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特開2024-111838皮膚の増強のための線維芽細胞の再使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111838
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】皮膚の増強のための線維芽細胞の再使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20240809BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20240809BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61L27/58
A61L27/54
A61L27/56
A61L27/26
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/02
A61L27/12
A61L27/24
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/36 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】38
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024016096
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】63/483,349
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/490,542
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523096528
【氏名又は名称】フィブロバイオロジクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FIBROBIOLOGICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピート オヒーロン
(72)【発明者】
【氏名】ハーミド ホージャ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA12
4C081AA14
4C081AB11
4C081CA051
4C081CA061
4C081CA081
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA181
4C081CA211
4C081CA231
4C081CD021
4C081CD041
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD161
4C081CD171
4C081CD34
4C081DA05
4C081DA06
4C081DB03
4C081DC01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】個体の少なくとも1つの創傷及び/又は少なくとも1つの熱傷を被覆するための材料を作製するための方法及び組成物を提供する。
【解決手段】個体の1つの創傷の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つの熱傷を覆うための材料を作製するための1つ又は複数の合成ポリマー及び/又は1つ又は複数のバイオポリマーを含む基材への及び/又は基材上への導入のための、活性化又は非活性化単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物又はその何れかの組み合わせを生成させる、インビトロ方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の1つの創傷の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つの熱傷を覆うための材料を作製するための1つ又は複数の合成ポリマー及び/又は1つ又は複数のバイオポリマーを含む基材への及び/又は基材上への導入のための、活性化又は非活性化単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物又はその何れかの組み合わせを生成させる、インビトロ方法。
【請求項2】
前記材料が、布地、足場又はメッシュである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記布地が皮膚様布地である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者に直接適用される、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物が、前記個体に対して自己である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物が、前記個体に対して同種である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物細胞が、前記個体に対して異種である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
(a)単一細胞線維芽細胞、スフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体、線維芽細胞からの馴化培地及び/又は線維芽細胞関連生成物、又はそれらの何れかの組み合わせの1つ又は複数の生物学的構成成分と、
(b)合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、プレート、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ、ポリマー製の布地又はそれらの何らかの組み合わせの1つ又は複数の基材構成成分と、
を含む、組成物。
【請求項9】
(a)の構成成分が(b)とは別個である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
(a)の構成成分が(b)上に及び/又は(b)中に含まれる、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記(b)の構成成分が1つ又は複数の開口部を含む、請求項8~10の何れか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記開口部が穿孔によって生成された、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記基材における開口部の分布がランダムである、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
前記基材における開口部の分布がパターン化されている、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項15】
個体における1つ又は複数の創傷及び/又は熱傷を処置する方法であって、有効量の請求項8~14の何れか1項に記載の組成物を前記個体の創傷又は熱傷の上に及び/又は前記個体の創傷又は熱傷に隣接して投与する段階を含む、方法。
【請求項16】
前記投与段階の前に、単一細胞及び/又はスフェロイドが前記基材に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
単一細胞及び/又はスフェロイドが前記基材に装置で適用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基材が、前記創傷及び/又は熱傷への細胞及び/又は細胞生成物の遊走を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記基材が、前記基材の1つ又は複数の開口部における1つ又は複数のスフェロイドの確保を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記投与段階の前に、単一細胞及び/又はスフェロイドがゲルに基づくバイオポリマー中で前記基材に適用される、請求項15~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記基材が、前記創傷及び/又は熱傷への細胞及び/又は細胞生成物の遊走を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記基材が、前記基材の1つ又は複数の開口部における1つ又は複数のスフェロイドの確保を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記投与段階の前に、単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、前記足場の開口部の所定の配置で既に存在し、次いで前記創傷又は熱傷の上に配置される、請求項15~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記基材における前記開口部の配置がランダムである、請求項18~23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記基材における前記開口部の配置がパターン化されている、請求項26に記載の方法。
【請求項26】
前記基材における開口部の配置が、格子柄パターンでパターン化されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記創傷が、糖尿病性潰瘍、褥瘡、切り傷、外科的切除、外科的切開、切断、生検、擦過傷、感染部位又は動物咬傷である、請求項15~26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記創傷が前記個体の内側にある、請求項15~27の何れか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記基材構成成分の少なくとも一部が吸収性である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記創傷が前記個体の外側にある、請求項15~27の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物の少なくとも一部が3Dプリンタによって作製される、請求項15~30の何れか1項に記載の方法。
【請求項32】
請求項8~14の何れか1項に記載の組成物を作製する方法であって、
単一細胞線維芽細胞、スフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体、線維芽細胞からの馴化培地、線維芽細胞関連生成物及びそれらの組み合わせからなる群から選択される(a)の1つ又は複数の構成成分を提供する段階と、
合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ、ポリマー製の布地及びそれらの組み合わせからなる群から選択される(b)の1つ又は複数の構成成分を提供する段階と、
有効量の(a)の1つ又は複数の構成成分を(b)の1つ又は複数の構成成分と組み合わせる段階と、
を含む、方法。
【請求項33】
前記(a)の1つ又は複数の構成成分を提供することが、前記(a)の1つ又は複数の構成成分を前記(b)の1つ又は複数の構成成分上に三次元(3D)印刷することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記(b)の1つ又は複数の構成成分を提供することが、前記(b)の1つ又は複数の構成成分を3D印刷することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、穿孔部を有する足場に装置を用いて適用され、細胞及び細胞生成物の前記創傷への遊走を可能にする、請求項32~34の何れか1項に記載の方法。
【請求項36】
単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、穿孔部を有する足場にゲルに基づくバイオポリマー中で適用され、細胞及び細胞生成物の前記創傷への遊走を可能にする、請求項32~34の何れか1項に記載の方法。
【請求項37】
単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、前記足場の穿孔部の所定の配置で既に沈着させられて適用され、次いで創傷及び/又は熱傷の上に配置される、請求項32~34の何れか1項に記載の方法。
【請求項38】
請求項8~14の何れか1項に記載の組成物を含む、キット。
【請求項39】
前記組成物が、その上に1つ又は複数のスフェロイド及び/又は細胞を含むトレイ、プレート又はメッシュを含む、請求項1に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2023年2月6日に出願された米国仮特許出願第63/483,349号及び2023年3月16日に出願された米国仮特許出願第63/490,542号の利益を主張し、これらは両方とも参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の実施形態は、少なくとも細胞生物学、分子生物学、免疫学及び医学の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
線維芽細胞は、もはや器官の単なる構造的構成要素ではなく、免疫及び創傷治癒に関与する複数の系の複雑な相互作用など、複数の系に動的に関与するものと考えられている。
【0004】
皮膚は、全体重の約15%を占める人体最大の器官であり、外部の物理的、化学的及び微生物の影響に対する防御、温度及び電解質バランスの維持などの複数の複雑な機能を果たし、構造タンパク質、脂質、グリカン及びシグナル伝達分子の合成及び代謝のためのバイオファクトリーとして、並びに免疫系、神経系及び内分泌系の不可欠な構成要素として機能する[1]。従って、皮膚に対する損傷及び皮膚に対する修復過程は、複数の系及び細胞型を巻き込む、よく調整された過程である。創傷進行は、損傷位置に限定された、止血、炎症、増殖、上皮化及びリモデリングの複雑に組織化された過程に従う[2]。さらに、線維芽細胞及び線維芽細胞分泌物質が、この過程の全ての段階に関与する。
【0005】
創傷処置は、医療制度に大きな負担を与え、難治性創傷の患者のクオリティーオブライフを破壊する。創傷を治癒させることが困難である慢性創傷は、持続的であり、時間がかかり、処置費用が嵩む。さらに、糖尿病又は癌などの疾患による皮膚の損傷、切り傷、擦過傷、褥瘡又は熱傷は、患者の身体的、感情的及び心理的健康に持続的な影響を及ぼし得る。皮膚に対して引き起こされる一部の損傷は正常且つ迅速に治癒し得るが、年齢、健康状態及び特定の疾患などの特定の根本的な健康状況は、複雑に組織化された創傷治癒過程に悪影響を及ぼし得、それによって適切に治癒させるために外部介入が必要となる。線維芽細胞は、創傷治癒過程における全ての段階の不可欠な部分であり、創傷上に単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞及び/又は線維芽細胞由来生成物を外部から適用することによって、糖尿病性潰瘍、褥瘡、大きな及び小さな切り傷、外科的切除又は切開(大きなものを含む)、切断、生検及び熱傷における創傷治癒過程が開始され、維持され、加速され得る。創傷の修復におけるそれらの機能性は、複合的であるとみなされるべきである。創傷の閉鎖が損なわれるか又は弱められる大きな創傷又は熱傷に対して、線維芽細胞、エキソソーム、馴化培地、溶解物又はアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物を使用して、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン及び弾性線維などの重要な細胞外マトリクス(ECM)タンパク質を産生させ得、並びに治癒を促進する及び/又は感染を予防するために治癒過程の間に新しい皮膚を作り出すために、bFGF、VEGF、HGF、PDGF、TGF-B1、KGF、IL-6、IL-8及びメタロプロテイナーゼの阻害剤などの効率的な創傷治癒に必要な成長因子及びサイトカインの多くを産生させ得る[3~5]。
【発明の概要】
【0006】
本開示の実施形態は、活性化又は不活性化された単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、エキソソーム、溶解物、馴化培地又はアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物を、合成有機若しくは無機ポリマー又はバイオポリマー足場上に、及び/又は直接的に皮膚と同様の生物学的バリアを生成する創傷の境界上に導入するための、組成物、方法及び系を包含する。特定の実施形態では、これらの生成物は、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン及び/又は弾性線維などの特定のECMタンパク質を産生し、並びにbFGF、VEGF、HGF、PDGF、TGF-B1、KGF、IL-6、IL-8などの効率的な創傷治癒に有用な成長因子及びサイトカインの多く及び/又はメタロプロテイナーゼの1つ又は複数の阻害剤を産生する。この結果、創傷部位を保護し、及び/又は感染を予防すると同時に、治癒過程に必要な細胞の動員が起こる。特定の実施形態では、本開示は、少なくとも大きな難治性創傷を含む何らかのタイプの創傷において又は熱傷患者に対して使用しようとする皮膚様被覆材を生成させるための、穿孔の有無にかかわらない合成有機若しくは無機ポリマー又はバイオポリマー足場の上及び/又は中に線維芽細胞を播種する過程に関する。創傷は、健康障害又は事故によって生じるなど、意図的でなくてもよく、又は創傷は、医療処置の一部として行われる切除又は切開など、意図的であってもよい。
【0007】
本開示の何れかの方法で使用するための単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、エキソソーム、溶解物、線維芽細胞からの馴化培地、及び/又はアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物は、ある特定の実施形態において、具体的な実施形態において、特定の培地成分に曝露され得る。
【0008】
特定の実施形態では、個体の少なくとも1つの創傷及び/又は少なくとも1つの熱傷を被覆するための材料を生成させるための合成ポリマー及び/又はバイオポリマー足場又は生物学的メッシュ(基材の例として)への及び/又は合成ポリマー及び/又はバイオポリマー足場又は生体メッシュ上への導入のための、活性化若しくは非活性化単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物を生成させるインビトロ方法が存在する。
【0009】
続く発明を実施するための形態がより良好に理解され得るように、前述の説明では本発明の特性及び技術的な長所をかなり広く概説してきた。本発明のさらなる特性及び長所を本明細書中で以後記載するが、これは本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。当業者により当然認識されるはずであるが、開示される概念及び具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を遂行するための他の構造を修飾又は設計するための基礎として、容易に利用され得る。当業者によりまた理解されるはずであるが、このような同等の構築は、添付される特許請求の範囲に記載のような本発明の精神及び範囲から逸脱しない。添付の図面と関連付けて考える場合、次の記載から、さらなる目的及び長所とともに、操作のその機構及び方法の両方に関して本発明の特徴であると考えられる新規の特性がより良好に理解されよう。しかし、例示及び記載の目的でのみ、図面のそれぞれが提供され、本開示の制限の定義として意図するものではないことが明らかに理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の特定の態様をさらに実証するために含まれる。本開示は、本明細書中で提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ又は複数を参照することによってよりよく理解され得る。
図1A図1Aは、ヒトメタボリックシンドローム及び肥満誘発性2型糖尿病のマウスモデルの食餌成分を示す。
図1B図1Bは、経時的な所望のベースライン血糖値の達成を示す。
図2図2は、創傷処置のレジメンの一例を提供する。
図3図3は、対照マトリゲルを局所的に提供された線維芽細胞(FB)と比較した場合の毎日の創傷閉鎖の進行を示し(対照バーがFBバーの左にある上部画像)、対照マトリゲルをFB由来エキソソームと比較し(対照バーがFBバーの左にある左下の画像)、対照マトリゲルを皮下に提供されたFBと比較した(対照バーがFBバーの左にある右下の画像)。
図4図4は、対照マトリゲル(上の線)と、皮下に提供された線維芽細胞(上から2番目の線)、線維芽細胞エキソソーム(上から3番目の線)及び局所に提供された線維芽細胞(下の線)とを比較した創傷閉鎖の進行を示す。
図5図5は、創傷治癒及び閉鎖の代表的な画像を示す。
図6図6は、線維芽細胞エキソソーム及び線維芽細胞溶解物に対する凍結/融解保存の影響を調べるための実験デザインの一例を示す。
図7図7は、凍結/融解した線維芽細胞エキソソーム及び線維芽細胞溶解物の影響を示す。
図8図8は、毎日の創傷閉鎖の進行:凍結/融解の実施形態を示す。
図9図9は、線維芽細胞及び線維芽細胞由来エキソソームによる創傷閉鎖を示す。
図10図10は、細胞生存率に対する創傷被覆製品の試験、特にマウス真皮線維芽細胞に対する3M Nexcare(登録商標)及びElaSkin(登録商標)の試験の一例を示す。
図11図11は、対照未処理細胞と比較した場合の、増殖及び細胞サイズの影響を示す。
図12図12は、3M Nexcare(登録商標)で被覆された創傷治癒に対する線維芽細胞スフェロイドの効果を調べるための試験デザインの一例を提供する。
図13図13は、3M Nexcare(登録商標)創傷カバーを用いて試験した線維芽細胞スフェロイドを示す。左画像において、スフェロイド+3M Nexcare(登録商標)の線は最も下の線である。右側の画像において、スフェロイド+3M Nexcare(登録商標)バーは、3M Nexcare(登録商標)対照バーの左側にある。
図14図14は、3M Nexcare(登録商標)で被覆されたスフェロイドによる創傷治癒の代表的な画像を提供する。
図15図15は、野生型マウスにおける創傷治癒に対する線維芽細胞スフェロイド及び溶解物の効果を調べるための試験デザインの一例を提供する。
図16図16は、野生型マウスに対する3M Nexcare(登録商標)を伴うスフェロイド及び溶解物の効果を明らかにする。左上の画像において、スフェロイド+3M Nexcare(登録商標)は下の線である。左下の画像において、スフェロイド+3M Nexcare(登録商標)のバーは、3M Nexcare(登録商標)のバーの右側にある。右上の画像では、FB溶解物+3M Nexcare(登録商標)の線は、3M Nexcare(登録商標)の線の下にある。右下の画像では、FB由来溶解物+3M Nexcare(登録商標)バーは、対照3M Nexcare(登録商標)バーの右側にある。
図17図17は、野生型マウスのみにおける、3M Nexcare(登録商標)カバー対3M Nexcare(登録商標)カバーを伴う線維芽細胞スフェロイドに対する画像を提供する。
図18図18は、3M Nexcare(登録商標)カバーを用いた野生型マウス創傷閉鎖に対する線維芽細胞溶解物の効果を示す代表的な画像を提供する。
図19図19は、Grafix(登録商標)と比較した、マウス線維芽細胞スフェロイド、ヒト線維芽細胞スフェロイド+3M Nexcare(登録商標)による1回の処置の効果を調べるための試験デザインの一例を提供する。
図20図20は、糖尿病マウスにおける、Grafix(登録商標)を用いた、マウス及びヒト線維芽細胞スフェロイド創傷治癒の進行の比較を提供する。
図21図21は、Grafix(登録商標)と比較した線維芽細胞スフェロイドによる創傷閉鎖の代表的な画像を提供する。
図22図22は、創傷表面における線維芽細胞スフェロイドの埋入、遊走及び増殖の一例を示す。
図23】24日間にわたる、対照(上の線)、局所投与されたヒト真皮線維芽細胞スフェロイド(中央の線)又は競合剤処理(下の線)による処理を示す写真である。
図24図24は、対照又はNexcare(商標)を用いたHDF由来スフェロイドによる処置後の慢性創傷面積のパーセント変化を示すグラフである。上のデータ線は対照であり、下のデータ線はHDF由来スフェロイド+Nexcare(商標)処置によるものである。
図25図25は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のINF-γレベルのグラフである。
図26図26は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のEGFRレベルのグラフである。
図27図27は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織における第7日及び第17日のVEGFレベルのグラフである。
図28図28は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のIL-10レベルのグラフである。
図29図29は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のIL-1aレベルのグラフである。
図30図30は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のIL-6レベルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
I.定義の例
長年の特許法の慣習に従って、「a」及び「an」という語は、特許請求の範囲を含む「含む(comprising)」という語と併せて本明細書で使用される場合、「1つ又は複数」を示す。本開示の一部の実施形態は、本開示の1つ又は複数の要素、方法段階及び/又は方法からなり得るか又は基本的にそれらからなり得る。本明細書中に記載のあらゆる方法又は組成物が本明細書中に記載のあらゆる他の方法又は組成物に関して実行され得ることが企図される。
【0012】
本明細書中で使用される場合、「約」又は「およそ」という用語は、基準の量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量又は長さに対して30、25、20、25、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1%という大きさで変動する量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量又は長さを指す。特定の実施形態では、数値に先行する場合の「約」又は「およそ」という用語は、値プラス又はマイナス15%、10%、5%又は1%の範囲を示す。生物学的な系又は過程に関して、この用語は、ある値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味し得る。特に明記しない限り、「約」という用語は、特定の値に対して許容可能な誤差範囲内であることを意味する。
【0013】
本明細書中で使用される場合、「活性化された」という用語は、細胞における1つ又は複数の変化:代謝、免疫学的、エピジェネティック、CRISPR、成長因子分泌、表面マーカー発現並びに微小胞の産生及び排出を誘導可能な1つ又は複数の刺激によりインビボ又はエクスビボで処理された細胞を指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、「活性化された免疫細胞」という用語は、細胞における1つ又は複数の変化:代謝、免疫学的、エピジェネティック、成長因子分泌、表面マーカー発現並びに微小胞の産生及び排出を誘導可能な1つ又は複数の刺激により処理された免疫細胞を指す。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「投与される(administered)」又は「投与する(administering)」という用語は、組成物が患者に対してその意図された効果を有するように組成物を個体に提供する何らかの方法を指す。例えば、投与の1つの方法は、カテーテル、アプリケータガン、シリンジ、ゲルマトリクス並びに1つ又は複数の細胞型及び/又は増殖因子及び又は抗生物質などを含有する3Dマトリクスなどであるが限定されない医療装置を使用する間接的機構によるものである。投与の第2の例示的な方法は、局所組織投与、経口摂取、経皮パッチ、局所、吸入、座薬などの直接的機構によるものである。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「同種」は、自然環境では、同じ種の1つ又は複数の個体に由来するが、免疫学的に不適合であるか又は免疫学的に不適合である可能性がある別の身体からの組織又は細胞を指す。
【0017】
本明細書中で使用される場合、「自己」は、同じ個体の身体(即ち自己献血、自家骨髄移植)から由来するか又は移入される組織又は細胞を指す。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「作用物質」は、核酸、サイトカイン、ケモカイン、転写因子、エピジェネティック因子、成長因子又はホルモンを指す。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「異種」は、患者とは異なる種からの組織又は細胞を指す。
【0020】
「細胞培養」は、静止状態の細胞であろうと、老化細胞であろうと又は(活発に)分裂する細胞であろうと、生存細胞を含有する人工インビトロ系である。細胞培養において、細胞は、適切な温度、典型的には37℃の温度で、典型的には酸素及びCO2を含有する雰囲気下で増殖させ、維持する。しかし、培養条件は細胞タイプごとに大きく異なり得、特定の細胞型に対する条件の変動は、異なる表現型の発現をもたらし得る。培養系において最も一般的に変動する因子は増殖培地である。増殖培地は、栄養素の濃度、増殖因子及び他の構成成分の存在において変動し得る。培地に補うために使用される成長因子は、多くの場合、ウシ血清などの動物の血液に由来する。
【0021】
本明細書を通して、文脈上別段の要求がない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」という語は、記載された段階若しくは要素又は段階若しくは要素の群を含むが、他の段階若しくは要素又は段階若しくは要素の群を除外しないことを意味すると理解される。「からなる(consisting of)」とは、「からなる(consisting of)」という語句に続くものを含み、それに限定されることを意味する。従って、「からなる(consisting of)」という句は、列挙された要素が必要又は必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。「から基本的になる(consisting essentially of)」とは、句の後に列挙される何れの要素も含み、列挙された要素について本開示で指定された活性又は作用に干渉又は寄与しない他の要素に限定されることを意味する。従って、「から基本的になる」という語句は、列挙された要素が必要又は必須であるが、他の要素が任意選択的ではなく、列挙された要素の活性又は作用に影響を及ぼすか否かに応じて存在し得るか又は存在し得ないことを示す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「個体」という用語は、医療施設に収容されていてもよいし又は収容されていなくてもよく、医療施設の外来患者として処置され得るヒト又は動物を指す。個体は、インターネットを介して1つ又は複数の医薬組成物を受けていてもよい。個体は、ヒト又は非ヒト動物のあらゆる齢を含み得、従って成人及び若年者(即ち小児)及び乳児の両方を含む。「個体」という用語が医学的処置の必要性を暗示することは意図されておらず、従って、個体は、臨床であれ又は基礎科学研究の支援であれ、自発的又は非自発的に実験の一部であり得る。「対象」又は「個体」という用語は交換可能に使用され得、哺乳動物を含む、方法又は材料の対象である何れかの生物又は動物対象、例えばヒト、実験動物(例えば、霊長類、ラット、マウス、ウサギ)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シチメンチョウ及びニワトリ)、家庭用ペット(例えば、イヌ、ネコ及びげっ歯類)、ウマ及びトランスジェニック非ヒト動物を指す。
【0023】
本明細書を通して、「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「関連する実施形態」、「ある特定の実施形態」、「追加の実施形態」若しくは「さらなる実施形態」又はそれらの組み合わせへの言及は、実施形態に関連して記載される特定の特性、構造又は特徴が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体の様々な箇所における前述の語句の出現は、必ずしも全て、同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特性、構造又は特徴は、1つ又は複数の実施形態において何らかの適切な形式で組み合わせられ得る。
【0024】
処置された対象に対する、未処置対象における何らかの症候の表現に関する場合の、「軽減する」、「阻害する」、「減退させる」、「抑制する」、「減少させる」、「防止する」という用語及び文法上の等価物(「より低い」、「より小さい」などを含む)は、処置された対象における症候の量及び/又は大きさが、何らかの医学的に訓練された人員によって臨床的に関連性があると認識される任意の量だけ未処置の対象よりも低いことを意味する。一実施形態では、処置された対象における症状の量及び/又は大きさは、未処置対象における症状の量及び/又は大きさよりも少なくとも10%低い、少なくとも25%低い、少なくとも50%低い、少なくとも75%低い、及び/又は少なくとも90%低い。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「吸収性」という用語は、組成物の一部又は全てが生分解(生物学的作用物質による化学的分解)を受け、少なくともいくつかの場合には、分解産物が生物学的環境における細胞活性によって除去される能力を指し得る。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「足場」という用語は、支持を提供し、及び/又は細胞接着及び/又は組織再生を促進するために、体内に移植可能であるか、又は身体に提供可能な生体適合性及び(少なくともいくつかの場合には)生体吸収性である構造を意味し得る。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「移植」という用語は、生体組織又は細胞を採取し、それを身体の別の部分又は別の身体に植え込む工程を指す。
【0028】
「処置(Treatment)」、「処置する(treat)」又は「処置すること(treating)」は、疾患又は状態の影響を軽減する方法を意味する。処置はまた、症状だけでなく疾患又は状態自体を軽減する方法も指し得る。処置は、処置前レベルからの何らかの軽減であり得、疾患、状態又は疾患若しくは状態の症状の完全な消失であり得るが限定されない。従って、開示された方法では、「処置」は、疾患の少なくとも1つの症状の重症度の軽減を含む、確立された疾患又は疾患の進行の重症度の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%若しくは100%の軽減を指し得る。例えば、細胞の免疫原性を低下させるための開示された方法は、同じ対象又は対照対象における処置前レベルと比較した場合に細胞の免疫原性の検出可能な低下がある場合、処置であるとみなされる。従って、低下は、天然又は対照レベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%又はその間の任意の量の低下であり得る。「処置」は、必ずしも疾患又は状態の治癒を指すのではなく、疾患又は状態の見通しの改善を指すことが理解され、本明細書で企図される。特定の実施形態では、処置は、少なくとも1つの症状の重症度又は程度の軽減を指し、代替的又は追加的に、少なくとも1つの症状の発症の遅延を指し得る。
【0029】
特定の実施形態では、創傷上に外部から適用される線維芽細胞及び/又は線維芽細胞由来材料は、糖尿病性潰瘍、難治性創傷、外科的切開、外傷性の損傷、擦過傷、皮膚障害、切り傷及び/又は熱傷を含む何らかの種類の創傷における創傷治癒過程を開始、維持及び加速し得る。本明細書中で使用される場合、「創傷」という用語は、切断、強打又は他の衝撃、典型的には皮膚が切断又は破壊される衝撃によって引き起こされる生体組織に対する損傷を包含する。特定の実施形態では、上述の状態の全てが、治癒を必要とする創傷である。
【0030】
本明細書で使用される場合、「線維芽細胞由来材料」という用語は、線維芽細胞の細胞断片、線維芽細胞から分泌されたエキソソーム及び/又は線維芽細胞溶解物を指す。
【0031】
「バイオポリマー」という用語は、例として、以下のバイオポリマー、例えば、ケラチン、フィブリン、コラーゲン、セルロース、アルギネート、キトサン、シアノフラン、ヒアルロン酸及びヒドロゲルなどの1つ若しくは複数又は組み合わせから構成され得る。
【0032】
II.本開示の組成物
本開示は、何らかの種類の創傷、擦過、切断、穿刺、発疹又は熱傷治癒のための組成物に関する。特定の実施形態では、本組成物は、生物学的構成成分と、特定の実施形態で生物学的構成成分を送達するように作用する基材構成成分と、を含む。生物学的構成成分及び基材構成成分は、既に1つの物体として個体の創傷、擦過、切断、穿刺、発疹又は熱傷部位に送達されてもよいし、又は必要な部位に別々に送達されてもよい。特定の実施形態では、生物学的構成成分及び基材構成成分が部位に別々に送達される場合、基材構成成分は、生物学的構成成分の送達前に創傷部位に及び/又は創傷部位に隣接して配置され得る。いくつかの実施形態では、生物学的構成成分及び基材構成成分は、実質的に同時にその部位に送達される。
【0033】
A.生物学的構成成分
本開示の実施形態は、創傷治癒を開始させる及び/又は維持することを含む、創傷又は熱傷治癒のための生物学的構成成分としての細胞及び/又は細胞生成物の使用を包含する。いくつかの実施形態では、創傷治癒のための使用前又は使用中の細胞及び/又は細胞生成物は、創傷治癒におけるそれらの使用を増強するために1つ又は複数の組成物及び/又は環境に曝露される。特定の実施形態では、本開示の1つ又は複数の組成物は、(a)単一細胞線維芽細胞、スフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体、線維芽細胞からの馴化培地及び/又は線維芽細胞関連生成物の1つ又は複数の生物学的構成成分又はそれらの何らかの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の組成物が同じ創傷又は熱傷で利用され、同じタイプの生物学的構成成分を使用してもよいし又は使用しなくてもよい。
【0034】
特定の実施形態では、創傷治癒を開始させ及び/又は維持するための1つ又は複数の創傷への導入、1つ又は複数の創傷上への導入及び/又は1つ又は複数の創傷に隣接する導入のためを含め、活性化線維芽細胞、活性化線維芽細胞からの線維芽細胞由来材料、活性化免疫細胞、活性化ケラチノサイト、活性化基底上皮細胞、活性化筋線維芽細胞又はそれらからの線維芽細胞派生物を生成させるために細胞及び/又は細胞生成物がインビトロの状況で曝露される。いくつかの実施形態では、使用される細胞は活性化されていない。
【0035】
本開示の実施形態は、創傷治癒を開始させるか又は維持する目的で、線維芽細胞又は線維芽細胞由来材料、1つ又は複数の作用物質で活性化された線維芽細胞、及び/又は線維芽細胞(筋線維芽細胞又は真皮線維芽細胞を含む)及び1つ又は複数のタイプの免疫細胞、ケラチノサイト及び/又は基底上皮細胞及び/又はそれらの派生物を創傷内、創傷の上及び/又は創傷に隣接して導入することを含む。
【0036】
様々な実施形態では、線維芽細胞及び/又は線維芽細胞由来材料、1つ若しくは複数の作用物質で活性化された線維芽細胞及び/又は線維芽細胞+1つ若しくは複数のタイプの免疫細胞(その派生物を含む)の創傷部位への、創傷部位上への、及び/又は創傷部位の隣接部位への導入の結果、(1)組織分化、(2)創傷部位での幹細胞の細胞動員及び分化、(3)既に局所的に存在するケラトサイト、基底上皮細胞、筋線維芽細胞及び/又は真皮線維芽細胞の増殖、及び/又は(4)全て創傷治癒を開始させるか又は維持する目的での、治癒を助けるための他の細胞の誘引又は生物学的過程がもたらされる。
【0037】
特定の実施形態では、本明細書中に包含される線維芽細胞又は他の細胞は、1つ又は複数の状態及び/又は薬剤に曝露された後に活性化されるようになる。線維芽細胞を改変し得る特定の作用物質としては、それらの使用前及び/又はそれらの使用中の核酸、サイトカイン、ケモカイン、成長因子及び/又はエキソソームの1つ又は複数が挙げられる。線維芽細胞は、活性化又は改変された表面マーカー、核酸修飾及び/又は1つ若しくは複数のケモカイン、1つ若しくは複数のサイトカイン、エキソソーム及び/又は1つ若しくは複数の成長因子の発現若しくは分泌を有するなど、活性化され得る。細胞は、1つ又は複数の化学薬剤、RNA、マイクロRNA、RNAi、DNA、ウイルス核酸及び/又はエキソソームによって活性化され得る。特定の実施形態では、サイトカインは、IFN-γ、TNF-α、インターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-7、IL-8、IL-12、IL-15、IL-17、IL-33及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態では、成長因子は、FGF-1、VEGF及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態では、細胞は、ヒト多血小板血漿、血小板溶解物、臍帯血清、自己血清、ヒト血清、血清代替物又はそれらの組み合わせへの曝露後に活性化される。特定の実施形態では、細胞は低酸素への曝露後に活性化される。低酸素は、例えば、0.1%~10%、0.1%~5%、0.1%~2.5%又は0.1%~1%の酸素であり得る。特定の実施形態では、低酸素は、少なくとも又は約30分~約3日間以下である期間にわたって起こるが、場合によっては、30分未満又は3日間超であり得る。線維芽細胞は、低酸素、一酸化炭素又はそれらの組み合わせへの曝露前及び/又は曝露中に1つ又は複数の作用物質に曝露され得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、線維芽細胞又は線維芽細胞由来材料を1つ又は複数のアジュバントとともに使用して、免疫系を活性化し、創傷治癒過程を開始させ、及び/又は維持する。これらのアジュバントは、化学的に、機械的に、ウイルス的に改変された、遺伝子改変された構成成分又は細菌生成物ベースであり得る。
【0039】
特定の実施形態では、カプセル化RNA、マイクロRNA又はRNAi及び/又は線維芽細胞由来エキソソーム又は他の微小小胞は、線維芽細胞に由来する何らかの他の細胞又は細胞断片によって利用され、線維芽細胞は創傷治癒過程を局所的に開始させ、維持する。
【0040】
本開示の実施形態は、創傷部位及び周囲組織での血管形成、修復及び再生における線維芽細胞又は線維芽細胞由来材料の使用を含む。
【0041】
本開示の実施形態は、個体の少なくとも1つの創傷及び/又は少なくとも1つの熱傷を被覆するための材料を生成させるための合成ポリマー又はバイオポリマー足場又は生物学的メッシュへの及び/又は合成ポリマー及び/又はバイオポリマー足場又は生体メッシュ上への導入のための、活性化又は非活性化単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物を生成させるインビトロ方法を含む。特定の実施形態では、材料は、皮膚様布地などの布地である。特定の実施形態では、本方法は、患者上に直接適用される。単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物は、個体に関して自己、同種、同系又は異種であり得る。
【0042】
本開示の実施形態は、PDMS、HPEなどの無機ポリマーの使用、及び無機ポリマーの穿孔部における線維芽細胞スフェロイドの直接培養を含む。
【0043】
本開示の実施形態は、PDMS、HPEなどの無機ポリマーの使用、及びスフェロイドへの播種及び培養のための穿孔部への線維芽細胞の分配を含む。
【0044】
本開示の実施形態は、活性化又は非活性化単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物を創傷被覆材において使用するための前記ポリマーの表面上又は設計された穿孔部内に配置する手段としてのPDMS、HPEなどの無機ポリマーの使用を含む。
【0045】
B.基材及び生物学的構成成分の適用
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の生物学的構成成分は、基材中、基材上、基材の周囲又はそれらの組み合わせに生物学的構成成分を含む基材上に存在するか又は基材上に送達される。他の実施形態では、生物学的構成成分は、必要な部位で基材に適用される。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の組成物が同じ創傷又は熱傷で利用され、同じタイプの基材を使用してもよいし又は使用しなくてもよい。
【0046】
本組成物の特定の実施形態では、1つ又は複数の基材構成成分は合成ポリマー及び/又はバイオポリマーから構成され、特定の場合にはバイオポリマーは天然ポリマーである。合成ポリマー及び/又はバイオポリマーは、個体上での及び/又は個体における使用に適合する限り、あらゆるタイプのものであり得る。実施形態において、本組成物の基材は、ケラチン、フィブリン、コラーゲン、セルロース、アルギネート、キトサン、シアノフラン、ヒアルロン酸及び/又はヒドロゲルなどのバイオポリマーを含む。ポリマーが1つ又は複数の合成ポリマーを含む実施形態では、合成ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)/ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、[15]、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリウレタン(PU)、ポリ(α-エステル)[例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリラクチド(PLA)及び/又はポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)]であり得る。実施形態において、ポリマーは、PDMS、HPE、天然鉱物、合成ケイ酸塩、リン酸塩、ゼオライト、粘土、メソポーラスシリカ、ポリPなどの1つ又は複数の合成無機ポリマーを含む。
【0047】
少なくともサイズ、物質、厚さ、何らかの1つ又は複数の境界の存在、何らかの1つ又は複数の開口部の存在、形状などを含む基材の構成パラメータは、意図された創傷/熱傷に合わせて調整されてもよいし又は調整されなくてもよい。いくつかの実施形態では、基材は、本組成物の意図された用途に合わせて構成パラメータが調整されるが、他の場合では、基材は既製の方式で利用される。基材が特定の用途に合わせて調整される場合、生物学的構成成分は、基材上に既に存在していてもよいし、又は存在していなくてもよい。基材が最初に調整されず、既製の方式で利用しようとする場合、生物学的構成成分は、基材上に既に存在していてもよいし、又は存在していなくてもよい。
【0048】
基材の外側境界の形状は、ランダムであってもよいし、又は正方形、長方形、三角形、円形、台形、菱形、三日月形などの特定の形状であってもよい。従って、基材は、特定の幾何学的構造であり得る。部位に適用される基材の幅は、創傷の幅に依存し得る。基材は、創傷に又は創傷上に基材を配置する前又は配置した後に、創傷に合わせて調整するなどしてサイズを小さくし得る。基材のサイズ及び形状は、創傷サイズに合わせて調整され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、基材は足場であり得る。特定の実施形態では、足場内での単一細胞又はスフェロイド形式の細胞の配置を容易にする構造としての足場は、細胞が置かれる場所からの、例えば真皮層での細胞遊走及び/又は細胞増殖を可能にする。足場は、いくつかの実施形態では、置き換えられることを必要とする組織工学のための生物学的過程又は構造を模倣するなどのために、組織成長を可能にする。足場は、特定の実施形態では、繊維状、多孔質又はヒドロゲルであり得る。
【0050】
特定の場合において、基材はトレイ、カップ、メッシュなどである。基材は、何らかの種類のバイオポリマー、有機又は無機ポリマー製の布地から構成され得る。
【0051】
特定の実施形態では、基材は、1つ又は複数の開口部又は穿孔部を含む。基材に対する開口部又は穿孔部は、ランダムなパターン又は規則的パターンであり得る。開口部のサイズは、効率的な細胞遊走を可能にし、その部位に1つ又は複数のスフェロイドを固定することを可能にするために十分に大きくなるように構成され得る。
【0052】
特定の実施形態では、合成ポリマー若しくはバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ又はポリマー製の布地などの何らかの種類の基材上への、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物又はそれらの何らかの組み合わせの導入がある。生物学的構成成分を基材構成成分に適用する段階は、創傷又は熱傷に配置する前であるか否か、又は創傷若しくは熱傷に配置する時間であるか否かにかかわらず、何らかの適切な方式のものであり得る。
【0053】
特定の実施形態では、展着装置などの装置を用いた、合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ又はポリマー製の布地上への、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物の導入がある。本明細書中で言及される何らかの展着装置は、アプリケータと考えられ得る。
【0054】
ある特定の実施形態では、1つ又は複数の溝を伴い設計された展着装置などの装置を用いた、合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ又はポリマー製の布地上への、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物の導入がある。
【0055】
ある特定の実施形態では、展着装置などの装置を用いた、合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ又はポリマー製の布地上への、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物の導入がある。ある特定の実施形態では、装置は、スフェロイド配置を可能にするための孔の規則的なパターンとともに、又はランダムなスフェロイド配置を可能にするためのランダムな一連の孔とともに設計される。
【0056】
いくつかの実施形態では、噴霧又は霧吹き装置を用いた、合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ又はポリマー製の布地上への、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物又は線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物の導入がある。特定の実施形態では、噴霧又は霧吹き装置は、基材上への生物学的材料の配置の均一性のために利用される。
【0057】
ある特定の実施形態では、3-Dプリンタを用いた、合成ポリマー及び/又はバイオポリマー、例えば足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ又はポリマー製の布地などを含む基材上への、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物の導入がある。
【0058】
ある特定の実施形態では、穿孔した合成又はバイオポリマーの孔の内側で線維芽細胞スフェロイドの培養が行われ、開口部は、特定のサイズ及び線維芽細胞の細胞数を含有するスフェロイドから創傷面上への増殖に適応するような方法で離間される。
【0059】
いくつかの実施形態では、1つのスフェロイドのみが単一の開口部に配置され、開口部の反対側から創傷面上への線維芽細胞の増殖を可能にするように、合成及び/又はバイオポリマー基材の開口部に特定のサイズの線維芽細胞スフェロイドの分配がある。
【0060】
特定の実施形態では、高解像度カメラを使用して、被覆されている創傷の境界を一致させる目的で、3Dプリンタにおいて、単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物又は線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物の導入のための画像を生成させる。
【実施例0061】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を明らかにするために含まれる。以下の実施例で開示される技術は、本発明の実施において良好に機能する技術を表し、従ってその実施のための特定の方式を構成すると考えられ得ることが当業者により理解されるはずである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本開示の目的の精神及び範囲から逸脱することなく、開示される具体的な実施形態において多くの変更がなされ得、同様又は類似の結果を依然として得ることができることを認めるはずである。
【0062】
実施例1
創傷治癒における使用のための線維芽細胞の治療的使用
導入:
皮膚創傷の修復は生物の生存に不可欠であり、難治性創傷につながる皮膚創傷修復の不全は、世界的に大きな健康問題である。創傷治癒研究は、主に創傷環境の多面的な性質及び炎症、増殖、再上皮化及びリモデリングを含む様々な細胞及び修復期を統合する治癒過程の複雑性ゆえに、入り組んだものとなっている。足の創傷治癒の遅延は、2型糖尿病(DM)患者における高血糖に起因する重大な合併症であり、これらの創傷は足部潰瘍に進行し得る。研究から、糖尿病性創傷は、創傷が起こってから30日後に、非糖尿病性創傷と比較して50%未満しか治癒していないことが示されている。
【0063】
複数の因子が創傷治癒の遅延に寄与する。これらには、線維芽細胞の増殖及び遊走障害、高血糖並びにケラチノサイトの増殖及び遊走の障害が含まれる。創傷治癒障害の別の主な原因は、準最適な免疫応答、活性酸素種レベル上昇、血管新生の調節解除及び創傷部位での持続的な細菌定着である。真皮線維芽細胞は、止血、炎症、増殖及びリモデリングを含む創傷治癒のあらゆる段階に関連する。さらに、慢性創傷の機構的理解は、適切な遺伝子マウスモデルの欠如のために重大な課題となっている。本開示は、糖尿病誘発性潰瘍における線維芽細胞の効果を実証し、線維芽細胞及び線維芽細胞由来材料による創傷治癒の加速を例示する。
【0064】
方法及び材料
マウス:
Jacksons Laboratoryからの10~12週の多遺伝子モデル(レプチン遺伝子、レプチン受容体(LEPR)、A遺伝子突然変異)-NONcNZO10/LtJマウスを試験のために使用した。マウスを12時間の明/暗サイクルで個別に通気したケージに収容した。300mg/dLの所望のベースライン血糖値に達したら(図1B)、36%脂肪を含有する高脂肪餌(F3282ペレット)をマウスに与えた(図1A)。
細胞培養:
マウス胚線維芽細胞を、American Type Culture Collection(ATCC(登録商標))から入手し、DMEM High Glucose中で培養し、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンをそれぞれ補充した。細胞を5%CO中37℃でインキュベートした。
線維芽細胞由来エキソソームの単離:
馴化培地調製
線維芽細胞を播種し、10%FBS入りのDMEM培地中で24時間培養し、次いでPBSで3回洗浄し、最後に3mlの無血清DMEM培地中で2時間培養した。馴化培地を回収し、0.22μmフィルターに通して濾過し、細胞残屑を除去した。
【0065】
線維芽細胞によって放出されるエキソソームの単離及び特徴評価
Total Exosome Isolation Kitを使用することによって培養線維芽細胞からエキソソームを単離した。簡単に述べると、0.5mlのトータルエキソソーム単離試薬を各1mlの濾過済み馴化培地に添加し、転倒撹拌によって十分に混合した。4℃で一晩インキュベートした後、混合物を4℃にて12,000×gで70分間遠心分離し、全ての上清を吸引によって除去した。エキソソームペレットを、使用前に希釈しないように、ごく低体積のDMEM培地中で再懸濁した。
【0066】
インビボ処置:
細胞調製技術:
細胞をT225フラスコ中37℃で培養する。細胞が70%コンフルエントになったら、0.5%トリプシンで細胞をトリプシン処理し、400gで5分間遠心分離する。上清を捨て、ペレットをPBS中で再懸濁した。細胞PBS。1×10個を等分する。
【0067】
全層創傷モデル:
イソフルランの吸入を使用してマウスに麻酔をかけた。マウスを剃毛し、ベタジン及びアルコールで消毒した。第0日に、肩のレベルで正中線の両側の背中に滅菌8mmパンチ生検を使用して4カ所の全層創傷を作製した。鋸歯状鉗子を用いて皮膚を持ち上げ、虹彩鋏を用いて皮下組織を貫通する全層創傷を作製した。
【0068】
創傷処置:
イソフルランの吸入を使用してマウスに麻酔をかけた。マウスを4つの処置群に分類する:マトリゲル、局所線維芽細胞(FB(上))、皮下投与された線維芽細胞(FB(SC))及び線維芽細胞由来エキソソーム(FB由来エキソソーム)。それぞれの治療化合物を創傷上に穏やかに塗布するか、又は創傷の周囲に皮下投与する。全てのマウスに合計5回の処置(第1日、3日、5日、7日、9日)を行った(図2)。
【0069】
創傷測定:
創傷を毎日測定した。5%イソフルラン吸入を使用してマウスに麻酔をかけた。創傷直径及び創傷の面積は、診療所での使用にも承認されているeKare(登録商標)insightアドバンスト創傷イメージング装置を用いて測定した。測定後、清潔な密封包帯を再度適用し、完全に回復するまで動物を保温する。4つの創傷に対する創傷閉鎖をマウス1匹ごとに平均した。
【0070】
組織学
創傷の領域を包含する皮膚断片を切り出し、さらなる分析のために利用した。H&E染色のために、組織試料を第20日に採取し、10%NBF中で固定し、パラフィン中に包埋する。ST Infinity H&E染色システムでH&E染色を行い、0.1%ピクロシリウスレッドでシリウスレッド染色を行った。H&E染色スライドを画像化した。
【0071】
組織の免疫標識
CD31による免疫蛍光のために、組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋した。5マイクロメーターの切片を再水和し、10mMクエン酸緩衝液(pH 6.0)中で15分~1時間、抗原回復を行った。室温で1%BSAにより1時間ブロッキング処理した後、切片を一次抗体(CD31,Thermo Fisher)とともに4℃で一晩、次いで二次抗体(Alexa Fluor 568、ヤギ、抗ラット、Thermo-Fisher)とともに室温で1時間インキュベートした。
【0072】
パラフィン包埋試料については、組織を4%緩衝パラホルムアルデヒド(PFA)中で20分間固定し、0.3%Triton-X中で30分間透過処理した。(室温で30分間)1%BSAによりブロッキング処理した後、切片を一次抗体(サイトケラチン5、Thermo Fisher)とともに4℃で一晩、続いて二次抗体(Alexa Fluor 546、ヤギ抗ウサギ)とともに室温で1時間インキュベートし、核染色(DAPI)とともに30分間インキュベートした。
【0073】
定量的リアルタイムPCR
RNAを急速凍結組織から単離し、製造業者の指示に従ってTrizol試薬で抽出した。High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用いてcDNAを合成した。SYBR Green Real-Time PCR Master Mixを用いてリアルタイム定量PCRを行った。
【0074】
酵素結合免疫吸着アッセイ
血清の回収:
血液を室温で2時間凝固させた後、2000gで15分間遠心分離して血清を分離し、直ちにアッセイを開始した。
【0075】
組織生検試料。創傷治癒領域の生検試料を実験中のいくつかの時点で採取し、急速凍結し、保存した。次いで、これらの組織からの溶解物を使用して、サイトカイン及び成長因子についてアッセイした。
【0076】
マウスサイトカインアレイ分析:
マウスサイトカイン抗体アレイは、Abcamマウスサイトカイン抗体アレイ(120個の標的-ab197461)キットを製造者の説明書に従って使用して行った。
アレイ分析で検出されたサイトカインのリスト:
腫瘍壊死因子(TNF-α)、
インターロイキン-6(IL-6)、
IL-1β、
インターフェロン-γ(IFN-γ)、
IL10、
上皮成長因子(EGF)、
血管内皮増殖因子(VEGF)。
【0077】
結果:
局所の線維芽細胞は糖尿病における創傷治癒を加速する
局所投与された線維芽細胞が創傷治癒を加速することを実証するために、10~12週齢のNONcNZO10/LtJマウスに、ベースライン血糖値が所望の300mg/dL濃度に達した後、36%脂肪を含む高脂肪餌を与えた。血糖値が300mg/dLに到達したら、マウスを4つの処置群:マトリゲル、局所線維芽細胞(FB(上))、皮下投与された線維芽細胞(FB(SC))及び線維芽細胞由来エキソソーム(FB由来エキソソーム)に無作為に分けた。これらのマウスのそれぞれの背部に4カ所の8mmの創傷を作製し、マトリゲルと混合した50μLのそれらのそれぞれの処置剤で処置した。これらの創傷の直径を創傷が治癒するまで1日おきに測定し、さらなる分析のためにマウスを安楽死させた。処置有効性は、同じく診療所での使用が承認されているeKare(登録商標)insightアドバンスト創傷イメージング装置によって生成された直径及び面積データを使用して、創傷の直径及び面積をプロットすることによって評価した。
【0078】
実験及び捕捉データの分析により、FB(局所)で処置したマウスが、マトリゲルのみを投与した対照群と比較して、創傷治癒速度の加速を示したことが確認された。(図3)創傷面積測定から、対照群と比較して、FB(局所)、続いてFB由来エキソソーム及びFB(SC)を投与したマウスの創傷サイズの有意な改善も明らかになった。この所見から、FB(局所)が糖尿病性創傷の創傷治癒を加速し、続いて線維芽細胞由来エキソソームが創傷治癒を加速することも確認された。
【0079】
特定の実施形態の重要性
この研究では、局所投与された線維芽細胞は、対照と比較した場合、創傷治癒速度の有意な上昇を示すことが実証される。線維芽細胞由来エキソソームを投与されたマウスにおいても実質的且つ顕著な改善があると思われる。これらの結果から、線維芽細胞及び線維芽細胞由来材料の直接適用並びに真皮層におけるそれらの遊走及び増殖が、糖尿病性創傷における創傷治癒速度を加速させることが示唆される。創傷部位における線維芽細胞の受動的蓄積、及び免疫調節におけるそれらの十分に確立された役割によって、血管新生を調節し、創傷治癒速度を加速する免疫応答が惹起される。線維芽細胞及び線維芽細胞由来の材料は、治癒速度を上昇させ、線維芽細胞の免疫調節はまた、糖尿病性創傷の治癒の遅延に対する既知の要因である細菌コロニー形成も防止する。これらの知見は、線維芽細胞処置様式の治療有効性を向上させる重要な検証段階である。
【0080】
結論
創傷部位への線維芽細胞及び線維芽細胞由来材料の送達のためのいくつかの処置様式の継続的な試験の結果、局所適用された線維芽細胞及び線維芽細胞由来エキソソームによる治癒速度の有意な改善が起こった。この知見は、糖尿病性創傷治癒に存在する主要な問題に対処し、糖尿病に関連するこの慢性疾患を治癒させるために有用である。
【0081】
実施例2
創傷ケア
1つのインビボ試験において、発明者らは、糖尿病マウスモデルにおいて作製された創傷に対する単一細胞線維芽細胞投与を試験した。100万個の単一細胞線維芽細胞を、創傷縁の周囲に局所投与又は皮下投与した。単一細胞線維芽細胞を増殖させるために使用される100万種の線維芽細胞培地に由来する線維芽細胞エキソソームも局所投与について試験した。局所細胞及びエキソソームは、細胞及びエキソソームを創傷上に維持するために、適用直前にMatrigel(登録商標)と混合した。対照として、Matrigel(登録商標)単独を利用した。創傷直径及び面積を測定した後、全ての対照及び試験試料を1日おきに投与した。痂疲が創傷から解放され、上皮化が認められたら、創傷が治癒したとみなした(図2~7)。
【0082】
この試験の結果から、局所及び皮下投与された単一細胞線維芽細胞、並びに線維芽細胞由来エキソソームが、対照よりも有意に速く創傷を治癒させたことが示された。この研究では、3つの試験材料のうち、単一細胞線維芽細胞及び線維芽細胞由来エキソソームは、皮下注射された線維芽細胞よりも有意に良好に機能した。
【0083】
別の試験では、インビボ実験の目的は、単一細胞線維芽細胞、及び以前に凍結され(例えば液体窒素中で)、使用直前に凍結融解された線維芽細胞由来エキソソームの有効性を試験することであった。100万個の単一細胞線維芽細胞を局所投与した。単一細胞線維芽細胞を増殖させるために使用される100万種の線維芽細胞培地に由来する線維芽細胞エキソソームも局所投与について試験した。局所細胞及びエキソソームは、細胞及びエキソソームを創傷上に維持するために、適用直前にMatrigel(登録商標)と混合した。対照として、Matrigel(登録商標)単独を利用した。創傷直径及び面積を測定した後、全ての対照及び試験試料を1日おきに投与した。創傷サイズは、慢性創傷治癒のモニタリングで使用するために臨床的に承認されているeKare(登録商標)装置を使用して1日おきに決定した。eKare(登録商標)装置はまた、創傷の画像も撮影する。痂疲が創傷から解放され、上皮化が認められたら、創傷が治癒したとみなした(図6~9参照)。
【0084】
この試験の結果から、局所投与された凍結/融解単一細胞線維芽細胞、並びに凍結/融解線維芽細胞由来エキソソームが、対照よりも有意に速く創傷を治癒させたことが示された。この研究は、細胞又はエキソソームの凍結/融解が創傷治癒に対する材料の有効性に影響を及ぼさなかったことを示した。
【0085】
別の試験において、線維芽細胞又は線維芽細胞由来エキソソームを創傷上に局所投与した後に創傷を被覆する代替的なより容易な方法を試験することを目的とした。Matrigelは、ヒトへの使用が現在承認されていない動物製品であるため、ヒトへの創傷被覆材としての使用が承認されている他の製品を利用した。試験のために、発明者らは、創傷被覆材料を培養場所の表面に適用し、次いで線維芽細胞をプレートに接種し、Agilent Inc.からのIncuCyte(登録商標)と呼ばれる機器を使用して、数並びに細胞サイズに関して細胞の増殖をモニタリングすることによって3M Nexcare(登録商標)及びElaSkin(登録商標)を試験した。
【0086】
試験の結果から、3M Nexcare(登録商標)が細胞の増殖効率又はサイズに影響を及ぼさなかったことが示されたが、ElaSkin(登録商標)は細胞の増殖だけでなく細胞サイズにも顕著な影響を及ぼし、細胞増殖に対する悪影響を示した。この試験の結果として、3M Nexcare(登録商標)をその後の試験で利用して、創傷上の線維芽細胞及び線維芽細胞由来エキソソームを被覆した(図10~11)。
【0087】
さらなる研究では、インビボ実験の目的は、スフェロイドオルガノイドとして成長させた線維芽細胞及び糖尿病マウスモデルで作製された創傷へのその投与を試験することであった。各スフェロイドがおよそ3万個の線維芽細胞を含有する(±15%まで)100個の線維芽細胞スフェロイドを創傷に局所投与した。次いで、創傷上に30~50mlの3M Nexcare(登録商標)を適用することによって創傷を被覆した。対照として、3M Nexcare(登録商標)のみを利用した。スフェロイド及び対照試料は、スフェロイド線維芽細胞の1回の適用を試験することができるように1回だけ適用した。創傷サイズは、慢性創傷治癒のモニタリングで使用するために臨床的に承認されているeKare(登録商標)装置を使用して1日おきに決定した。eKare(登録商標)装置はまた、創傷の画像も撮影する。痂疲が創傷から解放され、上皮化が認められたら、創傷が治癒したとみなした(図12~14)。
【0088】
この実験の結果は、投与されたスフェロイド線維芽細胞が、対照よりも有意に速く創傷を治癒させたことを示した。創傷が対照よりもおよそ3日速く治癒しただけでなく、線維芽細胞で処置した創傷の炎症は対照よりも有意に少なかった。
【0089】
一試験では、インビボ実験の目的は、スフェロイドオルガノイドとして成長させた線維芽細胞並びに単一細胞線維芽細胞由来溶解物及び野生型の非糖尿病マウスモデルで作製された創傷へのその投与を試験することであった。各スフェロイドがおよそ3万個の線維芽細胞を含有する(±15%まで)100個の線維芽細胞スフェロイドを創傷に局所投与した。創傷上で、100万個の単一細胞線維芽細胞を機械的に溶解することから誘導された溶解物も試験した。次いで、創傷上に30~50mlの3M Nexcare(登録商標)を適用することによって創傷を被覆した。対照として、発明者らは、3M Nexcare(登録商標)のみを試験した。スフェロイド、線維芽細胞溶解物及び対照試料は、スフェロイド線維芽細胞及び溶解物の1回の適用を試験するために1回だけ適用した。創傷サイズは、慢性創傷治癒のモニタリングで使用するために臨床的に承認されているeKare(登録商標)装置を使用して1日おきに決定した。eKare(登録商標)装置はまた、創傷の画像も撮影する。痂疲が創傷から解放され、上皮化が認められたら、創傷が治癒したとみなした(図17-20)。
【0090】
この試験の結果から、スフェロイド線維芽細胞、並びに線維芽細胞由来溶解物が、非糖尿病性創傷においてでさえも対照よりも有意に速く創傷を治癒させたことが示された。線維芽細胞スフェロイドを溶解物と比較した場合、線維芽細胞スフェロイドは、溶解物よりも有意に速く創傷を治癒させた。
【0091】
別の試験では、インビボ試験の目的は、マウス真皮線維芽細胞及びスフェロイドオルガノイドとして成長させたヒト真皮線維芽細胞の両方の、糖尿病マウスモデルにおいて作製された創傷への投与を試験することであった。さらに、発明者らは、慢性創傷の処置に使用するためにFDAに承認されているGrafix(登録商標)と呼ばれる市販製品を試験したいと考えた。各スフェロイドがおよそ3万個(±15%まで)の線維芽細胞を含有する100個の線維芽細胞スフェロイドを創傷に局所投与した。発明者らはまた、Grafix(登録商標)についての刊行物で提供された適用の指示に従うことによって創傷に対してGrafix(登録商標)を試験した。次いで、創傷上に30~50mlの3M Nexcare(登録商標)を適用することによって創傷を被覆した。対照として、発明者らは、3M Nexcare(登録商標)のみを試験した。ヒト及びマウス線維芽細胞スフェロイド、Grafix(登録商標)及び対照試料は、スフェロイド線維芽細胞及びGrafix(登録商標)の1回の適用を試験するために1回だけ適用した。創傷サイズは、慢性創傷治癒のモニタリングで使用するために臨床的に承認されているeKare(登録商標)装置を使用して1日おきに決定した。eKare(登録商標)装置はまた、創傷の画像も撮影する。痂疲が創傷から解放され、上皮化が認められたら、創傷が治癒したとみなした(図21-22)。
【0092】
図23は、ヒト真皮線維芽細胞スフェロイド(HDF)と競合物質とを比較した、対照を使用した24日間にわたる創傷の写真を示す。第11日から第14日まで、HDF群では創傷サイズの60%の縮小が見られ、一方で競合剤を使用した場合には創傷サイズの30%の縮小が見られる。線維芽細胞処置は、FDA承認のDFU処置と比較して、慢性創傷閉鎖を明らかに加速させた。
【0093】
図24は、処置後の創傷面積のパーセント変化のグラフである。対照データは、2つのうちの高い方である。グラフは、HDF由来スフェロイド+3M Nexcare(商標)と比較した、対照を使用した数日間にわたるパーセンテージ変化を示す。グラフは、HDFが3M Nexcare(商標)の有効性を向上させることを示す。スフェロイドは、創傷閉鎖を有意に加速した。
【0094】
この試験の結果から、ヒト真皮スフェロイド線維芽細胞が、対照、マウス真皮線維芽細胞スフェロイド及びGrafix(登録商標)よりも有意に速く創傷を治癒させたことが示された。創傷は、ヒト真皮線維芽細胞スフェロイドでは第5日に、マウス真皮線維芽細胞スフェロイドでは第7日に、Grafix(登録商標)では第8日に治癒した。ヒト真皮線維芽細胞スフェロイドはまた、投与後の創傷サイズの拡大を見ないことによって、他の試験材料よりも有意に良好に炎症を制御した。実際、ヒト真皮線維芽細胞の投与後、創傷サイズが直ちに縮小した。ヒト真皮線維芽細胞スフェロイドをマウス真皮線維芽細胞スフェロイドと比較した場合、線維芽細胞スフェロイドは、有意により速く創傷を治癒させた。
【0095】
実施例3
血清及び創傷組織のバイオマーカー分析
IFN-γは、免疫応答及び炎症の主要調節因子である。IFN-γは、好中球性炎症応答のその調節ゆえに、増殖期の皮膚創傷の修復に必要である。EGFRは、上皮細胞の挙動を指令するシグナル伝達の開始において重要な役割を果たす。VEGFレベルは、創傷閉鎖/再上皮化、血管新生、肉芽組織形成の速度、及び増殖期中の治癒した創傷の強度に影響を及ぼし得る。IL-10は、血管新生を促進するSTAT3経路を活性化して、より速い創傷閉鎖及び瘢痕化の軽減を可能にした。上皮に対するIL-10の再生効果は、線維芽細胞とケラチノサイトとの間の相互作用を通じて媒介され得る。線維芽細胞は、IL-10に容易に応答し、仮のマトリクスを通じた優れた遊走及び浸潤を有して創傷の修復を誘導することが分かっている。IL-1αは、炎症に関与する遺伝子の活性を刺激する炎症促進性マーカーである。これは、炎症促進性細胞、サイトカイン及び老化線維芽細胞がより低いレベルであり、並びに抗炎症性サイトカイン及び成長因子がより高いレベルであることを特徴とする治癒促進性微小環境を再確立する。IL-6は、炎症促進性サイトカイン及びケモカインの創傷への分泌を誘導し、創傷内に修復環境を作り出すことに寄与する。発明者らの結果から、血清中の第7日のHDF群におけるIL-6レベルの有意な上昇があることが明らかになり、それによって、対照と比較して処置群において創傷修復機構が効果的に遂行されることが示される。
【0096】
これらのバイオマーカーは、所与の処置中の皮膚創傷の修復を定量化するために使用され得る。
【0097】
材料及び方法
実験で採取した血清及び皮膚試料のバイオマーカー評価を実施するために、MILLIPLEX(登録商標)Mouse Cytokine/Chemokine Magnetic Bead Panelと呼ばれるMillipore Sigmaからの製品を、製造業者のプロトコルに従ってLuminex(登録商標)xMAP(登録商標)システムとともに使用した。次いで、回収した生データを分析し、Graphpad Prism(登録商標)ソフトウェアを使用して統計分析を行った。
【0098】
結果
図25は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のINF-γレベルを例示する。図6のグラフは、対照処置及びヒト真皮線維芽細胞による処置に対する、血清及び組織溶解物におけるINF-γの濃度を示す。これらの結果から、第7日のHDF群においてIFN-γレベルの有意な上昇があることが明らかになり、これにより、対照と比較した場合に、処置群において創傷修復機構が効果的に遂行されることが示される。
【0099】
図26は、HDFスフェロイド又は対照で処置された皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のEGFRレベルを例示する。グラフは、対照処置及びヒト真皮線維芽細胞による処置に対する、血清及び組織溶解物におけるEGFRの濃度を示す。これらの結果は、創傷が治癒しつつあるので、第7日及び第17日での、それらの対照と比較した場合の、HDF処置群における上皮化の増加を示す。これは、EGFRが、ケラチノサイト増殖、再上皮化、炎症及び血管新生などの創傷治癒に重要な細胞事象を刺激することを示す。
【0100】
図27は、ヒト真皮線維芽細胞又は対照による処置後の皮膚組織における第7日及び第17日のVEGFレベルを示す。グラフは、対照処置及びHDF処置に対するVEGFの濃度を示す。これらの結果は、対照と比較した場合の、HDF処置群における第7日のVEGFレベルの有意な上昇を示す。創傷が治癒しつつあり、血管組織が形成されつつあるので、VEGFレベルは、第7日と比較した場合、第17日にはるかに高くなる(7倍上昇)。
【0101】
図28は、ヒト真皮線維芽細胞又は対照による処置後の皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のIL-10レベルを示す。これらの結果から、組織溶解物中の第7日のHDF群でIL-10レベルの有意な上昇があることが明らかになり、それにより、創傷修復機構が、対照と比較した場合、処置群において効果的に遂行されることが示される。創傷が完全に治癒すると(第17日)、IL-10レベルはそれらの正常レベルに戻り始めるので、IL-10レベルは第7日のレベルよりもはるかに低い。
【0102】
図29は、ヒト真皮線維芽細胞又は対照による処置後の皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のIL-1aレベルを示す。この結果から、第7日のHDF群におけるIL-1aレベルの有意な低下があることが明らかになり、それにより、対照と比較した場合、処置群において抗炎症性マーカーを介して創傷修復機構が遂行されることが示される。第17日に、IL-1aレベルは第7日のレベルよりも低いが、依然として顕著に低いままである。
【0103】
図30は、ヒト真皮線維芽細胞又は対照による処置後の皮膚組織及び血清における第7日及び第17日のIL-6レベルを示す。この結果から、血清中の第7日のHDF群におけるIL-6レベルの有意な上昇が明らかになり、それにより、創傷修復機構が、対照と比較した場合、処置群において効果的に遂行されることが示される。組織溶解物中で、HDF群は対照と比較した場合、有意な上昇を示す。創傷が完全に治癒すると(第17日)、IL-6レベルはそれらの正常レベルに戻り始める。
(参考文献)
1.Chuong, C.M., et al., What is the ‘true’ function of skin? Exp Dermatol, 2002. 11(2): p. 159-87.
2.Bainbridge, P., Wound healing and the role of fibroblasts. J Wound Care, 2013. 22(8): p. 407-8, 410-12.
3.Li, Z. and P. Maitz, Cell therapy for severe burn wound healing. Burns Trauma, 2018. 6: p. 13.
4.Kubo, K. and Y. Kuroyanagi, A study of cytokines released from fibroblasts in cultured dermal substitute. Artif Organs, 2005. 29(10): p. 845-9.
5.Spiekstra, S.W., et al., Wound-healing factors secreted by epidermal keratinocytes and dermal fibroblasts in skin substitutes. Wound Repair Regen, 2007. 15(5): p. 708-17.
6.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6888635/
上記の文献1~6は、参照によりその全文が組み込まれる。
【0104】
本開示及びその長所を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書中で様々な変更、置換及び変更がなされ得ることを理解されたい。さらに、本願の範囲は、本明細書に記載の工程、機構、製造、組成物、手段、方法及び段階の特定の実施形態に限定されるものではない。当業者が本開示の開示から容易に認識するであろうように、本明細書中に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすか又は実質的に同じ結果を達成する、現在存在するか、又は後に開発されるはずである、工程、機構、製造、組成物、手段、方法又は段階を本開示に従い利用し得る。従って、添付の特許請求の範囲は、このような工程、機構、製造、組成物、手段、方法又は段階をそれらの範囲内に含むものとする。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図19
図20
図21
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図23
図24
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図26
図27
図28
図29
図30
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の1つの創傷の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つの熱傷を覆うための材料を作製するための1つ又は複数の合成ポリマー及び/又は1つ又は複数のバイオポリマーを含む基材への及び/又は基材上への導入のための、活性化又は非活性化単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物又はその何れかの組み合わせを生成させる、インビトロ方法。
【請求項2】
前記材料が、布地、足場又はメッシュである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記布地が皮膚様布地である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者に直接適用される、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物が、前記個体に対して自己である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物が、前記個体に対して同種である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記単一細胞又はスフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体及び/又は線維芽細胞関連生成物細胞が、前記個体に対して異種である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
(a)単一細胞線維芽細胞、スフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体、線維芽細胞からの馴化培地及び/又は線維芽細胞関連生成物、又はそれらの何れかの組み合わせの1つ又は複数の生物学的構成成分と、
(b)合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、プレート、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ、ポリマー製の布地又はそれらの何らかの組み合わせの1つ又は複数の基材構成成分と、
を含む、組成物。
【請求項9】
(a)の構成成分が(b)とは別個である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
(a)の構成成分が(b)上に及び/又は(b)中に含まれる、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記(b)の構成成分が1つ又は複数の開口部を含む、請求項8~10の何れか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記開口部が穿孔によって生成された、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記基材における開口部の分布がランダムである、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
前記基材における開口部の分布がパターン化されている、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項15】
個体における1つ又は複数の創傷及び/又は熱傷を処置する方法であって、有効量の請求項8~14の何れか1項に記載の組成物を前記個体の創傷又は熱傷の上に及び/又は前記個体の創傷又は熱傷に隣接して投与する段階を含む、方法。
【請求項16】
前記投与段階の前に、単一細胞及び/又はスフェロイドが前記基材に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
単一細胞及び/又はスフェロイドが前記基材に装置で適用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基材が、前記創傷及び/又は熱傷への細胞及び/又は細胞生成物の遊走を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記基材が、前記基材の1つ又は複数の開口部における1つ又は複数のスフェロイドの確保を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記投与段階の前に、単一細胞及び/又はスフェロイドがゲルに基づくバイオポリマー中で前記基材に適用される、請求項15~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記基材が、前記創傷及び/又は熱傷への細胞及び/又は細胞生成物の遊走を可能にするために十分なサイズの開口部を含む足場である、請求項15~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記投与段階の前に、単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、前記足場の開口部の所定の配置で既に存在し、次いで前記創傷又は熱傷の上に配置される、請求項15~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記基材における前記開口部の配置がランダムである、請求項18~22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記基材における前記開口部の配置がパターン化されている、請求項18~22の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記基材における開口部の配置が、格子柄パターンでパターン化されている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記創傷が、糖尿病性潰瘍、褥瘡、切り傷、外科的切除、外科的切開、切断、生検、擦過傷、感染部位又は動物咬傷である、請求項15~25の何れか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記創傷が前記個体の内側にある、請求項15~26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記基材構成成分の少なくとも一部が吸収性である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記創傷が前記個体の外側にある、請求項15~26の何れか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物の少なくとも一部が3Dプリンタによって作製される、請求項15~29の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
請求項8~14の何れか1項に記載の組成物を作製する方法であって、
単一細胞線維芽細胞、スフェロイド線維芽細胞、線維芽細胞からのエキソソーム、線維芽細胞からの溶解物、線維芽細胞からのアポトーシス小体、線維芽細胞からの馴化培地、線維芽細胞関連生成物及びそれらの組み合わせからなる群から選択される(a)の1つ又は複数の構成成分を提供する段階と、
合成ポリマー又はバイオポリマー足場、トレイ、幾何学的構造、バイオロジックファブリック(biologic fabric)、メッシュ、ポリマー製の布地及びそれらの組み合わせからなる群から選択される(b)の1つ又は複数の構成成分を提供する段階と、
有効量の(a)の1つ又は複数の構成成分を(b)の1つ又は複数の構成成分と組み合わせる段階と、
を含む、方法。
【請求項32】
前記(a)の1つ又は複数の構成成分を提供することが、前記(a)の1つ又は複数の構成成分を前記(b)の1つ又は複数の構成成分上に三次元(3D)印刷することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記(b)の1つ又は複数の構成成分を提供することが、前記(b)の1つ又は複数の構成成分を3D印刷することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、穿孔部を有する足場に装置を用いて適用され、細胞及び細胞生成物の前記創傷への遊走を可能にする、請求項31~33の何れか1項に記載の方法。
【請求項35】
単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、穿孔部を有する足場にゲルに基づくバイオポリマー中で適用され、細胞及び細胞生成物の前記創傷への遊走を可能にする、請求項31~33の何れか1項に記載の方法。
【請求項36】
単一細胞及び/又はスフェロイド及び/又は細胞生成物が、前記足場の穿孔部の所定の配置で既に沈着させられて適用され、次いで創傷及び/又は熱傷の上に配置される、請求項31~33の何れか1項に記載の方法。
【請求項37】
請求項8~14の何れか1項に記載の組成物を含む、キット。
【請求項38】
前記組成物が、その上に1つ又は複数のスフェロイド及び/又は細胞を含むトレイ、プレート又はメッシュを含む、請求項37に記載のキット。
【外国語明細書】