(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111916
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】固定具、吊上治具、及び施工方法
(51)【国際特許分類】
F16B 41/00 20060101AFI20240813BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240813BHJP
B66C 1/66 20060101ALI20240813BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20240813BHJP
F16B 45/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16B41/00 A
E04G21/16
B66C1/66 P
F16B41/00 F
F16B35/00 Z
F16B45/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016638
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】593011254
【氏名又は名称】翠興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】川浪 裕貴
【テーマコード(参考)】
2E174
3F004
3J038
【Fターム(参考)】
2E174BA01
2E174CA03
2E174CA38
2E174EA05
3F004EA27
3J038AA01
3J038BA12
3J038BA15
(57)【要約】
【課題】高所作業場所の下を通行する通行人や車両の安全性を確保するとともに、作業効率を高めることができる固定具、吊上治具、及び施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】吊上治具1は連結具10と固定具20から構成されており、連結具10は吊り上げ対象である外壁パネル60に固定具20で固定される。固定具20は第1締結部材30と第2締結部材40が抜止部材44により分離不能に一体化されている。また、連結具10と固定具20は接続体50により分離不要に一体化されている。以上の構成により、高所においてクレーンフック70で吊り上げられた状態の連結具10を外壁パネル60から取り外す際に、作業員が誤って手を滑らせることがあっても、固定具20が下方向に落下したり、或いは紛失させることを防止できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部、及び雄ネジが螺刻された軸部を有する第1締結部材と、
一面側から他面側に向けて前記軸部が挿通可能であって前記頭部よりも小さい内径の挿通孔が貫通形成されるとともに、所定の位置に接続体が接続される接続部を含む本体部を有する第2締結部材と、
前記第1締結部材の前記第2締結部材に対する抜け方向の移動を規制する抜止部材と、を備える
固定具。
【請求項2】
前記抜止部材は、前記軸部の外径と略等しい内径である環状のスナップリングであり、
前記挿通孔は、前記軸部の外径と略等しい内径であり一面側から軸方向に向けて形成された第1の挿通孔、該第1の挿通孔に連接するとともに前記スナップリングの外径と略等しい内径であり他面側に向けて形成された第2の挿通孔から構成され、
前記スナップリングは前記第2の挿通孔の内周面に装着された
請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
前記抜止部材は少なくとも2つのスナップリングが前記第2の挿通孔内に重合して装着された
請求項2に記載の固定具。
【請求項4】
前記接続部は、前記本体部の他面側の一部が切り欠かれた切欠部が形成されるとともに、該切欠部の切欠面から一面側に向けて接続体が接続される貫通孔が形成された
請求項1または請求項2に記載の固定具。
【請求項5】
外壁パネルをクレーンフックで吊り上げる際に使用する吊上治具であり、
外壁パネルの所定の位置に固定され、クレーンフックが係止される吊上ワイヤが接続される係止部を有する連結具と、
一端が前記連結具に接続された接続体と、
頭部及び雄ネジが螺刻された軸部を有し前記連結具を外壁パネルに対して螺着可能である第1締結部材、一面側から他面側に向けて前記第1締結部材の前記軸部が挿通可能であって前記頭部よりも小さい内径の挿通孔が貫通形成されるとともに所定の位置に前記接続体の他端が接続される接続部を含む第2締結部材、前記第1締結部材の前記第2締結部材に対する抜け方向の移動を規制する抜止部材を有する固定具と、を備える
吊上治具。
【請求項6】
第1締結部材の第2締結部材に対する抜け方向の移動が規制された固定具の前記第2締結部材と、クレーンフックが係止される吊上ワイヤが接続される係止部を有する連結具とを接続体により接続して一体化する工程と、
前記第1締結部材を螺着して前記連結具を前記外壁パネルに固定する工程と、
クレーンフックを前記吊上ワイヤに係止して前記外壁パネルを吊り上げる工程と、
前記第1締結部材を緩めて前記連結具を前記外壁パネルから取り外す工程と、
前記外壁パネルを躯体に取り付ける工程と、
前記接続体により一体化された前記連結具、及び前記固定具を回収する工程と、を備える
施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定具、吊上治具、及び施工方法に関する。詳しくは、高所作業場所の下を通行する通行人や車両の安全性を確保するとともに、作業効率を高めることができる固定具、吊上治具、及び施工方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルの高層化とともに、その外壁材としてカーテンウォールが一般的に採用されている。カーテンウォールの建物への取り付けは、通常、地上に設置されたカーテンウォールを一枚ずつ垂直にクレーンで吊上げ、所定の階床まで揚重し、作業員がこれを建物側に引込んで建物の外面に取付け、このような作業を上方階床に向けて順次繰り返すことにより、建物の外壁を仕上げるものである。
【0003】
そして、従来より、カーテンウォールをはじめとする外壁パネルをクレーンフックで懸架して建物の各階に移動する際の外壁パネルの取付方法や吊上治具が提案されている。例えば、特許文献1には、躯体の竪骨に上下方向に間隔をあけてガイド部材を取り付け、各外壁パネルの左右両側にガイド部材に係合する係合溝を設けて、外壁パネルの係合溝をガイド部材に係合して案内しながら外壁パネルを所定位置まで下降して、外壁パネルを躯体に固定することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クレーンフックに懸架される上部吊桁と、上部吊桁の下部に一体かつ平行に配置された下部吊桁と、下部吊桁に一端を揺動可能にヒンジされた複数のアームと、各アームの先端に各吊桁と平行に連結され、かつ上部吊桁より繰り出されるワイヤを介して折畳み展開可能に水平支持される複数の補助ビームと、上部吊桁に配置されたワイヤ巻き取り用モータを備え、複数枚の外壁パネルを一度に安定して取付位置に供給できる吊上治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-10037号公報
【特許文献2】特開平8-144530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、外壁パネルをクレーンフックで懸架する場合、外壁パネルには吊上ワイヤが接続される係止孔が形成された連結具が取り付けられる。この連結具の取り付けは、例えばボルトと座金により外壁パネルに直接取り付けるようになっている。そして、クレーンで吊り上げられた外壁パネルが建物の所定の階床まで揚重されると、作業員はクレーンフックと吊上ワイヤにて係止めした状態で外壁パネルを躯体に対して取り付ける。そして外壁パネルに取り付けられた連結具を外壁パネルから取り外すことで、外壁パネルの躯体への取り付けが完了する。
【0007】
この連結具を外壁パネルから取り外す作業時にボルト、及び座金を落下させてしまうと、部材等の損傷や遺失を招き、また下方にある建築物や構造物、車輌に損傷を与えるおそれがある。さらに住宅密集地での工事の場合には、建設敷地内のみならず、外部に落下することもあり、工事関係者だけでなく、歩行者や通行車両等の第三者に対して多大な被害や損害が発生する。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、高所作業場所の下を通行する通行人や車両の安全性を確保するとともに、作業効率を高めることができる固定具、吊上治具、及び施工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の固定具は、頭部、及び雄ネジが螺刻された軸部を有する第1締結部材と、一面側から他面側に向けて前記軸部が挿通可能であって前記頭部よりも小さい内径の挿通孔が貫通形成されるとともに、所定の位置に接続体が接続される接続部を含む本体部を有する第2締結部材と、前記第1締結部材の前記第2締結部材に対する抜け方向の移動を規制する抜止部材とを備える。
【0010】
ここで、第1締結部材が頭部、及び雄ネジが螺刻された軸部を有することにより、第1締結部材の軸部を固定対象物に螺着させることで、部品と部品とを締め付けて強固に固定することができる。
【0011】
また、一面側から他面側に向けて軸部が挿通可能であって頭部よりも小さい内径の挿通孔が貫通形成された第2締結部材を備えることにより、第1締結部材で部品と部品とを締結する際に第1締結部材と部品との間に第2締結部材を介在させることで第1締結部材の緩みを防止するとともに、第1締結部材により締め付ける部品の損傷を防止することができる。
【0012】
また、第2締結部材は所定の位置に接続体が接続される接続部を含む本体部を有することにより、第2締結部材を接続体に接続して固定することができる。従って、例えば接続体の一端を締結する一の部品に接続し、接続体を第2締結部材の接続部に接続することで、部品と第2締結部材が常に一体化されるため、施工作業時に誤って第2締結部材を落下、紛失する虞がない。
【0013】
また、第1締結部材の第2締結部材に対する抜け方向の移動を規制する抜止部材を備えることにより、第1締結部材の軸部を第2締結部材の挿通孔に挿入した状態で固定具が一体化される。そして、第2締結部材は前記した通り、接続体により部品等に固定される場合には、作業員が施工作業時に誤って固定具を手から離したとしても、固定具を階下に落としたり、紛失する虞がない。
【0014】
また、抜止部材は、軸部の外径と略等しい内径である環状のスナップリングである場合には、構造を複雑化することなく第1締結部材の第2締結部材に対する抜け止めを実現することができる。
【0015】
また、挿通孔は、軸部の外径と略等しい内径であり一面側から軸方向に向けて形成された第1挿通孔、第1挿通孔に連接するとともにスナップリングの外径と略等しい内径であり他面側に向けて形成された第2挿通孔から構成され、スナップリングは第2挿通孔の内周面に装着されている場合には、第1締結部材を第2締結部材の一面側から他面側に向けて挿通した場合に、第2締結部材の他面側に向けて開放された第2挿通孔にスナップリングが装着されるため、第1締結部材の第2締結部材の抜け方向の移動を確実に規制することができる。
【0016】
また、抜止部材は少なくとも2つのスナップリングが第2挿通孔内に重合して装着されている場合には、スナップリングの強度を十分に確保することができるため、第1締結部材の抜け方向の強い力が作用した場合でもスナップリングの破損を防止して、第1締結部材と第2締結部材とが分離することを確実に防止することができる。
【0017】
また、接続部は、本体部の他面側の一部が切り欠かれた切欠部が形成されるとともに、切欠部の切欠面から一面側に向けて接続体が接続される貫通孔が形成されている場合には、この貫通孔に接続体を接続することができる。そして、接続体を接続部に接続する場合には、切欠部により軸方向に一定のクリアランスが形成されるため、第1締結部材を締め付けて部品と部品とを固定する場合でも接続部に接続された状態の接続体の一部が障害となって第1締結部材の締め付けが緩むこともない。
【0018】
前記の目的を達成するために、本発明の吊上治具は、外壁パネルをクレーンフックで吊り上げる際に使用する吊上治具であり、外壁パネルの所定の位置に固定され、クレーンフックが係止される吊上ワイヤが接続される係止部を有する連結具と、一端が前記連結具に接続された接続体と、頭部及び雄ネジが螺刻された軸部を有し前記連結具を外壁パネルに対して螺着可能である第1締結部材、一面側から他面側に向けて前記第1締結部材の前記軸部が挿通可能であって前記頭部よりも小さい内径の挿通孔が貫通形成されるとともに所定の位置に前記接続体の他端が接続される接続部を含む第2締結部材、前記第1締結部材の前記第2締結部材に対する抜け方向の移動を規制する抜止部材を有する固定具とを備える。
【0019】
ここで、外壁パネルの所定の位置に固定され、クレーンフックが係止される吊上ワイヤが接続される係止部を有する連結具を備えることにより、連結具を外壁パネルに固定するとともにクレーンフックが係止される吊上ワイヤを係止部に接続することで、外壁パネルを躯体の所定の位置までクレーンにより吊り上げることができる。
【0020】
また、一端が連結具に接続された接続体を備えることで、後記する通り、接続体により連結具と固定具を一体化することができるため、例えば高所での作業時に作業員が誤って手を滑らせた場合でも、固定具が階下に落下、或いは固定具を紛失する虞がない。
【0021】
また、固定具が、頭部及び雄ネジが螺刻された軸部を有し連結具を外壁パネルに対して螺着可能である第1締結部材を有することにより、第1締結部材の軸部を固定対象物である連結具と外壁パネルに螺着させることで、連結具と外壁パネルとを締め付けて強固に固定することができる。
【0022】
また、一面側から他面側に向けて第1締結部材の軸部が挿通可能であって頭部よりも小さい内径の挿通孔が貫通形成されるとともに所定の位置に接続体の他端が接続される接続部を含む第2締結部材を有することにより、第1締結部材で連結具と外壁パネルとを締結する際に、第1締結部材と連結具との間に第2締結部材を介在させることで第1締結部材の緩みを防止するとともに、第1締結部材により締め付けられる連結具の損傷を防止することができる。
【0023】
また、固定具が、第1締結部材の第2締結部材に対する抜け方向の移動を規制する抜止部材を有することにより、第1締結部材の軸部を第2締結部材の挿通孔に挿入した状態で固定具が一体化される。そして、第2締結部材は前記した通り、接続体により連結具に固定されるため、作業員が施工作業時に手を滑らす等により誤って固定具を手から離したとしても、固定具を階下に落としたり、紛失する虞がない。
【0024】
前記の目的を達成するために、本発明の施工方法は、第1締結部材の第2締結部材に対する抜け方向の移動が規制された固定具の前記第2締結部材と、クレーンフックが係止される吊上ワイヤが接続される係止部を有する連結具とを接続体により接続して一体化する工程と、前記第1締結部材を螺着して前記連結具を前記外壁パネルに固定する工程と、クレーンフックを前記吊上ワイヤに係止して前記外壁パネルを吊り上げる工程と、前記外壁パネルを躯体に取り付ける工程と、前記第1締結部材を緩めて前記連結具を前記外壁パネルから取り外す工程と、前記接続体により一体化された前記連結具、及び前記固定具を回収する工程と、を備える。
【0025】
ここで、第1締結部材の第2締結部材に対する抜け方向の移動が規制された固定具の第2締結部材と、クレーンフックが係止される吊上ワイヤが接続される係止部を有する連結具とを接続体により接続して一体化する工程を備えることにより、固定具と連結具とが接続体により一体化される。さらに、固定具である第1締結部材と第2締結部材とは、抜け方向の移動が規制されているため、例えば第1締結部材と第2締結部材がボルトと座金であっても互いに分離することがない。
【0026】
また、第1締結部材を螺着して連結具を外壁パネルに固定する工程を備えることにより、連結具を外壁パネルの所定の位置に位置決めした状態で、第1締結部材により締め付けて強固に固定することができる。
【0027】
また、クレーンフックを吊上ワイヤに係止して外壁パネルを吊り上げる工程を備えることにより、外壁パネルをクレーンで吊り上げて、設置する躯体の所定の高さ位置まで安全に吊り上げることができる。
【0028】
また、第1締結部材を緩めて連結具を外壁パネルから取り外す工程を備えることにより、外壁パネルを躯体の設置位置まで吊り上げたら、外壁パネルから連結具を取り外して外壁パネルを躯体に設置する準備が整う。
【0029】
また、外壁パネルを躯体に取り付ける工程を備えることにより、クレーンで吊り上げた外壁パネルを取付位置で待機する作業員により躯体に取り付けることができる。
【0030】
また、接続体により一体化された連結具、及び固定具を回収する工程を備えることにより、連結具と固定具とを一度の操作で回収することができる。このとき、固定具は、前記した通り抜け止めが施されているため、作業員による高所での作業時に手を滑らせた場合でも、固定具を階下に落としたり、或いは紛失する虞がない。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る固定具、吊上治具、及び施工方法は、高所作業場所の下を通行する通行人や車両の安全性を確保するとともに、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係る吊上治具の外観図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る固定具の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る固定具の裏面側からみた斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る吊上治具を回収する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係る固定具、吊上治具、及び施工方法について、図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、各図においては、説明の便宜上、外壁パネルをクレーンで吊り上げる方向を上方向、上方向の反対方向を下方向、上方向、及び下方向により表される軸方向を鉛直軸、鉛直軸と垂直な軸方向を水平軸とそれぞれ定義する。
【0034】
まず、
図1を用いて本発明の実施形態に係る吊上治具1について説明する。吊上治具1は、例えば外壁パネル60をクレーンで吊り上げるための治具であり、連結具10、及び固定具20から構成されている。
【0035】
ここで、必ずしも、吊上治具1の用途として外壁パネル60の吊り上げに限定されるものではないが、以下では、説明の便宜上、外壁パネル60を吊り上げる場合について説明する。
【0036】
[連結具]
連結具10は基部11、及び基部11の略中央で鉛直方向に立設する係止部12から構成されている。基部11は、係止部12を中心として左右一対に固定孔13が形成されている。また、外壁パネル60の側面の所定の位置には、基部11の固定孔13と略同じ大きさの固定孔(図示しない)が形成されている。
【0037】
そして、連結具10の固定孔13と外壁パネル60の固定孔とを位置合わせした状態で固定具20を装着して連結具10を外壁パネル60に対して強固に締め付け固定することができる。
【0038】
係止部12の所定の位置にはクレーンフック70が係止可能な吊上ワイヤ80が接続される係止孔14が形成されている。また、外壁パネル60の側面の均等な位置には一対の連結具10が設置される。そして、それぞれの連結具10に接続された吊上ワイヤ80を一つのクレーンフック70で係止することで、外壁パネル60を安定した状態で上方向の所定の位置まで吊り上げることができる。
【0039】
ここで、必ずしも、連結具10は基部11と係止部12から構成されている必要はなく、固定具20を用いて外壁パネル60に固定できればよい。
【0040】
また、必ずしも、1枚の外壁パネル60に対して一対の連結具10が設置されている必要はない。連結具10の設置数や設置位置は、吊り上げる外壁パネル60の大きさや重量に応じて適宜変更することができるものとする。
【0041】
係止部12には、金属ワイヤからなる接続体50の一端が、係止部12の所定の位置に形成された貫通孔(符号を付さない)に接続される。この接続体50の他端は、後記する固定具20の第2締結部材40の本体部41に接続され、連結具10と固定具20は接続体50により常に一体化されている。
【0042】
[固定具]
固定具20は、第1締結部材30、及び第2締結部材40から構成されている。
図2に示すように、第1締結部材30は固定対象である連結具10と外壁パネル60とを締め付けるための金属製のボルトであり、頭部31、及び外壁パネル60に対して螺着可能な雄ネジ33が螺刻された軸部32から構成されている。
【0043】
第2締結部材40は第1締結部材30で連結具10と外壁パネル60とを締め付ける際に、第1締結部材30の頭部31と連結具10との間に介在して第1締結部材30の締め付け強度を高めるための金属製の座金である。
【0044】
ここで、必ずしも、第1締結部材30、及び第2締結部材40は金属製である必要はなく、ある程度の強度を有するものであれば材質は特に限定されるものではない。
【0045】
第2締結部材40は、所定の厚みを有する平板状の本体部41を有し、本体部41の略中心部には本体部41の表面42から裏面43に向けて貫通する挿通孔44が形成されている。挿通孔44は、表面42から軸方向に向けて形成された第1挿通孔441と、第1挿通孔441に連接して、裏面に向けて軸方向に形成された第2挿通孔442から構成されている。
【0046】
ここで、必ずしも、挿通孔44は本体部41の略中心部に形成されている必要はなく、第1締結部材30を締め付けた際に頭部31の全体が本体部41に接触する位置であれば特に限定されるものではない。
【0047】
第1挿通孔441の内径は、第1締結部材30の軸部32の外径と略同じか、或いはやや大きく形成されており、第1締結部材30の軸部32が表面42から裏面43に向けて挿通自在となっている。また、第1挿通孔441の内径は、第1締結部材30の頭部31の外径よりも小さく形成されているため、第1締結部材30を挿通孔44に挿通する場合には、頭部31において挿通方向の移動が規制されるため、連結具10と外壁パネル60とを強固に締め付け固定することができる。
【0048】
第2挿通孔442の内径は第1挿通孔441の内径よりも大きく形成されており、第1挿通孔441と第2挿通孔442の連接部分には段部443が形成される。
【0049】
本体部41の端部側には、前記した接続体50の他端が接続される接続部45を有している。接続部45は、本体部41の裏面43の一部が切り欠かれた切欠部451が形成され、さらにこの切欠部451の切欠面から表面42に向けて貫通する貫通孔452が形成されている。そして、貫通孔452には接続体50の他端が接続されるための環状体453が取り付けられており、該環状体453に接続体50の他端であるホール部51を接続することで本体部41に対する接続体50の接続が完了する。
【0050】
ここで、必ずしも、接続体50の本体部41への接続は、前記した方法に限定されるものではなく周知の構造を適宜採用することができるものとする。例えば、本体部41に凸部、接続体50に凹部を有した凹凸嵌合構造を採用してもよい。
【0051】
また、必ずしも、接続体50と本体部41との接続は、接続体50の他端を環状体453に接続する必要はなく、接続体50の他端を貫通孔452に直接挿通したうえで、ホール部51を形成して留め具52により固定してもよい。
【0052】
また、必ずしも、接続部45には切欠部451が形成されている必要はない。但し、切欠部451が形成されていることにより、本体部41と連結具10との間に一定のクリアランスが確保される。そのため、第1締結部材30を締め付ける場合でも環状体453が障害となって第1締結部材の締め付けが緩むこともないため、切欠部451は形成されていることが好ましい。
【0053】
第1締結部材30を第2締結部材40に挿通した状態で、抜止部材46を装着することで第1締結部材30の第2締結部材40からの抜け方向への移動が規制される。この抜止部材46はC型環状の2つのスナップリング461、462から構成されている。スナップリング461、462は、内径が第1締結部材30の軸部32の外径よりもやや大きく、外径は第2挿通孔442の内周と略同じ大きさに構成されている。
【0054】
それぞれのスナップリング461、462は、
図3に示すように、第1締結部材30が第2締結部材40の挿通孔44に挿通された状態で、第1締結部材30の軸部32の先端側から嵌め込まれ、第1挿通孔441と第2挿通孔442との連接部分に形成された段部443に装着される。
【0055】
以上の構成により、第1締結部材30の第2締結部材40に対する抜け方向の移動が規制されるため、固定具20が連結具10と外壁パネル60に締め付け固定されていない場合でも、第1締結部材30と第2締結部材40は常に一体化されたものとなる。
【0056】
ここで、必ずしも、抜止部材46として2つのスナップリング461、462を装着する必要はない。第1締結部材30の第2締結部材40に対する抜け方向の移動を規制することが可能であれば、1つ、或いは3つ以上のスナップリングが装着されてもよい。
【0057】
また、必ずしも、抜止部材46としてスナップリングを採用する必要はない。第1締結部材30の第2締結部材40に対する抜け方向の移動が規制できる構造であればいかなる構造であってもよく、また所定の化学材料を塗布することで抜け止めを防止することも可能である。
【0058】
以上が本発明の実施形態に係る吊上治具であるが、以下では、係る吊上治具を用いた施工方法について説明する。
【0059】
[事前準備]
まず、事前準備として第1締結部材30を第2締結部材40の挿通孔44に挿通した状態で抜止部材46を装着することで固定具20を一体化する。具体的には、前記した通り、第1締結部材30を第2締結部材40に挿通した状態で、2つのスナップリング461、462を第2挿通孔442に装着することで固定具20の一体化作業が完了する。
【0060】
[固定具と連結具の接続]
次に接続体50の一端を連結具10に形成された貫通孔に接続し、接続体50の他端を抜け止め防止が施された固定具20の第2締結部材40の接続部45の環状体453に接続する。これにより、連結具10と固定具20とは接続体50により一体化される。
【0061】
[連結具の外壁パネルへの固定]
連結具10の固定孔13と外壁パネル60の固定孔とを合わせた状態で連結具10の基部11に固定具20を設置する。そして所定の工具を用いて、第1締結部材30を締め付けることで雄ネジと雌ネジの螺着により連結具10と外壁パネル60とが強固に固定される。
【0062】
[クレーンによる吊り上げ準備]
連結具10の係止部12に吊上ワイヤ80の一端を接続するとともに、吊上ワイヤ80の他端をクレーンに接続されているクレーンフック70に係止させる。
【0063】
[外壁パネルの吊り上げ]
クレーンフック70と吊上ワイヤ80とが係止されていることを確認したら、周囲の安全を確認しながらクレーンで外壁パネル60を上方向に吊り上げるとともに、必要に応じて水平移動させながら外壁パネル60を躯体の設置位置まで移動させて固定する。
【0064】
[外壁パネルからの連結具の取り外し]
外壁パネル60を所定の位置に固定したら、クレーンフック70が吊上ワイヤ80に係止されている状態で固定具20の第1締結部材30を緩めて連結具10を外壁パネル60から取り外す。
【0065】
この第1締結部材30を緩める作業時に作業者が誤って手を滑らせたりしても、連結具10と固定具20とは接続体50で固定されるとともに第1締結部材30と第2締結部材40とは抜止部材46により抜け止めが施され、さらに連結具10はクレーンフック70で支持されているため、固定具20が下方に落下する虞はない。
【0066】
そして、連結具10を外壁パネル60から取り外したら、
図4に示すように、接続体50により接続された連結具10と固定具20は一体化された状態でクレーンにより下方向に吊り下げられ、階下にいる作業員により連結具10と固定具20が回収されて、吊り上げを待機する外壁パネル60に再度取り付けられる。
【0067】
このように、本発明の実施形態に係る吊上治具1によれば、高所作業時に作業員が手を滑らせたり操作を誤ったりしても、固定具20が下方に落下することがなく、また不要となった連結具10と固定具20は一体として回収して次の作業にて使用することができるため、安全性と作業効率性を高めることが可能となる。
【0068】
以上、本発明に係る固定具、吊上治具、及び施工方法は、高所作業場所の下を通行する通行人や車両の安全性を確保するとともに、作業効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 吊上治具
10 連結具
11 基部
12 係止部
13 固定孔
14 係止孔
20 固定具
30 第1締結部材
31 頭部
32 軸部
33 雄ネジ
40 第2締結部材
41 本体部
42 表面
43 裏面
44 挿通孔
441 第1挿通孔
442 第2挿通孔
443 段部
45 接続部
451 切欠部
452 貫通孔
453 環状体
46 抜止部材
461、462 スナップリング
50 接続体
51 ホール部
52 留め具
60 外壁パネル
70 クレーンフック
80 吊上ワイヤ