(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111740
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】降下速度分布推定方法、層厚比分布推定方法、高炉操業方法、高炉操業制御装置、及び高炉操業制御プログラム
(51)【国際特許分類】
C21B 7/24 20060101AFI20240809BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C21B7/24 301
C21B5/00 313
C21B5/00 312
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016417
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 航尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 薫
【テーマコード(参考)】
4K012
4K015
【Fターム(参考)】
4K012BC09
4K012BC10
4K015KA02
4K015KA03
(57)【要約】
【課題】高炉内の堆積物の降下速度分布の推定精度を高めることを目的とする。
【解決手段】降下速度分布推定方法は、高炉10内の堆積物20の高炉径方向の表面形状20Sを所定の計測間隔で複数回計測し、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差、及び所定の計測間隔に基づいて堆積物20の降下速度分布を推定する際に、算出された堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、当該降下速度分布を除外して堆積物20の降下速度分布を推定する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉内における堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測し、
計測された前記堆積物の表面形状の高低差、及び前記所定の計測間隔に基づいて複数の前記堆積物の降下速度分布を算出し、
算出された前記堆積物の前記降下速度分布と基準降下速度分布とを比較し、
算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、該降下速度分布を除外して前記堆積物の降下速度分布を推定する、
降下速度分布推定方法。
【請求項2】
高炉内における堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測し、計測された前記堆積物の表面形状の高低差、及び前記所定の計測間隔に基づいて前記堆積物の降下速度分布を推定する際に、計測された前記表面形状の変動量が閾値を超えた場合、該表面形状を除外して前記堆積物の降下速度分布を推定する、
降下速度分布推定方法。
【請求項3】
複数の前記堆積物の降下速度分布の平均値に基づいて、前記堆積物の降下速度分布を推定する、
請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法。
【請求項4】
前記高炉内に交互に堆積される前記堆積物としてのコークス層及び鉄鉱石層の各々の表面形状、及び請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって推定された前記堆積物の降下速度分布に基づいて、前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定する、
層厚比分布推定方法。
【請求項5】
高炉内に高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石を装入し、前記高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、請求項4に記載の層厚分推定方法によって前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定し、
前記所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、前記所定のチャージにおいて推定した前記層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように前記高炉原料の装入条件を補正する、
高炉操業方法。
【請求項6】
前記装入条件は、前記高炉内に前記高炉原料を装入する旋回シュート又はムーバブルアーマの傾斜角度と使用ノッチ、前記旋回シュートの旋回数、高炉原料の装入量、及び高炉原料の装入を開始する前記高炉内の堆積物の表面深さを含む、
請求項5に記載の高炉操業方法。
【請求項7】
前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、
所定の前記計測位置において、推定された前記堆積物の降下速度分布が許容降下速度分布から外れた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
高炉操業方法。
【請求項8】
前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、
所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
高炉操業方法。
【請求項9】
高炉内に高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石を装入し、前記高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、請求項4に記載の層厚分推定方法によって前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定し、
前記所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、前記所定のチャージにおいて推定した前記層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように前記高炉原料の装入条件を補正する、
処理を実行する制御部を含む高炉操業制御装置。
【請求項10】
前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、
所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
処理を実行する制御部を含む高炉操業制御装置。
【請求項11】
前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、
所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
処理を実行する制御部を含む高炉操業制御装置。
【請求項12】
高炉内に高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石を装入し、前記高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、請求項4に記載の層厚分推定方法によって前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定し、
前記所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、前記所定のチャージにおいて推定した前記層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように前記高炉原料の装入条件を補正する、
処理をコンピュータに実行させる高炉操業制御プログラム。
【請求項13】
前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、
所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
処理をコンピュータに実行させる高炉操業制御プログラム。
【請求項14】
前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、請求項1又は請求項2に記載の降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、
所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
処理をコンピュータに実行させる高炉操業制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降下速度分布推定方法、層厚比分布推定方法、高炉操業方法、高炉操業制御装置、及び高炉操業制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高炉内における堆積物の高炉径方向の降下速度分布を算出する算出方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-21310号公報
【特許文献2】国際公開第2019/189025号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で2回計測する。そして、計測された堆積物の表面形状の高低差(堆積物の降下距離)及び所定の計測間隔に基づいて、堆積物の高炉径方向の降下速度分布を推定する。
【0005】
しかしながら、1回目の堆積物の表面形状の計測から2回目の堆積物の表面形状の計測までの間に、堆積物の表面形状が崩れたり、堆積物にドロップやスリップ等が発生したりすると、堆積物の表面形状が変動する。そして、堆積物の表面形状が変動すると、計測された堆積物の表面形状の高低差(堆積物の降下距離)も変動するため、降下速度分布の推定精度が低下する。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、高炉内の堆積物の降下速度分布の推定精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る降下速度分布推定方法は、高炉内における堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測し、計測された前記堆積物の表面形状の高低差、及び前記所定の計測間隔に基づいて複数の前記堆積物の降下速度分布を算出し、算出された前記堆積物の前記降下速度分布と基準降下速度分布とを比較し、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、該降下速度分布を除外して前記堆積物の降下速度分布を推定する。
【0008】
上記態様によれば、高炉内における堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測し、計測された堆積物の表面形状の高低差、及び所定の計測間隔に基づいて複数の堆積物の降下速度分布を算出する。そして、算出された堆積物の降下速度分布と基準降下速度分布とを比較し、算出された堆積物の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、当該降下速度分布を除外して堆積物の降下速度分布を推定する。
【0009】
これにより、例えば、1回目の堆積物の表面形状の計測から2回目の堆積物の表面形状の計測までの間に、堆積物の表面形状が崩れ、又は堆積物にドロップやスリップ等が発生した場合の堆積物の表面形状を除外することができる。
【0010】
したがって、高炉内の堆積物の降下速度分布の推定精度を高めることができる。
【0011】
第2態様に係る降下速度分布推定方法は、高炉内における堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測し、計測された前記堆積物の表面形状の高低差、及び前記所定の計測間隔に基づいて前記堆積物の降下速度分布を推定する際に、計測された前記表面形状の変動量が閾値を超えた場合、該表面形状を除外して前記堆積物の降下速度分布を推定する。
【0012】
上記態様によれば、高炉内における堆積物の高炉径方向の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測し、計測された堆積物の表面形状の高低差、及び所定の計測間隔に基づいて堆積物の降下速度分布を推定する。この際に、計測された表面形状の変動量が閾値を超えた場合、当該表面形状を除外して堆積物の降下速度分布を推定する。
【0013】
これにより、例えば、1回目の堆積物の表面形状の計測から2回目の堆積物の表面形状の計測までの間に、堆積物の表面形状が崩れ、又は堆積物にドロップやスリップ等が発生した場合の堆積物の表面形状を除外することができる。
【0014】
したがって、高炉内の堆積物の降下速度分布の推定精度を高めることができる。
【0015】
第3態様に係る降下速度分布推定方法は、第1態様又は第2態様に係る降下速度分布推定方法において、複数の前記堆積物の降下速度分布の平均値に基づいて、前記堆積物の降下速度分布を推定する。
【0016】
上記態様によれば、複数の堆積物の降下速度分布の平均値に基づいて、堆積物の降下速度分布を推定する。これにより、堆積物の表面形状の計測値のばらつきが平均化される。したがって、高炉内の堆積物の降下速度分布の推定精度をさらに高めることができる。
【0017】
第4態様に係る層厚比分布推定方法は、前記高炉内に交互に堆積される前記堆積物としてのコークス層及び鉄鉱石層の各々の表面形状、及び第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって推定された前記堆積物の降下速度分布に基づいて、前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定する。
【0018】
上記態様によれば、高炉内に交互に堆積される堆積物としてのコークス層及び鉄鉱石層の各々の表面形状、及び第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって推定された堆積物の降下速度分布に基づいて、鉄鉱石層及びコークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定する。
【0019】
ここで、例えば、鉄鉱石層の高炉径方向の層厚分布を推定する場合、先ず、コークス層の高炉径方向の表面形状を計測する。次に、高炉内に鉄鉱石を装入し、コークス層上に鉄鉱石層を堆積させる。次に、鉄鉱石層の高炉径方向の表面形状を計測する。そして、コークス層及び鉄鉱石層の表面形状の高低差に基づいて、鉄鉱石層の高炉径方向の層厚分布を推定する。
【0020】
しかし、コークス層の表面形状を計測してから鉄鉱石層の表面形状を計測するまでの間にコークス層が降下する。そのため、鉄鉱石層の高炉径方向の層厚を求める際には、コークス層の高炉径方向の降下量が考慮される。
【0021】
コークス層の高炉径方向の降下量は、コークス層の高炉径方向の降下速度分布、及びコークス層の表面形状を計測してから鉄鉱石層の表面形状を計測するまで時間に基づいて推定される。なお、コークス層の高炉径方向の層厚分布は、鉄鉱石層の高炉径方向の層厚分布と同様の方法で推定される。
【0022】
したがって、堆積物の降下速度分布の推定精度を高めることにより、鉄鉱石層及びコークス層の高炉径方向の層厚比分布の推定精度を高めることができる。
【0023】
第5態様に係る高炉操業方法は、高炉内に高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石を装入し、前記高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、第4態様に係る層厚分推定方法によって前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定し、前記所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、前記所定のチャージにおいて推定した前記層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように前記高炉原料の装入条件を補正する。
【0024】
上記態様によれば、高炉内に高炉原料としての鉄鉱石及びコークスを装入し、当該高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、第4態様に係る層厚分推定方法によって、鉄鉱石層及びコークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定する。
【0025】
そして、所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、所定のチャージにおいて推定した鉄鉱石層及びコークス層の層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように、高炉原料の装入条件を補正する。これにより、高炉操業を安定させることができる。
【0026】
第6態様に係る高炉操業方法は、第5態様に係る高炉操業方法において、前記装入条件は、前記高炉内に前記高炉原料を装入する旋回シュート又はムーバブルアーマの傾斜角度と使用ノッチ、前記旋回シュートの旋回数、高炉原料の装入量、及び高炉原料の装入を開始する前記高炉内の堆積物の表面深さを含む。
【0027】
上記態様によれば、装入条件は、高炉内に高炉原料を装入する旋回シュート又はムーバブルアーマの傾斜角度と使用ノッチ、旋回シュートの旋回数、高炉原料の装入量、及び高炉原料の装入を開始する高炉内の堆積物の表面深さを含む。
【0028】
これらの装入条件を補正することにより、所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、所定のチャージにおいて推定した鉄鉱石層及びコークス層の層厚比分布を、目標層厚比分布に近づけることができる。
【0029】
第7態様に係る高炉操業方法は、前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、所定の前記計測位置において、推定された前記堆積物の降下速度分布が許容降下速度分布から外れた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する。
【0030】
上記態様によれば、高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定する。
【0031】
そして、所定の計測位置において、推定された堆積物の降下速度分布が許容降下速度分布から外れた場合に、高炉の所定の計測位置側に対して、羽口から高炉内に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、
【0032】
これにより、高炉の所定の計測位置側において、堆積物の降下速度分布を許容降下速度分布にすることができる。
【0033】
第8態様に係る高炉操業方法は、前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する。
【0034】
上記態様によれば、高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定する。
【0035】
そして、所定の計測位置において、堆積物の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された表面形状の変動量が閾値を超えた場合に、羽口から高炉の所定の計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する。
【0036】
これにより、高炉の所定の計測位置側において、堆積物の降下速度分布を基準降下速度分布に近づけ、又は堆積物の表面形状の変動量が閾値以下にすることができる。
【0037】
第9態様に係る高炉操業制御装置は、高炉内に高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石を装入し、前記高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、第4態様に係る層厚分推定方法によって前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定し、前記所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、前記所定のチャージにおいて推定した前記層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように前記高炉原料の装入条件を補正する、処理を実行する制御部を含む。
【0038】
第10態様に係る高炉操業制御装置は、前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、処理を実行する制御部を含む。
【0039】
第11態様に係る高炉操業制御装置は、前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、処理を実行する制御部を含む。
【0040】
第12態様に係る高炉操業制御プログラムは、高炉内に高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石を装入し、前記高炉内に1組のコークス層及び鉄鉱石層を堆積させる所定のチャージにおいて、第4態様に係る層厚分推定方法によって前記鉄鉱石層及び前記コークス層の高炉径方向の層厚比分布を推定し、前記所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、前記所定のチャージにおいて推定した前記層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように前記高炉原料の装入条件を補正する、処理をコンピュータに実行させる。
【0041】
第13態様に係る高炉操業制御プログラムは、前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、処理をコンピュータに実行させる。
【0042】
第14態様に係る高炉操業制御プログラムは、前記高炉の周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、第1態様~第3態様の何れか1つに係る降下速度分布推定方法によって前記堆積物の降下速度分布をそれぞれ推定し、所定の前記計測位置において、算出された前記堆積物の降下速度分布が前記基準降下速度分布から外れた場合、又は計測された前記表面形状の変動量が前記閾値を超えた場合に、羽口から前記高炉の所定の前記計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、高炉内の堆積物の降下速度分布の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】第一実施形態に係る高炉を示す縦断面図である。
【
図2】第一実施形態に係る高炉操業制御装置のハードウェア構成図である。
【
図3】第一実施形態に係る高炉操業制御装置の機能ブロック図である。
【
図4】第一実施形態に係る高炉において、計測された堆積物の表面形状を示すグラフである。
【
図5】第一実施形態に係る高炉において、推定された堆積物の降下速度分布を示すグラフである。
【
図6】第一実施形態に係る高炉において、計測された堆積物の表面形状を示すグラフである。
【
図7】第一実施形態に係る高炉において、推定された堆積物の降下速度分布を示すグラフである。
【
図8】第一実施形態に係る高炉において、計測されたコークス層及び鉄鉱石層の表面形状を示すグラフである。
【
図9】第一実施形態に係る堆積物の降下速度分布推定部の推定試験において、計測された堆積物の表面形状を示すグラフである。
【
図10】第一実施形態に係る堆積物の降下速度分布推定部の推定試験において、算出された堆積物の降下速度分布を示すグラフである。
【
図11】第一実施形態に係る堆積物の降下速度分布推定部の推定試験において、計測された堆積物の表面形状を示すグラフである。
【
図12】第一実施形態に係る堆積物の降下速度分布推定部の推定試験において、算出された堆積物の降下速度分布を示すグラフである。
【
図13】第一実施形態に係る堆積物の降下速度分布推定部の推定試験において、推定された堆積物の降下速度分布を示すグラフである。
【
図14】第一実施形態に係る高炉操業制御処理の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】第二実施形態に係る高炉操業制御装置の機能ブロック図である。
【
図16】第二実施形態に係る高炉操業制御処理の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図17】第三実施形態に係る高炉操業制御装置の機能ブロック図である。
【
図18】第三実施形態に係る高炉において、推定された堆積物の降下速度分布を示すグラフである。
【
図19】第三実施形態に係る高炉操業制御処理の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本願が開示する技術の一実施形態について説明する。
【0046】
(高炉)
図1には、本実施形態に係るベルレス式の高炉10が示されている。高炉10には、後述する装入装置30によって、炉頂12から高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石等が装入される。これにより、高炉10内に、堆積物20としてのコークス層22と鉄鉱石層24とが交互に層状に堆積される。
【0047】
高炉10内には、高炉10の下部に設けられた羽口16から熱風及び補助燃料等が吹き込まれる。これにより、補助燃料及びコークスが燃焼し、上昇する高温ガス(還元ガス)が発生する。この還元ガスによって、高炉10内に形成された鉄鉱石層24の鉄鉱石が加熱、還元されながら降下する。そして、降下しながら溶融した鉄鉱石が、炉底部の炉壁に設けられた出銑孔から銑鉄として排出される。
【0048】
なお、
図1に示される矢印Rは、高炉10の径方向を示している。また、以下の説明では、「高炉10の径方向」を「高炉径方向」ともいう。また、「高炉10の周方向」を「高炉周方向」ともいう。
【0049】
(装入装置)
装入装置30は、前述したように、炉頂12から高炉10内に、高炉原料としてのコークス及び鉄鉱石等を装入し、高炉10内に、堆積物20としてのコークス層22と鉄鉱石層24とを交互に層状に堆積させる。この装入装置30には、搬送装置32が接続されている。また、装入装置30は、切替シュート34、一対の炉頂ホッパー36、集合ホッパー38、及び旋回シュート40を備えている。
【0050】
搬送装置32は、例えば、ベルトコンベアとされており、図示しない原料槽から原料としてのコークス及び鉄鉱石を切替シュート34に搬送する。切替シュート34は、一対の炉頂ホッパー36の間で原料の供給先を切り替え可能とされている。この切替シュート34によって、例えば、一方の炉頂ホッパー36に所定量のコークスが供給され、他方の炉頂ホッパー36に所定量の鉄鉱石が供給される。
【0051】
一対の炉頂ホッパー36内に貯留された鉄鉱石又はコークスは、集合ホッパー38を介して、旋回シュート40に供給される。旋回シュート40は、高炉10の中心軸を中心として旋回しながら、高炉10内に鉄鉱石又はコークスを層状に装入する。
【0052】
また、高炉10の中心軸に対する旋回シュート40の傾斜角度(傾動角度)θを変更することにより、高炉10内の堆積物20の表面上に落下する鉄鉱石又はコークスの高炉径方向の位置(落下位置)が調整される。旋回シュート40の傾斜角度θは、後述するノッチテーブル(表1参照)によって管理される。
【0053】
なお、装入装置30によって炉頂12から高炉10内に所定量のコークス及び鉄鉱石を装入し、高炉10内の全域に、コークス層22及び鉄鉱石層24を1組(合計2層)形成することを1チャージという。また、1チャージでは、コークス及び鉄鉱石をそれぞれ複数回のダンプに分けて装入をすることができる。1回のコークス又は鉄鉱石の装入操作を1ダンプという。また、旋回シュート40は、1ダンプ中に複数旋回する。
【0054】
(高炉操業制御装置の概要)
高炉操業制御装置50(
図3参照)は、高炉10の全体の動作を制御する。また、高炉操業制御装置50は、高炉10内の堆積物20の降下速度分布を推定する。そして、推定された堆積物20の降下速度分布に基づいて、鉄鉱石層24及びコークス層22の高炉径方向の層厚比(=鉄鉱石層24の層厚P2/1チャージの層厚(コークス層22の層厚P1+鉄鉱石層24の層厚P2))分布を推定する。
【0055】
また、高炉操業制御装置50は、推定された鉄鉱石層24及びコークス層22の層厚比分布が、予め定められた目標層厚比分布になるように、装入装置30を制御する。
【0056】
なお、鉄鉱石層24及びコークス層22の層厚比分布は、鉄鉱石層24及びコークス層22の高炉径方向の層厚比分布を意味する。また、堆積物20の降下速度分布は、堆積物20の高炉径方向の降下速度分布を意味する。
【0057】
(高炉操業制御装置のハードウェア構成)
次に、高炉操業制御装置50のハードウェア構成について説明する。
【0058】
高炉操業制御装置50は、例えば、
図2に示されるコンピュータ70で実現される。コンピュータ70は、CPU(Central Processing Unit)72と、一時記憶領域としてのメモリ74と、不揮発性の記憶部76とを備えている。また、コンピュータ70は、入出力装置78を備えている。これらのCPU72、メモリ74、記憶部76、及び入出力装置78は、バス79を介して互いに接続されている。なお、CPU72は、制御部の一例である。
【0059】
記憶部76は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記録媒体としての記憶部76には、コンピュータ70を、高炉操業制御装置50として機能させるための高炉操業制御プログラムが予め記憶されている。また、記憶部76には、各種のデータを記憶する記憶領域が設けられている。
【0060】
入出力装置78は、マウス等のポインティングデバイス、キーボード、及び表示部を含み、各種の入力を行うために使用される。
【0061】
CPU72は、高炉操業制御プログラムを記憶部76から読み出してメモリ74に展開し、高炉操業制御プログラムが有する各工程を順次実行する。これにより、高炉操業制御プログラムを実行したコンピュータ70が、高炉操業制御装置50として機能する。
【0062】
(高炉操業制御装置の機能)
次に、高炉操業制御装置50の機能について説明する。
【0063】
図3に示されるように、高炉操業制御装置50は、前述した高炉操業制御プログラムを実行する際に、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。具体的には、高炉操業制御装置50は、機能的に、装入条件取得部52と、秤量・搬送装置制御部54と、装入装置制御部56と、降下速度分布推定部58と、層厚比分布推定部60と、装入条件補正部62とを備えている。
【0064】
(装入条件取得部)
装入条件取得部52は、高炉10内に高炉原料を装入する装入装置30の装入条件を取得する。具体的には、装入条件取得部52は、例えば、高炉原料の装入スケジュールテーブルから装入条件を取得する。装入スケジュールテーブルは、ダンプ毎に、高炉10内に装入される高炉原料(コークス及び鉄鉱石)の装入条件が定められたテーブルであり、例えば、前述した記憶部76(
図2参照)に予め記憶される。
【0065】
装入条件としては、例えば、1ダンプ当たりの高炉原料(コークス又は鉄鉱石)の装入量、及び1ダンプ当たりの旋回シュート40の旋回数等がある。また、装入条件としては、1ダンプ中に複数旋回する旋回シュート40の各旋回について、旋回シュート40のノッチ、及び高炉原料の装入を開始する高炉10内の堆積物20の表面深さL(装入ストックレベル、
図4参照)等がある。
【0066】
旋回シュート40のノッチは、下記表1に示されるノッチテーブルのように、予め定められた旋回シュート40の傾斜角度θと対応付けられた番号である。このノッチテーブルは、例えば、前述した記憶部76(
図3参照)に予め記憶される。なお、ノッチに対応する旋回シュート40の傾斜角度θは、適宜変更可能である。
【0067】
【0068】
なお、装入条件取得部52は、装入スケジュールテーブルに限らず、例えば、高炉10の管理者によって、入出力装置78(
図2参照)に入力された各種の装入条件を取得しても良い。
【0069】
(秤量・搬送装置制御部)
秤量・搬送装置制御部54は、例えば、ダンプ毎に、図示しない秤量装置を制御して原料槽から所定量の高炉原料(鉄鉱石又はコークス等)を秤量する。また、秤量・搬送装置制御部54は、搬送装置32を制御し、秤量された高炉原料を炉頂12の装入装置30へ搬送させる。
【0070】
(装入装置制御部)
装入装置制御部56は、旋回シュート40の旋回等を制御し、炉頂12から高炉10内に高炉原料を装入する。この際、装入装置制御部56は、装入条件取得部52によって取得された高炉原料の装入条件に基づいて、1旋回毎に旋回シュート40を制御し、高炉10に所定量の高炉原料を装入する。
【0071】
(降下速度分布推定部)
降下速度分布推定部58は、高炉10内に高炉原料を装入していないタイミングで、高炉10内の堆積物20の表面形状20Sを所定の計測間隔(時間間隔)で複数回計測する。
【0072】
具体的には、降下速度分布推定部58は、高炉10に設置された図示しないプロフィルメータを所定の計測間隔で作動し、例えば、高炉10内に堆積した堆積物20(コークス層22又は鉄鉱石層24)の表面形状20Sを計測する。プロフィルメータは、例えば、マイクロ波式やミリ波式、光学式とされる。
【0073】
なお、堆積物20の表面形状20Sとは、高炉径方向に沿った堆積物20の表面形状を意味する。また、堆積物20の表面形状20Sは、高炉周方向の特定断面において計測しても良いし、高炉周方向の複数断面で計測しても良い。
【0074】
次に、降下速度分布推定部58は、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差(レベル差)、及び所定の計測間隔に基づいて堆積物20の降下速度分布を推定する。この降下速度分布推定部58は、例えば、15秒~120秒の計測間隔で、高炉10内の堆積物20の表面形状20Sを周期的に複数回(3回以上)計測する。
【0075】
図4には、一例として、時刻T1,T2(T1<T2)に計測された堆積物20の表面形状20Sがそれぞれ示されている。なお、
図4の横方向は、高炉10の炉心(中心軸)から炉壁14(
図1参照)の内周面までの高炉径方向の位置である。また、
図4の縦方向は、高炉10の所定レベル(基準レベル)からの深さである。
【0076】
図4に示されるように、降下速度分布推定部58は、例えば、堆積物20の表面形状20Sを所定の計測間隔ΔT(=T2-T1)で2回計測し、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差(レベル差)ΔH(=H2-H1)及び計測間隔ΔTに基づいて、堆積物20の降下速度分布を算出する。より具体的には、降下速度分布推定部58は、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差ΔHを計測間隔ΔTで除すことにより、堆積物20の降下速度分布を算出する。
【0077】
なお、堆積物20の表面形状20Sの高低差ΔHは、高炉径方向の分布として算出される。また、降下速度分布推定部58は、高炉周方向の特定の計測位置で堆積物20の降下速度分布を推定しても良いし、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置で堆積物20の降下速度分布を推定しても良い。
【0078】
図5には、一例として、降下速度分布推定部58によって推定した堆積物20の降下速度分布が示されている。なお、
図5の横軸は、高炉10の炉心(中心軸)から炉壁14(
図1参照)の内周面までの高炉径方向の位置である。また、
図5の縦軸は、堆積物20の降下速度である。本実施形態では、一例として、堆積物20の降下速度が負で表されている。
【0079】
ここで、例えば、時刻T1から時刻T2までの間に、堆積物20の表面形状20Sが崩れたり、堆積物20にドロップやスリップ等が発生したりすると、堆積物20の表面形状20Sが変動する。そして、堆積物20の表面形状20Sが変動すると、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差ΔH(堆積物20の降下距離)も変動するため、堆積物20の降下速度分布の推定精度が低下する。
【0080】
例えば、
図6には、一例として、時刻T1から時刻T2までの間に、堆積物20の表面形状20Sの一部が崩れて高炉10の中心軸側へ流れ込んだ場合の、時刻T1,T2で計測された堆積物20の表面形状20Sがそれぞれ示されている。なお、
図6には、時刻T1から時刻T2までの間に堆積物20の表面形状20Sの一部が崩れない場合の時刻T2での堆積物20の表面形状20S’が二点鎖線で示されている。
【0081】
図6に示されるように、堆積物20の表面形状20Sが崩れた領域では、当該表面形状20S’が崩れない場合(二点鎖線)と比較して、堆積物20の表面高さ(表面レベル)が低くなる。一方、崩れた堆積物20が流れ込んだ高炉10の中心軸側の領域では、堆積物20が流れ込まない場合の表面形状20S’(二点鎖線)と比較して、堆積物20の表面高さ(表面レベル)が高くなる。そのため、時刻T1,T2で計測された堆積物20の表面形状20Sでは、堆積物20の降下速度分布を適切に算出することができない。
【0082】
そこで、降下速度分布推定部58は、堆積物20の表面形状20Sを所定の計測間隔で複数回計測し、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差、及び所定の計測間隔に基づいて堆積物20の降下速度分布を複数算出する。
【0083】
この際、降下速度分布推定部58は、算出された複数の堆積物20の降下速度分布のうち、基準降下速度分布から外れた降下速度分布を除外し、残りの複数の堆積物20の降下速度分布の平均値を堆積物20の降下速度分布として推定する。これにより、堆積物20の降下速度分布の推定精度が高められる。なお、複数の堆積物20の降下速度分布の平均値については、降下速度分布の推定試験にて後述する。
【0084】
図7には、一例として、堆積物20の基準降下速度分布Vが示されている。基準降下速度分布Vは、例えば、高炉10における単位時間当たりの高炉原料の装入量、及び銑鉄の生産量に基づいて算出される。また、堆積物20の基準降下速度分布Vは、例えば、堆積物20に崩れが発生しない場合の堆積物20の降下速度分布としても良い。
【0085】
また、
図7には、時刻T1から時刻T2までの間に、堆積物20に崩れが発生しない場合の堆積物20の降下速度分布V1と、時刻T1から時刻T2までの間に、堆積物20に崩れが発生した場合の堆積物20の降下速度分布V2が示されている。なお、
図7の横軸及び縦軸は、
図5の横軸及び縦軸と同じである。
【0086】
図7に示されるように、堆積物20の表面形状20Sに崩れが発生しない場合の降下速度分布V1は、基準降下速度分布Vに近似している。一方、堆積物20の表面形状20Sに崩れが発生した場合の降下速度分布V2は、基準降下速度分布Vから大きく乖離している。したがって、基準降下速度分布Vから外れる降下速度分布V2を除外することにより、堆積物20の降下速度分布の推定精度を高めることができる。
【0087】
なお、基準降下速度分布Vから外れる降下速度分布V2とは、例えば、基準降下速度分布Vの0.7倍以下又は1.3倍以上の降下速度を含む降下速度分布を意味する。また、基準降下速度分布Vから外れる降下速度分布には、例えば、堆積物20の上昇を意味する正の堆積物20の降下速度を含む降下速度分布も含まれる。
【0088】
(層厚比分布推定部)
図8に示されるように、層厚比分布推定部60は、図示しないプロフィルメータを作動し、コークス層22及び鉄鉱石層24の表面形状22S,24Sをそれぞれ計測する。そして、計測されたコークス層22及び鉄鉱石層24の表面形状22S,24S、及び降下速度分布推定部58によって推定された堆積物20の降下速度分布に基づいて、コークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布を推定する。
【0089】
具体的には、層厚比分布推定部60は、コークス層22及び鉄鉱石層24の層厚分布をそれぞれ算出し、算出されたコークス層22及び鉄鉱石層24の各々の層厚分布に基づいて層厚比分布を推定する。
【0090】
例えば、鉄鉱石層24の層厚分布を算出する場合、層厚比分布推定部60は、先ず、コークス層22の表面形状22Sを計測(時刻T3)する。次に、層厚比分布推定部60は、コークス層22上に装入が行われ、堆積された鉄鉱石層24の表面形状24Sを計測(時刻T4)する。そして、コークス層22及び鉄鉱石層24の表面形状22S,24Sの高低差に基づいて、鉄鉱石層24の高炉径方向の層厚分布を推定する。
【0091】
ここで、コークス層22の表面形状22Sを計測(時刻T3)してから鉄鉱石層24の表面形状24Sを計測(時刻T4)するまでの間に、コークス層22の表面形状22S(時刻T4)は徐々に降下する。そのため、鉄鉱石層24の層厚分布を算出する際には、コークス層22の高炉径方向の降下量分布が考慮される。
【0092】
コークス層22の高炉径方向の降下量分布は、降下速度分布推定部58によって推定されたコークス層22(堆積物20)の降下速度分布に、コークス層22及び鉄鉱石層24の表面形状22S,24Sの計測間隔(T4-T3)を乗じることにより求められる。
【0093】
層厚比分布推定部60は、以上の手順でコークス層22及び鉄鉱石層24の層厚分布をそれぞれ算出する。そして、算出されたコークス層22及び鉄鉱石層24の各々の層厚分布に基づいて層厚比分布を推定する。
【0094】
なお、コークス層22の層厚分布の算出方法は、鉄鉱石層24の層厚分布の算出方法と同様であるため、説明を省略する。また、層厚比分布推定部60は、例えば、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、コークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布を複数算出し、算出された複数の層厚比分布の平均値を層厚比分布として推定しても良い。
【0095】
(装入条件補正部)
装入条件補正部62は、層厚比分布推定部60によって推定されたコークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が、予め定められた目標層厚比分布と一致するか否か判定する。そして、装入条件補正部62は、層厚比分布推定部60によって推定されたコークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が目標層厚比分布と一致する場合は、高炉原料の装入条件を補正しない。
【0096】
一方、装入条件補正部62は、層厚比分布推定部60によって推定されたコークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が目標層厚比分布と一致しない場合、当該層厚比分布が目標層厚比分布に近づくように、高炉原料の装入条件を補正する。
【0097】
具体的には、装入条件補正部62は、層厚比分布推定部60によって推定されたコークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が目標層厚比分布に近づくように、旋回シュート40の傾斜角度θ、旋回シュート40の旋回数、高炉原料の装入量、及び高炉原料の装入を開始する堆積物20の表面深さLの少なくとも1つを補正する。
【0098】
なお、旋回シュート40の傾斜角度θは、旋回シュート40の使用ノッチ(表1参照)を変更することにより補正しても良いし、使用ノッチは変更せずに、使用ノッチに対応付けられた旋回シュート40の傾斜角度θを変更することにより補正しても良い。
【0099】
なお、本実施形態では、高炉10がベルレス式とされている。しかし、高炉10がベル式の場合には、装入条件補正部62は、層厚比分布推定部60によって推定されたコークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が目標層厚比分布に近づくように、ムーバブルアーマの傾斜角度と使用ノッチを補正しても良い。
【0100】
(降下速度分布の推定試験)
次に、堆積物20の降下速度分布推定部の推定試験について説明する。
【0101】
本試験では、高炉を1/3スケールに縮小した試験装置において、高炉内の堆積物を250秒間降下させた。この際、降下中の堆積物の表面形状を、図示しないプロフィルメータによって50秒毎に複数回計測した。また、堆積物の降下中に、堆積物の一部を強制的に崩し、崩れた堆積物の一部を高炉の中心軸側に流れ込ませた。
【0102】
図9には、堆積物の降下前に計測した堆積物の表面形状t0、及び250秒後に計測した堆積物の表面形状t250が示されている。
【0103】
なお、
図9の横軸は、高炉の中心軸から炉壁の内周面までの距離(半径)を1として無次元化している。また、
図9の縦軸は、高炉の深さを高炉の半径を基準として無次元化している。また、
図9の縦軸の「0」は、基準レベル(基準ストックレベル)を示している。
【0104】
また、
図10には、
図9に示される堆積物の表面形状t0,t250に基づいて算出した堆積物の降下速度分布V(t0~t250)と、高炉の試験装置に設定された堆積物の基準降下速度分布Vが示されている。なお、
図10の横軸は、高炉の中心軸から炉壁の内周面までの距離(半径)を1として無次元化している。また、
図10の縦軸は、堆積物の降下速度(mm/s)を示している。この堆積物の降下速度は、負で表されている。
【0105】
図10に示されるように、降下速度分布V(t0~t250)は、高炉径方向の無次元位置0.3~0.6付近で基準降下速度分布Vよりも著しく速くなり、高炉の中心軸側で基準降下速度分布Vよりも著しく遅くなっている。このように降下速度分布V(t0~t250)は、試験装置に設定された基準降下速度分布Vから大きく乖離している。これは、堆積物の表面形状の崩れに伴って堆積物の表面高さが増減したためと考えられる。
【0106】
一方、
図11には、降下前の堆積物の表面形状t0、及び50秒毎に計測した堆積物の表面形状t50,t100,t150,t200,t250が示されている。また、
図12には、
図11に示される堆積物の表面形状t0,t50,t100,t150,t200,t250に基づいて算出した堆積物の降下速度分布V1,V2,V3,V4,V5が示されている。
【0107】
なお、降下速度分布V1は、堆積物の表面形状t0,t50の高低差、及び計測間隔(50秒)に基づいて算出されている。これと同様に、降下速度分布V2は、堆積物の表面形状t50,t100の高低差、及び計測間隔(50秒)に基づいて算出され、降下速度分布V3は、堆積物の表面形状t100,t150の高低差、及び計測間隔(50秒)に基づいて算出されている。また、降下速度分布V4は、堆積物の表面形状t150,t200の高低差、及び計測間隔(50秒)に基づいて算出され、降下速度分布V5は、堆積物の表面形状t200,t250の高低差、及び計測間隔(50秒)に基づいて算出されている。
【0108】
また、
図11の縦軸及び横軸は、
図9の縦軸及び横軸と同じであり、
図12の縦軸及び横軸は、
図10の縦軸及び横軸と同じである。
【0109】
図11に示されるように、堆積物の表面形状t100は、高炉径方向の無次元位置0.3~0.6付近で著しく低くなり、堆積物の表面形状t50との間隔が広がっている。一方、堆積物の表面形状t100は、高炉の中心軸側で著しく高くなり、堆積物の表面形状t50よりも高くなっている。このことから、堆積物の表面形状t50を計測してから堆積物の表面形状t100を計測するまでの間に、堆積物の表面形状に崩れが発生したと考えられる。
【0110】
また、
図12に示されるように、堆積物の表面形状に崩れが発生したと考えられる50秒から100秒までの堆積物の降下速度分布V2は、高炉径方向の無次元位置0.0~0.6付近で、他の4つの降下速度分布V1,V3~V5から大きく乖離している。これは、堆積物の表面形状の崩れに伴って堆積物の表面高さが増減したためと考えられる。
【0111】
そこで、本試験では、5つの降下速度分布V1~V5から降下速度分布V2を除外した。具体的には、5つの降下速度分布V1~V5と基準降下速度分布V(
図10参照)とをそれぞれ比較し、基準降下速度分布Vから外れた降下速度分布V2を降下速度分布V1~V5から除外した。そして、残り4つの降下速度分布V1,V3~V5の平均値を求めた。
【0112】
図13には、他の4つの降下速度分布V1,V3~V5の平均値を示す平均降下速度分布Vave、及び高炉の試験装置に設定された基準降下速度分布Vが示されている。
図13に示されるように、平均降下速度分布Vaveは、高炉の試験装置に設定された基準降下速度分布Vと近似している。なお、
図13の縦軸及び横軸は、
図12の縦軸及び横軸と同じである。
【0113】
(高炉操業方法)
次に、高炉操業制御装置50の動作を説明しつつ、高炉操業方法の一例について説明する。
【0114】
高炉10の操業中に、高炉操業制御装置50において、
図14に示される高炉操業処理が実行される。高炉操業処理は、例えば、チャージ毎に実行される。なお、高炉操業処理は、高炉操業方法の一例である。
【0115】
図14に示されるように、先ず、ステップS10において、CPU72は、記憶部76に記憶された装入スケジュールテーブルから、高炉原料(コークス及び鉄鉱石)の装入条件を取得する。
【0116】
次に、ステップS12において、CPU72は、装入条件に基づいて、図示しない秤量装置を作動し、原料槽から所定量の高炉原料(コークス及び鉄鉱石)を秤量するとともに、搬送装置32を作動し、秤量された高炉原料を炉頂12の装入装置30へ搬送させる。
【0117】
次に、ステップS14において、CPU72は、高炉原料(コークス及び鉄鉱石)の装入条件に基づいて、旋回シュート40を複数旋回させ、高炉10内に高炉原料を装入する。これにより、高炉10内に、堆積物20としての1組のコークス層22及び鉄鉱石層24を堆積させる。
【0118】
次に、ステップS16において、CPU72は、堆積物20の降下速度分布を推定する。具体的には、堆積物20の表面形状20Sを所定の計測間隔で複数回計測する。そして、計測された複数の堆積物20の表面形状20Sの高低差、及び所定の計測間隔に基づいて、堆積物20の降下速度分布を推定する。
【0119】
この際、CPU72は、算出された複数の降下速度分布のうち、基準降下速度分布から外れた降下速度分布を除外し、残りの降下速度分布の平均値を降下速度分布として推定する。
【0120】
次に、ステップS18において、CPU72は、コークス層22の表面形状22S、鉄鉱石層24の表面形状24S、及び堆積物20の降下速度分布に基づいて、鉄鉱石層24及びコークス層22の層厚比分布を推定する。
【0121】
次に、ステップS20において、CPU72は、鉄鉱石層24及びコークス層22の層厚比分布が、目標層厚比分布と一致するか否かを判定する。そして、CPU72は、コークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が、目標落下位置と一致すると判定した場合は、処理を終了する。
【0122】
一方、ステップS20において、CPU72は、コークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が、目標落下位置と一致しないと判定した場合は、ステップS22へ移行する。
【0123】
ステップS22において、CPU72は、コークス層22及び鉄鉱石層24の層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように、高炉原料の装入条件を補正する。具体的には、CPU72は、旋回シュート40の傾斜角度θ、旋回シュート40の旋回数、高炉原料の装入量、及び高炉原料の装入を開始する堆積物20の表面深さLの少なくとも1つを補正する。
【0124】
なお、前述したように、旋回シュート40の傾斜角度θは、旋回シュート40の使用ノッチ(表1参照)を変更することにより補正しても良いし、使用ノッチは変更せずに、使用ノッチに対応付けられた旋回シュート40の傾斜角度θを変更することにより補正しても良い。また、高炉10がベル式の場合には、前述したように、ムーバブルアーマの傾斜角度を補正しても良い。
【0125】
(効果)
次に、第一実施形態の効果について説明する。
【0126】
本実施形態によれば、前述したように、高炉10内の堆積物20の表面形状20Sを所定の計測間隔で複数回計測し、計測された堆積物20の表面形状20Sの高低差、及び所定の計測間隔に基づいて堆積物20の降下速度分布を推定する。この際に、堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、当該降下速度分布を除外して堆積物20の降下速度分布を推定する。
【0127】
これにより、例えば、1回目の堆積物20の表面形状20Sの計測から2回目の堆積物20の表面形状20Sの計測までの間に、堆積物20の表面形状20Sが崩れ、又は堆積物20にドロップやスリップ等が発生した場合の堆積物20の表面形状20Sを除外することができる。
【0128】
したがって、高炉10内の堆積物20の降下速度分布の推定精度を高めることができる。
【0129】
また、本実施形態では、複数の堆積物20の降下速度分布の平均値に基づいて、堆積物20の降下速度分布を推定する。これにより、堆積物20の表面形状20Sの計測値のばらつきが平均化される。したがって、高炉10内の堆積物20の降下速度分布の推定精度をさらに高めることができる。
【0130】
また、堆積物20の降下速度分布の推定精度を高めることにより、鉄鉱石層24及びコークス層22の層厚比分布の推定精度も高めることができる。
【0131】
さらに、本実施形態では、所定のチャージの次回以降のチャージにおいて、所定のチャージにおいて推定した鉄鉱石層24及びコークス層22の層厚比分布が、目標層厚比分布に近づくように、高炉原料の装入条件を補正する。これにより、高炉操業を安定させることができる。
【0132】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0133】
図15に示されるように、第二実施形態に係る高炉操業制御装置80は、機能的に、降下速度分布推定部58と、吹き込み量制御部82とを備えている。
【0134】
(降下速度分布推定部)
降下速度分布推定部58は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において計測された堆積物20の表面形状、及び所定の計測間隔に基づいて、堆積物20の降下速度分布を推定する。
【0135】
本実施形態では、一例として、高炉10の4カ所(高炉10を上方から見た場合における北側、東側、南側、西側)に計測位置が設定されている。なお、計測位置の配置や数は、適宜変更可能である。また、計測位置は、少なくとも2カ所設定することができる。
【0136】
(吹き込み量制御部)
吹き込み量制御部82は、所定の計測位置で算出された堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布を外れた場合に、羽口16(
図1参照)から高炉10の所定の計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を調整する。
【0137】
具体的には、例えば、高炉10の北側の計測位置で計測された堆積物20の表面形状及び所定の計測間隔に基づいて算出された堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、当該降下速度分布が基準降下速度分布から外れないように、吹き込み量制御部82は、羽口16から高炉10の北側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を増減する。
【0138】
なお、吹き込み量制御部82は、羽口16から高炉10内に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減することができる。
【0139】
(高炉操業方法)
次に、高炉操業制御装置80の動作を説明しつつ、高炉操業方法の一例について説明する。
【0140】
高炉10の操業中に、高炉操業制御装置80において、
図16に示される高炉操業処理が定期的に実行される。なお、高炉操業処理は、高炉操業方法の一例である。また、高炉10の操業中には、高炉10の羽口16から高炉10に予め定められた吹き込み量の熱風及び保持燃料が吹き込まれている。
【0141】
図16に示されるように、先ず、ステップS30において、CPU72は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、堆積物20の降下速度分布をそれぞれ推定する。具体的には、CPU72は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、堆積物20の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測する。そして、計測された複数の堆積物20の表面形状の高低差、及び所定の計測間隔に基づいて、堆積物20の降下速度分布をそれぞれ推定する。
【0142】
この際、CPU72は、算出された複数の降下速度分布のうち、基準降下速度分布から外れた降下速度分布(例えば、高炉10の北側の計測位置で推定された降下速度分布)を除外し、残りの降下速度分布の平均値を降下速度分布として推定する。また、CPU72は、所定の計測位置において、算出された堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、当該所定の計測位置情報及び当該降下速度分布情報を含む除外情報を記憶部76の所定記憶領域に記録する。
【0143】
次に、ステップS32において、CPU72は、ステップS30において、基準降下速度分布から外れた降下速度分布の有無を判定する。具体的には、CPU72は、記憶部76の所定記憶領域に除外情報が存在するか否かを確認する。そして、CPU72は、記憶部76の所定記憶領域に除外情報が存在しないと判定した場合、処理を終了する。
【0144】
一方、CPU72は、記憶部76の所定記憶領域に除外情報が存在すると判定した場合は、ステップS34へ移行する。
【0145】
ステップS34において、CPU72は、記憶部76の所定記憶領域から除外情報(除外された計測位置情報及び降下速度分布情報)を取得する。そして、CPU72は、除外された降下速度分布が基準降下速度分布から外れないように、羽口16から高炉10の所定の計測位置側(例えば、高炉10の北側)に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を調整する。これにより、所定の計測位置において、堆積物20の降下挙動が安定する。
【0146】
(効果)
次に、第二実施形態の効果について説明する。
【0147】
本実施形態によれば、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、堆積物20の降下速度分布をそれぞれ推定する。そして、所定の計測位置において、堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、羽口16から高炉10の所定の計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を増減する。
【0148】
これにより、高炉10の所定の計測位置側において、堆積物20の降下速度分布を基準降下速度分布に近づけることができる。
【0149】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。なお、第三実施形態において、第一実施形態及び第二実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0150】
図17に示されるように、第三実施形態に係る高炉操業制御装置90は、機能的に、降下速度分布推定部58と、吹き込み量制御部92とを備えている。
【0151】
(降下速度分布推定部)
降下速度分布推定部58は、第二実施形態と同様に、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において計測された堆積物20の表面形状、及び所定の計測間隔に基づいて、堆積物20の降下速度分布を推定する。なお、堆積物20の表面形状の計測は、3次元で計測しても良い。
【0152】
(吹き込み量制御部)
吹き込み量制御部92は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置のうち、所定の計測位置で推定された堆積物20の降下速度分布が許容降下速度分布を外れた場合に、羽口16から高炉10の所定の計測位置側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を調整する。
【0153】
例えば、
図18には、一例として、高炉10の東西南北の計測位置で推定された堆積物20の降下速度分布Ve,Vw,Vs,Vn、及び許容降下速度分布VAが示されている。これらの降下速度分布Ve,Vw,Vs,Vnのうち、東側の降下速度分布Veは、許容降下速度分布VAから外れている。なお、
図18の縦軸及び横軸は、
図13の縦軸及び横軸と同じである。
【0154】
このような場合、吹き込み量制御部92は、降下速度分布Veが許容降下速度分布VAから外れないように、羽口16から高炉10の東側に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を増減する。
【0155】
なお、許容降下速度分布を満たす降下速度分布の範囲は、例えば、基準降下速度分布を満たす降下速度分布の範囲よりも狭く設定される。具体的には、許容降下速度分布から外れる降下速度分布とは、例えば、基準降下速度分布Vの0.8倍以下又は1.2倍以上の降下速度を含む降下速度分布を意味する。
【0156】
また、吹き込み量制御部92は、羽口16から高炉10内に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量の少なくとも一方を増減することができる。
【0157】
(高炉操業方法)
次に、高炉操業制御装置90の動作を説明しつつ、高炉操業方法の一例について説明する。
【0158】
高炉10の操業中に、高炉操業制御装置90において、
図19に示される高炉操業処理が定期的に実行される。なお、高炉操業処理は、高炉操業方法の一例である。また、高炉10の操業中には、高炉10の羽口16から高炉10に予め定められた吹き込み量の熱風及び保持燃料が吹き込まれている。
【0159】
図19に示されるように、先ず、ステップS40において、CPU72は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、堆積物20の降下速度分布をそれぞれ推定する。具体的には、堆積物20の表面形状を所定の計測間隔で複数回計測する。そして、計測された複数の堆積物20の表面形状の高低差、及び所定の計測間隔に基づいて、堆積物20の降下速度分布をそれぞれ推定する。
【0160】
この際、CPU72は、算出された複数の降下速度分布のうち、基準降下速度分布から外れた降下速度分布を除外し、残りの降下速度分布の平均値を降下速度分布として推定する。
【0161】
次に、ステップS42において、CPU72は、ステップS40において、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において推定された降下速度分布が、許容降下速度分布から外れた否か判定する。具体的には、CPU72は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において推定された降下速度分布と、許容降下速度分布とをそれぞれ比較する。そして、CPU72は、各降下速度分布が許容降下速度分布から外れないと判定した場合、処理を終了する。
【0162】
一方、CPU72は、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置のうち、所定の計測位置において推定された降下速度分布(例えば、
図18の降下速度分布Ve)が許容降下速度分布から外れると判定した場合、ステップS44へ移行する。
【0163】
ステップS44において、CPU72は、所定の計測位置において推定された降下速度分布(例えば、
図18の降下速度分布Ve)が、許容降下速度分布から外れないように、羽口16から高炉10の所定の計測位置側(例えば、高炉10の東側)に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を調整する。これにより、所定の計測位置において、堆積物20の降下挙動が安定する。
【0164】
(効果)
次に、第三実施形態の効果について説明する。
【0165】
本実施形態によれば、高炉周方向に間隔を空けた複数の計測位置において、堆積物20の降下速度分布をそれぞれ推定する。
【0166】
そして、所定の計測位置において、推定された堆積物20の降下速度分布が許容降下速度分布から外れた場合に、高炉10の所定の計測位置側に対して、羽口16から高炉10内に吹き込む熱風及び補助燃料の吹き込み量を増減する、
【0167】
これにより、高炉10の所定の計測位置側において、堆積物20の降下速度分布を許容降下速度分布にすることができる。
【0168】
(変形例)
次に、上記第一実施形態~第三実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上記第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、上記第二実施形態及び第三実施形態にも適宜適用可能である。
【0169】
上記第一実施形態では、算出された堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れた場合、当該降下速度分布を除外して堆積物20の降下速度分布を推定した。しかし、例えば、計測された堆積物20の表面形状20Sの変動量が閾値を超えた場合、当該表面形状20Sを除外して堆積物20の降下速度分布を推定しても良い。
【0170】
具体的には、例えば、1回目に計測した堆積物20の表面形状20Sと、2回目に計測した堆積物20の表面形状20Sとを比較する。そして、1回目の堆積物20の表面形状20Sに対する2回目の堆積物20の表面形状20Sの変動量が、閾値を越えた場合、1回目及び2回目に計測した堆積物20の表面形状20Sを除外する。
【0171】
これにより、例えば、1回目の堆積物20の表面形状20Sの計測から2回目の堆積物20の表面形状20Sの計測までの間に、堆積物20の表面形状20Sが崩れ、又は堆積物20にドロップやスリップ等が発生した場合の堆積物20の表面形状20Sを除外することができる。
【0172】
したがって、上記第一実施形態と同様に、高炉10内の堆積物20の降下速度分布の推定精度を高めることができる。
【0173】
なお、堆積物20の表面形状20Sを3回計測した場合は、前述したように、1回目に計測した堆積物20の表面形状20Sと、2回目に計測した堆積物20の表面形状20Sとを比較する。そして、1回目の堆積物20の表面形状20Sに対する2回目の堆積物20の表面形状20Sの変動量が、閾値を越えた場合、1回目及び2回目に計測した堆積物20の表面形状20Sを除外する。また、2回目に計測した堆積物20の表面形状20Sと、3回目に計測した堆積物20の表面形状20Sとを比較する。そして、2回目の堆積物20の表面形状20Sに対する3回目の堆積物20の表面形状20Sの変動量が、閾値を越えた場合、2回目及び3回目に計測した堆積物20の表面形状20Sを除外する。このように測定時刻が異なる2つの堆積物20の表面形状20Sを比較することにより、堆積物20の表面形状20Sの変動量を求めることができる。
【0174】
また、高炉10では、一般に、中心軸側よりも炉壁14側の方が堆積物20の降下速度が速くなる傾向がある。そのため、例えば、算出された堆積物20の降下速度分布において、炉壁14側よりも中心軸側の方が堆積物20の降下速度が速い場合に、当該降下速度分布を除外しても良い。
【0175】
また、上記第一実施形態では、高炉操業制御装置50によって、堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れたか否かを判定した。しかし、例えば、高炉10の管理者が、堆積物20の降下速度分布が基準降下速度分布から外れたか否かを判定しても良い。
【0176】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0177】
10 高炉
20 堆積物
20S 表面形状
22 コークス層(堆積物)
22S 表面形状(堆積物の表面形状)
24 鉄鉱石層(堆積物)
24S 表面形状(堆積物の表面形状)
50 高炉操業制御装置
72 CPU(制御部)
80 高炉操業制御装置
90 高炉操業制御装置