(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111745
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】レール損傷の検知装置及びレール損傷の検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/11 20060101AFI20240809BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20240809BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20240809BHJP
B61L 1/18 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G01N29/11
G01N29/48
G01M17/08
B61L1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016427
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 充
(72)【発明者】
【氏名】小納谷 優希
【テーマコード(参考)】
2G047
5H161
【Fターム(参考)】
2G047AA07
2G047AC09
2G047BA01
2G047BC03
2G047BC07
2G047GF08
2G047GF11
2G047GG20
2G047GG28
2G047GG33
5H161AA01
5H161BB20
5H161CC20
5H161DD21
5H161FF01
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】横裂などのレール損傷を効率よく車両側から検知させることが可能となるレール損傷の検知装置及びレール損傷の検知方法を提供する。
【解決手段】レール損傷を車両側から検知させるレール損傷の検知装置である。
そして、車両1側に取り付けられる送信プローブ31と、送信プローブからレール2の長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる受信プローブ32と、受信プローブによって測定されたガイド波の受信データを記録する記憶部と、記憶部に記録された受信データの中から、レール損傷の検知に適するように設定された周波数及び波数のデータを抽出するデータ抽出部と、データ抽出部によって抽出されたデータの受信強度に基づいてレール損傷の有無を判定する損傷判定部とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール損傷を車両側から検知させるレール損傷の検知装置であって、
車両側に取り付けられる超音波送信プローブと、
前記超音波送信プローブからレールの長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる超音波受信プローブと、
前記超音波受信プローブによって測定されたガイド波の受信データを記録する記憶部と、
前記記憶部に記録された前記受信データの中から、レール損傷の検知に適するように設定された周波数及び波数のデータを抽出するデータ抽出部と、
前記データ抽出部によって抽出されたデータの受信強度に基づいてレール損傷の有無を判定する損傷判定部とを備えたことを特徴とするレール損傷の検知装置。
【請求項2】
前記データ抽出部で抽出するデータは、周波数が200kHz以下で設定され、バースト波の波数が3波から10波であることを特徴とする請求項1に記載のレール損傷の検知装置。
【請求項3】
前記損傷判定部では、受信強度が第1閾値以下であった場合に、検査箇所に損傷又は継目があると評価するとともに、受信強度が第2閾値以下であった場合は継目であると評価することを特徴とする請求項1又は2に記載のレール損傷の検知装置。
【請求項4】
前記損傷判定部では、検知対象レールにおける水平裂の位置情報を利用することを特徴とする請求項1又は2に記載のレール損傷の検知装置。
【請求項5】
レール損傷を車両側から検知させるレール損傷の検知方法であって、
超音波送信プローブ及びそこからレールの長手方向に所定の距離を離した位置に配置される超音波受信プローブが車両側に取り付けられた状態で、検知対象レールに沿って走行させて、レール損傷の検知に適するように設定された周波数のガイド波の受信データを取得するステップと、
前記受信データの中から、バースト波の設定された波数のデータを抽出するステップと、
抽出されたデータの受信強度に基づいてレール損傷の有無を判定するステップとを備えたことを特徴とするレール損傷の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール損傷を車両側から検知させるレール損傷の検知装置及びレール損傷の検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道におけるレール破断は、繰り返しの車両走行によってレールが損傷することで発生し、車両の走行安全性を著しく低下させる。そのため、特許文献1などに開示されているように、鉄道事業者は軌道回路と呼ばれる車両の位置検知を目的としたレールに流している信号電流を使うなどして、レール破断を検知している。
【0003】
また、特許文献2に開示されているように、非接触空中超音波により、レール長手方向に送信する超音波(ガイド波)でレール破断を検出するレール破断検出装置が知られている。このレール破断検出装置では、レールが長手方向に不連続となるレール破断を検出することができる。
【0004】
一方、レール破断を防ぐために、定期的な検査が実施され、レール破断を引き起こすき裂の存在の把握が行われている。例えば、レール頭部に発生するき裂を検知するために、検査車両でレール頭頂面から超音波を入力して検査する探傷が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/175439号公報
【特許文献2】特許第7104667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レール頭頂面から超音波を入力する探傷方法では、頭頂面近傍の水平方向に進展したき裂(水平裂:
図3参照)で超音波の伝搬が妨げられるため、レール折損を引き起こすような鉛直方向に進展したき裂(横裂:
図3参照)を検知することができない。そこで、現状では、レールの頭側部からの手探傷によって、横裂の深さを把握することが行われているが、多大な労力を要している。また、摩耗レールや踏切のレールなど、頭側部に適切にプローブが当てられない条件下では、検査が困難になっている。
【0007】
そこで、本発明は、横裂などのレール損傷を効率よく車両側から検知させることが可能となるレール損傷の検知装置及びレール損傷の検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のレール損傷の検知装置は、レール損傷を車両側から検知させるレール損傷の検知装置であって、車両側に取り付けられる超音波送信プローブと、前記超音波送信プローブからレールの長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる超音波受信プローブと、前記超音波受信プローブによって測定されたガイド波の受信データを記録する記憶部と、前記記憶部に記録された前記受信データの中から、レール損傷の検知に適するように設定された周波数及び波数のデータを抽出するデータ抽出部と、前記データ抽出部によって抽出されたデータの受信強度に基づいてレール損傷の有無を判定する損傷判定部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記データ抽出部で抽出するデータは、周波数が200kHz以下で設定され、バースト波の波数が3波から10波であることが好ましい。また、前記損傷判定部では、受信強度が第1閾値以下であった場合に、検査箇所に損傷又は継目があると評価するとともに、受信強度が第2閾値以下であった場合は継目であると評価する構成とすることができる。さらに、前記損傷判定部では、検知対象レールにおける水平裂の位置情報を利用することができる。
【0010】
また、レール損傷の検知方法の発明は、レール損傷を車両側から検知させるレール損傷の検知方法であって、超音波送信プローブ及びそこからレールの長手方向に所定の距離を離した位置に配置される超音波受信プローブが車両側に取り付けられた状態で、検知対象レールに沿って走行させて、レール損傷の検知に適するように設定された周波数のガイド波の受信データを取得するステップと、前記受信データの中から、バースト波の設定された波数のデータを抽出するステップと、抽出されたデータの受信強度に基づいてレール損傷の有無を判定するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明のレール損傷の検知装置は、レール損傷を検知させるためのセンサとなる超音波送信プローブ及び超音波受信プローブが車両側に取り付けられる。また、測定されたガイド波の中から、レール損傷の検知に適するように設定された周波数及び波数のデータを抽出するデータ抽出部を備えている。そして、データ抽出部によって抽出されたデータの受信強度に基づいて、損傷判定部においてレール損傷の有無を判定する。
【0012】
このような構成であれば、地上側に何の設備を設けなくても、車両の取り付けやすい位置に超音波送信プローブ及び超音波受信プローブを設置することで、横裂などのレール損傷を効率よく車両側から検知させることができる。
【0013】
また、レール損傷の検知方法の発明は、超音波送信プローブ及び超音波受信プローブを備えた車両をレールに沿って走行させることで、レール損傷の検知に適するように設定された周波数の受信データを取得する。
【0014】
そして、バースト波の設定された波数のデータの受信強度に基づいて、レール損傷の有無を判定する。すなわち、地上側に何の設備を設けなくても、車両に取り付けられた超音波送信プローブ及び超音波受信プローブによる受信データから、レール損傷を効率的に検知させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態のレール損傷の検知装置の構成を模式的に示した説明図である。
【
図2】本実施の形態のレール損傷の検知装置の構成を説明するブロック図である。
【
図3】き裂が生じたレールの状態を模式的に示した説明図である。
【
図4】レールの頭頂面からのスリット深さとガイド波の周波数と受信強度との関係を示した説明図である。
【
図5】バースト波のゲート設定を例示した説明図である。
【
図6】受信データを時刻歴波形に変換する方法を例示した説明図である。
【
図7】受信データとなるガイド波の受信強度を例示した説明図である。
【
図8】判定のための受信強度の閾値を例示した説明図である。
【
図9】本実施の形態のレール損傷の検知方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図10】受信データを受信強度だけで判定した際に誤検知が起きる例を説明する図であって、(a)は受信データの受信強度を例示した説明図、(b)は誤検知箇所を例示した説明図である。
【
図11】標準偏差を使った判定手法を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態のレール損傷の検知装置の構成を模式的に説明するための図である。
【0017】
軌道を構成するレール2は、レール2に沿って走行する車両1の車輪12との接触が繰り返されることで頭頂面にシェリングと呼ばれるき裂ができ、
図3に示すような水平裂や横裂などのき裂に進展することがある。ここで、頭頂面のシェリングから水平方向に進展したき裂を「水平裂」といい、シェリングから鉛直方向に進展したき裂を「横裂」という。
【0018】
本実施の形態のレール損傷の検知装置が設けられる車両1は、保守用の検査車両であっても、列車などを構成する一般的な鉄道車両であってもよい。以下では、直方体状の箱型の車体に前後方向に間隔を置いて台車11が配置される車両1に、検知装置が設けられる例について説明する。
【0019】
台車11は、平面視長方形状の台車枠111を備え、一対のレール2のそれぞれを走行する車輪12が車軸によって連結されている。また、1台の台車11には、前後方向に2組の車輪12及び車軸の組み合わせ(輪軸)が設けられる。さらに、車軸の端部には、軸箱及び軸箱支持装置が設けられる。
【0020】
このように構成された車両1には、レール2を伝搬するガイド波を送受信させるためのセンサとなる一対の非接触式の超音波プローブが取り付けられる。一対の超音波プローブは、超音波送信プローブとなる送信プローブ31と、超音波受信プローブとなる受信プローブ32である。送信プローブ31と受信プローブ32は、レール2の長手方向に所定の距離だけ離れた位置となる車両1の台車11や車体などに取り付けられる。
【0021】
送信プローブ31が送信した超音波を受信プローブ32によって受信させる過程に存在する検査対象物の物性や状態は、受信プローブ32の受信状況によって評価することができる。
【0022】
図1には、レール2の超音波(ガイド波)の伝搬状況を模式的に示している。すなわち、車両1の台車枠111に取り付けられた送信プローブ31から送信された超音波は、空中を伝搬してレール2に入り、レール2を伝搬した後に再び空中を伝搬して、台車枠111に取り付けられた受信プローブ32によって受信される。
【0023】
そして、
図1に示したように、レール2に横裂などのき裂があると、送信プローブ31から送信された超音波は、空中を伝搬してレール2に入るが、レール2内での伝搬(ガイド波)は、損傷のないレール2を伝搬したときとは異なる強度となって受信プローブ32によって受信されることになる。
【0024】
要するに、レール2に継目や、
図3に示したようなき裂(水平裂、横裂)や、レール破断などがあると、受信プローブ32で受信される超音波の受信強度が変化することになる。超音波は、送受信の強弱で利得が変化するが、レール頭部にき裂が発生することでも、超音波の伝搬が健全箇所と比較して変化することになる。そこで、この変化を捉えてレール頭部の横裂を検知する。
【0025】
本実施の形態のレール損傷の検知装置は、
図2に示すように、車両側に取り付けられる送信プローブ31と、送信プローブ31からレール2の長手方向に所定の距離だけ離れた位置の車両側に取り付けられる受信プローブ32と、受信プローブ32によって測定された受信データを記録する記憶部6と、計測や制御や演算処理を行うためのパルサ・レシーバ4、PC部5及びデータ処理装置42などとによって構成される。
【0026】
PC部5は、パーソナルコンピュータなどの演算処理装置である。このPC部5は、車両1に搭載されていてもよいし、車両1とは別の管理棟などに設置されていてもよい。また、記憶部6は、PC部5に組み込まれたり接続されたりするハードディスクなどであってもよいし、PC部5に挿し込まれるフラッシュメモリ等の記憶媒体などであってもよいし、クラウドサーバを利用するものであってもよい。
【0027】
PC部5によって制御されるパルサ・レシーバ4は、矩形パルス、矩形バースト、矩形チャープなどの各種タイプのパルスを任意に設定された周波数で生成して、送信プローブ31から出力させることができる。また、パルサ・レシーバ4では、受信プローブ32で受信されて外部プリアンプ41で増幅された電気信号(利得)を受け取って、フィルタリング処理をして超音波の受信データとしてPC部5に送信する。
【0028】
一方、データ処理装置42は、受信データの画像処理や周波数解析(高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)等)などをおこなうためのデジタイザである。データ処理装置42によって画像処理などがされた超音波の受信データは、PC部5のモニタなどによって視認することができる。
【0029】
そして、PC部5には、記憶部6に記録された受信データの中から、レール損傷の検知に適するように設定された周波数及び波数のデータを抽出するデータ抽出部と、データ抽出部によって抽出されたデータの受信強度に基づいてレール損傷の有無を判定する損傷判定部とが設けられる。
【0030】
本実施の形態のレール損傷の検知装置では、一定の距離を設けた送受信プローブ(31,32)間で、繰り返し同じ周期で送受信される超音波(バースト波)の受信波の強度を分析する。この際、横裂に対して感度の良い周波数や時間領域(波数)を設定することで、横裂の深さに対応したデータの抽出を行う。
【0031】
図4は、レール2の頭頂面からのスリット深さとガイド波の周波数と受信強度との関係を示した説明図である(参考文献:小納谷外2名、「横裂を模擬したスリットを有するレールに対する超音波伝播シミュレーション」、土木学会全国大会 第77回年次学術講演会、2022年9月)。
【0032】
横裂を検知させるためには、横裂が発生するレール2の頭頂面からの深さ(Xmm)が10mmから40mm程度の感度がよくなる超音波の周波数帯域に設定する必要がある。
図4を見ると、周波数が100kHzの場合は、頭頂面からのスリット部の深さが30mmから40mm付近になると受信強度が急減少している。また、150kHzや200kHzの周波数では、頭頂面からの深さ10mm付近を境界として、それ以下にスリット部が深くなると、急激(50%程度まで)に受信強度が減少することが分かる。
【0033】
そこで、実務上、検知する必要のある頭頂面からの深さ10mmより深い位置まで進展した横裂の検知に適する超音波の周波数として、200kHz以下の周波数帯に着目する。すなわち、頭頂面からの深さが10mmから40mm程度までに発生するレール損傷である横裂の検知に適するように、100kHzから200kHz、好ましくは100kHzから150kHzの範囲で超音波の周波数を設定する。
【0034】
続いて、レール損傷である横裂の検知に適するように設定されるバースト波の波数について説明する。送信プローブ31から送信される超音波は、バースト波、すなわち群波が繰り返し送信される。バースト波は、定められた時間だけ持続する単一周波数の波形信号であって、単一周波数は、上述したように200kHz以下で設定される。
【0035】
そして、バースト波の波数については、受信する群波の応答が明確となる3波から10波程度、好ましくは3波から6波に設定する。例えば波数が1波では、応答が見えない可能性がある。このため複数の波数のバースト波を送信することになる。
【0036】
送信プローブ31から入力されたバースト波は、設定した波数からレール2を伝搬中にモード変換などを起こし、一見、波数が増加したようにみえる。その一方で、横裂のサイズに応じて感度良く応答するのは、設定した波数程度の応答になるため、その波数程度でゲートを設定することにする。
【0037】
図5は、バースト波のゲート設定を説明する図である。
図5には、レール2に損傷がないケース(損傷無し)、レール2に水平裂だけが発生しているケース(水平裂)、並びに水平裂及びレール2の頭頂面から20mmの深さに横裂が発生しているケース(水平裂&横裂深さ20mm)の3つのケースでバースト波の強度を測定した。
【0038】
図5を見ると分かるように、いずれのケースについても、波数が多くなりすぎると、レール2を伝搬中に起こしたモード変換などによって、各ケースの区別がつかなくなる。そこで、例えば波数が3波となるところにゲートを設定し、設定された波数(この例では3波)までの受信強度を、受信データとして抽出する。
【0039】
図6は、受信データを時刻歴波形に変換する方法を例示した説明図である。パルサ・レシーバ4からは、200kHz以下で設定された周波数で繰り返しパルスが出力される(パルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency))。そこで、PRF周期の受信データを、時刻歴波形に変換する。
【0040】
例えば、レール2を長手方向に等分して、検査時の車両1の走行速度に基づいて測定周期(t1,t2,t3)を設定する。そして、各測定周期(t1,t2,t3)において、PRF周期ごとにゲート間の最大値(ピーク強度)又は平均値を出力する。
【0041】
このようにして求められた受信強度のピーク強度や平均処理の結果などから、各測定周期(t1,t2,t3)の状態を判定することになる。例えば、時刻歴データの受信強度が1に近いなど高ければ、その検査区間のレール2は健全部であると判定され、0に近いなど低ければ、その検査区間のレール2は開口部があると判定されることになる。
【0042】
ところで本実施の形態のレール損傷の検知装置は、健全部と継目などの開口部とが判別できるだけでなく、開口部に至らないような横裂などの損傷箇所の有無を判定することができる。
【0043】
図7は、受信データとなるガイド波の受信強度を例示した説明図である。この図に示すように、本実施の形態のレール損傷の検知装置によれば、健全部や継目だけでなく、損傷箇所の存在も把握することができるようになる。
【0044】
図7を見ると分かるように、継目においても、損傷箇所においても、受信強度は他の健全部よりも低い値となっている。一方において、継目の受信強度は、損傷箇所の受信強度よりさらに低い値となるため、受信強度に対する複数の閾値を使って、2つの状態を切り分ける。
【0045】
図8は、受信強度の判定のための閾値を例示した説明図である。この図には、レール2の4つの検査区間の状態と、それぞれの検査区間で測定された受信強度との関係を示している。ここで、損傷がない検査区間を「損傷無し」、水平裂だけが発生している検査区間を「水平裂」、水平裂及び頭頂面から20mmの深さに横裂が発生している検査区間を「水平裂&横裂20mm」、水平裂及び頭頂面から30mmの深さに横裂が発生している検査区間を「水平裂&横裂30mm」とした。
【0046】
まず、検査区間が健全部などの「損傷無し」である場合と横裂又は継目がある場合とを切り分けるために、第1閾値を設定する。例えば、第1閾値を0.5に設定すれば、それを上回る受信強度が測定された検査区間については、損傷のない健全部又は水平裂のみと判定することができる。なお、水平裂を含めた損傷又は継目のある場合と健全部とを切り分けたい場合は、第1閾値を0.6程度に設定すればよいことになる。
【0047】
さらに、検査区間が「水平裂&横裂20mm」又は「水平裂&横裂30mm」などの横裂がある場合と、継目などの開口部である場合とを切り分けるために、第2閾値を設定する。例えば、第2閾値を0.2に設定すれば、受信強度が第1閾値以下ではあるが第2閾値を上回る検査区間については、横裂が発生していると判定することができるようになる。
【0048】
次に、本実施の形態のレール損傷の検知方法について、
図9に示したフローチャートを参照しながら説明する。
まず上述したように、検知センサとなる送信プローブ31及び受信プローブ32を、車両1の台車11の前後などに取り付ける。台車11の前後に送信プローブ31と受信プローブ32とを取り付けた場合、プローブ間距離は、3.2m程度となる。
【0049】
ステップS1では、送信プローブ31及び受信プローブ32で送受信させる超音波(バースト波)の周波数及び波数の初期設定を行う。例えば、バースト波の周波数は200kHz以下で設定し、バースト波の波数は3波から10波の範囲で設定する。
【0050】
ステップS2では、データ抽出部によって受信データの中から抽出させる超音波波形のゲート設定を行う。例えば、3波をゲートとして設定すると、バースト波の3波までの受信データが、データ抽出部によって抽出されることになる。要するに、PRF周期ごとに、設定されたゲート内の受信データが抽出されることになる(
図6参照)。
【0051】
一方、ステップS3では、時刻歴波の感度調整が行われる。基本的には、検査を行う前に、検知対象レールの標準とするレールに対して、受信強度が80%程度となる利得を把握しておく。
【0052】
ここで、本実施の形態のレール損傷の検知装置を使用して検査を行う際には、従来から利用されている探傷による水平裂探傷の結果と併用することが多いことが想定される。また、水平裂が存在する場合、レールの頭頂面の表面がき裂の影響で落ち込み、外観上、黒ずんでくるなど目視でも確認することができることがある。
【0053】
そこで、目視も含み、水平裂の存在を認識できる傷の位置情報の有無によって、検知方法の一部を変更する。まず、検知対象レールにおいて、水平裂の位置情報がある場合(ステップS41)は、水平裂の位置情報を利用して得られた基準を用いて、検査箇所の受信強度との比較を行う(ステップS411)。
【0054】
例えば、水平裂がある検査箇所を送受信プローブ(31,32)で挟む前に、その手前のレール位置で、感度調整を行う。すなわち、水平裂の手前のレール位置を健全部として捉え、受信強度が80%程度となる利得を基準値として取得しておく。そして、その基準値と検査箇所の受信強度データとの比較を行う。
【0055】
一方、水平裂手前での感度調整を行わない場合は、水平裂の手前の数mの損傷のないレールから得られる受信強度を基準として、水平裂がある検査箇所で取得される受信強度のデータとの相対的な比較を行う。そして、その比較結果に基づいて、検査箇所の受信強度データの評価を行う。
【0056】
続いてステップS42以降では、水平裂の位置情報が無い場合について説明する。連続的に検査したレールのピーク強度は、レールの個体差や走行面の錆等の影響で、き裂などの傷が無くても利得の受信強度の変化は発生する。
【0057】
そこで、最初に設定した標準とするレールの受信強度80%となる利得を基準として、検知対象レールで強度に変化がある場合には、受信強度が80%程度となるように補正(ゲイン向上)を行う。
【0058】
水平裂などき裂がある場合の評価は、プローブ間隔内(3.2m)にき裂が存在する際の変化であり、補正は、き裂発生箇所におけるプローブ間隔以上の充分に大きな範囲で実施するものとする。例えば、継目は25m間隔で存在することが一般的(
図7参照)であるため、継目箇所を除いた区間の平均値(もしくは最大値等)によって、その補正する利得の増分を設定して、相対的な比較を行うこととする(ステップS421)。
【0059】
以上のような設定を行った後に、検知対象レールとなるレール2に沿って車両1を走行させ、設定された周波数で繰り返しバースト波を送信プローブ31から送信し、レール2を伝搬して受信プローブ32で受信された測定データを受信データとして取得する。
【0060】
受信プローブ32で受信された電気信号(利得)は、外部プリアンプ41で増幅されてパルサ・レシーバ4に送られ、そこからPC部5に送信され、受信データとして距離程などの位置情報に換算できる情報とともに記憶部6に記録される。例えば一定速度で車両1を走行させる場合は、受信データに測定時刻を紐付けておくことで、位置データに変換することができる。また、GPS(Global Positioning System)に基づく位置データを、測定された受信データに紐付けることもできる。
【0061】
そして、こうして得られた検知対象レールの各検査箇所の受信データを分析することで、レール損傷を検知させる。この検知は、プローブ間隔内に横裂などのき裂が存在する場合に応答するものなので、検査箇所は、プローブ間の平均値で評価するものとする。
【0062】
まずステップS5では、第1閾値を使って、横裂判定のための最初の評価を行う。
図8を参照しながら上述したように、横裂の存在及び深さは、超音波の受信強度と関係する。そこで横裂を抽出するために、まず第1閾値との比較を行う。第1閾値は、受信強度の2つの閾値うちの上限値である。
【0063】
例えば、横裂が発生している場合を切り分けるために、受信強度0.5を第1閾値として検査箇所の受信強度を評価する。ここで、検査箇所の受信強度が第1閾値を上回った場合(ステップS51)は、検査箇所は損傷がない健全部であると判定する(ステップS511)。
【0064】
これに対して、検査箇所の受信強度が第1閾値以下であった場合は、横裂が存在する可能性があることになる(ステップS52)。しかしながら、継目などの開口部も、不連続な箇所なので、著しく受信強度が低下することになる。
【0065】
そこでステップS6では、横裂と継目とを切り分けるために、例えば受信強度0.2を第2閾値(下限値)に設定して、検査箇所の受信強度を評価する。そして、検査箇所の受信強度が第2閾値を上回った場合(ステップS61)は、検査箇所に横裂があると判定する(ステップS611)。他方、検査箇所の受信強度が第2閾値以下であった場合(ステップS62)は、横裂ではなく継目であると判定する(ステップS621)。
【0066】
ここまでは、受信強度の上限値と下限値となる2つの閾値を使った横裂の判定手法について説明したが、別の判定手法を併せて、あるいは単独で使用することもできる。
レール2を伝搬させる超音波の受信強度は、レール2の頭頂面の錆などの影響で変動するので、受信強度そのものを判定する手法では、損傷がないのに閾値で設定された基準には当てはまってしまう場合もある。
【0067】
例えば
図10は、受信強度を閾値だけで判定した際に誤検知が起きる例を説明する図であって、
図10(a)には、受信強度のピーク値による時刻歴波形をそのまま示している。一方、
図10(b)は、
図10(a)の受信強度のデータから継目におけるデータを除去した処理後の時刻歴波形を示している。
【0068】
図10(b)には、継目除去後の受信強度が低下している箇所が、複数、示されており、1つは損傷箇所として正しく検知されている。しかしながら、「誤検知」として囲った箇所は、実際には横裂などのき裂がなく、誤検知されたものである。
【0069】
このように受信強度自体を2つの閾値で切り分けるだけでは誤検知が生じる場合は、標準偏差による判定を加えることで、より判定精度を向上させることができるようになる。
図11は、標準偏差を使った判定手法を例示した説明図である。
【0070】
き裂が存在する場合の受信強度の変動は、プローブ間隔のみにおける応答であり、レール2の頭頂面の錆などの影響による変動よりも、距離に対する変動が局所的となるので、受信データの標準偏差を算出して、それを使った判定を行うようにする。
【0071】
図11は、
図10(b)の標準偏差による時刻歴波形を示しているが、例えば0.2程度の標準偏差の閾値を設定しておくことで、
図10(b)で損傷箇所として判定された同じ検査箇所だけが、正しく検知される結果となった。
【0072】
次に、本実施の形態のレール損傷の検知装置及びレール損傷の検知方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のレール損傷の検知装置は、レール損傷を検知させるためのセンサとなる送信プローブ31及び受信プローブ32が、車両1に取り付けられる。
【0073】
また、測定されたガイド波の中から、レール損傷の検知に適するように設定された周波数及び波数のデータを抽出するデータ抽出部を備えている。そして、データ抽出部によって抽出されたデータの受信強度に基づいて、損傷判定部においてレール損傷の有無を判定する。
【0074】
このような構成であれば、地上側に何の設備を設けなくても、台車11や車体などの車両1の取り付けやすい位置に送信プローブ31及び受信プローブ32を設置することで、横裂などのレール損傷を効率よく車両側から検知させることができる。
【0075】
そして、レール損傷の検知方法の発明は、送信プローブ31及び受信プローブ32を備えた車両1を検査対象となるレール2に沿って走行させることで、レール損傷の検知に適するように設定された周波数の受信データを取得する。そして、バースト波の設定された波数のデータの受信強度に基づいて、レール損傷の有無を判定する。
【0076】
すなわち、地上側に何の設備を設けなくても、車両1に取り付けられた送信プローブ31及び受信プローブ32による受信データから、レール損傷を効率的に検知させることができる。
【0077】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0078】
例えば前記実施の形態では、検査車両や車両1に送信プローブ31と受信プローブ32とをそれぞれ取り付ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、レール2に沿って移動させる手押し装置等の車両に送信プローブ31と受信プローブ32とを取り付けて検査させることもできる。
【符号の説明】
【0079】
1 :車両
2 :レール
31 :送信プローブ(超音波送信プローブ)
32 :受信プローブ(超音波受信プローブ)
6 :記憶部