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特開2024-111897回転電機用のロータの製造装置、製造方法、及び回転電機用のロータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111897
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】回転電機用のロータの製造装置、製造方法、及び回転電機用のロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/14 20060101AFI20240813BHJP
   H02K 1/28 20060101ALI20240813BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H02K15/14 A
H02K1/28 A
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016602
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】岡田 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】生駒 千尋
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601AA09
5H601BB20
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD42
5H601DD47
5H601EE13
5H601EE20
5H601GA02
5H601GA23
5H601GA33
5H601GC02
5H601GC12
5H601JJ05
5H601KK13
5H601KK14
5H615AA01
5H615BB07
5H615PP02
5H615PP06
5H615PP24
5H615SS09
5H615SS19
(57)【要約】
【課題】ロータコアとロータシャフトとの間に、軸方向に沿った各位置で適切な締め代を実現しつつ、後加工の必要性を低減又は無くす。
【解決手段】回転電機用のロータの製造装置であって、ロータコア用のコア部材及びロータシャフト用の中空のシャフト部材を含むワークを支持し、コア部材の内径側にシャフト部材が配置されるセット状態を形成するワーク支持部と、セット状態においてワークに力を付与することで、コア部材とシャフト部材とを結合させる結合装置とを含み、結合装置は、シャフト部材の中空内部から径方向外側に径方向の力を付与することで、シャフト部材の外径を拡大させる拡径装置と、シャフト部材に軸方向の力を付与することで、シャフト部材を介して、コア部材に軸力を発生させる軸力発生装置と、を備える、製造装置が開示される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用のロータの製造装置であって、
ロータコア用のコア部材及びロータシャフト用の中空のシャフト部材を含むワークを支持し、前記コア部材の内径側に前記シャフト部材が配置されるセット状態を形成するワーク支持部と、
前記セット状態において前記ワークに力を付与することで、前記コア部材と前記シャフト部材とを結合させる結合装置とを含み、
前記結合装置は、
前記シャフト部材の中空内部から径方向外側に径方向の力を付与することで、前記シャフト部材の外径を拡大させる拡径装置と、
前記シャフト部材に軸方向の力を付与することで、前記シャフト部材を介して、前記コア部材に軸力を発生させる軸力発生装置と、を備える、製造装置。
【請求項2】
前記拡径装置は、前記軸力発生装置により前記軸力が発生された状態において、前記コア部材と前記シャフト部材とを結合させる軸方向範囲のうちの、軸方向一方側の端部範囲とは異なる範囲で、前記径方向の力を付与する、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記シャフト部材は、前記軸方向一方側の端部においては、軸方向他方側の端部においてよりも、内径が大きい、請求項2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記シャフト部材は、前記軸方向一方側において、前記コア部材の軸方向端面の径方向内側の部分に軸方向に当接する径方向外側への突出部を有し、
前記軸力発生装置は、前記突出部と前記コア部材の軸方向端面との間に軸方向の力が作用し合う態様で、前記コア部材に前記軸力を発生させる、請求項2又は3に記載の製造装置。
【請求項5】
前記ワーク支持部は、前記コア部材を介して前記シャフト部材を支持する、請求項4に記載の製造装置。
【請求項6】
回転電機用のロータの製造方法であって、
ロータコア用のコア部材及びロータシャフト用の中空のシャフト部材を含むワークを支持し、前記コア部材の内径側に前記シャフト部材が配置されるセット状態を形成する配置工程と、
前記セット状態において前記ワークに力を付与することで、前記コア部材と前記シャフト部材とを結合させる結合工程とを含み、
前記結合工程は、前記シャフト部材に軸方向の力を付与することで前記シャフト部材を介して前記コア部材に軸力を発生させつつ、前記シャフト部材の中空内部から径方向外側に径方向の力を付与することを含む、製造方法。
【請求項7】
前記径方向の力は、前記コア部材と前記シャフト部材とを結合させる軸方向範囲のうちの、軸方向一方側の端部範囲とは異なる範囲に付与される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記シャフト部材は、前記軸方向一方側の端部においては、軸方向他方側の端部においてよりも、内径が大きい、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記シャフト部材は、前記軸方向一方側において、前記コア部材の軸方向端面の径方向内側の部分に軸方向に当接する径方向外側への突出部を有し、
前記軸力は、前記突出部と前記コア部材の軸方向端面との間に軸方向の力が作用し合う態様で、発生される、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記配置工程は、前記コア部材に前記シャフト部材が前記突出部を介して支持される前記セット状態を形成することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ロータコアと、
前記ロータコアの径方向内側に配置され、前記ロータコアに結合される中空のロータシャフトとを含み、
前記ロータシャフトは、軸方向一方側の端部において、径方向外側への突出部を有し、
前記ロータコアは、前記軸方向一方側に延在する第1コア部と、前記第1コア部よりも軸方向他方側に延在する第2コア部とを含み、
前記第1コア部は、前記突出部に軸方向端面における径方向内側の部分が軸方向に当接し、かつ、前記第2コア部よりも、前記ロータシャフトとの間の径方向の締め代が小さい、回転電機用のロータ。
【請求項12】
前記ロータシャフトは、前記軸方向一方側の端部においては、軸方向他方側の端部においてよりも、内径が大きい、請求項11に記載の回転電機用のロータ。
【請求項13】
前記第1コア部は、前記突出部と前記第2コア部との間で軸力を受ける、請求項11又は12に記載の回転電機用のロータ。
【請求項14】
前記第2コア部と前記ロータシャフトとは、径方向の締め代だけに基づいて、固定される、請求項13に記載の回転電機用のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用のロータの製造装置、製造方法、及び回転電機用のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
中空のロータシャフトの中空内部に挿入したウレタン製のマンドレルをダイスとパッドとで軸方向に圧縮することで、ロータシャフトをロータコアのシャフト孔に嵌合する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-106797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術では、ウレタン製のマンドレルを利用し、軸方向の両端からの圧縮力によりマンドレルの拡径量を制御する構成であるので、ロータコアの軸方向全体にわたって、ロータコアとロータシャフトの間に有意な締め代が発生される。すなわち、上記のような従来技術では、ロータシャフトは、ロータコアの軸方向端部に対しても、ロータコアとの間の締め代を確保するための拡径が実現される。しかしながら、ロータシャフトにおけるロータコアの軸方向端部に固定される部分(以下、単に「ロータシャフトの軸方向端部」とも称する)は、ロータシャフトの軸方向の中央部等に比べて、軸方向の開口部に近いことに起因して変形しやすい。従って、ロータシャフトの軸方向端部において、比較的大きい締め代を確保するための拡径処理が実現されると、開口部の歪の影響により回転電機の動作時のノイズや振動が問題なりやすい。これに対して、歪を後加工により除去することも可能であるが、この場合、後加工の工程が必要となり、コスト増加等の問題が生じる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、ロータコアとロータシャフトとの間に、軸方向に沿った各位置で適切な締め代を実現しつつ、後加工の必要性を低減又は無くすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機用のロータの製造装置であって、
ロータコア用のコア部材及びロータシャフト用の中空のシャフト部材を含むワークを支持し、前記コア部材の内径側に前記シャフト部材が配置されるセット状態を形成するワーク支持部と、
前記セット状態において前記ワークに力を付与することで、前記コア部材と前記シャフト部材とを結合させる結合装置とを含み、
前記結合装置は、
前記シャフト部材の中空内部から径方向外側に径方向の力を付与することで、前記シャフト部材の外径を拡大させる拡径装置と、
前記シャフト部材に軸方向の力を付与することで、前記シャフト部材を介して、前記コア部材に軸力を発生させる軸力発生装置と、を備える、製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、ロータコアとロータシャフトとの間に、軸方向に沿った各位置で適切な締め代を実現しつつ、後加工の必要性を低減又は無くすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図1A】変形例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ロータの製造装置を概略的に示す断面図である。
図3】下方から視た加圧成形機構の分解斜視図である。
図4】基準軸を通る面で切断した加圧成形機構の断面斜視図である。
図5】下方から視た加圧成形機構の斜視図である。
図6】本製造方法の流れを示す概略フローチャートである。
図7図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図8図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図9図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図10図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図11図6に示すいくつかの工程におけるロータシャフト及びロータコアに付与される荷重の状態を、更に概略的に示す断面図である。
図12図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図13図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図14A図13のQ1部の拡大図である。
図14B】成形加圧工程におけるカムパンチの状態を上面視で示す説明図である。
図15図6に示すいくつかの工程におけるロータシャフト及びロータコアに付与される荷重の状態を、更に概略的に示す断面図である。
図16図6に示すいくつかの工程における各状態を概略的に示す断面図である。
図17図6に示すいくつかの工程におけるロータシャフト及びロータコアに付与される荷重の状態を、更に概略的に示す断面図である。
図18図6に示すいくつかの工程におけるロータシャフト及びロータコアに付与される荷重の状態を、更に概略的に示す断面図である。
図19】比較例による問題点の説明図である。
図20】ハイドロフォーミングによる内圧の増加に起因したロータシャフトのバルジ変形の説明用の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。図1には、X方向とともに、X方向X1側とX方向X2側とが定義されている。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下のモータ1に関する説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、X方向に平行である。また、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、ステータコア22の径方向外側がステータ支持部10に固定される。
【0014】
ケース2は、モータ1を収容する空間を形成する。ケース2は、ステータ支持部10を含む。ステータ支持部10は、ステータコア22の径方向外側の表面に結合される。ステータ支持部10は、冷却水が通る流路を有してもよいし、及び/又は、油路を有してもよい。ステータ支持部10は、2ピース以上の部材により形成されてもよい。
【0015】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル29とを含む。
【0016】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板により形成されるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。
【0017】
ステータコア22には、径方向内側に突出する複数のティースが形成され、ステータコイル29が巻装される。
【0018】
ステータコイル29は、例えば、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルを含む。ステータコイル29は、ステータコア22のスロットに挿入されるスロット挿入部(図示せず)とともに、ステータコア22の軸方向両側から突出するコイルエンド29A、29Bを有する。
【0019】
ステータコイル29は、セグメントコイルの形態のコイル片(図示せず)をステータコア22に組み付けることでステータコア22に巻装されてもよい。なお、セグメントコイルとは、各相のコイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロットに挿入される単位)で分割した形態である。コイル片は、例えば、断面略矩形の線状導体(平角線)を、絶縁被膜(図示せず)で被覆してなる。線状導体は、銅により形成されるが、変形例では、線状導体は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。
【0020】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、ケース2にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。具体的には、ロータシャフト34は、X1側では内周面がベアリング14aにより支持され、X2側では外周面がベアリング14bにより支持されている。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0021】
なお、ロータシャフト34の内周面の形態は、上面視で、回転軸12に関して回転対称であってもよいし、回転軸12に関して回転対称でなくてもよい。例えば、ロータシャフト34の内周面は、上面視で、円形や楕円形の形態であってもよいし、あるいは、多角形であってよい。また、ロータシャフト34の内周面や外周面には、スプライン歯や溝部等が形成されてもよい。
【0022】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の内部には、永久磁石329が挿入される。永久磁石329の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0023】
本実施例では、ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレートが設けられなくてもよい。ただし、変形例では、図1Aに示すモータ1Aのように、ロータコア32のX2側の軸方向端面320には、エンドプレート35Bが設けられてもよい。なお、この場合、エンドプレート35Bは、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。また、エンドプレート35Bは、ロータコア32を支持する支持機能を有さなくてもよいが、ロータシャフト34に圧入されることでロータコア32に僅かな軸力を付与してもよい。
【0024】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴348、349を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド29A、29Bの冷却に供されてもよい。
【0025】
ロータシャフト34は、ロータコア32と結合する軸方向範囲を結合部としたとき、結合部よりも軸方向外側の両端部のうちの一方側が縮径する形態を有してもよい。具体的には、ロータシャフト34は、図1に示すように、X2側の端部が縮径する一方、X1側の端部は縮径していない形態である。従って、中空部34Aは、X2側の端部で内径が小さくなる。具体的には、ロータシャフト34は、X1側の端面からX2側の端部に至るまで第1内径r1を有し、かつ、X2側の端部において第2内径r2を有する。第2内径r2は、第1内径r1よりも有意に小さい。
【0026】
本実施例では、ロータシャフト34は、X1側の端部において、径方向外側への突出部340を有する。突出部340は、軸方向に視て、ロータコア32の軸方向端面320の径方向内側の部分に重なり、ロータコア32の軸方向端面320の径方向内側の部分に軸方向に当接する。突出部340は、後述するように、ロータコア32に軸力を発生させる機能を有する。
【0027】
なお、図1に示す例では、第1内径r1の値は、略一定であり、第1内径r1の値が変化する段差部として、ベアリング14aのスラスト荷重の受け用の第1段差部346等が形成されている。なお、第1段差部346は、第1内径r1から第2内径r2への変化(減少)に関連した径方向の第2段差部347よりも段差(径方向の差)が有意に小さくてよい。なお、本実施例では、ロータシャフト34は、X1側の端部が第2内径r2よりも有意に大きい内径r3(≒r1)を有するので、ロータシャフト34の内周面側にベアリング14aを配置できる。
【0028】
このようなロータシャフト34によれば、ロータコア32と結合する軸方向範囲で比較的大きい第1内径r1を有するので、ロータシャフト34の内周面を伝う油を介して永久磁石329等を効率的に冷却できる。
【0029】
ここで、本実施例では、ロータコア32とロータシャフト34とは、径方向の締め代による結合と、軸力による結合との組み合わせで、結合される。具体的には、ロータコア32は、X1側の端部(以下、「第1コア部321」とも称する)と、第1コア部321のX2側に延在する残りの部分(以下、「第2コア部322」とも称する)とを含む。そして、第1コア部321は、ロータシャフト34に対して、第2コア部322と突出部340との間の軸力(図1の力F100参照)に基づき結合される。また、第2コア部322は、ロータシャフト34に対して、径方向の締め代に基づき結合される。第2コア部322と突出部340との間の軸力の発生方法については、製造方法に関連し、後述の製造方法の説明の際に併せて説明する。
【0030】
なお、以下では、ロータシャフト34のうち、第1コア部321に径方向で対向する軸方向範囲の部分を、「第1シャフト部3410」とも称し、第2コア部322に径方向で対向する軸方向範囲の部分を、「第2シャフト部3420」と称する。本実施例では、第1コア部321とロータシャフト34とは、径方向の締め代を有さず、径方向に僅かな隙間を有してもよい。この場合、ロータシャフト34の第1シャフト部3410は、第2シャフト部3420よりも、外径がわずかに小さくてもよく、それに伴い内径もわずかに小さくてもよい。すなわち、上述した第1内径r1は、第1コア部321に径方向で対向する軸方向範囲において、第2コア部322に径方向で対向する軸方向範囲よりも、わずかに小さくてもよい。
【0031】
このようにして本実施例では、ロータコア32は、軸方向の全体が締め代によりロータシャフト34に固定されるような構成や、全体が軸力によりロータシャフト34に固定されるような構成とは、異なる。本実施例では、ロータコア32とロータシャフト34の間において、第1コア部321に係る軸方向範囲では、軸力に起因した摩擦力(周方向の摩擦力)により回転トルクが伝達可能であるのに対して、第2コア部322に係る軸方向範囲では、締め代に起因した摩擦力により回転トルクが伝達可能である。
【0032】
なお、第1コア部321と第2コア部322との間の軸方向の境界は、必ずしも明確である必要はなく、第1コア部321と第2コア部322との間には、中間的な部位(締め代がわずかにあり、かつ、僅かな軸力も生じる部分)が形成されてもよい。
【0033】
ところで、本実施例では、ロータシャフト34は、上述したように、X1側の端部においては、X2側の端部においてよりも、内径が大きい(すなわちr3>r2)。従って、ロータシャフト34は、X1側の端部において、X2側の端部においてよりも、剛性が低い(開口部が変形しやすい)。
【0034】
従って、製造時にロータシャフト34とロータコア32とを一体化(結合)する際に、軸方向全体にわたって締め代を発生させると、ロータシャフト34のX1側の端部において、歪が発生し、ノイズや振動の原因となりやすい。
【0035】
この点、本実施例では、ロータシャフト34とロータコア32とは、上述したように、第1コア部321の軸方向範囲では、軸力により結合されており、径方向の締め代は実質的に存在しない。従って、製造時にロータシャフト34とロータコア32とを一体化(結合)する際に、径方向の締め代に起因して生じうる歪を、ロータシャフト34のX1側の端部において低減又は無くすことができる。なお、本実施例において、第1コア部321の軸方向範囲は、このような歪が有意に発生しない範囲内で適合されてよい。
【0036】
なお、図1では、油による特定の冷却方法が開示されているが、油によるモータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、ステータ支持部10内に形成されてもよい油路を介して径方向外側からコイルエンド29A、29Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0037】
次に、図2以降を参照して、上述した実施例のモータ1におけるロータ30の製造装置200及び製造方法の例について説明する。図2等には、回転軸12に平行なZ方向とともに、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。以下では、説明上、一例として、製造工程中において、Z方向が上下方向に対応し、Z2側が下側であるとする。また、図2等には、製造装置200における基準軸Iが示される。基準軸Iは、ワークの芯出しの際の中心軸を構成し、上述した回転軸12に対応する。また、以下では、軸方向等の用語は、基準軸Iを基準とする。従って、例えば径方向とは、基準軸Iを中心とした回転体の径方向に対応する。
【0038】
図2は、ロータ30の製造装置200を概略的に示す断面図である。図3から図5は、カムパンチベース256、カムドライバ258及びカムパンチ260を含む加圧成形機構25の説明図であり、図3は、下方から視た加圧成形機構25の分解斜視図であり、図4は、基準軸Iを通る面で切断した加圧成形機構25の断面斜視図であり、図5は、下方から視た加圧成形機構25の斜視図である。なお、図3では、カムパンチ260の一部(4つのうちの2つ)の図示が省略されている。
【0039】
製造装置200は、プレス機210と、金型240とを含む。
【0040】
プレス機210は、通常的な構成を有してよく、この場合、既存のプレス機を利用して製造装置200を形成できる。プレス機210は、下側のボルスタ(ベッド)212に対して上側のスライド214が上下方向にスライド可能(摺動可能)である。なお、スライド214は、上下方向の位置の制御が可能である。ボルスタ212には、上下方向に移動可能なベッドノックアウトピン2122が設けられる。例えば、ベッドノックアウトピン2122は、下型からワークを持ち上げる機能(下型から離す機能)を有し、ボルスタ212に内蔵されてよい。ベッドノックアウトピン2122は、通常のプレス機に備わるベッドノックアウトピンと同様であってよい。ベッドノックアウトピン2122は、上下方向の位置及び/又は荷重(ベッドノックアウトピン2122を介して伝達する上下方向の荷重)が制御可能である。
【0041】
金型240は、上型250と、下型270と、コア押さえ280と、軸力パンチ290とを含む。
【0042】
上型250は、上型固定部252と、カムパンチベース256と、カムドライバ258と、カムパンチ260と、を含む。
【0043】
上型固定部252は、プレス機210のスライド214に固定される。上型固定部252は、スライド214と一体に上下方向に移動(昇降)する。
【0044】
カムパンチベース256は、上型固定部252に対して上下動が可能な態様で、上型固定部252に支持される。また、カムパンチベース256は、上型固定部252及びスライド214と一体に上下方向に移動(昇降)可能である。
【0045】
カムパンチベース256は、図3から図5に示すように、円柱状の形態で上下方向に延在し、下端面に、カムパンチ260を支持するスライド支持部2562を有する。スライド支持部2562は、図3及び図4に示すように、径方向に視て、下向きのT字状の断面形状を有し、等断面で径方向に延在する。
【0046】
また、カムパンチベース256は、図4に示すように、基準軸Iを軸心とする中空内部により形成されるスライド孔2564を有し、スライド孔2564は、等断面(例えば上面視で矩形状の等断面)で上下方向に延在する。
【0047】
カムドライバ258は、カムパンチ260を駆動する駆動部材として機能する。カムパンチベース256に対して上下方向に移動可能となる態様で、カムパンチベース256に支持される。
【0048】
カムドライバ258は、上側の作動位置と、下側の非作動位置との間で、カムパンチベース256に対して上下方向に移動可能である。カムドライバ258が作動位置及び非作動位置の間で移動すると、それに連動して、カムパンチ260が、径方向外側の作動位置と径方向内側の非作動位置との間で変位する。
【0049】
カムドライバ258は、後述するドライバ駆動ピン274により上側の作動位置へと押し上げられる。なお、カムドライバ258は、後述するドライバ駆動ピン274から軸方向で離間している状態では、重力の影響により、下側の非作動位置に位置する。なお、カムパンチベース256に対するカムドライバ258の変位であって、下側の非作動位置よりも下方への変位は、ストッパ2581(図2参照)により規定されてよい。なお、上側の作動位置は、後述するように、一定であってもよいし、可変とされてもよい。
【0050】
カムドライバ258は、被支持部2582と、駆動部2584とを含む。
【0051】
被支持部2582は、カムパンチベース256のスライド孔2564に挿通される。被支持部2582は、スライド孔2564に対応した等断面(例えば上面視で矩形状の等断面)で上下方向に延在する。
【0052】
駆動部2584は、被支持部2582の下端から連続する態様で、上下方向に延在する。駆動部2584は、カムパンチ260の径方向内側に配置される。具体的には、駆動部2584は、カムパンチ260の径方向内側の空洞部262(図3参照)に配置される。
【0053】
駆動部2584は、下方に向かうほど断面積(水平面で切断した際の断面積)が大きくなる形態である。図3から図5に示す例では、駆動部2584は、矩形状の断面形状(例えば正方形の断面形状)を有する。ただし、変形例では、駆動部2584は、後述するカムパンチ260の分割態様(及びそれに関連する径方向内側の空洞部262の断面形状)に応じて、多角形のような他の断面形状を有してもよい。
【0054】
駆動部2584は、外周面(側面)に、上下方向に対して傾斜する第2傾斜面25842を有する。第2傾斜面25842は、平面状の形態であり、駆動部2584の4方の側面(外周面)を形成する。駆動部2584の4方の側面における各第2傾斜面25842の傾斜角度(例えば基準軸Iに対する傾斜角度であり、後出の図14Aの角度θの補角参照)は、互いに同じであってよい。
【0055】
駆動部2584は、第2傾斜面25842が後述するカムパンチ260の第1傾斜面2601に面接触する態様で、カムパンチ260の径方向内側の空洞部262に配置される。この場合、駆動部2584とカムパンチ260との間の面接触は、カムドライバ258が、上側の作動位置と下側の非作動位置との間の任意の位置にあるときにも維持されてよい。
【0056】
カムパンチ260は、カムパンチベース256のスライド支持部2562に支持される。カムパンチ260は、カムパンチベース256に対して径方向に変位可能となる態様で、カムパンチベース256に支持される。
【0057】
カムパンチ260は、径方向内側の非作動位置と、径方向外側の作動位置との間で、径方向に変位可能である。カムパンチ260は、その非作動位置にあるとき、ロータシャフト34の中空部34A内に位置可能な形態を有する。径方向内側の非作動位置にあるときのカムパンチ260は、上面視で、ロータシャフト34の内周面の形態に応じた外形(例えば全体として略円形又は楕円形の外形)を有する。この際、径方向内側の非作動位置にあるときのカムパンチ260は、上面視で、ロータシャフト34の内周面の形状を径方向内側にオフセットした外形を有してよい。
【0058】
カムパンチ260は、常態では径方向内側の非作動位置に位置する。カムパンチ260のリング溝261には、リング状の弾性部材である弾性リング(図示せず)が設けられてもよい。このようにして、カムパンチ260は、弾性リング(図示せず)のような付勢手段により径方向内側の非作動位置へと付勢されてよい。
【0059】
カムパンチ260は、カムドライバ258の軸方向の変位に連動して、径方向の位置が変化する。具体的には、カムパンチ260は、カムドライバ258が下側の非作動位置から上側の作動位置へと移動すると、それに連動して、径方向内側の非作動位置から径方向外側の作動位置へと移動する。また、カムパンチ260は、カムドライバ258が上側の作動位置から下側の非作動位置へと移動すると、それに連動して、径方向外側の作動位置から径方向内側の非作動位置へと移動する。径方向外側の作動位置にあるときのカムパンチ260は、上面視で、ロータシャフト34の内周面の形態に応じた外形(例えば全体として略円形又は楕円形の外形)を有する。この際、径方向外側の作動位置にあるときのカムパンチ260は、上面視で、ロータシャフト34の内周面の形状を径方向外側にオフセットした外形(後出の図14Bの一点鎖線参照)を有してよい。
【0060】
カムパンチ260は、径方向内側に空洞部262を有する。空洞部262は、カムパンチベース256のスライド孔2564から連続し、基準軸Iを軸心として軸方向に延在する。なお、空洞部262は、上面視で、カムドライバ258の駆動部2584に対応した形態を有する。なお、空洞部262は、基準軸Iに関して回転対称の断面形状(水平面で切断した際の断面に係る形状)を有してよい。
【0061】
カムパンチ260は、空洞部262を形成する内周面に、上下方向に対して傾斜する第1傾斜面2601を有する。第1傾斜面2601は、カムドライバ258の駆動部2584の第2傾斜面25842が接触する非接触部を形成する。第1傾斜面2601は、図14Aを参照して後述するように、カムパンチ260が駆動部2584から受ける力の一部を、径方向の力に変換する機能を有する。
【0062】
カムパンチ260は、ロータシャフト34の内周面に径方向の力を付与することで、ロータシャフト34を塑性変形を伴う態様で拡径させる機能を有する。かかる機能を適切に実現できるように、カムパンチ260は、好ましくは、高い剛性/硬度を有するように構成される。例えば、カムパンチ260は、金属材料から形成され、実質的に剛体(後述する成形加圧工程において実質的に変形しない剛体)であってよい。金属材料から形成される場合、カムパンチ260は、ウレタンに比べると摩耗等がなく、有意に高い耐久性を有することができる。
【0063】
図3から図5に示す例では、一例として、カムパンチ260は、周方向に4分割された形態であり、各分割体がカムスライダ2602を形成する。なお、変形例では、カムパンチ260は、5分割以上で分割されてもよいし、3分割以下で分割されてもよい。
【0064】
各カムスライダ2602は、カムパンチベース256のスライド支持部2562に対して径方向に沿って径方向外側にスライド可能となる態様で、スライド支持部2562に支持される。図3及び図4に示す例では、各カムスライダ2602は、スライド支持部2562と係合する係合溝2604を有し、係合溝2604は、径方向に視て、スライド支持部2562に断面形状に対応した下向きのT字状の断面形状を有し、等断面で径方向に延在する。なお、図3から図5に示す例では、各カムスライダ2602は、4分割に係る分割体であるので、それぞれのスライド方向は、直交する関係であってよい。
【0065】
各カムスライダ2602は、駆動部2584の4方の側面における各第2傾斜面25842に、一対一で対応する関係で、上述した第1傾斜面2601を形成する。また、各カムスライダ2602の第1傾斜面2601は、全体として、空洞部262の径方向外側の境界面を形成する。各カムスライダ2602の第1傾斜面2601の傾斜角度(例えば基準軸Iに対する傾斜角度であり、後出の図14Aの角度θの補角参照)は互いに同じであってよい。
【0066】
コア押さえ280は、上型固定部252に対して上下動可能な態様で上型固定部252に支持される。コア押さえ280は、ロータコア32を形成する鋼板の積層体の上側端面に面接触し、下側(Z2側)へと押圧可能である。
【0067】
軸力パンチ290は、上型固定部252(及びスライド214)に対して上下動可能な態様で配置される。軸力パンチ290は、ロータシャフト34を形成するシャフト部材の上側端面に面接触し、下側(Z2側)へと押圧可能である。なお、軸力パンチ290は、上型固定部252(及びスライド214)から独立して上下動可能とされる。従って、軸力パンチ290は、コア押さえ280による押圧力(ロータコア32を形成する鋼板の積層体の上側端面への押圧力)に依存しない態様で、ロータシャフト34を形成するシャフト部材の上側端面を押圧可能である。
【0068】
下型270は、ワーク支持部272と、ドライバ駆動ピン274とを含む。
【0069】
ワーク支持部272は、プレス機210のボルスタ212に固定される下型固定部である。ワーク支持部272は、ロータコア32及び中空のロータシャフト34を含むワークを下側から支持する。この際、ワーク支持部272は、ロータコア32の内径側にロータシャフト34が配置される状態を形成する(後出の図8参照)。本実施例では、ワーク支持部272は、ロータコア32を介してロータシャフト34を支持する(すなわちロータシャフト34を直接的には支持しない)。
【0070】
ドライバ駆動ピン274は、加圧成形機構25の一構成要素として機能する。ドライバ駆動ピン274は、カムドライバ258の下端面(すなわち駆動部2584の下端面)に上下方向に当接可能な態様で、ワーク支持部272に対して上下方向に移動可能である。ドライバ駆動ピン274は、ベッドノックアウトピン2122と一体となる態様で、上下方向に移動可能とされてよい。
【0071】
ドライバ駆動ピン274は、カムドライバ258の下端面に上端面が当接した状態において、ベッドノックアウトピン2122からの軸方向の荷重に基づいて、カムドライバ258に対して軸方向の力を付与する。すなわち、ドライバ駆動ピン274は、ベッドノックアウトピン2122からの軸方向の荷重をカムドライバ258に伝達することで、カムドライバ258に対して軸方向の力(上向きの力)を付与する。
【0072】
このような製造装置200によれば、既存のプレス機210を利用して、以下で説明する製造方法によって、ロータ30を適切に製造できる。なお、変形例では、プレス機210に代えて、設備が利用されてもよい。製造装置200の動作例は、以下で説明する本製造方法に関連して説明する。
【0073】
図6は、本製造方法の流れを示す概略フローチャートである。図7図10図12図13、及び図16は、図6に示すいくつかの工程における製造装置200におけるロータシャフト34及びロータコア32の状態を概略的に示す断面図である。図11図15図17、及び図18は、図6に示すいくつかの工程におけるロータシャフト34及びロータコア32に付与される荷重の状態を、更に概略的に示す断面図であり、基準軸Iに対して一方側だけを示す概略図である。図14Aは、図13のQ1部の拡大図であり、成形加圧工程の荷重の伝達態様の説明図である。図14Bは、成形加圧工程におけるカムパンチ260の状態を上面視で示す説明図である。図14Bには、径方向内側の非作動位置にあるときのカムパンチ260が示されるとともに、径方向外側の作動位置にあるときのカムパンチ260の外形を表す一点鎖線が示されている。
【0074】
まず、本製造方法は、図7に示すように、ワークとして、ロータシャフト34を形成するシャフト部材及びロータコア32を形成する鋼板の積層体のそれぞれ(互いに結合されていない状態)を、準備する準備工程(ステップS500)を含む。なお、以下、ロータシャフト34を形成するシャフト部材は、単に「ロータシャフト34」と称し、ロータコア32を形成する鋼板の積層体は、単に「ロータコア32」と称する。
【0075】
なお、この段階で、ロータシャフト34は、上述した突出部340や、第1段差部346、第2段差部347を有してもよい。また、この段階でのロータシャフト34は、製品状態で第1内径r1の内周面を形成する部分は、内径r1’を有し、内径r1’は、製品状態の第1内径r1(図1参照)よりもわずかに小さくてよい。また、この段階でのロータシャフト34は、外径r20がロータコア32の内径r10と同じ又は内径r10よりもわずかに小さくてよい。
【0076】
また、ロータシャフト34と同様に、この段階でのロータコア32の第2シャフト部3420の部分は、外径が製品状態の外径よりもわずかに小さくてよい。これは、後述する一体化工程(ステップS506)においてロータコア32は、ロータシャフト34の拡径に伴って径方向外側にわずかに変形するためである。
【0077】
ついで、本製造方法は、図8に示すように、ロータシャフト34及びロータコア32を、製造装置200に対してセットする工程(ステップS501)を含む。この際、製造装置200の下型270のワーク支持部272は、ロータコア32を下側から支持し、ロータコア32の下側への移動(変位)を拘束する。また、この際、ロータシャフト34は、突出部340がロータコア32に軸方向に当接することで、ロータコア32に支持される。このようにして、ステップS501が終了した状態では、ロータシャフト34は、ロータコア32を介してワーク支持部272に支持される。図8には、ステップS501の終了時点の状態が模式的に示されている。
【0078】
なお、ロータシャフト34及びロータコア32は、必ずしも同時に製造装置200のワーク支持部272に対してセットされる必要はなく、順に製造装置200のワーク支持部272に対してセットされてもよい。
【0079】
ついで、本製造方法は、軸力パンチ290によりロータシャフト34を軸方向に押圧することで、ロータコア32の径方向内側の部分(軸方向に視て突出部340に重なる部分)に軸力を付与した状態を形成する工程(ステップS502)を含む。軸力パンチ290は、ロータシャフト34のZ1側の軸方向端面全体をZ2側に押圧してよい。この際、軸力パンチ290は、ベアリング14aに係る第1段差部346の軸方向端面(ベアリング14aのスラスト荷重を受ける面)もZ2側に押圧してよい(後出の図11参照)。図9には、ステップS502の終了時点の状態が模式的に示されている。なお、ロータシャフト34の下端側はワーク支持部272に軸方向に当接していないため、軸力パンチ290によりロータシャフト34に付与される力は、ロータコア32を介してのみ、ワーク支持部272で受けられる。すなわち、軸力パンチ290によりロータシャフト34に付与される力は、ロータコア32の下端を支持するワーク支持部272に、ロータコア32を介してのみ伝達される。従って、軸力パンチ290によりロータシャフト34に付与される力を効率的に利用して、製造工程中にロータコア32に軸力を発生させた状態を形成できる。この軸力パンチ290による押圧は、ロータコア32に軸力が発生した状態で後述する一体化工程(ステップS506)を実行するために、実行される。従って、軸力パンチ290による押圧状態は、後述する一体化工程(ステップS506)の間、少なくとも部分的に維持される。
【0080】
ついで、本製造方法は、準備位置まで、上型250を下降させるとともに、コア押さえ280によりロータコア32を軸方向に押圧する工程(ステップS504)を含む。図10には、ステップS504の終了時点の状態が模式的に示されている。この際、コア押さえ280は、軸方向端面320から軸方向下向きの力をロータコア32に与える。このコア押さえ280による押圧は、ロータコア32の軸方向の厚み(積み厚)を、所望の厚みに調整するために実行されてよい。コア押さえ280は、ロータコア32の径方向範囲のうちの、ロータシャフト34の突出部340よりも径方向外側の範囲を軸方向に押圧する。コア押さえ280による押圧力は、上述した軸力パンチ290による押圧力よりも有意に小さくてよい。図11に示す例では、一例として、コア押さえ280による押圧力F110が30kN~40kN程度であってよく、上述した軸力パンチ290による押圧力F111が75kN~85kN程度であってよい。コア押さえ280による押圧状態は、後述する一体化工程(ステップS506)の間、維持されてよい。
【0081】
ついで、本製造方法は、ロータシャフト34を拡径させることで、ロータコア32とロータシャフト34と一体化させる一体化工程(ステップS506)を含む。
【0082】
本実施例では、ロータシャフト34の内周面における軸方向の複数の成形対象領域のそれぞれごとに、一体化工程が実行される。この場合、軸方向の複数の成形対象領域のうちの、上から順に、一体化工程が実行されてよい。以下では、軸方向の複数の成形対象領域のうちの、今回の一体化工程で成形加圧する領域を、「今回の成形対象領域」と称する。
【0083】
また、本実施例では、軸方向の複数の成形対象領域は、ロータシャフト34におけるロータコア32に結合される軸方向範囲全体をカバーするのではなく、当該軸方向範囲のX1側端部を除く範囲をカバーする。具体的には、軸方向の複数の成形対象領域は、ロータシャフト34における第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲全体をカバーする。従って、ロータシャフト34における第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲には、成形対象領域が設定されない。
【0084】
一体化工程(ステップS506)は、ロータシャフト34の内周面における今回の成形対象領域にカムパンチ260が径方向に対向又は接触するように、ロータシャフト34に対してカムパンチ260を位置付ける成形位置決め工程(ステップS5061)を含む。図12には、軸方向の複数の成形対象領域のうちの、上から1つ目の成形対象領域が、今回の成形対象領域であるときの、ステップS5061の終了時点の状態が模式的に示されている。
【0085】
図12に示す例では、成形位置決め工程(ステップS5061)と並列的に、ドライバ駆動ピン274がカムドライバ258に当接する直前位置まで、ベッドノックアウトピン2122が上昇されている。ただし、変形例では、このようなベッドノックアウトピン2122の上昇は、成形位置決め工程(ステップS5061)の後であって、ステップS5062の前に実行されてもよいし、成形位置決め工程(ステップS5061)の前に実行されてもよい。
【0086】
一体化工程(ステップS506)は、ついで、ベッドノックアウトピン2122からの軸方向の荷重をドライバ駆動ピン274を介してカムドライバ258に対して軸方向の力に伝達することで、カムパンチ260を径方向に変位(スライド)させる成形加圧工程(ステップS5062)(荷重付与工程の一例)を含む。図13には、成形加圧工程(ステップS5062)中の状態が模式的に示されている。図13では、ドライバ駆動ピン274を介してカムドライバ258に付与される軸方向の荷重F13が矢印で模式的に示されている。
【0087】
成形加圧工程(ステップS5062)では、ドライバ駆動ピン274は、ベッドノックアウトピン2122からの軸方向の荷重に基づいて、ドライバ駆動ピン274がカムドライバ258を押し上げる。カムドライバ258が押し上げられると、図14Aに示すように、カムドライバ258の第2傾斜面25842とカムパンチ260の第1傾斜面2601とが接触した状態で、カムパンチ260が径方向外側の作動位置に向けて径方向外側に押し出される。
【0088】
カムパンチ260が径方向外側の作動位置へと変位する過程では、ロータシャフト34の内周面における今回の成形対象領域に対してカムパンチ260が径方向に当接する。そして、カムパンチ260が径方向外側の作動位置へと更に変位すると、ロータシャフト34から反力(径方向内側に向かう反力)に応じて、カムドライバ258の第2傾斜面25842とカムパンチ260の第1傾斜面2601との間の当接面に対して垂直な力F3が発生する。この力F3は、図14Aに示すように、上下方向の成分F1と、径方向外側に向かう径方向成分F2とに分けられ、その大きさは、ベッドノックアウトピン2122からの軸方向の荷重の大きさに依存する。なお、径方向成分F2の大きさは、F2=F3×sinθで表すことができる。この場合、角度θは、図14Aに示すように、水平面に対する第1傾斜面2601(及び第2傾斜面25842)の傾斜角度に対応する。
【0089】
そして、ベッドノックアウトピン2122からの軸方向の荷重を更に増加させることで(すなわち径方向成分F2を増加させることで)、カムパンチ260を径方向外側の作動位置へと更に変位させると、ロータシャフト34の塑性変形を伴う態様でカムパンチ260が作動位置まで至る。すなわち、増加された径方向成分F2は、ロータシャフト34の内周面における今回の成形対象領域(図14Aの領域P1参照)に対して径方向外側に作用し、ロータシャフト34が塑性変形を伴い拡径させる。このようにして、ドライバ駆動ピン274が作動位置まで押し上げられることでカムパンチ260が作動位置まで至ると、ロータシャフト34が塑性変形を伴い拡径する。その結果、今回の成形対象領域に対応する軸方向範囲でロータシャフト34が拡径し、ロータコア32とロータシャフト34との間の一体化が実現される。
【0090】
ここで、成形加圧工程(ステップS5062)で実現されるロータコア32とロータシャフト34との間の径方向の締め代は、ロータシャフト34の内周面にカムパンチ260が当接してから作動位置に至るまでのカムパンチ260の径方向の変位量(スライド量)Δd(図14B参照)に応じて決まる。このカムパンチ260の径方向の変位量(スライド量)Δdは、ロータシャフト34の内周面にカムパンチ260が当接したときのドライバ駆動ピン274の上下方向位置と、作動位置に至ったときのドライバ駆動ピン274の上下方向位置との間の差分によって決まる。このような差分に係る上下移動量は、ベッドノックアウトピン2122の上下方向の位置制御を介して、精度良く制御できる。このようにして、本実施例によれば、ベッドノックアウトピン2122の位置制御を介して、ロータコア32とロータシャフト34との間の径方向の締め代を精度良く制御できる。
【0091】
一体化工程(ステップS506)は、ついで、ベッドノックアウトピン2122及びドライバ駆動ピン274をわずかに下降させることで、カムドライバ258を非作動位置に戻す加圧解除工程を含む(ステップS5063)。これに伴い、カムパンチ260が作動位置から非作動位置へと径方向内側に戻される。なお、このようなカムパンチ260の径方向の移動を実現するためのリターン機構として、カムパンチ260のリング溝261(図4参照)には、リング状の弾性体(図示せず)が巻回されてもよい。この場合、弾性リングは、4つのカムスライダ2602を同時に非作動位置に向けて径方向内側へと付勢できる。
【0092】
本実施例では、このようにしてカムパンチ260の径方向内側の空洞部262に位置するカムドライバ258の駆動部2584により、カムパンチ260に径方向の力(径方向成分F2参照)を付与できる。この際、ロータシャフト34の内周面における成形対象領域(図14Aの領域P1参照)は、径方向に視て、カムパンチ260とカムドライバ258との間の接触領域(すなわち第1傾斜面2601と第2傾斜面25842との間の接触領域)に重なる。これにより、カムパンチ260を介してロータシャフト34の内周面に付与される径方向の力を、成形対象領域の軸方向範囲全体にわたって均一化することが可能となる。このようにして、本実施例によれば、成形対象領域の軸方向範囲全体にわたってロータコア32とロータシャフト34との間の締め代を適切に制御して、所望の締め代を制御することが可能となる。
【0093】
本実施例では、図15に模式的に示すように、一体化工程(ステップS506)は、ロータコア32に軸力が発生した状態で実行される。すなわち、一体化工程(ステップS506)は、ロータシャフト34の突出部340とワーク支持部272の間でロータコア32に軸力が発生している状態で実行される。従って、ロータコア32の軸方向範囲のうちの、一体化工程によりロータシャフト34に締め代により結合された軸方向範囲の部分(すなわち、第2コア部322)は、突出部340と協動して、第1コア部321に軸力を発生させる部位として機能できる。すなわち、第1コア部321は、ロータシャフト34の突出部340と第2コア部322との間で軸力を受けることができる。なお、この軸力は、上述した軸力パンチ290による押圧力に起因して生じる。従って、軸力パンチ290による押圧力F111(図11参照)の大きさは、第1コア部321に生じる軸力が所望の値になるように適合されてよい。
【0094】
また、本実施例では、一体化工程(ステップS506)は、軸方向に分割された各成形加圧領域に対して、一の成形加圧領域ごとに、繰り返し実行される(ステップS507)。例えば、図13に示すような上側から1つ目の成形加圧領域に対して一体化工程(ステップS506)が終了すると、上側から2つ目の成形加圧領域に対して次の一体化工程(ステップS506)が実行される。具体的には、上側から2つ目の成形加圧領域に対して成形位置決め工程(ステップS5061)が実行され、次いで、上側から2つ目の成形加圧領域に対して成形加圧工程(ステップS5062)が実行される。以下同様にして一番下側の成形加圧領域に対して、成形位置決め工程(ステップS5061)が実行され、次いで、図16に示すように、一番下側の成形加圧領域に対して成形加圧工程(ステップS5062)が実行されると、一体化工程(ステップS506)が終了となる。
【0095】
本実施例では、このようにロータシャフト34の内周面を軸方向で複数の成形加圧領域に分割し、成形加圧領域ごとに一体化工程(ステップS506)を実行する。図17には、軸方向で4分割された成形加圧領域P1~P4に対する成形加圧工程(ステップS5062)により付与される力(軸力パンチ290による力や拡径のための径方向の力F151からF154等)が模式的に示されている。これにより、ロータシャフト34とロータコア32との間の嵌合領域の軸方向範囲のうちの、一部だけに締め代を実質的に与えないことが可能となる。すなわち、ロータシャフト34における第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲では、拡径を行わず、締め代を実質的にゼロにすることができる。
【0096】
また、本実施例では、ロータシャフト34とロータコア32との間の嵌合領域の軸方向範囲のうちの、一部だけに締め代を付与することが可能となる。すなわち、ロータシャフト34における第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲では、拡径を行い、有意な締め代を付与することができる。また、ロータシャフト34における第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲が比較的長い場合でも、嵌合領域の軸方向範囲にわたって締め代を適切に制御して、所望の締め代を制御することが可能となる。
【0097】
このようにして、本実施例によれば、図18に模式的に示すように、ロータシャフト34とロータコア32との間の嵌合領域の軸方向範囲のうちの、第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲では、軸力F100による“軸力固定”を実現しつつ、第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲では、径方向の締結力F110による“締め代固定”を実現できる。
【0098】
なお、本実施例では、図17に模式的に示すように、一番下側の成形加圧領域(図17のP4参照)に対して成形加圧工程(ステップS5062)は、他の成形加圧領域(図17のP1~P3参照)に対する成形加圧工程(ステップS5062)と同様、ロータコア32に軸力が発生した状態で実行されてよい。すなわち、一番下側の成形加圧領域に対して成形加圧工程(ステップS5062)は、ロータシャフト34の突出部340とワーク支持部272の間でロータコア32に軸力が発生している状態で実行される。ただし、変形例では、各成形加圧領域に対する成形加圧工程(ステップS5062)のうちの、一番上側の成形加圧領域(図17の成形加圧領域P1参照)に対する成形加圧工程だけが、ロータコア32に軸力が発生している状態で実行されてもよい。すなわち、第2シャフト部3420の上側端部に締め代を付与するときの成形加圧工程だけが、ロータコア32に軸力が発生している状態で実行されてもよい。これは、原理上、ロータコア32に軸力が発生している状態で成形加圧工程(ステップS5062)により第2シャフト部3420の上側端部に締め代が付与されると、その段階から、第1コア部321に軸力が発生するためである。
【0099】
ところで、同じ内圧であってもロータシャフト34の径方向外側への変形量は、ロータシャフト34の軸方向位置に応じて異なりうる。これは、ロータシャフト34の断面形状の相違等に起因して軸方向の各位置でのロータシャフト34の剛性が異なりうるためである。例えば、同じ内圧の条件下では、ロータシャフト34の径方向外側への変形量は、ロータシャフト34とロータコア32との間の嵌合領域の軸方向範囲の中央側の方が、軸方向範囲の第2段差部347側の端部よりも大きくなりやすい。このため、嵌合領域の軸方向範囲全体にわたって同じ内圧を付与する場合、嵌合領域の軸方向範囲にわたって締め代を均一化することが難しい。
【0100】
この点、本実施例では、ロータシャフト34の内周面を軸方向で複数の成形加圧領域に分割し、成形加圧領域ごとに一体化工程(ステップS506)を実行するので、成形加圧領域ごとに、ドライバ駆動ピン274を介してカムドライバ258からカムパンチ260に付与する力F3(図14A参照)を変化させることができる。これにより、成形加圧領域ごとに、カムパンチ260を介して成形加圧領域に付与する径方向成分F2(図14A参照)を変化させることが可能である。従って、本実施例によれば、嵌合領域の軸方向範囲にわたって締め代を精度良く制御(調整)することが可能となる。このため、本実施例によれば、嵌合領域の軸方向範囲全体にわたって締め代の均一化を図ることもできる。他方、本実施例によれば、必要に応じて、嵌合領域の軸方向範囲の一部において締め代を、他の部分よりも大きくすることも可能である。
【0101】
なお、本実施例において、一体化工程(ステップS506)が上述したように個別に実行される複数の成形加圧領域は、軸方向で互いに対して重複する態様で設定されてもよい。すなわち、各成形加圧領域は、軸方向で隣接する一部がオーバーラップしてもよい。例えば、上側から1つ目の成形加圧領域の軸方向下側の一部は、上側から2つ目の成形加圧領域の軸方向上側の一部と重複してもよい。また、複数の成形加圧領域は、ロータシャフト34の内周面における軸方向の一部範囲であって、第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲を漏れなくカバーするように設定されるが、当該軸方向範囲をZ2側に超える範囲にも設定されてもよい。また、逆に、第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲の一部(ただし、第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲から離れた一部)には、成形加圧領域が設定されないこととしてもよい。
【0102】
図6に戻って、一体化工程(ステップS506)が終了すると、本製造方法は、上死点まで上型250を上昇させる工程(ステップS508)を含む。
【0103】
次いで、本製造方法は、ロータシャフト34において油穴348、349に対応する孔を形成する噴出孔形成工程(ステップS509)を含む。なお、噴出孔形成工程は、ロータシャフト34を製造装置200から取り出してから機械加工等により実現されてよい。噴出孔形成工程(ステップS509)が終了すると、最終的なロータシャフト34が出来上がる。
【0104】
ついで、本製造方法は、その他の仕上げ工程(ステップS510)を含む。その他の仕上げ工程は、永久磁石329を固定する工程や、着磁を行う工程等を含んでよい。
【0105】
このようにして、本製造方法によれば、ロータシャフト34とロータコア32との間の嵌合領域の軸方向範囲のうちの、第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲では、軸力固定を実現しつつ、第2シャフト部3420に対応する軸方向範囲では、締め代固定を実現できる。
【0106】
ここで、比較例では、図19に模式的に示すように、ロータシャフト34’とロータコア32との間の嵌合領域の軸方向範囲全体(図19の範囲SC19参照)にわたって拡径処理(図19の成形加圧領域P1’からP4’参照)を行うことで締め代を確保する。この場合、ロータシャフト34’のZ1側端部(図1ではX1側端部)(Q19部参照)に歪が発生しやすくなる。ロータシャフト34’のZ1側端部には、ベアリング14aが配置されるため、歪の影響(振動やノイズ)が顕著となりやすい。従って、ロータシャフト34’のZ1側端部(図1ではX1側端部)に歪が発生すると、歪を除去するための後加工が必要となり、コスト増加等の問題が生じる。
【0107】
これに対して、本実施例によれば、上述したように、ロータシャフト34は、第1コア部321と第2コア部322のうちの、Z1側端部に近い第1コア部321との間で、軸力固定が実現される。すなわち、ロータシャフト34のZ1側端部(図1ではX1側端部)では、締め代を付与するための拡径が実行されない。従って、本実施例によれば、上述した比較例に比べて、ロータシャフト34のZ1側端部(図1ではX1側端部)に生じうる歪を低減又は実質的に無くすことができる。
【0108】
また、本実施例によれば、上述したように、ロータシャフト34のZ1側端部(図1ではX1側端部)に歪が生じ難くすることができるので、ロータシャフト34のZ1側端部(図1ではX1側端部)の内径r3を比較的大きくすることができる。換言すると、本実施例によれば、ロータシャフト34のZ1側端部(図1ではX1側端部)の内径r3を比較的大きくする場合でも、ロータシャフト34のZ1側端部(図1ではX1側端部)に生じうる歪を比較的低く抑えることができる。これにより、ベアリング14aをロータシャフト34の径方向内側に配置することも可能となり、ベアリング14aの配置の自由度を高めることができる。
【0109】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0110】
例えば、上述した実施例では、カムパンチ260等を利用してロータシャフト34の拡径(締め代)を実現しているが、他の方法が利用されてもよい。例えば、ロータシャフト34の中空部34Aに高圧流体を導入し、ロータシャフト34を拡径することで、ロータシャフト34とロータコア32との間の締め代を確保する技術(ハイドロフォーミング)が利用されてもよい。このような技術では、高圧流体をロータシャフト34の中空部34A内に封止するためのシール構造とは別に、軸力パンチ290に対応する軸力パンチが設けられてもよい。この場合も、軸力パンチは、軸力パンチ290と同様に、ロータシャフト34を軸方向に押圧してよい。
【0111】
ところで、ロータシャフト34のような中空の部材をハイドロフォーミングの圧力(内圧)によって拡径させる場合、バルジ変形が生じやすい。具体的には、図20に模式的に示すように、ハイドロフォーミングの圧力(内圧)に起因してロータシャフト34が拡径する際、図20の状態S400から状態S401への変化で示すように、ロータシャフト34の径方向外側への変形の仕方(拡径量)が軸方向に沿って均一化しない。より具体的には、中央部の内径r40が端部の内径r41よりも大きくなる樽型のバルジ変形が生じやすくなる。ハイドロフォーミングにより拡径を行う場合、このような樽型のバルジ変形が生じ、ロータコア32の軸方向両端部での締め代が比較的小さくなりやすい。しかしながら、本変形例によれば、軸力パンチによりロータコア32に軸力が発生させた状態でハイドロフォーミングを行うことで、ロータコア32の軸方向一方側(ロータシャフト34の突出部340が設けられる側)の第1コア部321においては軸力固定を実現できる。すなわち、ロータコア32の軸方向端部での締め代が比較的小さくなる場合でも、それを補う態様で軸力固定を実現できる。その結果、上述した実施例と同様の効果(歪低減効果)を享受しつつ、ロータシャフト34及びロータコア32を適切に結合させることができる。なお、ハイドロフォーミングを行う場合、ロータコア32の軸方向他方側(ロータシャフト34の突出部340が設けられない側)の部分においては、ロータコア32の軸方向一方側と同様の軸力固定が実現されるように、図1Aに示すようなエンドプレート35Bにより、必要な軸力を発生させてもよい。なお、本変形例においては、ロータコア32の軸方向両端部を除く部分が、実質的に締め代のみに基づきロータシャフト34に結合する部分(第2コア部)に対応する。
【0112】
また、上述した実施例では、上述したように、ロータシャフト34における第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲には、成形対象領域が設定されないことで、ロータシャフト34における第1シャフト部3410側の軸方向端部での歪を低減するが、これに限られない。例えば、ロータシャフト34における第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲に、成形対象領域を設定しつつ、拡径量を有意に小さくすることで、ロータシャフト34における第1シャフト部3410側の軸方向端部での歪を低減してもよい。すなわち、ロータシャフト34における第1シャフト部3410に対応する軸方向範囲に、成形対象領域を設定しつつ、カムパンチ260の径方向の変位量(スライド量)Δd(図14B参照)を有意に小さくすることで、実質的に同様の効果を実現してもよい。この場合、第1シャフト部3410と第1コア部321とは、軸力による固定と締め代による固定の組み合わせにより結合されるが、軸力による固定力が優位であってよい。
【0113】
また、上述した実施例では、突出部340はロータシャフト34の一部としてロータシャフト34と一体的に形成されているが、別部材(別ピース)としてロータシャフト34に固定される部位であってもよい。
【符号の説明】
【0114】
1・・・モータ(回転電機)、32・・・ロータコア(コア部材)、321・・・第1コア部、322・・・第2コア部、34・・・ロータシャフト(シャフト部材)、340・・・突出部、200・・・製造装置、272・・・ワーク支持部、25・・・加圧成形機構(拡径装置、結合装置)、290・・・軸力パンチ(軸力発生装置、結合装置)
図1
図1A
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20