(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111785
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】肉盛加工ノズル
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20240809BHJP
【FI】
B23K26/342
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023077195
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】592010070
【氏名又は名称】株式会社進和
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】秦野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】別所 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】飯領田 晃
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA32
4E168CB03
4E168CB08
4E168DA26
4E168EA17
4E168EA25
4E168FA01
4E168FB03
4E168KB03
(57)【要約】
【課題】アウタノズルに金属粉末が付着しにくい肉盛加工ノズルを提供する。
【解決手段】レーザが通過するレーザ通路を有するインナノズル50と、インナノズル50に外嵌されてインナノズル50との間に金属粉末供給路54を形成するアウタノズル60とを備えた肉盛加工ノズル16であって、前記アウタノズル60は、金属粉末供給路54を形成する内周部62と前記内周部62の外側に位置する外周部63とを有しており、前記内周部62と前記外周部63との間に冷却材流路65を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザが通過するレーザ通路を有するインナノズルと、前記インナノズルに外嵌されて前記インナノズルとの間に金属粉末供給路を形成するアウタノズルとを備えた肉盛加工ノズルであって、
前記アウタノズルは、前記金属粉末供給路を形成する内周部と前記内周部の外側に位置する外周部とを有しており、前記内周部と前記外周部との間に冷却材流路を有する肉盛加工ノズル。
【請求項2】
前記アウタノズルは前記内周部と前記外周部との先端間に位置する先端部を有し、前記冷却材流路は、前記先端部の内側に形成されている請求項1に記載の肉盛加工ノズル。
【請求項3】
前記冷却材流路は、前記アウタノズルの内部に形成された中空部であり、前記中空部の周方向の1箇所には前記中空部を周方向に仕切る仕切壁が形成されており、前記仕切壁を挟んで前記中空部へと冷却材を導入する導入孔と前記中空部から前記冷却材を排出する排出孔とが形成されている請求項1又は2に記載の肉盛加工ノズル。
【請求項4】
前記冷却材流路は、前記アウタノズル内において先端側と基端側とをジグザグ状に移動しながら前記アウタノズルを周回する形状である請求項3に記載の肉盛加工ノズル。
【請求項5】
前記冷却材流路は、前記アウタノズルの内部において前記仕切壁を挟み基端から先端に向けて延びる2本の案内路と前記両案内路に連絡して前記アウタノズル内を周回する周回路によって形成されている請求項3に記載の肉盛加工ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉盛加工ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物表面の摩耗や変質の補修、あるいは被加工物の表面に耐摩耗性や耐食性を付与して被加工物の表面特性を改変したい場合などに、被加工物表面に肉盛加工をするレーザ肉盛方法が知られている。このレーザ肉盛方法では、被加工物の局所にレーザを照射して被加工物の表面が溶融した溶融池を形成し、溶融池に向けて金属粉末を供給する。供給された金属粉末は溶融して溶融池の表面を覆う形で堆積するため、被加工物の表面には新たな金属組織からなる肉盛り層が形成される。
【0003】
レーザ肉盛方法は、被加工物にレーザを照射して局所的に加熱するため、母材である被加工物への熱影響が少なく歪みの少ない加工が可能となる。また、レーザ肉盛方法は肉盛り層の厚みや幅などの制御が容易であり、肉盛りした金属組織の被加工物への溶け込みが少なく最小限の肉盛り厚で被加工物の表面特性を改変することができる。ところで、このレーザ肉盛方法では、被加工物にレーザを照射して形成した溶融池に金属粉末を吹き付ける。このため、レーザ肉盛方法に用いるレーザ肉盛装置は、レーザ通路と、レーザ通路に近接しレーザ通路を周回した金属粉末供給路が形成された肉盛加工ノズルを有している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の肉盛加工ノズルは、レーザ通路を有するインナノズルと、これに外嵌されるアウタノズルとを備え、インナノズルとアウタノズルとの間に金属粉末が通過する粉末供給路を有し、その先端が開口している。肉盛加工ノズル、特にアウタノズルは被加工物の加工箇所に近接して配置されるため、レーザの反射光や加熱された被加工物の輻射熱を受けて高温になる。また、肉盛加工中にスパッタが発生し飛散することがあるが、アウタノズルが高温になっていると飛散したスパッタが付着しやすくなる。スパッタは肉盛加工ノズルへの付着箇所によっては粉末供給路を塞ぐこともあり、この場合は粉末供給路からの金属粉末の吐出が妨げられる場合がある。また、粉末供給路に限らずスパッタがアウタノズルに付着すると、スパッタによりノズル表面の品質が変化されてアウタノズルの寿命が低下する要因にもなる。
【0006】
一方、レーザ肉盛装置として、アウタノズルに冷却水流路を設けた構成がある。
図9に冷却水流路を備えた肉盛加工ノズルの断面模式図を示す。同図に示すようにノズル本体500には冷却水供給路501と冷却水排出路502とが周方向に180度離れた位置に形成されており、ノズル本体500の先端面503にそれぞれ周方向に180度離間して開口している。そして、ノズル本体500の先端面503にはアウタノズル504の基端面505が当接しており、
図10に示すようにアウタノズル504の基端面505には円環有底溝である冷却水流路506が形成されている。この冷却水流路506の円の直径は冷却水供給路501と冷却水排出路502の2つの開口間の距離と同径になっており、冷却水供給路501と冷却水排出路502は冷却水流路506に対向して開口する。また、レーザ肉盛装置は図示しない循環ポンプを有し、同じく図示しない配管が循環ポンプと冷却水供給路501及び冷却水排出路502を繋いでいる。この構成によりアウタノズル504の冷却水流路506に冷却水が供給される。
【0007】
しかし、
図9、
図10に示すように、冷却水流路506はアウタノズル504の基端側にのみ形成された円環状の有底溝である。このため、スパッタが付着しやすいアウタノズル504の先端側の冷却には十分といえず、アウタノズルへのスパッタの付着を防止するには不十分であった。このため、一定時間ごとに肉盛加工を停止してアウタノズルに付着したスパッタを除去する作業を清掃しており、作業効率の低下を招いていた。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点を解決するため、アウタノズルに金属粉末が付着しにくい肉盛加工ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため肉盛加工ノズルは、レーザが通過するレーザ通路を有するインナノズルと、前記インナノズルに外嵌されて前記インナノズルとの間に金属粉末供給路を形成するアウタノズルとを備えた肉盛加工ノズルであって、前記アウタノズルは、前記金属粉末供給路を形成する内周部と前記内周部の外側に位置する外周部とを有しており、前記内周部と前記外周部との間に冷却材流路を有する。
【0010】
また、前記アウタノズルは前記内周部と前記外周部との先端間に位置する先端部を有し、前記冷却材流路は、前記先端部の内側に形成されている。
前記冷却材流路は、前記アウタノズルの内部に形成された中空部であり、前記中空部の周方向の1箇所には前記中空部を周方向に仕切る仕切壁が形成されており、前記仕切壁を挟んで前記中空部へと冷却材を導入する導入孔と前記中空部から前記冷却材を排出する排出孔とが形成されている。
【0011】
前記冷却材流路は、前記アウタノズル内において先端側と基端側とをジグザグ状に移動しながら前記アウタノズルを周回する形状である。
前記冷却材流路は、前記アウタノズルの内部において前記仕切壁を挟み基端から先端に向けて延びる2本の案内路と前記両案内路に連絡して前記アウタノズル内を周回する周回路によって形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の肉盛加工ノズルによれば、アウタノズルに金属粉末が付着しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】肉盛加工ノズルの粉末供給路が位置する部分の断面模式図。
【
図3】肉盛加工ノズルの冷却水供給路と冷却水排出路とが位置する部分の断面模式図。
【
図4】
図4(a)はアウタノズルの背面図、
図4(b)はアウタノズルから外周壁及び先端壁を除去した構成の正面図。
【
図6】アウタノズルから外周壁及び先端壁を除去した構成の正面図。
【
図8】アウタノズルから外周壁及び先端壁を除去した構成の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化したレーザ肉盛装置1の一実施形態を
図1~
図4にしたがって説明する。
(レーザ肉盛装置1)
図1は、レーザ肉盛装置1の構成模式図である。レーザ肉盛装置1はレーザ発振器11、粉体供給装置12、吐出気体供給装置13、冷却水循環装置14、光学系15、肉盛加工ノズル16、ロボットアーム17、テーブル18を備える。
【0015】
レーザ発振器11はレーザ肉盛に用いる半導体レーザを発生させる装置であり、光学系15とはファイバーケーブル111にて接続されている。粉体供給装置12は、レーザ肉盛に使用する金属粉末を肉盛加工ノズル16に供給する装置であり、粉末供給管121が接続されている。また、粉末供給管121の下流には分配器122が設けられ、分配器122にて複数(4つ)の枝管123に分岐して肉盛加工ノズル16に接続されている。吐出気体供給装置13は、金属粉末を肉盛加工ノズル16から一定の吐出圧で吐出する媒体となる気体を供給する装置であり、気体供給管131で肉盛加工ノズル16に接続されている。ここで使用される気体はヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性気体となる。冷却水循環装置14は、肉盛加工ノズル16へ冷却材としての冷却水を供給し、また肉盛加工ノズル16から冷却水を回収し循環する装置であり、図示しない循環ポンプ及び冷却装置を有する。冷却水循環装置14は、冷却水供給管141と冷却水排水管142で肉盛加工ノズル16に接続されている。光学系15は、レーザ発振器11で発生させたレーザを加工対象物19に照射する装置であり、図示しないミラー、集光レンズ等を組み合わせて構成されている。肉盛加工ノズル16は、加工対象物19に肉盛り材料となる金属粉末を吐出する装置であり、光学系15の先端に装着されている。ロボットアーム17は光学系15及び肉盛加工ノズル16を移動させるものであり、多関節を有して光学系15及び肉盛加工ノズル16を3軸方向に移動させることができる。また、加工対象物19はテーブル18に載置されている。
【0016】
(肉盛加工ノズル16)
図2、
図3に肉盛加工ノズル16の断面模式図を示す。
肉盛加工ノズル16は光学系15の先端に装着されており、連結部材20、装着フランジ30、ノズル本体40、インナノズル50、アウタノズル60、固定ナット70を有する。なお、
図1に示す肉盛加工ノズル16の上方を基端、下方を先端といい、レーザは肉盛加工ノズル16の基端から先端に向けて照射される。また、基端と先端を結ぶ方向を軸方向、軸方向に直交する方向を径方向といい、肉盛加工ノズル16において軸方向に対する回転方向を周方向という。
【0017】
連結部材20は肉盛加工ノズル16を光学系15に連結する部材であり、光学系15の先端及び装着フランジ30にそれぞれ外嵌して図示しない締結部材により連結されている。
【0018】
装着フランジ30は、円筒部31とその先端に一体形成された円環状のフランジ部32とを有する部材である。円筒部31の中央は軸方向に貫通する一定直径の中空に形成されており、ここはレーザが通過するレーザ通路となる。円筒部31の基端側は連結部材20に内嵌されている。また、フランジ部32は平坦な円環状の先端面33を有し、この先端面33にノズル本体40が図示しない締結部材により締結固定されている。
【0019】
ノズル本体40は、本体部材41と、本体部材41の内部に配置される内嵌部材42とを有する。本体部材41は、装着フランジ30のフランジ部32の外径と同等の外径を有する大径円筒部411と、大径円筒部411の先端側に大径円筒部411と一体形成されたより小径の小径円筒部412とを有する2段の円筒形状をなす。大径円筒部411の基端は円環状の平坦な面である基端平坦面413が形成されており、この基端平坦面413に装着フランジ30のフランジ部32の先端面33が当接されて図示しない締結部材により締結固定されている。
【0020】
本体部材41の中央は軸方向に貫通する中空に形成されており、この中空部分には大径円筒部411の径方向内側に位置する大径内周部414と小径円筒部412の径方向内側に位置する小径内周部415が同心で形成されている。大径内周部414と小径内周部415の境界には径方向に延びる円環面416が形成されている。小径内周部415には雌ネジが形成されており、小径円筒部412の外周面には雄ネジが形成されている。また、小径円筒部412の先端には円環状の平坦な先端平坦面417が形成されている。
【0021】
本体部材41の大径内周部414には、内嵌部材42が内嵌装着されている。内嵌部材42は円筒形状をなし、中央は軸方向に貫通し先端に向かうほど径が小さくなる逆円錐状の中空に形成されたレーザ通路となる。また、内嵌部材42は、基端側に大径内周部414に内接する円筒状の当接部421を有し、この当接部421より先端には段差を介してより小径の空間形成部422を有する。なお、この空間形成部422の外径は、本体部材41の大径内周部414より小径で小径内周部415より大径である。また、空間形成部422の先端外周はより小径で外周に雄ネジが形成された螺合部423となっている。この螺合部423の雄ネジを本体部材41の小径内周部415に形成された雌ネジに螺合して、内嵌部材42は本体部材41に固定されている。
【0022】
本体部材41に内嵌部材42を固定した状態では、本体部材41の大径内周部414と、内嵌部材42の空間形成部422との間に円筒状の金属粉末の拡散空間424が形成される。また、大径内周部414と小径内周部415との境界に形成される円環面416の一部も拡散空間424を構成する。
【0023】
図2に示すように、ノズル本体40には、金属粉末を通すための粉末供給路43が形成されている。ノズル本体40の大径円筒部411には、周方向に90度間隔で4本の第1粉末供給路431が形成されている。なお、
図2では180度離間した2本の第1粉末供給路431を示す。各第1粉末供給路431は大径円筒部411の外周面に一端の開口431aを有し、外周面から大径円筒部411の内部を径方向内方かつ先端側に向かって延び、他端が大径内周部414の拡散空間424に面した開口431bを有する孔である。
【0024】
また、ノズル本体40のうち小径円筒部412には、複数の第2粉末供給路432が円環状に形成されている。各第2粉末供給路432は拡散空間424に面する円環面416に一端の開口432aを有し、小径円筒部412の内部を軸方向に延び、小径円筒部412の先端平坦面417に他端の開口432bを有する孔である。これら第1粉末供給路431、拡散空間424及び第2粉末供給路432により粉末供給路43が構成される。また、大径円筒部411の外周面に形成された各第1粉末供給路431の一端の開口431aにはそれぞれ供給コネクタ433が装着されており、各供給コネクタ433には枝管123が接続されている。なお、図示しないがノズル本体40の大径円筒部411には更に拡散空間424に連通する気体供給路が形成されており、この気体供給路には気体供給管131が接続されている。
【0025】
図3に示すように、ノズル本体40には、1本の冷却水供給路44が形成されている。冷却水供給路44は大径円筒部411の外周面に一端の開口44aを有する。この開口44aは大径円筒部411の外周面において周方向に隣接する2つの第1粉末供給路431の開口431a間に形成されている。また、冷却水供給路44は大径円筒部411の内部で軸方向に向きを変えて延び小径円筒部412の先端平坦面417に他端の開口44bを有する。先端平坦面417における冷却水供給路44の開口44bは第2粉末供給路432の開口432bよりも径方向外側に位置する。大径円筒部411の外周面に形成された冷却水供給路44の一端側の開口44aには給水コネクタ441が装着されており、給水コネクタ441には冷却水供給管141が接続されている。
【0026】
さらに、ノズル本体40には1本の冷却水排出路45が形成されている。冷却水排出路45は冷却水供給路44とは周方向に180度離間して対称形状に形成されている。また、冷却水排出路45の形状も冷却水供給路44と同じである。冷却水排出路45は大径円筒部411の外周面に一端側の開口45aを有し、大径円筒部411の内部で軸方向に向きを変えて延び小径円筒部412の先端平坦面417に他端の開口45bを有している。先端平坦面417における冷却水排出路45の開口45bは第2粉末供給路432の開口432bよりも径方向外側である。ただし、冷却水排出路45と冷却水供給路44とでは冷却水の流れ方向は逆向きである。大径円筒部411の外周面に形成された冷却水排出路45の開口45aには排水コネクタ442が装着されており、排水コネクタ442には冷却水排水管142が接続されている。
図2、
図3に示すように、ノズル本体40の先端には、インナノズル50及びアウタノズル60が装着されている。
【0027】
(インナノズル50)
図2、
図3に示すように、インナノズル50は全体として先端に向かうほど縮径する逆円錐筒状をなし、クロム銅にて形成されている。インナノズル50は先端に向かうほど径が小さくなる逆円錐状の内周面51を有し、この内周面51の内側は軸方向に貫通し先端に向かうほど径が小さくなる逆円錐状のレーザ通路となる。インナノズル50の基端側には外周面に雄ネジを有する小径の装着部52が形成されており、この装着部52がノズル本体40の小径内周部415に形成された雌ネジに螺合されて、インナノズル50がノズル本体40に固定されている。
【0028】
インナノズル50のうち装着部52より先端は装着部52より大径で先端に向かうほど縮径する逆円錐筒状の外周面53を有する。インナノズル50の外周面53の基端の直径は、小径円筒部412の先端平坦面417に複数形成された第2粉末供給路432の開口432bを結んで形成される円の直径よりも小さい。このため、インナノズル50をノズル本体40に装着した状態では、先端平坦面417における複数の第2粉末供給路432の開口432bはインナノズル50に覆われることなくその外周側に露出する。また、外周面53の軸方向に対する傾斜角度は内周面51の軸方向に対する傾斜角度より大きく、インナノズル50の厚みは先端に向かうほど順次小さくなる。なお、インナノズル50は中実となっている。
【0029】
(アウタノズル60)
図2、
図3に示すように、アウタノズル60は全体として先端に向かうほど縮径する逆円錐筒状をなし、クロム銅にて形成されている。アウタノズル60は円環状の基部61を有する。また、アウタノズル60は基部61の内周縁に連続し先端に向かうほど径が小さくなる逆円錐板状の内周部としての内周壁62と、基部61の外周縁に連続し先端に向かうほど径が小さくなる逆円錐板状の外周部としての外周壁63を有する。外周壁63は内周壁62の外側にあり、さらにアウタノズル60は内周壁62と外周壁63の先端間に位置する円環板状の先端部としての先端壁64とを有する。これらによって構成されるアウタノズル60の内部は中空部65となっており、アウタノズル60内部の冷却水流路を構成する。内周壁62の軸方向に対する傾斜角度は、外周壁63の軸方向に対する傾斜角度より小さく、中空部65の厚みは先端に向かうほど順次小さくなる。
【0030】
基部61の外径は先端平坦面417と同径に形成されている。また、基部61の内径は小径円筒部412の先端平坦面417に複数形成された第2粉末供給路432の開口432bを結んで形成される円の直径よりも大きい。そして、基部61と外周壁63の基端側一部は円筒状に形成されて外周に雄ネジが形成されている。基部61と小径円筒部412にまたがる形で雌ネジを有する固定ナット70が螺合されてアウタノズル60はインナノズル50を外嵌した状態でノズル本体40に固定されている。アウタノズル60をノズル本体40に装着した状態では、先端平坦面417における複数の第2粉末供給路432の開口432bはアウタノズル60に覆われることなく基部61の内周側に露出する。
【0031】
そして、
図2に示すように、インナノズル50の外周面53とアウタノズル60の内周壁62との間には周方向にわたり一定厚みの逆円錐筒状の空間が形成されている。この空間は基端側において第2粉末供給路432の開口432bに面し、先端側は開放された金属粉末供給路54となる。金属粉末供給路54を構成する逆円錐筒の仮想上の頂点はインナノズル50から照射されたレーザと重なる位置にある。肉盛に用いられる金属粉末は、これが貯留されている粉体供給装置12から粉末供給管121を通り分配器122にて4つの枝管123に分岐しノズル本体40の各第1粉末供給路431を通り拡散空間424に入る。金属粉末は拡散空間424で周方向に拡散し、また吐出気体供給装置13から気体供給管131を経てノズル本体40の気体供給路からの吐出気体とともに開口432aから第2粉末供給路432を通り開口432bからノズル本体40外に吐出される。第2粉末供給路432の開口432bは金属粉末供給路54に面している。このため、金属粉末は逆円錐筒状の金属粉末供給路54を通ってレーザが照射されている加工対象物19の肉盛り箇所へと吹き付けられ、加工対象物19に肉盛りが行われる。
【0032】
図3、
図4(a)に示すように、基部61には軸方向に延びる円孔である導入孔66が形成されている。また、
図4(a)に示すように、導入孔66に時計回りに隣接した箇所には軸方向に延びる円孔である排出孔67が形成されている。これら導入孔66及び排出孔67はアウタノズル60内部の中空部65に連通している。そして、基部61には背面視で円弧状の連絡溝68が形成されている。連絡溝68は基部61の基端側に開口する有底溝であり、一端68aに排出孔67が位置し、他端68bは導入孔66と周方向に180度離間した位置にある。導入孔66、排出孔67及び連絡溝68は1つの円上に形成されている。
図3に示すように、アウタノズル60の導入孔66は、先端平坦面417における冷却水供給路44の開口44bに対向して位置する。また、アウタノズル60の連絡溝68の他端68bは、先端平坦面417における冷却水供給路44の開口45bに対向して位置する。
【0033】
次に、アウタノズル60の内部に形成されている冷却水流路についてより具体的に説明する。先に説明したとおり、アウタノズル60の基部61と内周壁62と外周壁63と先端壁64とで構成されるアウタノズル60の内部は中空部65となっている。
【0034】
図4(b)に基部61と内周壁62だけの正面図、すなわちアウタノズル60から外周壁63と先端壁64とを除去した模式図を示す。この図ではアウタノズル60の中空部65が露出していることとなる。
図4(b)に示すように、中空部65には、導入孔66と排出孔67との間に仕切壁69が形成されている。仕切壁69は中空部65内をその形成箇所にて周方向に閉塞し、中空部65は仕切壁69により周方向の1箇所を閉塞された略C状に形成されている。このため、中空部65内には導入孔66から同図中時計回りに中空部65内を周回して排出孔67に至る流路が形成される。また、排出孔67は連絡溝68に連通し、連絡溝68は導入孔66から周方向に180度離れた位置に他端68bを有する。これら導入孔66、中空部65、排出孔67、連絡溝68によりアウタノズル60の冷却材流路としての冷却水流路が形成される。
【0035】
このような冷却水流路を有するアウタノズル60を製造するには、基部61と内周壁62とが一体となった構成を第1部材として製造し、また、外周壁63と先端壁64とが一体となった構成を第2部材として製造する。さらに仕切壁69を製造する。第1部材に仕切壁69を溶接等により固定し、その後に第2部材を上から被せて接合部分を接着あるいは溶接等することによりアウタノズル60を製造することができる。なお、金属3Dプリンタを用いることにより上記構成のアウタノズル60を一体形成することも可能である。
【0036】
(肉盛加工ノズル16における冷却水の流れ)
図3、
図4に示すように、ノズル本体40に形成された冷却水供給路44は小径円筒部412の先端平坦面417に開口44bを有する。また、ノズル本体40に形成された冷却水排出路45は小径円筒部412の先端平坦面417に開口45bを有している。両開口44b、45bは周方向に180度離間している。そして、冷却水供給路44の開口44bに対向してアウタノズル60の導入孔66が位置し、冷却水排出路45の開口45bに対向してアウタノズル60の連絡溝68の他端68bが位置する。なお、連絡溝68は基部61の基端側が開口するが小径円筒部412の先端平坦面417にて閉塞される。
【0037】
冷却水は冷却水循環装置14から冷却水供給管141を経てノズル本体40に導入される。そして、冷却水はノズル本体40の冷却水供給路44を通り、対向する導入孔66からアウタノズル60の中空部65に入る。冷却水は中空部65内を排出孔67に向けて
図4(b)中の時計回りに約360度周回しアウタノズル60を冷却する。その後、冷却水は排出孔67から中空部65外に出るが排出孔67は連絡溝68の一端68aにつながっており、冷却水は連絡溝68内を
図4(a)の時計回り、
図4(b)の反時計回りに他端68bへと移動する。連絡溝68の他端68bには冷却水排出路45の開口45bが対向しているため、冷却水は冷却水排出路45をとおりノズル本体40の外部へと排出され、冷却水排水管142を通って冷却水循環装置14へと戻る。冷却水は冷却水循環装置14にて冷却され、再び循環される。
【0038】
上記実施形態の肉盛加工ノズル16によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、アウタノズル60に冷却水流路が形成されている。このため、アウタノズル60に形成された冷却水流路を流れる冷却水によりアウタノズル60を冷却することができる。
【0039】
(2)アウタノズル60が冷却水により冷却されることにより、肉盛中に飛散したスパッタがアウタノズル60の表面に付着しにくくなる。
(3)アウタノズル60の表面にスパッタが付着しにくくなるため、肉盛中に作業を中断して清掃作業を行う回数を減らすことができ、連続作業時間を長く確保することができる。
【0040】
(4)アウタノズル60を基部61、内周壁62、外周壁63、先端壁64によって形成される構成の内部が中空部65となって冷却水流路を構成している。このため、アウタノズル60の外周壁63、先端壁64の内側にも冷却水が通り、アウタノズル60の先端を冷却することができる。
【0041】
(5)アウタノズル60の中空部65には導入孔66と排出孔67とが隣接して連通し、その間は仕切壁69で周方向に仕切られている。このため、冷却水は中空部65内を約360度周回することができ、アウタノズル60の全体を冷却することができる。
【0042】
(6)アウタノズル60の基部61には、排出孔67に連通する連絡溝68が導入孔66から周方向に180度離間した位置まで形成されている。このため、
図9に示すような既存の冷却水流路を有するノズル本体40にも本実施形態のアウタノズル60を用いることができる。
【0043】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・冷却に用いる媒体は水としたが、水、水と他の冷媒の混合、あるいは水以外の冷媒以外でもよい。アウタノズル60の冷却に使用できるものであればよい。
【0044】
・アウタノズル60の先端では内周壁62と外周壁63とが接合しており、先端壁64がない構成でもよい。
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化したアウタノズル60の第2の実施形態を
図5~
図6にしたがって説明する。なお、第2の実施形態のアウタノズル60は、第1の実施形態のアウタノズル60の冷却水流路を構成する中空部65の構成を変更したものであるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0045】
図5にアウタノズル60の断面図を示す。また、
図6に基部61と内周壁62だけの正面図、すなわちアウタノズル60から外周壁63と先端壁64とを除去した模式図を示す。この図ではアウタノズル60の中空部65が露出していることとなる。また、仕切壁69は第1実施形態と同様に形成されている。
【0046】
そして、
図6に示すように、中空部65には仕切壁69を基準として周方向に5本の第1壁161が60度間隔で形成されている。また、仕切壁69及び/又は第1壁161の間には6本の第2壁162が60度間隔で形成されている。すなわち、アウタノズル60内の中空部65には、仕切壁69を基準として周方向に30度間隔で第2壁162と第1壁161とが交互に形成されている。
図5に示すように第1壁161と第2壁162は、仕切壁69と同様に中空部65において内周壁62と外周壁63とにわたって形成されている。
【0047】
一方、仕切壁69は基部61から先端壁64に至る形でも形成されているが、
図5、
図6に示すように、第1壁161は中空部65において先端壁64に当接しているものの基端側は基部61との間に空間が存在する。また、第2壁162は中空部65において基部61に当接しているものの先端側は先端壁64との間に空間が存在する。
【0048】
このため、
図6に示すように、アウタノズル60の中空部65内では、第1壁161と第2壁162とにより、周方向において先端側と基端側が交互に閉塞されたジグザク状の冷却水流路が形成される。冷却水は中空部65内をジグザク状に移動しながらアウタノズル60を冷却することとなる。
【0049】
上記実施形態の肉盛加工ノズル16によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、アウタノズル60内の中空部65に第1壁161と第2壁162が形成されており、中空部65内の冷却水流路はジグザグ状となっている。このため、中空部65内には第1壁161と第2壁162により形作られた流路が形成され、冷却水はアウタノズル60の先端の冷却効率が向上する。
【0050】
(2)第1壁161と第2壁162によりアウタノズル60内部の冷却水流路がジクザク状に形成されるため、アウタノズル60全体が均等に冷却される。
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
【0051】
・第1壁161及び第2壁162の数、第1壁161の基端側、第2壁162の先端側の空間の長さ等を変更しても良い。
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化したアウタノズル60の第3の実施形態を
図7~
図8にしたがって説明する。なお、第3の実施形態も、第1の実施形態のアウタノズル60の冷却水流路を構成する中空部65を変更した構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0052】
図7にアウタノズル60の断面図を示す。また、
図8に基部61と内周壁62だけの正面図、すなわちアウタノズル60から外周壁63と先端壁64とを除去した模式図を示す。この図ではアウタノズル60の中空部65が露出していることとなる。また、仕切壁69は第1実施形態と同様に形成されている。
【0053】
図8に示すように、アウタノズル60内で中空部65は仕切壁69を挟んで一部に形成されている。すなわち、基部61の導入孔66と排出孔67の付近から先端壁64に向けた部分と先端壁64の内側から基端に向けた一定範囲の全周が中空部65となっており、
図8に示す正面視で中空部65は逆Ω状をなす。これはアウタノズル60内部に基部61から先端壁64の途中まで延び、周方向の一部を欠く正面視C字状の中実部166が形成されていることによる。なお、
図7では中実部166を基部61、内周壁62及び外周壁63とは別の構成として図示しているがこれらと一体に形成してもよい。
【0054】
アウタノズル60内部に中実部166があることにより、中空部65は導入孔66に連通し先端側に延びる流入案内路163と、仕切壁69を挟んで線対称形状に形成され、排出孔67に連通する排出案内路164とを有する。流入案内路163と排出案内路164とが案内路となる。また、中空部65は流入案内路163及び排出案内路164に連絡し、アウタノズル60の先端壁64の内側を含む領域を周回する周回路165を有する。この中空部65により構成される冷却水流路では、導入孔66から中空部65内に導入された冷却水は流入案内路163に沿ってアウタノズル60の先端側に移動する。そして、周回路165に沿ってアウタノズル60の先端側を周回しつつ冷却し、排出案内路164により基端側へと移動し、排出孔67から中空部65外へと排出される。
【0055】
上記実施形態の肉盛加工ノズル16によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、冷却水流路として、アウタノズル60内に先端を周回する周回路165を有する。このため、特にアウタノズル60の先端を集中して冷却することができる。
【0056】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・流入案内路163、排出案内路164の幅、周回路165の先端側から基端側までの長さを変更してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…肉盛り加工装置
16…肉盛加工ノズル
50…インナノズル
54…金属粉末供給路
60…アウタノズル
61…基部
62…内周壁(内周部)
63…外周壁(外周部)
64…先端壁(先端部)
65…中空部(冷却水流路)
66…導入孔(冷却水流路)
67…排出孔(冷却水流路)
68…連絡溝(冷却水流路)
69…仕切壁
165…周回路
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザが通過するレーザ通路を有するインナノズルと、前記インナノズルに外嵌されて前記インナノズルとの間に金属粉末供給路を形成するアウタノズルとを備えた肉盛加工ノズルであって、
前記アウタノズルは、前記金属粉末供給路を形成する内周部と前記内周部の外側に位置する外周部とを有しており、前記内周部と前記外周部との間に冷却材流路を有し、
前記アウタノズルは、前記内周部と前記外周部との先端間に位置する先端部を有し、前記冷却材流路は、前記先端部の内側に形成されている肉盛加工ノズル。
【請求項2】
前記冷却材流路は、前記アウタノズルの内部に形成された中空部であり、前記中空部の周方向の1箇所には前記中空部を周方向に仕切る仕切壁が形成されており、前記仕切壁を挟んで前記中空部へと冷却材を導入する導入孔と前記中空部から前記冷却材を排出する排出孔とが形成されている請求項1に記載の肉盛加工ノズル。
【請求項3】
前記冷却材流路は、前記アウタノズル内において先端側と基端側とをジグザグ状に移動しながら前記アウタノズルを周回する形状である請求項2に記載の肉盛加工ノズル。
【請求項4】
前記冷却材流路は、前記アウタノズルの内部において前記仕切壁を挟み基端から先端に向けて延びる2本の案内路と前記両案内路に連絡して前記アウタノズル内を周回する周回路によって形成されている請求項2に記載の肉盛加工ノズル。