(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111784
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ハードコート樹脂組成物及びハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 4/02 20060101AFI20240809BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240809BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20240809BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D7/63
C08J7/046 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061977
(22)【出願日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2023015766
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優介
【テーマコード(参考)】
4F006
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB32
4F006AB37
4F006AB43
4F006BA02
4F006BA07
4F006CA08
4F006EA03
4J038FA281
4J038JA11
4J038JC18
4J038KA06
4J038KA12
4J038PB08
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】消しゴムにより擦過しても水接触角の低下率が非常に小さいと共に、高い水接触角を維持できるハードコート樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有するハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】多官能のウレタン(メタ)アクリレートと、ポリチオフェン系化合物と、フッ素系化合物と、光重合開始剤と、を含む組成物であり、前記ポリチオフェン系化合物の平均粒子径が40~100nmであり、配合量が光重合成分100重量部に対し0.18~1.40重量部であることを特徴とするハードコート樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能のウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ポリチオフェン系化合物(B)と、フッ素系化合物(C)と、光重合開始剤(D)と、を含む組成物であり、前記(B)の平均粒子径が40~100nmであり、配合量が光重合成分100重量部に対し0.18~1.40重量部であることを特徴とするハードコート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)の配合量が光重合成分100重量部に対し0.3~1.1重量部であることを特徴とする請求項1記載のハードコート樹脂組成物。
【請求項3】
プラスチック基材の少なくとも片面に、請求項1又は2いずれか記載のハードコート樹脂組成物の硬化層が形成されたハードコートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性のハードコート樹脂組成物、及びその硬化層が形成されたハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置と入力手段を兼ね備えたタッチパネルは幅広い分野で使用されている。特にタッチペンを入力手段で利用したタッチパネルは、文字や複雑な図形を直接入力することで、より直感的な操作が可能となっており、タブレット型PC,ペンタブレット、スマートフォン、携帯用ゲーム機器等の広範囲で採用されている。
【0003】
タッチパネルは画面がむき出しの状態であり、指や膚、ペンなどが直接接触するため、皮脂等の汚れやキズがつき易いという問題がある。このような問題に対応するため、タッチパネルの表面に汚れがつきにくい、汚れが落としやすい、すべりが良くキズがつきにくい等の技術が開発され、例えば、加水分解性シリル基またはシラノール基と、ラジカル重合性化合物と、重合開始剤を含有するハードコート層と表面層とが順に積層されたハードコートフィルムなどが提案されている(特許文献1)。
【0004】
このようなハードコートフィルムを使用することで、汚れ付着や擦傷の発生をかなり防止できるようになってきたが、特にタッチペンを用いる場合は、表面機能を長期に渡り持続することができるような高度な耐久性を要求されるようになってきた。しかしながら、十分な耐摩耗性を有するハードコートフィルムはあまり存在せず、例えば消しゴムのようにフィルム表面をこすり取るもので擦過された場合は、水接触角が大きく変化し防汚性が低下する等の課題があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、消しゴムにより擦過しても水接触角の低下率が非常に小さいと共に、高い水接触角を維持できるハードコート樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有するハードコート(以下HCという)フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、多官能のウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ポリチオフェン系化合物(B)と、フッ素系化合物(C)と、光重合開始剤(D)と、を含む組成物であり、前記(B)の平均粒子径が40~100nmであり、配合量が光重合成分100重量部に対し0.18~1.40重量部であることを特徴とするハードコート樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(C)の配合量が光重合成分100重量部に対し0.3~1.1重量部であることを特徴とする請求項1記載のハードコート樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、プラスチック基材の少なくとも片面に、請求項1又は2いずれか記載のハードコート樹脂組成物の硬化層が形成されたハードコートフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のHC樹脂組成物の硬化層は、消しゴムにより擦過しても水接触角の低下率が非常に小さく、かつ高い水接触角を維持できるという優れた防汚性を有しており、タッチペンを入力手段とするようなタッチパネル用HCフィルムに用いるHC樹脂として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のHC樹脂組成物は、多官能のウレタン(メタ)アクリレート(以下ウレアクという)(A)と、ポリチオフェン系化合物(B)と、フッ素系化合物(C)と、光重合開始剤(D)を含む。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0013】
本発明で使用される多官能のウレアク(A)はHC層を形成する主要樹脂であり、ウレタン結合に由来する水素結合の凝集力により、優れた耐擦傷性を有しているバインダーである。例えばポリイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応で得ることができる。
【0014】
前記(A)の反応で用いるポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDI)、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、HDIイソシアヌレート体、IPDIイソシアヌレート体などがあり、これらを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。これらの中では耐候性が高く黄変しにくい脂肪族及び脂環族のジイソシアネートが好ましく、特にそれらの中では延伸性が高いHDIが好ましい。
【0015】
前記(A)の反応で用いる水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば2官能ではトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなどが、3官能以上ではジグリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートがある。これらの中では3官能で、硬化性の高いペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETAという)が好ましい。
【0016】
前記(A)の配合量は、固形分全量に対し55~98重量%が好ましく、60~97重量%が更に好ましく、65~96重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、十分な光学特性と低カール性を確保する共に、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さい特性を得ることができる。
【0017】
本発明で使用されるポリチオフェン系化合物(B)は、含硫黄複素環化合物であるチオフェンの重合体で、ドーピングにより共役n軌道に対して電子を付与または除去すると、導電性を持つようになる化合物である。特にポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOTという)は、ポリ(4‐スチレンスルホン酸塩)(以下PSSという)との組合せにより導電性が向上すると共に、環境安定性が高く、また薄膜での光透過性が高い点で好ましい。発明者はこのポリチオフェン系化合物の平均粒子径を特定することで、消しゴムにより3000回~8000回の擦過を行っても、高い水接触角を安定的に維持できることを見出した。
【0018】
一般的にPEDOTとPSSは、コアに結晶状態のPEDOT、そしてその周りをシェルとしてPSSが覆った安定した球状形態で存在しているといわれている。またその平均粒子径は、導電性のPEDOTと絶縁性のPSSの存在比率により影響を受け、コアとなるPEDOTの比率が高くなるほど大きくなるといわれている。
【0019】
本発明で使用される(B)の平均粒子径は40~100nmであり、45~80nmが好ましく、50~60nmが更に好ましい。40nm未満では消しゴムによる擦過後の水接触角低下を十分抑制できない傾向があり、100nm超では塗工外観が低下しやすくなる傾向がある。なお平均粒子径の測定方法は、メチルエチルケトン(以下MEKという)7mL中に、PEDOTの分散溶液をPEDOT/PSS成分が0.01%になる様に添加し、島津製作所製の粒子径分布測定装置SLAD-7500nanoを用い、JISZ8825-1に準拠したレーザー回折・散乱法により測定したメジアン径(d=50)とする。
【0020】
前記(B)の配合量は、光重合成分100重量部に対し0.18~1.4重量部であり、0.20~1.3重量部が好ましく、0.25~1.1重量部が更に好ましい。0.18重量部未満では消しゴムによる擦過後の水接触角低下を十分抑制できない傾向があり、1.4重量部超では十分な全光線透過率を確保できない場合がある。
【0021】
前記(B)を含む硬化皮膜の表面抵抗率は、初期段階で1.00×107~9.99×1011Ω/□であることが好ましい。この範囲とすることで、撥水性を安定的に維持することができる。導電性の向上により水接触角の低下を抑えることができる理由は明らかではないが、消しゴムを擦過する際に発生する静電気を発生しにくくすることで、皮膜へのダメージを低減でき、その結果として水接触角の低下を抑えることができるものと推測される。(B)の平均粒子径が大きいほど導電性であるPRDOTの含有比率が高くなり、消しゴムによる擦過でPEDOT成分が削り取られる時間が長くなり、結果として擦過回数が多くなっても水接触角の低下が小さくなる傾向があると推定される。
【0022】
本発明で使用されるフッ素系化合物(C)は、撥水性を安定的に付与し、結果として防汚性を向上させる目的で配合する。(C)を配合することにより、その硬化皮膜の水接触角は高くなり、また消しゴムにより擦過しても、その前後で水接触角の変化率を非常に小さくできる。特に窒素パージ(脱酸素)条件下にて光硬化させた場合に、その効果を大きくできる。
【0023】
前記(C)の配合量は、光重合成分100重量部に対し0.30~1.1重量部が好ましく、0.35~1.0重量部が更に好ましく、0.40~0.8重量部が特に好ましい。0.3重量部以上とすることで消しゴムによる擦過後の水接触角を十分高く維持でき、1.1重量部以下とすることでも同様に消しゴムによる擦過後の水接触角を十分高く維持できる。
【0024】
本発明で使用される光重合開始剤(D)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはIrgacure184及び同2959(商品名:BASFジャパン社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)などがある。
【0025】
前記(D)の配合量は、光重合成分100重量部に対し0.5部~10重量部が好ましく、3~8重量部が更に好ましい。0.5重量部以上とすることで充分な硬化性が発現し、10重量部以下とすることで過剰添加とならず塗膜の黄変や保存性低下を防ぐことができる。
【0026】
また、本発明のHC樹脂組成物には必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、防曇剤、スリップ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、有機微粒子、無機フィラー等を添加してもよい。
【0027】
本発明のHC樹脂組成物は、プラスチック基材への塗工性を向上させるため、溶剤にて固形分が10~90%に希釈される。溶剤としては、例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKという)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、PGM,ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテ等のエーテル系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
本発明のHC樹脂が塗布されるプラスチック基材としては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロース(以下TACという)フィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリルフィルム、シクロオレフィン(コ)ポリマーフィルム等を例示することができる。
【0029】
これらの中では、価格、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムが、耐候性の点からアクリルフィルム、ポリカーボネートフィルムが、また良好な光学特性の点からTACフィルムが好ましく用いられる。フィルムの厚みは概ね23μm~250μmであればよい。
【0030】
本発明のHC樹脂組成物を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などを利用できる。また乾燥膜厚は、0.5μm~20μmが好ましい。
【0031】
本発明のHC樹脂組成物を塗布した後は60~120℃で乾燥し、紫外線照射機を用いて硬化させる。紫外線を照射する場合の光源としては例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、無電極紫外線ランプ、LEDランプなどがあげられ、硬化条件としては500mW/cm2~3000mW/cm2の照射強度で、積算光量として50~2,000mJ/cm2が例示される。また照射する雰囲気は空気中でよいが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中が好ましい。
【0032】
本発明のHC樹脂組成物の硬化層を有するHCフィルムの初期水接触角は105°以上が好ましく、110°以上が更に好ましい。また消しゴムを用い、荷重1Kgfで3000回往復させた後の水接触角は100°以上が好ましく、103°以上が更に好ましく、105°以上が特に好ましい。更に8000回往復させた後の水接触角は100°以上が好ましく、103°以上が更に好ましい。消しゴムによる擦過後で100°以上の水接触角を確保できていれば、優れた防汚性を有すると共に、優れた耐摩耗性を有すると判断できる。特に8000回の擦過後でも100°以上を確保できている場合は、非常に優れた防汚性と耐摩耗性を有している。
【0033】
また消しゴムによる3000回の擦過後での水接触角は初期値に対し90%以上が好ましく、94%以上が更に好ましい。初期値に対し90%以上であれば、防汚成分のほとんどが消しゴム試験により削り取られずに残存していると考えられるため、安定した防汚性と耐摩耗性を有し、タッチペンでの擦りに対し経時的な防汚性低下も少ないと判断できる。8000回の擦過後での水接触角は初期値に対し88%以上が好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0034】
上記で消しゴムを用いる理由は、消しゴムによる擦過がタッチペンでの擦りに近いためであり、この評価によりタッチペンに対する耐摩耗性を近似評価できる。光学フィルムの耐擦傷性は、スチールウールを用いた評価が一般的であるが、スチールウールは文字通り硬くて細い金属製のワイヤーであり、タッチペンの擦り度合いとは全く異なるため、タッチペンによる耐摩耗性はスチールウールでは評価ができない。
【0035】
上記消しゴム試験に用いる消しゴムは、韓国のMINOAN社製、(直径6mm)を用い、東洋精機製作所製の平面摩擦試験機を用いて、荷重1Kgで擦り速度40rpm、ストローク幅30mmの条件で3000、8000往復擦り、その前後の水接触角を測定する。なお本明細書において、水接触角はJIS R 3257:1999の静滴法に基づいて測定した値とする。
【0036】
以下、本発明を実施例、比較例に基づき詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。また表記が無い場合は、室温は25℃、相対湿度65%の条件下で測定を行った。なお配合量は固形分換算の重量部を示した。
【0037】
実施例1~7
(A)としてウレアク(HDIとPETAを反応させた6官能、Mw2,600、固形分90%)を、(B)としてPEDOT/PSS分散体A(PEDOT/PSS含有量0.4%、平均粒子径50nm)を、(C)として市販のフッ素系防汚剤を、(D)としてOmnirad2959(商品名:iGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)を、希釈溶剤としてPGMACを用い、表1記載の配合(希釈溶剤は固形分30%となる量)で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である実施例1~7を調整した。
【0038】
比較例1~4
実施例で用いた材料の他、PEDOT/PSS分散体B(PEDOT/PSS含有量0.4%、平均粒子径30nm)及びPEDOT/PSS分散体C(PEDOT/PSS含有量2.2%、平均粒子径10nm)を用い、希釈溶剤としてPGMACを用い、表2記載の配合(希釈溶剤は固形分30%となる量)で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である比較例1~4を調整した。
【0039】
HCフィルムの調整
A4サイズのポリエチレンテレフタレートフィルムU403(商品名:東レ社製、50μm、両面易接着層有り)に硬化時の膜厚が5μmとなるよう塗布し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、窒素パージして、フュージョンUVシステムジャパン製の無電極UV照射装置F300S/LC-6Bを用い、Hバルブで出力1200mW/cm2、積算光量200mJ/cm2で紫外線硬化させた。
【0040】
【0041】
【0042】
評価方法は以下の通りとした。
【0043】
水接触角(初期):水接触角はJIS R 3257:1999の静滴法に準じ、協和界面科学社製のDMs-400により、室温で水を滴下(2μL)し30秒静置後に測定した。評価は水接触角が105°未満を×、105°~110°を〇、110°超を◎とした。
【0044】
水接触角(擦過後):韓国MINOAN社製の消しゴム(直径6mm)を用い、東洋精機製作所製の平面摩擦試験機を用いて、荷重1Kgで擦り速度40rpm、ストローク幅30mmの条件で3000回往復及び8000回往復擦り、その後の水接触角を測定した。評価は、
3000回:100°未満を×、100°~105°を〇、105°超を◎
8000回:100°未満を×、100°~103°を〇、103°超を◎ とした。
【0045】
水接触角低下率:水接触角の初期値に対する消しゴム擦過後の接触角比率とした。評価は、
3000回:90%未満を×、90~94%を〇、94%超を◎
8000回:88%未満を×、88~90%を〇、90%超を◎ とした。
【0046】
全光線透過率:JIS K7361-1に準拠し、東洋精機製作所社製のHaze-GARD2を用い測定し、89%未満を×、89%以上を〇とした。
【0047】
表面抵抗率:上記で作成したHCフィルムの塗布面を、JIS K6911に準拠し、日東精工アナリテック社製の高抵抗率計HIRESTA-UXを用い測定した。
【0048】
【0049】
【0050】
実施例は初期水接触角、消しゴム擦過後の水接触角、接触角の低下率、全光線透過率、表面抵抗率、すべての面で問題はなく良好であった。
【0051】
一方、(B)が上限超の比較例1は全光線透過率が劣り、下限未満の比較例2、(B)の平均粒子径が小さい比較例3及び4は消しゴム擦過後の水接触角の低下が大きく、いずれも本願発明に適さないものであった。