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特開2024-111839タンデム質量分析計及びタンデム質量分析の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111839
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】タンデム質量分析計及びタンデム質量分析の方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240809BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240809BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20240809BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 B
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/00 400
H01J49/40
H01J49/42 500
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024016100
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】2301649.6
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA02
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA09
2G041GA10
2G041HA01
(57)【要約】
【課題】対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析の方法を提供する。
【解決手段】第1感度で動作するタンデム質量分析計の第の質量分析器を使用し、MS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって前駆イオンを分析する。また、第の感度で動作するタンデム質量分析計の第の質量分析器を使用し、MS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって前駆イオンを分析し、第の感度は第の感度よりも高い。第の質量分析器によって実行されるMS1ドメインでの分析は、第の質量分析器によってMS1ドメインで実行される分析と同時に実行される。また、第1及び第の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することを含む。また、タンデム質量分析計の第の質量分析器を使用し、MS2ドメインで前駆イオンを分析することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析の方法であって、
第1の感度で動作するタンデム質量分析計の第1の質量分析器を使用して、MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析することと、
第2の感度で動作する前記タンデム質量分析計の第2の質量分析器を使用して、前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析することと、を含み、前記第2の感度は、前記第1の感度よりも高く、前記第2の質量分析器によって実行される前記MS1ドメインでの前記分析は、前記第1の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行される前記分析と同時に実行され、
前記方法は、さらに、
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することと、
前記タンデム質量分析計の前記第2の質量分析器を使用して、MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかを分析することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の質量分析器は、第1の感度及び第1の質量精度で動作し、
前記第2の質量分析器は、前記MS1ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかを第2の感度及び第2の質量精度で分析し、前記第2の質量精度は、前記第1の質量精度よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせることは、前記MS1ドメインでの前駆イオンピークの組み合わせリストを生成することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆イオンピークの組み合わせリストは、前記第1の質量分析器によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークの第1のセットと、前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークの第2のセットとを含み、前記組み合わせリストは、前記前駆イオンピークの第1のセットと第2のセットとの間で繰り返される前駆イオンピークを除去するようにフィルタリングされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆イオンピークの第2のセットは、所定の第1の強度レベルを下回る任意の前駆イオンピーク及び/又は所定の第2の強度レベルを上回る任意の前駆イオンピークを除去するように閾値処理される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の質量分析器によって生じた第1の前駆イオンピークと、前記第1の質量分析器によって生じた対応する第1の前駆イオンピークとを使用して、前記タンデム質量分析計を較正し、前記較正を使用して、前記前駆イオンピークの第1のセットと第2のセットとの間で繰り返される前駆イオンピークを同定する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記MS1分析によって同定された前記前駆イオンに基づく、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記MS2ドメインで前記前駆イオンを分析することは、
前記前駆イオンをフラグメント化してプロダクトイオンを生成することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記プロダクトイオンを分析することと、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、
前記第1の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することと、を含み、
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメイン及び前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記第1の質量分析器によって実行される前記MS1ドメインでの前記1回の分析と同時に実行される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、
前記第1の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記対象のm/z範囲を複数のm/z部分範囲に細分化し、前記第2の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで対象の各m/z部分範囲にわたって分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することと、を含み、
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメイン及び前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記第1の質量分析器によって実行される前記MS1ドメインでの前記1回の分析と同時に実行される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各サイクルは、前記第2の質量分析器を使用して対象の各m/z部分範囲について前記MS1ドメインで複数の分析を実行することと、
対象の各m/z部分範囲について、前記第2の質量分析器によって実行された前記MS1分析からのデータを平均することと、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、
前記第1の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって複数の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することと、を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
各分析サイクルについて、
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行された前記分析からのデータを平均することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記MS1ドメインで実行された前記分析からの前記データを平均することは、第3の強度レベルを下回る前駆イオンピークを除去するように前記データを閾値処理することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行される複数の分析は、前記第2の質量分析器によって前記MS2ドメインで実行される前記分析とインターリーブされる、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
各分析サイクルについて、前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメインで少なくとも3回、5回、又は7回の分析が実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記MS1ドメインで実行される前記分析は、前記第1の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行される前記分析の持続時間全体にわたって均等にインターリーブされる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
各分析サイクルは、前記第1の質量分析器又は前記第2の質量分析器を使用して利得制御分析を実行することを更に含み、前記第1の質量分析器及び/又は前記第2の質量分析器によって実行される前記MS1分析の各々のための注入時間は、前記利得制御分析に基づいて調整される、請求項8~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
分析される前記前駆イオンは、一価前駆イオンを除去するか又は一価前駆イオンの数を低減するようにフィルタリングされる、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
分析される前記前駆イオンは、クロマトグラフィー分離装置から供給される分子をイオン化するように構成されたイオン源によって供給される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行された前記MS1分析からのデータは、前記クロマトグラフィー分離装置から溶出するクロマトグラフピークを同定するために使用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の質量分析器によって前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記質量分析計から溶出する同定された前記クロマトグラフピークに基づいて選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の質量分析器は、軌道トラップ質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析器、及び飛行時間型(TOF)質量分析器を含む群から選択される質量分析器であり、及び/又は
前記第2の質量分析器は、TOF質量分析器である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の質量分析器は、前記MS1分析のそれぞれを実行するために第1のダイナミックレンジで動作し、
前記第2の質量分析器は、前記MS1分析のそれぞれを実行するために、前記第1のダイナミックレンジよりも大きい第2のダイナミックレンジで動作する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析計であって、
MS1ドメインで前駆イオンを分析するように構成された第1の質量分析器と、
MS1ドメイン及びMS2ドメインで前駆イオンを分析するように構成された第2の質量分析器と、
コントローラと、を備え、前記コントローラは、
前記第1の質量分析器に、第1の感度において前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、
前記第2の質量分析器に、第2の感度において前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、を行うように構成され、前記第2の感度は、前記第1の感度よりも高く、前記第1の質量分析器が前記MS1ドメインで前記前駆イオンを分析するのと同時に、前記第2の質量分析器が前記MS1ドメインで前記前駆イオンを分析し、前記コントローラは、さらに、
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することと、
前記第2の質量分析器に、前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、を行うように構成されている、タンデム質量分析計。
【請求項26】
請求項25に記載のタンデム質量分析計に、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項27】
請求項26に記載のコンピュータプログラムを格納している、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析に関する。特に、本開示は、タンデム質量分析計及びタンデム質量分析の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析は、大きな有機分子のしばしば複雑な混合物を同定及び定量化するための、長年確立された技術である。特に、多数のアミノ酸を含むタンパク質は、典型的には、かなりの分子量を有する。したがって、直接的な質量分析測定によるタンパク質の正確な同定及び定量化は困難である。したがって、前駆サンプルイオンのフラグメント化を行うことがよく知られている。前駆イオンから異なるフラグメントイオンの生成をもたらすことができる、種々のフラグメント化技術が知られている。更に、フラグメント化メカニズムは、異なる印加されるフラグメント化エネルギーによって影響され得る。
【0003】
前駆イオンのフラグメント化を伴う質量分析データ取得の既知の方法の1つは、データ非依存分析/取得(DIA)質量分析として知られている。
【0004】
DIAは、潜在的に正体不明のサンプル中に何が存在するかを決定しようとするものである。サンプル分子の分子構造を決定するために、最初に質量分析計を使用して、対象の質量電荷比(m/z)範囲内の全てのサンプルイオン(前駆イオン)を質量分析する。このようなスキャンは、多くの場合にMS1スキャンと呼ばれる。次に、選択したサンプルイオンをフラグメント化し、得られたフラグメントを続いて質量分析する。フラグメント化されたイオンのスキャンは、多くの場合にMS2スキャンと呼ばれる。
【0005】
DIA方法論の例は、米国特許第10,699,888(B)号に更に記載されており、ここでは軌道トラップ質量分析器及び飛行時間型(TOF)質量分析器を備えるタンデム質量分析計が使用されている。軌道トラップ分析器は、一連の比較的広い質量電荷(m/z)範囲のMS1スキャンを実行するために使用されるのに対し、TOFは、複数の狭いm/z範囲のMS2スキャンを実行する。
【0006】
イオンのフラグメント化を伴う質量分析データ取得の別の方法は、データ依存分析/取得(DDA)質量分析として知られている。DDA質量分析は、所与のサンプル中に1つ以上の種が存在することを確認しようとするものである。DDAの方法は、固定数の前駆イオン種を同定し、それらを選択して質量分析法によって分析する。DDAにおいてどの前駆イオン種を対象にするかの決定は、強度ランキング(例えば、MS1スペクトル中のピークに見られる最大種の上位10個)に基づいてもよく、及び/又はMS1質量スペクトル中のピークの強度ランキングにかかわらずMS2スペクトルを常に取得する、前駆体質量スペクトルピークの「包含リスト」(例えば、ユーザ選択による)の定義によってもよい。更に、例えば予想されるサンプル内容の事前知識に基づいて、例えばユーザによって、MS1におけるピークの「除外リスト」を定義してもよい。DDA方法論は、Hu A,Noble WS and Wolf-Yadlin A.「Technical advances in proteomics:new developments in data-independent acquisition」[version 1;peer review:3 approved].F1000Research 2016,5(F1000 Faculty Rev):419に更に記載されている。
【0007】
「BoxCar」又は「HDR」と呼ばれる質量分析のための別のデータ取得方法は、Meier et al,Nature Methods,2018,15,440-448に開示されている。この方法は、広い質量範囲を多くの別個の分離ウィンドウに分割することを含む。各分離ウィンドウは、分離ウィンドウのイオン電流に応じて、Cトラップへの異なる充填時間を有する。このワークフローは、分析物間でCトラップイオン容量を効率的に再分配するが、特に相当数のウィンドウを使用する場合、イオンを蓄積するのに必要な時間も大幅に増加する。特に、低イオン電流の分離ウィンドウには比較的長い充填時間が必要である。更に、分離ウィンドウ間で四重極及びイオン源電圧を切り替えるために追加の時間が必要である。したがって、BoxCar/HDRデータ取得は、MS2スキャンが行われ得る速度にすぐに影響を及ぼすことがある。
【0008】
前駆イオン(MS1スキャン)及びフラグメントイオン(MS2スキャン)の分析を伴う質量分析の方法は、タンデム質量分析計によって実行することができる。タンデム質量分析計の例は、米国特許第10,699,888(B)号に開示されている。
【0009】
この背景に対して、本開示は、タンデム質量分析の改善された、又は少なくとも商業的に有用な代替の方法を提供しようとするものである。
【発明の概要】
【0010】
本開示の第1の態様によれば、対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析の方法が提供される。方法は、第1の感度で動作するタンデム質量分析計の第1の質量分析器を使用して、MS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって前駆イオンのうちのいくつかを分析することを含む。方法はまた、第2の感度で動作するタンデム質量分析計の第2の質量分析器を使用して、MS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって前駆イオンのうちのいくつかを分析することを含み、第2の感度は、第1の感度よりも高い。第2の質量分析器によって実行されるMS1ドメインでの分析は、第1の質量分析器によってMS1ドメインで実行される分析と同時に実行される。方法はまた、第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することを含む。方法はまた、タンデム質量分析計の第2の質量分析器を使用して、MS2ドメインで前駆イオンのうちのいくつかを分析することを含む。
【0011】
第1の態様の方法によれば、タンデム質量分析計は、第1の質量分析器及び第2の質量分析器を使用してMS1ドメインで分析を実行するために使用される。第1の質量分析器及び第2の質量分析器は、異なる感度で動作する。特に、第2の質量分析器は、MS2ドメインで前駆イオンの分析を実行するために使用されることに加えて、第1の質量分析器よりも高感度で動作する。したがって、第2の質量分析器によって実行されるMS1分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析からのデータを補足するために使用される。第2の質量分析器によって取得されるより高感度のMS1データは、特に、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析で同定されない恐れがあるより低強度の前駆イオンを同定するために使用され得る。すなわち、第1の質量分析器のダイナミックレンジが比較的低存在量の前駆イオンを確実に同定することができない場合に、第2の質量分析器によってより高感度で実行されるMS1分析は、前述の低存在量の前駆イオンを同定することができる。
【0012】
感度とは、質量分析器の感度が、一定量の所与のイオンに対して質量分析器によって記録された信号の強度を反映することと理解される。したがって、比較的高感度で所与のイオン量を分析することは、より低感度で分析される同量の所与のイオン質量の質量分析よりも高強度を有する質量ピークを生じるであろう。いくつかの質量分析器は、異なる感度で動作し得ることが理解されるであろう。更に、異なるタイプの質量分析器は、異なる感度範囲で動作することが可能であり得る。例えば、TOF質量分析器は、単一イオンを検出する(すなわち、比較的高い強度で動作する)ことが可能であり得るが、軌道トラップ質量分析器などの他の質量分析器は、比較的低い感度範囲で動作することが可能であり得る。
【0013】
第1の質量分析器によって実行されるMS1分析と同時に、第2の質量分析器を使用してMS1及びMS2分析を実行することによって、第1の態様による方法は、サンプル中に存在するより広範囲の前駆イオンをリアルタイムで同定することができる。例えば、第2の質量分析器の感度がより高いことから、第2の質量分析器からのMS1データを使用して、より広範囲の前駆イオンを同定することができる。このデータは、前駆イオンの同定を改善するために、第1の質量分析器からのMS1データと組み合わされてもよい。例えば、組み合わせたデータを使用して、MS2ドメインで分析される前駆イオンを通知又は更新することができる。例えば、いくつかの実施形態では、異なる感度で実行されるMS1分析は、異なる質量精度、及び/又は異なるピーク受容も有し得る。並行して動作する2つの質量分析器によって実行された2つの異なるMS1分析からのMS1データを組み合わせることによって、タンデム質量分析の方法は、前駆イオン、特に低存在量の前駆イオンの改善された同定を提供することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器は、第1の感度及び第1の質量精度で動作し、第2の質量分析器は、MS1ドメインで前駆イオンのうちのいくつかを第2の感度及び第2の質量精度で分析し、第2の質量精度は、第1の質量精度よりも低い。したがって、第1の質量分析器、例えば軌道トラップ質量分析器を使用して、比較的低い感度であるが比較的高い質量精度でMS1分析を実行することができる。第2の質量分析器(例えば、TOF質量分析器)は、第1の質量分析器よりも低い質量精度であるが高い感度でMS1分析をタンデムで実行することができる。有利には、第2のMS1分析をより高い感度で実行することによって、比較的低存在量の前駆イオンピークを検出することができる。加えて、第1のMS1分析は、検出された前駆イオンの比較的質量精度の高い情報を提供する。したがって、第1の質量分析器及び第2の質量分析器からのデータを組み合わせることによって、広いダイナミックレンジにわたって、かつ改善された質量精度で前駆イオンを同定及び/又は定量化することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、MS1ドメインでの前駆イオンピークの組み合わせリストを生成してもよい。すなわち、第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって異なる感度で実行されるMS1分析は、MS1ドメインで前駆イオンピークの異なるセットをそれぞれ同定することができる。特に、第2の質量分析器によってより高感度で実行されるMS1分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析では検出できなかった恐れがある比較的低強度を有する前駆イオンに対応する前駆イオンピークを同定することができる。したがって、前駆イオンピークの組み合わせリストは、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析に基づく前駆イオンピークのリストに存在しているよりも多くの前駆イオンピークを含み得る。更に、第2の質量分析器は、第2の質量分析器の感度が高いことから、比較的高い強度の前駆イオンに対応する前駆イオンピークのピーク形状を正確に記録しないことがある。したがって、第1の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータは、第1の質量分析器の感度がより低いことから、比較的高い強度の前駆イオンピークの描出をより正確に提供することができる。特に、MS1ドメインでの前駆イオンピークの組み合わせリストは、前駆イオンピークのより完全なリストを提供し、またMS1ドメインでの前駆イオンピークの質量電荷比のより正確なリストを有することもできる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの組み合わせリストは、第1の質量分析器によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークの第1のセットと、第2の質量分析器によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークの第2のセットとを含む。組み合わせリストは、前駆イオンピークの第1及び第2のセット間で繰り返される任意の前駆イオンピークを除去するようにフィルタリングされてもよい。したがって、前駆イオンピークの組み合わせリストは、異なる感度で実行されたMS1分析からのデータに基づいていてもよく、その後、MS1分析のそれぞれに関連する利点を利用するようにフィルタリングされてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの第2のセットは、第1の所定の強度レベルを下回る任意の前駆イオンピークを除去するように閾値処理される。いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの第2のセットは、第2の所定の強度レベルを上回る任意の前駆イオンピークを除去するように閾値処理されてもよい。
【0018】
したがって、前駆イオンピークの第2のセットは、ノイズと区別できない恐れがある質量スペクトル中の任意の低強度ピークを除去するようにフィルタリングされてもよい。前駆イオンピークの第2のセットはまた、第1の質量分析器によって実行されたMS1分析によって記録されたと予想される、比較的大きい強度を有する任意の前駆イオンピークを除去するようにフィルタリングされてもよい。したがって、前駆イオンピークの第2のセットは、比較的低存在量の前駆イオンに関連付けられる前駆イオンピークの同定に焦点を合わせるように閾値処理されてもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、第2の質量分析器によって生じた第1の前駆イオンピークと、第1の質量分析器によって生じた対応する第1の前駆イオンピークとを使用して、タンデム質量分析計を較正する。較正を使用して、前駆イオンピークの第1及び第2のセット間で繰り返される任意の前駆イオンピークを同定する。例えば、較正を使用して、第2の質量分析器によって生じた第1の前駆イオンピークの質量電荷m/z比と、第1の質量分析器によって生じた対応する第1の前駆イオンピークのm/z比との関連性を判定してもよい。次いで、関連性を使用して、前駆イオンピークの第1及び第2のセット間で繰り返される他の前駆イオンピークを同定してもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、MS2ドメインで実行される分析は、MS1分析によって同定された前駆イオンに基づく。例えば、前駆イオンピークの組み合わせリストを使用して、MS2ドメインで更に分析される前駆イオンのリストを生成してもよい。特に、異なる感度で動作する2つの異なる質量分析器を使用することから、MS1ドメインでより広範囲の前駆イオンを同定することによって、MS2ドメインで分析される前駆イオンは、サンプル中に存在する前駆イオンをより代表し得ることが理解されるであろう。
【0021】
本開示によれば、MS2ドメインで前駆イオンを分析することへの言及は、前駆イオンが第2の質量分析器によって分析される前にフラグメント化されることを意味すると解釈されることが理解されるであろう。すなわち、MS2ドメインで前駆イオンを分析することは、前駆イオンをフラグメント化してプロダクトイオンを生成することと、第2の質量分析器を使用してプロダクトイオンを分析することとを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、方法は、タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、第1の質量分析器を使用してMS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、第2の質量分析器を使用してMS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、第2の質量分析器を使用してMS2ドメインで前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することとを含む。第2の質量分析器によってMS1及びMS2ドメインで実行される分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1ドメインでの1回の分析と同時に実行される。したがって、第1の態様による方法は、タンデム質量分析の方法論であってもよく、分析サイクルは、前駆イオンを分析するために、ある時間にわたって繰り返される。特に、方法論は、例えば、クロマトグラフィー装置に連結されたイオン源によって前駆イオンが供給されるため、分析される前駆イオンが経時的に変化する場合に特に適切であり得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、方法は、タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各分析サイクルは、第1の質量分析器を使用してMS1ドメインで対象のm/z範囲の1回の分析を実行することと、対象のm/z範囲を複数のm/z部分範囲に細分化し、第2の質量分析器を使用してMS1ドメインで対象の各m/z部分範囲にわたって分析を実行することと、第2の質量分析器を使用してMS2ドメインで前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することとを含む。第2の質量分析器によってMS1及びMS2ドメインで実行される分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1ドメインでの1回の分析と同時に実行される。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、分析サイクルは、第2の質量分析器を使用して対象のm/z部分範囲の複数のMS1分析を実行することを含んでもよい。対象の質量範囲を部分範囲に分割し、第2の質量分析器を使用してより高感度でそれらを分析することによって、第2の質量分析器は、比較的低存在量を有する前駆イオンを同定することができる。特に、対象の質量範囲を細分化し、各部分範囲を別々に分析することによって、各m/z部分範囲をポピュレートするために使用されるイオン電流を調整することができる。すなわち、対象のm/z範囲を複数のm/z部分範囲に細分化することは、第2の質量分析器を使用する比較的低存在量の前駆イオンの同定を改善することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、分析サイクルは、第1の質量分析器を使用してMS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することを含んでもよい。分析サイクルはまた、第2の質量分析器を使用してMS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって複数の分析を実行することを含んでもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、各分析サイクルについて、第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを平均してもよい。したがって、平均されたMS1質量スペクトルが、第2の質量分析器を使用して生成されてもよい。第2の質量分析器は、第1の質量分析器よりも高感度で動作するため、第2の質量分析器によって生成されたMS1質量スペクトルを平均することは、MS1データで検出可能な前駆イオンピークの数を増加させ得る。特に、比較的低存在量の前駆イオン(例えば、MS1分析当たり存在する前駆イオンが約1~3個)は、複数のMS1分析にわたってより確実に検出され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも5回のMS1分析、より好ましくは少なくとも10回のMS1分析を第2の質量分析器によって実行し、平均してもよい。
【0027】
いくつかの実施形態では、MS1分析からのデータを平均することは、第3の強度レベルを下回る前駆イオンピークを除去するように平均データを閾値処理することを更に含む。例えば、いくつかの実施形態では、MS1分析を平均するステップは、質量分析中のイオン散乱の結果であり得る、多くの低強度の前駆イオンピーク(例えば、単一イオン強度に対応する)をもたらし得る。そのような前駆イオンピークは、前駆イオンを表す「真」のピークではなく、平均データの精度は、「偽」の前駆イオンピークを除去するように平均データを閾値処理することによって改善され得る。
【0028】
第2の質量分析器によって実行されるMS1分析は、分析サイクル中の任意の時間に実行され得ることが理解されるであろう。例えば、いくつかの実施形態では、第2の質量分析器によって実行されるMS1分析は、第1の質量分析器によって実行される各MS1分析の開始近くに実行されてもよい。例えば、第2の質量分析器によって実行されるMS1分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の初期期間中に実行されてもよい。いくつかの実施形態では、初期期間は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の総(予想)持続時間の30%又は20%以下であり得る。したがって、初期期間は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の開始から初期期間の終了(すなわち、MS1分析の総(予想)持続時間の30%が経過したとき)まで及ぶことが理解されるであろう。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の持続時間全体にわたって、第2の質量分析器によって実行されるMS1分析を分配することが有利であり得る。したがって、第2の質量分析器によって複数のMS1分析が実行されるいくつかの実施形態では、MS1分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の持続時間にわたって均等に分配されてもよい。すなわち、いくつかの実施形態では、第2の質量分析器によって実行される複数のMS1分析は、第2の質量分析器によって実行されるMS2分析とインターリーブされてもよい。例えば、各分析サイクルについて、第2の質量分析器によってMS1ドメインで少なくとも3回、5回、又は7回の分析が実行され得る。いくつかの実施形態では、MS1ドメインで実行される分析は、第1の質量分析器によってMS1ドメインで実行される分析の持続時間全体にわたって均等にインターリーブされる。このようにMS1分析をインターリーブすることによって、第2の質量分析器によって得られるMS1データは、(例えば、クロマトグラフィー分離装置からのクロマトグラフピークの溶出により)経時的に分析される前駆イオンの変化をより正確に特徴付けることができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、各分析サイクルは、第1の質量分析器及び/又は第2の質量分析器を使用して利得制御分析を実行することを更に含む。第1及び/又は第2の質量分析器によって実行される各MS1分析の注入時間は、利得制御分析に基づいて調整されてもよい。したがって、タンデム質量分析計は、各MS1分析に使用される前駆イオンをポピュレートするために使用されるイオン電流を制御するために、利得制御分析に基づいて調整されてもよい。これは、比較的低存在量の前駆イオンの同定を改善するために、第2の質量分析器によって実行されるMS1分析に特に適切であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、分析される前駆イオンは、任意の一価前駆イオンの大部分又は全てを除去するようにフィルタリングされる。例えば、前駆イオンは、非対称電界イオン移動度分光計(FAIMS)によってフィルタリングされてもよい。一価前駆イオンをフィルタ除去することによって、主に又は専ら多価前駆イオンを第1の態様の方法によって分析することができる。多価イオンは、MS2分析を使用して分析するのにより有益な種であり、それによって方法論の効率を改善する。
【0032】
いくつかの実施形態では、分析される前駆イオンは、クロマトグラフィー分離装置から供給される分子をイオン化するように構成されたイオン源によって供給される。例えば、サンプルは、クロマトグラフィー分離装置に供給されてもよく、この場合、サンプルはクロマトグラフィー分離装置から溶出する。次いで、溶出サンプルは、イオン源によってイオン化され、分析のためにタンデム質量分析計に供給される前駆イオンの流れを生じる。クロマトグラフィー分離装置から溶出するサンプル分子は、サンプル中に存在するサンプル分子に応じて異なる時間で溶出し得ることが理解されるであろう。異なるサンプル分子の各々は、ある時間にわたってそれ自体のクロマトグラフピークで溶出し得る。例えば、いくつかのクロマトグラフピークは、クロマトグラフィー分離装置及びサンプル分子に応じて約1~20秒の持続時間を有し得る。したがって、第1の態様のタンデム質量分析の方法は、いくつかの実施形態では、クロマトグラフピークの持続時間にわたって実行されてもよい。好ましくは、タンデム質量分析の方法は、クロマトグラフピークの持続時間にわたって複数回繰り返されてもよく、その結果、第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって実行されるMS1分析は、クロマトグラフピークの持続時間にわたって繰り返される。例えば、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析は、好ましくは、クロマトグラフピークの持続時間にわたって少なくとも2回、3回、5回、又は7回実行されてもよい。当然ながら、いくつかの特に速く溶出するクロマトグラフピークについては、第1の態様による分析サイクルの複数の繰り返しを実行する十分な時間がない場合があることが理解されるであろう。
【0033】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを使用して、クロマトグラフィー分離装置から溶出するクロマトグラフピークを同定してもよい。いくつかの実施形態では、第2の質量分析器によってMS2ドメインで実行される分析は、質量分析計から溶出する同定されたクロマトグラフピークに基づいて選択されてもよい。したがって、第1の態様の方法は、クロマトグラフィー分離装置から溶出するクロマトグラフピークをより正確に特徴付けることができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器は、軌道トラップ質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析器、及び飛行時間型(TOF)質量分析器を含む群から選択される質量分析器である。いくつかの実施形態では、第2の質量分析器は、TOF質量分析器である。したがって、いくつかの実施形態では、第1の質量分析器及び第2の質量分析器は、異なる質量分析器であってもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、第1の質量分析器及び第2の質量分析器は、同じタイプの質量分析器であってもよい。どちらの場合でも、各質量分析器は、異なる感度範囲で動作可能であり得る。第1の態様による方法は、比較的高存在量の前駆イオンに関する情報と、同様に比較的低存在量の前駆イオンに関する情報とを得るために、2つの質量分析器を異なる感度で動作させる。すなわち、第1の態様による方法は、単一の質量分析器の使用で可能になるよりも大きいダイナミックレンジにわたって存在する前駆イオンに関してMS1ドメインで情報を得ようとする。例えば、いくつかの実施形態では、第2の質量分析器は、第1の質量分析器よりも大きいダイナミックレンジを有し得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器は、それぞれのMS1分析を実行するためにあるダイナミックレンジで動作し、第2の質量分析器は、それぞれのMS1分析を実行するために第1のダイナミックレンジよりも大きい第2のダイナミックレンジで動作する。すなわち、感度の差に加えて、第1の態様による方法はまた、MS1ドメインで前駆イオンに関するより完全な像を得るために、異なるダイナミックレンジで質量分析器を動作させてもよい。
【0036】
本開示の第2の態様によれば、対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析計が提供される。タンデム質量分析計は、第1の質量分析器と、第2の質量分析器と、コントローラとを備える。第1の質量分析器は、MS1ドメインで前駆イオンを分析するように構成されている。第2の質量分析器は、MS1ドメイン及びMS2ドメインで前駆イオンを分析するように構成されている。コントローラは、
第1の質量分析器に、第1の感度においてMS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、
第2の質量分析器に、第2の感度においてMS1ドメインで対象のm/z範囲にわたって前駆イオンのうちのいくつかを分析させることであって、第2の感度は、第1の感度よりも高く、
第1の質量分析器がMS1ドメインで前駆イオンを分析するのと同時に、第2の質量分析器がMS1ドメインで前駆イオンを分析する、ことと、
第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することと、
第2の質量分析器に、MS2ドメインで前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、を行うように構成されている。
【0037】
したがって、第1の態様のタンデム質量分析計は、第1の態様の方法を実行するように構成されていることが理解されるであろう。特に、タンデム質量分析計は、第1の態様の任意の特徴のうちのいずれかを実行するように構成された特徴を含み得ることが理解されるであろう。
【0038】
特に、いくつかの実施形態では、タンデム質量分析計は、プロダクトイオンを生成するために前駆イオンをフラグメント化するように構成されたフラグメント化デバイスを備えてもよく、プロダクトイオンは、MS2データを提供するために分析され得ることが理解されるであろう。
【0039】
いくつかの実施形態では、タンデム質量分析計は、イオン源から前駆イオンを受容するように構成されてもよい。分析される前駆イオンは、クロマトグラフィー分離装置から供給される分子をイオン化するように構成されたイオン源によって供給され得る。例えば、サンプルは、クロマトグラフィー分離装置に供給されてもよく、この場合、サンプルはクロマトグラフィー分離装置から溶出する。次いで、溶出サンプルは、イオン源によってイオン化され、分析のためにタンデム質量分析計に供給される前駆イオンの流れを生じる。
【0040】
本開示の第3の態様によれば、第2の態様のタンデム質量分析計に第1の態様による方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラムが提供される。
【0041】
本開示の第4の態様によれば、第3の態様のコンピュータプログラムを格納しているコンピュータ可読媒体が提供される。
【0042】
ここで、以下の非限定的な図を参照して本開示の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本開示によるタンデム質量分析計の概略図を示す。
図2】本開示の実施形態によるタンデム質量分析の方法のブロック図を示す。
図3】本開示の実施形態によるタンデム質量分析の方法の更なるフローチャートを示す。
図4a】120,000の分解能で動作する軌道トラップ質量分析器によって得られた較正溶液のMS1質量スペクトルを示す。
図4b】120,000の分解能で動作する軌道トラップ質量分析器によって得られた較正溶液のMS1質量スペクトルを示す。
図5a】240,000の分解能で動作する軌道トラップ質量分析器によって得られた較正溶液のMS1質量スペクトルを示す。
図5b】240,000の分解能で動作する軌道トラップ質量分析器によって得られた較正溶液のMS1質量スペクトルを示す。
図6a】飛行時間型質量分析器(1回)によって得られた較正溶液のMS1質量スペクトルを示す。
図6b】飛行時間型質量分析器(1回)によって得られた較正溶液のMS1質量スペクトルを示す。
図7a】飛行時間型質量分析器によって実行された10回のMS1質量分析から得られた較正溶液の平均MS1質量スペクトルを示す。
図7b】飛行時間型質量分析器によって実行された10回のMS1質量分析から得られた較正溶液の平均MS1質量スペクトルを示す。
図8】異なる質量分析器及び質量分析技術のための較正溶液のMS1分析を使用して同定された異なる前駆イオンピークの数を示す棒グラフを示す。
図9】第1の強度レベル(閾値)を変化させたときにTOF質量分析器を使用して検出された前駆イオンピークの数を示すグラフを示す。
図10】本開示の更なる実施形態によるタンデム質量分析の方法のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、本発明の実施形態による方法を実行するのに好適なタンデム質量分析計10の概略構成を示す。
【0045】
図1では、分析されるサンプルが(例えばオートサンプラーから)液体クロマトグラフィー(liquid chromatography、LC)カラムなどのクロマトグラフィー装置(図1には図示せず)に供給される。LCカラムのそのような例の1つに、Thermo Fisher Scientific,Inc ProSwift(登録商標)モノリシックカラムがあり、これは、固定相を構成する不整形又は球形粒子の固定相に高圧下の移動相でサンプルを強制的に運ぶことにより、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)を提供する。HPLCカラムでは、サンプル分子は、固定相との相互作用の程度に応じて異なる速度で溶出する。
【0046】
したがって、液体クロマトグラフィーにより分離されたサンプル分子は、次にイオン源を使用してイオン化されて、前駆イオンを生成する。図1の実施形態では、イオン源は、大気圧下にあるエレクトロスプレーイオン化源(electrospray ionization source、ESI源)20である。
【0047】
次に、ESI源20によって生成された前駆イオンは、タンデム質量分析計10の真空チャンバに入り、キャピラリ25によってRFのみのSレンズ30に導かれる。前駆イオンは、Sレンズ30によって注入フラタポール40に集束され、注入フラタポールは、軸方向場を有する屈曲フラタポール50に前駆イオンを注入する。屈曲フラタポール50は、それを通る湾曲経路に沿って(電荷)前駆イオンを誘導するが、同伴溶媒分子などの望ましくない中性分子は湾曲経路に沿って誘導されず、失われる。
【0048】
イオンゲート(TKレンズ)60は、屈曲フラタポール50の遠位端に配置され、屈曲フラタポール50から下流の四重極質量フィルタ70の形態の質量選別器への前駆イオンの通過を制御する。あるいは、Sレンズ30をイオンゲートとして動作させ、イオンゲート(TKレンズ)60を静電レンズとしてもよい。四重極質量フィルタ70は、典型的には、ただし必須ではないが、セグメント化され、バンドパスフィルタとして働き、他の質量電荷比(m/z)の前駆イオンを排除しながら、選択された質量数又は制限された質量範囲の通過を可能にする。質量フィルタはまた、質量選択的ではない、すなわち実質的に全てのm/zの前駆イオンを移送する、RF専用モードで動作してもよい。例えば、四重極質量フィルタ70は、質量電荷比の範囲を選択して、通過が許可された前駆イオンは通過させるが、前駆イオン流中の他のイオンはフィルタ除去する(通過が許可されない)ように、コントローラ(図1には図示せず)によって制御されてもよい。したがって、質量フィルタ70は、対象のm/z範囲に基づいて前駆イオンをフィルタリングすることができる。
【0049】
四重極質量フィルタ70を図1に示すが、当業者は、他のタイプの質量選択デバイスも対象の質量範囲内の前駆イオンを選択するのに好適であり得ることを理解するであろう。例えば、米国特許出願公開第2015287585(A)号に記載されているイオン分離器、国際公開第2013076307(A)号に記載されているイオントラップ、米国特許出願公開第2012256083(A)号に記載されているイオン移動度分離器、国際公開第2012175517(A)号に記載されているイオンゲート質量選択デバイス、又は米国特許第799223号に記載されている荷電粒子トラップが挙げられ、それらの内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。当業者は、イオン移動度、微分移動度、及び/又は横変調に従って前駆イオンを選択する他の方法も好適であり得ることを理解するであろう。
【0050】
異なる質量又は質量範囲の複数の前駆イオンの分離はまた、イオントラップにおいて同期前駆体走査(SPS)として知られる方法を使用して実行することができる。更に、いくつかの実施形態では、2つ以上のイオン選択又は質量選択デバイスが提供されてもよい。例えば、フラグメント化チャンバ120の下流に更なる質量選択デバイスを提供してもよい。このようにして、所望であれば、MS3又はMSnスキャンを(典型的には、質量分析のためにTOF質量分析器を使用して)実行してもよい。
【0051】
タンデム質量分析計10は、MS1ドメイン及び/又はMS2ドメインで前駆イオンの分析を実行するために、種々の動作モードで動作してもよい。第1の動作モードでは、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)を使用してMS1ドメインで前駆イオンを分析してもよい。
【0052】
第1の動作モードでは、前駆イオンは、四重極出口レンズ/分割レンズ配置80を通過し、第1の移送多重極90に進み得る。第1の移送多重極90は、質量フィルタリングされたイオンを四重極質量フィルタ70から湾曲線形イオントラップ(Cトラップ)100内に誘導する。Cトラップ(第1のイオントラップ)100は、RF電圧が供給される長手方向に延在する湾曲電極と、DC電圧が供給されるエンドキャップとを有する。結果として、Cトラップ100の湾曲した長手軸に沿って延在するポテンシャル井戸が得られる。第1の動作モードでは、DCエンドキャップ電圧がCトラップに設定されるので、第1の移送多重極90から到達するイオンは、Cトラップ100のポテンシャル井戸に捕捉され、そこで冷却される。冷却された前駆イオンは、Cトラップ100のポテンシャル井戸の底部近くにある雲の中に存在する。Cトラップへのイオンの注入時間(IT)は、後にCトラップ100から放出される前駆イオン(イオン集団)の数を決定する。Cトラップ100から、前駆イオンは、実行される分析に応じて、タンデム質量分析計10の異なる部分に導かれ得る。
【0053】
前駆イオンが軌道トラップ質量分析器110(第1の質量分析器)によって分析される場合、前駆イオンは、Cトラップから軌道トラップ質量分析器110に向かって直角に放出される。図1に示すように、軌道トラップ質量分析器110は、Thermo Fisher Scientific,Inc.によって販売されているOrbitrap(登録商標)質量分析器であってもよい。軌道トラップ質量分析器110は、中心からずれた注入開口部を有し、前駆イオンは、中心からずれた注入開口部を通って、コヒーレントパケットとして軌道トラップ質量分析器110に注入される。次に、前駆イオンは、超対数電場によって軌道トラップ質量分析器110内に捕捉され、内部電極の周りを軌道運動しながら長手方向の前後運動を経る。
【0054】
軌道トラップ質量分析器110でのイオンパケットの運動の軸(z)成分は、(多かれ少なかれ)単振動として定義され、z方向の角周波数は所与のイオン種の質量電荷比の平方根に関連している。したがって、前駆イオンは、質量電荷比に従って経時的に分離する。
【0055】
軌道トラップ質量分析器110内の前駆イオンは、画像電流検出器(図示せず)を使用して検出され、画像電流検出器は、イオン種が画像電流検出器を通過するときに、全てのイオン種に関する情報を含む「トランジェント」を時間領域に生成する。次に、トランジェントは高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform、FFT)にかけられ、周波数領域に一連のピークが生じる。これらのピークから、m/zに対する存在/イオン強度を表す質量スペクトルを生成することができる。
【0056】
上述の構成では、(四重極質量フィルタ70によって選択された)対象の質量範囲内の前駆イオンは、フラグメント化を伴わずに軌道トラップ質量分析器110によって分析される。結果的に得られる質量スペクトルはMS1と表示される。
【0057】
軌道トラップ質量分析器110を図1に示すが、本開示の実施形態による第1の質量分析器として他の質量分析器を使用し得ることが理解されるであろう。例えば、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析器を第1の質量分析器として使用して、MS1ドメインで前駆イオンを分析してもよい。過渡信号から質量スペクトル情報を得るためにフーリエ変換以外の他のタイプの信号処理を使用する場合であっても、軌道トラップ質量分析器及びイオンサイクロトロン共鳴質量分析器などの質量分析器を本発明において同様に使用することができる(例えば、国際公開第2013/171313号、Thermo Fisher Scientificを参照されたい)。いくつかの実施形態では、軌道トラップ質量分析器110の代わりにTOF質量分析器を使用して、MS1ドメインで前駆イオンを分析することもできる。
【0058】
タンデム質量分析計10の第2の動作モードでは、TOF質量分析器150(第2の質量分析器)によってMS1ドメインで前駆イオンを分析してもよい。第2の質量分析器によって分析される前駆イオンは、四重極質量フィルタ70によって質量フィルタリングされ得る。したがって、前駆イオンは、対象のm/z範囲、又は対象のm/z部分範囲からの前駆イオンを含むようにフィルタリングされてもよい。
【0059】
TOF質量分析器150が前駆イオンを分析するために、前駆イオンは、四重極出口レンズ/分割レンズ配置80及び第1の移送多重極90からCトラップ100に進み、続けてCトラップ100を通ってフラグメント化チャンバ120に入る経路を進み得る。したがって、Cトラップ100は、第2の動作モードではイオンガイドとして効果的に動作することができる。あるいは、Cトラップ100内の冷却されたイオンは、Cトラップからフラグメント化チャンバ120に軸方向に放出され得る。前駆イオンがMS1ドメインで分析されるとき、フラグメント化チャンバ120は、前駆イオンをフラグメント化するために使用されない。したがって、前駆イオンは、フラグメント化チャンバ120を通って進み続け、Cトラップ100とは反対側の軸方向端部でフラグメント化チャンバ120から放出され得る。したがって、フラグメント化チャンバ120もまた、第2の動作モードではイオンガイドとして効果的に動作することができる。
【0060】
放出された前駆イオンは、第2の移送多重極130に進む。第2の移送多重極130は、前駆イオンをフラグメント化チャンバ120から抽出トラップ(第2のイオントラップ)140に誘導する。抽出トラップ140は、バッファガスを含む高周波電圧制御トラップである。例えば、適切なバッファガスは、5×10-4mBar~1×10-2mBarの範囲の圧力の窒素である。抽出トラップは、印加されるRF電圧を迅速にスイッチオフし、捕捉された前駆イオンを抽出するためにDC電圧を印加する能力を有する。直線イオントラップとも呼ばれる適切な平板抽出トラップは、米国特許第9,548,195(B2)号に更に記載されている。あるいは、第2のCトラップもまた、第2のイオントラップとしての使用に好適であり得る。
【0061】
抽出トラップ140は、TOF質量分析器150への注入前に、前駆イオンのイオンパケットを形成するために提供される。抽出トラップ140は、前駆イオンがTOF質量分析器150に注入される前にフラグメント化イオンを蓄積する。
【0062】
抽出トラップ140(イオントラップ)を図1の実施形態に示すが、当業者は、前駆イオンのイオンパケットを形成する他の方法も同様に本発明に好適であることを理解するであろう。例えば、多重極を通るイオンの比較的遅い移動を使用して、イオンの集群に影響を与えることができ、このイオンの集群は、次に単一パケットとしてTOF質量分析器に放出され得る。あるいは、前駆イオンの直交変位を使用して、パケットを形成してもよい。これらの代替法の更なる詳細は、進行波イオン集群方法を記載する米国特許出願公開第20030001088(A)号に見出され、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
図1において、図示したTOF質量分析器150は、多重反射飛行時間型質量分析器(mr-TOF)である。TOF質量分析器150は、ドリフト方向に伸長した2つの対向するイオンミラー160、162の周りに構築されている。ミラーは、ドリフト方向に直交する方向で対向している。抽出トラップ140は、イオンを第1のミラー160に注入し、その後、イオンは、2つのミラー160、162の間で振動する。抽出トラップ140及び付加的偏向器170、172からのイオンの放出角度により、ドリフト方向におけるイオンのエネルギーを制御することができ、その結果、イオンは、振動する際にミラー160、162の長さに沿って下方に向けられ、ジグザグ軌道を生じる。ミラー160、162自体は、互いに対して傾斜して電位勾配を生じており、これは、イオンのドリフト速度を遅くし、イオンをドリフト寸法(drift dimension)で反射させ、検出器180に集束させる。対向するミラーの傾斜は、通常、ドリフト寸法を下っていく際にイオン振動の時間を変化させるという負の副作用を有する。これは、ミラー間空間の一部で飛行電位を変更して、対向するミラー160、162の長さを短く変化させる、ストライプ電極190によって補正される(補償電極として機能する)。ストライプ電極190の幅の変化とミラー160、162間の距離の変更との組み合わせにより、イオンの反射及び検出器180への空間的集束、並びに良好な時間の集束の維持が可能になる。本発明での使用に適したmr-TOFは、米国特許出願公開第2015028197(A)号に更に記載されており、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0064】
抽出トラップ140に蓄積された前駆イオンは、イオンのパケットとしてTOF質量分析器150(第2の質量分析器)に注入される。前駆イオンが検出器180に到達するのに要した時間は、TOF質量分析器150によって記録され、前駆イオンのMS1質量スペクトルを生成するために使用される。
【0065】
TOF質量分析器150によって実行されるMS1分析は、第2の感度で実行される。本開示の実施形態によれば、TOF質量分析器は、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析の第1の感度よりも高い第2の感度でMS1分析を実行する。例えば、TOF質量分析器は、単一イオン感度で動作するように構成されてもよい。すなわち、TOF質量分析器150は、単一イオンがTOF質量分析器150の検出器に到達したことに関連する信号を、バックグラウンドノイズから区別可能な十分な強度を有して生成するように構成されてもよい。
【0066】
当業者は、異なる質量分析器の感度と、所与の質量分析器の感度に対する異なる動作条件の影響とを承知しているであろう。例えば、本開示によれば、質量分析器の感度の1つの尺度は、バックグラウンドノイズから区別可能なピークを生成するために分析で必要な最小イオン数であり得る。上述したように、TOF質量分析器150は、単一イオン感度で動作してもよい(すなわち、所与の質量の単一イオンが対応するピークを生成し得る)。他の質量分析器(例えば、軌道トラップ質量分析器110)は、検出可能なピークを生成するために複数のイオンが存在することを必要とし得る(例えば、以下の図4a、図5b、図5a、及び図5bの説明を参照されたい)。
【0067】
TOF質量分析器はまた、関連する第2の(質量)精度でMS1分析を実行することが理解されるであろう。
【0068】
タンデム質量分析計10の第3の動作モードでは、TOF質量分析器150(第2の質量分析器)を使用して、MS2ドメインで前駆イオンを分析してもよい。
【0069】
MS2ドメインで前駆イオンを分析するために、前駆イオンのうちのいくつかは、上述した第2の動作モードと同様の方法で四重極質量フィルタ70からフラグメント化チャンバ120まで移送され得る。移送される前駆イオンは、以下でより詳細に説明するように、標的の前駆イオン種、すなわち対象のm/z部分範囲を含むように四重極質量フィルタ70によって質量選択されてもよい。
【0070】
フラグメント化チャンバ120は、図1のタンデム質量分析計10では、高エネルギー衝突解離(higher energy collisional dissociation、HCD)装置である。フラグメント化チャンバ120に衝突ガスを供給してもよい。前駆イオンがフラグメント化されるとき、前駆イオンの運動エネルギーを増加させてもよく、それによってフラグメント化チャンバ120に到達して衝突ガス分子と衝突する前駆イオンは、前駆イオンのフラグメント化によってフラグメントイオンを生じる。
【0071】
HCDフラグメント化チャンバ120を図1に示すが、代わりに、衝突誘起解離(collision induced dissociation、CID)、電子捕獲解離(electron capture dissociation、ECD)、電子移動解離(electron transfer dissociation、ETD)、光解離などの方法を用いる他のフラグメント化デバイスを用いることができる。
【0072】
フラグメント化されたイオンは、Cトラップ100とは反対側の軸方向端部でフラグメント化チャンバ120から放出され得る。放出されたフラグメント化イオンは、第2の移送多重極130を通過し、抽出トラップ140に進んで、そこで蓄積される。次いで、フラグメント化イオンは、上述したようにTOF質量分析器150に注入され得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)及び第2の質量分析器(TOF質量分析器150)は、同時に動作し得ることが理解されるであろう。すなわち、タンデム質量分析計10は、第2又は第3の動作モードと同時に第1の動作モードで動作し得ることが理解されるであろう。
【0074】
タンデム質量分析計10は、例えば、捕捉成分の排出のタイミングを制御し、四重極などの電極に適切な電位を設定してイオンを集束及びフィルタリングし、軌道トラップ装置110から質量スペクトルデータを取り込み、軌道トラップ質量分析器110及びTOF質量分析器150から質量スペクトルデータを取り込み、MS1及びMS2スキャンのシーケンスなどを制御するように構成されたコントローラの制御下にあってもよい。コントローラは、タンデム質量分析計に本発明による方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラムに従って動作することができるコンピュータを備え得ることが理解されるであろう。
【0075】
図1に示す構成要素の特定の配置は、本明細書に記載の方法に必須ではないことを理解されたい。実際に、本発明の実施形態の方法を実行するために他の構成も好適である。
【0076】
ここで、方法の実施形態を図2及び図3を参照して説明するが、サンプル分子は、(図1に示すように)上述の例示的な装置の一部として液体クロマトグラフィー(LC)カラムから供給される。
【0077】
本発明の実施形態では、サンプル分子はLCカラムから供給される。したがって、本発明による方法は、LCカラムから供給されるサンプルの1つ以上のクロマトグラフピークの持続時間に対応する持続時間にわたってサンプルに関するデータを取得することができる。したがって、コントローラは、クロマトグラフピークの持続時間にわたって本開示の実施形態による分析サイクルを実行するように構成され得る。いくつかの実施形態では、本開示の実施形態による分析サイクルは、サンプルがLCカラムから溶出する際に複数回繰り返されてもよい。
【0078】
図2に示すように、軌道トラップ質量分析器110(「Orbitrap」と示される)は、対象のm/z範囲にわたって複数のMS1スキャンを実行するように使用される。例えば、図2に示すように、分析される対象のm/z範囲は、300~1100m/zである。図2に示すように、各分析サイクルについて、軌道トラップ質量分析器110を使用して、対象のm/z範囲内(300~1100m/z)の前駆イオンの1回のMS1分析を実行する。分析される前駆イオンは、対象のm/z範囲に基づいて前駆イオンをフィルタリングする、四重極質量フィルタ70を通して供給されてもよい。
【0079】
図2に示すように、軌道トラップ分析器によって実行されるMS1分析は、(第2の質量分析器によって実行されるMS1及びMS2分析の持続時間に対して)長時間にわたって実行され得る。したがって、軌道トラップ質量分析器によって実行されるMS1分析は、TOF質量分析器150によって実行されるMS1分析に対して比較的高い質量精度及び/又は分解能を有し得る。いくつかの実施形態では、軌道トラップ分析器によって実行されるMS1分析は、少なくとも80,000、100,000、120,000、150,000、200,000、又は240,000の分解能を有し得る。例えば、図2の実施形態では、軌道トラップ質量分析器によって実行されるMS1分析は、少なくとも250msの持続時間を有してもよく、結果として得られるMS1スペクトルの分解能は約120,000である。他の実施形態では、軌道トラップ質量分析器150によって実行されるMS1分析は、約512msの持続時間及び240,000の分解能を有し得る。
【0080】
一般に、MS1分析が実行される分解能を増加させることは、分析のノイズベースラインを減少させることである。例えば、図1の軌道トラップ質量分析器110が約120,000の分解能で動作する場合、ノイズベースラインは約3.8個のイオンに相当すると考えられる。約240,000の分解能で動作する場合、ノイズベースラインは約2.6個のイオンであると考えられる。したがって、軌道トラップ質量分析器が比較的高い分解能で動作する場合であっても、軌道トラップ質量分析器110によって検出されるために、任意の単一分析物の数個のイオンが存在しなければならないことが理解されるであろう。
【0081】
軌道トラップ質量分析器110(又は任意の他の比較的正確な質量分析器)を使用することによって、第1の質量分析器を使用するMS1分析は、高い質量精度で実行される。好ましくは、MS1分析は、5百万分率(ppm)未満、又はより好ましくは3ppm未満の質量精度で実行される。質量分析器の百万分率質量精度Δmは、以下に示すように、イオンの測定した質量miとイオンの実際の質量maとの差をイオンの実際の質量で割り、106を掛けたものとして決定することができる。
【0082】
【数1】
【0083】
軌道トラップ質量分析器110によって得られた質量スペクトルの例を図4a、図4b、図5a、及び図5bに示す。それぞれの場合において、分析されたサンプルは、Thermo Fisher Scientific(登録商標)によって製造されたPierce(登録商標)FlexMix(登録商標)Calibration Solutionである。この較正溶液は、50m/z~3000m/zの質量範囲を有する16個の高純度イオン化成分の混合物の混合物であり、正イオン化及び負イオン化の両方の較正用に設計されている。図4a及び図4bは、120,000の分解能でサンプル(較正溶液)のMS1分析を実行するとき、図1の軌道トラップ質量分析器110によって得られた質量スペクトルを示す。図4aは、分析で同定された比較的高存在量の前駆イオンピークを示し、図4bは、5%未満の相対的存在比を有する図4aの前駆イオンピークの拡大図を示す。
【0084】
図5a及び図5bは、240,000の分解能でサンプル(較正溶液)のMS1分析を実行するとき、図1の軌道トラップ質量分析器110によって得られた質量スペクトルを示す。図5aは、分析で同定された比較的高存在量の前駆イオンピークを示し、図5bは、5%未満の相対的存在比を有する図5aの前駆イオンピークの拡大図を示す。
【0085】
軌道トラップ質量分析器110の分解能を増加させることによって、より多くの前駆イオンピークがMS1ドメインで検出され得ることが、図4a、図4b、図5a、図5bから理解されるであろう。例えば、図4a及び図4bの試験で見られるように、軌道トラップ質量分析器110は、120,000の分解能で動作したとき、約3.8個の前駆イオンによって生じた前駆イオンピークをベースラインノイズから区別するのに十分な感度を有した。240,000の分解能(図5a及び図5b)では、軌道トラップ質量分析器は、約2.6個のイオンに対応する前駆イオンピークをベースラインノイズから区別する感度を有する。したがって、軌道トラップ質量分析器110が比較的高い分解能及び比較的高い感度で動作する場合であっても、軌道トラップ質量分析器110によって確実に検出されるために、任意の単一分析物の数個のイオンが依然として存在しなければならないことが理解されるであろう。すなわち、軌道トラップ質量分析器110を使用して、単一前駆イオンに関連付けられる前駆イオンピークを検出することは(単一イオン感度)、一般的に実用的/可能ではない。単一イオン感度を達成することができる範囲内では、このような軌道トラップ質量分析器110を使用するMS1分析は、かなりの過渡時間、又は他の時間がかかるイオン処理ステップを必要とする可能性があり、結果として生じるMS1分析は、通常の質量分析ワークフローとは容易に適合しないであろう。例えば、クロマトグラフィーシステムから溶出するクロマトグラフピークに適合する時間スケールで複数の質量分析を実行できることが好ましい。
【0086】
軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と並行して、例えば図2に示すように、1回以上のMS1スキャンが第2の質量分析器(TOF質量分析器150)によって実行される。複数のMS2スキャンもまた、TOF質量分析器150によって実行される。図2に示すように、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と同時に、TOF質量分析器150によって実行されるMS1及びMS2分析が実行される。
【0087】
TOF質量分析器150を使用してMS1スキャンを実行するために、前駆イオンは、上述したようにイオン源20から抽出トラップ140まで移送される。
【0088】
図2の実施形態では、複数のMS1分析がTOF質量分析器150によって実行され、各MS1分析は、対象の質量範囲内(300~1100m/z)の異なるm/z部分範囲で実行される。したがって、対象の質量範囲は、複数のm/z部分範囲に分割される。図2の実施形態では、各m/z部分範囲は、200m/zのm/z範囲を有する。
【0089】
質量範囲部分の1回のMS1分析を実行するために、LCカラムからのサンプル分子(例えば、サンプル溶液の分子)は、軌道トラップ質量分析器110を使用してMS1分析を実行するためのプロセスと同様の方法でイオン化されてタンデム質量分析計10に注入される。
【0090】
MS1分析のために前駆イオンが四重極質量フィルタ70に到達すると、四重極質量フィルタ70は、分析中のm/z部分範囲に従って前駆イオンをフィルタリングするように、コントローラによって制御される。いくつかの実施形態では、各前駆体のm/z部分範囲は、少なくとも20、50、100、200、300、400、又は500のm/z範囲を有し得る。したがって、分析されるm/z部分範囲の数は、各m/z部分範囲のm/z範囲及び対象のm/z範囲のサイズに依存するであろう。例えば、いくつかの実施形態では、対象のm/z範囲は、少なくとも3つ、4つ、5つ、7つ、又は10のm/z部分範囲に分割されてもよい。異なるm/z部分範囲の複数のTOF MS1分析を有する利点は、各MS1分析のダイナミックレンジを最大化することである。したがって、TOF質量分析器150によって実行される複数のMS1分析は、(例えば、軌道トラップ質量分析器110のダイナミックレンジがより低いために)軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析では検出できない比較的低存在量の前駆イオン種を検出することができる。すなわち、TOF質量分析器は、軌道トラップ質量分析器によって実行されるMS1分析よりも高いダイナミックレンジを有するMS1分析を実行するように動作することができる。
【0091】
本開示によれば、質量分析器のダイナミックレンジは、質量分析器の最小検出可能信号に対する最大検出可能信号の比であり得る。質量分析器のダイナミックレンジを特徴付ける1つの方法は、質量分析器の検出範囲の5%強度を有するピークに対する質量分析器の検出範囲の95%強度を有するピークの強度比であり得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、TOF MS1分析は、前駆体のm/z部分範囲のサイズが異なっていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、対象の質量範囲は、前の分析に基づいて所定の数の部分範囲に分割されてもよい。例えば、前の分析は、前のMS1分析又は前の利得制御分析(後述)であってもよい。前の分析は、比較的高存在量を有する1個以上の前駆イオン種(例えば、最高存在量の前駆イオン、又は最高存在量の上位数個(例えば、3個)の前駆イオン)を示し得る。したがって、TOF MS1分析は、同定された前駆イオン種が前駆体のm/z部分範囲の一部又は全部から除外されるように、対象のm/z範囲を細分化してもよい。比較的高存在量の前駆イオン種は、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析で同定されることが理解されるであろう。したがって、TOF質量分析器150によって実行されるMS1分析のm/z部分範囲は、より低存在量の前駆イオンを同定することに向けられてもよい。1つ以上のm/z部分範囲から比較的高存在量の前駆イオン種を除外することによって、TOF質量分析器のダイナミックレンジは、低存在量の前駆イオン種を検出することに更に向けられ得る。
【0093】
(フィルタリングされたm/z部分範囲の)前駆イオンは、MS1スキャンに関して上述したように、四重極質量フィルタ70からCトラップ100まで進む。次に、コントローラがCトラップ100を制御して、前駆イオンをフラグメント化チャンバ120に向かって軸方向に通過させ、抽出トラップ140に到達させる。前駆イオンがMS1ドメインで分析されるとき、前駆イオンは、フラグメント化チャンバ120でフラグメント化されない。前駆イオンは、TOF質量分析器150による分析の前に抽出トラップ140に蓄積される。前駆イオンは、所定の時間、抽出トラップ140に蓄積されてもよい。
【0094】
次に、前駆イオンは、抽出トラップ140からTOF質量分析器150に注入される。前駆イオンが抽出トラップ140に事前に蓄積されることにより、前駆イオンをパケットとしてTOF質量分析器150に注入することができる。イオンパケットは、検出器180で検出される前にTOF質量分析器の飛行経路に沿って移動する。パケット内の前駆イオンの到達時間が異なることにより、前駆イオンのパケットに対するMS1質量スペクトルを生成することができる。図1のTOFの場合、検出器の時間分解能と組み合わせたTOF質量分析器150の飛行経路の長さにより、TOF質量分析器は、分析物ピークの強度に応じて約40,000~100,000の分解能でMS1分析を実行することができる。
【0095】
TOF質量分析器150によって実行される各MS1分析は、四重極から抽出トラップ140まで、及びその先の検出器までイオンを移送するのにかかる時間(すなわち、イオンの飛行時間)によって大きく左右される持続時間を有する。例えば、図2の実施形態では、各TOF MS1分析は、約5msの持続時間を有する。したがって、第2の質量分析器(TOF質量分析器150)によって実行される各MS1分析は、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)によって実行されるMS1スキャンの持続時間の15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下の持続時間を有し得ることが理解されるであろう。
【0096】
図2に示すように、TOF質量分析器150は、各m/z部分範囲のMS1分析を順次実行する。MS1分析に続いて、TOF質量分析器は、次いで複数のMS2分析を実行する。TOF質量分析器150は、分析サイクルの残りでMS2分析を実行してもよい。実行されるMS2分析の性質は、タンデム質量分析計によって実行される分析のタイプに依存し、これについては以下でより詳細に説明する。
【0097】
例として、図6a及び図6bは、TOF質量分析器150によってサンプル(較正溶液)のMS1分析に続いて380~980m/zのm/z範囲にわたって得られた質量スペクトルのグラフを示す。図6aは、TOF質量分析器150によって記録された全てのピークを示し、図6bは、5%未満の相対的存在比を有する図6aの前駆イオンピークの拡大図を示す。図6a及び図6bの質量スペクトルは、1回のMS1分析(「1回」分析)に続いて検出された全ての前駆イオンピークを示す。軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と比較して、図6a及び図6bのMS1分析は、TOF質量分析器150の単一イオンレベル検出特性により、図5a及び図5bの240K分解能の質量スペクトルよりも多くの低存在量分析物ピークを捕捉することが理解されるであろう。
【0098】
図6a及び図6bの質量スペクトルに記録された前駆イオンピークのうちのいくつかは、例えば、分析器への加速中に前駆イオンとガスとのランダム衝突から生じる偽陽性である可能性がある。質量スペクトルを改善する1つの方法は、TOF質量分析器150を使用して得られた複数の質量スペクトルを平均し、適切な閾値を適用してノイズを除去することである。したがって、いくつかの実施形態では、TOF質量分析器150は、対象の質量範囲の複数のMS1分析を実行するように構成されてもよい。すなわち、TOF質量分析器150は、対象の質量範囲のMS1分析を複数回繰り返す。例えば、MS1分析は、少なくとも5回、好ましくは少なくとも10回実行され得る。TOF質量分析器によって実行された複数のMS1分析からのデータは、次いで共に平均されて平均MS1スペクトルを生成してもよく、そこから前駆イオンピークを検出してもよい。
【0099】
例えば、図7a及び図7bは、TOF質量分析器150を使用してサンプル(較正溶液)の10回のMS1分析を実行することによって380~980m/zのm/z範囲にわたって得られた平均質量スペクトルのグラフを示す。図7bは、5%未満の相対的存在比を有する図7aの前駆イオンピークの拡大図を示す。MS1分析を平均する効果を示すために、同じPierce(登録商標)FlexMix(登録商標)サンプルを使用して、図6a及び図6bで分析され、かつ図7a及び図7bで分析される前駆イオンを生成する。図7a及び図7bから理解されるように、検出される前駆イオンピークの数は、図6a及び図6bと比較して増加している。
【0100】
TOF質量分析器150を使用してMS1分析を実行することに加えて、TOF質量分析器は、MS2分析を実行するために使用され得る。
【0101】
TOF質量分析器150でMS2分析を実行するために、LCカラムからのサンプル分子は、MS1分析を実行するためのプロセスと同様の方法でイオン化されてタンデム質量分析計10に注入される。
【0102】
前駆イオンは、イオン源20から四重極質量フィルタ70まで移動する。四重極質量フィルタ70内の前駆イオンは、質量選択されてもよく、質量選択された前駆イオンは、その後、フラグメント化のためにフラグメント化チャンバ120に移送される。前駆イオンは、実行される分析のタイプに応じて、種々の基準に基づいて質量選択され得ることが理解されるであろう。
【0103】
例えば、データ依存分析(DDA)が実行されているいくつかの実施形態では、MS1ドメインで実行された前駆イオンの分析に基づいて、前駆イオンピークの組み合わせリスト(すなわち、包含リスト)が生成され得る。前駆イオンピークの組み合わせリスト上の各前駆イオンについて、対応するm/zを有する前駆イオンを選択し、異なるm/zを有する前駆イオンを除外するように、前駆イオンをフィルタリングしてもよい。例えば、四重極質量フィルタ70は、前駆イオンピークの組み合わせリストに含まれる対象の前駆イオンピークのm/zを中心とする、5amu以下、好ましくは2amu以下、より好ましくは0.7amu以下の比較的狭い質量選択ウィンドウを用いて、前駆イオンを質量選択するように構成されてもよい。
【0104】
質量選択された前駆イオンは、次いでフラグメント化チャンバ120に移送され、そこで、質量選択された前駆イオンがフラグメント化されて、対象の前駆イオンに関連するフラグメントイオンを生成する。次いで、フラグメントイオンは、抽出トラップ140に移送され、フラグメントイオンのm/zを決定するTOF質量分析器150に移送される。
【0105】
TOF質量分析器150によって実行される各MS2分析は、TOF質量分析器150によって実行されるMS1スキャンの持続時間と同様の持続時間を有し得る。例えば、図2の実施形態では、TOF質量分析器150によって実行される各MS2分析は、約5msの持続時間を有し得る。
【0106】
タンデム質量分析計10は、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と並行して、TOF質量分析器を使用して複数のMS2分析を実行することができる。これについては、以下でより詳細に説明する。
【0107】
いくつかの実施形態では、タンデム質量分析計10はまた、利得制御分析(自動利得制御としても知られる)を実行するように構成されてもよい。利得制御分析は、前駆イオン電流を決定するように構成される。例えば、クロマトグラフィー装置から溶出するサンプル分子の量は、経時的に(例えば、クロマトグラフピークによって)変化し得、関連する変動が前駆イオン電流に生じる。利得制御分析は、所与の時間における前駆イオン電流を決定するために実行されてもよく、Cトラップ100又は抽出トラップ140への前駆イオンの注入時間は、コントローラによって調整され得る。例えば、注入時間を調整して、各MS1分析で比較的一貫したイオン量が分析されることを確実にすることができる。利得制御分析は、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)又は第2の質量分析器(TOF質量分析器150)によって実行され得る。したがって、利得制御分析は、MS1分析又はMS2分析において存在する前駆イオン数を較正するためのプロセスであってもよい。
【0108】
図2の実施形態に示すように、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器)によって実行されるMS1分析と同時に、TOF質量分析器150によって利得制御分析(AGCプレスキャンと呼ぶ)が実行されてもよい。したがって、利得制御分析は、TOF質量分析器150の抽出トラップ140で蓄積時間を調整して、TOF質量分析器150によって実行される後続の各MS1分析で一貫した前駆イオン数が分析されることを確実にするために使用され得る。いくつかの実施形態では、各MS2分析で一貫したイオン種数が分析されることを確実にするために、MS2分析の実行前にAGCプレスキャンを実行してもよい。
【0109】
図2の実施形態では、フローチャートは、TOF利得制御分析を実行し、次いでTOF MS1分析を実行し、次いでTOF MS2分析を実行する方法を示す。当然ながら、他の実施形態では、TOF質量分析器150によって実行される分析は、任意の順序で行われてもよい。例えば、TOF質量分析器150は、方法の間の任意の時間に利得制御分析を実行するように構成されてもよい。すなわち、TOF質量分析器150は、いくつかの実施形態では、MS1スキャンと共にクラスタ化された利得制御分析を実行してもよいが、そうである必要はなく、例えば、MS2スキャンの間に分散されてもよく、又はAGCスキャンなどの他のスキャンによって明らかになったクロマトグラフピークの観察による規則的なシーケンスからトリガされてもよい。
【0110】
上述したように、イオンパケットは、次のイオンパケットが抽出トラップ140に蓄積中の間に、TOF質量分析器150を通って移動していてもよい。したがって、TOF質量分析器は、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と同時に、複数のMS1及び/又はMS2分析を実行するために使用され得る。
【0111】
図2の実施形態では、TOF質量分析器150は、複数のMS1分析を使用して対象のm/z範囲にわたって前駆イオンを分析する。図2に示すように、対象のm/z範囲は、300~1100m/zである。TOF質量分析器150によって実行されるMS1分析では、対象のm/z範囲が複数のm/z部分範囲に細分化され、対象の各m/z部分範囲にわたってMS1分析が実行される。対象のm/z範囲を細分化することにより、TOF質量分析器150は、分析されるm/z部分範囲に対するTOF質量分析器150の感度を改善するために、m/z部分範囲に基づいてTOF質量分析器150のパラメータを調整することができる。したがって、TOF質量分析器150によって実行されるMS1分析について対象のm/z範囲を細分化することは、MS1ドメインで低存在量の前駆イオンの検出を改善することができる。
【0112】
対象のm/z範囲は、ユーザによって指定されることができる様々な基準に従って細分化され得ることが理解されるであろう。例えば、対象のm/z範囲は、少なくとも3つ、4つ、5つ、7つ、又は9つのm/z部分範囲に細分化されてもよい。いくつかの実施形態では、対象のm/z範囲は、対象のm/z部分範囲の間で均等に分割され得る。いくつかの実施形態では、ユーザは、特定のm/zを有する前駆イオンの検出を標的にするために、1つ以上の比較的狭いm/z部分範囲を指定してもよい。他の実施形態では、各m/z部分範囲は、例えば、約50m/z、100m/z、150m/z、200m/z、又は300m/zのm/z範囲を有してもよく、m/z部分範囲の数は、対象のm/z範囲に基づいて調整される。
【0113】
図2の実施形態においてTOF質量分析器150によって実行される各MS1分析は、約5msの持続時間を有し得る。したがって、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と同時に、いくつかのMS1分析がTOF質量分析器150によって実行され得ることが理解されるであろう。
【0114】
上記の図2に関して概説した方法に加えて、タンデム質量分析の方法200が提供される。図3は、本開示の実施形態によるタンデム質量分析の方法200のフローチャートを示す。図3のフローチャートにおけるブロックは、図2のブロック図に示した同様の名称のブロックに対応していることが理解されるであろう。したがって、上記で提供した図2の様々なステップの説明は、以下で更に説明する方法200のステップにも適用され得る。
【0115】
図3に示すように、方法200は、利得制御分析を実行すること201(AGCプレスキャン)と、第1の質量分析器を使用してMS1分析を実行すること202(Orbitrap MS1スキャン)と、第2の質量分析器を使用して1回以上のMS1分析を実行すること203(TOF MS1スキャン(複数可))とを含む。図3の実施形態では、これらのステップは順次実行されるが、他の実施形態では、ステップのうちのいくつかは並行して実行されてもよい。例えば、第1の質量分析器を伴うステップは、第2の質量分析器を伴うステップと並行して実行されてもよい。
【0116】
MS1分析に続いて、ステップ204(統合された前駆体リストを構築)において、方法200は、前駆イオンピークの組み合わせリストを構築する。前駆イオンピークの組み合わせリストは、第1の質量分析器及び第2の質量分析器の両方によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークのm/zのリストを含み得る。いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの組み合わせリストは、一価前駆イオンに関連付けられる前駆イオンピークを除去するように、ステップ204の一部としてフィルタリングされてもよい。いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの組み合わせリストは、組み合わせリストから前駆イオンの複数の電荷状態を除去するようにフィルタリングされてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの組み合わせリストは、前駆イオンの1つの電荷状態のみが前駆イオンピークの組み合わせリストに含まれるようにフィルタリングされてもよい。以下で更に説明するように、複数の異なる電荷状態に関連付けられる前駆イオンピークが組み合わせリストに存在する場合、最低質量電荷比(すなわち、最高電荷状態)を有する前駆イオンピークが、組み合わせリストに維持され得る。あるいは、いくつかの実施形態では、最高強度の前駆イオンピークを有する前駆イオンの電荷状態が、組み合わせリストに維持され得る(他の前駆イオンピークは、フィルタ除去される)。
【0117】
ステップ205(TOF MS2スキャン)において、方法200は、第2の質量分析器を使用してMS2分析を実行することを含む。MS2分析は、前駆イオンピークの組み合わせリストから選択された前駆イオンピークの質量電荷比に対応する質量電荷比を有する前駆イオンをフラグメント化して分析する。次いで、方法200は、組み合わせリスト上の前駆イオンピークに対応する各前駆イオンが分析されるまで、又は所定の時間制限に達するまで、MS2分析を繰り返す。したがって、方法200は、分析サイクル内のMS1及びMS2ドメインの両方で各前駆イオンを分析しようと試みる。
【0118】
図3に示すように、ステップ206において、方法は、MS2分析の実行を継続するか、又は方法サイクル200を再び繰り返すかを決定する。図3に示すように、方法サイクル200は、全ての前駆イオンが分析されたら、又は時間制限に達したら、繰り返され得る。したがって、分析サイクルは、サンプルがクロマトグラフィー装置から溶出する持続時間にわたって複数回繰り返され得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、方法200の各サイクルに許容される最大時間は、ユーザによって指定されてもよい。例えば、許容される最大時間は、約1s、500ms、400ms、300ms、又は250ms以下であり得る。いくつかの実施形態では、方法200の各サイクルに許容される最大時間は、第1の質量分析器(例えば、軌道トラップ質量分析器110)によって実行されるMS1分析の持続時間に基づいてもよい。すなわち、各サイクル200に許容される最大時間は、第1の質量分析器が最大サイクル時間の大部分にわたって使用されることを確実にするために設定されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析の持続時間は、約256ms(120,000の分解能において)又は約512ms(約240,000の分解能において)であってもよく、最大サイクル時間は、それぞれ約270ms又は530msであってもよい。好ましくは、最大サイクル時間は、第1の質量分析器が最大サイクル持続時間の少なくとも60%、70%、80%、又は90%にわたって使用されることを確実にするように選択され得る。
【0120】
方法200の重要な利点の1つは、前駆イオンの組み合わせリストに対して前駆イオンピークを同定するために、少なくとも1回のMS1分析を実行するようにTOF質量分析器150を使用することである。このようにTOF質量分析器150を使用することによって、図8に示すように、MS2ドメインでの分析で同定される前駆イオンピークの数に実質的な増加がもたらされ得る。図8は、較正溶液(Pierce(登録商標)FlexMix(登録商標))のMS1分析を使用して同定された異なる前駆イオンピークの数を示す棒グラフである。図8に示すように、60,000(Orbi 60K)、120,000(Orbi 120K)、及び240,000(Orbi 240K)の分解能で動作する軌道トラップ分析器110を使用して、較正溶液のMS1分析を実行した。図8に示すように、軌道トラップ質量分析器を240,000の分解能で動作させるとき、1,800個未満の前駆イオンピークが同定された。対照的に、TOF質量分析器を使用した同じ較正溶液の1回のMS1スキャンは、約3,900個の前駆イオンピークを同定した。
【0121】
比較のために、「HDR」データ取得モードで動作する軌道トラップ質量分析器110を使用したMS1分析も実行した。HDRデータ取得モードでは、対象の質量範囲を12個のウィンドウ(すなわち、12個の質量部分範囲)に分割し、軌道トラップ質量分析器110に注入される前に各質量部分範囲内の所定量の前駆体がCトラップ100に蓄積されるように、最大120msの注入時間を与えた。したがって、所与の質量部分範囲に対する注入時間が120msに達すると、所定量の前駆イオンに達していなくても、質量部分範囲に対するイオンの蓄積は終了する。その後、蓄積されたイオンが、軌道トラップ質量分析器110によって質量分析された。図8に示すように、軌道トラップ質量分析器の異なる分解能:60,000(Orbi-HDR 120ms 60K)、120,000(Orbi-HDR 120ms 120K)、及び240,000(Orbi-HDR 120ms 240K)を使用して、較正溶液のHDR分析を実行した。
【0122】
更なる比較として、1200msの注入時間を使用したHDRデータ取得モードも実行した。このような長い注入時間は、通常の質量分析法の使用では実用的でないが、比較的長い注入時間により、軌道トラップ質量分析器による質量分析の前に、各質量部分範囲に対して所定量のイオンがCトラップ100に蓄積されることを確実にした。図8に示すように、軌道トラップ質量分析器の異なる分解能:60,000(Orbi-HDR 1200ms 60K)、120,000(Orbi-HDR 1200ms 120K)、及び240,000(Orbi-HDR 1200ms 240K)を使用して、較正溶液のHDR分析を実行した。
【0123】
図8はまた、較正溶液のMS1分析を実行するときに、TOF質量分析器によって検出された前駆イオンピークの数についてのデータも示す。図8は、1回のスキャンから検出された、及び較正溶液の10回のMS1分析の実行によって得られた平均質量スペクトルから検出された、前駆イオンピークの数についてのデータを示す。図8に示すように、TOF質量分析器150によって実行された1回のスキャンは、1200msの注入時間で240Kで実行されたHDR分析を除いて、軌道トラップ質量分析器110を使用した各MS1分析よりも多くの較正溶液の前駆イオンピークを検出している。参考までに、TOF質量分析器を使用する1回のMS1分析は、約5msで実行することができ、これは、HDR分析の一部を形成する12個の質量部分範囲の各々に使用される1200msの注入時間よりも著しく短い。更に、TOF質量分析器150を使用して得られた時間平均質量スペクトルは、任意の他の分析よりも多くの前駆イオンピークを同定しており、また、通常の質量分析ワークフロー(例えば、図2に示す)に適合する時間スケールで実行され得る。したがって、前駆イオンピークを同定するためにTOF質量分析器150を使用することは、軌道トラップ質量分析器110を使用しても検出されないであろう前駆イオンピークを同定する有効な方法を提供し得ることが、図8から理解されるであろう。
【0124】
いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの組み合わせリストを生成するときに(例えば、図3のステップ206)、前駆イオンピークの第2のセットを閾値処理してもよい。すなわち、前駆イオンピークの第2のセット内の各前駆イオンピークの強度を、第1の所定の強度レベル(閾値)と比較してもよい。第1の所定の強度レベルを下回る任意の前駆イオンピークは、前駆イオンピークの第2のセットから除去され得る(すなわち、前駆イオンピークの組み合わせリストの生成に使用されない)。前駆イオンピークの第2のセットから比較的低い強度の前駆イオンピークを除去することによって、例えば、単一イオン信号(すなわち、分析中に散乱した単一前駆イオンを表すピーク)を前駆イオンの第2のセットから除去することができる。したがって、前駆イオンピークの第2のセットは、質量分析中の前駆イオンの散乱の影響を低減することによって、サンプル(較正溶液)中に存在する前駆イオンをよりよく表す。
【0125】
いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの第2のセットはまた、第2の所定の強度レベル(閾値)を上回る任意の前駆イオンピークを除去するように閾値処理されてもよく、第2の強度レベルは、第1の強度レベルよりも大きい。したがって、比較的大きい強度を有する、例えば、少なくとも10個の前駆イオンを表す信号強度を有する前駆イオンピークは、前駆イオンピークの第2のセットから除去されてもよい。比較的大きい強度の前駆イオンピークは、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)によって検出されている可能性が高く、したがって、前駆イオンピークの第2のセットから除去して前駆イオンピークの繰り返しを低減することができる。すなわち、第2の強度レベル(閾値)は、前駆イオンピークの第1のセットの前駆イオンピークとして第1の質量分析器によって検出されるであろう前駆イオンピークの強度に対応するレベルに設定されてもよい。
【0126】
図1の実施形態では、TOF質量分析器150は、検出器に到達する前駆イオンを表す電圧信号を出力する。したがって、第1及び第2の強度レベルは、前駆イオンピークの存在を検出するために使用される電圧レベルに対応してもよい。いくつかの実施形態では、コントローラは、上述した閾値処理を適用するように構成されたデジタイザを備え得る。
【0127】
図9は、第1の強度レベルを変化させたときにTOF質量分析器を使用して検出された前駆イオンピークの数を示すグラフを示す。図9の実施形態では、TOF質量分析器150は較正されており、ノイズレベルはチェックされていることから、電子ノイズから生じる偽ピークは、示した全ての閾値レベルでごくわずかであり、したがって全ての検出されたピークは、電子ノイズではなくイオン信号に関連している。図1の実施形態において、かつ図9に示すように、第1の強度レベルを約1mVから20mVまで変化させた。他の実施形態では、第1の強度レベルは、TOF質量分析器から出力される信号の性質に依存し得るが、一般に、単一イオンの前駆イオンピークを検出させるように、又は1個若しくは2個の前駆イオンを表す前駆イオンピークを除外するように構成可能であり得る。
【0128】
図9に示すように、TOF質量分析器150を使用した1回のスキャン(図9の1x ToF 5ms)によって検出された前駆イオンピークの数は、第1の強度レベル(デジタイザHW閾値)が1mVから20mVに増加するにつれて減少する。これは、第1の強度レベルを増加させると、閾値に達しない単一イオンピーク又は十分に分離した複数のイオンピークの数が増加すると予想される。特に、TOF質量分析器150などの多重反射TOF質量分析器は、ピーク幅よりも小さくなり得る検出器応答を有することが多い。したがって、検出された小さい前駆イオンピークは、複数の前駆イオンを含む単一イオンイベントと同様の高さを有する(ただしピーク面積ははるかに大きい)複数の離間した単一イオンイベントを形成し得る。
【0129】
図9はまた、異なる第1の強度レベル(TOF 10x 50ms 0mV SW-Th)について時間平均取得方法を使用するとき、TOF質量分析器150を使用して検出された前駆イオンピークの数の変動を示すグラフも示す。時間平均取得方法を使用することによって、比較的低い強度の前駆イオンピークのうちのどれが再現可能であるかに関して、より完全な像を得ることができる。時間平均グラフは、第1の強度レベルが4mVより大きい場合に、1回のTOF質量分析よりも多くの前駆イオンピークが検出されたことを示すことが理解されるであろう。これは、TOF質量分析スキャンにおいて検出されたピークの多くが、前駆イオンの散乱の結果としてではなく、「実際」のイオンイベント(すなわち、異なる質量電荷比の前駆イオン)に関連することを示す。
【0130】
時間平均グラフ(TOF 50ms 0mV SW-Th)では、より低い第1の強度閾値(例えば、6mVから1mV)で前駆イオンピークの数が減少し始めることが理解されるであろう。この減少は、時間平均データに現れる散乱イオン信号(すなわち、偽イオン信号)の存在によるものである。このようなピークの増加は、スペクトルを非常に密にするため、近接して散乱したピークが合体し、個々のピークとして区別することを困難にする。
【0131】
この問題に対処するために、時間平均データを更に閾値処理して、単一イオンピーク(散乱イオンを表す可能性が高い)を除去してもよい。したがって、第1の強度レベル閾値よりも低い第3の強度レベル(例えば、図9の1mV)で時間平均データを閾値処理することによって、前駆イオンの検出前に単一イオンピークを除去してもよい。したがって、図9に示すように、時間平均グラフを生成して、更なる1mVの閾値を適用すると(TOF 50ms 1mV SW-Th)、検出された前駆イオンピークの数は、第1の強度レベルが減少するにつれて増加し、1回のTOF質量分析グラフの挙動を反映する。
【0132】
図9及び上記の説明から理解されるように、上述した方法は、相当数のピークを含む前駆イオンピークの組み合わせリストを生成し得る(例えば、図9は、較正溶液を分析するときにTOF質量分析器150によって最大4500個の前駆イオンピークが検出され得ることを示す)。これらの前駆イオンピークのうち、かなりの部分が比較的低い信号強度を有するであろう。そのような比較的低い強度のピークは、電荷状態を割り当てることが困難であり得る(例えば、前駆イオンピークは、一価前駆イオン又は多価前駆イオンに関連付けられ得る)。一般に、所与の前駆イオンピークを生じさせた前駆イオンの電荷状態の知識は、前駆イオンの後続のMS2分析でフラグメント化エネルギーを設定するために有用であり得る。更に、一価前駆イオンは、それらの多価前駆イオンよりもMS2分析で有用性が低くなり得る。したがって、いくつかの実施形態では、前駆イオンピークの組み合わせリストは、一価前駆イオンを除去するようにフィルタ処理されてもよい。前駆イオンピークへの電荷状態の割り当ては、好適なソフトウェアアルゴリズムによって行われてもよい。電荷状態を決定するための既知のアルゴリズムとしては、Thorough High Resolution Analysis of Spectra by Horn(THRASH)(D.Horn et.al,Journal of the American Society for Mass Spectrometry,vol.11,issue 4,April 2000)、及びThermo Fisher Scientific(登録商標)から入手可能なAdvance Peak Detection(APD)アルゴリズムが挙げられる。
【0133】
したがって、いくつかの実施形態では、コントローラは、前駆イオンピークの組み合わせリスト上の各前駆イオンピークに対して電荷状態を決定するように構成されてもよい。コントローラは、電荷状態決定アルゴリズムを使用して、各前駆イオンピークに関連付けられる電荷状態を決定し得る。いくつかの実施形態では、各前駆イオンをMS2ドメインで1回だけ分析することが望ましい場合がある。したがって、同じ前駆イオンが異なる電荷状態で前駆イオンピークの組み合わせリストに現れる場合、コントローラは、各前駆イオンの1つの電荷状態のみが前駆イオンピークの組み合わせリストに現れるように、前駆イオンピークの組み合わせリストをフィルタリングしてもよい。好ましくは、コントローラは、複数の電荷状態に関連付けられる前駆イオンピークを除去するようにリストをフィルタリングしてもよく、この場合、各前駆イオンの最高電荷状態に関連付けられる前駆イオンピーク(すなわち、各前駆イオンの最低m/zを有する前駆イオンピーク)が維持される。あるいは、いくつかの実施形態では、最高強度の前駆イオンピークを有する各前駆イオンの電荷状態が、前駆イオンピークの組み合わせリストに維持され得る(他の前駆イオンピークは、フィルタ除去される)。このようにして、MS2ドメインで分析するための前駆イオンピークの組み合わせリストは、同じ前駆イオンのMS2分析が繰り返されるのを低減又は防止するように最適化され得る。
【0134】
前駆イオンピークの組み合わせリスト内の各前駆イオンピークに対する電荷状態の割り当ては、いくらかの計算時間を要し得ることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、タンデム質量分析計10は、軌道トラップ質量分析器110及びTOF質量分析器150に供給される前駆イオンから一価前駆イオンをフィルタリングするように構成されたイオン移動度分離器(図1には図示せず)を備え得る。例えば、異なるイオン移動度のイオンは、イオン移動度分離器に印加される補償電圧に従ってイオン移動度分離器によってフィルタリングされ得る。既知のイオン移動度分離器の1つは、Thermo Fisher Scientific(登録商標)から入手可能なFAIMS Pro(登録商標)Interfaceである。
【0135】
第2の質量分析器(TOF質量分析器150)によって実行されるMS1分析は、分析サイクル中の任意の時間に実行され得ることが理解されるであろう。例えば、図2の実施形態では、TOF質量分析器150によって実行されるMS1分析は、軌道トラップ質量分析器110によって実行される各MS1分析の開始近くに実行される。例えば、第2の質量分析器150によって実行されるMS1分析は、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)によって実行されるMS1分析の初期期間中に実行され得る。いくつかの実施形態では、初期期間は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の総(予想)持続時間の30%又は20%以下であり得る。したがって、初期期間は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の開始から初期期間の終了(すなわち、MS1分析の総(予想)持続時間の30%が経過したとき)まで及ぶことが理解されるであろう。
【0136】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器(軌道トラップ質量分析器110)によって実行されるMS1分析の持続時間全体にわたって、第2の質量分析器(TOF質量分析器150)によって実行されるMS1分析を分配することが有利であり得る。したがって、第2の質量分析器によって複数のMS1分析が実行されるいくつかの実施形態では、MS1分析は、第1の質量分析器によって実行されるMS1分析の持続時間にわたって均等に分配されてもよい。すなわち、第2の質量分析器によって実行される複数のMS1分析は、第2の質量分析器によって実行されるMS2分析とインターリーブされてもよい。
【0137】
例えば、図10は、図1のタンデム質量分析計10によって実行される分析サイクルのブロック図を示す。図10のブロック図では、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析は、約256msの持続時間を有し得る。図10は、比較のために、分析サイクルの持続時間にわたってクロマトグラフィー分離装置から溶出するクロマトグラフピークのプロファイルを示す。軌道トラップイオンによって実行されるMS1分析は、クロマトグラフピークの溶出の開始時からイオンのサンプルを取ることが理解されるであろう。したがって、比較的速く溶出するクロマトグラフピークについては、軌道トラップ質量分析器によって実行されるMS1分析が、クロマトグラフピークを完全に特徴付けることができない可能性がある。例えば、図10では、比較的速く溶出するクロマトグラフピークの持続時間にわたって、軌道トラップ質量分析器110によるMS1分析は、2回又は3回しか実行することができない。
【0138】
クロマトグラフピークの特徴付けを改善するために、図10では、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析と同時に、TOF質量分析器150によって複数のMS1分析が実行される。特に、TOF質量分析器150によって実行される複数のMS1分析は、TOF質量分析器によって実行される複数のMS2分析とインターリーブされる。図10の実施形態では、軌道トラップ質量分析器110によって実行される1回のMS1分析の持続時間にわたって、少なくとも5回のMS1分析が実行される。
【0139】
図10の実施形態では、MS1分析を実行し、続いて所定の数のMS2分析を実行することによって、複数のMS1分析がMS2分析とインターリーブされ得る。例えば、MS1分析は、TOF質量分析器150によって実行される5回、10回、15回、又は20回のMS2分析毎に繰り返されてもよい。したがって、MS1ドメインで実行される分析は、第1の質量分析器によってMS1ドメインで実行される分析の持続時間全体にわたって均等にインターリーブされてもよい。あるいは、MS1分析は、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析中に所定の時間間隔で実行されてもよい。
【0140】
図10の実施形態では、TOF質量分析器150によって実行される各MS1分析は、対象のm/z範囲全体にわたって実行されることが理解されるであろう。他の実施形態では、MS1分析は、(例えば、図2に関して上述したように)対象のm/z部分範囲にわたって実行されてもよく、分析は、軌道トラップ質量分析器によって実行されるMS1分析の持続時間全体にわたってインターリーブされる。いくつかの実施形態では、対象のm/z部分範囲の各MS1分析は、軌道トラップ質量分析器110によって実行されるMS1分析の持続時間全体にわたって複数回繰り返されてもよい。
【0141】
いくつかの実施形態では、第1の質量分析器及び第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータは、クロマトグラフィー分離装置から溶出するクロマトグラフピークを同定するために使用され得る。例えば、TOF質量分析器150によって実行されたMS1分析からのデータは、図10に示すクロマトグラフピークを同定及び/又は特徴付けるために使用され得る。いくつかの実施形態では、TOF質量分析器150によってMS2ドメインで実行される分析は、質量分析計から溶出する同定されたクロマトグラフピークに基づいて選択されてもよい。例えば、前駆イオンピークの組み合わせリストは、同定されたクロマトグラフピークに基づいて更新されてもよい。特に、前駆イオンピークの組み合わせリストにおけるMS2ドメインで分析される前駆イオンの順序は、同定されたクロマトグラフピークに基づいて更新されてもよい。
【0142】
したがって、上記の説明に従って、タンデム質量分析の方法、タンデム質量分析計、コンピュータプログラム、及びコンピュータ可読媒体が提供される。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析の方法であって、
第1の感度で動作するタンデム質量分析計の第1の質量分析器を使用して、MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析することと、
第2の感度で動作する前記タンデム質量分析計の第2の質量分析器を使用して、前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析することと、を含み、前記第2の感度は、前記第1の感度よりも高く、前記第2の質量分析器によって実行される前記MS1ドメインでの前記分析は、前記第1の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行される前記分析と同時に実行され、
前記方法は、さらに、
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することと、
前記タンデム質量分析計の前記第2の質量分析器を使用して、MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかを分析することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の質量分析器は、第1の感度及び第1の質量精度で動作し、
前記第2の質量分析器は、前記MS1ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかを第2の感度及び第2の質量精度で分析し、前記第2の質量精度は、前記第1の質量精度よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせることは、前記MS1ドメインでの前駆イオンピークの組み合わせリストを生成することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆イオンピークの組み合わせリストは、前記第1の質量分析器によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークの第1のセットと、前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析から同定された前駆イオンピークの第2のセットとを含み、前記組み合わせリストは、前記前駆イオンピークの第1のセットと第2のセットとの間で繰り返される前駆イオンピークを除去するようにフィルタリングされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆イオンピークの第2のセットは、所定の第1の強度レベルを下回る任意の前駆イオンピーク及び/又は所定の第2の強度レベルを上回る任意の前駆イオンピークを除去するように閾値処理される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の質量分析器によって生じた第1の前駆イオンピークと、前記第1の質量分析器によって生じた対応する第1の前駆イオンピークとを使用して、前記タンデム質量分析計を較正し、前記較正を使用して、前記前駆イオンピークの第1のセットと第2のセットとの間で繰り返される前駆イオンピークを同定する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記MS1分析によって同定された前記前駆イオンに基づく、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記MS2ドメインで前記前駆イオンを分析することは、
前記前駆イオンをフラグメント化してプロダクトイオンを生成することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記プロダクトイオンを分析することと、を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、
前記第1の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することと、を含み、
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメイン及び前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記第1の質量分析器によって実行される前記MS1ドメインでの前記1回の分析と同時に実行される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、
前記第1の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記対象のm/z範囲を複数のm/z部分範囲に細分化し、前記第2の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで対象の各m/z部分範囲にわたって分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することと、を含み、
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメイン及び前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記第1の質量分析器によって実行される前記MS1ドメインでの前記1回の分析と同時に実行される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
各サイクルは、前記第2の質量分析器を使用して対象の各m/z部分範囲について前記MS1ドメインで複数の分析を実行することと、
対象の各m/z部分範囲について、前記第2の質量分析器によって実行された前記MS1分析からのデータを平均することと、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記タンデム質量分析計を使用して複数の分析サイクルを実行することを含み、各サイクルは、
前記第1の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって1回の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって複数の分析を実行することと、
前記第2の質量分析器を使用して前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかの分析を実行することと、を含む、請求項に記載の方法。
【請求項13】
各分析サイクルについて、
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行された前記分析からのデータを平均することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記MS1ドメインで実行された前記分析からの前記データを平均することは、第3の強度レベルを下回る前駆イオンピークを除去するように前記データを閾値処理することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行される複数の分析は、前記第2の質量分析器によって前記MS2ドメインで実行される前記分析とインターリーブされる、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
各分析サイクルについて、前記第2の質量分析器によって前記MS1ドメインで少なくとも3回、5回、又は7回の分析が実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記MS1ドメインで実行される前記分析は、前記第1の質量分析器によって前記MS1ドメインで実行される前記分析の持続時間全体にわたって均等にインターリーブされる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
各分析サイクルは、前記第1の質量分析器又は前記第2の質量分析器を使用して利得制御分析を実行することを更に含み、前記第1の質量分析器及び/又は前記第2の質量分析器によって実行される前記MS1分析の各々のための注入時間は、前記利得制御分析に基づいて調整される、請求項に記載の方法。
【請求項19】
分析される前記前駆イオンは、一価前駆イオンを除去するか又は一価前駆イオンの数を低減するようにフィルタリングされる、請求項に記載の方法。
【請求項20】
分析される前記前駆イオンは、クロマトグラフィー分離装置から供給される分子をイオン化するように構成されたイオン源によって供給される、請求項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行された前記MS1分析からのデータは、前記クロマトグラフィー分離装置から溶出するクロマトグラフピークを同定するために使用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の質量分析器によって前記MS2ドメインで実行される前記分析は、前記質量分析計から溶出する同定された前記クロマトグラフピークに基づいて選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の質量分析器は、軌道トラップ質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析器、及び飛行時間型(TOF)質量分析器を含む群から選択される質量分析器であり、及び/又は
前記第2の質量分析器は、TOF質量分析器である、請求項に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の質量分析器は、前記MS1分析のそれぞれを実行するために第1のダイナミックレンジで動作し、
前記第2の質量分析器は、前記MS1分析のそれぞれを実行するために、前記第1のダイナミックレンジよりも大きい第2のダイナミックレンジで動作する、請求項に記載の方法。
【請求項25】
対象の質量電荷(m/z)範囲にわたって前駆イオンを分析するためのタンデム質量分析計であって、
MS1ドメインで前駆イオンを分析するように構成された第1の質量分析器と、
MS1ドメイン及びMS2ドメインで前駆イオンを分析するように構成された第2の質量分析器と、
コントローラと、を備え、前記コントローラは、
前記第1の質量分析器に、第1の感度において前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、
前記第2の質量分析器に、第2の感度において前記MS1ドメインで前記対象のm/z範囲にわたって前記前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、を行うように構成され、前記第2の感度は、前記第1の感度よりも高く、前記第1の質量分析器が前記MS1ドメインで前記前駆イオンを分析するのと同時に、前記第2の質量分析器が前記MS1ドメインで前記前駆イオンを分析し、前記コントローラは、さらに、
前記第1の質量分析器及び前記第2の質量分析器によって実行されたMS1分析からのデータを組み合わせて、前駆イオンを同定及び/又は定量化することと、
前記第2の質量分析器に、前記MS2ドメインで前記前駆イオンのうちのいくつかを分析させることと、を行うように構成されている、タンデム質量分析計。
【請求項26】
請求項25に記載のタンデム質量分析計に、請求項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項27】
請求項26に記載のコンピュータプログラムを格納している、コンピュータ可読媒体。
【外国語明細書】