IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和製衡株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-品質状態測定装置 図1
  • 特開-品質状態測定装置 図2
  • 特開-品質状態測定装置 図3
  • 特開-品質状態測定装置 図4
  • 特開-品質状態測定装置 図5
  • 特開-品質状態測定装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111917
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】品質状態測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016640
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000208444
【氏名又は名称】大和製衡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 修一
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA15
2G060AD06
2G060AF03
2G060AF06
2G060AG03
2G060EA08
2G060HA02
2G060HC15
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】 被測定物の品質状態を、被測定物の種類または個体差によらず、容易に測定することができる品質状態測定装置を提供する。
【解決手段】 インピーダンス測定部40と品質判定部47とを備え、インピーダンス測定部40は、3以上のn個の周波数のうちの互いに異なる周波数を有するn個の定電流を流すことにより、各定電流に応じて被測定物に印加されるn個の電圧値を検出し、品質判定部47は、n個の電圧値に応じたn個のインピーダンスを算出し、n個の周波数の中の3個の周波数からなる1つ以上の組み合わせにおいて、3個の周波数を低い方から順に第1、第2、第3の周波数とし、第1、第2、第3の周波数を有する定電流を流したときのインピーダンスを第1、第2、第3のインピーダンスとした場合に、第1と第2のインピーダンスの差と、第2と第3のインピーダンスの差との大小比較結果に基づいて、被測定物の品質状態を判定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉および食肉を含む被測定物のインピーダンスを得るための電圧を測定するインピーダンス測定部と、
前記インピーダンスに基づいて前記被測定物の品質状態を判定する品質判定部と、を備え、
前記インピーダンス測定部は、
所定の周波数および所定の定電流値を有する定電流を出力する定電流回路と、
前記定電流回路から出力される定電流を前記被測定物に流し、当該定電流を流したときに前記被測定物に印加される電圧を検出するために、当該被測定物の表面に接触させる少なくとも1つの陽極側電極および少なくとも1つの陰極側電極と、を備え、
前記インピーダンス測定部は、
nを3以上の所定の整数とした場合に、前記定電流回路から前記陽極側電極と前記陰極側電極との間に、所定の定電流値を有し、予め定められたn個の周波数のうちの互いに異なる1個の周波数を有するn個の定電流を流すことにより、各定電流に応じて前記被測定物に印加されるn個の電圧値を検出し、
前記品質判定部は、
前記検出された前記n個の電圧値のそれぞれに応じたn個のインピーダンスを算出し、前記n個の周波数の中から予め選択された3個の周波数からなる1つ以上の組み合わせにおいて、前記組み合わせに選択された3個の周波数を、低い方から順に第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とし、前記第1、第2、第3の周波数を有する定電流を流すことにより前記検出された電圧値に応じた前記インピーダンスを第1、第2、第3のインピーダンスとした場合に、前記第1のインピーダンスと前記第2のインピーダンスの差である第1の差と、前記第2のインピーダンスと第3のインピーダンスの差である第2の差との大小比較結果に基づいて、前記被測定物の品質状態を判定するよう構成された、
品質状態測定装置。
【請求項2】
前記品質判定部は、
前記第1の差が前記第2の差以上である場合に、前記被測定物の品質状態が第1の特定品質であると判定し、前記第1の差が前記第2の差より小さい場合に、前記被測定物の品質状態が前記第1の特定品質より時間が経過したときの品質状態を示す第2の特定品質であると判定する、
請求項1に記載の品質状態測定装置。
【請求項3】
前記nは4以上の所定の整数であり、
前記n個の周波数の中から予め選択された3個の周波数からなる前記組み合わせの数が複数である、
請求項1または2に記載の品質状態測定装置。
【請求項4】
前記nは5であり、
前記予め定められた5個の周波数を、低い方から順にf1、f2、f3、f4、f5とした場合に、
予め選択された3個の周波数からなる複数の前記組み合わせが、
前記f2と前記f3と前記f5とからなる第1の組み合わせと、
前記f1と前記f3と前記f5とからなる第2の組み合わせと、
前記f2と前記f3と前記f4とからなる第3の組み合わせと、
前記f1と前記f3と前記f4とからなる第4の組み合わせと、
前記f3と前記f4と前記f5とからなる第5の組み合わせとのうちの、
少なくとも前記第1、第2および第3の組み合わせを含む、
請求項3に記載の品質状態測定装置。
【請求項5】
前記複数の組み合わせが前記第1ないし第5の組み合わせを含み、
前記f1、f2、f3、f4、f5の周波数の定電流を流したときに算出されたインピーダンスがZ1、Z2、Z3、Z4、Z5である場合には、
前記第1の組み合わせに選択された前記f2、f3、f5の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z2,Z3,Z5であり、
前記第2の組み合わせに選択された前記f1、f3、f5の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z1,Z3,Z5であり、
前記第3の組み合わせに選択された前記f2、f3、f4の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z2,Z3,Z4であり、
前記第4の組み合わせに選択された前記f1、f3、f4の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z1,Z3,Z4であり、
前記第5の組み合わせに選択された前記f3、f4、f5の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z3,Z4,Z5であり、
前記品質判定部は、
Z2-Z3≧Z3-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が第1品質であると判定し、
Z2-Z3<Z3-Z5であり、かつ、Z1-Z3≧Z3-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第1品質より時間が経過したときの品質状態を示す第2品質であると判定し、
Z1-Z3<Z3-Z5であり、かつ、Z2-Z3≧Z3-Z4の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第2品質より時間が経過したときの品質状態を示す第3品質であると判定し、
Z2-Z3<Z3-Z4であり、かつ、Z1-Z3≧Z3-Z4の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第3品質より時間が経過したときの品質状態を示す第4品質であると判定し、
Z1-Z3<Z3-Z4であり、かつ、Z3-Z4≧Z4-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第4品質より時間が経過したときの品質状態を示す第5品質であると判定し、
Z3-Z4<Z4-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第5品質より時間が経過したときの品質状態を示す第6品質であると判定する、
請求項4に記載の品質状態測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の品質状態を測定する品質状態測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚の鮮度や食肉の熟成度等の品質状態を判定するための方法が知られている。例えば、特許文献1には、畜肉試料に異なる周波数の交流電圧を印加して、インピーダンス比または差を測定し、当該測定の結果等に基づいて、畜肉試料の熟成度を判定する熟成度判定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-79966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の熟成度判定方法では、例えば、インピーダンス比と評価基準(熟成度指標)との相関関係データを畜肉試料の種類ごとにデータ処理部に事前に記録しておく必要がある。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、被測定物の品質状態を、被測定物の種類または個体差によらず、容易に測定することができる品質状態測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のある態様に係る品質状態測定装置は、魚肉および食肉を含む被測定物のインピーダンスを得るための電圧を測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンスに基づいて前記被測定物の品質状態を判定する品質判定部と、を備え、前記インピーダンス測定部は、所定の周波数および所定の定電流値を有する定電流を出力する定電流回路と、前記定電流回路から出力される定電流を前記被測定物に流し、当該定電流を流したときに前記被測定物に印加される電圧を検出するために、当該被測定物の表面に接触させる少なくとも1つの陽極側電極および少なくとも1つの陰極側電極と、を備え、前記インピーダンス測定部は、nを3以上の所定の整数とした場合に、前記定電流回路から前記陽極側電極と前記陰極側電極との間に、所定の定電流値を有し、予め定められたn個の周波数のうちの互いに異なる1個の周波数を有するn個の定電流を流すことにより、各定電流に応じて前記被測定物に印加されるn個の電圧値を検出し、前記品質判定部は、前記検出された前記n個の電圧値のそれぞれに応じたn個のインピーダンスを算出し、前記n個の周波数の中から予め選択された3個の周波数からなる1つ以上の組み合わせにおいて、前記組み合わせに選択された3個の周波数を、低い方から順に第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とし、前記第1、第2、第3の周波数を有する定電流を流すことにより前記検出された電圧値に応じた前記インピーダンスを第1、第2、第3のインピーダンスとした場合に、前記第1のインピーダンスと前記第2のインピーダンスの差である第1の差と、前記第2のインピーダンスと第3のインピーダンスの差である第2の差との大小比較結果に基づいて、前記被測定物の品質状態を判定するよう構成されている。
【0007】
本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、周波数を低い方から順に第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とした場合に、第1、第2の周波数の定電流を流したときに算出された第1、第2のインピーダンスの差である第1の差の経時変化を示すグラフと、第2、第3の周波数の定電流を流したときに算出された第2、第3のインピーダンスの差である第2の差の経時変化を示すグラフとは、必ず交差し、この交差ポイントは、被測定物の種類や個体差によらず、被測定物の品質(鮮度)が所定の状態のときであるという知見を得た。このような知見に基づいて、本発明の発明者らは、上記構成の品質状態測定装置を相当するに至った。
【0008】
上記構成によれば、第1、第2の周波数の定電流を流したときに算出された第1、第2のインピーダンスの差である第1の差と、第2、第3の周波数の定電流を流したときに算出された第2、第3のインピーダンスの差である第2の差との大小比較結果に基づいて被測定物の品質状態を判定することにより、被測定物の種類または個体差によらず、品質状態を容易にかつ高精度に測定することができる。
【0009】
前記品質判定部は、前記第1の差が前記第2の差以上である場合に、前記被測定物の品質状態が第1の特定品質であると判定し、前記第1の差が前記第2の差より小さい場合に、前記被測定物の品質状態が前記第1の特定品質より時間が経過したときの品質状態を示す第2の特定品質であると判定するようにしてもよい。
【0010】
前記nは4以上の所定の整数であり、前記n個の周波数の中から予め選択された3個の周波数からなる前記組み合わせの数が複数であってもよい。
【0011】
前記nは5であり、前記予め定められた5個の周波数を、低い方から順にf1、f2、f3、f4、f5とした場合に、予め選択された3個の周波数からなる複数の前記組み合わせが、前記f2と前記f3と前記f5とからなる第1の組み合わせと、前記f1と前記f3と前記f5とからなる第2の組み合わせと、前記f2と前記f3と前記f4とからなる第3の組み合わせと、前記f1と前記f3と前記f4とからなる第4の組み合わせと、
前記f3と前記f4と前記f5とからなる第5の組み合わせとのうちの、少なくとも前記第1、第2および第3の組み合わせを含むようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、複数の各々の組み合わせにおいて、組み合わせに選択された周波数を有する定電流を流した場合のインピーダンスを用いて第1の差と第2の差とが算出され、第1の差と第2の差との大小比較結果に基づいて被測定物の品質状態が判定される。
【0013】
前記複数の組み合わせが前記第1ないし第5の組み合わせを含み、前記f1、f2、f3、f4、f5の周波数の定電流を流したときに算出されたインピーダンスがZ1、Z2、Z3、Z4、Z5である場合には、前記第1の組み合わせに選択された前記f2、f3、f5の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z2,Z3,Z5であり、前記第2の組み合わせに選択された前記f1、f3、f5の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z1,Z3,Z5であり、前記第3の組み合わせに選択された前記f2、f3、f4の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z2,Z3,Z4であり、前記第4の組み合わせに選択された前記f1、f3、f4の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z1,Z3,Z4であり、前記第5の組み合わせに選択された前記f3、f4、f5の周波数の定電流を流したときの前記第1、第2、第3のインピーダンスが前記Z3,Z4,Z5であり、前記品質判定部は、Z2-Z3≧Z3-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が第1品質であると判定し、Z2-Z3<Z3-Z5であり、かつ、Z1-Z3≧Z3-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第1品質より時間が経過したときの品質状態を示す第2品質であると判定し、Z1-Z3<Z3-Z5であり、かつ、Z2-Z3≧Z3-Z4の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第2品質より時間が経過したときの品質状態を示す第3品質であると判定し、Z2-Z3<Z3-Z4であり、かつ、Z1-Z3≧Z3-Z4の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第3品質より時間が経過したときの品質状態を示す第4品質であると判定し、Z1-Z3<Z3-Z4であり、かつ、Z3-Z4≧Z4-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第4品質より時間が経過したときの品質状態を示す第5品質であると判定し、Z3-Z4<Z4-Z5の場合に、前記被測定物の品質状態が前記第5品質より時間が経過したときの品質状態を示す第6品質であると判定するようにしてもよい。これにより、被測定物の品質状態を6段階で判定し評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上に説明した構成を有し、被測定物の品質状態を、被測定物の種類または個体差によらず、容易に測定することができる品質状態測定装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施の形態における品質状態測定装置の外観を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す品質状態測定装置の内部構成例を示すブロック図である。
図3図3は、被測定物に周波数の異なる定電流を流したときのインピーダンスの時間変化を示す表である。
図4図4は、図3の表を用いて算出され、被測定物に周波数の異なる定電流を流したときのインピーダンスの差の時間変化を示す表である。
図5図5は、図4の表をグラフにした図である。
図6図6は、図1に示す品質状態測定装置における品質判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態における品質状態測定装置の具体的な構成例について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する場合がある。
【0017】
また、以下の具体的な説明は、本発明における品質状態測定装置の特徴を例示しているに過ぎない。例えば、上記品質状態測定装置を特定した用語と同じ用語または相当する用語に適宜の参照符号を付して以下の具体例を説明する場合、当該具体的な構成要素は、これに対応する上記品質状態測定装置の構成要素の一例である。したがって、上記品質状態測定装置の特徴は、以下の具体的な説明によって限定されない。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態における品質状態測定装置の外観を示す斜視図である。また、図2は、図1に示す品質状態測定装置の内部構成例を示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、品質状態測定装置1は、電極部3、把持部4、幅広部6、表示部7を備えている。
【0020】
電極部3は、少なくとも1つの陽極側電極3pおよび少なくとも1つの陰極側電極3nが下方に突出するように構成されている。具体的には、電極部3は、2つの陽極側電極3p1,3p2および2つの陰極側電極3n1,3n2を有している。また、電極部3は、被測定物に対向する所定の対向面Pを有し、陽極側電極3pおよび陰極側電極3nは、当該対向面Pから外方に向けて突出するようにそれぞれ取り付けられている。
【0021】
把持部4は、電極部3の対向面Pと反対側に延出するように構成されている。また、把持部4は、操作入力部8を備えている。
【0022】
操作入力部8は、測定開始ボタン9、電源ボタン10、設定変更ボタン11および決定ボタン12から構成されている。測定開始ボタン9は、測定を開始する際に操作され、表示部7の表示面7aの下方に設けられている。電源ボタン10は、品質状態測定装置1の電源を入り切り等する際に操作される。設定変更ボタン11は、品質状態測定装置1における各種設定等を変更する際に操作される。決定ボタン12は、設定変更ボタン11で設定変更した内容を決定等する際に操作される。
【0023】
幅広部6は、把持部4を挟んで電極部3の反対側に設けられている。また、幅広部6は、表示部7を備えている。
【0024】
表示部7は、測定結果等を表示する表示面7aを備えている。ここで、表示部7は、把持部4を挟んで電極部3の反対側に位置する幅広部6に設けられているため、電極部3を被測定物に接触させた状態における表示面7aの視認がし易い構成となっている。
【0025】
品質状態測定装置1を用いた被測定物の品質状態の測定方法について説明する。まず、ユーザーが電源ボタン10を押し、電源投入後、設定変更ボタン11を適宜押圧操作して、所望の設定内容を選択し、当該選択状態で決定ボタン12を押すことにより、選択した設定内容を決定する。
【0026】
そして、ユーザーが把持部4を把持し、被測定物である魚に電極3p,3nを接触させた状態で測定開始ボタン9を押すと、品質状態測定装置1は、一方の陽極側電極3p(陽極側電極3p1)と一方の陰極側電極3n(陰極側電極3n1)との間(電流極間)に所定の定電流を流し、他方の陽極側電極3p(陽極側電極3p2)と他方の陰極側電極3n(陰極側電極3n2)との間(電圧極間)に印加される電圧を検出する。なお、電流極間(陽極側電極3p1と陰極側電極3n1の間)に流れる定電流は、決定された設定内容に応じて設定され得る。
【0027】
図2に示すように、品質状態測定装置1の内部には、例えば、インピーダンス測定部40、演算部41、記憶部42、通信部43、および電源部44等が収納されている。
【0028】
演算部41は、マイクロコントローラなどのCPUを含み、各種の演算を行い、各回路への命令信号を出力するように構成されている。また、演算部41は、品質判定部47としても機能する。
【0029】
記憶部42は、EEPROMなどにより構成されている。記憶部42には、例えば、品質状態測定装置1における各種設定内容などが記憶されている。また、記憶部42には、演算部41による演算結果等が記憶される。
【0030】
通信部43は、例えば、無線通信機能を有する。このため、通信部43は、演算部41による演算結果を外部の機器(パーソナルコンピュータやサーバ装置など)に送信することも可能である。なお、通信部43は、USB接続などの有線による通信機能を有していてもよい。
【0031】
インピーダンス測定部40は、電極部3に接触した被測定物のインピーダンスを得るための電圧を測定するように構成されている。具体的には、インピーダンス測定部40は、前述の電極3p(3p1,3p2),3n(3n1,3n2)、定電流回路45、正弦波形生成回路46、電圧検出回路13、基準抵抗回路35、スイッチ回路36等から構成されている。
【0032】
定電流回路45は、所定の周波数および所定の定電流値を有する定電流信号を出力する。正弦波形生成回路46は、演算部41からのトリガ信号に基づいて、定電流信号の基準となり、所定の周波数を有する正弦波形から成る信号を生成する。
【0033】
具体的には、定電流回路45には、演算部41から設定された定電流値を示す電流値信号が入力される。また、定電流回路45は、正弦波形生成回路46から出力された正弦波形信号の有する周波数で、かつ、演算部41で設定された定電流値となるような定電流信号を電流極間(陽極側電極3p1と陰極側電極3n1の間)に流すように構成されている。
【0034】
また、定電流回路45は、フィードバック抵抗が被測定物のインピーダンスRfおよび電流極(陽極側電極3p1,陰極側電極3n1)の接触抵抗の合計値となる反転増幅回路として構成されている。具体的には、定電流回路45は、正弦波形生成回路46の出力が一端に入力される可変抵抗素子17と、可変抵抗素子17の他端と反転入力端子とが接続されるオペアンプ18とを備えている。
【0035】
オペアンプ18の非反転入力端子は、接地電圧となっている。オペアンプ18の出力端子は、陽極側電流極3p1に接続されている。また、オペアンプ18の反転入力端子には、陰極側電流極3n1も接続されている。
【0036】
定電流回路45は、正弦波形生成回路46から出力され、所定の周波数で可変抵抗素子17に入力される電圧Vinに基づいて、可変抵抗素子17を流れる電流Iinとオペアンプ18の出力電流Ioutが等しくなるようにオペアンプ18の出力電圧Voutを調整する。したがって、測定インピーダンス値が大きいほど(被測定物のインピーダンスが大きいほど)出力電圧Voutが大きくなる。
【0037】
このようにして、定電流回路45から出力された所定の周波数を有する定電流は、電流極(陽極側電極3p1,陰極側電極3n1)を介して被測定物に流れる。こうして被測定物に流れる定電流によって被測定物に印加される電圧を検出することで、被測定物のインピーダンスを測定することができる。
【0038】
電圧検出回路13は、上記定電流信号に基づいて被測定物である魚に印加される電圧、つまり、電圧極間(陽極側電極3p2と陰極側電極3n2の間)の電圧を検出するように構成されている。具体的には、電圧検出回路13は、AC/DC変換部19、ゲイン設定回路31、A/D変換器20を備えている。
【0039】
AC/DC変換部19は、陽極側電極3p2と陰極側電極3n2との間に印加される電圧の差を直流電圧に変換する。ゲイン設定回路31は、AC/DC変換部19の出力を設定されたゲインに基づいて増幅する。ゲイン設定回路31のゲインは、演算部41からの制御信号に基づいて設定可能に構成されている。A/D変換器20は、ゲイン設定回路31の出力電圧をΔΣ変調によりデジタル化する。
【0040】
また、本実施の形態におけるAC/DC変換部19は、図示しないが、電圧極3p2,3n2間の差分電圧を出力する差動増幅器と、差動増幅器の出力を整流する整流回路と、整流回路の出力電圧を平滑化する平滑回路と、を備える。平滑回路の出力電圧は、AC/DC変換部19の出力電圧となり、ゲイン設定回路31に入力される。
【0041】
基準抵抗回路35は、陽極側電極3p2と陰極側電極3n2との間に、抵抗値が既知である複数の基準抵抗のそれぞれを接続可能となるように構成されている。
【0042】
スイッチ回路36は、電極部3に被測定物を接触させた際に、定電流回路45および電圧検出回路13に接続する抵抗を、電圧極間(陽極側電極3p2と陰極側電極3n2の間)のインピーダンスRfと基準抵抗回路35における基準抵抗との間で切り替えるように構成されている。なお、スイッチ回路36における切り替えは、演算部41からの制御信号に基づいて行われる。
【0043】
このようにして電圧検出回路13で検出され、デジタル化された検出電圧は、演算部41に入力される。演算部41は、設定された定電流値と検出電圧とから被測定物のインピーダンスを算出する。この際、演算部41は、検出電圧と、電極間に基準抵抗回路35の複数の基準抵抗をそれぞれ接続した際に得られる複数の基準電圧とを相関することにより被測定物のインピーダンスを算出する。例えば、基準抵抗回路35は、被測定物のための複数の基準抵抗として、30Ω、200Ω、900Ωの3つの基準抵抗を有している。このような複数の基準抵抗およびこれらを電極間に接続した場合の電圧に基づいて、検出電圧に対するインピーダンスの相関関係を決定している。ここで、直線性を有する相関関係を得るために、基準抵抗回路35は、3つ以上の基準抵抗を備えている。
【0044】
上記の品質状態測定装置1を用いて被測定物の品質状態の測定を行う際、インピーダンス測定部40は、陽極側電極3p2と陰極側電極3n2との間に被測定物を接続し、定電流回路45から陽極側電極3p1と陰極側電極3n1との間に、電流値が同じで、周波数の異なる3個以上の定電流を流し、各定電流を流したときに被測定物に印加される電圧を検出し、検出した電圧を演算部41へ出力する。
【0045】
以下では、定電流回路45から電流値が同じで、周波数の異なる5個の定電流を流す場合を例に説明する。
【0046】
インピーダンス測定部40は、定電流回路45から陽極側電極3p1と陰極側電極3n1との間に所定の定電流値および所定の周波数f1(例えば2kHz)を有する定電流を流すことにより、この定電流に応じて陽極側電極3p2および陰極側電極3n2との間に印加される電圧値V1を検出し、演算部41へ出力する。
【0047】
また、インピーダンス測定部40は、定電流回路45から陽極側電極3p1と陰極側電極3n1との間に所定の定電流値および所定の周波数f2(例えば5kHz)を有する定電流を流すことにより、この定電流に応じて陽極側電極3p2および陰極側電極3n2との間に印加される電圧値V2を検出し、演算部41へ出力する。
【0048】
また、インピーダンス測定部40は、定電流回路45から陽極側電極3p1と陰極側電極3n1との間に所定の定電流値および所定の周波数f3(例えば20kHz)を有する定電流を流すことにより、この定電流に応じて陽極側電極3p2および陰極側電極3n2との間に印加される電圧値V3を検出し、演算部41へ出力する。
【0049】
また、インピーダンス測定部40は、定電流回路45から陽極側電極3p1と陰極側電極3n1との間に所定の定電流値および所定の周波数f4(例えば50kHz)を有する定電流を流すことにより、この定電流に応じて陽極側電極3p2および陰極側電極3n2との間に印加される電圧値V4を検出し、演算部41へ出力する。
【0050】
また、インピーダンス測定部40は、定電流回路45から陽極側電極3p1と陰極側電極3n1との間に所定の定電流値および所定の周波数f5(例えば100kHz)を有する定電流を流すことにより、この定電流に応じて陽極側電極3p2および陰極側電極3n2との間に印加される電圧値V5を検出し、演算部41へ出力する。
【0051】
演算部41の品質判定部47では、周波数f1~f5の定電流を流したときに検出された電圧値V1~V5のそれぞれに基づいて被測定物のインピーダンスZ1~Z5を算出する。
【0052】
ここで、被測定物に5個の周波数f1~f5の定電流を流した場合の実験結果について説明する。この実験では、被測定物の致死当日から2週間後までの間、1日間隔で、被測定物に5個の周波数f1~f5の定電流を流した場合の各インピーダンスを測定した。
【0053】
図3は、被測定物としてマアジを用いた場合の周波数の異なる定電流を流したときのインピーダンスの時間変化を示す表である。この表において、経過日数は、マアジの致死当日(0日)からの日数である。また、2kHz,5kHz,20kHz,50kHz,100kHzは、測定時に流した定電流の周波数であり、f1=2kHz,f2=5kHz,f3=20kHz,f4=50kHz,f5=100kHzの場合である。
【0054】
図3の表からもわかるように、同じ電流値でも周波数が変わると測定されるインピーダンスの値が変化する。図3の表において、経過日数が同じ日のインピーダンス、すなわち同じ品質状態の被測定物に対して測定されたインピーダンスに示されるように、周波数が低いほどインピーダンスは高くなり、周波数が高いほどインピーダンスは低くなる。これは、周波数が低いほど、被測定物の細胞内を流れる電流が少なく、多くの電流が水分の多い細胞の外を流れ、周波数が高いほど、細胞内にも多くの電流が流れるためである。
【0055】
魚肉等の被測定物の細胞膜は、リン脂質を主成分とする脂質二重層の絶縁体であるが、親水性のある細胞表面に電解液が付着していることから、細胞は、電気的にはコンデンサとして機能し、交流電流が流れた場合に、極性の変化に合わせて充放電を繰り返す。コンデンサとして機能する細胞の容量性リアクタンス成分は、周波数が低いほど大きくなり、周波数が高いほど小さくなる。
【0056】
また、被測定物の鮮度が低下すると、被測定物の肉質の軟化に伴って細胞内外を流れる電流に対するインピーダンスが低下する。よって、図3の表に示されるように、電流の周波数が同一の場合において、経過日数が1日以降をみれば、概ねインピーダンスが低下している。なお、経過日数が0日(致死当日)よりも1日のときのインピーダンスが高くなっているが、これは、死後硬直による影響と考えられる。このように、魚等の被測定物は、同一周波数の電流を流した場合、死後硬直が起こるときにはインピーダンスが上昇し、硬直がとけはじめるとインピーダンスが下降する。
【0057】
図4は、図3の表を用いて算出され、周波数の異なる定電流を流したときのインピーダンスの差の時間変化を示す表である。この図4の表において、経過日数は、図3の表と同じ、マアジの致死当日からの日数であり、例えば、2-20kHzの欄は、2kHzの定電流を流したときのインピーダンスから20kHzの定電流を流したときのインピーダンスを減算した値(インピーダンスの差)を示す。また、5-20kHzの欄、20-50kHzの欄、20-100kHzの欄、および50-100kHzの欄も、2-20kHzの欄と同様にして算出されたインピーダンスの差を示す。
【0058】
図5は、図4の表をグラフにしたものである。図5において、グラフL1,L2,L3,L4,L5は、図4の表の2-20kHz、5-20kHz、20-50kHz、20-100kHz、50-100kHzの欄に対応する。
【0059】
図5において、P1はグラフL2とグラフL4との交差ポイントであり、P2はグラフL1とグラフL4との交差ポイントであり、P3はグラフL2とグラフL3との交差ポイントであり、P4はグラフL1とグラフL3との交差ポイントであり、P5はグラフL3とグラフL5との交差ポイントである。
【0060】
各交差ポイントP1~P5の前後では、交差する2つのグラフの値の大小関係が逆になる。例えば、グラフL2とグラフL4とが交差する交差ポイントP1の前後では、グラフL2の値とグラフL4の値との大小関係が逆になる。同様に、グラフL1とグラフL4とが交差する交差ポイントP2の前後では、グラフL1の値とグラフL4の値との大小関係が逆になる。他の交差ポイントP3~P5の前後についても同様である。
【0061】
ここでは、マアジについての測定データに基づくものであるが、他の魚種、例えば、サバ、真鯛、まぐろ等についても同様の傾向が得られた。すなわち、交差ポイントP1~P5の出現時点(経過日数)は異なるものの、魚種にかかわらず、交差ポイントP1~P5の出現順序は同じであった。
【0062】
また、交差ポイントP1~P5のそれぞれの交差ポイントに着目すれば、交差ポイントより前の時点の方が交差ポイントより後の時点に比べて被測定物の鮮度がよい(品質がよい)状態であると言える。
【0063】
よって、グラフL2とグラフL4との交差ポイントP1に着目すれば、同交差ポイントより前の時点の方が後の時点に比べて被測定物の鮮度がよい。すなわち、グラフL2の値がグラフL4の値より大きい時点の方が、小さい時点に比べて被測定物の鮮度がよい。つまり、ある時点において、被測定物のインピーダンスを測定したときに、5kHzの定電流を流したときのインピーダンスから20kHzの定電流を流したときのインピーダンスを減算した値(第1の差)と、20kHzの定電流を流したときのインピーダンスから100kHzの定電流を流したときのインピーダンスを減算した値(第2の差)との大小比較を行い、第1の差が第2の差よりも大きい場合の方が小さい場合よりも鮮度がよい品質状態であると言える。よって、第1の差と第2の差との大小比較結果に基づいて品質状態を判定することができる。
【0064】
同様に、グラフL1とグラフL4との交差ポイントP2に着目すれば、グラフL1の値がグラフL4の値より大きい時点の方が、小さい時点に比べて被測定物の鮮度がよい。
【0065】
また、グラフL2とグラフL3との交差ポイントP3に着目すれば、グラフL2の値がグラフL3の値より大きい時点の方が、小さい時点に比べて被測定物の鮮度がよい。
【0066】
また、グラフL1とグラフL3との交差ポイントP4に着目すれば、グラフL1の値がグラフL3の値より大きい時点の方が、小さい時点に比べて被測定物の鮮度がよい。
【0067】
また、グラフL3とグラフL5との交差ポイントP5に着目すれば、グラフL3の値がグラフL5の値より大きい時点の方が、小さい時点に比べて被測定物の鮮度がよい。
【0068】
すなわち、定電流値が同じで、周波数の値がf1<f2<f3<f4<f5である5個の周波数f1(2kHz),f2(5kHz),f3(20kHz),f4(50kHz),f5(100kHz)の定電流を流したときに測定したインピーダンスをZ1,Z2,Z3,Z4,Z5とすると、グラフL1は、インピーダンスZ1とZ3との差D1(=Z1-Z3)の経時変化を示すグラフである。また、グラフL2は、インピーダンスZ2とZ3との差D2(=Z2-Z3)の経時変化を示すグラフである。グラフL3は、インピーダンスZ2とZ4との差D3(=Z2-Z4)の経時変化を示すグラフである。グラフL4は、インピーダンスZ3とZ5との差D4(=Z3-Z5)の経時変化を示すグラフである。グラフL5は、インピーダンスZ4とZ5との差D5(=Z4-Z5)の経時変化を示すグラフである。これらのグラフの交差ポイントP1~P5に着目し、以下の第1~第5判定方法によって品質状態の判定を行うことができる。
【0069】
(第1判定方法)
グラフL2とグラフL4との交差ポイントP1は、インピーダンスの差D2(=Z2-Z3)とインピーダンスの差D4(=Z3-Z5)とが等しいポイントである。よって、ある時点においてインピーダンスZ2,Z3,Z5を測定した場合に、2つのインピーダンスの差D2,D4の大小比較結果に基づいて、品質状態を判定することができる。つまり、D2≧D4(換言すればD2-D4≧0)の場合は、D2<D4(換言すればD2-D4<0)の場合に比べて鮮度がよい。よって、D2≧D4の場合を品質a(第1の特定品質)と判定し、D2<D4の場合を品質aよりも時間が経過したときの品質状態を示す品質b(第2の特定品質)と判定することができる。
【0070】
(第2判定方法)
グラフL1とグラフL4との交差ポイントP2は、インピーダンスの差D1(=Z1-Z3)とインピーダンスの差D4(=Z3-Z5)とが等しいポイントである。よって、ある時点においてインピーダンスZ1,Z3,Z5を測定した場合に、2つのインピーダンスの差D1,D4の大小比較結果に基づいて、品質状態を判定することができる。つまり、D1≧D4(換言すればD1-D4≧0)の場合は、D1<D4(換言すればD1-D4<0)の場合に比べて鮮度がよい。よって、D1≧D4の場合を品質c(第1の特定品質)と判定し、D1<D4の場合を品質cよりも時間が経過したときの品質状態を示す品質d(第2の特定品質)と判定することができる。
【0071】
(第3判定方法)
グラフL2とグラフL3との交差ポイントP3は、インピーダンスの差D2(=Z2-Z3)とインピーダンスの差D3(=Z3-Z4)とが等しいポイントである。よって、ある時点においてインピーダンスZ2,Z3,Z4を測定した場合に、2つのインピーダンスの差D2,D3の大小比較結果に基づいて、品質状態を判定することができる。つまり、D2≧D3(換言すればD2-D3≧0)の場合は、D2<D3(換言すればD2-D3<0)の場合に比べて鮮度がよい。よって、D2≧D3の場合を品質e(第1の特定品質)と判定し、D2<D3の場合を品質eよりも時間が経過したときの品質状態を示す品質f(第2の特定品質)と判定することができる。
【0072】
(第4判定方法)
グラフL1とグラフL3との交差ポイントP4は、インピーダンスの差D1(=Z1-Z3)とインピーダンスの差D3(=Z3-Z4)とが等しいポイントである。よって、ある時点においてインピーダンスZ1,Z3,Z4を測定した場合に、2つのインピーダンスの差D1,D3の大小比較結果に基づいて、品質状態を判定することができる。つまり、D1≧D3(換言すればD1-D3≧0)の場合は、D1<D3(換言すればD1-D3<0)の場合に比べて鮮度がよい。よって、D1≧D3の場合を品質g(第1の特定品質)と判定し、D1<D3の場合を品質gよりも時間が経過したときの品質状態を示す品質h(第2の特定品質)と判定することができる。
【0073】
(第5判定方法)
グラフL3とグラフL5との交差ポイントP5は、インピーダンスの差D3(=Z3-Z4)とインピーダンスの差D5(=Z4-Z5)とが等しいポイントである。よって、ある時点においてインピーダンスZ3,Z4,Z5を測定した場合に、2つのインピーダンスの差D3,D5の大小比較結果に基づいて、品質状態を判定することができる。つまり、D3≧D5(換言すればD3-D5≧0)の場合は、D3<D5(換言すればD3-D5<0)の場合に比べて鮮度がよい。よって、D3≧D5の場合を品質i(第1の特定品質)と判定し、D3<D5の場合を品質iよりも時間が経過したときの品質状態を示す品質j(第2の特定品質)と判定することができる。
【0074】
上記の第1~第5判定方法のように、3つの異なる周波数の定電流を流したときに測定される3つのインピーダンスを用いて、2つの「インピーダンスの差」を算出し、この2つの「インピーダンスの差」の大小比較結果に基づいて、品質状態を判定することができる。
【0075】
つまり、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、周波数を低い方から順に第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とした場合に、第1、第2の周波数の定電流を流したときに算出された第1、第2のインピーダンスの差である第1の差の経時変化を示すグラフと、第2、第3の周波数の定電流を流したときに算出された第2、第3のインピーダンスの差である第2の差の経時変化を示すグラフとは、必ず交差し、この交差ポイントは、被測定物の種類や個体差によらず、被測定物の品質(鮮度)が所定の状態のときであるという知見を得た。
【0076】
このような知見に基づいて、第1~第5判定方法のように、第1、第2の周波数の定電流を流したときに算出された第1、第2のインピーダンスの差である第1の差と、第2、第3の周波数の定電流を流したときに算出された第2、第3のインピーダンスの差である第2の差との大小比較結果に基づいて被測定物の品質状態を判定することにより、被測定物の種類または個体差によらず、品質状態を容易にかつ高精度に測定することができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、交差ポイントP1~P5の出現順序を考慮して上記の第1~第5判定方法を組み合わせることにより、品質状態を6段階で判定することができる。例えば、鮮度がよいものから順に、第1品質、第2品質、・・・・、第6品質とし、以下のようにしてどの品質であるかを求めることができる。
(1)第1品質は、D2≧D4の場合、すなわち、Z2-Z3≧Z3-Z5の場合であり、交差ポイントP1以前の場合である。
(2)第2品質は、D2<D4であり、かつ、D1≧D4の場合、すなわち、Z2-Z3<Z3-Z5であり、かつ、Z1-Z3≧Z3-Z5の場合であり、交差ポイントP1より後で交差ポイントP2以前の場合である。
(3)第3品質は、D1<D4であり、かつ、D2≧D3の場合、すなわち、Z1-Z3<Z3-Z5であり、かつ、Z2-Z3≧Z3-Z4の場合であり、交差ポイントP2より後で交差ポイントP3以前の場合である。
(4)第4品質は、D2<D3であり、かつ、D1≧D3の場合、すなわち、Z2-Z3<Z3-Z4であり、かつ、Z1-Z3≧Z3-Z4の場合であり、交差ポイントP3より後で交差ポイントP4以前の場合である。
(5)第5品質は、D1<D3であり、かつ、D3≧D5の場合、すなわち、Z1-Z3<Z3-Z4であり、かつ、Z3-Z4≧Z4-Z5の場合であり、交差ポイントP4より後で交差ポイントP5以前の場合である。
(6)第6品質は、D3<D5の場合、すなわち、Z3-Z4<Z4-Z5の場合であり、交差ポイントP5より後の場合である。
【0078】
上記の第1品質は最も新鮮な品質状態を示し、第2品質は第1品質より時間が経過したときの品質状態を示す。また、第3品質は第2品質より時間が経過したときの品質状態を示す。第4品質は第3品質より時間が経過したときの品質状態を示す。第5品質は第4品質より時間が経過したときの品質状態を示す。第6品質は第5品質より時間が経過したときの品質状態を示す。
【0079】
例えば、第1品質を刺身等の生食可能な品質状態とし、第2品質を加熱調理に適した品質状態とし、第3~第6品質を食用に適さない品質状態としてもよい。
【0080】
上記のように、第1~第5判定方法を組み合わせることにより、被測定物の品質状態を6段階で判定することができ、品質状態をより高精度に測定することができる。
【0081】
また、被測定物が、例えば、上記の第1~第6品質のどの品質であるかに基づいて、旨味のレベルや、食中毒の原因となるヒスタミンの含量のレベル等を判定するようにしてもよい。
【0082】
なお、本実施形態では、5つの交差ポイントP1~P5に着目して6つの品質に分類したが、これに限らず、複数の品質に分類することができる。例えば、3つの交差ポイントP1、P2、P3に着目して、第1品質、第2品質および第3品質を上記と同じ場合とし、第4品質をD2<D3の場合(交差ポイントP3より後の場合)とし、第1~第4品質の4つに分類してもよい。また、2つの交差ポイントP1、P2に着目して、第1品質および第2品質を上記と同じ場合とし、第3品質をD1<D4の場合(交差ポイントP2より後の場合)とし、第1~第3品質の3つに分類してもよい。
【0083】
また、2つの交差ポイントP1、P3に着目して3つの品質に分類するようにしてもよい。この場合には、周波数f1(2kHz)の定電流を流さなくてもよく、4つの周波数f2~f5の定電流を流してインピーダンスZ2~Z5を測定し、演算処理すればよい。
【0084】
なお、2つの品質に分類する場合には、3つの周波数の各定電流を流したときの3つのインピーダンスを用いて分類することができる。
【0085】
図6は、図1に示す品質状態測定装置1における品質判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。ここでは、前述の5つの周波数f1~f5の定電流を用いて測定する例を示す。
【0086】
インピーダンス測定部40は、定電流値が同じで、異なる周波数f1~f5の5つの定電流を被測定物に流し、それらに応じた5つの電圧値(V1~V5)を検出し、演算部41へ出力する。演算部41の品質判定部47は、当該5つの電圧値(V1~V5)を取得する(ステップS1)。
【0087】
品質判定部47は、周波数f1~f5の定電流を流したときに検出された電圧値V1~V5のそれぞれに応じた被測定物のインピーダンスZ1~Z5を算出する(ステップS2)。
【0088】
次に、品質判定部47は、前述のインピーダンスの差D1~D5を算出する(ステップS3)。
【0089】
次に、品質判定部47は、前述のように、インピーダンスの差どうしを比較し、大小比較結果に基づいて、例えば前述の第1品質~第6品質のうちのどの品質状態であるかを判定する(ステップS4)。
【0090】
そして、品質判定部47は、判定結果を表示部7に表示する(ステップS5)。この際、表示部7に表示される判定結果は、第1品質~第6品質の品質状態が表示されるのみでもよいし、これに加えて、好適な料理(刺身、てんぷら、煮物等)や、食用に不適等の情報が表示されてもよい。
【0091】
本実施形態では、5つの周波数として、低い方から順に、f1=2kH、f2=5kH、f3=20kH、f4=50kH、f5=100kHを例示したがこれに限らない。例えば、f1は3kHz以下の範囲内の周波数、f2は4kHz~10kHzの範囲内の周波数、f3は11kHz~39kHzの範囲内の周波数、f4は40kHz~79kHzの範囲内の周波数、f5は80kHz以上の範囲内の周波数としてもよい。また、f1とf2との周波数間隔、f2とf3との周波数間隔、f3とf4との周波数間隔、f4とf5との周波数間隔は、それぞれ適当な間隔を有することが好ましい。
【0092】
なお、本実施形態では、品質判定部47では、インピーダンス測定部40から周波数の異なる3つ以上の定電流を流したときに検出された電圧値からインピーダンスを算出し、このインピーダンスを用いて演算することにより品質状態を判定するようにしたが、上記3つ以上の定電流の電圧値は同じであるので、インピーダンスに代えて、検出された電圧値を用いて、同様に演算して品質状態を判定するようにしてもよい。このように、検出された電圧値を用いることは、インピーダンスを用いることと同等である。
【0093】
また、本実施形態では、被測定物として魚肉を例示したが、他の動物の食肉およびそれらの加工品等を被測定物としてもよい。被測定物の種類(魚肉、鶏肉、牛肉、豚肉等の異同)に応じて使用する定電流(電流値および周波数)等を変えてもよい。
【0094】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、被測定物の品質状態を、被測定物の種類または個体差によらず、容易に測定することができる品質状態測定装置等として有用である。
【符号の説明】
【0096】
1 品質状態測定装置
3p,3p1,3p2 陽極側電極
3n,3n1,3n2 陰極側電極
40 インピーダンス測定部
45 定電流回路
47 品質判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6