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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112007
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/00 20060101AFI20240813BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20240813BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20240813BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20240813BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20240813BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20240813BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240813BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20240813BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20240813BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20240813BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20240813BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20240813BHJP
   F02B 37/18 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B60W10/00 900
B60K6/442 ZHV
B60K6/24
B60K6/40
B60W20/17
B60W20/20
B60W10/06 900
B60W20/10
B60W10/30 900
B60W20/13
B60W20/15
F02B37/00 500B
F02B37/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016807
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 徹
【テーマコード(参考)】
3D202
3G005
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB02
3D202BB43
3D202BB46
3D202CC22
3D202CC24
3D202DD11
3D202DD18
3D202DD45
3D202EE00
3D202EE01
3D202EE19
3D202EE23
3D202FF12
3G005EA14
3G005EA25
3G005FA01
3G005FA04
3G005JA39
(57)【要約】
【課題】複数の走行モードで走行可能なハイブリッド車両において、低回転用過給機および高回転用過給機をより適切に選択してドライバビリティや燃費の向上を図る。
【解決手段】車両1は、エンジン2の低回転領域A1から中回転領域A2までの間で使用される低回転用ターボ50と、エンジン2の高回転領域A3から中回転領域A2までの間で使用される高回転用ターボ60と、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60の使用の切り替えを制御するコントロールユニット20とを備え、コントロールユニット20は、パラレルモードでエンジン2が中回転領域A2で運転されるとき、低回転用ターボ50を使用し、シリーズモードでエンジン2が中回転領域A2で運転されるとき、高回転用ターボ60を使用する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、走行用モータとを備え、前記内燃機関の動力により発電しつつ前記走行用モータを駆動源として走行するシリーズモードと前記内燃機関および前記走行用モータを駆動源として走行するパラレルモードとを切り替えるハイブリッド車両であって、
前記内燃機関の低回転領域から中回転領域までの間で使用される低回転用過給機と、
前記内燃機関の高回転領域から中回転領域までの間で使用される高回転用過給機と、
前記低回転用過給機および前記高回転用過給機の使用の切り替えを制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記パラレルモードで前記内燃機関が前記中回転領域で運転されるとき、前記低回転用過給機を使用し、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域で運転されるとき、前記高回転用過給機を使用するハイブリッド車両。
【請求項2】
前記高回転用過給機は、前記中回転領域のうちの少なくとも一部を含む所定の高回転用シャフト振動領域で前記内燃機関が運転されるとき、他の領域で前記内燃機関が運転されるときよりもシャフトが振動しやすく、
前記制御装置は、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域のうちの前記所定の高回転用シャフト振動領域で運転されるとき、前記低回転用過給機を使用する
請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記低回転用過給機は、前記中回転領域のうちの少なくとも一部を含む所定の低回転用シャフト振動領域で前記内燃機関が運転されるとき、他の領域で前記内燃機関が運転されるときよりもシャフトが振動しやすく、
前記所定の低回転用シャフト振動領域と前記所定の高回転用シャフト振動領域とは、前記中回転領域において互いに重複する重複領域を含み、
前記制御装置は、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記重複領域で運転されるとき、前記高回転用過給機を使用すると共に前記高回転用過給機のシャフトに供給する潤滑油の供給量を増加させる
請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域で運転されると共に、前記走行用モータに電力を供給する駆動用バッテリの充電量が所定値未満となったとき、前記低回転用過給機を使用する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両に関し、特に低回転用過給機および高回転用過給機を備えたハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の低回転領域で使用される低回転用過給機と、内燃機関の高回転領域で使用される高回転用過給機とを備えた車両に関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、エンジンと、エンジンの低回転時に過給を行う第1ターボ過給機と、エンジンの高回転時に過給を行う第2ターボ過給機と、第1及び第2ターボ過給機に関連する排気通路の選択及び排気ガス流量の制御を行うための第1及び第2排気制御弁とを備えた車両が記載されている。この車両では、第1及び第2ターボ過給機を用いて成層燃焼又は均質燃焼を実現させるように、エンジンの運転条件に応じて排気制御弁の開閉動作を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-177794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の車両は、駆動源としての内燃機関を備えた車両において、当該内燃機関の運転条件に応じて各過給機のいずれを使用するかを選択している。しかしながら、内燃機関に加えて駆動源としての走行用モータを備えたハイブリッド車両では、内燃機関の運転条件のみならず、複数の条件で走行モードが変化する。このようなハイブリッド車両において、低回転用過給機と高回転用過給機とを適切に選択し、燃費やドライバビリティの向上を図ることが求められる。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の走行モードで走行可能なハイブリッド車両において、低回転用過給機および高回転用過給機をより適切に選択して燃費やドライバビリティの向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両は、内燃機関と、走行用モータとを備え、前記内燃機関の動力により発電しつつ前記走行用モータを駆動源として走行するシリーズモードと前記内燃機関および前記走行用モータを駆動源として走行するパラレルモードとを切り替えるハイブリッド車両であって、前記内燃機関の低回転領域から中回転領域までの間で使用される低回転用過給機と、前記内燃機関の高回転領域から中回転領域までの間で使用される高回転用過給機と、前記低回転用過給機および前記高回転用過給機の使用の切り替えを制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記パラレルモードで前記内燃機関が前記中回転領域で運転されるとき、前記低回転用過給機を使用し、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域で運転されるとき、前記高回転用過給機を使用する。
【0007】
この構成により、シリーズモードでは高回転用過給機の使用領域が拡大され、パラレルモードでは低回転用過給機の使用領域が拡大される。その結果、内燃機関の運転条件のみではなく、例えば走行用モータへと電力を供給する駆動用バッテリの温度などによっても走行モードが変化するハイブリッド車両において、シリーズモードではより燃費を向上させ、パラレルモードではより出力の応答性を向上させることができる。したがって、本発明のハイブリッド車両によれば、複数の走行モードで走行可能なハイブリッド車両において、低回転用過給機および高回転用過給機をより適切に選択してドライバビリティや燃費の向上を図ることができる。
【0008】
また、前記高回転用過給機は、前記中回転領域のうちの少なくとも一部を含む所定の高回転用シャフト振動領域で前記内燃機関が運転されるとき、他の領域で前記内燃機関が運転されるときよりもシャフトが振動しやすく、前記制御装置は、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域のうちの前記所定の高回転用シャフト振動領域で運転されるとき、前記低回転用過給機を使用することが好ましい。
【0009】
この構成により、高回転用過給機のシャフトが振動しやすい所定の高回転用シャフト振動領域では、シリーズモードであっても低回転用過給機を使用するため、高回転用過給機のシャフトの振動を抑制することができる。このとき、高回転用過給機のシャフトへの潤滑油の供給量を増加する必要がないため、潤滑油の供給量の増加による燃費低下を抑制することができる。
【0010】
また、前記低回転用過給機は、前記中回転領域のうちの少なくとも一部を含む所定の低回転用シャフト振動領域で前記内燃機関が運転されるとき、他の領域で前記内燃機関が運転されるときよりもシャフトが振動しやすく、前記所定の低回転用シャフト振動領域と前記所定の高回転用シャフト振動領域とは、前記中回転領域において互いに重複する重複領域を含み、前記制御装置は、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域のうちの前記重複領域で運転されるとき、前記高回転用過給機を使用すると共に前記高回転用過給機のシャフトに供給する潤滑油の供給量を増加させることが好ましい。
【0011】
この構成により、低回転用過給機のシャフトおよび高回転用過給機のシャフトの双方が振動しやすい重複領域では、高回転用過給機のシャフトへの潤滑油の供給量を増加させて当該シャフトの振動を抑制することができる。
【0012】
また、前記制御装置は、前記シリーズモードで前記内燃機関が前記中回転領域で運転されると共に、前記走行用モータに電力を供給する駆動用バッテリの充電量が所定値未満となったとき、前記低回転用過給機を使用することが好ましい。
【0013】
この構成により、駆動用バッテリの充電のために内燃機関の出力の急増が必要となる可能性がある場合に、低回転用過給機を使用することで内燃機関の出力の応答性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハイブリッド車両によれば、複数の走行モードで走行可能なハイブリッド車両において、低回転用過給機および高回転用過給機をより適切に選択してドライバビリティや燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第一実施形態のハイブリッド車両の走行駆動系の概略構成図である。
図2】エンジンの吸排気系を示す概略構成図である。
図3】低回転用ターボおよび高回転用ターボの作動領域を示す説明図である。
図4】第一実施形態のターボ切り替え制御の処理を示すフローチャートである。
図5】第二実施形態のターボ切り替え制御の処理を示すフローチャートである。
図6】シャフトに振動が生じやすくなる領域の一例を示すための説明図である。
図7】第三実施形態のターボ切り替え制御の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一実施形態]
以下、図面に基づき本発明の第一実施形態について説明する。図1は、第一実施形態のハイブリッド車両の走行駆動系の概略構成図である。ハイブリッド車両1(以下、「車両1」と称する)は、エンジン(内燃機関)2の出力によって車輪を駆動して走行可能であるとともに、車輪を駆動する電動のフロントモータ(走行用モータ)4を備えたプラグインハイブリッド車やハイブリッド車等の車両である。なお、プラグインハイブリッド車とは、外部電源から車両に搭載された駆動用バッテリに対して電力を供給したり、駆動用バッテリから車外の電化製品等に電力を供給したりすることができる車両である。
【0017】
エンジン2は、フロントトランスアクスル7を介して前輪3の駆動軸8を駆動すると共に、フロントトランスアクスル7を介してモータジェネレータ9を駆動して発電させる。エンジン2と前輪3とは、フロントトランスアクスル7内に配置されたクラッチ16を介して接続されている。なお、車両1には、エンジン2に燃料を供給する燃料を貯留する燃料タンク17が設けられている。
【0018】
フロントモータ4は、コントロールユニット20を介して、車両1に搭載された駆動用バッテリ11およびモータジェネレータ9から高電圧の電力を供給されて駆動し、フロントトランスアクスル7を介して前輪3の駆動軸8を駆動する。モータジェネレータ9は、発電した電力により駆動用バッテリ11を充電可能であるとともに、フロントモータ4に電力を供給可能である。駆動用バッテリ11は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成されており、その充電率(SOC:State Of Charge)を検出する充電率検出部11aが設けられている。また、駆動用バッテリ11は、その温度を検出する温度検出部11bが設けられている。
【0019】
コントロールユニット20は、車両1の制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)およびタイマなどを含んで構成される。コントロールユニット20は、走行モード、フロントモータ4の出力、モータジェネレータ9の発電量および出力、エンジン2における燃料噴射量及び燃料噴射時期、フロントトランスアクスル7におけるクラッチ16の断接等を制御する機能を有する。
【0020】
走行モードは、EVモード、シリーズモードおよびパラレルモードを含む。EVモードでは、エンジン2を停止し、駆動用バッテリ11から供給される電力によりフロントモータ4を駆動して走行させる。シリーズモードでは、フロントトランスアクスル7のクラッチ16を切断し、エンジン2によりモータジェネレータ9を作動して発電させる。そして、モータジェネレータ9により発電された電力および駆動用バッテリ11から供給される電力によりフロントモータ4を駆動して走行させる。なお、シリーズモードでは、エンジン2の回転速度を効率の良い値に設定する。パラレルモードでは、フロントトランスアクスル7のクラッチ16を接続し、エンジン2から機械的に動力を伝達するとともにフロントモータ4を駆動して前輪3を駆動させる。
【0021】
コントロールユニット20は、車速、エンジン2の負荷(目標トルク)、駆動用バッテリ11の充電率や温度といった複数の条件に応じて走行モードを切り替える。具体的には、コントロールユニット20は、車速が所定車速以上のときや目標トルクが所定トルク以上のときには、走行モードをパラレルモードとし、所定車速未満のときや目標トルクが所定トルク未満のときには、駆動用バッテリ11の充電率に基づいて走行モードをEVモードとシリーズモードとの間で切り替える。それにより、高速領域のようにエンジン2の効率が良い領域や目標トルクが高い場合にはパラレルモードによって走行に要求される出力を得ることができ、中低速領域ではシリーズモードによって燃費を向上させることができる。また、コントロールユニット20は、駆動用バッテリ11の温度が所定の低温時の温度未満であるときや、所定の高温時の温度以上であるときには、走行モードをパラレルモードとする。それにより、駆動用バッテリ11が低温または高温であることで駆動用バッテリ11の充放電電力に制限が生じる場合に、パラレルモードによって走行に要求される出力を安定的に得ることができる。
【0022】
図2は、エンジン2の吸排気系の一例を示す概略構成図である。エンジン2は、複数の気筒を備えたディーゼルエンジンである。なお、エンジン2は、ガソリンエンジンであってもよい。エンジン2の吸気通路31には、エンジン2に向かって上流側から順番に、エアフィルタ32、吸気スロットル33などが設けられている。エンジン2の排気通路35には、エンジン2から下流側へ順番に、酸化触媒36、パティキュレートフィルタ37、排気スロットル38、マフラ39などが設けられている。なお、エンジン2には、排気の一部を吸気側に還流する図示しないEGR装置などが設けられてもよい。
【0023】
さらに、エンジン2には、低回転用ターボチャージャ(低回転用過給機)50(以下、低回転用ターボ50と称する)と、高回転用ターボチャージャ(高回転用過給機)60(以下、高回転用ターボ60と称する)が設けられている。低回転用ターボ50は、吸気通路31に設けられたコンプレッサ50cと、排気通路35に設けられたタービン50tと、コンプレッサ50cとタービン50tとを連結するシャフト50sとを有する。吸気通路31には、コンプレッサ50cを迂回してエンジン2への吸気を流通させるバイパス通路51が設けられ、バイパス通路51には、当該バイパス通路51を開閉するバイパスバルブ52が設けられている。また、排気通路35には、タービン50tを迂回してエンジン2からの排気を流通させるバイパス通路53が設けられ、バイパス通路53には、当該バイパス通路53を開閉するバイパスバルブ54が設けられている。
【0024】
高回転用ターボ60は、吸気通路31に設けられたコンプレッサ60cと、排気通路35に設けられたタービン60tと、コンプレッサ60cとタービン60tとを連結するシャフト60sとを有する。排気通路35には、タービン60tを迂回してエンジン2からの排気を流通させるバイパス通路61が設けられ、バイパス通路61には、当該バイパス通路61を開閉するウェイストゲートバルブ62が設けられている。バイパスバルブ52、54およびウェイストゲートバルブ62は、コントロールユニット20により開閉制御され、それにより、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60のいずれを使用するかが切り替えられる。
【0025】
また、車両1には、上記シャフト50s、シャフト60sへと潤滑油を供給するための油圧回路70が設けられている。油圧回路70は、潤滑油の貯留タンク、ポンプ、複数の流量制御弁(いずれも図示省略)などを含み、コントロールユニット20により各シャフト50s、60sへと供給される潤滑油の供給量(油圧)が制御される。
【0026】
図3は、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60の作動領域を示す説明図である。図示するように、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60は、エンジン2の回転数を横軸に、トルクを縦軸とするエンジン2の運転領域において、それぞれの作動領域が定められている。低回転用ターボ50は、エンジン2の低回転領域A1から中回転領域A2(図3中で斜線を付した領域)までを含む領域で使用される小容量のターボチャージャである。一方、高回転用ターボ60は、エンジン2の中回転領域A2から高回転領域A3を含む領域で使用される大容量のターボチャージャである。上記中回転領域A2は、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60の双方を使用可能な領域である。
【0027】
ここで、一般的に、小容量の低回転用ターボ50を使用した場合、高回転用ターボ60を使用する場合に比べて、エンジン2の出力の応答性が高く(タービン回転数が速やかに変化しやすく)、背圧が高くなりやすいため燃費が低下する。一方で、大容量の高回転用ターボ60を使用した場合、低回転用ターボ50を使用する場合に比べて、エンジン2の出力の応答性が低く、背圧が高くなりにくいため燃費が向上する。
【0028】
そのため、本実施形態の車両1では、以下に説明するターボ切り替え制御により低回転用ターボ50および高回転用ターボ60のいずれを使用するかを切り替えることで、燃費向上とドライバビリティ向上(出力応答性の向上)の両立を図る。図4は、第一実施形態のターボ切り替え制御の処理を示すフローチャートである。図4に示す処理は、車両1がシリーズモードまたはパラレルモードで運転されている間、コントロールユニット20により所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0029】
コントロールユニット20は、まず、エンジン2の目標出力(目標回転数および目標トルク。以下、「エンジン目標出力」と称する)がいずれの領域にあるか、すなわち、エンジン2が低回転領域A1、中回転領域A2および高回転領域A3のいずれの領域で運転されるかを判定する(ステップS11)。コントロールユニット20は、ステップS11でエンジン目標出力が低回転領域A1にあると判定したとき、後述するステップS12の処理を省略して低回転用ターボ50を使用する(ステップS13)。その後、コントロールユニット20は、ステップS11以降の処理を再び実行する。これにより、エンジン2の低回転領域A1においては、低回転用ターボ50が使用される。
【0030】
一方、コントロールユニット20は、ステップS11でエンジン目標出力が高回転領域A3にあると判定したとき、後述するステップS12の処理を省略して高回転用ターボ60を使用する(ステップS14)。その後、コントロールユニット20は、ステップS11以降の処理を再び実行する。これにより、エンジン2の高回転領域A3においては、高回転用ターボ60が使用される。
【0031】
そして、コントロールユニット20は、エンジン目標出力が中回転領域A2にあると判定したとき、車両1の走行モードがパラレルモードであるか、シリーズモードであるかを判定する(ステップS12)。コントロールユニット20は、ステップS12で走行モードがパラレルモードであると判定したとき、低回転用ターボ50を使用する(ステップS13)。その後、コントロールユニット20は、ステップS11以降の処理を再び実行する。すなわち、走行モードがパラレルモードであればエンジン2の中回転領域A2は低回転用ターボ50の使用領域となるため、走行モードがシリーズモードであるときに比べて低回転用ターボ50の使用領域が中回転領域A2の分だけ拡大される。
【0032】
一方、コントロールユニット20は、ステップS12で走行モードがシリーズモードであると判定したとき、高回転用ターボ60を使用する(ステップS14)。その後、コントロールユニット20は、ステップS11以降の処理を再び実行する。すなわち、走行モードがシリーズモードであればエンジン2の中回転領域A2は高回転用ターボ60の使用領域となるため、走行モードがパラレルモードであるときに比べて高回転用ターボ60の使用領域が中回転領域A2の分だけ拡大される。
【0033】
このように、第一実施形態の車両1では、エンジン2の運転条件のみならず、車両1の走行モードに応じて低回転用ターボ50および高回転用ターボ60の使用領域を変更する。つまり、中低速領域で選択されるシリーズモードにおいて、通常はエンジン2の低速領域側で使用される低回転用ターボ50ではなく高回転用ターボ60の使用領域を拡大することで、燃費を向上させることができる。また、高速領域で選択されるパラレルモードにおいて、通常は高速領域側で使用される高回転用ターボ60ではなく低回転用ターボ50の使用領域を拡大することで、エンジン2の出力の応答性を高めることができる。
【0034】
さらに、上述したように、車両1では、駆動用バッテリ11の温度が所定温度未満である場合、駆動用バッテリ11の充放電が制限されるため、走行モードはエンジン2を駆動源として用いるパラレルモードとなる。そして、駆動用バッテリ11の温度が所定温度未満である状況は、フロントモータ4が長時間使用されていない状態、すなわち車両1が運転開始された直後である可能性が高い。そのため、エンジン目標出力は、例えば図3に白抜き矢印で示すように低回転側かつ低トルク側から高回転側かつ高トルク側へと移動していくと想定される。つまり、エンジン目標出力は、図3中の低回転領域A1から中回転領域A2の間で移行する可能性が高い。
【0035】
上述のような状況で、車両1がドライバーにより加減速され、エンジン目標出力が図3に例示した低回転領域A1中の点P1と、中回転領域A2中の点P2との間で移動したとする。この場合、中回転領域A2が高回転用ターボ60の使用領域に設定されていると、エンジン目標出力が点P1と点P2との間で移動することに伴って使用されるターボチャージャが頻繁に切り替わってしまう。第一実施形態の車両1では、中回転領域A2が低回転用ターボ50の使用領域に設定されるため、エンジン目標出力が点P1と点P2との間で移動したとしても、使用されるターボチャージャは常に低回転用ターボ50となる。このように、走行モードがパラレルモードであるときに低回転用ターボ50の使用領域が拡大されることで、駆動用バッテリ11の低温状態において、低回転用ターボ50と高回転用ターボ60との頻繁な切り替わりを抑制し、エンジン2の出力を安定化させてドライバビリティを向上させることができる。
【0036】
以上説明したように、第一実施形態の車両1は、コントロールユニット20は、パラレルモードでエンジン2が中回転領域A2で運転されるとき、低回転用ターボ50を使用し、シリーズモードでエンジン2が中回転領域A2で運転されるとき、高回転用ターボ60を使用する。
【0037】
この構成により、シリーズモードでは高回転用ターボ60の使用領域が拡大され、パラレルモードでは低回転用ターボ50の使用領域が拡大される。その結果、シリーズモードではより燃費を向上させ、パラレルモードではより出力の応答性を向上させることができる。また、使用されるターボチャージャが頻繁に切り替わることを抑制することができる。したがって、第一実施形態の車両1によれば、複数の走行モードで走行可能な車両1において、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60をより適切に選択してドライバビリティや燃費の向上を図ることができる。
【0038】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態の車両1について説明する。第二実施形態の車両1は、ターボ切り替え制御が第一実施形態と異なることを除き、第一実施形態と同様の構成および機能を有するため、同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
図5は、第二実施形態のターボ切り替え制御の処理を示すフローチャートである。図5に示す処理は、車両1がシリーズモードまたはパラレルモードで運転されている間、コントロールユニット20により所定時間ごとに繰り返し実行される。なお、図5に示す処理において、ステップS21からステップS23、ステップS25は、図4に示すステップS11からステップS13、ステップS14と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0040】
コントロールユニット20は、ステップS22で走行モードがシリーズモードであると判定したとき、ステップS25の処理の前に、駆動用バッテリ11の充電率(充電量)が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS24)。所定値は、駆動用バッテリ11に充電が必要な充電率より少し高い値として予め定められる。
【0041】
コントロールユニット20は、駆動用バッテリ11の充電率が所定値以上であると判定したとき(ステップS24でYes)、高回転用ターボ60を使用する(ステップS25)。これにより、駆動用バッテリ11に充電が必要ない場合、高回転用ターボ60の使用によって燃費の向上を図ることができる。
【0042】
一方、コントロールユニット20は、駆動用バッテリ11の充電率が所定値未満であると判定したとき(ステップS24でNo)、低回転用ターボ50を使用する(ステップS23)。これにより、駆動用バッテリ11に充電が必要な場合、低回転用ターボ50を使用することで、充電のためにエンジン2の出力を急増させる要求に対応しやすくなる。
【0043】
以上説明したように、第二実施形態の車両1において、コントロールユニット20は、シリーズモードでエンジン2が中回転領域A2で運転されると共に、フロントモータ4に電力を供給する駆動用バッテリ11の充電率が所定値未満となったとき、低回転用ターボ50を使用する。この構成により、上述したように、駆動用バッテリ11の充電のためにエンジン2の出力の急増が必要となる可能性がある場合に、低回転用ターボ50を使用することでエンジン2の出力の応答性を高めることができる。
【0044】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態の車両1について説明する。第三実施形態の車両1は、ターボ切り替え制御が第一実施形態および第二実施形態と異なることを除き、第一実施形態および第二実施形態と同様の構成および機能を有するため、同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0045】
ここで、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60は、所定の作動領域において、シャフト50s、60sに振動が生じやすくなる。図6は、シャフト50s、シャフト60sに振動が生じやすくなる領域の一例を示すための説明図である。低回転用ターボ50は、作動領域うちの低回転側かつ高負荷側に位置する領域である所定の低回転用シャフト振動領域A4(図中に破線で囲んだ領域)でエンジン2が運転される場合、他の作動領域でエンジン2が運転される場合に比べてシャフト50sに振動が生じやすい。同様に、高回転用ターボ60は、作動領域のうちの低回転側かつ高負荷側に位置する領域である所定の高回転用シャフト振動領域A5(図中に一点鎖線で囲んだ領域)でエンジン2が運転される場合、他の作動領域でエンジン2が運転される場合に比べてシャフト50sに振動が生じやすい。また、図6に示すように、低回転用シャフト振動領域A4と高回転用シャフト振動領域A5とが中回転領域A2において互いに重複する重複領域A6を含んでいる。
【0046】
上述した各領域でシャフト50s、60sが振動すると、シャフト50s、60sの摩耗や損傷が生じたり、各ターボチャージャを安定的に駆動できず燃費やドライバビリティの低下を招いたりする可能性がある。そこで、第三実施形態の車両1は、特に中回転領域A2における上記シャフト50s、60sの振動を適切に抑制するために、以下に説明するターボ切り替え制御を実行する。
【0047】
図7は、第三実施形態のターボ切り替え制御の処理を示すフローチャートである。なお、図7に示す処理において、ステップS31からステップS34、ステップS38は、図5に示すステップS21からステップS25と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0048】
コントロールユニット20は、ステップS34で駆動用バッテリ11の充電率が所定値以上であると判定したとき(ステップS34でYes)、エンジン目標出力が高回転用シャフト振動領域A5にあるか否かを判定する(ステップS35)。コントロールユニット20は、エンジン目標出力が高回転用シャフト振動領域A5にないと判定したとき(ステップS35でNo)、後述するステップS36、S37の処理を省略して高回転用ターボ60を使用する(ステップS38)。
【0049】
一方、コントロールユニット20は、エンジン目標出力が高回転用シャフト振動領域A5にあると判定したとき(ステップS35でYes)、さらに、エンジン目標出力が低回転用シャフト振動領域A4にあるか否か、すなわち、重複領域A6にあるか否かを判定する(ステップS36)。
【0050】
そして、コントロールユニット20は、エンジン目標出力が低回転用シャフト振動領域A4にある(重複領域A6にある。例えば、図6の点P3参照)と判定したとき(ステップS36でYes)、高回転用ターボ60のシャフト60sへの潤滑油の供給量(油圧)を増加し(ステップS37)、高回転用ターボ60を使用する(ステップS38)。このように、中回転領域A2のうち低回転用ターボ50および高回転用ターボ60のいずれを使用してもシャフト50s、60sのいずれかが振動しやすい領域では、シャフト60sへの潤滑油の供給量を増加させて高回転用ターボ60を使用することによって、シャフト50s、60sの振動を抑制する。
【0051】
また、コントロールユニット20は、エンジン目標出力が低回転用シャフト振動領域A4にない(重複領域A6以外の高回転用シャフト振動領域A5にある。例えば、図6の点P4参照)と判定したとき(ステップS36でNo)、低回転用ターボ50を使用する(ステップS33)。このように、中回転領域A2のうち高回転用ターボ60のシャフト60sが振動しやすいものの、低回転用ターボ50のシャフト50sが振動しづらい領域では、低回転用ターボ50を使用することでシャフト50s、60sの振動を抑制する。
【0052】
なお、図7では記載を省略したが、ステップS31でエンジン目標出力が低回転領域A1にあると判定され、かつ、エンジン目標出力が低回転用シャフト振動領域A4にある場合には、シャフト50sへの潤滑油の供給量を増加させてもよい。また、ステップS31でエンジン目標出力が高回転領域A3にあると判定され、かつ、エンジン目標出力が高回転用シャフト振動領域A5にある場合には、シャフト60sへの潤滑油の供給量を増加させてもよい。それにより、低回転領域A1、高回転領域A3においても、シャフト50s、60sの振動を抑制することができる。
【0053】
以上説明したように、第三実施形態の車両1において、高回転用ターボ60は、中回転領域A2のうちの一部を含む所定の高回転用シャフト振動領域A5でエンジン2が運転されるとき、他の領域でエンジン2が運転されるときよりもシャフト60sが振動しやすく、コントロールユニット20は、シリーズモードでエンジン2が中回転領域A2のうちの所定の高回転用シャフト振動領域A5で運転されるとき、低回転用ターボ50を使用する。
【0054】
この構成により、高回転用ターボ60のシャフト60sが振動しやすい所定の高回転用シャフト振動領域A5では、シリーズモードであっても低回転用ターボ50を使用するため、高回転用ターボ60のシャフト60sへの潤滑油の供給量を増加する必要がない。その結果、潤滑油の供給量の増加による燃費低下を抑制することができる。
【0055】
また、低回転用ターボ50は、中回転領域A2のうちの一部を含む所定の低回転用シャフト振動領域A4でエンジン2が運転されるとき、他の領域でエンジン2が運転されるときよりもシャフト50sが振動しやすく、所定の低回転用シャフト振動領域A4と所定の高回転用シャフト振動領域A5とは、中回転領域A2において互いに重複する重複領域A6を含み、コントロールユニット20は、シリーズモードでエンジン2が中回転領域A2のうちの重複領域A6で運転されるとき、高回転用ターボ60を使用すると共に高回転用ターボ60のシャフトに供給する潤滑油の供給量を増加させる。
【0056】
この構成により、低回転用ターボ50のシャフトおよび高回転用ターボ60のシャフトの双方が振動しやすい重複領域A6では、高回転用ターボ60のシャフト60sへの潤滑油の供給量を増加させて当該シャフト60sの振動を抑制することができる。
【0057】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの第一実施形態から第三実施形態に限定されるものではない。例えば、低回転用ターボ50および高回転用ターボ60は、ターボチャージャに限らず、スーパーチャージャーその他の過給機であってもよい。
【0058】
また、第三実施形態において、低回転用シャフト振動領域A4が中回転領域A2に重ならず、低回転用シャフト振動領域A4と高回転用シャフト振動領域A5との重複領域A6が存在しない場合もあり得る。この場合、図7のステップS36を省略し、ステップS35でエンジン目標出力が高回転用シャフト振動領域A5にあると判定されたときは低回転用ターボ50を使用する(ステップS33)としてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車両
2 エンジン(内燃機関)
4 フロントモータ(走行用モータ)
11 駆動用バッテリ
20 コントロールユニット(制御装置)
50 低回転用ターボ(低回転用ターボチャージャ、低回転用過給機)
50s、60s シャフト
60 高回転用ターボ(高回転用ターボチャージャ、高回転用過給機)
A1 低回転領域
A2 中回転領域
A3 高回転領域
A4 低回転用シャフト振動領域
A5 高回転用シャフト振動領域
A6 重複領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7