(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111822
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】マレイミド基を有するアミン塩酸塩及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 207/452 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
C07D207/452
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014555
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2023016157
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】河田 愛子
(72)【発明者】
【氏名】木下 修平
(72)【発明者】
【氏名】木村 尊斗
(72)【発明者】
【氏名】磯部 祐生
(57)【要約】 (修正有)
【課題】塩化水素付加体が少ないマレイミド基を有するアミン塩酸塩及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マレイミド基を有するアミン保護体をトリフルオロ酢酸で脱保護することによって、マレイミド基を有するアミンのトリフルオロ酢酸塩とし(工程(a))、アミンのトリフルオロ酢酸塩を、塩化水素の有機溶媒溶液と混合することで塩交換を実施し、式(1)のマレイミド基を有するアミン塩酸塩とする(工程(b))。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)に示すマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法であって、
式(2)に示すマレイミド基を有するアミン保護体をトリフルオロ酢酸で脱保護することによって、式(3)のマレイミド基を有するアミン―トリフルオロ酢酸塩とする工程(a)、および
前記工程(a)で得られた前記アミン―トリフルオロ酢酸塩を、塩化水素の有機溶媒溶液と混合することで塩交換を実施し、式(1)のマレイミド基を有するアミン塩酸塩とする工程(b)
を有することを特徴とする、マレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。)
【化2】
(式(2)中、
Lはマレイミド基と保護アミノ基をつなぐリンカーであり、
Rはアミノ基の保護基である。)
【化3】
(式(3)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。)
【請求項2】
式(2)における前記保護基Rが式(4)、(5)、(6)、(7)、(8)または(9)の構造を有することを特徴とする、請求項1記載のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項3】
前記リンカーLが式(10)の構造を有することを特徴とする、請求項2記載のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【化10】
(式(10)中、
X
1およびX
2はそれぞれ独立した二価の炭化水素基であり、
Yはアミド結合である。)
【請求項4】
X1及びX2は炭素数が2~10である炭化水素基であることを特徴とする、請求項3記載のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)で用いる塩化水素の有機溶媒溶液の当量が、前記アミン―トリフルオロ酢酸塩のアミノ基に対して1.5当量以上、12当量以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【請求項6】
式(1)に示すマレイミド基を有するアミン塩酸塩であって、
式(11)に示すアミン塩酸塩の塩化水素付加体を含み、
前記塩化水素付加体の含量が0.001質量%以上、2.5質量%以下であることを特徴とする、マレイミド基を有するアミン塩酸塩。
【化1】
【化11】
(式(1)および式(11)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイミド基を有するアミン塩酸塩及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マレイミド基は反応性に富み、特にチオールや共役ジエンと容易に反応が進行することが知られている。そのため、マレイミド化合物は、これらの化合物とのカップリング剤として有用であり、樹脂、農薬、医薬品の原料として広く使用されている。
【0003】
例えば、マレイミド基とアミンを有する化合物は、カルボン酸やスルホン酸等の電子求引基に対してマレイミド基を導入する際のカップリング剤の候補として有用である。この点、アミンはマレイミド基と容易に反応するため、分子内反応、もしくは分子間の反応が進行する。そのため、酸を用いてアミンをアミン塩とすることで、マレイミド基とアミンを有する化合物を安定化させる技術として、例えば、非特許文献1に記載の技術が知られている。
【0004】
非特許文献1では、コレステロール―ポリエチレングリコール―ペプチドの合成において、ペプチド導入点にマレイミド基を用いている。マレイミド基を導入する方法として、コレステロール―ポリエチレングリコールと、マレイミド基を有するアミンのトリフルオロ酢酸塩とを反応させている。
【0005】
マレイミド基を有するアミンのトリフルオロ酢酸塩は、EDC(1―エチル―3―(3―ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)塩酸塩存在下で(tert―ブトキシカルボニル)―エチレンジアミンと3―マレイミドプロピオン酸を反応させた後、トリフルオロ酢酸でt-ブトキシカルボニル基を脱保護することで、得ている。コレステロール―ポリエチレングリコールをカルボン酸塩化物とした後、塩基存在下でマレイミド基を有するアミンのトリフルオロ酢酸塩と反応させることで、コレステロール―ポリエチレングリコールにマレイミド基を導入している。
【0006】
このように、ターゲット化合物の末端がカルボン酸塩化物のような強い電子求引性を有する化合物との反応に対して、マレイミド基を有するアミンのトリフルオロ酢酸塩は利用可能である。しかし、トリフルオロ酢酸よりも電子求引性が劣るカルボキシル基を末端に有するターゲット化合物と反応させる場合は、トリフルオロ酢酸もアミンと反応し、トリフルオロ酢酸アミドとなる反応阻害が起こる。
【0007】
この反応阻害を抑制する方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法が挙げられる。この特許文献1では、マレイミド基を有するアミンのt-ブトキシカルボニル基保護体を、塩化水素の1,4-ジオキサン溶液を用いて脱保護することで、マレイミド基を有するアミン塩酸塩を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第8,034,558号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ACS Omega 2020,5,5508-5519頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の方法で、マレイミド基を有するアミンの塩酸塩を合成する際に、マレイミド基に塩化水素が付加した化合物(以下、「塩化水素付加体」と略す)が副生し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩の純度が低下する。
【0011】
このため、塩化水素付加体の少ない高純度のマレイミド基を有するアミン塩酸塩およびその製造方法が望まれている。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みて発明されたものであり、塩化水素付加体が少ないマレイミド基を有するアミン塩酸塩及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、以下のものである。
[1] 式(1)に示すマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法であって、
式(2)に示すマレイミド基を有するアミン保護体をトリフルオロ酢酸で脱保護することによって、式(3)のマレイミド基を有するアミン―トリフルオロ酢酸塩とする工程(a)、および
前記工程(a)で得られた前記アミン―トリフルオロ酢酸塩を、塩化水素の有機溶媒溶液と混合することで塩交換を実施し、式(1)のマレイミド基を有するアミン塩酸塩とする工程(b)
を有することを特徴とする、マレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。)
【化2】
(式(2)中
Lはマレイミド基と保護アミノ基をつなぐリンカーであり、
Rはアミノ基の保護基である。)
【化3】
(式(3)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。)
[2] 前記保護基Rが式(4)、(5)、(6)、(7)、(8)または(9)の構造を有することを特徴とする、[1]のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
[3] 前記リンカーLが式(10)の構造を有することを特徴とする、[2]のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
【化10】
(式(10)中、
X
1およびX
2はそれぞれ独立して炭化水素基であり、
Yはアミド結合である。)
[4] X
1及びX
2は炭素数が2~10である二価の炭化水素基であることを特徴とする、[3]のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
[5] 前記工程(b)で用いる塩化水素の有機溶媒溶液の当量が、前記アミン―トリフルオロ酢酸塩のアミノ基に対して1.5当量以上、12当量以下であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかのマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法。
[6] 式(1)に示すマレイミド基を有するアミン塩酸塩であって、
式(11)に示すアミン塩酸塩の塩化水素付加体を含み、
前記塩化水素付加体の含量が0.001質量%以上、2.5質量%以下であることを特徴とする、マレイミド基を有するアミン塩酸塩。
【化1】
【化11】
(式(1)および式(11)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の技術では困難であった、高純度のマレイミド基を有するアミン塩酸塩を、脱保護と塩交換の2工程を経ることで簡便に実施することが可能である。その上で、塩化水素の有機溶媒溶液を用いた塩交換工程(b)は容易に実施可能であり、イオン交換クロマトグラフィーやカラムクロマトグラフィー等の複雑なプロセスを実施せずに高純度のマレイミド基を有するアミン塩酸塩が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、式(1)に示すマレイミド基を有するアミン塩酸塩であり、式(11)に示すアミン塩酸塩の塩化水素付加体を含み、塩化水素付加体の含量が0.001質量%以上、2.5質量%以下であることを特徴とする。
【化1】
【化11】
【0016】
ここで、式(1)および式(11)中、Lはマレイミド基とアミノ基をつなぐリンカーである。このリンカーLの構造は、直鎖構造であってよく、分岐構造であってよく、または環状構造を有していてよい。
好適な実施形態においては、リンカーLは、炭化水素基を含んでいてよく、またアミド結合を有していてよい。炭化水素基は、不飽和結合を有していなくともよく、あるいは不飽和結合を有していてよいが、不飽和結合数は二つ以下が好ましく、一つ以下が更に好ましい。また、リンカーLは、炭化水素基およびアミド結合を含む直鎖構造、分岐構造または環状構造を有する置換基であることが好ましい。また、前記炭化水素基の炭素数は2~20であることが好ましく、4~16であることが更に好ましい。
【0017】
特に好適な実施形態においては、リンカーLが式(10)の構造を有する。
【化10】
【0018】
ここで、式(10)中、X1およびX2はそれぞれ独立した二価の炭化水素基であり、Yはアミド結合である。
X1およびX2を構成する炭化水素基は、それぞれ、直鎖構造であってよく、分岐鎖構造であってよく、または環状構造を有していてよい。各炭化水素基は、不飽和結合を有していなくともよく、あるいは不飽和結合を有していてよいが、不飽和結合数は二つ以下が好ましく、一つ以下が更に好ましい。また、各炭化水素基の炭素数は2~10であることが好ましい。
【0019】
式(11)の塩化水素付加体は、式(1)のマレイミド基を有するアミン塩酸塩の塩交換工程で生じる不純物である。本発明のマレイミド基を有するアミンの塩酸塩中の塩化水素付加体含量は、0.001質量%以上、2.5質量%以下とする。マレイミド基を有するアミンの塩酸塩中の塩化水素付加体含量は、1.0質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることが更に好ましい。また、塩交換時に塩化水素源が存在する以上、塩化水素付加体が副生するため、実際的な製造の観点から0.001質量%以上とするが、0.01質量%以上であることが多い。
【0020】
(式(2)に示すマレイミド基を有するアミン保護体)
本発明で原料として用いるマレイミド基を有するアミン保護体は、式(2)の構造を有するものである。
【化2】
ここで、Lはマレイミド基と保護アミノ基をつなぐリンカーであり、Rはアミノ基の保護基である。
【0021】
式(2)に示すRはトリフルオロ酢酸で脱保護可能なアミノ基の保護基であり、式(4)~(9)の保護基が好ましい。中でも、式(4)は脱保護時に揮発性のイソブテンと二酸化炭素のみが副生することから、後処理も簡便であるため、式(4)の保護基が最も好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0022】
式(2)に示すマレイミド基を有するアミン保護体としては、例えば式(12)、式(13)、式(14)のような構造のアミン保護体が特に好ましい。式(12)のアミン保護体は、N―(tert―ブトキシカルボニル)―1,2―ジアミノエタンとN―スクシンイミジルマレイミドプロピオネートを反応させることで製造できる。式(13)のアミン保護体は、N―(tert―ブトキシカルボニル)―5―メチル―1,5―ジアミノエタンとN―スクシンイミジルマレイミドブタネートを反応させることで製造できる。式(14)のアミン保護体は、N―(tert―ブトキシカルボニル)―1,2―ジアミノエタンと N―スクシンイミジル―4―(N―マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレートを反応させることで製造できる。
【0023】
【0024】
[式(1)に示すマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法]
(工程(a))
工程(a)においては、式(2)に示すマレイミド基を有するアミン保護体をトリフルオロ酢酸で脱保護することによって、式(3)のマレイミド基を有するアミン―トリフルオロ酢酸塩とする。
ここで、脱保護の方法は、有機酸であるトリフルオロ酢酸を用いる系、または無機酸である塩酸を用いる系が知られている。ここで、塩酸に含まれる塩化水素は塩化物イオンの求核性が高く、容易にマレイミド基に付加反応するので、式(11)の塩化水素付加体含量が増加する。このため、塩化水素は、マレイミド基を有するアミン保護体の脱保護に用いる酸として好ましくない。
【0025】
このことから、本発明においては、マレイミド基を有するアミン保護体の脱保護を行う際に、トリフルオロ酢酸を用いる。トリフルオロ酢酸アニオンは、塩化物イオンよりも求核性が低いため、マレイミド基への付加反応が起こりにくく、結果的に目的物の純度が高くなるからである。
【0026】
脱保護工程(a)以降は、アミンがマレイミド基に付加する懸念があるため、酸性条件下でアミン塩とする必要がある。すなわち、脱保護工程(a)以降は、アミンのカウンターイオンが除去される工程、例えばカラムクロマトグラフィーで精製することは好ましくない。
【0027】
工程(a)の脱保護反応において、マレイミド基を有するアミン保護体に対するトリフルオロ酢酸の比率は、2~5重量倍が好ましく、2.2~3重量倍が更に好ましい。
工程(a)の脱保護反応の反応温度は、15~40℃が好ましく、20~35℃が更に好ましい。
【0028】
工程(a)の脱保護反応の溶媒は、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、もしくはシクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒が好ましい。
【0029】
なお、工程(a)の脱保護において、マレイミド基を有するアミンのトリフルオロ酢酸塩の結晶化を実施してもよい。
【0030】
(工程(b))
工程(b)においては、工程(a)で得られたアミン―トリフルオロ酢酸塩を、塩化水素の有機溶媒溶液と混合することで塩交換を実施し、式(1)のマレイミド基を有するアミン塩酸塩とする。工程(b)で使用する塩化水素の有機溶媒溶液としては、塩化水素ガスが可溶であり、工程(b)の温度条件で液体であるカルボン酸エステル、アルコール、アルキルエーテルを用いる。カルボン酸エステル、アルコール、アルキルエーテルについて、以下の有機溶媒を例示できる。
・カルボン酸エステル:
カルボン酸由来構造のアルキル基の炭素数は、1~2が好ましい。また、アルコール由来構造のアルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、2~3が更に好ましい。
・アルコール:
1級もしくは2級のアルコールであり、アルキル基の炭素数は1~3が好ましく、2~3が更に好ましい。
・アルキルエーテル:
アルキル基同士のエーテルや、アルキル基とシクロアルキル基とのエーテル、または環状エーテルが好ましい。このアルキル基の炭素数は1~4が好ましい。また、このシクロアルキル基の炭素数は5~6が好ましい。環状エーテルは、エーテル結合を1~2つ含み、炭素数は4~5が好ましい。
工程(b)に使用する塩化水素の有機溶媒溶液の有機溶媒は、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、1,4―ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテルが好ましく、酢酸エチル、1,4―ジオキサンが最も好ましい。
【0031】
工程(b)の塩交換における塩化水素源として塩酸水溶液を使用した場合、マレイミド基を有するアミンの塩酸塩は水溶性が高いため、結晶として水溶液から単離するのは困難である。単離できたとしても、工程数が多く塩化水素源にさらされる時間が長いため、塩化水素付加体などの不純物の副生量が増加する。
【0032】
工程(b)の塩交換における塩化水素の有機溶媒溶液の仕込み量は、塩化水素がマレイミド基に付加するためできる限り低減することが好ましい。一方、塩化水素の有機溶媒溶液の仕込み量が少なすぎる場合、トリフルオロ酢酸から塩化水素の塩交換が十分に進行しにくい。こうした観点から、塩化水素の有機溶媒溶液の仕込み量は、ターゲット化合物(マレイミド基を有するアミン―トリフルオロ酢酸塩)のアミノ基に対して、1.5当量以上、12当量以下であることが好ましく、1.5当量以上、8.2当量以下であることが更に好ましく、2.0当量以上、4.0当量以下であることが特に好ましい。反応溶液の塩化水素の質量mol濃度としては、0.011mol/kg以上、3.2mol/kg以下であることが好ましく、0.011mol/kg以上、2.19mol/kg以下であることが更に好ましく、0.14mol/kg以上、1.1mol/kg以下であることが特に好ましい。
【0033】
工程(b)の塩交換の温度は、塩化水素付加体の副生量を抑制するという観点から、-100℃以上、40℃以下であることが好ましく、-10℃以上、20℃以下であることが更に好ましく、0℃以上、10℃以下であることが最も好ましい。
【0034】
工程(b)以降は、濃縮、結晶化、乾燥等のいずれかを含む工程によって溶液中からマレイミド基を有するアミン塩酸塩を回収する。マレイミド基を有するアミンの塩酸塩は有機溶媒への溶解度が低い場合が多いため、塩交換中に結晶が析出した場合はろ過等によって回収可能である。このように、イオン交換クロマトグラフィーやカラムクロマトグラフィー等の複雑なプロセスを実施せずに高純度のマレイミド基を有するアミン塩酸塩が得ることができる。
【実施例0035】
[マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A))の製造工程]
N―(tert―ブトキシカルボニル)―1,2ージアミノエタン(東京化成工業製)とN―スクシンイミジル―3―マレイミドプロピオネート(東京化成工業製)をアセトニトリル中で2時間反応させた。得られた反応溶液を脱溶剤して得られた結晶を、溶剤で洗浄もしくはカラムクロマトグラフィーにて精製することで、マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A))を得た。
【0036】
<実施例1>
(工程(a))
マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、1.0g、純度:100質量%)のジクロロメタン(関東化学製、5.0g)溶液中に、トリフルオロ酢酸(関東化学製、2.0g)を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。攪拌後、薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」という)により、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量が5質量%以下であることを確認した。得られた反応溶液を、5℃に冷却したジクロロメタン(300g)に滴下して結晶化し、ろ過にてアミンのトリフルオロ酢酸塩(化合物(B))の結晶を回収した。
【0037】
(工程(b))
得られた化合物(B)の結晶(50mg)に酢酸エチル(関東化学製、451mg)を加え、25℃にて4M塩化水素の酢酸エチル溶液(富士フイルム和光純薬工業製、341mg)を加えて30分間撹拌した。ここで、塩化水素の酢酸エチル溶液の当量を、マレイミド基を有するアミン保護体のアミノ基に対して8.2当量とした。析出した結晶を濾別し、酢酸エチル(関東化学製)でかけ洗いした後、マレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の白色結晶を得た。
【0038】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は、98.5質量%であり、塩化水素付加体含量(化合物(D))は1.3質量%であった。
【0039】
[マレイミド基を有するアミン塩酸塩および塩化水素付加体の分析方法]
なお、マレイミド基を有するアミン塩酸塩の純度、塩化水素付加体含量は、High Performance Liquid Chromatography with charged aerosol detection(HPLC-CAD)にて評価している。また、塩化水素付加体含量はNuclear Magnetic Resonance spectroscopy(NMR)でも確認可能である。
【0040】
<実施例2>
(工程(a))
ジクロロメタン(200mg)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、100mg、純度:88.7質量%)に対して、トリフルオロ酢酸(200mg)を加え、窒素下25℃で3時間撹拌した。こうして得られたアミン―トリフルオロ酢酸塩(化合物(B))について、TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量が5質量%以下であることを確認した。
【0041】
(工程(b))
工程(a)で得られた反応溶液に対して酢酸エチル(75.0g)を加えて10℃に冷却し、4M塩化水素の1,4-ジオキサン溶液(東京化成工業製、229mg)を加え、30分間撹拌した。ここで、塩化水素の1,4-ジオキサン溶液の当量を、マレイミド基を有するアミン保護体のアミノ基に対して3.0当量とした。析出した結晶を濾別し、酢酸エチル(4.8g)でかけ洗いした後、マレイミド基を有するアミンの塩酸塩(化合物(C))の白色結晶を得た。
【0042】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は94.8質量%であり、塩化水素付加体(化合物(D))含量は2.5質量%であった。
【0043】
<実施例3>
ジクロロメタン(10g)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、2.0g、純度:100質量%)に対して、トリフルオロ酢酸(4.0g)を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。こうして得られたアミン―トリフルオロ酢酸塩(化合物(B))について、TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量が5質量%以下であることを確認した。得られた反応溶液を5℃に冷却したジクロロメタン(600g)に滴下することによって、アミン―トリフルオロ酢酸塩(化合物(B))を結晶化し、ろ過にて化合物(B)を回収した。
【0044】
(工程(b))
得られた化合物(B)(1.3g)に酢酸エチル(59g)を加えて10℃に冷却し、4M塩化水素の酢酸エチル溶液(8.2g)を加えて30分間撹拌した。ここで、塩化水素の酢酸エチル溶液の当量を、マレイミド基を有するアミン保護体のアミノ基に対して8.2当量とした。析出した結晶をろ過にて回収後、酢酸エチル(58g)を用いてかけ洗いし、マレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の白色結晶を得た。
【0045】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は99.8%であり、塩化水素付加体(化合物(D))含量は0.2質量%であった。
【0046】
<実施例4>
(工程(a))
ジクロロメタン(1.2g)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、600mg、純度:99.9質量%)に対してトリフルオロ酢酸(1.2g)を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。こうして得られたアミン―トリフルオロ酢酸塩(化合物(B))について、TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量が5質量%以下であることを確認した。
【0047】
(工程(b))
工程(a)で得られた反応溶液に対して、酢酸エチル(9.0g)を加えて10℃に冷却し、4M塩化水素の酢酸エチル溶液(371mg)を加えて30分間撹拌した。ここで、塩化水素の酢酸エチル溶液の当量を、マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A))のアミノ基に対して2.5当量とした。析出した結晶をろ過にて回収後、酢酸エチル(2.2g)を用いて3回洗浄し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の白色結晶を得た。
【0048】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は97.4質量%であり、塩化水素付加体(化合物(D))含量は0.001質量%であった。
【0049】
化合物(A)、(B)、(C)および(D)の構造は以下のとおりである。
【化15】
【0050】
<比較例1>
ジクロロメタン(200mg)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、100mg、純度:88.7質量%)に対して、6N塩酸水溶液(関東化学製、585mg、5.9重量倍(10当量)/化合物(A))を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A))の残存量が5質量%以下であることを確認した。水を留去後、酢酸エチル(4.8g)を加え、析出した粘性固体を濾別し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))を得た。
【0051】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は91.9質量%であり、塩化水素付加体(化合物(D))含量は3.1質量%であった。
【0052】
<比較例2>
イソプロパノール(関東化学製、1.0g)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、50mg、純度:100質量%)に対して、4M塩化水素の1,4-ジオキサン溶液(東京化成工業製、313mg)を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。ここで、塩化水素の1,4-ジオキサン溶液の当量を、マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A))のアミノ基に対して8.2当量とした。TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量を確認したところ、40質量%残存していた。
【0053】
<比較例3>
イソプロパノール(5.0g)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、500mg、純度:88.7質量%)に対して、4M塩化水素の1,4-ジオキサン溶液(東京化成工業製、7.7g)を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。塩化水素の1,4-ジオキサン溶液の当量を、マレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A))のアミノ基に対して20当量とした。TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量が5質量%以下であることを確認した。イソプロパノール(25.0g)で希釈し、ヘキサン(25.5g)を加えて析出した結晶を濾別し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))を得た。
【0054】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は83.3質量%であり、塩化水素付加体(化合物(D))含量は16.7質量%であった。
【0055】
<比較例4>
ジクロロメタン(200mg)中のマレイミド基を有するアミン保護体(化合物(A)、100mg、純度:88.7質量%)に対して、トリフルオロ酢酸(200mg)を加え、窒素下、25℃で3時間撹拌した。TLCにより、マレイミド基を有するアミン保護体の残存量が5質量%以下であることを確認した。
【0056】
ジクロロメタン(1.5g)を加えて、さらに6N塩酸水溶液(535mg、10当量/化合物(A))を加え、30分間撹拌した。この溶液を濃縮し、酢酸エチルを加えて析出した粘性固体を濾別し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))を得た。
【0057】
以上の要領で得られたマレイミド基を有するアミン塩酸塩(化合物(C))の純度は91.7質量%であり、塩化水素付加体(化合物(D))含量は3.0質量%であった。
【0058】
実施例1~4および比較例1~4の結果を表1、表2に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
実施例1、2では、表1に示すように、トリフルオロ酢酸で脱保護後、塩化水素の有機溶媒溶液を用いて塩交換を実施した。この結果、塩化水素付加体量が2.5質量%以下に抑制された。
また、実施例3では、実施例1に比べて塩交換反応温度を下げているが、塩化水素付加体の副生量を更に大幅に抑制できた。
また、実施例4では、実施例1に比べて塩交換反応温度を下げ、塩酸の有機溶媒溶液の当量も低くしているが、塩化水素付加体の副生量を更に大幅に抑制できた。
【0062】
一方、比較例1及び3は、実施例1~4に比べて塩化水素付加体の副生量は増加し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩の純度が低下した。また、比較例2は脱保護の進行が不十分であった。これらのことから、脱保護剤として塩酸や塩化水素の有機溶媒溶液を用いるよりも、トリフルオロ酢酸を用いることが好ましいことがわかった。
【0063】
さらに、比較例4においても、実施例1~4に比べて塩化水素付加体の副生量が増加し、マレイミド基を有するアミン塩酸塩の純度が低下した。加えて、得られた固体は粘性を帯びていた。したがって、塩化水素付加体の副生量を抑えつつ塩交換を実施するには、塩酸を用いるよりも塩化水素の有機溶媒溶液を用いることが好ましいことがわかった。
本発明の製造方法は、高純度品が求められるマレイミド基を有するアミン塩酸塩の製造方法として利用可能である。また、本発明の製造方法により製造されるマレイミド基を有するアミン塩酸塩は、樹脂、農薬、医薬品等の原料として有用である。