(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112046
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】繊維処理用架橋剤組成物、繊維処理剤組成物、撥水剤組成物、繊維製品及び撥水性繊維製品
(51)【国際特許分類】
C08G 18/80 20060101AFI20240813BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20240813BHJP
C08G 18/22 20060101ALI20240813BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240813BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C08G18/80
C08G18/75
C08G18/22
C09K3/18 101
D06M13/395
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016867
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】591018051
【氏名又は名称】明成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】松村 実莉
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆史
(72)【発明者】
【氏名】永山 浩史
(72)【発明者】
【氏名】松村 達也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
【テーマコード(参考)】
4H020
4J034
4L033
【Fターム(参考)】
4H020AB01
4H020BA02
4J034BA06
4J034BA08
4J034CA03
4J034CA04
4J034CA15
4J034CB02
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4J034RA03
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4L033AA02
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA69
(57)【要約】
【課題】特定芳香族アミンが残存もしくは分解生成する可能性のある芳香族イソシアネート系化合物、オキシム系ブロック剤、及び有機スズ系化合物を原材料として使用せず、繊維処理剤の耐久性向上に優れる繊維処理用架橋剤組成物を提供する。
【解決手段】ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)を含む、繊維処理用架橋剤組成物であって、
前記成分ABは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)とブロック剤(成分B)との反応生成物であり、
前記成分Aは、炭素原子により構成された環状構造を含み、
前記環状構造が芳香環である場合には、前記環状構造を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有しておらず、
前記成分Bは、オキシム系化合物を含まず、
前記繊維処理用架橋剤組成物は、有機スズ系化合物を含まない、繊維処理用架橋剤組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)を含む、繊維処理用架橋剤組成物であって、
前記成分ABは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)とブロック剤(成分B)との反応生成物であり、
前記成分Aは、炭素原子により構成された環状構造を含み、
前記環状構造が芳香環である場合には、前記環状構造を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有しておらず、
前記成分Bは、オキシム系化合物を含まず、
前記繊維処理用架橋剤組成物は、有機スズ系化合物を含まない、繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項2】
前記成分Aは、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、デカヒドロナフタレンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、イソプロピリデンビス(アミノシクロヘキサン)及びメチレンビス(アミノシクロヘキサン)からなる群より選択される少なくとも1種に由来する構造を含む、請求項1に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項3】
前記成分Bは、ピラゾール系化合物及びアミン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項4】
前記成分Aは、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及び3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種から誘導されるイソシアネート変性体X、並びに、
置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及び3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート系化合物と脂肪族イソシアネート系化合物とを組み合わせて誘導されるイソシアネート変性体Y
のうち、少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項5】
前記イソシアネート変性体X及び前記イソシアネート変性体Yは、それぞれ、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体、アロファネート変性体、多価アルコールとのアダクト体、ビウレット変性体、ウレア変性体、オキサジアジントリオン変性体、カルボジイミド変性体、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体、又はこれら2種以上の共変性体である、請求項4に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項6】
前記成分ABには該当しないブロックドイソシアネート系化合物(成分CD)をさらに1種以上含み、
前記成分CDは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分C)とブロック剤(成分D)との反応生成物であり、
前記成分Cは、分子中に芳香環を有する場合、前記芳香環を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有しておらず、
前記成分Dは、オキシム系化合物を含まない、請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項7】
有機塩基系触媒、亜鉛系触媒、ビスマス系触媒、ジルコニウム系触媒及びチタン系触媒からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む、繊維処理剤組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む繊維処理剤組成物により繊維が処理されてなる、繊維製品。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む、撥水剤組成物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む撥水剤組成物により繊維が処理されてなる、撥水性繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理用架橋剤組成物、繊維処理剤組成物、撥水剤組成物、繊維製品及び撥水性繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維分野(衣料やインテリアなど)において、繊維製品に様々な機能性(例えば、撥水性、防汚性、消臭性など)を持たせた製品開発が行われている。その中で、機能性の耐久性(例えば、洗濯耐久性、摩耗耐久性など)を向上させる手段として、機能性付与薬剤に架橋剤を併用する方法が挙げられる。
【0003】
架橋剤としては、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤及びイソシアネート系架橋剤などがよく用いられている。
【0004】
近年、環境負荷を低減することが望まれるようになり、動植物への影響の少ない薬剤開発が進められている。
【0005】
前記架橋剤のうち、メラミン系架橋剤は発がん性リスクの高いホルムアルデヒドが発生することから使用が避けられるようになってきており、代替架橋剤として、イソシアネート系架橋剤、とりわけブロックドイソシアネート系架橋剤がよく検討されている。
【0006】
ブロックドイソシアネート系架橋剤は通常の条件では強い反応性を有さず、加熱時にブロック剤が熱解離して反応性の高いイソシアネート基が再生することで優れた架橋性能を発現するため、作業者への負荷を小さくできる特徴がある。また、水系での使用においても、通常条件では水との反応性が低いため、ポットライフが長く、有機溶剤の使用を削減することもできる。
【0007】
しかしながら、ブロックドイソシアネート系架橋剤に関しても、代表的なブロック剤であるメチルエチルケトンオキシム(MEKオキシム)の発がん性リスクが高いことが問題視され始め、規制が進められている。
【0008】
また、イソシアネート基の反応性が非常に高く、さらには安価であるため、芳香族イソシアネート系化合物もしくはこれらの変性体が主に使用されてきたが、代表的なトルエンジイソシアネート(TDI)についても発がん性リスクが高いと考えられている。また、2,4-TDIの分解物である2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の分解物である4,4’-ジアミノジフェニルメタンは、特定芳香族アミン(アゾ染料から分解生成する発がん性が疑われているアミン系化合物)として知られる化合物である。
【0009】
繊維分野の加工において、十分な熱処理が行われなかった場合、MEKオキシムが繊維製品に残存する虞があり、問題視され始めている。また、芳香族イソシアネート系化合物を原料とする場合には、繊維製品に特定芳香族アミンが残存しないように創意工夫されているものの、製品イメージを低下させる虞もあった。
【0010】
ところで、スキーウェアなどの撥水性繊維製品は、撥水性の洗濯耐久性やドライクリーニング耐久性、摩耗耐久性を向上させる目的でブロックドイソシアネート系架橋剤が使用されている。
【0011】
また、撥水剤としては、従来、優れた撥水性が付与できることから、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を含む撥水剤(一般にC8フッ素系撥水剤)が使用されてきたが、撥水剤中に含有される、もしくは環境中で分解生成されるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やパーフルオロオクタン酸(PFOA)の生物毒性が高いとされており、これらを含有しない、もしくは分解生成の虞のない炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を含む撥水剤(一般にC6フッ素系撥水剤)への切り替えが進められている。さらには、毒性が低いパーフルオロアルキル化合物(PFAS)であっても、環境中でほとんど分解されないことが問題視され始め、フッ素化合物を使用しない非フッ素系撥水剤への切り替えが積極的に検討されている。
【0012】
しかしながら、C8フッ素系撥水剤と比較して、C6フッ素系撥水剤や非フッ素系撥水剤は撥水性が大きく劣るため、日々改良が進められている。これまで、撥水剤側の改良が勢力的に進められてきたが、特許文献1のように併用されるブロックドイソシアネート系架橋剤側の検討も着手され始めている。
【0013】
芳香族イソシアネート系化合物以外のイソシアネート系化合物(例えば、脂肪族イソシアネート系化合物)は、イソシアネート基の反応性が劣るため、十分な性能を発揮させるためには、高温で長時間熱処理を行う必要があるものの、繊維製品の製造においては高温で長時間の熱処理ができないケースが多くある。架橋反応を促進するために、特許文献1や2に開示されるような有機スズ系触媒や特殊なアミン系触媒を用いる方法は有効であるが、特に有機スズ系化合物は生物毒性が強く、又は環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)であると疑われており、使用は好ましくない。
【0014】
また、脂肪族イソシアネート系化合物(例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体)のブロック体は柔軟性に優れるため、生地に加工した場合に風合いが固くなりにくいというメリットがあるが、タックが強く、加工トラブル(ガムアップなど)が発生しやすいデメリットも有している。
【0015】
また、芳香族イソシアネート系化合物は、前述の通り優れた反応性を有することに加え、タックが少なく、加工トラブル(ガムアップなど)が発生しにくい。そのため、オキシム系ブロック剤を代替する方法も可能であるが、例えば、カプロラクタム系ブロック剤を用いる場合には熱解離温度が高くなり過ぎ、十分な性能が得られないというデメリットがある。反対に、ピラゾール系ブロック剤は、低温での架橋性能に優れるものの、架橋温度が低くなりすぎ、水系薬剤の形態にした場合、水との反応が容易に進行し、ポットライフが短く、実用性に足る保管安定性を担保することができないという問題も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2021/210534号
【特許文献2】特開平6-192364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発がん性の疑いのある化合物を実質的に含有せず、繊維処理剤の耐久性を向上することに優れる繊維処理用架橋剤組成物が求められている。特に、C6フッ素系撥水剤や非フッ素系撥水剤とともに併用することで、優れた撥水性(特に洗濯耐久性)を付与でき、優れた加工安定性を担保できる、繊維処理用架橋剤組成物が望まれている。さらには、有機スズ系化合物を含まない、もしくは性能を発揮するために必要としないことも望まれる。
【0018】
本発明は、特定芳香族アミンが残存もしくは分解生成する可能性のある芳香族イソシアネート系化合物、オキシム系ブロック剤、及び有機スズ系化合物を原材料として使用せず、繊維処理剤の耐久性向上に優れる繊維処理用架橋剤組成物を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該繊維処理用架橋剤組成物を利用した、繊維処理剤組成物、撥水剤組成物、繊維製品及び撥水性繊維製品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)を含む、繊維処理用架橋剤組成物であって、前記成分ABは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)とブロック剤(成分B)との反応生成物であり、成分Aは、炭素原子により構成された環状構造を含み、環状構造が芳香環である場合には、芳香環に直接結合する窒素原子を有しておらず、成分Bは、オキシム系化合物を含まず、繊維処理用架橋剤組成物は、有機スズ系化合物を含まない、繊維処理用架橋剤組成物は、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0020】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)を含む、繊維処理用架橋剤組成物であって、
前記成分ABは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)とブロック剤(成分B)との反応生成物であり、
前記成分Aは、炭素原子により構成された環状構造を含み、
前記環状構造が芳香環である場合には、前記環状構造を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有しておらず、
前記成分Bは、オキシム系化合物を含まず、
前記繊維処理用架橋剤組成物は、有機スズ系化合物を含まない、繊維処理用架橋剤組成物。
項2. 前記成分Aは、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、デカヒドロナフタレンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、イソプロピリデンビス(アミノシクロヘキサン)及びメチレンビス(アミノシクロヘキサン)からなる群より選択される少なくとも1種に由来する構造を含む、項1に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
項3. 前記成分Bは、ピラゾール系化合物及びアミン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1又は2に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
項4. 前記成分Aは、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及び3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種から誘導されるイソシアネート変性体X、並びに、
置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及び3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート系化合物と脂肪族イソシアネート系化合物とを組み合わせて誘導されるイソシアネート変性体Y
のうち、少なくとも一方を含む、項1~4のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
項5. 前記イソシアネート変性体X及び前記イソシアネート変性体Yは、それぞれ、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体、アロファネート変性体、多価アルコールとのアダクト体、ビウレット変性体、ウレア変性体、オキサジアジントリオン変性体、カルボジイミド変性体、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体、又はこれら2種以上の共変性体である、項4に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
項6. 前記成分ABには該当しないブロックドイソシアネート系化合物(成分CD)をさらに1種以上含み、
前記成分CDは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分C)とブロック剤(成分D)との反応生成物であり、
前記成分Cは、分子中に芳香環を有する場合、前記芳香環を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有しておらず、
前記成分Dは、オキシム系化合物を含まない、項1~5のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
項7. 有機塩基系触媒、亜鉛系触媒、ビスマス系触媒、ジルコニウム系触媒及びチタン系触媒からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、項1~6のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物。
項8. 項1~7のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む、繊維処理剤組成物。
項9. 項1~7のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む繊維処理剤組成物により繊維が処理されてなる、繊維製品。
項10. 項1~7のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む、撥水剤組成物。
項11. 項1~7のいずれか1項に記載の繊維処理用架橋剤組成物を含む撥水剤組成物により繊維が処理されてなる、撥水性繊維製品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定芳香族アミンが残存もしくは分解生成する可能性のある芳香族イソシアネート系化合物、オキシム系ブロック剤、及び有機スズ系化合物を原材料として実質的に使用せず、繊維処理剤の耐久性向上に優れる繊維処理用架橋剤組成物を提供することができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、当該繊維処理用架橋剤組成物を利用した、繊維処理剤組成物、撥水剤組成物、繊維製品及び撥水性繊維製品を提供することもできる。例えば、本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、C6フッ素系撥水剤又は非フッ素系撥水剤とともに併用することで、優れた撥水性(特に洗濯耐久性)を付与することができる撥水剤組成物、及びそれらを用いて得られる撥水性繊維物品を提供することができる。本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、風合いへの影響が少なく、加工安定性及び保管安定性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、「発がん性の疑いのある化合物」とは、世界保健機関(WHO)の一機関である、国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)により、グループ1(ヒトに対して発がん性がある)、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)、グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に分類された化合物、もしくは、欧州化学機関(European Chemicals Agency, ECHA)、又は独立行政法人 製品評価技術基盤機構のNITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)にて開示されている、発がん性区分1A、区分1B、区分2に分類された化合物を指す。なお、組成情報が非開示の場合は、原料メーカーのSDS情報を参照してもよい。
【0024】
ここで、「発がん性の疑いのある化合物を実質的に含有せず」とは、完全に不使用であることが好ましいが、製造工程上使用が避けられない場合(有機溶剤など)、もしくは製品安定性を担保する必要がある場合(防腐剤など)があるため、繊維製品中への残存量が20mg/kg未満になるような範囲で使用してもよい。
【0025】
また、特定芳香族アミンとは、4-アミノジフェニル(CAS: 92-67-1)、ベンジジン(CAS: 92-87-5)、4-クロロ-2-メチルアニリン(CAS:95-69-2)、2-ナフチルアミン(CAS:91-59-8)、2-メチル-4-(2-トリルアゾ)アニリン(CAS:97-56-3)、2-メチル-5-ニトロアニリン(CAS:99-55-8)、パラ-クロロアニリン(CAS:106-47-8)、2,4-ジアミノアニソール(CAS:615-05-4)、4,4′-ジアミノジフェニルメタン(CAS:101-77-9)、3,3′-ジクロロベンジジン(CAS:91-94-1)、3,3′-ジメトキシベンジジン(CAS:119-90-4)、3,3′-ジメチルベンジジン(CAS:119-93-7)、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチルジフェニルメタン(CAS:838-88-0)、2-メトキシ-5-メチルアニリン(CAS:120-71-8)、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(CAS:101-14-4)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(CAS:101-80-4)、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド(CAS:139-65-1)、オルト-トルイジン(CAS:95-53-4)、2,4-ジアミノトルエン(CAS:95-80-7)、2,4,5-トリメチルアニリン(CAS:137-17-7)、オルト-アニシジン(CAS:90-04-0)、パラ-フェニルアゾアニリン(CAS:60-09-3)、2,4-キシリジン(CAS:95-68-1)、2,6-キシリジン(CAS:87-62-7)の24種の化合物のことを指すものとする。
【0026】
また、「有機スズ系化合物を含まない」とは、本願繊維用架橋剤組成物中に意図的な使用及び添加が無いことを指すが、意図せず微量含まれていた場合、繊維製品中の残存量が0.5mg/kg未満であることを指す。
【0027】
1.繊維処理用架橋剤組成物
本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)を含む繊維処理用架橋剤組成物である。ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)とブロック剤(成分B)との反応生成物である。分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)は、炭素原子により構成された環状構造を含み、環状構造が芳香環である場合には、環状構造を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有していない。また、ブロック剤(成分B)は、オキシム系化合物を含まない。さらに、本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、有機スズ系化合物を含まない。これらの構成を全て備える本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、特定芳香族アミンが残存もしくは分解生成する可能性のある芳香族イソシアネート系化合物、オキシム系ブロック剤、及び有機スズ系化合物を原材料として使用せず、繊維処理剤の耐久性向上に優れるという効果を発揮する。以下、本発明の繊維処理用架橋剤組成物について、詳述する。
【0028】
[ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)]
成分ABとしてのブロックドイソシアネート系化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分A)とブロック剤(成分B)との反応生成物である。すなわち、成分Aに含まれる2個以上のイソシアネート基のうち、少なくとも1つのイソシアネート基が、成分Bとしてのブロック剤によって保護されている。すなわち、成分ABにおいて、成分Aに由来するイソシアネート基のうち少なくとも1つが、ブロックドイソシアネート基(ブロック化イソシアネート基)として存在している。これにより、ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)の製品安定性及び加工安定性が高められている。本発明の繊維処理用架橋剤組成物に含まれる成分ABは、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0029】
成分ABは、成分A中のイソシアネート基が一部又は完全にブロック剤で封鎖(保護)された化合物であり、例えば、イソシアネート基の50mol%以上が成分Bのブロック剤で封鎖されていることが好ましく、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上、特に好ましくは80mol%以上、最も好ましくは90mol%以上が成分Bのブロック剤で封鎖されていることが好ましい。
【0030】
成分Aは、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物である。成分Aは、炭素原子により構成された環状構造を含み、環状構造が芳香環である場合には、環状構造を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有していないことを特徴としている。ここで、「炭素原子により構成された環状構造」とは、環状構造部分が炭素原子のみで骨格が構成されていることを指す。つまり、ヘテロ原子を含む複素環構造は含まれない。また、環状構造は炭素原子から構成されていれば、特に制限されず、例えば、環状構造部分は飽和結合のみで構成されていてもよく、少なくとも1つの不飽和結合を有していてもよく、環状構造を構成する炭素原子上に置換基を有していてもよい。また、前記置換基としては、特に制限されず、目的の性能に応じて適宜選択すればよい。例えば、イオン性官能基であれば、水への溶解性や分散性を向上させることができ、極性基や芳香族炭化水素基、ハロゲン原子を有する官能基であれば、処理基材や機能性付与成分、バインダー成分、コーティング樹脂などとの親和性を高めることができる。また、炭化水素基(特にアルキル基)などの疎水基であれば、疎水性を高めることができるため、撥水性への悪影響を無くす、もしくは小さくすることができる。
【0031】
環状構造を構成する炭素原子の数としては、環状構造の骨格を形成する炭素原子の数を指し、特に制限されないが、例えば、3~300個であってよく、入手性の観点から3~20個が好ましく、より好ましくは4~12個、特に好ましくは5~9個、5~7個であることが最も好ましい。また、環状構造は、単環式化合物、二環式化合物、三環式化合物、多環式化合物、スピロ化合物などの環状構造を有する化合物に由来するものであればよく、環状構造は架橋縮合環であってもよい。例えば、単環式化合物に類するキシリレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートは炭素原子6個から形成される環状構造を1つ有する化合物であり、二環式化合物に類するデカヒドロナフタレンジアミンは炭素原子6個から形成される環状構造を2つ有する化合物であり、架橋縮合環を有する二環式化合物に類するノルボルナンジイソシアネートは炭素原子5個から形成される環状構造を2つ及び炭素原子6個から形成される環状構造を1つ有する化合物である。
【0032】
炭素原子により構成された環状構造を含む成分Aは、好ましくは、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、デカヒドロナフタレンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、イソプロピリデンビス(アミノシクロヘキサン)及びメチレンビス(アミノシクロヘキサン)からなる群より選択される少なくとも1種に由来する構造を含む、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物である。成分Aは、これらの中でも、性能や入手性などの観点から、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、及びメチレンビス(アミノシクロヘキサン)に由来する構造を含むことが好ましく、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジアミン、及びイソホロンジアミンに由来する構造を含むことがさらに好ましい。
【0033】
また、成分Aは、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及び3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種から誘導されるイソシアネート変性体X、並びに、置換基を有してもよい、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及び3-(2’-イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート系化合物と脂肪族イソシアネート系化合物とを組み合わせて誘導されるイソシアネート変性体Yのうち、少なくとも一方を含むことが好ましく、性能や入手性などの観点から、イソシアネート変性体X及びYは、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートに由来する構造を含むことが好ましく、キシリレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートに由来する構造を含むことがさらに好ましい。
【0034】
イソシアネート変性体X及びイソシアネート変性体Yとしては、それぞれ、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体、アロファネート変性体、多価アルコールとのアダクト体、ビウレット変性体、ウレア変性体、オキサジアジントリオン変性体、カルボジイミド変性体、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体、又はこれら2種以上の共変性体などが挙げられる。
【0035】
成分Aは、好ましくは、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートから選択して誘導されるイソシアヌレート変性体、多価アルコールとのアダクト体、ビウレット変性体であり、より好ましくは、キシリレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートから選択して誘導されるイソシアヌレート変性体、多価アルコールとのアダクト体、ビウレット変性体であり、一部を脂肪族イソシアネート系化合物に変更することも好ましい。脂肪族イソシアネート系化合物としては、特に制限されないが、性能や入手性などの観点から、ペンタンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0036】
成分Aの好ましい具体例としては、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのイソシアヌレート変性体、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、及びイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとトリメチロールプロパンのアダクト体、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体、及びイソホロンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体、キシリレンジイソシアネートとグリセリンのアダクト体、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとグリセリンのアダクト体、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとグリセリンのアダクト体、及びイソホロンジイソシアネートとグリセリンのアダクト体、キシリレンジイソシアネートとペンタエリスリトールのアダクト体、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとペンタエリスリトールのアダクト体、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとペンタエリスリトールのアダクト体、及びイソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールのアダクト体、キシリレンジイソシアネートのビウレット変性体、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのビウレット変性体、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのビウレット変性体、及びイソホロンジイソシアネートのビウレット変性体が挙げられる。
【0037】
成分Aに、炭素原子により構成された環状構造を導入する方法としては、炭素原子により構成された環状構造と少なくとも1つ、好ましくは2つ以上の活性水素基を含有する活性水素基含有化合物と、公知のジイソシアネートやポリイソシアネートなどと反応させる方法も挙げられる。例えば、前記炭素原子により構成された環状構造を有するイソシアネート系化合物と前記活性水素基含有化合物の反応物であってもよいし、環状構造を有さないイソシアネート系化合物と前記活性水素基含有化合物の反応物であってもよい。
【0038】
炭素原子により構成された環状構造と少なくとも1つ、好ましくは2つ以上の活性水素基を含有する活性水素基含有化合物としては、例えば、デカヒドロナフタレンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、イソプロピリデンビス(アミノシクロヘキサン)、メチレンビス(アミノシクロヘキサン)、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘプタンジオール、ノルボルナンジオール、ダイマージオール、ベンゼンジメタノール、イノシトールなどの糖アルコールやホスファチジルイノシトールやピニトールなどのイノシトール誘導体などが挙げられる。
【0039】
成分Bは、イソシアネート基のブロック剤である。成分Bは、オキシム系化合物を含まないことを特徴としている。
【0040】
成分Bは、目的の性能が得られれば、特に制限されないが、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、ピラゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ピリミジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、イミン系化合物、重亜硫酸塩等からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ピラゾール系化合物及びアミン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、ピラゾール系化合物及びアミン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0041】
ピラゾール系化合物の具体例としては、ピラゾール、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-エチルピラゾール、3,5-ジエチルピラゾール及び3-プロピルピラゾールなどが挙げられる。
【0042】
また、アミン系化合物の具体例としては、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、プロピルベンジルアミン、ブチルベンジルアミンなどが挙げられる。
【0043】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、ブロックドイソシアネート系化合物(成分AB)が水中に分散された、水系分散体であることが好ましい。
【0044】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物中の成分ABの濃度としては、原液とする場合には、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~45質量%である。
【0045】
製品安定性及び加工安定性に優れることから、成分ABは自己乳化性(分散性)を有していてもよく、例えば、成分ABの構造の一部にノニオン性親水基、カチオン性親水基、アニオン性親水基を導入する方法が挙げられ、特にノニオン性親水基が好ましい。自己乳化性を付与するために導入される親水性化合物としては公知のものが使用でき、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノブチルエーテル等のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル類;エチレングリコール、又は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の(ポリ)エチレングリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとブチレンオキサイドのランダム共重合体やブロック共重合体;ポリオキシアルキレンモノアミン類、ポリオキシアルキレンジアミン類; などが挙げられ、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル等が好ましく用いられる。上記ノニオン性親水性化合物は、1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの化合物を、成分A中のイソシアネート基に対して所定量導入することにより、自己乳化性(分散性)を付与することができる。これらの化合物の導入量は、成分A中のイソシアネート基に対して、好ましくは0.5~50mol%程度、より好ましくは0.6~40mol%程度、さらに好ましくは0.7~30mol%程度、特に好ましくは0.8~20mol%、最も好ましくは1~10mol%である。
【0046】
また、成分ABは一部ウレア基が導入された化合物(成分Bのブロック剤に由来するものを除く)でもよく、製造する工程で、水や、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族ポリアミンや、前記炭素原子により構成された環状構造と少なくとも1つ、好ましくは2つ以上の活性水素基を含有する活性水素基含有化合物のうち、イソホロンジアミン等のアミノ基を有する化合物と一部反応させることで導入することが可能である。
【0047】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、成分ABとしてのブロックドイソシアネート系化合物に加えて、成分ABには該当しないブロックドイソシアネート系化合物(成分CD)をさらに含んでいてもよい。本発明の繊維処理用架橋剤組成物に成分CDが含まれる場合、繊維処理用架橋剤組成物に含まれる成分CDは、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0048】
成分CDとしてのブロックドイソシアネート系化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート系化合物(成分C)とブロック剤(成分D)との反応生成物である。成分Cは、分子中に芳香環を有する場合、前記芳香環を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有していない。また、成分Dは、オキシム系化合物を含まない。
【0049】
成分Cのポリイソシアネート系化合物としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基(反応性官能基)を有する公知のイソシアネート系化合物を、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0050】
前記ポリイソシアネート系化合物としては、例えば、脂肪族イソシアネート系化合物等が挙げられる。ただし、前記の通り、成分Cは、分子中に芳香環を有する場合、前記芳香環を構成する炭素原子に直接結合する窒素原子を有していない。
【0051】
脂肪族イソシアネート系化合物としては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの化合物の反応物、例えばアダクト型ポリイソシアネートやウレトジオン化反応、イソシアヌレート化反応、カルボジイミド化反応、ウレトンイミン化反応、ビウレット化反応などによるイソシアネート変性体、及びこれらの混合物を用いることも好ましい。
【0052】
成分Dのブロック剤としては公知のものが使用でき、活性水素を分子内に1個以上有する化合物であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ただし、前記の通り、成分Dは、オキシム系化合物を含まない。
【0053】
成分Dのブロック剤としては、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ピリミジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、イミン系化合物、ピラゾール系化合物、重亜硫酸塩等が挙げられる。中でも、酸アミド系化合物、活性メチレン系化合物、ピラゾール系化合物、アミン系化合物が好ましく、ε-カプロラクタム、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、プロピルベンジルアミン、ブチルベンジルアミン等を好ましく用いることができる。
【0054】
成分CDは、成分C中のイソシアネート基が一部又は完全にブロック剤で封鎖(保護)された化合物であり、例えば、イソシアネート基の50mol%以上が成分Dのブロック剤で封鎖されていることが好ましく、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上、特に好ましくは80mol%以上、最も好ましくは90mol%以上が成分Dのブロック剤で封鎖されていることが好ましい。
【0055】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物中に、成分CDがさらに含まれる場合、成分CDが水中に分散された、水分散体であることが好ましい。製品安定性及び加工安定性に優れることから、成分ABと同様に自己乳化性(分散性)を有していてもよい。また、本発明の繊維処理用架橋剤組成物中の成分CDの含有量としては、成分ABと成分CDの合計100質量%に対して、下限としては0.1質量%以上であればよく、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、特に好ましくは35質量%以上、特別に40質量%以上であることが最も好ましい。上限としては99.9質量%以下であればよく、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、特に好ましくは65質量%以下、特別に60質量%以下であることが最も好ましい。前記の範囲とすることで、加工安定性を維持しつつ、繊維物品の物性を調製することができ、特に風合いの柔軟化において有利である。
【0056】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、触媒をさらに含んでいてもよい。触媒としては、有機塩基系触媒(例えば、アミン系触媒、アミジン系触媒)、亜鉛系触媒、ビスマス系触媒、ジルコニウム系触媒及びチタン系触媒からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒としては、これらの中でも、加水分解による失活が比較的起こりにくいことから、アミン系触媒、アミジン系触媒やジルコニウム系触媒などが好ましい。これらの触媒は、成分ABもしくは成分CD、成分A、成分Cの合成時の反応促進のために使用することもできるし、繊維物品の製造時(特に熱処理時)に、ブロック剤の解離温度を低下させることや再生したイソシアネート基の反応性を向上させる目的で使用することもできる。
【0057】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物が触媒を含む場合、本発明の繊維処理用架橋剤組成物中の触媒の含有率としては、目的に応じて適宜調整すればよいが、例えば、成分AB及び成分CDの合計100質量%に対して、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.005~1質量%、さらに好ましく0.01~0.5質量%である。
【0058】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、前述の成分AB、成分CD、触媒、水とは異なる他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、pH調整剤、有機溶剤などが挙げられる。
【0059】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物が他の成分を含む場合、本発明の繊維処理用架橋剤組成物中の他の成分の含有率としては、それぞれ、期待する効果が得られる量を適宜選択すればよく、例えば、上限として40質量%以下であってよく、好ましくは30質量%以下であり、より好ましく20質量%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0060】
2.繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物
本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、繊維処理剤組成物として利用することができる。例えば、本発明の繊維処理用架橋剤組成物と撥水剤、撥水助剤、本願発明以外の架橋剤、柔軟剤、スリップ防止剤、防しわ剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤、消臭剤、抗菌剤、紫外線吸収剤等の公知の繊維用薬剤、酸化防止剤、顔料、金属粉顔料、レオロジーコントロール剤、硬化促進剤、pH調整剤等の公知の添加剤等を併用することで、本発明の繊維処理用架橋剤組成物を含む、繊維処理剤組成物とすることができる。
【0061】
特に、本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、撥水剤と併用することで、本発明の撥水剤組成物とすることができる。撥水剤としては、特に制限されず、公知の撥水剤と併用することができる。
【0062】
前記の通り、撥水剤としては、従来、優れた撥水性が付与できることから、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を含む撥水剤(一般にC8フッ素系撥水剤)が使用されてきたが、撥水剤中に含有される、もしくは環境中で分解生成されるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やパーフルオロオクタン酸(PFOA)の生物毒性が高いとされており、これらを含有しない、もしくは分解生成の虞のない炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を含む撥水剤(一般にC6フッ素系撥水剤)への切り替えが進められている。さらには、毒性が低いパーフルオロアルキル化合物(PFAS)であっても、環境中でほとんど分解されないことが問題視され始め、フッ素化合物を使用しない非フッ素系撥水剤への切り替えが積極的に検討されている。本発明においても、併用される撥水剤としては、C6フッ素系撥水剤、非フッ素系撥水剤が好ましい。C6フッ素系撥水剤、非フッ素系撥水剤としては、それぞれ、公知のものが使用できるし、市販品を使用することもできる。本発明の繊維処理用架橋剤組成物と併用される撥水剤は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0063】
C6フッ素系撥水剤としては、炭素数6以下のパーフルオロアルキルを有するアクリル系ポリマー、ウレタン系化合物、シリコーン系化合物などを含有するものが知られており、例えば、市販品として、AGC社のAsahiGuard E-SERIESシリーズやダイキン工業社のユニダインTGシリーズ、日華化学社のNKガードSシリーズなどが挙げられる。
【0064】
また、非フッ素系撥水剤としては、炭素数1以上の炭化水素基を有するアクリル系ポリマー、ウレタン系化合物、シリコーン系化合物などを含有するものが知られている。例えば、無変性もしくは変性されたジメチルシリコーン、炭素数8~40(より好ましくは炭素数12~32、特に好ましくは炭素数16~30)の炭化水素基(より好ましくはアルキル基もしくはアルケニル基、特に好ましくは直鎖のアルキル基)を有するアクリル系ポリマー、ウレタン系化合物、シリコーン系化合物などを含有するものが好ましい。例えば、市販品として、明成化学工業社のメイシールドPシリーズ、Zシリーズ及びWシリーズ、ダイキン工業社のユニダインXFシリーズ、日華化学のネオシードNRシリーズ、ケマーズ社のZelan Rシリーズ、ルドルフ社のRUCO-DRYシリーズ、ハンツマン社のPHOBOTEXシリーズ、3M社のScotchgard PMシリーズ、三木理研工業社のリケンパラン SG-54などが挙げられる。
【0065】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物を用いる場合、繊維処理剤や繊維基剤がイソシアネート基と反応可能な官能基を有する場合には化学的に架橋すること、有さない場合には物理的に架橋することで、繊維物品に付与する機能性の耐久性を向上させることができると考えられる。
【0066】
本発明の繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物において、成分ABの含有量は、目的とする性能に応じて適宜選択すればよく、例えば、繊維処理剤及び撥水剤中の固形分100質量%に対して、成分ABもしくは成分AB及び成分CDの合計量が、0.01~100質量%添加してもよく、好ましくは0.1~75質量%程度であり、より好ましくは0.5~50質量%程度であり、特に好ましくは1~30質量%程度である。
【0067】
本発明において、本発明の繊維処理用架橋剤組成物、繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物などは、成分を水単独もしくは有機溶剤単独、水と有機溶剤の混合液に溶解又は分散させた形態で使用することができ、例えば、作業環境の観点から水を主体とする媒体を用いる水溶液もしくは水系分散体の形態で使用することが好ましい。各成分の水系分散体は公知の方法で製造されてよく、例えば、各成分と界面活性剤を混合後、水を添加して分散させる方法や、公知の分散機等を使用して機械的に分散させる方法が挙げられる。分散機としては、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、ラインミキサー、ビーズミル等を用いることができる。また、水系分散させる場合に公知の有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤を使用する場合、必要に応じて溶剤の除去工程(例えば、減圧留去など)を設けてもよい。
【0068】
界面活性剤としては、公知のノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤の1種類又は複数を用いることができる。
【0069】
ノニオン性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等が挙げられる。
【0070】
アニオン性界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。
【0071】
カチオン性界面活性剤としては、アミン塩、アミドアミン塩、4級アンモニウム塩、及びイミダゾリニウム塩等が挙げられる。具体例としては、特に限定されないが、アルキルアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩、アルキルアミドアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリン等のアミン塩型界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウム等の4級アンモニウム塩型界面活性剤等が挙げられる。
【0072】
両性界面活性剤としては、アルキルアミンオキシド類、アラニン類、イミダゾリニウムベタイン類、アミドベタイン類、酢酸ベタイン等が挙げられ、具体的には、長鎖アミンオキシド、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0073】
本発明の繊維処理用架橋剤組成物、繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物などが界面活性剤を含む場合、含有量として目的に合わせて適宜選択することができる。特に限定されないが、例えば、水系化するための含有量としては、各組成物中の固形分量100質量%に対して、0.1~30質量%程度が好ましく、より好ましくは0.2~25質量%程度、さらに好ましくは0.3~20質量%程度、特に好ましくは0.4~15質量%程度、最も好ましくは0.5~10質量%程度である。
【0074】
本発明においては、繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物中に繊維処理用架橋剤組成物を含有させた1剤タイプの形態とすることができる。この場合、原液もしくは希釈して使用することができ、作業の負担を軽減できる点で有利である。また、繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物、繊維処理用架橋剤組成物からなる群から選択される組成物を少なくとも1つを含む、2剤タイプもしくは複数剤タイプの形態とするキットであってもよい。例えば、繊維処理剤組成物もしくは撥水剤組成物を含む薬剤と繊維処理用架橋剤組成物を含む薬剤とからなる2剤タイプの形態とすることができる。この場合、使用時に繊維処理用架橋剤組成物の使用量の調節が容易であるため、目的に応じて機能性の耐久性や繊維物品の物性の調節も容易となる点で有利である。
【0075】
3.繊維製品及び撥水性繊維製品
本発明の繊維製品は、前述の本発明の繊維処理用架橋剤組成物を含む繊維処理剤組成物によって処理されたものである。また、本発明の撥水性繊維製品は、前述の本発明の繊維処理用架橋剤組成物(さらには撥水剤)を含む撥水剤組成物によって処理されたものである。すなわち、本発明の繊維製品は、本発明の繊維処理用架橋剤組成物を含む繊維処理剤組成物を繊維製品に接触させることによって製造される。また、本発明の撥水性繊維製品は、本発明の繊維処理用架橋剤組成物を含む撥水剤組成物を繊維製品に接触させることによって製造される。本発明の繊維処理剤組成物及び撥水剤組成物の詳細については、前述の通りである。
【0076】
処理される繊維製品としては、繊維によって構成された物品であれば、特に制限されず、例えば、綿、絹、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維及びこれらを用いた繊維製品が挙げられる。また、繊維製品の形態、形状にも制限はなく、ステープル、フィラメント、トウ、糸等の様な原材料形状に限らず、織物、編み物、詰め綿、不織布、紙、シート、フィルム等の多様な加工形態のものであってもよい。
【0077】
本発明の繊維処理剤組成物又は撥水剤組成物を用いて、公知の方法で繊維製品(布帛など)に対して機能性付与又は撥水処理を行うことができる。本発明の繊維処理剤組成物又は撥水剤組成物による繊維製品の処理方法としては、例えば、連続法又はバッチ法等が挙げられる。なお、本発明の繊維処理剤組成物又は撥水剤組成物は目的の性能が得られるように処理すればよく、例えば、原液である場合、処理に適した濃度となるように水等で希釈して加工液を調製すればよい。特に制限されるものではないが、撥水剤組成物であれば、例えば、固形分濃度が0.01~6質量%程度となるように水等で希釈して加工液を調製すればよい。
【0078】
連続法としては、加工液を調製する際、水の他にも任意的に各種の薬剤、例えば架橋剤等を添加することも好ましい。次に、加工液で満たされた含浸装置に、被処理物(すなわち、繊維製品)を連続的に送り込み、被処理物に加工液を含浸させた後、不要な加工液を除去する。含浸装置としては特に限定されず、パッダ、キスロール式付与装置、グラビアコーター式付与装置、スプレー式付与装置、フォーム式付与装置、コーティング式付与装置等が好ましく採用でき、特にパッダ式が好ましい。続いて、乾燥機を用いて被処理物に残存する水を除去する操作を行う。乾燥機としては、特に限定されず、ホットフルー、テンター等の拡布乾燥機が好ましい。該連続法は、被処理物が織物等の布帛状の場合に採用するのが好ましい。
【0079】
また、バッチ法は、被処理物を加工液に浸漬する工程、処理を行った被処理物に残存する水を除去する工程からなる。該バッチ法は、被処理物が布帛状でない場合、たとえばバラ毛、トップ、スライバ、かせ、トウ、糸等の場合、又は編物等連続法に適さない場合に採用するのが好ましい。浸漬する工程においては、たとえば、ワタ染機、チーズ染色機、液流染色機、工業用洗濯機、ビーム染色機等を用いることができる。水を除去する操作においては、チーズ乾燥機、ビーム乾燥機、タンブルドライヤー等の温風乾燥機、高周波乾燥機等を用いることができる。本発明の撥水剤組成物を付着させた被処理物には、乾熱処理を行うことが好ましい。
【0080】
乾熱処理の温度としては、120~180℃が好ましく、特に160~180℃が好ましい。該乾熱処理の時間としては、10秒間~10分間程度であればよく、30秒間~3分間が好ましく、特に1~2分間が好ましい。また、前記条件で乾熱処理を行う前に、80~120℃程度で予備乾燥する工程を設けてもよい。乾熱処理の方法としては、特に限定されないが、被処理物が布帛状である場合にはテンターが好ましい。
【0081】
また、本発明の繊維製品及び撥水性繊維製品は、それぞれ、コーティング処理されていてもよい。前記の通り、繊維製品及び撥水性繊維製品に適用されるコーティング剤としては、例えば、アクリル樹脂やウレタン樹脂が挙げられる。繊維製品及び撥水性繊維製品のコーティングは、例えば、防水性(耐水性)の向上や通気度、風合い、透湿性の調節のために行われ、目的の性能を得るために種々選択することができる。
【実施例0082】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に明示されていない場合、「%」は「質量%」を意味する。
【0083】
<アクリル系ポリマーを主体とする非フッ素系撥水剤(合成例WR-1)>
フラスコにステアリルアクリレート94g、KF-2012(ラジカル反応性オルガノポリシロキサンマクロモノマー、信越化学工業社製)4g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート2g、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド1g、ポリオキシエチレン(EO付加モル数:7モル)ラウリルエーテル6g、ポリオキシエチレン(EO付加モル数:21モル)ラウリルエーテル2g、ドデシルメルカプタン0.1g、ジプロピレングリコール30g及びイオン交換水190gを入れ、50℃にて高速撹拌により水系分散させる。その後、40℃に保ちながら高圧ホモジナイザー(400bar)にて処理し水系分散体を得た。この水系分散体にアゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩0.3gを加え、窒素雰囲気下で60℃にて10時間反応させた。イオン交換水を加え固形分濃度21.8%に調整してアクリル-シリコーン系ポリマーの水系分散体を得た。
【0084】
<ウレタン系化合物を主体とする非フッ素系撥水剤(合成例WR-2)>
フラスコに、エマゾールS-30V(ソルビタントリステアレート;水酸基価68.6mgKOH/g、花王社製)70g(OH基0.09mol)及びメチルイソブチルケトン80gを加え50℃で溶融させた。続いてデュラネート24A-100(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体、旭化成ケミカルズ社製、NCO%=23.5)17g(NCO基0.09mol)及びジアザビシクロウンデセン10mgを加え80℃に昇温し、イソシアネート含有率が0%になるまで反応させた。ジメチルステアリルアミン3.1g、酢酸(90%水溶液)2.1g及びTergitol TMN-10(ポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル、ダウ・ケミカル社製、90%水溶液)1.6gをイオン交換水220gに60℃で溶解させ滴下した。温度を保ち高圧ホモジナイザー(400bar)にて水系分散させた。その後メチルイソブチルケトンを減圧下留去し、イオン交換水を加え固形分濃度21%のウレタン系化合物の水系分散体を得た。
【0085】
続いて、フラスコに、Silwax D226(アルキル(C26‐28)変性シリコーン;融点約54℃(ワックス状)、SILTECH社製)117g及びメチルイソブチルケトン63gを加え70℃で溶融させた。ステアリルアミンのエチレンオキサイド30モル付加物5.7g、酢酸(90%水溶液)1.8gをイオン交換水400gに70℃で溶解させ滴下した。温度を保ち高圧ホモジナイザー(400bar)にて水系分散させた。その後メチルイソブチルケトンを減圧下留去し、イオン交換水を加え固形分濃度21%のシリコーン系化合物の水系分散体を得た。前記ウレタン系化合物の水系分散体と前記シリコーン系化合物の水系分散体を8:2で配合し、固形分濃度21%の撥水剤を得た。
【0086】
<シリコーン系化合物を主体とする非フッ素系撥水剤(合成例WR-3)>
フラスコに、DOWSIL MQ-1600 Solid Resin(トリメチルシロキシケイ酸レジン(シリコーンレジン)、ダウ・東レ社製)21g及びKF-96A-6CS(低粘度のジメチルシリコーン、信越化学工業社製)21gを加え、溶解するまで撹拌した。続いて、DOWSIL SF-8417 Fluid(アミノ変性シリコーン、ダウ・東レ社製)18g及びギ酸0.25g、ポリオキシエチレン(EO付加モル数:5モル)アルキルエーテル(C12~14セカンダリーアルコール由来)2gを加え、よく混合させた。混合後、イオン交換水を滴下していき、固形分濃度20.7%のシリコーン系化合物の水系分散体を得た。
【0087】
<成分ABに該当するブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体(合成例BI-1)>
フラスコを窒素置換した後、タケネートD-110N(キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、三井化学社製、固形分75%、NCO%=11.5)682g(NCO基1.87mol)と、メチルエチルケトン129.5gとを加え、よく混合させた。次いで、内温を50~60℃に保ち、3,5-ジメチルピラゾール188.5g(NH基1.96mol)を1時間かけてゆっくりと加えた。その後、イソシアネート含有率が0%になるまで反応させた。別容器に、得られたブロックドイソシアネート組成物500gを移し、ホモミキサーで撹拌(回転数:4000rpm)しながら、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(HLB:14.3)17.5 gを30分かけて加えた。続いて、エマルゲンA-500(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル;HLB:18.0、花王社製)の25質量%水溶液140gを30分かけて加えた。その後、イオン交換水645gを30分かけて加え、水系分散液を得た。その後有機溶剤を減圧下留去し、イオン交換水を加え固形分濃度23%のブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体を得た。
【0088】
<成分ABに該当するブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体(合成例BI-2)>
フラスコに、VESTANAT T1890/100(イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、エボニック社製、NCO%=17.3)を100g(NCO基0.412mol)及びアセトン125gを仕込み、内温45℃まで昇温させ撹拌・混合させた。その後、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(平均分子量2000)22g(OH基0.011mol)を加え、内温を60℃まで昇温させ、触媒としてネオスタンU-600(ビスマス系触媒、日東化成社製)を0.07g加え、1時間反応させた。40℃まで冷却後、3,5-ジメチルピラゾール38.6g(NH基0.402mol)をゆっくり加え、イソシアネート含有率が0%になるまで反応させた。内温30℃まで冷却し、イオン交換水560gを滴下し水系分散させた。減圧下にてアセトンを留去し、イオン交換水を加え、固形分濃度20%のブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体を得た。
【0089】
<成分CDに該当するブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体(合成例BI-3)>
フラスコに、デュラネート24A-100(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体、旭化成ケミカルズ社製、NCO%=23.5)を100g(NCO基0.560mol)及びメチルイソブチルケトン65.9gを仕込んで撹拌を開始した。そこに、3,5-ジメチルピラゾール53.8g(0.560mol)を仕込み50℃で保持し、イソシアネート含量がゼロになるまで反応させることにより、ブロックドイソシアネート系化合物を得た。メチルイソブチルケトン30.8g、プロピレングリコールモノメチルエーテル65.9g、カチオン性界面活性剤としてステアリルトリメチルアンモニウムクロライド0.31gを混合し、均一な溶液とした。撹拌しながら徐々にイオン交換水175.8gを仕込んだ後、高圧ホモジナイザー(400bar)にて水系分散させた。その後有機溶剤を減圧下留去し、イオン交換水を加え固形分濃度20%のブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体を得た。
【0090】
<成分AB及びCDに該当しないブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体(合成例BI-4)>
フラスコに、コロネートL(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(モル比3:1)、東ソー社製、NCO%=13.4、固形分濃度75%酢酸エチル溶液)20.0g(NCO基0.064mol)及びメチルイソブチルケトン15.0gを加え撹拌した。続いて、メチルエチルケトンオキシム5.6g(0.064mol)を滴下漏斗にてゆっくり加え、55℃でNCO含有率が0%になるまで反応させた。冷却後、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド30モル付加物1.4gを加え、均一にした。イオン交換水80gを仕込んだ後、高圧ホモジナイザー(400bar)にて水系分散させた。その後、減圧下にて有機溶剤を留去し、イオン交換水を加え固形分濃度21.4%のブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体を得た。
【0091】
(撥水剤組成物の調製及び撥水処理試験)
下記表1~4に記載の組成となるようにして、撥水剤組成物を調製した。続いて、試験布を連続法にて、前記撥水剤組成物に通し、一定圧のマングルで不要な溶液を絞り、表中記載の条件でドライ・キュアした。なお、試験布として、ポリエステルタフタ染色布(目付け65g/m2、以下ポリエステル)及びナイロン高密度タフタ染色布(目付け60g/m2、以下ナイロン)、綿ブロード染色布(目付け110g/m2、以下綿)を使用し、それぞれのウェットピックアップは、ポリエステルタフタ染色布が31%、ナイロン高密度タフタ染色布が48%、綿ブロード染色布が64%であった。
【0092】
(撥水性評価)
得られた加工布について、JIS L 1092:2009の7.2はっ水度試験(スプレー試験)に準拠して評価を行った。評価は下記の基準に従って行った。結果を表1~4に示す。
5:表面に湿潤や水滴の付着がないもの。
4:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
3:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
2:表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
1:表面全体に湿潤を示す
【0093】
(撥水性の洗濯耐久性評価)
得られた加工布について、JIS L 1930:2014 C4M法に準拠して洗濯を10回又は20回(HL-10又はHL-20)行い、得られた洗濯布について、風乾後に上記の撥水試験を行った。
【0094】
非フッ素系撥水剤(アクリル系ポリマーを主体とする)及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物について、撥水性評価の結果を表1に示す。
【0095】
【0096】
表1に示されるように、実施例1~6の撥水剤組成物(アクリル系ポリマーを主体とする非フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物)は、一般的な脂肪族系のブロックドイソシアネート系化合物を用いた比較例1及び3と比較して、撥水性が良好であった。また、実施例1~6の撥水剤組成物は、汎用的に用いられている芳香族系のブロックドイソシアネート系化合物を用いた比較例2及び4と比較して、170℃で熱処理した場合には同等以上の性能を示した。実施例1及び2は、比較例1及び2に対して、より低温の130℃で熱処理する条件にもかかわらず優れた性能を示し、予想外の結果を示した。実施例5及び6について、風合いへの悪影響が少ない脂肪族系のブロックドイソシアネート系化合物を併用することで、風合い及び撥水性に優れる撥水性繊維製品が得られた。
【0097】
次に、非フッ素系撥水剤(ウレタン系化合物を主体とする)及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物について、撥水性評価の結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
表2に示されるように、実施例7~12のウレタン系化合物を主体とする非フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物についても、実施例1~6のアクリル系ポリマーを主体とする非フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物と同様の傾向が見られた。
【0100】
次に、非フッ素系撥水剤(シリコーン系化合物を主体とする)及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物について、撥水性評価の結果を表3に示す。
【0101】
【0102】
表3に示されるように、実施例13~18のシリコーン系化合物を主体とする非フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物についても、実施例1~6のアクリル系ポリマーを主体とする非フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物と同様の傾向が見られた。
【0103】
次に、C6フッ素系撥水剤(AGC社製のC6フッ素系撥水剤である「AsahiGuard E-SERIES AG-E082」)及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物について、撥水性評価の結果を表4に示す。
【0104】
【0105】
表4に示されるように、実施例19~24のC6フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物についても、実施例1~6のアクリル系ポリマーを主体とする非フッ素系撥水剤及びブロックドイソシアネート系化合物を含む撥水剤組成物と同様の傾向が見られた。
【0106】
(架橋剤の加工安定性評価)
タック性試験方法:容器に下表5に記載の配合比で混合したブロックドイソシアネート系化合物の水系分散体(ブロックドイソシアネート系化合物の濃度20%水系分散体)を加え、減圧下40℃にて乾燥させた。その後、容器を取り出し、速やかに乾燥残渣を指で触り、タック性を評価した。なお、タックはより少ない方が加工時のガムアップ発生リスクが低くなるため好ましい。タック性評価の結果が△以上であることが好ましく、○以上であることが特に好ましい。
◎:タックを全く感じない
○:タックをほとんど感じない
△:タックを少し感じる
×:タックを強く
【0107】
【0108】
表5に示されるように、比較例19は一般的な脂肪族系のブロックドイソシアネート系化合物単独の評価結果であり、タック性が不良であった。これに対して、実施例26~30、32~36の結果から、本発明の繊維処理用架橋剤組成物は、タック性を改善できることが分かった。比較例20は汎用的に用いられている芳香族系のブロックドイソシアネート系化合物の評価結果であり、タック性に優れていた。また、実施例25~27、31~34については比較例20と比較して遜色ない結果であった。また、前述の実施例1~24のように、実施例25~36を繊維処理用架橋剤組成物として、各種撥水剤と併用したところ、風合いや撥水性の評価結果についても優れるものであった。