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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112000
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】構造物の免震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20240813BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240813BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16F15/04 P
F16F15/02 L
E04H9/02 331B
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016799
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】仲村 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴司
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA12
2E139BA14
2E139BB13
2E139BB36
2E139BB42
2E139BB53
2E139BD35
2E139CA02
2E139CA23
2E139CB05
2E139CB15
2E139CB19
2E139CB20
2E139CC02
2E139CC11
3J048AA02
3J048AA03
3J048AC04
3J048BA08
3J048BE03
3J048BG10
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】積層ゴム支承が本来的に有する、構造物の鉛直荷重に対する支持機能と、地震の揺れによる任意の方向の水平荷重に対する復元機能を維持しながら、必要な減衰機能を付加し、免震設計の自由度を向上させる構造物の免震装置を提供する。
【解決手段】本発明による構造物の免震装置1は、積層ゴム5と、レール7及び移動自在のブロック8を有する上下のリニアガイド3と、第1及び第2部材が相対変位することで粘性減衰効果を発揮する上下の粘性ダンパ4を備える。上下のレール7は、構造物Sの上部構造SU及び下部構造SLに連結され、互いに直交するように水平に延び、上下のブロック8は、積層ゴム5の上面及び下面に連結され、上下の粘性ダンパ4は、第1及び第2部材が相対的に水平方向に移動し、かつ移動方向が互いに直交するように配置され、第1部材は上部構造SU及び下部構造SLに連結され、第2部材は積層ゴム5の上面及び下面に連結されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の上部構造と下部構造との間の免震層に設けられ、前記下部構造から前記上部構造への地震動の伝達を抑制する構造物の免震装置であって、
複数のゴム層と複数の剛性層が上下方向に交互に積層された積層ゴムと、
レール及び当該レールに沿って移動自在のブロックをそれぞれ有する上下のリニアガイドと、
互いに移動自在の第1部材及び第2部材をそれぞれ有し、当該第1及び第2部材が相対変位することによって減衰効果を発揮する上下のダンパと、を備え、
前記上下のリニアガイドの前記レールは、前記上部構造及び前記下部構造にそれぞれ連結され、平面的に見て互いに直交するように水平に延びており、前記上下のリニアガイドの前記ブロックは、前記積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されており、
前記上下のダンパは、前記第1及び第2部材が相対的に水平方向に移動し、かつ当該移動方向が平面的に見て互いに直交するように配置され、前記第1部材は前記上部構造及び前記下部構造にそれぞれ連結され、前記第2部材は前記積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されていることを特徴とする構造物の免震装置。
【請求項2】
前記ダンパは、前記減衰効果として粘性減衰効果を発揮する粘性ダンパであることを特徴とする、請求項1に記載の構造物の免震装置。
【請求項3】
前記ダンパは、前記減衰効果として粘性減衰効果を発揮する粘性ダンパと、当該粘性ダンパに直列に接続され、前記減衰効果として慣性質量効果を発揮する慣性質量ダンパであることを特徴とする、請求項1に記載の構造物の免震装置。
【請求項4】
前記ダンパは、前記減衰効果として粘性減衰効果を発揮する粘性ダンパと、当該粘性ダンパに並列に接続され、前記減衰効果として慣性質量効果を発揮する慣性質量ダンパであることを特徴とする、請求項1に記載の構造物の免震装置。
【請求項5】
前記上下の粘性ダンパの前記第1部材は、前記上下のリニアガイドの前記レールにそれぞれ直結され、前記上下の粘性ダンパの前記第2部材は、前記上下のリニアガイドの前記ブロックにそれぞれ直結されていることを特徴とする、請求項1に記載の構造物の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震建物などの構造物に設置され、下部構造から上部構造への地震動の伝達を抑制する構造物の免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来の構造物の免震機構の代表的な例を示す。この免震機構は、構造物Sの上部構造SUと下部構造SLとの間の免震層に設置されており、積層ゴム支承Aと粘性ダンパBを備える。積層ゴム支承Aは、例えば複数のゴム板と複数の鋼板を交互に積層した積層ゴムA1と、その上下の鋼製の支持板A2、A2で構成され、鉛直荷重に対する支持機能を有するとともに、地震の揺れによる水平荷重に対して弾性変形し、復元機能を発揮する。一方、粘性ダンパBは、例えばシリンダCとピストンロッドPを有するオイルダンパで構成され、地震の揺れによる水平荷重に対してシリンダCとピストンロッドPが相対変位することにより、内蔵されたオイルの流動によって粘性抵抗を作用させ、粘性減衰機能を発揮する。
【0003】
上述した免震機構では、上部構造SUと下部構造SLの間に、積層ゴム支承Aと粘性ダンパBが互いに並列に接続されている。このため、この免震機構は、図4(b)に示すように、積層ゴムA1から成るバネ要素と粘性ダンパBから成る粘性要素が互いに並列に接続された「フォークトモデル」で表される。しかし、このようなフォークトモデルに限らず、他の構成のモデルを用いることができれば、免震設計の自由度を向上させる上で好ましい。そのようなモデルの1つが、図4(a)に示す、バネ要素と粘性要素が互いに直列に接続された「マクスウェルモデル」である。しかし、上述した構成の免震機構では、マクスウェルモデルを実現できない。
【0004】
この課題を解決するために、免震装置を例えば図9のように構成することが考えられる。この免震装置は、2つの粘性ダンパB、Bを2次元的に用いる場合において、積層ゴムA1を下部構造SLに下支持板A2を介して固定するとともに、上支持板A2に粘性ダンパB、BをピストンロッドP、Pが互いに直角をなすように連結し、シリンダC、Cを上部構造SUに連結したものである。この構成では、上部構造SUと下部構造SLの間に積層ゴムA1及び粘性ダンパBが直列に接続されることで、マクスウェルモデルが実現されるものの、積層ゴムA1が粘性ダンパBを介して上部構造SUに連結されるため、図6の積層ゴム支承Aが有していた鉛直荷重の支持機能が失われてしまう。したがって、この場合には、鉛直荷重の支持機能を確保するために、積層ゴム支承などを別個に設けることが必要になり、免震装置の設置スペースやコストの増加を招く。
【0005】
また、従来の構造物の振動抑制装置として、特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、構造物の上部構造と基礎(下部構造)との間の免震層に設けられており、互いに積層され、構造物の鉛直荷重を支持する上下の積層ゴムと、剛性を有し、上下の積層ゴムの間の中間部に連結された繋ぎ材と、一端部が繋ぎ材に連結され、他端部が基礎に連結されたダンパを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-214825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この従来の振動抑制装置では、基礎と上部構造の間において、ダンパと上側の積層ゴムは互いに直列に接続されるものの、ダンパと下側の積層ゴムは互いに並列に接続されているため、マクスウェルモデルを正確に実現することができない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、積層ゴム支承が本来的に有する、構造物の鉛直荷重に対する支持機能と、地震の揺れによる任意の方向の水平荷重に対する復元機能を維持しながら、必要な減衰機能を付加することができ、それにより、免震設計の自由度を向上させることができる構造物の免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の上部構造と下部構造との間の免震層に設けられ、下部構造から上部構造への地震動の伝達を抑制する構造物の免震装置であって、複数のゴム層と複数の剛性層が上下方向に交互に積層された積層ゴムと、レール及びレールに沿って移動自在のブロックをそれぞれ有する上下のリニアガイドと、互いに移動自在の第1部材及び第2部材をそれぞれ有し、第1及び第2部材が相対変位することによって減衰効果を発揮する上下のダンパと、を備え、上下のリニアガイドのレールは、上部構造及び下部構造にそれぞれ連結され、平面的に見て互いに直交するように水平に延びており、上下のリニアガイドのブロックは、積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されており、上下のダンパは、第1及び第2部材が相対的に水平方向に移動し、かつ当該移動方向が平面的に見て互いに直交するように配置され、第1部材は上部構造及び下部構造にそれぞれ連結され、第2部材は積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されていることを特徴とする。
【0010】
本発明による構造物の免震装置は、構造物の上部構造と下部構造の間の免震層に設けられており、複数のゴム層と複数の剛性層が上下方向に交互に積層された積層ゴムと、平面的に見て互いに直交するレール及びそれに沿って移動自在のブロックをそれぞれ有する上下のリニアガイドと、互いに移動自在の第1部材及び第2部材をそれぞれ有する上下のダンパを備える。上下のダンパは、第1及び第2部材が相対的に水平方向に移動し、かつその移動方向が平面的に見て互いに直交するように配置されている。これらの構成要素のうち、上下のリニアガイドのレールは、上部構造及び下部構造にそれぞれ連結され、上下のリニアガイドのブロックは、積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されている。以上の構成から、構造物の鉛直荷重は、積層ゴムと上下のリニアガイドによって、地震の有無にかかわらず常時、支持される。
【0011】
また、地震時の振動によって構造物の上部構造と下部構造との間に水平方向の相対変位が発生すると、その相対変位の方向と大きさに応じ、上下のダンパの両方又は一方において第1部材と第2部材が水平方向に相対変位すると同時に、上下のリニアガイドの両方又は一方においてブロックがレールに沿って移動する。上記のように第1部材と第2部材が相対変位することによって、ダンパが作動し、減衰効果が発揮される。さらに、ダンパが作動するのと同時に、地震動による水平荷重がダンパを介して積層ゴムに作用し、積層ゴムが弾性変形することによって、水平荷重に対する復元機能が発揮される。
【0012】
以上のように、本発明の免震装置によれば、積層ゴム支承が本来的に有する、構造物の鉛直荷重に対する支持機能、及び地震の揺れによる任意の方向の水平荷重に対する復元機能を維持しながら、必要な減衰機能を付加することができ、それにより、免震設計の自由度を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の免震装置において、ダンパは、減衰効果として粘性減衰効果を発揮する粘性ダンパであることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、ダンパは粘性ダンパであり、積層ゴム支承が有する支持機能及び復元機能に、粘性ダンパによる粘性減衰機能が付加される。また、本発明の免震装置では、地震動による水平荷重は、粘性ダンパに作用するとともに、粘性ダンパを介して積層ゴムに作用する。その結果、水平荷重に対する粘性ダンパの反力と積層ゴムの反力は互いに等しくなる。したがって、本発明の免震装置のモデルは、図4(a)に示すように、積層ゴムから成るバネ要素と粘性ダンパから成る粘性要素が互いに直列に接続されたマクスウェルモデルになる。このように、免震装置のモデルとして、マクスウェルモデルを実現でき、それにより免震設計の自由度を向上させることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の構造物の免震装置において、ダンパは、減衰効果として粘性減衰効果を発揮する粘性ダンパと、粘性ダンパに直列に接続され、減衰効果として慣性質量効果を発揮する慣性質量ダンパであることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ダンパは、互いに直列に接続された粘性ダンパと慣性質量ダンパであり、積層ゴム支承が有する支持機能及び復元機能に、粘性ダンパによる粘性減衰機能と、粘性ダンパに直列接続された慣性質量ダンパによる慣性質量機能が付加される。また、本発明の免震装置のモデルは、図6(b)に示すように、積層ゴムから成るバネ要素と粘性ダンパから成る粘性要素が互いに直列に接続されたモデル(マクスウェルモデル)に、慣性質量ダンパから成る慣性要素が直列に接続されたモデルになる。これにより、免震設計の自由度をさらに向上させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の構造物の免震装置において、ダンパは、減衰効果として粘性減衰効果を発揮する粘性ダンパと、粘性ダンパに並列に接続され、減衰効果として慣性質量効果を発揮する慣性質量ダンパであることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ダンパは、互いに並列に接続された粘性ダンパと慣性質量ダンパであり、積層ゴム支承が有する支持機能及び復元機能に、粘性ダンパによる粘性減衰機能と、粘性ダンパに並列接続された慣性質量ダンパによる慣性質量機能が付加される。また、本発明の免震装置のモデルは、図7(b)に示すように、積層ゴムから成るバネ要素に、互いに並列関係にある粘性ダンパから成る粘性要素と慣性質量ダンパから成る慣性要素が、直列に接続されたモデルになる。これにより、免震設計の自由度をさらに向上させることができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の構造物の免震装置において、上下のダンパの第1部材は、上下のリニアガイドのレールにそれぞれ直結され、上下のダンパの第2部材は、上下のリニアガイドのブロックにそれぞれ直結されていることを特徴とする。
【0020】
前述した請求項1の発明では、上下のダンパの第1部材は、上部構造及び下部構造にそれぞれ連結され、上下のダンパの第2部材は、積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されている。また、上下のリニアガイドのレールは、上部構造及び下部構造にそれぞれ連結され、上下のリニアガイドのブロックは、積層ゴムの上面及び下面にそれぞれ連結されている。
【0021】
このため、請求項5の発明における、上下の粘性ダンパの第1部材を上下のリニアガイドのレールにそれぞれ直結し、上下の粘性ダンパの第2部材を上下のリニアガイドのブロックにそれぞれ直結する構成は、請求項1の発明における、上下の第1部材を上部構造及び下部構造に連結し、上下の第2部材を積層ゴムの上面及び下面に連結する構成と等価である。したがって、本発明によれば、請求項1の発明による前述した効果を同様に得ることができる。また、ダンパの第1部材及び第2部材がリニアガイドのレール及びブロックに直結されるので、請求項1の場合と比較し、ダンパの取付精度を高めるとともに、免震装置をよりコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による免震装置を含む免震機構を建物に設置した例を概略的に示す図である。
図2】免震装置の(a)平面図、(b)X方向矢視図、及び(c)Y方向矢視図である。
図3】免震装置のリニアガイドを示す斜視図である。
図4】(a)本発明による免震装置のモデル(マクスウェルモデル)、及び(b)従来例による免震装置のモデル(フォークトモデル)を示す図である
図5】実施形態の変形例による免震装置の(a)平面図、(b)X方向矢視図、及び(c)Y方向矢視図である。
図6】(a)第2実施形態による免震装置に用いられるダンパを示す概略的に示す図、(b)この免震装置のモデルを示す図である。
図7】(a)第3実施形態による免震装置に用いられるダンパを示す断面図、(b)この免震装置のモデルを示す図である。
図8】従来の免震機構を建物に設置した例を概略的に示す図である。
図9】従来例による免震装置の(a)平面図、(b)X方向矢視図、及び(c)Y方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1に示すように、実施形態は、構造物としての建物Sの上部構造SUと下部構造SLとの間に設定された免震層Iに、複数の積層ゴム支承Aと本発明に係る複数の免震装置1(いずれも1つのみ図示)とから成る免震機構を設置し、免震建物を構成したものである。
【0024】
積層ゴム支承Aは、図8に示した通常のものと同様、例えば円形状の複数のゴム板と複数の鋼板(いずれも図示せず)を上下方向に交互に積層した積層ゴムA1と、その上面及び下面に取り付けられた鋼製の上下の支持板A2、A2で構成されている。積層ゴム支承Aは、上下の取付部材MU、MLを介して、上部構造SUと下部構造SLの間に挟持された状態で取り付けられている。以上の構成から、積層ゴム支承Aは、建物Sの重量などによる鉛直荷重に対する支持機能を有するとともに、地震の揺れによる水平荷重に対して弾性変形した後に復元する復元機能を有する。
【0025】
図1及び図2に示すように、免震装置1は、積層ゴムユニット2、上下のリニアガイド3U、3L、及び本発明の粘性ダンパとしての上下のオイルダンパ4U、4Lを備える。なお、上下のリニアガイド3U、3L及び上下のオイルダンパ4U、4Lを総称するときには、それぞれ「リニアガイド3」及び「オイルダンパ4」という。このことは、上下に存在する後述の他の部材についても同様である。
【0026】
積層ゴムユニット2は、積層ゴム支承Aと同様に構成されており、円形状の複数のゴム板と複数の鋼板(いずれも図示せず)を上下方向に交互に積層した積層ゴム5と、その上面及び下面にそれぞれ取り付けられた鋼製の上下の支持板6U、6Lで構成されている。以上の構成から、積層ゴムユニット2は、積層ゴム支承Aと同様、建物Sの鉛直荷重に対する支持機能と、水平荷重に対する弾性変形による復元機能を有する。
【0027】
図3に示すように、各リニアガイド3は、レール7と、レール7に多数のボール21を介して嵌合するブロック8を有する。この構成から、ブロック8は、ボール21により摩擦力が非常に小さな状態で、レール7に沿って滑らかに移動する。このようなリニアガイド3として、市販のものを用いることが可能である。
【0028】
図2に示すように、上側のリニアガイド3Uのレール7Uは、上部構造SUの下面に固定され、X方向に水平に延びており、ブロック8Uは、積層ゴムユニット2の上支持板6Uの上面に固定されている。一方、下側のリニアガイド3Lのレール7Lは、下部構造SLの上面に固定され、上側のリニアガイド3Uのレール7Uと直交するY方向に水平に延びており、ブロック8Lは、積層ゴムユニット2の下支持板6Lの下面に固定されている。
【0029】
各オイルダンパ4は、例えば、シリンダ9と、シリンダ9内に軸線方向に摺動自在に設けられ、両側に作動油が充填された2つの油室を画成するピストン(いずれも図示せず)と、2つの油室間を連通する連通路(図示せず)と、ピストンに連結され、シリンダ9の外部に延びるピストンロッド10を有する。この構成から、シリンダ9とピストン及びピストンロッド10が相対的に移動すると、一方の油室から連通路を介して他方の油室に作動油が流動することによって、作動油の粘性抵抗による粘性減衰効果が得られる。
【0030】
図2に示すように、上側のオイルダンパ4Uのシリンダ9Uは、上部構造SUの下面に設けられた取付部材22に、継手23を介して取り付けられ、上記X方向に水平に延びており、ピストンロッド10Uは、積層ゴムユニット2の上支持板6Uの上面に、継手23を介して取り付けられている。一方、下側のオイルダンパ4Lのシリンダ9Lは、下部構造SLの上面に設けられた取付部材24に、継手25を介して取り付けられ、上記Y方向に水平に延びており、ピストンロッド10Lは、積層ゴムユニット2の下支持板6Lの下面に、継手25を介して取り付けられている。
【0031】
次に、上述した構成の免震機構の動作について説明する。まず、積層ゴム支承Aは、積層ゴムA1により、建物Sの鉛直荷重に対する支持機能を常時、発揮するとともに、地震の揺れによる水平荷重に対して弾性変形し、復元機能を発揮する。
【0032】
一方、免震装置1では、上下のリニアガイド3U、3Lのレール7U、7Lは、上部構造SU及び下部構造SLにそれぞれ連結され、ブロック8U、8Lは、積層ゴムユニット2の上下の支持板6U、6Lにそれぞれ連結されている。この構成から、建物Sの鉛直荷重は、免震装置1において、積層ゴム5と上下のリニアガイド3U、3Lにより、地震の有無にかかわらず常時、支持される。
【0033】
また、地震時の振動によって建物Sの上部構造SUと下部構造SLとの間に水平方向の相対変位が発生すると、その相対変位の方向と大きさに応じ、上下のオイルダンパ4U、4Lの両方又は一方においてシリンダ9とピストンロッド10が水平方向に相対変位すると同時に、上下のリニアガイド3U、3Lの両方又は一方においてブロック8がレール7に沿って移動する。上記のようにシリンダ9とピストンロッド10が相対変位することによって、オイルダンパ4が作動し、一方の油室から連通路を介して他方の油室に作動油が流動することによって、粘性減衰効果が発揮される。
【0034】
また、オイルダンパ4が作動するのと同時に、地震動による水平荷重がオイルダンパ4を介して積層ゴム5に作用し、積層ゴム5が弾性変形することによって、水平荷重に対する復元機能が発揮される。
【0035】
以上のように、本実施形態の免震装置1によれば、積層ゴム支承が本来的に有する、建物Sの鉛直荷重に対する支持機能と、地震の揺れによる任意の方向の水平荷重に対する復元機能を維持しながら、必要な減衰機能を付加することができ、それにより、免震設計の自由度を向上させることができる。
【0036】
また、上述したように、実施形態の免震装置1では、地震動による水平荷重は、オイルダンパ4に作用するとともに、オイルダンパ4を介して積層ゴムに作用する。その結果、水平荷重に対するオイルダンパ4の反力と積層ゴムの反力は互いに等しくなる。したがって、本発明の免震装置1のモデルは、図4(a)に示すように、積層ゴム5から成るバネ要素とオイルダンパ4(粘性ダンパ)から成る粘性要素が互いに直列に接続されたマクスウェルモデルになる。このように、免震装置1のモデルとして、マクスウェルモデルを実現でき、それにより免震設計の自由度を向上させることができる。
【0037】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、上下のオイルダンパ4U、4Lのシリンダ9U、9Lは、上部構造SU及び下部構造SLにそれぞれ連結され、ピストンロッド10U、10Lは、積層ゴムユニット2の上下の支持板6U、6Lにそれぞれ連結されている。この構成に代えて、シリンダ9U、9Lを上下のリニアガイド3U、3Lのレール7U、7Lにそれぞれ連結し、ピストンロッド10U、10Lを上下のリニアガイド3U、3Lのブロック8U、8Lにそれぞれ連結してもよい。
【0038】
リニアガイド3のレール7は上部構造SU及び下部構造SLに一体に設けられ、ブロック8は上下の支持板6U、6Lに一体に設けられているので、この変形例による連結構成は実施形態の連結構成と等価である。したがって、この変形例により、実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。また、オイルダンパ4のシリンダ9及びピストンロッド10がリニアガイド3のレール7及びブロック8に直結されるので、実施形態と比較し、オイルダンパ4の取付精度を高めるとともに、免震装置1をよりコンパクトに構成することができる。
【0039】
また、上記と同じ理由から、実施形態による連結構成と変形例による連結構成を択一的に採用することも可能である。すなわち、オイルダンパ4のシリンダ9を上部構造SU及び下部構造SLに連結するとともに、ピストンロッド10をリニアガイド3のブロック8に連結してもよく、この組み合わせとは逆に、シリンダ9をリニアガイド3のレール7に連結するとともに、ピストンロッド10を積層ゴムユニット2の支持板6U、6Lに連結してもよい。
【0040】
また、実施形態では、図2に示すように、上下のリニアガイド3U、3Lと上下のオイルダンパ4U、4Lは、前者におけるブロック4の移動方向(X方向、Y方向)が後者におけるシリンダ9とピストンロッド10との相対的な移動方向(以下「オイルダンパ4の移動方向」という)に一致するように配置されている。前述したように、実施形態では、上下のリニアガイド3U、3Lの間でブロック3の移動方向が互いに直交し、上下のオイルダンパ4U、4Lの間でオイルダンパ4の移動方向が互いに直交するという条件が満たされればよいため、ブロック3の移動方向とオイルダンパ4の移動方向を異なるように構成することが可能である。図5は、そのように構成された変形例を示す。この変形例では、リニアガイド3及びオイルダンパ4は、ブロック3の移動方向とオイルダンパ4の移動方向が互いに45度の角度をなすように配置されている。
【0041】
次に、図6を参照しながら、本発明の第2実施形態による免震装置について説明する。図6(a)は、第2実施形態の免震装置に用いられるダンパD2を示す。ダンパD2は、上述した実施形態(以下「第1実施形態」という)と同じ構成のオイルダンパ4と、オイルダンパ4に直列に接続された慣性質量ダンパ(マスダンパ)51で構成されている。マスダンパ51は、例えばボ-ルねじ式のものであり、外筒52とねじ軸53との相対変位(直線運動)をボールねじによって内筒(いずれも図示せず)の回転運動に変換することによって、慣性質量効果を発揮するものである。
【0042】
オイルダンパ4のシリンダ9とマスダンパ51の外筒52は、連結部材54、54を介して互いに連結されている。また、図示しないが、ダンパD2は、図1の免震装置に、オイルダンパ4に代えて上下一対で設けられている。具体的には、上側のダンパD2のピストンロッド10は、取付板55を介して、積層ゴムユニット2の上支持板6Uに取り付けられ、ねじ軸53は、取付板55を介して、上部構造SUに設けられた取付部材22に取り付けられている。同様に、下側のダンパD2のピストンロッド10は、取付板55を介して、積層ゴムユニット2の下支持板6Lに取り付けられ、ねじ軸53は、取付板55を介して、下部構造SLに設けられた取付部材24に取り付けられている。
【0043】
以上の構成の免震装置のモデルは、図6(b)に示すように、積層ゴム5から成るバネ要素とオイルダンパ4(粘性ダンパ)から成る粘性要素が互いに直列に接続されたモデル(マクスウェルモデル)に、マスダンパ51から成る慣性要素が直列に接続されたモデルになる。したがって、第2実施形態の免震装置によれば、積層ゴム支承が有する支持機能及び復元機能に、オイルダンパ4による粘性減衰機能と、オイルダンパ4に直列接続されたマスダンパ51による慣性質量機能が付加され、免震設計の自由度が高められる。
【0044】
図7(a)は、第3実施形態の免震装置に用いられるダンパD3を示す。ダンパD3は、粘性要素を内蔵した粘性マスダンパとして構成されている。この粘性マスダンパは、例えばボ-ルねじ式のものであり、内筒61と、ねじ軸62a、多数のボール62b及び回転自在のナット62cを有するボールねじ62と、内筒61及びナット62cの外側に設けられ、ナット62cと一体に回転する円筒状の回転マス63と、内筒61と回転マス63の間に充填された粘性体64を備える。
【0045】
以上の構成では、内筒61とねじ軸62aの間に相対変位が発生すると、その相対変位(直線運動)がナット62cの回転運動に変換され、ナット62cと一体に回転マス63が回転する。これにより、回転マス63による慣性質量効果が発揮されるとともに、内筒61と回転マス63の間に充填された粘性体64による粘性減衰効果が発揮される。
【0046】
図示しないが、ダンパD3は、図1の免震装置に、オイルダンパ4に代えて上下一対で設けられている。具体的には、上側のダンパD3のねじ軸62aは、取付板65を介して、積層ゴムユニット2の上支持板6Uに取り付けられ、内筒61は、取付板65を介して、上部構造SUの取付部材22に取り付けられている。同様に、下側のダンパD3のねじ軸62aは、取付板65を介して、積層ゴムユニット2の下支持板6Lに取り付けられ、内筒61は、取付板65を介して、下部構造SLの取付部材24に取り付けられている。
【0047】
以上の構成の免震装置のモデルは、図7(b)に示すように、粘性体64から成る粘性要素と回転マス63から成る慣性要素が互いに並列に接続された粘性マスダンパのモデルに、積層ゴム5から成るバネ要素が直列に接続されたモデルになる。したがって、第3実施形態の免震装置によれば、積層ゴム支承が有する支持機能及び復元機能に、粘性マスダンパの粘性体64による粘性減衰機能と、粘性体64に並列接続された回転マス63による慣性質量機能が付加され、免震設計の自由度が高められる。
【0048】
なお、第1~第3実施形態では、積層ゴムユニット2にリニアガイド3を介して接続されるダンパとして、オイルダンパ4(粘性ダンパ)、直列接続されたオイルダンパ4及び慣性質量ダンパ51と、並列接続された粘性体64及び回転マス63を有する粘性マスダンパをそれぞれ用いているが、必要な減衰機能を付加し、免震設計の自由度の向上に資するものである限り、他の構成のダンパを採用することが可能である。
【0049】
また、第1及び第2実施形態では、粘性ダンパとして、オイルダンパ4を用いているが、2つの部材が相対変位することによって粘性減衰効果を発揮するものである限り、任意の構成のダンパを採用することが可能である。さらに、実施形態では、支持機能や復元機能を強化するために、免震機構として免震装置1に加えて積層ゴム支承Aを併用しているが、免震装置1によって支持機能や復元機能が十分に得られる場合には、積層ゴム支承Aを省略してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
S 建物(構造物)
SU 上部構造
SL 下部構造
I 免震層
1 免震装置
3 リニアガイド
3U 上側のリニアガイド
3L 下側のリニアガイド
4 オイルダンパ(粘性ダンパ)
4U 上側のオイルダンパ
4L 下側のオイルダンパ
5 積層ゴム
6 支持板
6U 上側の支持板(積層ゴムの上面)
6L 下側の支持板(積層ゴムの下面)
7 リニアガイドのレール
7U 上側のレール
7L 下側のレール
8 リニアガイドのブロック
8U 上側のブロック
8L 下側のブロック
9 オイルダンパのシリンダ(第1部材)
9U 上側のシリンダ
9L 下側のシリンダ
10 オイルダンパのピストンロッド(第2部材)
10U 上側のピストンロッド
10L 下側のピストンロッド
D2 第2実施形態のダンパ
51 慣性質量ダンパ
D3 第3実施形態のダンパ
63 回転マス(慣性質量ダンパ)
64 粘性体(粘性ダンパ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9