(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111964
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびその弾性波デバイスを備えたモジュール
(51)【国際特許分類】
H03H 9/72 20060101AFI20240813BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H03H9/72
H03H9/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016741
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】518453730
【氏名又は名称】三安ジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161827
【弁理士】
【氏名又は名称】竹田 淳
(72)【発明者】
【氏名】廉 京日
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA10
5J097AA12
5J097AA17
5J097BB14
5J097BB15
5J097CC05
5J097KK03
5J097KK04
(57)【要約】
【課題】より簡素な構成でアイソレーション特性を向上することができる弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、減衰量の絶対値が予め設定された第1基準量以下の第1周波数帯域を有した第1多重モード型共振器と、前記第1多重モード型共振器と並列に接続され、減衰量の絶対値が前記第1基準量以下の第2周波数帯域を有した第2多重モード型共振器と、を備え、前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域は、通過帯域よりも広く、前記通過帯域外、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰量の絶対値が予め設定された第1基準量以下の第1周波数帯域を有した第1多重モード型共振器と、
前記第1多重モード型共振器と並列に接続され、減衰量の絶対値が前記第1基準量以下の第2周波数帯域を有した第2多重モード型共振器と、
を備え、
前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域は、通過帯域よりも広く、
前記通過帯域外、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在する弾性波デバイス。
【請求項2】
前記通過帯域外、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となり、前記位相の絶対値が同等となる周波数が存在する請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記通過帯域よりも高く、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在する請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記通過帯域よりも低く、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在する請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成された受信フィルタと、
所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成された送信フィルタと、
を備え、
前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器とは、前記受信フィルタに設けられた請求項3または請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第1周波数帯域と前記第2周波数帯域とは互いに異なる請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1に記載の弾性波デバイスを備えたモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性波デバイスおよびその弾性波デバイスを備えたモジュールに関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、弾性波デバイスを開示する。当該弾性波デバイスは、複数のフィルタを備える。当該弾性波デバイスは、付加回路を備える。当該付加回路により、当該弾性波デバイスのアイソレーション特性を向上し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の弾性波デバイスにおいては、フィルタの他に付加回路が必要となる。このため、弾性波デバイスの構成が複雑になり得る。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、より簡素な構成でアイソレーション特性を向上することができる弾性波デバイスおよびその弾性波デバイスを備えるモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る弾性波デバイスは、
減衰量の絶対値が予め設定された第1基準量以下の第1周波数帯域を有した第1多重モード型共振器と、
前記第1多重モード型共振器と並列に接続され、減衰量の絶対値が前記第1基準量以下の第2周波数帯域を有した第2多重モード型共振器と、
を備え、
前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域は、通過帯域よりも広く、
前記通過帯域外、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在する。
【0007】
前記通過帯域外、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となり、前記位相の絶対値が同等となる周波数が存在することが、本開示の一形態とされる。
【0008】
前記通過帯域よりも高く、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在することが、本開示の一形態とされる。
【0009】
前記通過帯域よりも低く、かつ、前記第1周波数帯域内および前記第2周波数帯域内において、前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器との出力の位相が逆符号となる周波数が存在することが、本開示の一形態とされる。
【0010】
所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成された受信フィルタと、
所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成された送信フィルタと、
を備え、
前記第1多重モード型共振器と前記第2多重モード型共振器とは、前記受信フィルタに設けられたことが、本開示の一形態とされる。
【0011】
前記第1周波数帯域と前記第2周波数帯域とは互いに異なることが、本開示の一形態とされる。
【0012】
前記弾性波デバイスを備えたモジュールが、本開示の一形態とされる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、より簡素な構成でアイソレーション特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1における弾性波デバイスの断面図である。
【
図2】実施の形態1における弾性波デバイスにおいて配線基板を除いた後にチップ基板を下方から見た図である。
【
図3】実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器の例を示す図である。
【
図4】実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器を用いた回路図である。
【
図5】実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器の減衰特性を示す図である。
【
図6】実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器の位相を示す図である。
【
図7】実施の形態1における弾性波デバイスのチップ基板の回路図である。
【
図8】実施の形態1における弾性波デバイスの受信フィルタの挿入損失を示す図である。
【
図9】実施の形態1における弾性波デバイスの受信フィルタの広帯域での減衰量を示す図である。
【
図10】実施の形態1における弾性波デバイスの受信フィルタの狭帯域での減衰量を示す図である。
【
図11】実施の形態1における弾性波デバイスとしてのデュプレクサのアイソレーション特性を示す図である。
【
図12】実施の形態2における弾性波デバイスが適用されるモジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0016】
実施の形態1.
図1は実施の形態1における弾性波デバイスの断面図である。
【0017】
図1に示されるように、弾性波デバイス1は、配線基板2とチップ基板3と複数のバンプ4と封止部5とを備える。
【0018】
例えば、配線基板2は、樹脂を含む多層基板である。例えば、配線基板2は、複数の誘電体層からなる低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)多層基板である。例えば、配線基板2は、コンデンサまたはインダクタ等の受動素子(図示されず)を内蔵する。配線基板2は、PCB(Printed Circuit Board)であることもある。配線基板2は、複数の誘電体層からなる高温同時焼成セラミックス(High Temperature Co-fired Ceramics:HTCC)多層基板であることもある。
【0019】
図1において、配線基板2の上面は、部品実装面である。複数の導電性パッド2Aは、配線基板2の上面に形成される。例えば、複数の導電性パッド2Aは、銅で形成される。配線基板2の下面は、マザー基板等への取付面である。複数の導電性パッド2Bは、配線基板2の下面に形成される。例えば、複数の導電性パッド2Bは、銅で形成される。複数の内部導体2Cは、配線基板2に内蔵される。例えば、複数の内部導体2Cは、銅で形成される。内部導体2Cの各々は、互いに対応した導電性パッド2Aと導電性パッド2Bとを電気的に接続する。
【0020】
チップ基板3は、配線基板2と対向する。例えば、チップ基板3は、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムまたは水晶等の圧電単結晶で形成される。例えば、チップ基板3は、圧電セラミックスで形成される。例えば、チップ基板3は、圧電基板と支持基板とが接合されることにより形成される。例えば、支持基板は、サファイア、シリコン、アルミナ、スピネル、水晶またはガラスで形成される。
【0021】
例えば、チップ基板3の主面(
図1においては下面)において、受信フィルタと送信フィルタとが形成される。
【0022】
受信フィルタは、所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成される。例えば、受信フィルタは、複数の直列共振器と複数の並列共振器からなるラダー型フィルタを含む。
【0023】
送信フィルタは、所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成される。例えば、送信フィルタは、複数の直列共振器と複数の並列共振器からなるラダー型フィルタを含む。
【0024】
例えば、チップ基板3は、配線パターン3Aと複数の電極3Bとを備える。例えば、複数の電極3Bは、櫛歯状の電極指であるInterdigital Transducer(IDT)電極である。IDT電極は、給電側のリード端子から配線パターン3Aを介して高周波電界を受けることで弾性表面波を励起し、弾性表面波を圧電作用によって高周波電界に変換することで所望のフィルタ特性を得る。
【0025】
複数のバンプ4の各々は、金、導電接着剤、半田等である。例えば、バンプ4の高さは、10μmから50μmである。複数のバンプ4の各々は、対応した位置において導電性パッド2Aと配線パターン3Aとを電気的に接続する。
【0026】
封止部5は、配線基板2とチップ基板3との間に空間6を残しつつ、配線基板2とともにチップ基板3を気密封止する。例えば、封止部5は、合成樹脂等の絶縁体で形成される。当該合成樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミド等である。
【0027】
例えば、チップ基板3が配線基板2に実装された後、樹脂シートがチップ基板3にまたがるように載せられることで仮固定される。例えば、樹脂シートは、液状のエポキシ樹脂からシート化される。例えば、樹脂シートは、エポキシ樹脂とは異なるポリイミド等などの合成樹脂で形成される。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)を材料とする保護フィルムが樹脂シートの上面に設けられる。例えば、ポリエステルを材料とするベースフィルムが樹脂シートの下面に設けられる。その後、樹脂シートが軟化温度まで加熱される。その結果、樹脂シートがチップ基板3の側面と配線基板2の上面とに充填される。この際、樹脂は、チップ基板3と配線基板2との間にチップ基板3の外縁部からある程度の量だけ回り込む。その後、樹脂シートは、硬化温度まで加熱されることで完全に硬化する。
【0028】
次に、
図2を用いて、チップ基板3の構成を説明する。
図2は実施の形態1における弾性波デバイスにおいて配線基板を除いた後にチップ基板を下方から見た図である。
【0029】
図2に示されるように、配線パターン3Aと複数の弾性波素子8とは、チップ基板3の主面に形成される。
【0030】
例えば、配線パターン3Aは、銀、アルミニウム、銅、チタン、パラジウム等の金属または合金で形成される。例えば、配線パターン3Aは、複数の金属層を積層して形成される。例えば、配線パターン3Aの厚みは、150nmから400nmである。
【0031】
配線パターン3Aは、アンテナ用バンプパッドANTと送信用バンプパッドTxと受信用バンプパッドRxと4つのグランド用バンプパッドGNDとを含む。これらのバンプパッドは、バンプ4(
図2においては図示されず)と電気的に接続する部分である。
【0032】
複数の弾性波素子8は、複数の直列共振器RS1、RS2と複数の並列共振器RP1、RP2と第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とを含む。複数の直列共振器RS1、RS2と複数の並列共振器RP1、RP2と第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とは、配線パターン3Aを介して電気的に接続される。複数の直列共振器RS1、RS2は、いずれのグランド用バンプパッドGNDとも直接的に電気的に接続されない。複数の並列共振器RP1、RP2と第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とは、いずれかのグランド用バンプパッドGNDと直接的に電気的に接続される。
【0033】
複数の直列共振器RS1、RS2と複数の並列共振器RP1、RP2と第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とは、受信フィルタとして機能する。具体的には、電気信号がアンテナ用バンプパッドANTに入力されると、当該電気信号は、複数の直列共振器RS1、RS2と複数の並列共振器RP1、RP2と第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とを通過する。この際、所望の周波数帯域の電気信号のみが受信用バンプパッドRxに到達する。その結果、所望の周波数帯域の電気信号のみが受信用バンプパッドRxから出力される。
【0034】
複数の直列共振器TS1-1、TS1-2、TS2、TS3、TS4と複数の並列共振器TP1、TP2、TP3とは、送信フィルタを構成し、前記の受信フィルタと合わせてデュプレクサを構成する。
【0035】
次に、
図3を用いて、多重モード型共振器の例を説明する。
図3は実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器の例を示す図である。
【0036】
図3の上段は、第1多重モード型共振器DMS1の概略を示す。
図3の下段は、第1多重モード型共振器DMS1の記号を示す。
図3の上段に示されるように、第1多重モード型共振器DMS1は、複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとを備える。複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとは、チップ基板3(
図3においては図示されず)の主面に形成される。
図3の上段においては、3組のIDT電極8Aが形成される。複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとは、弾性表面波を励振し得るように設けられる。
【0037】
例えば、複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとは、アルミニウムと銅の合金で形成される。例えば、複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとは、チタン、パラジウム、銀などの適宜の金属もしくはこれらの合金で形成される。例えば、複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとは、複数の金属層が積層した積層金属膜で形成される。例えば、複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bとの厚みは、150nmから400nmである。
【0038】
各組において、IDT電極8Aは、複数の電極指8Dとバスバー8Eとを備える。複数の電極指8Dは、長手方向を合わせて配置される。バスバー8Eは、複数の電極指8Dを互いに対向するように接続する。一対の反射器8Bの一方は、複数組のIDT電極8Aの一側(
図3においては上側)に隣接する。一対の反射器8Bの他方は、複数組のIDT電極8Aの他側(
図3においては下側)に隣接する。例えば、複数組のIDT電極8Aと一対の反射器8Bは、配線パターン3A(
図3においては図示されず)と同じプロセスで成膜およびパターニングされる。
【0039】
図3においては、上下のIDT電極8Aが入力側の電極である。中央のIDT電極8Aが出力側の電極である。第1多重モード型共振器DMS1の特性の調整は、IDT電極8Aの対数、IDT電極8A同士の間隔等の調整により行われる。
【0040】
なお、第2多重モード型共振器DMS2も、第1多重モード型共振器DMS1と同様に形成される。
【0041】
次に、
図4から
図6を用いて、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との特性を説明する。
図4は実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器を用いた回路図である。
図5は実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器の減衰特性を示す図である。
図6は実施の形態1における弾性波デバイスに用いられる多重モード型共振器の位相を示す図である。
【0042】
図4の上段は、第1多重モード型共振器DMS1単体を示す。port1は、第1多重モード型共振器DMS1の入力端子である。port2は、第1多重モード型共振器DMS1の出力端子である。
図4の中段は、第2多重モード型共振器DMS2単体を示す。port3は、第2多重モード型共振器DMS2の入力端子である。port4は、第2多重モード型共振器DMS2の出力端子である。
図4の下段は、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路を示す。port5は、当該回路の入力端子である。port6は、当該回路の出力端子である。
【0043】
図5において、実線Aは、電気信号が
図4のport1からport2に流れた際の減衰特性である。破線Bは、電気信号が
図4のport3からport4に流れた際の減衰特性である。一点鎖線Cは、電気信号が
図4のport5からport6に流れた際の減衰特性である。
【0044】
実線Aにおいて、第1多重モード型共振器DMS1は、第1周波数帯域を有する。第1周波数帯域は、減衰量の絶対値が予め設定された第1基準量以下の帯域である。例えば、第1周波数帯域は、減衰量の絶対値が10dB以下の帯域である。破線Bにおいて、第2多重モード型共振器DMS2は、第2周波数帯域を有する。第2周波数帯域は、減衰量の絶対値が予め設定された第1基準量以下の帯域である。例えば、第2周波数帯域は、減衰量の絶対値が10dB以下の帯域である。第1周波数帯域と第2周波数帯域とは互いに異なる。
図5においては、第1周波数帯域は、第2周波数帯域よりも広い。一点鎖線Cに示されるように、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路においては、通過帯域が設定される。通過帯域は、各種仕様によって設定される。例えば、
図5においては、通過帯域として、バンド12に対応した受信帯域(729MHzから746MHz)が設定される。この際、第1周波数帯域および第2周波数帯域は、通過帯域よりも広く設定される。
【0045】
図5において、m1は、通過帯域外、かつ、第1周波数帯域内および第2周波数帯域内における一点鎖線Cの減衰量を示す。
図5に示されるように、m1において、反共振的に鋭いディップが形成される。この際、一点鎖線Cの減衰量の絶対値が極端に大きくなる。具体的には、m1は、周波数が753.5MHzにおける一点鎖線Cの減衰量が-12.291dBであることを示す。
【0046】
図6において、実線Dは、第1多重モード型共振器DMS1の出力の位相を示す。破線Eは、第2多重モード型共振器DMS2の出力の位相を示す。m2は、周波数が753.5MHzにおける第1多重モード型共振器DMS1の出力の位相を示す。具体的には、m2における位相は、30.682度である。m3は、周波数が753.5MHzにおける第2多重モード型共振器DMS2の出力の位相を示す。具体的には、m3における位相は、-30.832度である。
【0047】
このように、m1に対応した周波数において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との出力の位相が逆符号となる。さらに、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との出力の位相の絶対値はほぼ同等となる。例えば、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との出力の位相の絶対値の差は1度以内に収まる。
【0048】
次に、
図7を用いて、チップ基板3の回路構成を説明する。
図7は実施の形態1における弾性波デバイスのチップ基板の回路図である。
【0049】
図7に示されるように、デュプレクサの受信側において、直列共振器RS1の入力側は、配線パターン3Aを介してアンテナ用バンプパッドANTと電気的に接続される。直列共振器RS2の入力側は、配線パターン3Aを介して直列共振器RS1の出力側と電気的に接続される。第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路の入力側は、配線パターン3Aを介して直列共振器RS2の出力側と電気的に接続される。第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路の出力側は、配線パターン3Aを介して受信用バンプパッドRxと電気的に接続される。
【0050】
並列共振器RP1の一側は、直列共振器RS1の出力側と直列共振器RS2の入力側との間の配線パターン3Aと電気的に接続される。並列共振器RP1の他側は、配線パターン3Aを介してグランド用バンプパッドGNDと電気的に接続される。並列共振器RP2の一側は、直列共振器RS2の出力側と、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路の入力側との間の配線パターン3Aと電気的に接続される。並列共振器RP2の他側は、配線パターン3Aを介してグランド用バンプパッドGNDと電気的に接続される。
【0051】
デュプレクサの送信側において、複数の直列共振器TS1-1、TS1-2、TS2、TS3、TS4は、送信用バンプパッドTxとアンテナ用バンプパッドANTとの間でこの順で電気的に接続される。複数の並列共振器TP1、TP2、TP3は、設定された領域において配線パターン3Aおよびグランド用バンプパッドGNDと電気的に接続される。
【0052】
次に、
図8から
図11を用いて、弾性波デバイス1の特性を説明する。
図8は実施の形態1における弾性波デバイスの受信フィルタの挿入損失を示す図である。
図9は実施の形態1における弾性波デバイスの受信フィルタの広帯域での減衰量を示す図である。
図10は実施の形態1における弾性波デバイスの受信フィルタの狭帯域での減衰量を示す図である。
図11は実施の形態1における弾性波デバイスとしてのデュプレクサのアイソレーション特性を示す図である。
【0053】
図8に示されるように、バンド12の受信帯域(729MHzから746MHz)において、挿入損失は十分に小さい。
図9に示されるように、広帯域での減衰特性は良好である。
図10に示されるように、狭帯域での減衰特性も良好である。
図11に示されるように、アイソレーション特性も良好である。特に、破線で囲まれた領域に示されるように、周波数が753.5MHz近傍でのアイソレーション特性が改善される。
【0054】
以上で説明された実施の形態1の弾性波デバイス1によれば、通過帯域外、かつ、第1周波数帯域内および第2周波数帯域内において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との出力の位相が逆符号となる周波数が存在する。当該周波数において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路の減衰量の絶対値が大きくなる。このため、より簡素な構成で弾性波デバイス1のアイソレーション特性を向上することができる。
【0055】
なお、当該周波数において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との減衰量が同等である必要はない。第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との減衰量が十分に小さい領域であれば、当該周波数において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とが並列に接続された回路の減衰量の絶対値を大きくすることができる。
【0056】
さらに、当該周波数において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との出力の位相の絶対値はほぼ同等となる。この場合、当該周波数において、減衰量の絶対値が確実に大きくなる。このため、弾性波デバイス1のアイソレーション特性をより確実に向上させることができる。
【0057】
また、実施の形態1の弾性波デバイス1においては、通過帯域よりも高く、かつ、第1周波数帯域内および第2周波数帯域内において、当該周波数が存在する。このため、バンド12に対応した受信帯域(729MHzから746MHz)よりも高い周波数の側において、弾性波デバイス1のアイソレーション特性を向上させることができる。
【0058】
なお、通過帯域よりも低く、かつ、第1周波数帯域内および第2周波数帯域内において、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2との出力の位相が逆符号となる周波数が存在するように、第1多重モード型共振器DMS1と第2多重モード型共振器DMS2とを形成してもよい。この場合、通過帯域よりも低い周波数の側において、弾性波デバイス1のアイソレーション特性を向上させることができる。特に、実施の形態1においては、バンド12に対し、送信フィルタと受信フィルタとの間の干渉を抑制することができる。
【0059】
また、第1周波数帯域と第2周波数帯域とは互いに異なる。このため、所望の通過帯域において挿入損失が十分小さい弾性波デバイス1を容易に形成することができる。
【0060】
実施の形態2.
図12は実施の形態2における弾性波デバイスが適用されるモジュールの断面図である。なお、実施の形態1の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0061】
図12において、モジュール100は、配線基板101と集積回路部品102と弾性波デバイス1とインダクタ103と封止部104とを備える。
【0062】
配線基板101は、実施の形態1の配線基板2と同等である。集積回路部品102は、配線基板101の内部に実装される。集積回路部品102は、スイッチング回路とローノイズアンプとを含む。弾性波デバイス1は、配線基板101の主面に実装される。インダクタ103は、配線基板101の主面に実装される。インダクタ103は、インピーダンスマッチングのために実装される。例えば、インダクタ103は、Integrated Passive Device(IPD)である。封止部104は、弾性波デバイス1を含む複数の電子部品を封止する。
【0063】
以上で説明された実施の形態2によれば、モジュール100は、弾性波デバイス1を備える。このため、アイソレーション特性が向上した弾性波デバイス1を備えたモジュール100を得ることができる。
【0064】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面が説明されたが、様々な改変、修正および改善が当業者にとって容易に想起されることを理解されたい。かかる改変、修正および改善は、本開示の一部となることが意図され、かつ、本開示の範囲内にあることが意図される。
【0065】
理解するべきことだが、ここで述べられた方法および装置の実施形態は、上記説明に記載され又は添付図面に例示された構成要素の構造および配列の詳細への適用に限られない。方法および装置は、他の実施形態で実装し、様々な態様で実施又は実行することができる。
【0066】
特定の実装例は、例示のみを目的としてここに与えられ、限定されることを意図しない。
【0067】
本開示で使用される表現および用語は、説明目的であって、限定としてみなすべきではない。ここでの「含む」、「備える」、「有する」、「包含する」およびこれらの変形の使用は、以降に列挙される項目およびその均等物並びに付加項目の包括を意味する。
【0068】
「又は(若しくは)」の言及は、「又は(若しくは)」を使用して記載される任意の用語が、当該記載の用語の一つの、一つを超える、およびすべてのものを示すように解釈され得る。
【0069】
前後左右、頂底上下、横縦、表裏への言及は、いずれも、記載の便宜を意図する。当該言及は、本開示の構成要素がいずれか一つの位置的又は空間的配向に限られるものではない。したがって、上記説明および図面は、例示にすぎない。
【符号の説明】
【0070】
1 弾性波デバイス、 2 配線基板、 2A 導電性パッド、 2B 導電性パッド、 2C 内部導体、 3 チップ基板、 3A 配線パターン、 3B 電極、 4 バンプ、 5 封止部、 6 空間、 8 弾性波素子、 8A IDT電極、 8B 反射器、 8D 電極指、 8E バスバー、 8F 圧電膜、 8G 下部電極、 8H 上部電極、 8J 空隙、 100 モジュール、 101 配線基板、 102 集積回路部品、 103 インダクタ、 104 封止部