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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112047
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】有害イオン吸着シート
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20240813BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B01J20/06 A
B01J20/28 Z
B01J20/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016869
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯村 慎一
(72)【発明者】
【氏名】山田 靖司
(72)【発明者】
【氏名】下田 宏治
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 祿弘
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅洋
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA12B
4G066AA23B
4G066AC17D
4G066AC23C
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA08
4G066DA20
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】本発明は、環境に有害なイオンを有効に吸着することが可能なシートを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る有害イオン吸着シートは、繊維基材とバインダー樹脂を含み、前記バインダー樹脂が、少なくとも前記繊維基材の内部に存在しており、前記バインダー樹脂が、更に酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材とバインダー樹脂を含み、
前記バインダー樹脂が、少なくとも前記繊維基材の内部に存在しており、
前記バインダー樹脂が、更に酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする有害イオン吸着シート。
【請求項2】
前記有害イオンが砒素イオンである請求項1に記載の有害イオン吸着シート。
【請求項3】
前記酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子に対する前記バインダー樹脂の質量比が0.4以上5以下である請求項1に記載の有害イオン吸着シート。
【請求項4】
目付が10g/m2以上2500g/m2以下である請求項1に記載の有害イオン吸着シート。
【請求項5】
厚さが0.5mm以上30mm以下である請求項1に記載の有害イオン吸着シート。
【請求項6】
前記酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子の含有量が5g/m2以上400g/m2以下である請求項1に記載の有害イオン吸着シート。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が多孔質のものである請求項1に記載の有害イオン吸着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に有害なイオンを有効に吸着することが可能なシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
砒素、セレン、六価クロム等の重金属は、自然の岩石や土壌中に含まれており、特に火山活動や地殻変動の活発な日本においては、これらの自然由来重金属が高濃度で偏在している場合がある。また、例えば砒素は、鉄鋼業、ガラス製造業、農薬工場、印刷業などで用いられる試薬や原料などに含まれており、排水に含まれていたり、工場跡地に残留することがある。重金属イオンは、発がん性を有していたり、中枢神経障害を引き起こす等、毒性が高い。
【0003】
また、ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、かつてエアコン等の熱媒として大量に使用されており、天然には微生物により分解されて主にフッ化物イオン(F-)として存在するが、発がん性や内分泌かく乱作用を有する等、有害である。ホウ素は、腎臓を経て排出されるため、哺乳類には無害であるが、ゴキブリの駆除に用いられる等、昆虫や微生物には有害である。
【0004】
よって、例えば環境に対する上記有害イオンが土壌中に残留している工場跡地などを再利用する場合には、有害イオンを事前に低減したり除去することが求められている。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、重金属に汚染された汚染土壌を浄化改良するための土壌改良用資材であって、平均繊維径2μm以下の無機繊維を主体とした繊維層に希土類化合物を含有する重金属吸着剤を分散保持させて柱状体に形成したことを特徴とする土壌改良用資材が開示されている。
【0006】
また、本発明者らは、有害イオンを吸着する合成ハイドロタルサイト様物質を固定したバインダー樹脂層を繊維基材に形成した吸着シートを開発している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-203251号公報
【特許文献2】特開2018-38953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、有害イオンを吸着除去するための資材は開発されている。
しかし、例えば特許文献1に記載の土壌改良用資材は、主に重金属吸着剤を含む分散液中で繊維を抄造して製造するものであるため、使用中に重金属吸着剤が資材から脱落するおそれがある。土壌改良用資材により有害イオンを吸着しても、有害イオンを吸着した重金属吸着剤が脱落すれば、土壌改良の意味が無い。また、有害イオンをより一層効果的に吸着除去可能な資材が求められている。
そこで本発明は、環境に有害なイオンを有効に吸着することが可能なシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、酸化セリウム粒子および水酸化ジルコニウム粒子が有害イオンに対する吸着能が非常に高いので、バインダー粒子により酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子を繊維基材に固定すれば、環境に有害なイオンを有効に吸着することが可能なシートを製造できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0010】
[1] 繊維基材とバインダー樹脂を含み、
前記バインダー樹脂が、少なくとも前記繊維基材の内部に存在しており、
前記バインダー樹脂が、更に酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする有害イオン吸着シート。
[2] 前記有害イオンが砒素イオンである前記[1]に記載の有害イオン吸着シート。
[3] 前記酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子に対する前記バインダー樹脂の質量比が0.4以上5以下である前記[1]または[2]に記載の有害イオン吸着シート。
[4] 目付が10g/m2以上2500g/m2以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の有害イオン吸着シート。
[5] 厚さが0.5mm以上30mm以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の有害イオン吸着シート。
[6] 前記酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子の含有量が5g/m2以上400g/m2以下である前記[1]~[5]のいずれかに記載の有害イオン吸着シート。
[7] 前記バインダー樹脂が多孔質のものである前記[1]~[6]のいずれかに記載の有害イオン吸着シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る有害イオン吸着シートからは、有害イオンの吸着能に優れた酸化セリウム粒子および水酸化ジルコニウム粒子が脱落し難い。よって、例えば、有害イオンに汚染された土壌の浄化のために、本発明に係る有害イオン吸着シートと汚染土壌を混合することにより有害イオンを吸着した後、有害イオン吸着シートを土壌から分離する場合、有害イオンを吸着した酸化セリウム粒子または水酸化ジルコニウム粒子の脱落による土壌の再汚染を抑制することができる。また、本発明者らの実験的知見によれば、酸化セリウム粒子および水酸化ジルコニウム粒子の有害イオン吸着能は、非常に優れている。従って、本発明に係る有害イオン吸着シートは、有害イオンにより汚染された環境を有効に浄化できるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る有害イオン吸着シートは、繊維基材とバインダー樹脂を含み、前記バインダー樹脂が、少なくとも前記繊維基材の内部に存在しており、前記バインダー樹脂が、更に酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウム粒子を含む。以下、本発明を説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0013】
繊維基材は、バインダー樹脂が基材内部にまで浸透するよう、繊維を一部または全部に含むシート状の部材であることが好ましく、有害イオン吸着シートを水中に浸漬した際に透水性に優れるよう、繊維を含む不織布から構成されることがより好ましい。前記不織布は、長繊維不織布、短繊維不織布のいずれであってもよく、不織布のウェブ形成には、乾式法(カーディング法)、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法などを適宜採用するとよい。ウェブの結合方法も特に限定されるものではなく、例えば、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)等の機械的絡合法;不織布層に予め低融点繊維を混繊しておき、この低融点繊維の一部または全部を熱溶融させて、繊維交点を固着する方法(サーマルボンド法);等の各種結合方法を採用できる。本発明では、繊維基材を嵩高く、風合いをソフトに仕上げることができることから、ニードルパンチ法、水流絡合法などの機械的絡合法が好ましく、特にニードルパンチ不織布が好ましく採用できる。
【0014】
前記繊維基材に含まれる繊維としては、化学繊維が好ましい。具体的には、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維などの半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル-塩化ビニル共重合体繊維などのアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などのポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維などのポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維などのポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維などのポリエーテル系繊維;等が好ましい。これらの繊維は、単独で使用しても、混繊して使用してもよい。
【0015】
中でも、強度に優れることから、再生繊維や合成繊維が好ましく、より好ましくは、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、及びポリオレフィン繊維などの合成繊維であり、特に劣化が少ないことから、ポリエステル繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維が最適である。ポリエステル繊維は、繊維基材100質量%中、70質量%以上含まれていることが望ましい。前記割合としては、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。前記割合の上限は特に制限されないが、100質量%であってもよい。
【0016】
繊維基材に使用される繊維は、中実繊維であっても中空繊維であってもよく、捲縮を有していても有していなくてもよい。また前記繊維は、芯鞘型、偏心型などの複合繊維であってもよい。これらの繊維は単独で使用してもよく、また複数を混綿して使用してもよい。
【0017】
前記繊維基材を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、0.4μm以上、35μm以下が好ましい。当該平均繊維径が0.4μm以上であれば、繊維間が過剰に密にならず、繊維基材の透水性をより確実に確保することが可能になる。当該平均繊維径が35μm以下であれば、粒子を均一に固着するための繊維間隔をより確実に確保することが可能になる。当該平均繊維径としては、5μm以上がより好ましく、10μm以上がより更に好ましく、また、30μm以下がより好ましく、25μm以下がより更に好ましい。なお平均繊維径は、例えば、目視や、繊維を構成する素材の繊度および密度などに基づき計算により求めることができる。
【0018】
粒子を固着するための塗料の浸透性を決める因子として、繊維基材の見掛け密度が挙げられる。繊維基材の見掛け密度は、例えば、0.01g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.05g/cm3以上であり、より更に好ましくは0.07g/cm3以上であり、0.3g/cm3以下が好ましく、0.25g/cm3以下がより好ましく、0.2g/cm3以下がより更に好ましい。繊維基材の見掛け密度が前記範囲内であれば、塗料を繊維基材内部にまで浸透させることができるため、繊維基材内部でも粒子がバインダー樹脂により固定され、粒子の脱落が抑制された有害イオン吸着シートが得られやすくなる。なお、繊維基材の見掛け密度の測定方法は、繊維基材の目付を厚さで除すことで求めることができる。
【0019】
繊維基材の見掛け密度を上記範囲内に調整するためには、繊維基材の目付と厚さのバランスが重要となる。前記繊維基材の目付は、例えば、10g/m2以上が好ましく、50g/m2以上がより好ましく、150g/m2以上がより更に好ましく、1000g/m2以下が好ましく、700g/m2以下がより好ましく、500g/m2以下がより更に好ましい。目付を前記範囲内に調整することにより、所望量の粒子を固着し易くなり得る。
【0020】
繊維基材の厚さは、適宜調整すればよいが、例えば、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上がより更に好ましく、また、30mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、7mm以下または6mm以下がより更に好ましい。繊維基材の厚さを前記範囲内に調整することで、所望量の粒子を固着し易くなり得る。また用途によっては、繊維基材を薄くすることにより、複数枚の有害イオン吸着シートを厚さ方向に積層し易くしてもよい。
【0021】
バインダー樹脂は、有害イオンを吸着する粒子を繊維基材の表面に固着させるためのものである。バインダー樹脂としては、通常、不織布の接着用途で用いる樹脂を適宜使用するとよいが、例えば、酢酸ビニル単量体を構成単位に含む酢酸ビニル系バインダー、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルの共重合体であるアクリル系バインダー、合成ゴム系バインダーが好ましい。合成ゴム系バインダーとしては、例えば、ブタジエン-スチレン系、ブタジエン-アクリロニトリル系、クロロプレン系が挙げられる。中でも、接着強度が高いという利点を有するため、アクリル系バインダーが好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸2,2-ジメチルプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-tert-ブチルフェニル、アクリル酸2-ナフチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸2,2-ジメチルプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-tert-ブチルフェニル、メタクリル酸2-ナフチル、メタクリル酸フェニル等のラジカル重合性単量体が例示できる。
【0023】
アクリル系バインダーのガラス転移温度は、-10℃以上50℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以上40℃以下である。
【0024】
本発明に係る有害イオン吸着シートにおいて、バインダー樹脂は多孔質のものであることが好ましい。少なくとも繊維基材の内部に存在するバインダー樹脂が多孔質のものであり、当該バインダー樹脂により粒子が固着されることによって、有害イオンに対する粒子の接触面積が大きくなり、有害イオンの吸着がより一層促進される。
【0025】
本発明に係る有害イオン吸着シートにおいて、有害イオン吸着シートに固着するバインダー樹脂100質量%中、90質量%以上が繊維基材内部で固着していることが望ましい。バインダー樹脂が繊維基材の内部で固定化されれば、外部からの摩擦に対し、優れた耐摩耗性が発揮され、バインダー樹脂自体やバインダー樹脂を介して固着された粒子の脱落の少ない有害イオン吸着シートが得られる。前記割合としては、93質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより更に好ましく、また、100質量%以下がより好ましい。
【0026】
本発明に係る有害イオン吸着シートは、繊維基材とバインダー樹脂を含み、バインダー樹脂は、有害イオンを吸着する酸化セリウム(CeO2)および/または水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4)の粒子を含む。以下、酸化セリウム粒子および/または水酸化ジルコニウムを、まとめて「有害イオン吸着粒子」という場合がある。
【0027】
有害イオン吸着粒子の大きさは適宜調整すればよいが、例えば個数平均粒子径を0.2μm以上5μm以下に調整することが好ましい。当該個数平均粒子径が0.2μm以上であれば、有害イオン吸着粒子全体がバインダー樹脂に埋没することが有効に抑制され、その少なくとも一部がバインダー樹脂表面に露出するため、粒子の有害イオンに対する吸着性能をより確実に確保し得る。当該個数平均粒子径が5μm以下であれば、有害イオン吸着粒子を繊維基材表面に固着させるための塗料中に分散し易くなり、有害イオン吸着粒子がより均一に固着された有害イオン吸着シートを製造し易くなる。当該個数平均粒子径としては、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がより更に好ましく、また、4μm以下がより好ましく、3μm以下がより更に好ましい。
【0028】
本発明において、有害イオン吸着粒子の個数平均粒子径は、例えば、島津製作所製「SALD-7000」等の粒度分布計により測定することが可能である。
【0029】
有害イオン吸着シートに固着する有害イオン吸着粒子の合計量は、適宜調整すればよいが、例えば、5g/m2以上または10g/m2以上が好ましく、より好ましくは15g/m2以上であり、より更に好ましくは20g/m2以上であり、特に好ましくは35g/m2以上である。上限は特に限定されないが、400g/m2以下が好ましく、より好ましくは200g/m2以下であり、より更に好ましくは120g/m2以下であり、80g/m2以下であってもよい。有害イオン吸着粒子の量が前記範囲内であれば、所望の性能を発揮し得る有害イオン吸着シートが得られる。
【0030】
本発明に係る有害イオン吸着シートにおいて、有害イオン吸着粒子とバインダー樹脂(固形分)の割合は適宜調整すればよいが、例えば有害イオン吸着粒子に対するバインダー樹脂の質量比、即ちバインダー樹脂/有害イオン吸着粒子を0.4以上5以下に調整することが好ましい。当該比をこの範囲内に調整することにより、バインダー樹脂に有害イオン吸着粒子が安定的に固定されるため、有害イオン吸着粒子が繊維基材から脱落することを抑制できる。また、有害イオン吸着粒子の表面がバインダー樹脂に完全に被覆されることも防止できるため、有害イオン吸着粒子の表面が外部に露出し、所望の有害イオンの吸着性能も発揮される。当該比としては、0.5以上がより好ましく、0.6以上または0.7以上がより更に好ましく、また、3以下がより好ましく、2以下または1.5以下がより更に好ましい。
【0031】
有害イオン吸着粒子の個数平均粒子径に対する繊維基材中の繊維の平均繊維径の比、即ち平均繊維径/個数平均粒子径としては、3以上20以下が好ましい。当該比をこの範囲内に調整することにより、繊維表面における有害イオン吸着粒子の重なりを抑制でき、有害イオン吸着粒子の表面が露出し易くなるため、吸着性能の向上に寄与する。当該比としては、4以上がより好ましく、5以上がより更に好ましく、また、16以下がより好ましく、14以下がより更に好ましい。
【0032】
本発明に係る有害イオン吸着シートにおいて、有害イオン吸着粒子を含むバインダー樹脂は、少なくとも繊維基材の内部に存在する。即ち、繊維基材の一方の表面から他方の表面への縦方向において、有害イオン吸着粒子を含むバインダー樹脂が存在する。例えば、多孔質の繊維基材の孔の表面に、バインダー樹脂を介して有害イオン吸着粒子が固着されることにより、有害イオン吸着粒子への有害イオンの吸着がより一層促進される。
【0033】
また、繊維基材の内部に有害イオン吸着粒子を含むバインダー樹脂が存在することに加えて、繊維基材の表面には、バインダー樹脂を介して有害イオン吸着粒子が固着されていてもよい。更に、繊維基材の少なくとも一方の表面には、有害イオン吸着粒子を含むバインダー樹脂の層が形成されていてもよい。
【0034】
本発明に係る有害イオン吸着シートの目付は、有害イオン吸着シートの用途や使用環境などを考慮して適宜調整するとよいが、例えば、10g/m2以上2500g/m2以下とすることができる。当該値としては、100g/m2以上が好ましく、200g/m2以上がより好ましく、300g/m2以上がより更に好ましく、また、1000g/m2以下が好ましく、750g/m2以下がより好ましく、650g/m2以下がより更に好ましい。
【0035】
有害イオン吸着シートの厚さは、適宜調整すればよいが、例えば、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上がより更に好ましく、また、30mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、7mm以下または6mm以下がより更に好ましい。有害イオン吸着シートの厚さを前記範囲内に調整することで、適度な透水性などにより有害イオンをより一層吸着し易くなる。
【0036】
なお、使用用途によっては、厚さや目付を調整するために、本発明の有害イオン吸着シートは、繊維シートと複合一体化されてもよい。前記繊維シートとしては、例えば、有害イオン吸着粒子が繊維基材に固定されていない不織布などの繊維基材のみ等が挙げられる。有害イオン吸着シートとこれらの繊維シートとは、ニードルパンチ法などの機械的絡合法;呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)」に代表される熱融着性不織布を介しての熱接着;接着剤を介しての接着など、種々の接合手段により一体化されていることが好ましい。
【0037】
有害イオン吸着シートの透水係数としては、0.01cm/sec以上が好ましく、繊維基材の厚さや目付にもよるが、例えば、0.3cm/sec以下であり、0.2cm/sec以下であってもよい。透水係数が大きくなるほど、一度に大量の処理が可能となるため好ましい。なお透水係数は、例えば、JIS A1218-1998に準じて測定することができる。
【0038】
本発明に係る有害イオン吸着シートは、特に限定されるものではないが、例えば、バインダー樹脂および有害イオン吸着粒子を含む塗料を繊維基材に含浸させる、或いは、塗料を繊維基材の少なくとも片面に塗布することにより製造することができる。含浸法では、繊維基材の一方面から他方面にまで繊維基材の内部全体に塗料が付着するため、より多量に有害イオン吸着粒子を繊維基材に固定でき、有害イオンの吸着量が増大するため好ましい。一方、前記塗料を繊維基材の少なくとも片面に塗布する場合には、繊維基材の内部に塗料が付着しない部分、より好ましくは層が形成されるため、この繊維基材中の塗料が付着していない部分において、繊維基材自体が本来有する透水性が発揮され、有害イオン吸着シートを水に浸漬したときに大量の処理が可能となる。
【0039】
塗料を繊維基材の少なくとも片面に塗布する場合には、バインダー樹脂層が、繊維基材の厚さ方向に表面から途中までに形成されることになるが、有害イオン吸着シートにおいて、繊維基材内部にバインダー樹脂が固着していない部分は、例えば、繊維基材全体の10%以上であることが好ましく、より好ましくは45%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、上限は特に限定されないが、95%以下が好ましく、90%以下であっても問題ない。なおバインダー樹脂が固着していない部分の比率は、例えば、繊維基材の厚さと、繊維基材の厚さ方向におけるバインダー樹脂が固着していない部分の厚さの比率から求めることができる。
【0040】
塗料を繊維基材の少なくとも片面に塗布する方法は特に限定されるものではなく、グラビア法、ロータリープリント法など一般的な塗布法を用いるとよい。塗料を塗布するときは、リバースコーター、キスロールコーター、ナイフコーター等の各種設備を用いるとよく、本発明では特にナイフコーターが好ましい。なお、後述する発泡性塗料を使用する場合には、塗料中の気泡をできるだけ壊さないようにする点に注意が必要である。
【0041】
繊維基材に有害イオン吸着粒子を含むバインダー樹脂を固着させるための塗料は、少なくとも、有害イオン吸着粒子、バインダー樹脂、及び溶媒を含む。その他、塗料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、塗料を発泡させるための起泡剤、消泡剤、有害イオン吸着粒子を均一分散させるための分散剤、増粘剤、着色料、防腐剤などの添加物が含まれていてもよい。
【0042】
溶媒としては、安価であり、且つ、環境に対する負荷が少ないことから、水系溶媒が好ましい。水系溶媒とは、水、又は水と水混和性有機溶媒との混合溶媒をいう。水混和性有機溶媒とは、水と制限無く混和可能な有機溶媒をいい、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。混合溶媒における水混和性有機溶媒の割合は、バインダー樹脂の溶解性などにもよるが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下とすることができる。
【0043】
塗料において、有害イオン吸着粒子はほぼ均一に分散されていることが好ましい。塗料は、分散剤を含むエマルジョンであってもよい。
【0044】
塗料100質量%中の有害イオン吸着粒子の含有量は、適宜調整すればよいが、例えば、0.1質量%以上90質量%以下とすることができる。当該濃度としては、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0045】
有害イオン吸着シートの製造において、前記塗料は、発泡性であっても非発泡性であっても差し支えないが、好ましくは発泡性である。発泡性の塗料を用いると、固化した塗料中には、発泡性塗料の気泡に由来する細かな微多孔が形成され、その結果、有害イオン吸着シートにおけるバインダー樹脂が多孔質なものとなり得る。この微多孔の存在により、有害イオン吸着シートの透水性が更に高まるため、大量の水処理に寄与する。更にこの微多孔の存在により、有害イオン吸着粒子の表面が表に露出しやすくなるため、有害イオンとの接触頻度が高まる。そのため、発泡性を有しない塗料を塗布する場合に比べ、有害イオンの回収効率を高めることも可能となる。加えて、塗料を発泡性にしておけば、塗料中の気泡が、塗料が繊維基材の内部奥深くにまで浸透することを遮り、塗料の一部のみが繊維基材に浸透し、残りは繊維基材の表面に気泡を形成した状態で固化するため、繊維基材の内部に塗料が付着しない部分、より好ましくは層が形成され易くなる。そのため特に発泡性塗料の使用は、塗料を繊維基材の片面に塗布する場合には好ましい方法である。また有害イオン吸着シートの表面には、発泡性塗料中の気泡が一部、固化後も、気泡が破泡した連通状の状態で残っていてもよい。
【0046】
塗料は、好ましくは機械的発泡などにより発泡した状態、又は発泡剤を含む状態で繊維基材に塗工されることが好ましい。発泡倍率の調整が容易なことや、発泡のタイミングを制御できることから、少なくとも機械発泡を行うことが好ましい。また発泡の条件を考慮して、機械発泡と化学発泡の両発泡法にて塗料を発泡させてもよい。
【0047】
発泡状態の塗料を塗工する際、発泡状態の塗料は、未発泡のものに比べ、好ましくは1.5倍以上20倍以下に起泡してから繊維基材に付与されることが好ましい。発泡倍率を前記範囲内に調整することにより、塗料の浸透の程度や微多孔の形成量をコントロールし易くなる。発泡倍率としては、2倍以上がより好ましく、3倍以上または5倍以上がより更に好ましく、また、20倍以下または15倍以下がより好ましく、10倍以下または9倍以下がより更に好ましい。
【0048】
繊維基材に対する塗料の塗布量(WET付量)は、固着させたい有害イオン吸着粒子の量に応じて適宜調整すればよいが、例えば、50g/m2以上600g/m2以下とすることができる。当該塗布量としては、100g/m2以上が好ましく、また、600g/m2以下が好ましく、550g/m2以下がより好ましい。
【0049】
塗料塗布後には、繊維基材を乾燥する。乾燥工程での温度は、例えば、100℃以上170℃以下とすることができ、110℃以上160℃以下が好ましい。当該温度範囲であれば、塗料を良好に乾燥することでできる。また乾燥時間も適宜調整すればよいが、例えば0.5分以上5分以下とすることができ、1分以上3分以下が好ましい。
【0050】
本発明の有害イオン吸着シートは、有害イオン吸着粒子の作用により、有害イオンを吸着して固定化することができる。本発明において有害イオンとは、環境、特に動植物や微生物に有害なイオンをいう。有害イオンとしては、例えば、As5+やAs3+等の砒素イオン、Cr6+等のクロムイオン、セレンイオン等の重金属イオン;ホウ素イオン等の半金属イオン;フッ素イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0051】
本発明の有害イオン吸着シートは、例えば、建設工事現場などにおいて、有害イオン系有害物質を含有する盛土の基礎として使用されてもよい。また、有害イオンを含む汚染水や排水から有害イオンを吸着除去するために、フィルターとして用いたり、また、これら汚染水は排水に添加して混合した後に固液分離してもよい。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
実施例1
30質量%の割合で酸化セリウム(第一稀元素化学工業社製,グレード:Z1442)と、固形分10質量%の割合で非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の1.3%メタノール溶液を水に加えて撹拌した。得られた混合液を、ビーズ分散機と直径5~10mmのガラス製ビーズを用い、粉砕した。その後、増粘剤を加えて粘度を調整することにより、個数平均粒子径が3.2μmの30質量%酸化セリウム分散液を作製した。個数平均粒子径は、レザー回折式粒度分布測定装置(「SALD-7000」島津製作所製)を用いて測定した。
酸化セリウム分散液へ、水を分散媒とするアクリル系バインダー(「モビニール(登録商標)710A」日本合成化学工業社製,固形分:41%,粘度:200~700mpas)と少量の起泡剤を加え、発泡装置を使って発泡倍率3~5倍まで発泡させることにより、発泡性塗料を得た。
得られた発泡性塗料を、68g/m2の塗布量でポリエステル製スパンボンド不織布(「ODS300」東洋紡社製,スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径:16μm,目付300g/m2,厚さ:3.0mm)の片面に塗布した後、130℃で乾燥させることにより微多孔を有する金属イオン吸着シートを得た。なお、バインダー樹脂は繊維基材の厚さ方向に表面から途中までに形成されており、バインダー樹脂を含んでいない部分は、基材全体の72%であった。
【0054】
実施例2
酸化セリウム(第一稀元素化学工業社製,グレード:Z1442)の代わりに水酸化ジルコニウムを用いた以外は実施例1と同様にして金属イオン吸着シートを得た。
【0055】
比較例1
酸化セリウム(第一稀元素化学工業社製,グレード:Z1442)の代わりにナノサイズ-ハイドロタルサイト様層状複水酸化物(日本国土開発社製)を用い、発泡性塗料の塗布量を68g/m2から50g/m2に変更した以外は実施例1と同様にして金属イオン吸着シートを得た。
【0056】
試験例1: 吸着試験
ヒ素標準液(型番:013-15501,富士フィルム和光純薬工業社製)をイオン交換水で希釈し、金属イオン含有標準液を作製した。金属イオン含有標準液(100mL)を容器に入れ、そこへ、実施例1,2または比較例1で得た金属イオン吸着シート(4cm×5cm)を加え、マグネチックスターラーで、水温を20℃に保ったまま撹拌を続けた。金属イオン吸着シートを加えてから10分後、30分後および60分後に液試料を採取し、誘導結合プラズマ質量分析装置(「ICP-MS(型式:Agilent7700)」アジレント・テクノロジー社製)を用いて金属イオンの濃度を測定し、金属イオン吸着シートを浸漬する前の標準液中の金属イオン濃度(初期濃度)と、所定時間経過後の金属イオン濃度から、以下の式に従って、金属イオンの吸着率を求めた。測定は、実施例1については4回、実施例2と比較例1については2回ずつ行い、平均値を算出した。
金属イオンの吸着率(%)={[(Cα)-(C)]/(Cα)}×100
[式中、Cαは初期金属イオン濃度を示し、Cは、所定時間経過後の金属イオン濃度を示す。]
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示される結果の通り、酸化セリウム粒子および水酸化ジルコニウム粒子がバインダー樹脂により固定化された本発明に係る有害イオン吸着シートは、ハイドロタルサイト様物質を含む従来の吸着シートに比べて、環境に対して有害である三価ヒ素イオンに対してより一層優れた吸着性能を示すことが実証された。