(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112048
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ装置および鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240813BHJP
B60B 27/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F16D65/12 U
F16D65/12 Q
F16D65/12 X
F16D65/12 A
B60B27/00 C
B60B27/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016870
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 択郎
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA62
3J058AA69
3J058BA23
3J058BA26
3J058BA28
3J058BA35
3J058CB14
3J058CB17
3J058CB24
3J058CD37
3J058CD38
3J058FA02
(57)【要約】
【課題】ディスクロータの熱容量が大きく、かつ、腐食に起因するジャダーが発生しにくいディスクブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】ディスクブレーキ装置のディスクロータ20は、ホイールハブ10の筒部11と当接する当接部21と、当接部21よりも中心軸線5Cの方に位置し、ホイールハブ10の環状部12と対向しかつ環状部12から離間した内側延長部22と、を有する。内側延長部22に、径方向の外方に凹んだ複数の切り欠き部23が形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を制動するディスクブレーキ装置であって、
内周面を有する筒部と、前記筒部の前記内周面から前記車輪の中心軸線に向けて延びる環状部と、を有するホイールハブと、
前記車輪の前記中心軸線に対して垂直に配置された環状のディスクロータと、
前記ディスクロータに対向するブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押しつけるブレーキキャリパと、を備え、
前記ディスクロータは、
前記ホイールハブの前記筒部と当接する当接部と、
前記当接部よりも前記車輪の前記中心軸線の方に位置し、前記ホイールハブの前記環状部と対向しかつ前記環状部から離間した内側延長部と、を有し、
前記内側延長部に、前記車輪の径方向の外方に凹んだ複数の切り欠き部が形成されている、ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記切り欠き部の前記車輪の径方向の寸法は、前記内側延長部の前記車輪の径方向の寸法と等しい、請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記車輪の前記中心軸線を中心として等角度の間隔に配置されている、請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記ディスクロータは、ボルト孔が形成されかつ周方向に並ぶ複数の締結部を備え、
前記各ボルト孔に挿通され、前記ディスクロータと前記ホイールハブとを締結する複数のボルトを備え、
前記内側延長部は、周方向に隣り合う2つの締結部の間にそれぞれ形成された複数の延長部分を有している、請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記各延長部分に1つ以上の前記切り欠き部が形成されている、請求項4に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記各延長部分に1つまたは2つの前記切り欠き部が形成されている、請求項4に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項7】
前記各延長部分の周方向の中間位置に前記切り欠き部が形成されている、請求項4に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項8】
前記ディスクロータは、ボルト孔が形成されかつ周方向に並ぶ複数の締結部を備え、
前記各ボルト孔に挿通され、前記ディスクロータと前記ホイールハブとを締結する複数のボルトを備え、
前記車輪の前記中心軸線に沿って見たときに、前記切り欠き部の横幅は前記ボルト孔の内径以下である、請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項9】
前記車輪の前記中心軸線に沿って見たときに、前記切り欠き部の横幅は、前記車輪の径方向の外方に行くほど小さくなっている、請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項10】
前記ホイールハブの前記環状部は、前記環状部の径方向の外端に位置しかつ前記筒部の前記内周面に連続する外端部分を有し、
前記外端部分は、径方向の外方に行くほど前記ディスクロータに近づくように湾曲している、請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一つに記載のディスクブレーキ装置を備えた鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置およびそれを備えた鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車等のブレーキ装置として、ディスクブレーキ装置が用いられている(例えば、特開2018-109432号公報参照)。ディスクブレーキ装置は、車輪に固定されたディスクロータと、ディスクロータに対向するブレーキパッドと、ブレーキパッドをディスクロータに押しつけるブレーキキャリパとを備えている。
【0003】
ブレーキキャリパがブレーキパッドをディスクロータに押しつけると、ブレーキパッドとディスクロータとの間に摩擦が生じる。この摩擦の抵抗により、ディスクロータの回転が制動される。これにより、ディスクロータと共に回転する車輪が制動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制動時に、ディスクロータには摩擦熱が発生するので、ディスクロータの温度が上昇する。ディスクロータの温度が過度に上昇してディスクロータの材料の耐熱温度を超えると、硬度低下が発生する。それにより、ディスクロータの反りや摩耗が発生し、ディスクロータの機能が低下する場合がある。ディスクブレーキ装置の性能向上のために、ディスクロータの熱容量を大きくすることが好ましい。
【0006】
本願発明者は、ディスクロータの熱容量を大きくするために、ディスクロータの径方向の内側部分を径方向の内方に延長することにより、ディスクロータの容積を大きくすることを考えた。例えば、
図7に示すように、内径がφ100のディスクロータ100に対し、内径がφ100よりも小さなφ110となるように内側延長部110を付加することを考えた。これにより、ディスクロータ100の熱容量が大きくなるので、ディスクロータ100の温度上昇を従来よりも抑制することができる。
【0007】
図8は、車輪のホイールハブ200およびディスクロータ100の部分鉛直断面図である。
図8に示すように、ディスクロータ100をホイールハブ200の水平部202に当接させて配置する場合がある。この場合、ディスクロータ100が内側延長部110を備えていると、ホイールハブ200の鉛直部201と水平部202とディスクロータ100の内側延長部110とにより、凹部250が形成される。ディスクブレーキ装置を備えた自動二輪車等が駐車しているときに、この凹部250に雨水等の水が溜まるおそれがある。
【0008】
凹部250に水が溜まった状態のまま自動二輪車等を長時間駐車していると、ホイールハブ200またはディスクロータ100が腐食するおそれがある。ホイールハブ200またはディスクロータ100が腐食すると、ホイールハブ200またはディスクロータ100が変形し、ディスクブレーキ装置の作動時に振動(ジャダー)が発生する可能性がある。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディスクロータの熱容量が大きく、かつ、腐食に起因するジャダーが発生しにくいディスクブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに開示されるディスクブレーキ装置は、車輪を制動するディスクブレーキ装置である。前記ディスクブレーキ装置は、内周面を有する筒部と、前記筒部の前記内周面から前記車輪の中心軸線に向けて延びる環状部と、を有するホイールハブを備えている。前記ディスクブレーキ装置は、前記車輪の前記中心軸線に対して垂直に配置された環状のディスクロータと、前記ディスクロータに対向するブレーキパッドと、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押しつけるブレーキキャリパと、を備えている。前記ディスクロータは、前記ホイールハブの前記筒部と当接する当接部と、前記当接部よりも前記車輪の前記中心軸線の方に位置し、前記ホイールハブの前記環状部と対向しかつ前記環状部から離間した内側延長部と、を有している。前記内側延長部に、前記車輪の径方向の外方に凹んだ複数の切り欠き部が形成されている。
【0011】
上記ディスクブレーキ装置によれば、ディスクロータが内側延長部を備えているので、ディスクロータの容積を大きくすることができる。よって、ディスクロータの熱容量を増大させることができる。しかし、ディスクロータが内側延長部を備えていることにより、内側延長部とホイールハブの筒部と環状部とによって凹部が形成され、この凹部に水が溜まることが懸念される。ところが、内側延長部に切り欠き部が形成されているので、上記凹部に入り込んだ水は切り欠き部から排出される。よって、凹部に水が溜まりにくい。凹部に水が溜まりにくいので、ホイールハブおよびディスクロータに腐食は生じにくい。したがって、腐食に起因するジャダーは発生しにくい。
【0012】
前記切り欠き部の前記車輪の径方向の寸法は、前記内側延長部の前記車輪の径方向の寸法と等しくてもよい。
【0013】
このことにより、切り欠き部の車輪の径方向の寸法は、凹部の車輪の径方向の寸法と等しくなる。ディスクロータの熱容量を十分に確保しながら、凹部に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0014】
前述の水溜まりはディスクロータの周方向の広範囲にわたって形成されるが、実際に水が溜まる部分は、水溜まりのうち下方に位置する部分である。ディスクロータは回転するので、水溜まりのうちどの部分が下方に位置するかは、停止したときのディスクロータの位置によって異なる。そこで、前記切り欠き部は、前記車輪の前記中心軸線を中心として等角度の間隔に配置されていてもよい。
【0015】
このことにより、切り欠き部は周方向に均等に設けられる。よって、ディスクロータの回転位置に拘わらず、凹部に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0016】
前記ディスクロータは、ボルト孔が形成されかつ周方向に並ぶ複数の締結部を備えていてもよい。前記ディスクブレーキ装置は、前記各ボルト孔に挿通され、前記ディスクロータと前記ホイールハブとを締結する複数のボルトを備えていてもよい。前記内側延長部は、周方向に隣り合う2つの締結部の間にそれぞれ形成された複数の延長部分を有していてもよい。
【0017】
前記各延長部分に1つ以上の前記切り欠き部が形成されていてもよい。
【0018】
このことにより、複数の延長部分のそれぞれの側方に凹部が形成されるが、各凹部に1つ以上の切り欠き部が設けられることになる。よって、ディスクロータの回転位置に拘わらず、凹部に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0019】
前記各延長部分に1つまたは2つの前記切り欠き部が形成されていてもよい。
【0020】
切り欠き部の数が多いほど、ディスクロータの容積が小さくなるので、ディスクロータの熱容量は低減する。上記事項によれば、切り欠き部の数が少ないので、ディスクロータの熱容量を確保しながら、ディスクロータの回転位置に拘わらず凹部に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0021】
前記各延長部分の周方向の中間位置に前記切り欠き部が形成されていてもよい。
【0022】
このことにより、ディスクロータの回転位置に拘わらず、凹部に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0023】
前記ディスクロータは、ボルト孔が形成されかつ周方向に並ぶ複数の締結部を備えていてもよい。前記ディスクブレーキ装置は、前記各ボルト孔に挿通され、前記ディスクロータと前記ホイールハブとを締結する複数のボルトを備えていてもよい。前記車輪の前記中心軸線に沿って見たときに、前記切り欠き部の横幅は前記ボルト孔の内径以下であってもよい。
【0024】
前記車輪の前記中心軸線に沿って見たときに、前記切り欠き部の横幅は、前記車輪の径方向の外方に行くほど小さくなっていてもよい。
【0025】
前記ホイールハブの前記環状部は、前記環状部の径方向の外端に位置しかつ前記筒部の前記内周面に連続する外端部分を有していてもよい。前記外端部分は、径方向の外方に行くほど前記ディスクロータに近づくように湾曲していてもよい。
【0026】
このことにより、環状部の外端部分に水が残りにくいので、凹部に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0027】
ここに開示される鞍乗型車両は、前記ディスクブレーキ装置を備えている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ディスクロータの熱容量が大きく、かつ、腐食に起因するジャダーが発生しにくいディスクブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】一実施形態に係る自動二輪車の右側面図である。
【
図2】ブレーキキャリパおよびディスクロータの部分断面図である。
【
図7】従来のディスクロータに内側延長部を設けた仮想的なディスクロータの正面図である。
【
図8】上記の仮想的なディスクロータおよびホイールハブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、ディスクブレーキ装置および鞍乗型車両の一実施形態について説明する。
図1は、鞍乗型車両の一例である自動二輪車1の右側面図である。
【0031】
以下の説明では特に断らない限り、前、後、左、右、上、下とは、乗員が乗車せずかつ荷物が載せられていない自動二輪車1が水平面上に直立した状態で停止している場合に、シート2に着座した仮想的な乗員から見た前、後、左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。図中のF、Re、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表す。
【0032】
自動二輪車1は、ヘッドパイプ41を有する車体フレーム40と、車体フレーム40に支持されたシート2と、車体フレーム40に支持された内燃機関3と、前輪4と、後輪5と、を備えている。内燃機関3は、走行用の駆動源の一例である。ただし、走行用の駆動源は内燃機関3に限定されず、例えば電動モータであってもよい。また、自動二輪車1は、前輪4を制動するディスクブレーキ装置6と、後輪5を制動するディスクブレーキ装置7とを備えている。
【0033】
ヘッドパイプ41にはステアリング軸(図示せず)が回転可能に挿入されている。ステアリング軸の上部には、ステアリングハンドル8が固定されている。ステアリング軸の下部には、フロントフォーク9が固定されている。フロントフォーク9の下端部は、前輪4に支持されている。車体フレーム40には、ピボット軸16によりリアアーム17の前端部が連結されている。リアアーム17の後端部は、後輪5の車軸18に連結されている。
【0034】
後輪5は、車軸18に回転可能に支持されたホイール60と、ホイール60に取り付けられたタイヤ62とを備えている。
【0035】
ディスクブレーキ装置7は、環状のディスクロータ20と、ディスクロータ20に対向するブレーキパッド51(
図2参照)と、ブレーキパッド51をディスクロータ20に押しつけるブレーキキャリパ50とを備えている。
【0036】
ブレーキキャリパ50には、公知の任意のブレーキキャリパを利用することができる。ここでは
図2に示すように、ブレーキキャリパ50は、シリンダ52と、シリンダ52に摺動可能に挿入されたピストン53とを有している。シリンダ52にはポート54が形成されており、ポート54には油圧配管(図示せず)を介してマスタシリンダ(図示せず)が接続されている。ライダーがブレーキペダルを操作すると、ポート54を通じて、マスタシリンダからシリンダ52にブレーキ油が流入する。すると、ピストン53が駆動し、ブレーキパッド51がディスクロータ20に押しつけられる。これにより、後輪5が制動される。
【0037】
図3は、後輪5を自動二輪車1の右方から見た図であり、後輪5の正面図である。
図4は、ディスクロータ20を自動二輪車1の右方から見た図であり、ディスクロータ20の正面図である。
図5は
図3のV-V線に沿った部分断面図である。
図6は
図3のVI-VI線に沿った部分断面図である。
【0038】
図5に示すように、ホイール60はホイールハブ10を有している。ホイールハブ10は、内周面11wを有する筒部11と、筒部11の内周面11wから後輪5の中心軸線5Cに向けて延びる環状部12とを有している。
図4に示すように、筒部11の中心は、後輪5の中心軸線5Cと一致している。
【0039】
図5に示すように、ディスクロータ20は、中心軸線5Cに対して垂直に配置されている。ディスクロータ20は、ホイールハブ10の筒部11の先端に当接している。ディスクロータ20は、ホイールハブ10の筒部11と当接する当接部21を有している。
【0040】
以下の説明では、径方向とは後輪5の径方向を意味し、周方向とは後輪5の周方向を意味するものとする。径方向の内方とは、後輪5の中心軸線5Cに近づく方を言い、径方向の外方とは、後輪5の中心軸線5Cから遠ざかる方を言う。図中の矢印D1は径方向の内方を示し、矢印D2は径方向の外方を示している(
図4参照)。図中の矢印Rは周方向を示している。
【0041】
図5に示すように、ディスクロータ20は、当接部21よりも径方向の外方に位置する摩擦部27を有している。摩擦部27は、制動時にブレーキパッド51(
図2参照)と接触する部分である。
図4に示すように、摩擦部27には複数の孔26が形成されている。ただし、孔26は必ずしも必要では無く、省略してもよい。
【0042】
ディスクロータ20は、ボルト孔24が形成された複数の締結部25を有している。締結部25は、周方向に並んでいる。ここでは、5つの締結部25が周方向に等間隔に配置されている。
図3に示すように、ボルト孔24にはボルト45が締結されている。ディスクロータ20は、ボルト45によりホイールハブ10に固定されている。
【0043】
図4および
図5に示すように、ディスクロータ20は、当接部21よりも中心軸線5Cの方に位置する内側延長部22を有している。内側延長部22は、当接部21よりも径方向の内方に位置している。
図5に示すように、内側延長部22は、ホイールハブ10の環状部12と対向している。内側延長部22は環状部12から離間している。内側延長部22と環状部12との間には隙間が形成されている。
図4に示すように、内側延長部22は、周方向に隣り合う2つの締結部25の間にそれぞれ形成された複数の延長部分22aを有している。ここでは、内側延長部22は5つの延長部分22aを有している。
図5に示すように、各延長部分22aは、ホイールハブ10の環状部12と対向し、環状部12から離間している。各延長部分22aと環状部12との間に、隙間が形成されている。
【0044】
図4に示すように、内側延長部22には、径方向の外方に凹んだ複数の切り欠き部23が形成されている。ここでは、切り欠き部23は中心軸線5Cを中心として等角度の間隔に配置されている。ただし、切り欠き部23の間隔は何ら限定されない。切り欠き部23は等角度の間隔で配置されていなくてもよい。切り欠き部23の数は特に限定されないが、各延長部分22aに1つ以上の切り欠き部23が形成されていることが好ましい。各延長部分22aに1つまたは2つの切り欠き部23が形成されていてもよい。本実施形態では、各延長部分22aに1つの切り欠き部23が形成されている。切り欠き部23は、延長部分22aの周方向の中間位置に形成されている。
【0045】
本実施形態では、切り欠き部23の径方向の寸法L23(
図6参照)は、内側延長部22の径方向の寸法L22(
図5参照)と等しい。ただし、寸法L23は寸法L22よりも小さくてもよく、大きくてもよい。
図4に示すように中心軸線5Cに沿って見たときに、切り欠き部23の横幅W23は、ボルト孔24の内径φ24以下となっている。ただし、横幅W23は内径φ24よりも大きくてもよい。なお、ここで言う横幅W23とは、切り欠き部23のうち最も径方向の内側に位置する部分の横幅のことを言う。
【0046】
本実施形態では、中心軸線5Cに沿って見たときに、切り欠き部23の横幅は、径方向の外方に行くほど小さくなっている。本実施形態では、中心軸線5Cに沿って見たときに、切り欠き部23の縁は曲線状に形成されている。ただし、切り欠き部23の形状は特に限定されない。例えば、中心軸線5Cに沿って見たときに、切り欠き部23はV字状に形成されていてもよく、略四角形状に形成されていてもよい。
【0047】
図5に示すように、ホイールハブ10の環状部12は、環状部12の径方向の外端に位置しかつ筒部11の内周面11wに連続する外端部分12aを有している。外端部分12aは、径方向の外方に行くほどディスクロータ20に近づくように湾曲している。
図5では、外端部分12aは下方に行くほど右方に向かうように湾曲している。外端部分12aは丸みを帯びており、角になっていない。
【0048】
前述したように、ディスクロータ20はホイールハブ10の筒部11と当接している。内側延長部22は、ホイールハブ10の環状部12と対向し、かつ、環状部12から離間している。内側延長部22と環状部12との間には隙間が形成されている。そのため、ホイールハブ10の環状部12と、筒部11と、ディスクロータ20の内側延長部22とにより、径方向の外方に凹んだ凹部30が形成されている。
【0049】
以上が本実施形態に係る自動二輪車1およびディスクブレーキ装置7の構成である。次に、本実施形態に係るディスクブレーキ装置7がもたらす様々な効果について説明する。
【0050】
本実施形態によれば、ディスクロータ20が内側延長部22を備えているので、ディスクロータ20が内側延長部22を備えていない場合に比べて、ディスクロータ20の容積が大きい。そのため、ディスクロータ20の熱容量を増大させることができる。制動時のディスクロータ20の温度上昇を抑制することができるので、ディスクブレーキ装置7の性能を向上させることができる。
【0051】
しかし、ディスクロータ20が内側延長部22を備えていることにより、ディスクロータ20とホイールハブ10とにより、前述の凹部30が生じる。凹部30は周方向の全体にわたって形成されるが、雨水や路面から跳ね上げられた泥水等の水が、自動二輪車1の駐車時(言い換えると、後輪5の回転が停止しているとき)に凹部30の下半部に溜まるおそれがある。ホイールハブ10およびディスクロータ20は金属によって形成されているので、凹部30に水が溜まった状態のまま長時間が経過すると、ホイールハブ10およびディスクロータ20が腐食するおそれがある。ホイールハブ10またはディスクロータ20が腐食すると、ホイールハブ10またはディスクロータ20が変形することにより、ディスクブレーキ装置7の作動時に振動(ジャダー)が発生する可能性がある。
【0052】
ところが、本実施形態によれば、内側延長部22に切り欠き部23が形成されている。そのため、凹部30に入り込んだ水は、切り欠き部23から排出される(
図6の矢印参照)。よって、凹部30に水が溜まりにくい。凹部30に水が溜まりにくいので、ホイールハブ10およびディスクロータ20に腐食が生じにくい。したがって、腐食に起因するジャダーは発生しにくい。本実施形態によれば、ジャダーを抑制しながらディスクブレーキ装置7の性能を高めることができる。
【0053】
本実施形態によれば、切り欠き部23の径方向の寸法L23は、内側延長部22の径方向の寸法L22と等しい。そのため、切り欠き部23の径方向の寸法L23は、凹部30の径方向の寸法と等しくなる。切り欠き部23は、凹部30の最も奥の部分まで達している。したがって、凹部30に水が溜まることを十分に抑制することができる。
【0054】
本実施形態によれば、
図4に示すように、切り欠き部23は中心軸線5Cを中心として等角度の間隔に配置されている。切り欠き部23は周方向に均等に設けられている。よって、後輪5が停止したときのディスクロータ20の回転位置に拘わらず、凹部30に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0055】
本実施形態によれば、内側延長部22は、周方向に隣り合う2つの締結部25の間にそれぞれ形成された複数の延長部分22aを有している。各延長部分22aとホイールハブ10の環状部12との間に凹部30が形成される(
図4参照)。本実施形態によれば、各延長部分22aに切り欠き部23が形成されている。複数の凹部30のそれぞれに対して切り欠き部23が設けられているので、後輪5が停止したときのディスクロータ20の回転位置に拘わらず、凹部30に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0056】
ところで、切り欠き部23の数が多いほど、延長部分22aの容積が小さくなるので、ディスクロータ20の熱容量は小さくなる。しかし、本実施形態によれば、各延長部分22aに形成される切り欠き部23の数は1つである。切り欠き部23の数が少ないので、延長部分22aの容積を確保することができる。ディスクロータ20の熱容量を確保することができるので、ディスクブレーキ装置7の性能を高めることができる。なお、各延長部分22aに形成される切り欠き部23の数は2つでもよい。この場合でも、切り欠き部23の数が少ないので、同様の効果を得ることができる。
【0057】
本実施形態によれば、切り欠き部23は各延長部分22aの周方向の中間位置に形成されている。よって、後輪5が停止したときのディスクロータ20の回転位置に拘わらず、凹部30に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0058】
本実施形態によれば、
図6に示すように、ホイールハブ10の環状部12の外端部分12aは、径方向の外方に行くほどディスクロータ20に近づくように湾曲している。そのため、外端部分12aに水が残りにくい。凹部30からの水の排出を促進することができる。よって、凹部30に水が溜まりにくいようにすることができる。
【0059】
以上、一実施形態について説明した。ただし、前記実施形態は一例に過ぎず、他にも様々な実施形態が可能である。
【0060】
前記実施形態のディスクブレーキ装置7は後輪5を制動する装置であるが、前輪4を制動するディスクブレーキ装置6も前述のディスクブレーキ装置7と同様に構成されていてもよい。ここに開示されるディスクブレーキ装置が制動する車輪は、前輪4でもよく、後輪5でもよい。
【0061】
ホイールハブ10およびディスクロータ20の一方または両方は、金属製でなくてもよい。
【0062】
「切り欠き部」とは、ディスクロータの内側延長部の一部を切り欠いたように見える部分のことであり、その形成方法は何ら限定されない。「切り欠き部」は、凹みを有するように一体成形されたディスクロータの当該凹みであってもよく、凹みのないディスクロータを一体成形してから、ディスクロータの一部をカットすることにより形成されてもよい。
【0063】
鞍乗型車両とは、乗員が跨がって乗車する車両のことである。鞍乗型車両は自動二輪車1に限定されない。鞍乗型車両は、例えば、自動三輪車、ATV(All Terrain vehicle)、スノーモービルであってもよい。
【0064】
ここに用いられた用語及び表現は、説明のために用いられたものであって限定的に解釈するために用いられたものではない。ここに示されかつ述べられた特徴事項の如何なる均等物をも排除するものではなく、本発明のクレームされた範囲内における各種変形をも許容するものであると認識されなければならない。本発明は、多くの異なった形態で具現化され得るものである。この開示は本発明の原理の実施形態を提供するものと見なされるべきである。それらの実施形態は、本発明をここに記載しかつ/又は図示した好ましい実施形態に限定することを意図するものではないという了解のもとで、実施形態がここに記載されている。ここに記載した実施形態に限定されるものではない。本発明は、この開示に基づいて当業者によって認識され得る、均等な要素、修正、削除、組み合わせ、改良及び/又は変更を含むあらゆる実施形態をも包含する。クレームの限定事項はそのクレームで用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態に限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0065】
1…自動二輪車(鞍乗型車両)、5…後輪(車輪)、5C…後輪の中心軸線、7…ディスクブレーキ装置、10…ホイールハブ、11…筒部、11w…筒部の内周面、12…環状部、12a…外端部分、20…ディスクロータ、21…当接部、22…内側延長部、22a…延長部分、23…切り欠き部、24…ボルト孔、25…締結部、45…ボルト、50…ブレーキキャリパ、51…ブレーキパッド