもよい。
なお、割引クーポンは、紙の形態でもよく、デジタルの形態でもよい。割引クーポンが紙の形態の場合、店舗、コンビニエンスストア等でプリントアウトできるようにしてもよい。また、割引クーポンがデジタルの形態の場合、ウェブサイトにアクセスして入手してもよく、スマートフォン等の携帯端末に送信してもよい。
ポイントは、例えば、金銭と同様に利用できるものである。また、ポイントは、商品又はサービス等と交換可能なものでもよい。このようにポイントを貯めることにより、金銭と同様に利用したり、商品又はサービス等と交換できる。
【0019】
データ処理ユニット20は、センサユニット15a~15dから送信された無線信号をそれぞれ受信する。そして、受信した無線信号から、各タイヤのタイヤ半径方向の変形加速度情報と、各タイヤのタイヤ周方向の変形加速度情報と、各タイヤのタイヤ幅方向の変形加速度情報とを抽出する。そして、抽出したタイヤ半径方向の変形加速度情報から、タイヤ14の所定部位の接地タイミング(タイヤ空洞領域の内周面に固定した加速度センサ16が、タイヤの接地面の中心位置に到来する(最も近づく)タイミング)を求め、この接地タイミングを用いて、抽出したタイヤ周方向の変形加速度情報から各タイヤの接地部分のタイヤ周方向の接地状態として、例えば、変形量を導出し、かつ、抽出したタイヤ幅方向の変形加速度情報から各タイヤの接地部分のタイヤ幅方向の接地状態、例えば、変形量を導出する。そして、データ処理ユニット20は、各タイヤ14a~14dの接地部分のタイヤ周方向の接地状態、例えば、変形量と、各タイヤの接地部分のタイヤ幅方向の接地状態、例えば、変形量とのうち、少なくともタイヤ14a~14dの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量をもとに、タイヤ14a~14dの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤ14内部における内部故障の発生の有無を判定する。
【0020】
なお、本実施形態では、後述するようにタイヤ14の所定部位の接地タイミングを精度良く導出するために、タイヤ半径方向の変形加速度情報を用いている。タイヤ14の所定部位の接地タイミングは、各タイヤのタイヤ周方向の変形加速度情報と、各タイヤのタイヤ幅方向の変形加速度情報のいずれか一方からも導出することができる。データ処理ユニット20は、受信した無線信号から、少なくとも、各タイヤのタイヤ周方向の変形加速度情報と、各タイヤのタイヤ幅方向の変形加速度情報とを抽出することができればよい。ただし、タイヤ14の所定部位の接地タイミングをより高精度に導出して、タイヤ内部故障をより高精度に検出したい場合、受信した無線信号から、各タイヤのタイヤ半径方向の変形加速度情報を抽出することが好ましい。
【0021】
図2はタイヤ管理装置10のセンサユニット15(センサユニット15a~15d)及びデータ処理ユニット20について説明する概略構成図である。センサユニット15a~15dは、それぞれ同様な構成であるので、
図2ではセンサユニット15a及びこのセンサユニット15aが設けられた車輪13aについてのみ図示している。
【0022】
センサユニット15aは、例えば、加速度センサ16と、送信機17とを有する。
加速度センサ16は、タイヤ14の空洞領域の内周面に設置されており、各車輪のタイヤ14が路面から外力を受けることで発生する、このタイヤ14の所定部位(加速度センサ16の設置位置)の加速度情報を取得して無線信号で送信する。加速度の計測データは、各送信ユニットの送信機17から、データ処理ユニット20の受信機21へ送信される。なお、送信機17を設けず、例えば、加速度センサ16に別途送信機能を持たせ、加速度センサ16から、受信機21へ送信するように構成してもよい。なお、車輪13a~13dに設けられた各送信機17は、それぞれを識別可能とする識別情報(ID)をそれぞれ保有しており、送信機17は、対応する加速度センサで計測された加速度の計測データとともにIDを送信する。加速度センサ16が送信機能を有する場合、加速度センサ16毎に識別情報(ID)を付与する。
【0023】
加速度センサ16としては、例えば、特開2004-340616号に開示された半導体加速度センサが例示される。半導体加速度センサは、具体的には、Siウエハ外周枠部内にダイアフラムが形成されたSiウエハと、このウエハ外周枠部を固定する台座とを有し、ダイアフラムの一方の面の中央部に重錘が設けられ、ダイアフラムには複数のピエゾ抵抗体が形成されている。この半導体加速度センサに加速度が作用した場合、ダイアフラムは変形し、この変形によりピエゾ抵抗体の抵抗値は変化する。この変化を加速度の情報として検出できるようにブリッジ回路が形成されている。この加速度センサを、タイヤ半径方向の加速度とタイヤ周方向の加速度とタイヤ幅方向の加速度とが測定可能となるようにタイヤ内周面に固定することにより、タイヤ回転中のトレッド部に作用する加速度を計測することができる。加速度センサ16は、この他にピエゾ圧電素子を用いた加速度ピックアップを用いてもよいし、歪みゲージを組み合わせた歪みゲージタイプの加速度ピックアップを用いてもよい。
【0024】
加速度センサ16を取り付ける位置は、内部故障が発生しやすいところが好ましく、例えば、タイヤ幅方向におけるベルトエッジの端部(ショルダー部)の内面である。このため、加速度センサ16は、それぞれベルトエッジの両側の端部の内面に設けることがより好ましい。この場合、加速度センサ16は、1つのタイヤにつき2つ配置される。
一般的に、タイヤのショルダー部には、タイヤトレッド部において積層されている複数のベルトのベルト端部が位置しており、他の部分と比べて、製造時又は走行時にセパレーション等の内部故障が発生しやすい。タイヤのショルダー部に加速度センサ16を設けておくことで、タイヤに発生する内部故障を比較的早く検知できる。
送信機17は、特に限定されるものではなく、公知のものを適宜利用可能である。
センサユニット15(センサユニット15a~15d)は、加速度センサ16を有するものに限定されるものではなく、例えば、加速度センサ16に代えて、ひずみを検出するセンサを用いてもよい。
【0025】
データ処理ユニット20について説明する。
データ処理ユニット20は、受信機21と、増幅器(AMP)22と、処理ユニット23と、CPU24と、メモリ25と、ディスプレイ26とを有する。
受信機21と、増幅器22とは、特に限定されるものではなく、公知のものを適宜利用可能である。
データ処理ユニット20は、例えば、メモリ25に記憶されたプログラムをCPU24が実行することで、処理ユニット23に示される各部が機能するコンピュータによって構成されてもよいし、各部位が専用回路で構成された専用装置であってもよい。また、データ処理ユニット20は、クラウド上で実行されるようにサーバーで構成してもよい。
上述のようにセンサユニット15a~15d及びデータ処理ユニット20は車両12に配置されている。データ処理ユニット20は、センサユニット15a~15dからの出力信号を受信でき、各種の処理を実行して車両12に判定結果を出力できれば、車両12に配置されることに、特に限定されるものではない。データ処理ユニット20は、例えば、タブレット端末のような持ち運び可能な形態でもよい。
【0026】
ディスプレイ26は、このデータ処理ユニット20において導出される、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向それぞれの変形量等の接地状態、及びタイヤ14内部における内部故障の発生の有無の判定結果等を表示する。なお、ディスプレイ26は、特に、データ処理ユニット20において、タイヤに内部故障が発生していると判定された場合等、車両12を運転するドライバに向けて、タイヤに内部故障が発生している旨を伝える警報を発することもできる構成でもよい。ディスプレイ26は、例えば、カーナビゲーションシステム及びドライブレコーダー等のモニタを利用することもできる。
【0027】
処理ユニット23は、例えば、タイヤ加速度データ取得部30、信号処理部31、接地状態導出部32、モデル作成部34、判定部35、通知部36及び出力処理部37を有する。
タイヤ加速度データ取得部30は、車輪13a~13dそれぞれを構成するタイヤ14a~14dのトレッド部の所定部位(加速度センサ16の設置位置)の、タイヤ半径方向の加速度、タイヤ周方向の加速度、及びタイヤ幅方向の加速度の計測データを取得する。
【0028】
信号処理部31は、上述のタイヤ半径方向加速度データ、タイヤ周方向加速度データ、及びタイヤ幅方向加速度データを信号処理して、各タイヤのタイヤ半径方向の変形加速度情報と、各タイヤのタイヤ周方向の変形加速度情報と、各タイヤのタイヤ幅方向の変形加速度情報とを抽出し、抽出したタイヤ半径方向の変形加速度情報から、タイヤ14の所定部位の接地タイミングを求める。そして、接地状態導出部32は、この接地タイミングを用いて、上記の変形加速度データ(タイヤ周方向変形加速度データ及びタイヤ幅方向変形加速度データ)から、各タイヤ14a~14dのタイヤの接地部分の接地状態として、例えば、タイヤ接地部分の変形量を導出する。
上述のタイヤ接地部分の変形量は、例えば、上記の変形加速度データ(タイヤ周方向変形加速度データ及びタイヤ幅方向変形加速度データ)を2階の時間積分をすることにより得られる。
センサユニット15aが、ひずみを検出する場合、タイヤ接地部分の変形量は、例えば、検出したひずみを用いることができる。この場合、タイヤ加速度データ取得部30に代えて図示しないタイヤひずみデータ取得部を設ける。タイヤひずみデータ取得部は、車輪13a~13dそれぞれを構成するタイヤ14a~14dのトレッド部の所定部位(センサの設置位置)の、タイヤ半径方向のひずみ、タイヤ周方向のひずみ、及びタイヤ幅方向のひずみの計測データを取得する。
【0029】
モデル作成部34は、特徴量をもとにタイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを作成する。なお、モデル作成部34でタイヤ状態診断モデルを作成しない場合、モデル作成部34は必ずしも必要ではない。
また、モデル作成部34でタイヤ状態診断モデルを作成する場合、車両12に装着したタイヤと同じ製品のタイヤ(上述の同一種類のタイヤ)を用いることができる。このため、タイヤを車両12に装着した後にモデル作成部34でタイヤ状態診断モデルを作成することに限定されるものではない。予めメモリ25に、車両12に装着するタイヤのタイヤ状態診断モデルを記憶させておくこともできる。
【0030】
判定部35は、タイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤ14内部における内部故障の発生の有無を判定する。判定部35では、タイヤ状態診断モデルの作成に用いた特徴量を、タイヤ状態診断モデルに入力して、内部故障の発生の有無を判定する。判定部35等の各部については、後に詳述する。
【0031】
本実施形態は、タイヤ14a~14dそれぞれのタイヤ接地部分の接地状態、例えば、変形量を求め、この接地状態、例えば、変形量をもとにしたタイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤの内部における内部故障の発生の有無を判定する。
タイヤ管理装置10は、簡単な構成で、車両12に装着されたタイヤ14a~タイヤ14d内部、それぞれに発生する内部故障を、車両12が走行している状態で検出できる。
図3(a)は車両の走行時にタイヤの接地部分にかかる力について説明する模式図であり、(b)はタイヤのタイヤ周方向の時系列の変形量とタイヤ幅方向の時系列の変形量とをそれぞれ示すグラフである。
図3(a)は、車両12のうち1つのタイヤ(タイヤ14a)を路面側から見た図である。
【0032】
タイヤの接地部分では、
図2に示すように、略円弧状の断面をもつタイヤが平面状の路面に押し付けられるので、
図3(a)に示すように、タイヤのトレッド部表面全体が接地中心部分に収縮するような力を受ける。そして、タイヤのトレッド部表面全体が接地中心部分に向けて収縮するように変形する。タイヤの接地部分では、タイヤのトレッド部はこのように変形するので、車両12の進行に伴い、タイヤ14に設置された加速度センサ16は、
図3(a)に示すような軌跡を通る。
図3(b)は、加速度センサ16が
図2のφ=0°の位置から1回転した際のトレッド部の所定部位(加速度センサ16の設置位置)の、タイヤ周方向の時系列の変形量とタイヤ幅方向の時系列の変形量をそれぞれ示すグラフであり、タイヤ14aの所定部位の時系列の変形を、タイヤ周方向とタイヤ幅方向とからなる直交座標系で表したグラフである。
図3(b)の実線で示すグラフを参照してわかるように、タイヤ14aの所定部分(加速度センサ16の設置位置)は、接地部分の中心に近づくように、車両12の進行(タイヤ14の転動)にともなって変形量は増加していく。そして、接地部分の中心付近(
図3(a)及び(b)では符号Cで示す)を過ぎると、この変形量は除々に減少して、タイヤが
図2のφ=0°の位置まで戻ると変形はほぼ0(ゼロ)、すなわち、元の状態に戻ることになる。
【0033】
このような変形の程度又は変形の形態(すなわち、タイヤ周方向の変形量と、タイヤ幅方向の変形量との大きさのバランス)は、タイヤの構造によって変化する。すなわち、タイヤ表面にかかる変形の力の大きさ(
図3(a)中の矢印で示されるような力)や、タイヤ表面の変形の程度(同じく
図3(a)中の矢印で示されるような変形の大きさ)は、タイヤの表面構造や内部構造に応じて変わる。例えば、タイヤの内部でセパレーションが生じている場合等、このセパレーションしている部分では、タイヤ表面にかかる変形の力の大きさ(
図3(a)中の矢印で示されるような力)が伝わりにくく、変形の程度が小さくなることが予想される。また、セパレーションの形態に応じて、タイヤ表面にかかる変形の力やタイヤ表面の変形等も、タイヤのタイヤ周方向とタイヤ幅方向とで変わってしまい、例えば、
図3(b)中に破線で示すグラフのように、タイヤにセパレーション等の内部故障が発生していない場合(
図3(b)中の実線で示すグラフ)とは異なった変形形態で変形することが予想される。
【0034】
処理ユニット23は、車両12が走行している最中の少なくともタイヤ14の接地部分の接地状態(例えば、変形量)のうち、少なくともタイヤ14の内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量を導出し、特徴量と、特徴量をもとにタイヤ14の内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルとを用いて、タイヤ14の内部故障の発生の有無を判定する。
処理ユニット23は、上述のようにタイヤ加速度データ取得部30、信号処理部31、接地状態導出部32、特徴量導出部33、モデル作成部34、判定部35、通知部36及び出力処理部37を有する。
上述の加速度センサ16、送信機17、受信機21、増幅器22、タイヤ加速度データ取得部30、及び信号処理部31がタイヤ情報取得部を構成する。
【0035】
タイヤ加速度データ取得部30は、増幅器22で増幅された、少なくともタイヤ1回転分の加速度の計測データを入力データとして取得する部分である。タイヤ加速度データ取得部30は、タイヤ半径方向の加速度の時系列データと、タイヤ周方向の加速度の時系列データと、タイヤ幅方向の加速度の時系列データとをそれぞれ取得する。増幅器22から供給されるデータはアナログデータであり、各加速度の時系列データそれぞれを、所定のサンプリング周波数でサンプリングしてそれぞれデジタルデータに変換する。なお、タイヤ加速度データ取得部30は、各タイヤ14の送信機17から送信された上述の識別情報(ID)に基づき、各送信機から送信される加速度の計測データが、どのタイヤの加速度の計測データであるか(タイヤ14a~タイヤ14dのいずれのタイヤの加速度であるか)を判定する。以降、信号処理部31、接地状態導出部32、モデル作成部34、及び判定部35の各部で行なわれる各処理は、各タイヤの計測データそれぞれについて並列に行なわれる。
【0036】
信号処理部31は、デジタル化されたタイヤ半径方向の加速度データ、タイヤ周方向の加速度データ、及びタイヤ幅方向の加速度データから、タイヤの変形に基づく加速度の時系列データをそれぞれ抽出する部位である。
具体的には、信号処理部31では、これら加速度の計測データに対して平滑化処理を行い、これら平滑化された信号に対して近似曲線を算出して背景成分1を求め、この背景成分1を平滑化処理された加速度の計測データから除去することにより、タイヤの変形に基づく、タイヤ半径方向加速度の時系列データ(半径方向変形加速度データ)、タイヤ周方向加速度の時系列データ(タイヤ周方向変形加速度データ)、及びタイヤの変形に基づくタイヤ幅方向加速度の時系列データ(タイヤ幅方向変形加速度データ)をそれぞれ抽出する。信号処理部31は、さらに、半径方向変形加速度データから、タイヤ14の所定部位の接地タイミング(タイヤ空洞領域の内周面に固定した加速度センサ16が、タイヤの接地面の中心位置に到来する(最も近づく)タイミング)、すなわち、
図2に示す回転角φが、180°、540°、900°・・・となるタイミングをそれぞれ抽出する。抽出された、タイヤ14の所定部位の接地タイミング、タイヤ周方向変形加速度データ及び幅方向変形加速度データは、接地状態導出部32に送られる。信号処理部31における具体的な処理は後述する。
【0037】
接地状態導出部32は、例えば、抽出されたタイヤ周方向変形加速度データ及びタイヤ幅方向変形加速度データに対して、それぞれ2階の時間積分を行って、タイヤ周方向の変位データと、タイヤ幅方向の変位データとを得る。そして、タイヤ周方向の変位データからタイヤ周方向変形量の時系列データ(タイヤ周方向変形量データ)を算出し、タイヤ幅方向の変位データからタイヤ幅方向変形量の時系列データ(タイヤ幅方向変形量データ)を算出する。
具体的には、タイヤ周方向変形加速度データ及び幅方向変形加速度データそれぞれに対して、時間に関する2階積分を行い、この後、2階積分して得られたそれぞれの変位データに対して、信号処理部31で抽出したタイヤ14の所定部位の接地タイミングを用いて、近似曲線を算出して背景成分2をそれぞれ求める。背景成分2を、それぞれ2階積分して得られた変位データのそれぞれから除去することにより、タイヤの接地部分の変形量として、例えば、タイヤ周方向変形量の時系列データ(タイヤ周方向変形量データ)、及びタイヤ幅方向変形量の時系列データ(タイヤ幅方向変形量データ)をそれぞれ導出する。接地状態導出部32における具体的な処理は、後に詳述する。
そして、導出したタイヤ周方向変形量データ(タイヤ周方向接地状態データ)及び幅方向変形量データ(タイヤ幅方向接地状態データ)を、特徴量導出部33に出力する。特徴量導出部33は、導出された接地状態(例えば、変形量)のうち、少なくともタイヤの内部故障の発生の有無を特徴付ける特徴量を導出する。
【0038】
接地状態導出部32は、例えば、タイヤ周方向とタイヤ幅方向との変形量を導出したが、これに限定されるものではない。後述の特徴量に応じて、タイヤ半径方向、タイヤ幅方向、及びタイヤ周方向のうち、少なくとも2方向の変形量を導出する。
接地状態導出部32では、例えば、後述の
図4(a)~(c)に示すような様々な状態で得られたタイヤの変形量が導出され、変形量データ群(接地状態データ群)が得られる。
様々な状態で得られたタイヤの変形量を表す変形量データ群が、後述の特徴量の導出に用いられる。
【0039】
モデル作成部34は、特徴量として、例えば、タイヤ周方向変形量データ及び幅方向変形量データに基づいて、タイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを作成する。
モデル作成部34は、後に詳述するが、例えば、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルを作成する。
上述のように、タイヤ内部にセパレーション等の内部故障が発生している場合、内部故障がタイヤ内部に発生していない場合と比べて、タイヤ表面の変形の程度又は変形の形態が変化する。例えば、タイヤ表面の変形の程度又は変形の形態は、
図3(b)に示すように、タイヤ周方向変形量データ(タイヤ周方向接地状態データ)と幅方向変形量データ(タイヤ幅方向接地状態データ)とを用いて表すことができる。モデル作成部34では、例えば、タイヤ周方向変形量データと方向変形量データとを用いて、タイヤ表面の変形の程度又は変形の形態を特徴づけるタイヤ状態診断モデルを作成する。
【0040】
判定部35は、特徴量と、モデル作成部34で作成されたタイヤ状態診断モデルとを用いて、タイヤ内部における内部故障の発生の有無を判定する。タイヤ状態診断モデルを用いたタイヤ内部に内部故障の判定については後に詳述する。
タイヤ状態診断モデルは、例えば、メモリ25に予め記憶されており、判定部35によって読み出される。タイヤ状態診断モデルは、例えば、タイヤ14を車両に取り付ける際、又は取り付けた後に、タイヤ14に適したタイヤ状態診断モデルがメモリ25に記憶されていればよい。また、タイヤ管理装置10又は車両12の製造時、出荷時、又はタイヤ管理装置10の車両12への取り付け時に、タイヤの仕様に応じたタイヤ状態診断モデルが設定されてもよい。
なお、内部故障が発生していないことが既知であるタイヤを車両に取り付けた場合等では、車両の走行中に発生する故障のみが問題となる。このような場合には、車両の走行を開始する度に、走行開始時点から取得された特徴量を用いてタイヤ状態診断モデルを作成し、作成したタイヤ状態診断モデルをメモリ25に記憶させてもよい。
【0041】
判定部35は、判定を実施する度に判定結果をディスプレイ26に送る。ディスプレイ26は判定結果を表示する。ディスプレイ26は、取得された加速度データの波形、導出された特徴量等、処理ユニット23において扱われる各種データ等を逐次表示できる。ディスプレイ26は、特に、判定部35において、タイヤ14に内部故障が発生していると判定された場合、車両12の運転者に内部故障が発生していることを知らせるための警告表示をすることもでき、通知部36としても機能する。
なお、タイヤ管理装置10は、ディスプレイ26に加えて、車両12の運転者に内部故障が発生していることを、例えば、音によって伝えるための通知部36を備える。なお、通知部36は、内部故障が発生した場合、特定の音を発生するブザー、又はスピーカー等を有する構成でもよい。通知部36は、車両12に設けることに限定されるものではなく、例えば、車両12を運転する運転者、家族等又は車両12の管理者等の利用者のスマートフォン等の携帯端末を通知部36として利用することもできる。
【0042】
通知部36は、タイヤに内部故障が発生したことを所定の連絡先に通知するものでもよい。この場合、通知部36は、車両12を運転する運転者、家族等又は車両12の管理者等の利用者のスマートフォン等の携帯端末に、メール等により、タイヤに内部故障が発生したことを知らせるようにしてもよい。
通知部36が、タイヤに内部故障が発生したことを所定の連絡先に通知するものである場合、異常検知を通知することができる。これにより、車両の管理者、運転者、家族等にタイヤの健康状態に関する情報をタイムリーに提供できる。
通知部36が、タイヤに内部故障が発生したことを所定の連絡先に通知するものである場合、遠隔管理用のデータ管理はクラウドを用いることが好ましい。
また、自動運転車両に装備した場合、走行軌跡の逸脱頻度が増加した場合にアクチュエータの故障か、タイヤ異常かの判定が容易となり、要因分離を容易になる。このため、より安全な運行判断、例えば、そのまま目的地まで運行可能か、停止した方が良いか等が可能となり、自動運転車両向けのシステムとして好ましい。
【0043】
出力処理部37は、判定部35がタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤに内部故障が発生したと判定した場合、利用者に、利用状況に応じた割引クーポン又はポイント等の特典を提供するものである。例えば、車両12の現在地と、提携ショップ店、カーディーラー、又はガソリンスタンド(GS)等との距離に応じて、特典の内容、例えば、割引率等を変更してもよい。
車両12の現在地は、例えば、GNNS(global navigation satellite system)又は利用者の携帯端末の位置情報を利用できる。
また、過去の走行履歴又はサービス利用期間に応じて、会員ステータスを設け、そのステータスに応じて、特典の内容を変更させてもよい。
更には、利用者が車両を自走して修理場まで持ち込んだ場合は、割引率を高くしてもよい。
特典は、上述の割引クーポン及びポイント以外に、サービス利用時の値引き、タイヤ若しくは関連商品等の商品値引き、工賃値引き、又はレッカー若しくはレンタカーのサービスチケット等でもよい。特典は紙の形態でもよく、デジタルの形態でもよい。特典が紙の形態の場合、店舗、コンビニエンスストア等でプリントアウトできるようにしてもよい。また、特典がデジタルの形態の場合、ウェブサイトにアクセスして入手してもよく、スマートフォン等の携帯端末に送信してもよい。
なお、特典は必ずしも必要ではないことから、出力処理部37も必ずしも必要ではない。
【0044】
タイヤ14は、空気圧検出部を有することが好ましい。空気圧検出部は、タイヤ内部の空気圧を測定するものである。
タイヤ内部の空気圧が分かると、タイヤの異常がタイヤの空気圧の低圧走行に起因するのか、タイヤの内部故障なのか等の要因分離が容易となるため好ましい。
空気圧検出部における空気圧の検出は、直接式、及び間接式のうち、いずれでも可能であるが、空気圧の絶対値が得られるため、直接式が好ましい。直接式は、バルブ取付け型、バルブキャップ取付け型、リム装着型、及びタイヤ内面貼付け型のうち、いずれでもよいが、加速度センサと一体で取付け可能なため、タイヤ内面貼付け式がより好ましい。
また、空気圧検出部は、空気圧検出以外のセンシング機能が同時に備わっていてもよい。センシング機能としては、例えば、摩耗検知、路面検知、車輪取付け緩み検知、又は荷重検知等である。
さらには、空気圧検出部としては、TPMS(Tire Pressure Monitoring System)センサを用いることもできる。タイヤ内部の空気圧を検知する空気圧センサと、タイヤ内部の空気の温度を検知する温度センサとを備える構成でもよい。TPMSにより、空気圧が予め設定した値よりも低く、かつタイヤ内部の温度が予め設定した温度よりも高い場合に、タイヤに異常があるものと判定できる。
空気圧検出部は、識別情報が付与されており、また、受信機21に空気圧の情報を送信する送信部を有する。これにより、各タイヤの空気圧及び内部温度の情報をデータ処理ユニット20に送信した場合、どのタイヤであるかを特定できる。
【0045】
タイヤ14は、個体識別情報が記録された記録部(図示せず)を有することが好ましい。
記録部は、タイヤ14の個体識別情報の管理手段として利用されるものである。記録部は、例えば、二次元バーコード、一次元バーコード、ラベル(シール)、RFID(Radio Frequency Identification)等である。記録部として、埋め込みタイプのRFIDは、擦れ若しくは剥がれ等による読取り不良、又はタイヤ表面の後加工による改ざんリスクが抑制できるため、より好ましい。また、製造情報、タイヤ使用履歴等の個体識別情報と内部故障の履歴情報とを関連付けてデータを蓄積することにより、品質管理情報にも活用することができる。
更には、加速度センサ16が、故障又はバッテリー切れにより交換する必要が生じた場合、記録部を設けることにより、タイヤ14と加速度センサ16との関連付けが容易になる。
【0046】
特徴量導出部33は、接地状態導出部32により導出されたタイヤの変形量(接地状態)のうち、少なくともタイヤ接地領域に相当する変形量データ群(接地状態データ群)を抽出し、変形量データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量として用いることが好ましい。少なくとも2つの異なる方向のデータ群とは、タイヤ半径方向、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向の3つの方向のうちの2つの方向のデータ群である。
変形量データ群は、タイヤ半径方向、タイヤ幅方向、及びタイヤ周方向のうち、少なくとも2つの方向のデータ群を含んでいることが好ましい。これにより、変形量データ群を2軸の軌跡データ(2方向(面内)の軌跡データ)として扱うことができ、タイヤについて正常状態と異常状態との違いをより判定しやすくなるため、好ましい。タイヤ半径方向は、タイヤ径方向と同じである。
本実施形態では、タイヤ接地領域に相当する変形量データ群(接地状態データ群)として、例えば、接地面の中心位置(接地直下)を含む30°の領域のデータを抽出する。具体的には
図2に示す回転角φ150°~210°の領域のデータを抽出する。
特徴量の例としては、同一の変形量データ群(接地状態データ群)における平均値、最大値、最小値、基準点からの傾き(角度)である。基準点は、
図2に示す原点、すなわち、回転角φが0°である。
変形量データ群(接地状態データ群)を複数の点群ではなく、1つの画像とする等が挙げられる。このことについては、例えば、接地状態データ群における任意の範囲をピクセルデータとして、接地状態データ群を1つの画像とする。接地状態データ群を表す1つの画像について、任意の範囲を複数領域に分割する。そして、正常と異常の画像データの差分で、正常と異常との違いを判定する。
なお、正常状態とは、タイヤに内部故障がない状態のことであり、異常状態とは、タイヤに内部故障がある状態のことである。
【0047】
ここで、上述の変形量には、速度変化、及び荷重変化が含まれる。さらには、内部故障が発生していない状態(正常状態)、及び内部故障が発生した状態(異常状態)の変形量も含まれる。このため、変形量データ群(接地状態データ群)には、速度変化、及び荷重変化が含まれ、内部故障が発生していない状態(正常状態)、及び内部故障が発生した状態(異常状態)も含まれる。さらには、接地状態データ群において、例えば、変形量データ群を特徴量として用いた場合、特徴量には、速度変化、及び荷重変化が含まれ、内部故障が発生していない状態(正常状態)、及び内部故障が発生した状態(異常状態)も含まれる。
上述のように、変形量(接地状態)は、荷重及び速度の影響が含まれる。しかしながら、例えば、タイヤ周方向とタイヤ幅方向の2方向の成分(面内変形)を用いて、タイヤの変形挙動を捉えることにより、荷重及び速度の変化の影響を受けずに、正常状態と異常状態とを区別でき、内部故障の発生の有無を判定できる。
【0048】
特徴量として、上述のように変形量データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を用いる。例えば、
図4(a)~(c)は加速度センサ16により得られた
図2の回転角φ150°~210°の領域におけるタイヤ内部の変形量データの例を示している。
図4(a)に示す変形量データ40、変形量データ41及び変形量データ42は、内部故障がない正常なタイヤの変形量データである。変形量データ40、変形量データ41及び変形量データ42の順で速度が速くなっている。
図4(a)に示す変形量データ40a、変形量データ41a及び変形量データ42aは内部故障があるタイヤの変形量データである。変形量データ40a、変形量データ41a及び変形量データ42aの順で速度が速くなっている。ここで、空気圧及び荷重等、速度以外の条件は同一である。
変形量データ40、変形量データ41及び変形量データ42では、速度が速くなるにつれて変形量データで囲まれた領域が横軸(Y軸、タイヤ幅方向)側に移動している。
一方、変形量データ40a、変形量データ41a及び変形量データ42aでは、速度が速くなるにつれて変形量データで囲まれた領域が縦軸(X軸、タイヤ周方向)側に移動している。
図4(a)に示すように、正常なタイヤと、内部故障があるタイヤとでは変形量データに明確な違いあり、タイヤの内部の状態に応じた、タイヤの内部の変位(変形)の軌跡を示す変形量データが得られる。このことから、タイヤ1周分のデータのうち、タイヤ接地領域に相当し、かつ、少なくとも2つの異なる方向の変形量データは、特徴量に適している。
【0049】
また、
図4(b)に示す変形量データ43、及び変形量データ44は、内部故障がない正常なタイヤの変形量データである。変形量データ43及び変形量データ44の順で走行時間が長くなっている。
図4(b)に示す変形量データ43a及び変形量データ44aは内部故障があるタイヤの変形量データである。変形量データ43a及び変形量データ44aの順で走行時間が長くなっている。
タイヤを構成するゴム材料の粘弾性特性によってエネルギーロスを生じ発熱するため、走行開始直度から一定時間(例えば、30分)経過後とでは、タイヤの内部温度は変化する(温度依存性がある)ことが知られているが、このように走行時間が違う場合でも、正常なタイヤと、内部故障があるタイヤとでは変形量データに明確な違いがある。つまり、市街地走行のような通常の走行条件において、温度依存性の影響を受けずに内部故障の発生の有無を判定できる。
【0050】
図4(c)に示す変形量データ45、変形量データ46及び変形量データ47は、内部故障がない正常なタイヤの変形量データである。変形量データ45、変形量データ46及び変形量データ47の順で荷重が高くなっている。
図4(c)に示す変形量データ45a、変形量データ46a及び変形量データ47aは内部故障があるタイヤの変形量データである。変形量データ45a、変形量データ46a及び変形量データ47aの順で荷重が高くなっている。ここで、空気圧及び速度等、荷重以外の条件は同一である。
変形量データ45、変形量データ46及び変形量データ47では、荷重が高くなるにつれて変形量が多くなっている。これは、接地長が長くなったためと考えられる。
一方、変形量データ45a、変形量データ46a及び変形量データ47aでも、荷重が高くなるにつれて変形量が多くなっている。これも、接地長が長くなったためと考えられる。両者とも、変位(変形)の最大値が増加するという傾向は一致する一方で、傾きはほとんど変化が生じていない。
従って、
図4(c)に示すように、正常なタイヤと、内部故障があるタイヤとでは変形量データに明確な違いあり、タイヤの内部の状態に応じた、変位(変形)の軌跡を示す変形量データが得られ、特徴量として適している。
【0051】
モデル作成部34は、上述のように特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルを作成する。より具体的に、タイヤ状態診断モデルについて説明する。
機械学習モデルとしては、K-Means法、SVM(Support Vector Machine)、One Classs SVM、LOF(Local Outlier Factor)、及びニューラルネットワーク等を用いることができる。これらのモデルを用いることにより、正常データに対して、外れ値検知、すなわち、タイヤの内部故障の予兆を早期に精度良く検知することができる。
また、初期状態、例えば、新品装着時等を正常として、タイヤ状態診断モデルを構築する。その正常データ群から任意の閾値よりも外れた値が検出された場合、それ以降、外れ値が常時検出される場合、内部故障が発生したとみなせる。すなわち、タイヤに異常が発生したとみなせる。なお、自己再生能力を持たないタイヤでは、一旦、異常が発生した場合は、その異常が常態化する。
【0052】
K-Means法とは、予めクラスタ数を設定して、データ分割を行う方法であり、教師なし学習のアルゴリズムでもある。以下、K-Means法について簡単に説明する。
まず、クラスタ数kを指定する。本発明では、クラスタ数を2とする。
次に、乱数をもとに、各データにいずれかのクラスタを割り当てる。
次に、各クラスタ重心を計算する。
次に、クラスタ重心と各データとの距離を計算する。
次に、各データに重心が最も近いクラスタを割り当て直す。
クラスタの割り当てが収束するまで上述の各クラスタ重心から各データに重心が最も近いクラスタを割り当て直すことを繰り返す。
【0053】
図5(a)~(c)はK-Means法を用いたタイヤ状態診断モデルを説明するための模式図であり、(a)は変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の平均値とタイヤ周方向変形量の平均値を用いた例であり、(b)は変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の最大値とタイヤ周方向変形量の最大値を用いた例であり、(c)は変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の最大値と傾きを用いた例である。ここで、傾きは、
図4(a)を例にして示すと、Y軸とX軸の交点を原点とし、原点から最も離れた点を参照点(
図3(b)のC点に相当)として、原点と参照点を結んだ線とY軸との成す角度を傾きとして用いることができる。
図5(a)~(c)は、いずれも少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量に用いた例である。
図5(a)~(c)において、〇は正常データを示し、△は異常データを示す。正常データは、タイヤに内部故障がない状態を示すデータである。異常データは、タイヤに内部故障がある状態を示すデータである。
【0054】
図5(a)は縦軸が変形量データのタイヤ幅方向変形量の平均値(Yave)であり、横軸が変形量データのタイヤ周方向変形量の平均値(Xave)である。タイヤ状態診断モデル及び機械学習モデルの特徴量としてタイヤ幅方向変形量の平均値と、タイヤ周方向変形量の平均値とを用いている。
図5(a)では、正常データ群と異常データ群とが明確に分かれている。すなわち、クラスタリングされている。
なお、正常データ群とは、タイヤ内部故障が発生していないことを示す正常データのまとまりのことである。異常データ群とは、タイヤ内部故障が発生していることを示す異常データのまとまりのことである。
【0055】
図5(b)は縦軸が変形量データのタイヤ幅方向変形量の最大値(Ymax)であり、横軸が変形量データのタイヤ周方向変形量の最大値(Xmax)である。タイヤ状態診断モデル及び機械学習モデルの特徴量としてタイヤ幅方向変形量の最大値と、タイヤ周方向変形量の最大値とを用いている。
図5(b)では、正常データ群と異常データ群とが明確に分かれている。すなわち、クラスタリングされている。
図5(c)は縦軸が変形量データのタイヤ幅方向変形量の最大値(Ymax)であり、横軸が変形量データの傾きの値である。タイヤ状態診断モデル及び機械学習モデルの特徴量としてタイヤ幅方向変形量の最大値と、変形量データの傾きの値とを用いている。
図5(c)では、正常データ群と異常データ群とが明確に分かれている。すなわち、クラスタリングされている。
図5(a)~(c)に示すようにK-Means法を用いたタイヤ状態診断モデルは、正常データ群と異常データ群とを明確に分けることができる。このため、K-Means法を用いたタイヤ状態診断モデルを用いて、得られた特徴量からタイヤ内部における内部故障の発生の有無を判定できる。
なお、基準点からの傾き(角度)は、上述の
図4(a)に示す角度αである。角度αは、α=tan
-1(Xmax/Ymax)で表される。Xmaxはタイヤ周方向変形量の最大値であり、タイヤ周方向変形量データから抽出された値である。Ymaxはタイヤ幅方向変形量の最大値であり、タイヤ幅方向変形量データから抽出された値である。
判定部35では、
図5(a)~(c)に示すタイヤ状態診断モデルに、それぞれタイヤ状態診断モデルの作成に用いた特徴量を入力して、入力した特徴量のタイヤ状態診断モデルにおける位置により、内部故障の発生の有無を判定する。
【0056】
次にOne-Class SVMを用いたタイヤ状態診断モデルの結果を
図6に示す。
図6はOne-Class SVMを用いたタイヤ状態診断モデルを説明するための模式図であり、変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量の平均値と周方向変形量の平均値を用いた例である。
図6は縦軸が変形量データのタイヤ幅方向変形量の最大値(Ymax)であり、横軸が変形量データのタイヤ周方向変形量の最大値(Xmax)である。
図6において、〇は正常データを示し、△は異常データを示す。
図6はタイヤ状態診断モデル及び機械学習モデルの特徴量としてタイヤ幅方向変形量の最大値と、タイヤ周方向変形量の最大値とを用いた例を示す。
【0057】
図6に示すように、One-Class SVMを用いたタイヤ状態診断モデルでは、正常データ群と異常データ群とを明確に分けることができる。このため、One-Class SVMを用いたタイヤ状態診断モデルを用いて、得られた特徴量からタイヤ内部における内部故障の発生の有無を判定できる。
判定部35では、
図6に示すタイヤ状態診断モデルに、タイヤ状態診断モデルの作成に用いた特徴量を入力して、入力した特徴量のタイヤ状態診断モデルにおける位置により、内部故障の発生の有無を判定する。
【0058】
タイヤ状態診断モデルは、教師データを用いたSVMを利用することもできる。
図7(a)~(d)はSVMを用いたタイヤ状態診断モデルの一例を説明するための模式図である。
図5(a)~(c)と同様に、
図7(a)~(d)に示すYaveは変形量データのタイヤ幅方向変形量の平均値であり、Ymaxは変形量データのタイヤ幅方向変形量の最大値である。Xaveは変形量データのタイヤ周方向変形量の平均値であり、Xmaxは変形量データのタイヤ周方向変形量の最大値である。
図7(a)~(d)では、変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量、タイヤ周方向変形量及び傾きから、2つの変形量データを用いている。
【0059】
図7(a)~(d)は、いずれも教師データとして、タイヤ状態診断モデルを作成した後、検証用のテストデータにて、タイヤ状態診断モデルの精度を検証している。
なお、SVMを用いたタイヤ状態診断モデルの構築用に全データの70%を用い、残りの30%を検証用データに用いた。すなわち、全データの70%を教師データに用いた。
図7(a)~(d)に示す直線49は、決定境界と呼ばれるものであり、正常データ群と異常データ群との境界を示す。
図7(a)~(d)において、□は正常データを示し、△は異常データを示す。正常データは、タイヤに内部故障がない状態を示すデータである。異常データは、タイヤに内部故障がある状態を示すデータである。
図7(a)~(d)に示すように、SVMを用いたタイヤ状態診断モデルにおいても正常データ群と異常データ群とを明確に分けることができる。このため、SVMを用いたタイヤ状態診断モデルを用いて、得られた特徴量からタイヤ内部における内部故障の発生の有無を判定できる。
判定部35では、
図7(a)~(d)にタイヤ状態診断モデルに、それぞれタイヤ状態診断モデルの作成に用いた特徴量を入力して、入力した特徴量のタイヤ状態診断モデルにおける位置により、内部故障の発生の有無を判定する。
図7(a)~(d)にタイヤ状態診断モデルでは、直線49に対する位置により、内部故障の発生の有無を判定できる。
【0060】
また、モデル作成部34は、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルとしてタイヤ正常状態確認モデルを作成することもできる。この場合、判定部35は、特徴量がタイヤ状態診断モデルに適合しない場合、内部故障が発生していると判定する。
タイヤ正常状態確認モデルのように、内部故障が発生していない正常状態のデータのみを用いてモデルを構築し、タイヤ正常状態確認モデルに合致しないデータ、すなわち、タイヤ正常状態確認モデルに対する外れ値の出現率が増えた場合、内部故障が発生している。すなわち、異常状態であると判定できる。
タイヤ状態診断モデルは、例えば、内部故障が発生していない正常状態と、内部故障が発生している異常状態とを区別するモデルである。タイヤは、自己再生能力を持たないため、一旦、内部故障が発生した場合、その内部故障が発生した状態がいずれは常態化する。このことを利用して、正常状態のみのモデルを作成してもよい。
【0061】
なお、計測時の速度毎、例えば、任意の速度±5km/h以内の範囲で、学習モデルを作成することも可能であるが、市街地等の一般的な運転環境化において、毎回、等しい運転条件で計測できるとは限らず、ある程度の条件変化が許容可能な判定手段が望まれる。そして、本実施形態の手法では、変形量から抽出された特徴量には、速度変化又は荷重変化に影響を受ける成分も含まれているが、前述の
図4(a)~(c)で説明したとおり、速度変化又は荷重変化が生じても、正常なタイヤと、内部故障があるタイヤとの違いを特徴付けることが可能である。そして、正常状態から、セパレーション等の内部故障が発生した等の異常状態に移った際には、セパレーションにより、せん断変形又は圧縮変形、若しくは引張変形を受けた際の局所的な挙動が変わるために、変形軌跡の傾向が異なることが分かっている。
そのため、任意のタイミングで状態監視を行い初期モデル(タイヤ正常状態)に対して、外れ値の出現頻度が上がった場合(移り変わり段階)、又は、タイヤ正常状態確認モデルから完全に逸脱した値が抽出された場合は、異常発生と判定することができる。異常発生と判定する際には、決定係数又はP検定等、統計解析による処理を追加して判定してもよい。
【0062】
図8(a)~(c)はタイヤ正常状態確認モデルを説明するための模式図である。
図8(a)~(c)は縦軸が変形量データのタイヤ幅方向変形量の平均値(Yave)であり、横軸が変形量データのタイヤ周方向変形量の平均値(Xave)である。タイヤ状態診断モデル及び機械学習モデルの特徴量としてタイヤ幅方向変形量の平均値と、タイヤ周方向変形量の平均値とを用いている。
図8(a)に正常データ群を示す。
図8(b)に正常データ群と異常データ群との中間の状態(遷移状態)を示す。
図8(b)に示す状態では、データ群のバラツキが多く、異常か、誤検知であるか判定しにくい状態である。
図8(c)に異常データ群を示す。
図8(a)のように正常データ群を用いてタイヤ正常状態確認モデルを作成することにより、タイヤ正常状態確認モデルに合致しない特徴量については、内部故障が発生した異常状態と判定できる。
図8(b)に示すように遷移状態の場合があるので、上述のようにタイヤ正常状態確認モデルから完全に逸脱する基準を設けて、異常状態を判定してもよい。内部故障が発生した場合の特徴量の分布は、
図8(c)に示す異常データ群のようになる。異常データ群は
図8(a)に示す正常データ群とは明確に異なる分布になる。
判定部35では、タイヤ正常状態確認モデルに、タイヤ正常状態確認モデルの作成に用いた特徴量を入力して、入力した特徴量のタイヤ正常状態確認モデルにおける位置により、内部故障の発生の有無を判定する。タイヤ正常状態確認モデルでは、
図8(a)に示す正常データ群から外れた場合、内部故障が発生していると判定できる。
【0063】
モデル作成部34は、タイヤの初期状態、例えば、新品のタイヤ装着時等を正常状態としてタイヤ状態診断モデルを作成してもよい。走行距離が100km未満であればタイヤの初期状態とする。
また、モデル作成部34は、タイヤ状態診断モデルと特徴量の測定データとを教師データとして追加し、タイヤ状態診断モデルを更新してもよい。
判定部35は、任意の時間間隔で、加速度を計測して特徴量を求め、現在の状態をタイヤ状態診断モデルと照らし合わして、タイヤの内部故障の有無を判定してもよい。
【0064】
上述のように
図7(a)~(d)では、変形量データのうち、タイヤ幅方向変形量及びタイヤ周方向変形量の2つの変形量データを用いているが、これに限定されるものではない。特徴量として、上述のように変形量データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を用いることができ、タイヤ幅方向変形量、タイヤ周方向変形量、及びタイヤ半径方向変形量の3つの変形量データを用いることもできる。
図9(a)及び(b)はSVMを用いたタイヤ状態診断モデルの他の例を説明するための模式図である。
図9(a)及び(b)にタイヤ幅方向変形量、タイヤ周方向変形量、及びタイヤ半径方向変形量の3つの変形量データを用いた例を示す。
図9(a)及び(b)は第1の軸(縦軸)、第2の軸(第1横軸)及び第3の軸(第2横軸)で表される3次元のグラフである。
図9(a)は第1の軸(縦軸)が変形量データのタイヤ半径方向変形量の平均値(Zave)であり、第2の軸(第1横軸)が変形量データのタイヤ幅方向変形量の平均値(Yave)であり、第3の軸(第2横軸)変形量データのタイヤ周方向変形量の平均値(Xave)である。
図9(b)は第1の軸(縦軸)が変形量データのタイヤ半径方向変形量の最大値(Zmax)であり、第2の軸(第1横軸)が変形量データのタイヤ幅方向変形量の最大値(Ymax)であり、第3の軸(第2横軸)変形量データのタイヤ周方向変形量の最大値(Xmax)である。
【0065】
図9(a)及び(b)は、上述の
図7(a)~(d)と同様に、いずれも教師データとして、タイヤ状態診断モデルを作成した後、検証用のテストデータにて、タイヤ状態診断モデルの精度を検証している。
図9(a)及び(b)では、SVMを用いたタイヤ状態診断モデルの構築用に全データの70%を用い、残りの30%を検証用データに用いた。すなわち、全データの70%を教師データに用いた。
図9(a)及び(b)に示す平面50は、決定境界と呼ばれるものであり、正常データ群と異常データ群との境界を示す。
図9(a)及び(b)において、□は正常データを示し、△は異常データを示す。上述のように正常データは、タイヤに内部故障がない状態を示すデータである。異常データは、タイヤに内部故障がある状態を示すデータである。
【0066】
図9(a)及び(b)に示すように、タイヤ幅方向変形量、タイヤ周方向変形量、及びタイヤ半径方向変形量の3つの変形量データを用いたタイヤ状態診断モデルにおいても正常データ群と異常データ群とを明確に分けることができる。このため、SVMを用いたタイヤ状態診断モデルを用いて、得られた特徴量からタイヤ内部における内部故障の発生の有無を判定できる。
図9(a)及び(b)に示すように3つの変形量データを用いた方が、
図7(a)~(d)に示す2つの変形量データを用いるよりも、正常データ群と異常データ群との分布がより明確に離れており、正常データ群と異常データ群とをより明確にクラスタリングできる。このことから、3つの変形量データを用いた方が、2つの変形量データを用いた場合に比して、より早い段階で内部故障の発生の有無を判定できる。
【0067】
(タイヤ管理方法)
図10は本発明の実施形態のタイヤ管理方法の第1の例を示すフロチャートである。
タイヤ管理方法では、
図2に示すタイヤ管理装置10を使って説明するが、タイヤ管理方法はタイヤ管理装置10を利用することに、特に限定されるものではない。
【0068】
図2に示す加速度センサ16によって計測した各タイヤの加速度の計測データは、送信機17からデータ処理ユニット20の受信機21へ送信され、さらに受信機21から増幅器22に出力される。増幅器22は加速度センサ16又は送信機17に含まれていても良い。
タイヤ管理方法では、まず、
図2に示す増幅器22で増幅された、各タイヤの加速度の計測データがタイヤ加速度データ取得部30に供給され、所定のサンプリング周波数にてサンプリングされて、デジタル化された計測データが取得される(ステップS10)。この際、タイヤ加速度データ取得部30は、上述のように各送信機17から送信された上述の識別情報(ID)に基づき、各車輪から送信される加速度の計測データが、どのタイヤの加速度の計測データであるか(タイヤ14a~タイヤ14dのいずれの車輪であるか)を判定する。以降の処理は、各タイヤの加速度の計測データ毎に、それぞれ行なわれる。
【0069】
次に、取得された計測データは、信号処理部31に供給され、まず、フィルタによる平滑化処理が行われる(ステップS12)。信号処理部31に供給された計測データはノイズ成分が多く含まれるため、平滑化処理により、滑らかなデータとされる。フィルタは、例えば、所定の周波数をカットオフ周波数とするデジタルフィルタが用いられる。カットオフ周波数は、転動速度やノイズ成分によって変化するが、例えば、転動速度が60(km/時)の場合、カットオフ周波数は、0.5~2(kHz)とされる。この他に、デジタルフィルタの替わりに、移動平均処理やトレンドモデル等を用いて平滑化処理を行ってもよい。
【0070】
次に、信号処理部31において、平滑処理された加速度の計測データから、低周波の背景成分1が除去される(ステップS14)。タイヤの加速度の背景成分1は、タイヤの転動中の遠心力の加速度成分及び重力加速度成分の影響を含む。低周波成分の抽出は、ステップS12で得られた平滑化処理後の波形データに対し、さらに平滑化処理を行うことで実施する。例えば、所定の周波数をカットオフ周波数とするデジタルフィルタが用いられる。カットオフ周波数は、例えば、転動速度が60(km/時)の場合、カットオフ周波数は、0.5~2(kHz)とされる。この他に、デジタルフィルタの替わりに、移動平均処理やトレンドモデル等を用いて平滑化処理を行ってもよい。また、平滑化処理後の波形データにおいて、例えば、所定の時間間隔で複数の節点を設け、予め定められた関数群、例えば、3次のスプライン関数を用いて、最小二乗法により第1の近似曲線を算出することによって求めてもよい。節点は、スプライン関数の局所的な曲率(屈曲性)を規定する横軸上の拘束条件を意味する。信号処理部31では、このようにして抽出された背景成分1を、ステップS12で平滑化処理された加速度の計測データから差し引くことで、計測データからタイヤの回転に基づく加速度成分及び重力加速度成分が除去される。これにより、タイヤのトレッド部の接地変形に基づく加速度の成分(タイヤの変形に基づく加速度の時系列データ)を抽出することができる。
【0071】
信号処理部31は、さらに、このようにして取得された、タイヤの変形に基づく加速度の時系列データから、
図2に示す回転角φが、180°、540°、900°・・・となるタイミングをそれぞれ抽出する(ステップS16)。
信号処理部31では、タイヤの変形に基づく加速度の時系列データのグラフにおいて、このタイヤの変形に基づく加速度が極小値をとるタイミングを、回転角φが180°、540°、900°・・・となるタイミングとして抽出する。すなわち、これら極小値のタイミングを、
図2に示すように、タイヤ空洞領域の内周面に固定した加速度センサ16が、タイヤの接地面の中心位置に到来する(最も近づく)タイミングとして抽出する。
タイヤ接地領域において、タイヤの外周面の路面垂直方向の位置は、路面によって規定される。タイヤ接地領域において、路面は元々曲率のついたタイヤ外周面を平面上に変形させるので、タイヤは厚み方向に変形する。これによって、タイヤ空洞領域の内周面の位置は、タイヤ接地領域において、タイヤ厚み方向(路面と垂直な方向)に、少なからず変動する。タイヤの厚み方向の変形は、接地面の中心位置において最も少なくなる。タイヤ空洞領域の内周面に配置された加速度センサによって取得される、タイヤの変形に基づくタイヤ半径方向の加速度が極小となるタイミングは、上述の回転角φが180°、540°、900°・・・となるタイミングであるといえる。なお、このような、上述の回転角φが180°、540°、900°となるタイミングは、タイヤ周方向の変形加速度及びタイヤ幅方向の変形加速度のいずれか一方を用いても導出することができる。ステップS12~ステップS16までの各処理は、ステップS10で取得された車輪13a~13dそれぞれの加速度の計測データについて実施される。
上述のステップS10~S16が、転動中のタイヤに関するタイヤ情報を取得するタイヤ情報取得工程に該当する。
【0072】
次に、信号処理部31における処理結果を用い、接地状態導出部32において、例えば、接地状態として、走行中の車両12の各タイヤ14a~14dそれぞれの、タイヤ周方向変形量データ及びタイヤ幅方向変形量データを導出する(ステップS18)。ステップS18が、タイヤ情報に基づき、車両が走行している最中の少なくともタイヤの接地部分の接地状態を導出する接地状態導出工程に該当する。
接地状態導出部32では、まず、例えば、接地変形に基づく加速度の時系列データについて2階の時間積分を施し、変位データを生成する。変位データは、例えば、時間とともに変位が増大していることがある。これは、積分の対象となる加速度の時系列データはノイズ成分を含み、このノイズ成分も積分により積算されていくからである。一般に、定常状態で転動するタイヤのトレッド部の注目する一点の変形量又は変位を観察した場合、タイヤの回転周期を単位として周期的な変化を示す。したがって、時間とともに変位が増大することは通常ありえない。そこで、2階の時間積分が施されて得られた変位データが、タイヤの回転周期を単位として周期的な変化を示すように、この変位データに対して以下の処理が行われる。
【0073】
すなわち、背景成分1を算出した方法と同様に、変位データに含まれるノイズ成分を背景成分2として算出する。なお、この際、上記の遠心力の導出において求めた、時系列の回転角を用いることで、タイヤの路面との接地領域を含む領域におけるタイヤの転動中の変形量を精度よく求めることができる。具体的に説明すると、タイヤの周上の領域を、タイヤの路面との接地領域を含む第1の領域とこれ以外の第2の領域とに分け、第1の領域として、φ=90°より大きく270°未満、450°より大きく720°未満、810°より大きく980°未満の領域を定め、第2の領域として、φ=0°以上90°以下及び270°以上360°以下、360°以上450°以下及び630°以上720°以下、720°以上810°以下及び980°以上1070°以下の領域を定める。背景成分2は、上記第2の領域中の複数の周上位置(φ又はφに対応する時間)を節点として用いて、予め定められた関数群を用いて、第1の領域及び第2の領域のデータに対して最小二乗法により第2の近似曲線を算出することによって求める。節点は、スプライン関数の局所的な曲率(屈曲性)を規定する横軸上の拘束条件を意味する。
【0074】
変位データに対して、上記節点のデータ点を通る3次のスプライン関数で関数近似を行うことにより、第2の近似曲線が算出される。関数近似する際、第1の領域には節点はなく、第2の領域の複数の節点のみを用いて関数近似を行い、かつ関数近似に際して行う最小二乗法で用いる第2の領域の重み係数を1とし、第1の領域の重み係数を0.01として処理が行われる。このように背景成分2を算出する際、第1の重み係数を小さくし、かつ第1の領域に節点を定めないのは、第2の領域における変位データを主に用いて背景成分2を算出するためである。第2の領域では、トレッド部の接地による変形は小さく、かつその変形は周上で滑らかに変化するため、タイヤの変形量は周上で小さく、その変化も極めて小さい。これに対して、第1の領域では、タイヤのトレッド部は接地変形に基づいて大きく変位しかつ急激に変化する。このため接地変形に基づく変形量は周上で大きくかつ急激に変化する。すなわち、第2の領域におけるトレッド部の変形量は第1の変形量と対比して概略一定を示す。これより、第2の領域の2階積分により得られた変位データを主に用いて第1の近似曲線を算出することで、第2の領域のみならず、タイヤの路面との接地領域を含む第1の領域におけるタイヤの転動中の変形量を精度よく求めることができる。
【0075】
そして、背景成分2として算出された近似曲線を変位データから差し引き、トレッド部の接地変形に基づく変形量の周上の分布を算出する。変位信号(実線)から第2の近似曲算線(点線)を差し引くことにより算出される、トレッド部の接地変形に基づく変形量の分布を示している。接地のたびに変形量が変化していることがある。このような方法により算出される変形量は、タイヤの有限要素モデルを用いてシミュレーションを行ったときの変形量と精度良く一致する。接地状態導出部32では、周方向変形加速度データ及び幅方向変形加速度データのそれぞれについて、変位データに対して上述の処理を施してタイヤ周方向変形量データ及びタイヤ幅方向変形量データをそれぞれ求める。
【0076】
次に、特徴量導出部33は、タイヤ半径方向、タイヤ周方向変形量データ及びタイヤ幅方向変形量データから、少なくともタイヤ接地領域に相当する変形量データ群を抽出し、変形量データ群のうち、少なくとも2つの異なる方向のデータ群を特徴量とする(ステップS20)。ステップS20が特徴量導出工程に該当する。
特徴量は、上述の同一のデータ群における平均値、最大値、最小値、基準点からの傾き(角度)である。より、具体的には、タイヤ半径方向の平均値、タイヤ半径方向の最大値、タイヤ幅方向変形量の平均値、タイヤ幅方向変形量の最大値、タイヤ周方向変形量の平均値、及びタイヤ周方向変形量の最大値である。
【0077】
次に、判定部35が、メモリ25から、タイヤの内部故障の発生の有無を判定するタイヤ状態診断モデルを読み出し、特徴量と、タイヤ状態診断モデルとを用いて、タイヤの内部故障の発生の有無を判定する(ステップS22)。ステップS22が判定工程に該当する。
ステップS22(判定工程)では、例えば、
図5(a)に示すタイヤ状態診断モデルに、タイヤ状態診断モデルの作成に用いた特徴量を入力して、入力した特徴量のタイヤ状態診断モデルにおける位置により、内部故障の発生の有無を判定する。なお、タイヤ状態診断モデルには、
図5(a)に示すもの以外に、上述の各種のタイヤ状態診断モデルを用いることができる。
ステップS22(判定工程)において、内部故障が発生していると判定されたタイヤがある場合、例えば、通知部36が、車両12を運転するドライバに内部故障が発生しているタイヤがあることを知らせる警告を、ディスプレイ26に表示させる(ステップS23)。ステップS23では、内部故障が発生しているタイヤが、タイヤ14a~タイヤ14dのうちのどのタイヤであるか、運転者が判別可能な形態で警告をディスプレイ26に表示することが好ましい。ステップS23が通知工程に該当する。
【0078】
ステップS22(判定工程)において、判定部35により内部故障が発生しているタイヤがないと判定された場合、ステップS23(通知工程)の警告の表示を実施しない。
ステップS22(判定工程)において、内部故障が発生していないと判定された場合、又はステップS23(通知工程)を実施した後、測定終了が判定される(ステップS24)。ステップS24では、例えば、運転者によって測定終了を指示してもよく、車両12の走行の有無により測定終了を判定してもよい。ステップS24において測定終了が判定されるまで、上述のステップS10~S24が繰り返し実施される。
なお、車両12の走行の有無は、例えば、エンジンを停止した場合、走行していないとする。また、電気自動車等の場合、モーターを停止した場合、走行していないとする。
以上のようにして、簡単な構成で、タイヤ内部に発生している内部故障を、車両が走行している状態で検出できる。
【0079】
ステップS23(通知工程)では、警告をディスプレイ26に表示することに限定されるものではない。例えば、所定の連絡先に、タイヤに内部故障が発生したことを通知してもよい。この場合、車両12を運転する運転者、家族等又は車両12の管理者等の利用者のスマートフォン等の携帯端末に、メール等により、タイヤに内部故障が発生したことを知らせるようにしてもよい。
ステップS22において、判定部35によりタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤに内部故障が発生したと判定された場合、利用者に、利用状況に応じた割引クーポン又はポイント等の特典を提供するようにしてもよい。この特典を提供する工程が出力処理工程に該当する。
【0080】
図11は本発明の実施形態のタイヤ管理方法の第2の例を示すフロチャートである。
タイヤ管理方法の第2の例は、上述のタイヤ管理方法の第1の例に比して、タイヤ状態診断モデルを作成する(ステップS30)点が異なり、それ以外の工程は、上述のタイヤ管理方法の第1の例と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
例えば、タイヤ状態診断モデル作成工程(ステップS30)は、ステップS20(特徴量導出工程)と、ステップS22(判定工程)との間の工程である。
タイヤ状態診断モデル作成工程(ステップS30)は、データの蓄積が必要であるためタイヤ状態診断モデルが作成されるまで、上述のステップS10~S20を繰り返し実施する。
タイヤ状態診断モデル作成工程(ステップS30)において、タイヤ状態診断モデルが作成された後、ステップS22(判定工程)は、ステップS30で作成されたタイヤ状態診断モデルを用いて、タイヤの内部故障の発生の有無を判定する。
【0081】
タイヤ状態診断モデル作成工程(ステップS30)は、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルを作成する。この場合、具体的には、上述のように機械学習モデルとしては、K-Means法、SVM(Support Vector Machine)、One Classs SVM、LOF(Local Outlier Factor)及びニューラルネットワーク等が用いられる。
タイヤ状態診断モデルを作成する(ステップS30)では、特徴量を学習データとして用い、学習データを機械学習モデルに入力して、タイヤ状態診断モデルとして、タイヤ正常状態確認モデルを作成してもよい。
ステップS30において、作成したタイヤ状態診断モデルは、例えば、メモリ25に記憶される。判定工程(ステップS22)において、メモリ25からタイヤ状態診断モデルが読み出されて、内部故障の発生の有無の判定に利用される。
【0082】
タイヤ状態診断モデル作成工程(ステップS30)は、ステップS20(特徴量導出工程)と、ステップS22(判定工程)との間の工程に限定されるものではない。例えば、ステップS10の前に実行して、作成したタイヤ状態診断モデルを、例えば、メモリ25に記憶させておいてもよい。この場合、タイヤ状態診断モデルは、車両に装着するタイヤと同一種類のタイヤ(同じ製品のタイヤ)を用いて、ステップS10の前に予め作成される。
また、判定工程(ステップS22)において、上述の空気圧検出部により測定されたタイヤ内部の空気圧を判定に加えてもよい。これにより、タイヤの空気圧が低圧の状態か否かを判定できるため、内部故障の発生の有無の判定に際して、タイヤの空気圧が正常か異常かを特定できるため、好ましい。
【0083】
上述のタイヤ管理方法の第1の例及びタイヤ管理方法の第2の例においては、ステップS10でタイヤの加速度の計測データを取得したが、上述のように接地状態として、例えば、変形量(変位データ)が得られれば、各タイヤの加速度の計測データに限定されるものではない。例えば、タイヤのひずみデータを取得してもよい。この場合、タイヤ接地部分の変形量は、タイヤ周方向ひずみデータ及びタイヤ幅方向ひずみデータを用いることができる。
【0084】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明のタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0085】
10 タイヤ管理装置
12 車両
13a、13b、13c、13d 車輪
14、14a、14b、14c、14d タイヤ
15、15a、15b、15c、15d センサユニット
16 加速度センサ
17 送信機
20 データ処理ユニット
21 受信機
22 増幅器
23 処理ユニット
24 CPU
25 メモリ
26 ディスプレイ
30 タイヤ加速度データ取得部
31 信号処理部
32 接地状態導出部
33 特徴量導出部
34 モデル作成部
35 判定部
36 通知部
37 出力処理部
40、40a、41、41a、42、42a、43、43a、44 変形量データ
44a、45、45a、46、46a、47、47a 変形量データ
50 平面
α 角度
φ 回転角