(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011185
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/76 20060101AFI20240118BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240118BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240118BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240118BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01L29/78 652R
H01L29/78 652P
H01L29/78 653A
H01L29/78 655A
H01L29/78 658A
H01L29/78 658H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112998
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】脇本 博樹
(57)【要約】
【課題】逆バイアス印加時の素子特性の劣化を防止することができる半導体装置を提供する。
【解決手段】第1導電型のドリフト層1と、ドリフト層1の上面側に設けられた絶縁ゲート型電極構造(7,8)と、ドリフト層1の上部に設けられた第2導電型のベース領域3と、ベース領域3の上部に設けられた第1導電型の第1主電極領域4と、ドリフト層1の下面側に設けられた第2導電型の第2主電極領域12と、第2主電極領域12の上面に接し、ドリフト層1の側面を囲むように環状に設けられ、上側の幅が下側の幅よりも広い第2導電型の分離拡散領域2とを備え、分離拡散領域2の第2主電極領域12と接する部分の幅が、ドリフト層1の上面から第2主電極領域12の下面までの厚さの1倍以上、2倍以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の上面側に設けられた絶縁ゲート型電極構造と、
前記ドリフト層の上部に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の上部に設けられた第1導電型の第1主電極領域と、
前記ドリフト層の下面側に設けられた第2導電型の第2主電極領域と、
前記第2主電極領域の上面に接し、前記ドリフト層の側面を囲むように環状に設けられ、上側の幅が下側の幅よりも広い第2導電型の分離拡散領域と、
を備え、
前記分離拡散領域の前記第2主電極領域と接する部分の幅が、前記ドリフト層の上面から前記第2主電極領域の下面までの厚さの1倍以上、2倍以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記分離拡散領域の前記第2主電極領域と接する部分の幅が、逆バイアス印加時に前記分離拡散領域の前記第2主電極領域と接する部分において、前記分離拡散領域と前記ドリフト層とのpn接合から前記分離拡散領域側に伸びる空乏層の幅以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記分離拡散領域の前記第2主電極領域と接する部分の幅をWp、逆バイアス印加時に前記分離拡散領域の前記第2主電極領域と接する部分において、前記分離拡散領域と前記ドリフト層とのpn接合から前記分離拡散領域側に伸びる空乏層の幅をWdとして、
Wp≧Wd+50[μm]
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記分離拡散領域の前記第2主電極領域と接する部分において、前記分離拡散領域の外周面の不純物濃度が、前記ドリフト層の不純物濃度の2倍以上に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記分離拡散領域の上側の不純物濃度が、前記分離拡散領域の下側の不純物濃度よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記空乏層の端部が、前記分離拡散領域を形成するためのイオン注入時のマスクの開口部の端部の位置よりも外側にあることを特徴とする請求項2又は3に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ドリフト層に電子線が照射されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(RB-IGBT)では、ウェハプロセス完了後にダイシング工程によりチップ状態となった際に、チップ側面にn-型領域が露出しないよう、ウェハプロセス初期にダイシングラインにp型不純物をイオン注入し、高温長時間の拡散を行い、p型の分離拡散領域(分離層)を形成する。そして、基板の表面側にMOS構造及び耐圧構造を形成し、耐圧を保持するために必要な厚さまで基板を裏面側から研削する。基板の裏面側にコレクタ領域を形成し、コレクタ領域の裏面にコレクタ電極を形成して、ウェハプロセスが完了する。その後、ダイシング工程において、分離拡散領域の内側をダイヤモンドカッター等で切断し、チップ状態にする。チップ側面には分離拡散領域が露出する。
【0003】
特許文献1は、RB-IGBTにおいて、ウェハ側面のクラック対策のため、p型分離層が裏面側のp型コレクタ層に接続する部分における、基板面に平行方向の幅を60~300μmとする構成を開示する。特許文献2は、RB-IGBTにおいて、p型分離層の表面近傍の不純物濃度が1×1017~5×1018/cm3であり、裏面近傍の不純物濃度が2×1014~2×1015/cm3であることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-012652号公報
【特許文献2】特許第6467882号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のRB-IGBTにおいて、p型の分離拡散領域は、基板の表面側にp型不純物をイオン注入し、熱拡散によって形成するために、基板の裏面側のコレクタ層に近い領域ではp型不純物濃度が低くなる。逆バイアスの印加時には、コレクタ領域及び分離拡散領域とn-型領域とのpn接合から、n-型領域側だけでなく、コレクタ領域及び分離拡散領域側にも空乏層が進展する。コレクタ領域のp型不純物濃度は通常十分高いため、空乏層はコレクタ領域の裏面までは到達(リーチスルー)しない。
【0006】
一方、分離拡散領域の下側のコレクタ領域近傍ではp型不純物濃度が低くなるため、分離拡散領域の下側のコレクタ領域近傍の空乏層幅は、分離拡散領域の上側のエミッタ領域近傍の空乏層幅よりも広くなる。このため、分離拡散領域の下側のコレクタ領域近傍において、空乏層が分離拡散領域の露出した外周面まで到達(リーチスルー)し、素子特性の劣化が生じる場合がある。
【0007】
本発明は、逆バイアス印加時の素子特性の劣化を防止することができる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)第1導電型のドリフト層と、(b)ドリフト層の上面側に設けられた絶縁ゲート型電極構造と、(c)ドリフト層の上部に設けられた第2導電型のベース領域と、(d)ベース領域の上部に設けられた第1導電型の第1主電極領域と、(e)ドリフト層の下面側に設けられた第2導電型の第2主電極領域と、(f)第2主電極領域の上面に接し、ドリフト層の側面を囲むように環状に設けられ、上側の幅が下側の幅よりも広い第2導電型の分離拡散領域とを備え、分離拡散領域の第2主電極領域と接する部分の幅が、ドリフト層の上面から第2主電極領域の下面までの厚さの1倍以上、2倍以下である半導体装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、逆バイアス印加時の素子特性の劣化を防止することができる半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る半導体装置の一例を示す平面図である。
【
図3A】分離拡散領域の不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
【
図3B】分離拡散領域の不純物濃度のプロファイルを示す他のグラフである。
【
図4】分離拡散領域の不純物濃度と空乏層幅の相関を示すグラフである。
【
図5】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための断面図である。
【
図6】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図5に引き続く断面図である。
【
図7】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図6に引き続く断面図である。
【
図8】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図7に引き続く断面図である。
【
図9】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図8に引き続く断面図である。
【
図10】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図9に引き続く断面図である。
【
図11】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図10に引き続く断面図である。
【
図12】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図11に引き続く断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で参照する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。
【0013】
また、以下の説明では、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をp型、第2導電型をn型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0014】
(実施形態)
<半導体装置の構造>
実施形態に係る半導体装置であるRB-IGBTは、
図1に示すように、第1導電型(n型)の半導体基板100を備える。半導体基板100は、例えば単結晶シリコン(Si)基板で構成されている。半導体基板100の厚さDは、例えば、700V耐圧の素子では110μm以上、120μm以下程度であり、1200V耐圧の素子では180μm以上、190μm以下程度である。半導体基板100の一部は、n型のドリフト層1を構成する。
【0015】
実施形態に係る半導体装置は、活性領域101と、活性領域101の周囲を囲むように環状に設けられた耐圧構造部102を備える。
図1の右側に示す、半導体基板100の中央に位置する活性領域101において、ドリフト層1の上部には、ドリフト層1に接して、第2導電型(p型)のベース領域3が設けられている。ベース領域3の上部には、ベース領域3に接して、n
+型の第1主電極領域(エミッタ領域)4が設けられている。
【0016】
半導体基板100の上面から深さ方向に複数のトレンチ6が互いに離間して設けられている。トレンチ6は、エミッタ領域4及びベース領域3を貫通してドリフト層1に達する。トレンチ6の側面(側壁)には、エミッタ領域4及びベース領域3の側面が接している。トレンチ6の並列方向において、隣り合うトレンチ6の間には、半導体基板100の上部で構成されるメサ部が設けられている。メサ部には、ドリフト層1の上部、ベース領域3及びエミッタ領域4が設けられている。
【0017】
トレンチ6の底面及び側面を覆うようにゲート絶縁膜7が設けられている。ゲート絶縁膜7としては、例えば二酸化珪素膜(SiO2膜)、酸窒化珪素(SiON)膜、ストロンチウム酸化物(SrO)膜、窒化珪素(Si3N4)膜、アルミニウム酸化物(Al2O3)膜、マグネシウム酸化物(MgO)膜、イットリウム酸化物(Y2O3)膜、ハフニウム酸化物(HfO2)膜、ジルコニウム酸化物(ZrO2)膜、タンタル酸化物(Ta2O5)膜、ビスマス酸化物(Bi2O3)膜のいずれか1つの単層膜或いはこれらの複数を積層した複合膜等が採用可能である。
【0018】
トレンチ6の内側には、ゲート絶縁膜7を介してゲート電極8が埋め込まれている。ゲート電極8の材料としては、例えば燐(P)やボロン(B)等の不純物を高不純物濃度に添加したポリシリコン膜(ドープドポリシリコン膜)が使用可能である。ゲート絶縁膜7及びゲート電極8により絶縁ゲート型電極構造(MOSゲート構造)(7,8)が構成される。
【0019】
半導体基板100の上面には層間絶縁膜9が設けられている。層間絶縁膜9は、例えば、「NSG」と称される燐(P)やボロン(B)を含まないノンドープのシリコン酸化膜(SiO2膜)、燐を添加したシリコン酸化膜(PSG膜)、ボロンを添加したシリコン酸化膜(BSG膜)、ボロン及び燐を添加したシリコン酸化膜(BPSG膜)、シリコン窒化物膜(Si3N4膜)、高温酸化膜(HTO)等の単層膜や、これらの積層膜で構成されている。
【0020】
層間絶縁膜9上には、エミッタ電極10が設けられている。エミッタ電極10は、層間絶縁膜9を貫通するコンタクトホールに設けられたコンタクトプラグを介して、エミッタ領域4及びベース領域3に電気的に接続されている。エミッタ電極10は、アルミニウム(Al)やAl合金、銅(Cu)等の金属が使用可能である。Al合金としては、Al-シリコン(Si)、Al-銅(Cu)-Si、Al-Cu等が挙げられる。
【0021】
ドリフト層1の下面側には、ドリフト層1に接して、p+型の第2主電極領域(コレクタ領域)12が設けられている。コレクタ領域12の厚さは、例えば0.2μm以上、1.0μm以下程度である。コレクタ領域12の不純物濃度は、例えば2×1016cm-3以上、2×1018cm-3以下程度である。半導体基板100の厚さDは、ドリフト層1、ベース領域3及びエミッタ領域4の上面からコレクタ領域12の下面までの厚さとして定義される。
【0022】
コレクタ領域12の下面側には、コレクタ電極13が設けられている。コレクタ電極13は、例えば金(Au)からなる単層膜や、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、金(Au)の順で積層された金属膜で構成できる。
【0023】
図1の左側に示す、半導体基板100の外周部に位置する耐圧構造部102には、p
+型のフィールドリミッティングリング(FLR)層5が環状に複数設けられている。FLR層5には、層間絶縁膜9を貫通するコンタクトホールに設けられたコンタクトプラグを介して、フィールドプレート層11が接続されている。
【0024】
耐圧構造部102の外周部には、ドリフト層1の周囲を囲むように、p+型の分離拡散領域2が環状に設けられている。半導体基板100の側面100aであるダイシング面には分離拡散領域2が露出している。分離拡散領域2は、半導体基板100の上面からコレクタ領域12の上面に亘って設けられている。分離拡散領域2の下面はコレクタ領域12の上面に接している。
【0025】
分離拡散領域2は、半導体基板100の上面側からのイオン注入及び熱処理により形成されている。分離拡散領域2の上側の幅は、分離拡散領域2の下側の幅よりも大きい。分離拡散領域2の不純物濃度は、上側にピーク濃度を有する。分離拡散領域2の下側の不純物濃度は、分離拡散領域2の上側の不純物濃度よりも低くなる。例えば、分離拡散領域2の上側の、半導体基板100の上面近傍の不純物濃度は、例えば1×1017cm-3以上、5×1018cm-3以下程度である。分離拡散領域2の下側のコレクタ領域12の近傍、即ちコレクタ領域12の上面と接する部分の不純物濃度は、例えば2×1016cm-3以上、2×1018cm-3以下程度である。
【0026】
図1の分離拡散領域2の下側及びコレクタ領域12を囲む破線の領域Aの部分拡大図を
図2に示す。
図2では、逆バイアス印加時の分離拡散領域2とドリフト層1からなるpn接合からの空乏層d1,d2の伸びを破線で模式的に示し、空乏層d1,d2が伸びる方向を矢印で模式的に示している。逆バイアス印加時には、p
+型の分離拡散領域2及びp
+型のコレクタ領域12とn型のドリフト層1とのpn接合からドリフト層1側へ空乏層d1が伸びる。
【0027】
また、分離拡散領域2及びコレクタ領域12とドリフト層1とのpn接合から分離拡散領域2及びコレクタ領域12側へも空乏層d2が伸びる。コレクタ領域12は高不純物濃度であるため、コレクタ領域12側への空乏層d2の伸びは僅かである。一方、分離拡散領域2のコレクタ領域12近傍では、分離拡散領域2の不純物濃度が低くなるため、空乏層d2が伸びやすくなる。空乏層d2が半導体基板100の側面100aに到達(リーチスルー)すると、漏れ電流が発生し、耐圧が劣化する。
【0028】
そこで、実施形態に係る半導体装置では、
図2に示す分離拡散領域2のコレクタ領域12近傍、即ち分離拡散領域2のコレクタ領域12の上面と接する部分の幅Wpが、
図1に示す半導体基板100の厚さDに対して1倍以上(Wp/D≧1)に設定されている。分離拡散領域2の幅Wpを半導体基板100の厚さDに対して1倍以上に設定することにより、分離拡散領域2の幅Wpを広く確保することができ、空乏層d2が半導体基板100の側面100aに到達することを抑制することができる。
【0029】
更に、分離拡散領域2の幅Wpが、半導体基板100の厚さDに対して1.2倍以上(Wp/D≧1.2)に設定されていることが好ましい。分離拡散領域2の幅Wpを半導体基板100の厚さDに対して1.2倍以上に設定することにより、空乏層d2が半導体基板100の側面100aに到達することをより確実に抑制することができる。
【0030】
また、分離拡散領域2の幅Wpが、半導体基板100の厚さDに対して2倍以下(Wp/D≦2)に設定されている。分離拡散領域2の幅Wpを半導体基板100の厚さDに対して2倍以下に設定することにより、素子の性能に寄与しない無効領域である耐圧構造部102の面積を縮小し、素子の性能に寄与する活性領域101の面積を確保することができ、チップサイズの増大を抑制することができる。
【0031】
更に、分離拡散領域2の幅Wpが、半導体基板100の厚さDに対して1.8倍以下(Wp/D≦1.8)に設定されていることが好ましい。分離拡散領域2の幅Wpを半導体基板100の厚さDに対して1.8倍以下に設定することにより、耐圧構造部102の面積を更に縮小し、活性領域101の面積を更に確保することができ、チップサイズの増大をより抑制することができる。
【0032】
また、分離拡散領域2の幅Wpが、300μm以下程度に設定されていることが好ましい。分離拡散領域2の幅Wpを300μm以下程度に設定することにより、耐圧構造部102の面積を縮小し、活性領域101の面積を確保することができ、チップサイズの増大を抑制することができる。
【0033】
例えば、700V耐圧の素子では、半導体基板100の厚さDが110μm以上、120μm以下程度であり、分離拡散領域2の幅Wpが110μm以上、240μm以下程度である。1200V耐圧の素子では、半導体基板100の厚さDが180μm以上、190μm以下程度であり、分離拡散領域2の幅Wpが180μm以上、380μm以下程度であり、より好ましくは180μm以上、300μm以下程度である。
【0034】
図3Aの実線は、実施形態に係る半導体装置の製造工程においてn型の半導体基板100に分離拡散領域2を形成した後、且つ半導体基板100の裏面研削を行う前の、分離拡散領域2及び半導体基板100の不純物濃度のプロファイルを示す。
図3Aの縦軸は、分離拡散領域2及び半導体基板100の不純物濃度を示す。
図3Aの横軸は、
図1に示した位置P1,P2を通過する仮想的な直線L1の位置における半導体基板100の上面(エミッタ領域4の表面)からの距離を示す。
【0035】
図3Aの実線上の位置P1,P2は、
図1に示した位置P1,P2に対応する。
図1に示した位置P1は、半導体基板100の表面において、分離拡散領域2を形成するためのイオン注入時のマスクの開口部の端部の位置に対応する。位置P2は、コレクタ領域12とドリフト層1とのpn接合界面の深さにおいて、位置P1から垂直に降ろした位置である。
図2に示すように、空乏層d2の端部は、位置P2よりも外側にある。即ち、空乏層d2の端部は、分離拡散領域2を形成するためのイオン注入時のマスクの開口部の端部よりも外側にある。
【0036】
図3Aの実線で示すように、分離拡散領域2のp型不純物濃度は半導体基板100の上面側にピーク濃度を有し、深さが深くなるにつれて分離拡散領域2のp型不純物濃度が低くなっている。一方、半導体基板100のn型不純物濃度は、一定の不純物濃度Ndである。半導体基板100の一部がドリフト層1を構成するため、ドリフト層1の不純物濃度は不純物濃度Ndとなる。
【0037】
図3Bの一点鎖線は、実施形態に係る半導体装置において、分離拡散領域2のコレクタ領域12近傍のp型不純物濃度のプロファイルを示す。
図3Bの縦軸は、分離拡散領域2及び半導体基板100の不純物濃度を示す。
図3Bの横軸は、分離拡散領域2のコレクタ領域12近傍、およびドリフト層1のコレクタ領域12近傍の深さにおいて、半導体装置の側面から内側へ向かう方向の位置を示す。
図3Bの一点鎖線上の位置P2,P3,P4は、
図1に示した位置P2,P3,P4に対応する。
図1に示した位置P4は、半導体基板100の側面100aであるダイシング面に露出した位置である。位置P3は、分離拡散領域2の内周面のドリフト層1と接する位置である。
【0038】
図3Bの一点鎖線で示すように、分離拡散領域2の不純物濃度は、半導体基板100の側面100aであるダイシング面に露出した位置P4から、分離拡散領域2を形成するためのイオン注入時のマスクの開口部の端部の位置P1から垂直に降ろした位置P2までの範囲で一定の不純物濃度Naとなる。分離拡散領域2の不純物濃度Naは、半導体基板100の側面100aであるダイシング面に露出した位置P4の不純物濃度として定義できる。
【0039】
実施形態に係る半導体装置において、
図2に示す分離拡散領域2の幅Wpが、空乏層d2の幅Wd以上に設定されることが好ましい。空乏層d2の幅Wdは、逆バイアス印加時に、分離拡散領域2のコレクタ領域12に接する部分において、分離拡散領域2とドリフト層1のpn接合から分離拡散領域2側に伸びる空乏層幅である。分離拡散領域2の幅Wpを空乏層d2の幅Wd以上に設定することにより、逆バイアス印加時に空乏層d2が半導体基板100の側面100aに到達することを抑制することができる。
【0040】
分離拡散領域2の不純物濃度Na、逆バイアス印加時の逆電圧VR、及び空乏層d2の幅Wdに関して、一般的に下記式(1)が成り立つ。
【0041】
Wd=(2εsVR/qNa)1/2 …(1)
【0042】
ここで、εsは半導体の誘電率であり、qは電子の素電荷量である。逆電圧VRは、例えば逆バイアス印加時の定格逆電圧又は最大逆電圧であり、耐圧クラス等に依存して適宜設定可能である。空乏層d2の幅Wdは、耐圧クラスや分離拡散領域2の不純物濃度等に依存して適宜設定可能である。
【0043】
また、実施形態に係る半導体装置において、分離拡散領域2の幅Wpが、空乏層d2の幅Wdと50μmの合計値以上に設定されることが好ましい。即ち、分離拡散領域2の幅Wpを、下記式(2)を満たすように設定することが好ましい。
【0044】
Wp≧Wd+50μm …(2)
【0045】
実施形態に係る半導体装置の製造工程におけるダイシング工程や、ダイシング工程後の搬送中の振動等の衝撃により、半導体基板100の側面100aであるダイシング面においてクラックや割れが発生する場合がある。半導体基板100の側面100aであるダイシング面におけるクラックや割れは、最大50μm程度である。このため、式(2)を満たすように分離拡散領域2の幅Wpを設定することにより、半導体基板100の側面100aであるダイシング面におけるクラックや割れが発生した場合でも、空乏層d2が分離拡散領域2のクラックや割れが発生した領域まで到達することを抑制することができる。よって、逆電圧の印加時の素子特性の劣化をより確実に抑制することができ、高い信頼性を有する素子を実現することができる。
【0046】
また、実施の形態に係る半導体装置において、分離拡散領域2のp型の不純物濃度Naを、ドリフト層1のn型の不純物濃度Ndに対して2倍以上に設定することが好ましい。分離拡散領域2の不純物濃度Naを、ドリフト層1の不純物濃度Ndに対して2倍以上に設定することにより、空乏層d2の幅Wdを狭くすることができ、素子の性能に寄与しない無効領域である分離拡散領域2の幅Wpを狭くすることができる。
【0047】
また、分離拡散領域2のp型の不純物濃度Naを、ドリフト層1のn型の不純物濃度Ndに対して10倍以下に設定することが好ましい。分離拡散領域2の不純物濃度Naを、ドリフト層1の不純物濃度Ndに対して10倍以下に設定することにより、分離拡散領域2を形成するときのイオン注入及び熱処理工程の時間及び負担を抑制することができる。
【0048】
図4は、逆バイアス印加時の逆電圧V
R=1200Vの場合の分離拡散領域2の不純物濃度Naと空乏層d2の幅Wdの相関を示す。
図4に示すように、不純物濃度Naが高いほど空乏層d2の幅Wdは狭くなる。例えば、不純物濃度Na=1×10
14cm
-2の場合、空乏層d2の幅Wd=125μmであり、式(2)を満たすためには分離拡散領域2の幅Wp=125μm+50μm=175μmが必要である。これに対して、不純物濃度Naを2倍(Na=2×10
14cm
-2)とすることにより、式(2)を満たすためには分離拡散領域2の幅Wp=90μm+50μm=140μmとなり、分離拡散領域2の幅Wpを狭くすることができる。
【0049】
実施形態に係る半導体装置によれば、逆バイアス印加時に、分離拡散領域2のコレクタ領域12近傍の不純物濃度が低くなる部分において空乏層d2が伸びやすくなる点に着目して分離拡散領域2の幅Wpを設定する。これにより、空乏層d2の伸びに対して十分な分離拡散領域2の幅Wpを確保することができる。よって、素子特性の劣化を防止することができ、高い信頼性を有する素子を実現することができる。
【0050】
<半導体装置の製造方法>
次に、実施形態に係る半導体装置の一例を説明する。なお、以下に述べる半導体装置は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0051】
まず、
図5に示すように、単結晶シリコン(Si)ウェハであるn型の半導体基板100を用意する。次に、熱酸化法又は化学気相成長(CVD)法等により酸化膜等の絶縁膜21を堆積し、フォトリソグラフィ技術により絶縁膜21に開口部21aを形成する。絶縁膜21をマスクとして用いて、ボロン(B)等のp型不純物をイオン注入し、イオン注入層2aを形成する。絶縁膜21の開口部21aの幅W1は、例えば200μm以上、250μm以下程度である。
図5では、後述するダイシング工程のための削りしろ22を一点鎖線で模式的に示している。削りしろ22の幅W2は、例えば50μm以上、70μm以下程度である。
【0052】
次に、高温長時間の熱処理(ドライブ拡散熱処理)により、イオン注入層2aのp型不純物を活性化させ、拡散させる。この結果、
図6に示すように、半導体基板100の深い位置まで分離拡散領域2が形成される。
図6では、後述する裏面研削により半導体基板100が下面側から研削された後の半導体基板100の下面の位置を破線L2で模式的に示している。また、絶縁膜21の開口部21aの端部位置が位置P1であり、位置P1から垂直に降ろした破線L2近傍の位置が位置P2となる。その後、絶縁膜21を除去する。
【0053】
次に、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により、半導体基板100の上面側からドリフト層1の一部を選択的に除去し、半導体基板100の上部に複数のトレンチ6を形成する(
図1参照)。
【0054】
次に、熱酸化法又はCVD法等により、トレンチ6の底面及び側面にゲート絶縁膜7を形成する(
図1参照)。次に、CVD法等により、ゲート絶縁膜7を介してトレンチ6の内側を埋め込むように、燐(P)やボロン(B)等の不純物を高濃度で添加したポリシリコン膜(ドープドポリシリコン膜)を堆積する。その後、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により、半導体基板100上のポリシリコン膜及びゲート絶縁膜7を選択的に除去する。この結果、トレンチ6の内側にゲート絶縁膜7及びポリシリコン膜のゲート電極8からなる絶縁ゲート型電極構造(7,8)が形成される(
図1参照)。
【0055】
次に、フォトリソグラフィ工程及びイオン注入工程を繰り返し実施することにより、半導体基板100の上面側からp型不純物及びn型不純物を順次イオン注入する。次に、熱処理により、半導体基板100に注入されたp型不純物及びn型不純物を活性化させる。この結果、
図7に示すように、活性領域において、半導体基板100の上部にp型のベース領域3及びn
+型のエミッタ領域4が形成される。また、耐圧構造部において、p
+型のFLR層5が形成される。
【0056】
次に、CVD法等により、半導体基板100の上面に層間絶縁膜9を成膜する(
図1参照)。次に、フォトリソグラフィ技術及ドライエッチング等により、層間絶縁膜9にコンタクトホールを開口する。次に、スパッタリング法又は蒸着法、及びドライエッチング等により、
図8に示すように、層間絶縁膜9の上面にエミッタ電極10を形成する。
【0057】
次に、半導体基板100の上面側又は下面側から電子線を照射することにより、ドリフト層1の内部にライフタイムキラーを導入する。或いは、半導体基板100の上面側又は下面側からヘリウム(He)又はプロトン(H)等の軽元素を半導体基板100の上面側又は下面側から照射することにより、ドリフト層1の内部にライフタイム制御領域を形成してもよい。その後、熱処理(アニール)を行うことにより、所望のライフタイムとする。なお、ライフタイムを制御するための電子線又は軽元素の照射は必ずしも実施しなくてもよい。
【0058】
次に、化学機械研磨(CMP)等により、
図9に示すように、半導体基板100を下面側から研削し、半導体基板100を製品厚さDに調整する。この結果、分離拡散領域2の下面が露出する。
【0059】
次に、半導体基板100の下面の全面に亘ってボロン(B)等のp型不純物をイオン注入する。その後、レーザ照射等の熱処理により、半導体基板100に注入された不純物イオンを活性化させる。この結果、
図10に示すように、半導体基板100の下面側にp
+型のコレクタ領域12が形成され、コレクタ領域12が分離拡散領域2に接続される。
【0060】
次に、スパッタリング法又は蒸着法等により、
図11に示すように、半導体基板100の下面の全面に金(Au)等からなるコレクタ電極13を形成する。
【0061】
次に、ダイシングブレードを高速回転させて、
図12に示すように、分離拡散領域2の中央部を切断(ダイシング)して、ウェハからチップを切り出す。チップの側面には分離拡散領域2が露出する。このようにして、
図1に示した実施形態に係る半導体装置が完成する。
【0062】
(その他の実施形態)
上記のように実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0063】
例えば、実施形態に係る半導体装置において、トレンチ6の内側にゲート絶縁膜7を介してゲート電極8が埋め込まれた絶縁ゲート型電極構造(MOSゲート構造)(7,8)を有するトレンチゲート型のIGBTを例示したが、半導体基板100の上面にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられた絶縁ゲート型電極構造(MOSゲート構造)を有するプレーナ型のIGBTを有していてもよい。
【0064】
また、実施形態が開示する構成を、矛盾の生じない範囲で適宜組み合わせることができる。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0065】
1…ドリフト層
2…分離拡散領域
2a…イオン注入層
3…ベース領域
4…エミッタ領域
5…FLR層
6…トレンチ
7…ゲート絶縁膜
8…ゲート電極
9…層間絶縁膜
10…エミッタ電極
11…フィールドプレート層
12…コレクタ領域
13…コレクタ電極
21…絶縁膜
21a…開口部
22…削りしろ
100…半導体基板
101…活性領域
102…耐圧構造部
d1,d2…空乏層
P1,P2,P3,P4…位置
Wd…空乏層幅
Wp…分離拡散領域幅