IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-液体噴射装置 図1
  • 特開-液体噴射装置 図2
  • 特開-液体噴射装置 図3
  • 特開-液体噴射装置 図4
  • 特開-液体噴射装置 図5
  • 特開-液体噴射装置 図6
  • 特開-液体噴射装置 図7
  • 特開-液体噴射装置 図8
  • 特開-液体噴射装置 図9
  • 特開-液体噴射装置 図10
  • 特開-液体噴射装置 図11
  • 特開-液体噴射装置 図12
  • 特開-液体噴射装置 図13
  • 特開-液体噴射装置 図14
  • 特開-液体噴射装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011172
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240118BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240118BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240118BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/14 501
B41J2/01 401
B41J2/16 401
B41J2/14 611
B41J2/14 305
B41J2/01 403
B41J2/165 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112968
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】新宮 祐二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】原山 昌也
(72)【発明者】
【氏名】折井 宏充
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EC22
2C056EC38
2C056EC42
2C056EC53
2C056JA01
2C057AG07
2C057AG44
2C057AP60
2C057AR03
(57)【要約】
【課題】印刷動作を終了した後の所定期間において、印刷指示を受け付けた場合に速やかに印刷動作を実行する場合であっても、消費電力を低減させること。
【解決手段】液体噴射装置は、媒体に向かってノズルから液体を噴射する印刷動作を実行可能な液体噴射装置であって、前記印刷動作よりも単位期間当たりの消費電力が小さい第1モードと、前記第1モードよりも前記単位期間当たりの消費電力が小さい第2モードと、に移行可能であり、前記第2モードは、前記印刷動作が終了してから所定期間後に開始され、前記第1モードは、前記印刷動作が終了後、且つ、前記第2モードを開始する前に開始され、前記第1モードから前記印刷動作に移行するまでの期間は、前記第2モードから前記印刷動作に移行するまでの期間よりも短い。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に向かってノズルから液体を噴射する印刷動作を実行可能な液体噴射装置であって、
前記印刷動作よりも単位期間当たりの消費電力が小さい第1モードと、
前記第1モードよりも前記単位期間当たりの消費電力が小さい第2モードと、に移行可能であり、
前記第2モードは、前記印刷動作が終了してから所定期間後に開始され、
前記第1モードは、前記印刷動作が終了後、且つ、前記第2モードを開始する前に開始され、
前記第1モードから前記印刷動作に移行するまでの期間は、前記第2モードから前記印刷動作に移行するまでの期間よりも短い、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記ノズルから液体を噴射させるために駆動可能な駆動素子と、
前記駆動素子を駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成回路を含む1又は複数の回路と、
前記1又は複数の回路とは異なる第1回路と、
を備え、
前記第1モードでは、前記1又は複数の回路の動作を停止させ、
前記第2モードでは、前記1又は複数の回路の動作、及び、前記第1回路の動作を停止させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記ノズルが設けられたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの表面を含む噴射面に当接することで前記ノズルが開口する閉空間を形成可能なキャップと、
を更に備え、
前記印刷動作が終了した後に、前記閉空間が形成されるように前記キャップと前記噴射面との相対的な位置を変化させるキャッピング動作を実行し、
前記キャッピング動作の後に、前記第2モードを開始する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングで、前記第1モードを開始する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記駆動信号は、前記ノズルから液体が噴射されない程度に前記ノズル内の液体を揺らすように前記駆動素子を駆動させる微振動波形を含み、
前記印刷動作が終了してから前記キャッピング動作が終了するまでの間、前記微振動波形を前記駆動素子に供給する、
ことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記キャッピング動作が終了するタイミングよりも前に、前記第1モードを開始する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
制御部と、
記憶部と、を更に備え、
前記第1モードに移行しており、且つ、前記印刷動作を実行する場合、前記制御部が前記第1モードに移行する直前の前記液体噴射装置に関する状態を示す状態情報を前記記憶部から読み出す処理を、前記第1モードからの復帰動作と並列して実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記ノズルプレートは、導電性を有し、且つ、グランドに接続され、
前記ノズルプレートの表面は、撥液性を有し、
前記駆動素子は、圧電体及び前記圧電体を挟むようにして設けられた一対の電極を含む圧電素子であり、
前記液体噴射装置は、
前記駆動信号を前記圧電素子に供給するか否かを選択する選択回路と、
前記圧電素子が固定されるとともに導電性を有する支持板を含む振動板と、
前記ノズルプレートと前記振動板との間に配置されたシリコン単結晶基板からなる圧力室基板と、
を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット方式のプリンターに代表されるように、パーソナルコンピューター及びデジタルカメラ等のホストコンピューターから印刷指示を受け付けた場合、インク等の液体を噴射する印刷動作を実行する液体噴射装置が知られている。例えば、特許文献1には、印刷動作を実行し、印刷動作が終了した後の待機状態が所定期間継続すると、必要な部分へのみ電力を供給し、その他の部分に対しては、電力の供給を停止させる省電力モードに移行する液体噴射装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-160602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、待機状態に印刷指示を受け付けた場合に速やかに印刷動作を再実行することができるが、印刷動作が終了してから省電力モードに移行するまでの所定期間において電力が無駄に消費されるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る液体噴射装置は、媒体に向かってノズルから液体を噴射する印刷動作を実行可能な液体噴射装置であって、前記液体噴射装置は、前記印刷動作よりも単位期間当たりの消費電力が小さい第1モードと、前記第1モードよりも前記単位期間当たりの消費電力が小さい第2モードと、に移行可能であり、前記第2モードは、前記印刷動作が終了してから所定期間後に開始され、前記第1モードは、前記印刷動作が終了後、且つ、前記第2モードを開始する前に開始され、前記第1モードから前記印刷動作に移行するまでの期間は、前記第2モードから前記印刷動作に移行するまでの期間よりも短い、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】液体噴射装置100の構成例を示す概略図。
図2】メンテナンス機構4を説明するための図である。
図3】メンテナンス機構4を説明するための図である。
図4】液体噴射ヘッド200をX軸に沿って切断した場合の断面図。
図5図4に示す領域Ar1の拡大図。
図6】駆動信号生成回路2のブロック図。
図7】駆動回路242aの構成の一例を示すブロック図。
図8】選択回路245の構成を示す回路図。
図9】駆動信号Comを説明するためのタイミングチャートを示す図。
図10】液体噴射装置100の動作を示すフローチャートを示す図。
図11】液体噴射装置100の動作を示すフローチャートを示す図。
図12】印刷動作終了後の一連の処理の実行順序を説明するための図。
図13】印刷動作終了後に印刷指示を受け付けた場合の一連の処理の実行順序を説明するための図。
図14】第1変形例における印刷動作終了後の一連の処理の実行順序を説明するための図。
図15】第2変形例において印刷動作終了後の一連の処理の実行順序を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0008】
以下の説明は、便宜上、互いに交差するX軸、Y軸及びZ軸を適宜に用いて行う。また、X軸に沿う一方向がX1方向であり、X1方向と反対の方向がX2方向である。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向がY1方向及びY2方向である。また、Z軸に沿って互いに反対の方向がZ1方向及びZ2方向である。
【0009】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。言い換えれば、Z2方向は、重力方向である。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよく、鉛直な軸に対して傾斜してもよい。また、X軸、Y軸及びZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80度以上100度以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0010】
1.第1実施形態
1-1.液体噴射装置100の概略
図1は、液体噴射装置100の構成例を示す概略図である。液体噴射装置100は、液体の一例であるインクを液滴として媒体PPに噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体PPは、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルム又は布帛等の任意の印刷対象が媒体PPとして利用され得る。
【0011】
図1に示すように、液体噴射装置100は、駆動信号生成回路2と、液体容器14と、記憶部5と、制御部6と、搬送機構8と、移動機構7と、液体噴射ヘッド200と、メンテナンス機構4と、機械接点センサー11と、フォトセンサー12とを有する。
【0012】
液体容器14は、インクを貯留する容器である。液体容器14の具体的な態様としては、例えば、液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、及び、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器14に貯留されるインクの種類は任意である。本実施形態では、液体容器14は、液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジであり、液体噴射装置100は、6つの液体容器14を有することとして説明する。
【0013】
記憶部5は、半導体メモリー等の1又は複数の記憶回路である。半導体メモリーは、例えば、フラッシュメモリー等の不揮発性メモリーである。但し、記憶部5は、RAM等の揮発メモリーを有してもよい。RAMは、Random Access Memoryの略語である。記憶部5には、各種プログラム及び各種データが記憶される。
【0014】
制御部6は、例えば、CPU、SoC、ASIC、又は、FPGA等の1又は複数の処理回路である。CPUは、Central Processing Unitの略語である。SoCは、System-on-a-chipの略語である。ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略語である。FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略語である。制御部6は、記憶部5に記憶されたプログラムを実行するとともに当該データを適宜使用することにより各種制御を実現する。
【0015】
搬送機構8は、制御部6による制御のもとで、媒体PPをY2方向に搬送する。図1に示す例では、搬送機構8は、X軸に沿って長尺な搬送ローラーと、当該搬送ローラーを回転させるモーターと、を含む。なお、搬送機構8は、搬送ローラーを用いる構成に限定されず、例えば、媒体PPを外周面に静電力等により吸着させた状態で搬送するドラム又は無端ベルトを用いる構成でもよい。
【0016】
移動機構7は、制御部6による制御のもとで、液体噴射ヘッド200を、X1方向及びX2方向に往復動させる。本実施形態では、X1方向及びX2方向が主走査方向であり、Y2方向が副走査方向であることとする。このように、第1実施形態における液体噴射装置100は、X軸に沿って往復動させるシリアル方式の液体噴射装置である。図1に示すように、移動機構7は、液体噴射ヘッド200を収容するキャリッジ71と、キャリッジ71が固定された無端ベルト72と、キャリッジ71を往復移動させるための駆動源である不図示のキャリッジモーターとを具備する。
【0017】
液体噴射ヘッド200は、制御部6による制御のもとで、液体容器14から供給されたインクを複数のノズルNの夫々から媒体PPに向かってZ2方向に噴射する。複数のノズルNは、ノズル列Lnを構成する。本実施形態の例では、1つのノズル列Lnには、M個のノズルNが含まれることとして説明する。
【0018】
制御部6は、液体噴射ヘッド200の噴射動作を制御する。噴射動作とは、ノズルNから液体を噴射させるために圧電素子243を駆動することである。具体的には、制御部6は、液体噴射ヘッド200を制御するための指定信号SIと、駆動信号生成回路2を制御するための波形指定信号dComと、搬送機構8を制御するための信号と、移動機構7を制御するための信号等を生成する。
【0019】
波形指定信号dComとは、駆動信号Comの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号Comとは、図4で後述する圧電素子243を駆動するためのアナログの信号である。駆動信号生成回路2は、波形指定信号dComが規定する波形を有する駆動信号Comを生成する。圧電素子243は、「駆動素子」の一例である。
【0020】
指定信号SIとは、圧電素子243の動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、指定信号SIは、圧電素子243に対して駆動信号Comを供給するか否かを指定することで、圧電素子243の動作の種類を指定する。ここで、圧電素子243の動作の種類の指定とは、例えば、圧電素子243を駆動するか否かを指定したり、圧電素子243を駆動した場合に当該圧電素子243からインクが噴射されるか否かを指定したりすることである。
【0021】
制御部6は、まず、パーソナルコンピューター及びデジタルカメラ等のホストコンピューターから印刷指示を受け付けた場合、印刷指示に含まれる印刷データImgを、記憶部5に記憶させる。次に、制御部6は、記憶部5に記憶されている印刷データImg等の各種データに基づいて、指定信号SI、波形指定信号dCom、搬送機構8を制御するための信号、及び、移動機構7を制御するための信号等の各種制御信号を生成する。そして、制御部6は、各種制御信号と、自身の記憶回路に記憶されている各種データに基づいて、液体噴射ヘッド200に対する媒体PPの相対位置を変化させるように搬送機構8及び移動機構7を制御しつつ、圧電素子243が駆動されるように液体噴射ヘッド200を制御する。これにより、制御部6は、圧電素子243からのインクの噴射の有無、インクの噴射量、及び、インクの噴射タイミング等を調整し、印刷データImgに対応する画像を媒体PPに形成する印刷動作の実行を制御する。更に、制御部6は、ノズルNからインクが噴射されない程度にノズルN内のインクを揺らす微振動動作の実行を制御する。微振動動作は、印刷動作を実行する期間に行われる印刷内微振動動作と、印刷動作を実行する期間以外の期間で行われる印刷外微振動動作との2種類の微振動動作を含む。
【0022】
メンテナンス機構4は、液体噴射ヘッド200をメンテナンスするメンテナンス動作に利用される機構である。メンテナンス動作は、例えばフラッシング動作とクリーニング動作とワイピング動作とを含む。フラッシング動作は、後述する圧電素子243の駆動により複数のノズルNから、画像の形成に直接的には寄与しないインクを強制的に噴射する動作である。例えば、フラッシング動作では、メンテナンス機構4に含まれる不図示のフラッシングボックスにインクが噴射される。クリーニング動作は、不図示の加圧ポンプによって液体噴射ヘッド200の後述する圧力室275よりも上流のインクを加圧することで液体噴射ヘッド200の内部のインクを複数のノズルNから強制的に排出する加圧クリーニング動作、又は、詳しくは後述する吸引クリーニング動作である。液体容器14とノズルNとを連通する供給流路の途中には、当該供給流路を開閉可能なバルブが設けられていてもよい。ワイピング動作は、ゴム等の弾性部材、又は、織物及び不織布等の繊維部材等の払拭部材42で、ノズルNを有する面をワイピングする処理であり、ノズルNを有する面に付着したインクなどの汚れを除去するために行われる。ワイピング動作は、インクの排出後に行うようにしてもよく、またインクの排出とは別に行うようにしてもよい。
【0023】
図2及び図3は、メンテナンス機構4を説明するための図である。メンテナンス機構4は、クリーニング動作の実行時に複数のノズルNを封止するキャップ41と、キャップ41をZ軸に沿って移動させる昇降機構43と、吸引ポンプ44と、廃液タンク45と、キャップ41と廃液タンク45とを連通させる廃液流路46と、払拭部材42と、払拭部材42を移動させる機構と、を具備する。メンテナンス機構4は、これらの他に、前述した加圧ポンプやバルブ等を具備していてもよい。メンテナンス機構4は、更に、フラッシング動作により各ノズルNから噴射されるインクを受容する不図示のフラッシングボックスを有する。但し、フラッシングボックスを省略することで、キャップ41がフラッシングボックスの機能を兼用しても構わない。図2及び図3では、キャップ41がフラッシングボックスの機能を兼用する態様を図示してある。
【0024】
キャップ41は、廃液流路46に接続される吸引孔41dが形成された底壁41aと、底壁41aの外周部分からZ1方向に延設された側壁41bとを含み、底壁41a及び側壁41bによって画定された凹部形状を有する。側壁41bのZ1方向の先端には、可撓性であり環状のシール部材41cが設けられている。キャップ41は、ノズルNが設けられた噴射面FNにシール部材41cが当接することで複数のノズルNが開口する閉空間CSを形成可能である。図2及び図3では、液体噴射ヘッド200がメンテナンス機構4に対向する場合に、ノズルN付近の断面をY2方向からY1方向に見た状態を示してある。但し、図2及び図3では、図面の簡略化のため、液体噴射ヘッド200のうちノズルNと噴射面FNとのみを示し、メンテナンス機構4のうちキャップ41の断面と、廃液流路46のキャップ41付近の断面とを示し、メンテナンス機構4の他の要素の断面を省略してある。図2では、噴射面FNにシール部材41cが当接されているため、閉空間CSが形成される。一方、図3では、噴射面FNからシール部材41cが離間しており、閉空間CSが形成されておらず、複数のノズルNが大気に対して開放されている。以下の記載では、図2に示すような、噴射面FNにシール部材41cが当接されて閉空間CSが形成された状態を、「キャッピング状態」と記載することがある。
【0025】
昇降機構43は、例えば、偏心カム431と、偏心カム431を回転させるモーター等の駆動機構432とを有する。偏心カム431は、XZ平面に沿った楕円形状であり、楕円の中心からずれた回転軸AYを有する。偏心カム431は、キャップ41のZ2方向を向く面に当接する。駆動機構432によって偏心カム431が回転することにより、キャップ41がZ軸に沿う方向に沿って移動する。昇降機構43によって、閉空間CSが形成されるようにキャップ41と噴射面FNとの相対的な位置を変化させるキャッピング動作が実行可能である。本実施形態では、キャップ41を移動させることにより、キャップ41と噴射面FNとの相対的な位置を変化させるが、噴射面FNを移動させることにより、キャップ41と噴射面FNとの相対的な位置を変化させてもよい。メンテナンス動作により、液体噴射ヘッド200内のインクが良好な状態に維持される。
【0026】
吸引クリーニング動作は、複数のノズルNの下流からの吸引ポンプ44の吸引により、液体噴射ヘッド200の内部のインクを複数のノズルNから強制的に排出する動作である。図2及び図3に示すように、吸引ポンプ44は、廃液流路46の途中に設けられている。吸引クリーニング動作は、キャッピング状態、即ち閉空間CSが形成されている状態で実行される。吸引ポンプ44は、大気圧より低い圧力である負圧を閉空間CS内に発生させる。閉空間CS内に負圧が発生すると、当該負圧が複数のノズルNにも作用し、複数のノズルNからインクが排出される。複数のノズルNから排出されたインクは、廃液流路46を通って廃液タンク45に回収される。
【0027】
液体噴射装置100は、液体噴射ヘッド200、メンテナンス機構4、制御部6、移動機構7及び搬送機構8等を内部に収容可能な不図示の筐体を備える。筐体には、筐体の外部から筐体の内部に配置された液体容器14にアクセスするための開口と、当該開口を開閉可能な不図示の開閉カバーが設けられている。
【0028】
機械接点センサー11は、前述の開閉カバーの開閉状態を検出するセンサーである。液体噴射装置100の開閉カバーを開けることにより、液体容器14及び液体噴射ヘッド200が露出する。液体噴射装置100の開閉カバーを開けることにより、ユーザーが液体容器14を交換すること、及び、ユーザーが液体噴射ヘッド200を交換すること等が可能になる。機械接点センサー11は、例えば、印刷動作中に誤って、ユーザーによって液体噴射装置100の開閉カバーが開けられないかを監視するために用いられる。機械接点センサー11は、開閉カバーが開いているか否かを示す情報を、制御部6に出力する。そして、印刷動作中に開閉カバーが開かれたことを機械接点センサー11が検出した場合、制御部6は直ちに移動機構7、搬送機構8及び液体噴射ヘッド200等を停止させることで印刷動作を中断する。つまり、機械接点センサー11は、不用意なタイミングでユーザーが液体容器14や液体噴射ヘッド200に触れるのを防止する。
【0029】
フォトセンサー12は、キャリッジ71の位置、及び、媒体PPの位置を検出するセンサーである。フォトセンサー12は、キャリッジ71の主走査方向における位置に関する情報、及び、媒体PPの位置に関する情報を、制御部6に出力する。
【0030】
1-2.液体噴射ヘッド200の構成
図4は、液体噴射ヘッド200をX軸に沿って切断した場合の断面図である。図5は、図4に示す領域Ar1の拡大図である。液体噴射ヘッド200は、Z2方向に向かって順番に、ホルダー210と、シール部材220と、回路基板230と、複数のアクチュエーターユニット240と、ケース250と、振動板260と、圧力室基板270と、ノズルプレート280と、カバー290とを備える。液体噴射ヘッド200は、これらの各構成部材が積層されて、不図示のネジによって締結又は接着剤により接着される。但し、図4では、図示の煩雑化を防ぐため、振動板260と、圧力室基板270と、ノズルプレート280とを一つの矩形として表示してある。
【0031】
ホルダー210は、キャリッジ71と協働して液体容器14を保持し、液体容器14から供給されるインクを、内部に形成された流路219を介してケース250へと流入させる。ホルダー210は、本体部215と、シール211と、フィルター213と、流路プレート218とを備える。
【0032】
本体部215は、液体容器14が装着される装着部214と、流路219の一部を構成する流路219aとを有する。流路219は、流路219a、流路219b、及び、流路219cによって構成される。装着部214に液体容器14が装着され、装着部214に設けられた不図示の係合穴に、液体容器14に設けられた不図示の爪部が係合することにより、液体容器14がホルダー210に固定される。装着部214は、X軸に沿って6つ形成されている。複数の装着部214の夫々は、Y軸と平行に設けられた壁216によって仕切られている。流路219aは、Z2方向に突出する円筒状の部材によって画定される。シール211は、環状の板状部材であり、Z軸に沿って貫通する貫通孔を備える。本体部215のZ2方向の面には、後述の流路219bを画定する不図示の溝が設けられている。
【0033】
フィルター213は、液体容器14から供給されるインクに含まれる気泡や異物を除去する。流路プレート218は、X軸に沿って長尺な板状の部材であり、流路219の一部を構成する流路219bを画定する溝と、流路219の一部を構成する流路219cを画定する貫通孔とを有する。流路219bは、流路プレート218のZ1方向を向く面においてX軸に沿って延びる溝と、本体部215のZ2方向を向く面においてX軸に沿って延びる溝と、を合わせて封止することにより形成されている。流路219bは、一端で流路219aと連通し、他端で流路219cと連通する。流路219cは、流路219bの他端が位置する部分において流路プレート218をZ軸に沿って貫通する貫通孔である。
【0034】
以上の説明の通り、流路219aは、液体容器14から供給されるインクを流路219bに流入させ、流路219bは、流路219aから流入するインクを、流路219cに流入させる。そして、流路219cは、流路219bから流入するインクを、後述のシール部材220のインク導入口221を介してケース250に形成された流路253へ流入させる。
【0035】
シール部材220は、エラストマーといった弾性部材により構成されたX軸に沿って長尺な略長方形の板状の部材である。シール部材220には、インク導入口221が形成されている。インク導入口221は、シール部材220をZ軸に沿って貫通する貫通孔であり、本体部215の流路219と、図5に示す流路パイプFPの流路253とを連通させ、液体容器14から供給されるインクをケース250の内部へ流入させる。液体噴射ヘッド200の各構成部材が積層されて締結されると、シール部材220は、ホルダー210とケース250の流路パイプFPとの間で所定の押圧力が付与された状態で挟持されて、ホルダー210の流路219と流路パイプFPの流路253との間を液密にシールする。
【0036】
回路基板230は、X軸に沿って長尺な略長方形の板状の部材である。図4に示すように、回路基板230は、ホルダー210とケース250との間に配置され、シール部材220のZ2方向に隣接して配置される。回路基板230は、例えば、接着剤によってケース250のZ1方向を向く面に固定される。回路基板230は、アクチュエーターユニット240が備える後述の圧電素子243を駆動するための回路素子及び配線等が集積されたプリント基板である。回路基板230は、不図示の回路素子と、不図示の接続端子と、貫通孔231と、開口233と、コネクターCnとを備える。
【0037】
貫通孔231は、回路基板230をZ軸に沿って貫通する貫通孔である。貫通孔231は、Z2方向にみて、シール部材220のインク導入口221と重なる位置に設けられ、且つ、ケース250が備える後述の流路パイプFPと重なる位置に設けられる。
【0038】
開口233は、回路基板230をZ軸に沿って貫通し、Y軸と平行に設けられた貫通孔である。開口233は、X軸に沿って複数並んで設けられている。開口233には、アクチュエーターユニット240のCOF基板242が挿入される。COF基板242のZ1方向の先端部分であって開口233からZ1方向に突出する部分は、X1方向又はX2方向に折り曲げられて、回路基板230に設けられた接続端子に接続される。
【0039】
コネクターCnは、回路基板230のX軸の両端部におけるZ2方向を向く面に設けられている。コネクターCnには、フレキシブルフラットケーブル等の不図示のケーブルが接続される。回路基板230は、コネクターCn及びケーブルを介して制御部6に接続される。
【0040】
アクチュエーターユニット240は、COF基板242と、固定板241と、圧電素子243とを備える。COFは、Chip on Filmの略語である。COF基板242には、圧電素子243を駆動するための駆動回路242aが設けられている。COF基板242のZ2方向の端部は、圧電素子243に接続される。COF基板242のZ1方向の端部は、回路基板230の開口233に挿入されて、回路基板230に設けられた接続端子に接続する。圧電素子243は、圧電効果を利用した受動素子である圧電素子を構成し、駆動信号生成回路2からの駆動信号Comに応じて駆動する。固定板241は、後述の収容空間255を画定するケース250の壁面に固定されている。圧電素子243は、Z2方向の端部が自由端となるように後述の振動板260の支持板260bに固定され、Z1方向の端部が固定端となるように固定板241のZ2方向の端部に固定される。
【0041】
ケース250は、回路基板230と振動板260との間に設けられている。ケース250は、例えば、ポリプロピレン等の合成樹脂により形成されている。ケース250は、図5に示す収容空間255と、流路パイプFPとを備える。収容空間255は、Y軸に沿って設けられ、Z1方向に開口する凹部により形成されている。収容空間255は、COF基板242、固定板241、及び、圧電素子243を収容する。流路パイプFPは、Z1方向に突出する円筒状の部材である。流路パイプFPは、シール部材220のインク導入口221及び振動板260が備える後述のインク導入口261を連通する。すなわち、流路パイプFPは、液体容器14から供給されるインクをインク導入口261へ流入させる流路として機能する。
【0042】
振動板260は、X軸に沿って長尺な略長方形の板状の部材である。振動板260は、ケース250と圧力室基板270との間に設けられている。振動板260は、圧力室基板270のZ1方向を向く面を塞ぐ壁面として機能する。振動板260は、圧電素子243によって弾性変形する。これにより、後述の圧力室275からノズルNを介してインクが噴射される。振動板260は、例えば、樹脂フィルム等の弾性部材からなる弾性膜260aと、弾性膜260aを支持するためのステンレス鋼等の金属材料からなる支持板260bとが積層されることにより形成される。弾性膜260aは、支持板260bのZ2方向を向く面に接合されることで支持される。振動板260は、インク導入口261を備える。インク導入口261は、振動板260をZ方向に貫通する貫通孔である。インク導入口261は、流路パイプFPと、圧力室基板270が備える流路273と連通し、液体容器14から供給されるインクを流路273へ流入させる。
【0043】
圧力室基板270は、振動板260の外形と一致する外形形状を有する板状の部材である。圧力室基板270は、ケース250とノズルプレート280との間に設けられている。圧力室基板270は、流路273を備える。また、圧力室基板270は、圧力室275を備える。流路273及び圧力室275についての詳細な説明は、後述する。本実施形態において、圧力室基板270は、シリコン単結晶基板により形成される。なお、圧力室基板270は、複数の基板が積層された構成としてもよい。
【0044】
ノズルプレート280は、振動板260及び圧力室基板270の外形と略一致する外形形状を有する薄板状の部材である。ノズルプレート280は、圧力室基板270に対してZ2方向に設けられている。ノズルプレート280は、Y軸に沿って並ぶ複数のノズルNからなるノズル列Lnを複数備える。ノズルNは、ノズルプレート280をZ軸に沿って貫通する貫通孔であり、媒体PPに対してインクを噴射するための貫通孔である。複数のノズル列Lnは、X軸に沿って並んで配置されている。各ノズル列Lnは、圧力室基板270における圧力室275に対応する位置に設けられている。ノズルプレート280は、ノズルNが設けられていない部分において、圧力室基板270のZ2方向を向く面を塞ぐ壁面として機能する。ノズルプレート280は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料により形成される。ノズルプレート280のZ2方向を向く表面F1には、インクを弾く撥液性を有する撥液膜が形成される。
【0045】
カバー290は、振動板260、圧力室基板270及びノズルプレート280を収容する枠体である。カバー290は、例えば、導電性を有する金属材料により形成される。カバー290には、カバー290に振動板260、圧力室基板270及びノズルプレート280が収容されたときに、ノズルプレート280の表面F1を露出する開口が設けられている。カバー290は、不図示のネジにより、ケース250及び回路基板230を間に介してホルダー210に固定される。ここで、噴射面FNは、ノズルプレート280の表面F1を含む面である。具体的には、噴射面FNは、ノズルプレート280の表面F1のみによって構成されていてもよいし、ノズルプレート280の表面F1及びカバー290のZ2方向を向く表面F2を含む面であってもよい。本実施形態の噴射面FNは、ノズルプレート280の表面F1及びカバー290のZ2方向を向く表面F2を含む。
【0046】
上述のケース250、振動板260、圧力室基板270及びノズルプレート280は、夫々、接着剤により固着される。具体的には、ノズルプレート280のZ1方向を向く面と圧力室基板270のZ2方向を向く面とが、接着剤により貼り合わされる。また、圧力室基板270のZ1方向を向く面と振動板260のZ2方向を向く面とが、接着剤により貼り合わされる。振動板260のZ1方向を向く面とケース250のZ2方向を向く面とが、接着剤により貼り合わされる。
【0047】
ホルダー210に形成された流路219は、ケース250に形成された流路253と連通する。流路253は、圧力室基板270の流路273と連通する。圧力室基板270は、流路273のX2方向で圧力室275を画定する。圧力室275は、Z1方向から見て、圧力室基板270に形成された凹部がZ1方向から弾性膜260aによって封止されることにより構成されている。すなわち、圧力室275のZ1方向を向く面は、弾性膜260aにより形成されており、圧電素子243の変位に応じて変位することによって、圧力室275内の容積を変化させる。図示は省略するが、圧力室275は、ノズル列Lnに対応してY軸に沿って設けられている。圧力室275は、流路273及びノズルNと連通しており、流路273から圧力室275へ流入されたインクは、圧力室275内の容積を変化させることによってノズルNから噴射させられる。従って、流路219、流路253及び流路273は、圧力室275を介して、一つのノズルNに接続される。
【0048】
1-3.駆動信号生成回路2の構成
図6は、駆動信号生成回路2のブロック図である。駆動信号生成回路2は、増幅制御信号生成回路20と、駆動信号出力回路25とを有する。増幅制御信号生成回路20は、波形指定信号dComに基づいて、増幅制御信号Hgd及びLgdを生成する。増幅制御信号生成回路20は、DACインターフェース21と、DAC部22と、変調部23と、ゲート駆動部24とを含む。DACは、Digital to Analog Converterの略語である。
【0049】
DACインターフェース21には、制御部6から供給される波形指定信号dComと、制御部6から出力されたクロック信号CLKとが入力される。DACインターフェース21は、クロック信号CLKに及び波形指定信号dComに基づいて、駆動信号Comの波形を規定する、例えば10bitの駆動データdAを生成する。DAC部22には、駆動データdAが入力される。DAC部22は、入力される駆動データdAをアナログ信号の基駆動信号aAに変換する。この基駆動信号aAは、駆動信号Comの増幅前の目標となる信号である。変調部23には、基駆動信号aAが入力される。変調部23は、基駆動信号aAにパルス幅変調を施した変調信号Msを出力する。ゲート駆動部24には、電圧VHV、電圧GVDD、及び、変調信号Msが入力される。電圧VHVは、例えば、直流42ボルトの電圧である。電圧GVDDは、増幅制御信号生成回路20に含まれる電圧生成部30から出力される。ゲート駆動部24は、入力される変調信号Msを電圧GVDDに基づき増幅するとともに、電圧VHVに基づいて高振幅論理にレベルシフトした増幅制御信号Hgdと、入力される変調信号Msの論理レベルを反転し、電圧GVDDに基づき増幅した増幅制御信号Lgdとを生成する。すなわち、増幅制御信号Hgdと増幅制御信号Lgdとの論理レベルは互いに排他的となる。増幅制御信号Hgd及び増幅制御信号Lgdは、駆動信号出力回路25に入力される。
【0050】
駆動信号出力回路25は、増幅制御信号Hgd及び増幅制御信号Lgdに基づき動作することで駆動信号Comを出力する。駆動信号出力回路25は、トランジスター2501、トランジスター2502、コイル2503、及び、コンデンサー2504を含む。なお、トランジスター2501、トランジスター2502の夫々は、例えばNチャンネル型のFETである。FETは、Field Effect Transistorの略語である。
【0051】
トランジスター2501のドレイン端子には、電圧VHVが供給される。トランジスター2501のゲート端子には増幅制御信号Hgdが供給される。トランジスター2501のソース端子はトランジスター2502のドレイン端子と電気的に接続される。また、トランジスター2502のゲート端子には、増幅制御信号Lgdが供給される。トランジスター2502のソース電極はグランドに接続される。以上のように接続されたトランジスター2501は、増幅制御信号Hgdに応じて動作し、トランジスター2502は、増幅制御信号Lgdに応じて動作する。すなわち、トランジスター2501とトランジスター2502とは排他的にオンとなる。これにより、トランジスター2501のソース端子と、トランジスター2502のドレイン端子との接続点には、変調信号Msを電圧VHVに基づいて増幅した増幅変調信号が生成される。すなわち、トランジスター2501とトランジスター2502とが増幅回路として機能する。
【0052】
コイル2503の一端は、トランジスター2501のソース端子及びトランジスター2502のドレイン端子と共通に接続される。また、コイル2503の他端は、コンデンサー2504の一端と接続される。コンデンサー2504の他端は、グランドに接続される。すなわち、コイル2503とコンデンサー2504とは、ローパスフィルターを構成する。そして、当該ローパスフィルターに増幅変調信号が供給されることで、増幅変調信号が復調され、駆動信号Comが生成される。以上の通り、駆動信号Comは、駆動信号出力回路25のスイッチング動作、より具体的にはトランジスター2501とトランジスター2502のスイッチング動作により生成された信号である。印刷動作及び印刷外微振動動作を実行する期間において生成される駆動信号Comは、正弦波交流又は非正弦波交流であり、本実施形態では台形波を含む信号である。駆動信号出力回路25により生成された駆動信号Comは、駆動信号生成回路2から出力され、駆動回路242aに入力される。駆動回路242aの構成を、図7を用いて説明する。
【0053】
1-4.駆動回路242aの構成
図7は、駆動回路242aの構成の一例を示すブロック図である。液体噴射ヘッド200は、駆動信号生成回路2から駆動信号Comが供給される内部配線LHaと、グランド電位GNDに接続される内部配線LHdと、を備える。
【0054】
図7の例では、1つの駆動回路242aが、1つのノズル列Lnを構成するM個のノズルNの夫々に対応するM個の圧電素子243を制御する。以下では、M個の圧電素子243の各々を区別するために、順番に、1段、2段、…、M段と称することがある。また、m段の圧電素子243を、圧電素子243[m]と称する場合がある。変数mは、1以上M以下を満たす整数である。また、液体噴射装置100の構成要素や信号等が、圧電素子243に対応するものである場合には、当該構成要素や信号等を表すための符号に、段数mに対応していることを示す添え字[m]を付して表現することがある。
【0055】
図7に示すように、1からMまでの全てのmについて、圧電素子243[m]は、第1電極Qu[m]と、第2電極Qd[m]と、第1電極Qu[m]及び第2電極Qd[m]の間に設けられた圧電体Qm[m]と、を有する。言い換えれば、第1電極Qu[m]及び第2電極Qd[m]は、圧電体Qm[m]を挟むようにして設けられた一対の電極である。内部配線LHdは、1からMまでの全てのmについて、第1電極Qu[m]に電気的に接続される。なお、第1電極Qu及び第2電極Qdは、「圧電体を挟むようにして設けられた一対の電極」の一例である。
【0056】
図7に示すように、駆動回路242aは、駆動信号Comを駆動信号Voutとして圧電素子243[1]~243[M]に供給するか否かを選択するM個の選択回路245[1]~245[M]と、M個の選択回路245の接続状態を指定する接続状態指定回路2421と、を備える。接続状態指定回路2421は、制御部6から供給される指定信号SIと、クロック信号CLKと、駆動信号Comに含まれる波形の周期Tuを規定するラッチ信号LATと、周期Tuに含まれる期間T1及び期間T2を規定するチェンジ信号CHとに基づいて、M個の選択回路245[1]~245[M]をオン又はオフの状態に指定する接続状態指定信号SL[1]~SL[M]を生成する。M個の選択回路245のうちの任意の一つの選択回路245の構成について、図8を用いて説明する。
【0057】
図8は、選択回路245の構成を示す回路図である。図8に示すように、選択回路245は、インバーター2451及びトランスミッションゲート2452を有する。また、トランスミッションゲート2452は、n型のMOSトランジスターであるトランジスター2455及びp型のMOSトランジスターであるトランジスター2456を含む。MOSは、Metal Oxide Semiconductorの略語である。
【0058】
接続状態指定信号SLは、接続状態指定回路2421からトランジスター2455のゲート端子に供給される。また接続状態指定信号SLは、インバーター2451によって論理反転されて、トランジスター2455のゲート端子にも供給される。トランジスター2455のドレイン端子及びトランジスター2456のソース端子は、一端である入力端子TG-Inに接続される。入力端子TG-Inから駆動信号Comが入力される。そして、トランジスター2455及びトランジスター2456が、接続状態指定信号SLに従ってオン又はオフに制御されることで、トランジスター2455のソース端子及びトランジスター2456のドレイン端子が共通に接続される他端である出力端子TG-Outから駆動信号Comが駆動信号Voutとして出力される。出力端子TG-Outが圧電素子243の第2電極Qdと電気的に接続される。なお、以下の説明において、トランジスター2455及びトランジスター2456が導通状態に制御されている場合をオンと称し、トランジスター2455及びトランジスター2456が非導通状態に制御されている場合をオフと称する場合がある。以上の通り、選択回路245は、接続状態指定信号SLによってオンとオフとを切り替えるスイッチング動作が可能であり、接続状態指定信号SLによって選択回路245がオンの状態である場合、入力端子TG-Inから入力された駆動信号Comは、駆動信号Voutとして出力端子TG-Outから出力され、接続状態指定信号SLによって選択回路245がオフの状態である場合、入力端子TG-Inから入力された駆動信号Comは、出力端子TG-Outから出力されない。
【0059】
説明を図7に戻す。1からMまでの任意の整数mについて、選択回路245[m]は、接続状態指定信号SL[m]に応じて、内部配線LHaと、圧電素子243[m]の第2電極Qd[m]と、の導通及び非導通を切り替える。例えば、選択回路245[m]は、接続状態指定信号SL[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。圧電素子243[m]の第1電極Qu[m]は、グランド電位GNDに接続される。圧電素子243[m]は、駆動信号Voutとグランド電位GNDとの電位差に応じて駆動する。ノズルN[m]は、この電位差に応じた量のインクを噴射する。
【0060】
1-5.駆動信号Com
本実施形態において、液体噴射装置100が印刷動作を実行する期間及び印刷外微振動動作を実行する期間は、1以上の周期Tuを含む。ある周期Tuにおける液体噴射装置100の動作について、図9を用いて説明する。
【0061】
図9は、駆動信号Comを説明するためのタイミングチャートである。図9の例示では、液体噴射ヘッド200に供給される駆動信号Comと、ラッチ信号LATと、チェンジ信号CHと、について例示する。
【0062】
図9に示すように、制御部6は、パルスPlsLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御部6は、パルスPlsLの立ち上がりから次のパルスPlsLの立ち上がりまでの期間として、周期Tuを規定する。周期Tuは、媒体PPに新たなドットが形成される周期である。また、制御部6は、パルスPlsCを有するチェンジ信号CHを出力する。これにより、制御部6は、パルスPlsLの立ち上がりからパルスPlsCの立ち上がりまでの期間T1と、パルスPlsCの立ち上がりから次のパルスPlsLの立ち上がりまでの期間T2と、を規定する。即ち、チェンジ信号CH及びラッチ信号LATによって、周期Tuは、期間T1と期間T2とに分割される。
【0063】
指定信号SIは、ラッチ信号LAT及びチェンジ信号CHによって指定される期間T1及び期間T2ごとの圧電素子243[1]~243[M]の駆動の態様を指定する、個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む。そして、制御部6は、各周期Tuの開始に先立って、個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む指定信号SIを、クロック信号CLKに同期させて接続状態指定回路2421に供給する。この場合、接続状態指定回路2421は、当該周期Tuにおいて、1からMまでの全てのmについて、個別指定信号Sd[m]に基づいて接続状態指定信号SL[m]を生成する。1からMまでの全てのmについて、個別指定信号Sd[m]は、期間T1及び期間T2の夫々において、圧電素子243[m]に対して、駆動信号Comによる駆動又は非駆動を指定する信号である。
【0064】
駆動信号生成回路2は、噴射波形P1及び微振動波形P2を有する駆動信号Comを出力する。駆動信号Comは、印刷動作を実行する期間及び印刷外微振動動作を実行する期間に出力される。噴射波形P1は、ノズルNからインクが噴射される程度にノズルN内のインクを揺らすように圧電素子243を駆動させる波形である。微振動波形P2は、ノズルNからインクが噴射されない程度にノズルN内のインクを揺らすように圧電素子243を駆動させる波形である。液体噴射装置100の設計者は、噴射波形P1の最高電位VH1から最低電位VL1までの電位差が、微振動波形P2の基準電位V0から最低電位VL2までの電位差よりも大きくなるように、噴射波形P1及び微振動波形P2を定める。最高電位VH1は、基準電位V0より高い。最低電位VL1及び最低電位VL2は、基準電位V0より低い。
【0065】
印刷動作を実行している期間では、画像を媒体PPに形成するのに必要なノズルNに対応する圧電素子243[m]に対して噴射波形P1が供給される。また、印刷動作を実行している期間では、前述した印刷内微振動動作が実行されてもよい。印刷内微振動動作は、印刷動作を実行している期間、且つ、周期Tuにおいて、噴射波形P1が供給されていない圧電素子243[m]に対して微振動波形P2を供給する。これにより、印刷動作を実行している期間において、噴射波形P1が一定期間供給されない圧電素子243[m]に対応するノズルN及び圧力室275内のインクの増粘を低減することができる。
印刷外微振動動作では、印刷動作を実行している期間以外のある期間において、全ての圧電素子243に対して微振動波形P2を供給する。本実施形態では、ある期間は、印刷動作が終了した後から後述するヘッド省電力モードが開始されるまでの期間に相当する。
【0066】
個別指定信号Sd[m]が圧電素子243[m]に対して、噴射波形P1による駆動を指定する場合、接続状態指定回路2421は、期間T1の開始直後に供給する接続状態指定信号SL[m]をハイレベルに設定する。ハイレベルに設定された接続状態指定信号SL[m]が選択回路245[m]に供給されると、選択回路245[m]は、入力端子TG-Inに入力された信号を出力端子TG-Outから出力するオン状態になる。選択回路245[m]のオン状態は、ローレベルに設定された接続状態指定信号SL[m]が選択回路245[m]に供給されるまで維持される。期間T1において選択回路245[m]がオン状態である場合、圧電素子243[m]は、期間T1において噴射波形P1により駆動されてインクを噴射する。これにより、ノズルN[m]は、インクを噴射し、媒体PPにはドットが形成される。
【0067】
個別指定信号Sd[m]が圧電素子243[m]に対して、噴射波形P1による非駆動を指定する場合、接続状態指定回路2421は、期間T1の開始直後に供給する接続状態指定信号SL[m]をローレベルに設定する。ローレベルに設定された接続状態指定信号SL[m]が選択回路245[m]に供給されると、選択回路245[m]は、入力端子TG-Inに入力された信号を出力端子TG-Outから出力しないオフ状態になる。選択回路245[m]のオフ状態は、ハイレベルに設定された接続状態指定信号SL[m]が選択回路245[m]に供給されるまで維持される。期間T1において選択回路245[m]がオフ状態である場合、圧電素子243[m]は、期間T1において非駆動となりノズルN[m]からインクは噴射されない。
【0068】
個別指定信号Sd[m]が圧電素子243[m]に対して、微振動波形P2による駆動を指定する場合、接続状態指定回路2421は、期間T2の開始直後に供給する接続状態指定信号SL[m]をハイレベルに設定する。期間T2において選択回路245[m]がオン状態である場合、圧電素子243[m]は、期間T2において微振動波形P2により駆動されて、ノズルN[m]からインクが噴射されない程度にノズルN[m]内のインクを揺らす。
【0069】
個別指定信号Sd[m]が圧電素子243[m]に対して、微振動波形P2による非駆動を指定する場合、接続状態指定回路2421は、期間T2の開始直後に供給する接続状態指定信号SL[m]をローレベルに設定する。期間T2において選択回路245[m]がオフ状態である場合、圧電素子243[m]は、期間T2において非駆動となりノズルN[m]内のインクは揺らされない。
【0070】
なお、本実施形態では、駆動信号Comは、期間T1において噴射波形P1を含み、期間T2において微振動波形P2を含んでいるが、これに限られない。駆動信号Comは、期間T1において微振動波形P2を含み、期間T2において噴射波形P1を含んでいてもよい。
【0071】
1-6.印刷動作後の消費電力について
ホストコンピューターからの印刷指示に速やかに応答しつつ、液体噴射装置100の消費電力を削減するため、印刷動作を実行した後の待機状態が一定期間継続すると、必要な部分へのみ電力を供給し、その他の部分に対しては、電力の供給を停止させる省電力モードに移行する比較態様が考えられる。しかしながら、比較態様では、待機状態に印刷指示を受け付けた場合に速やかに印刷動作を再実行することができるが、印刷動作が終了してから省電力モードに移行するまでの所定期間において電力が無駄に消費されるという問題がある。
【0072】
そこで、本実施形態に係る液体噴射装置100の動作モードは、2つの省電力モードとして、ヘッド省電力モードとプリンター省電力モードとを有する。また、2つの省電力モード以外のモードを、印刷可能モードと記載することがある。印刷可能モードでは、印刷指示を受け付けた場合に、印刷動作を即時実行することが可能である。ヘッド省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力は、印刷動作における液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力よりも小さい。プリンター省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力は、ヘッド省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力よりも小さい。単位期間は、ヘッド省電力モードが実行される期間及びプリンター省電力モードが実行される期間の夫々よりも短い期間である。また、ヘッド省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間は、プリンター省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間よりも短い。液体噴射装置100は、印刷動作を終了した後、印刷可能モードからヘッド省電力モードに移行し、駆動信号生成回路2及び駆動回路242aの動作を停止させる。駆動信号生成回路2の動作を停止させるとは、駆動信号出力回路25のスイッチング動作を停止させることで、駆動信号Comを生成しないことである。本実施形態では、駆動信号出力回路25のスイッチング動作が停止されると、駆動信号出力回路25は、駆動信号Comの代わりにリップル(高周波の交流成分)を含まない一定の直流電圧の信号を出力する。駆動信号出力回路25のスイッチング動作を停止させることにより、ヘッド省電力モードにおいて消費電力を低下させることができる。また、駆動回路242aの動作を停止させるとは、印刷動作を終了したタイミング、又は、印刷動作が終了した後に実行される印刷外微振動動作を終了したタイミングでオン状態である選択回路245に対してローレベルに設定された接続状態指定信号SLを供給することで、選択回路245をオフにする動作である。駆動回路242aを停止させることにより、選択回路245は、入力端子TG-Inに入力された信号を出力端子TG-Outに出力しないため、ヘッド省電力モードにおいて消費電力を低下させることができる。そして、液体噴射装置100は、印刷動作を終了してから所定期間後にプリンター省電力モードに移行する。所定期間は、印刷動作が終了してからプリンター省電力モードが開始されるまでの期間である。所定期間は、液体噴射装置100のユーザーが任意に設定可能な設定期間に、印刷動作が終了してから印刷動作の終了後に実行されるキャッピング動作が終了するまでの期間を加えた期間である。設定期間は、例えば、1分から60分までの期間である。印刷動作が終了してからキャッピング動作が終了するまでの期間は、例えば、7秒間である。なお、ヘッド省電力モードは、「第1モード」の一例である。プリンター省電力モードは、「第2モード」の一例である。
【0073】
ヘッド省電力モードは、液体噴射ヘッド200内の駆動回路242aの動作と、駆動信号生成回路2の動作とを停止するモードであるともいえる。ヘッド省電力モードでは、印刷動作、換言すれば印刷可能モードで動作する駆動回路242aと駆動信号生成回路2との動作を停止させるため、ヘッド省電力モードは、印刷動作、換言すれば印刷可能モードよりも単位期間当たりの消費電力が小さい。
【0074】
プリンター省電力モードは、ヘッド省電力モードで動作を停止する回路の動作と、液体噴射装置100が有する複数の回路のうち、駆動回路242a及び駆動信号生成回路2とは異なる一部の回路の動作を停止するモードであるともいえる。当該駆動回路242a及び駆動信号生成回路2とは異なる一部の回路の動作を停止させるとは、該当の回路への電源供給を停止させる、ヘッド省電力モードよりも電源から該当の回路へ供給される電圧を低下させる、及び、ヘッド省電力モードよりもクロック周波数を低下させる、の少なくとも何れかを実行することである。
【0075】
プリンター省電力モードで動作を停止する駆動回路242a及び駆動信号生成回路2とは異なる回路は、例えば、制御部6、キャリッジモーターを駆動するための駆動回路、搬送機構8を駆動するための駆動回路、メンテナンス機構4に含まれる1又複数の装置を駆動するための1又は複数の駆動回路、及び、不図示の液晶パネルに対して電気信号を供給するための駆動回路等である。
【0076】
プリンター省電力モードでは、ヘッド省電力モードよりも制御部6のクロック周波数を低下させてもよい。
また、プリンター省電力モードでは、キャリッジモーターを駆動するための駆動回路や搬送機構8を駆動するための駆動回路への電源供給を停止する、又は、電源から当該駆動回路へ供給すされる電源電圧を低下させる、の何れかを実行してもよい。
【0077】
メンテナンス機構4に含まれる1又は複数の装置は、例えば、加圧ポンプ及び吸引ポンプ44の一方又は両方、バルブ、キャップ41を移動させる昇降機構43、及び、払拭部材42を移動させる機構の少なくとも1つの装置である。つまり、メンテナンス機構4に含まれる1又は複数の装置を駆動するための1又は複数の駆動回路は、例えば、加圧ポンプ及び吸引ポンプ44の一方又は両方、バルブ、キャップ41を移動させる昇降機構43、及び、払拭部材42を移動させる機構の少なくとも1つを駆動するための1又は複数の駆動回路である。プリンター省電力モードでは、当該1又は複数の駆動回路への電源供給を停止する、又は、ヘッド省電力モードよりも電源から当該1又は複数の駆動回路へ供給される電源電圧を低下させるようにしてもよい。
【0078】
液晶パネルは、ユーザーからの指示を受け付けること、及び、液体噴射装置100に関する情報をユーザーに表示することの少なくとも一方が可能である。プリンター省電力モードでは、液晶パネルに対して電気信号を供給するための駆動回路への電源供給を停止させる、又は、ヘッド省電力モードよりも電源から当該駆動回路へ供給される電源電圧を低下させることによって、液晶パネルのバックライト等の光源を消灯させるようにしてもよい。
【0079】
一方、プリンター省電力モードでも動作を継続する回路は、例えば、機械接点センサー11を構成する回路及びフォトセンサー12を構成する回路である。
【0080】
このように、プリンター省電力モードでは、ヘッド省電力モードでは動作している回路の動作も停止させるため、プリンター省電力モードでは、単位期間当たりの消費電力がヘッド省電力モードよりも小さい。なお、駆動信号生成回路2と駆動回路242aとが、「駆動信号生成回路を含む1又は複数の回路」の一例である。制御部6、キャリッジモーターを駆動するための駆動回路、メンテナンス機構4に含まれる1又は複数の装置を駆動するための1又は複数の駆動回路、及び、液晶パネルに対して電気信号を供給するための駆動回路のうち任意の一つが、「第1回路」の一例である。
【0081】
1-7.印刷動作後の撥液膜の劣化について
ホストコンピューターからの印刷指示に速やかに応答しつつ、液体噴射装置100の消費電力を削減するため、印刷動作を実行した後の待機状態が一定期間継続すると、必要な部分へのみ電力を供給し、その他の部分に対しては、電力の供給を停止させる省電力モードに移行する比較態様が考えられる。しかしながら、この比較態様では、印刷動作後から省電力モードに移行するまでに、噴射面FNに形成された撥液膜が劣化する場合がある。撥液膜が劣化すると、インクの噴射性能が低下する可能性がある。例えば、撥液膜が劣化して噴射面FNの一部において金属材料の部分が露出することにより、この金属材料の部分にインクが付着する。噴射面FNの一部にインクが付着することにより、インクの噴射量が減少してドットサイズの異常が発生したり、インクの噴射方向が変更して、媒体PPにおけるドットの位置の異常が発生したりすることがある。更に、噴射面FNの一部にインクが滞留し、滞留したインクが媒体PPに落下して、想定しない位置にドットが形成される異常が発生することがある。
【0082】
比較態様においてノズルプレート280に形成された撥液膜が劣化する理由については、以下の理由が考えられる。比較態様において、印刷動作が終了してから省電力モードに移行するまでの待機状態では、駆動信号生成回路2が動作しているままである態様であった。駆動信号生成回路2が動作しているとは、駆動信号出力回路25がスイッチング動作を行っていることを指す。比較態様の待機状態では、増幅制御信号生成回路20から増幅制御信号Hgd及びLgdが駆動信号出力回路25に供給されており、駆動信号出力回路25がスイッチング動作を行うことによって、駆動信号出力回路25は駆動信号Comを生成していた。駆動信号Comは、上述したように、コイル2503とコンデンサー2504とによって構成されるローパスフィルターを用いて生成されている。しかしながら、駆動信号Comには、ローパスフィルターで除去できない高周波の交流成分、いわゆるリップルが含まれてしまう。このリップルは、駆動信号出力回路25のスイッチング動作によって生じる。ここで、駆動回路242aの入力端子TG-Inとグランドとの間、及び、駆動回路242aの出力端子TG-Outとグランドとの間には、寄生容量が存在する。寄生容量は、コンデンサーのようにふるまうため、コンデンサーと同様に、交流成分の電流が流れる。コンデンサーは、周波数が高い交流ほど通しやすい性質を有する為、リップルは特にコンデンサーを流れやすい。従って、比較態様の待機状態では、駆動回路242aの動作を停止させる場合、及び、駆動回路242aの動作を停止させない場合の何れにおいても、駆動回路242aに供給された駆動信号Comのリップルが、選択回路245を介して圧電素子243に流れてしまっていた。
【0083】
ここで、ノズルプレート280と、支持板260bとは、導電性を有する金属材料から構成される。ノズルプレート280と支持板260bとの間には、樹脂フィルムからなる弾性膜260aと、シリコンからなる圧力室基板270とが設けられる。従って、弾性膜260a、圧力室基板270、及び、圧力室275内のインクを誘電体とし、ノズルプレート280を一方の電極とし、支持板260bを他方の電極としたコンデンサーが存在すると看做せる。前述したように、コンデンサーには、交流成分の電流が流れるため、圧電素子243に流れた駆動信号Comのリップルは、ノズルプレート280に流れる。ノズルプレート280は、金属材料からなるカバー290を介して接地されている。ノズルプレート280に電流が流れると、ノズルプレート280近傍に水素イオンが集まり、水素が発生する。水素が発生すると、ノズルプレート280の撥液膜がアタックされて、劣化する。
【0084】
本実施形態のヘッド省電力モードでは、駆動信号生成回路2の動作を停止させるため、駆動信号出力回路25によってリップルを含む駆動信号Comが生成されない。そのため、駆動信号生成回路2から圧電素子243に、リップルが流れることがない。従って、ノズルプレート280にもリップルに起因する電流が流れないため、ノズルプレート280の撥液膜が劣化することを抑制できる。
【0085】
1-8.液体噴射装置100の動作
図10及び図11は、液体噴射装置100の動作を示すフローチャートである。図10に示す横方向の2つの2重線の間の処理は、並列に実行することが可能であることを示す。図10及び図11に示すフローチャートは、ホストコンピューターから印刷指示を受けた後の液体噴射装置100の一連の処理を示す。
【0086】
印刷指示を受け付けた場合、制御部6は、ステップS2において、液体噴射装置100がプリンター省電力モードか否かを判定する。ステップS2の判定結果が肯定である場合、制御部6は、ステップS4において、初期化動作を実行する。初期化動作は、液体噴射ヘッド200の位置、換言すればキャリッジ71の位置を確認したり、プリンター省電力モードに移行する前に行われたキャッピング動作によるキャッピングが正しく行われているのかを確認したり、前述したプリンター省電力モードでのみ動作が停止している1又は複数の回路の動作を開始したりさせる等、印刷動作の前準備を行う動作である。キャッピングが正しく行われているのかを確認する処理(以下、キャッピング確認処理と称する。)は、例えば、キャップ41をZ軸に沿ってZ1方向に移動するように昇降機構43を移動させることによって、キャップ41が噴射面FNに押し付けられた際に昇降機構43の駆動機構432に生じる負荷を検出することでキャッピングが正しく行われているかを確認してもよい。また、キャッピング確認処理は、キャッピング動作を行うことでキャッピング状態になると、キャップ41に設けられている不図示のピンがキャリッジ71に設けられた孔に挿入される挿入状態となり、その挿入状態でキャリッジ71をX軸方向に沿って移動させようとした際に生じるキャリッジ71を移動させるためのモーターの負荷を検出することでキャッピングが正しく行われているかを確認するようにしてもよい。ステップS4の処理終了後、制御部6は、ステップS8の処理と、ステップS10の処理とを並列して実行する。
【0087】
ステップS2の判定結果が否定である場合、制御部6は、ステップS6において、液体噴射装置100がヘッド省電力モードか否かを判定する。ステップS6の判定結果が肯定である場合、制御部6は、ステップS8の処理と、ステップS10の処理とを並列して実行する。
【0088】
制御部6は、ステップS8において、読み出し動作を実行する。読み出し動作は、ヘッド省電力モードに移行する直前の液体噴射装置100に関する状態を示す状態情報を記憶部5から読み出す処理である。状態情報は、例えば、複数のノズルNのうち噴射不良のノズルNを示す情報、及び、液体容器14内のインクの残量を示す情報の一方又は両方である。制御部6は、例えば、印刷動作が終了した直後に、記憶部5に記憶されている状態情報を更新する。
【0089】
制御部6は、ステップS10において、ヘッド復帰動作を実行する。ヘッド復帰動作として、制御部6は、増幅制御信号生成回路20から増幅制御信号Hgd及びLgdを駆動信号出力回路25に供給することを再開させることで、駆動信号生成回路2の動作を開始する。換言すれば、ヘッド復帰動作は、駆動信号出力回路25にスイッチング動作を再開させるための動作である。なお、ヘッド復帰動作は、「第1モードからの復帰動作」の一例である。
【0090】
ステップS8の処理及びステップS10の処理の終了後、液体噴射装置100の動作モードが、印刷可能モードに移行する。印刷可能モードに移行した後、制御部6は、ステップS12においてキャッピング解除動作を実行する。キャッピング解除動作では、閉空間CSの形成が解除されるように、換言すれば噴射面FNとキャップ41の側壁41bの先端に設けられたシール部材41cとの当接が解除されるように、キャップ41と噴射面FNとの相対的な位置を変化させる。制御部6は、ステップS12の処理の終了後、ステップS14において、液体噴射ヘッド200等を制御して、印刷動作を実行する。また、ステップS6の判定結果が否定である場合、即ち、液体噴射装置100が印刷可能モードである場合も、制御部6は、ステップS12の処理及びステップS14の処理を実行する。
【0091】
以上のように、ヘッド省電力モードから印刷動作に移行するまでには、ステップS8の処理とステップS10の処理とを実行する。一方、プリンター省電力モードから印刷動作に移行するまでには、ステップS8の処理とステップS10の処理との前に、ステップS4の処理を実行する。従って、ヘッド省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間は、プリンター省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間よりも短い。
【0092】
ステップS14の処理終了後、制御部6は、ステップS16において、印刷動作が終了したか否かを判定する。ステップS16の判定結果が否定である場合、制御部6は、引き続き印刷動作を実行する。
【0093】
ステップS16の判定結果が肯定である場合、制御部6は、ステップS20において、液体噴射ヘッド200を制御して、印刷外微振動動作を開始する。本実施形態では、制御部6は、ヘッド省電力モードに移行するまで印刷外微振動動作を実行し続ける。
【0094】
ステップS20の処理終了後、制御部6は、ステップS22において、移動機構7及び昇降機構43を制御して、キャッピング動作を実行する。次に、液体噴射装置100は、ステップS24において、ヘッド省電力モードに移行する。具体的には、制御部6は、キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングで、ヘッド省電力モードを開始する。キャッピング動作が終了するタイミングとは、噴射面FNにキャップ41が当接して、各ノズルNを開口とする閉空間CSが形成されたタイミングである。キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングとは、例えば、キャッピング動作が終了するタイミングの5秒前から5秒後までであり、キャッピング動作が終了するタイミングと同じタイミングも含む。なお、キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングは、キャッピング動作が終了するタイミングの3秒前から3秒後まででもよく、キャッピング動作が終了するタイミングの1秒前から1秒後まででもよい。制御部6は、キャッピング動作が終了するタイミングの3秒前から3秒後までにヘッド省電力モードを開始することが好ましく、キャッピング動作が終了するタイミングの1秒前から1秒後までにヘッド省電力モードを開始することがより好ましい。更に、制御部6は、駆動信号出力回路25のスイッチング動作を停止することによって駆動信号生成回路2の動作を停止させ、且つ、オン状態の選択回路245に対してローレベルに設定された接続状態指定信号SLを供給することによって駆動回路242aの動作を停止させる。
【0095】
ステップS24の処理終了後、制御部6は、ステップS26において、ホストコンピューターから印刷指示を受け付けたか否かを判定する。ステップS26の判定結果が肯定である場合、制御部6は、ステップS8の処理と、ステップS10の処理とを並列して実行する。
【0096】
ステップS26の判定結果が否定である場合、制御部6は、ステップS28において、印刷動作が終了してから所定期間が経過したか否かを判定する。ステップS28の判定結果が否定である場合、制御部6は、処理をステップS26に戻す。ステップS28の判定結果が肯定である場合、ステップS30において、前述したプリンター省電力モードに移行する。ステップS30の処理終了後、液体噴射装置100は、図10及び図11に示す一連の処理を終了する。
【0097】
図12は、印刷動作終了後の一連の処理の実行順序を説明するための図である。図12は、横軸が時刻tを示しているタイミングチャートである。なお、図12では、横軸tの幅によって示される期間の長さは、実際の各動作の期間を正確に表してはいない点について留意されたい。具体的に、図12では、図10及び図11に示したステップS14、ステップ16、ステップS20、ステップS22、ステップS24、ステップS26、ステップS28、ステップS30の一連の処理の実行順序を示している。なお、ステップS16及びステップ28の判定結果は肯定であり、ステップS26の判定結果は否定である。時刻t1に印刷動作が終了した場合、制御部6は、時刻t1から時刻t3まで印刷外微振動動作を実行する。時刻t1から時刻t3までの期間t13は、例えば、7秒間である。
【0098】
時刻t1と時刻t3との間の時刻t2から、時刻t3まで、制御部6は、キャッピング動作を実行する。時刻t3から、液体噴射装置100は、ヘッド省電力モードに移行する。本実施形態の期間t13は、印刷動作が終了した時刻t1からキャッピング動作が終了する時刻t3までの期間とも言える。図12の例では、キャッピング動作の終了時刻とヘッド省電力モードの開始時刻とがともに時刻t3であるが、ステップS24の処理で説明したように、キャッピング動作の終了時刻とヘッド省電力モードの開始時刻とは、5秒以内であれば異なっていてもよい。時刻t3から、時刻t3の後の時刻t4までの期間t34が、液体噴射装置100のユーザーが任意に設定可能な設定期間に相当する。
【0099】
時刻t3の後の時刻t4から、液体噴射装置100は、プリンター省電力モードに移行する。時刻t1から時刻t4までの期間t14が、所定期間に相当する。図12から理解されるように、所定期間は、設定期間に期間t13である7秒間を加えた期間である。
【0100】
図13は、印刷動作終了後に印刷指示を受け付けた場合の一連の処理の実行順序を説明するための図である。図13は、横軸が時刻tを示しているタイミングチャートである。なお、図13では、横軸tの幅によって示される期間の長さは、実際の各動作の期間を正確に表してはいない点について留意されたい。図13では、時刻t3から時刻t4までの間の時刻t5に、ホストコンピューターから印刷指示を受け付けた例を示す。図13では、図10及び図11に示したステップS14、ステップ16、ステップS20、ステップS22、ステップS24、ステップS26、ステップS8、ステップS10、ステップS12、2回目のステップS14の一連の処理の実行順序を示している。なお、ステップS16及びステップ26の判定結果は肯定である。
【0101】
時刻t5から、制御部6は、読み出し動作とヘッド復帰動作とを並列して実行する。ヘッド復帰動作の実行期間は、例えば、0.3秒である。図13の例では、ヘッド復帰動作が読み出し動作よりも早く終了し、時刻t6で読み出し動作が終了したことを示す。制御部6は、時刻t6からキャッピング解除動作を実行する。制御部6は、時刻t6よりも後の時刻t7から印刷動作を実行する。図13の例では、時刻t7は、時刻t4の前であるが、時刻t7が時刻t4の後である可能性もある。なお、キャッピング解除動作を開始する時刻は、印刷動作を実行する時刻t7よりも前であれば読み出し動作が終了する時刻t6より後でも構わない。
【0102】
1-8.第1実施形態のまとめ
以上説明したように、第1実施形態に係る液体噴射装置100は、媒体PPに向かってノズルNからインクを噴射する印刷動作を実行可能な液体噴射装置である。液体噴射装置100は、印刷動作よりも単位期間当たりの消費電力が小さいヘッド省電力モードと、ヘッド省電力モードよりも単位期間当たりの消費電力が小さいプリンター省電力モードと、に移行可能であり、プリンター省電力モードは、印刷動作が終了してから所定期間後に開始され、ヘッド省電力モードは、印刷動作が終了後、且つ、プリンター省電力モードを開始する前に開始され、ヘッド省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間は、プリンター省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間よりも短い。
第1実施形態に係る液体噴射装置100は、印刷動作が終了した場合、プリンター省電力モードよりも印刷動作に移行するまでの期間が短いヘッド省電力モードに移行することにより、印刷指示を受け付けた場合に、印刷動作直後にプリンター省電力モードに移行する態様と比較して印刷動作をより早く実行できる。更に、ヘッド省電力モードは、印刷可能モードよりも単位期間当たりの消費電力が小さいため、第1実施形態に係る液体噴射装置100は、印刷動作後にも印刷可能モードを維持する態様と比較して、消費電力を削減できる。すなわち、第1実施形態に係る液体噴射装置100は、印刷動作を実行した後の所定期間において、印刷指示を受け付けた場合に速やかに印刷動作を実行しつつ、印刷動作を実行した後の所定期間における消費電力を低減できる。
【0103】
また、液体噴射装置100は、ノズルNからインクを噴射させるために駆動可能な圧電素子243と、圧電素子243を駆動するための駆動信号Comを生成する駆動信号生成回路2と駆動回路242aと、駆動信号生成回路2及び駆動回路242aとは異なる、記憶部5、制御部6、メンテナンス機構4に含まれる1又は複数の装置、及び、電源スイッチを備え、ヘッド省電力モードでは、駆動信号生成回路2及び駆動回路242aの動作を停止させ、プリンター省電力モードでは、駆動信号生成回路2並びに駆動回路242a、記憶部5、制御部6、メンテナンス機構4に含まれる1又は複数の装置、及び、電源スイッチの動作を停止させる。
【0104】
また、液体噴射装置100は、ノズルNが設けられたノズルプレート280と、ノズルプレート280の表面を含む噴射面FNに当接することでノズルNが開口する閉空間CSを形成可能なキャップ41と、を更に備え、印刷動作が終了した後に、閉空間CSが形成されるようにキャップ41と噴射面FNとの相対的な位置を変化させるキャッピング動作を実行し、キャッピング動作の後に、プリンター省電力モードを開始する。
第1実施形態に係る液体噴射装置100は、キャッピング動作を行うことにより、ノズルN内のインクの増粘を抑制できる。
【0105】
また、液体噴射装置100は、キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングで、ヘッド省電力モードを開始する。
第1実施形態に係る液体噴射装置100は、キャッピング動作を行うことにより、インクの増粘を抑制できる。更に、液体噴射装置100は、キャッピング動作が終了するタイミングよりも後のタイミングでヘッド省電力モードを開始する態様と比較して、消費電力を削減できる。
【0106】
また、駆動信号Comは、ノズルNからインクが噴射されない程度にノズルN内のインクを揺らすように圧電素子243を駆動させる微振動波形P2を含み、液体噴射装置100は、印刷動作が終了してからキャッピング動作が終了するまでの間、微振動波形P2を圧電素子243に供給する。
第1実施形態に係る液体噴射装置100は、微振動波形P2を圧電素子243に供給してノズルN内のインクを揺らすことによって、ノズルN内のインクの増粘の進行を抑制できる。
【0107】
また、第1実施形態に係る液体噴射装置100は、制御部6と、記憶部5と、を更に備え、ヘッド省電力モードに移行しており、且つ、印刷動作を実行する場合、制御部6がヘッド省電力モードに移行する直前の液体噴射装置100に関する状態を示す状態情報を記憶部5から読み出す処理を、ステップS10の処理であるヘッド復帰動作と並列して実行する。
第1実施形態に係る液体噴射装置100は、状態情報を記憶部5から読み出す処理を実行した後にヘッド復帰動作を実行する態様と比較して、ヘッド省電力モードから印刷動作に移行するまでの期間を短縮できる。
【0108】
また、ノズルプレート280は、導電性を有し、且つ、グランドに接続され、ノズルプレート280の表面は、撥液性を有し、圧電素子243は、圧電体Qm及び圧電体Qmを挟むようにして設けられた一対の電極Qd、Quを含み、第1実施形態に係る液体噴射装置100は、駆動信号Comを圧電素子243に供給するか否かを選択する選択回路245と、圧電素子243が固定されるとともに導電性を有する支持板260bを含む振動板260と、ノズルプレート280と振動板260との間に配置されたシリコン単結晶基板からなる圧力室基板270と、を更に備える。
上述したように、駆動信号Comが選択回路245に供給されていると、選択回路245が駆動信号Comを圧電素子243に供給しないことを選択したとしても、駆動信号Comに含まれるリップルが圧電素子243に流れてしまう。そして、振動板260と圧力室基板270とノズルプレート280とによってコンデンサーが形成されてしまうので、グランドに接続するノズルプレート280に電流が流れてしまい、ノズルプレート280の撥液膜が劣化する。本実施形態では、ヘッド省電力モードでは駆動信号Comが選択回路245に供給されないため、ノズルプレート280の撥液膜が劣化することを抑制できる。
【0109】
2.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0110】
2-1.第1変形例
第1実施形態では、キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングに、ヘッド省電力モードを開始していたが、キャッピング動作が終了するタイミングよりも前に、ヘッド省電力モードを開始してもよい。
【0111】
図14は、第1変形例における印刷動作終了後の一連の処理の実行順序を説明するための図である。図14は、第1変形例における図12に対応する図である。第1変形例に係る液体噴射装置100は、印刷外微振動動作を実行しない点と、印刷動作を終了した時刻t1にヘッド省電力モードを開始する点とにおいて、第1実施形態に係る液体噴射装置100と相違する。
【0112】
時刻t1は、キャッピング動作が終了するタイミングである時刻t3より前である。従って、第1変形例に係る液体噴射装置100は、キャッピング動作が終了するタイミングよりも前に、ヘッド省電力モードを開始する。
第1変形例に係る液体噴射装置100は、キャッピング動作が終了するタイミングよりも前にヘッド省電力モードに移行するため、消費電力をより削減できる。
【0113】
なお、第1実施形態の制御部6は、印刷内微振動動作と印刷外微振動動作の2種類の微振動動作を実行していたが、本変形例のように、制御部6は、印刷外微振動動作を行わずに印刷内微振動動作のみを実行可能であってもよく、もしくは、印刷外微振動動作及び印刷内微振動動作の何れも実行しないように構成されていてもよい。
【0114】
2-2.第2変形例
第1変形例では、キャッピング動作が終了するタイミングよりも前にヘッド省電力モードを開始したが、キャッピング動作が終了するタイミングよりも後にヘッド省電力モードを開始してもよい。
【0115】
図15は、第2変形例において印刷動作終了後の一連の処理の実行順序を説明するための図である。図15は、第3変形例における図12に対応する図である。第2変形例に係る液体噴射装置100は、キャッピング動作が終了するタイミングである時刻t3より後の時刻t8からヘッド省電力モードを開始する点において、第1実施形態に係る液体噴射装置100と相違する。時刻t3から時刻t8までの期間t38は、5秒より長い。
【0116】
図15に示す通り、期間t38は、印刷可能モードであるが印刷動作及び印刷外微振動動作の何れも実行されていない期間である。このような期間では、駆動信号生成回路2は、噴射波形P1や微振動波形P2を含まない一定の直流電圧として駆動信号Comを出力するようにしてもよい。但し、この場合、期間t38では駆動信号出力回路25はスイッチング動作を停止していないので、期間t38で生成される駆動信号Comは、リップルを含む。
【0117】
2-3.第3変形例
上述の各態様において、ヘッド省電力モードでは、駆動信号生成回路2と駆動回路242aとの動作を停止させたが、駆動信号生成回路2の動作のみを停止させて、駆動回路242aの動作は停止させなくてもよい。第3変形例において、ヘッド省電力モードでは、駆動信号生成回路2の動作を停止させることが、「第1モードでは、1又は複数の回路の動作を停止」させることの一例である。第3変形例においても、ヘッド省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力は、印刷動作における液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力よりも小さく、プリンター省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力は、ヘッド省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力よりも小さい。
【0118】
2-4.第4変形例
上述の各態様において、ヘッド省電力モードでは、駆動信号生成回路2と駆動回路242aとの動作を停止させたが、駆動回路242aの動作のみを停止させて、駆動信号生成回路2の動作は停止させなくてもよい。第4変形例において、ヘッド省電力モードでは、駆動回路242aの動作を停止させることが、「第1モードでは、1又は複数の回路の動作を停止」させることの一例である。第4変形例においても、ヘッド省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力は、印刷動作における液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力よりも小さく、プリンター省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力は、ヘッド省電力モードにおける液体噴射装置100の単位期間当たりの消費電力よりも小さい。また、本変形例のように駆動信号生成回路2を停止させない状態において駆動回路242aの動作を停止させた場合、駆動回路242aの動作を停止させない場合よりも、駆動回路242aに供給された駆動信号Comのリップルが選択回路245を介して圧電素子243に流れにくくすることができる。
【0119】
2-5.第5変形例
上述の各態様において、液体噴射ヘッド200は、圧電素子243に替えて圧力室275内のインクを加熱する発熱素子を有してもよい。第5変形例において、発熱素子が、「駆動素子」の一例である。液体噴射ヘッド200が発熱素子を有する場合であっても、ヘッド省電力モードにおいて駆動信号生成回路2の動作を停止することにより、印刷動作後にも印刷可能モードを維持する態様と比較して、消費電力を削減できる。
【0120】
2-6.第6変形例
上述の各態様において、液体噴射ヘッド200は、駆動信号生成回路2を有してもよい。
【0121】
2-7.第7変形例
上述の各態様において、印刷動作を終了してからプリンター省電力モードを開始するまでの所定期間をユーザーが任意に設定可能な期間とし、例えば、ヘッド省電力モードを実行する期間を、当該所定期間から印刷動作が終了してからキャッピング動作が終了するまでの期間を減じた期間として設定するようにしてもよい。
【0122】
2-8.第8変形例
上述の各態様において、印刷動作が終了してから行われる印刷外微振動動作は、キャッピング動作が終了するまで行われていたが、キャッピング動作を開始するタイミングで印刷外微振動動作を終了してもよい。キャッピング動作を開始するタイミングは、キャッピング動作のために昇降機構43によってキャップ41と噴射面FNとの相対距離に変化が生じ始めるタイミングでもよいし、キャッピング動作のために昇降機構43を変位させるための信号が制御部6から昇降機構43へ送られたタイミングであってもよい。また、キャッピング動作を開始するタイミングとキャッピング動作のために昇降機構43によってキャップ41と噴射面FNとの相対距離に変化が生じ始めるタイミングとは、異なっていてもよいが、両者の差異は3秒以内であることが好ましく、1秒以内であることがより好ましい。このような構成であっても、微振動波形P2を圧電素子243に供給してノズルN内のインクを揺らすことによって、ノズルN内のインクの増粘の進行を抑制できる。
【0123】
2-9.第9変形例
上述の各態様において、上述した各態様では、液体噴射ヘッド200を、X軸に沿って往復同させるシリアル方式の液体噴射装置100を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。液体噴射装置は、複数のノズルNが、媒体PPの全幅に亘り分布する、ライン方式の液体噴射装置であってもよい。
【0124】
2-10.その他の変形例
上述の液体噴射装置は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置及びコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を噴射する液体噴射装置は、配線基板の配線及び電極を形成する製造装置として利用される。
【0125】
3.付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0126】
好適な態様である態様1に係る液体噴射装置は、媒体に向かってノズルから液体を噴射する印刷動作を実行可能な液体噴射装置であって、前記印刷動作よりも単位期間当たりの消費電力が小さい第1モードと、前記第1モードよりも前記単位期間当たりの消費電力が小さい第2モードと、に移行可能であり、前記第2モードは、前記印刷動作が終了してから所定期間後に開始され、前記第1モードは、前記印刷動作が終了後、且つ、前記第2モードを開始する前に開始され、前記第1モードから前記印刷動作に移行するまでの期間は、前記第2モードから前記印刷動作に移行するまでの期間よりも短い。
態様1に係る液体噴射装置は、印刷動作が終了した場合、第2モードよりも印刷動作に移行するまでの期間が短い第1モードに移行することにより、印刷指示を受け付けた場合に、印刷動作直後に第2モードに移行する態様と比較して印刷動作をより早く実行できる。更に、第1モードは、印刷動作よりも単位期間当たりの消費電力が小さいため、第1実施形態に係る液体噴射装置は、印刷動作後にも印刷動作を可能にする状態を維持する態様と比較して、消費電力を削減できる。すなわち、第1実施形態に係る液体噴射装置は、印刷動作を実行した後の所定期間において、印刷指示を受け付けた場合に速やかに印刷動作を実行しつつ、消費電力を低減できる。
【0127】
態様1の具体例である態様2において、前記ノズルから液体を噴射させるために駆動可能な駆動素子と、前記駆動素子を駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成回路を含む1又は複数の回路と、前記1又は複数の回路とは異なる第1回路と、を備え、前記第1モードでは、前記1又は複数の回路の動作を停止させ、前記第2モードでは、前記1又は複数の回路の動作、及び、前記第1回路の動作を停止させる。
【0128】
態様2の具体例である態様3において、前記ノズルが設けられたノズルプレートと、前記ノズルプレートの表面を含む噴射面に当接することで前記ノズルが開口する閉空間を形成可能なキャップと、を更に備え、前記印刷動作が終了した後に、前記閉空間が形成されるように前記キャップと前記噴射面との相対的な位置を変化させるキャッピング動作を実行し、前記キャッピング動作の後に、前記第2モードを開始する。
態様3に係る液体噴射装置は、キャッピング動作を行うことにより、液体の増粘を抑制できる。
【0129】
態様3の具体例である態様4において、前記キャッピング動作が終了するタイミングと略同じタイミングで、前記第1モードを開始する。
態様4に係る液体噴射装置は、キャッピング動作を行うことにより、液体の増粘を抑制できる。更に、態様4に係る液体噴射装置は、キャッピング動作が終了するタイミングよりも後のタイミングで第1モードを開始する態様と比較して、消費電力を削減できる。
【0130】
態様4の具体例である態様5において、前記駆動信号は、前記ノズルから液体が噴射されない程度に前記ノズル内の液体を揺らすように前記駆動素子を駆動させる微振動波形を含み、前記印刷動作が終了してから前記キャッピング動作が終了するまでの間、前記微振動波形を前記駆動素子に供給する。
態様5に係る液体噴射装置は、微振動波形を駆動素子に供給してノズルN内の液体を揺らすことによって、ノズル内の液体の増粘の進行を抑制できる。
【0131】
態様3の具体例である態様6において、前記キャッピング動作が終了するタイミングよりも前に、前記第1モードを開始する。
第1変形例に係る液体噴射装置は、キャッピング動作が終了するタイミングよりも前にヘッド省電力モードに移行するため、態様1に係る液体噴射装置と比較して、消費電力を削減できる。
【0132】
態様1の具体例である態様7において、制御部と、記憶部と、を更に備え、前記第1モードに移行しており、且つ、前記印刷動作を実行する場合、前記制御部が前記第1モードに移行する直前の前記液体噴射装置に関する状態を示す状態情報を前記記憶部から読み出す処理を、前記第1モードからの復帰動作と並列して実行する。
態様7に係る液体噴射装置は、状態情報を記憶部から読み出す処理を実行した後にヘッド復帰動作を実行する態様と比較して、第1モードから印刷動作に移行するまでの期間を短縮できる。
【0133】
態様3の具体例である態様8において、前記ノズルプレートは、導電性を有し、且つ、グランドに接続され、前記ノズルプレートの表面は、撥液性を有し、前記駆動素子は、圧電体及び前記圧電体を挟むようにして設けられた一対の電極を含む圧電素子であり、前記液体噴射装置は、前記駆動信号を前記圧電素子に供給するか否かを選択する選択回路と、前記圧電素子が固定されるとともに導電性を有する支持板を含む振動板と、前記ノズルプレートと前記振動板との間に配置されたシリコン単結晶基板からなる圧力室基板と、を更に備える。
駆動信号が選択回路に供給されていると、選択回路が駆動信号を圧電素子に供給しないことを選択したとしても、駆動信号に含まれるリップルが圧電素子に流れてしまう。そして、振動板と圧力室基板とノズルプレートとによってコンデンサーが形成されてしまうので、グランドに接続するノズルプレートに電流が流れてしまい、ノズルプレートの撥液性が劣化する。態様8に係る液体噴射装置では、第1モードでは駆動信号が選択回路に供給されていないため、ノズルプレートの撥液性が劣化することを抑制できる。
【符号の説明】
【0134】
2…駆動信号生成回路、4…メンテナンス機構、5…記憶部、6…制御部、7…移動機構、8…搬送機構、11…機械接点センサー、12…フォトセンサー、14…液体容器、20…増幅制御信号生成回路、21…DACインターフェース、22…DAC部、23…変調部、24…ゲート駆動部、25…駆動信号出力回路、30…電圧生成部、41…キャップ、42…払拭部材、71…キャリッジ、72…無端ベルト、100…液体噴射装置、200…液体噴射ヘッド、210…ホルダー、230…回路基板、231…貫通孔、233…開口、240…アクチュエーターユニット、241…固定板、242…COF基板、242a…駆動回路、243…圧電素子、245…選択回路、250…ケース、253…流路、255…収容空間、260…振動板、260a…弾性膜、260b…支持板、261…インク導入口、270…圧力室基板、273…流路、275…圧力室、280…ノズルプレート、290…カバー、2421…接続状態指定回路、2451…インバーター、2452…トランスミッションゲート、2455,2456,2501,2502…トランジスター、2503…コイル、2504…コンデンサー、Ar1…領域、CH…チェンジ信号、CLK…クロック信号、Cn…コネクター、Com…駆動信号、Vout…駆動信号、FN…噴射面、GND…グランド電位、GVDD…電圧、Hgd…増幅制御信号、Img…印刷データ、LAT…ラッチ信号、LHa,LHd…内部配線、Lgd…増幅制御信号、Ln…ノズル列、Ms…変調信号、N…ノズル、P1…噴射波形、P2…微振動波形、PP…媒体、PlsL…パルス、Qd…第2電極、Qm…圧電体、Qu…第1電極、SI…指定信号、SL…接続状態指定信号、Sd…個別指定信号、TG-In…入力端子、TG-Out…出力端子、Tu…周期、V0…基準電位、VH1…最高電位、VHV…電圧、VL1,VL2…最低電位、aA…基駆動信号、dA…駆動データ、dCom…波形指定信号、t13,t14,t34,t38…期間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15