(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111788
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】サイドシル構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240809BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D21/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088211
(22)【出願日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023016267
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 貞雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 憲一
(72)【発明者】
【氏名】リケッツ,アルトゥ-ル
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203AA31
3D203AA33
3D203BB12
3D203CA04
3D203CA25
3D203CA57
3D203CA67
3D203CA74
3D203CB03
3D203CB07
3D203CB21
3D203DB05
(57)【要約】
【課題】部品点数削減により車体軽量化を実現し、且つ側突時の衝撃吸収性に優れたサイドシル構造を提供する。
【解決手段】サイドシル構造100が、外側壁111及び内側壁112を有するサイドシル本体101と、サイドシル本体101の内部で車長方向に並ぶ複数の筒構造103を形成するエネルギー吸収構造体102とを備える。エネルギー吸収構造体102は、単一のブランク板130から形成されたベース部品121と、車長方向に間隔をあけて配置される複数の補強部品125とを有する。ベース部品121は、車長方向に延びて外側壁111の内面に接合される第1縦板部132と、第1縦板部132に設けられた複数の保持体135とを有する。補強部品125は、保持体135に保持されて車幅方向に延び、車幅方向から見て閉断面を形成する。補強部品125の車幅方向の両端部は、外側壁111及び内側壁112それぞれの内面に近接されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車長方向に延びるサイドシル本体と、
前記サイドシル本体の内部に設けられ、前記車長方向に間隔をあけて並んだ複数の筒構造を形成するエネルギー吸収構造体と、
を備え、
前記サイドシル本体が、前記車幅方向の外側の外側壁と、前記車幅方向の内側の内側壁と、を有し、
前記エネルギー吸収構造体が、
ベース部品と、
前記車長方向に間隔をあけて配置される複数の補強部品と、
を有し、
前記ベース部品が、
前記サイドシル本体の前記内部で前記車長方向に延び、前記外側壁又は前記内側壁の内面に接合される第1縦板部と、
前記第1縦板部に設けられ、前記車長方向に間隔をあけて並ぶ複数の保持体と、
を有し、
前記複数の補強部品は、前記複数の保持体にそれぞれ保持されて前記車幅方向に延び、前記車幅方向から見て閉断面を形成し、前記補強部品の前記車幅方向の両端部は、前記外側壁の前記内面及び前記内側壁の内面それぞれに近接されている、
サイドシル構造。
【請求項2】
前記ベース部品が、前記サイドシル本体と同種の金属材料で成形され、
前記第1縦板部が、前記外側壁に溶接されている、
請求項1に記載のサイドシル構造。
【請求項3】
前記第1縦板部の板厚方向が、前記車幅方向に向けられ、
前記第1縦板部は、前記外側壁の前記内面に重ね合わせられる、
請求項1に記載のサイドシル構造。
【請求項4】
前記ベース部品が、
前記車長方向に間隔をあけて設けられた複数の貫通孔と、
前記サイドシル本体の前記内部で前記車長方向に延び、前記内側壁の前記内面に重ね合わされる第2縦板部と、を更に有し、
前記複数の貫通孔と前記複数の保持体とが、前記車幅方向において前記第1縦板部と前記第2縦板部との間で、前記車長方向に交互に並べられている、
請求項1に記載のサイドシル構造。
【請求項5】
前記ベース部品が、それぞれ前記第1縦板部から前記第2縦板部へと前記複数の貫通孔のうち隣接する2つの間で前記車幅方向に延び、前記車長方向に並ぶ複数の横板部を更に有し、
前記複数の保持体が、前記複数の横板部それぞれから下方へ切り起こされて形成される、
請求項4に記載のサイドシル構造。
【請求項6】
前記ベース部品は、それぞれ前記第1縦板部から下方に且つ前記車幅方向の前記内側に延び、前記車長方向に間隔をあけて並ぶ複数の下垂体を更に有し、
前記複数の保持体が、前記複数の下垂体それぞれから連続して下方に延びる、
請求項2に記載のサイドシル構造。
【請求項7】
前記サイドシル本体が、前記外側壁及び前記内側壁の上端同士を前記車幅方向に接続する上壁を更に有し、
前記ベース部品は、前記第1縦板部の上縁部から前記車幅方向の前記内側へ延び、前記上壁の内面に重ね合わせられる上板部を更に有する、
請求項6に記載のサイドシル構造。
【請求項8】
前記保持体の前記車幅方向の少なくとも一方側に、タブ部が設けられており、
前記タブ部の表面が、前記外側壁及び前記内側壁のいずれかの前記内面に重ね合わされる、
請求項1に記載のサイドシル構造。
【請求項9】
前記補強部品が、車幅方向に見て単独で前記閉断面を形成する筒状部品である、
請求項1に記載のサイドシル構造。
【請求項10】
前記保持体の各々が、前記車長方向に一対の前フランジ部及び後フランジ部で構成されており、前記筒状部品の各々が、対応する前記保持体の前記前フランジ部と前記後フランジ部とによって挟持されている、
請求項9に記載のサイドシル構造。
【請求項11】
前記前フランジ部及び前記後フランジ部は、前記車幅方向から見て前記車長方向に線対称に形成され、
前記前フランジ部及び前記後フランジ部が、
下方へ延びる一対の下方延在部と、
前記一対の下方延在部の下端それぞれから前記車長方向において互いに近づくように延びる一対の抱え上げ部と、を形成しており、
前記筒状部品は、その上下方向の中央部において前記一対の抱え上げ部によって下から支持される、
請求項10に記載のサイドシル構造。
【請求項12】
前記筒状部品が、
前記一対の抱え上げ部に支持される一対の被支持部と、
前記一対の被支持部の前記車長方向の内縁部から下方に延びる一対の側壁下部と、
前記一対の被支持部の前記車長方向の外縁部から上方に延びる一対の側壁上部と、
を有する、請求項11に記載のサイドシル構造。
【請求項13】
前記一対の側壁下部が、前記車長方向において互いに遠ざかるように延びる、
請求項12に記載のサイドシル構造。
【請求項14】
前記筒状部品が、前記一対の側壁上部の上端同士を前記車長方向に接続する上壁を有する、
請求項13に記載のサイドシル構造。
【請求項15】
前記筒状部品の前記上壁に、貫通孔が形成されている、
請求項14に記載のサイドシル構造。
【請求項16】
前記筒状部品の前記一対の側壁上部が、前記ベース部品の前記一対の下方延在部に対して締結されている、
請求項12に記載のサイドシル構造。
【請求項17】
前記筒状部品の前記一対の側壁上部と、前記ベース部品の前記一対の下方延在部とが、これらの間のクリアランスに充填された接着材を介して接合されており、
接着剤は、前記クリアランスの上側開口から上方にあふれ、前記クリアランスを封止する、
請求項12に記載のサイドシル構造。
【請求項18】
前記サイドシル本体が、前記外側壁と前記内側壁の上端同士を前記車幅方向に接続する上壁を有し、
前記補強部品が、前記保持体に保持され且つ前記サイドシル本体の前記上壁に接合される一対の側壁と、前記一対の側壁の下端同士を前記車長方向に接続する底壁とを有するハット状部品であり、前記ハット状部品は前記サイドシル本体と共に前記閉断面を形成する、
請求項1に記載のサイドシル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドシル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両における乗員の安全性向上が求められており、かかる目的のために車体の強度等を向上させることで、衝突安全性能の向上が図られてきた。特に側面衝突(以降、側突ともいう。)は、車室に対して強い衝撃が加わりやすく、側突に対しては高い衝撃吸収性能が必要である。つまり、車体がスピンするなどして車体側部にポール等の物体が衝突した際に、衝撃エネルギーを吸収して車室を保護する必要がある。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1は、車両側部構造の一部としてサイドシルを開示している。側突発生時に乗員などを保護するために、複数の中空構造が、サイドシル本体に内蔵され、車長方向に並べられている。各中空構造は、車幅方向に延び、サイドシル本体に溶接された補強材によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の筒構造は、互いに独立して構成されている。そのため、サイドシルの部品点数及び組立工数が多くなり、ひいては重量が大きくなるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、部品点数又は組立工数を少なくして車体の軽量化を実現するとともに、側突発生時の衝撃吸収性能に優れたサイドシル構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、車長方向に延びるサイドシル本体と、前記サイドシル本体の内部に設けられ、前記車長方向に間隔をあけて並んだ複数の筒構造を形成するエネルギー吸収構造体と、を備え、前記サイドシル本体が、前記車幅方向の外側の外側壁と、前記車幅方向の内側の内側壁と、を有し、前記エネルギー吸収構造体が、ベース部品と、前記車長方向に間隔をあけて配置される複数の補強部品と、を有し、前記ベース部品が、前記サイドシル本体の前記内部で前記車長方向に延び、前記外側壁又は前記内側壁の内面に接合される第1縦板部と、前記第1縦板部に設けられ、前記車長方向に間隔をあけて並ぶ複数の保持体と、を有し、前記複数の補強部品は、前記複数の保持体にそれぞれ保持されて前記車幅方向に延び、前記車幅方向から見て閉断面を形成し、前記補強部品の前記車幅方向の両端部は、前記外側壁の前記内面及び前記内側壁の内面それぞれに近接されている、サイドシル構造を提供する。
【0008】
上記の構成によれば、複数の筒構造を形成するエネルギー吸収構造体が、ベース部品を有する。ベース部品は、車長方向に延びる第1縦板部と、車長方向に間隔をあけて並ぶ複数の保持体とを一体的に有する。各補強部品は、対応する保持体に保持され、それによりエネルギー吸収構造体の筒構造が画定される。複数の保持体が、車長方向に間隔をあけて並んでいるため、複数の筒構造もこれと同様となる。側突が発生すると、その衝撃はサイドシル本体の外側壁に入力される。補強部品の車幅方向外端部が外側壁に近接しているため、外側壁が衝撃で変形すると即座に、その衝撃が筒状部品にも流れ、衝撃を筒構造で吸収できる。このようなエネルギー吸収構造体が、単品のベース部品を使用して構成される。筒構造1つ1つが互いに独立して構成される場合と対比して、エネルギー吸収構造体ひいてはサイドシル構造の部品点数及び組立工数を削減できる。
【0009】
前記ベース部品が、前記サイドシル本体と同種の金属材料で成形され、前記第1縦板部が、前記外側壁に溶接されていてもよい。
【0010】
上記構成によれば、例えば抵抗溶接のように作業効率が高い手法を使用してベース部品をサイドシル本体に接合できるため、サイドシル構造を簡易に製造できる。外側壁が車長方向に延びる第1縦板部と接合されているため、側突発生時の衝撃がベース部品に流れやすい。
【0011】
前記第1縦板部の板厚方向が、前記車幅方向に向けられ、前記第1縦板部は、前記外側壁の前記内面に重ね合わせられてもよい。
【0012】
上記構成によれば、第1縦壁部のサイドシル本体に対する接合強度が向上し、サイドシル構造の強度が高くなる。なお、(2つの部材が)「重ね合わせられる」とは、2部材の板厚方向が揃った状態で積層されていることを意味し、直接的に面接触していてもよいし、2部材間に別部材(例えば、パッチ部材又は接着剤)が介装されていてもよい。
【0013】
前記ベース部品が、前記車長方向に間隔をあけて設けられた複数の貫通孔と、前記サイドシル本体の前記内部で前記車長方向に延び、前記内側壁の前記内面に重ね合わされる第2縦板部と、を更に有し、前記複数の貫通孔と前記複数の保持体とが、前記車幅方向において前記第1縦板部と前記第2縦板部との間で、前記車長方向に交互に並べられていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、複数の保持体が、片持ち梁状ではなく、第1縦板部と第2縦板部との両方によって支持される。ベース部品が、外側壁と内側壁とにより車幅方向に挟まれた状態でサイドシル本体に安定的に取り付けられる。そのため、各筒構造の強度あるいは衝撃吸収性能が向上する。また、複数の筒構造同士の間に貫通孔が形成される。車長方向に長尺のベース部品を使用することで部品点数及び組立工数を削減できると共に、車長方向に長尺のベース部品を使用していてもサイドシル構造が軽量になる。
【0015】
前記ベース部品が、それぞれ前記第1縦板部から前記第2縦板部へと前記複数の貫通孔のうち隣接する2つの間で前記車幅方向に延び、前記車長方向に並ぶ複数の横板部を更に有し、前記複数の保持体が、前記複数の横板部それぞれから下方へ切り起こされて形成されてもよい。
【0016】
上記構成によれば、切り起こし加工の使用により、保持体の第1縦板部への一体形成を実現でき、また、筒構造と貫通孔との交互配列を実現できる。
【0017】
前記ベース部品は、それぞれ前記第1縦板部から下方に且つ前記車幅方向の前記内側に延び、前記車長方向に間隔をあけて並ぶ複数の下垂体を更に有し、前記複数の保持体が、前記複数の下垂体それぞれから連続して下方に延びていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、複数の保持体が、第1縦板部に下垂体を介して連続的に設けられると共に、第1縦板部の下方且つ車幅方向内側に配置される。保持体に保持される補強部品と第1縦板部との干渉を容易に回避できる。補強部品の車幅方向外端部を外側壁の内面により近付けることができ、外側壁に入力された衝撃を補強部品に流しやすくなる。
【0019】
前記サイドシル本体が、前記外側壁及び前記内側壁の上端同士を前記車幅方向に接続する上壁を更に有し、前記ベース部品は、前記第1縦板部の上縁部から前記車幅方向の前記内側へ延び、前記上壁の内面に重ね合わせられる上板部を更に有していてもよい。
【0020】
上記構成によれば、ベース部品が、車幅方向のみならず上下方向にもサイドシル本体と係合又は支持されるため、サイドシル構造の全体としての強度が向上する。
【0021】
前記保持体の前記車幅方向の少なくとも一方側に、タブ部が設けられており、前記タブ部の表面が、前記外側壁及び前記内側壁のいずれかの前記内面に重ね合わされてもよい。
【0022】
上記構成によれば、筒構造のサイドシル本体への接合強度が向上し、筒構造の強度ひいては衝撃吸収性能が向上する。
【0023】
前記補強部品が、車幅方向に見て前記閉断面を単独で形成する筒状部品であってもよい。
【0024】
前記保持体の各々が、前記車長方向に一対の前フランジ部及び後フランジ部で構成されており、前記筒状部品の各々が、対応する前記保持体の前記前フランジ部と前記後フランジ部とによって挟持されていてもよい。
【0025】
上記構成によれば、各筒状部品が一対のフランジ部で挟持されるため、筒状部品のベース部品への接合強度が向上する。筒構造の強度ひいては衝撃吸収性能が向上する。
【0026】
前記前フランジ部及び前記後フランジ部は、前記車幅方向から見て前記車長方向に線対称に形成され、前記前フランジ部及び前記後フランジ部が、下方へ延びる一対の下方延在部と、前記一対の下方延在部の下端それぞれから前記車長方向において互いに近づくように延びる一対の抱え上げ部と、を形成しており、前記筒状部品は、その上下方向の中央部において前記一対の抱え上げ部によって下から支持されていてもよい。
【0027】
上記構成によれば、各筒状部品が、車幅方向に挟持されるだけでなく、下から支えられるため、筒状部品のベース部品への接合強度が一層向上する。
【0028】
前記筒状部品が、前記一対の抱え上げ部に支持される一対の被支持部と、前記一対の被支持部の前記車長方向の内縁部から下方に延びる一対の側壁下部と、前記一対の被支持部の前記車長方向の外縁部から上方に延びる一対の側壁上部と、を有してもよい。
【0029】
上記構成によれば、筒状部品の上下方向の中央部において筒状部品を下から支えるという構造を実現できる。
【0030】
前記一対の側壁下部が、前記車長方向において互いに遠ざかるように延びていてもよい。
【0031】
上記構成によれば、側壁下部が、ベース部品の抱え上げ部の下方且つ車幅方向外側に位置付けられる。筒状部品がベース部品に対して上下方向及び車長方向に変位することを抑制でき、筒状部品のベース部品への接合強度が一層向上する。
【0032】
前記筒状部品が、前記一対の側壁上部の上端同士を前記車長方向に接続する上壁部を有してもよい。
【0033】
上記構成によれば、閉断面を有する筒状部品を実現できる。
【0034】
前記筒状部品の前記上壁部に、貫通孔が形成されていてもよい。
【0035】
上記構成によれば、仮に筒状部品の上方の空間に水が浸入しても、水が貫通孔を介して下方へ排出される。貫通孔が水抜き穴として機能でき、筒状部品が腐食しにくくなる。
【0036】
前記筒状部品の前記一対の側壁上部が、前記ベース部品の前記一対の下方延在部に対して締結されていてもよい。
【0037】
上記構成によれば、筒状部品がベース部品に対して締結という手法を用いて機械的に接合される。接合強度の向上が図られる。また、冶金的接合を適用する場合と対比して、筒状部品及びベース部品の材料選択の自由度が向上する。例えば、ベース部品に鉄系金属を採用して筒状部品に非鉄金属を採用することが許容される。
【0038】
前記筒状部品の前記一対の側壁上部と、前記ベース部品の前記一対の下方延在部とが、これらの間のクリアランスに充填された接着材を介して接合されており、接着剤は、前記クリアランスの上側開口から上方にあふれ、前記クリアランスを封止してもよい。
【0039】
上記構成によれば、筒状部品がベース部品に対して接着という手法を用いて機械的に接合される。上記と同様の作用効果が得られる。また、接着剤が筒状部品とベース部品との間に介在し、両部品の直接的接触が回避される。2つの部品にイオン化傾向や剛性が異なる材料が使用されている場合には、電蝕や損耗を回避できるので有益である。更に、接着剤が、クリアランスの上側開口を封止するため、水等の異物がクリアランスに侵入することを阻止でき、筒構造の腐食防止に資する。
【0040】
前記サイドシル本体が、前記外側壁と前記内側壁の上端同士を前記車幅方向に接続する上壁を有し、前記補強部品が、前記保持体に保持され且つ前記サイドシル本体の前記上壁に接合される一対の側壁と、前記一対の側壁の下端同士を前記車長方向に接続する底壁とを有するハット状部品であり、前記ハット状部品は前記サイドシル本体と共に前記閉断面を形成してもよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、部品点数又は組立工数を少なくして車体の軽量化を実現でき、側突発生時の衝撃吸収性能に優れたサイドシル構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】第1実施形態に係るサイドシルが適用された車両の車体を示す斜視図。
【
図2】第1実施形態に係るサイドシルを示す横断面図。
【
図3A】
図2のIII-III線に沿って示すサイドシルの縦断面図。
【
図4】第1実施形態に係るベース部品のブランク板の平面図。
【
図5】第1実施形態に係るエネルギー吸収構造体の斜視図。
【
図6】第2実施形態に係るサイドシルを示す横断面図。
【
図7A】
図6のVII-VII線に沿って示すサイドシルの縦断面図。
【
図8】第2実施形態に係るエネルギー吸収構造体の斜視図。
【
図9】第3実施形態に係るサイドシルを示す横断面図。
【
図10A】
図9のX-X線に沿って示すサイドシルの縦断面図。
【
図11】第3実施形態に係るベース部品のブランク板の平面図。
【
図12A】第3実施形態に係るエネルギー吸収構造体を車幅方向外側から見た斜視図。
【
図12B】第3実施形態に係るエネルギー吸収構造体を車幅方向内側から見た斜視図。
【
図13】第4実施形態に係るサイドシルを示す横断面図。
【
図14A】
図13のXIV-XIV線に沿って示すサイドシルの斜視断面図。
【
図14B】
図13のXIV-XIV線に沿って示すサイドシルの一部を拡大した縦断面図。
【
図15】第4実施形態に係るサイドシルを示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、全図を通じて同一の又は対応する要素には同一の参照符号を付して詳細な説明の重複を省略する。車長方向は前後方向と対応し、車幅方向は左右方向と対応する。車幅方向外側とは、車両の車幅中心線から遠い側であり、車幅方向の内側とは、車両の車幅中心線に近い側である。図中の×印は、スポット溶接による接合点を示す。
【0044】
図1は、実施形態に係るサイドシル100が適用された車両1の車体2を示す。車両1は、走行用の動力源としての電気モータ(不図示)と、動力源の電源としてのバッテリ3とを備えた電気自動車又はハイブリッド車である。車体2は、車幅方向の両側下部で車長方向に延びる一対のサイドシル100を備えている。一対のサイドシル100は、左右対称である。バッテリ3は、低背直方体状の筐体に収容され、一対のサイドシル100の間に配置され、一対のサイドシル100に支持される。側突の発生による衝突エネルギーが車両1に入力された場合には、サイドシル100がこの衝撃を吸収し、それによりバッテリ3が保護される。
【0045】
図2及び
図3Aを参照して、サイドシル100は、サイドシル本体101及びエネルギー吸収構造体102を備える。サイドシル本体101は、車長方向に延びる。エネルギー吸収構造体102は、サイドシル本体101の内部に設けられる。エネルギー吸収構造体102は、車長方向に間隔をあけて並んだ複数の筒構造103を形成する。各筒構造103は、サイドシル本体101の内部で車幅方向に延びる。
【0046】
図2を参照して、サイドシル本体101は、車幅方向外側で上下方向に延びる外側壁111と、車幅方向内側で上下方向に延びる内側壁112と、外側壁111及び内側壁112の上端同士を車幅方向に接続する上壁113と、外側壁111及び内側壁112の下端同士を車幅方向に接続する下壁114とを有する。サイドシル本体101は、車長方向から見て略長方形状の閉断面を有し、4つの壁111~114が、サイドシル本体101の内部空間を画定する。サイドシル本体101は、上壁113の車幅方向中央部から上方に延びる上フランジ115と、下壁114の車幅方向中央部から下方に延びる下フランジ116とを更に有する。
【0047】
サイドシル本体101は、主として、外サイドシル117及び内サイドシル118の2つの部品からなる。外サイドシル117及び内サイドシル118はどちらも、鋼などの鉄系金属材料で成形され、ハット形の断面を有する。
【0048】
外サイドシル117は、外側壁111としてのウェブ部、ウェブ部の上下両端からそれぞれ車幅方向内側に延びる外側上壁117a及び外側下壁117b、外側上壁117aの内端から上方に延びる外側上フランジ117c、及び外側下壁117bの内端から下方に延びる外側下フランジ117dを有する。外サイドシル117は、外側壁111、外側上壁117a、及び外側下壁117bによって画定される空間117eを形成する。
【0049】
これと同様にして、内サイドシル118は、内側壁112としてのウェブ部、ウェブ部の上下両端からそれぞれ車幅方向外側に延びる内側上壁118a及び内側下壁118b、内側上壁118aの外端から上方に延びる内側上フランジ118c、及び内側下壁118bの外端から下方に延びる内側下フランジ118dを有する。内サイドシル118は、内側壁112、内側上壁118a、及び内側下壁118bによって画定される空間118eを形成する。
【0050】
内外の上フランジ117c,118cが車幅方向に重ね合わされてスポット溶接され、内外の下フランジ117d,118dが車幅方向に重ね合わされてスポット溶接される。なお、上下どちらのスポット溶接に関しても、複数の接合点が車長方向に間隔をおいて設定される。内外の上壁117a,118aが、サイドシル本体101の全体としての上壁113を構成し、内外の下壁117b,118bが、サイドシル本体101の全体としての下壁114を構成する。内外の上フランジ117c,118cが、サイドシル本体101の全体としての上フランジ115を構成し、内外の下フランジ117d,118dが、サイドシル本体101の全体としての下フランジ116を構成する。内外の空間117e,118eが車幅方向に連なり、それにより、サイドシル本体101に上記の内部空間がもたらされる。
【0051】
図2及び
図3A~
図3Cを参照して、本実施形態に係るエネルギー吸収構造体102は、ベース部品121、アウタパッチ122、インナパッチ123、及び筒状部品125を有する。筒状部品125は、エネルギー吸収構造体102の補強部品の一例である。
【0052】
ベース部品121は、単体のブランク板130(
図4を参照)から形成され、車長方向に延びている。ベース部品121あるいはそのブランク板130は、サイドシル本体101と同種の金属材料(すなわち、鉄系金属材料)で成形され、全体にわたって一様な板厚を有している。筒状部品125は、サイドシル本体101及びベース部品121と異種の金属材料で成形されている。筒状部品125は、非鉄金属材料、特に、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属で成形される。本実施形態では、筒状部品125は、アルミニウム合金の押出成形品である。アウタパッチ122及びインナパッチ123は、サイドシル本体101の内面と、ベース部品121又は筒状部品125との間に介在する。アウタパッチ122及びインナパッチ123は、車長方向においてサイドシル本体101と略同じ長さを有する。
【0053】
本実施形態に係るベース部品121は、複数の貫通孔131、第1縦板部132、第2縦板部133、複数の横板部134、及び複数の保持体135を有している。各保持体135は、前後一対のフランジ部136F,136Rによって構成されている。
【0054】
複数の貫通孔131は、車長方向に間隔をおいて並べられている。第1縦板部132は、貫通孔131に対して車幅方向外側で車長方向に延びる。第2縦板部133は、貫通孔131に対して車幅方向内側で車長方向に延びる。複数の横板部134は、車長方向に間隔をおいて並べられている。各横板部134には、1以上(貫通孔131の個数より1少ない数)の中間横板部134a、前端横板部134b、及び後端横板部134cが含まれる。各中間横板部134aは、複数の貫通孔131のうち隣接する2つの間に配置される。前端横板部134bは、前末端の貫通孔131fの前に配置され、縦板部132,133の前端同士を接続する。後端横板部134cは、後末端の貫通孔131rの後に配置され、縦板部132,133の後端同士を接続する。このようにして、ベース部品121は、全体として矩形枠状且つ梯子状に形成されている。
【0055】
第1縦板部132及び第2縦板部133の板厚方向は、車幅方向に向けられている。換言すれば、第1縦板部132は外側壁111と平行であり、第2縦板部133は内側壁112と平行である。横板部134の板厚方向は、上下方向に向けられている。第1縦板部132及び第2縦板部133は、横板部134の両端部それぞれから上下方向に(本実施形態では、一例として下方に)延びている。第1縦板部132は、外側壁の111内面に重ね合わされ、当該内面に接合される。第2縦板部133は、内側壁112の内面に重ね合わされる。第2縦板部133は、片面スポット溶接、アーク溶接あるいは接着等の適当な接合手法を使用して内側壁112に接合される。
図2では、この旨、すなわち第1縦板部132が車長方向に間隔をおいて設定された接合点において外側壁111とスポット溶接される一方、第2縦板部133がその他の接合手法が用いられている場合が模式的に例示されている。ただし、この関係性は逆でもよい。すなわち、第2縦板部133が内側壁112にスポット溶接され、第1縦板部132が片面スポット溶接、アーク溶接あるいは接着その他の接合手段によって外側壁111に接合されていてもよい(
図6に示す第2実施形態についても同様)。
【0056】
図4及び
図5を参照して、このような構造を有するベース部品121の成形方法について説明する。
図4は、ブランク板130の平面図である。
図4において、ハッチングは、穴開け加工(ピアシング)によりブランク板から取り除かれる領域を示し、二点鎖線は、ピアシング後の曲げ加工における折曲線を示す。ブランク板130は、ベース部品121の素材であり、一様な板厚を有する板金材である。ブランク板130は、平面視で長方形状である。ブランク板130の長手方向は、ベース部品121がサイドシル100を構成する状態において、車長方向に向けられる。
【0057】
まず、ブランク板130に穴開け加工が施され、複数の初期貫通孔130aが形成される。形成されるべき初期貫通孔130aの個数は、ベース部品121の完成状態における貫通孔131の個数と同数であり、ブランク板130の長手方向に間隔をおいて形成される。
図4におけるハッチング領域は、初期貫通孔130aの寸法あるいは形状と対応する。
【0058】
穴開け加工では、ブランク板130に上からダイ(不図示)を押し付ける。それにより、初期貫通孔130aが形成され、ダイの輪郭が初期貫通孔130aのエッジとして転写される。このとき、ブランク板130をその長手方向に沿って間欠的に搬送し、ブランク板130の停止中にダイを昇降させるという、一連の処理が規定回数繰り返され、それにより規定個数の初期貫通孔130aが形成される。これにより、複数の初期貫通孔130aを1回の昇降動作で一斉に形成する場合と対比して、穴開け加工機のサイズを小型化でき、また、ダイに付与されるべき駆動力を軽減できる。
【0059】
なお、初期貫通孔130aは、後末端のものと、前末端のものと、中間のものとで平面視の形状が互いに異なる。中間の初期貫通孔130aは、後末端の形状と前末端の形状とを車長方向に連ねた形状となっている。そこで、ダイは、少なくとも後末端の形状に適合するものと、前末端の形状に適合するものとの2つが準備され、これら少なくとも2つのダイが、互いに独立して昇降可能に構成される。
【0060】
次に、隣接する2つの初期貫通孔130aの間で1つの横板部134が残るようにして、横板部134から保持体135を下方へ切り起こす。これにより、複数の保持体135が、複数の横板部134と一対一で対応して設けられ、車長方向に間隔をあけて並べられる。このようにして、保持体135は、対応する横板部134を介して第1縦板部132に設けられ、また、第1縦板部132よりも下方へ延びる。
【0061】
本実施形態では、横板部134の前後両側で切り起こし加工が施される。各保持体135が、対応する横板部134の前縁部から下方へ切り起こされて延びる前フランジ部136Fと、対応する横板部134の後縁部から下方へ切り起こされて延びる後フランジ部136Rとで構成されている。横板部134の前縁部及び後縁部は、車長方向に傾斜することなく、車幅方向に平行に延びる。
【0062】
このように、保持体135の形成のために切り起こし加工が施されることにより、初期貫通孔130aが車長方向に広げられる。これにより、完成状態のベース部品121には、穴開け加工直後と比べて大きな貫通孔131が設けられることになる。前末端の初期貫通孔130aの周囲の部分が、前末端の保持体135の前フランジ部136Fとなり、後末端の初期貫通孔130aの周囲の部位が、切り起こしにより後末端の保持体135の後フランジ部136Rとなる。中央の初期貫通孔130aの周囲の部位のうち前半分が、前側で隣接する横板部134に設けられた後フランジ部136Rとなり、残り後半分が、後側で隣接する横板部134に設けられた前フランジ部136Fとなる。このため、中央の貫通孔131aは、前末端及び後末端の貫通孔131f,131rの約2倍大きい。
【0063】
前フランジ部136F及び後フランジ部136Rは、上下方向に対して車長方向に傾斜しつつ、横板部134から下方へ延びる。前フランジ部136Fと後フランジ部136Rとは、車幅方向から見て前後方向に線対称である。前フランジ部136F及び後フランジ部136Rは、下方に向かうにつれて車長方向において互いに離れるように傾斜している。前フランジ部136Fは、前方に傾斜しており、後フランジ部136Rは、後方に傾斜している。
【0064】
前フランジ部136F及び後フランジ部136Rは、下方へ延びる一対の下方延在部136Fa,136Raと、一対の下方延在部136Fa,136Raの下端それぞれから車長方向において互いに近づくように延びる一対の抱え上げ部136Fb,136Rbとを形成している。つまり、上記のように切り起こし加工が行われた後、その先端部に曲げ加工が施され、それにより、フランジ部136F,136Rに抱え上げ部136Fb,136Rbが設けられる。抱え上げ部136Fb,136Rbの形成のための折り曲げ線(すなわち、下方延在部136Fa,136Raと抱え上げ部136Fb,136Rbとのコーナー部)は、車長方向及び上下方向に傾斜することなく、車幅方向に直線的に延びている。
【0065】
次に、第1縦板部132及び第2縦板部133に曲げ加工が施され、それにより、第1縦板部132及び第2縦板部133の板厚方向が車幅方向に向けられる。また、各フランジ部136F,136R(特に、その下方延在部136Fa,136Ra)に、1以上のボルト挿通孔137が設けられる。本実施形態では、各下方延在部136Fa,136Raに、2つのボルト挿通孔137が、車幅方向に離れて配置されている。
【0066】
以上の過程より、ベース部品121が完成する。完成状態において、複数の貫通孔131と、横板部134及び保持体135の複数の組とが、車幅方向において第1縦板部132と第2縦板部133との間で、車長方向に交互に並べられている。
【0067】
図3A~
図3C及び
図5を参照して、筒状部品125は、複数の保持体135それぞれに一対一で対応して設けられている。各筒状部品125は、車幅方向に延びる状態で対応する保持体135に保持される。各筒状部品125は、車幅方向から見て単独で閉断面を形成する。各筒状部品125の車幅方向の両端部は、外側壁111の内面及び内側壁112の内面にそれぞれ近接される(
図2を参照)。本実施形態では、筒状部品125がアルミニウム合金の押出成形品であり、ベース部品121が鉄系金属材料で成形されているため、筒状部品125がベース部品121に直接的に接触していると、電蝕により筒状部品125の損耗が早まる。近接配置により直接的接触を回避しているため、筒状部品125の寿命が長くなる。
【0068】
以降の説明において、保持体135が前後対称の一対のフランジ部136F,136Rで構成されている場合において、「車長方向内側」とは、一対のフランジ部136F,136Rの対称軸に近づく側(前フランジ部136Fにとっては後側、後フランジ部136Rにとっては前側)を意味し、「車長方向外側」とは、一対のフランジ部136F,136Rの対称軸から遠い側(前フランジ部136Fにとっては前側、後フランジ部136Rにとっては後側)を意味する。
【0069】
筒状部品125は、上壁161、底壁162、前後一対の側壁163F,163Rを有する。上壁161は、側壁163F,163Rの上端同士を車長方向に接続する。底壁162は、側壁163F,163Rの下端同士を車長方向に接続する。各側壁163F,163Rは、上端と下端との間に位置付けられた被支持部164F,164Rを有する。被支持部164F,164Rは、車幅方向に延びると共に車長方向に幅を有する。被支持部164F,164Rは、車長方向内側から外側に向かうにつれて上向きに傾斜している。被支持部164F,164Rの板厚方向は、下に向かうほど車長方向外側に向けて傾斜してはいるものの、上下方向の成分を有している。
【0070】
各側壁163F,163Rは、側壁上部165F,165R及び側壁下部166F,166Rを更に有する。側壁上部165F,165Rは、被支持部164F,164Rの車長方向外縁部から上方に延び、上壁161に接続される。側壁下部166F,166Rは、被支持部164F,164Rの車長方向内縁部から下方に延び、底壁162に接続される。
【0071】
各側壁下部166F,166Rは、V状に折り曲げられており、被支持部164F,164Rと底壁162との上下中間部分において車長方向外側へ突出している。そのため、一対の側壁下部166F,166Rは、まず被支持部164F,164Rから車長方向において互いに遠ざかるようにして下方に延び、次いで車長方向に互いに近づくようにして下方に延びる。
【0072】
筒状部品125は、上壁161に形成された貫通孔169を更に有する。本実施形態では、1つの貫通孔169が、上壁161の車長方向の中央部に設けられている。上壁161は、貫通孔169に向けて傾斜している。すなわち、上壁161は、前側の側壁163Fの上端から、後方に向かうにしたがって下方に傾斜した前傾斜部161Fと、後側の側壁163Rの上端から前方に向かうにしたがって下方に傾斜した後傾斜部161Rとを有し、車幅方向から見て下に凸のV状である。
【0073】
サイドシル100を組み立てるに際しては、上記のとおり、単体のブランク板130に所要のプレス加工を施すことにより、単品としてのベース部品121が準備される。また、ベース部品121に設けられている保持体135の個数に応じて、複数の筒状部品125が準備される。図示例では、保持体135及び筒状部品125の個数が4であるが、この個数は2以上であれば特に限定されない。
【0074】
次に、筒状部品125が保持体135に保持される。筒状部品125は、前フランジ部136Fと後フランジ部136Rとの間の領域に、車幅方向に挿入される。このとき、上壁161が、横板部134の下面と近接対向し、一対の側壁上部165F,165Rが、一対の下方延在部136Fa,136Raそれぞれの内面と近接対向し、一対の被支持部164F,164Rが、一対の抱え上げ部136Fb,136Rbそれぞれの上面と近接対向する。これにより、各筒状部品125は、前フランジ部136Fと後フランジ部136Rとにより車長方向に挟持される。また、被支持部164F,164Rは、抱え上げ部136Fb,136Rbに支持される。換言すれば、筒状部品125は、その上下方向の中央部において一対の抱え上げ部136Fb,136Rbによって下から支持される。
【0075】
フランジ部136F,136Rによる挟持及び吊下げだけでも、筒状部品125は、ベース部品121に取り付けられた状態となり得る。接合強度の向上のため、ボルト126が、ボルト挿通孔137に挿通される。ここでいうボルト126とは、一般的で汎用的なネジのみならず、FDWで用いられる締結具を含む。それにより筒状部品125の側壁上部165F,165Rが、ベース部品121の下方延在部136Fa,136Raに対して締結される。また、筒状部品125の電蝕を回避あるいは軽減するため、接合には接着剤127も利用されるとともに、筒状部品125には、下記の構造が付加されている。
【0076】
筒状部品125の前側の側壁上部165Fには、局所的に車長方向外側(前側)に突出した側リッジ部167Fが設けられる。側リッジ部167Fは、車幅方向から見て前に凸であり、前フランジ部136Fの下方延在部136Faに重ね合わせられる。本実施形態では、2つの側リッジ部167Fが、前側の側壁上部165Fの上端部及び下端部それぞれに設けられている。そのため、側壁上部165Fの大部分が、前フランジ部136Fの下方延在部136Faの内面(後面)から後方に離れている。これと同様にして、後側の側壁上部165Rにも、局所的に車長方向外側(後側)に突出した側リッジ部167Rが設けられている。
【0077】
筒状部品125は、前側の側壁上部165Fの下端と、前側の被支持部164Fの車長方向外縁部との間で、上下方向に延びる退避壁168Fを有する。仮に退避壁168Fが無ければ、側壁上部165Fと被支持部164Fとは、退避壁168Fよりも車長方向外側(前側)で交差する。筒状部品125がベース部品121と干渉しやすく、組付けが困難となり、あるいは不要な電蝕を生じさせる要因となり得る。退避壁168Fを設けたことで、筒状部品125とベース部品121との干渉を避けやすくなり、筒状部品125のベース部品121への組み付け容易化でき、不要な電蝕を回避できる。これと同様にして、後側の側壁上部165Rと、後側の被支持部164Rとの間にも、退避壁168Rが設けられている。
【0078】
接着剤127は、前フランジ部136Fと前側の側壁163Fとの間のクリアランスと、後フランジ部136Rと後側の側壁163Rとの間のクリアランスとの間に塗布され、それにより、筒状部品125がベース部品121に接着される。クリアランスは、下方延在部136Fa,136Raと側壁上部165F,165Rの上端縁とにより画定される上側開口を介し、筒状部品125の上壁161との間の上内部空間103aと連通し得る。筒状部品125をベース部品121に取り付けたときに、上側開口からあふれ出すために十分に多量の接着剤127が、予め塗布される。それにより、接着剤127のうち、上側開口から上方にあふれた余剰部127aが、クリアランスを上内部空間103aから封止する。これにより、上内部空間103aに水が浸入することがあっても、その水がクリアランスに浸入するのを阻止でき、筒状部品125の耐久性が向上する。また、貫通孔169が上内部空間103a内に浸入した水を下方へ排出でき、この点からも、水がクリアランスに浸入するおそれを低減できる。
【0079】
(第2実施形態)
次に、
図6~
図8を参照して、上記実施形態との相違を中心に、第2実施形態に係るサイドシル200について説明する。サイドシル本体101、ベース部品121、アウタパッチ122及びインナパッチ123は、第1実施形態のものと同様である。エネルギー吸収構造体202の補強部品の一例である筒状部品225の材料及び構造が、第1実施形態のものと相違し、そのため、エネルギー吸収構造体202及びその筒構造203の構成が、第1実施形態のものと相違している。
【0080】
各筒状部品225は、サイドシル本体101及びベース部品121と同種の金属材料で成形されている。この金属材料は、一例として、鋼などの鉄系金属材料である。筒状部品225は、第1実施形態と同様にして車幅方向に延びる閉断面を有するものの、鉄系金属材料は押出成形には適さない。そこで、各筒状部品225が、サイドシル本体101と同様にして、ハット状断面を有する前筒状部品225F及び後筒状部品225Rを重ね合わせ溶接することにより構成されている。
【0081】
筒状部品225は、全体として、第1実施形態と同様の断面を有している。すなわち、筒状部品225は、上壁261、底壁262、及び前後一対の側壁263F,263Rを有し、各側壁263F,263Rが、被支持部264F,264R、側壁上部265F,265R、及び側壁下部266F,266Rを有する。上壁261及び底壁262は、前後の筒状部品225F,225Rに分割されている。前側の側壁263Fは、前筒状部品225Fに設けられ、後側の側壁263Rは、後筒状部品225Rに設けられている。前筒状部品225Fは、上壁261の前半部の先端から上方に延びる前上フランジ部225Fcと、底壁262の前半部の先端から下方に延びる前下フランジ部225Fdとを有する。後筒状部品225Rは、上壁261の後半部の先端から上方に延びる後上フランジ部225Rcと、底壁262の後半部の先端から下方に延びる後下フランジ部225Rdとを有する。前後の上フランジ部225Fc,225Rcが重ね合わせ溶接され、前後の下フランジ部225Fd,225Rdが重ね合わせ溶接されることにより、筒状部品225が完成する。この重ね合わせ溶接では、ブラケット225Cが設けられる。ブラケット225Cは、前後の上フランジ部225Fc,225Rcに挟まれ且つ前後の下フランジ部225Fd,225Rdに挟まれ、筒状部品225の車長方向中心部において車幅方向及び上下方向に延びる。このようなブラケット225Cの存在により、筒状部品225の強度あるいは剛性が向上する。
【0082】
このように構成される筒状部品225は、概ねの外形は、第1実施形態の筒状部品125と同様であるために、第1実施形態と同様にしてベース部品121に組み付けられ、各筒状部品225の車幅方向の両端部は、外側壁111の内面及び内側壁112の内面にそれぞれ近接される。
図7Cでは、ボルト126及び接着剤127を使用して第1実施形態と同様にして筒状部品225がベース部品121に接合されている。ただし、これは一例である。本実施形態では、筒状部品225がベース部品121と同種の金属材料で成形されているため、筒状部品225は、抵抗溶接等の冶金的接合を使用してベース部品121に接合されることが許容される。
【0083】
(第3実施形態)
次に、
図9~
図12Bを参照して、上記実施形態との相違を中心に、第3実施形態に係るサイドシル300について説明する。サイドシル本体101、筒状部品125、アウタパッチ122及びインナパッチ123は、第1実施形態のものと同様である。ベース部品321の構造が、第1実施形態のものと相違し、そのため、エネルギー吸収構造体302及びその筒構造303の構成が、第1実施形態のものと相違している。
【0084】
本実施形態に係るベース部品321は、第1縦板部332、複数の下垂体333、上板部334、複数の保持体335、及び複数のタブ部338F,338Rを有する。上記実施形態とは異なり、貫通孔及び第2縦板部を有していない。
【0085】
第1縦板部332は、第1実施形態と同様にして、サイドシル本体101の内部で車長方向に延び、外側壁111の内面に接合される。複数の下垂体333は、車長方向に間隔をあけて並べられており、各下垂体333は、第1縦板部332から下方且つ車幅方向の内側に延びる。複数の保持体335は、複数の下垂体333に一対一で対応しており、各保持体335は、対応する下垂体333から連続して下方に延びる。上板部334は、第1縦板部332の上縁部から車幅方向の内側へ延び、上壁113の内面に重ね合わされる。
【0086】
下垂体333は、第1縦板部332から連続して下方へ延びる下方延在部333aと、下方延在部333aの下端から車幅方向内側へ延びる横板部333bとを有する。横板部333bは、その板厚方向を上下方向に向けた姿勢で、第1縦板部332の下方に配置される。保持体335は、第1及び第2実施形態と同様にして、横板部333bの前縁部及び後縁部それぞれから下方に延びる前後一対のフランジ部136F,136Rによって構成される。各フランジ部136F,136Rは、第1及び第2実施形態と同様にして、下方延在部136Fa,136Raと抱え上げ部136Fb,136Rbとを有する。筒状部品125は、第1実施形態と同様にして、保持体335に保持される。各筒状部品125の車幅方向の両端部は、外側壁111の内面及び内側壁112の内面にそれぞれ近接される。
【0087】
タブ部338F,338Rは、フランジ部136F,136Rに一対一で対応している。すなわち、各保持体335に前後一対のタブ部338F,338Rが設けられている。前タブ部338Fは、前フランジ部136Fの下方延在部136Faの車幅方向外側縁部から折り曲げられる。後タブ部338Rは、後フランジ部136Rの下方延在部136Raの車幅方向外側縁部から折り曲げられる。タブ部338F,338Rの板厚方向は、車幅方向に向けられている。タブ部338F,338Rは、外側壁111の内面に重ね合わされ、スポット溶接等の冶金的接合手段を用いて外側壁111に接合される。タブ部は、ベース部品321の車幅方向外側縁部に代えて又は加えて、内側縁部に設けられていてもよく、その場合、タブ部の表面は、内側壁112の内面に重ね合わされる。このようなベース部品321も、
図11に示すとおり、ブランク板330に穴開け加工を施して複数の初期貫通孔330aを形成し、所要の曲げ加工(切り起こし加工を含む)を施すことにより、上記構成を有した単一の部品として成形される。
【0088】
(第4実施形態)
次に、
図13~
図15を参照して、上記実施形態との相違を中心に、第4実施形態に係るサイドシル400について説明する。本実施形態では、サイドシル400のエネルギー吸収構造体402が、ベース部品421、アウタパッチ122、インナパッチ123、及びハット状部品425を有する。ハット状部品425は、エネルギー吸収構造体402の補強部品の一例として、上記各実施形態の筒状部品に代わり、サイドシル400を構成する。この構成の相違により、筒構造403の構成が、第1実施形態のものと相違する。
【0089】
ベース部品421は、第1縦板部432、複数の横板部434、及び複数の保持体435を有する。第2縦板部(例えば、
図5の符号133)が省略されており、そのため貫通穴(例えば、
図2の符号131)も省略されている。ベース部品421は、1枚のブランク板のプレス加工により構成された単体の部品である。
【0090】
第1縦板部432は、車長方向に延び、板厚方向を車幅方向に向けた姿勢でサイドシル本体101の外側壁111に接合される。複数の横板部434は、板厚方向を上下方向に向けた姿勢で、サイドシル本体101の内部において車長方向に間隔をあけて配置される。横板部434は、平面視で長方形状であり、横板部434の車幅方向外側端部は、第1縦板部432に一体的に接続されている。横板部434は、車幅方向に延びる前縁部及び後縁部と、車長方向に延びて前縁部及び後縁部の車幅方向内側端部同士を接続する内縁部とを備える。
【0091】
複数の保持体435は、複数の横板部434と一対一で対応する。各保持体435は、車長方向に一対のフランジ部435F,435Rで構成される。各フランジ部435F,435Rは、車長方向に見て車幅方向に見て長尺の長方形状である。前フランジ部435Fは、横板部434の前縁部から上方へ切り起こすことによって構成され、後フランジ部435Rは、横板部434の後縁部から上方へ切り起こすことによって構成される。このように、保持体435は、横板部434を介して第1縦板部432に設けられる。
【0092】
ハット状部品425は、底壁462及び一対の側壁463F,463Rを有する。底壁462は、一対の側壁463F,463Rの下端同士を車長方向に接続する。底壁462は、車幅方向に延びる前縁部及び後縁部を有する。前側壁463Fは、底壁462の前縁部から上方に延び、後側壁463Rは、底壁462の後縁部から上方に延びる。
【0093】
本実施形態では、底壁462の車長方向の中央部が、上方に隆起している。これにより、底壁462に、車幅方向に延びる突出部462aが設けられる。突出部462aの上面は、横板部434の下面に当接して接合されている。底壁462の前縁部及び後縁部は、突出部462aの上面よりも下方に位置付けられている。すなわち、側壁463F,463Rは、突出部462aの上面及び横板部434の下面よりも下方に位置から、上方へ延びる。前側壁463Fは、保持体435の前フランジ部435Fに前から当接して接合される。後側壁463Rは、保持体435の後フランジ部435Rに後から当接して接合される。第1~第3実施形態では、補強部品としての筒状部品が、第1縦板部あるいは横板部に対して下方に延在する保持体によって下から抱え上げられることによってベース部品の保持体に保持されている。これに対し、本実施形態では、保持体425が、第1縦板部421あるいは横板部434に対して上方へ突出し、車長方向に向けられた面を形成している。補強部品としてのハット状部品425は、この面に重ねられ、更にはこの面に接合されることにより、ベース部品421の保持体425に保持される。ハット状部品425の車幅方向の両端部は、外側壁111の内面及び内側壁112の内面にそれぞれ近接される。
【0094】
一対の側壁463F,463Rは、対応するフランジ部435F,435Rよりも上方へ突出した突出部464F,464Rを有する。ハット状部品425は、各突出部464F,464Rの上縁部から車長方向外側へ折り返された一対の上タブ部465F,465Rを備える。一対の上タブ部465F,465Rの上面は、アウタパッチ122の下面に当接しており、アウタパッチ122を介してサイドシル本体101の上壁111に接合される。また、ハット状部品425は、一対の側壁463F,463Rの車幅方向外側縁部から車長方向外側へ折り返された一対の下タブ部466F,466Rを備える。一対の下タブ部466F,466Rの外面は、ベース部品421の第1縦板部432に当接し、ベース部品421に接合される。
【0095】
このように、ハット状部品425は、ベース部品421の第1縦板部432に車幅方向に接合され、横板部434に上下方向に接合され、保持体435(前フランジ部435F及び後フランジ部435R)に車長方向に接合される。3方向の接合により、ハット状部品425のベース部品421に対する接合強度が高くなる。更に、ハット状部品425は、その上端においてサイドシル本体101の上壁113に接合されている。これにより、ハット状部品425は、ベース部品421の横板部434及びサイドシル本体101の上壁113と協働して、車幅方向に見たときに閉断面を形成する。
【0096】
本実施形態においても、車長方向に延びるベース部品を使用してエネルギー吸収構造体402が構成されているため、上記実施形態と同様にして、サイドシル構造の部品点数及び組立工数を削減でき、車体の軽量化に資する。特に、本実施形態では、保持体435の構造が簡素化されている。代わりに、保持体435で保持される補強部品がハット状である。このハット状部品425は、形状が簡素化されたベース部品421よりも複雑な形状を有するが、ベース部品421よりも小型であるから、このような複雑な形状を付与することは比較的に容易である。したがって、エネルギー吸収構造体402が全体として、上記実施形態よりも容易に製造可能となる。
【0097】
(変形例)
これまで、実施形態について説明したが、上記構成は、本発明の範囲内で適宜追加、変更、及び/又は削除可能である。
【0098】
第3実施形態のような上板部を有して第2縦板部を有さないベース部品を採用する場合に、エネルギー吸収構造体は、第2実施形態のようにベース部品と同種の金属材料で成形される筒状部品を組み合わせることによって構成されてもよい。1つのサイドシル本体101の内部に、複数のベース部品が車長方向に並ぶように配置されていてもよい。
【0099】
第4実施形態に関し、ハット状部品425の底壁462が、横板部434の上面に載置され、ハット状部品425が保持体435及び横板部434によって保持されてもよい。この場合、一対の側壁463F,463Rが、一対のフランジ部435F,435Rに対して車長方向内側から当接して接合されてもよい。ベース部品421に、横板部434の内縁部から上方又は下方へ切り起こされることによって構成されたフランジ部が追加されてもよい。追加されたフランジ部は、サイドシル本体101の内側壁112に近接対向してもよく、内側壁112に当接してもよく、内側壁112に接合されてもよい。
【0100】
第1縦板部は、サイドシル本体101の外側壁111に代えて、内側壁112に当接され接合されてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 車両
2 車体
3 バッテリ
100,200,300,400 サイドシル
101 サイドシル本体
102,202,302,402 エネルギー吸収構造体
103,203,303,403 筒構造
111 外側壁
112 内側壁
113 上壁
114 下壁
115 上フランジ
116 下フランジ
117 外サイドシル
117a 外側上壁
117b 外側下壁
117c 外側上フランジ
117d 外側下フランジ
117e 空間
118 内サイドシル
118a 内側上壁
118b 内側下壁
118c 内側上フランジ
118d 内側下フランジ
118e 空間
121,321 ベース部品
122 アウタパッチ
123 インナパッチ
125,225 筒状部品
127 接着剤
130,330 ブランク板
130a,330a 初期貫通孔
131 貫通孔
132,332 第1縦板部
133 第2縦板部
134 横板部
134a 中間横板部
134b 前端横板部
134c 後端横板部
135,335 保持体
136F,336F 前フランジ部
136R,336R 後フランジ部
136Fa,136Ra 下方延在部
136Fb,136Rb 抱え上げ部
137 ボルト挿通孔
338F,338R タブ部
161 上壁
162 底壁
163F,163R 側壁
164F,164R 被支持部
167F,167R 側リッジ部
168F,168R 退避壁
169 貫通孔