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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111720
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】空間の埋設方法及び埋設システム
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20240809BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240809BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20240809BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240809BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20240809BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B22/06 Z
C04B24/04
C04B24/26 D
C04B24/38 Z
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016392
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(71)【出願人】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 昇平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 開祐
(72)【発明者】
【氏名】金 志訓
(72)【発明者】
【氏名】濱 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】板倉 賢一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 猛
(72)【発明者】
【氏名】新井 太一朗
(72)【発明者】
【氏名】前本 梨衣
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA29
4G112PB03
4G112PB16
4G112PB31
4G112PB39
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】特定の組成物のスラリーを空間に圧入し二酸化炭素と反応させることによって空間を埋設する方法およびシステムの提供。
【解決手段】空間を埋設する方法であって、水硬性材料と、アルカリ刺激剤、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物を調製すること、ならびに、空間へ前記組成物を含むスラリーを圧入し、スラリーと共に空間へ圧入された二酸化炭素またはスラリーとは別途に圧入された二酸化炭素と反応させて空間を埋設することを含む方法が開示される。前記空間は、地層内の孔隙、地下坑道および採炭跡からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてよい。前記水硬性材料は、アルミノシリケート材料を含むものであってよい。前記アルミノシリケート材料は、高炉スラグを含むものであってよい。前記アルカリ刺激剤は、水酸化ナトリウムを含むものであってよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を埋設する方法であって、
水硬性材料と、アルカリ刺激剤、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物を調製すること、ならびに、
空間へ前記組成物を含むスラリーを圧入し、前記スラリーと共に空間へ圧入された二酸化炭素または前記スラリーとは別途に空間へ圧入された二酸化炭素と反応させて当該空間を埋設することを含む方法。
【請求項2】
前記空間が、地層内の孔隙、地下坑道および採炭跡からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水硬性材料がアルミノシリケート材料を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルミノシリケート材料が高炉スラグを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ刺激剤が水酸化ナトリウムを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記分散剤がポリカルボン酸系ポリマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記硬化阻害剤が、オキシカルボン酸もしくはその塩、ケト酸もしくはその塩、糖、および、糖アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
空間の埋設システムであって、
水硬性材料と、アルカリ刺激剤、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物を用いてスラリーを調製するスラリー調製部と、
前記スラリー、または前記スラリーおよび二酸化炭素を空間へ圧入するスラリー圧入部と、
前記スラリー圧入部が二酸化炭素を伴わずに前記スラリーを空間へ圧入するスラリー圧入部であるとき、二酸化炭素を空間へ別途圧入する二酸化炭素圧入部と含むシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間の埋設方法および埋設システムに関する。より具体的には、本発明は、特定の組成物のスラリーを空間に圧入し、二酸化炭素と反応させることによって空間を埋設する方法および埋設システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素等の温室ガスは、地球温暖化の原因と考えられており、その排出量の削減が各国で進められている。そこで、日本国を含む先進国を中心に、温室ガスである二酸化炭素を鉱物構造の構成成分として固定化(「二酸化炭素の鉱物化」または「鉱物炭酸化」と称される)するための技術の開発が促進されている。二酸化炭素の鉱物化のために使用される鉱物としては、玄武岩、橄欖石、蛇紋石、および珪灰石等のような天然岩石およびケイ酸塩鉱物から始まり、様々な種類の産業副産物または廃棄物にまでその研究が広がっている。
【0003】
また、二酸化炭素の鉱物化のために使用される鉱物である産業副産物または廃棄物の例には、廃セメント、廃コンクリート、例えば、製鋼産業にて用いられる鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分から発生し、多量のCaOを含有する高炉スラグが挙げられる。
例えば、特許文献1には、特定種の高炉スラグである水砕スラグおよびアルカリを混合した水溶液に二酸化炭素を供給し、供給した二酸化炭素とスラグから溶出したカルシウムとを反応させてCaCO(炭酸カルシウム)を生成する二酸化炭素固定化方法が開示されている。また、特許文献2には、所定割合の粉砕された高炉スラグおよび水の混合物にNaOHを添加して高炉スラグを分解し、これと二酸化炭素を水熱反応させることを含む二酸化炭素固定化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-214262号公報
【特許文献2】特開2013-095662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、閉山した炭鉱では、地層内の孔隙や地下空洞が変形、水没している等、充填対象の空間が部分的に狭小化または複雑化している場合が多い。従って、そのような部分的に狭小化・複雑化した空間に対して充填物質を全体的に隅々まで充填するためには、その充填物質の流動性が十分に高いこと、および、固化時間を制御・遅延させて充填対象の空間における注入口付近での固化を抑制すると同時に、充填物質が空間の全体に行き渡った時点で固化が進行する程度の固化性能を有することが好ましい。
【0006】
本発明は、適度な流動性および固化特性を有する固化物質を、空間に効率的に充填し、温室効果ガスである二酸化炭素と反応させて固化し、空間を埋設することを可能にする方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意研究した結果、本発明者らは、固化物質として、特定の成分を含む組成物を用い、これをスラリー化して圧入し、二酸化炭素と反応させて空間へ埋設することによって、空間に効率的に充填・固化することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、上記目的を達成するための本発明の一態様は、以下のとおりである。
空間を埋設する方法であって、
水硬性材料と、アルカリ刺激剤、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物を調製すること、ならびに、
空間へ前記組成物を含むスラリーを圧入し、前記スラリーと共に空間へ圧入された二酸化炭素または前記スラリーとは別途に空間へ圧入された二酸化炭素と反応させて空間を埋設することを含む方法。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の他の一態様は、以下のとおりである。
空間の埋設システムであって、
水硬性材料と、アルカリ刺激剤、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物を用いてスラリーを調製するスラリー調製部と、
前記スラリー、またはスラリーおよび二酸化炭素を空間へ圧入するスラリー圧入部と、
前記スラリー圧入部が二酸化炭素を伴わずに前記スラリーを空間へ圧入するスラリー圧入部であるとき、二酸化炭素を空間へ別途圧入する二酸化炭素圧入部とを含むシステム。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従う空間を埋設する方法(あるいは空間の埋設システム)によれば、適度な流動性および固化特性を有する固化物質である組成物のスラリーを空間に圧入し、温室効果ガスである二酸化炭素と反応させることによって、様々な形状の空間に効率的に充填・固化し、空間を埋設することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係る空間の埋設方法(埋設システム)を坑内堀炭鉱の地下採炭跡地に適用した一実施形態の概略図である。
図2図2は、本発明に係る空間の埋設方法の実施例において、組成物スラリーがアルカリ刺激剤を含有せずキレート化剤を含有する場合にて二酸化炭素を24時間接触させた後の型枠からの脱型の際の外観写真を示す図面である。
図3図3は、本発明に係る空間の埋設方法の実施例において、組成物スラリーがアルカリ刺激剤を含有すると共に、硬化阻害剤を含有しない場合にて二酸化炭素を24時間接触させた後の型枠からの脱型の際の外観写真(左側(A))、および、組成物スラリーがアルカリ刺激剤を含有すると共に、硬化阻害剤を含有する場合にて二酸化炭素を24時間接触させた後の型枠からの脱型の際の外観写真(右側(B))を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載によって限定されるものではない。本発明に係る空間の埋設システムは、実質的に、本発明に係る空間を埋設する方法を実現するためのシステムに当たるから、以下では埋設方法の実施形態を主に説明する。
【0013】
空間の埋設方法
本発明に係る空間を埋設する方法は、水硬性材料と、アルカリ刺激剤、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物を調製することを含む。
好ましい一実施形態において、本方法は、水硬性材料およびアルカリ刺激剤を含有し、任意選択で、分散剤および硬化阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する組成物を調製することを含む。
また他の一実施形態において、本方法は、水硬性材料およびアルカリ刺激剤を含有し、任意選択で、分散剤、硬化阻害剤およびキレート化剤(金属溶出剤)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する組成物を調製することを含む。
またさらなる他の一実施形態において、本方法は、水硬性材料を含有し、任意選択で、アルカリ刺激剤、分散剤、硬化阻害剤およびキレート化剤(金属溶出剤)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する組成物を調製することを含む。
なお、本方法に用いられる組成物の構成成分は、ここに記載されたものに限定されず、所望の特性を害しない限り他の任意の成分を包含し得る。
【0014】
水硬性材料
一実施形態において、本発明に係る空間を埋設する方法に用いられる組成物の一成分である水硬性材料としては、所定のpH下で水と反応して金属イオンを遊離・放出し、この金属イオンと共に硬化させることにより二酸化炭素を鉱物として固定化する(鉱物化する)ことが可能な物質である限り、特に限定されないが、高炉スラグや製鋼スラグ等の鉄鋼スラグ、フライアッシュ、銅スラグ、ポルトランドセメント、混合セメント、アルミナセメント、高炉セメント等のセメント等が挙げられる。水硬性材料は、その機能面から「バインダー」(“binder”)とも称される。
これらの水硬性材料のうち、二酸化炭素を安定的に鉱物化・固定化する観点から、高炉スラグやフライアッシュ等のアルミノシリケートを含有する材料、またはそれらの混合物が好ましい。アルミノシリケート含有材料の中では、高炉スラグがより好ましい。
これらの水硬性材料の単一種または複数種の混合物を用いることができる。
【0015】
高炉スラグは、鉄鉱石をコークスで還元、溶融し、銑鉄を製造する溶鉱炉である高炉から、鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分、主に副材料の石灰石やコークス中の灰分が一緒に溶融回収されたものである。高炉スラグには、溶融物をゆっくり冷却して得られる徐冷スラグと称されるもの、急激に冷却して得られる水砕スラグと称されるものが含まれる。徐冷スラグは結晶性で岩石状をなしており、水砕スラグはガラス質で微細な粒状である。高炉スラグは、CaO(酸化カルシウム:生石灰)、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)を主成分とし、通常、CaOの含有量は約40~45質量%であり、SiOの質量割合は約30~35質量%であり得る。高炉スラグの微粉末は、アルカリ水溶液の存在下では安定な水和物を形成し、硬化体組織を緻密化する機能を与える。
【0016】
好ましい一態様において、高炉スラグは、水と混合してスラリーを形成するのに先立って微粉砕してよい。例えば、高炉スラグを100メッシュ以上600メッシュ以下の程度まで粉砕することは好ましく、200メッシュ以上600メッシュ以下の程度まで粉砕することは更に好ましい。このように微粉砕された高炉スラグを用いることによって、スラリーの二酸化炭素との反応(すなわち炭酸塩化反応)の効率が増大され得る。
【0017】
フライアッシュは、ボイラ内での石炭の燃焼によって生じた溶融状態の微細な石炭灰の粒子が、高温の燃焼ガス中を浮遊した後、ボイラ出口における温度の低下に伴って球形微細粒子となったものである。フライアッシュは、通常、ボイラ出口で電気集塵機等により捕集され得る。フライアッシュの主成分(通常70~80質量%程度)は、SiO(シリカ)およびAl(アルミナ)であり、主な構成相は、ガラス相(非結晶質Al-Si)、結晶質シリカ(水晶)、結晶質アルミノケイ酸塩(3Al・2SiO:ムライト)である。フライアッシュは、SiOおよびAl以外に、酸化第二鉄(Fe)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、マグネタイト(Fe)等を含み得る。上記の構成相のうち、ガラス相は、水酸化カルシウム等のアルカリ性物質とのポゾラン反応性を有する。すなわち、フライアッシュのガラス相は、例えばセメントの水和等によって生成される水酸化カルシウムとの共存下において、これと緩やかに反応してケイ酸カルシウム水和物およびアルミン酸カルシウム水和物を生成し、硬化物(二酸化炭素の固定化・鉱物化物)の耐久性や水密性を高める機能を与える。フライアッシュは、主に0.1~300μm程度の粒子径を有し得る。フライアッシュには、微量のセレン、フッ素、ホウ素、ヒ素等の重金属類が包含されていることがある。
【0018】
アルカリ刺激剤
一実施形態において、本発明に係る空間を埋設する方法に用いられる組成物の一成分として選択され得るアルカリ刺激剤は、水硬性材料にアルカリ性の刺激を与え、その水和および硬化を促進することが可能である限りは、特に限定されない。アルカリ刺激剤は、水硬性材料のポゾラン反応を促進する機能も有する。
このようなアルカリ刺激剤としては、特に限定されないが、水酸化カルシウム(消石灰:Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硝酸カルシウム(Ca(NO)、硫酸アルミニウム(Al(SO)、各種石膏(無水石膏:硫酸カルシウム(CaSO)、その二水和物、半水和物)、各種セメント、石灰ダスト、ケイ酸ナトリウム(水ガラス:NaO・SiO)等が挙げられる。これらのアルカリ刺激剤の中でも、水硬性材料の水和および硬化を促進する機能性に観点から、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウムが好ましい。入手容易性・コストの観点からは水酸化ナトリウムがより好ましい。
これらのアルカリ刺激剤の単一種または複数種の混合物を用いることができる。
【0019】
ケイ酸ナトリウム(水ガラス:NaO・SiO)は、水硬性材料(例えば高炉スラグ)の二酸化炭素との硬化反応の際に共存させることにより、ゲル化および可塑状化反応を起こし、続いて水硬性材料の硬化を促進して早期の強度増大および更には最終的な硬化物の強度の増大をもたらし得る。ケイ酸ナトリウム(水ガラス)と水硬性材料との水和反応の性質は、ケイ酸ナトリウム中のSiO成分とNaO成分のモル比SiO/NaOで決定され得る。
ケイ酸ナトリウム中のSiO成分、NaO成分を含む諸成分の質量割合は、JIS K1408-1966にて規格化されており、「1号」はSiO35~38質量%:NaO17~19質量%であり、「2号」はSiO34~36質量%:NaO14~15質量%であり、「3号」はSiO28~30質量%:NaO9~10質量%であり、「メタケイ酸ナトリウム1種」はSiO27.5~29質量%:NaO28.5~30質量%であり、「メタケイ酸ナトリウム2種」はSiO19~22質量%:NaO20~22質量%である。
【0020】
上記組成物におけるアルカリ刺激剤の配合量は(使用される場合)、特に限定されないが、水硬性材料の水和および硬化を十分に促進する観点、およびこれらの所望の効果と効率性・経済性とのバランスの観点から、例えば、水硬性材料100質量部に対して0.05質量部以上5質量部以下、好ましくは0.05質量部以上4質量部以下、0.05質量部以上3質量部以下、0.05質量部以上2質量部以下、0.05質量部以上1質量部以下、0.05質量部以上0.8質量部以下、0.07質量部以上5質量部以下、0.07質量部以上4質量部以下、0.07質量部以上3質量部以下、0.07質量部以上2質量部以下、0.07質量部以上1質量部以下、0.07質量部以上0.8質量部以下、0.1質量部以上5質量部以下、0.1質量部以上4質量部以下、0.1質量部以上3質量部以下、0.1質量部以上2質量部以下、0.1質量部以上1質量部以下、または0.1質量部以上0.8質量部以下であってよい。
【0021】
その他の任意成分
分散剤
本発明に係る空間埋設方法の一実施形態において、組成物の一成分として選択され得る分散剤は、無機物質である水硬性材料をスラリー中に良好に分散させる機能を奏する限り、特に限定されない。ここでのスラリー中での良好な分散状態とは、例えば平均粒径が約500nm~500μm程度である水硬性材料の粒子が水系媒体中にて沈殿せずに浮遊・懸濁している状態を指す。水硬性材料がスラリー中で良好な分散状態を保持することによって、スラリーの均一な流動性が得られ易い。
【0022】
使用され得る分散剤は、特に限定されないが、例えば、高分子型分散剤、界面活性剤型分散剤、無機系分散剤等が挙げられる。
高分子型分散剤の例としては、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系ポリマー、分子中にカルボキシル基を有するポリカルボン酸系ポリマー、特には分子中にカルボキシル基とポリオキシアルキレン鎖とを有するポリカルボン酸エーテル系ポリマー、分子中にリン酸基を有するリン酸系ポリマー等のアニオン性高分子型分散剤、ポリアルキレンポリアミン系ポリマー等のカチオン性高分子型分散剤、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系ポリマー等の非イオン性高分子型分散剤が挙げられる。
【0023】
上記スルホン酸系ポリマーとしては、分子中にスルホン酸基又はスルホン酸の塩の基を有する化合物を含むものであればよい。スルホン酸基又はスルホン酸の塩の基を有する化合物としては、分子中に芳香環を有するものであることが好ましい。
上記スルホン酸系ポリマーとしては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系ポリマー;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系ポリマー;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系ポリマー;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系減水剤;ポリスチレンスルホン酸塩系ポリマー等が挙げられる。
【0024】
上記ポリカルボン酸系ポリマーとしては、不飽和カルボン酸系単量体を重合して得られるポリマーが好ましい。組成物がアルカリ刺激剤を含有しない場合は、ポリカルボン酸系ポリマーの中でも、不飽和カルボン酸系単量体と(ポリ)アルキレングリコール系単量体とを含む単量体成分を共重合して得られるポリカルボン酸エーテル系ポリマーが好ましい。
不飽和カルボン酸系単量体としては、カルボキシル基とエチレン性不飽和炭化水素基を有するものであれば、特に制限されず、不飽和モノカルボン酸系単量体や不飽和ジカルボン酸系単量体が挙げられる。不飽和モノカルボン酸系単量体として具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等や、それらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1~22のアルコール又は炭素数2~4のグリコールとのハーフエステル;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1~22のアミンとのハーフアミド等が挙げられる。上記炭素数1~22のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等が挙げられ、上記炭素数2~4のグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられ、上記炭素数1~22のアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン等が挙げられる。
不飽和ジカルボン酸系単量体として具体例には、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸等や、それらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等、それらの無水物が挙げられる。上記不飽和カルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)又は無水マレイン酸が好ましい。
(ポリ)アルキレングリコール系単量体としては(ポリ)アルキレングリコール基とエチレン性不飽和炭化水素基を有するものであれば、特に制限されない。
(ポリ)アルキレングリコール基としては、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基又は上記オキシアルキレン基の1種もしくは2種以上の付加物で平均付加モル数が1を超えるポリオキシアルキレン基が好適である。上記オキシアルキレン基の炭素数としては2~12であることが好ましく、より好ましくは2~8であり、更に好ましくは2~4である。オキシアルキレン基は、アルキレンオキシド付加物であり、このようなアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等の炭素数2~8のアルキレンオキシドが挙げられる。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2~4のアルキレンオキシドであり、更に好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドである。また、上記ポリアルキレングリコールが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等の中から選ばれる任意の2種類以上のアルキレンオキシド付加物である場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態であってもよい。また、(ポリ)アルキレングリコール基を形成するオキシアルキレン基の平均付加モル数は、1~300が好ましく、より好ましくは2~200であり、更に好ましくは2~150である。
エチレン性不飽和炭化水素基としては特に限定されないが、炭素原子数2~8のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基等が好ましい。
【0025】
(ポリ)アルキレングリコール系単量体としては、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、メチル基を表す。Rは、水素原子、又は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。(RO)は、同一又は異なって、炭素数2~18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~300の数である。xは、0~4の数を表す。yは、0又は1を表す。)
上記式(1)において、好ましくはR、Rが水素原子であって、Rが水素原子又はメチル基である。より好ましくは、R、Rが水素原子であって、Rがメチル基である。
上記式(1)におけるRは、好ましくは水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基、特に好ましくは、水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基である。炭化水素基としては、例えば、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)、フェニル基、アルキル置換フェニル基等が挙げられる。中でも、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
上記式(1)中、ROは、「同一又は異なって、」炭素数2~18のオキシアルキレン基を表すが、これは、ポリアルキレングリコール基中にn個存在するROのオキシアルキレン基が全て同一であってもよく、異なっていてもよいことを意味する。上記オキシアルキレン基の炭素数等の好ましい範囲は上記の通りである。
上記式(1)中、nとしては好ましくは2~200であり、より好ましくは2~150である。
上記式(1)中、yが0である場合、xは1~4であることが好ましく、より好ましくは1又は2であり、更に好ましくは2である。xが1~4である場合、Rはメチル基であることが好ましい。
上記式(1)中、上記yが1の場合には、xは0であることが好ましい。この場合、Rは水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
【0026】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体として具体的には、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びこれらの末端を炭素数1~30の炭化水素基で疎水変性したアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オール、2-メチル-2-ブテン-1-オール、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール等の炭素数2~8の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~300モル付加させた化合物及びこれらの末端を炭素数1~30の炭化水素基で疎水変性した化合物等が挙げられる。炭素数2~8の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~300モル付加させた化合物としては、4-ヒドロキシブチル-1-モノビニルエーテル、(メタ)アリルアルコール又は3-メチル-3-ブテン-1-オールにアルキレンオキサイドを付加させたものが好ましい。
【0027】
上記ポリカルボン酸系ポリマーおよびポリカルボン酸エーテル系ポリマーは、不飽和カルボン酸系単量体および(ポリ)アルキレングリコール系単量体以外のその他の共重合可能な単量体を共重合していても良い。
その他の共重合可能な単量体として具体的には、3-(メタ)アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アリルオキシエチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、α-メチル-p-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルスルファミン酸、(メタ)アリルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、4-(アリルオキシ)ベンゼンスルホン酸、1-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、1,1-ジメチル-2-プロペン-1-スルホン酸、3-ブテン-1-スルホン酸、1-ブテン-3-スルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-n-ブタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-フェニルプロパンスルホン酸、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸等の不飽和スルホン酸及びこれらの塩;3-(メタ)アリルオキシ-1,2-ジヒドロキシプロパン、1-アリルオキシ-3-ブトキシプロパン-2-オール等の水酸基含有エーテル類;N-ビニルピロリドン等のN-ビニルラクタム系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸iso-ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル類;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-メチルエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のN置換若しくは無置換の(メタ)アクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、ビニルナフタレン、フェニルマレイミド、ビニルアニリン等のビニルアリール単量体;エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、オクテン等のアルケン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール及びこれらの塩またはこれらの4級化物等の不飽和アミン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体等が挙げられる。
【0028】
上記リン酸系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコール基を含むリン酸系ポリマー、リン酸系縮合物が挙げられる。
リン酸系ポリマーとしては、(ポリ)アルキレングリコール系単量体とリン酸系単量体とを含む単量体成分を共重合して得られるポリマーが好ましい。
上記リン酸系単量体としては、例えば、リン酸モノ(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリル酸エステル、リン酸ジ-{(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリル酸}エステル、(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル等が挙げられる。
リン酸系縮合物としては、例えば、リン酸エステルとアルデヒド化合物との縮合物が好適である。リン酸エステルとしては、リン酸類(塩であってもよい)と、水酸基含有化合物とのエステル化物であれば特に限定されず、1種又は2種以上を使用することができる。なお、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルのいずれであってもよい。
【0029】
界面活性剤型分散剤の例としては、アルキルスルホン酸系等のアニオン性の界面活性剤型分散剤、四級アンモニウム系、アルキルポリアミン系等のカチオン性の界面活性剤型分散剤、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系等の非イオン性の界面活性剤型分散剤が挙げられる。
無機系分散剤としては、ポリリン酸塩系(例えばトリポリリン酸ナトリウム)等のアニオン性の無機系分散剤が挙げられる。
これらの分散剤の単一種または複数種の混合物を用いることができる。
【0030】
上記組成物における分散剤の配合量は(使用される場合)、特に限定されないが、スラリー中で水硬性材料を良好に分散させる観点、およびこの効果と効率性・経済性とのバランスの観点から、例えば、水硬性材料100質量部に対して0.01質量部以上4質量部以下、好ましくは0.01質量部以上3質量部以下、0.01質量部以上2質量部以下、0.01質量部以上1質量部以下、0.01質量部以上0.8質量部以下、0.01質量部以上0.5質量部以下、0.012質量部以上4質量部以下、0.012質量部以上3質量部以下、0.012質量部以上2質量部以下、0.012質量部以上1質量部以下、0.012質量部以上0.8質量部以下、0.012質量部以上0.5質量部以下、0.015質量部以上4質量部以下、0.015質量部以上3質量部以下、0.015質量部以上2質量部以下、0.015質量部以上1質量部以下、0.015質量部以上0.8質量部以下、または0.015質量部以上0.5質量部以下であってよい。
【0031】
硬化阻害剤
本発明に係る空間埋設方法の一実施形態において、組成物の一成分として選択され得る硬化阻害剤は、スラリー中の水硬性材料と二酸化炭素との早期の硬化反応を阻害し、遅延させる機能を奏する。組成物に硬化阻害剤を含ませることによって、二酸化炭素と共に組成物のスラリーを圧入して空間を埋設する際に、空間の全体にスラリーが到達するまでの早期の硬化を抑制し、特には少なくとも部分的に狭小化または複雑化した形状を含む空間の隅々にまで効率的に充填・固化することがより容易になる。
【0032】
硬化阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸等のオキシカルボン酸もしくはその塩;ピルビン酸、オキサロ酢酸、α-ケトグルタル酸、アセト酢酸、アセトンジカルボン酸、レブリン酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等のケト酸もしくはその塩;グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖等の単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、又はデキストリン等のオリゴ糖、又はデキストラン等の多糖類、これらを含む糖蜜類等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール;グリセリン等の多価アルコール;珪弗化マグネシウム;ホウ酸類等が挙げられる。これらの硬化阻害剤の単一種または複数種の混合物を用いることができる。
硬化阻害剤としては、オキシカルボン酸もしくはその塩、ケト酸もしくはその塩、糖、および、糖アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。後述するキレート化剤(金属溶出剤)としても作用するオキシカルボン酸もしくはその塩を含むことがより好ましい。
【0033】
上記組成物における硬化阻害剤の配合量は(使用される場合)、特に限定されないが、スラリー中の水硬性材料の硬化反応を阻害し、遅延させる機能を十分に与えると同時に、硬化反応を過度に停止させない観点から、例えば、水硬性材料100質量部に対して0.04質量部以上4質量部以下、好ましくは0.04質量部以上3質量部以下、0.04質量部以上2質量部以下、0.04質量部以上1質量部以下、0.04質量部以上0.8質量部以下、0.04質量部以上0.5質量部以下、0.06質量部以上4質量部以下、0.06質量部以上3質量部以下、0.06質量部以上2質量部以下、0.06質量部以上1質量部以下、0.06質量部以上0.8質量部以下、0.06質量部以上0.5質量部以下、0.07質量部以上4質量部以下、0.07質量部以上3質量部以下、0.07質量部以上2質量部以下、0.07質量部以上1質量部以下、0.07質量部以上0.8質量部以下、または0.07質量部以上0.5質量部以下であってよい。
【0034】
キレート化剤(金属溶出剤)
本発明に係る空間埋設方法の一実施形態において、組成物の一成分として選択され得るキレート化剤(あるいは金属溶出剤とも称することができる)は、組成物のスラリー中で水硬性材料を構成する金属をキレート化することによりスラリー中に金属イオンを溶出させる機能を奏する。組成物にキレート化剤(金属溶出剤)を含ませることによって、二酸化炭素と共に組成物のスラリーを圧入して空間を埋設する際に、水硬性材料を構成する金属イオンを溶出させることで金属と二酸化炭素との反応を促進し、空間の埋設において二酸化炭素の固定化量を増大させることが可能になる。
【0035】
キレート化剤(金属溶出剤)としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン-四酢酸(DPTA-ОH)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ジカルボキシメチルグルタミン酸(CMGA)、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸(EDDS)、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸(HIDS)やこれらの金属(ナトリウム、カリウム等)塩等のアミノカルボン酸系キレート剤;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP) 、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP)やこれらの金属(ナトリウム、カリウム等)塩等のホスホン酸系キレート剤;アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ステアロイルアセトン、ステアロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタン等のβ-ジケトン類;カテコール、ピロガロール等のオキシフェノール類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール類;グリシン、アラニン等のアミノ酸類;フミン酸;タンニン酸;縮合リン酸塩等が挙げられる。これらのキレート化剤の単一種または複数種の混合物を用いることができる。
キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤およびホスホン酸系キレート剤が好ましい。
【0036】
上記組成物におけるキレート化剤(金属溶出剤)の配合量は(使用される場合)、特に限定されないが、スラリー中の水硬性材料からの金属溶出を十分に促進する観点、およびこの効果と効率性・経済性とのバランスの観点から、例えば、水硬性材料100質量部に対して0.04質量部以上4質量部以下、好ましくは0.04質量部以上3質量部以下、0.04質量部以上2質量部以下、0.04質量部以上1質量部以下、0.04質量部以上0.8質量部以下、0.04質量部以上0.5質量部以下、0.06質量部以上4質量部以下、0.06質量部以上3質量部以下、0.06質量部以上2質量部以下、0.06質量部以上1質量部以下、0.06質量部以上0.8質量部以下、0.06質量部以上0.5質量部以下、0.07質量部以上4質量部以下、0.07質量部以上3質量部以下、0.07質量部以上2質量部以下、0.07質量部以上1質量部以下、0.07質量部以上0.8質量部以下、または0.07質量部以上0.5質量部以下であってよい。
【0037】
一実施形態において、組成物のスラリーに含まれる水分量は、特に限定されないが、スラリーの空間への圧入の流動性の確保および硬化反応の実効性・効率性のバランスの観点から、水硬性材料100質量部に対して、通常5質量部以上500質量部以下、好ましくは5質量部上400質量部以下、5質量部上300質量部以下、5質量部上200質量部以下、5質量部上100質量部以下、10質量部以上500質量部以下、10質量部上400質量部以下、10質量部上300質量部以下、10質量部上200質量部以下、10質量部上100質量部以下、20質量部以上500質量部以下、20質量部上400質量部以下、20質量部上300質量部以下、20質量部上200質量部以下、20質量部上100質量部以下、30質量部以上500質量部以下、30質量部上400質量部以下、30質量部上300質量部以下、30質量部上200質量部以下、30質量部上100質量部以下、40質量部以上500質量部以下、40質量部上400質量部以下、40質量部上300質量部以下、40質量部上200質量部以下、または40質量部上100質量部以下であってよい。
【0038】
組成物のスラリーは、上記の不可欠な水硬性材料および必要に応じて任意成分と水とを所定の割合で攪拌・混合することによって得ることができる。攪拌・混合は、通常室温で行うことができるが、例えば5℃以上50℃以下で行ってもよい。また攪拌・混合の時間は、特に限定されないが、10秒以上1時間以下であってよく、典型的には20秒以上40分以下とすることができる。
【0039】
ジオポリマー
一実施形態において、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)を共存させた状態で、水硬性材料として高炉スラグやフライアッシュ等のアルミノシリケート材料(活性フィラー)と、水と、必要に応じて水酸化ナトリウム(NaOH)等の他のアルカリ刺激剤とを混合することによってジオポリマースラリーを形成することができる。このようなジオポリマースラリーを用いることにより、水硬性材料としてセメントを用いる場合と比較してCO排出量が大幅に削減可能であり、かつ、その硬化物は耐酸性や耐火性に優れている等の利点が得られる。
ジオポリマーの硬化反応のメカニズムを以下の式に示す。この反応は縮重合によるポリマー化である。アルミノシリケート材料に含まれるSiやAlの結合がアルカリ刺激によって破壊され、含まれているCa2+やNa等の金属イオンが溶出し、OHや金属イオンがお互いに反応することによりモノマーを形成する。このモノマーが脱水しながら金属イオンと結合し、ポリマーを形成して硬化する。同時に、これらの金属イオンは二酸化炭素と炭酸塩化反応して硬化物を成し、これらの反応が相俟って強固な複合硬化体が形成されることになる。
【化2】
【0040】
ジオポリマーの硬化体は、セメント硬化体に比べて耐火性や耐酸性に優れるが、これは活性フィラーの化学組成によってセメント水和物とは異なる生成物が生成されるためであると考えられる。ジオポリマーのバインダーに通常使用される高炉スラグやフライアッシュ等のアルミノシリケート材料は、ポルトランドセメントに比べてCa成分が少ないため、酸によって石膏に変化する割合が低いので、耐酸性に優れている。また、ジオポリマーの主成分は非晶質のゲルであるため、受熱による強度低下が小さく、高温抵抗性に優れているという利点もある。
【0041】
スラリーの特性
組成物のスラリーは、スラリーの生成後、水硬性材料と水と二酸化炭素との接触が開始された後、完全に流動性を失って硬化するに至るまでの時間が、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、さらにより好ましくは10時間以上、さらにより一層好ましくは15時間以上、最も好ましくは24時間(1日)以上または24時間(1日)超であってよい。
ここで、組成物のスラリーが「完全に流動性を失って硬化する」に至っていない状態とは、閉じた系中にて、20℃で、所定の型枠内に注入した組成物のスラリーと二酸化炭素(少なくとも80%の濃度)との接触を開始してから所定期間が経過した後、型枠から全く脱型することができない(型枠の内面に対するスラリーの粘着性が未だ保持されている)か、あるいは型枠の内面形状の実質的に全てが硬化物の外形に反映される程度にきれいな状態で脱型することができない(例えば、全ての部分が硬化していないため脱型時に硬化物の一部が破損することを回避できない)ことを意味する。
【0042】
空間の埋設手法
本発明に係る空間埋設方法は、空間へ上記組成物を含むスラリーを圧入し、スラリーと共に空間へ圧入された二酸化炭素またはスラリーとは別途に空間へ圧入された二酸化炭素と反応させることにより、この空間を埋設することを含む。
本発明の空間埋設方法によって埋設することを意図する空間は、特に限定されず、いかなる形状および体積(容積)を有する空間も包含する。また、空間は、地上に存在する空間および地下に存在する空間(例えば、地層内の孔隙、地下坑道、採炭跡等)を包含する。
埋設対象となる空間の体積は、何ら限定されるものではないが、例えば10-3~10であってよく、典型的には1m~10、1m~10、5m~10、5m~10、または10m~10であってよい。
【0043】
本発明に係る空間埋設方法に用いられる二酸化炭素の供給源は、特に限定されない。一実施形態において、本方法に使用される二酸化炭素は、発電所、あるいは石油精製設備やアンモニア製造設備等の種々の化学プラントから排出・回収されるものを含む。
【0044】
空間に圧入される二酸化炭素の送入圧力は、二酸化炭素の形態、送入口から空間に至るまでの導管の管径および長さ、埋設されるべき空間の形状および体積等の諸要素に依って決定され得る。二酸化炭素の送入圧力は、特に限定されないが、例えば大気圧超であって100MPaG以下、典型的には1MPaG以上50MPaG、2MPaG以上40MPaG以下、または3MPaG以上30MPaG以下であってよい。
【0045】
空間の一例としては、坑内堀炭鉱の地下採炭跡地や坑道が挙げられる。また、空間の他の例としては、下水道、上水道、ガス、電気・通信、用水等の種々の用途の地下の埋設管であって、老朽化・破損等により使用されなくなったものが挙げられる。特に閉山した炭鉱におけるこのような地下採炭跡地や坑道、または老朽化・破損した地下の埋設管は、地下空洞が変形、水没している等、充填対象の空間が部分的に狭小化または複雑化している場合が多い。例えば、坑内堀炭鉱の地下採炭跡地における空間は、ある程度連続した広い空間に加えて、砕石や小石等で満たされた極めて狭小な通路が複雑に連絡しているような空間も存在する。また、このような坑内堀炭鉱の地下採炭跡地や坑道は、地下数百メートルから1000メートルを超えるような深さを有する場合もある。
本実施形態に係る空間埋設方法によれば、適当な流動性および固化特性を有する固化物質と共に温室効果ガスである二酸化炭素を、空間、特には少なくとも部分的に狭小化または複雑化した形状を含む空間における注入口付近での固化を抑制しつつ、空間の隅々にまで効率的に充填・固化して空間を埋設することができる。また、空間の埋設効率及び強度を増大させると共に、より多量の二酸化炭素の固定化・鉱物化が可能になり、地球の温暖化防止・環境保全に資することができる。
【0046】
一実施形態において、二酸化炭素および組成物のスラリーを空間に圧入する際、これらを空間に導入する前に予め、二酸化炭素と組成物のスラリーを混合し、すなわち、二酸化炭素および組成物のスラリーの空間への経路を共通のものとすることができる。
より好ましい一実施形態において、二酸化炭素および組成物のスラリーを空間に圧入する際、予め二酸化炭素と組成物のスラリーを混合することなく、分離した経路にて二酸化炭素および組成物のスラリーを空間に導入し、これらが空間に達した時点で初めて反応するように構成し、組成物のスラリーの充填および二酸化炭素の固定化を達成するようにしてもよい。分離した経路は、1つの導管を時間差で用いる場合、および2つ(または3つ以上)の別導管を用いる場合を包含する。この実施形態において、好ましくは、例えば、最初に組成物のスラリーで充填対象の空間を満たしておき、次いで二酸化炭素を導入することによって、早期の固化を防止し、空間を確実に充填し、かつより多量の二酸化炭素を固定化することができる。
いずれの実施形態においても、好ましくは、組成物のスラリー生成後にこれが二酸化炭素と接触した後、すなわち水硬性材料と水と二酸化炭素との接触が開始された後、完全に流動性を失って硬化するまでに、埋設対象の空間の隅々にまで組成物のスラリーが達するようにされる限り、空間へのスラリーの供給速度(流量)及び供給圧力等の供給条件は適宜調整され得る。空間へのスラリーの供給速度は、何ら限定されるものではないが、例えば10-3/分~5・10/分、典型的には10-3/分~10/分、10-3/分~10/分、10-2/分~10/分、10-2/分~10/分、10-1/分~10/分、または10-1/分~10m/分であってよい。
【0047】
空間に圧入される二酸化炭素は、スラリー中の水に溶解して炭酸イオンあるいは炭酸水素イオンとなる。この炭酸イオンあるいは炭酸水素イオンと、水硬性材料起源のカルシウムイオン等の金属イオンとが結合して、固体の炭酸金属塩(例えば炭酸カルシウム)が生成することによって二酸化炭素が固定されることになる。空間に圧入される二酸化炭素のガスに限らず、超臨界状態の二酸化炭素であってもよい。埋設されるべき空間の位置、形状、大きさや、スラリーの水硬性材料および任意成分の種類および量等の諸要素を考慮し、二酸化炭素の圧入および固定化のハンドリング性および効率性の観点から、使用される二酸化炭素の性状を適宜選択することができる。二酸化炭素ガスとしては、液体二酸化炭素からのガス、圧縮炭酸ガス、ドライアイスからのガス、化学反応で発生させた二酸化炭素ガス等が使用され得る。圧入する二酸化炭素ガスの濃度は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより一層好ましく、90%以上がさらにより一層好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0048】
例えば、空間に圧入される二酸化炭素がカルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムを生成する場合、理論上1mの二酸化炭素ガス(25℃、大気圧;質量約1.98kg)と約2.26kgの酸化カルシウムとが反応する。すなわち、この反応により、少量のカルシウム成分で二酸化炭素ガスを吸収・固定化することができると理解される。
【0049】
上記のいずれかの実施形態の空間埋設方法によって空間に埋設されて固定化・鉱物化される二酸化炭素の量は、スラリーに用いる水硬性材料や他の任意成分の種類および量、それらによって決定される硬化の反応速度に依存し、さらにはスラリーおよび二酸化炭素の空間への供給手順にも左右されるため、特に限定されるものではない。
一実施形態において、組成物スラリーが二酸化炭素と硬化反応して固定化する程度は、閉じた系内にスラリーおよび飽和量の二酸化炭素を導入し、例えば30分経過後のスラリー単位体積あたりの二酸化炭素の吸着量(当該系内での二酸化炭素の減少量:kg/m)を測定することによって定量化することができる。組成物スラリーが二酸化炭素と接触を開始してから30分経過後の二酸化炭素の吸着量は、好ましくは50kg/m以上であってよく、より好ましくは100kg/m以上、さらにより好ましくは200kg/m以上、最も好ましくは300kg/m以上であってよい。
【0050】
また、空間に埋設されて固定化・鉱物化される二酸化炭素の量は、水硬性材料由来の金属イオンと二酸化炭素との硬化反応の生成物(例えば炭酸カルシウム:CaCO)を熱重量示差熱分析(TG-DTA)に供して、生成物の単位重量あたりの二酸化炭素:CO固定量(すなわち熱重量示差熱分析によって減少した重量の割合)を分析することによって把握することができる。水硬性材料由来の金属イオンと二酸化炭素との硬化反応の生成物が炭酸カルシウム(CaCO)である場合、分解温度が約230℃~約730℃であるため、この温度間で熱重量示差熱分析に供し、生成物の単位重量あたりの減少重量の割合を分析すればよい。すなわち、このときの二酸化炭素固定量(%)WCO2は、硬化反応の生成物試料の質量から自由水分の質量を差し引いた質量をm(mg)とし、熱重量示差熱分析による所定の温度範囲内で減少した質量(炭酸カルシウムについては約230℃~約730℃の間に減少した質量:すなわち炭酸カルシウムの熱分解によって発生した二酸化炭素の質量)をm(mg)とすると、以下の計算式で算出され得る。
CO2=(m/m)×100(%)
【0051】
空間に埋設されて固定化・鉱物化される二酸化炭素の量は、スラリー(水硬性材料および任意成分および水を含む)と二酸化炭素との接触が開始されてから14日(すなわち2週間)経過した時点において、二酸化炭素固定量WCO2が2.0%以上であることが好ましく、4.0%以上であることがより好ましく、5.0%以上であることがさらにより好ましく、6.0%以上であることがより一層好ましく、7.0%以上であることがさらにより一層好ましく、8.0%以上であることが最も好ましい。
【0052】
好ましい一実施形態において、空間に圧入される二酸化炭素のうち未反応(未固定化)の二酸化炭素の排出導管を設けることも好ましい。埋設対象の空間が実質的に閉じられた系である場合、二酸化炭素の圧入量と排出量との差異及び変動から、二酸化炭素の実質的な固定化量を測定することができ、また水硬性材料による二酸化炭素固定化能の時間的な推移を把握することができる。このような場合、排出ガス中の二酸化炭素濃度が所定の閾値、例えば80%以上あるいは90%に達したときには、水硬性材料による二酸化炭素固定化能が飽和状態に近くなっているため、二酸化炭素の圧入を停止する判断をすることができる。
【0053】
図1は、本発明に係る空間の埋設方法または空間埋設システムを坑内堀炭鉱の地下採炭跡地を適用した一実施形態の概略図である。これは非限定的な一例であることに留意されたい。図1において、1は空間埋設システム、2は二酸化炭素の貯留設備、3は二酸化炭素圧入井、4は二酸化炭素の圧入導管、5は地下の帯水層、6は炭層、7は坑内堀炭鉱の地下採炭跡地、8は埋設対象の空間を指す。
発電所、あるいは石油精製設備またはアンモニア製造設備等の種々の化学プラントから排出・回収された二酸化炭素(例えば液化物や超臨界流体)は、タンク等の貯留設備2にいったん貯留された後、二酸化炭素圧入井3から埋設対象の空間8に向けて通常、圧入導管4を通って圧入・充填される。二酸化炭素圧入井3の圧入口には、通常、二酸化炭素を空間まで確実に送出するためのポンプが備えられていてよい。坑内堀炭鉱の地下採炭跡地7は、地下深く、例えば地下数百メートルから1000メートルを超える深い位置に設置されていることも多いが、そのような場合、二酸化炭素の圧入導管4は、地下の帯水層5を通って炭層6に存在する坑内堀炭鉱の地下採炭跡地7及びその中にある埋設対象の空間8に至る形で配されている。
【0054】
好ましくは、この二酸化炭素の空間8への圧入・充填に先立って、水硬性材料を含む組成物のスラリーが空間8へ送入・充填される。組成物スラリーを空間8へ送入するための導管は図示されていないが、その導管は二酸化炭素の圧入導管4と共通としてよいし、別途設けられていてもよい。
空間8への二酸化炭素の圧入速度(およびポンプ圧力)ならびに組成物スラリーの送入速度は、組成物のスラリーが二酸化炭素と接触した後、完全に流動性を失って硬化するまでに、埋設対象の空間の隅々にまで組成物のスラリーが達するようにされる限り、特に限定されない。好ましくは、二酸化炭素および組成物のスラリーを空間に圧入する際、予め二酸化炭素と組成物のスラリーを混合することなく、(時間的にまたは物理的に)分離した経路にて、まず組成物のスラリーを埋設対象の空間に導入し、次いで二酸化炭素をその空間に導入し、これらが空間に達した時点で初めて反応するように構成し、組成物のスラリーの充填および二酸化炭素の固定化を達成するようにしてもよい。この実施形態によれば、特に少なくとも部分的に狭小化または複雑化した形状を含む空間における注入口付近での組成物スラリーの固化を抑制しつつ、空間の隅々にまで効率的に充填・固化して空間を埋設することができるから、空間の埋設効率及び強度を増大させると共に、より多量の二酸化炭素の固定化・鉱物化が可能になり、地球の温暖化防止・環境保全に資することができる。
【実施例0055】
以下、実施例に基づき、本発明の効果について、更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
使用物質
(1)水硬性材料(バインダー)
・高炉スラグ微粉末:日鉄セメント株式会社製「スピリッツ4000」(商品名)
密度2.91g/cm、比表面積4050cm/g
・フライアッシュ:北電興業株式会社製
組成 - SiO:58.4%、Al:23.2%、Fe:5.9%、
CaO:3.7%、SO:1.0%、MgO:0.8%
【0057】
(2)アルカリ刺激剤
水酸化ナトリウム
(3)分散剤
「JW-7」(ポリカルボン酸エーテル系ポリマー)
「MJ-3」(ポリカルボン酸系ポリマー)
(4)キレート化剤(金属溶出剤)
「CY-1」(分散剤としても機能する。)
(5)硬化阻害剤
「KS-1」(グルコン酸ナトリウム)
【0058】
例1
水硬性材料(バインダー)として高炉スラグを用い、高炉スラグに対する水の質量比(W/B)を0.35として高炉スラグおよび水をビーカーに入れた。そして、20℃の環境下にてこれらをミキサーで1分間練り混ぜた後、1分間掻き落とし、さらにミキサーで4分間練り混ぜて組成物スラリー1を得た。そして、この組成物スラリー1を二酸化炭素(CO)促進環境下で(すなわち二酸化炭素100%の環境下にて)養生し、二酸化炭素が注入された組成物スラリー1’を得た。
【0059】
例2
水硬性材料(バインダー)としての高炉スラグおよび水に併せて、水酸化ナトリウム(NaOH)からのNaOと水硬性材料(バインダー)との質量比(NaO/B)が0.045となる量で、アルカリ刺激剤として水酸化ナトリウムもビーカーに加えた以外は上記例1と同様に、組成物スラリー2および二酸化炭素が注入された組成物スラリー2’を得た。
【0060】
例3
水硬性材料(バインダー)としての高炉スラグに対する水の質量比(W/B)を0.5として高炉スラグおよび水をビーカーに入れる共に、これらに併せて、水酸化ナトリウム(NaOH)からのNaOと水硬性材料(バインダー)との質量比(NaO/B)が0.09となる量で、アルカリ刺激剤として水酸化ナトリウムもビーカーに加えた以外は上記例1と同様に、組成物スラリー3および二酸化炭素が注入された組成物スラリー3’を得た。
【0061】
例4
水硬性材料(バインダー)としてフライアッシュを用い、フライアッシュに対する水の質量比(W/B)を0.4としてフライアッシュおよび水をビーカーに入れる共に、これらに併せて、水酸化ナトリウム(NaOH)からのNaOと水硬性材料(バインダー)との質量比(NaO/B)が0.148となる量で、アルカリ刺激剤として水酸化ナトリウムもビーカーに加えた以外は上記例1と同様に、組成物スラリー4および二酸化炭素が注入された組成物スラリー4’を得た。
【0062】
例5
水硬性材料(バインダー)としてフライアッシュを用い、フライアッシュに対する水の質量比(W/B)を0.5としてフライアッシュおよび水をビーカーに入れる共に、これらに併せて、水酸化ナトリウム(NaOH)からのNaOと水硬性材料(バインダー)との質量比(NaO/B)が0.185となる量で、アルカリ刺激剤として水酸化ナトリウムもビーカーに加えた以外は上記例1と同様に、組成物スラリー5および二酸化炭素が注入された組成物スラリー5’を得た。
【0063】
(i)組成物スラリーの流動性(フロー特性)の測定
上記組成物スラリー1~5のそれぞれについて、室温下(約20℃にて)5分間攪拌した後の流動性(フロー特性)を測定した。
流動性の測定は、JIS-R-5201の「セメント物理試験方法」に準じて行った。フローテーブル、フローコーンおよび突き棒を用い、フローコーンに1/2ずつ2層に分けて組成物スラリーの試料を詰めた。各層は15回均等に突き、ペーストに落下運動を与えてスラリーが広がった後の直径を最大と認める方向と、これに直角な方向とを測定しフロー値とした。落下運動が不可能な場合は、スランプ試験用の平版を使用し、フローコーンを引き上げた30秒後に測定した。
【0064】
(ii)二酸化炭素雰囲気下で14日間養生した後の組成物スラリーの圧縮強度の測定
上記組成物スラリー1~5のそれぞれが形成された後、組成物スラリーの練り混ぜを1分間行い、かき落としを1分間行った後、さらに練り混ぜを4分間行った。型枠はφ50×100(mm)のシリンダー型プラスチック製型枠を使用した。練り混ぜ済みのスラリーを2層に分けて型枠に投入し、各層を突き棒で15回ずつ突いた後に木槌で叩きコテで均した。
このように型枠に導入されたスラリーに対し、室温下(約20℃にて)、80%以上の二酸化炭素雰囲気下で14日養生した後の圧縮強度を、JIS A1108のコンクリート圧縮試験方法に準拠して測定した。試料は材齢1日で脱型し、養生を行った。1日で(24時間経過後に)脱型が不可能な、つまり型枠の内面に対するスラリーの粘着性が保持されている試料は、脱型せずに養生を行った。二酸化炭素雰囲気下で14日間の養生後、打ち込み面については研磨を行い、荷重が均一に加わるようにした。圧縮強度試験機を用いて衝撃を与えない程度の荷重を一様に加え、載荷速度は毎秒0.6±0.4(N/mm)程度とした。圧縮強度は対象試料を破壊したときに試験機が示す最大荷重を0.5(kN)まで読み取り、これを試料の断面積で除することで算出した。
ここで、練り込み済みのスラリーの二酸化炭素雰囲気下での養生の開始から1日で(24時間経過後に)脱型が不可能な、つまり型枠の内面に対するスラリーの粘着性が保持されている状態、あるいは、型枠の内面形状の実質的に全てが硬化物の外形に反映される程度にきれいな状態で脱型することができない(例えば、全ての部分が硬化していないため脱型時に硬化物の一部が破損することを回避できない)状態である場合は、このスラリーは「硬化していない」と判定され得る。逆に、練り込み済みのスラリーの二酸化炭素雰囲気下での養生の開始から1日で(24時間経過後に)脱型が可能、つまり型枠の内面に対するスラリーの粘着性が保持されていない状態、あるいは、型枠の内面形状の実質的に全てが硬化物の外形に反映される程度にきれいな状態で脱型することができる状態である場合は、このスラリーは「硬化している」と判定され得る。
【0065】
(iii)二酸化炭素雰囲気下で14日間養生した後の組成物スラリーの二酸化炭素固定量および炭酸カルシウム(CaCO )生成量の測定
上記(ii)にて二酸化炭素雰囲気下で14日間の養生後に得られた試料をイソプロパノールに15分間浸漬させ、吸引ろ過を1分間行い、40℃チャンバーで7分間乾燥させることによって前処理した。測定試料の量は10±1mgとし、窒素雰囲気下20℃/分で昇温し、1000℃に到達後5分間維持し、その後冷却の条件にて、二酸化炭素固定量の把握のため熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行った。水硬性材料由来の金属イオンと二酸化炭素との硬化反応の生成物が炭酸カルシウム(CaCO)である場合、分解温度が約230℃~約730℃であるため、そこから生成物の単位重量あたりの減少重量の割合を分析することで、二酸化炭素固定量(%)および更には炭酸カルシウム(CaCO)生成量(%)を定量化することができる。
二酸化炭素固定量(%)WCO2は、試料(スラリーの水硬性材料と二酸化炭素との硬化反応の生成物)の質量から自由水分の質量を差し引いた質量をm(mg)とし、熱重量示差熱分析による上記温度範囲内で減少した質量(炭酸カルシウムについては約230℃~約730℃の間に減少した質量:すなわち炭酸カルシウムの熱分解によって発生した二酸化炭素の質量)をm(mg)とすると、以下の計算式で算出され得る。
CO2=(m/m)×100(%)
また、炭酸カルシウム(CaCO)生成量(%)WCaCO3(養生処理後の試料に占める炭酸カルシウムの質量割合)は、熱分解の反応式CaCO(分子量100)→CaO(分子量56)+CO(分子量44)から、以下の計算式で算出され得る。
CaCO3=WCO2×(100/44)(%)
さらに、CaCOの生成量から、スラリー容積あたりCO固定量(kg/m)を算出した。
【0066】
組成物スラリー1~5(例1~5)についての上記(i)~(iii)の各物性の測定結果を、水硬性材料(バインダー)に対する水の質量比(W/B)、及び水硬性材料(バインダー)に対するアルカリ刺激剤の水酸化ナトリウム(NaOH)からのNaOの質量比(NaO/B)と併せて以下の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示された結果から、本発明に係る空間の埋設方法によれば、組成物の水硬性材料の種類および量、ならびにアルカリ刺激剤の有無またはその量を調整することによって、流動性・硬化速度を適切な範囲に制御して空間を効率的に充填しながらも、より多量の二酸化炭素を埋設・固化することが可能であると理解される。
【0069】
例6
水硬性材料(バインダー)として高炉スラグを用い、高炉スラグに対する水の質量比(W/B)を0.35として高炉スラグおよび水をビーカーに入れ、さらに分散剤「JW-7」を高炉スラグに対する質量比(固形分換算)0.018質量%にて添加して、室温下(約20℃にて)、手練りで30秒混ぜ合わせて組成物スラリー6を得た。
【0070】
例7
分散剤「JW-7」に代えて高炉スラグに対する質量比(固形分換算)0.2質量%のキレート化剤「CY-1」(分散剤としても機能)をスラリー成分として添加した以外は例6と同様にして、組成物スラリー7を得た。
【0071】
例8
水硬性材料(バインダー)として高炉スラグを用い、高炉スラグに対する水の質量比(W/B)を0.35として高炉スラグおよび水をビーカーに入れ、さらに水酸化ナトリウム(NaOH)からのNaOと水硬性材料(バインダー)との質量比(NaO/B)が0.045となる量のアルカリ刺激剤としてのNaOH、および高炉スラグに対する質量比(固形分換算)0.2質量%の分散剤「MJ-3」を添加して、室温下(約20℃にて)、手練りで30秒混ぜ合わせて組成物スラリー8とした。
【0072】
例9
分散剤「MJ-3」の高炉スラグに対する質量比(固形分換算)を0.15質量%に変更し、さらに高炉スラグに対する質量比(固形分換算)0.2質量%の硬化阻害剤「KS-1」をスラリー成分として添加した以外は例8と同様にして、組成物スラリー9を得た。
【0073】
組成物スラリー6~9(例6~9)の成分組成を以下の表2に示す。
表2中、「質量%/B」は、水硬性材料(バインダー)に対する当該成分の質量割合%を指す(表3についても同様)。
【表2】
【0074】
組成物スラリー6~9(例6~9)を上記(i)~(iii)の各物性の測定試験に供した。
ここで、上記(ii)の組成物スラリーの圧縮強度の測定においては、二酸化炭素雰囲気下で1日間(24時間)養生した時点で、試料を脱型できた場合に圧縮強度の測定を行った。また、上記(iii)の組成物スラリーの二酸化炭素固定量の測定においては、二酸化炭素雰囲気下で1日間(24時間)養生した後および14日間養生した後の値の測定を行った。
【0075】
組成物スラリー6~9(例6~9)についての上記(i)~(iii)の各物性の測定結果を以下の表3に示す。
【表3】

*1:組成物スラリー7(アルカリ刺激剤を含有せずキレート化剤を含有する場合)にて二酸化炭素を24時間接触させた後の型枠からの脱型の際の外観写真が、図2に示されている。この写真から、上記定義による「脱型が不可能」な状態であったと理解される。すなわち、型枠の内面に対するスラリーの粘着性が部分的に保持されており、脱型時に硬化物の一部が破損した。
*2:組成物スラリー8(アルカリ刺激剤を含有すると共に、硬化阻害剤を含有しない場合)にて二酸化炭素を24時間接触させた後の型枠からの脱型の際の外観写真が、図3(A)に示されている。この写真から、上記定義による「脱型が可能」な状態であったと理解される。すなわち、型枠の内面に対するスラリーの粘着性が保持されておらず、全体的にスラリーが硬化されていた。
*3:組成物スラリー9(アルカリ刺激剤を含有すると共に、硬化阻害剤を含有する場合)にて二酸化炭素を24時間接触させた後の型枠からの脱型の際の外観写真が、図3(B)に示されている。この写真から、上記定義による「脱型が不可能」な状態であったと理解される。すなわち、型枠内でスラリーの硬化がまだ殆ど進行していなかった。
*4:二酸化炭素雰囲気下で14日養生後に測定した圧縮強度は7.5N/mm2であった。
【0076】
表3に示された結果から、本発明に係る空間の埋設方法によれば、組成物がアルカリ刺激剤を含有しない場合であっても、適切な添加剤を添加することによって二酸化炭素の固定量を増大させることが可能であると分かった。特にキレート化剤を加えたときに高い二酸化炭素の固定量が得られた。組成物がアルカリ刺激剤を含有する場合のほうが、これを含有しない場合よりも二酸化炭素の固定量が大きかった。
組成物がアルカリ刺激剤を含有する場合、二酸化炭素の固定量が大きくなる一方で、硬化速度もより高くなる傾向があるが、添加剤として硬化阻害剤を加えることにより硬化速度を低く制御できたことに加えて、二酸化炭素雰囲気下14日養生後には硬化が進行し、適度な強度に達することが分かった。このように本発明に係る空間の埋設方法によれば、アルカリ刺激剤の有無にかかわらず、日単位の遅延した硬化速度が得られることにより、複雑な形状の空間に対しても隅々まで確実な充填・埋設を達成することが可能になると考えられる。
【符号の説明】
【0077】
1:空間埋設システム
2:二酸化炭素の貯留設備
3:二酸化炭素圧入井
4:二酸化炭素の圧入導管
5:地下の帯水層
6:炭層
7:坑内堀炭鉱の地下採炭跡地
8:埋設対象の空間
図1
図2
図3