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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112051
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】動力決定装置及び動力決定方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/16 20160101AFI20240813BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240813BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240813BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240813BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240813BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240813BHJP
【FI】
B60W20/16 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F02D45/00 362
F02D45/00 369
B60L15/20 J
B60L50/16
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016873
(22)【出願日】2023-02-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 聖
【テーマコード(参考)】
3D202
3G384
5H125
【Fターム(参考)】
3D202BB01
3D202BB09
3D202BB11
3D202BB53
3D202CC02
3D202CC46
3D202DD05
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD21
3D202DD22
3D202DD24
3G384AA28
3G384BA02
3G384BA13
3G384DA01
3G384DA14
3G384ED06
3G384EE31
3G384FA06Z
3G384FA44Z
3G384FA46Z
3G384FA56Z
5H125AA01
5H125AC08
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE42
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】NOx発生量に適したトルクをモータに要求する。
【解決手段】動力決定装置10は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジン2の燃料噴射量の第1噴射補正量とモータ5が発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部123と、触媒の温度と触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定部124と、第1噴射補正量に第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び第1トルク補正量に第1補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部125と、を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部と、
触媒の温度と前記触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定部と、
前記第1噴射補正量に前記第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部と、
を有する動力決定装置。
【請求項2】
前記触媒の温度及び前記アンモニア吸着量に対応する前記第1補正係数を記憶する記憶部をさらに有し、
前記特定部は、前記触媒の温度と、前記アンモニア吸着量とに対応する前記第1補正係数を特定する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項3】
前記特定部は、過給機の実過給圧と、前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第2補正係数をさらに特定し、
前記算出部は、前記第2噴射補正量に前記第2補正係数を乗算した第3噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第2トルク補正量に前記第2補正係数を乗算した第3トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記第1補正係数として、前記第1噴射補正量を補正するための第1噴射補正係数と、前記第1トルク補正量を補正するための、前記第1噴射補正係数と異なる第1トルク補正係数とを特定し、
前記算出部は、前記第1噴射補正量に前記第1噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した燃料噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1トルク補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項5】
アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定工程と、
触媒の温度と前記触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定工程と、
前記第1噴射補正量に前記第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出工程と、
を有する動力決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力決定装置及び動力決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンにトルクが要求されていない場合は、触媒が浄化できる窒素酸化物(NOx)の量を維持するために触媒を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-51743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のハイブリッド車両の制御装置においては、アクセルの踏込量に応じてエンジンが作動することにより排出するNOxの量を触媒が浄化できたとしても、モータにトルクを要求してNOxの発生を抑えようとするため、モータに供給する電力量が大きくなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、NOx発生量に適したトルクをモータに要求することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る動力決定装置は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部と、触媒の温度と前記触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定部と、前記第1噴射補正量に前記第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部と、を有する。
【0007】
前記触媒の温度及び前記アンモニア吸着量に対応する前記第1補正係数を記憶する記憶部をさらに有し、前記特定部は、前記触媒の温度と、前記アンモニア吸着量とに対応する前記第1補正係数を特定してもよい。
【0008】
前記特定部は、過給機の実過給圧と、前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第2補正係数をさらに特定し、前記算出部は、前記第2噴射補正量に前記第2補正係数を乗算した第3噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第2トルク補正量に前記第2補正係数を乗算した第3トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出してもよい。
【0009】
前記特定部は、前記第1補正係数として、前記第1噴射補正量を補正するための第1噴射補正係数と、前記第1トルク補正量を補正するための、前記第1噴射補正係数と異なる第1トルク補正係数とを特定し、前記算出部は、前記第1噴射補正量に前記第1噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した燃料噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1トルク補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出してもよい。
【0010】
本発明の第2の態様に係る動力決定方法は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定工程と、触媒の温度と前記触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定工程と、前記第1噴射補正量に前記第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、NOx発生量に適したトルクをモータに要求するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る動力決定装置10の概要を説明するための図である。
図2】動力決定装置10の構成を示す図である。
図3】補正噴射量及び補正トルクを説明するための図である。
図4】動力決定装置10における処理シーケンスの例を示す図である。
図5】第1変形例に係る動力決定装置10の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<動力決定装置10の概要>
図1は、本実施形態に係る動力決定装置10の概要を説明するための図である。動力決定装置10は、ハイブリッド車両(以下、「車両」という)に搭載され、エンジンの燃料噴射量とモータが発生するトルク(以下、「モータトルク」という場合がある)とを決定する機能を有する。また、動力決定装置10は、アクセルが踏み込まれた際には、燃料噴射量を補正した補正噴射量とモータトルクを補正した補正トルクとを決定し、補正噴射量でエンジンに燃料を噴射させ、補正トルクをモータに発生させる。なお、本実施形態において「アクセルを踏み込む」とは、運転者が車両を加速させるためにアクセルペダルを踏み込むこと、又は、自動運転において、車両が備える自動運転制御装置(不図示)が車両を加速させるためにアクセル開度を出力することのいずれかを示す。
以下、補正噴射量及び補正トルクを決定する動作を説明する。
【0014】
まず、動力決定装置10は、エンジン回転数とアクセル開度を取得する。そして、動力決定装置10は、噴射補正マップM2を参照することにより、エンジン回転数とアクセル開度とに対応する第1噴射補正量を決定する(図1に示す(1))。動力決定装置10は、トルク補正マップM3を参照することにより、エンジン回転数とアクセル開度とに対応する第1トルク補正量を決定する(図1に示す(2))。
【0015】
アクセルが踏み込まれたことにより、アクセル踏込量に対応する加速度で走行する(いわゆる急加速をする)場合、車両は、当該加速度に対応するトルクをモータに発生させることで、NOx排出量を増加させずに走行することができる。すなわち、アクセル開度に対応するモータトルクに第1トルク補正量を加算し、アクセル開度に対応する燃料噴射量から第1噴射補正量を減算することで、NOx排出量を増加させずに、アクセル踏込量に対応する加速度で走行させることができる。しかし、加速度に対応する燃料噴射量により発生したNOxをSCRが浄化可能な場合、モータにトルクを発生させるよりもエンジンに燃料を噴射させた方が電力の消費を抑えることができる。
【0016】
そこで、動力決定装置10は、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択還元触媒)の温度とSCRのアンモニア吸着量とを取得する。そして、動力決定装置10は、第1補正係数マップM1を参照することにより、SCRの温度及びアンモニア吸着量に対応し、0以上1未満の値を示す第1補正係数を特定する(図1に示す(3))。
【0017】
続いて、動力決定装置10は、第1噴射補正量に第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を算出し(図1に示す(4))、アクセル開度に対応する燃料噴射量から第2噴射補正量を減算した補正噴射量を算出する(図1に示す(5))。動力決定装置10は、第1トルク補正量に第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を算出し(図1に示す(6))、アクセル開度に対応するモータトルクに第2トルク補正量を加算した補正トルクを算出する(図1に示す(7))。すなわち、動力決定装置10は、第1噴射補正量よりも小さい補正量である第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び第1トルク補正量よりも小さい補正量である第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する。
【0018】
上記のように動作することで、動力決定装置10は、アクセルを踏み込まれた際に、アクセル開度に対応する燃料噴射量から減算する補正量を小さくするとともに、アクセル開度に対応するモータトルクに加算する補正量を小さくする。その結果、アクセル踏込量に対応する加速度で走行しつつ、モータトルクを抑制することができるため、モータに供給する電力量を抑制することができる。さらに、第1補正係数を用いることで、SCRが浄化可能なNOx発生量に対応する燃料噴射量でエンジンに燃料を噴射させることができるため、NOx排出量を抑制するとともに、NOx発生量に適したトルクをモータに発生させることができる。
以下、動力決定装置10の構成及び動作を詳細に説明する。
【0019】
<動力決定装置10の構成>
図2は、動力決定装置10の構成を示す図である。図2に示す車両は、アクセル装置1、エンジン2、過給機3、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置4、モータ5、SCR6、センサ群7、走行制御装置8及び動力決定装置10を有している。動力決定装置10は、記憶部11と制御部12とを有する。
【0020】
アクセル装置1は、車両の加速を制御するための装置である。アクセル装置1はアクセルペダルを含み、車両の運転者がアクセルペダルを踏み込んだ量に対応するアクセル開度を出力する。車両が自動運転をする場合、アクセル装置1は、車両が備える自動運転制御装置が要求するトルクに対応するアクセル開度を出力する。エンジン2は、車両を走行させるための動力源である。過給機3は、例えば、排気通路(不図示)を流れる排気の流れを利用して吸気通路(不図示)を流れる吸気を圧縮する。EGR装置4は、EGR通路内に開閉可能な弁を有し、走行制御装置8により弁開度が制御されることにより、EGRガス量が調整される。モータ5は、車両を走行させるための動力源である。SCR6は、排気中のNOxを還元反応によって無害な窒素に変換する浄化装置である。
【0021】
センサ群7は、アクセル開度センサ、エンジン回転センサ、過給圧センサ、SCR6の温度を検出するための温度センサ等の複数のセンサを含む。走行制御装置8は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサを含む装置であり、走行制御装置8が有する記憶部に記憶されたプログラムをプロセッサに実行させることにより、動力決定装置10を搭載する車両を走行させる。走行制御装置8は、動力決定装置10が決定したモータトルクを発生させるようにモータ5を制御し、動力決定装置10が決定した燃料噴射量でエンジン2に燃料を噴射させるようにエンジン2を制御する。走行制御装置8は、後述するように、動力決定装置10が決定した補正トルクをモータ5に発生させ、動力決定装置10が決定した補正噴射量をエンジン2に噴射させる。
【0022】
記憶部11は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体を有する。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを記憶している。記憶部11は、補正噴射量及び補正トルクを決定するための各種の情報を記憶している。一例として、記憶部11は、SCR6の温度及びアンモニア吸着量に対応する第1補正係数を示す第1補正係数マップM1(図1)、エンジン回転数及びアクセル開度に対応する第1噴射補正量を示す噴射補正マップM2(図1)、エンジン回転数及びアクセル開度に対応する第1トルク補正量を示すトルク補正マップM3(図1)を記憶している。
【0023】
制御部12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、受付部121、取得部122、決定部123、特定部124及び算出部125として機能する。なお、制御部12は、1つのプロセッサで構成されていてもよいし、複数のプロセッサ又は1以上のプロセッサと電子回路との組み合わせにより構成されていてもよい。
以下、制御部12により実現される各部の構成を説明する。
【0024】
受付部121は、アクセル開度センサが検出したアクセル開度を受け付ける。取得部122は、エンジン回転数と、エンジンの燃料噴射量と、モータ5が発生するモータトルクと、SCR6の温度と、SCR6のアンモニア吸着量とを取得する。
【0025】
例えば、取得部122は、エンジン回転センサが検出したエンジン回転数、及び温度センサが検出したSCR6の温度を取得する。取得部122は、車両が備える尿素水噴射装置(不図示)がSCR6に噴射した尿素水の量に基づいて、SCR6のアンモニア吸着量を推定することにより、SCR6のアンモニア吸着量を取得する。取得部122は、走行制御装置8が特定した、アクセル開度に対応する燃料噴射量及びモータトルクを取得する。アクセル開度に対応する燃料噴射量は、アクセル開度に対応するトルクのうちエンジン2のトルクに対応する燃料噴射量であり、アクセル開度に対応するモータトルクは、アクセル開度に対応するトルクのうちモータ5が発生させるトルクである。
【0026】
決定部123は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに基づいて、燃料噴射量の第1噴射補正量を決定する。具体的には、決定部123は、まず、記憶部11に記憶された噴射補正マップM2を取得する。噴射補正マップM2は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに関連付けられた噴射補正量が示されている。噴射補正量は、実験又はシミュレーションにより定められた値である。続いて、決定部123は、噴射補正マップM2において、取得部122が取得したエンジン回転数と、受付部121が受け付けたアクセル開度の大きさとに関連付けられた噴射補正量を特定し、第1噴射補正量に決定する。
【0027】
決定部123は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに基づいて、モータトルクの第1トルク補正量を決定する。具体的には、決定部123は、まず、記憶部11に記憶されたトルク補正マップM3を取得する。トルク補正マップM3は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに関連付けられたトルク補正量が示されている。トルク補正量は、実験又はシミュレーションにより定められた値である。続いて、決定部123は、トルク補正マップM3において、取得部122が取得したエンジン回転数と、受付部121が受け付けたアクセル開度の大きさとに関連付けられたトルク補正量を特定し、第1トルク補正量に決定する。
【0028】
特定部124は、SCR6の温度とアンモニア吸着量とに基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する。具体的には、特定部124は、まず、記憶部11に記憶された第1補正係数マップM1を取得する。第1補正係数マップM1は、SCR6の温度とアンモニア吸着量とを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、SCR6の温度とアンモニア吸着量とに関連付けられた第1補正係数が示されている。第1補正係数は、実験又はシミュレーションにより定められた値であり、0以上1未満の値を示す。続いて、特定部124は、第1補正係数マップM1において、取得部122が取得したSCR6の温度と、取得部122が取得したアンモニア吸着量とに対応する第1補正係数を特定する。
【0029】
算出部125は、第1噴射補正量に第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を、アクセル開度に対応する燃料噴射量から減算した補正噴射量を算出する。また、算出部125は、第1トルク補正量に第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を、アクセル開度に対応するモータトルクに加算した補正トルクを算出する。算出部125は、算出した補正噴射量と補正トルクとを走行制御装置8に出力する。
【0030】
図3は、補正噴射量及び補正トルクを説明するための図である。図3(a)は、受付部121が受け付けたアクセル開度を示し、図3(b)は、エンジン2の燃料噴射量を示し、図3(c)は、モータトルクを示す。図3の横軸は時刻を示し、図3(a)の縦軸はアクセル開度、図3(b)の縦軸は噴射量、図3(c)の縦軸はトルクを示す。図3(b)の時刻T0から時刻T2において、一点鎖線は、アクセル開度に対応する燃料噴射量から第1噴射補正量を減算した噴射量を示し、実線は、補正噴射量を示す。図3(c)の時刻T3から時刻T4において、一点鎖線は、アクセル開度に対応するモータトルクに第1トルク補正量を加算したトルクを示し、実線は、補正トルクを示す。
【0031】
図3(a)に示すように、受付部121が受け付けるアクセル開度は、時刻T0から時刻T1においてアクセル開度A0からアクセル開度A1に変化し、時刻T2以降において一定の時間、アクセル開度A1に維持される。続いて、図3(b)に示すように、算出部125は、アクセル開度A1に対応する燃料噴射量Nから第2噴射補正量N2を減算した補正噴射量「N-N2」を算出する。また、図3(c)に示すように、算出部125は、アクセル開度A1に対応するモータトルクQに第2トルク補正量Q2を加算した補正トルク「Q+Q2」を算出する。走行制御装置8は、算出部125が算出した補正噴射量「N-N2」を燃料噴射量としてエンジン2に燃料を噴射させ、補正トルク「Q+Q2」をモータトルクとしてモータ5に発生させる。
【0032】
算出部125が上記のように動作することで、走行制御装置8は、アクセル開度A1に対応する燃料噴射量Nから第1噴射補正量N1を減算した補正噴射量「N-N1」よりも大きい補正噴射量「N-N2」でエンジン2に燃料を噴射させることができる。さらに、走行制御装置8は、アクセル開度A1に対応するモータトルクQに第1トルク補正量Q1を加算した補正トルク「Q+Q1」よりも小さい補正トルク「Q+Q2」をモータ5に発生させることができる。その結果、アクセル開度に対応する加速度で走行しつつ、燃料噴射量に対応するNOx発生量に適したモータトルクを発生させることができる。
【0033】
<動力決定装置10における処理シーケンス>
図4は、動力決定装置10における処理シーケンスの例を示す図である。図4に示す処理シーケンスは、算出部125が補正噴射量及び補正トルクを算出する動作を示す。動力決定装置10は、図4に示す処理シーケンスを一定時間ごとに繰り返す。
【0034】
まず、受付部121は、アクセル開度センサが検出したアクセル開度を受け付ける(S11)。取得部122は、センサ群7及び走行制御装置8から、エンジン回転数、燃料噴射量、モータトルク、SCR6の温度、及びアンモニア吸着量を取得する(S12)。例えば、取得部122は、エンジン回転センサが検出したエンジン回転数、温度センサが検出したSCR6の温度、尿素水噴射装置がSCR6に噴射した尿素水の量に基づくアンモニア吸着量を取得する。取得部122は、走行制御装置8から、アクセル開度に対応する燃料噴射量、アクセル開度に対応するモータトルクを取得する。
【0035】
特定部124は、記憶部11に記憶された第1補正係数マップM1を参照することにより、取得部122が取得したSCR6の温度及びアンモニア吸着量に関連付けて第1補正係数マップM1に示された第1補正係数を特定する(S13)。決定部123は、燃料噴射量の第1噴射補正量とモータトルクの第1トルク補正量とを決定する(S14)。例えば、決定部123は、受付部121が受け付けたアクセル開度の大きさと取得部122が取得したエンジン回転数とに関連付けて噴射補正マップM2に示された噴射補正量を第1噴射補正量に決定する。決定部123は、受付部121が受け付けたアクセル開度の大きさと取得部122が取得したエンジン回転数とに関連付けてトルク補正マップM3に示されたトルク補正量を第1トルク補正量に決定する。
【0036】
算出部125は、第1噴射補正量に第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を算出し、第1トルク補正量に第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を算出する(S15)。算出部125は、燃料噴射量から第2噴射補正量を減算した補正噴射量とモータトルクに第2トルク補正量を加算した補正トルクとを算出する(S16)。
【0037】
<第1変形例>
以上の説明においては、燃料噴射量から第2噴射補正量を減算し、モータトルクに第2トルク補正量を加算することで、補正噴射量及び補正トルクを算出する動作を説明したが、これに限らない。動力決定装置10においては、過給機3の実過給圧と、アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧(以下、「要求過給圧」という)との差をさらに用いて補正噴射量及び補正トルクを算出してもよい。
【0038】
図5は、第1変形例に係る動力決定装置10の概要を説明するための図である。図5に示す動力決定装置10は、第2補正係数マップM4を用いて第2補正係数を特定する(図5に示す(6))点と、第3噴射補正量及び第3トルク補正量に基づく補正噴射量及び補正トルクを算出する(図5に示す(7)から(10))点とにおいて図1に示す動力決定装置10と異なり、他の点において同じである。
【0039】
取得部122は、過給機3の実過給圧と、要求過給圧とをさらに取得する。特定部124は、実過給圧と要求過給圧との差(以下、「ΔBST」という)、及びエンジン回転数に基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための第2補正係数をさらに特定する(図5に示す(6))。
【0040】
具体的には、特定部124は、まず、記憶部11に記憶された第2補正係数マップM4を取得する。第2補正係数マップM4は、ΔBSTとエンジン回転数とを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、ΔBSTとエンジン回転数とに関連付けられた第2補正係数が示されている。第2補正係数は、実験又はシミュレーションにより定められた値である。続いて、特定部124は、第2補正係数マップM4において、取得部122が取得したエンジン回転数と、ΔBSTとに関連付けられた第2補正係数を特定する。
【0041】
算出部125は、第2噴射補正量に第2補正係数を乗算した第3噴射補正量(図5に示す(7))を燃料噴射量から減算した補正噴射量(図5に示す(8))を算出する。算出部125は、第2トルク補正量に第2補正係数を乗算した第3トルク補正量(図5に示す(9))をモータトルクに加算した補正トルク(図5に示す(10))を算出する。
【0042】
動力決定装置10が上記のように動作することで、実過給圧と要求過給圧との差が小さければ小さいほど、補正トルクを小さくすることができる。その結果、アクセル開度に対応する加速度で車両を走行させつつ、モータ5に供給する電力量を抑制することができる。さらに、実過給圧と要求過給圧との差が大きければ大きいほど、補正トルクを大きくすることもできる。この動作は、加速度に対応する燃料噴射量により発生したNOxをSCR6が浄化可能な場合であっても、エンジン2への吸入空気量及び過給機3の過給圧の増加の遅れを許容できない場合、及び車両が備えるEGR装置4の弁開度を大きくしたい場合に有用である。
【0043】
<第2変形例>
以上の説明においては、算出部125が第1噴射補正量及び第1トルク補正量に第1補正係数を乗算した後に、ΔBSTとエンジン回転数とに基づく第2補正係数を乗算する動作を説明したが、これに限らない。動力決定装置10においては、第1噴射補正量及び第1トルク補正量に第2補正係数を乗算した後に、SCR6の温度とアンモニア吸着量とに基づく第1補正係数を乗算してもよい。
【0044】
すなわち、算出部125は、第1噴射補正量及び第1トルク補正量に第2補正係数を乗算することにより第2噴射補正量及び第2トルク補正量を算出し、当該第2噴射補正量及び第2トルク補正量に第1補正係数を乗算することにより第3噴射補正量及び第3トルク補正量を算出してもよい。
【0045】
<第3変形例>
以上の説明においては、特定部124が特定した1つの第1補正係数を用いて、算出部125が第2噴射補正量及び第2トルク補正量を算出する動作を説明したが、これに限らない。動力決定装置10においては、第1噴射補正量を補正するための第1噴射補正係数と、第1トルク補正量を補正するための第1トルク補正係数とを用いて第2噴射補正量及び第2トルク補正量を算出してもよい。
【0046】
特定部124は、第1補正係数として、第1噴射補正量を補正するための第1噴射補正係数と、第1トルク補正量を補正するための、第1噴射補正係数と異なる第1トルク補正係数とを特定する。例えば、特定部124は、記憶部11に記憶された第1噴射補正係数マップを参照することにより、取得部122が取得したSCR6の温度とアンモニア吸着量とに関連付けられた第1噴射補正係数を特定する。特定部124は、記憶部11に記憶された第1トルク補正係数マップを参照することにより、取得部122が取得したSCR6の温度とアンモニア吸着量とに関連付けられた第1トルク補正係数を特定する。
【0047】
算出部125は、第1噴射補正量に第1噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した燃料噴射量、及び第1トルク補正量に第1トルク補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する。特定部124及び算出部125が上記のように動作することで、第1噴射補正係数の値と第1トルク補正係数の値とを、それぞれ決定することができるため、第1噴射補正係数マップ及び第1トルク補正係数マップを含む第1補正係数マップM1を作成しやすくなる。その結果、第1補正係数マップM1を作成するための実験又はシミュレーションの時間を短縮できる。
【0048】
<動力決定装置10による効果>
以上説明したように、動力決定装置10は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、燃料噴射量の第1噴射補正量とモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部123と、SCR6の温度とアンモニア吸着量とに基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定部124と、第1噴射補正量に第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び第1トルク補正量に第1補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部125と、を有する。
【0049】
動力決定装置10がこのように構成されることで、アクセル踏込量に対応する加速度で走行しつつ、モータトルクを抑制することができるため、モータ5に供給する電力量を抑制することができる。さらに、SCR6が浄化可能なNOx発生量に対応する燃料噴射量でエンジン2に燃料を噴射させることができるため、モータ5に供給する電力量を抑えてNOx発生量に適したモータトルクを発生させつつ、NOx排出量を抑制することもできる。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0051】
1 アクセル装置
2 エンジン
3 過給機
4 EGR装置
5 モータ
6 SCR
7 センサ群
8 走行制御装置
10 動力決定装置
11 記憶部
12 制御部
121 受付部
122 取得部
123 決定部
124 特定部
125 算出部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部と、
触媒の温度と前記触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定部と、
前記第1噴射補正量に前記第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部と、
を有し、
前記算出部は、前記アクセル開度が大きいほど、前記第2噴射補正量を前記第1噴射補正量よりも小さくし、かつ前記第2トルク補正量を前記第1トルク補正量よりも小さくする、
力決定装置。
【請求項2】
前記触媒の温度及び前記アンモニア吸着量に対応する前記第1補正係数を記憶する記憶部をさらに有し、
前記特定部は、前記触媒の温度と、前記アンモニア吸着量とに対応する前記第1補正係数を特定する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項3】
前記特定部は、過給機の実過給圧と、前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第2補正係数をさらに特定し、
前記算出部は、前記第2噴射補正量に前記第2補正係数を乗算した第3噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第2トルク補正量に前記第2補正係数を乗算した第3トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記第1補正係数として、前記第1噴射補正量を補正するための第1噴射補正係数と、前記第1トルク補正量を補正するための、前記第1噴射補正係数と異なる第1トルク補正係数とを特定し、
前記算出部は、前記第1噴射補正量に前記第1噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1トルク補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項5】
アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定工程と、
触媒の温度と前記触媒のアンモニア吸着量とに基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための第1補正係数を特定する特定工程と、
前記第1噴射補正量に前記第1補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記第1補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出工程と、
を有し、
前記算出工程において、前記アクセル開度が大きいほど、前記第2噴射補正量を前記第1噴射補正量よりも小さくし、かつ前記第2トルク補正量を前記第1トルク補正量よりも小さくする、
力決定方法。