(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111746
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ベンゾールスクラバーの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C10B 27/00 20060101AFI20240809BHJP
C10B 43/08 20060101ALI20240809BHJP
C10K 1/18 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C10B27/00 Z
C10B43/08
C10K1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016430
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大浅 淳一
(72)【発明者】
【氏名】村岡 文裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 研成
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦寛
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 英男
【テーマコード(参考)】
4H060
【Fターム(参考)】
4H060AA08
4H060CC01
4H060FF11
(57)【要約】
【課題】用いる洗浄液の温度が50℃以下であっても、十分な洗浄効果を発揮することのできるベンゾールスクラバーの洗浄方法を提供する。
【解決手段】ベンゾールスクラバー(1)は、吸収塔(2)と、外部経路(9)と、を含む。吸収塔(2)は、内部に充填層(2a)を有する。外部経路(9)は、吸収塔(2)の上部及び下部に接続され、自身と吸収塔(2)との間で脱ベンゾール吸収油(10)を循環させる。洗浄方法は、準備工程(#5)と、洗浄工程(#10)と、を備える。準備工程(#5)では、外部経路(9)で脱ベンゾール吸収油(10)の量を調整すると共に、外部経路(9)にキノリンを供給して、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液(25)を準備する。洗浄工程(#10)では、外部経路(9)と吸収塔(2)との間で洗浄液(25)を循環させ、充填層(2a)に付着している重質タール系閉塞物を溶解する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に充填層を有する吸収塔と、前記吸収塔の上部及び下部に接続され、自身と前記吸収塔との間で脱ベンゾール吸収油を循環させる外部経路と、を含み、コークス炉ガスを精製するベンゾールスクラバーの洗浄方法であって、
前記外部経路で前記脱ベンゾール吸収油の量を調整すると共に、前記外部経路にキノリンを供給して、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液を準備する、準備工程と、
前記外部経路と前記吸収塔との間で前記洗浄液を循環させ、前記充填層に付着している重質タール系閉塞物を溶解する、洗浄工程と、を備える、ベンゾールスクラバーの洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載のベンゾールスクラバーの洗浄方法であって、
前記洗浄工程において、前記洗浄液の温度を30℃以上に保持する、ベンゾールスクラバーの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベンゾールスクラバーの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉で石炭を乾留したときに発生するコークス炉ガスは、精製された後に燃料ガスとして用いられる。コークス炉ガスを精製する設備の一つとして、ベンゾールスクラバーが知られている。ベンゾールスクラバーは、主体装置として吸収塔を備える。吸収塔の内部には、充填物で構成される充填層が配置されている。吸収塔の下部には、コークス炉ガスを吸収塔内に導入するガス導入口が設けられ、吸収塔の上部には、精製されたコークス炉ガスを吸収塔から排出するガス排出口が設けられている。また、吸収塔の上部及び下部に外部経路が接続されている。外部経路と吸収塔とで、脱ベンゾール吸収油(以下、「吸収油」とも言う。)の循環経路が形成され、吸収油は、外部経路と吸収塔との間で循環する。
【0003】
吸収塔の内部において、吸収油は、外部経路から充填層の上方に供給され、充填層の上部から下部に向かって流れ落ちる。一方、精製前のコークス炉ガスは、ガス導入口から充填層の下方に導入され、充填層の下部から上部に向かって流通する。そのため、コークス炉ガスは、吸収塔内で吸収油と向流接触する。その際、コークス炉ガス中のベンゼン類成分(以下、「粗軽油分」とも言う。)が吸収油に捕集され、これにより、コークス炉ガスが精製される。精製されたコークス炉ガスは、ガス排出口から吸収塔の外部に排出される。以下、コークス炉ガス中の粗軽油分を吸収油で捕集し、コークス炉ガスを精製することをベンゾールスクラバーの「運転」とも言う。
【0004】
粗軽油分を捕集した吸収油は、吸収塔の底に溜まる。この吸収油は、外部経路に排出される。外部経路では、吸収油に対して蒸留処理が施される。これにより、吸収油中の粗軽油分が分離されて、吸収油が再生される。再生された吸収油は、外部経路を通じて充填層の上方に戻される。このように、吸収油は循環使用される。
【0005】
ベンゾールスクラバーの運転に伴い、コークス炉ガスに含まれる重質タール系閉塞物(以下、「閉塞物」とも言う。)が充填層に徐々に付着する。閉塞物の付着量が増加するにつれて、充填層におけるコークス炉ガスの流通が妨げられ、圧力損失が上昇する。ベンゾールスクラバーの運転中、圧力損失を監視することにより、充填層の健全度及び閉塞度を把握している。圧力損失が過大になると正常な運転に支障が生じる。したがって、圧力損失が過大になる前に、充填層に付着した閉塞物を除去する必要がある。
【0006】
閉塞物を除去する方法として、充填層を構成する充填物を吸収塔の外に取り出して洗浄する方法、あるいは、新たな充填物に取り換える方法がある。これらの方法によれば、閉塞物の除去は可能であるが、ベンゾールスクラバーの運転を長期間停止する必要がある。運転の停止中、コークス炉ガスを精製することができず、生産性が低下する。また、これらの方法では、充填物の取出や配置等の工事費用もかかる。
【0007】
特許文献1には、上述した外部経路で吸収油を加熱し、加熱した吸収油を充填層の洗浄に利用する洗浄方法が開示されている。特許文献1には、例えば50~80℃までの吸収油を循環させることにより、充填物を充填塔(吸収塔)の外に取り出すことなく充填層に付着した閉塞物を溶解することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の洗浄方法では、充填層に付着した閉塞物を溶解する効果を発揮するために、吸収油を高温(例えば、50~80℃まで)に加熱する必要がある。しかしながら、ベンゾールスクラバーの通常の運転では、吸収油を80℃程度の高温に加熱することはない。そのため、ベンゾールスクラバーの耐熱性が十分でない場合がある。この場合、特許文献1に記載の洗浄方法を使用することは適切でない。また、当該洗浄方法の使用のために装置の耐熱性を確保することは、コストの上昇や設備的な負荷の増大(設備のメンテナンスの難易度の上昇等)につながる。したがって、洗浄液をそれほど加熱することなく、充填層に付着した閉塞物を溶解し、ベンゾールスクラバーを洗浄することが求められている。
【0010】
本開示の目的は、用いる洗浄液の温度が50℃以下であっても、十分な洗浄効果を発揮することのできるベンゾールスクラバーの洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る洗浄方法は、コークス炉ガスを精製するベンゾールスクラバーの洗浄方法である。ベンゾールスクラバーは、吸収塔と、外部経路と、を含む。吸収塔は、内部に充填層を有する。外部経路は、吸収塔の上部及び下部に接続され、自身と吸収塔との間で脱ベンゾール吸収油を循環させる。洗浄方法は、準備工程と、洗浄工程と、を備える。準備工程では、外部経路で脱ベンゾール吸収油の量を調整すると共に、外部経路にキノリンを供給して、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液を準備する。洗浄工程では、外部経路と吸収塔との間で洗浄液を循環させ、充填層に付着している重質タール系閉塞物を溶解する。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係るベンゾールスクラバーの洗浄方法によれば、用いる洗浄液の温度が50℃以下であっても、十分な洗浄効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、ベンゾールスクラバーの模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るベンゾールスクラバーの洗浄方法を示すフロー図である。
【
図4】
図4は、ベンゾールスクラバーの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ベンゾールスクラバーの洗浄効果を高める方法として、有機溶剤を含む洗浄液を用いることが考えられる。洗浄を十分に行う観点からは、洗浄液として数多くの有機溶剤が使用可能であると思われる。しかしながら、ベンゾールスクラバーという大型の設備への適用には、有機溶剤の調達性及び安全性を十分に考慮する必要がある。そこで、本発明者らは、ベンゾールスクラバーの洗浄に用いる有機溶剤の種類について鋭意検討した。その結果、調達性及び安全性の観点から、有機溶剤の中でキノリンが最も適していることを見出した。キノリンは、吸収油と同程度の引火点を有しており、取扱いにおける負荷が他の有機溶剤と比較して著しく小さい。
【0015】
キノリンを含む洗浄液による洗浄効果を確認するため、以下の検証を行った。長期間運転を行い、圧力損失が上昇したベンゾールスクラバーの吸収塔から閉塞物のサンプルを採取した。また、キノリンと吸収油とを混合して、キノリンの濃度(質量%、以下単に「%」と示す。)の異なる複数の洗浄液を準備した。準備した洗浄液には、キノリンのみ(キノリン100%)で構成される洗浄液、及び吸収油のみ(吸収油100%)で構成される洗浄液も含まれる。各洗浄液を用いてサンプルを溶解し、各洗浄液においてサンプルの残渣の量を調査した。
【0016】
図1は、検証結果をまとめた図である。
図1において、縦軸はサンプルの残渣の量(質量%)を表し、横軸は用いた洗浄液の温度(℃)を表す。
図1に示される結果から、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液は、いずれも吸収油のみの洗浄液と比較して残渣の量を小さくすることができ、洗浄効果に優れていることが分かる。また、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液の各々は、50℃以下であっても、80℃の吸収油のみで構成される洗浄液よりも残渣の量が小さい。したがって、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液を用いれば、洗浄液の温度が50℃以下であっても十分な洗浄効果が発揮されることが分かる。
【0017】
本開示の実施形態に係るベンゾールスクラバーの洗浄方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0018】
実施形態に係る洗浄方法は、コークス炉ガスを精製するベンゾールスクラバーの洗浄方法である。ベンゾールスクラバーは、吸収塔と、外部経路と、を含む。吸収塔は、内部に充填層を有する。外部経路は、吸収塔の上部及び下部に接続され、自身と吸収塔との間で脱ベンゾール吸収油を循環させる。洗浄方法は、準備工程と、洗浄工程と、を備える。準備工程では、外部経路で脱ベンゾール吸収油の量を調整すると共に、外部経路にキノリンを供給して、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液を準備する。洗浄工程では、外部経路と吸収塔との間で洗浄液を循環させ、充填層に付着している重質タール系閉塞物を溶解する(第1の構成)。
【0019】
実施形態に係る洗浄方法では、準備工程において、外部経路で吸収油の量を調整すると共に、外部経路にキノリンを供給し、これにより、ベンゾールスクラバーの洗浄で用いる洗浄液を準備する。準備された洗浄液のキノリンの濃度は、25%以上である。洗浄工程では、外部経路と吸収塔との間で洗浄液を循環させ、充填層に付着している重質タール系閉塞物を溶解する。洗浄工程で用いる洗浄液は、吸収油のみで構成される洗浄液と比較して、高濃度のキノリンが含まれていることにより、洗浄作用に優れている。したがって、洗浄液の温度が50℃以下であっても、十分な洗浄効果を発揮することができる。
【0020】
第1の構成の洗浄方法の洗浄工程において、好ましくは、洗浄液の温度を30℃以上に保持する(第2の構成)。一般に、ベンゾールスクラバーの洗浄において、洗浄液の温度が高いほど洗浄効果が高まる。第2の構成の洗浄方法では、洗浄工程において、洗浄液の温度が30℃以上に保持されるため、より優れた洗浄効果を発揮することができる。
【0021】
以下、実施形態に係るベンゾールスクラバーの洗浄方法について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0022】
[ベンゾールスクラバー]
図2は、ベンゾールスクラバー1の模式図である。
図2には、ベンゾールスクラバー1の運転時の様子が示される。ベンゾールスクラバー1は、コークス炉ガス(以下、「COG」とも言う。)中の粗軽油分を捕集することにより、COGを精製するための設備である。
図2を参照して、ベンゾールスクラバー1は、主体装置である吸収塔2を備える。吸収塔2の内部には、充填物で構成される充填層2aが配置されている。吸収塔2の下部にはCOGを吸収塔2内に導入するガス導入口2bが設けられ、吸収塔2の上部には精製されたCOGを吸収塔2から排出するガス排出口2cが設けられる。ガス導入口2bには、コークス炉からのCOGが流通するガス導入管3が接続され、ガス排出口2cには、精製されたCOGが流通するガス排出管4が接続されている。
【0023】
ガス導入管3には、ガス入口弁5と、ガス入側圧力計6と、が設けられる。ガス排出管4には、ガス出口弁7と、ガス出側圧力計8と、が設けられる。ガス入側圧力計6では、精製前のCOGの圧力が測定される。ガス出側圧力計8では、精製後のCOGの圧力が測定される。ガス入側圧力計6で測定した圧力とガス出側圧力計8で測定した圧力との差を求めることにより、圧力損失が算出される。
【0024】
吸収塔2の上部及び下部には、外部経路9が接続されている。外部経路9と吸収塔2とで吸収油10の循環経路が形成され、吸収油10は、外部経路9と吸収塔2との間で循環する。具体的には、吸収塔2の上部には、吸収塔2内に吸収油10を導入するための吸収油導入口2dが設けられ、吸収塔2の下部には、吸収塔2から吸収油10を排出するための吸収油排出口2eが設けられる。外部経路9は、吸収油導入口2dと吸収油排出口2eに接続されている。吸収塔2内において、充填層2aの上方にはノズル11が配置され、ノズル11は吸収油導入口2dに接続されている。
【0025】
外部経路9は、運転時に使用される主経路9Aと、洗浄時に使用される短絡経路9Bとから構成される。短絡経路9Bは、分岐点Pで主経路9Aから分岐し、合流点Qで主経路9Aに合流する。
【0026】
主経路9Aには、吸収塔2の吸収油排出口2eに近い方から順に、吸収塔抜出ポンプ12と、ベンゾール含有吸収油タンク13とが設けられている。吸収塔抜出ポンプ12は、分岐点Pの上流側に配置され、ベンゾール含有吸収油タンク13は、分岐点Pの下流側に配置されている。分岐点Pとベンゾール含有吸収油タンク13との間には、ベンゾール含有吸収油タンク送液弁14が設けられている。主経路9Aには、ベンゾール含有吸収油タンク13の下流側において、吸収塔2の吸収油導入口2dに向かって順に、脱ベンゾール吸収油タンク15と、吸収塔送液ポンプ16とが設けられている。脱ベンゾール吸収油タンク15は、合流点Qの上流側に配置され、吸収塔送液ポンプ16は、合流点Qの下流側に配置されている。脱ベンゾール吸収油タンク15と合流点Qとの間には、脱ベンゾール吸収油タンク抜出弁17が設けられている。ベンゾール含有吸収油タンク13と脱ベンゾール吸収油タンク15の間には、図示しない回収設備が配置されている。
【0027】
短絡経路9Bには、キノリンタンク18が設けられている。分岐点Pとキノリンタンク18との間には、キノリンタンク送液弁19が設けられ、キノリンタンク18と合流点Qとの間には、キノリンタンク抜出弁20が設けられている。
【0028】
本実施形態の例では、キノリンタンク18には、循環加熱経路21が接続されている。循環加熱経路21には、上流側から順に、キノリンタンク抜出ポンプ22と、温度調整弁23と、熱交換器24とが設けられている。
【0029】
以下、ベンゾールスクラバー1の運転時の動作について詳細に説明する。ベンゾールスクラバー1の運転時、ガス入口弁5及びガス出口弁7はそれぞれ開いている。また、ベンゾール含有吸収油タンク送液弁14及び脱ベンゾール吸収油タンク抜出弁17は開いており、キノリンタンク送液弁19及びキノリンタンク抜出弁20は閉じている。つまり、外部経路9の短絡経路9Bは、閉ざされている。
【0030】
精製前のCOGは、ガス導入口2bから吸収塔2内に導入される。COGは、吸収塔2内で充填層2aの下部から上部に向かって流通する。吸収塔2内では、ノズル11から吸収油10が供給される。吸収油10は、吸収塔2の上部から下部に向かって流れ落ちる。そのため、COGは吸収塔2内で吸収油10と向流接触し、COG中の粗軽油分が吸収油10に吸収される。これにより、COGが精製される。精製されたCOGはガス排出口2cから排出される。
【0031】
COG中の粗軽油分を捕集した吸収油10は、吸収塔2の底部2fに溜まる。吸収塔2の底部2fに溜まった吸収油10は、吸収塔抜出ポンプ12によって吸収油排出口2eから引き出される。吸収塔2の底部2fから引き出された吸収油10は、ベンゾール含有吸収油タンク13に送られ、ベンゾール含有吸収油タンク13に蓄積される。このとき、吸収油10はキノリンタンク18には流通しない。
【0032】
ベンゾール含有吸収油タンク13内の吸収油10は、回収設備に送られ、回収設備によって蒸留処理が施される。これにより、吸収油10が捕集した粗軽油分が分離されて、吸収油10が再生される。吸収油10から分離された粗軽油分は、回収設備によって副産物として回収される。再生された吸収油10は、回収設備から脱ベンゾール吸収油タンク15に送られ、脱ベンゾール吸収油タンク15に蓄積される。
【0033】
脱ベンゾール吸収油タンク15内の吸収油10は、吸収塔送液ポンプ16によって引き出される。脱ベンゾール吸収油タンク15から引き出された吸収油10は、吸収塔2の吸収油導入口2dに送られ、ノズル11から充填層2aの上部に供給される。
【0034】
以上説明した通り、ベンゾールスクラバー1の運転時、ノズル11から供給されて吸収塔2内で粗軽油分を捕集した吸収油10は、吸収塔2の吸収油排出口2eから外部経路9のうち主経路9Aを流通し、蒸留処理を施された後に吸収油導入口2dに戻されて再度ノズル11から供給される。このように、吸収油10は循環使用される。
【0035】
[ベンゾールスクラバーの洗浄方法]
図3は、本実施形態に係るベンゾールスクラバー1の洗浄方法を示すフロー図である。
図3を参照して、本実施形態に係る洗浄方法は、準備工程(#5)と、洗浄工程(#10)と、を備える。
図4は、ベンゾールスクラバー1の模式図である。
図4には、ベンゾールスクラバー1の洗浄時の様子が示される。以下、
図3及び
図4を参照して、本実施形態の洗浄方法を詳しく説明する。
【0036】
洗浄の際、ベンゾールスクラバー1の運転を一旦停止する。このとき、ガス入口弁5及びガス出口弁7のいずれか一方の弁を閉じ、吸収塔2へのCOGの供給を停止する。ただし、密閉を避けるために他方の弁は開いたままとする。本実施形態の例では、洗浄時、ガス出口弁7を閉じ、ガス入口弁5は開いたままである。しかしながら、ガス入口弁5を閉じ、ガス出口弁7を開いたままとしてもよい。
【0037】
準備工程(#5)では、外部経路9を流通する吸収油10の量を調整する。外部経路9には、例えば、外部経路9に吸収油10の供給又は排出を行うための図示しない配管が接続されている。その配管から吸収油10の供給又は排出を行い、外部経路9を流通する吸収油10の量を調整してもよい。
【0038】
さらに、準備工程(#5)では、外部経路9にキノリンを供給して洗浄液25を準備する。キノリンは、例えばキノリンタンク18内に供給される。ベンゾールスクラバー1の洗浄時には、ベンゾール含有吸収油タンク送液弁14及び脱ベンゾール吸収油タンク抜出弁17を閉じる。さらに、キノリンタンク18内にキノリンが供給された状態でキノリンタンク送液弁19及びキノリンタンク抜出弁20を開く。つまり、外部経路9の短絡経路9Bを開通し、主経路9Aのうち分岐点Pから合流点Qまでの経路が閉ざされる。すると、外部経路9を流通する吸収油10がキノリンタンク18内のキノリンと混合される。これにより、洗浄液25が生成される。
【0039】
洗浄液25は、典型的にはキノリンと吸収油10とを混合したものである。しかしながら、洗浄液25はキノリンのみから構成されていてもよい。その場合、準備工程(#5)では、外部経路9を流通する吸収油10を全て排出し、外部経路9にキノリンを供給する。
【0040】
洗浄液25のキノリンの濃度は、25%以上である。キノリンの濃度は、25%以上であれば特に限定されるものではないが、濃度が高いほど洗浄作用が優れる。外部経路9(キノリンタンク18内)に対するキノリンの供給量や、外部経路9に対する吸収油10の供給量又は排出量を調整することにより、特定の濃度の洗浄液25を準備することができる。
【0041】
洗浄工程(#10)では、外部経路9と吸収塔2との間で洗浄液25を循環させる。洗浄時、キノリンタンク18内の洗浄液25は、吸収塔送液ポンプ16で引き出され、吸収塔2の吸収油導入口2dに送られる。洗浄液25は、吸収塔2内においてノズル11から供給され、充填層2aの上部から下部に向かって流れ落ちる。このとき、洗浄液25は、充填層2aに付着している重質タール系閉塞物を溶解する。流れ落ちた洗浄液25は、吸収塔2の底部2fに溜まる。吸収塔2の底部2fに溜まった洗浄液25は、吸収塔抜出ポンプ12で引き出され、キノリンタンク18に戻る。このように、ベンゾールスクラバー1の洗浄時には、洗浄液25は短絡経路9Bを含む外部経路9を流通して循環使用される。
【0042】
洗浄時における洗浄液25の温度は、高ければ高いほど洗浄効果が優れるため好ましい。特に、洗浄液25の温度が30℃以上に保持されれば、優れた洗浄効果を発揮することができる。しかしながら、ベンゾールスクラバー1の耐熱性は十分でない場合がある。そのため、洗浄液25の温度は、好ましくは30℃以上かつ50℃以下である。
【0043】
ベンゾールスクラバー1の洗浄時、洗浄液25の一部は、キノリンタンク18と循環加熱経路21との間で循環する。循環加熱経路21において、キノリンタンク18に蓄積されている洗浄液25は、キノリンタンク抜出ポンプ22で引き出され、熱交換器24に戻る。洗浄液25は、循環加熱経路21に設けられた熱交換器24で加熱される。熱交換器24を流通する洗浄液25の量は、温度調整弁23の開度を調節することによって調整される。これにより、洗浄液25の温度が調整される。例えば、洗浄液25の温度を上昇させるためには、温度調整弁23の開度を大きくし、熱交換器24に流通する洗浄液25の量を増やせばよい。熱交換器24で加熱された洗浄液25はキノリンタンク18に戻り、キノリンタンク18に蓄積される。
【0044】
洗浄を行う時間、すなわち、外部経路9と吸収塔2との間で洗浄液25を循環させる時間は、特に限定されるものではないが、例えば12~48時間である。洗浄が完了すると、洗浄に用いた重質タール系閉塞物を含む洗浄液25を外部経路9から排出する。その後、各弁の開閉状態を
図4に示す状態から
図2に示す状態に戻す。そして、外部経路9に新たな吸収油10を供給し、ベンゾールスクラバー1の運転を再開する。運転を再開する際、外部経路9に閉塞物を含む洗浄液25が残留していると、閉塞物によって運転に悪影響が発生すると考えられる。そのため、洗浄後にベンゾールスクラバー1の運転を再開する前に、外部経路9と吸収塔2との間で吸収油10を循環させ、外部経路9を洗浄(共洗い)することが好ましい。
【0045】
ベンゾールスクラバー1の洗浄を行う頻度は、特に限定されない。通常、充填層2aの圧力損失を監視し、圧力損失が過大になる前に洗浄を行う。洗浄を行う頻度は、例えば1~2年毎である。
【0046】
[効果]
本実施形態に係る洗浄方法では、準備工程(#5)において、外部経路9で吸収油10の量を調整すると共に、外部経路9にキノリンを供給し、これにより、ベンゾールスクラバー1の洗浄で用いる洗浄液25を準備する。準備された洗浄液25のキノリンの濃度は、25%以上である。洗浄工程(#10)では、外部経路9と吸収塔2との間で洗浄液25を循環させ、充填層2aに付着している重質タール系閉塞物を溶解する。洗浄工程(#10)で用いる洗浄液25は、吸収油10のみで構成される洗浄液と比較して、キノリンの濃度が高い。この洗浄液25は、高濃度のキノリンが含まれていることにより、洗浄作用に優れている。したがって、洗浄液25の温度が50℃以下であっても、十分な洗浄効果を発揮することができる。
【実施例0047】
本実施形態のベンゾールスクラバーの洗浄方法の効果を確認するため、実際のベンゾールスクラバーの洗浄において、用いる洗浄液による洗浄効果の違いを検証した。本実施例では、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液を用いた場合(本発明例)の洗浄効果と、吸収油のみからなる洗浄液を用いた場合(比較例)の洗浄効果とを比較した。
【0048】
本発明例では、キノリンと吸収油とを混合して、キノリンの濃度が35%、吸収油の濃度が65%の洗浄液を準備した。この洗浄液を循環させてベンゾールスクラバーの洗浄を行った。洗浄液の温度は40℃であった。洗浄を開始してから12時間が経過した時点と、48時間が経過した時点において充填層の圧力損失を測定した。そして、測定した圧力損失の各々から圧損減少割合を算出した。
【0049】
圧損減少割合は、洗浄効果を比較するための指標である。圧損減少割合は、洗浄前の充填層の圧力損失をP1、洗浄後の充填層の圧力損失をP2、新品の充填層の(充填層を新品に取り換えた直後の)圧力損失をP0として、(P1-P2)/(P1-P0)×100と表される。
【0050】
比較例では、吸収油のみで構成される洗浄液を加熱装置で加熱し、80℃まで昇温させた。この洗浄液を循環させてベンゾールスクラバーの洗浄を行った。洗浄を開始してから14時間が経過した時点での圧力損失を測定し、測定した圧力損失から圧損減少割合を算出した。
【0051】
本実施例の結果が表1に示される。比較例では、洗浄開始から14時間の時点での圧損減少割合は64%であった。比較例で行った洗浄では、充填層を新品に取り換えた場合と比較して圧力損失の減少量が小さかった。一方、本発明例では、洗浄開始から12時間の時点での圧損減少割合は97%であり、48時間の時点での圧損減少割合は100%であった。本発明例で行った洗浄では、充填層を新品に取り換えた場合と同程度に圧力損失が減少した。このことから、キノリンの濃度が25%以上の洗浄液を用いれば、洗浄液の温度が50℃以下であっても十分な洗浄効果が発揮されることが分かる。
【0052】
【0053】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。