(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111836
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ガラスクロス及びその製造方法、並びにプリプレグ及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
D03D 15/267 20210101AFI20240809BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240809BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20240809BHJP
D06B 3/10 20060101ALI20240809BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240809BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
D03D15/267
D03D1/00 A
D06C7/00 Z
D06B3/10 B
C08J5/04 CEZ
C08J5/04 CFC
H05K1/03 610T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015945
(22)【出願日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2023016202
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正朗
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 宏昂
(72)【発明者】
【氏名】深谷 結花
【テーマコード(参考)】
3B154
4F072
4L048
【Fターム(参考)】
3B154AA13
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3B154BA05
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4F072AA04
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4F072AB30
4F072AC01
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4L048AA03
4L048AA34
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4L048DA43
4L048EA01
4L048EB00
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】良好な絶縁信頼性を有する低誘電ガラスクロス及びその製造方法等を提供すること。
【解決手段】複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を、経糸及び緯糸として構成され、表面処理剤で表面処理された、ガラスクロス。上記ガラスクロスは、380℃、2時間の加熱処理におけるガラス成分由来の重量減少割合(%)と、上記ガラスフィラメントの平均半径(μm)との積として求められる重量減少係数が、0.45超0.90以下である。また、上記ガラスクロスを特定の含浸評価用試験液に3分間浸漬した際の未含浸部位数が、1.8×e(α×0.58){式中、eは、ネイピア数であり、αは、ガラスクロス表面の面積に対する、経糸と緯糸が重なっている部位の面積の割合である。}で求められる値以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を、経糸及び緯糸として構成され、表面処理剤で表面処理された、ガラスクロスであって、
前記ガラスクロスは、380℃、2時間の加熱処理におけるガラス成分由来の重量減少割合(%)と、前記ガラスフィラメントの平均半径(μm)との積として求められる重量減少係数が、0.45超0.90以下であり、
前記ガラスクロスを粘度680mPa・sのビスフェノールA型エポキシ樹脂含有ベンジルアルコール溶液に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、下記式(1):
1.8×e(α×0.58) ・・・式(1)
{式(1)中、eは、ネイピア数であり、αは、ガラスクロス表面の面積に対する、経糸と緯糸が重なっている部位の面積の割合である。}で求められる値以下である、ガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラスクロスを粘度650mPa・sのひまし油に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、前記式(1)で求められる値以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
前記ガラスクロス中の、B2O3で換算したホウ素(B)含有量とP2O5で換算したリン(P)含有量との和が、25質量%以上40質量%以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
厚さが、5μm以上100μm以下である、請求項1または2に記載のガラスクロス。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物と、を有する、プリプレグ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物の硬化物と、を有する、プリント配線板。
【請求項7】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、以下:
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;
製織された前記ガラスクロス生機を加熱して脱糊処理する工程と;
脱糊処理された前記ガラスクロス生機を、液体中で水平方向に対して0.3°以上の傾斜をつけて走行させながら、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波で洗浄する工程と;
超音波で洗浄された前記ガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程と;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
【請求項8】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、以下:
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;
製織された前記ガラスクロス生機を加熱して脱糊処理する工程と;
脱糊処理された前記ガラスクロス生機を液体で濡らす工程と、
濡れた状態の前記ガラスクロス生機を、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波が照射されている前記液体中に浸入させ、超音波で洗浄する工程と;
超音波で洗浄された前記ガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程と;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
【請求項9】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、以下:
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;
製織された前記ガラスクロス生機を加熱して脱糊処理する工程と;
脱糊処理された前記ガラスクロス生機を液体で濡らす工程と、
濡れた状態の前記ガラスクロス生機を、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波が照射されている前記液体中に浸入させ、前記液体中で水平方向に対して0.3°以上の傾斜をつけて走行させながら、超音波で洗浄する工程と;
超音波で洗浄された前記ガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程と;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラスクロス及びその製造方法、並びにプリプレグ及びプリント配線板等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信社会の発達とともに、データ通信及び/又は信号処理が大容量で高速に行われるようになり、電子機器に用いられるプリント配線板の低誘電率化が著しく進行している。そのため、プリント配線板を構成するガラスクロスにおいても、低誘電ガラスクロスが多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている低誘電ガラスクロスは、従来から一般に使用されているEガラスクロスに対して、ガラス組成中にB2O3を多く配合し、同時にSiO2等の他の成分の配合量を調整することで、低誘電率を実現している。
【0004】
また、プリント配線板を構成する樹脂として、ポリフェニレンエーテル等の低誘電樹脂が多く提案されている。低誘電樹脂は、嵩高い官能基を有し、粘度が高い傾向があり、従来から一般に用いられているエポキシ樹脂等と比較して、ガラスクロスへの含浸性に劣ることがある。ガラスクロスへの含浸性に劣ると、基板中のガラス繊維糸束に樹脂未含浸部分(ボイド)ができ易く、CAF(Conductive Anodic Filaments)が問題になり易い。そのため、ガラスクロス側の樹脂含浸性をより一層高めることにより、耐CAF性を向上させることが好ましい。
【0005】
一方で、特許文献2には、積層板の品質が低下したり、樹脂の含浸性が悪くなったりすることを防ぐために、すなわち絶縁信頼性向上のために、例えば毛羽、焼却残渣、集束剤や過剰なカップリング剤などの無機繊維布帛に存在する不純物を、より効果的に除去することができる無機繊維布帛の洗浄方法を開示している。特許文献3には、熱硬化性樹脂の含浸性が改良されるガラスクロスの処理方法に関しての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-503233号公報
【特許文献2】特開2003―96659号公報
【特許文献3】特開昭63-165441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるような、低誘電ガラスクロスの中でも、低誘電化を進めるために、ガラス糸中のB2O3や、P2O5等の成分をとりわけ多く含有するガラスクロスは、絶縁信頼性に劣る問題がある。また、特許文献2及び3は、含浸性、すなわち絶縁信頼性を課題としているものの、いまだ改良の余地がある。
【0008】
本開示は、良好な絶縁信頼性を有する低誘電ガラスクロス及びその製造方法等を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[9]に列記する。
[1]
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を、経糸及び緯糸として構成され、表面処理剤で表面処理された、ガラスクロスであって、
前記ガラスクロスは、380℃、2時間の加熱処理におけるガラス成分由来の重量減少割合(%)と、前記ガラスフィラメントの平均半径(μm)との積として求められる重量減少係数が、0.45超0.90以下であり、
前記ガラスクロスを粘度680mPa・sのビスフェノールA型エポキシ樹脂含有ベンジルアルコール溶液に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、下記式(1):
1.8×e(α×0.58) ・・・式(1)
{式(1)中、eは、ネイピア数であり、αは、ガラスクロス表面の面積に対する、経糸と緯糸が重なっている部位の面積の割合である。}で求められる値以下である、ガラスクロス。
[2]
上記ガラスクロスを粘度650mPa・sのひまし油に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、上記式(1)で求められる値以下である、項目1に記載のガラスクロス。
[3]
前記ガラスクロス中の、B2O3で換算したホウ素(B)含有量とP2O5で換算したリン(P)含有量との和が、25質量%以上40質量%以下である、項目1又は2に記載のガラスクロス。
[4]
厚さが、5μm以上100μm以下である、項目1~3のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[5]
項目1~4のいずれか一項に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物と、を有する、プリプレグ。
[6]
項目1~4のいずれか一項に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物の硬化物と、を有する、プリント配線板。
[7]
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、以下:
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;
製織された前記ガラスクロス生機を加熱して脱糊処理する工程と;
脱糊処理された前記ガラスクロス生機を、液体中で水平方向に対して0.3°以上の傾斜をつけて走行させながら、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波で洗浄する工程と;
超音波で洗浄された前記ガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程と;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
[8]
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、以下:
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;
製織された前記ガラスクロス生機を加熱して脱糊処理する工程と;
脱糊処理された前記ガラスクロス生機を液体で濡らす工程と、
濡れた状態の前記ガラスクロス生機を、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波が照射されている前記液体中に浸入させ、超音波で洗浄する工程と;
超音波で洗浄された前記ガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程と;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
[9]
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、以下:
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;
製織された前記ガラスクロス生機を加熱して脱糊処理する工程と;
脱糊処理された前記ガラスクロス生機を液体で濡らす工程と、
濡れた状態の前記ガラスクロス生機を、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波が照射されている前記液体中に浸入させ、前記液体中で水平方向に対して0.3°以上の傾斜をつけて走行させながら、超音波で洗浄する工程と;
超音波で洗浄された前記ガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程と;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、良好な絶縁信頼性を有する低誘電ガラスクロス及びその製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、該低誘電ガラスクロスを用いたプリプレグ及びプリント配線板を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
《ガラスクロス》
本開示のガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として構成され、且つ、表面処理剤で表面処理されたガラスクロスである。ガラスクロスは、380℃及び2時間の条件で加熱処理したときのガラス成分由来の重量減少割合と、ガラスフィラメントの平均半径との積として求められる重量減少係数が、0.45超0.90以下である。そして、ガラスクロスを、粘度680mPa・sのビスフェノールA型エポキシ樹脂含有ベンジルアルコール溶液(含浸評価用試験液A)に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、下記(1):
1.8×e(α×0.58) ・・・式(1)
{式(1)中、eは、ネイピア数であり、αは、ガラスクロス表面の面積に対する、経糸と緯糸が重なっている部位の面積の割合(経糸緯糸重複面積割合)である。}で求められる値以下である。
【0013】
ガラスクロスの誘電特性を高めるために、ガラス中のB2O3や、P2O5等の成分をとりわけ多く含有するガラスクロスは、絶縁信頼性に劣る問題があった。より具体的には、ガラス重量減少が少ない従来のEガラスや、ガラス重量減少が穏やかな低誘電ガラス(例えば、Lガラス)のガラスクロスでは、実用的な絶縁信頼性を有するのに対し、ガラス重量減少が大きい低誘電ガラス(例えば、L2ガラス)のガラスクロスでは、絶縁信頼性が劣る問題を有していることが分かった。
【0014】
この理由は、限定されるものではないが、本発明者による研究の結果、加熱時の重量減量が大きい低誘電ガラスクロスでは、加熱による糊焼却除去工程で生じるポーラス部位と、当該ポーラス部位へ吸着した燃焼副生物が、絶縁信頼性に大きく影響していることが分かった。すなわち、ガラス中にB2O3や、P2O5等の成分をとりわけ多く含有するガラスクロスは、加熱時の重量減少が大きく、ガラスクロスの製造過程でガラス表面からガラス成分が抜け、ガラスクロス表面がポーラスになる傾向がある。そうすると、当該ポーラス部位に起因して、以下の(1)~(3)に説明するように絶縁不良が引き起こされると考えられる。
(1)従来の表面処理剤によるガラス表面の被覆方法では、ポーラス部位への均一な表面処理が困難であり、局所的にガラスクロス表面に外部環境の影響を受けやすい部位が発生する。そこを起点に、ガラスクロスの保管期間中、或いは、ガラスクロスを用いてプリプレグ、及びプリント配線板が製造された後に、ガラスクロス表面、或いはガラスクロスと樹脂の境界面に吸湿が生じやすくなり、絶縁不良が引き起こされるものと考えられる。
(2)ポーラス部位には、有機物の加熱分解時に生じる燃焼副生物が吸着するため、より一層、均一な表面処理を困難なものとしている。また、燃焼副生物が外部環境からの吸湿を促進することにより、絶縁不良が引き起こされると考えられる。
(3)加熱時の重量減少が大きいガラス組成はそもそも吸湿性が高い傾向にあるため、ガラスクロス自身の吸湿性が非常に高くなっている。ガラスクロス自身の吸湿性が高いのに加え、上述のように、ガラス表面のポーラス化、ポーラス部位への燃焼副生物の吸着による均一な表面処理の阻害、及び燃焼副生物による吸湿促進があいまって、より一層、吸湿性が増し、絶縁不良が生じる可能性が高まっていると考えられる。
【0015】
本開示において、ガラス成分由来の重量減少の大きさは、重量減少係数を指標とする。「重量減少係数」とは、加熱時のガラス成分由来の重量減少のし易さを表し、380℃及び20時間の条件でガラスクロスを加熱処理したときのガラス成分由来の重量減少割合(%)と、ガラスフィラメントの平均半径(μm)との積として求められる値である。重量減少が大きい低誘電ガラスクロス(例えば、L2ガラスクロス)の重量減少係数は、0.45を超える傾向がある。そのため、本開示のガラスクロスは、従来では絶縁信頼性が劣る傾向にある、重量減少係数が0.45超の低誘電ガラスクロスを対象としている。
【0016】
そして、本開示においては、ガラスクロスの樹脂含侵性の指標として未含浸部位数を用い、これが特定範囲となるように調整している。「未含浸部位数」とは、ガラスクロスを特定の含浸評価用試験液に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数である。未含浸部位数が特定範囲であることにより、ガラスクロスと樹脂の親和性が高まり、重量減少係数が0.45超の低誘電ガラスクロスであっても、絶縁信頼性に優れるガラスクロスを得ることが出来る。未含浸部位数を特定範囲に調整するためには、例えば、後述するように、ポーラス部位に吸着した燃焼副生物を洗浄除去してから表面処理することが挙げられる。これによって、表面処理が均一に施されてガラスクロスと樹脂の親和性が高くなる傾向があり、未含浸部位数を本開示の特定の範囲まで大幅に低減することができ、良好な絶縁信頼性が得られる。
【0017】
〔重量減少係数〕
本開示のガラスクロスは、380℃及び2時間の加熱処理におけるガラス成分由来の重量減少割合(%)と、ガラスフィラメントの平均半径(μm)との積として求められる重量減少係数が、0.45超0.90以下である。重量減少係数は、好ましくは0.47以上0.85以下であり、より好ましくは0.48以上0.80以下である。
【0018】
「ガラス成分由来の重量減少割合」とは、加熱処理中にガラス成分の揮発等により、ガラス成分が消失することに起因する重量減少の割合を意味する。重量減少割合は、完成品(表面処理後)のガラスクロスを測定対象とし、アルコール類やアセトン等の良溶媒で予洗浄し、物理吸着している表面処理剤や有機系不純物付着成分を予め除去してから測定する。有機系不純物としては、ガラス糸製造過程で塗布される澱粉系サイジング剤、及び、サイジング剤のヒートクリーニング工程における燃焼残渣等が挙げられる。したがって、そのような380℃及び2時間の条件で加熱分解する付着成分を除去した後のガラスクロスの加熱処理後の重量減少割合は、ガラス成分由来の減少割合となる。
【0019】
この重量減少割合は、ガラス糸のフィラメント径に依存することが確認された。ガラスフィラメント径によって、重量減少割合は異なり、フィラメント径が小さいほど重量減少量が大きくなる。一方で、重量減少割合とフィラメント半径の積は、フィラメント径によらずほぼ一定値になる。そのため、本開示では、重量減少割合をフィラメント径で規格化し、これを「重量減少係数」と定義している。
【0020】
重量減少係数が0.45超であることにより、従来の技術では(そのままでは)絶縁信頼性に劣る。しかしながら、本開示では、例えば、後述するヒートクリーング後のガラス成分揮発に伴うポーラス部位へ吸着した燃焼副生物の除去、および、含侵性試験を指標とするガラスクロスと樹脂との親和性の調整により、絶縁信頼性を改善することができる。また、ガラスクロスを構成するガラス糸の組成に由来して、より低誘電化されたガラスクロスを得ることができる。
【0021】
重量減少係数が0.90以下であることにより、ガラス表面のより深い位置までガラス成分の揮発による浸食が進むことなく、シランカップリング剤の均一塗布や、燃焼残渣の洗浄除去が容易にでき、十分な絶縁信頼性が得られやすい。また、重量減少係数が0.90以下であるとことにより、上述したポーラス部位へ吸着した燃焼副生物の除去、および含侵性試験を指標とするガラスクロスと樹脂との親和性の調整により、絶縁信頼性の低下を抑制しやすい。
【0022】
重量減少割合は、好ましくは0.05~0.7%であり、より好ましくは0.1~0.5%であり、さらに好ましくは0.12~0.4%である。重量減少割合が0.05%以上であることにより、従来では(そのままでは)強度低下を引き起こしやすい。しかしながら、本開示では、例えば、鉄(Fe)含量を調整し、さらに好ましい様態としては鉄(Fe)及びフッ素(F)含量を調整することにより、強度低下を抑制することができる。また、ガラスクロスを構成するガラス糸の組成に由来して、より低い誘電率を有するガラスクロスを得ることができる。重量減少割合が0.7%以下であることにより、Feによる強度低下抑制効果が有効に作用し、著しい強度低下を抑制することができる。
【0023】
重量減少係数の算出に用いるガラスフィラメントの平均半径は、加熱処理前の平均半径である。なお、本開示において、単にガラスフィラメントというときは、ガラスモノフィラメントを意味する。ガラスフィラメントの平均半径は、好ましくは1.25~4.5μmであり、より好ましくは1.5~4.0μmであり、さらに好ましくは1.75~3.75μmである。
【0024】
本開示において、「物理吸着している表面処理剤」とは、ガラスフィラメントに付着している表面処理剤であって、化学結合によりガラスフィラメントに結合している表面処理剤ではないものをいう。これに対して、化学結合によりガラスフィラメントに結合している表面処理剤は、「化学吸着している表面処理剤」という。
【0025】
上記予洗浄は、物理吸着している表面処理剤や有機系不純物を除去するものであり、化学吸着している表面処理剤を除去するものではない。しかしながら、380℃及び2時間の条件で加熱したとしても、化学吸着しているシランカップリング剤は分解しないか、仮に一部が分解したとしても誤差範囲を超えるものではないため、本開示の重量減少割合の測定においては、化学吸着しているシランカップリング剤を上記予洗浄で除去する必要はない。
【0026】
重量減少係数は、ガラスクロスの組成のうち、例えば、比較的に揮発しやすい成分、例えばホウ素(B)含量などの増減により調整することができ、同様の観点からその他の成分の増減によっても調整することができる。
【0027】
重量減少係数は、ガラスクロスにおけるガラスの空間充填率の調整(織密度や厚さ)、開繊加工等によるガラス糸束を構成するモノフィラメントの解し具合の調整、ガラス糸のモノフィラメント径の調整等により、ガラス表面が高温雰囲気に晒される機会の増減によっても調整することができる。即ち、重量減少係数は、ガラスクロスの組成のみによって決定されるものではない。
【0028】
〔未含侵部位数〕
本開示のガラスクロスは、粘度680mPa・sのビスフェノールA型エポキシ樹脂含有ベンジルアルコール溶液(含浸評価用試験液A)に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、下記(1):
1.8×e(α×0.58) ・・・式(1)
{式(1)中、eは、ネイピア数であり、αは、ガラスクロス表面の面積に対する、経糸と緯糸が重なっている部位の面積の割合(経糸緯糸重複面積割合)である。}で求められる値以下である。
【0029】
含浸評価用試験液Aで測定される未含浸部位数の好ましい範囲は、下式(2)で求められる値以下であり、より好ましい範囲は下式(3)で求められる値以下であり、さらに好ましい範囲は下式(4)で求められる値以下である。
1.75×e(α×0.53) ・・・式(2)
1.70×e(α×0.47) ・・・式(3)
1.60×e(α×0.40) ・・・式(4)
{e及びαは、式(1)に定義したものと同一である。}
【0030】
本開示のガラスクロスは、マトリクス樹脂を低誘電化するためにより嵩高い樹脂を用いた場合にも安定した高い含浸性を得る観点から、粘度650mPa・sのひまし油(含浸評価用試験液B)に温度25℃で3分間浸漬した際の未含浸部位数が、下記(1):
1.8×e(α×0.58) ・・・式(1)
{式(1)中、eは、ネイピア数であり、αは、ガラスクロス表面の面積に対する、経糸と緯糸が重なっている部位の面積の割合(経糸緯糸重複面積割合)である。}で求められる値以下であることが好ましい。
【0031】
含浸評価用試験液Bで測定される未含浸部位数のより好ましい範囲は、下式(2)で求められる値以下であり、さらに好ましい範囲は下式(3)で求められる値以下であり、さらにより好ましい範囲は下式(4)で求められる値以下である。
1.75×e(α×0.53) ・・・式(2)
1.70×e(α×0.47) ・・・式(3)
1.60×e(α×0.40) ・・・式(4)
{e及びαは、式(1)に定義したものと同一である。}
【0032】
含浸評価用試験液A又はBで測定される未含浸部位数が、式(1)で求められる値以下であれば、加熱時の重量減少が大きな低誘電ガラスであっても、優れた絶縁信頼性が得られるので好ましい。未含侵部位数の下限値は、0以上であり、0超であってよい。
【0033】
経糸緯糸重複面積割合αは、ガラスクロスを表面から観察した時、経糸と緯糸が重なっている部分が表面全体に占める割合であり、実施例に記載の方法で求められる値である。本発明者らは、含浸性評価試験では、ガラスクロス表面と樹脂の親和性が同等でも、経糸と緯糸の重なり度合いによって未含侵部位数に影響を受けることに着目し、未含浸部位数の絶対値そのものではなく、経糸緯糸重複面積割合αに応じて求められる未含侵部位数こそが、ガラスクロス表面と樹脂の親和性の指標、良好な絶縁信頼性を得るための指標となることを見出した。上述の通り、未含浸部位数が経糸緯糸重複面積割合αに応じて求められる値以下であるとき、良好な絶縁信頼性を得ることができる。
【0034】
ガラスクロスを含浸評価用試験液A又はBに3分間浸漬した際の未含浸部位数は、例えば、ヒートクリーニング工程の後に、ガラスクロスに水中で超音波を照射して洗浄する方法等によって調整することができる。
【0035】
〔ガラスクロスの構成〕
本開示のガラスクロスを構成するガラス糸は、複数本のフィラメントを束ね、必要に応じて撚って得られるものである。この場合、ガラス糸はマルチガラスフィラメントであり、ガラス糸に含まれるフィラメント(ガラスフィラメント)はモノガラスフィラメントにそれぞれ分類される。
【0036】
経糸及び緯糸を構成するモノガラスフィラメントの平均直径は、各々独立して、好ましくは2.5~9μmであり、より好ましくは3.0~8μmであり、さらに好ましくは3.5~7.5μmである。目的とするガラスクロスの厚さによって、モノガラスフィラメントの平均直径を適時選択して用いることができる。
【0037】
経糸及び緯糸を構成するモノガラスフィラメントの平均本数は、各々独立して、好ましくは30本以上250本以下であり、より好ましくは35本以上230本以下であり、さらに好ましくは40本以上220本以下である。目的とするガラスクロスの厚さによって、モノガラスフィラメントの平均本数を適時選択して用いることができる。
【0038】
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは30~120本/25mmであり、より好ましくは40~110本/25mmであり、さらに好ましくは50~100本/25mmである。目的とするガラスクロスの厚さによって、経糸及び緯糸の打ち込み密度を適時選択して用いることができる。
【0039】
ガラスクロスの厚さは、好ましくは5~100μmであり、より好ましくは6~98μmであり、さらに好ましくは7~96μmである。ガラスクロスの厚さが上記範囲内であることにより、薄くて比較的に強度の高いガラスクロスが得られる傾向にある。また、ガラスクロスの厚さが上記範囲内であれば、加熱時の重量減少係数および含浸評価における未含侵部位数を本開示の特定の範囲に調整することにより、誘電特性に優れ、且つ、絶縁信頼性に優れるガラスクロスが得られやすいので好ましい。
【0040】
ガラスクロスの布重量(目付け)は、好ましくは8~250g/m2であり、より好ましくは8~150g/m2であり、さらに好ましくは8~120g/m2であり、特に好ましくは8~100g/m2である。
【0041】
ガラスクロスの強熱減量値の好ましい範囲は、下式(i)で求められる値以上であり、より好ましい範囲は下式(ii)で求められる値以上であり、さらに好ましい範囲は下式(iii)で求められる値以上である。
5.0×F(-1.6) ・・・式(i)
6.0×F(-1.6) ・・・式(ii)
6.4×F(-1.6) ・・・式(iii)
式(i)~(iii)中、Fはガラス糸のフィラメント直径(μm)である。
【0042】
ガラスクロスの強熱減量値は、加熱条件下におけるガラスクロス自体の重量減少と、シランカップリング剤が燃焼除去されることに由来する重量減少を合わせた値であり、単位は質量%である。ガラスクロスの強熱減量値が上記式(i)~(iii)のいずれかで求められる下限値以上であると、シランカップリング剤の塗布量が十分であることによる絶縁信頼性に優れる傾向にあるため好ましい。
【0043】
上記ガラスクロスの強熱減量値の下限値と組み合わせることができる上限値は、好ましくは下式(iv)で求められる値以下であり、より好ましくは下式(v)で求められる値以下であり、さらに好ましくは下式(vi)で求められる値以下である。
18×F(-1.6) ・・・式(iv)
16×F(-1.6) ・・・式(v)
15×F(-1.6) ・・・式(vi)
式(iv)~(vi)中、Fはガラス糸のフィラメント直径(μm)である。
【0044】
ガラスクロスの強熱減量値が上記式(iv)~(vi)のいずれかで求められる上限値以下であることにより、シランカップリング剤の被膜形成による含浸阻害が生じ難いため、絶縁信頼性に優れる傾向にあるため好ましい。
【0045】
ガラスクロスの織構造については、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り、等の織構造が挙げられる。このなかでも、平織り構造が好ましい。
【0046】
〔ガラスクロスの組成〕
以下、本開示のガラスクロスの組成について説明する。なお、ガラスクロスの組成とは、ガラスクロスを構成するガラス糸の組成と同義である。
【0047】
ガラスクロスを構成する元素としては、ケイ素(Si)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、及びフッ素(F)等から成る群より選択される少なくとも一つが挙げられる。
【0048】
ガラスクロスのSi含量は、SiO2換算で、好ましくは40~60質量%であり、より好ましくは45~55質量%であり、さらに好ましくは47~53質量%であり、48~52質量%である。B含量は、B2O3換算で、好ましくは15~30質量%であり、より好ましくは17~28質量%であり、さらに好ましくは20~27質量%であり、よりさらに好ましくは21~25質量%であり、さらにより好ましくは21~24質量%である。P含量は、P2O5換算で、好ましくは1~8質量%であり、より好ましくは2.0~6.5質量%であり、さらに好ましくは2.5~6.0質量%であり、よりさらに好ましくは3.0~5.0質量%である。Al含量は、Al2O3換算で、好ましくは10~20質量%であり、より好ましくは12~18質量%であり、さらに好ましくは14~17質量%である。Ca含量は、好ましくは1.0~6.0質量%であり、好ましくは2.0~5.0質量%であり、より好ましくは2.5~4.0質量%である。Mg含量は、MgO換算で、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.001~1.0質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.005~0.5質量%以下であり、さらにより好ましくは0.005~0.3質量%以下である。
【0049】
ガラスクロスのホウ素(B)含有量とリン(P)含有量の和が、それぞれB2O3換算、P2O5換算において、25.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。ホウ素(B)含有量とリン(P)含有量の和のより好ましい範囲は、25.5質量%以上35.0質量%以下であり、さらに好ましい範囲は26.0質量%以上32.0質量%以下であり、さらにより好ましい範囲は26.5質量%以上31.0質量%以下である。ホウ素(B)含有量とリン(P)含有量の和が上記下限値以上であると、良好な誘電特性が得られる傾向にある。また、ホウ素(B)含有量とリン(P)含有量の和が上記下限値以上であると、従来では(そのままでは)、ガラスクロスの吸湿性が大きく、吸湿による電気特性の変化や、吸湿による絶縁信頼性の低下が生じやすいが、本開示において、ガラスクロスと樹脂との親和性を高めることで、電気特性の安定性や、優れた絶縁信頼性が得られるため、良好な電気特性と、電気特性の安定性、優れた絶縁信頼性が、同時に得られるため好ましい。ホウ素(B)含有量とリン(P)含有量の和が上記上限値以下であれば、ガラスクロスの吸湿性が大きくなりすぎないため、本開示において、ガラスクロスと樹脂との親和性を高めることで、電気特性の変動や絶縁信頼性の低下を抑えることができるため好ましい。
【0050】
ガラスクロスの組成が上記範囲内であるとき、ガラスクロスの誘電特性が向上する傾向にあるため好ましい。また、ガラスクロスの組成が上記範囲内であるとき、加熱時の構成成分の揮発が多く、従来であれば(そのままでは)絶縁信頼性に劣るため実用性に欠ける傾向にある。しかしながら、本開示のガラスクロスは、含浸評価における未含侵部位数を調整することにより、優れた絶縁信頼性を有するため、誘電特性と絶縁信頼性の両方を向上させることが可能となるため好ましい。
【0051】
上述の各元素の含有量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料の使用量(仕込み量)により調整することができる。また、ガラスフィラメント作製中に、作製条件、使用量又は含量が変動し得る場合には、それを予め見越して、原料の仕込み量を調整することができる。
【0052】
〔表面処理剤〕
本開示のガラスクロスは表面処理剤により表面処理されたものである。表面処理剤としては、特に制限されないが、例えば、シランカップリング剤が挙げられ、必要に応じて水、有機溶剤、酸、染料、顔料、界面活性剤等を合わせて用いてもよい。シランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えば、下記式(5):
X(R)3-nSiYn ・・・(5)
{式(5)中、Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも1つを有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基及びフェニル基からなる群より選ばれる基である。}で示される化合物が挙げられる。
【0053】
式(5)中、Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基から選択される少なくとも1つの基を、合計で好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上有する有機官能基である。
【0054】
上記Yのアルコキシ基としては、いずれの形態も使用できるが、ガラスクロスへの安定処理化の観点から、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましい。Yのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基等が挙げられる。
【0055】
シランカップリング剤としては、具体的には、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン及びその塩酸塩、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の公知の単体、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0056】
シランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600であり、より好ましくは150~500であり、さらに好ましくは200~450である。この中でも、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いることが好ましい。分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いてガラス糸の表面を処理することにより、ガラスクロスの表面における表面処理剤密度が高くなり、マトリックス樹脂との反応性がさらに向上する傾向にある。
【0057】
《ガラスクロスの製造方法》
本開示のガラスクロスの製造方法は、特に限定されないが、例えば、製織工程と、ヒートクリーニング工程と、洗浄工程と、次いで、表面処理剤で処理する工程を含む方法が挙げられる。重量減少係数、及び未含浸部位数を本開示の特定範囲に調整する観点で、方法は、以下:複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロス生機を得る工程と;製織されたガラスクロス生機を加熱して脱糊処理(ヒートクリーニング)する工程と;脱糊処理されたガラスクロス生機を、周波数20GHz以上70GHz以下の超音波で洗浄する工程と;超音波で洗浄されたガラスクロス生機を表面処理して、表面処理されたガラスクロスを得る工程とを含むことが好ましい。
【0058】
〔製織〕
製織方法は、所定の織構造となるように緯糸と縦糸を織るものであれば特に制限されない。使用するガラス糸の好ましい構成及び組成は、上述のとおりである。ガラスクロスの織構造については、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り、等の織構造が挙げられる。このなかでも、平織り構造が好ましい。
【0059】
〔ヒートクリーニング〕
ヒートクリーニング方法としては、特に制限されないが、例えば、サイジング剤を加熱除去する方法が挙げられる。サイジング剤は、製織工程等においてガラス糸の糸切れなどが生じないよう保護する目的で用いられるものである。このようなサイジング剤としては、特に制限されないが、例えば、澱粉系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー等が挙げられる。サイジング剤を加熱除去する際の温度としては、十分にサイジング剤を除去する観点、ガラス成分の揮発を抑える観点、燃焼副生物の生成を抑える観点から、好ましくは300~500℃であり、より好ましくは330~450℃であり、さらに好ましくは350~430℃である。
【0060】
〔超音波洗浄〕
未含侵部位数を本開示の特定範囲に調整する観点で、ヒートクリーニング工程後に、超音波等による洗浄を施すことが好ましい。超音波洗浄に用いる液体としては、水、又は有機溶媒のいずれも使用できるが、安全性及び地球環境保護の観点から、水を主成分とする液体を用いることが好ましい。洗浄に用いる液体には、洗浄の効率を上がるために、界面活性剤やpH調整剤を加えることも可能である。
【0061】
超音波洗浄に用いる液体の温度は、特に限定されないが、洗浄効果を高める観点で、5℃以上が好ましい。また、安全性の観点から60℃以下が好ましい。
【0062】
超音波洗浄工程中の経糸に作用するライン張力は、30N~5000N/1mが好ましい。経糸に作用するライン張力が30N/1m以上で、ガラスクロスに弛みがなく均一に張られている場合、超音波による洗浄力をより均一に作用させることができ、未含侵部位数が少なくなりやすい。
【0063】
超音波洗浄は、ガラスクロスの組成や構成するガラス糸のTEX、ガラス糸束の形状、超音波洗浄中にガラスクロスに作用するライン張力、超音波洗浄中の液温、及び溶存酸素量の加工条件にもよるが、好ましくは、20GHz以上70GHz以下の周波数を有する超音波を用いることができる。超音波の周波数は、好ましくは20GHz以上50GHz以下、より好ましくは20GHz以上30GHz以下である。20GHz以上70GHz以下の周波数を有する超音波を用いれば、ガラスクロスの目曲り等の発生が少なく洗浄処理を行えるので好ましい。
【0064】
超音波洗浄には、0.07W/cm2以上3.60W/cm2以下の出力の超音波を用いることができる。超音波出力のより好ましい範囲は0.14W/cm2以上2.16W/cm2以下、更に好ましい範囲は0.21W/cm2以上1.44W/cm2以下である。超音波出力が0.07W/cm2以上で良好に洗浄することができ、超音波出力が3.60W/cm2以下で目曲りなどの発生が少なく、均一な洗浄を行うことができるので好ましい。
【0065】
超音波洗浄時間は、0.5秒以上60秒以下であることが好ましい。超音波洗浄時間が0.5秒以上であると、より良好に洗浄することができるので好ましい。超音波洗浄時間は長い方が大きな洗浄効果が得られるので好ましいが、60秒を超えて処理しても更なる洗浄は殆どないので、60秒以下で十分である。
【0066】
超音波洗浄に用いる液体中には、通常、窒素や酸素を主成分とする空気が溶存しているところ、該溶存酸素量は1ppm以上20ppm以下であることが好ましい。溶存酸素量のより好ましい範囲は3ppm以上17ppm以下であり、更に好ましい範囲は4ppm以上14ppm以下である。溶存酸素量を管理することで、間接的に溶存気体量を制御することが可能であり、超音波が溶存気体により減衰される程度を制御することが可能となる。
【0067】
超音波洗浄を行うにあたって、ガラスクロスを液体中に浸入させる前に、ガラスクロスを当該液体で濡らすことにより、ガラスクロスに含まれる空気を排出しておくことが好ましい。濡らす操作は、ガラスクロスに液体を噴霧すること等により行うことができる。また、ガラスクロスを液体中で走行させる際に、超音波処理により発生する気泡が留まらないように、水平方向に対して傾斜をつけてガラスクロスを搬送させることが好ましい。傾斜は、構成するガラス糸のフィラメント径やフィラメント数、糸束形状等のガラスクロス構造、あるいは、ガラスクロスを走行させる速度、超音波洗浄を行う液体の温度、溶存酸素量等の加工条件にもよるが、例えば0.3°以上、1°以上、10°以上、15°以上、30°以上、45°以上、60°以上、又は75°以上であってよい。傾斜の上限は、限定されないが、例えば90°以下、75°以下、60°以下、45°以下、30°以下、15°以下、10°以下、又は1°以下とすることができる。傾斜の方向は、例えば、ガラスクロスの進行方向川下に向かって高くなるように、すなわち、ガラスクロスの走行が進むにつれて、垂直方向に高くなるように傾斜をつけることが好ましい。超音波処理による気泡の発生を抑止し、また、気泡がガラスクロスに接触した状態が続くことを回避することで、超音波のキャビテーションによる洗浄作業が均一に作用すると推測され、それによって、ガラスクロス面内で含侵性のバラツキが低減し、より十分な含侵性が得られる傾向にある。
【0068】
〔表面処理〕
表面処理工程を行う方法としては、シランカップリング剤等の表面処理剤をガラスクロスと接触させ、乾燥等する方法が挙げられる。ガラスクロスへの表面処理剤の接触は、表面処理剤中にガラスクロスを浸漬させる方法、およびロールコーター、ダイコーター、又はグラビアコーター等を用いてガラスクロスに表面処理剤を塗布する方法等が挙げられる。表面処理剤の乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、熱風乾燥、または電磁波を用いる乾燥方法が挙げられる。
【0069】
〔開繊〕
ガラスクロスの製造方法は、表面処理されたガラスクロスを開繊する工程を更に含んでもよい。開繊方法としては、特に制限されないが、例えば、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水、マングル等で開繊加工する方法が挙げられる。重量減少係数を本開示の特定範囲に調整し、良好な毛羽品質を得る観点で、スプレー水(高圧水開繊)が好ましい。高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧は、好ましくは1.0kg/cm2以上15.0kg/cm2以下、より好ましくは1.0kg/cm2以上10.0kg/cm2以下、更に好ましくは1.0kg/cm2以上5.0kg/cm2以下である。
【0070】
《プリプレグ》
本開示のプリプレグは、上記ガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂組成物とを有する。上記ガラスクロスを有するプリプレグは、絶縁信頼性がより向上したものとなり、最終製品の歩留まりの高いものとなる。また、誘電特性に優れ、耐吸湿性に優れるために使用環境の影響、特に高湿度環境で誘電率の変動が小さい、プリント配線板を提供することができるという効果も奏することができる。
【0071】
プリプレグは、常法に従って製造することができる。例えば、ガラスクロスに、エポキシ樹脂のようなマトリックス樹脂を有機溶剤で希釈したワニスを含浸させた後、乾燥炉にて有機溶剤を揮発させ、熱硬化性樹脂をBステージ状態(半硬化状態)にまで硬化させることにより製造することができる。
【0072】
マトリックス樹脂組成物としては、上述のエポキシ樹脂の他に、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂(BT樹脂)、官能基化ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、全芳香族ポリエステルの液晶ポリマー(LCP)、ポリブタジエン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;及び、それらの混合樹脂等が挙げられる。誘電特性、耐熱性、耐溶剤性、及びプレス成形性を向上させる観点から、マトリックス樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂で変性した樹脂を用いてもよい。
【0073】
マトリックス樹脂組成物は、樹脂中にシリカ及び水酸化アルミニウム等の無機充填剤;臭素系、リン系、金属水酸化物等の難燃剤;その他シランカップリング剤;熱安定剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;顔料;着色剤;滑沢剤等を含んでいてもよい。
【0074】
《プリント配線板》
本開示のプリント配線板は、本開示のガラスクロスを備えており、そして所望により、ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物の硬化物も備えることができる。本開示のプリント配線板は、絶縁信頼性がより向上したものとなり、最終製品の歩留まりの高いものとなる。また、誘電特性に優れ、耐吸湿性に優れるために使用環境の影響、特に高湿度環境で誘電率の変動が小さいという効果も奏することができる。
【実施例0075】
以下、本開示の実施例及び比較例を具体的に説明する。しかしながら、本開示は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0076】
《測定及び評価方法》
〔ガラスクロスの物性〕
ガラスクロスの物性、具体的には、ガラスクロスの厚さ、経糸及び緯糸を構成するフィラメントの径、フィラメント数、経糸及び緯糸の打ち込み密度(織密度)、強熱減量値は、JIS R3420に準拠して測定した。
【0077】
〔ガラスクロスの組成〕
ガラスクロスの組成は、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製のPS3520VDDII)を用いて測定した。より具体的に、Si含量及びB含量は、秤取したガラスクロスを炭酸ナトリウムで融解した後、希硝酸で溶解して所定の容量とし、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定した。Al含量、Ca含量、P含量及びMg含量は、秤取したガラスクロスを過塩素酸、硫酸、硝酸及びフッ化水素により加熱分解した後、希硝酸で溶解して所定の容量とし、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定した。
【0078】
〔重量減少係数〕
実施例、比較例及び参考例で得られた表面処理後のガラスクロスを、エタノールで洗浄し、表面に物理吸着している表面処理剤等を予め除去した。次いで、ガラスクロスを105℃±5℃の乾燥機の中に入れて60分間乾燥し、その後、ガラスクロスをデシケータに移し、室温まで放冷した。放冷後、ガラスクロスの重量を0.1mg以下の単位で測定した(ガラスクロス重量a)。ついで、ガラスクロスを380℃で2時間加熱し、その後、ガラスクロスをデシケータに移し、室温まで放冷した。放冷後、ガラスクロスの重量を0.1mg以下の単位で測定した(加熱処理後のガラスクロス重量b)。そして、加熱処理により減少した重量を求め、下記式より、重量減少割合(%)及び重量減少係数を算出した。なお、ガラスフィラメントの平均半径は、JIS R3420に準拠してガラスクロスを構成するガラス糸のガラスフィラメントの平均直径を測定し、該平均直径の半分量として求めた。
重量減少割合(%)=(a-b)/a×100
重量減少係数=重量減少割合(%)×ガラスフィラメントの平均半径(μm)
【0079】
〔経糸緯糸重複面積割合(%)〕
次の方法で、ガラスクロスを表面から観察した時の、経糸と緯糸の糸幅の平均値をそれぞれ求めた。ガラスクロスの経糸に対して直交する方向(TD方向)に沿ってカメラを走査させ、ガラスクロス全幅分の経糸の画像を取得し、経糸1本毎の糸幅を測定し、ガラスクロス全幅分の経糸幅の平均値を求めた。次に、ガラスクロスの緯糸に対して直交する方向(MD方向)に沿ってカメラを走査させ、長さ方向に1300mmの範囲の緯糸の画像を取得し、緯糸1本毎の糸幅を測定した。長さ方向に1300mm分の緯糸幅の平均値を求めた。得られた経糸の糸幅平均値と、緯糸の糸幅平均値を用い、下式(A)により、ガラスクロスを表面から観察した時に経糸と緯糸が重なっている部分が表面全体に占める割合を求めた。
{経糸の織密度(本/25mm)×経糸幅の平均値(mm)}×{緯糸の織密度(本/25mm)×緯糸幅の平均値(mm)}/{25×25}×100・・・(A)
【0080】
〔未含浸部位数〕
実施例、比較例及び参考例で得られた長尺状のガラスクロスから、含浸性評価用のガラスクロス試験片をそれぞれ5枚採取した。次いで、ガラスクロス試験片を、含浸評価用試験液に温度25℃で3分間浸漬した。このとき、横からLEDライトの光を照射しながら、高精度カメラを装備したマイクロスコープにて含浸評価用試験液がガラスクロスに含浸する様子を観察することにより、ガラスクロス試験片を含浸評価用試験液に浸漬してから3分後の、長さ160μm以上の未含浸部位の数(含浸評価用試験液の未含浸部位)をカウントした。また、マイクロスコープで観察したガラスクロスの視野範囲は、経糸方向約32mm、緯糸方向約32mmとした。5枚のガラスクロス試験片の未含浸部位数の平均値を求め、未含浸部位数とした。含侵用評価試験液には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名「エピクロン」)をベンジルアルコール溶液で希釈して、温度25℃における粘度680mPa・sに調整した溶液(含浸評価用試験液A)、および温度25℃における粘度650mPa・sに調整されたひまし油(製品名「ひまし油」、等級CP、林純薬工業株式会社製)(含浸評価用試験液B)をそれぞれ用いた。
【0081】
〔絶縁信頼性評価〕
実施例、比較例及び参考例で得られた長尺状のガラスクロスから、絶縁信頼性評価用のガラスクロスサンプルを採取した。絶縁信頼性評価用のガラスクロスに、SA9000(Sabicイノベーティブプラスチックス社製)50重量部、TAIC(日本化成社製)25重量部、パーブチルP(日油社製)0.4重量部、熱可塑性樹脂SEB―SH1053(旭化成株式会社製)10重量部、難燃剤SAYTEX8010(アルベマール社製)30重量部、球状シリカ(龍森社製)70重量部、およびトルエン200重量部、よりなる低誘電樹脂ワニスを含浸させ、160℃で2分間乾燥させ、樹脂含量が60%のプリプレグを得た。このプリプレグをそれぞれ所定枚数重ね、さらに上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、195℃、40kg/cm2で60分間加熱加圧して、厚さ約0.4mmの基板を得た。得られた基板の両面の銅箔上に0.15mm間隔のスルーホールを配する配線パターンを作製して、絶縁信頼性評価の試験用基板をそれぞれ10枚作製した。得られた試験用基板に対して温度95℃、湿度95%RHの雰囲気下で10Vの電圧を掛け、抵抗値の変化を測定した。この際、試験開始後1000時間以内に抵抗が1MΩ未満になった場合を絶縁不良としてカウントした。10枚の試験用基板について同様の測定を行い、下記評価基準により絶縁信頼性を評価した。
A:10枚とも絶縁不良が生じなかった。
B:1枚のみ、絶縁不良が生じた。
C:2枚のみ、絶縁不良が生じた。
D:3枚以上で、絶縁不良が生じた。
【0082】
〔毛羽評価〕
実施例、比較例、参考例で得られた長尺状のガラスクロスから、長さ方向1000mmの毛羽評価用サンプル5枚を採取した。毛羽評価用サンプルを検反板上に広げ、目視検査を行い、下記評価基準により毛羽品質を評価した。
A:毛羽評価用サンプル5枚とも毛羽欠点が無かった。
B:毛羽評価用サンプルの4枚には、毛羽欠点が無かった。
C:毛羽評価用サンプルの3枚には、毛羽欠点が無かった。
D:毛羽評価用サンプルの2枚以上に、毛羽欠点が検出された。
【0083】
《製造例》
〔比較例1〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数200本、ガラス組成;SiO2換算49.8質量%、Al2O3換算16.8質量%、CaO換算3.1質量%、MgO換算0.1質量%、B2O3換算23.9質量%、P2O5換算4.0質量%)を経糸および緯糸に用い、エアージェットルームにて、経糸織り密度52.5本/25mm、緯糸織り密度52.5本/25mmのガラスクロス生機を得た。ガラスクロス生機を加熱加工により脱糊処理した後、シランカップリング処理液(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング株式会社製;Z6030)を水に分散させた処理液)を用いて表面処理を行った。次いで、表面処理後のガラスクロスに、水圧を10.0±0.1kg/cm2に調整したスプレーで高圧水開繊を施し、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0084】
〔比較例2〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を18.0±0.1kg/cm2と高くし開繊強度を上げたこと以外は、比較例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0085】
〔比較例3〕
加熱加工により脱糊処理した後に、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数80GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射する洗浄処理を行った。また、高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧を2.0±0.1kg/cm2と低くし開繊強度を下げた。上記以外は、比較例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0086】
〔実施例1〕
加熱加工により脱糊処理した後に、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数45GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射する洗浄処理を行った。ここで、ガラスクロスを水中で走行させる前に、ガラスクロスに含まれる空気を排出する目的で、ガラスクロスにスプレー水を噴霧してガラスクロスを濡らしてから水中に浸入させ、水中で走行させた。また、ガラスクロスを水中で走行させる際は、超音波処理による発生する気泡が留まらないように、進行方向川下に向かって高くなるよう水平方向に対して0.4°の傾斜をつけてガラスクロスを搬送させた(ガラスクロスの走行が進むにつれて、垂直方向に高くなるように傾斜をつけた)。また、高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧を2.0±0.1kg/cm2と低くし開繊強度を下げた。上記以外は、比較例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0087】
〔実施例2〕
超音波を照査する洗浄処理に用いる超音波の周波数を25GHzとした以外は、実施例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0088】
〔参考例1〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数200本、ガラス組成;SiO2換算51.2質量%、Al2O3換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B2O3換算23.3質量%、P2O5換算0.1質量%)を経糸および緯糸に用いる以外は、比較例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0089】
〔参考例2〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数200本、ガラス組成;SiO2換算53.1質量%、Al2O3換算15.4質量%、CaO換算21.0質量%、MgO換算1.9質量%、B2O3換算8.0質量%、P2O5換算0.1質量%未満)を経糸および緯糸に用いる以外は、比較例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0090】
〔比較例4〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数200本、ガラス組成;SiO2換算46.9質量%、Al2O3換算14.6質量%、CaO換算3.9質量%、MgO換算0.1質量%、B2O3換算28.9質量%、P2O5換算5.6質量%未満)を経糸および緯糸に用いる以外は、実施例1と同様にして、厚さ46μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0091】
〔比較例5〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数100本、ガラス組成;SiO2換算49.8質量%、Al2O3換算16.8質量%、CaO換算3.1質量%、MgO換算0.1質量%、B2O3換算23.9質量%、P2O5換算4.0質量%)を経糸および緯糸に用い、エアージェットルームにて、経糸織り密度64.5本/25mm、緯糸織り密度67本/25mmのガラスクロス生機を得た。ガラスクロス生機を加熱加工により脱糊処理した後、シランカップリング処理液(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング株式会社製;Z6030)を水に分散させた処理液)を用いて表面処理を行った。次いで、表面処理後のガラスクロスに、水圧を8.0±0.1kg/cm2に調整したスプレーで高圧水開繊を施し、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0092】
〔比較例6〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を18.0±0.1kg/cm2と高くして開繊強度を上げたこと以外は、比較例5と同様にして、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0093】
〔比較例7〕
加熱加工により脱糊処理した後に、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数80GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射する洗浄処理を行った。また、高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧を2.0±0.1kg/cm2と低くし開繊強度を下げた。上記以外は、比較例5と同様にして、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0094】
〔実施例3〕
加熱加工により脱糊処理した後に、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数45GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射する洗浄処理を行った。ここで、ガラスクロスを水中で走行させる前に、ガラスクロスに含まれる空気を排出する目的で、ガラスクロスにスプレー水を噴霧してガラスクロスを濡らしてから水中に浸入させ、水中で走行させた。また、ガラスクロスを水中で走行させる際は、超音波処理による発生する気泡が留まらないように、進行方向川下に向かって高くなるよう水平方向に対して0.4°の傾斜をつけてガラスクロスを搬送させた(ガラスクロスの走行が進むにつれて、垂直方向に高くなるように傾斜をつけた)。また、高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧を2.0±0.1kg/cm2と低くし開繊強度を下げた。上記以外は、比較例5と同様にして、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0095】
〔実施例4〕
超音波を照査する洗浄処理に用いる超音波の周波数を25GHzとした以外は、実施例3と同様にして、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0096】
〔参考例3〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数100本、ガラス組成;SiO2換算51.2質量%、Al2O3換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B2O3換算23.3質量%、P2O5換算0.1質量%)を経糸および緯糸に用いる以外は、比較例5と同様にして、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0097】
〔参考例4〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数100本、ガラス組成;SiO2換算53.1質量%、Al2O3換算15.4質量%、CaO換算21.0質量%、MgO換算1.9質量%、B2O3換算8.0質量%、P2O5換算0.1質量%未満)を経糸および緯糸に用いる以外は、比較例5と同様にして、厚さ30μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0098】
〔比較例8〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数100本、ガラス組成;SiO2換算49.8質量%、Al2O3換算16.8質量%、CaO換算3.1質量%、MgO換算0.1質量%、B2O3換算23.9質量%、P2O5換算4.0質量%)を経糸および緯糸に用い、エアージェットルームにて、経糸織り密度60本/25mm、緯糸織り密度57本/25mmのガラスクロス生機を得た。ガラスクロス生機を加熱加工により脱糊処理した後、シランカップリング処理液(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング株式会社製;Z6030)を水に分散させた処理液)を用いて表面処理を行った。次いで、表面処理後のガラスクロスに、水圧を12.0±0.1kg/cm2に調整したスプレーで高圧水開繊を施し、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0099】
〔比較例9〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を18.0±0.1kg/cm2と高くして開繊強度を上げたこと以外は、比較例8と同様にして、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0100】
〔比較例10〕
加熱加工により脱糊処理した後に、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数80GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射する洗浄処理を行った。また、高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧を2.0±0.1kg/cm2と低くし開繊強度を下げた。上記以外は、比較例8と同様にして、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0101】
〔実施例5〕
加熱加工により脱糊処理した後に、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数45GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射する洗浄処理を行った。ここで、ガラスクロスを水中で走行させる前に、ガラスクロスに含まれる空気を排出する目的で、ガラスクロスにスプレー水を噴霧してガラスクロスを濡らしてから水中に浸入させ、水中で走行させた。また、ガラスクロスを水中で走行させる際は、超音波処理による発生する気泡が留まらないように、進行方向川下に向かって高くなるよう水平方向に対して0.7°の傾斜をつけてガラスクロスを搬送させた(ガラスクロスの走行が進むにつれて、垂直方向に高くなるように傾斜をつけた)。また、高圧水開繊の高圧水スプレーの水圧を2.0±0.1kg/cm2と低くし開繊強度を下げた。上記以外は、比較例8と同様にして、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0102】
〔実施例6〕
超音波を照査する洗浄処理に用いる超音波の周波数を25GHzとした上記以外は、実施例5と同様にして、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0103】
〔参考例5〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数100本、ガラス組成;SiO2換算51.2質量%、Al2O3換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B2O3換算23.3質量%、P2O5換算0.1質量%)を経糸および緯糸に用いる以外は、比較例8と同様にして、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0104】
〔参考例6〕
ガラス糸(フィラメント直径5.1μm、フィラメント本数100本、ガラス組成;SiO2換算53.1質量%、Al2O3換算15.4質量%、CaO換算21.0質量%、MgO換算1.9質量%、B2O3換算8.0質量%、P2O5換算0.1質量%未満)を経糸および緯糸に用いる以外は、比較例8と同様にして、厚さ90μm、幅1280mm、長さ2,000mのガラスクロスを作製した。
【0105】
表1~3に、実施例、比較例及び参考例のガラスクロスの特性及び評価をまとめる。表中、未含浸部位数上限1~4は、それぞれ、上記式(1)~(4)で算出される未含浸部位数の上限を意味する。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
実施例の低誘電ガラスクロスは、比較例のガラスクロスに比較して、良好な絶縁信頼性が得られた。また、実施例の低誘電ガラスクロス、及び比較例3、4、7、10のガラスクロスは、比較例1、2、5、6、8、9及び参考例のガラスクロスに対して、良好な毛羽品質が得られた。
【0110】
参考例に示した従来のEガラス、及び加熱による重量減少が穏やかな低誘電ガラスクロスは、比較例3、7、10と同様の含侵性評価による未含浸部位数であったが、良好な絶縁信頼性が得られた。含侵性評価では、Eガラス、及び加熱による重量減少が穏やかな低誘電ガラスクロスと同等の未含浸部位数であっても、絶縁信頼性に劣ることは、加熱による重量減少が大きい低誘電ガラスクロスに特有の課題であったが、本開示のガラスクロスにより解決されることが明らかとなった。