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  • 特開-原燃料炭材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111820
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】原燃料炭材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/00 20060101AFI20240809BHJP
   C21B 5/00 20060101ALI20240809BHJP
   C22B 1/16 20060101ALI20240809BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C10L5/00
C21B5/00 301
C22B1/16 E
C21C5/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014180
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023015854
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】関屋 政洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 一暁
(72)【発明者】
【氏名】堤 武司
【テーマコード(参考)】
4H015
4K001
4K012
4K070
【Fターム(参考)】
4H015AA11
4H015AA13
4H015AB01
4H015BA07
4H015BB09
4H015CA03
4H015CB01
4K001CA36
4K012BA04
4K070AC32
(57)【要約】
【課題】メタン熱分解で水素を製造する際に副生される高発熱量かつ超微粉の炭材を、原燃料炭材の用途に応じて改質する、原燃料炭材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、製鉄用または石炭火力発電用の原燃料炭材の製造方法であって、褐炭、亜瀝青炭、およびバイオ炭の1種または2種以上からなる低発熱量炭材と、メタン熱分解により生成される高発熱量炭材とを、容器内転動混合させる、原燃料炭材の製造方法である。容器内転動混合としては、例えばボールミルまたはロッドミルが用いられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄用または石炭火力発電用の原燃料炭材の製造方法であって、
褐炭、亜瀝青炭、およびバイオ炭の1種または2種以上からなる低発熱量炭材と、メタン熱分解により生成される高発熱量炭材とを、容器内転動混合させる、原燃料炭材の製造方法。
【請求項2】
前記低発熱量炭材の単位発熱量が13~30MJ/kgであり、前記高発熱量炭材の単位発熱量が略34MJ/kgであり、前記原燃料炭材の単位発熱量が24~33MJ/kgである、請求項1に記載の原燃料炭材の製造方法。
【請求項3】
前記容器内転動混合として、ボールミルまたはロッドミルが用いられる、請求項1または請求項2に記載の原燃料炭材の製造方法。
【請求項4】
前記低発熱量炭材は、前記容器内転動混合の前に、乾燥、加湿、混合、または、粉砕のうちのいずれか1または2以上の処理がなされる、請求項1または請求項2に記載の原燃料炭材の製造方法。
【請求項5】
前記製鉄用の原燃料炭材は、高炉吹込み用微粉炭、焼結用燃料炭または製鋼用加炭材である、請求項1または請求項2に記載の原燃料炭材の製造方法。
【請求項6】
前記容器内転動混合の原材料の構成および配合量から推定される前記原燃料炭材の灰分含有量が所定値となるように、木質バイオマス由来の低灰分バイオ炭の灰分希釈用配合またはケイ酸バイオマス由来の高灰分バイオ炭の灰分増量用配合を調整する、請求項1または請求項2に記載の原燃料炭材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン熱分解で水素を製造する際に副生される高発熱量かつ超微粉の炭材を、原燃料炭材の用途に応じて改質する、原燃料炭材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の要因として、化石燃料に由来する二酸化炭素の排出が問題となっており、二酸化炭素排出量の削減が求められている。これに対し、水素は、炭素分を含まず、二酸化炭素を排出しない優れた環境特性を有することから、代替エネルギーとして有望視されている。また、水素は、エネルギーキャリアとして再生可能エネルギー等を貯め、運び、利用することができる特性(貯蔵性、可搬性、柔軟性)を有することからも注目されている。
【0003】
しかし、これまでの化石燃料を全て水素で代替するには、大量の水素を必要とするという問題がある。このような水素の供給問題に対し、海外での褐炭の乾留による水素抽出、海外の広大な土地での太陽光発電の電力を使った水の電気分解による水素調達、および、天然ガスの主成分であるメタンの熱分解による水素製造等、様々な検討が進められている。
【0004】
ここで、メタンの熱分解による水素の製造について検討する。原料のメタンの調達および水素の製造場所の問題については、メタンの形態で輸送および貯留して、使用時に熱分解して水素を取り出して活用するのが好ましい。従来からの天然ガスの流通手段(輸送船、配管、貯留タンク等)をそのまま使える点で有利だからである。
【0005】
また、メタンの熱分解では、(1)式で示すとおり、水素の他に微粉状の固体炭素(以下、超微粉炭またはメタン熱分解炭材ともいう。)が生成される。このような微粉状のメタン熱分解炭材は、粉塵爆発リスクをはらみ、輸送および貯留等には相応の制約が伴うということからも、メタン熱分解処理の場所は、メタン熱分解炭材の使用場所に近接していることが望ましいといえる。
CH→2H+C ・・・ (1)
【0006】
メタン熱分解炭材の使用場所として、例えば、製鉄所や石炭火力発電所等がある。特に、高炉-転炉プロセスによる製鉄所では、鉄鉱石の還元材や熱源として炭材は必須の原料である。塊状のコークスは、高炉の熱源および鉄鉱石の還元材となり、さらには高炉挿入物支持および通風性確保のスペーサーとなる製鉄用炭材としてよく知られているが、その他にも、粉状の炭材が多く用いられている。例えば、焼結用燃料炭は、粉鉱石を塊状化することで高炉の通風性を確保可能にする「粉鉱石の焼結」のための燃料炭として知られている。また、高価なコークスの代替となる高炉吹込み用微粉炭、および、製鋼工程での溶銑または溶鋼の温度補償用の加炭材等、粉炭または微粉炭が用いられる各種炭材も重要な製鉄用炭材といえる。
【0007】
特許文献1では、メタンを(1)式の通り水素および固体炭素に熱分解し、この水素と、高炉ガスから分離した二酸化炭素とから、金属触媒を用いて(2)式の通り固体炭素および水を生成する、固体炭素生成装置および固体炭素生成方法が開示されている。
CO+2H→C+2HO ・・・ (2)
さらに、特許文献1では、ここで得られた固体炭素を微粉のままで、または、ペレットに成形して、高炉炉頂から鉄鉱石およびコークスとともに高炉に供給する固体炭素の利用方法が開示されている。また、ここで得られた固体炭素を微粉のままで、高炉羽口の微粉炭供給口から高炉吹込みする固体炭素の利用方法も開示されている。なお一般に、このような高炉への微粉炭吹込み技術はPCI(Pulverized Coal Injection)技術と、また、高炉へ吹き込まれる微粉炭はPC(Pulverized Coal)と、略称される場合がある。
【0008】
以上のとおり、特許文献1に記載の発明によれば、簡素な設備により二酸化炭素から固体炭素を生成するとともに、既存の設備を利用して、ここでの固体炭素を還元材として高炉へ供給することが可能になるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-165214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、(1)式のメタン熱分解反応で製造される水素は、高炉から排出される二酸化炭素を削減するために、(2)式の反応の原料とされるものであり、化石燃料の代替エネルギーとして社会に供給されるものではない。また、(1)式のメタン熱分解反応で副生されるメタン熱分解炭材については、高炉用の炭材とすることは記載されているものの、超微粉炭で、かつ高反応性であるために、相当の制約を伴うはずの輸送および貯留等については何ら記載されていない。
【0011】
ここで、超微粉炭のメタン熱分解炭材の特性について検討する。メタン熱分解炭材は、単位発熱量が一般炭の約29MJ/kgより相当高い約34MJ/kgであるだけでなく、粒径が100μm程度の超微粉であり比表面積が大きく、燃焼性も高い等、常に粉塵爆発リスクをはらんでいる。また、メタン熱分解炭材は、非常に細かい疎水性の粉体であるため、成形性も悪い。そのため、超微粉炭としては、気流搬送するしかなく、輸送および貯留等のハンドリング上の問題も多いといえる。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、メタン熱分解で水素を製造する際に副生される高発熱量かつ超微粉の炭材を、原燃料炭材の用途に応じて改質する、原燃料炭材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]製鉄用または石炭火力発電用の原燃料炭材の製造方法であって、褐炭、亜瀝青炭、およびバイオ炭の1種または2種以上からなる低発熱量炭材と、メタン熱分解により生成される高発熱量炭材とを、容器内転動混合させる、製鉄用炭材の製造方法。
[2]前記低発熱量炭材の単位発熱量が13~30MJ/kgであり、前記高発熱量炭材の単位発熱量が略34MJ/kgであり、前記原燃料炭材の単位発熱量が24~33MJ/kgである、[1]に記載の原燃料炭材の製造方法。
[3]前記容器内転動混合として、ボールミルまたはロッドミルが用いられる、[1]または[2]に記載の原燃料炭材の製造方法。
[4]前記低発熱量炭材は、前記容器内転動混合の前に、乾燥、加湿、混合、または、粉砕のうちのいずれか1または2以上の処理がなされる、[1]~[3]のいずれかに記載の原燃料炭材の製造方法。
[5]前記製鉄用の原燃料炭材は、高炉吹込み用微粉炭、焼結用燃料炭または製鋼用加炭材である、[1]~[4]のいずれかに記載の原燃料炭材の製造方法。
[6]前記容器内転動混合の原材料の構成および配合量から推定される前記原燃料炭材の灰分含有量が所定値となるように、木質バイオマス由来の低灰分バイオ炭の灰分希釈用配合またはケイ酸バイオマス由来の高灰分バイオ炭の灰分増量用配合を調整する、[1]~[5]のいずれかに記載の原燃料炭材の製造方法。
【0014】
なお、先行技術文献では、バイオマスを炭化した炭材について、「バイオマス炭」とか「バイオ炭」というように互いに異なる名称を用いるものがある。しかし両者に違いはないため、本発明ではバイオマスを炭化した炭材を「バイオ炭」に統一して表記することにする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、メタン熱分解による水素製造で副生される高発熱量かつ超微粉の炭材を、各種低発熱量炭材と容器内転動混合させて改質させることにより、用途に応じた各種の原燃料炭材とすることが可能な、原燃料炭材の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、メタン熱分解炭材を原燃料炭材として大量使用することで、同時に生成される水素も大量に供給することが可能となり、化石燃料の代替エネルギーとしての水素の供給問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る原燃料炭材の製造方法を説明するための流れ図である。
図2図1の原料の予備処理工程を追加的に説明するための流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る第1の実施形態について具体的に説明する。先ず、本実施形態を適用して製造される原燃料炭材の代表的な例として、高炉吹込み用微粉炭、焼結用燃料炭および製鋼用加炭材について説明する。
【0018】
国内の高炉操業では、2度の石油危機を経て、補助燃料としての微粉炭吹込みが定着し、その使用量は、現在では、0.1~0.2t/t-p程度まで伸びてきている。高炉吹込み用微粉炭としては、例えば、単位発熱量が27~33MJ/kg程度で、篩下80%粒径(篩目の異なる複数の篩を用いて篩い分けを行い、篩下の質量が80%となった篩目の径)で74μmの微粉炭が使用されている。
【0019】
鉄鉱石焼結鉱を製造する一般的な製造工程では、まず、鉄鉱石、副原料(石灰石等)および返鉱等に、熱源としての粉コークスや無煙炭などの焼結用燃料炭を加えた焼結原料を製造する。このような焼結原料を、例えばドワイトロイド式の焼結機における無端回動するシンターケーキ支持スタンドに装入し、着火炉で表層部の焼結用燃料炭に着火させ、上方から空気を吸引して下方へと焼結反応を連続的に進行させて所定粒度の焼結鉱を製造する。焼結用燃料炭となる粉コークスは、高炉用のコークス製造の際に副次的に発生する細粒のコークスを、一般的には5mm以下の粒度に破砕調製して、焼結用の熱源として使用される。また、無煙炭は、NOxの発生原因となるN分が少ない固体燃料として、あるいは粉コークスの発生量不足を補う固体燃料として、粉コークスと同様に破砕調製された後、焼結用燃料炭として広く使用されている。それぞれの使用量は、例えば、粉コークスで0.035t/t-p程度、無煙炭で0.02t/t-p程度である。また、それぞれの単位発熱量は、例えば、粉コークスで29MJ/kg程度で、無煙炭で26.5MJ/kg程度である。焼結用燃料炭の原料炭としては他の炭材も用いられるが、焼結用燃料炭の単位発熱量として、最終的に24~33MJ/kg程度となるように調合して使用される。
【0020】
また、製鋼工程の転炉は、高炉で出銑された溶銑に高純度の酸素を高速で吹き付けることにより脱炭を行い、溶鋼を製造する主要なプロセスである。同時に、生石灰を主体とする副原料を投入し、溶銑中の不純物(リン等)の除去を行う。この転炉の前工程として溶銑予備処理を行い、鉄鋼製品の材料特性面の要求から溶銑中のS、Pなどを除く処理を行う場合もある。この場合、溶銑予備処理により溶銑温度が低下するという問題もあることから、溶銑の脱燐処理や脱炭精錬において、溶銑の熱的余裕を高めるために、溶銑に追加の炭素源を供給する加炭材が用いられる。製鋼用加炭材(製鋼用昇熱材ともいう。)としては、例えば、石炭、コークス粉、黒鉛、電極粉、およびSiC等を塊状に成型した加炭材があり、成型しない天然鉱産物の土状黒鉛も、比較的安価であることから、加炭材として用いられる場合もある。製鋼用加炭材の使用量は、例えば、出鋼量350ton/ch級の転炉で、1~3ton/ch程度である。土状黒鉛は、土状または土塊状の天然鉱産物であるが、非常に柔らかく粉砕しやすいことから、粒径が数十μm程度の微粉状のものも大量に含まれている。製鋼用加炭材として使用される土状黒鉛の単位発熱量は、例えば、25~27MJ/kg程度のものが選択される。ここでは、製鋼用加炭材が転炉で用いられる例を説明した。なお、製鋼用加炭材としては、同様の目的で電炉でも使用されるが、その詳細な説明は省略する。
【0021】
次に、本実施形態を適用して製造される原燃料炭材の他の例として、石炭火力発電用の原燃料炭材について、上述した製鉄用の原燃料炭材との相違点を中心に説明する。石炭火力発電においては、固定床燃焼方式、流動床燃焼方式、噴流床燃焼方式のいずれの石炭燃焼方式においても、石炭を粉砕し粒体または微粉炭としてボイラで燃焼させる。石炭火力発電においても、原燃料炭材が粉体または微粉炭として使用される点では、上述した本実施形態を適用して製造される製鉄用の原燃料炭材と同様である。ただし、製鉄用の原燃料炭材では、還元用原料の側面と加熱燃料の側面を有しているが、石炭火力発電用の原燃料炭材においては、専ら燃料炭として使用される点で異なる。
【0022】
次に、図1図2を参照しながら、メタン熱分解で水素を製造する際に副生される高発熱量かつ超微粉の炭材を、原燃料炭材の用途に応じて改質する、本実施形態に係る原燃料炭材の製造方法の一例について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る原燃料炭材の製造方法を説明するための流れ図である。図2は、図1の原料の予備処理工程を追加的に説明するための流れ図である。
【0023】
本実施形態に係るメタン熱分解(ステップS101)は、その具体的な手段は問わない。公知のメタン熱分解法である、放電プラズマ中でのメタン熱分解法、および、鉄鉱石触媒を用いた流動床反応器によるメタン熱分解法、等を用いることができる。メタンの原料ガスには、メタンが主成分である天然ガスを用いるのが好ましい。従来からの天然ガスの流通手段(輸送船、配管、貯留タンク等)をそのまま使える点で有利だからである。
【0024】
本実施形態に係るメタン熱分解(ステップS101)では、上述の(1)式で示すとおり、主たる生成物として微粉状のメタン熱分解炭材を得る。このメタン熱分解炭材は、単位発熱量がおよそ34MJ/kgであり、篩下80%粒径で74μm(-200mesh)~149μm(-100mesh)程度の超微粉炭である。副生される水素は、本実施形態では、その後のステップ(工程ともいう。)で利用しないため、系外に排出される。
【0025】
本実施形態に係る容器内転動混合(ステップS111)は、典型的には公知のボールミルまたはロッドミルによる混合のステップである。ただし、本実施形態に係る容器内転動混合(ステップS111)の手段としてはこれらに限定されず、ボールミルおよびロッドミルと同等の機能を有するものであればよい。本実施形態に係る容器内転動混合(ステップS111)での混合対象は、ステップS101での生成物のメタン熱分解炭材(高発熱量炭材)と低発熱量炭材とである。容器内転動混合(ステップS111)では、密閉された容器内で、粉砕作用と混合作用とが同時に生じるため、超微粉で疎水性のメタン熱分解炭材と、粒径5mm以下の低発熱量炭材とを均一混合することができる。これにより、メタン熱分解炭材は、単位発熱量が約34MJ/kgと高く、超微粉で比表面積が大きく燃焼性も高い等のために取り扱いの難易度が高いところ、低発熱量炭材と均一混合することで、その難易度を適度に緩和させた原燃料炭材を得ることができる。なお、高発熱量炭材は疎水性で殆ど水分を含まないため、混合促進のためには、低発熱量炭材が所定の水分を含むように、事前に加湿等して水分量調整するのが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る低発熱量炭材は、褐炭、亜瀝青炭、およびバイオ炭のうちのいずれかの1種または2種以上である。本実施形態に係る低発熱量炭材は、容器内転動混合(ステップS111)の前に、図2に示すとおり、乾燥(ステップS121)、混合(ステップS123)、粉砕(ステップS125)を経て、5mm以下の粒径に揃えておくのが好ましい。容器内転動混合(ステップS111)での混合対象であるメタン熱分解炭材(高発熱量炭材)との粒径差を小さくするためである。なお、ここでの混合(ステップS123)は、低発熱量炭材原料に、褐炭、亜瀝青炭、およびバイオ炭のうちのいずれか2種以上を用いる場合に必要なステップであり、低発熱量炭材原料が1種の場合は省略してもよい。また、乾燥(ステップS121)、混合(ステップS123)、粉砕(ステップS125)の各々のステップは、公知の装置を用いればよい。
【0027】
本実施形態に係る低発熱量炭材の単位発熱量は、褐炭ではおよそ17MJ/kg、亜瀝青炭では24~26MJ/kgである。低発熱量炭材がバイオ炭の場合は、炭化前のバイオマス原料により単位発熱量の範囲が大きく振れるため、以下個別に示す。生ごみ、家畜排せつ物、下水汚泥等の有機廃棄物系バイオマス(木質バイオマスを除く)由来のバイオ炭(有機廃棄物系バイオ炭)でおよそ13~18MJ/kgである。もみ殻、稲わら等の草本系バイオマス(灰分を多量に含むためケイ酸バイオマスともいう)由来のバイオ炭でおよそ14~28MJ/kgである。間伐材、製材残材、建築廃材等の木質バイオマス由来のバイオ炭(木質バイオ炭)でおよそ30MJ/kgである。以上のとおり、本実施形態に係る低発熱量炭材は、単位発熱量が、13~30MJ/kgのものを用いるのが好ましい。本実施形態では、低発熱量炭材単独では不足する単位発熱量を、高発熱量炭材で補うことにより、低発熱量炭材の原燃料炭材への適用範囲を拡げる効果も奏する。また、低発熱量炭材にバイオ炭を用いる場合は、実質的な二酸化炭素排出量の削減となり、好ましい。
【0028】
本実施形態に係る容器内転動混合(ステップS111)の処理完了後には、混合前の高発熱量炭材と低発熱量炭材とのそれぞれの単位発熱量および混合割合に応じた単位発熱量を有する原燃料炭材(微粉炭)が得られる。例えば、高炉吹込み用微粉炭を製造する場合は、混合後の単位発熱量が27~33MJ/kg程度となるような高発熱量炭材と低発熱量炭材との混合割合とし、篩下80%粒径で74μm程度の微粉炭となる処理時間等の条件を設定すればよい。本実施形態により製造される高炉吹込み用微粉炭は、後述する実施例で示すとおり、従来の高炉吹込み用微粉炭と同等の特性とすることができる。
【0029】
また、本実施形態により焼結用燃料炭を製造する場合も、混合後の単位発熱量の調整は高炉吹込み用微粉炭の場合と同様に行えばよい。例えば、混合後の単位発熱量が24~33MJ/kg程度となるような割合で、高発熱量炭材と低発熱量炭材とを混合すればよい。ただし、焼結用燃料炭の場合は炭材起因の揮発成分量が管理されるため、その管理値を超えない範囲で、低発熱量炭材の種類と混合割合を選択するのが好ましい。また、焼結用燃料炭は、使用に際して、微粉炭のままでもよいが、公知の方法で造粒してもよい。造粒しておけば、貯蔵および搬送が容易になり好ましい。
【0030】
本実施形態により製鋼用加炭材を製造する場合も、混合後の単位発熱量の調整は高炉吹込み用微粉炭の場合と同様に行えばよい。例えば、混合後の単位発熱量が25~27MJ/kg程度となるような割合で、高発熱量炭材と低発熱量炭材とを混合すればよい。製造する製鋼用加炭材が、土状黒鉛の代替として製造される場合は、容器内転動混合(ステップS111)の処理完了後の微粉炭のままで製鋼用加炭材とすることができる。一方、成型された製鋼用加炭材の代替とする場合は、容器内転動混合(ステップS111)の処理完了後の微粉炭を用いて、さらに公知の方法により造粒および成型等をすればよい。
【0031】
本実施形態により石炭火力発電用の原燃料炭材を製造する場合も、混合後の単位発熱量の調整は高炉吹込み用微粉炭の場合と同様に行えばよい。例えば、混合後の単位発熱量が石炭火力発電用の石炭と同様の20~25MJ/kg程度となるような割合で、高発熱量炭材と低発熱量炭材とを混合すればよい。製造する石炭火力発電用の原燃料炭材が、微粉炭の代替として製造される場合は、容器内転動混合(ステップS111)の処理完了後の微粉炭のままで石炭火力発電用の原燃料炭材とすることができる。一方、石炭の粉砕粒または造粒炭の代替とする場合は、容器内転動混合(ステップS111)の処理完了後の微粉炭を用いて、さらに公知の方法により造粒および成型等をすればよい。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図2を用いて説明する。バイオ炭に含まれる灰分は、原料が間伐材、製材残材等の木質バイオマスでは0.5~5%程度と少なく、もみ殻、藁等のケイ酸バイオマスでは30~50%程度と多い。特に、ケイ酸バイオマス由来の高灰分バイオ炭の利用に際しては、用途によっては残留灰分が問題となる場合がある。
【0033】
第2の実施形態に係る原燃料炭材の製造方法においては、容器内転動混合(ステップS111)の原材料の構成および配合量から推定される原燃料炭材の灰分含有量が所定値となるようにする。具体的には、ステップS123の混合工程で木質バイオマス由来の低灰分バイオ炭の灰分希釈用配合またはケイ酸バイオマス由来の高灰分バイオ炭の灰分増量用配合を調整することにより、原燃料炭材の灰分含有量が所定値となるようにする。
【0034】
第2の実施形態に係る原燃料炭材の製造方法は、第1の実施形態に係る原燃料炭材の製造方法と比較して、容器内転動混合の原材料に、灰分希釈用の低灰分バイオ炭または灰分増量用の高灰分バイオ炭とを配合し、原燃料炭材の灰分含有量を所定値とする点で異なる。その他の構成については、第1の実施形態とほぼ同様である。
【0035】
以上のように構成される場合であっても、第2の実施形態に係る原燃料炭材は、第1の実施形態に係る原燃料炭材とほぼ同様の効果が得られる。
【0036】
加えて、もみ殻、藁等のケイ酸バイオマス由来の高灰分バイオ炭であっても、その灰分を低灰分バイオ炭で希釈することで、単独では多量灰分含有のために使用が制限される用途にも利用可能となる。
【0037】
以上のとおり、第1、第2の実施形態に係る原燃料炭材の代表的な例について説明したが、これらを単位発熱量の面でまとめると、第1、第2の実施形態に係る原燃料炭材は、単位発熱量が、24~33MJ/kgのものを製造するのが好ましいといえる。
【実施例0038】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0039】
本発明を高炉吹込み用微粉炭の製造に適用した実施例を表1に、焼結用燃料炭の製造に適用した実施例を表2に、製鋼用加炭材の製造に適用した実施例を表3に、石炭火力発電用燃料炭の製造に適用した実施例を表4に、それぞれ示す。さらに、本発明を石炭火力発電用燃料炭の製造に際して、灰分含有量を所定値となるように調整した実施例を表5に示す。いずれの場合もメタン熱分解法としては、鉄鉱石触媒を用いた流動床反応器によるメタン熱分解法を採用した。なお、表中の残部には、水分、不純物等が含まれる。
【0040】
本発明を高炉吹込み用微粉炭の製造に適用した実施例を表1に示す。発明例1は、従来の高炉吹込み用微粉炭(比較例1)と同等の単位発熱量となるように、質量比でメタン熱分解炭材を3、木質バイオ炭を2となる割合で、容器内転動混合して製造した。容器内転動混合には、ボールミル(φ3.5m×L5.4m、出力520kW)を使用した。なお、容器内転動混合の均一混合を促進させるために、木質バイオ炭の水分量が10%となるように事前調整した。発明例1の容器内転動混合後の粒径は、比較例1の高炉吹込み用微粉炭と同等の篩下80%粒径で74μm(-200mesh)となるように容器内転動混合条件を設定した。表1に示すとおり、発明例1の混合後の炭化物は、比較例1の高炉吹込み用微粉炭と比較して、単位発熱量を同等としつつ、固定炭素が高いことで、揮発成分および灰分を低く抑えることができることが確認された。
【0041】
【表1】
【0042】
本発明を焼結用燃料炭の製造に適用した実施例を表2に示す。発明例2は、従来の粉コークスと無煙炭とからなる焼結用燃料炭(比較例2)と同等の単位発熱量となるように、質量比でメタン熱分解炭材を2、有機廃棄物系バイオ炭を1となる割合で、容器内転動混合して製造した。容器内転動混合には、ボールミル(φ3.5m×L5.4m、出力520kW)を使用した。なお、容器内転動混合の均一混合の促進と混合後の炭材水分調整との目的で、有機廃棄物系バイオ炭の水分量が15%となるように事前調整した。発明例2の容器内転動混合後の粒径は、篩下80%粒径で149μm(-100mesh)程度となるように容器内転動混合条件を設定した。表2に示すとおり、発明例2の混合後の炭化物は、固定炭素量、揮発成分および灰分を含め、比較例2の焼結用燃料炭とほぼ同等品質が得られることが確認された。
【0043】
【表2】
【0044】
本発明を製鋼用加炭材の製造に適用した実施例を表3に示す。発明例3は、従来の土状黒鉛を用いた製鋼用加炭材(比較例3)と同等の単位発熱量となるように、質量比でメタン熱分解炭材を1、有機廃棄物系バイオ炭を1となる割合で、容器内転動混合して製造した。容器内転動混合には、ボールミル(φ3.5m×L5.4m、出力520kW)を使用した。なお、容器内転動混合の均一混合の促進と混合後の炭材水分調整との目的で、有機廃棄物系バイオ炭の水分量が15%となるように事前調整した。発明例3の容器内転動混合後の粒径は、篩下80%粒径で74μm(-200mesh)程度となるように容器内転動混合条件を設定した。表3に示すとおり、発明例3の混合後の炭化物は、比較例3の土状黒鉛と比較して、固定炭素量が低めで、揮発成分が高めであるが、単位発熱量および灰分は同等であり、総じて比較例3の土状黒鉛とほぼ同等品質が得られることが確認された。
【0045】
【表3】
【0046】
本発明を石炭火力発電用燃料炭の製造に適用した実施例を表4に示す。発明例4は、従来の火力発電用一般炭(比較例4)と同等の単位発熱量となるように、質量比でメタン熱分解炭材を77%、稲わら由来のバイオ炭を23%となる割合で、容器内転動混合して製造した。容器内転動混合には、ボールミル(φ3.5m×L5.4m、出力520kW)を使用した。なお、容器内転動混合の均一混合の促進と混合後の炭材水分調整との目的で、バイオ炭の水分量が10%となるように事前調整した。発明例4の容器内転動混合後の粒径は、篩下80%粒径で74μm(-200mesh)程度となるように容器内転動混合条件を設定した。表4に示すとおり、発明例4の混合後の炭化物は、比較例4の火力発電用一般炭と比較して、単位発熱量を同等としつつ、固定炭素が高いことで、揮発成分および灰分を低く抑えることができることが確認された。
【0047】
【表4】
【0048】
本発明を石炭火力発電用燃料炭の製造に適用するに際して、単位発熱量だけでなく灰分含有量も考慮して調整した実施例を表5に示す。すなわち発明例5は、従来の火力発電用一般炭(比較例5)と単位発熱量当たりの灰分量が同等となるように、質量比でメタン熱分解炭材を20%、低灰分の木質バイオ炭を51%、高灰分の稲わら由来のバイオ炭を28%となる割合で、容器内転動混合して製造した。容器内転動混合には、ボールミル(φ3.5m×L5.4m、出力520kW)を使用した。なお、容器内転動混合の均一混合の促進と混合後の炭材水分調整との目的で、ここでの2種類のバイオ炭のいずれの水分量も共に10%となるように事前調整した。発明例5の容器内転動混合後の粒径は、篩下80%粒径で74μm(-200mesh)程度となるように容器内転動混合条件を設定した。表5に示すとおり、発明例5の混合後の炭化物は、従来の火力発電用一般炭と発熱量当たりの灰分が同等である。従って、発明例5の炭化物は、火力発電用一般炭1kgに対して、1(kg)×25.6/31.0=0.83kgで置換可能であることが確認された。
【0049】
【表5】
図1
図2