(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111999
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/50 20060101AFI20240813BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240813BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240813BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240813BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H01L23/50 H
H01L29/78 652T
H01L29/78 655A
H01L29/78 652Q
H01L23/50 L
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016798
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 まい
(72)【発明者】
【氏名】金井 直之
【テーマコード(参考)】
5F067
【Fターム(参考)】
5F067AA04
5F067BB04
(57)【要約】
【課題】端子におけるワイヤの接合部への封止体の剥離の進展を抑えることができる半導体装置を提供する。
【解決手段】本開示の1つの態様に係る半導体装置は、半導体素子と、ワイヤ22が接合された端子20と、半導体素子、及び、端子におけるワイヤ22の接合部を包囲するケース12と、ケース12によって包囲された内部空間Sを封止する封止体14と、を備え、端子20におけるワイヤ22が接合される接合領域200Tが凹形状、又は凸形状である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、
ワイヤが接合された端子と、
前記半導体素子、及び、前記端子における前記ワイヤの接合部を包囲するケースと、
前記ケースによって包囲された内部空間を封止する封止体と、
を備え、
前記端子における前記ワイヤが接合される接合領域が凹形状、又は凸形状である、
半導体装置。
【請求項2】
前記端子は、
前記ケースに埋設された埋設部と、
前記埋設部に繋がり、前記内部空間を延びる延出部と、
を含み、
前記延出部に、前記凹形状、又は前記凸形状の前記接合領域が設けられる
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ケースは、前記端子の一部が埋設されたインサート成形品である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記凹形状、又は前記凸形状の接合領域は、前記端子の先端部に繋がる
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ケースは筒状であり、
前記ケースの軸方向から視た平面視において、前記接合領域は角丸矩形状である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記凹形状、又は前記凸形状の前記接合領域と、前記端子の表面との間の段差の大きさが前記ワイヤの径に対応する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記凹形状、又は前記凸形状の前記接合領域と前記端子の表面との間の段差面と、前記端子の表面と、が成す角度が鋭角である
請求項1に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、半導体装置において、ダイパッドとモールド樹脂との界面における剥離の進展を抑制する技術を開示する。具体的には、特許文献1には、ダイパッドの一面のうち半導体チップが搭載された部分をチップ搭載部とし、ワイヤが接合された部分をワイヤ接合部とし、ダイパッドには、チップ搭載部とワイヤ接合部とを隔てる剥離伸展防止溝が形成されることが示されている。
【0003】
特許文献2は、半導体装置において、ワイヤが接合された接合部をモールド樹脂以外の被膜で覆わずとも、ワイヤの断線を抑制する技術を開示する。具体的には、特許文献2は、リードフレームのリード部のうちの一部と電気的に接続されたワイヤと、ワイヤとリード部のうちワイヤと接合された接合部を含む一部の領域を封止するモールド樹脂と、を備えた半導体装置において、リード部のうち、モールド樹脂に封止される領域、かつ接合部と異なる領域であって、接合部から離れつつ、当該接合部を囲む領域にマイクロオーダーの凹凸を有する粗化領域を形成する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019‐114618号公報
【特許文献2】特開2018‐157023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケースに囲まれた内部空間に、半導体素子、及び端子が収められ、端子にワイヤが接合された状態で当該内部空間が封止体によって封止された半導体装置がある。しかしながら、この構成の半導体装置において、端子とワイヤの接合部への剥離の進展対策を上記特許文献1、及び特許文献2によって図ることには問題がある。
すなわち、特許文献1の技術を用いる場合、ダイパッドよりも面積が限られた端子の表面に剥離伸展防止溝を形成する必要があるため当該形成が困難である。
特許文献2の技術を用いる場合、粗化のためのレーザ光を、ケースの内部空間の端子のみにピンポイントで当てることは困難であり、端子周囲の半導体素子などにもレーザ光が照射されてしまう。また、マイクロオーダーの粗化は一般にコストが高い。さらに、ワイヤの接合部が粗化されるとワイヤの接合性が悪くなる、という欠点がある。このため、粗化の手段に湿式粗化を用いる場合、ワイヤの接合部の粗化を防止するためにマスキング等を施す必要があり加工が難しくなる。一方、粗化の手段にレーザー光を用いる場合、ワイヤの接合部へのレーザ照射を防止するために照射位置を高精度に制御する必要があり、また、レーザ光の照射によってワイヤの接合部にスパッタ付着や酸化が生じ、ワイヤの接合性を悪化させることもある。
【0006】
本開示は、端子におけるワイヤの接合部への封止体の剥離の進展を抑えることができる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの態様に係る半導体装置は、半導体素子と、ワイヤが接合された端子と、前記半導体素子、及び、前記端子における前記ワイヤの接合部を包囲するケースと、前記ケースによって包囲された内部空間を封止する封止体と、を備え、前記端子における前記ワイヤが接合される接合領域が凹形状、又は凸形状である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の1つの態様によれば、端子におけるワイヤの接合部への封止体の剥離の進展が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るパワー半導体モジュールの断面構成の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図1において矢印Aで示す箇所の拡大図である。
【
図3】
図1及び
図2における端子の延出部の周辺を拡大して示す図である。
【
図4】端子における延出部の平面視構成の一例を示す図である。
【
図5】ケースのインサート成形に用いられる金型のうち、端子の延出部を覆う金型部分の一例を模式的に示す図である。
【
図6】第2実施形態に係るパワー半導体モジュールにおける延出部の断面構成の一例を拡大して示す模式図である。
【
図7】ケースのインサート成形に用いられる金型のうち、第2実施形態の端子の延出部を覆う金型部分の一例を模式的に示す図である。
【
図8】変形例1に係る接合領域の平面視形状の一例を示す図である。
【
図9】変形例2に係る段差部の断面形状についての一例を示す図である。
【
図10】変形例2に係る段差部の断面形状についての他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法及び縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態に限定されない。
【0011】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態に係るパワー半導体モジュール1の断面構成の一例を模式的に示す図である。
パワー半導体モジュール1は、本開示における半導体装置の一例である。
パワー半導体モジュール1は、
図1に示すように、1以上のパワー半導体素子10と、金属製のワイヤ22がそれぞれ接合された複数の端子20と、当該1以上のパワー半導体素子10、及び、複数の端子20のそれぞれのワイヤ22の接合部を包囲するケース12と、を備え、当該ケース12によって包囲された内部空間Sが封止体14によって封止されたケース型のモジュールである。
【0012】
より具体的には、パワー半導体モジュール1は、1以上のパワー半導体素子10が接合される絶縁基板16と、当該絶縁基板16が搭載される冷却器18と、を更に備え、これらがケース12の中に収められる。各端子20は、それぞれワイヤ22によって、1以上のパワー半導体素子10のいずれか1つ、又は絶縁基板16に接続される。ケース12は、1以上のパワー半導体素子10、及び絶縁基板16を包囲する姿勢で冷却器18に搭載される。ケース12は筒状を成しており、冷却器18に搭載される側の端部12Aに開口部120を有し、当該開口部120が冷却器18の基板搭載面18Aによって閉塞される。すなわち、ケース12、及び冷却器18が有底の容器体を形成し、この容器体の内部空間Sに液状の封止材が注入され、当該封止材が硬化することにより封止体14が形成される。
【0013】
以下の説明において、筒状のケース12の軸方向を「上下方向D」と称する。この上下方向において、パワー半導体素子10から視て絶縁基板16又は冷却器18が位置する方向を「下方向D1」と称し、当該下方向D1と反対の方向を「上方向D2」と称する。また、パワー半導体モジュール1の断面視において上下方向Dに直交する方向を「横方向E1」と称する。上方D2からパワー半導体モジュール1を視る方向が「平面視」の方向に対応し、この平面視において、横方向E1に直交する方向を「奥行き方向E2」と称する。
【0014】
パワー半導体素子10は、本開示における半導体素子の一例である。
パワー半導体素子10は、例えば、IGBT(InsulatedGateBipolarTransistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、及びダイオードチップ等である。1以上のパワー半導体素子10は、シリコン(Si)デバイスであってもよい。また、パワー半導体素子10は、炭化珪素(SiC)デバイス、窒化ガリウム(GaN)デバイス、ダイヤモンドデバイス、酸化亜鉛(ZnO)デバイスなどのワイドギャップ半導体デバイスであってもよい。また、パワー半導体素子10の個数が2以上である場合、各パワー半導体素子10は、同じでもよいし、異なってもよい。互いに異なるパワー半導体素子10の組合せにより、例えば、Si-IGBTとSiC-SBD(SchottkyBarrierDiode:ショットキーバリアダイオード)を含む、いわゆるハイブリッドモジュール形態のパワー半導体モジュール1が得られる。
【0015】
絶縁基板16は、電気的絶縁性を有する板状の絶縁層160を含み、絶縁層160の一方の主面が半導体接合面16Aに用いられる部材である。本実施形態の絶縁基板16は、板厚の方向に複数の層が積層した積層基板であり、絶縁層160に加え、第1導電層161と、第2導電層162とを含む。絶縁層160には、電気絶縁性、及び熱伝導性に優れた部材が用いられる。この部材の一例には、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(SiN)などを主材とするセラミック板が挙げられる。第1導電層161、及び第2導電層162は、いずれも導電性を有する層であり、第1導電層161は絶縁層160の一方の主面に設けられ、第2導電層162は絶縁層160の他方の主面に設けられる。第1導電層161、及び第2導電層162には、導電性、及び加工性に優れた部材が用いられる。この部材の一例には、銅(Cu)、及びアルミニウム(Al)などの金属を主材とする部材が挙げられる。
【0016】
第1導電層161は、絶縁層160の2つの主面のうち、上記半導体接合面16Aに対応する主面に設けられる。第1導電層161は、平面視において絶縁層160の主面に所定の回路パターンを形成し、第1導電層161には、1以上のパワー半導体素子10が、はんだ30によって接合され、また、複数の端子20の1以上がワイヤ22を介して接続される。第2導電層162は、絶縁層160の2つの主面のうち、冷却器18に接合される方の主面の略全領域に亘って設けられる。本実施形態の第2導電層162の部材には例えば金属箔が用いられる。
絶縁層160の主面への第1導電層161、及び第2導電層162の積層には、直接接合法(DirectCopperBonding法)、及びろう材接合法(ActiveMetalBrazing法)などの適宜の手法が用いられる。なお、第1導電層161、及び第2導電層162には、防錆などの目的でニッケル(Ni)めっきなどの表面処理が施されてもよい。
【0017】
冷却器18は、パワー半導体素子10を冷却する部材である。具体的には、冷却器18は、水などの冷却媒体にパワー半導体素子10の熱量を回収させることにより当該パワー半導体素子10を冷却するものである。本実施形態の冷却器18は、Cu、及びAlなどの金属を主材とする部材の内部に冷却媒体が流通する流路が形成されている。なお、冷却媒体の流路は冷却器18の内部ではなく表面に接するように設けられてもよい。冷却器18は、平面状の主面を有する板状であり、当該主面が基板搭載面18Aに用いられ、絶縁基板16がはんだ32によって当該主面に接合される。
【0018】
ケース12は、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂を主材とする樹脂成形品である。熱可塑性樹脂には、例えば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、及びポリブチレンテレフタレート(PBT)などが用いられる。熱硬化性樹脂にはフェノール樹脂などが用いられる。ケース12の両端部のうちの下方D1に位置する端部12Aが接着剤40によって冷却器18の基板搭載面18Aに固定される。
【0019】
複数の端子20は、それぞれ延出部200を備える。延出部200は、ケース12によって囲まれた内部空間Sを、当該ケース12の内周面12Sを起点として横方向E1に直線状に延び、かつワイヤ22が接合される部位である。さらに、複数の端子20は、それぞれ上述の延出部200に加え、埋設部201と、外部露出部202と、を含む。埋設部201は、ケース12に埋め込まれ、上下方向Dに延びる直線状の部位であり、その一方の端部201Aに延出部200が繋がる。外部露出部202は、埋設部201の他方の端部201Bに繋がり、かつパワー半導体モジュール1の外部に露出する部位である。埋設部201と延出部200とが略直角に繋がることにより、各端子20が略L字状の断面形状を有している。なお、埋設部201と延出部200とが成す角度は直角に限らず90度を超えてもよい。各端子20は、ケース12のインサート成形によって埋設部201が埋設された状態で当該ケース12に固定される。なお、パワー半導体モジュール1は、ケース12の成形後に後付けされる端子、すなわち、ケース12に埋設されない端子を別に備えてもよい。
【0020】
ワイヤ22は、例えばAlなどの金属を主材とした細線であり、ワイヤ22の一方の端部22Aと端子20との接合には、超音波接合などのワイヤボンディングが用いられる。
なお、2以上の端子20のうちの1以上には、ワイヤ22に代えて、当該ワイヤ22よりも幅広のリードと称される導電体が接合されてもよい。
【0021】
封止体14は、内部空間Sに収められたパワー半導体素子10、絶縁基板16、端子20の延出部200、ワイヤ22、当該ワイヤ22の両端の接合部分などを環境的な影響から保護しつつ、これらの機械的強度を向上させ、また、電気的絶縁性を付与する。半導体装置の技術分野において、封止体の成形方法には、真空注型、トランスファー成形、液状トランスファー成形、ポッティングなどが知られている。本実施形態では、これらの成形方法のうち、成形金型が不要なポッティングによって封止体14が成形される。ポッティングでは、上記パワー半導体素子10などの各部材の内部空間Sへの組み込みと、ワイヤ22による配線とが完了した状態で封止材が内部空間Sに注入される。
【0022】
本実施形態の封止材には、硬化性樹脂の一種である熱硬化性樹脂が用いられており、当該熱硬化性樹脂の中でも、シリコーンゲルではなくエポキシ樹脂が用いられる。エポキシ樹脂を主材料とする封止体14は、シリコーンゲルを主材とする封止体に比べ、透湿しにくく内部部材の吸湿に伴う劣化を防ぐ効果が期待できる。また、熱サイクルに伴う内部部材の劣化を抑制し、信頼性の向上を実現できる。
【0023】
図2は、
図1において矢印Aで示す箇所の拡大図である。
以下の説明において、延出部200と封止体14との界面を「端子-封止体界面H」と称し、ケース12の内周面12Sと封止体14との界面を「第1のケース-封止体界面F1」と称する。
同図に示すように、ケース12の内部空間Sにおいて、端子20の延出部200がケース12の内周面12Sを起点に突出するため、端子-封止体界面Hと第1のケース-封止体界面F1とが、延出部200の起点において連続する。したがって、ヒートサイクル試験(-40℃~125℃)などにおいて、ケース12と封止体14の線膨張係数の差に起因する熱応力により、第1のケース-封止体界面F1に剥離Gが生じると、当該剥離Gが矢印Bに示すように端子20に向けて進展し、端子-封止体界面Hに達することがある。その後、端子-封止体界面Hにおいて剥離Gが更に進展すると、何ら対策を施さなければ、ワイヤ22の端部22Aが接合されている接合部まで剥離Gが進展し、当該ワイヤ22の接合部でワイヤ22の破断を招くことがある。
【0024】
そこで、本実施形態では、ワイヤ22の端部22Aの接合部への剥離Gの進展を遅らせ、又は抑える構造を延出部200に設けることにより、ワイヤ22の破断の抑制を図っている。以下、かかる構造について詳述する。
【0025】
図3は、
図1及び
図2における端子20の延出部200の周辺を拡大して示す図である。
同図に示すように、端子20の延出部200には、ワイヤ22が接合される接合領域200Tが設定されており、延出部200の表面を押圧するプレス加工などによって接合領域200Tの全域が凹形状に形成されている。したがって、断面視において、延出部200には、接合領域200Tの表面と、それ以外の延出部200の表面との間に段差Qaの段差部200Uが設けられる。この段差部200Uに剥離Gが到達した場合には、次の2つの現象が複合的に発現する。第1の現象は、段差部200Uによって剥離Gが進展する方向が接合領域200T以外の方向へ偏向されることにより、接合領域200Tにおけるワイヤ22の接合部への剥離Gの進展が阻止、又は、遅延される、という現象である。第2の現象は、段差部200Uが剥離Gの進展に対する抵抗となり、接合領域200Tにおけるワイヤ22の接合部への剥離Gの進展が阻止、又は、遅延される、という現象である。そして、第1の現象、及び第2の現象が発現することにより、剥離Gの進展に起因するワイヤ22の破断が阻止、又は、破断までの時間が遅延されることとなる。
【0026】
図4は、端子20における延出部200の平面視構成の一例を示す図である。
延出部200に設けられた接合領域200Tは、平面視において略矩形状を成している。
また、本実施形態のパワー半導体モジュール1は、平面視において奥行き方向E2に、2以上の端子20が横並びに配置される。2以上の端子20のそれぞれの間にはケース12の隔離壁部122が介在し、各隔離壁部122によって、2以上の端子20のそれぞれ物理的、及び電気的に隔離されている。この構成において、ケース12と封止体14との界面は上記第1のケース-封止体界面F1だけではなく、隔離壁部122と封止体14との間の界面も存在し、この界面においても剥離Gが発生し得る。以下の説明では、隔離壁部122と封止体14との間の界面を「第2のケース-封止体界面F2」と称する。
【0027】
一方、本実施形態の延出部200において、接合領域200Tの全域が凹形状を成しており、段差部200Uは接合領域200Tの縁に沿って、第1のケース-封止体界面F1、及び第2のケース-封止体界面F2のそれぞれと接合領域200Tとの間を延びるように形成される。したがって、第2のケース-封止体界面F2において剥離Gが発生し、当該剥離Gが端子-封止体界面Hに向かって進展した場合でも、段差部200Uによって剥離Gの進展が阻止、又は遅延させられることとなる。
【0028】
本実施形態の接合領域200Tは、平面視において、角部200TCが曲線を描く角丸矩形状を成す。この形状により、角部200TCが平面視直角形状である場合に比べ、当該角部200TCへの上述した熱応力の集中が抑えられ、剥離Gを進展し難くできる。角部200TCの曲率は適宜である。
【0029】
接合領域200Tにおける段差部200Uは、段差Qaが大きいほど、剥離Gの進展を阻止又は遅延させる効果が高まる。しかしながら、段差Qaが大きいほど、ワイヤ22をワイヤボンディングによって接合する際の作業性が悪くなる。そこで、本実施形態では、段差Qaがワイヤ22の径と同じ値に設定されることにより、接合時の作業性が悪くなることを防止している。
より具体的には、本実施形態において、延出部200の上下方向Dの厚みは500μmから1mmであり、また接合領域200Tは、平面視における横方向E1が約3mmであり、当該横方向E1に直交する奥行き方向E2が約2mmの寸法で形成されている。この寸法の接合領域200Tに、約100μmから300μmの径のワイヤ22が接合される。この場合、接合領域200Tの段差Qaもワイヤ22の径に合わせて約100μmから300μmに形成される。なお、段差Qaとワイヤ22の径の値は完全に一致する必要はなく、数%から数十%の差を含んでもよい。
【0030】
また、本実施形態の接合領域200Tの凹形状は、
図3、及び
図4に示すように、延出部200の先端部200Aに繋がる。すなわち、当該先端部200Aにおいて、凹形状の接合領域200Tは内部空間Sに開放されるため、接合領域200Tの先端部200Aの側には段差部200Uが存在しない。したがって、ワイヤ22を接合する際の作業性を向上させることができる。
【0031】
図5は、ケース12のインサート成形に用いられる金型のうち、端子20の延出部200を覆う金型部分Vの一例を模式的に示す図である。
ケース12は、インサート成形によって複数の端子20が一体形成されたインサート成形品である。このインサート成形では、凹形状の接合領域200Tが延出部200に形成された端子20を、金型に挿入した状態でケース12が成形される。係るインサート成形工程において、
図5に示すように、金型部分Vが端子20の延出部200の表面に当接することで、凹形状の接合領域200Tにおける上方向D2の開開放部分が閉塞される。また、図示を省略するが、接合領域200Tにおける延出部200の先端部200Aの開放部分も金型の他の部分によって閉塞される。すなわち、本実施形態では、インサート成形の工程において、凹形状の接合領域200Tの開放部分は、全て金型の部分によって閉塞されており、ケース12の素材となる樹脂粉が接合領域200Tに入り込み、接合領域200Tに固着することが防止される。これにより、ケース12のインサート成形において、接合領域200Tから樹脂粉を除去するための後処理が不要となる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のパワー半導体モジュール1は、パワー半導体素子10と、ワイヤ22が接合された端子20と、パワー半導体素子10と、及び、端子20におけるワイヤ22の接合部を包囲するケース12と、ケース12によって包囲された内部空間Sを封止する封止体14と、を備える。そして、パワー半導体モジュール1は、端子20におけるワイヤ22が接合される接合領域200Tが凹形状である。
この構成によれば、端子20において、接合領域200Tの表面と、延出部200の表面との間に段差部200Uが形成される。
したがって、延出部200において剥離Gが進展した場合でも、この段差部200Uによって、進展の方向が接合領域200T以外の方向へ偏向され、或いは、段差部200Uが進展の抵抗となることにより、ワイヤ22の接合部への剥離Gの進展を阻止、又は、遅延させることができる。
【0033】
本実施形態において、端子20は、ケース12に埋設された埋設部201と、埋設部201に繋がり、内部空間Sを延びる延出部200と、を含み、当該延出部200に凹形状の接合領域200Tが設けられる。
この構成においては、延出部200と封止体14の界面(端子-封止体界面H)がケース12と封止体14の界面(第1のケース-封止体界面F1)に繋がるため、当該第1のケース-封止体界面F1において剥離Gが生じ、端子-封止体界面Hに進展した場合でも、ワイヤ22の接合部への剥離Gの進展を阻止、又は、遅延させることができる。
【0034】
本実施形態において、ケース12は、端子20の一部が埋設されたインサート成形品である。
この構成によれば、ケース12のインサート成形時に、端子20に予め形成された凹形状の接合領域200Tを、インサート成形に用いる金型によって覆った状態で成形が可能である。したがって、インサート成形時にケース12の樹脂粉などが接合領域200Tに固着することを防止でき、当該接合領域200Tから樹脂粉等を除去する後処理が不要となる。
【0035】
本実施形態において、凹形状の接合領域200Tは端子20の先端部200Aに繋がる。
この構成によれば、凹形状の接合領域200Tが先端部200Aにおいて内部空間Sに開放されるため、接合領域200Tの先端部200Aの側に段差部200Uが存在しない。したがって、ワイヤ22を接合する際の作業性を向上させることができる。
【0036】
本実施形態において、ケース12は筒状であり、当該ケース12の軸方向から視た平面視において、接合領域200Tは角丸矩形状である。
この構成によれば、接合領域200Tが平面視直角形状である場合に比べ、ヒートサイクルに伴う熱応力の当該角部200TCへの集中が抑えられ、剥離Gを進展し難くできる。
【0037】
本実施形態において、凹形状の接合領域200Tと、端子20の表面との間の段差Qaの大きさがワイヤ22の径に対応する。
この構成によれば、ワイヤ22の接合時の作業性が悪くなることが防止される。
【0038】
2.第2実施形態
図6は、第2実施形態に係るパワー半導体モジュール1における延出部200の断面構成の一例を拡大して示す模式図である。なお、同図において、第1実施形態で説明した構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
第1実施形態では、延出部200における接合領域200Tが下方向D1に凹形状である場合を例示した。これに対し、本実施形態の接合領域200Tは、その全域が上方向D2に凸形状である点で構成を異にする。本実施形態においても、接合領域200Tと、それ以外の延出部200の表面との間に上下方向Dに段差Qbの段差部200Uが設けられる。したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、剥離Gが端子-封止体界面Hに進展した場合でも、段差部200Uによって、ワイヤ22の端部22Aの接合部への剥離Gの進展が阻止、又は遅延させられる。
【0039】
また、凸形状の接合領域200Tは、延出部200の先端部200Aに繋がっている。この構成によれば、横方向E1において、先端部200Aと接合領域200Tとの間に凹凸形状が存在しないため、ワイヤ22を接合する際の作業性が損なわれることがない。
また、凸形状の接合領域200Tは、平面視において、第1実施形態と同様に角丸矩形状を成しており、角部200TCへの熱応力の集中が抑えられている。
【0040】
凸形状の接合領域200Tは、延出部200の表面のうち、接合領域200Tの周辺をプレス加工によって押し潰すことにより形成される。この場合において、段差部200Uの段差Qbは、第1実施形態の段差Qaと同様に、その値が大きいほど、剥離Gの進展を阻止又は抑制する効果が高まる。しかしながら、段差Qbが大きくなるほど、接合領域200Tの周囲の押し潰し量が大きくなり、延出部200の加工が困難となる。そこで、段差Qbは延出部200の上下方向Dの厚みよりも小さい値に設定され、本実施形態では、段差Qbはワイヤ22の径と同じに設定されている。本実施形態において、延出部200の上下方向Dの厚みは500μmから1mmであり、また、ワイヤ22の径は約100μmから300μmである。そして、接合領域200Tの周りの段差部200Uの段差Qbはワイヤ22の径に合わせて約100μmから300μmに形成される。なお、段差Qbとワイヤ22の径の値は完全に一致する必要はなく、数%から数十%の差を含んでもよい。
【0041】
図7は、ケース12のインサート成形に用いられる金型のうち、本実施形態の端子20の延出部200を覆う金型部分Vの一例を模式的に示す図である。
同図に示すように、金型部分Vには、端子20の延出部200の表面に当接する箇所に凹み部V1が形成されており、ケース12のインサート成形の工程において、この凹み部V1によって凸形状の接合領域200Tが覆われる。したがって、本実施形態のインサート成形時においても、第1実施形態のインサート成形時と同様に、ケース12の素材となる樹脂粉が接合領域200Tに固着することが防止される。これにより、ケース12のインサート成形において、接合領域200Tから樹脂粉を除去するための後処理が不要となる。
【0042】
3.変形例
以上に例示した各形態に付加される具体的な変形の形態を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の形態を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0043】
(変形例1)
各実施形態において、延出部200の先端部200Aまで接合領域200Tが延びる形状を例示した。しかしながら、
図8に示すように、接合領域200Tは、平面視において、延出部200の内に全体が収まるように形成されてもよい。
また、各実施形態において、接合領域200Tの平面視の形状は矩形状に限らず適宜であり、例えば楕円形などでもよい。
【0044】
(変形例2)
各実施形態において、接合領域200Tを囲む段差部200Uの段差面200UAは、
図9、及び
図10に示すように、延出部200の表面(端子-封止体界面Hを形成する面)との間で成す第1の角度αが鋭角となるように傾斜してもよい。換言すれば、段差面200UAは、接合領域200Tの表面との間で成す第2の角度βが鋭角(90度よりも小さく角度)となるように傾斜してもよい。
【0045】
例えば、
図9に示すように、接合領域200Tが凹形状である場合、第1の角度αが鋭角となることで、当該接合領域200Tの凹形状は、断面視において、下方D1の底辺が上方D2の上辺よりも長い略台形状となる。係る凹形状においては、段差面200UAと接合領域200Tとが交差する角部200UC1が延出部200の表面(端子-封止体界面Hを形成する面)の下に入り込む。したがって、接合領域200Tの中の封止体14は角部200UC1の箇所で掛止された状態となり、当該接合領域200Tとの密着性が大きく高められる。この結果、接合領域200Tにおける剥離Gの進展を、より顕著に阻止、又は遅延させることができる。
【0046】
また例えば、
図10に示すように、接合領域200Tが凸形状である場合、第1の角度αが鋭角となることで、段差面200UAと延出部200の表面(端子-封止体界面Hを形成する面)とが交差する角部200UC2が、断面視において、接合領域200Tの下に入り込む。したがって、端子-封止体界面Hの付近の封止体14は、角部200UC2によって接合領域200Tに掛止された状態となるため、端子-封止体界面Hとの密着性が大きく高められる。この結果、接合領域200Tへの剥離Gの進展が、より顕著に阻止、又は遅延させられることとなる。
【0047】
なお、
図9に示す凹形状の接合領域200T、及び、
図10に示す凸形状の接合領域200Tは、それぞれ、端子20の延出部200に対する複数回のプレス加工によって形成可能である。例えば、1回以上のプレス加工によって、第1の角度αが略90度となる接合領域200Tが形成され、その後、1回以上のプレス加工によって、第1の角度αを鋭角とする段差面200UAが形成される。
この場合において、凹形状の接合領域200Tにおける段差部200Uの段差Qa、及び、凸形状の接合領域200Tにおける段差部200Uの段差Qbは、端子20に対する複数回のプレス加工によって、第1の角度αが鋭角となる段差面200UAを有した段差部200Uを形成可能な大きさに設定される。例えば、端子20の厚みが500μmから1mmである場合、段差Qa、Qbは少なくとも10μm以上、100μm以下に設定される。
【0048】
(変形例3)
各実施形態において、ケース12に一部が埋設されることにより当該ケース12と一体となった端子20の延出部200に、凹形状、又は凸形状の接合領域200Tを設ける構成を例示した。
しかしながら、端子20は、ケース12と別体、すなわちケース12に埋設されていなくてもよい。この場合においても、端子20においてワイヤ22が接合される接合領域200Tが凹形状、又は凸形状であることで、端子20の表面を剥離Gが進展する場合でも、接合領域200Tにおけるワイヤ22の接合部への剥離Gの進展を阻止、又は遅延させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…パワー半導体モジュール、10…パワー半導体素子、12…ケース、12S…内周面、14…封止体、20…端子、22…ワイヤ、200…延出部、200A…先端部、200T…接合領域、200TC…角部、200U…段差部、200UA…段差面、201…埋設部、G…剥離、Qa、Qb…段差、S…内部空間、α…第1の角度。