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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111942
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】固体電池及び固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/548 20210101AFI20240813BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240813BHJP
   H01M 50/547 20210101ALI20240813BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20240813BHJP
   H01M 50/564 20210101ALI20240813BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20240813BHJP
   H01M 50/191 20210101ALI20240813BHJP
   H01M 50/186 20210101ALI20240813BHJP
【FI】
H01M50/548
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M50/547 201
H01M50/562
H01M50/564
H01M50/117
H01M50/191
H01M50/186
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016689
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 友弘
(72)【発明者】
【氏名】天野 昌光
(72)【発明者】
【氏名】三谷 明洋
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA10
5H011CC05
5H011DD09
5H011FF01
5H011GG01
5H011HH09
5H011KK01
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AK06
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AM12
5H029BJ12
5H029BJ13
5H029DJ06
5H029EJ01
5H029EJ06
5H029EJ08
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA13
5H043DA16
5H043HA12D
5H043HA22D
5H043KA01D
(57)【要約】
【課題】ブリスタの発生が抑えられ且つ耐湿性に優れた外部電極層を備える固体電池を実現する。
【解決手段】固体電池1は、電池要素10及び外部電極層40を含む。電池要素10は、内部電極層である正極層21及び負極層22と電解質層23とを含む積層体20と、その表面20aに設けられるカバー層30とを備え、内部電極層の一部がカバー層30から露出する端面10aを有する。外部電極層40は、電池要素10の端面10aを覆い、内部電極層の一部と接続される。外部電極層40は、電池要素10側に設けられTe、V及びBiを含有する内層41と、内層41の外側に設けられTe、V及びBiのうち少なくともTe及びVを含有し且つ内層41よりも低Bi濃度の外層42とを含む。このような内層41及び外層42を含む外部電極層40を設け、ブリスタの発生を抑え且つ耐湿性を高める。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された内部電極層と電解質層とを含む積層体と、前記積層体の表面に設けられるカバー層とを備え、前記内部電極層の一部が前記カバー層から露出する端面を有する電池要素と、
前記端面を覆い、前記内部電極層の前記一部と接続される外部電極層と、
を含み、
前記外部電極層は、
前記電池要素側に設けられ、Te、V及びBiを含有する内層と、
前記内層の外側に設けられ、Te、V及びBiのうち少なくともTe及びVを含有し、前記内層よりもBi濃度が低い外層と、
を含む、固体電池。
【請求項2】
前記内層及び前記外層のうち、前記内層にのみBiが含有される、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記内層は、前記電池要素の前記端面と、前記端面に連続する前記カバー層の外面における、前記端面から第1距離までの第1領域とを覆い、
前記外層は、前記内層と、前記カバー層の前記外面における、前記内層の端から第2距離までの第2領域とを覆う、請求項1に記載の固体電池。
【請求項4】
前記第2距離は、50μm以上100μm以下である、請求項3に記載の固体電池。
【請求項5】
前記内層は、Te、V及びBiを含有するガラス材料を含み、
前記外層は、Te、V及びBiのうち少なくともTe及びVを含有し、前記内層よりもBi濃度が低いガラス材料を含む、請求項1に記載の固体電池。
【請求項6】
前記カバー層は、ガラス材料を含む、請求項1に記載の固体電池。
【請求項7】
前記外部電極層を覆う金属層を更に含む、請求項1に記載の固体電池。
【請求項8】
積層された内部電極層と電解質層とを含む積層体と、前記積層体の表面に設けられるカバー層とを備え、前記内部電極層の一部が前記カバー層から露出する端面を有する電池要素を形成する工程と、
前記端面を覆い、前記内部電極層の前記一部と接続される外部電極層を形成する工程と、
を含み、
前記外部電極層を形成する工程は、
前記電池要素側に設けられ、Te、V及びBiを含有する内層を形成する工程と、
前記内層の外側に設けられ、Te、V及びBiのうち少なくともTe及びVを含有し、前記内層よりもBi濃度が低い外層を形成する工程と、
を含む、固体電池の製造方法。
【請求項9】
前記内層を形成する工程では、前記電池要素の前記端面に、Te、V及びBiを含有するガラス材料を含む内層用ペーストを塗布し、塗布された前記内層用ペーストを焼き付けて、前記内層を形成し、
前記外層を形成する工程では、前記内層の形成後、前記内層の外側に、Te、V及びBiのうち少なくともTe及びVを含有するガラス材料を含む外層用ペーストを塗布し、塗布された前記外層用ペーストを焼き付けて、前記外層を形成する、請求項8に記載の固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池及び固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層された内部電極層と電解質層とを含む積層体を電池要素又はその一部として備える固体電池が知られている。
また、内部電極とセラミック層が積層された積層体を含む積層セラミックコンデンサが知られている。このような積層セラミックコンデンサに関し、積層体の表面に、Cu(銅)粉末とガラスとを含む外部電極用導電性ペーストを塗布して焼き付け、外部電極を形成する技術が知られている。このような外部電極の形成に関し、外部電極用導電性ペーストを焼き付ける際の温度、圧力及び雰囲気を調整し、カーボンのガス化に起因したブリスタ(気泡)の発生を抑えることが提案されている(特許文献1)。更に、外部電極用導電性ペーストに軟化点が比較的高いガラスを用い、カーボンがガス化する温度での軟化流動を抑え、外部電極をポーラスな状態に保ってガスを飛散させ、ブリスタの発生を抑えることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-238834号公報
【特許文献2】特開2014-36056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体電池に関し、電池要素として、積層された内部電極層と電解質層とを含む積層体と、積層体の表面に設けられるカバー層とを備え、内部電極層の一部がカバー層から露出する端面を有するものを用い、その端面に、露出する内部電極層の一部と接続される外部電極層を設ける技術が知られている。外部電極層は、導電性材料を含むペーストを塗布して焼き付けることで形成される。
【0005】
このような技術によって得られる固体電池では、外部電極層形成用のペーストを焼き付ける際、外部電極層が緻密化されるようにすると、水分の浸入に強くなって耐湿性が高まるため、品質が向上する。しかし、そのように外部電極層形成用のペーストを焼き付ける際、用いるペーストの構成によっては、形成される外部電極層にブリスタが発生してしまう場合があった。
【0006】
1つの側面では、本発明は、ブリスタの発生が抑えられ且つ耐湿性に優れた外部電極層を備える固体電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、積層された内部電極層と電解質層とを含む積層体と、前記積層体の表面に設けられるカバー層とを備え、前記内部電極層の一部が前記カバー層から露出する端面を有する電池要素と、前記端面を覆い、前記内部電極層の前記一部と接続される外部電極層と、を含み、前記外部電極層は、前記電池要素側に設けられ、Te、V及びBiを含有する内層と、前記内層の外側に設けられ、Te、V及びBiのうち少なくともTe及びVを含有し、前記内層よりもBi濃度が低い外層と、を含む、固体電池が提供される。
【0008】
また、1つの態様では、上記のような固体電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、ブリスタの発生が抑えられ且つ耐湿性に優れた外部電極層を備える固体電池を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】固体電池が備える電池要素の一例について説明する図(その1)である。
図2】固体電池が備える電池要素の一例について説明する図(その2)である。
図3】固体電池が備える外部接続端子の外部電極層及び電解メッキ層の一例について説明する図である。
図4】固体電池が備える外部接続端子の外部電極層及び電解メッキ層の構成例について説明する図である。
図5】固体電池が備える外部接続端子の外部電極層及び電解メッキ層の元素分布の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び図2は固体電池が備える電池要素の一例について説明する図である。図1には、電池要素の一例の要部斜視図を模式的に示している。図2(A)及び図2(B)にはそれぞれ、電池要素の一例の要部断面図を模式的に示している。図2(A)は図1のP1線に沿った断面模式図であり、図2(B)は図1のP2線に沿った断面模式図である。
【0012】
図1並びに図2(A)及び図2(B)に示す電池要素10は、後述のような外部電極層及び電解メッキ層等が設けられる前の、固体電池の基本構造の一例である。電池要素10は、固体電池の「素体」或いは「電池素体」等とも称される。電池要素10は、積層体20及びカバー層30を備える。
【0013】
積層体20は、図1並びに図2(A)及び図2(B)に示すように、正極層21と、それに対向する負極層22と、それらの間に介在される電解質層23とを有する。積層体20において、正極層21と負極層22とは、電解質層23を挟んで交互に設けられるように、複数層積層される。積層体20において、正極層21と負極層22とは、電解質層23を介して互いに部分的に重複するように設けられる。ここでは一例として、積層体20の最上層及び最下層にも電解質層23が設けられた構成を図示するが、最上層及び最下層には電解質層23が設けられない構成や電解質層23とは異なる別の層が設けられる構成が採用されてもよい。尚、正極層21及び負極層22の一方又は双方を、「内部電極層」とも言う。
【0014】
積層体20の電解質層23は、固体電解質を含む。電解質層23の固体電解質には、例えば、酸化物固体電解質が用いられる。電解質層23の酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON(Na super ionic conductor)型(「ナシコン型」とも称される)の酸化物固体電解質の1種であるLAGPが用いられる。LAGPは、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0<x≦1)で表される酸化物固体電解質である。このほか、電解質層23の固体電解質には、LiS(硫化リチウム)-P(五硫化二リン)等の硫化物固体電解質が用いられてもよい。
【0015】
積層体20の内部電極層である正極層21には、正極活物質、導電助剤及び固体電解質が含まれる。正極層21の固体電解質には、酸化物固体電解質又は硫化物固体電解質、例えば、電解質層23に用いられる固体電解質と同種の材料が用いられる。正極層21の正極活物質には、例えば、LiCoP(ピロリン酸コバルトリチウム、「LCPO」とも言う)等が用いられる。正極層21の導電助剤には、例えば、カーボンファイバー、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン又はカーボンナノチューブ等のカーボン材料、鉄シリサイド等の導電性材料が用いられる。
【0016】
積層体20の内部電極層である負極層22には、負極活物質、導電助剤及び固体電解質が含まれる。負極層22の固体電解質には、酸化物固体電解質又は硫化物固体電解質、例えば、電解質層23に用いられる固体電解質と同種の材料が用いられる。負極層22の負極活物質には、例えば、TiO(酸化チタン)、Nb(五酸化ニオブ)等が用いられる。このほか、負極層22の負極活物質には、Li(PO(リン酸バナジウムリチウム)、LiTi12(チタン酸リチウム)等が用いられてもよい。負極層22の導電助剤には、例えば、カーボンファイバー、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン又はカーボンナノチューブ等のカーボン材料、鉄シリサイド等の導電性材料が用いられる。
【0017】
固体電池の電池要素10が備える積層体20において、その充電時には、正極層21から電解質層23を介して負極層22にリチウムイオンが伝導して取り込まれ、放電時には、負極層22から電解質層23を介して正極層21にリチウムイオンが伝導して取り込まれる。固体電池の電池要素10では、その積層体20におけるこのようなリチウムイオン伝導によって充放電動作が実現される。
【0018】
図1並びに図2(A)及び図2(B)に示す固体電池の電池要素10では、上記のような積層体20の表面20aに、カバー層30が設けられる。カバー層30は、積層体20の内部電極層である正極層21の側面の一部及び負極層22の側面の一部が露出するように、積層体20を覆う。電池要素10は、正極層21の側面の一部がカバー層30から露出する端面10aと、負極層22の側面の一部がカバー層30から露出する端面10bとを有する(図1及び図2(A))。電池要素10の端面10aと端面10bとは、積層体20の電解質層23、正極層21及び負極層22の積層方向と直交する方向(P1線に沿った方向)において対向する位置関係にある。一方の端面10aから露出する正極層21の側面の一部と、他方の端面10bから露出する負極層22の側面の一部とは、電池要素10の外部との電気接続に用いられる。
【0019】
ここでは、カバー層30から正極層21の側面の一部が露出する電池要素10の端面10aを、「正極引き出し面」とも言う。カバー層30から負極層22の側面の一部が露出する電池要素10の端面10bを、「負極引き出し面」とも言う。尚、正極引き出し面及び負極引き出し面の一方又は双方を、「電極引き出し面」とも言う。
【0020】
カバー層30としては、積層体20に用いられる固体電解質よりも高い硬度を有する絶縁性のカバー層30が用いられる。例えば、電解質層23に用いられる固体電解質よりも高い硬度を有する絶縁性のカバー層30が用いられる。或いは、電解質層23に用いられる固体電解質、内部電極層である正極層21及び負極層22に用いられる固体電解質よりも高い硬度を有する絶縁性のカバー層30が用いられる。尚、カバー層30の絶縁性とは、電池要素10の積層体20におけるリチウムイオン伝導、電子伝導に対する影響が無いか或いは十分に低い性質を言う。積層体20に用いられる固体電解質よりも高い硬度を有する絶縁性のカバー層30には、例えば、ガラス又はセラミックスが用いられる。
【0021】
カバー層30は、積層体20を外力や外気から保護する機能を有する。そのため、カバー層30には、上記のような硬度及び絶縁性を有するほか、水分又は水素や酸素等のガスの透過性が低く、良好な密閉性を実現できるものが用いられる。ガラス又はセラミックスは、これらの性質を併せ持たせることのできる材料の1種であり、積層体20を覆うカバー層30を形成するための材料として好適である。
【0022】
上記のような積層体20及びカバー層30を備える固体電池の電池要素10は、例えば、次のような方法を用いて製造される。
例えば、電池要素10の製造では、予め、内部電極層用、電解質層用及びカバー層用の各ペーストが準備される。
【0023】
内部電極層用のペーストとしては、正極層用及び負極層用の各ペーストが準備される。正極層用のペーストであれば、正極活物質、固体電解質、導電助剤、バインダー、可塑剤、分散剤及び希釈剤を含むペーストが準備される。一例として、正極活物質にLCPO、固体電解質にLAGP、導電助剤にカーボンファイバーを用いたペーストが準備される。また、負極層用のペーストであれば、負極活物質、固体電解質、導電助剤、バインダー、可塑剤、分散剤及び希釈剤を含むペーストが準備される。一例として、負極活物質にTiO又はNb、固体電解質にLAGP、導電助剤にカーボンファイバーを用いたペーストが準備される。内部電極層用のペーストのうち、正極層用のペーストは、後述のような脱脂及び焼成のための熱処理によって正極層21として形成される材料の一形態である。内部電極層用のペーストのうち、負極層用のペーストは、後述のような脱脂及び焼成のための熱処理によって負極層22として形成される材料の一形態である。
【0024】
電解質層用のペーストとしては、固体電解質、バインダー、可塑剤、分散剤及び希釈剤を含むペーストが準備される。一例として、固体電解質にLAGPを用いたペーストが準備される。電解質層用のペーストは、後述のような脱脂及び焼成のための熱処理によって電解質層23として形成される材料の一形態である。
【0025】
カバー層用のペーストとしては、例えば、ガラス材料を成分として含むガラスペーストが準備される。例えば、600℃付近での焼成により溶融、焼結される、いわゆる低融点ガラスと称されるガラス材料を成分として含むガラスペーストが準備される。カバー層用のペーストは、後述のような脱脂及び焼成のための熱処理によってカバー層30として形成される材料の一形態である。カバー層用のペーストには、焼成後の硬度が、焼成後の電解質層23、正極層21及び負極層22に含まれる固体電解質の硬度よりも高くなるようなものが用いられる。また、カバー層用のペーストには、焼成後の熱膨張係数が、焼成後の電解質層23、正極層21及び負極層22と同程度の熱膨張係数となるようなものが用いられることが好ましい。また、カバー層用のペーストには、焼成後に、焼成後の電解質層23、正極層21及び負極層22との間に良好な密着性が得られるようなものが用いられることが好ましい。カバー層用のペーストには、粒子状Al(酸化アルミニウム)等のセラミックス材料が添加されてもよい。
【0026】
内部電極層用、電解質層用及びカバー層用の各ペーストの準備後、各ペーストを、図1並びに図2(A)及び図2(B)に示したようなカバー層30、電解質層23、正極層21及び負極層22の積層順となるように塗工する。或いは、各ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体上に塗工して形成される各シートを、図1並びに図2(A)及び図2(B)に示したようなカバー層30、電解質層23、正極層21及び負極層22の積層順となるように積層する。或いはまた、電解質層用のペーストから形成される電解質層用のシート上に、内部電極層用のペーストである正極層用のペーストを塗工して正極層用のシートを形成し、同様に、電解質層用のシート上に負極層用のシートを形成し、これらを交互に積層し、その外側に電解質層用及びカバー層用のシートを積層する。
【0027】
このような塗工或いは積層後の構造体は、内部電極層用のペーストである正極層用及び負極層用のペースト、又はそれらから形成される正極層用及び負極層用のシートの、各々の側面の一部が露出する端面(上記の端面10a及び端面10bに相当)を有するような構造とされる。そのために、必要に応じて、内部電極層用のペーストである正極層用及び負極層用のペースト、又はそれらから形成される正極層用及び負極層用のシートの、各々の側面の一部が露出するように、裁断が行われる。
【0028】
そして、ペースト中又はシート中のバインダー等の有機系材料成分を除去するための熱処理(脱脂)、及びペースト中又はシート中の固体電解質やガラス等を焼結させるための熱処理(焼成)が行われる。この熱処理により、正極層用のペースト又はシートから正極層21が形成され、負極層用のペースト又はシートから負極層22が形成され、電解質層用のペースト又はシートから電解質層23が形成され、カバー層用のペースト又はシートからカバー層30が形成される。
【0029】
これにより、上記図1並びに図2(A)及び図2(B)に示したような電池要素10、即ち、電解質層23、正極層21及び負極層22を含む積層体20、並びにそれを覆うカバー層30を備え、正極層21及び負極層22の各側面の一部がそれぞれ露出する端面10a及び端面10bを有する電池要素10が形成される。
【0030】
電池要素10の、正極層21及び負極層22の各側面の一部がそれぞれ露出する端面10a(正極引き出し面)及び端面10b(負極引き出し面)には、露出する正極層21及び負極層22の各側面の一部とそれぞれ接続される一対の外部接続端子が設けられる。これにより、電池要素10の正極引き出し面及び負極引き出し面にそれぞれ設けられる外部接続端子を用いて、回路基板等の他の電子部品と電気的に接続することのできる、固体電池が実現される。
【0031】
電池要素10に設けられる外部接続端子は、例えば、電池要素10の端面10a(正極引き出し面)及び端面10b(負極引き出し面)に対し、粉末状のAg(銀)等の導電性材料を含有したペーストを塗布して焼き付け、更にその表面に、電解メッキ法を用いてNi(ニッケル)やSn(スズ)等の金属を積層することで、形成される。電池要素10の端面10a側及び端面10b側にそれぞれ形成される外部接続端子において、このようにペーストを塗布して焼き付けることで形成される部分を「外部電極層」とも言い、その表面に電解メッキ法を用いて積層される部分を「電解メッキ層」とも言う。
【0032】
固体電池の電池要素10の、一方の端面10a側に、外部電極層及び電解メッキ層が形成され、端面10a側の外部接続端子が形成される。固体電池の電池要素10の、他方の端面10b側に、外部電極層及び電解メッキ層が形成され、端面10b側の外部接続端子が形成される。例えば、以下で述べるように、電池要素10の端面10a側及び端面10b側の各々に対し、所定の材料が用いられた内層及び外層を含む外部電極層が形成され、その外側に電解メッキ層が形成されて、外部接続端子が形成される。
【0033】
図3は固体電池が備える外部接続端子の外部電極層及び電解メッキ層の一例について説明する図である。図3(A)には、電池要素の一端面側に外部電極層の内層が設けられた状態の一例の要部断面図を模式的に示している。図3(B)には、電池要素の一端面側に外部電極層の内層及び外層が設けられた状態の一例の要部断面図を模式的に示している。図3(C)には、電池要素の一端面側に外部電極層の内層及び外層並びに電解メッキ層が設けられた状態の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0034】
ここで、図3(A)には、電池要素10の端面10a(正極引き出し面)側及び端面10b(負極引き出し面)側にそれぞれ設けられる外部電極層40の内層41のうち、一方の端面10a側に設けられる内層41を図示している。図3(B)には、電池要素10の端面10a(正極引き出し面)側及び端面10b(負極引き出し面)側にそれぞれ設けられる外部電極層40の内層41及び外層42のうち、一方の端面10a側に設けられる内層41及び外層42を図示している。図3(C)には、電池要素10の端面10a(正極引き出し面)側及び端面10b(負極引き出し面)側にそれぞれ設けられる外部電極層40の内層41及び外層42並びに電解メッキ層50のうち、一方の端面10a側に設けられる内層41及び外層42並びに電解メッキ層50を図示している。
【0035】
外部電極層40の形成では、予め、内層41及び外層42の形成に用いるペーストがそれぞれ準備される。内層41(並びに後述する実施例2、3及び比較例2、3の内層)の形成に用いるペーストを、「内層用ペースト」とも言う。外層42(並びに後述する実施例2、3及び比較例2、3の外層)の形成に用いるペーストを、「外層用ペースト」とも言う。内層用ペースト及び外層用ペーストとして、例えば、ガラス材料及び導電性材料並びにバインダー等を含むものが準備される。ガラス材料としては、所定の組成を有するガラスの粉末(「ガラスフリット」とも称される)が用いられる。導電性材料としては、Ag等の金属の粉末が用いられる。バインダーには、エポキシ樹脂等の各種有機系材料が用いられる。準備された内層用ペースト及び外層用ペーストが用いられ、それぞれ図3(A)及び図3(B)に示すように、内層41及び外層42が形成される。
【0036】
まず、図3(A)に示す内層41の形成について説明する。
内層用ペーストのガラス材料には、例えば、Te(テルル)、V(バナジウム)及びBi(ビスマス)を含有するTe-V-Bi系ガラスが用いられる。このようなガラス材料と、Ag等の導電性材料と、バインダーとを含む内層用ペーストが、電池要素10の端面10a側に塗布される。内層用ペーストの塗布は、例えば、ディップ法を用いて行うことができる。内層用ペーストは、電池要素10の端面10aを覆い、且つ、端面10aに連続するカバー層30の外面10cにおける、端面10aから第1距離L1までの第1領域11を覆うように、塗布される。
【0037】
塗布された内層用ペーストは、所定の熱処理条件(温度、雰囲気、圧力)で焼き付けられる。例えば、内層用ペーストは、電池要素10との反応が抑えられる温度、或いは、当該内層用ペーストに用いられるバインダーの分解温度(例えば400℃から750℃程度の範囲)又はそれに近い温度で、焼き付けられる。また、焼き付けの際は、熱処理炉内の雰囲気中の酸素や水分の量、熱処理炉内の圧力が適宜調整される。Te-V-Bi系ガラスが用いられる内層用ペーストは、塗布後の所定の熱処理条件での焼き付けにおいて、ブリスタ(気泡)の発生が効果的に抑えられる性質を有する。
【0038】
上記のような内層用ペーストの塗布及び焼き付けにより、図3(A)に示すように、電池要素10の端面10a側に、内層41が形成される。Te-V-Bi系ガラスが用いられる内層用ペーストから、ブリスタの発生が抑えられた内層41が形成される。内層41は、内層用ペーストが塗布された領域に形成される。即ち、内層41は、電池要素10の端面10aと、電池要素10の外面10cにおける、端面10aから第1距離L1までの第1領域11とを覆うように、形成される。内層41は、電池要素10の端面10aから露出する、内部電極層である正極層21の側面と接続される。内層41は、導電性を有し、正極層21と電気的に接続される。
【0039】
尚、図3(A)には、電池要素10の一方の端面10a側に設けられる内層41を図示するが、図3(A)では図示を省略する他方の端面10b側にも同様に、そこから露出する内部電極層である負極層22の側面と接続される内層41が形成される。
【0040】
続いて、図3(B)に示す外層42の形成について説明する。
外層用ペーストのガラス材料には、例えば、Te及びVを含有するTe-V系ガラスが用いられる。このようなガラス材料と、Ag等の導電性材料と、バインダーとを含む外層用ペーストが、電池要素10の端面10a側の、先に形成された内層41の外側に、塗布される。外層用ペーストの塗布は、例えば、ディップ法を用いて行うことができる。外層用ペーストは、内層41を覆うように塗布される。外層用ペーストは、例えば、内層41を覆い、且つ、カバー層30の外面10cにおける、内層41の端41aから第2距離L2までの第2領域12を覆うように、塗布される。この場合、第2距離L2は、例えば、50μmから100μmの範囲に設定される。
【0041】
塗布された外層用ペーストは、所定の熱処理条件(温度、雰囲気、圧力)で焼き付けられる。例えば、外層用ペーストは、電池要素10との反応が抑えられる温度、或いは、当該外層用ペーストに用いられるバインダーの分解温度若しくはそれに近い温度又は当該分解温度よりも高い温度で、焼き付けられる。また、焼き付けの際は、熱処理炉内の雰囲気中の酸素や水分の量、熱処理炉内の圧力が適宜調整される。
【0042】
上記のような外層用ペーストの塗布及び焼き付けにより、図3(B)に示すように、電池要素10の端面10a側に、内層41を覆う外層42が形成される。外層42は、導電性を有し、正極層21と接続される内層41と電気的に接続される。外層42は、外層用ペーストが塗布された領域に形成される。即ち、外層42は、例えば、内層41と、電池要素10の外面10cにおける、内層41の端41aから第2距離L2までの第2領域12とを覆うように、形成される。この場合、内層41の端41aは、外層42の端42aから第2距離L2だけ、端面10aに向かって外層42の内部に食い込んだ位置になる。第2距離L2は、例えば、50μmから100μmの範囲に設定される。Te-V系ガラスが用いられる外層用ペーストは、塗布後の所定の熱処理条件での焼き付けにおいて、効果的に緻密化され、優れた耐湿性を示す性質を有する。即ち、Te-V系ガラスが用いられる外層用ペーストから、耐湿性に優れた外層42が形成される。
【0043】
尚、図3(B)には、電池要素10の一方の端面10a側に設けられる外層42を図示するが、図3(B)では図示を省略する他方の端面10b側にも同様に、負極層22と接続される内層41を覆う外層42が形成される。
【0044】
図3(A)に示すように内層41が形成され、それを覆うように、図3(B)に示すように外層42が形成されて、電池要素10の端面10a側及び端面10b側にそれぞれ外部電極層40、即ち、内層41及び外層42の2層構造の外部電極層40が形成される。電池要素10の端面10a側に設けられる外部電極層40は、正極層21と電気的に接続され、端面10b側に設けられる外部電極層40は、負極層22と電気的に接続される。
【0045】
尚、外層42によって内層41が覆われる構造を得ることができれば、外層42の端42aの、内層41の端41aからの第2距離L2は、上記のような50μmから100μmの範囲に限らず、50μm未満の範囲に設定されてもよい。即ち、第2距離L2は、0μmから100μmの範囲に設定され得る。
【0046】
続いて、図3(C)に示す電解メッキ層50の形成について説明する。
図3(C)に示すように、電池要素10の端面10a側に設けられる外部電極層40の表面に更に、電解メッキ層50が形成される。電解メッキ層50は、金属層の一形態である。電解メッキ層50は、導電性を有し、外部電極層40の外層42及び内層41と電気的に接続される。電解メッキ層50には、例えば、Ni層とその上に設けられるSn層との積層膜を用いることができる。例えば、外部電極層40の表面に、電解メッキ法を用いてNi層が形成され、そのNi層の表面に、電解メッキ法を用いてSn層が形成される。
【0047】
尚、図3(C)には、電池要素10の一方の端面10a側に設けられる電解メッキ層50を図示するが、図3(C)では図示を省略する他方の端面10b側にも同様に、その外部電極層40の表面に電解メッキ層50が形成される。
【0048】
このように、内層41及びそれを覆う外層42を含む2層構造の外部電極層40が形成され、それを覆う電解メッキ層50が形成されて、これらを外部接続端子60として備える固体電池1、即ち、図3(C)に示すような構成を有する固体電池1が得られる。
【0049】
固体電池1の外部接続端子60について更に述べる。
図4は固体電池が備える外部接続端子の外部電極層及び電解メッキ層の構成例について説明する図である。図4(A)及び図4(B)にはそれぞれ、上記図3(C)のQ1部に相当する箇所の構成例を示している。
【0050】
まず、図4(A)の構成例について述べる。
上記のように、外部接続端子60における外部電極層40の形成では、まず、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストが用いられて内層41が形成され、次いで、その内層41の外側に、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストが用いられて外層42が形成される。例えば、図4(A)に示すように、外部電極層40は、Te、V及びBiを含有する内層41と、Te及びVを含有する外層42とを含む構成を有するものとして形成される。この場合、外層42は、内層41よりもBi濃度が低くなる。
【0051】
内層41の形成に用いられる、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストは、前述の通り、塗布後の焼き付けによる内層41の形成時に、ブリスタの発生が効果的に抑えられる。一方、外層42の形成に用いられる、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストは、前述の通り、塗布後の焼き付けによる外層42の形成時に、効果的に緻密化され、外層42の優れた耐湿性を実現する。内層41及び外層42と電池要素10との反応を抑えるために、内層用ペースト及び外層用ペーストに用いられるバインダーの分解温度(例えば400℃から750℃程度の範囲)又はそれに近い温度で焼き付けを行う場合、いわゆる低温焼き付けを行う場合でも、これらの効果は得られる。即ち、内層41の形成時には、内層41のブリスタの発生が効果的に抑えられ、外層42の形成時には、効果的な緻密化により、外層42の優れた耐湿性が実現される。
【0052】
内層41は、例えば、電池要素10の端面10aと、電池要素10の外面10cにおける、端面10aから第1距離L1までの第1領域11を覆うように、形成される。外層42は、例えば、内層41と、電池要素10の外面10cにおける、内層41の端41aから第2距離L2までの第2領域12を覆うように、形成される。例えば、図4(A)に示すように、内層41の端41aは、外層42の端42aから第2距離L2だけ、端面10aに向かって外層42の内部に食い込んだ位置になる。ここで、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストを用いて形成される内層41は、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストを用いて形成される外層42に比べると、耐湿性が低くなり得る。しかし、固体電池1では、この図4(A)に示すように、比較的耐湿性の高い外層42が、比較的耐湿性の低い内層41を、外層42の端42aが内層41の端41aよりも外側に位置するように覆う構成とすることができる。このような構成とすると、内層41への水分の浸入が、比較的耐湿性の高い外層42によって効果的に抑えられる。
【0053】
また、Te-V系ガラスが用いられる外層用ペーストは、Te-V-Bi系ガラスが用いられる内層用ペーストに比べると、ブリスタが発生し易い性質を有する。しかし、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストを用いて形成される内層41を下地として、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストを用いて外層42が形成されると、外層42におけるブリスタの発生が抑えられる。その結果、内層41及び外層42の2層構造の外部電極層40におけるブリスタの発生が抑えられる。これは、一例として、次のように考えられ得る。即ち、内層41及び外層42の2層構造の外部電極層40における外層42側の形成にのみTe-V系ガラスを含む外層用ペーストが用いられ、その外層用ペーストで形成される部分は外部電極層40全体を当該ペーストで形成する場合に比べて小さな体積となる。外層42の下地となる内層41は、ブリスタの発生が抑えられて形成される。そのため、2層構造の外部電極層40の形成においては、Te-V系ガラスが用いられる外層用ペーストの塗布後の焼き付け(外層42の形成)の際にも、ブリスタの発生、例えば、深さや平面サイズの大きなブリスタの発生が抑えられるものと考えられ得る。
【0054】
上記のように、固体電池1の外部接続端子60の形成では、まず、電池要素10側に、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストが用いられて内層41が形成され、その後、内層41を覆うように、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストが用いられて外層42が形成される。これにより、図4(A)に示すような内層41及び外層42の2層構造が形成される。この2層構造により、ブリスタの発生が抑えられ且つ耐湿性に優れた外部電極層40が実現される。そして、外部電極層40を覆うように電解メッキ層50が形成され、固体電池1の外部接続端子60が形成される。外部電極層40のブリスタの発生が抑えられることで、外部電極層40の形状変化や、外部電極層40を覆う電解メッキ層50の形成不良、例えば、未形成領域の発生や膜厚の不均一化等が抑えられ、また、固体電池1の外観不良等が抑えられる。外部電極層40が優れた耐湿性を示すことで、電池要素10への水分の浸入、それに起因した固体電池1の特性低下、例えば、容量維持率等の充放電特性の低下が抑えられる。
【0055】
続いて、図4(B)の構成例について述べる。
外部接続端子60における外部電極層40の、外層42の形成に用いる外層用ペーストには、塗布後の焼き付けによってブリスタの発生が抑えられ且つ十分な耐湿性が得られる外層42を形成することができれば、Te-V系ガラスを含むものに限らず、例えば、Te-V-Bi系ガラスを含むもの、又は、Te-V系ガラスに一定量のBiを添加したものが用いられてもよい。或いは、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストを用いて形成される内層41から、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストを用いて形成される外層42内に、若しくは、外層42が形成される過程の外層用ペースト内に、一定量のBiが拡散してもよい。
【0056】
例えば、これらのような場合、外部電極層40は、図4(B)に示すように、Te、V及びBiを含有する内層41(Bi濃度:x1%)と、Te、V及びBiを含有する外層42(Bi濃度:x2%<x1%)とを含む構成を有するものとして形成される。但し、外層42のBi濃度(x2%)は、内層41のBi濃度(x1%)よりも低い。このようなBi濃度の分布により、ブリスタが発生し難く且つ耐湿性の高い外層42が実現される。外層42は、Biを含有するようになることで、高い耐湿性を保持しつつ、Te-V系ガラスを用いた場合のようなブリスタの発生し易さが抑えられ得る。尚、外層42のBi濃度は、その表面から内層41側に向かって高くなるような分布を有してもよい。また、外部電極層40のBi濃度は、外層42の表面から内層41側に向かって、更に、内層41の表面から電池要素10側に向かって、高くなるような分布を有してもよい。
【0057】
図4(B)に示すような内層41及び外層42の2層構造によっても、ブリスタの発生が抑えられ且つ耐湿性に優れた外部電極層40が実現される。そして、外部電極層40を覆うように電解メッキ層50が形成され、固体電池1の外部接続端子60が形成される。外部電極層40のブリスタの発生が抑えられることで、外部電極層40の形状変化、外部電極層40を覆う電解メッキ層50の形成不良、固体電池1の外観不良等が抑えられる。外部電極層40が優れた耐湿性を示すことで、電池要素10への水分の浸入、それに起因した固体電池1の特性低下、例えば、容量維持率等の充放電特性の低下が抑えられる。
【0058】
次に、固体電池における外部電極層の材料とブリスタの発生及び耐湿性との関係を評価した結果について説明する。
(実施例1)
固体電池の電池要素、即ち、電解質層を介して設けられる正極層及び負極層を含む積層体と、その表面に設けられるカバー層とを含み、正極層の一部が露出する端面及び負極層の一部が露出する端面を有する電池要素を準備した。ガラス材料としてTe-V-Bi系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含むペーストを準備した。このペーストを、電池要素の正極層及び負極層の各一部が露出する両端面側に、ディップ法を用いて塗布した。その後、塗布したペーストを所定の熱処理条件(温度、雰囲気、圧力)で焼き付け、外部電極層とした。焼き付け後、外部電極層の表面に、Ni及びSnの電解メッキ層を形成した。これにより、外部電極層と電解メッキ層とを含む外部接続端子を備える固体電池を得た。
【0059】
(実施例2)
上記実施例1で述べたような固体電池の電池要素を準備した。ガラス材料としてTe-V-Bi系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む内層用ペーストを準備した。ガラス材料としてTe-V系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む外層用ペーストを準備した。内層用ペーストを、電池要素の正極層及び負極層の各一部が露出する両端面側に、ディップ法を用いて塗布し、その後、所定の熱処理条件で焼き付け、内層とした。続いて、外層用ペーストを、内層の外側に、ディップ法を用いて塗布し、その後、所定の熱処理条件で焼き付け、外層とした。このようにして、内層及び外層を含む2層構造の外部電極層を形成した。外部電極層の形成後、その表面に、Ni及びSnの電解メッキ層を形成した。これにより、外部電極層と電解メッキ層とを含む外部接続端子を備える固体電池を得た。
【0060】
(実施例3)
上記実施例1で述べたような固体電池の電池要素を準備した。ガラス材料としてTe-V-Bi系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む内層用ペーストを準備した。ガラス材料としてTe-V系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む外層用ペーストを準備した。内層用ペーストを、電池要素の正極層及び負極層の各一部が露出する両端面側に、ディップ法を用いて塗布し、その後、所定の熱処理条件で焼き付け、内層とした。続いて、外層用ペーストを、内層の外側に、ディップ法を用いて塗布し、その後、所定の熱処理条件で焼き付け、外層とした。この時、電池要素の外面における内層の端が、電池要素の外面における外層の端から外層の内部に50μm食い込んだ位置となるように、外層を形成した。このようにして、内層及び外層を含む2層構造の外部電極層を形成した。外部電極層の形成後、その表面に、Ni及びSnの電解メッキ層を形成した。これにより、外部電極層と電解メッキ層とを含む外部接続端子を備える固体電池を得た。
【0061】
(比較例1)
上記実施例1で述べたような固体電池の電池要素を準備した。ガラス材料としてTe-V系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含むペーストを準備した。このペーストを、電池要素の正極層及び負極層の各一部が露出する両端面側に、ディップ法を用いて塗布した。その後、塗布したペーストを所定の熱処理条件で焼き付け、外部電極層とした。焼き付け後、外部電極層の表面に、Ni及びSnの電解メッキ層を形成した。これにより、外部電極層と電解メッキ層とを含む外部接続端子を備える固体電池を得た。
【0062】
(比較例2)
上記実施例1で述べたような固体電池の電池要素を準備した。ガラス材料としてTe-V系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む内層用ペーストを準備した。ガラス材料としてTe-V-Bi系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む外層用ペーストを準備した。内層用ペーストを、電池要素の正極層及び負極層の各一部が露出する両端面側に、ディップ法を用いて塗布し、その後、所定の熱処理条件で焼き付け、内層とした。続いて、外層用ペーストを、内層の外側に、ディップ法を用いて塗布し、その後、所定の熱処理条件で焼き付け、外層とした。このようにして、内層及び外層を含む2層構造の外部電極層を形成した。外部電極層の形成後、その表面に、Ni及びSnの電解メッキ層を形成した。これにより、外部電極層と電解メッキ層とを含む外部接続端子を備える固体電池を得た。
【0063】
(比較例3)
上記実施例1で述べたような固体電池の電池要素を準備した。ガラス材料としてTe-V-Bi系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む内層用ペーストを準備した。ガラス材料としてTe-V系ガラスを含み、導電性材料としてAgを含み、更にバインダーを含む外層用ペーストを準備した。内層用ペーストを、電池要素の正極層及び負極層の各一部が露出する両端面側に、ディップ法を用いて塗布し、続いて、外層用ペーストを、内層の外側に、ディップ法を用いて塗布し、塗布した内層用ペースト及び外層用ペーストの、所定の熱処理条件での焼き付けを、同時に行った。このようにして、内層及び外層を含む2層構造の外部電極層を形成した。外部電極層の形成後、その表面に、Ni及びSnの電解メッキ層を形成した。これにより、外部電極層と電解メッキ層とを含む外部接続端子を備える固体電池を得た。
【0064】
(ブリスタの発生の評価)
実施例1-3及び比較例1-3の固体電池について、外観の観察により、外部接続端子におけるブリスタの発生の有無を判定した。
【0065】
(耐湿性の評価)
実施例1及び比較例1の固体電池について、外部電極層の単体の透湿度[g・mm/day・m]を評価した。また、実施例1-3及び比較例1-3の固体電池について、温度85℃、湿度(相対湿度RH)85%の環境に保管した後の充放電特性の変化に基づき、容量維持率が80%以上となる時間を求め、その時間から耐湿性の評価を行った。更に、実施例1-3及び比較例1-3の固体電池について、温度85℃、湿度(相対湿度RH)85%の環境で充放電を行った時の充放電サイクル特性に基づき、容量維持率が80%以上となるサイクル数を求め、そのサイクル数から耐湿性の評価を行った。
【0066】
実施例1-3及び比較例1-3の固体電池についてのブリスタの発生及び耐湿性の評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、実施例1と比較例1とを比較すると、Te-V-Bi系ガラスを含むペーストを用いて外部電極層を形成する実施例1の固体電池では、ブリスタの発生が抑えられた一方、Te-V系ガラスを含むペーストを用いて外部電極層を形成する比較例1の固体電池では、ブリスタの発生が認められた。実施例1の固体電池は、比較例1の固体電池に比べて、外部電極層の単体の透湿度は高いものの、温度85℃、湿度85%の環境を用いた充放電特性において容量維持率が80%以上となる時間が、大幅に長くなった。尚、実施例1の外部電極層の透湿度は、ペーストの材料によって、3g・mm/day・mから300g・mm/day・mの範囲となり得る。Te-V-Bi系ガラスを含むペーストを用いた場合には、Te-V系ガラスを含むペーストを用いた場合に比べて、ブリスタの発生を抑えた外部電極層が形成され、また、ブリスタの発生は、電池要素との密着性の低下、耐湿性の低下、それによる固体電池の特性低下を招く要因となり得ることが確認された。
【0069】
表1より、実施例1と実施例2とを比較すると、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストを用いて内層を形成し、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストを用いて外層を形成し、それによって外部電極層を形成する実施例2の固体電池では、実施例1と同様に、ブリスタの発生が抑えられた。更に、実施例2の固体電池では、温度85℃、湿度85%の環境を用いた充放電特性において容量維持率が80%以上となる時間が、実施例1よりも長くなった。実施例2のような内層及び外層を含む外部電極層が採用されることで、ブリスタの発生が抑えられ且つ耐湿性に優れた固体電池が実現されることが確認された。
【0070】
更に、実施例3の固体電池のように、電池要素の外面における内層の端が、電池要素の外面における外層の端から外層の内部に所定の距離だけ食い込んだ位置となるように外部電極層を形成すると、温度85℃、湿度85%の環境を用いた充放電特性において容量維持率が80%以上となるサイクル数が、実施例2の固体電池よりも多くなった。実施例3の固体電池のように、内層がその端を含めて全体的に透湿度の低い外層(<1g・mm/day・m)で覆われることで、電池要素への水分の浸入が効果的に抑えられるようになる。実施例3のような内層及び外層を含む外部電極層が採用されることで、ブリスタの発生が抑えられ且つ一層耐湿性に優れた固体電池が実現されることが確認された。
【0071】
表1より、実施例2と比較例2とを比較すると、Te-V系ガラスを含む内層用ペーストを用いて内層を形成し、Te-V-Bi系ガラスを含む外層用ペーストを用いて外層を形成し、それによって外部電極層を形成する比較例2の固体電池では、ブリスタの発生が抑えられず、温度85℃、湿度85%の環境を用いた充放電特性において容量維持率が80%以上となる時間も長くはならなかった。実施例2の固体電池のように、Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストを用いて内層を形成し、Te-V系ガラスを含む外層用ペーストを用いて外層を形成し、それによって外部電極層を形成することが、ブリスタの発生を抑え且つ耐湿性を高めるのに有効であることが確認された。
【0072】
表1より、実施例2と比較例3とを比較すると、内層用ペーストを塗布した後に外層用ペーストを塗布してそれらを同時に焼き付けて外部電極層を形成する比較例3の固体電池では、ブリスタの発生が認められた。実施例2の固体電池のように、内層用ペーストを塗布して焼き付け、その後、外層用ペーストを塗布して焼き付け、それによって外部電極層を形成することが、ブリスタの発生を抑えるのに有効であることが確認された。
【0073】
(元素分布の評価)
実施例3の固体電池について、その断面の元素分布をエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy;EDS)により評価した。
【0074】
図5は固体電池が備える外部接続端子の外部電極層及び電解メッキ層の元素分布の一例について説明する図である。図5(A)には、外部接続端子及びその付近の断面像を示している。図5(B)には、外部接続端子におけるAg(Ag-L線)の分布を示している。図5(C)には、外部接続端子におけるSn(Sn-L線)の分布を示している。図5(D)には、外部接続端子におけるBi(Bi-M線)の分布を示している。図5(E)には、外部接続端子におけるV(V-K線)の分布を示している。図5(F)には、外部接続端子におけるTe(Te-L線)の分布を示している。
【0075】
図5(A)及び図5(B)より、外部接続端子の外部電極層の部分には、当該部分に全体的に、Agが分布していることが確認された。図5(A)及び図5(C)より、外部接続端子の電解メッキ層の部分には、当該部分に全体的に、Snが分布していることが確認された。図5(D)より、外部電極層の電池要素側の内層(Te-V-Bi系ガラスを含む内層用ペーストを用いて形成される内層)には、それを覆う外層(Te-V系ガラスを含む外層用ペーストを用いて形成される外層)よりも高濃度のBiが分布していることが確認された。図5(E)及び図5(F)より、外部電極層(その内層及び外層)には、その内部に全体的に、V及びTeがそれぞれ分布していることが確認された。
【0076】
実施例3の固体電池では、外部電極層が比較的高濃度のBiが含有される内層を含むことが、外部電極層のブリスタの発生を抑えること、外部電極層の電池要素との密着性を高めて耐湿性を高めることに寄与しているものと考えられる。実施例2の固体電池についても同様のことが言える。
【0077】
尚、以上の説明では、電池要素(上記図3及び図4の電池要素10)側に設けられてTe、V及びBiを含有する内層(上記図3及び図4の内層41)と、内層の外側に設けられてTe及びVを含有し且つ内層よりもBi濃度が低い外層(上記図3及び図4の外層42)とを含む、2層構造の外部電極層(上記図3及び図4の外部電極層40)を例示した。このほか、Te、V及びBiを含有する単層の外部電極層、即ち、Te-V-Bi系ガラスを含むペーストを用いて形成される単層の外部電極層を備える固体電池(上記実施例1に相当)でも、ブリスタの発生を抑え且つ耐湿性を高める一定の効果は得られる。
【符号の説明】
【0078】
1 固体電池
10 電池要素
10a、10b 端面
10c 外面
11 第1領域
12 第2領域
20 積層体
20a 表面
21 正極層
22 負極層
23 電解質層
30 カバー層
40 外部電極層
41 内層
42 外層
41a、42a 端
50 電解メッキ層
60 外部接続端子
L1、L2 距離
図1
図2
図3
図4
図5