(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111851
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】鉄骨造建物の方杖ダンパー
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240813BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016497
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(72)【発明者】
【氏名】山内 豊英
(72)【発明者】
【氏名】森 浩二
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139AC33
2E139AD04
2E139BA20
2E139BD18
3J048AC01
3J048BE12
3J048CB27
3J048DA02
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】簡易な構造によって耐震構造を有する建物を提供する。
【解決手段】鉄骨柱と、鉄骨梁に対して斜めに接合する方杖ダンパーであって、当該方杖ダンパーは一対の内板と、これら一対の内板を外側から挟み込む2枚の外板からなり、前記一対の内板の一方側の内板には長手方向に延長する長孔を有し、前記内板の一方側は鉄骨柱にボルト接合し、他方側は鉄骨梁にボルト接合した。鉄骨梁にボルト接合する方杖ダンパーの接合部は、梁側には溝形鋼を設け、この溝形鋼の溝部には応力伝達部を設ける。 鉄骨柱と鉄骨梁の接合部には、Lアングルからなるフェールセーフ機構をさらに設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱と、鉄骨梁に対して斜めに接合する方杖ダンパーであって、当該方杖ダンパーは一対の内板と、これら一対の内板を外側から挟み込む2枚の外板からなり、前記一対の内板の一方側の内板には長手方向に延長する長孔を有し、前記内板の一方側は鉄骨柱にボルト接合し、他方側は鉄骨梁にボルト接合したことを特徴とする鉄骨造建物の方杖ダンパー。
【請求項2】
鉄骨梁にボルト接合する方杖ダンパーの接合部は、梁側には溝形鋼を設け、この溝形鋼の溝部には応力伝達部が設けられた請求項1記載の鉄骨造建物の方杖ダンパー。
【請求項3】
鉄骨柱と鉄骨梁の接合部には、一側面が閉塞したLアングルからなるフェールセーフ機構をさらに設けた請求項1または2記載の鉄骨造建物の方杖ダンパー。
【請求項4】
鉄骨柱と鉄骨梁の接合部における前記鉄骨梁のウエブ部を、一対のLアングルの縦面を向き合うようにしてボルト接合したフェールセーフ機構をさらに設けた請求項1または2記載の鉄骨造建物の方杖ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄骨造の既設建物の耐力を補強することを目的として適用する方杖ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造の既存不適格建物とされる建造物には、現在では使用されない工法や溶接仕様で施工されているものがあり、保有耐力以外においても現行の基準から乖離する物件が非常に多い。1981年以前に建造された旧耐震建物の場合には、原則として日本建築防災協会の「耐震改修促進法のための既存鉄骨造建築物の耐震診断および耐震改修指針・同解説」に基づいた耐震診断が適用されるが、大半の鉄骨造建物が耐震性能の基準を満たさないとの診断結果となる。特に、梁端が隅肉溶接の場合には靭性能がないものとみなされ、極めて耐震性能が低いという診断結果となる。
【0003】
この場合における改修法としては、不良溶接部を除去し、補強溶接を行うという補強手法があるが、大掛かりな工事となるうえに溶接技術的にも現場で行う必要があるので極めて困難である。また、耐震ブレース等の補強部材が必要となる場合には、耐震強度の強化に重点を置いた現行の指針がエネルギー吸収能力を積極的に評価するものではないため、補強部材が強度型の大断面部材となる傾向がある。したがって、改修計画そのものが大掛かりになることを前提としなければならない。しかしながら、大掛かりな耐震改修はコスト面における課題があるうえに、耐震ブレース等が建物の使用性を損ねることも多い。よって、改修工事の範囲を極小にするような改修法が要求される。これらのことから、鉄骨造の既存不適格建物については改修計画が建設的な議論にならないことが多いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された発明は、既設構造物への耐震補強を行うものであって、構造物躯体を構成するT型鋼に対して穴あけ加工を行うことなく、固定部材と補強部材を組み合わせることによって構造体を補強するようにしている。
【0006】
本発明では、コストや建物の使用性を重視し、柱・梁接合部に省スペースで設置することが可能な摩擦型の方杖ダンパーによって建築物の補強を行うことを基本とする。ここで、補強部材として方杖を採用した場合には、梁端部および柱端部に作用する曲げモーメントが大幅に減少する。したがって、梁端部の靭性能に期待する必要が無くなるとともに、地震によるエネルギーを方杖ダンパーが吸収するために、梁端部が隅肉溶接であっても靭性能上の問題を解決することが可能になる。また、この構成に加えて、梁端破断などに備えてフェールセーフ機構としてせん断力と軸力を伝達する抵抗部材を設けることとした。特に、梁端部が隅肉溶接である場合には梁端破断が発生するおそれを否定することができないので、フェールセーフ機構を設けることとしている。方杖補強とすることによって、梁端の曲げモーメント伝達に期待する必要が無くなるため、せん断力と軸力のみを伝達することになる。さらに、曲げモーメントが大きくなる方杖と柱および梁との接合部では、柱および梁のウエブ部にボルト接合部を設けて溝形鋼などの伝達部材を介して方杖ダンパーと接続する。これによって、柱および梁の曲げモーメントを負担するフランジ部の断面欠損を避けるようにする。
【0007】
そして、これらの構造を一体とした補強手段によって、従来の課題を解決することができるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では上記目的を達成するために、鉄骨柱と、鉄骨梁に対して斜めに接合する方杖ダンパーであって、当該方杖ダンパーは一対の内板と、これら一対の内板を外側から挟み込む2枚の外板からなり、前記一対の内板の一方側の内板には長手方向に延長する長孔を有し、前記内板の一方側は鉄骨柱にボルト接合し、他方側は鉄骨梁にボルト接合するという手段を用いることとした。ここで、方杖ダンパーを構成する一対の内板の一方側は柱ありは梁にボルト接合によって固定される一方、他方側の内板には長孔が形成されているので2枚の外板で挟み込んで固定する場合でも微調整が可能であるとともに、大きい入力があった場合は長孔を設けた内板が外板との間で摺動し、地震のエネルギーを摺動部の摩擦熱に変換して吸収することにより、建物自体の損傷を抑制する。
【0009】
また、梁および柱と方杖ダンパーの接合部には、溝形鋼等で構成した応力伝達部を設け、
梁および柱のウエブ部にボルト接合しているが、これによって簡単なボルト接合による施工で、かつ、曲げモーメントを負担する梁および柱のフランジ部に断面欠損を設けることなく方杖ダンパーに生じる応力を確実に伝達させることが可能となる。
【0010】
さらに、鉄骨柱と鉄骨梁の接合部には、両側面を閉塞して壁部を構成したLアングルをさらに設けたので、梁端部に破断が生じた場合でも、梁に生じるせん断力と軸力を柱に伝達することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述した手段を用いたので、簡易な構造によって耐震構造を有する建物を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明で採用する方杖ダンパーを用いた柱梁構造を示す全体斜視図
【
図2】本発明で採用する方杖ダンパーを用いた柱梁構造を示す側面図
【
図8】柱梁の接合部の角部に設けたフェールセーフ機構を示した側面図
【
図9】同、さらに別のフェールセーフ機構を示した側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施形態を図面に従って説明する。まずは
図1に好ましい一実施形態を全体斜視図として開示し、
図2以下にその各部を具体的に説明する。
図2には
図1の構造を側面図として説明しており、1は鉄骨柱、2は鉄骨柱1とボルト接合3によって接合された鉄骨梁、4は一方が鉄骨柱1と、他方が鉄骨梁2とボルト接合5・6された方杖ダンパー、7は方杖ダンパー4の機能を補強するためのフェールセーフ機構である。なお、本実施形態では強度補強のためには方杖ダンパー3の存在は不可欠であり、フェールセーフ機構7は方杖ダンパー4の機能を補完する構成として位置づけられている。
【0014】
図3は方杖ダンパー4の詳細を示す側面図であって、
図4に示された2枚の外板8・8によって
図5に示す一対の内板9を挟み込んだ構成である。方杖ダンパー4は全体の長さを調整できるように外板8には一方側(図面では柱側)で外板8と内板9aをボルトによって固定するとともに、他方側(図面では梁側)で内板9に設けられた長孔10によって内板9bを摺動可能に接続されている。これによって、柱梁間に設けられる方杖ダンパー4の距離を微調整している。
【0015】
図6は、方杖ダンパー4と梁2のボルト接合部6の一例を正面から見たところを具体的に示したものであって、梁2の下フランジの上側に溝形鋼11を設けることによって出現する空間部11に対して、引張力を伝達するためのフィラーなどの応力伝達部12が付加されたものである。ボルト接合部を梁2のウエブ部に設けることで、曲げモーメントを負担するフランジ部の断面欠損を回避している。なお、応力伝達部12については梁2と方杖ダンパー4が剛接合によって接合されている場合には必ずしも要求される構成ではない。
【0016】
次に
図7は、方杖ダンパー4と鉄骨柱1のボルト接合部5を具体的に示した断面図であって、鉄骨柱1はボックス鋼13を採用している。そしてボルト接合部を梁2のウエブ部に設けることで、曲げモーメントを負担するフランジ部の断面欠損を回避している。ただし、柱1の具体的構造は本実施形態のボックス鋼に限定するものではなく、通常採用することが多いH鋼であってもよい。要は方杖ダンパー4を鉄骨柱1に接合することができる構成であれば広く採用することが可能である。また、接合部は梁接合にて用いた溝形鋼14を採用してもよい。なお、方杖ダンパー4の両端部は斜めに切除されているが、その角度については柱梁の接合部からそれぞれのボルト接合部5・6の距離によって定まる。例えばボルト接合部5・6と柱梁の接合部の距離が等間隔である場合にはそれぞれの切除角は45度であり、異なる間隔であればこれに応じて切除角は適宜変化することになる。
【0017】
図8は、強度保証に補完的に寄与するためのフェールセーフ機構7の具体例を示したものであって、梁端部に破断が生じた場合にせん断力と軸力の伝達を補完するための構造である。ここで、フェールセーフ機構7はLアングル15の2辺15a、15bの両側面15cを鋼板で閉塞した形態の継手を構成し、その1辺15aは柱1にボルト接合し、他辺15bを梁2にボルト接合した形態であり、柱梁接合部自身に応力が集中して梁端部に破断が生じた場合であっても梁2のせん断力と軸力を柱1に伝達できるようにしている。ただし、当該フェールセーフ機構7は補強のために設けられるものであって、基本的には先に説明した方杖ダンパー4が大きく入力される応力を負担する。
【0018】
図9は本発明のフェールセーフ機構の別の実施形態を示したもので、
図9aには側面を、
図9bには平面を示している。そして、ボックス鋼やH形鋼からなる柱1と、梁2の接合部における梁2のウエブ部を一対のLアングル16を向き合うようにして前記ウエブ部を挟み込んでボルト接合したものである。このフェールセーフ機構は
図7に示したフェールセーフ機構7と機能的に変わるところはないが、設定場所が梁2のウエブ部17に収まるので、例えば外部からの物理的干渉を避けることができる。
【0019】
上記に説明したように、本実施形態では柱梁の接合部に対する入力は主に方杖ダンパー4がその応力を負担するが、梁端部の破断などに対してはフェールセーフ機構7がこれを負担するというように、相互に補完関係を維持することになる。
【符号の説明】
【0020】
1 鉄骨柱
2 鉄骨梁
3 ボルト接合
4 方杖ダンパー
5・6 ボルト接合部
7 フェールセーフ機構
8 方杖ダンパーの外板
9 同、内板
10 長孔
11 空間部
12 応力伝達部
13 ボックス鋼
14 溝形鋼
15 Lアングル
16 Lアング