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特開2024-111698栽培ベッド及び栽培装置、並びに栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111698
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】栽培ベッド及び栽培装置、並びに栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/02 20180101AFI20240809BHJP
【FI】
A01G9/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016348
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】523042031
【氏名又は名称】株式会社アグリテックプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 光樹
【テーマコード(参考)】
2B327
【Fターム(参考)】
2B327NC02
2B327NC24
2B327NC37
2B327NE01
2B327QA05
2B327QB03
2B327QD10
2B327TA04
2B327TA09
2B327TA19
2B327TA27
2B327UA04
2B327UA08
2B327UA14
2B327UA21
(57)【要約】
【課題】ポット耕栽培において、作物の収量を高める。
【解決手段】作物Aの栽培に用いる栽培ベッド1であり、作物Aの苗を植えた培地Bを収容した育成用ポットPを収容保持する本体2と、本体2の長手方向の両端部に設けた止水体3とを備える。本体2は、隣接又は近接させた状態の複数のポットPを2列に並べて収容する。本体2は、底壁4、底壁4の短手方向の両端部から立起して短手方向の外方へ上広がり傾斜する一対の側壁5,6、底壁4の短手方向の中央部に位置して底壁4の長手方向に延びる突条7を有する。ポットPの側面が本体2の側壁5,6の内面又は前記内面を被覆した被覆材Mに当接又は近接し、ポットPの底面が突条7の上面又は前記上面を被覆した被覆材Mに当接する。ポットPの底面と底壁4の上面との間には横樋状の空間Gがあり、培養液Cが貯留している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物の栽培に用いる栽培ベッドであって、
前記作物の苗を植えた培地を収容した育成用ポットを収容して保持する本体と、
前記本体の長手方向の両端部に設けた止水体と、
を備え、
前記本体は、隣接又は近接させた状態の複数の前記育成用ポットを2列に並べて収容可能であり、
前記本体は、底壁、及び前記底壁の短手方向の両端部から立起し、上方へ行くにしたがって前記短手方向の距離が漸増するように傾斜する一対の側壁、並びに、前記底壁の短手方向の中央部に位置して前記底壁の長手方向に延びる突条を有し、
前記育成用ポットの側面が、前記本体の前記側壁の内面又は前記内面を被覆した被覆材に当接又は近接し、
前記育成用ポットの底面が、前記本体の前記突条の上面又は前記上面を被覆した被覆材に当接し、
前記育成用ポットの底面と前記本体の前記底壁の上面との間には横樋状の空間がある、
栽培ベッド。
【請求項2】
前記本体は、
複数の分割体を前記本体の長手方向に連結して形成された連結体であり、
前記複数の分割体は、
前記底壁、前記側壁、及び前記突条を有するとともに、前記分割体の長手方向の両端部の内面に前記止水体を取り付けるための溝部が形成された、同一形状のものである、
請求項1に記載の栽培ベッド。
【請求項3】
前記止水体には、前記本体の長手方向に連通する通孔が所定の高さにある、
請求項1に記載の栽培ベッド。
【請求項4】
前記本体は、発泡合成樹脂製である、
請求項1又は2に記載の栽培ベッド。
【請求項5】
前記本体は、発泡ポリスチレン系樹脂製である、
請求項4に記載の栽培ベッド。
【請求項6】
作物の栽培に用いる栽培装置であって、
支持架台と、
前記支持架台により支持された栽培ベッドと、
前記栽培ベッドの上側に収容された、前記作物の苗を植えた培地を収容した育成用ポットと、
前記育成用ポットの上方から培養液を供給する給液手段と、
を備え、
前記栽培ベッドは、
前記育成用ポットを収容して保持する本体と、
前記本体の長手方向の両端部に設けた止水体と、
を備え、
前記本体は、隣接又は近接させた状態の複数の前記育成用ポットを2列に並べて収容可能であり、
前記本体は、底壁、及び前記底壁の短手方向の両端部から立起し、上方へ行くにしたがって前記短手方向の距離が漸増するように傾斜する一対の側壁、並びに、前記底壁の短手方向の中央部に位置して前記底壁の長手方向に延びる突条を有し、
前記育成用ポットは、
上方へ行くにしたがって拡径する略逆四角錐台状を成すとともに、
底部には排水口があり、
前記育成用ポットの側面が、前記本体の前記側壁の内面又は前記内面を被覆した被覆材に当接又は近接し、
前記育成用ポットの底面が、前記本体の前記突条の上面又は前記上面を被覆した被覆材に当接し、
前記育成用ポットの底面と前記本体の前記底壁の上面との間にある横樋状の空間には前記培養液が貯留している、
栽培装置。
【請求項7】
略逆四角錐台状の前記育成用ポットは、スリットポットである、
請求項6に記載の栽培装置。
【請求項8】
前記スリットポットのサイズは5号である、
請求項7に記載の栽培装置。
【請求項9】
作物の栽培方法であって、
請求項6に記載の栽培装置を用い、
前記栽培ベッドの上側に収容された、前記作物の苗を植えた培地を収容した育成用ポットに対して、
前記育成用ポットの上方から培養液を供給して前記培地に前記培養液を吸収させることで、前記苗の根に前記培養液を吸収させるとともに、
前記培地が吸収しきれない余剰の前記培養液を前記育成用ポットの排水口を通して前記横樋状の空間に貯留させることで、前記排水口を通って前記育成用ポットの底部から露出して前記空間内に延びた前記苗の根に前記培養液を吸収させることにより、
前記作物を育成する工程と、
前記作物の収量が低下した前記育成用ポットを、順次前記栽培用ベッドの本体から取り出す工程と、
前記育成用ポットを取り出した箇所の前記本体上に、順次新しい苗を植えた培地を収容した別の育成用ポットを載せる工程と、
を繰り返しながら前記作物の育成を継続する、
栽培方法。
【請求項10】
前記作物は、果菜類、葉菜類、又は花木鉢物である、
請求項9に記載の栽培方法。
【請求項11】
前記果菜類は苺である、
請求項10に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の栽培に用いる栽培ベッド、及び前記栽培ベッドを備えた栽培装置、並びに、前記作物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養液栽培の方式の一つとして、水に肥料を溶かした液状肥料(培養液)を含んだ培地に作物を定植する栽培方法がある。培地としては土や固形培地、その他があるが、培地自体が養分や水分を吸収する緩衝能を持っているので作物を育てやすいこと等のメリットがある反面、前記緩衝能により細かなコントロールができないというデメリットもある。
【0003】
前記栽培方法においては、作物に吸収されなかった余剰培養液をそのまま廃棄するものが多く(例えば、特許文献1参照)、余剰培養液を集めて循環させるものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-141869号公報
【特許文献2】特許第5591521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記栽培方法で用いる培地の多くは土壌よりも透水性が良好であり、培地を構成する粒子間隙や粒子内部にゆるやかに水分を保持しているので、作物が利用できる水分量が多い。しかしながら、育成用ポット(以下、単に「ポット」と略称することがある)内に収容した培地の量で保水量が定まり、ポット内の作物はポット内の培地に供給される培養液を吸水し、過剰の培養液はポット外へ排水される。この排水により、一株あたりの吸水量が制限されることも起きうることから、生育も制限される場合があり、作物の収量にも影響することがある。このような現象は、植栽密度を大きくした場合に特に顕著になる。
【0006】
一方、固形培地ではなく土を培地に用いる養液土耕による作物の栽培は、土耕栽培の作物の品質や味を担保しつつ、養液栽培の灌水システムで水と肥料を供給することにより、作物の栽培管理を簡略化できる。
【0007】
本発明は、固形培地や土等の培地を用い、育成用ポットを使用して行う作物の栽培(いわゆるポット耕栽培)において、作物の収量を高めることができる栽培ベッド及び栽培装置、並びに栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1観点に係る栽培ベッドは、作物の栽培に用いる栽培ベッドであって、前記作物の苗を植えた培地を収容した育成用ポットを収容して保持する本体と、前記本体の長手方向の両端部に設けた止水体とを備える。前記本体は、隣接又は近接させた状態の複数の前記育成用ポットを2列に並べて収容可能である。前記本体は、底壁、及び前記底壁の短手方向の両端部から立起し、上方へ行くにしたがって前記短手方向の距離が漸増するように傾斜する一対の側壁、並びに、前記底壁の短手方向の中央部に位置して前記底壁の長手方向に延びる突条を有する。前記育成用ポットの側面が、前記本体の前記側壁の内面又は前記内面を被覆した被覆材に当接又は近接し、前記育成用ポットの底面が、前記本体の前記突条の上面又は前記上面を被覆した被覆材に当接する。前記育成用ポットの底面と前記本体の前記底壁の上面との間には横樋状の空間がある。
【0009】
このような第1観点に係る栽培ベッドの構成によれば、前記栽培ベッドの本体は、隣接又は近接させた状態の複数の前記育成用ポットを2列に並べて収容可能である。前記ポットは、金型で成形する都合上、上方へ行くにしたがって拡径する形状を成す。
【0010】
前記本体の一対の側壁は、その短手方向の距離が上方へ行くにしたがって増加するように傾斜しており、すなわち、前記側壁は短手方向の外方へ上広がり傾斜している。そして、前記本体の底壁の短手方向の中央部には突条がある。そのため、前記ポットの底面を前記突条の上面又は前記上面を被覆した被覆材に当接させるとともに、上方へ行くにしたがって拡径する前記ポットの側面を前記側壁の内面又は前記内面を被覆した被覆材に当接又は近接させ、2列に並べた前記ポットを収容するスペース効率を高めた状態で、前記ポットを前記本体の上に収容して保持できる。
【0011】
したがって、栽培ベッドがコンパクトになるので、作物の栽培を行う土地を有効活用できる。その上、前記側壁が通路側へ上広がり傾斜していることから、前記底壁の短手方向の中央部にある突条に底面の一部が載った前記ポットも通路側へ傾斜するので、前記本体へ前記ポットを載せる作業、及び前記本体から前記ポットを取り出す作業がしやすくなる。
【0012】
前記栽培ベッドが、前記ポットを収容して保持する本体と前記本体の長手方向の両端部に設けた止水体とを備えるとともに、前記ポットの底面と前記本体の前記底壁の上面との間には横樋状の空間がある。そのため、前記栽培ベッドを用いたポット耕栽培において、作物の苗を植えた培地に吸収され保持された以外の培養液は、前記ポットの底部の排水口から排水され、前記横樋状の空間に貯留する。したがって、前記ポット内の苗の根は、前記ポットの排水口を通って前記横樋状の空間に貯留している培養液内に延びるので、当該培養液から養分及び水分を吸収できる。
【0013】
すなわち、前記ポットの底部から露出した根が前記横樋状の空間に貯留している培養液から養分及び水分を吸収するので、前記ポット内の作物の苗にとって前記ポット内の培地だけでは不足する養分及び水分を十分に補完できる。したがって、前記ポット内の作物の生育に必要な養分及び水分が常に満たされ、作物は大きく生育するので、作物の収量を高めることができる。このような特長により、一つの前記ポット内に複数の株を植え付けて植栽密度を大きくした場合であっても、各株の吸水量を充分に補うことができるので、作物の収量を増やすことができる。
【0014】
本発明の第2観点に係る栽培ベッドは、第1観点に係る栽培ベッドにおいて、前記本体は、複数の分割体を前記本体の長手方向に連結して形成された連結体である。前記複数の分割体は、前記底壁、前記側壁、及び前記突条を有するとともに、前記分割体の長手方向の両端部の内面に前記止水体を取り付けるための溝部が形成された、同一形状のものである。
【0015】
このような第2観点に係る栽培ベッドの構成によれば、栽培ベッドの本体が複数の分割体により構成されるので、前記本体の運搬及び保管が容易になる。その上、前記複数の分割体は同一形状であることから、小形の成形金型で成形できるので、金型費を低減できる。
【0016】
本発明の第3観点に係る栽培ベッドは、第1観点に係る栽培ベッドにおいて、前記止水体には、前記本体の長手方向に連通する通孔が所定の高さにある。
【0017】
このような第3観点に係る栽培ベッドの構成によれば、止水体の通孔から培養液がオーバーフローするので、前記通孔の位置を変えた前記止水体を用いることにより、栽培ベッドの本体上に貯留させる培養液の液面の高さを容易に調整できる。
【0018】
本発明の第4観点に係る栽培ベッドは、第1観点又は第2観点に係る栽培ベッドにおいて、前記本体は、発泡合成樹脂製である。本発明の第5観点に係る栽培ベッドは、第4観点に係る栽培ベッドにおいて、前記本体は、発泡ポリスチレン系樹脂製である。
【0019】
このような第4観点及び第5観点に係る栽培ベッドの構成によれば、本体が軽量であるので取り扱いが容易であるとともに、断熱性に優れるので保温性が高い。特に発泡ポリスチレン系樹脂製の本体にすることにより、製造コストを低減できる。
【0020】
本発明の第6観点に係る栽培装置は、作物の栽培に用いる栽培装置であって、支持架台と、前記支持架台により支持された栽培ベッドと、前記栽培ベッドの上側に収容された、前記作物の苗を植えた培地を収容した育成用ポットと、前記育成用ポットの上方から培養液を供給する給液手段とを備える。前記栽培ベッドは、前記育成用ポットを収容して保持する本体と、前記本体の長手方向の両端部に設けた止水体とを備える。前記本体は、隣接又は近接させた状態の複数の前記育成用ポットを2列に並べて収容可能である。前記本体は、底壁、及び前記底壁の短手方向の両端部から立起し、上方へ行くにしたがって前記短手方向の距離が漸増するように傾斜する一対の側壁、並びに、前記底壁の短手方向の中央部に位置して前記底壁の長手方向に延びる突条を有する。前記育成用ポットは、上方へ行くにしたがって拡径する略逆四角錐台状を成すとともに、底部には排水口がある。前記育成用ポットの側面が、前記本体の前記側壁の内面又は前記内面を被覆した被覆材に当接又は近接し、前記育成用ポットの底面が、前記本体の前記突条の上面又は前記上面を被覆した被覆材に当接する。前記育成用ポットの底面と前記本体の前記底壁の上面との間にある横樋状の空間には前記培養液が貯留している。
【0021】
このような第6観点に係る栽培装置の構成によれば、前記栽培ベッドの本体は、隣接又は近接させた状態の複数の前記育成用ポットを2列に並べて収容可能である。前記ポットは、下方へ行くにしたがって縮径する略逆四角錐台状を成す。
【0022】
前記本体の一対の側壁は、その短手方向の距離が上方へ行くにしたがって増加するように傾斜しており、すなわち、前記側壁は短手方向の外方へ上広がり傾斜している。そして、前記本体の底壁の短手方向の中央部には突条がある。そのため、前記ポットの底面を前記突条の上面又は前記上面を被覆した被覆材に当接させるとともに、前記略逆四角錐台状のポットの側面を前記側壁の内面又は前記内面を被覆した被覆材に当接又は近接させ、2列に並べた前記ポットを収容するスペース効率を高めた状態で、前記ポットを前記本体の上に収容して保持できる。
【0023】
したがって、栽培ベッドには多数の前記ポットが収容できることに加えて、支持架台上に多段に栽培ベッドを載置できることから、極めてコンパクトに密度高くできるので、作物の栽培を行う土地を有効活用できる。その上、前記側壁が通路側へ上広がり傾斜していることから、前記底壁の短手方向の中央部にある突条に底面の一部が載った前記ポットも通路側へ傾斜するので、前記本体へ前記ポットを載せる作業、及び前記本体から前記ポットを取り出す作業がしやすくなる。
【0024】
前記ポットが、前記略逆四角錐台状を成すことから、前記本体上に2列に並列配置した状態で前記ポットを密接させて配置することで相互の隙間を減少させ得て、それら前記ポット内の培地の量を最大化でき全体としての保水量を大きくできる。前記栽培ベッドが、前記ポットを収容して保持する本体と前記本体の長手方向の両端部に設けた止水体とを備えるとともに、前記ポットの底面と前記本体の前記底壁の上面との間には横樋状の空間がある。そのため、前記栽培装置を用いたポット耕栽培において、前記ポットの上方の給液手段から供給された培養液は、前記ポット内の保水量が大きい培地に灌水され、前記ポットの排水口から排出された余剰培養液は前記横樋状の空間に貯留される。したがって、前記ポット内の苗の根は、前記ポットの排水口を通って前記横樋状の空間に貯留している培養液内に延びるので、当該培養液から養分及び水分を吸収できる。
【0025】
すなわち、前記ポットの底部から露出した根が前記横樋状の空間に貯留している培養液から養分及び水分を吸収するので、前記ポット内の作物の苗にとって前記ポット内の培地だけでは不足する養分及び水分を十分に補完できる。したがって、前記ポット内の作物の生育に必要な養分及び水分が常に満たされ、作物は大きく生育するので、作物の収量を高めることができる。このような特長により、一つの前記ポット内に複数の株を植え付けて植栽密度を大きくした場合であっても、各株の吸水量を十分に補うことができるので、作物の収量を増やすことができる。
【0026】
本発明の第7観点に係る栽培装置は、第6観点に係る栽培装置において、略逆四角錐台状の前記育成用ポットは、スリットポットである。
【0027】
このような第7観点に係る栽培装置の構成によれば、育成用ポットとしてスリットポットを用いることにより、作物の根が前記ポット内をらせん状に回りながら伸びてしまうサークリング現象を抑制し、たくさん出た短い根が前記排水口であるスリットを通って前記横樋状の空間に貯留している培養液内に延びるので、当該培養液から養分及び水分をより効果的に吸収できる。
【0028】
本発明の第8観点に係る栽培装置は、第7観点に係る栽培装置において、前記スリットポットのサイズは5号である。
【0029】
このような第8観点に係る栽培装置の構成によれば、前記スリットポットのサイズが5号であるので、高さが20cm程度である高さが高いものでも容量が3L程度になる。したがって、所要の培地を充填した状態の前記ポットの重量が重過ぎず、前記ポットの取り扱いが容易であるので、前記本体へ前記ポットを載せる作業、及び前記本体から前記ポットを取り出す作業の作業性が高くなる。
【0030】
本発明の第9観点に係る栽培方法は、作物の栽培方法であって、第6観点の栽培装置を用いる。前記栽培ベッドの上側に収容された、前記作物の苗を植えた培地を収容した育成用ポットに対して、前記育成用ポットの上方から培養液を供給して前記培地に前記培養液を吸収させることで、前記苗の根に前記培養液を吸収させるとともに、前記培地が吸収しきれない余剰の前記培養液を前記育成用ポットの排水口を通して前記横樋状の空間に貯留させることで、前記排水口を通って前記育成用ポットの底部から露出して前記空間内に延びた前記苗の根に前記培養液を吸収させることにより、前記作物を育成する工程と、前記作物の収量が低下した前記育成用ポットを、順次前記栽培用ベッドの本体から取り出す工程と、前記育成用ポットを取り出した箇所の前記本体上に、順次新しい苗を植えた培地を収容した別の育成用ポットを載せる工程と、を繰り返しながら前記作物の育成を継続する。
【0031】
本発明の第10観点に係る栽培方法は、第9観点に係る栽培方法において、前記作物は、果菜類、葉菜類、又は花木鉢物である。本発明の第11観点に係る栽培方法は、第10観点に係る栽培方法において、前記果菜類は苺である。
【0032】
これらのような第9観点ないし第11観点に係る栽培方法によれば、第6観点の栽培装置と同様の作用効果を奏し、前記作物の栽培を、収量を高めながら継続して行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の栽培ベッド及び栽培装置、並びに栽培方法によれば、ポット耕栽培において、育成用ポットの底部から露出した根が栽培ベッドの上の横樋状の空間に貯留している培養液から養分及び水分を吸収するので、育成用ポット内の作物の苗にとってポット内の培地だけでは不足する養分及び水分を十分に補完できる。したがって、育成用ポット内の作物の生育に必要な養分及び水分が常に満たされ、作物は大きく生育するので、作物の収量を高めることができる。このような特長により、一つの育成用ポット内に複数の株を植え付けて植栽密度を大きくした場合であっても、各株の吸水量を十分に補うことができるので、作物の収量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施の形態に係る栽培装置を長手方向から見た部分縦断面図である。
図2図1の最上段の栽培ベッドの要部拡大図である。
図3】栽培ベッド及び育成用ポットのみを示す部分縦断面図である。
図4】栽培ベッド及び育成用ポットのみを示す斜視図である。
図5】栽培ベッドの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
本明細書において、栽培ベッド1及びその本体2について、長手方向(例えば、図4の矢印L参照)、及び短手方向(例えば、図4の矢印S)を定義する。
【0037】
<栽培装置>
図1に示すように、栽培装置10は、固形培地や土等の培地Bを用い、育成用ポットPを使用して行う作物Aの栽培に用いるものである。作物Aは、例えば、本発明に好適な苺であるが、トマト等の他の果菜類であってもよく、葉菜類、又は花木鉢物等であってもよい。
【0038】
栽培装置10は、支持架台Fを備える。支持架台Fは、パイプ等を、上下方向、長手方向L及び短手方向Sに組み合わせたものであり、短手方向Sに離間する縦杆I、縦杆Iを繋ぐ横杆J、横杆J上に固定されて長手方向に延びる支持杆K等からなる。
【0039】
栽培装置10は、支持架台Fの支持杆Kにより支持された、例えば、上下3段の栽培ベッド1を備える。上段及び中段の栽培ベッド1上には、ポットPが載置され、下段の栽培ベッド1には、育苗トレイTが載置される。育苗トレイT内の培地に作物Aの種を蒔き、発芽後ある程度の大きさになった苗UをポットP内の培地Bに移植し、ポットP内で作物Aを生育させる。なお、図1において、上段及び中段の栽培ベッド1内の作物Aは、ある程度生育した状態を示している。培地Bとしては、例えば、ロックウール、ピートモス、バーミキュライト、ココヤシ等の公知の固形培地を採用でき、また土も使用できる。更に、固形培地と土を所定量混合して使用することもできる。栽培する作物Aの種類等により最適な培地を適宜選択して使用すればよい。よって、栽培方法について種々の実施態様が採用可能である。
【0040】
上下多段に栽培ベッド1を設置することにより、ポットPを別の段のポットPに置換することで上下の株の差し替えが容易になるとともに、上下で別の作物を同時又は時期をずらして生産すること等も容易になるので、栽培装置10の利用範囲を広げることができる。
【0041】
ポットP及びトレイTは、金型で成形する都合上、上方へ行くにしたがって拡径する形状を成し、底部には排水口がある。なお、ポットPには、底部の排水口に加え、側壁に排水口を設けてもよい。本実施の形態におけるポットPは、上方へ行くにしたがって拡径する略逆四角錐台状を成すものであり、例えばスリットポットであるので、底部及び側壁にスリット状の排水口がある。
【0042】
ポットPのサイズは、5号であるのが好ましい実施態様である。それにより、高さが20cm程度である高さが高いものであっても容量が3L程度に抑えられる。したがって、所要の培地Bを充填した状態のポットPの重量が重過ぎず、ポットPの取り扱いが容易であるので、本体2へポットPを載せる作業、及び本体2からポットPを取り出す作業の作業性が高くなる。
【0043】
栽培装置10は、給液手段Hである、散水孔を有する点滴灌水チューブ11,12,13を備える。点滴灌水チューブ11,12,13は、フレキシブルであり、自由に移動させることができるので、本体2へポットP又はトレイTを載せる作業、及び本体2からポットP又はトレイTを取り出す作業の邪魔にならない。
【0044】
点滴灌水チューブ11は上段のポットPの上方から培養液Cを供給し、点滴灌水チューブ12は中段のポットPの上方から培養液Cを供給し、点滴灌水チューブ13は下段の育苗トレイTの上方から培養液Cを供給する。給液手段Hは、図1のような2ラインでなくてもよく、1ライン又は3ライン以上であってもよい。
【0045】
給液手段Hから供給された培養液Cは、栽培ベッド1上に貯留され、栽培ベッド1の長手方向Lの両端部の止水体3の通孔3A(図4参照)からオーバーフローする。通孔3Aからオーバーフローした培養液Cは、樋で受けて回収、又は通孔3Aに接続した排水パイプにより回収し、再利用する。
【0046】
止水体3の通孔3Aからオーバーフローした培養液Cを回収する方法とは別に、あるいは、止水体3の通孔3Aからオーバーフローした培養液Cを回収する方法に加えて、図2及び図5に示す栽培ベッド1の本体2の突条7に上下に貫通する排水孔を設け、前記排水孔に接続した排水パイプから培養液Cを回収するようにしてもよい。
【0047】
前記排水パイプは可撓性を持つものが好ましく、例えば図1に示す上下3段の栽培ベッド1では、前記排水パイプ内の培養液Cを、上段の栽培ベッド1から中段の栽培ベッド1へ供給し、中段の栽培ベッド1から中段の栽培ベッド1へ供給する。突条7に設けた排水孔に接続する排水パイプは、下段の栽培ベッド1に収容した育成用ポットP、作物A、及び苗Uに影響の少ない位置に適宜配置すればよい。前記排水孔は、止水栓等を用いて必要に応じて適宜封止、開栓できるので便利である。
【0048】
<栽培ベッド>
図2ないし図4に示すように、栽培ベッド1は、ポットPを収容して保持する本体2と、本体2の長手方向Lの両端部に設けた止水体3とを備える。本体2は、隣接又は近接させた状態の複数のポットPを2列に並べて収容可能である。ポットPが、上方へ行くにしたがって拡径する略逆四角錐台状を成すことから、図4のように本体2上に2列に並列配置した状態でポットPを密接させて配置することで相互の隙間を減少させ得て、それらポットP内の培地B(図2参照)の量を最大化でき全体としての保水量を大きくできる。
【0049】
栽培ベッド1の本体2上に2列に並列配置するポットPは、栽培ベッド1及び/又はポットPの大きさを変えることにより、隣り合うポットP同士の間隔を容易に調整できる。したがって、育成する作物Aの種類に応じて、適切な植栽密度にすることが容易になる。
【0050】
本体2は、底壁4、及び底壁4の短手方向Sの両端部から立起し、上方へ行くにしたがって短手方向Sの距離が漸増するように傾斜する一対の側壁5,6、並びに、底壁4の短手方向Sの中央部に位置して底壁4の長手方向に延びる突条7を有する。すなわち、図2及び図3に示すように、本体2の一対の側壁5,6は、短手方向Sの外方へ上広がり傾斜しているとともに、本体2の底壁4の短手方向Sの中央部には突条7がある。そのため、ポットPの底面Q2を突条7の上面7A又は上面7Aを被覆した被覆材Mに当接させるとともに、略逆四角錐台状のポットPの側面Q1を側壁5,6の内面5A,6A又は内面5A,6Aを被覆した被覆材Mに当接又は近接させ、2列に並べたポットPを収容するスペース効率を高めた状態で、ポットPを本体2の上に収容して保持できる。
【0051】
したがって、栽培ベッド1がコンパクトになるので、作物Aの栽培を行う土地を有効活用できる。その上、側壁5,6が通路側へ上広がり傾斜していることから、底壁4の短手方向Sの中央部にある突条7に底面Q2の一部が載ったポットPも通路側へ傾斜するので、本体2へポットPを載せる作業、及び本体2からポットPを取り出す作業がしやすくなる。
【0052】
止水体3には、本体2の長手方向Lに連通する通孔3Aが設けられる。通孔3Aの形状は丸でなくてもよく、長孔等であってもよい。通孔3Aの位置を変えた止水体3を用いることにより、栽培ベッド1の本体2上に貯留させる培養液Cの液面の高さを容易に調整できる。本体2上に貯留させる培養液Cの液面の高さは、作物Aの種類によって適宜選択する。
【0053】
図4及び図5に示すように、本体2は、複数の分割体Dを本体2の長手方向Lに連結して形成された連結体Eである。図4及び図5の例では、2個の分割体Dを連結して連結体E(本体2)を形成しているが、3個以上の分割体Dを連結して連絡体E(本体2)としてもよい。
【0054】
複数の分割体Dは同一形状であり、底壁4、側壁5,6、及び突条7を有するとともに、長手方向Lの両端部の内面に止水体3を取り付けるための溝部8,9が形成される。分割体Dの長手方向Lの一端部及び他端部に、凹凸嵌合による位置決め用の凹部N及び凸部Oが形成される。
【0055】
栽培ベッド1の本体2を複数の分割体Dを連結してなる連結体Eとすることにより、本体2の運搬及び保管が容易になる。その上、複数の分割体Dは同一形状であることから、小形の成形金型で成形できるので、金型費を低減できる。
【0056】
本体2及び止水体3は、例えば、発泡ポリスチレン系樹脂、発泡ポリエチレン系樹脂、発泡ポリプロピレン系樹脂等の発泡ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン変性発泡ポリエチレン等のポリスチレン変性発泡ポリオレフィン系樹脂、硬質発泡ウレタン系樹脂等の発泡合成樹脂製であり、軽量であるので取り扱いが容易であるとともに、断熱性に優れるので保温性が高い。主にコスト面から、特に本体2は、発泡ポリスチレン系樹脂製にするのが好ましい実施形態である。
【0057】
本体2及び止水体3は、被覆材Mで覆う場合と、被覆材Mで覆わない場合がある。被覆材Mは、例えば、白黒マルチシートであり、白色を表面として光を反射させることで害虫の抑制及び光合成の促進をするとともに、防根シートとしても機能し、紫外線等で劣化する発泡合成樹脂製の本体2及び止水体3の耐候性を高める効果等もある。被覆材Mは、2液性ウレタンや2液性ポリウエア等の塗膜であってもよく、白黒マルチシートと同様の機能を有するとともに強度及び耐久性を大幅に向上できる。
【0058】
図3に示すように、ポットPの側面Q1は、本体2の側壁5,6の内面5A,6A又は内面5A,6Aを被覆した被覆材Mに当接又は近接する。ポットPの底面Q2は、本体2の突条7の上面7A又は上面7Aを被覆した被覆材Mに当接する。ポットPの底面Q2と本体2の底壁4の上面4Aとの間には、横樋状の空間Gがある。したがって、横樋状の空間Gには、図2に示すように培養液Cが貯留している。
【0059】
<栽培方法>
図1のような栽培装置10を用いたポット耕栽培による作物Aの栽培方法において、ポットPの上方の給液手段Hから供給された培養液Cは、ポットP内の保水量が大きい培地Bに灌水され、培地Bが吸収しきれない余剰の培養液CがポットPの排水口から排出され、横樋状の空間Gに培養液Cが貯留される。したがって、ポットP内の苗の根Rは、ポットPの排水口を通って横樋状の空間Gに貯留している培養液C内に延びるので、当該培養液Cから養分及び水分を吸収できる。
【0060】
すなわち、ポットPの底部から露出した根が横樋状の空間Gに貯留している培養液Cから養分及び水分を吸収するので、ポットP内の作物Aの苗にポットP内の培地Bだけでは不足する養分及び水分を十分に補完できる。したがって、ポットP内の作物Aの生育に必要な養分及び水分が常に満たされ、作物Aは大きく生育するので、作物Aの収量を高めることができる。このような特長により、一つのポットP内に複数の株を植え付けて植栽密度を大きくした場合であっても、各株の吸水量を充分に補うことができるので、作物Aの収量を増やすことができる。
【0061】
作物Aの収量が低下したポットPは、順次栽培用ベッド1の本体2から取り出し、ポットPを取り出した箇所の本体2上に、順次新しい苗Uを植えた培地Bを収容した別の育成用ポットPを載せる。このような工程を繰り返しながら作物Aの育成を継続する。
【0062】
図1のような栽培装置10を用いることにより、栽培ベッド1には多数のポットPが収容できることに加えて、支持架台F上に多段に栽培ベッド1を載置できることから、極めてコンパクトに密度高くできるので、作物Aの栽培を行う土地を一層有効に活用できる。
【0063】
ポットPとして底部及び側壁にスリット状の排水口を有するスリットポットを用いることにより、作物Aの根RがポットP内をらせん状に回りながら伸びてしまうサークリング現象を抑制し、たくさん出た短い根Rが前記排水口であるスリットを通って横樋状の空間Gに貯留している培養液C内に延びるので、当該培養液から養分及び水分をより効果的に吸収できるので好ましい。
【0064】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0065】
1 栽培ベッド
2 本体
3 止水体
3A 通孔
4 底壁
4A 上面
5,6 側壁
5A,6A 内面
7 突条
7A 上面
8,9 溝部
10 栽培装置
11,12,13 点滴灌水チューブ
A 作物
B 培地
C 培養液
D 分割体
E 連結体
F 支持架台
G 横樋状の空間
H 給液手段
I 縦杆
J 横杆
K 支持杆
L 長手方向
M 被覆材
N 凹部
O 凸部
P 育成用ポット
Q1 育成用ポットの側面
Q2 育成用ポットの底面
R 根
S 短手方向
T 育苗トレイ
U 苗
図1
図2
図3
図4
図5