(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111729
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】経路案内システム、経路案内方法及び経路案内プログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 21/26 20060101AFI20240809BHJP
A61G 5/04 20130101ALI20240809BHJP
【FI】
G01C21/26 P
A61G5/04 707
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016404
(22)【出願日】2023-02-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100181630
【弁理士】
【氏名又は名称】原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】小坂 菜生
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA02
2F129BB03
2F129FF02
2F129FF12
2F129HH02
2F129HH04
2F129HH12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】個々の車椅子利用者に合わせた最適な経路案内を表示することができる経路案内システムを提供する。
【解決手段】本発明の経路案内システム1は、車椅子の現在地を取得する現在地取得部11と、車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得する搭乗者情報取得部12と、車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得する駆動トルク値取得部13と、目的地を取得する目的地取得部14と、現在地及び目的地を含む地図情報を取得する地図情報取得部15と、車椅子の移動の可否を評価する車椅子移動可否評価部16と、車椅子移動可否評価部の評価に基づいて現在地から目的地までの経路案内情報を作成する経路案内情報作成部17とを備える。車椅子移動可否評価部16は、搭乗者情報、駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、地図情報とに基づいて評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子利用者のための経路案内システムであって、
車椅子の現在地を取得する現在地取得部と、
車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得する搭乗者情報取得部と、
車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得する駆動トルク値取得部と、
目的地を取得する目的地取得部と、
前記現在地及び前記目的地を含む地図情報を取得する地図情報取得部と、
車椅子の移動の可否を評価する車椅子移動可否評価部と、
前記車椅子移動可否評価部の評価に基づいて前記現在地から前記目的地までの経路案内情報を作成する経路案内情報作成部と、を備え、
前記車椅子移動可否評価部は、前記搭乗者情報、前記駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、前記地図情報とに基づいて評価する経路案内システム。
【請求項2】
前記地図情報に含まれる又は前記地図情報に基づいて算出した前記現在地から前記目的地までの各経路の勾配と、前記搭乗者情報と、前記車椅子情報とに基づいて前記各経路において移動に必要な必要トルク値を算出する必要トルク値算出部をさらに備え、
前記車椅子移動可否評価部は、前記必要トルク値と前記駆動トルク値とを対比して、前記各経路における車椅子の移動の可否を評価することを特徴とする請求項1に記載の経路案内システム。
【請求項3】
車椅子の駆動輪の速度を取得する速度取得部をさらに備え、
前記必要トルク値算出部は、前記速度取得部で取得した車椅子の駆動輪の速度を考慮して、前記各経路での前記必要トルク値を算出することを特徴とする請求項2に記載の経路案内システム。
【請求項4】
前記駆動トルク値、前記車椅子情報、及び、前記搭乗者情報に基づいて操作者に応じた移動可能勾配を算出する移動可能勾配算出部をさらに備え、
前記車椅子移動可否評価部は、前記移動可能勾配と、前記地図情報に含まれる又は前記地図情報に基づいて算出した前記現在地から前記目的地までの各経路の勾配とを対比して、前記各経路における車椅子の移動の可否を評価することを特徴とする請求項1に記載の経路案内システム。
【請求項5】
前記搭乗者情報取得部は、車椅子に設けられた重量センサにより測定された搭乗者の体重を取得することを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の経路案内システム。
【請求項6】
前記駆動トルク値取得部は、車椅子に設けられた駆動トルク値計測センサにより測定された駆動トルク値を取得することを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の経路案内システム。
【請求項7】
前記経路案内情報を表示する表示部をさらに備える請求項1~4のいずれか一項に記載の経路案内システム。
【請求項8】
前記経路案内情報作成部は、お薦めルート、距離優先ルート、時間優先ルート、平坦地優先ルートのうちの少なくとも2以上の経路案内情報を作成し、
前記表示部は、複数の前記経路案内情報から1つの経路案内情報を選択して表示させることができることを特徴とする請求項7に記載の経路案内システム。
【請求項9】
前記表示部は、前記車椅子移動可否評価部において移動不可と判断され経路に、色付けした表示、前記勾配の表示、及び、前記必要トルク値の表示のうちの少なくとも1つを表示することを特徴とする請求項7に記載の経路案内システム。
【請求項10】
情報の送受信を行う通信部をさらに備え、
前記通信部は、第3者に車椅子の現在地を送信することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の経路案内システム。
【請求項11】
車椅子利用者のための経路案内方法であって、
車椅子の現在地を取得するステップと、
車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得するステップと、
車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得するステップと、
目的地を取得するステップと、
前記現在地及び前記目的地を含む地図情報を取得するステップと、
車椅子の移動の可否を評価するステップと、
前記車椅子の移動の可否の評価に基づいて前記現在地から前記目的地までの経路案内情報を作成するステップと、を備え、
前記車椅子の移動の可否を評価するステップは、前記搭乗者情報、前記駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、前記地図情報とに基づいて評価する経路案内方法。
【請求項12】
車椅子利用者のための経路案内プログラムであって、
コンピュータに、
車椅子の現在地を取得するステップと、
車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得するステップと、
車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得するステップと、
目的地を取得するステップと、
前記現在地及び前記目的地を含む地図情報を取得するステップと、
車椅子の移動の可否を評価するステップと、
前記車椅子の移動の可否の評価に基づいて前記現在地から前記目的地までの経路案内情報を作成するステップと、を含む処理を実行させ、
前記車椅子の移動の可否を評価するステップは、前記搭乗者情報、前記駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、前記地図情報とに基づいて評価する経路案内プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子利用者のための経路案内システム、経路案内方法及び経路案内プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、走行経路の路面状況や走行可否の情報など、車椅子利用者が車椅子で移動するために必要な経路情報を提供する経路案内システムが開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。そのような経路案内システムでは、建物、施設、交差点、分岐点、屈曲点などの地点であるノード、及び、ノード間を結ぶ線分部分(通路)であるリンクにおいて、車椅子が移動可能か否かを評価して、例えばダイクストラ法などの経路探索アルゴリズムに基づいて、車椅子利用者が移動可能な経路案内情報が作成される。その結果、階段、段差、悪路、通行止め、エレベーター無し、急勾配の坂道などの移動阻害要素に関わるノード及びリンクを避けるように経路案内される。これにより、車椅子利用者が単独で行動する場合の制約を少なくすることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-10257号公報
【特許文献2】特開2019-45361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2の経路案内システムでも、坂道の勾配は考慮されており、急勾配の経路を避ける経路案内がなされている。この坂道の勾配は、一般に、通信装置から取得した地図情報の経度、緯度、高度から求めることができる。そして、坂道での車椅子の移動の可否は、特定された勾配を基準として、移動可能又は移動不可が評価されている。例えば、ハンドリムにより駆動する車椅子の経路案内では、一般に、車椅子の移動可能勾配は、上り8%、下り9%とされており(「縦断勾配が車椅子走行に与える影響に関する研究」1999年参照)、それ以上の勾配となると車椅子が移動できないとされている。
【0005】
ところが、特定された勾配を基準として移動可能な勾配であると評価するとしても、全ての車椅子利用者に一律に移動可能と決定することには問題がある。例えば、手動車椅子の場合、握力及び腕力などの車椅子を操作するのに必要な力の強い者にとっては問題なく移動できる勾配であっても、力の弱い者にとっては移動できない場合がある。これは、車椅子の搭乗者の体重にも関連し、同じ力でも搭乗者の体重が軽ければ問題なく移動できる勾配であっても、搭乗者の体重が重ければ移動できない場合がある。そのため、一律に勾配を基準として移動の可否を評価して経路案内した場合に、力の弱い者や体重が重い搭乗者は、上り坂が上りきれずに途中で止まってしまったり、下り坂で車椅子を制動できずに転がり落ちるような状態となってしまったりして、移動が非常に危険な状態となる恐れがある。その結果、車椅子利用者の安全な移動が保証できなくなり、最悪の場合、事故につながる可能性があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、個々の車椅子利用者に合わせた最適な経路案内を表示することができる経路案内システム、経路案内方法及び経路案内プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車椅子利用者のための経路案内システムである。経路案内システムは、車椅子の現在地を取得する現在地取得部と、車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得する搭乗者情報取得部と、車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得する駆動トルク値取得部と、目的地を取得する目的地取得部と、現在地及び目的地を含む地図情報を取得する地図情報取得部と、車椅子の移動の可否を評価する車椅子移動可否評価部と、車椅子移動可否評価部の評価に基づいて現在地から目的地までの経路案内情報を作成する経路案内情報作成部とを備える。車椅子移動可否評価部は、搭乗者情報、駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、地図情報とに基づいて評価する。
【0008】
好ましい実施形態の経路案内システムは、地図情報に含まれる又は地図情報に基づいて算出した現在地から目的地までの各経路の勾配と、搭乗者情報と、車椅子情報とに基づいて各経路において移動に必要な必要トルク値を算出する必要トルク値算出部をさらに備える。車椅子移動可否評価部は、必要トルク値と駆動トルク値とを対比して、各経路における車椅子の移動の可否を評価する。
【0009】
さらに好ましい実施形態の経路案内システムは、車椅子の駆動輪の速度を取得する速度取得部をさらに備える。必要トルク値算出部は、速度取得部で取得した車椅子の駆動輪の速度を考慮して、各経路での必要トルク値を算出する。
【0010】
別の好ましい実施形態の経路案内システムは、駆動トルク値、車椅子情報、及び、搭乗者情報に基づいて操作者に応じた移動可能勾配を算出する移動可能勾配算出部をさらに備える。車椅子移動可否評価部は、移動可能勾配と、地図情報に含まれる又は地図情報に基づいて算出した現在地から目的地までの各経路の勾配とを対比して、各経路における車椅子の移動の可否を評価する。
【0011】
また、好ましい実施形態の経路案内システムでは、搭乗者情報取得部は、車椅子に設けられた重量センサにより測定された搭乗者の体重を取得する。
【0012】
また、好ましい実施形態の経路案内システムでは、駆動トルク値取得部は、車椅子に設けられた駆動トルク値計測センサにより測定された駆動トルク値を取得する。
【0013】
また、好ましい実施形態の経路案内システムは、経路案内情報を表示する表示部をさらに備える。
【0014】
さらに好ましい実施形態の経路案内システムでは、経路案内情報作成部は、お薦めルート、距離優先ルート、時間優先ルート、平坦地優先ルートのうちの少なくとも2以上の経路案内情報を作成する。表示部は、複数の経路案内情報から1つの経路案内情報を選択して表示させることができる。
【0015】
さらに好ましい実施形態の経路案内システムでは、表示部は、車椅子移動可否評価部において移動不可と判断され経路に、色付けした表示、勾配の表示、及び、必要トルク値の表示のうちの少なくとも1つを表示する。
【0016】
また、好ましい実施形態の経路案内システムは、情報の送受信を行う通信部をさらに備える。通信部は第3者に車椅子の現在地を送信する。
【0017】
また、好ましい実施形態の経路案内システムでは、駆動トルク値取得部は、日々の車椅子の走行により取得される駆動トルク値に関するデータに基づいて、AIにより算出された駆動トルク値を取得する。
【0018】
また、本発明は、車椅子利用者のための経路案内方法である。経路案内方法は、車椅子の現在地を取得するステップと、車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得するステップと、車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得するステップと、目的地を取得するステップと、現在地及び目的地を含む地図情報を取得するステップと、車椅子の移動の可否を評価するステップと、車椅子の移動の可否の評価に基づいて現在地から目的地までの経路案内情報を作成するステップとを備える。車椅子の移動の可否を評価するステップは、搭乗者情報、駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、地図情報とに基づいて評価する。
【0019】
また、本発明は、車椅子利用者のための経路案内プログラムである。経路案内プログラムは、コンピュータに、車椅子の現在地を取得するステップと、車椅子の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得するステップと、車椅子の操作者が車椅子を駆動する際の駆動トルク値を取得するステップと、目的地を取得するステップと、現在地及び目的地を含む地図情報を取得するステップと、車椅子の移動の可否を評価するステップと、車椅子の移動の可否の評価に基づいて現在地から目的地までの経路案内情報を作成するステップとを含む処理を実行させる。車椅子の移動の可否を評価するステップは、搭乗者情報、駆動トルク値、及び、車椅子の重量に関する車椅子情報と、地図情報とに基づいて評価する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、個々の車椅子利用者に合わせた最適な経路案内を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態1に係る経路案内システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明で使用される車椅子の一例を示す側面図である。
【
図3】本発明で取得される地図情報の一例を示す図である。
【
図4】
図3の地図情報に本発明の実施形態1に係る経路案内システムで算出した必要トルク値を付加した図である。
【
図5】
図3の地図情報に本発明の実施形態1に係る経路案内システムで算出した必要トルク値を付加した図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る経路案内方法を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態2に係る経路案内システムの構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る経路案内方法を示すフローチャートである。
【
図9】実施例で作成された利用者1の経路案内情報を示す図である。
【
図10】実施例で作成された利用者2の経路案内情報を示す図である。
【
図11】実施例で作成された利用者3の経路案内情報を示す図である。
【
図12】実施例で作成された利用者4の経路案内情報を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明の経路案内システムは、車椅子利用者のための経路案内システムである。ここで、車椅子には、車椅子に搭乗する搭乗者自身又は介助者が人力で動かす手動車椅子と、車椅子にバッテリーが搭載されて電力で動かす電動車椅子の両方を含む。以下では、車椅子に搭乗する者を搭乗者と定義し、車椅子を駆動する者を操作者と定義する。搭乗者が自身で車椅子を駆動する場合は搭乗者が操作者になり、介助者が車椅子を押す場合は介助者が操作者となる。搭乗者と操作者とを含めて車椅子を利用する利用者と定義する。
【0023】
[実施形態1]
まず、
図1~
図5を参照して、本発明の実施形態1に係る経路案内システム1について説明する。
図1は、実施形態1に係る経路案内システム1の構成を示すブロック図である。
図2は、本発明で使用される車椅子40の一例を示す側面図である。
図3は、本発明で取得される地図情報の一例を示す概略図である。
図4及び
図5は、
図3の地図情報に実施形態1に係る経路案内システムで算出した必要トルク値を付加した図である。
図4は、体重55kgの搭乗者が自身で移動する際の必要トルク値を、
図5は、体重70kgの搭乗者が自身で移動する際の必要トルク値を示している。
【0024】
図1に示すように、経路案内システム1は、処理装置10を備える。また、経路案内システム1は、表示装置30及び入力装置35を備えてもよい。処理装置10は、例えば、コンピュータ、スマートフォンなどの携帯端末、サーバ装置などである。表示装置30は、例えば、ディスプレイである。入力装置35は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス、マイクなどである。
【0025】
処理装置10、表示装置30及び入力装置35は、各装置の機能を一体で備えるノートパソコン、タブレット端末などで構成されて車椅子40に設けられてもよいし、利用者が保有するスマートフォン、タブレット端末などの携帯端末として構成されてもよい。また、処理装置10、表示装置30及び入力装置35は、それぞれ別体で構成されてもよい。例えば、処理装置10として小型のパソコンを車椅子40に搭載し、表示装置30及び入力装置35は利用者が保有する携帯端末を利用してもよい。また、処理装置10は、利用者が保有する携帯端末とネットワークを介して接続されるサーバ装置で構成されてもよい。表示装置30及び入力装置35の一方は利用者が保有する携帯端末を利用し、他方は車椅子40に搭載されるようにしてもよい。
図2では、処理装置10、表示装置30及び入力装置35は、利用者が保有する携帯端末により構成されるとして、図示を省略する。
【0026】
図1に示すように、経路案内システム1は、現在地取得部11と、搭乗者情報取得部12と、駆動トルク値取得部13と、目的地取得部14と、地図情報取得部15と、車椅子移動可否評価部16と、経路案内情報作成部17と、必要トルク値算出部21と、速度取得部23と、制御部26と、記憶部27と、通信部28と、表示部31とを備える。
【0027】
現在地取得部11、搭乗者情報取得部12、駆動トルク値取得部13、目的地取得部14、地図情報取得部15、車椅子移動可否評価部16、経路案内情報作成部17、必要トルク値算出部21、速度取得部23、制御部26、記憶部27、及び、通信部28は、処理装置10に設けられる。表示部31は、表示装置30に設けられる。
【0028】
制御部26は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部26は、プログラムを実行することによって、現在地取得部11、搭乗者情報取得部12、駆動トルク値取得部13、目的地取得部14、地図情報取得部15、車椅子移動可否評価部16、経路案内情報作成部17、必要トルク値算出部21、速度取得部23、記憶部27、通信部28の動作を制御する。
【0029】
記憶部27は、種々の情報、プログラムなどを記憶する。記憶部27は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される。記憶部27には、車椅子40に関する車椅子情報が保存されている。車椅子情報は、車椅子40の重量の情報である。本実施形態1では、車椅子情報は、車椅子40の駆動輪(後輪)42の寸法(例えば、半径)の情報も含む。また、電動車椅子40の場合は、車椅子情報に、車椅子40の重量及び駆動輪42の寸法に関する情報に加えて、当該車椅子40に対してメーカーが定める登坂可能な勾配、すなわち、上り坂の移動可能勾配及び下り坂の移動可能勾配に関する情報が含まれてもよい。また、記憶部27には、車椅子利用者が移動可能な経路を案内する経路案内プログラムが保存されている。
【0030】
通信部28は、ネットワークを介して情報の送受信を行う。通信部28は、入力装置35で入力された情報、及び、ネットワークを介して得られる種々の情報を取得することができる。また、通信部28は、処理装置10で処理された結果を表示装置30に送信することができる。また、通信部28は、第3者に車椅子40の現在地を送信することもできる。これにより、車椅子40の利用者が介助者なしの単独で移動している場合に転倒などして動けなくなるなどの緊急時に第3者に連絡でき、第3者が利用者の現在地を把握して助けることができる。
【0031】
現在地取得部11は、車椅子40の現在地を取得する。車椅子40の現在地は、例えば、GPS(Global Positioning System)を利用して取得する。現在地取得部11は、GPS信号を受信する機能を有しており、GPS信号を受信して現在地を取得する。
【0032】
搭乗者情報取得部12は、車椅子40の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得する。搭乗者情報取得部12は、手動で、又は、自動で、搭乗者情報を取得する。手動で取得する場合、まず利用者が入力装置35を利用して搭乗者情報を入力する。搭乗者情報取得部12は、通信部28を介して入力装置35で入力された搭乗者情報を取得する。自動で取得する場合、
図2に示すように、車椅子40には重量センサ46が設けられる。具体的には、車椅子40の座面41に重量センサ46が埋め込まれている。重量センサ46には、搭乗者の体重を測ることができる既知の任意の重量センサが用いられる。搭乗者情報取得部12は、車椅子40の座面41に埋め込まれた重量センサ46により測定された搭乗者の体重を搭乗者情報として取得する。取得された搭乗者情報は、記憶部27に記憶される。
【0033】
駆動トルク値取得部13は、車椅子40の操作者が車椅子40を駆動する際の駆動トルク値を取得する。駆動トルク値取得部13は、手動で、又は、自動で、駆動トルク値を取得する。このとき、駆動トルク値取得部13は、上り坂の駆動トルク値と下り坂の駆動トルク値とを個々に取得してもよい。手動で取得する場合、最初に車椅子40を利用する際に、トルク計測装置などを利用して駆動トルク値を測定する。上り坂の駆動トルク値と下り坂の駆動トルク値とを個々に測定する場合は、実際に上り坂及び下り坂を走行して測定してもよいし、平地において適度に負荷をかけて測定して、上り坂及び下り坂のそれぞれの駆動トルク値を推定してもよい。測定又は推定された駆動トルク値を利用者が入力装置35を利用して入力する。駆動トルク値取得部13は、通信部28を介して入力装置35で入力された駆動トルク値を取得する。取得された駆動トルク値は、記憶部27に記憶される。
【0034】
自動で取得する場合、
図2に示すように、車椅子40には駆動トルク値計測センサ47が設けられる。駆動トルク値計測センサ47は、例えば、車椅子40の駆動輪42に取り付けられるトルク計測装置、加速度センサ471、又は、角速度センサなどで構成される。また、駆動トルク値計測センサ47は、車椅子40が走行している路面の傾斜を測定できる傾斜センサを備えることが好ましい。これにより、路面の傾斜に合わせた駆動トルク値を計測することができる。トルク値計測装置、加速度センサ471、角速度センサには、車椅子40の駆動輪42の駆動トルク値、加速度α、又は、角速度ωを測定できる既知の任意のトルク値計測装置、加速度センサ、角速度センサが用いられる。
【0035】
実施形態1では、駆動トルク値計測センサ47は、加速度センサ471で構成される。このとき、制御部26において、加速度センサ471より取得された車椅子40の駆動輪42の加速度αから、車椅子40の駆動輪42の速度vを算出し、車椅子40の駆動輪42の半径rを利用して駆動輪42の角速度ωを算出し、以下の式1により駆動トルク値PTを算出する。なお、駆動トルク値計測センサ47として角速度センサを用いた場合も、角速度センサより取得された車椅子40の駆動輪42の角速度ωを利用して同様に以下の式1により駆動トルク値PTを算出する。上り坂の駆動トルク値PTUと下り坂の駆動トルク値PTDを個々に算出する場合は、上り坂の駆動トルク値PTUは、上り坂を走行したときの加速度α又は角速度ωを利用し、下り坂の駆動トルク値PTDは、下り坂を走行したときの加速度α又は角速度ωを利用して算出する。
【0036】
【数1】
ここで、BCはベアリング定数、Fは駆動輪42の推進力、rは駆動輪42の半径[m]、μ2は路面の転がり摩擦係数、Mは車椅子40の重量と搭乗者の体重とを合わせた総重量[kg]、gは重力加速度(9.8)、θは勾配の角度である。ベアリング定数BCは、「Dynamic Modeling of Wheel-chair on a Slope」 Journal of Dynamic Systems, Measurement, and Control (1983年),pp.101-106に基づいて、0.14とする。路面の転がり摩擦係数μ2は、一般に路面はアスファルトであることから、「車いすのキャスタ・後輪の転がり摩擦係数の簡易計測方法」日本機械学会関東支部第9回講演会論文集(2003),pp.389-390に基づいて、0.024とする。駆動輪42の半径r及び総重量Mは、車椅子情報及び搭乗者情報より取得する。勾配の角度θは、加速度α(角速度ω)を計測した際に走行した路面の勾配である。駆動輪42の推進力Fは、以下の式2により算出する。
【数2】
ここで、μ1は路面の転がり抵抗である。路面の転がり抵抗μ1は、一般に路面はアスファルトであることから、上記転がり摩擦係数μ2と同様の資料に基づいて、0.024とする。
【0037】
上記で算出された駆動トルク値PTは、手動車椅子40で、搭乗者自身が操作する場合のみ、次の補正を行う。すなわち、手動車椅子40で、搭乗者が自身で操作する場合、一般に、操作者(搭乗者)は、ハンドリム43で車椅子40を駆動する。そのため、上り坂の場合、ハンドリム43に力をかけて推進している時(駆動期)と、ハンドリム43から手を放して手を降り戻している時(惰走期)とが生じる。惰走期は上り坂を下へ転がる力が生じるため、駆動期と惰走期との関係から、上記で算出した駆動トルク値PTに、係数k1=2.0をかけて駆動トルク値PTを算出する。係数k1は、「手動車いす走行操作時の負荷要因に関する工学的研究」(2005年)に基づく値である。駆動トルク値取得部13は、車椅子40に設けられた駆動トルク値計測センサ47により測定された加速度α(角速度ω)から上記式1及び式2を用いて算出した駆動トルク値PTを取得する。なお、駆動トルク値計測センサ47にトルク計測装置を用いる場合は、駆動トルク値取得部13は、トルク計測装置で計測された値を駆動トルク値PTとして取得する。取得された駆動トルク値PTは、記憶部27に記憶される。
【0038】
目的地取得部14は、車椅子40の利用者の目的地を取得する。目的地取得部14は、利用者が入力装置35を利用して入力した目的地を、通信部28を介して取得する。
【0039】
地図情報取得部15は、現在地取得部11で取得された現在地と、目的地取得部14で取得された目的地とに関する情報を、現在地取得部11及び目的地取得部14から受け取り、現在地及び目的地を含む地図情報を取得する。地図情報は、通信部28を介してネットワークに接続して、ネットワーク上から取得する。
【0040】
取得された地図情報は、
図3に示すように、ノードとリンクとで表示される。ノードは、現在地S、目的地G、交差点a~f、勾配が変わる地点、路面状態が変わる地点(例えば、平滑路から階段へと変わる地点など)などの各地点を表している。リンクは、各地点(各ノード)を結ぶ経路を表している。地図情報は、現在地Sから目的地Gまでの経路で一般的に考えられる全ての経路を示している。
【0041】
また、地図情報は、各ノードの経度、緯度及び高度の情報を含んでいる。地図情報は、各リンクの距離[m]及び勾配[%]の情報を含んでいてもよい。また、各リンクの距離及び勾配は、地図情報に含まれる各ノードの経度、緯度及び高度から算出されてもよい。距離及び勾配の情報、並びに、路面状態(平滑路である、階段である、段差がある、悪路であるなど)は、数値及び/又は各リンクの色で示される。
図3では、上り坂を濃い灰色線で、下り坂を薄い灰色線で、階段を複数の短い横線が交差した線で示している。また、上り坂の勾配を正の数で、下り坂の勾配を負の数で示している。なお、各経路(各リンク)の路面状態の示し方は任意に行うことができる。例えば、上り坂を赤色線で、下り坂を青色線で示すなど、色付けして示してもよい。また、リンクの色分けなどで上り坂と下り坂とが判別できる場合、勾配は上り坂も下り坂も正の数で示してもよい。
【0042】
速度取得部23は、車椅子40の駆動輪42の速度v又は角速度ωを取得する。車椅子40の駆動輪42の速度v又は角速度ωは、利用者が入力装置35を利用して入力する。このとき、速度取得部23は、上り坂の速度vU又は角速度ωUと下り坂の速度vD又は角速度ωDとを個々に取得してもよい。速度取得部23は、通信部28を介して入力装置35で入力された速度v又は角速度ωを取得する。取得された速度v又は角速度ωは、記憶部27に記憶される。速度取得部23で速度v又は角速度ωを取得した場合、取得した速度v又は角速度ωを利用して駆動トルク値PTを算出してもよい。
【0043】
必要トルク値算出部21は、地図情報に含まれる又は地図情報に基づいて算出した現在地Sから目的地Gまでの各経路の勾配と、搭乗者情報と、車椅子情報とに基づいて各経路において移動に必要な必要トルク値を算出する。必要トルク値算出部21は、速度取得部23で取得した車椅子40の駆動輪42の速度vを考慮して、各経路での必要トルク値を算出する。搭乗者情報及び車椅子情報は、記憶部27に記憶されている。必要トルク値算出部21は、各経路の勾配を含んだ地図情報を地図情報取得部から取得し、記憶部27から搭乗者情報及び車椅子情報を読み出して、上記式1及び式2を利用して必要トルク値を算出する。
【0044】
具体的には、まず、車椅子40の左右の駆動輪42の推進力FR,FLを算出する。駆動輪42の推進力FR,FLの算出は、上記式2を用いる。上記式2を利用して算出されたFが駆動輪42の推進力FR,FLとなる。車椅子40の重量と搭乗者の体重とを合わせた総重量Mは、記憶部27に記憶されている搭乗者情報及び車椅子情報から取得した値である。勾配の角度θは、地図情報に含まれる各経路の勾配の角度である。勾配の角度θは、車椅子40の進行方向に交差する方向に傾斜がある横断勾配(片流れ)のような地形では、車椅子40の左の駆動輪42が通過する場所の勾配θLと、車椅子40の右の駆動輪42が通過する場所の勾配θRとを、それぞれの路面に合わせて別個としてもよい。上記したとおり、重力加速度gは9.8、路面の転がり抵抗μ1は0.024である。
【0045】
続いて、下り坂の必要トルク値TDを算出する。下り坂の必要トルク値TDの算出は、上記式1を用いる。ここでは、説明を分かりやすくするために横断勾配のない地形であり左右の駆動輪42の推進力FR,FLは同じとし、一方の推進力FLを式1のFに代入する。算出されたPTが下り坂の必要トルク値TDとなる。なお、横断勾配のある地形の場合、左右それぞれの推進力FR,FLを式1のFに代入して、左右それぞれの下り坂の必要トルク値TDR,TDLを算出する。ここで、角速度ωは、速度取得部23で取得した下り坂の速度vDから車椅子40の駆動輪42の半径rを利用して算出した値である。利用者に応じて定める必要がない場合は、速度vDは、2.0m/sを利用する。この下り坂の速度vDは、「車いす使用者の駆動力と住環境整備に関する研究」(2006年)に基づく値である。車椅子40の駆動輪42の半径r[m]は、記憶部27に記憶されている車椅子情報から取得した値である。車椅子40の重量と搭乗者の体重とを合わせた総重量M[kg]は、記憶部27に記憶されている搭乗者情報及び車椅子情報から取得した値である。勾配の角度θは、地図情報に含まれる各リンクの勾配の角度である。上記したとおり、ベアリング定数BCは0.14、路面の転がり摩擦係数μ2は0.024、重力加速度gは9.8である。
【0046】
続いて、下り坂の必要トルク値TDと同様に上り坂の必要トルク値TUを算出する。上り坂の必要トルク値TUの算出も、上記式1を用いる。ここでも左右の駆動輪42の推進力FR,FLは同じとし、一方の推進力FLを式1のFに代入し、算出されたPTが上り坂の必要トルク値TUとなる。ここで、角速度ωは、速度取得部23で取得した上り坂の速度vUから車椅子40の駆動輪42の半径rを利用して算出した値である。利用者に応じて定める必要がない場合は、速度vUは、0.5m/sを利用する。この上り坂の速度vUは、「車いす使用者の駆動力と住環境整備に関する研究」(2006年)に基づく値である。車椅子40の駆動輪42の半径r[m]は、記憶部27に記憶されている車椅子情報から取得した値である。車椅子40の重量と搭乗者の体重とを合わせた総重量M[kg]は、記憶部27に記憶されている搭乗者情報及び車椅子情報から取得した値である。勾配の角度θは、地図情報に含まれる各リンクの勾配の角度である。上記したとおり、ベアリング定数BCは0.14、路面の転がり摩擦係数μ2は0.024、重力加速度gは9.8である。
【0047】
手動車椅子40で、搭乗者が自身で操作する場合、駆動期と惰走期との関係から、上り坂の必要トルク値TUは、算出した上り坂の必要トルク値TUに係数k2=2.0をかけて算出する。係数k2は、「手動車いす走行操作時の負荷要因に関する工学的研究」(2005年)に基づく値である。手動車椅子40でも介助者が操作する場合、及び、電動車椅子40の場合は、算出した上り坂の必要トルク値TUがそのまま上り坂の必要トルク値TUとなる。
【0048】
上記で算出した必要トルク値を地図情報に付加すると
図4及び
図5のようになる。
図4は、体重55kgの搭乗者が自身で移動する際の必要トルク値を、
図5は、体重70kgの搭乗者が自身で移動する際の必要トルク値を示している。ここでは、車椅子40の重量は12kg、車椅子40の駆動輪42の半径は0.295mとしている。
【0049】
車椅子移動可否評価部16は、搭乗者の体重に関する搭乗者情報、駆動トルク値PT、及び、車椅子40の重量に関する車椅子情報と、地図情報とに基づいて車椅子40の移動の可否を評価する。地図情報は、地図情報取得部15から取得する。駆動トルク値PT、搭乗者情報及び車椅子情報は、記憶部27に記憶されている。
【0050】
具体的には、車椅子移動可否評価部16は、必要トルク値TD,TUと駆動トルク値PTとを対比して、各経路における車椅子40の移動の可否を評価する。必要トルク値TD,TUは、必要トルク値算出部21から取得する。駆動トルク値PTは、記憶部27に記憶されている。
【0051】
例えば、体重55kgで上り坂の駆動トルク値が12.8Nm、下り坂の駆動トルク値が7.7Nmの搭乗者が自身で移動する場合、車椅子移動可否評価部16は、ノードaとノードfとの間の階段に加え、
図4の地図情報に示す必要トルク値において、上り坂で12.8Nm、下り坂で7.5Nmを上回るノードSとノードaとの間、ノードSとノードfとの間、ノードaとノードbとの間、ノードbとノードGとの間、ノードaとノードGとの間、及び、ノードfとノードGとの間も移動できないと評価する。一方、体重55kgで上りの駆動トルク値が20.5Nm、下りの駆動トルク値が11.4Nmの搭乗者が自身で移動する場合は、車椅子移動可否評価部16は、ノードaとノードfとの間の階段と、下り坂で11.4Nmを上回るノードaとノードbとの間、及び、ノードbとノードGとの間とが移動できないと評価する。逆に、ノードSとノードaとの間、ノードSとノードfとの間、ノードaとノードGとの間、及び、ノードfとノードGとの間は移動できると評価する。このように、車椅子移動可否評価部16は、利用者ごとの駆動トルク値に基づいて、利用者ごとに移動可否を評価する。
【0052】
経路案内情報作成部17は、車椅子移動可否評価部16の評価に基づいて現在地Sから目的地Gまでの経路案内情報を作成する。すなわち、経路案内情報作成部17は、車椅子移動可否評価部16で利用者が移動可能と判断されたリンクの中から最適なリンクを選択して現在地Sから目的地Gまでの経路を作成する。このとき、経路案内情報作成部17は、お薦めルート、距離優先ルート、時間優先ルート、平坦地優先ルートなどの複数の経路案内情報を作成してもよい。
【0053】
距離優先ルートは、現在地Sから目的地Gまでの経路の各距離を足し合わせたときに最短となるルートである。例えば、
図4において、現在地Sから地点a,地点bを通って目的地Gに行く経路の場合、現在地Sから地点aまでの距離50mと、地点aから地点bまでの距離50mと、地点bから目的地Gまでの距離25mとを足して現在地Sから目的地Gまでの距離125mを算出する。これを利用者が移動可能な経路全てに対して行い、その中から距離が最短となるルートが距離優先ルートとなる。
【0054】
時間優先ルートは、現在地Sから目的地Gに到着するまでの時間が最短となるルートである。時間は、地図情報に含まれている各リンクの距離に当該リンクの勾配に応じた負荷をかけ、当該リンクを移動するのにかかると見込まれる時間を距離に置換して算出する。具体的には、操作者の発揮できる駆動トルク値PTを100としたときの、搭乗者の体重に応じて各経路を走行するのに必要な必要トルク値を割合で算出する。算出した割合を各経路の距離にかけて時間補正距離を算出し、各経路の距離に時間補正距離を加算して時間換算距離を算出する。
【0055】
例えば、体重55kgで上り坂の駆動トルク値が20.5Nm、下り坂の駆動トルク値が11.4Nmの搭乗者が自身で移動する場合、地点aから目的地Gへの移動は、必要トルク値が10.5Nm(
図4参照)、下り坂なので駆動トルク値が11.4Nmとなる。割合を算出すると、(必要トルク値:10.5/駆動トルク値:11.4)×100=92%(小数点以下四捨五入)となる。算出した割合を地点aから目的地Gの距離100mにかけて時間補正距離を算出すると、100×0.92=92mとなる。そして、算出した時間補正距離を地点aから目的地Gの距離100mに加算して時間換算距離を算出すると、100+92=192mとなる。すなわち、体重55kgで上り坂の駆動トルク値が20.5Nm、下り坂の駆動トルク値が11.4Nmの搭乗者が自身で地点aから目的地Gに移動するには、192mの距離を移動する時間がかかることとなる。
【0056】
同様にして、利用者が移動可能な経路全てに対して時間換算距離を算出する。そして、距離優先ルートと同様の考え方で、利用者が移動可能な経路全てに対して、現在地Sから目的地Gまでの経路の各時間換算距離を足し合わせてルートを作成する。その中で時間換算距離が最短となるルートが時間優先ルートとなる。
【0057】
平坦地優先ルートは、現在地Sから目的地Gまで、なるべく平坦な道を移動できるルートである。平坦な道は、必要トルク値算出部21で算出された地図情報における各リンクの必要トルク値と、操作者の駆動トルク値PTとから経路の平坦度を算出して判断する。具体的には、操作者の発揮できる駆動トルク値PTを100としたときの、搭乗者の体重に応じて各経路を走行するのに必要な必要トルク値を割合で算出し、10m当たりに必要な必要トルク値の割合(%)の値が一番小さいものを平坦な道とする。
【0058】
例えば、体重55kgで上り坂の駆動トルク値が20.5Nm、下り坂の駆動トルク値が11.4Nmの搭乗者が自身で、現在地Sから地点aを経由して目的地Gへ移動するとする。この場合、現在地Sから地点aは、必要トルク値が20.5Nm(
図4参照)で、上り坂なので駆動トルク値が20.5Nmより、割合は100%となる。地点aから目的地Gは、必要トルク値が10.5Nm(
図4参照)で、下り坂なので駆動トルク値が11.4Nmより、割合は92%(小数点以下四捨五入)となる。そして、現在地Sから目的地Gまで、経路ごとに、距離と必要な力とをかけたものを足し合わせ、現在地Sから目的地Gまでの総距離に0.1(10m当たりのため)をかけた値で割ると、現在地Sから目的地Gまでの道の平坦度が算出できる。すなわち、現在地Sから地点aを経由して目的地Gへ移動する場合、平坦度は次の計算式で求められる。
{(50m×100%)+(100m×92%)}/(150m×0.1)=9.4
これを利用者が移動可能な経路全てに対して行い、その中から平坦度が最も小さいルートが平坦地優先ルートとなる。
【0059】
お薦めルートは、距離優先ルート、時間優先ルート、平坦地優先ルートから選択された一のルートで、例えば距離優先ルートである。また、お薦めルートは、利用者が、距離優先ルート、時間優先ルート、平坦地優先ルートの中から利用者の希望に沿って設定したルートとしてもよい。例えば、平坦地優先ルートを第一候補として表示させたい場合は、利用者がお薦めルートに平坦地優先ルートが表示されるように設定できてもよい。
【0060】
表示部31は、制御部26から通信部28を介して送信されてきた経路案内情報を表示する。経路案内情報は、
図3に示す地図情報に現在地Sから目的地Gまでの案内経路が示された情報である。表示部31は、経路案内情報が複数ある場合、一の地図情報に複数の案内経路を色分け等して示してもよいし、複数の経路案内情報から利用者が1つの経路案内情報を選択して表示させるようにしてもよい。また、表示部31は、車椅子移動可否評価部16において移動不可と判断され経路に、色付けした表示、バツ印などの目印となる表示、各経路の勾配、各経路の必要トルク値の表示を行ってもよい。これらの移動不可と判断された経路の表示は、全てを表示してもよいし、1つ以上の任意の表示のみを行ってもよい。
【0061】
次に、
図6も参照して、経路案内システム1に基づいて経路案内情報を作成する経路案内方法について説明する。
図6は、実施形態1に係る経路案内方法を示すフローチャートである。経路案内方法の各処理は、処理装置10の記憶部27に格納されている経路案内プログラムによって実行される。
【0062】
経路案内方法を実行する前に初期設定として、利用者は車椅子情報を入力し、記憶部27に記憶させておく。また、手動で搭乗者情報及び駆動トルク値を設定する場合は、利用者は搭乗者情報及び駆動トルク値を入力し、記憶部27に記憶させておく。
【0063】
まず、利用者は、入力装置35を利用して目的地Gを入力する(S10)。目的地Gが入力されると、目的地取得部14は入力された目的地Gを取得する。同時に、現在地取得部11は、車椅子40の現在地Sを取得する。また、搭乗者情報取得部12は、記憶部27又は車椅子40に設置されている重量センサ46から車椅子40の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得する。また、駆動トルク値取得部13は、記憶部27又は車椅子40に設置されている駆動トルク値計測センサ47から車椅子40の操作者が車椅子40を駆動する際の駆動トルク値を取得する(S12)。
【0064】
続いて、地図情報取得部15は、現在地取得部11及び目的地取得部14から現在地S及び目的地Gに関する情報を受け取り、通信部28を介してネットワーク上から現在地S及び目的地Gを含む地図情報を取得する(S14)。地図情報取得部15は、取得した地図情報の各地点をノードで、各経路をリンクで表示し、地図情報に含まれる各地点の経度、緯度及び高度から各リンクの距離及び勾配を算出する。そして、各リンクの距離及び勾配を含んだ地図情報を車椅子移動可否評価部16に送信する。
【0065】
車椅子移動可否評価部16は、地図情報から、車椅子40では移動できない、階段、段差、悪路、通行止め等の障害に関するリンクを除く(S16)。一方、必要トルク算出部21は、記憶部27から車椅子情報及び搭乗者情報を取得する(S18)。また、必要トルク値算出部21は、地図情報取得部15から各経路の勾配を含んだ地図情報を取得する。そして、各経路の勾配、車椅子情報、及び、搭乗者情報から必要トルク値を算出する(S20)。算出された必要トルク値は、車椅子移動可否評価部16に送信される。
【0066】
車椅子移動可否評価部16は、必要トルク値算出部21から取得した各経路の必要トルク値と、記憶部27から読み出した駆動トルク値PTとを対比して(S22)、車椅子40の移動の可否を評価する。そして、車椅子移動可否評価部16は、地図情報から、操作者には移動不可と評価されたリンクを除く(S24)。車椅子移動可否評価部16は、車椅子40が移動できない障害を含むリンク、及び、操作者の能力で移動できないリンクの情報を経路案内情報作成部17に送信する。
【0067】
経路案内情報作成部17は、車椅子移動可否評価部16の移動の可否の評価に基づいて、車椅子40が移動可能なリンクの中から最適なリンクを選択して、現在地Sから目的地Gまでの経路案内情報を作成する(S26)。そして、作成された経路案内情報は、通信部28を介して表示部31に送信され、表示部31に表示される(S28)。表示部31に、複数の経路案内情報から一の経路案内情報を選択できるような表示がなされた場合は、利用者は希望の経路案内情報を選択して表示させる。そして、利用者は、表示部31に表示された経路案内情報に基づいて、目的地Gへ移動する。
【0068】
[実施形態2]
次に、
図2、
図3及び
図7を参照して、本発明の実施形態2に係る経路案内システム1について説明する。
図7は、実施形態2に係る経路案内システム1の構成を示すブロック図である。以下、実施形態2について、実施形態1と異なる事項について説明する。
【0069】
図7に示すように、経路案内システム1は、処理装置10を備える。また、経路案内システム1は、表示装置30及び入力装置35を備えてもよい。処理装置10は、例えば、コンピュータ、スマートフォンなどの携帯端末、サーバ装置などである。表示装置30は、例えば、ディスプレイである。入力装置35は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス、マイクなどである。
【0070】
図7に示すように、経路案内システム1は、現在地取得部11と、搭乗者情報取得部12と、駆動トルク値取得部13と、目的地取得部14と、地図情報取得部15と、車椅子移動可否評価部16と、経路案内情報作成部17と、移動可能勾配算出部22と、速度取得部23と、制御部26と、記憶部27と、通信部28と、表示部31とを備える。
【0071】
現在地取得部11、搭乗者情報取得部12、駆動トルク値取得部13、目的地取得部14、地図情報取得部15、車椅子移動可否評価部16、経路案内情報作成部17、移動可能勾配算出部22、速度取得部23、制御部26、記憶部27、及び、通信部28は、処理装置10に設けられる。表示部31は、表示装置30に設けられる。現在地取得部11、搭乗者情報取得部12、駆動トルク値取得部13、目的地取得部14、地図情報取得部15、経路案内情報作成部17、速度取得部23、記憶部27、及び、通信部28は実施形態1と同じ構成を有するため説明は省略する。
【0072】
制御部26は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部26は、プログラムを実行することによって、現在地取得部11、搭乗者情報取得部12、駆動トルク値取得部13、目的地取得部14、地図情報取得部15、車椅子移動可否評価部16、経路案内情報作成部17、移動可能勾配算出部22、速度取得部23、記憶部27、通信部28の動作を制御する。
【0073】
移動可能勾配算出部22は、駆動トルク値PT、車椅子情報、及び、搭乗者情報に基づいて操作者に応じた移動可能勾配を算出する。駆動トルク値PT、車椅子情報、及び、搭乗者情報は、記憶部27に記憶されている。移動可能勾配算出部22は、記憶部27から駆動トルク値PT、車椅子情報、及び、搭乗者情報を読み出し、上記式1及び式2を利用して移動可能勾配を算出する。
【0074】
具体的には、上記式1のFに式2を代入し、駆動トルク値PT、ベアリング定数BC、駆動輪42の角速度ω、総重量M、重力加速度g、駆動輪42の半径r、路面の転がり抵抗μ1、路面の転がり摩擦係数μ2を代入してθを算出する。ここで、上記したとおり、ベアリング定数BCは0.14、重力加速度gは9.8、路面の転がり抵抗μ1及び路面の転がり摩擦係数μ2は0.024である。駆動輪42の角速度ωは、下り坂の場合は速度vD=2.0m/s、上り坂の場合は速度vU=0.5m/sから駆動輪42の半径rを利用して算出する。下り坂の場合の速度vD及び上り坂の場合の速度vUは、「車いす使用者の駆動力と住環境整備に関する研究」(2006年)に基づく値である。なお、速度取得部23で速度vを取得した場合は、取得した速度vを使用してもよい。駆動トルク値PT、駆動輪42の半径r[m]、及び、車椅子40の重量と搭乗者の体重とを合わせた総重量M[kg]は記憶部27から取得した値である。下り坂の速度vDを利用して算出されたθが下り坂の移動可能勾配θDとなる。また、上り坂の速度vUを利用して算出されたθが上り坂の移動可能勾配θUとなる。
【0075】
上記のように式1及び式2を利用して算出する移動可能勾配θであるが、以下のように簡略化して算出することもできる。すなわち、車椅子40の重量と搭乗者の体重とを合わせた総重量M、及び、勾配θごとに、実施形態1で示したように式1及び式2を用いて、上り坂及び下り坂のそれぞれの必要トルク値TU,TDを算出してデータベース化しておく。そして、車椅子40の操作者の駆動トルク値PTに近い必要トルク値TU,TDに対応する勾配を特定することで、上り坂及び下り坂の移動可能勾配θU,θDを決定することもできる。
【0076】
手動車椅子40で、搭乗者が自身で操作する場合、駆動期と惰走期との関係から、上り坂の移動可能勾配θUは、算出した上り坂の移動可能勾配θUに係数k3=1/2.0をかけて算出する。係数k3は、「手動車いす走行操作時の負荷要因に関する工学的研究」(2005年)に基づく値である。手動車椅子40でも介助者が操作する場合、及び、電動車椅子40の場合は、算出した上り坂の移動可能勾配θUがそのまま上り坂の移動可能勾配θUとなる。
【0077】
実施形態2では、車椅子移動可否評価部16は、駆動トルク値PT、搭乗者情報及び車椅子情報に基づいて移動可能勾配算出部22で算出された移動可能勾配θD,θUと、地図情報から算出される現在地Sから目的地Gまでの各経路の勾配とを対比して、各経路における車椅子40の移動の可否を評価する。移動可能勾配θD,θUは、移動可能勾配算出部22から取得する。
【0078】
例えば、
図3の地図情報において、下り坂の移動可能勾配θ
Dが5%の利用者であれば、車椅子移動可否評価部16は、ノードaとノードfとの間の階段に加え、勾配が10%のノードaとノードbとの間、勾配が8%のノードaとノードGとの間、及び、勾配が12%のノードbとノードGとの間も移動できないと評価する。一方、下り坂の移動可能勾配θ
Dが9%の利用者であれば、車椅子移動可否評価部16は、ノードaとノードfとの間の階段、勾配が10%のノードaとノードbとの間、及び、勾配が12%のノードbとノードGとの間が移動できないと評価する。逆に、勾配が8%のノードaとノードGとの間は移動できると評価する。このように、車椅子移動可否評価部16は、利用者ごとの移動可能勾配θD,θUに基づいて、利用者ごとに移動可否を評価する。
【0079】
経路案内情報作成部17は、車椅子移動可否評価部16の評価に基づいて現在地Sから目的地Gまでの経路案内情報を作成する。作成方法は、実施形態1と同じである。
【0080】
表示部31は、制御部26から通信部28を介して送信されてきた経路案内情報を表示する。経路案内情報は、
図3に示す地図情報に現在地Sから目的地Gまでの案内経路が示された情報である。表示部31は、車椅子移動可否評価部16において移動不可と判断され経路に、色付けした表示、バツ印などの目印となる表示、各経路の勾配の表示を行ってもよい。これらの移動不可と判断された経路の表示は、全てを表示してもよいし、1つ以上の任意の表示のみを行ってもよい。
【0081】
次に、
図8も参照して、経路案内システム1に基づいて経路案内情報を作成する経路案内方法について説明する。
図8は、実施形態2に係る経路案内方法を示すフローチャートである。経路案内方法の各処理は、処理装置10の記憶部27に格納されている経路案内プログラムによって実行される。
【0082】
経路案内方法を実行する前に初期設定として、利用者は車椅子情報を入力し、記憶部27に記憶させておく。また、手動で搭乗者情報及び駆動トルク値を設定する場合は、利用者は搭乗者情報及び駆動トルク値を入力し、記憶部27に記憶させておく。
【0083】
まず、利用者は、入力装置35を利用して目的地Gを入力する(S30)。目的地Gが入力されると、目的地取得部14は入力された目的地Gを取得する。同時に、現在地取得部11は、車椅子40の現在地Sを取得する。また、搭乗者情報取得部12は、記憶部27又は車椅子40に設置されている重量センサ46から車椅子40の搭乗者の体重に関する搭乗者情報を取得する。また、駆動トルク値取得部13は、記憶部27又は車椅子40に設置されている駆動トルク値計測センサ47から車椅子40の操作者が車椅子40を駆動する際の駆動トルク値を取得する(S32)。
【0084】
続いて、地図情報取得部15は、現在地取得部11及び目的地取得部14から現在地S及び目的地Gに関する情報を受け取り、通信部28を介してネットワーク上から現在地S及び目的地Gを含む地図情報を取得する(S34)。地図情報取得部15は、取得した地図情報の各地点をノードで、各経路をリンクで表示し、地図情報に含まれる各地点の経度、緯度及び高度から各リンクの距離及び勾配を算出する。そして、各リンクの距離及び勾配を含んだ地図情報を車椅子移動可否評価部16に送信する。
【0085】
車椅子移動可否評価部16は、地図情報から、車椅子40では移動できない、階段、段差、悪路、通行止め等の障害に関するリンクを除く(S36)。一方、移動可能勾配算出部22は、記憶部27から駆動トルク値PT、車椅子情報、及び、搭乗者情報を取得する(S38)。そして、駆動トルク値PT、車椅子情報、及び、搭乗者情報から移動可能勾配を算出する(S40)。算出された移動可能勾配は、車椅子移動可否評価部16に送信される。
【0086】
車椅子移動可否評価部16は、移動可能勾配算出部22から取得した移動可能勾配と、地図情報に含まれる各リンクの勾配とを対比して(S42)、車椅子40の移動の可否を評価する。そして、車椅子移動可否評価部16は、地図情報から、操作者には移動不可と評価されたリンクを除く(S44)。車椅子移動可否評価部16は、車椅子40が移動できない障害を含むリンク、及び、操作者の能力で移動できないリンクの情報を経路案内情報作成部17に送信する。
【0087】
経路案内情報作成部17は、車椅子移動可否評価部16の移動の可否の評価に基づいて、車椅子40が移動可能なリンクの中から最適なリンクを選択して、現在地Sから目的地Gまでの経路案内情報を作成する(S46)。そして、作成された経路案内情報は、通信部28を介して表示部31に送信され、表示部31に表示される(S48)。利用者は、表示部31に表示された経路案内情報に基づいて、目的地Gへ移動する。
【実施例0088】
次に、実施形態1又は実施形態2に係る経路案内システム1について、実施例を挙げて具体的に説明する。以下では、
図9~
図12を参照して実施例について説明する。
図9~
図12は、実施例で作成された経路案内情報を示す図である。
図9は利用者1の経路案内情報、
図10は利用者2の経路案内情報、
図11は利用者3の経路案内情報、
図12は利用者4の経路案内情報である。
【0089】
本実施例では、体重及び駆動トルク値が異なる4名の利用者を仮定して、実施形態2の経路案内システム1を用いて移動可能勾配を対比して経路案内情報を作成する。いずれの利用者も、搭乗者が自身で手動車椅子40を駆動する。地図情報は、
図3に示す距離及び勾配を有する地図情報とし、
図3に示す地点Sが現在地S、地点Gが目的地Gとする。経路案内情報で案内される案内経路は、現在地Sから目的地Gまでの最短距離を示す距離優先ルートとする。
【0090】
4名の利用者は以下のとおりである。
利用者1(体重が軽く、力が強い人):体重55kg、上り坂の駆動トルク値20.5Nm、下り坂の駆動トルク値11.4Nm
利用者2(体重が重く、力が強い人):体重70kg、上り坂の駆動トルク値20.1Nm、下り坂の駆動トルク値11.6Nm
利用者3(体重が軽く、力が弱い人):体重55kg、上り坂の駆動トルク値12.8Nm、下り坂の駆動トルク値7.7Nm
利用者4(体重が重く、力が弱い人):体重70kg、上り坂の駆動トルク値10.6Nm、下り坂の駆動トルク値8.1Nm
また、本実施例では、車椅子40の重量は12kgとし、車椅子40の駆動輪42の半径rは0.295mとする。
【0091】
まず、利用者1の場合、移動可能勾配算出部22で移動可能勾配を算出すると、下り坂の移動可能勾配θDが9%、上り坂の移動可能勾配θUが8%となる。利用者1の移動可能勾配θD,θUと地図情報に含まれる各経路の勾配とを対比すると、地点aから地点fの間の階段、地点aから地点bの間の下り坂、及び、地点bから目的地Gの間の下り坂が移動不可となる。移動可能な経路の中から経路を選択して、現在地Sから目的地Gまでの距離が最短となる案内経路を作成する。
【0092】
一例として、ルート1:現在地S-地点a-目的地G、及び、ルート2:現在地S-地点f-目的地Gについて、地図情報に基づいて現在地Sから目的地Gまでの距離を計算すると次のとおりとなる。
ルート1:現在地S-地点a-目的地G
50m+100m=150m
ルート2:現在地S-地点f-目的地G
40m+120m=160m
【0093】
このようにして、利用者1が移動可能な経路の中から経路を選択して作成したルート全てについて、現在地Sから目的地Gまでの距離を算出し、距離が最短となる案内経路を作成する。利用者1は、現在地S-地点a-目的地Gのルートが、距離が最短となる。作成された案内経路は、
図9に示すように地図情報に付加されて表示される。
【0094】
次に、利用者2の場合、移動可能勾配算出部22で移動可能勾配を算出すると、下り坂の移動可能勾配θDが7%、上り坂の移動可能勾配θUが6%となる。利用者2の移動可能勾配θD,θUと地図情報に含まれる各経路の勾配とを対比すると、地点aから地点fの間の階段、現在地Sから地点aの間の上り坂、地点aから目的地Gの間の下り坂、地点aから地点bの間の下り坂、及び、地点bから目的地Gの間の下り坂が移動不可となる。移動可能な経路の中から経路を選択して、現在地Sから目的地Gまでの距離が最短となる案内経路を作成する。
【0095】
一例として、ルート1:現在地S-地点f-目的地G、及び、ルート2:現在地S-地点e-地点f-目的地Gについて、地図情報に基づいて計算すると次のとおりとなる。
ルート1:現在地S-地点f-目的地G
40m+120m=160m
ルート2:現在地S-地点e-地点f-目的地G
150m+25m+120m=295m
【0096】
このようにして、利用者2が移動可能な経路の中から経路を選択して作成したルート全てについて、現在地Sから目的地Gまでの距離を算出し、距離が最短となる案内経路を作成する。利用者2は、現在地S-地点f-目的地Gのルートが、距離が最短となる。作成された案内経路は、
図10に示すように地図情報に付加されて表示される。
【0097】
次に、利用者3の場合、移動可能勾配算出部22で移動可能勾配を算出すると、下り坂の移動可能勾配θDが5%、上り坂の移動可能勾配θUが4%となる。利用者3の移動可能勾配θD,θUと地図情報に含まれる各経路の勾配とを対比すると、地点aから地点fの間の階段、現在地Sから地点aの間の上り坂、現在地Sから地点fの間の上り坂、地点aから目的地Gの間の下り坂、地点aから地点bの間の下り坂、及び、地点bから目的地Gの間の下り坂が移動不可となる。移動可能な経路の中から経路を選択して、現在地Sから目的地Gまでの距離が最短となる案内経路を作成する。
【0098】
一例として、ルート1:現在地S-地点e-地点f-目的地G、及び、ルート2:現在地S-地点e-地点f―地点c-目的地Gについて、地図情報に基づいて計算すると次のとおりとなる。
ルート1:現在地S-地点e-地点f-目的地G
150m+25m+120m=295m
ルート2:現在地S-地点e-地点f―地点c-目的地G
150m+25m+75m+75m=325m
【0099】
このようにして、利用者3が移動可能な経路の中から経路を選択して作成したルート全てについて、現在地Sから目的地Gまでの距離を算出し、距離が最短となる案内経路を作成する。利用者3は、現在地S-地点e-地点f-目的地Gのルートが、距離が最短となる。作成された案内経路は、
図11に示すように地図情報に付加されて表示される。
【0100】
次に、利用者4の場合、移動可能勾配算出部22で移動可能勾配を算出すると、下り坂の移動可能勾配θDが4%、上り坂の移動可能勾配θUが2%となる。利用者4の移動可能勾配θD,θUと地図情報に含まれる各経路の勾配とを対比すると、地点aから地点fの間の階段、現在地Sから地点aの間の上り坂、現在地Sから地点fの間の上り坂、地点aから目的地Gの間の下り坂、地点aから地点bの間の下り坂、地点bから目的地Gの間の下り坂、及び、地点fから目的地Gの間の下り坂が移動不可となる。移動可能な経路の中から経路を選択して、現在地Sから目的地Gまでの距離が最短となる案内経路を作成する。
【0101】
一例として、ルート1:現在地S-地点e-地点f-地点c-目的地G、及び、ルート2:現在地S-地点e-地点d-地点c-目的地Gについて、地図情報に基づいて計算すると次のとおりとなる。
ルート1:現在地S-地点e-地点f-地点c-目的地G
150m+25m+75m+75m=325m
ルート2:現在地S-地点e-地点d-地点c-目的地G
150m+100m+100m+75m=425m
【0102】
このようにして、利用者4が移動可能な経路の中から経路を選択して作成したルート全てについて、現在地Sから目的地Gまでの距離を算出し、距離が最短となる案内経路を作成する。利用者4は、現在地S-地点e-地点f-地点c-目的地Gのルートが、距離が最短となる。作成された案内経路は、
図12に示すように地図情報に付加されて表示される。
【0103】
以上より、4名の利用者それぞれに車椅子40の移動の可否が異なり、経路案内システム1によって作成される案内経路も異なることが分かる。言い換えると、経路案内システム1によって、各利用者が、搭乗者の体重、及び、操作者の力といった当該利用者の能力に応じて安全に移動できる案内経路が提供されることが分かる。
【0104】
以上のように、本発明の経路案内システム1では、車椅子40の重量及び搭乗者の体重に応じて必要となる、車椅子40を駆動する操作者の駆動トルク値を考慮して車椅子40の移動の可否を評価している。そして、車椅子40が移動可能と評価された経路から選択して案内経路を作成している。これにより、手動車椅子40では、車椅子40の重量及び搭乗者の体重と対比して、力の弱い者が自身で車椅子40を駆動する場合や、力の弱い介助者が車椅子40を押して駆動する場合などで、車椅子40を駆動する操作者の力に応じて移動できる案内経路が作成される。
【0105】
また、電動車椅子40では、車椅子40に搭載されるバッテリーの能力と車椅子40の重量及び搭乗者の体重との関係で駆動トルク値が変化する。本発明では、このような駆動トルク値の変化を考慮して移動の可否を評価しているため、電動車椅子40においても、使用する車椅子40の性能に応じて移動できる案内経路が作成される。その結果、車椅子40が移動しづらい又は移動できない経路が案内されることがなく、利用者は安全にかつ安心して目的地Gまで移動することができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0107】
例えば、上記実施形態では、経路案内システム1は、速度取得部23を備えているが、必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、駆動トルク値を算出する際、必要トルク値算出部21で必要トルク値を算出する際、又は、移動可能勾配算出部22で移動可能勾配θD,θUを算出する際に使用される車椅子40の駆動輪42の速度vは、規定値を使用することができるし、速度センサ、加速度センサ、角速度センサなどで測定された値を使用することもできる。この場合、経路案内システム1は、特に車椅子40の駆動輪42の速度vを設定する必要がなく、速度取得部23を必ずしも備える必要はない。規定値を使用する場合、車椅子40の速度vは、上記したように、上りの速度vUが0.5m/sで、下りの速度vDが2.0m/sである。
【0108】
また、上記実施形態では、経路案内システム1は、必要トルク値算出部21、又は、移動可能勾配算出部22を備えているが、必ずしもこの構成でなくてもよい。すなわち、経路案内システム1は、必要トルク値算出部21、及び、移動可能勾配算出部22の両方を備えなくてもよい。例えば、電動車椅子40であれば、メーカーによって登坂可能な勾配が定められている。このような電動車椅子40を使用する場合、メーカーによって定められた電動車椅子40の上り坂の移動可能勾配及び下り坂の移動可能勾配を、入力装置35を利用して入力して、予め記憶部27に記憶させておく。車椅子移動可否評価部16は、記憶部27に記憶されている車椅子40の移動可能勾配に関する車椅子情報と、各リンクの勾配の情報を含む地図情報とに基づき、移動可能勾配とリンクの勾配とを対比して、車椅子40の移動の可否を評価する。なお、電動車椅子40の移動可能勾配は、通信部28を介してネットワーク上にある該当車椅子40のカタログなどから取得してもよい。この場合、車椅子40の移動の可否の評価に搭乗者情報及び駆動トルク値を使用しないため、経路案内システム1は、搭乗者情報取得部12及び駆動トルク値取得部13を備えなくてもよい。
【0109】
逆に、経路案内システム1は、必要トルク値算出部21、移動可能勾配算出部22及び速度取得部23の全てを備えてもよい。例えば、実施形態2において必要トルク値算出部21を備えると、実施形態2においても必要トルク値を算出することができ、実施形態1と同様に時間優先ルート、平坦地優先ルート及びお薦めルートを含む複数のルートを表示させることができる。また、車椅子移動可否評価部16は、上記実施形態1で示した必要トルク値を考慮する方法と、上記実施形態2で示した移動可能勾配を考慮する方法の両方を組み合わせて車椅子40の移動の可否を評価することもできる。
【0110】
また、上記実施形態では、式1及び式2を利用して、駆動トルク値PT、及び、必要トルク値TD,TU、又は、移動可能勾配θD,θUを算出しているが、式1及び式2は必ずしも上記記載のとおりでなくてもよい。すなわち、駆動トルク値PT、及び、必要トルク値TD,TU、又は、移動可能勾配θD,θUの算出に同じ式及び同じ数値を利用するため、例えば、車椅子40の駆動輪42の寸法rを省略した式を用いることもできる。最低限、搭乗者の体重と、車椅子40を駆動する力(駆動トルク値PT、必要トルク値TD,TU)と、勾配θとの関係が含まれた式であればよい。
【0111】
また、上記実施形態では、搭乗者及び操作者ともに左右差が無い場合で説明しているが、例えば、搭乗者又は操作者が片麻痺である、搭乗者が側弯であるなどにより、車椅子40を操作する力、又は、車椅子40に係る荷重に左右差が生じることがある。実施形態1においてこのような場合には、左右それぞれの駆動トルク値を算出し、必要トルク値と対比すればよい。また、実施形態2においてこのような場合には、左右それぞれの駆動トルク値及び移動可能勾配を算出し、地図情報に含まれる又は地図情報に基づいて算出される各リンクの勾配と対比すればよい。
【0112】
また、上記実施形態では、駆動トルク値取得部13は、手動で入力された駆動トルク値、駆動トルク値計測センサ47で計測された駆動トルク値、又は、駆動トルク値計測センサ47で計測された加速度又は角速度から算出された駆動トルク値を取得しているが、必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、日々の車椅子40の走行の際に、駆動トルク値計測センサ47によって計測され、又は、駆動トルク値計測センサ47によって計測された加速度又は角速度に基づいて算出された駆動トルク値を記憶部27に記憶し蓄積しておく。そして、処理装置10に搭載されるAI(Artificial Intelligence)を利用して、日々の車椅子40の走行により取得される駆動トルク値に関するデータに基づいて、最適な駆動トルク値を算出する。駆動トルク値取得部13は、このようにして算出された駆動トルク値を取得してもよい。