IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人産業医科大学の特許一覧

特開2024-111837混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法
<>
  • 特開-混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法 図1
  • 特開-混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法 図2
  • 特開-混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法 図3
  • 特開-混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法 図4
  • 特開-混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法 図5
  • 特開-混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111837
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016020
(22)【出願日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2023016268
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.第63回九州リウマチ学会 1)電気通信回線を通じて発表 令和4年2月7日にウェブサイトに掲載 https://www.congre.co.jp/63k-ryumachi/program/pro.pdf 2)刊行物に発表 令和4年2月21日、第63回九州リウマチ学会プログラム・抄録集、第69頁、演題番号S1-2-5、発行者:株式会社コングレ九州支社(第63回九州リウマチ学会 運営事務局) 3)集会において発表 令和4年3月12日、第63回九州リウマチ学会、演題番号S1-2-5 2.JCR International School 2022 1)電気通信回線を通じて発表 令和4年7月20日にウェブサイトに掲載 https://eng.ryumachi-jp.com/g_info/program/ https://www.ryumachi-jp.com/jcr_wp/media/2022/11/JCR-International-School-2022_Program_0720.pdf 2)刊行物に発表 令和4年7月28日、JCR International School 2022抄録集、演題番号7-2、発行者:Japan College of Rheumatology(日本リウマチ学会) 3)集会において発表 令和4年7月30日、JCR International School 2022、演題番号7-2
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 3.第50回日本臨床免疫学会総会 1)電気通信回線を通じて発表 令和4年9月6日にウェブサイトに掲載 http://www.icongroup.co.jp/50jsci/ http://www.icongroup.co.jp/50jsci/program/ http://www.icongroup.co.jp/50jsci/program/program_0906.pdf http://www.icongroup.co.jp/50jsci/program/50jsci_0906.pdf 2)刊行物に発表 令和4年8月、第50回日本臨床免疫学会総会 プログラム・抄録集、第67頁、演題番号W5-4、発行者:合同会社iCON内(第50回日本臨床免疫学会運営事務局) 3)集会において発表 令和4年10月14日、第50回日本臨床免疫学会総会、演題番号W5-4 4.第51回日本免疫学会学術集会 1)電気通信回線を通じて発表 令和4年11月にウェブサイトに掲載 https://www2.aeplan.co.jp/jsi2022/ https://www2.aeplan.co.jp/jsi2022/program/ https://www2.aeplan.co.jp/jsi2022/wp-content/uploads/2022/12/Program.pdf https://www2.aeplan.co.jp/jsi2022/online_system/ https://jsi2022.gakkai.online/ 2)刊行物に発表 令和4年11月30日、日本免疫学会総会・学術集会記録 第51巻 プログラム、第155頁、演題番号WS31-06-0/P、発行者:特定非営利活動法人 日本免疫学会 3)集会において発表 令和4年12月9日、第51回日本免疫学会学術集会、演題番号WS31-06-0/P
(71)【出願人】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(72)【発明者】
【氏名】田中 良哉
(72)【発明者】
【氏名】久保 智史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 実
(57)【要約】
【課題】混合性結合組織病の重症度や予後を評価するための新たなバイオマーカーを提供すること、及びそれを用いてMCTDの重症度や予後を評価する方法を提供すること。
【解決手段】混合性結合組織病患者から分離された生体試料中の抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を検出し、抗生存運動ニューロン複合体自己抗体が陽性である場合に、重症の混合性結合組織病又は予後不良と関連付けることにより、混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合性結合組織病患者から分離された生体試料中の抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を検出することを含む、混合性結合組織病の重症度を評価する方法。
【請求項2】
抗生存運動ニューロン複合体自己抗体が陽性である場合に、重症の混合性結合組織病と関連付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
重症の混合性結合組織病が、肺動脈性肺高血圧症又は間質性肺疾患を併発した混合性結合組織病である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
重症の混合性結合組織病が、全身性エリテマトーデス様、全身性強皮症様、及び特発性炎症性筋疾患様の全ての臨床的症状を伴う混合性結合組織病である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
混合性結合組織病患者から分離された生体試料中の抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を検出することを含む、混合性結合組織病の予後を評価する方法。
【請求項6】
抗生存運動ニューロン複合体自己抗体が陽性である場合に、予後不良と関連付けられる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生存運動ニューロン複合体を含む、混合性結合組織病の重症度の評価用キット。
【請求項8】
生存運動ニューロン複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの1種類以上を含む、混合性結合組織病の重症度の評価用キット。
【請求項9】
生存運動ニューロン複合体を含む、混合性結合組織病の予後の評価用キット。
【請求項10】
生存運動ニューロン複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの1種類以上を含む、混合性結合組織病の予後の評価用キット。
【請求項11】
抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を含む、混合性結合組織病の重症度の評価用バイオマーカー。
【請求項12】
抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を含む、混合性結合組織病の予後の評価用バイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合性結合組織病の重症度や予後を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫性疾患において、各疾患に特徴的な自己抗体の検出は、診断や臓器障害、予後と関連し、疾患の亜群化や個別化医療への応用という観点からも臨床的意義が高い。
【0003】
混合性結合組織病(MCTD)は、全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus:以下SLEと称する場合がある。)、全身性強皮症(Systemic sclerosis:以下SScと称する場合がある。)、及び特発性炎症性筋疾患(Idiopathic inflammatory myopathies:以下IIMと称する場合がある。)の臨床的特徴が混在する自己免疫性疾患である。全身に臓器障害を合併することで知られ、特に肺動脈性肺高血圧症(PAH)および間質性肺疾患(ILD)は生命予後に影響を与える(非特許文献1~5)。
【0004】
MCTDにおける診断的意義の高い自己抗体として抗U1リボヌクレオプロテイン(U1 RNP)抗体が存在する。抗U1 RNP抗体はMCTDの診断に必須であり、MCTDの診断に対する感度は100%である。しかしながら、SLEやSScなどの他疾患でも抗U1 RNP抗体は陽性となりうるためMCTDの診断に対する特異度や陽性的中率は高くない。またPAHやILDといったMCTDに特徴的な臓器障害や疾患活動性、予後との関連は乏しい。
【0005】
本発明者らは、自己免疫疾患患者を対象として免疫沈降法を用いた自己抗体解析を行ってきた。その予備検討において、数例のIIM/SSc重複症候群の患者で抗生存運動ニューロン(Survival of Motor Neuron(以下SMNと称する場合がある。))複合体抗体が検出されること(非特許文献6、7)、抗U1 RNP抗体陽性例の約25%に抗SMN複合体抗体陽性例がみられる事を報告してきた(非特許文献8)。しかしながら、MCTDにおける抗SMN複合体抗体の意義は不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rheumatology (Oxford). 2013;52(7):1208-13
【非特許文献2】Arthritis Rheum. 1999;42(5):899-909
【非特許文献3】Ann Rheum Dis. 2012;71(12):1966-72
【非特許文献4】Clin Exp Rheumatol. 2018;36(4):648-651
【非特許文献5】Rheumatology (Oxford). 2018;57(2):255-62.
【非特許文献6】Arthritis Rheum. 2011;63(7):1972-8.
【非特許文献7】Clin Rev Allergy Immunol. 2012;42(1):16-25.
【非特許文献8】Rheumatology (Oxford). 2018;57(1):199-200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、MCTDの重症度や予後を評価するための新たなバイオマーカーを提供すること、及びそれを用いてMCTDの重症度や予後を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗U1 RNP自己抗体陽性の158例の連続症例について、MCTD症例と抗U1 RNP自己抗体陽性だがMCTDの診断に至らなかったSLEおよびSSc症例を対象に、抗SMN複合体自己抗体の臨床的意義を検討した。その結果、抗SMN複合体自己抗体は、MCTD以外ではほとんどみられず特異性が高く、MCTD診断の補助的なバイオマーカーになり得ることを見出した。抗SMN複合体自己抗体陽性のMCTD症例は、陰性例と比較して、PAHおよびILDの合併率が高く、予後も不良であった。抗SMN複合体自己抗体は、MCTDに代表的な臨床的特徴をもつ「典型的なMCTD」と関連がみられた。本発明者らは、これらの知見に基づき、更に検討を進め、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は以下に関する。[1]混合性結合組織病患者から分離された生体試料中の抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を検出することを含む、混合性結合組織病の重症度を評価する方法。[2]抗生存運動ニューロン複合体自己抗体が陽性である場合に、重症の混合性結合組織病と関連付けられる、[1]の方法。[3]重症の混合性結合組織病が、肺動脈性肺高血圧症又は間質性肺疾患を併発した混合性結合組織病である、[2]の方法。[4]重症の混合性結合組織病が、全身性エリテマトーデス様、全身性強皮症様、及び特発性炎症性筋疾患(IIM)様の全ての臨床的症状を伴う混合性結合組織病である、[2]の方法。[5]混合性結合組織病患者から分離された生体試料中の抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を検出することを含む、混合性結合組織病の予後を評価する方法。[6]抗生存運動ニューロン複合体自己抗体が陽性である場合に、予後不良と関連付けられる、[5]の方法。[7]生存運動ニューロン複合体を含む、混合性結合組織病の重症度の評価用キット。
[8]生存運動ニューロン複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの1種類以上を含む、混合性結合組織病の重症度の評価用キット。
[9]生存運動ニューロン複合体を含む、混合性結合組織病の予後の評価用キット。[10]生存運動ニューロン複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの1種類以上を含む、混合性結合組織病の予後の評価用キット。[11]抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を含む、混合性結合組織病の重症度の評価用バイオマーカー。[12]抗生存運動ニューロン複合体自己抗体を含む、混合性結合組織病の予後の評価用バイオマーカー。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、MCTDの重症度や予後を評価するための新たなバイオマーカーが提供され、MCTDの重症度、臓器障害、疾患活動性、及び予後を評価することが可能となる。厚生労働省指定難病医療費給付金については、重症度分類が使用されるが、多くは主観的な項目から構成されている。本発明により、客観的な指標に基づくMCTDの重症度分類が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、免疫沈降法によるMCTD患者の血清の抗SMN複合体反応性の解析結果を示す。35S-メチオニン/システイン標識K562細胞抽出物を用いた免疫沈降を、12.5%(A)および8.0%(B)ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で解析した。レーン1~9はMCTD患者からの血清を含む。SMN複合体の構成要素(SMN、Gemin 2、Gemin 3/4、Gemin 5、Gemin 6/7)、小核RNPの構成要素(U1-70k、U1-A、U1-C)とSmコア粒子(B'/B、D1/D2/D3、E/F、G)の位置を左に示す。SMN:生存運動ニューロン、mab:マウスモノクローナル抗SMN抗体2B1、hu:ヒトプロトタイプ抗SMN抗体陽性血清、NHS:正常ヒト血清。
図2図2は、MCTD、SLE、及びSSc患者における多様な自己抗体の陽性率を示す。P値は、Fisherの正確検定により決定されたMCTD vs SLE及びSScの値である。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。MCTD:混合結合組織病、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性硬化症、SMN:生存運動ニューロン。
図3図3は、MCTD患者(n=67)における抗SMN複合体抗体(Anti-SMN)の有無と臨床/検査所見の関係を示す。データは特に断りのない限り、中央値(四分位範囲)である。P値はフィッシャーの正確検定、t検定、Mann-Whitney検定により決定した。* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。
図4図4は、抗SMN複合体抗体と重複する症状の組み合わせの関係を示す。
図5】抗SMN複合体抗体を有するMCTD患者と有しないMCTD患者における初期治療と生存確率の比較を示す。(A)初期治療において高用量グルココルチコイド療法が使用された割合を示す。(B)1年後生存率の比較を示す。
図6】MCTD患者における抗SMN複合体抗体とPAH/ILDの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、混合性結合組織病患者から分離された生体試料中の抗SMN複合体自己抗体を検出することを含む、混合性結合組織病の重症度又は予後を評価する方法(以下、本発明の方法という。)を提供するものである。
【0013】
混合性結合組織病(Mixed Connective Tissue Disease:MCTD)は、全身性エリテマトーデス(SLE)様、全身性強皮症(SSc)様及び特発性炎症性筋疾患(IIM)様のうち2つ以上の臨床的症状が混在し、且つ血液検査で抗U1 RNP自己抗体が陽性である自己免疫性疾患である。MCTDは、厚生労働省の日本研究班が発行したMCTD診断基準2019改訂版(Mod Rheumatol. 2021;31(1):29-33)に基づき、診断することができる。
【0014】
生存運動ニューロン(Survival Motor Neuron:SMN)複合体は、真核細胞において、核内低分子リボ核タンパク(snRNP)の形成及びRNA 代謝及びスプライシングに関与する、タンパク質複合体である(Trends Mol. Med., 2006; 12(3):13-21,Semin Cell Dev Biol, 2014; 32:22-9)。SMN複合体は、SMNとGeminタンパク質群(Gemin 2-7)から構成される。SMN複合体を構成する最も代表的な構成因子は、SMN、Gemin 2(SIP1とも呼ばれる。)、Gemin 3(DP103、Ddx20とも呼ばれる。)及びGemin 4(GIP1とも呼ばれる。)である。SMN複合体は、SMNと、Gemin 2-7から選択される1又は複数のGeminタンパク質を含む。本発明において検出する抗SMN複合体抗体が認識するSMN複合体は、好ましくはSMN、Gemin 3及びGemin 4を構成因子として含むが、他の構成因子(例えばGemin 5等)を含んでいても含まなくてもよい。
【0015】
抗SMN複合体自己抗体とは、SMN複合体を特異的に認識する自己抗体であり、SMN複合体内のいずれかの構成因子を特異的に認識する自己抗体、及び複数の構成因子の集合により形成されたSMN複合体の立体構造を特異的に認識する自己抗体が含まれる。本発明において検出する抗SMN複合体抗体には、SMN複合体内のSMNを特異的に認識する自己抗体、SMN複合体内のGemin 3を特異的に認識する自己抗体、SMN複合体内のGemin 4を特異的に認識する自己抗体、SMN複合体内のGemin 5を特異的に認識する自己抗体、SMN、Gemin 3及びGemin 4を含有するSMN複合体もしくはSMN、Gemin 3、Gemin 4及びGemin 5を含有するSMN複合体の立体構造を特異的に認識する自己抗体が含まれ得る。
【0016】
「特異的」とは、1または複数の結合パートナーに特異的に結合する抗体が、該パートナー以外の分子に対して何ら有意な結合を示さないことを意味する。さらに、「特異的」はまた、抗原結合部位が、抗原中に含まれる複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合部位が結合するエピトープが複数の異なる抗原中に含まれる場合、該抗原結合部位を含む抗体は、該エピトープを有する様々な抗原に結合し得る。
【0017】
本発明の方法に用いられる生体試料は、MCTD患者から採取されるものであって、検出対象である抗SMN複合体自己抗体を含有し得るものであれば特に制限されない。生体試料としては、例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、髄液、腹水、関節液、尿、汗、唾液等の体液もしくはそのフラクションなどが挙げられ、好ましくは、血液、血漿又は血清である。
【0018】
生体試料中の抗SMN複合体自己抗体の検出は、SMN複合体を含有する細胞溶解液や単離精製されたSMN複合体を用いて、免疫学的測定法(例:免疫沈降法、ELISA、FIA、RIA、ウエスタンブロット等)によって行うことができる。
【0019】
生体試料中の抗SMN複合体自己抗体の検出は、SMN複合体の構成因子のタンパク質(SMN、Gemin 3、Gemin 4、Gemin 5等)又は抗原性を有するその部分ペプチドを用いて、免疫学的測定法(例:免疫沈降法、ELISA、FIA、RIA、ウエスタンブロット等)によって行うこともできる。検出に使用するSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、好ましくは単離又は精製されている。単離又は精製されたタンパク質又はペプチドの純度(全タンパク質又はペプチド重量に対する、意図した特定のタンパク質又はペプチドの重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば100%)である。一態様において、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、SMN複合体に含まれない形態(即ち遊離した形態)で、検出に使用される。
【0020】
検出に使用するSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドには、タグペプチドが付加されていてもよい。タグペプチドとは、タンパク質の検出や精製等を容易にならしめるために付加されるペプチドをいう。タグペプチドとしては、エピトープタグ、蛍光タンパク質、イムノグロブリンFc領域等を挙げることが出来るがこれに限定されない。エピトープタグとは、抗体または他の結合パートナーによって特異的に認識されるペプチドをいい、具体的には、Flag、ポリヒスチジン、c-Mycタグ、HA、AU1、GST、MBP等を挙げることが出来る。
【0021】
検出に使用するSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、適当な標識剤(ビオチン、酵素、蛍光物質、発光物質等)で標識されていてもよい。
【0022】
個々の免疫学的測定法を本発明の方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて抗SMN複合体自己抗体の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。例えば、入江寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol.70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書Vol.73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書Vol.74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書Vol.84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書Vol.92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書Vol.121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0023】
具体的な一態様において、SMN複合体を含有するヒト細胞(例、K562)の溶解液と抗SMN複合体自己抗体を含有し得る生体試料とを混合し、形成された免疫複合体を免疫沈降法により回収し、免疫沈降物にSMN複合体が含まれているか否かを評価する。該評価は、例えば、放射線同位体(例、35S-メチオニン/システイン)で標識した細胞溶解液を用いて、免疫沈降物を電気泳動(例、SDS-PAGE)で分離し、その泳動パターンを、SMN複合体を特異的に認識する抗体を含むポジティブコントロール試料を用いた時の泳動パターンと比較し、SMN複合体構成因子(SMN、Gemin 3、Gemin 4等)に相当するバンドの有無を評価する(Arthritis Rheum. 2007;56(2):596-604)。或いは、SMN複合体に含まれる各構成因子(SMN、Gemin 3、Gemin 4等)を特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法(例、ウェスタンブロッティング)により、免疫沈降物中にSMN複合体構成因子(SMN、Gemin 3、Gemin 4)が含まれるか評価する。
【0024】
別の一態様において、SMN複合体の構成因子(SMN、Gemin 3、Gemin 4等)のいずれかを特異的に認識する抗体(例、抗SMN抗体)を用いた抗体カラムにより、SMN複合体を有するヒト細胞からSMN複合体を単離又は精製する。そして、単離又は精製されたSMN複合体と評価対象の生体試料とを接触させて、生体試料中に単離又は精製されたSMN複合体に結合する自己抗体が含まれるか否かを免疫学的手法(例、ELISA、FIA、RIA等)で評価する。
【0025】
更なる態様において、混合性結合組織病患者から分離された生体試料と、SMN複合体の構成因子のタンパク質(SMN、Gemin 3、Gemin 4、Gemin 5等)又は抗原性を有するその部分ペプチドの1種類以上を含む抗原を固相上に固定化した担体とを接触させ、前記生体試料中の自己抗体と固相上に固定化した抗原の複合体を形成させ、前記自己抗体と固相化した抗原との複合体中の、自己抗体を免疫学的手法(例、ELISA、FIA、RIA等)で検出する。固相上に固定化する抗原に含まれるSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの含有量(全抗原タンパク質又はペプチド重量に対する、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば100%)である。一態様において、固相上に固定化する抗原は、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドからなる。
【0026】
複数種類のSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドを固相化してもよいし、単一種のSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドのみを固相化してもよい。SMN複合体の構成因子のタンパク質は、好ましくは、SMN、Gemin 3、Gemin 4及びGemin 5からなる群から選択されるいずれかであり、より好ましくはSMN、Gemin 3及びGemin 4からなる群から選択されるいずれかである。一態様において、固定化する抗原に含まれるSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、SMN又は抗原性を有するその部分ペプチド、Gemin 3又は抗原性を有するその部分ペプチド、Gemin 4又は抗原性を有するその部分ペプチド、及びGemin 5又は抗原性を有するその部分ペプチドからなる群から選択される1、2、3又は4のみである。別の態様において、固定化する抗原に含まれるSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、SMN又は抗原性を有するその部分ペプチド、Gemin 3又は抗原性を有するその部分ペプチド、及びGemin 4又は抗原性を有するその部分ペプチドからなる群から選択される1、2又は3のみである。一態様において、固相上に固定化する抗原には、Gemin 5又はその部分ペプチドは含まれない。
【0027】
自己抗体と固相化した抗原との複合体中の自己抗体の検出は、ヒトイムノグロブリン(例えばIgG)に対する抗体又はその機能的結合断片を、自己抗体と固相化した抗原との複合体に接触させ、該複合体に結合した抗ヒトイムノグロブリン抗体又はその機能的結合断片を検出することにより行うことができる。例えば、ヒトイムノグロブリンに対する抗体又はその機能的結合断片を適切な酵素で標識しておき、基質と反応させる。
【0028】
そして、一態様において、生体試料中に抗SMN複合体自己抗体が検出された場合(即ち「陽性」の場合)、重症の混合性結合組織病と関連付けられる。「重症の混合性結合組織病」としては、肺動脈性肺高血圧症又は間質性肺疾患を併発した混合性結合組織病、及び全身性エリテマトーデス様、全身性強皮症様、及び特発性炎症性筋疾患様の全ての臨床的症状を伴う混合性結合組織病を挙げることができる。全身性エリテマトーデス様の臨床的症状としては、多関節炎、リンパ節腫脹、顔面紅斑、心膜炎または胸膜炎、血球減少、低補体血症等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。全身性強皮症様の臨床的症状としては、皮膚硬化、間質性肺疾患、高値のKL-6等を挙げることができるが、これらに限定されない。特発性炎症性筋疾患様の臨床的症状には、筋力低下、高値の血清クレアチンキナーゼ(CK)値、筋電図上の筋原性異常等を挙げることができるが、これらに限定されない。抗SMN複合体自己抗体が陽性であった場合、陰性の場合と比較して、混合性結合組織病がより重症であり、肺動脈性肺高血圧症又は間質性肺疾患を併発していたり、全身性エリテマトーデス様、全身性強皮症様、及び特発性炎症性筋疾患様の3つ全ての臨床的症状を併っている可能性が高いと評価することができる。
【0029】
別の態様において、生体試料中に抗SMN複合体自己抗体が検出された場合(即ち「陽性」の場合)、予後不良と関連付けられる。即ち、抗SMN複合体自己抗体が陽性であった場合、陰性の場合と比較して、予後不良であり、将来的な生存率がより低くなる可能性が高いと評価することができる。
【0030】
また、生体試料中に抗SMN複合体自己抗体が検出された場合(即ち「陽性」の場合)、当該混合性結合組織病患者は重症であるか、予後不良であると考えられるため、医師は、当該混合性結合組織病患者に対する治療法として、グルココルチコイド療法(好ましくは、高用量グルココルチコイド療法)を選択し、当該混合性結合組織病患者に対してグルココルチコイド(好ましくは、高用量のグルココルチコイド)を投与することができる。このように、生体試料中の抗SMN複合体自己抗体を検出することにより、医師は、混合性結合組織病患者に対して適切な治療方法を選択することが可能となる。
【0031】
本発明は、混合性結合組織病の重症度又は予後の評価用キット(本発明のキット)にも及ぶ。該キットは、抗SMN複合体自己抗体を検出するためのSMN複合体を含む。「SMN複合体」の定義は、上述の通りである。本発明のキットに含まれるSMN複合体は、好ましくはSMN、Gemin 3及びGemin 4を構成因子として含むが、他の構成因子(例えばGemin 5等)を含んでいても含まなくてもよい。本発明のキットに含まれるSMN複合体は、好ましくは、単離又は精製されている。「単離又は精製」とは、天然あるいは合成された状態から目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製されたSMN複合体の純度(全タンパク質中に占めるSMN複合体の割合((w/w)%))は、通常10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。本発明のキットでは、SMN複合体と混合性結合組織病患者の生体試料を接触させて、SMN複合体に結合した抗SMN複合体自己抗体を、免疫学的手法を用いて検出する。
【0032】
更なる局面において、本発明のキットは、SMN複合体に代えて、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの1種類以上を含む。SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドの定義は上述の通りである。本発明のキットに含まれるSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、好ましくは単離又は精製されている。一態様において、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、SMN複合体に含まれない形態(即ち遊離した形態)で、本発明のキットに含まれ得る。複数種類のSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドが含まれていてもよく、単一種のSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドのみが含まれていてもよい。SMN複合体の構成因子のタンパク質は、好ましくは、SMN、Gemin 3、Gemin 4及びGemin 5からなる群から選択されるいずれかであり、より好ましくはSMN、Gemin 3及びGemin 4からなる群から選択されるいずれかである。一態様において、本発明のキットに含まれるSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、SMN又は抗原性を有するその部分ペプチド、Gemin 3又は抗原性を有するその部分ペプチド、Gemin 4又は抗原性を有するその部分ペプチド、及びGemin 5又は抗原性を有するその部分ペプチドからなる群から選択される1、2、3又は4のみである。別の態様において、本発明のキットに含まれるSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、SMN又は抗原性を有するその部分ペプチド、Gemin 3又は抗原性を有するその部分ペプチド、及びGemin 4又は抗原性を有するその部分ペプチドからなる群から選択される1、2又は3のみである。一態様において、本発明のキットには、Gemin 5又はその部分ペプチドは含まれない。
【0033】
上記本発明の方法において、本発明のキットを用いて、混合性結合組織病患者の生体試料中の抗SMN複合体自己抗体を検出することにより、容易に混合性結合組織病の重症度又は予後を評価することが出来る。
【0034】
SMN複合体、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドは、あらかじめ固相上に固定化されていてもよい。本発明の診断用キットにおいて用いることができる固相としては特に限定されず、例えば、ポリスチレンなどのポリマー、ガラスビーズ、磁性粒子、マイクロプレート、イムノクロマトグラフィー用濾紙、ガラスフィルターなどの不溶性担体を挙げることができる。
【0035】
本発明のキットには、SMN複合体、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドに加えて他の試薬等が含まれていてもよく、これらの試薬等は、あらかじめSMN複合体、SMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドと一緒になっていてもよいし、別々の容器に格納されていてもよい。他の試薬としては、SMN複合体又はSMN複合体の構成因子のタンパク質又は抗原性を有するその部分ペプチドに結合した抗SMN複合体自己抗体を検出するための二次抗体(例えば、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等の酵素や蛍光色素で標識された抗ヒトIgGなど)、ブロッキング液、基質剤、固相、反応容器の他に、処理液やSMN複合体を希釈するための緩衝液、陽性対照(例、抗SMN複合体特異的抗体、抗SMN複合体自己抗体を含むヒト血清)、陰性対照、プロトコールを記載した指示書などが挙げられる。これらの要素は、必要に応じてあらかじめ混合しておくこともできる。
【0036】
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
【0037】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例0038】
1.方法(患者) この多施設(産業医科大学、産業医科大学若松病院、北九州総合病院、福岡ゆたか中央病院、及び戸畑総合病院)観察研究では、2014年4月から2022年8月の間に研究への参加に同意した、抗U1 RNP抗体を有する、新たに診断され未治療の連続症例158例を対象とした。MCTD患者は、2014年4月から2022年7月の間は、厚生労働省の全身性自己免疫疾患についての日本研究班が発行したMCTD診断基準2004(粕川基準)に基づき、2020年1月以降は厚生労働省の日本研究班が発行したMCTD診断基準2019改訂版(以下、新診断基準2019)(Mod Rheumatol. 2021;31(1):29-33)に基づき、それぞれ診断した。本研究では、全MCTD患者(n=67)が新診断基準2019を満たしており、感度(90.6%)および特異度(98.4%)ともに既存の他の診断基準より高いことを確認した(Mod Rheumatol. 2021;31(1):29-33)。また、本研究では、同じ期間に診断された以下の抗U1 RNP抗体陽性コントロールも対象とした:2012年版全身性ループス国際共同診療(Systemic Lupus International Collaborating Clinics:SLICC)分類基準(Arthritis Rheum. 2012;64(8):2677-86)を満たすSLE患者74名、米国リウマチ学会(ACR)/欧州リウマチ連盟(European League Against Rheumatism:EULAR)2013分類基準(Ann Rheum Dis. 2013;72(11):1747-55)を満たすSSc患者17名。本研究では、ACR/EULAR 2017分類基準(Ann Rheum Dis. 2017;76(12):1955-64)を満たすIIMの患者はいなかった。また、SLE、SSc及びIIMの診断が重複していると分類された患者を除外した。本研究は、産業医科大学の倫理審査委員会により承認されている(UMIN ID 000014293;NVC、細胞表面抗原、自己抗体、及び皮膚生検を用いた定量評価の実施と病態解明を目的としたリウマチ性結合組織疾患に関する研究[SCORPION study]に基づく)。ヘルシンキ宣言とその後の改正法に基づき、すべての被験者から署名入りのインフォームドコンセントを得た。
【0039】
(臨床的評価) 本研究では、罹病期間を最初の非レイノー現象発現からの時間と定義した。評価のために選択した臨床検査パラメーターは、主にMCTD新診断基準2019に含まれるものとした。レイノー現象の発現は共通の症状として、PAHや無菌性髄膜炎の有無は特徴的な臓器病変として評価した。重複する症状については、SLE様症状に、多関節炎、リンパ節腫脹、顔面紅斑、心膜炎または胸膜炎、血球減少(白血球≦4000/μLまたは血小板≦1.0×105/μL)、低補体血症(CH50<30U/ml)を含めた。SSc様症状には、皮膚硬化(強指症で高い改変ロドナン皮膚厚スコア>4点)、間質性肺疾患(ILD)、高値の血清中クレブス・フォン・デン・ルンゲン-6(Krebs von den Lungen-6 (KL-6)、>500U/ml)を含めた。ILDの評価には、全ての患者において高解像度コンピュータ断層撮影(HRCT)を用いた。ILDは、HRCT画像上の間質性陰影の存在により診断した。IIM様症状には、筋力低下(徒手筋力テスト 5段階中4以下)、血清クレアチンキナーゼ(CK)値、及び筋電図(EMG)上の筋原性異常を含めた。その他のパラメーターとしては、発熱(37.5℃以上)、腎炎の有無、C反応性タンパク質(CRP)の値、赤血球沈降速度(ESR)、免疫グロブリンG(IgG)値が挙げられる。爪郭部毛細血管ビデオ顕微鏡(NVC)強皮症パターンは、リウマチ性疾患における微小循環についてのEURAR研究グループ(EULAR Study Group on Microcirculation in Rheumatic Diseases)(Autoimmun Rev. 2020;19(3):102458, Nat Rev Rheumatol. 2021;17(11):665-77, Rheumatology (Oxford). 2022;61(12):4875-4884)によって提案された、毛細血管顕微鏡検査の特徴についての標準化記述「Fast Track algorithm」に基づいて定義した。第6回肺高血圧症世界シンポジウムの提案(Eur Respir J. 2019;53(1))に基づき、右心カテーテルで測定した平均肺動脈圧>20mmHg、肺毛細血管楔入圧<15mmHg、肺血管抵抗>3wd単位でPAHと診断した。
【0040】
(免疫沈降法) 血清中の自己抗体は、35S-メチオニン/システイン標識K562細胞抽出物を用いた免疫沈降法でスクリーニングした(Arthritis Rheum. 2007;56(2):596-604)。試料を12.5%及び8%のポリアクリルアミドゲルで分析し、snRNPs及びSMN複合体の成分を分画した(Cell. 1995;80(1):155-65, Satoh et al., Antihistone and antispliceosome antibodies, Systemic Lupus Erythematosus, 2016: p.213-221)。自己抗体の特異性は、既述の参照血清を用いて決定した。既述(Cell. 1995;80(1):155-65)のように、SMN複合体に対する抗体の存在は、SMNとジェミン3及び4タンパク質の存在によって定義した。ジェミン5も、SMN、ジェミン3及びジェミン4を免疫沈降させた血清の一部で検出されたが、全てではなかったので、抗SMN複合体抗体の存在を定義するためには含めなかった。
【0041】
図1は、MCTD患者からの血清の免疫沈降を示したものである。左から、抗SMNマウスモノクローナル抗体、単一特異的抗SMN複合体抗体によるヒト血清の免疫沈降パターン、レーン1~9はMCTD患者の血清、および正常ヒト血清である。MCTD患者血清はいずれもU1-70kからGのタンパク質まで、U1 RNPの全成分を強く免疫沈降した。また、レーン1~6の血清はSMN複合体の構成要素;SMN、ジェミン3、4、一部ジェミン5と強い反応性を示し、抗SMN複合体は陽性と判定された。一方、レーン7~9の血清は、U1 RNPを免疫沈降したが、SMN複合体は免疫沈降しなかった。
【0042】
(ELISA) Ro52/TRIM21に対する抗体は、既述のように酵素結合免疫吸着法(ELISA)により試験した(Sci Rep. 2022;12(1):11122)。Ro52組換えタンパク質は、Diarect GmbH(Freiburg、ドイツ)から購入した。簡潔には、96ウェルマイクロタイタープレート(Immobilizer Amino; Nunc、Naperville、IL、USA)を0.5 μg/mlの組換えタンパク質でコーティングし、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)-NET/IGEPAL CA-630で室温にて1時間ブロッキングした。患者血清(1:250)および0.5% BSA-NET/IGEPAL CA-630で希釈したアルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG(1:1000;γ鎖特異的;Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA、USA)をそれぞれ試料および二次抗体として使用した。標準曲線は、高力価のプロトタイプ血清を1:5に連続希釈したものを用いて作成した。405 nmで測定した試料の光学濃度を標準曲線に基づき単位換算した。
【0043】
(生存率) 60名のMCTD患者を対象に、1年後のフォローアップに至らなかった患者や他院に転院した患者(n=7)を除外した後に、介入1年後の生存率を分析した。死因は医療記録のレビューにより決定した。
【0044】
(統計解析) データは中央値(四分位範囲)または数値(%)で表した。群間差はMann-Whitney U検定、t検定、Fisherの正確検定、及び一元配置分散分析で比較した。生存率解析では、Log-rank検定によりP値を決定した。報告したP値はすべて両側検定であり、多重検定による調整は行っていない。有意水準はP<0.05とした。すべての解析は、JMP version 11.0 software(SAS Institute Inc.、Cary、NC、USA)を用いて行った。
【0045】
2.結果(基本的な臨床的特徴) 表1に、MCTD、SLE、及びSSc患者の基本的な臨床的特徴を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1では、データは特に断りのない限り中央値(四分位範囲)を示す。MCTD:混合結合組織病、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性硬化症、SD:標準偏差、mRSS:改変ロダンスキンスコア、CK:クレアチンキナーゼ、EMG:筋電図、KL-6:クレブス・フォン・デン・ルンゲン-6、CRP:C反応タンパク質、ESR:赤血球沈降速度。
【0048】
MCTD 67例および抗U1 RNP抗体陽性のSLE 74例、SSc 17例が本試験に参加した(表1)。本試験に参加したすべての症例は新規発症例でグルココルチコイド(GC)および免疫抑制剤による治療を受けていなかった。MCTDの平均年齢は49.6歳、ほとんどが女性(91.0%)であった。罹病期間(中央値)は0.7年、全例でレイノー現象がみられ、24.2%にPAH、49.3%に血球減少、61.2%にILD、13.4%に筋力低下を認めた。各症例について臓器障害の組合せに基づき病型分類すると、SLE様+SSc様症例が最も多く(64.2%)を占め、ついでSLE様+SSc様+IIM様症例が多かった(25.4%)。
【0049】
MCTD症例では、SLE症例に比してレイノー現象が多くみられ、顔面紅斑や血球減少・腎炎・低補体血症を伴う症例は少なかった。また、SSc症例と比較した場合、レイノー現象の頻度に差はなかったが、MCTD症例では発熱または高IgG血症を伴う症例が多かった。
【0050】
(MCTDにおける抗SMN複合体自己抗体の陽性率) 表2に、MCTD、SLE、及びSSc患者における抗SMN複合体抗体の陽性率を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
MCTDにおける抗SMN複合体抗体陽性率は35.8%(23/67患者)であった(図2、表2)。これは、SLE症例における陽性率(8.1%、6/74)およびSSc症例における陽性率(11.8%、2/17)に比して高かった(それぞれ、p<0.001及びp=0.078)。他の自己抗体に関しては以下の通りである。抗U1 RNP抗体はMCTDで全例陽性であったが、抗U1 RNP抗体高力価陽性(≧5500 U/ml)に限っても88.1%でみられた。一方で、抗U1 RNP抗体は、SLEおよびSScでも半数以上に見られた(SLE:56.2%、SSc:52.9%)。また、SLEの特異的自己抗体である抗Sm抗体(MCTD:19.4%、SLE:60.8%)及び抗dsDNA抗体(MCTD:1.5%、SLE:56.8%)はSLE症例で高頻度にみられ、強皮症特異的抗体である抗セントロメア抗体(MCTD:6.0%、SSc:23.5%)と抗Scl-70抗体(MCTD:0.0%、SSc:11.8%)の併存はSSc症例で多くみられた。
【0053】
本試験におけるMCTD診断に対する各自己抗体の感度、特異度、及び陽性/陰性的中率を算出した(表3)。
【0054】
【表3】
【0055】
まず、抗SMN複合体抗体の感度は抗U1 RNP抗体(100%)および抗U1 RNP抗体高力価陽性(92.5%)に比べると低かった。一方で、特異度・陽性的中率に関しては、抗U1 RNP抗体高力価陽性ではそれぞれ特異度37.0%、陽性的中率 56.0%(65/116)であったのに比して、抗SMN複合体抗体の特異度は91.2%、陽性的中率も75.0%(24/32)と高かった。これらの所見は抗SMN複合体抗体の存在は比較的MCTDに特異性が高いことを示唆している。
【0056】
(MCTDにおける抗SMN複合体抗体と臨床・検査所見との関連性) 次に、抗SMN複合体抗体陽性の臨床的意義を検討した。抗SMN複合体抗体陽性23例と抗SMN複合体抗体陰性44例の臨床的特徴を図3および表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
抗SMN複合体抗体陽性例の特徴として、PAH合併率が高く(54.2% vs. 7.0%、p<0.001、OR 15.7)、爪郭部毛細血管異常(71.4% vs. 25.6%、p<0.001)や、ILD合併(87.5% vs.44.2%、p=0.001、OR 8.8)が多いことが示された。実際、抗SMN複合体抗体陽性例は抗U1 RNP抗体高力価陽性例と比較してもPAHおよびILD合併率は高く、95.8%(23/24)がPAHまたはILDを合併した(図6)。他の自己抗体との関係に関しては、抗SMN複合体抗体陽性例において抗SS-A/Ro60抗体の併存率は統計学的に有意に高かった(70.8% vs. 32.6%、p=0.01)。
【0059】
MCTDはSLE様所見、強皮症様所見、及びIIM様所見が混在する。その重複症状の組合せに基づき分類すると、抗SMN複合体抗体陽性例では半数以上(54.2%)がSLE様所見、強皮症様所見、IIM様所見の要素全てが揃う病型に分類された。一方、抗U1 RNP抗体高力価陽性例や抗SMN複合体抗体陰性例ではその割合は低値(それぞれ、25.4%及び9.3%)にとどまった(図4)。
【0060】
(抗SMN複合体抗体を有するMCTD患者の予後) 最後に、2022年8月までに診断後1年が経過した症例(n=60)を対象に予後を比較した(図5)。初期治療内容に関しては、抗SMN複合体抗体陽性例では高率に高用量グルココルチコイド療法(72.7% vs. 34.2%、p=0.007)が使用されていた(図5A)。1年後の生存率では、陰性例は全例生存していたが、抗SMN複合体抗体陽性例で3例の死亡がみられ抗体陽性例で生存率は低かった(14.2% vs. 0.0%、p=0.014、図5B)。死因は、2例がPAHの増悪または心不全、1例が免疫抑制療法に関連する重篤な感染症であった。これらの結果から、抗SMN複合体抗体陽性のMCTDは予後不良である事が示唆された。
【0061】
3.考察 抗U1 RNP抗体はMCTDの診断に必須の自己抗体であるが、SLEや強皮症でも抗U1 RNP抗体陽性例が存在し疾患特異性が高くない。本研究では、新規発症のMCTDを対象に免疫沈降による自己抗体解析を行い、MCTDにおける抗SMN複合体抗体の臨床的意義として大きく下記の3点を見出した。
【0062】
臨床的に重要な点としては、抗SMN複合体抗体陽性MCTDは陰性例より予後不良であったことが挙げられる。これはMCTDの予後不良因子であるPAHやILDを高率に合併したことが要因として考えられる(J Rheumatol. 2013;40(7):1134-42)。自己免疫性疾患におけるPAHに関連する抗体として抗U1 RNP抗体が知られているが、本検討から抗U1 RNP抗体ではなくて併存する抗SMN複合体抗体が予後に直結する重症のPAHやILDのバイオマーカーになる可能性が示唆された(Arthritis Rheumatol. 2016;68(2):484-93)。
【0063】
2点目は、診断に関してである。抗SMN複合体抗体はSLEやSScよりもMCTDで高率にみられた。本検討は抗U1 RNP抗体陽性症例のみを対象としており、抗U1 RNP抗体陰性例での検討はできていないが、抗U1 RNP抗体存在下における抗SMN複合体抗体の存在は高率にMCTDの存在を示唆している。つまり、MCTDの診断において抗SMN複合体抗体が抗U1 RNP抗体の特異度の低さを補うことで診断を補助し、その病態を表現している可能性がある。
【0064】
そして、抗SMN複合体抗体陽性例は、SLE所見、SSc所見、IIM所見の全ての臨床的特徴を伴う病型に多くみられることが示された。すなわち、抗SMN複合体抗体陽性MCTDはILDやPAHを伴い、より典型的なMCTD(‘particular’ MCTD)と捉えられる。これらの結果を踏まえると、MCTDの疾患概念は単なる抗U1 RNP抗体病ではなく、抗SMN複合体抗体陽性MCTDが示すような特徴的な臨床所見が重要である点を支持している。
【0065】
MCTDにおける他の自己抗体に関する既報として、抗Ro52抗体がMCTDにおけるILDの活動性と関連したという報告(Rheumatology (Oxford). 2018;57(2):255-62, Rheumatology (Oxford). 2016;55(1):103-8)が存在する。しかし、本研究の免疫沈降法を用いた網羅的自己抗体解析により抗U1 RNP抗体高力価陽性や抗Ro52抗体よりも抗SMN複合体抗体がMCTDの疾患概念を考える上で意義を持つ事が示された。
【0066】
一方で、SMN複合体(SMN + Gemin 2-7)そのものの病原性は不明である。SMN複合体は真核細胞においてsnRNPs(U1 RNP、Sm)の構成に重要な役割を担う(Arthritis Rheum. 2011;63(7):1972-8, Clin Rev Allergy Immunol. 2012;42(1):16-25)。しかし、本抗体の産生機序や機能の解明が必要である。
【0067】
本研究はMCTD症例における抗SMN複合体抗体の臨床的意義を検討した初めての報告である。本研究によって、抗SMN複合体抗体はMCTDに比較的特異性が高く、予後不良因子であるPAH・ILD合併の新規バイオマーカーとしての可能性が示唆された。本研究の結果は、既存のMCTDにおける亜群化および個別化医療への応用の一助となりうる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明により、MCTDの重症度や予後を評価するための新たなバイオマーカーが提供され、MCTDの重症度、臓器障害、疾患活動性、及び予後を評価することが可能となる。厚生労働省指定難病医療費給付金については、重症度分類が使用されるが、多くは主観的な項目から構成されている。本発明により、客観的な指標に基づくMCTDの重症度分類が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6