(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111742
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】建物及び建物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/06 20060101AFI20240809BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
E04G23/06 Z
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016421
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 尚史
(72)【発明者】
【氏名】望月 英二
(72)【発明者】
【氏名】武田 基杏
(72)【発明者】
【氏名】奥村 光寛
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB27
(57)【要約】
【課題】地下既存躯体がある場所に新規建物を低コストで構築する。
【解決手段】建物10は、既存地下躯体100と、既存地下躯体100内に充填されたコンクリートが硬化して形成されたコンクリート部150と、既存地下躯体100及びコンクリート部150の上に構築された新規建物と、コンクリート部150と新規建物50を構成する構造躯体とに埋設されて接合された引抜力処理鉄筋200と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存地下躯体と、
前記既存地下躯体内に充填されたコンクリートが硬化して形成されたコンクリート部と、
前記コンクリート部の上に構築された新規建物と、
前記コンクリート部と前記新規建物を構成する構造躯体とに埋設されて接合された引張力伝達部材と、
を備えた建物。
【請求項2】
前記既存地下躯体と前記コンクリート部との間には、鉛直方向のせん断力を伝達する伝達手段が設けられている、
請求項1に記載の建物。
【請求項3】
既存建物の既存地下躯体を地下底盤及び地下外壁を残して解体する工程と、
引張力伝達部材の上部が露出するように前記既存地下躯体内にコンクリートを充填して硬化させ、前記引張力伝達部材が埋設されたコンクリート部を構築する工程と、
前記コンクリート部の上に、前記コンクリート部から露出する前記引張力伝達部材の上部を構造躯体に埋設させて接合させ新規建物を構築する工程と、
を備えた建物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物及び建物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地下室を有する既存建物を取り壊して、既存地下室上に新たに建物を構築するときの基礎構造及びその築造方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、地下室を有する既存建物が、少なくとも地下部の地下外壁と基礎スラブを残して解体され、その基礎スラブ上に流動化処理土が打設され、その流動化処理土の上に、新規建物の基礎スラブ底面位置近傍まで土砂が埋め戻されることにより、地下外壁で囲まれた内部に新規地盤が造成され、ソイルセメントコラムがその新規地盤に浅くとも流動化処理土に到達するように造成されている。
【0003】
特許文献2には、既存躯体の上に新設建物の基礎を構築する方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、既存地下躯体上に新設建物の基礎を構築する方法は、地下1階床スラブに、流動化処理土を投入するための投入口および空気抜き孔を形成するステップと、投入口を通して地下2階床スラブと地下1階床スラブとの間に流動化処理土を複数回に分けて投入し、地下2階床スラブと地下1階床スラブとの間の内部空間に流動化処理土を充填するステップと、地下1階床スラブの上に型枠材を建て込んで、型枠材の内側にコンクリートを打設することで、新設建物の基礎を構築するステップと、を備える。
【0004】
特許文献3には、既存のRC造(鉄筋コンクリート造)建物の耐震補強に際して、既存躯体の表面に耐震要素としての新設躯体をせん断力伝達可能に打ち継ぐための構造および方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、あと施工アンカーを緩挿可能な寸法のアンカー孔と、多数のコッター孔を形成した補強鋼板を既存躯体の表面に接着し、アンカー孔を通して既存躯体に対してあと施工アンカーを打ち込んだうえで既存躯体の表面にコンクリートを打設して新設躯体を形成することにより、コンクリートをアンカー孔およびコッター孔内に充填せしめて既存躯体と新設躯体との間にシアコッターを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-147782号公報
【特許文献2】特開2022-142687号公報
【特許文献3】特開2012-112095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地下既存躯体がある場所に新規建物を構築する場合、既存地下躯体を解体して基礎杭を打つと建築コストが高くなる。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、既存地下躯体がある場所に新規建物を低コストで構築することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、既存地下躯体と、前記既存地下躯体内に充填されたコンクリートが硬化して形成されたコンクリート部と、前記コンクリート部の上に構築された新規建物と、前記コンクリート部と前記新規建物を構成する構造躯体とに埋設されて接合された引張力伝達部材と、を備えた建物である。
【0009】
第一態様の建物では、既存地下躯体に充填されたコンクリートが硬化して形成されたコンクリート部と新規建物の構造躯体とに引張力伝達部材が埋設されて接合されている。よって、地震時にコンクリート部が新規建物のカウンターウェイトとして作用し、新規建物の転倒が防止される。したがって、新規建物の転倒防止のための杭基礎等を構築する必要がない、また、既存地下躯体の解体コストが低減する。これらにより、新規建物の建築コストが低減する。
【0010】
第二態様は、前記既存地下躯体と前記コンクリート部との間には、鉛直方向のせん断力を伝達する伝達手段が設けられている、第一態様に記載の建物である。
【0011】
第二態様の建物では、伝達手段によってコンクリート部から既存地下躯体に鉛直方向のせん断力が伝達される。よって、コンクリート部に加え既存地下躯体も新規建物のカウンターウェイトとして作用するので、より大きな地震に対して新規建物の転倒を防止できる。
【0012】
第三態様は、既存建物の既存地下躯体を地下底盤及び地下外壁を残して解体する工程と、引張力伝達部材の上部が露出するように前記地下躯体内にコンクリートを充填して硬化させ、前記引張力伝達部材が埋設されたコンクリート部を構築する工程と、前記コンクリート部の上に前記コンクリート部から露出する前記引張力伝達部材の上部を構造躯体に埋設させて接合させ新規建物を構築する工程と、を備えた建物の構築方法である。
【0013】
第三態様の建物の構築方法では、既存地下躯体に充填されたコンクリートが硬化して形成されたコンクリート部と新規建物の構造躯体とに引張力伝達部材が埋設されて接合されている。よって、地震時にコンクリート部が新規建物のカウンターウェイトとして作用し、新規建物の転倒が防止される。したがって、新規建物の転倒が防止のための杭基礎等を構築する必要がない。また、既存地下躯体の解体コストが低減する。これらにより、新規建物の建築コストが低減する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地下既存躯体がある場所に新規建物を低コストで構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の建物の鉛直断面を模式的に図示した鉛直断面図である。
【
図2】実施形態の建物の地下部分の水平断面を模式的に図示した水平断面図である。
【
図3】建物の構築工程を(A)~(C)へと順番に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
本発明の一実施形態の建物及び建物の構築方法について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として、矢印Zで示す。
【0017】
[建物]
まず、建物の構造について説明する。
【0018】
図1に示すように、建物10は、既存地下躯体100とコンクリート部150と新規建物50と引張力伝達部材の一例としての引抜力処理鉄筋200と、を有して構成されている。なお、本実施形態の既存地下躯体100及び新規建物50は、鉄筋コンクリート造であるが、これに限定されるもではない。なお、本実施形態の新規建物50は、塔状比が大きく、例えば、5以上であるが、これに限定されるものではない。
【0019】
既存地下躯体100は、地盤Gに埋設されている。既存地下躯体100は、この場所に構築されていた図示されていない既存建物の地下部分を構成する地下躯体の一部を解体して残されたものである。本実施形態の既存地下躯体100は、地下底盤110と地下外壁120とを有して構成され、上部が開口した箱形状となっている。
【0020】
図1及び
図2に示すように、コンクリート部150は、箱形状の既存地下躯体100に充填されたコンクリートが硬化して形成されている。
【0021】
図1に示すように、新規建物50は、既存地下躯体100及びコンクリート部150の上に構築されている。新規建物50の底部は、基礎スラブ60で構成されている。なお、基礎スラブ60は、スラブ52、外壁54及び図示されていない柱等と同じく構造躯体を構成する構造部材である。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、平面視における新規建物50の外形は、既存地下躯体100の外形よりも若干小さいが、これに限定されるものではない。なお、
図2の符号51については後述する。
【0023】
図1に示すように、引抜力処理鉄筋200は、コンクリート部150と新規建物50の基礎スラブ60とに跨って埋設され接合されている。本実施形態の引抜力処理鉄筋200は、上側鉄筋210と下側鉄筋212とが機械式継手214で接続されて構成されている。
【0024】
引抜力処理鉄筋200の上側鉄筋210の上端部は、U字状に曲げられたフック部211が形成されている。引抜力処理鉄筋200の下側鉄筋212の下端部212Aには、円板状の定着板216が設けられている。
【0025】
なお、引抜力処理鉄筋200におけるコンクリート部150に埋設されている部位を鉄筋下部202とし、コンクリート部150から突出し基礎スラブ60に埋設されている部位を鉄筋上部204とする。また、引抜力処理鉄筋200の形状は一例であって、これに限定されるもではない。
【0026】
既存地下躯体100の地下外壁120の内壁面122には、複数の凹部124が形成されている。コンクリート部150の側壁面152には、この凹部124にコンクリートが充填されて硬化することで形成された凸部154が設けられている。別の観点から説明すると、コンクリート部150の側壁面152から突出する凸部154が、既存地下躯体100の地下外壁120の内壁面122の凹部124に嵌合している。そして、これら凹部124及び凸部154は、シアコッターであり、鉛直方向のせん断力を伝達する伝達手段の一例である。なお、凹部124は、地下外壁120を貫通して孔になっていてもよい。
【0027】
[建物の構築方法]
次に、建物の構築方法の一例について説明する。
【0028】
図3(A)に示すように、図示されていない既存建物の上部構造物を解体したのち地下躯体を地下底盤110及び地下外壁120を残して解体し、既存地下躯体100とする。また、既存地下躯体100の地下外壁120の内壁面122に凹部124を形成する。
【0029】
図3(B)に示すように、既存地下躯体100内に引抜力処理鉄筋200の鉄筋上部204が露出するようにコンクリートを充填して硬化させ引抜力処理鉄筋200の鉄筋下部202が埋設されたコンクリート部150を構築する。なお、引抜力処理鉄筋200は、既存地下躯体100に設けた仮設鋼材等で支持した状態で、コンクリートを充填すればよい。仮設鋼材等は、引抜力処理鉄筋200と共にコンクリート部150に埋設される。
【0030】
図3(C)に示すように、コンクリート部150から露出する引抜力処理鉄筋200の鉄筋上部204を基礎スラブ60に埋設させて接合し、新規建物50を構築する。
【0031】
[作用]
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0032】
建物10、既存地下躯体100に充填されたコンクリートが硬化して形成されたコンクリート部150と新規建物50の基礎スラブ60とに引抜力処理鉄筋200が埋設されて接合されている。よって、地震時にコンクリート部150が新規建物50のカウンターウェイトとして作用し、新規建物50の転倒が防止される。したがって、新規建物50の転倒防止のための杭基礎等を構築する必要がない、また、既存地下躯体100の解体コストが低減する。これらにより、新規建物50の建築コストが低減する。
【0033】
シアコッターである凹部124及び凸部154によって、コンクリート部150から既存地下躯体100に鉛直方向のせん断力が伝達される。よって、コンクリート部150に加え既存地下躯体100も新規建物50のカウンターウェイトとして作用するので、より大きな地震に対して新規建物の転倒を防止できる。
【0034】
なお、既存地下躯体100の地下外壁120と地盤Gとの間の摩擦抵抗によっても新規建物50の転倒が防止される。
【0035】
本実施形態の新規建物50は塔状比が大きく転倒しやすいので、本発明を適用することが好適である。
【0036】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0037】
例えば、上記実施形態では、引張力伝達部材として引抜力処理鉄筋200が、コンクリート部150と新規建物50の基礎スラブ60とに埋設されて接合されていたが、これに限定されるもではない。引抜力処理鉄筋200以外の引張力伝達部材であってもよい。引張力伝達部材としては、鉄筋、鉄骨、PC鋼線及びPC鋼棒等を用いることができる。
【0038】
例えば、上記実施形態では、伝達手段としてシアコッターである凹部124及び凸部154が設けられていたが、これに限定されるもではない。例えば、ダボ鉄筋又はスタッド等を地下外壁120から突出させてコンクリート部150に埋設させてもよい。なお、ダボ鉄筋又はスタッド等は、地下外壁120にあと施工アンカーを打ち込むことで設けることができる。また、シアコッター、ダボ鉄筋及びスタッドなどの伝達手段が設けられていなくてもよい。
【0039】
また、例えば、上記実施形態では、新規建物50は、既存地下躯体100とコンクリート部150との上に構築されていたが、これに限定されるもではない。例えば、新規建物50は、コンクリート部150の上にのみ構築されていてもよい。また、例えば、平面視において、新規建物の外形が既存地下躯体100の外形よりも外側にあってもよい。また、例えば、
図2に示す新規建物51の外形形状のように、Y方向の長さが既存地下躯体100の半分程度であってもよい。
【0040】
また、コンクリート部150内には、コンクリートよりも密度(単位体積あたりの質量)が大きい鋼板等の錘を埋設させてもよい。また、
図2のような外形形状がY方向の長さが既存地下躯体100の半分程度の新規建物51の場合、平面視において、コンクリート部150における上部に新規建物51が構築されていない領域にのみ錘を入れてもよい。
【0041】
また、例えば、上記実施形態では、既存地下躯体100は、地下底盤110と地下外壁120とで構成されていたが、これに限定されるもではない。既存地下躯体は、地下底盤及び地下外壁以外の地下躯体、例えば柱、壁、梁及びスラブ等が残っていてもよいし、地下躯体以外の部材が残っていてもよい。なお、スラブが残っている場合は、コンクリートが通過する貫通孔をスラブに形成する。また、既存建物のガラやカウンターウェイト用の重量物などをコンクリート部150に埋設させてもよい。
【0042】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0043】
10 建物
50 新規建物
60 基礎スラブ
100 既存地下躯体
110 地下底盤
120 地下外壁
124 凹部
150 コンクリート部
154 凸部
200 引抜力処理鉄筋
202 鉄筋下部
204 鉄筋上部
G 地盤