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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112008
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20240813BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240813BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240813BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20240813BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F02D29/02 331Z
F02D29/00 C
F16H63/50
F16H59/72
F16H59/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016808
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 真教
【テーマコード(参考)】
3G093
3J552
【Fターム(参考)】
3G093AA05
3G093BA14
3G093BA19
3G093CA04
3G093DA01
3G093DA05
3G093DB01
3G093EA02
3J552MA02
3J552MA07
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA21
3J552PA59
3J552RC07
3J552RC13
3J552VA42W
(57)【要約】
【課題】トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消す補正値としての内燃機関のコンバータ補正トルクをより適切に算出し、内燃機関の制御性向上および燃費向上を図る。
【解決手段】制御装置は、トルクコンバータのタービン回転数NTを目標アイドル回転数NEFで除算して、アイドル運転状態時に実現されるトルクコンバータの速度比の速度比であるアイドル時速度比etを算出し、トルクコンバータ20の速度比に対する容量係数の特性に基づいて、アイドル時速度比etに応じた容量係数を取得し、取得した容量係数をアイドル運転状態時に実現されるトルクコンバータ20の容量係数であるアイドル時容量係数Ctとして設定し、アイドル時容量係数Ctに目標アイドル回転数NEFの二乗値を乗算してコンバータ補正トルクTEbを算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行レンジでアイドル運転状態の内燃機関の回転数を目標アイドル回転数に維持するように、前記内燃機関と変速機との間で動力を伝達するトルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消すためのコンバータ補正トルクを前記内燃機関の目標トルクに加算する車両用制御装置であって、
前記トルクコンバータのタービン回転数を前記目標アイドル回転数で除算して、アイドル運転状態時に実現される前記トルクコンバータの速度比であるアイドル時速度比を算出し、
前記トルクコンバータの速度比に対する容量係数の特性に基づいて、前記アイドル時速度比に応じた容量係数を取得し、取得した容量係数を、アイドル運転状態時に実現される前記トルクコンバータの容量係数であるアイドル時容量係数として設定し、
前記アイドル時容量係数に前記目標アイドル回転数の二乗値を乗算して前記コンバータ補正トルクを算出する車両用制御装置。
【請求項2】
前記コンバータ補正トルクは、前記アイドル時速度比が値1以上の領域では、値0に設定される請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記コンバータ補正トルクは、前記内燃機関の冷却水温または前記変速機の作動油の温度に基づいて補正される請求項1に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行レンジで、トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消すように内燃機関を制御する車両用制御装置に関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、エンジンのアイドリング状態にて、非ドライブレンジ(非走行レンジ)からドライブレンジ(走行レンジ)へとシフトレバーを切り替えた際に、スロットル開度を補正する車両のスロットル制御部が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-193732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の制御装置では、走行モードが走行レンジかつ内燃機関のアイドル運転時に内燃機関から出力するトルクを補正することで、上記攪拌抵抗による負荷の作用で内燃機関の回転数が目標アイドル回転数からアンダーシュートすることを抑制している。しかしながら、例えばクリープ走行時など車両が走行している状態では、停車時に比べてトルクコンバータのタービン回転数が大きくなり、トルクコンバータの負荷は低下することになる。そのため、上述したような内燃機関のトルク補正をトルクコンバータの負荷が低下した後にも継続すると、過剰補正となり、内燃機関の回転数を目標回転数に追従させることが困難となったり、不必要な燃料噴射により燃費の悪化を招いたりする可能性がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消す補正値としての内燃機関のコンバータ補正トルクをより適切に算出し、内燃機関の制御性向上および燃費向上を図ることが可能な車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用制御装置は、走行レンジでアイドル運転状態の内燃機関の回転数を目標アイドル回転数に維持するように、前記内燃機関と変速機との間で動力を伝達するトルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消すためのコンバータ補正トルクを前記内燃機関の目標トルクに加算する車両用制御装置であって、前記トルクコンバータのタービン回転数を前記目標アイドル回転数で除算して、アイドル運転状態時に実現される前記トルクコンバータの速度比であるアイドル時速度比を算出し、前記トルクコンバータの速度比に対する容量係数の特性に基づいて、前記アイドル時速度比に応じた容量係数を取得し、取得した容量係数を、アイドル運転状態時に実現される前記トルクコンバータの容量係数であるアイドル時容量係数として設定し、前記アイドル時容量係数に前記目標アイドル回転数の二乗値を乗算して前記コンバータ補正トルクを算出する。
【0007】
この構成により、内燃機関の回転数が目標アイドル回転数で維持されると仮定した場合のトルクコンバータの速度比であるアイドル時速度比を算出し、当該アイドル時速度比とトルクコンバータの特性から、上記仮定した場合のトルクコンバータの容量係数であるアイドル時容量係数が設定される。それにより、アイドル時容量係数と目標アイドル回転数とに基づいて算出されるコンバータ補正トルクは、トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消して内燃機関の回転数を目標アイドル回転数で維持するために必要な分のトルク補正値となる。その結果、例えばクリープ走行時など、車両の停車時に比べてトルクコンバータの負荷が低下した場合にも、内燃機関の目標トルクを過剰補正しないようにすることができる。したがって、本発明の車両用制御装置によれば、トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消す補正値としての内燃機関のコンバータ補正トルクをより適切に算出し、内燃機関の制御性向上および燃費向上を図ることが可能となる。
【0008】
また、前記コンバータ補正トルクは、前記アイドル時速度比が値1以上の領域では、値0に設定されることが好ましい。この構成により、トルクコンバータのタービン回転数が目標アイドル回転数よりも高く、トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷をほぼ考慮しなくてもよい場合(すなわち、内燃機関が非アイドル運転時の場合)において、内燃機関の目標トルクがコンバータ補正トルクにより補正されないようにすることができる。したがって、内燃機関の制御性向上および燃費向上を図ることが可能となる。
【0009】
また、前記コンバータ補正トルクは、前記内燃機関の冷却水温または前記変速機の作動油の温度に基づいて補正されることが好ましい。この構成により、コンバータ補正トルクをより適切に算出することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用制御装置によれば、トルクコンバータの攪拌抵抗による負荷を打ち消す補正値としての内燃機関のコンバータ補正トルクをより適切に算出し、内燃機関の制御性向上および燃費向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の制御装置を備えた車両の要部を示す概略構成図である。
図2】コンバータ補正トルク設定制御の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】トルクコンバータの特性の一例を示す説明図である。
図4】走行レンジにおけるエンジンの最終目標トルクと、コンバータ補正トルクと、ISC補正トルクと、エンジン回転数および目標アイドル回転数と、車速との時間変化の様子の一例を示す説明図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
(車両)
図1は、実施形態の制御装置を備えた車両の要部を示す概略構成図である。車両1は、図示するように、エンジン(内燃機関)10と、トルクコンバータ20と、自動変速機30と、車両用制御装置40(以下、単に「制御装置40」と称する)とを備える。
【0014】
(エンジン)
エンジン10は、例えばディーゼルエンジンであり、図示しない燃料噴射弁による燃料噴射量が制御装置40により制御される。なお、エンジン10は、ガソリンエンジンであってもよい。また、エンジン10は、潤滑用の潤滑油が流通する図示しないオイルギャラリーや、冷却用の冷却水が流通する図示しないウォータージャケットを備えている。
【0015】
(トルクコンバータ)
トルクコンバータ20は、エンジン10と自動変速機30との間に介装された流体式トルクコンバータである。トルクコンバータ20は、エンジン10の出力軸11に接続されたポンプインペラ21と、自動変速機30の入力軸31に接続されたタービンランナ22とを備え、粘性流体を介してポンプインペラ21とタービンランナ22との間で動力を伝達させる。また、トルクコンバータ20は、ケースにワンウェイクラッチ23を介して設けられ、粘性流体を整流してポンプインペラ21とタービンランナ22との間で伝達される動力を増幅させるステータ24を有する。さらに、トルクコンバータ20は、エンジン10の出力軸11と自動変速機30の入力軸31とを直結可能なロックアップクラッチ25を有している。
【0016】
(自動変速機)
自動変速機30は、トルクコンバータ20を介して伝達されたエンジン10からの動力を図示しない駆動軸へと伝達する。自動変速機30は、例えば、作動油により作動する複数のクラッチで複数の変速ギヤの係合状態を切り替えることで、入力軸31の回転数と図示しない出力軸の回転数とを所定の変速比で変速する。また、自動変速機30は、運転者が図示しないシフトレバーを操作したことによるシフトポジションに応じて、車両1の走行モードを切り替える。走行モードには、ニュートラルレンジ(Nレンジ)およびパーキングレンジ(Pレンジ)を含む非走行レンジと、ドライブレンジ(Dレンジ、前進レンジ)およびリバースレンジ(Rレンジ、後退レンジ)を含む走行レンジとが含まれる。なお、自動変速機30は、ベルト式無段変速機(CVT)であってもよい。
【0017】
(制御装置)
制御装置40は、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAMなど)、中央演算処理装置(CPU)およびタイマなどを含んで構成される。制御装置40は、エンジン10のクランク軸の回転角度を検出する図示しないクランク角センサの検出値を取得し、エンジン回転数NE(図4の実線参照)を算出する。また、制御装置40は、エンジン10の冷却水の温度を検出する図示しない温度検出センサから冷却水温を取得する。また、制御装置40は、自動変速機30の作動油の温度を検出する図示しない温度検出センサから作動油温を取得する。また、制御装置40は、トルクコンバータ20のタービンランナ22の回転数を検出する図示しない回転数センサからタービン回転数を取得する。
【0018】
制御装置40は、車両1のアクセル操作情報などの各種検出量および各種作動情報に基づいて、エンジン10の目標回転数および最終目標トルクTE(図4参照)を設定し、エンジン10が目標回転数で回転すると共に最終目標トルクTEを出力するように燃料噴射弁からの燃料噴射量を制御する。また、制御装置40は、例えば車両1に搭載されたエアコンなどの補器の負荷やエンジン10の冷却水温などに応じて、エンジン10をアイドル運転させるときの目標アイドル回転数NEF(図4の破線参照)を設定し、エンジン10が目標アイドル回転数NEFで回転するように燃料噴射弁からの燃料噴射量を制御するアイドル運転制御を実行する。このとき、制御装置40は、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEFに近づくようにフィードバック制御によりISC(アイドルスピードコントロール)補正トルクTEi(図4参照)を設定し、当該ISC補正トルクTEiでエンジン10の目標トルクを補正して最終目標トルクTEを算出する。
【0019】
また、制御装置40は、運転者が図示しないシフトレバーを操作したことによるシフトポジションに応じて、車両1の走行モードがNレンジ、Pレンジ、DレンジおよびRレンジのいずれかに設定されるように自動変速機30を制御する。
【0020】
(コンバータ補正トルク)
ここで、エンジン10がアイドル運転している状態で車両1が走行レンジで停車する場合、トルクコンバータ20は、エンジン10の出力軸11に接続されたポンプインペラ21が回転し、タービンランナ22が回転しない状態となる。このように、エンジン回転数NEに対してタービン回転数が小さい領域では、トルクコンバータ20の内部で作動油の攪拌抵抗による負荷が発生することになる。そのため、エンジン10がアイドル運転している状態で走行モードが非走行レンジから走行レンジに切り替わったとき、上記攪拌抵抗分の負荷がエンジン10の出力軸11に作用し、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEFに対してアンダーシュートしてしまう可能性がある。
【0021】
そこで、走行レンジにおいてエンジン10がアイドル運転しているときには、上記攪拌抵抗分の負荷を打ち消すコンバータ補正トルクTEb(図4参照)をエンジン10の目標トルクに加算して最終目標トルクTEを設定する。しかしながら、例えばクリープ走行時など車両1が走行している状態では、停車時に比べてトルクコンバータ20のタービン回転数が大きくなり、トルクコンバータ20の負荷は低下することになる。そのため、上記コンバータ補正トルクTEbによりエンジン10の目標トルクが過剰補正され、エンジン回転数NEを目標回転数に追従させることが困難となったり、不必要な燃料噴射により燃費の悪化を招いたりする可能性がある。そこで、実施形態の制御装置40は、以下のコンバータ補正トルク設定制御によりコンバータ補正トルクTEbを算出して設定する。
【0022】
(コンバータ補正トルク設定制御)
図2は、コンバータ補正トルク設定制御の処理の一例を示すフローチャートである。図2に示す処理は、車両1の走行モードが走行レンジ(DレンジまたはRレンジ)に設定されている間、制御装置40により所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0023】
制御装置40は、トルクコンバータ20のタービンランナ22のタービン回転数NTを取得すると共に、エンジン10の目標アイドル回転数NEFを取得する(ステップS10)。タービン回転数NTは、上述したように、図示しない回転数検出センサから取得される。目標アイドル回転数NEFは、現時点でエンジン10をアイドル運転させる場合の値であり、例えば車両1に搭載されたエアコンなどの補器の負荷やエンジン10の冷却水温などに応じて設定される。
【0024】
次に、制御装置40は、ステップS10で取得したタービン回転数NTと目標アイドル回転数NEFとに基づいて、アイドル運転状態時に実現されるトルクコンバータ20の速度比であるアイドル時速度比etを算出する(ステップS11)。ここで、トルクコンバータ20の速度比eは、タービン回転数NTとエンジン回転数NE(すなわちインペラ回転数)から次式(1)で求めることができる。そこで、制御装置40は、式(1)中のエンジン回転数NEを目標アイドル回転数NEFに置き換えた次式(2)にしたがって、トルクコンバータ20のアイドル時速度比etを算出する。すなわち、制御装置40は、タービン回転数NTを目標アイドル回転数NEFで除算してアイドル時速度比etを算出する。これにより、アイドル時速度比etは、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEFに維持されると仮定した場合のトルクコンバータ20の速度比となる。
【0025】
e = NT/NE …(1)
et = NT/NEF …(2)
【0026】
次に、制御装置40は、ステップS11で算出したアイドル時速度比etとトルクコンバータ20の諸元による特性とに基づいて、アイドル運転状態時に実現されるトルクコンバータ20の容量係数Cであるアイドル時容量係数Ctを設定する(ステップS12)。図3は、トルクコンバータ20の特性の一例を示す説明図である。図示するように、トルクコンバータ20は、その諸元に応じて速度比eに対する容量係数Cが一義的に定まる。制御装置40は、図3に例示したトルクコンバータ20の特性が予め定められたマップを記憶しており、当該マップからアイドル時速度比etに応じた容量係数Cの値を取得し、取得した容量係数Cの値をアイドル時容量係数Ctとして設定する。これにより、アイドル時容量係数Ctは、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEFに維持されると仮定した場合のトルクコンバータ20の容量係数となる。なお、アイドル時容量係数Ctは、図3に例示したトルクコンバータ20の特性からアイドル時速度比etに応じた値を得られるように設定された算出式を用いて算出されてもよい。
【0027】
次に、制御装置40は、ステップS12で算出したアイドル時容量係数Ctと、エンジン10の目標アイドル回転数NEFとに基づいて上記コンバータ補正トルクTEbを算出する(ステップS13)。ここで、エンジントルクTは、トルクコンバータ20の容量係数Cとエンジン回転数NEとから、次式(3)で求めることができる。そこで、制御装置40は、式(3)中のエンジン回転数NEを目標アイドル回転数NEFに置き換え上で、補正係数kを乗じた次式(4)にしたがってコンバータ補正トルクTEbを算出する。すなわち、制御装置40は、アイドル時容量係数Ctに目標アイドル回転数NEFの二乗値を乗算した値を補正係数kで補正してコンバータ補正トルクTEbを算出する。補正係数kは、エンジン10の冷却水温または自動変速機30の作動油温に基づいて設定される。具体的には、補正係数kは、冷却水温または作動油温が高いほど小さい値に設定される。冷却水温または作動油温が高い場合には、トルクコンバータ20の粘性流体の温度も高く粘性が小さくなり攪拌抵抗が小さくなるため、コンバータ補正トルクTEbを小さく設定することができる。
【0028】
T = C・NE …(3)
TEb = Ct・NEF・k …(4)
【0029】
ただし、本実施形態において、コンバータ補正トルクTEbは、タービンランナ22の回転数が目標アイドル回転数NEFよりも大きく、アイドル時速度比etが値1以上となる領域では、値0に設定される。これにより、コンバータ補正トルクTEbは、タービン回転数NTが目標アイドル回転数NEFよりも小さく、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷が生じる領域(アイドル時速度比etが値1未満の領域)では、当該負荷を打ち消してエンジン回転数NEを目標アイドル回転数NEFに維持するために必要な分のトルク補正値となる。一方、タービン回転数NTが目標アイドル回転数NEFよりも大きく、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷をほぼ考慮する必要がない領域(アイドル時速度比etが値1以上の領域)では、コンバータ補正トルクTEbは値0となる。
【0030】
制御装置40は、算出したコンバータ補正トルクTEbをエンジン10の目標トルクに加算して最終目標トルクTEを算出し(ステップS14)、本ルーチンを再び最初から実行する。これにより、車両1の走行モードが走行レンジに設定されている間、上記コンバータ補正トルクTEbが目標トルクに加算された最終目標トルクTEを出力するようにエンジン10が制御される。
【0031】
(実施形態の作用)
図4は、走行レンジにおけるエンジン10の最終目標トルクTEと、コンバータ補正トルクTEbと、ISC補正トルクTEiと、エンジン回転数NEおよび目標アイドル回転数NEFと、車速Vとの時間変化の様子の一例を示す説明図である。いま、時刻t1までは車両1が走行レンジで停車しており、時刻t1で車両1がクリープ走行を開始し、時刻t2から時刻t3の間にアクセルが踏み込まれたことを想定する。エンジン10は、時刻t2までの間はアイドル運転状態であり、時刻t2から時刻t3の間はアクセル操作情報などの各種検出量および各種作動情報に基づいて燃料噴射量が制御される通常運転状態であり、時刻t3でアクセルの踏み込みが解除された後、時刻t4で再びアイドル運転状態であるとする。
【0032】
まず、比較例として従来制御の例について説明する。図中に破線で示す従来制御における従来コンバータ補正トルクTEb0は、エンジン10の冷却水温または自動変速機30の作動油温に基づいて設定されていた。このため、少なくとも時刻t1まではエンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEFに維持されるように従来コンバータ補正トルクTEb0が目標トルクに加算されて、従来最終目標トルクTE0(図中の破線参照)が補正される。時刻t1で車両1がクリープ走行を開始した後には、トルクコンバータ20のタービン回転数NT(図示省略)が増加してトルクコンバータ20の負荷が低下するため、従来コンバータ補正トルクTEb0により目標トルクが過剰補正された従来最終目標トルクTE0が算出されることになる。従来制御においては、車両1のクリープ走行時における上記過剰補正を打ち消すため、図中に破線で示すように従来ISC補正トルクTEi0を減算することで対応していた。
【0033】
しかしながら、ISC補正トルクTEiは、エンジン10のアイドル運転時のフィードバック補正トルクであり、その下限値は値0である。そのため、エンジン10がアイドル運転状態でない間(時刻t2から時刻t4の間)には、アイドル運転時のフィードバック補正トルクであるISC補正トルクTEiを減算することはできず、上記過剰補正を打ち消すことはできない。また、クリープ走行時であっても、従来コンバータ補正トルクTEb0の値によっては、ISC補正トルクTEiの減算では十分に上記過剰補正を抑えることができない可能性がある。このように従来制御ではエンジン10の目標トルクの過剰補正が発生する。なお、図4中に斜線を付した範囲は、以下に説明する本実施形態のコンバータ補正トルクTEbと比べた従来コンバータ補正トルクTEb0による過剰補正分に相当する。
【0034】
これに対して、本実施形態によるコンバータ補正トルク設定制御では、車両1が走行レンジで停車している間(時刻t1まで)、タービン回転数NTが目標アイドル回転数NEFよりも小さい領域(上記アイドル時速度比etが値1未満の領域)となるため、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷を打ち消すために必要な分のコンバータ補正トルクTEbが上記式(4)にしたがって算出される。その結果、当該コンバータ補正トルクTEbがエンジン10の目標トルクに加算されて最終目標トルクTEが算出され、エンジン10が目標アイドル回転数NEFで回転する状態が維持される。
【0035】
その後、時刻t1で車両1がクリープ走行を始めると、トルクコンバータ20のタービン回転数NTが徐々に増加するに伴ってアイドル時速度比etが値1未満の領域で大きくなり、アイドル時容量係数Ctが小さくなっていく(図3参照)。その結果、コンバータ補正トルクTEbの値が低下し、従来コンバータ補正トルクTEb0よりも小さく設定される。すなわち、クリープ走行時においても、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷を打ち消すために必要な分のコンバータ補正トルクTEbが目標トルクに加算されて最終目標トルクTEが算出される。その結果、ISC補正トルクTEiの減算により対応する場合に比べて、目標トルクの過剰補正をより確実に抑えることができる。なお、本実施形態によれば、破線で示す従来制御の従来ISC補正トルクTEi0のように、クリープ走行時のISC補正トルクTEiの減算を行う必要はない。
【0036】
その後、時刻t2でアクセルが踏み込まれ、さらにタービン回転数NTが増加すると、アイドル時速度比etが値1以上となり、コンバータ補正トルクTEbが値0に設定され、コンバータ補正トルクTEbが目標トルクに加算されることなく最終目標トルクTEが算出される。その結果、エンジン10がアイドル運転状態でない間(時刻t2から時刻t4の間)、最終目標トルクTEが過剰補正されないようにすることができる。
【0037】
そして、時刻t4でエンジン10がアイドル運転状態となると、タービン回転数NTの低下に伴ってアイドル時速度比etが再び値1未満となり、アイドル時容量係数Ctが大きくなっていく(図3参照)。その結果、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷を打ち消すために必要な分のコンバータ補正トルクTEbが上記式(4)にしたがって算出され、コンバータ補正トルクTEbが再び増加する。それにより、時刻t4以降、エンジン10が目標アイドル回転数NEFで回転する状態が維持される。
【0038】
(実施形態の効果)
以上説明したように、実施形態の制御装置(車両用制御装置)40は、トルクコンバータ20のタービン回転数NTを目標アイドル回転数NEFで除算して、アイドル運転状態時に実現されるトルクコンバータ20の速度比eであるアイドル時速度比etを算出し、トルクコンバータ20の速度比eに対する容量係数Cの特性に基づいて、アイドル時速度比etに応じた容量係数Cを取得し、取得した容量係数Cをアイドル運転状態時に実現されるトルクコンバータ20の容量係数Cであるアイドル時容量係数Ctとして設定し、アイドル時容量係数Ctに目標アイドル回転数NEFの二乗値を乗算してコンバータ補正トルクTEbを算出する。
【0039】
この構成により、エンジン10のエンジン回転数NEが目標アイドル回転数NEFで維持されると仮定した場合のトルクコンバータ20の速度比eであるアイドル時速度比etを算出し、当該アイドル時速度比etとトルクコンバータ20の特性から、上記仮定した場合のトルクコンバータ20の容量係数Cであるアイドル時容量係数Ctが設定される。それにより、アイドル時容量係数Ctと目標アイドル回転数NEFとに基づいて算出されるコンバータ補正トルクTEbは、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷を打ち消してエンジン10のエンジン回転数NEを目標アイドル回転数NEFで維持するために必要な分のトルク補正値となる。その結果、例えばクリープ走行時など、車両1の停車時に比べてトルクコンバータ20の負荷が低下した場合にも、エンジン10の目標トルクを過剰補正しないようにすることができる。したがって、実施形態の制御装置40によれば、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷を打ち消す補正値としてのエンジン10のコンバータ補正トルクTEbをより適切に算出し、エンジン10の制御性向上および燃費向上を図ることが可能となる。
【0040】
また、コンバータ補正トルクTEbは、アイドル時速度比etが値1以上の領域では、値0に設定される。この構成により、トルクコンバータ20のタービン回転数NTが目標アイドル回転数NEFよりも高く、トルクコンバータ20の攪拌抵抗による負荷をほぼ考慮しなくてもよい場合(すなわち、エンジン10が非アイドル運転時の場合。時刻t2から時刻t4の間)において、エンジン10の目標トルクがコンバータ補正トルクTEbにより補正されないようにすることができる。したがって、エンジン10の制御性向上および燃費向上を図ることが可能となる。
【0041】
また、コンバータ補正トルクTEbは、エンジン10の冷却水温または自動変速機30の作動油の温度に基づいて補正される。この構成により、コンバータ補正トルクTEbをより適切に算出することができる。
【0042】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、アイドル時速度比etが値1以上の領域でコンバータ補正トルクTEbを値0に設定するものとしたが、エンジン10がアイドル運転状態でない間(制御装置40がエンジン10のアイドル運転制御を行っていない間)、コンバータ補正トルクTEbを値0に設定するものとしてもよい。また、補正係数kは、式(4)から省略されてもよい。すなわち、コンバータ補正トルクTEbは、エンジン10の冷却水温または自動変速機30の作動油温による補正がなされないものであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
10 エンジン(内燃機関)
20 トルクコンバータ
21 ポンプインペラ
22 タービンランナ
30 自動変速機
40 制御装置(車両用制御装置)
C 容量係数
Ct アイドル時容量係数
e 速度比
et アイドル時速度比
k 補正係数
NE エンジン回転数
NEF 目標アイドル回転数
NT タービン回転数
TE 最終目標トルク
TEb コンバータ補正トルク
TEi ISC補正トルク
図1
図2
図3
図4