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特開2024-111712甘く香ばしい香りを有する茶葉の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111712
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】甘く香ばしい香りを有する茶葉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/14 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
A23F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016380
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】浜場 大周
(72)【発明者】
【氏名】小山内 泰亮
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB01
4B027FB13
4B027FC01
4B027FP57
4B027FP85
4B027FP90
(57)【要約】
【課題】本発明は、甘く香ばしい香りを有する茶葉の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】茶葉の製造において、秋冬番茶の葉を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を実施する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
秋冬番茶の葉を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を含む、茶葉の製造方法。
【請求項2】
加熱の方法が焙煎である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
秋冬番茶の葉を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を含む、茶葉の甘く香ばしい香りを増強する方法。
【請求項4】
加熱の方法が焙煎である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は茶葉の製造方法に関し、より具体的には、甘く香ばしい香りを有する茶葉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶葉を加工して得られる茶飲料は、日本のみならず世界中で幅広く飲用されている。茶飲料は、ペットボトルや缶などの容器に殺菌充填された容器詰め飲料として販売されていたり、或いは、乾燥及び粉末化をして粉体の形態にし、水や湯などで溶解して飲用するものとして販売されていたりする。水や湯を利用して飲用する粉末状の茶としては、大きく分けて二種類の形態があり、一つは茶葉の抽出液を乾燥して得られるインスタント茶であり、もう一つは茶葉をそのまま粉砕して得られる粉末茶である。
【0003】
人々は茶飲料を飲むことでリラックスしたいとの欲求もあることから、香味面においては甘く香ばしい香りが求められている。茶飲料において甘さと香ばしさを付与する方法としては、例えば、抹茶含有飲料に対して、従来にない抹茶独自の爽快な苦味、甘さ、及び香ばしさのある豊かな風味を付与する風味改善剤が知られている(特許文献1)。また、麦茶飲料に対して甘味と香ばしさを付与する技術も知られている(特許文献2、3)。また、碾茶に特有の甘香ばしさを付香する方法も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-79668号公報
【特許文献2】特開2018-174743号公報
【特許文献3】特開2012-170375号公報
【特許文献4】特開2013-223441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、茶飲料に対して甘さや香ばしさを付与する方法はこれまでにいくつかのものが報告されており、茶飲料の分野ではそのような甘さや香ばしさの付与方法について更なる技術が求められている。一般に、緑茶茶葉において焙煎工程を経ることで香ばしい香りが生成されることは知られているが、カラメル様の甘く香ばしい香りが強く感じられる茶葉の製造技術は従来見られていない。そこで、本発明は、甘く香ばしい香りを有する茶葉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者らは研究開発を進める中で、甘く香ばしい香りの指標成分となる物質を特定し、当該成分の量が最大化する条件について検討を行った。その結果、品質が高いと通常言われている一番茶ではなく、驚くべきことに、摘採時期が遅く、一般的には下級茶とされている秋冬番茶を原料として使用し、そして、所定の温度及び時間の条件下で焙煎処理を行うことによって、甘く香ばしい香りが生成することを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下に関する。
(1)秋冬番茶の葉を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を含む、茶葉の製造方法。
(2)加熱の方法が焙煎である、(1)に記載の方法。
(3)秋冬番茶の葉を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を含む、茶葉の甘く香ばしい香りを増強する方法。
(4)加熱の方法が焙煎である、(3)に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、甘く香ばしい香りを有する茶葉の製造方法を提供することができる。本発明の製造方法により得られた茶葉を用いることによって、甘く香ばしい香りを有する茶飲料を提供することができる。
【0009】
また、本発明の方法により製造された茶葉を利用すれば、甘く香ばしい香りをもたらす固形組成物も提供することができる。当該固形組成物は、水又は湯を用いて茶飲料とすることができ、茶飲料の飲用時に甘く香ばしい香りをもたらすことができる。また、当該固形組成物は、食品の原料としても利用することができ、例えば、ケーキ、カステラ、キャンディー、クッキー、ゼリー、プリン、チョコレート等の菓子類に対して、茶由来の甘く香ばしい香りを付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の固形組成物について、以下に説明する。なお、特に断りがない限り、本明細書において用いられる「ppm」、「ppb」、及び「重量%」は、重量/重量(w/w)のppm、ppb、及び重量%をそれぞれ意味する。
【0011】
本発明の一態様は、秋冬番茶の葉を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を含む、茶葉の製造方法である。かかる構成を採用して茶葉を製造することにより、甘く香ばしい香りを呈する茶葉を得ることができる。本明細書において、茶葉から呈される甘く香ばしい香りは、茶飲料の分野における「火香」とも称される。
【0012】
本発明において、原料となる茶葉は、ツバキ科ツバキ属の植物(Camellia sinensis (L) O. Kuntzeなど)から得られる葉などを用いることができる。本発明で使用される茶葉は、加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に分類することができる。不発酵茶としては、例えば、荒茶、煎茶、玉露、かぶせ茶、碾茶、番茶、ほうじ茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶が挙げられる。半発酵茶としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、岩茶等の烏龍茶が挙げられる。発酵茶としては、例えば、ダージリン、アッサム、キームン、ウヴァ等の紅茶が挙げられる。本発明において茶葉は、1種のみを単独で使用してもよいし、複数種類の茶葉をブレンドして使用してもよい。本発明において、不発酵茶(緑茶)は、カラメル様の甘く香ばしい香りの増強効果を顕著に発現することから、本発明の好ましい態様の一つである。
【0013】
緑茶に関して、品種としては、例えば、やぶきた、ゆたかみどり、おくみどり、さやまかおり、かなやみどり、さえみどり、あさのか、あさつゆ等が挙げられる。また、産地としては、例えば、静岡県、鹿児島県、三重県、熊本県、福岡県、京都府、宮崎県、埼玉県等が挙げられる。本発明においては、緑茶の品種も産地も特に限定されるわけではない。また、本発明で用いられる緑茶の品種や産地は1種類に限定されるものではなく、品種や産地の異なる2種類以上の緑茶を混合した茶葉を用いてもよい。
【0014】
本発明で用いられる茶葉の摘採は、通常実施されている態様でよい。摘採方法としては、手摘み、鋏摘み、機械摘みなどその方法には限定されず、いずれの方法でもよい。
【0015】
茶葉の中でも特に生葉の加工品である荒茶については、茶葉の収穫期(茶期)の間で、茶葉中のアミノ酸濃度が一番茶において最も高く、二番茶は一番茶より少なく、三番茶は二番茶より少ないことが一般に知られている。そのような中で、本発明では、茶葉の収穫期として秋冬番茶が用いられる。秋冬番茶は、日本国内の秋季から初冬にかけて摘採される茶葉であり、例えば、9月下旬から10月中旬にかけて摘採される茶葉を用いることができる。また、秋冬番茶は、秋芽の生育が停止した時期の秋から初冬にかけて一番茶の萌芽条件を良くする目的で整枝した茶葉を製茶したものであることが知られており、一般的には下級茶とされている(日本茶インストラクター講座、第1巻、2018、第174頁及び第183頁)。本発明では、特に限定されるわけではないが、近赤外線分光分析法により得られる茶葉の成分である全窒素(アミノ酸、アミド、蛋白質、カフェイン、核酸に由来する窒素の総量)の含量が、例えば4.0重量%以下、好ましくは3.8重量%以下、より好ましくは3.5重量%以下の茶葉を用いることができる。
【0016】
本発明において茶葉は、秋冬番茶の葉の部位が用いられる。使用する茶葉において葉の部位は、例えば50重量%以上含まれ、好ましくは70重量%以上含まれ、より好ましくは80重量%以上含まれ、さらに好ましくは90重量%以上含まれ、最も好ましくは100重量%含まれる。本発明で用いられる茶葉の形態は、大葉、粉状など、特に制限されない。
【0017】
本発明において、原料となる茶葉は、生葉を加工して得られた荒茶が好適に用いられる。荒茶は、通常、(i)茶葉の摘採、(ii)送風・加熱、(iii)蒸熱、(iv)冷却、(v)葉打ち、(vi)粗揉、(vii)揉稔、(viii)中揉、(ix)精揉、(x)乾燥といった工程を経て得られる。ここで、(ii)送風・加熱工程では、茶葉の品質劣化防止、鮮度維持のために、湿度の高い空気を送って、水分の保持と呼吸熱の低下を図り、(iii)蒸熱工程では、茶葉を蒸すことによって茶葉を酸化させる酸化酵素の働きを止め、茶葉の色を緑色に保たせながら青臭みが取り除かれる。(iv)冷却工程は、高温になった茶葉に風を送り込んで室温程度までムラのないように急速冷却することで、茶葉の色沢と香味の保持を図る工程であり、(v)葉打ち工程は、茶葉の色沢・香味の向上と次の粗揉工程の時間を短縮するために、乾燥した熱風を送り込んで茶葉を打ち、茶葉についた蒸し露を取り除いて乾燥効果を高める工程である。(vi)粗揉工程では、茶葉を揉むことによって柔らかくし、内部の水分を低下させるため乾燥した熱風を送り込みながら、打圧を加え、適度に摩擦・圧迫をしながら茶葉を揉み、(vii)揉稔工程では、茶葉をひとかたまりにして、加熱せずに強い圧力をかけて揉む(これによりお茶の葉の組織を破壊してお茶の旨みなどの成分を出やすくすると同時に、水分の均一化を図る)。さらに、(viii)中揉工程では、揉捻の工程でかたまりになった茶葉を乾燥した熱風を送りながら揉みほぐして次の工程で整形しやすいようにヨリを入れて乾燥させ、(ix)精揉工程では、茶葉を乾燥させて水分を取り除きながら、人の手で揉むように一定方向にだけ揉み、緑茶独自の細く伸びた形に茶葉が整えられ、最後に、(x)乾燥工程で、精揉工程を得た茶葉の水分含有量(約10~13%)を熱風乾燥により5%程度にまで下げる。
【0018】
上記の荒茶は、先火方式(火入れ乾燥をしてから分別・整形を行う方式)又は後火方式(分別・整形をしてから火入れ乾燥を行う方式)にて火入れ乾燥処理をして仕上げ茶とすることができる。荒茶から仕上げ茶を得る仕上げ加工は、通常、火入れ乾燥処理の他に、荒茶の篩い分け、大きい茶の切断、粉や木茎の分離、合組などの工程を含むが、本発明においてはその仕上げ加工方法には特に限定されない。本発明において、原料となる茶葉は、荒茶であってもよいし、仕上げ茶であってもよいが、荒茶であることが好ましい。
【0019】
本発明では、原料となる茶葉(秋冬番茶)に対して加熱処理が行われる。茶葉の加熱温度は、170℃以上であれば特に制限されないが、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、さらに好ましくは200℃以上又は210℃以上である。また、茶葉の加熱温度は、特に限定されないが、例えば300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下である。典型的には、茶葉の加熱温度は、例えば170~300℃、好ましくは190~280℃、より好ましくは200~260℃である。
【0020】
また、本発明において茶葉の加熱時間は、250秒以上であれば特に制限されないが、好ましくは270秒以上、より好ましくは290秒以上、さらに好ましくは310秒以上である。また、茶葉の加熱時間は、特に限定されないが、例えば700秒以下、好ましくは680秒以下、より好ましくは650秒以下である。典型的には、茶葉の加熱温度は、例えば250~700秒、好ましくは270~680秒、より好ましくは310~650秒である。
【0021】
本発明において加熱処理を行う装置は、特に制限されず用いることができる。例えば、直火方式、遠赤外線方式等いずれの方式の火入れ乾燥装置でもよく、その形状もドラム式、プレート式等問わない。ドラム式としては、加熱した胴を回転させながら茶葉を加熱する回転ドラム式火入れ機を利用することができる。その場合の回転数は特に制限されず、1秒間あたり、例えば1~6回転、好ましくは1.5~4回転、より好ましくは2~3.5回転とすることができる。本発明において、加熱工程を経て得られる茶葉の水分含量は、通常、5%以下であり、好ましくは1%以下程度である。
【0022】
本発明における加熱工程は、焙煎工程とすることができる。本発明において焙煎とは、加熱プロセスの一つで、熱媒体として油又は水を使わずに材料を加熱乾燥させることを意味する。焙煎処理を経て、茶葉の変色を促すことができる。焙煎工程を経て得られる茶葉の水分含量は、例えば5%以下であり、好ましくは1%以下程度である。
【0023】
本発明の方法により得られた茶葉は、通常の茶葉より高濃度でマルトールを含有することができる。マルトールは、茶葉の甘く香ばしい香りの指標成分となり得る。本発明の方法により得られた茶葉におけるマルトールの含有量は、茶葉1gあたり、例えば10~300μg、好ましくは15~250μg、より好ましくは20~250μgである。前記のマルトール含有量は、茶葉2gあたり150mLの湯(温度:80℃)を用いて2分間抽出処理を行った後、18.5メッシュのフィルターでろ過し、次いで140メッシュのフィルターでろ過することによって得られた茶葉抽出液に含まれるマルトールの量を、茶葉1gあたりの重量として換算した量である。
【0024】
本発明の方法により得られた茶葉は、茶飲料の原料とすることができる。かかる茶葉を用いることにより、甘く香ばしい香りが感じられる茶飲料を製造することができる。すなわち、本発明の一態様は、上述した本発明の方法により製造された茶葉を用いることを特徴とする、茶飲料の製造方法である。茶飲料を得る工程は一般的には、上記茶葉を加温水などの水で抽出する抽出工程、抽出液から抽出残渣を取り除く粗濾過工程、抽出液を冷却する冷却工程、抽出液から細かな固形分を取り除く濾過工程、抽出液に水や緑茶抽出物、酸化防止剤、pH調整剤などを加えて調合液を得る調合工程、調合液を殺菌する殺菌工程を含む。ただし、前記工程は本発明のあくまで一例であり、これに限定するものではなく、例えば、工程の順序を入れ替えたり、別工程を付加したりすることもできる。
【0025】
抽出工程及び/又は調合工程などの抽出工程以降の工程において、L-アスコルビン酸及び/又はその食品として許容される塩などの酸化防止剤や、炭酸水素ナトリウムなどのpH調整剤を添加してもよい。調合完了時におけるL-アスコルビン酸及び/又はその食品として許容される塩などの配合割合は、L-アスコルビン酸として0.01~0.08重量%程度、好ましくは、0.02~0.06重量%程度が望ましい。調合完了時における炭酸水素ナトリウムの配合割合は、調合完了時におけるpHが5.0~7.0程度になるよう配合量を調整するのが好ましい。
【0026】
上記により得られる茶調合液を用いて容器詰め茶飲料を調製することもできる。茶飲料を充填する容器としては、PETボトル、ガラス瓶、アルミ缶、スチール缶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。
【0027】
また、本発明の方法により得られた茶葉は、固形組成物の原料とすることができる。すなわち、本発明の別の一態様は、上述した本発明の方法により製造された茶葉を用いることを特徴とする、固形組成物の製造方法である。上記茶飲料の製造方法に準じて茶葉の抽出液を得て、濃縮工程や乾燥工程を経て固形組成物を製造することができる。茶葉抽出液の濃色処理は、例えば膜濃縮などを採用することができ、茶葉抽出液の乾燥処理は、当業者に公知のスプレードライ装置などを用いて行うことができる。濃縮工程又は乾燥工程を行う前には、デキストリン等の賦形剤を茶葉抽出液に添加する工程を実施することができる。このようにして得られた固形組成物は、飲食品への利用の点から粉末状態(すなわち、粉末組成物)であることが好ましい。
【0028】
ある態様では、本発明は、茶葉の甘く香ばしい香りを増強する方法である。より具体的には、本発明の一態様は、秋冬番茶を170℃以上の温度及び250秒以上の時間で加熱する工程を含む、茶葉の甘く香ばしい香りを増強する方法である。また、当該工程を経て得られる茶葉の抽出液は、茶飲料や固形組成物への添加剤、すなわち香気増強剤として添加する態様も包含している。
【0029】
本発明の甘く香ばしい香りの増強方法において用いられる茶葉や、加熱処理の温度及び時間、並びにその他の要素については、本発明の茶葉の製造方法に関して上記した通りであるか、それらから自明である。
【実施例0030】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
実験例1.茶期および茶葉の部位の検討
丸紅食料株式会社より入手した鹿児島県産の一番茶及び秋冬番茶について、それぞれ茎の部位と葉の部位とを原料とし、焙煎温度220℃、ドラム回転数3r/sec、焙煎時間6分間の条件で、ドラム式焙煎装置(横山製作所、DS-2型)を用いて焙煎処理を行った。使用した秋冬番茶の全窒素濃度は2.8~3.5%であった。
【0032】
焙煎処理を行った各茶葉サンプルを10g秤量し、それに対して300mLの水を加え、70℃及び5分間の条件で抽出処理を行って茶葉抽出液を作製した。抽出開始時、抽出開始2分後、および抽出開始4分後に、撹拌処理を30秒間行った。抽出処理後は、18.5メッシュのフィルターでろ過し、次いで140メッシュのフィルターでろ過した。
【0033】
得られた茶葉抽出液について、香味の評価に関して十分に訓練された2名のパネリストで官能評価を実施した。官能評価としては、茶葉抽出液において感じられるカラメル様の甘香ばしさについて、下記の基準で評価した。評価点は0.5刻みで点数付けを行い、最終的に評価点の平均値を算出した。なお、官能評価の結果について、各パネリストの評価点が1.5以上異なることはなかった。
1:甘香ばしい香りを感じない
2:甘香ばしい香りをほのかに感じる
3:甘香ばしい香りを少し感じる
4:甘香ばしい香りを感じる
5:甘香ばしい香りを強く感じる
【0034】
【表1】
【0035】
結果は上記の通りであり、一番茶と比較して秋冬番茶の方が甘く香ばしい香りが強く感じられた。また、秋冬番茶の部位に関して、葉と茎とでは葉の方が甘く香ばしい香りが強く感じられた。
【0036】
実験例2.マルトール濃度の検討
また、従来の茶葉製品の中で比較的甘い香りが感じられる市販のフレーバード茶(FIGUE GLACEE、OCHACCO)の芳香成分分析から、検出された成分のうちカラメル様の甘い香りに寄与する候補成分としてマルトールを推定した。そして、マルトール香料(標準品)を用いて、甘く香ばしい香りが感じられない緑茶抽出液の粉体物をベースに複数濃度の量で添加して香気特徴変化を調べたところ、目標とする茶葉に特徴的なカラメル様の甘さが向上することが確認できたため、甘く香ばしい香りの指標成分としてマルトールを特定した。そのため、上記の茶葉抽出液についてもマルトールの濃度を調べることとした。
【0037】
上記実験例1と同様にして焙煎処理を行った各茶葉サンプルを2g秤量し、それに対して150mLの水を加え、80℃及び2分間の条件で抽出処理を行って茶葉抽出液を作製した。抽出処理後は、18.5メッシュのフィルターでろ過し、次いで140メッシュのフィルターでろ過した。茶葉抽出液におけるマルトールの濃度は以下の通り測定した。
【0038】
<検量線>
対象とする芳香成分が10000ppmの濃度となるよう標準原液(エタノール溶媒)を作製し、それぞれの標準原液について純水で0.001、0.01、0.1、0.5、1.0ppmに調製した。各種調製液10mLを、塩化ナトリウム3gが入った20mL容量のバイアル瓶に投入して検量線サンプルとした。
【0039】
<分析サンプルの作製>
検量線の濃度範囲に入るように茶葉抽出液を純水で適宜希釈し、得られた溶液10mLと塩化ナトリウム3gとを20mL容量のバイアル瓶に投入し、分析サンプルを作製した。分析サンプルにおいては、10ppmに調製したボルネオール10μLを内部標準物質として添加した。
【0040】
<成分分析>
アジレント社製のガスクロマトグラフィー分析装置(GC/MS)を用いて、以下の通り茶葉抽出液におけるマルトールの濃度を測定した。
分析装置
装置:GC:Agilent Technologies 7890B GC
MS:Agilent Technologies 5977A
HS:Gestel MPS
前処理
装置:ゲステル社マエストロ4
メソッド:MVM (no3&FEDHS)
アジテーション温度:80 ℃, 30 min
チューブ:Tenax TA, Carbon bx1000
カラム
種類:Agilent 19091N-136I HP-INNOWax
長さ:60 m
内径:0.25 mm
膜厚:0.25 μm
分析条件
メソッド
ガス流量:54.1 mL/min(注入口のトータルフロー)
1.7 mL/min(カラム内 コンスタントフロー)
昇温パターン:初期温度70 ℃ (0 min) → 240 ℃まで5 ℃/min → ポストラン260 ℃, 10 min
スプリットレス
インジェクション量:0.2 μL
【0041】
マルトール濃度の測定結果は、以下の通りである。
【0042】
【表2】
【0043】
上記の通り、一番茶と比較して秋冬番茶の方が、茶葉抽出液において高いマルトール濃度を示した。また、秋冬番茶の部位に関して、葉と茎とでは葉の方が高いマルトール濃度を示した。上記のマルトール濃度の結果は、官能評価の結果と対応することが示された。
【0044】
実験例3.焙煎時間の検討
上記実験例1で使用した秋冬番茶の葉と同一のものを用いて、焙煎温度220℃、ドラム回転数3r/secの条件で、焙煎時間を2分間(120秒間)、4分間(240秒間)、6分間(360秒間)および8分間(480秒間)として、ドラム式焙煎装置(横山製作所、DS-2型)を用いて焙煎処理を行った。
【0045】
上記実験例1と同様にして各茶葉サンプルより茶葉抽出液を作製した。また、得られた茶葉抽出液について、上記実験例1と同様の方法及び基準にてカラメル様の甘香ばしさの官能評価を行った。なお、官能評価の結果について、各パネリストの評価点が1.5以上異なることはなかった。
【0046】
【表3】
【0047】
結果は上記の通りであり、焙煎時間が6分間及び8分間の茶葉の方が2分間及び4分間のものよりも甘く香ばしい香りが強く感じられた。ただし、焙煎時間が8分間の茶葉は、スモーキーな香りや焦げ臭が若干感じられた。
【0048】
また、上記実験例2と同様の方法を用いて、茶葉抽出液におけるマルトールの濃度を調べた。マルトール濃度の測定結果は、以下の通りである。
【0049】
【表4】
【0050】
結果は上記の通りであり、焙煎時間が長くなるに従ってマルトールの濃度が高くなることが示された。
【0051】
実験例4.焙煎温度の検討
上記実験例1で使用した秋冬番茶の葉と同一のものを用いて、焙煎時間6分間、ドラム回転数3r/secの条件で、焙煎温度を130℃、160℃、200℃および220℃として、ドラム式焙煎装置(横山製作所、DS-2型)を用いて焙煎処理を行った。
【0052】
上記実験例1と同様にして各茶葉サンプルより茶葉抽出液を作製した。また、得られた茶葉抽出液について、上記実験例1と同様の方法及び基準にてカラメル様の甘香ばしさの官能評価を行った。なお、官能評価の結果について、各パネリストの評価点が1.5以上異なることはなかった。
【0053】
【表5】
【0054】
結果は上記の通りであり、焙煎温度が200℃及び220℃の茶葉の方が130℃及び160℃のものよりも甘く香ばしい香りが強く感じられた。
【0055】
実験例5.茶飲料の製造
上記実験例1で使用した秋冬番茶の葉と同一のものを用いて、焙煎温度220℃、ドラム回転数3r/sec、焙煎時間6分間の条件で、ドラム式焙煎装置(横山製作所、DS-2型)を用いて焙煎処理を行った。
【0056】
焙煎処理を行った茶葉を10g秤量し、それに対して300mLの水を加え、70℃及び5分間の条件で抽出処理を行って茶葉抽出液を作製した。抽出開始時、抽出開始2分後、および抽出開始4分後に、撹拌処理を30秒間行った。抽出処理後は、18.5メッシュのフィルターでろ過し、次いで140メッシュのフィルターでろ過した。
【0057】
上記の処理を通じて得られた茶葉抽出液は茶飲料(緑茶飲料)であり、当該茶飲料を飲用したところ、カラメルを思わせるような甘く香ばしい香りが感じられた。
【0058】
実験例6.固形組成物の製造
上記実験例1で使用した秋冬番茶の葉と同一のものを用いて、焙煎温度220℃、ドラム回転数3r/sec、焙煎時間6分間の条件で、ドラム式焙煎装置(横山製作所、DS-2型)を用いて焙煎処理を行った。
【0059】
茶抽出用タンクの中に、上記の通り焙煎した茶葉16kg、デキストリン2.38kg(CAVAMAX W6(α-CD)(α-シクロデキストリン):0.5kg、サンデック#30(直鎖状デキストリン(重量平均分子量:120000、DE:2~5)):1.88kg)、L-アスコルビン酸ナトリウム0.48kg、圧搾助剤としてKCフロック1.6kgを投入し、さらに90℃、224kgの湯を添加し、200rpmで攪拌し、20分間保持した。その後、圧搾用のろ布(材質:パイレン)で抽出残渣を受け、18Mpaの圧力を負荷して茶葉抽出液を作製した。得られた茶葉抽出液のうち190kgに対してデキストリン(TK-16(直鎖状デキストリン(DE:18)))を3.65kg添加し、混合し、次いで遠心分離により不溶性成分(茶葉)を取り除き、90℃及び30秒間の条件で殺菌処理を行った。殺菌処理の後、膜濃縮を行って(NTR-759HG-S4F(日東電工)、液温:20℃、圧力:3MPa)、溶液中の固形分濃度としてBrix値が20~30となるように茶葉抽出液を濃縮化した。
【0060】
上記の通り濃縮化された茶葉抽出液について、90℃及び45秒間の条件で殺菌処理を行った。殺菌処理後の溶液に対して噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥処理を行い、固体組成物(粉末組成物)を作製した。なお、乾燥条件は、入口熱風温度を160℃とし、出口熱風温度を110℃とした。
【0061】
上記の通り得られた固体組成物について、これを1g/100mLの濃度で水に溶解して飲用したところ、カラメルを思わせるような甘く香ばしい香りが感じられた。