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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111714
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】酸素センサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016382
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡元 智一郎
(72)【発明者】
【氏名】井口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】大田 由希子
(72)【発明者】
【氏名】駒津 領亮
(72)【発明者】
【氏名】洪 続
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲郎
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA07
2G046BA02
2G046EA03
2G046FB02
2G046FE04
2G046FE11
2G046FE18
(57)【要約】
【課題】センサ感度を維持しつつ省電力化を可能にする酸素センサ素子を提供する。
【解決手段】セラミック焼結体5の長手方向中央部にくびれ部7を形成したセンサ素子に電圧を印加し、くびれ部7が赤熱するホットスポット現象を用いた酸素センサ素子において、くびれ部7の長手方向の長さをL、くびれ部7を含む部位であってホットスポットとの温度差が90%以内となる部位の長手方向の長さをLとしたとき、例えばLとLの差分ΔLを-0.33mm≦ΔL≦1.0mmとすることで、センシング層からの放熱量を低減して省電力化ができる。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結体からなり、その両端に設けた電極部に電圧を印加したときの電流値または抵抗値をもとに酸素濃度を検出するホットスポット式の酸素センサ素子であって、
前記セラミック焼結体の長手方向の中央部に、該中央部を除く他の部位よりも長手方向に対する垂直断面積が小さいくびれ部が形成されており、
前記くびれ部の長手方向の長さをL、該くびれ部を含む部位であって前記ホットスポットとの温度差が90%以内となる部位の長手方向の長さをLh1としたとき、LとLh1の差分ΔLが-0.33mm≦ΔL≦1.0mmであることを特徴とする酸素センサ素子。
【請求項2】
セラミック焼結体からなり、その両端に設けた電極部に電圧を印加したときの電流値または抵抗値をもとに酸素濃度を検出するホットスポット式の酸素センサ素子であって、
前記セラミック焼結体の長手方向の中央部に、該中央部を除く他の部位よりも長手方向に対する垂直断面積が小さいくびれ部が形成され、
前記セラミック焼結体の前記電極部を除く外表面を双方向から挟み込みながら、該セラミック焼結体の前記くびれ部を除く側面を露出させた積層構造を有する断熱層が配置されており、
前記くびれ部の長手方向の長さをL、該くびれ部を含む部位であって前記ホットスポットとの温度差が90%以内となる部位の長手方向の長さをLh2としたとき、LとLh2の差分ΔLが-0.55mm≦ΔL≦0.96mmであることを特徴とする酸素センサ素子。
【請求項3】
前記くびれ部の長手方向に対する垂直断面積をS、該くびれ部を除く前記他の部位の長手方向に対する垂直断面積をSとしたとき、面積比S/SがS/S≦0.71であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ素子。
【請求項4】
エア雰囲気および所定量のエアを含むガス雰囲気において当該酸素センサ素子に一定電圧を印加したときに流れる電流をそれぞれIair,Igasとし、センサ感度SをS=(Iair-Igas)/Iairで表したとき、0.25≦S≦0.35であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ素子。
【請求項5】
前記セラミック焼結体は組成式LnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性を表す)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ素子。
【請求項6】
前記セラミック焼結体は組成式LnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性を表す)の一部を希土類元素Lnで置換した組成式Ln1+xBa2-xCu(置換量xは0<x≦1.2、yは酸素不定比性を表す)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ素子。
【請求項7】
前記セラミック焼結体はLnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性を表す)とLnBaCuOとを混合した複合セラミックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ素子。
【請求項8】
前記LnはNd(ネオジム)であることを特徴とする請求項5に記載の酸素センサ素子。
【請求項9】
前記断熱層は組成式LnBaCuO(Lnは希土類元素)で表されることを特徴とする請求項2に記載の酸素センサ素子。
【請求項10】
前記セラミック焼結体の厚さt1[μm]が10≦t1≦200であることを特徴とする請求項1に記載の酸素センサ素子。
【請求項11】
前記セラミック焼結体の厚さt1[μm]が10≦t1≦200であり、
前記積層構造を有する前記断熱層それぞれの厚さt2,t3[μm]が50≦(t2,t3)≦400であることを特徴とする請求項2に記載の酸素センサ素子。
【請求項12】
被測定雰囲気の酸素濃度検出時における消費電力が0.35W未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック焼結体を用いた酸素センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
雰囲気中の酸素濃度を検知するため、セラミック焼結体からなるセンサ素子に電圧を印加し、その一部が赤熱するホットスポット現象を用いた酸素センサが、従来より使用されている。
【0003】
このようなホットスポット式酸素センサとして、センサ素子の中央部にくびれ部を設けた構造が知られている。例えば、特許文献1には、線状体または帯状体の中程の部分を他の部分よりも電流の流れる断面積が小さくなるように形作られた、雰囲気ガス濃度を検知する線状あるいは帯状のガスセンサを開示している。また、特許文献2は、中央部にくびれ部を設けて、その部分を酸素濃度の検出部(センサ部)として断面積を小さくすることで、抵抗値を他の部分に比べて大きくして赤熱点(ホットスポット)を出現させる酸素濃度検出素子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-55855号公報
【特許文献2】特開2000-19143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
線状のセンサ素子の中央部をくびれ状にして、そのくびれ部にホットスポットを出現させて酸素濃度の検出部とする構造を採用するホットスポット式酸素センサに係る上記の特許文献には、くびれ部の長さ等の構造そのものにより奏されるセンサ感度、省電力化の効果等については解析されておらず、その報告もない。
【0006】
すなわち、酸素センサには、その使用環境、センシング性能等の観点から小型化、軽量化、低コスト化、低消費電力化が望まれるが、酸素センサの線材(セラミック焼結体)の特定位置に形成したくびれ部について、センサ感度および省電力化を維持するための構造が不明であった。
【0007】
このことから、くびれ部を設けたホットスポット式酸素センサにおいてセンサ感度と省電力化を両立させるという課題が残されており、それを解決する提案が必要となる。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、センサ感度を維持しつつ省電力化を可能にする酸素センサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち本発明は、セラミック焼結体からなり、その両端に設けた電極部に電圧を印加したときの電流値または抵抗値をもとに酸素濃度を検出するホットスポット式の酸素センサ素子であって、前記セラミック焼結体の長手方向の中央部に、該中央部を除く他の部位よりも長手方向に対する垂直断面積が小さいくびれ部(くびれ)が形成されており、前記くびれ部の長手方向の長さをL、該くびれ部を含む部位であって前記ホットスポットとの温度差が90%以内となる部位の長手方向の長さをLh1としたとき、LとLh1の差分ΔLが-0.33mm≦ΔL≦1.0mmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、セラミック焼結体からなり、その両端に設けた電極部に電圧を印加したときの電流値または抵抗値をもとに酸素濃度を検出するホットスポット式の酸素センサ素子であって、前記セラミック焼結体の長手方向の中央部に、該中央部を除く他の部位よりも長手方向に対する垂直断面積が小さいくびれ部が形成され、前記セラミック焼結体の前記電極部を除く外表面を双方向から挟み込みながら、該セラミック焼結体の前記くびれ部を除く側面を露出させた積層構造を有する断熱層が配置されており、前記くびれ部の長手方向の長さをL、該くびれ部を含む部位であって前記ホットスポットとの温度差が90%以内となる部位の長手方向の長さをLh2としたとき、LとLh2の差分ΔLが-0.55mm≦ΔL≦0.96mmであることを特徴とする。
【0011】
例えば、前記くびれ部の長手方向に対する垂直断面積をS、該くびれ部を除く前記他の部位の長手方向に対する垂直断面積をSとしたとき、面積比S/SがS/S≦0.71であることを特徴とする。例えば、エア雰囲気および所定量のエアを含むガス雰囲気において当該酸素センサ素子に一定電圧を印加したときに流れる電流をそれぞれIair,Igasとし、センサ感度SをS=(Iair-Igas)/Iairで表したとき、0.25≦S≦0.35であることを特徴とする。
【0012】
例えば、前記セラミック焼結体は組成式LnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性を表す)で表されることを特徴とする。例えば、前記セラミック焼結体は組成式LnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性)の一部を希土類元素Lnで置換した組成式Ln1+xBa2-xCu(置換量xは0<x≦1.2)で表されることを特徴とする。さらに例えば、前記セラミック焼結体はLnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性を表す)とLnBaCuOとを混合した複合セラミックスであることを特徴とする。例えば、前記LnはNd(ネオジム)であることを特徴とする。また、例えば、前記断熱層は組成式LnBaCuO(Lnは希土類元素)で表されることを特徴とする。
【0013】
さらには、例えば、前記セラミック焼結体の厚さt1[μm]が10≦t1≦200であることを特徴とする。例えば、前記セラミック焼結体の厚さt1[μm]が10≦t1≦200であり、前記積層構造を有する前記断熱層それぞれの厚さt2,t3[μm]が50≦(t2,t3)≦400であることを特徴とする。また、例えば、被測定雰囲気の酸素濃度検出時における消費電力が0.35W未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ホットスポット式の酸素センサ素子の小型化、軽量化、低コスト化、低消費電力化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】酸素濃度がAirと1%Oのときの抵抗率の温度依存性を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る酸素センサ素子の外観斜視図である。
図3図3(a)は図2に示す酸素センサ素子の内部構造を示す分解図、図3(b)はセンシング層の構造を示す図である。
図4図4(a)は温度分布シミュレーションに使用した計算モデルの平面図、図4(b)は図4(a)の計算モデルをA-A´矢視線に沿って切断した断面図、図4(c)は図4(b)の計算モデルをB-B´矢視線に沿って切断した断面図である。
図5】Air雰囲気におけるセンシング層の抵抗率の温度依存性を示す図である。
図6】1%O雰囲気におけるセンシング層の抵抗率の温度依存性を示す図である。
図7】NdBaCuを用いたセンシング層のくびれ長さLと消費電力の関係を示す図である。
図8】Nd1.4Ba1.6Cuを用いたセンシング層のくびれ長さLと消費電力の関係を示す図である。
図9図9(a)はセンシング層にNdBaCuを用いたセンサ素子の最高温度部分の温度分布、図9(b)は図9(a)の最高温度を基準にした比率(温度割合)を示す図である。
図10図10(a)はセンシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いたセンサ素子の最高温度部分の温度分布、図10(b)は図10(a)の最高温度を基準にした比率(温度割合)を示す図である。
図11】NdBaCuを用いたセンシング層のホットスポット長さとくびれ長さとの差Δと、くびれ長さとの関係を示す図である。
図12】Nd1.4Ba1.6Cuを用いたセンシング層のホットスポット長さとくびれ長さとの差Δと、くびれ長さとの関係を示す図である。
図13】センシング層にNdBaCuを用いたセンサ素子の線材側面の温度分布とくびれ長さとの関係を示す図である。
図14】センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いたセンサ素子の線材側面の温度分布とくびれ長さとの関係を示す図である。
図15】NdBaCuを用いたセンシング層のホットスポット長さとくびれ長さとの差と、くびれ長さとの関係を示す図である。
図16】Nd1.4Ba1.6Cuを用いたセンシング層のホットスポット長さとくびれ長さとの差と、くびれ長さとの関係を示す図である。
図17】酸素センサ素子とその酸素センサ素子を用いた酸素センサの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図18】センシング層に用いるシート部材におけるホール形成を模式的に示す図である。
図19】センシング層用のシート部材と断熱層用のシート部材を裁断、積層してなる板状部材の外観斜視図である。
図20】本実施形態に係る酸素センサ素子を使用した酸素センサの外観斜視図である。
図21】変形例に係る酸素センサ素子の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施形態について詳細に説明する。
<センサ材料の温度依存性について>
本願の発明者らは特願2021-101083号において、半導体式酸素センサのセンサ材料Nd1+xBa2-xCu(yは酸素不定比性を表す)におけるセンサ感度が最大となる温度域について、センサ感度が最も優れる温度域は添加量xによらず500~730℃の範囲内であり、この温度範囲以上に動作温度を上昇させてもセンサ感度向上の利点は少ないことを発見した。
【0017】
しかしながら、本願の発明者らによる様々な検証の結果、自己発熱するホットスポット式の式酸素センサについては、大気中におけるホットスポット部の動作温度を上述した温度範囲(500~730℃)以上に上昇させた方がセンサ感度を向上できることを見出した。すなわち、ホットスポット式の酸素センサにおけるセンサ感度の向上は、使用するセンサ材料の室温~900℃付近までの抵抗値の温度依存性(TCR:Temperature Coefficient of Resistivity)が正であることに起因することが明らかになった。
【0018】
図1は、センサ材料がNdBaCu(Nd1+xBa2-xCuにおいて置換量x=0)の場合における、被測定雰囲気の酸素濃度がエア(Air)のときと、低酸素雰囲気である1%Oのときの抵抗率の温度依存性を示す。図1に示す特性において、酸素センサ周囲の酸素濃度をAirから1%Oに変化させた場合、Air雰囲気と1%O雰囲気での抵抗率[Ωcm]の差Δρが大きいほど、センサ感度が優れることが分かる。
【0019】
図1において、センサ周囲の酸素雰囲気を変化させた場合のホットスポット部の温度変化を考えない場合、例えば800℃付近において抵抗率の差がΔρ1で最大となる。よって、Air雰囲気ではホットスポット部の温度が符号Aの付近となるように電圧を設定して酸素濃度を測定することが望ましい。このように温度変化を考えない場合、センサ周囲の酸素濃度がAir雰囲気から1%O雰囲気に変化すると、抵抗率は符号Bで示す値となる。
【0020】
しかしながらホットスポット式酸素センサは、センサに定電圧Vを印加して、その際の抵抗変化による電流値を読み取るため、センサの抵抗値Rが増加すると、ジュールの法則により電力(V/R)は低下する。このため、実際には1%O雰囲気において電力低下によりホットスポット部の温度が、例えば700℃付近まで低下した場合、抵抗率は、図1の符号Cで示す値となる。その結果、抵抗率の差Δρは実際にはΔρ1にならず、Δρ2に低下する。
【0021】
すなわち、ホットスポット式酸素センサは、電圧を一定とする電流モードでの動作(自己発熱)を利用しているので、センサ周囲の酸素雰囲気が変化した場合、センサ感度として現れるのは、図1の符号Aと符号Bに対応する抵抗率の差Δρ1ではなく、符号Aと符号Cに対応する抵抗率の差Δρ2(センサを流れる電流の差でもある)となる。
【0022】
このような検証結果(低酸素雰囲気中での温度低下)を考察したところ、Air雰囲気で900℃付近までホットスポット部を加熱すると、ホットスポット式酸素センサは、そのセンサ特性が向上するという特徴を持つことが明らかになった。そのため、ホットスポット式酸素センサにおいて目的とするセンサ特性(低消費電力化)を実現するには、抵抗率の温度依存性を加味したうえで、ホットスポット部の温度分布を詳細に調査することが必要となる。
【0023】
酸素センサとして酸素の検出機能(センシング機能)を維持するには、発熱部の温度が保持される構成が有効である。かかる観点から本願の発明者らは、有限要素法により電圧印加に伴う発熱の温度分布シミュレーションを詳細に行った結果、ホットスポット式酸素センサのホットスポット部の最高温度が900℃となる場合の最適なくびれ部の構造を見出した。以下、本発明に係る一実施形態について添付図面等を参照して詳細に説明する。
【0024】
<酸素センサ素子の構造>
本実施形態に係る酸素センサ素子はセラミック焼結体からなり、電源に接続して電流が流れることで焼結体の中央部が高温で発熱(自己発熱)し、その発熱箇所(ホットスポット)を酸素濃度の検出部として、セラミック焼結体に流れる電流値をもとに酸素濃度を検出する。
【0025】
図2は、本実施形態に係る酸素センサ素子の外観を示す斜視図である。図3(a)は、図2に示す酸素センサ素子の内部構造を示す分解図である。図2および図3(a)に示すように本実施形態に係る酸素センサ素子1は、センサ周囲の酸素雰囲気において酸素濃度を検出する機能(酸素センシング機能)を有する、セラミック焼結体からなるセンシング層5と、センシング層5を双方向(厚さ方向)から挟み込む2つの断熱層4a,4bとを備える。
【0026】
センシング層5と断熱層4a,4bとが積層された積層体(センサ素子)の長手方向両端部には、一対の電極部3a,3bが形成されている。なお、実際の使用態様において電極部3a,3bそれぞれにリード線が取り付けられるが、ここではそれらの図示を省略する。
【0027】
図3(a)に示すようにセンシング層5の中央部には、軸方向(センサ素子の長手方向)に対して垂直方向に切り込まれた、くびれ部7が設けられている。本実施形態に係る酸素センサ素子では、後述するように、くびれ部7の軸方向の長さL(L,L)および、くびれ部7を含む部位であってホットスポットとの温度差が90%以内となる部位の長手方向の長さL(Lh1, Lh2)を最適化することでセンサ感度と省電力化を両立させる。
【0028】
なお、センシング層5の厚さt1、および断熱層4a,4bの厚さt2,t3については、後述する。酸素センサ素子は、図2および図3(a)に示すように断熱層を設けた方がより省電力化が図れるが、センシング層として機械的強度が損なわれず、かつ、くびれの効果が得られれば断熱層は無くても良い。
【0029】
センシング層5は、センサ材料として、組成LnBaCu(Lnは希土類元素、yは酸素不定比性を表す)において、Lnを例えばNd(ネオジム)とした組成NdBaCuからなる。
【0030】
断熱層4a,4bは断熱性を有するとともに電気的な絶縁層であり、例えば、組成LnBaCuOのLnをNd(ネオジム)とした組成NdBaCuOに、共材として20mol%のNdBaCuを添加した組成である。
【0031】
ここでは、酸素センサ素子材料のLn(希土類元素)として、Nd(ネオジム)を例示しているが、他のいずれの希土類元素も使用可能である。すなわち、希土類元素として、例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)等を使用できる。
【0032】
<温度分布シミュレーションの方法>
以下、本実施形態に係る酸素センサ素子の構造および特性を解析するために実施したシミュレーションについて説明する。ここでは、シミュレータとしてFemtet(登録商標)を用いたが、これ以外にも、伝熱および電場の計算が可能で、かつ、物性値において抵抗率の温度依存性が反映できるシミュレータであれば使用可能である。
【0033】
図4は、後述する特性値等の計算に用いたセンサ素子(温度分布シミュレーションに使用したセンサ素子であり、計算モデルともいう)の構造を示す。図4(a)は、計算モデルの平面図であり、図4(b)は、図4(a)の計算モデルをA-A´矢視線に沿って切断した断面図、図4(c)は、図4(b)の計算モデルをB-B´矢視線に沿って切断した断面図である。
【0034】
センサ素子の長さは、短いほど印加電圧が小さくなるため消費電力が低くなるが、センシング時に発生するホットスポット(赤熱領域)のサイズ(長さ)が2mm程度あるため、それ以上であることが望ましいとして、ここでは、図4(a)に示すように5mmとした。
【0035】
センサ素子の径は、細いほど流れる電流が低くなるため消費電力も低くなるが、量産時のハンドリング性や機械的強度が失われたり、電流密度の増加による負荷が大きくなるため、0.01mm以上であることが望ましい。図4(c)に示す、くびれ部のくびれ幅wは、細いほど電流が低くなり省電力となるが、ここでは、くびれ部の量産性を考慮してw=0.15mmとした。また、図4(c)に示す、くびれ部に連続する部位(図3(b)に示す棒状部2a,2b)の幅Wを0.35mmとした。図4(b)に示すセンサ素子の厚みt(図3(a)に示す厚みt1~t3の和)は0.35mmとした。
【0036】
電極部11a,11bの外形サイズは0.39×0.39mm、内形サイズは0.35×0.35mm、側面部および底面部の厚さは0.02mm、ワイヤ6a,6bのサイズは0.088×0.088mmとした。ここでは、センサ素子を角柱状の形状としたが、これに限定されず、断面形状が細くて省電力性に優れる、例えば円筒形、多角形の柱状でもよい。
【0037】
セラミック焼結体からなるセンシング層5は、図3(b)に示すように、くびれ部7の長さ方向に垂直な横断面8の面積をSとし、くびれ部7と軸方向(長手方向)に連続する棒状部2a,2bの軸方向に垂直な横断面9の面積をSとすると、棒状部2a,2bの幅Wが0.35mmであるため、面積比S/S=0.43(0.35×0.15/0.35×0.35)となる構造を有する。
【0038】
くびれ幅wと同様に横断面8,9の面積比S/Sは小さい方が望ましい。S/Sが0.71より大きくなると、くびれの効果が小さくなるため、好ましくないことが分かった。
【0039】
<各要素の物性値および境界条件>
本実施形態におけるシミュレーションでは、周囲温度25℃、ワイヤ6a,6b両端の温度を25℃とし、これらのワイヤ端に電位差を与えて、定常状態となった際の温度分布、電流を計算した。ホットスポット式酸素センサは、ホットスポット(赤熱点)の最高温度が900℃付近に達した際にセンシングが可能となる。このため、温度分布の最大値が900℃付近となるように電位差を与え、計算を行った。
【0040】
本シミュレーションにおいて、ワイヤ6a,6bおよび電極部11a,11bは銀(Ag)とし、それらの熱伝導率を427W/mK、抵抗率を1.59×10-8Ωm、ふく射率を0.1とした。ワイヤ6a,6bおよび電極部11a,11bは、最大で150℃程度であるため、これら物性値の温度依存性は考慮せず、一定とした。
【0041】
断熱層4a,4bは、NdBaCuOをベースとした材料とし、その熱伝導率を0.48W/mK、抵抗率を0.184Ωm、ふく射率を0.89とした。NdBaCuOの熱伝導率およびふく射率の温度依存性は弱いため一定とした。また、断熱層4a,4bの抵抗率はセンシング層5と比べて十分に大きいため、センサ出力への影響は小さく、温度依存性は考慮せずに一定とした。
【0042】
図5は、Air雰囲気におけるセンシング層の抵抗率の温度依存性を示す。ホットスポット式酸素センサは、センサ材料のPTCR(Positive Temperature Coefficient of Resistivity)特性を利用して、自己発熱によりセンシングを行う。このため、抵抗率の温度依存性は重要な物性である。
【0043】
本シミュレーションでは、酸素センサ素子を構成する線材(セラミック焼結体)として、温度依存性および抵抗率の異なる二種類のセンサ材料(NdBaCuおよびNd1.4Ba1.6Cu)を用い、それぞれについて特性値等を計算した。センシング層の熱伝導率およびふく射率の温度依存性は弱いため一定とし、NdBaCuの熱伝導率を0.6W/mK、ふく射率を0.88、Nd1.4Ba1.6Cuの熱伝導率を0.44W/mK、ふく射率を0.88とした。
【0044】
熱伝導率の計算は、細線の自然対流での以下に示すChurchiLL - Chuの式を用いた。なお、式(1)の出典は、1) S. W. ChurchiLL and H. H. S. Chu, Int. J. Heat Mass Transfer, voL. 18, pp. 1049-1052 (1975)、2)J. P. HoLman, Heat Transfer Ninth Edition, McGraw-HiLL Higher Education (2002)である。
【0045】
【数1】
【0046】
式(1)中におけるNu、Gr、Pr(それぞれヌセルト数、グラスホフ数、プラントル数と呼ばれる)等を式(2)~(5)に示す。ヌセルト数、グラスホフ数、プラントル数は、流体の相似則を用いた無次元量である。
【0047】
【数2】
【0048】
上記の式(2)~(5)において、dは細線の円柱直径[m]、λは空気の熱伝導率[W/mK]、gは重力加速度[m/s]、βは周囲空気温度T[K]における体膨張係数(理想気体の場合、β=1/T)、Tは素線の表面温度[K]、νは空気の動粘性係数[m/s]、Cは空気の定圧比熱[W/mK]、μは空気の粘性係数[Pa・s]、ηは空気の密度[kg/m]であり、熱物性値は膜温度T((T+T)/2)の値を用いる。
【0049】
なお、物体が小さくなると、境界層の厚みの方が代表長さを上回るため、物体の形状そのものの伝熱特性に及ぼす影響が小さくなる。したがって、素子径が小さい酸素センサ素子では、角柱形状の素子の厚みt(=0.35×10-3)[m]と円柱直径d[m]の関係は、熱伝達係数が対象となる断面の周囲長さに依存するとして、以下の式(6)を用いた。
【0050】
【数3】
【0051】
ここでは計算を容易にするため、酸素センサ素子の長手方向に垂直な面の温度分布は無視し、酸素センサ素子の長手方向の温度分布は周囲温度との線形近似とした。
【0052】
<センサ感度の計算方法>
酸素センサ素子のセンサ感度Sは、下記の式(7)で定義することができる。
【0053】
【数4】
【0054】
式(7)のIairおよびIgasは、それぞれAir雰囲気およびGas雰囲気で一定電圧において素子に流れる電流である。式(7)より、Gas雰囲気でのセンサの物性値が分かれば、Iairと同様の方法でIgasを計算することができる。
【0055】
酸素濃度に大きく依存する物性値はセンシング層の抵抗率のみであると考えられるため、Igasの計算では、センシング層の抵抗率の温度依存性のみを変更し、上記と同様の条件で計算した。この計算では、Gas雰囲気を1%Oとした。図6に、1%O雰囲気におけるセンシング層の抵抗率の温度依存性を示す。
【0056】
<くびれの長さと消費電力の関係>
本シミュレーションにより、上述した二種類のセンサ材料(NdBaCuおよびNd1.4Ba1.6Cu)それぞれについて、センシング層のくびれ長さLを0mm、0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.4mm、0.8mm、1.6mmと変えたときの消費電力を求めた。図7は、センシング層にNdBaCuを用いた場合のくびれ長さLと消費電力の関係を示す。また、図8は、センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いた場合のくびれ長さLを0mm、0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.4mm、0.8mm、1.6mmと変えたときの消費電力の関係を示す。
【0057】
図7および図8に示すシミュレーションの結果から、くびれ長さLは、消費電力との関係において短過ぎても、あるいは長過ぎても良くなく、消費電力を最小にする最適値(図7および図8における極小値)があることが判明した。
【0058】
具体的には、消費電力が最小となるくびれ長さLは、NdBaCuをセンサ材料とする図7に示す例では0.2mm、Nd1.4Ba1.6Cuをセンサ材料とする図8に示す例では0.4mmであることが明らかになった。
【0059】
上記の場合におけるセンサ感度Sは、NdBaCuは0.31、Nd1.4Ba1.6Cuは0.29であった。くびれを設けずに同条件で計算した場合のセンサ感度Sは、NdBaCuは0.32、Nd1.4Ba1.6Cuは0.30であった。このことから、くびれによってセンサ感度はほとんど低下しないことが分かった。
【0060】
このようにセンシング層のセンサ材料NdBaCuとNd1.4Ba1.6Cuの双方とも消費電力が最小となる最適なくびれ長さがあり、その最適値はセンサ材料により異なることが分かった。そこで検討した結果、このように最適なくびれ長さが異なるのは、センサ材料のPTCR特性によるセンサ素子の温度分布に起因することが明らかになった。
【0061】
<ホットスポット長さと、くびれ長さとの関係についての実施例1>
ホットスポット長さと、くびれ長さとの関係に係る実施例1として、本実施形態に係る酸素センサを構成する線材(セラミック焼結体)の中心部分の温度分布シミュレーションについて説明する。
【0062】
図9は、センシング層にNdBaCuを用いた場合のセンサ素子の温度分布と、くびれ長さLとの関係を示しており、図9(a)は、センサ素子のうち温度が最大になる部分(線材の中心部分であり最高温度部分ともいう)の温度分布、図9(b)は、図9(a)の最高温度を基準にした比率(くびれ長さが異なる各プロットの最高温度を1としたときの温度割合)である。
【0063】
図10は、センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いた場合のセンサ素子の温度分布と、くびれ長さLとの関係を示す。図10(a)は、センサ素子の最高温度部分の温度分布、図10(b)は、図10(a)の最高温度を基準にした比率(温度割合)である。
【0064】
図9および図10において横軸は、線材の中心部からその線材の長手方向の距離X[mm]、すなわち、センサ素子の中心部(X=0)を原点とし、長手方向における原点からの距離である。ここでは、それぞれのセンサ材料を用いた場合のくびれ長さについて、線材のうち温度が最大の部分である原点の最高温度が900℃となるようにセンサ素子に電圧をかけた。
【0065】
図9および図10において破線で示すように、くびれがない場合には、距離Xの全域に渡って温度および温度割合が高いが、実線で示すように、くびれを設けた場合は、くびれ長さLによってセンサ素子の温度分布が異なることが分かる。つまり、くびれがある方が、距離Xが大きくなるに従ってセンサ素子の温度が下降し、消費電力が小さくなる傾向にある。
【0066】
また、図9図10を対比すると、Nd1.4Ba1.6Cuを用いたセンシング層の方が、NdBaCuを用いたセンシング層よりも、センサ素子においてホットスポットとなる領域が長い傾向にある。換言すれば、図9(b)および図10(b)において、温度割合1~0.9の領域、つまり、最大温度(900℃)から、その90%(810℃)までの領域に留まる割合が高いことが分かる。
【0067】
次に、本実施形態に係る酸素センサ素子におけるホットスポットの長さと、くびれ長さとの関係について説明する。本実施形態におけるシミュレーションでは、図9(b)および図10(b)に示す温度割合が1~0.9の領域をホットスポットの長さLh1と定義して、そのホットスポットの長さと、くびれ長さとの関係を考察した。
【0068】
図11および図12は、それぞれセンシング層にNdBaCu、あるいはNd1.4Ba1.6Cuを用いた場合の、ホットスポット長さLh1とくびれ長さLとの差ΔL(=L-Lh1)と、くびれ長さLとの関係を示している。なお、中心部温度からLh1を求めた場合、くびれなしのプロットは、くびれ長さL=0とした。
【0069】
図11に示すように、センシング層にNdBaCuを用いた場合においてΔLが0に近い領域(ホットスポット長さLh1と、くびれ長さLがほぼ等しい領域)は、図7に示すシミュレーションで判明した消費電力が最も小さくなるくびれ長さ0.2mm付近であることが分かる。
【0070】
また、図12に示すように、センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いた場合においてΔLが0に近い領域は、図8に示すシミュレーションで判明した消費電力が最も小さくなるくびれ長さ0.4mm付近であることが分かる。
【0071】
上記の検証より、センサ材料によってホットスポット長さが異なるも、酸素センサ素子においてホットスポット長さと一致するようにくびれ長さを設定することで、消費電力を小さくすることができることが明らかになった。
【0072】
本実施形態に係る酸素センサ素子は、図3(a),(b)に示すようにセンシング層5において、くびれ部7を挟んで軸方向(長手方向)に棒状部2a,2bが連続する構成を有する。これは、くびれ部7と棒状部2a,2bそれぞれの抵抗成分が直列接続された構成であるため、この場合の消費電力は、オームの法則より、直列接続された各抵抗成分の抵抗値に比例する。
【0073】
よって、酸素センサ素子において、センサ感度を維持しつつ低消費電力化を得るためには、センサ応答に寄与しない箇所(上記の棒状部2a,2b)の抵抗値が低いことが望ましい。上述したように、センサ材料はPTCR特性を持つことから、センサ応答に寄与しない箇所の温度が低いことで、その部分の抵抗値を低くすることができる。
【0074】
一方、本実施形態に係る酸素センサ素子はホットスポット式酸素センサであるため、センサ素子が自己発熱により高温になることでセンサ応答性が出現する。したがって、センシング層のくびれ部を810℃(図9(b)、図10(b)の温度割合で0.9)以上の高温としつつ、それ以外の箇所の温度が低いときに、センサ感度の維持と低消費電力化が実現すると考えられる。
【0075】
センシング層のくびれ長さLを変えたときの消費電力を求めた結果を示す図7より、くびれがない場合の消費電力が0.35Wであることから、くびれを形成したセンシング層については、消費電力の目標値を酸素濃度検出時における消費電力を0.35W未満とした。
【0076】
そこで、NdBaCuを用いたセンシング層について、消費電力0.35W未満におけるくびれ長さの範囲を、図7の特性曲線のうち、くびれ長さが0の場合を除く最左端のプロット(0.05mm)と、最右端のプロット(1.6mm)とに対応する範囲(0.05~1.6mm)とした。そして、図11より、その範囲に対応する、ホットスポット長さLh1と、くびれ長さLとの差ΔLを求めた。
【0077】
同様に、センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いた場合については、図8および図12より、消費電力0.35W未満におけるくびれ長さの範囲は、図8の特性曲線のうち、0.1mmに相当するプロットと、最右端(1.6mm)のプロットとに対応する範囲(0.1~1.6mm)である。図12より、その範囲に対応するホットスポット長さLh1と、くびれ長さLとの差ΔLを求めた。
【0078】
上記の検討結果より、実施例1に係る酸素センサ素子において、ホットスポット長さLh1と、くびれ長さLとの差ΔLが、-0.33mm≦ΔL≦1.0mmとなるようにくびれ長さLを設定することで、大きな省電力化の効果を得られることが明らかになった。
【0079】
<ホットスポット長さと、くびれ長さとの関係についての実施例2>
ホットスポット長さと、くびれ長さとの関係に係る実施例2として、本実施形態に係る酸素センサを構成する線材(セラミック焼結体)の側面中央部分の温度分布シミュレーションについて説明する。
【0080】
ここでは、図9および図10に示す線材の中心部分の温度分布シミュレーションに用いた線材について、温度分布の測定箇所を、図2において破線で示す線材側面の中央部とし、線材表面の温度分布シミュレーションを行った。つまり、センサ素子のホットスポット部分を素子の側面から測定した。
【0081】
図13は、センシング層にNdBaCuを用いたセンサ素子の線材側面の温度分布と、くびれ長さLとの関係を示す。図14は、センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いたセンサ素子の線材側面の温度分布と、くびれ長さLとの関係を示す。なお、図13および図14の横軸は、図9および図10と同様、センサ素子(線材)の中心部(X=0)を原点とし、長手方向における原点からの距離X[mm]である。
【0082】
酸素センサを構成するセンシング層は、その中央部にくびれ部が形成されていることから、図2に示すように酸素センサの側面中央部分では線材が隠れ、断熱層が現れる構成となる。そのため、図13(a)および図14(a)に示すように、センシング層にくびれがない場合(破線で示す)は、酸素センサの側面中央部分に線材が現れるため、側面中央部分の温度がほぼ900℃になり、長手方向に中心部(X=0)から離れた部位の温度もほぼ900~800℃となる。
【0083】
一方、センシング層にくびれを設けた場合、上述したように酸素センサの側面中央部分では線材が隠れるため、図13(a)および図14(a)において実線で示すように、酸素センサの側面中央部分の温度計測値は低下する。
【0084】
図13(b)および図14(b)は、上述した、線材の中心部分の温度分布シミュレーションと同様に、くびれ長さが異なる各プロットについて、その最高温度を基準にした比率(温度割合)を示す。図13(b)および図14(b)から分かるように、線材の側面中央部分の温度分布においても、くびれ長さLによってセンサ素子の温度分布が異なり、くびれがない場合と比較して、距離Xが大きくなるに従ってセンサ素子の温度が下降し、消費電力が小さくなる傾向にある。
【0085】
そこで、図13および図14に示す結果をもとに、線材の側面中央部分の温度分布について、温度割合が1~0.9の領域をホットスポットの長さLh2と定義して、そのホットスポットの長さと、くびれ長さとの関係を考察した。その結果を図15および図16に示す。
【0086】
図15はセンシング層にNdBaCuを、図16はセンシング層にNd1.4Ba1.6Cuをそれぞれ用いた場合のホットスポット長さLh2とくびれ長さLとの差ΔL(=L-Lh2)と、くびれ長さLとの関係を示している。なお、線材の表面中央部からLh2を求めた場合、くびれなしのプロットは、くびれ長さL=0とした。
【0087】
上述したように図7より、くびれを形成したセンシング層については、酸素濃度検出時における消費電力の目標値を0.35W未満としたことから、NdBaCuを用いたセンシング層について、消費電力0.35W未満におけるくびれ長さの範囲を0.05~1.6mmとし、図15より、その範囲に対応する、ホットスポット長さLh2と、くびれ長さLとの差ΔLを求めた。
【0088】
同様に、センシング層にNd1.4Ba1.6Cuを用いた場合については、図8および図16より、くびれを形成したセンシング層については、酸素濃度検出時における消費電力の目標値を0.35W未満とすると、くびれ長さLの範囲を0.1~1.6mmとし、図16より、その範囲に対応するホットスポット長さLh2と、くびれ長さLとの差ΔLを求めた。
【0089】
上記より、実施例2に係る酸素センサ素子において、ホットスポット長さLh2と、くびれ長さLとの差ΔLが、-0.55mm≦ΔL≦0.96mmとなるようにくびれ長さLを設定することで、省電力化の効果が大きいことが明らかになった。
【0090】
<酸素センサ素子と酸素センサの製造方法>
次に、本実施形態に係る酸素センサ素子と、それを用いた酸素センサの製造方法について説明する。図17は、本実施形態に係る酸素センサ素子と、その酸素センサ素子を用いた酸素センサの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【0091】
図17のステップS1において、酸素センサ素子の原料として、組成NdBaCuOy(原料1とし、適宜Nd123と呼ぶ)と、組成NdBaCuO(原料2とし、適宜Nd211と呼ぶ)となるように、例えばNd,BaCO,CuOを電子天秤等によって秤量し、混合する。なお、Nd123にLnBaCuOを添加してもよい。
【0092】
次に、上記のステップS1で秤量・混合した酸素センサ素子の原料1,2それぞれを、ジルコニアメディアを使用してボールミル装置で粉砕する(ステップS2)。ここでの粉砕は、粉砕メディアをビーズとするビーズミル等の固相法、あるいは液相法でも可能である。
【0093】
続くステップS3において、上記粉砕された材料(原料1,2の粉末)を、大気中において900℃、5時間、熱処理(仮焼き)する。仮焼きは、反応性や粒径を調整するための処理である。仮焼きの温度は880~970℃としても良く、900℃~935℃がより好ましい。
【0094】
ステップS4において、上記のように仮焼きした原料1,2を、ボールミル等により粉砕して粒を揃えた後、スラリーを作製する。例えば、仮焼きした原料に対して、バインダー樹脂(例えば、ポリビニルブチラール(PVB))と溶媒(例えば、トルエン)を混合したビヒクルを混練してスラリーを作製する。
【0095】
ここでは、例えばセンサ材料であるNdBaCu、Nd1.4Ba1.6Cuの仮焼粉とビヒクルを混合してスラリーとする。また、Nd211に20mol%のNd123を加えた仮焼粉(Nd211-20mol%Nd123)をビヒクルと混合してスラリーとする。Nd123の添加量は、25mol%を超えるとNd123による導電パスが形成されることから、ここでは20mol%とした。
【0096】
続くステップS5において、上記のように作製したスラリーを、例えばドクターブレード法により厚さ30μmのシート状に成形し、センシング層に用いる第1のシート部材と、断熱層に用いる第2のシート部材を作製する。
【0097】
なお、スラリーをシート状に成形する方法として、例えば、一軸プレス法、静水圧プレス法、ホットプレス法、印刷法、薄膜法によりプレス圧を印加して成形し、所定厚の板状部材(プレス成形体)を作製してもよい。特に、断熱層に用いる第2のシート部材については、ディップ法、印刷法、薄膜法が適用可能である。
【0098】
ステップS6において、センサ素子のセンシング層に用いる第1のシート部材に、くびれ部となるホールを形成する。ここでは、図18に示すように、第1のシート部材15を、それぞれがセンサ素子の寸法(5×0.35mm)に対応する複数の領域に区切る。そして、個々の領域の長手方向の端部同士が隣接する部位を跨ぐように、パンチによる打ち抜きによって角形ホール17を形成する。
【0099】
角形ホール17の寸法を、例えば0.2×0.2mmとすることで、個々のセンサ素子のくびれ部のくびれ長さLが0.2mm、くびれ幅wが0.15mmとなる。
【0100】
ステップS7において、上記のステップS5で作製した第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを積層して、図19に示す積層シート(積層体)20を作製する。具体的には、第1のシート部材と第2のシート部材それぞれを、例えば、L1(100mm)×L2(100mm)のサイズに裁断した後、図19に示すように、第1のシート部材を、厚さt1が例えば30μmとなるように積層してセンシング層15を形成する。そして、第1のシート部材を上下方向から挟み込む第2のシート部材それぞれの厚さt2,t3が、例えば160μmとなるように積層して断熱層14a,14bを形成する。
【0101】
なお、酸素センサ素子としての特性に着目した場合、積層するセンシング層および断熱層は上述した厚さに限定されない。例えば、センシング層の厚さt1は、10μmより小さいと抵抗値が高くなり過ぎて、ホットスポット発生時における発熱量の確保が難しくなる。また電流密度の増加が顕著となり、耐久性が劣化する。一方、厚さt1が200μmよりも大きい場合、酸素センサ駆動時において電流値の増加により消費電力が大きくなり過ぎる。このことから、上述したようにセンシング層の好ましい厚さt1は10~200μm、より好ましい厚さt1は30~120μmである。
【0102】
断熱層の厚さt2,t3は、50μmより小さいと断熱性の効果も小さくなり、400μmよりも大きいと、酸素センサとしての応答速度に影響が表れる。よって、断熱層の好ましい厚さは50≦(t2,t3)≦400μmであり、より好ましい厚さは100≦(t2,t3)≦250μmである。
【0103】
ステップS8においてダイシングを行なう。例えば、上記ステップS7で積層された、図19に示す積層シート(積層体)を、後述する酸素センサのサイズおよび形状に合わせて、例えば、短手方向の寸法が0.35mm、長手方向の寸法が5mmの棒状体形状に切断する。
【0104】
ステップS9では、上述したダイシング後の酸素センサ素子に対して脱バインダーを行い、大気中において、例えば980℃で10時間、焼成する。焼成は900~1020℃の温度範囲でも可能であり、組成により焼成温度を変えてもよい。また、焼成後にアニール処理をしてもよい。
【0105】
ステップS10において、酸素センサ素子の両端部に銀(Ag)をディップ塗布し、150℃で10分、乾燥させて、図2に示すように電極部3a,3bを形成する。続くステップS11では、ステップS10で形成された電極部に、例えばφ0.1mmの銀(Ag)ワイヤをワイヤーボンディング等の接合方法により取り付けて、150℃で10分、乾燥する。そして、このようにして形成された端子電極を、ステップS12において、例えば670℃で20分間、焼付けする(電極焼成)。
【0106】
電極部およびワイヤの材料は、上記の銀(Ag)に限定されず、例えば金(Au)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、銅(Cu)、樹脂電極等でも可能である。また、電極部の形成には、印刷法、スパッタ等の着膜方法を使用してもよい。さらに、上記の工程を経て製造された酸素センサ素子の電気的特性を、例えば四端子法により評価してもよい。
【0107】
ステップS13において、上記の工程で製造された酸素センサ素子を、例えば図20に示すように、耐熱ガラスからなり酸素センサ素子1の保護部材として機能する保護管(例えば、直径が5.2mm、長さが20mmの円筒形のガラス管)24内に挿入する。保護管24は、セラミックケース、樹脂ケース等でもよい。
【0108】
保護管24に挿入後の酸素センサ素子1のリード線それぞれの端部は、保護管24の両端に嵌着した金属製の導電キャップ(口金)22a,22bに、例えば無鉛はんだにより接続し、酸素センサ10を製造する。口金へのリード線の接続は、有鉛はんだ、溶接、カシメ等の接合方法を使用してもよい。
【0109】
なお、導電キャップ22a,22bの端面側それぞれには通気孔23a,23bが設けられており、測定対象である気体(酸素)がガラス管24内に円滑に流入して、酸素センサ素子1がその気体に晒されることで、雰囲気の酸素濃度を正確に測定できる。
【0110】
以上説明したように、セラミック焼結体の長手方向中央部にくびれ部を形成したセンサ素子に電圧を印加することで、そのくびれ部が赤熱するホットスポット現象を用いた酸素センサ素子について、くびれ部の長さと、センサ材料の電気的特性、センサ素子の温度分布等との関係性を解明した。
【0111】
その結果、センサ感度と省電力化を維持できる最適なくびれ長さを求めることができ、それによって、温度変化(低下)を踏まえて感度を最大にする酸素センサ素子の設計ができ、ホットスポット式の酸素センサ素子の小型・軽量化、低コスト化、および低消費電力化が可能となる。
【0112】
また、酸素センサ素子のセンシング層であるセラミック焼結体を厚さ方向の双方から断熱層で挟み込み、センシング層を極力外部に露出させない積層構造としたことでふく射熱を抑えることができ、外部ガス等による外乱に強くなるとともに、ホットスポット現象を用いた酸素センサ素子としてのセンサ感度を維持でき、併せて、断熱性の向上による省電力化が可能になる。
【0113】
<変形例>
上述した実施形態に係る酸素センサ素子において、センシング層と断熱層とするシート部材を個別に製造し、それらを積層してセンサ素子を作製しているが、断熱層となるシート部材の表面にセンサ材料であるNdBaCu、Nd1.4Ba1.6Cuを印刷(例えば、スクリーン印刷)してセンシング層を形成してもよい。こうすることで、センシング層を好ましい厚さである30~120μmにする場合、シート状に成形する場合に比べて、センシング層の作製が容易になる。
【0114】
上述した実施形態に係る酸素センサ素子において、センサ素子であるセラミック焼結体が、くびれ部を形成した中央部と、それに連続する他の部分(棒状部2a,2b)とを同じ厚さ(t1)としたが、これに限定されない。
【0115】
例えば、図21に示すように、センシング層25のくびれ部27の厚さt5を、くびれ部27の両端部分に連続して繋がる端部28a,28bの厚さt7よりも薄くなるように構成してもよい。こうすることで、端部28a,28bの電気抵抗を小さくして、それらの部位における発熱を抑制するとともに、ホットスポットが発生するくびれ部27での発熱量を確保できる。
【符号の説明】
【0116】
1 酸素センサ素子
2a,2b 棒状部
3a,3b,11a,11b 電極部
4a,4b 断熱層
5,15,25 センシング層(セラミック焼結体)
6a,6b ワイヤ
7,27 くびれ部
8,9 横断面
10 酸素センサ
22a,22b 導電キャップ
23a,23b 通気孔
24 保護管(ガラス管)
28a,28b 端部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21