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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112072
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ信号受信装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20240813BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240813BHJP
   H01Q 3/38 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G01S7/02 210
H01Q21/06
H01Q3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016913
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021DB03
5J021EA05
5J021FA26
5J021FA33
5J021GA05
5J021GA06
5J021HA04
5J070AB01
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD07
5J070AD09
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】 不要波環境下でも、比較的少ない処理規模で不要波を抑圧して、高精度な観測値を出力する。
【解決手段】 実施形態に係るレーダ装置によれば、アンテナ開口をN個のサブアレイアンテナに分割し、それぞれの受信信号を周波数変換及びディジタル変換してサブアレイDBFによりビームを形成し、N個のサブアレイアンテナのうちn番目以外のサブアレイアンテナの出力信号を用いて補助ビームを形成し、補助ビームによるSLC処理によってn番目のサブアレイアンテナに入力される不要波を抑圧し、N個のサブアレイアンテナの不要波抑圧後の信号を用いてDBFによりΣビームを形成し、Σビームの信号から目標を検出し、検出された目標のレンジ-ドップラ軸の検出セルを抽出して測距・測速し、さらに検出セルを用いてDBFによりΔビームを形成し、Σ及びΔビームによりモノパルス測角を行って、目標の3次元の位置を観測値として出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ開口をN(N≧2)個のサブアレイアンテナに分割し、前記N個のサブアレイアンテナのそれぞれでレーダ信号を送信し、前記N個のサブアレイアンテナで受信されるレーダ信号を周波数変換及びディジタル変換してビームを形成するサブアレイDBF(Digital Beam Forming)アンテナと、
前記N個のサブアレイアンテナのうち、n(n=1~N)番目以外のサブアレイアンテナの出力信号を用いて補助ビームを形成し、前記補助ビームによるSLC(Sidelobe Canceller)処理によってn番目のサブアレイアンテナに入力される不要波を抑圧する不要波抑圧手段と、
前記N個のサブアレイアンテナの前記不要波の抑圧後の信号を用いて、DBFによりΣビームを形成し、前記Σビームの信号から目標を検出し、検出された目標のレンジ-ドップラ軸の検出セルを抽出して測距・測速し、さらに前記検出セルを用いて、DBFによりΔビームを形成し、前記Σビーム及び前記Δビームによりモノパルス測角を行って、前記目標の3次元の位置を観測値として出力する目標検出手段と
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
上記不要波抑圧手段は、さらに前記検出セルに対して、前記N個のサブアレイアンテナの一部または全部を用いて、検出用のΣビームのサイドローブを覆う補助チャンネルのビームを形成し、前記Σビームと前記補助チャンネルのビームによりSLB(Sidelobe Blanker)処理して、誤検出を抑圧する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
アンテナ開口をN(N≧2)個のサブアレイアンテナに分割し、前記N個のサブアレイアンテナのそれぞれで受信されるレーダ信号を周波数変換及びディジタル変換してビームを形成するサブアレイDBF(Digital Beam Forming)アンテナと、
前記N個のサブアレイアンテナのうち、n(n=1~N)番目以外のサブアレイアンテナの出力信号を用いて補助ビームを形成し、前記補助ビームによるSLC(Sidelobe Canceller)処理によってn番目のサブアレイアンテナに入力される不要波を抑圧する不要波抑圧手段と、
前記N個のサブアレイアンテナの前記不要波の抑圧後の信号を用いて、DBFによりΣビームを形成し、前記Σビームの信号から目標を検出し、検出された目標のレンジ-ドップラ軸の検出セルを抽出して測距・測速し、さらに前記検出セルを用いて、DBFによりΔビームを形成し、前記Σビーム及び前記Δビームによりモノパルス測角を行って、前記目標の3次元の位置を観測値として出力する目標検出手段と
を具備するレーダ信号受信装置。
【請求項4】
上記不要波抑圧手段は、さらに前記検出セルに対して、前記N個のサブアレイアンテナの一部または全部を用いて、検出用のΣビームのサイドローブを覆う補助チャンネルのビームを形成し、前記Σビームと前記補助チャンネルのビームによりSLB(Sidelobe Blanker)処理して、誤検出を抑圧する請求項3記載のレーダ信号受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びレーダ信号受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
捜索用として採用されているSIMO(Single Input Multiple Output)型のレーダ装置は、捜索範囲に送信ファンビームを形成し、受信はマルチビームにより観測する構成であり、高データレートに目標を観測できる長所がある。ただし、同時に形成する受信ビーム数がサブアレイ数よりも多くなると、クラッタ、長パルスや短パルスの干渉波等の不要波が発生する環境下では、モノパルス測角に必要なΔビ-ム(ΔAZ,ΔEL)を含めて、ビーム毎に不要波抑圧処理が必要になり、処理規模が大幅に増える問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】SLC(sidelobe canceller)、SLB(sidelobe blanker):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.295-296(1996)
【非特許文献2】MSN(最大SNR(Signal to Noise Ratio)法)、SMI(Sampled Matrix Inversion):菊間、‘アレーアンテナによる適応信号処理’、科学技術出版、pp.67-86(2004)
【非特許文献3】パルス圧縮:大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献4】CFAR(Constant False Alarm Rate):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献5】DBF(Digital Beam Forming):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp. 289-291(1996)
【非特許文献6】モノパルス測角:吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp. 260-264(1996)
【非特許文献7】周波数サンプリング法:中村、‘デジタルフイルタ’、東京電機大学出版局、pp.79-84(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態の課題は、不要波環境下でも、比較的少ない処理規模で不要波を抑圧して、高精度な観測値を出力することのできるレーダ装置及びレーダ信号受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、実施形態に係るレーダ装置は、
アンテナ開口をN(N≧2)個のサブアレイアンテナに分割し、前記N個のサブアレイアンテナのそれぞれでレーダ信号を送信し、前記N個のサブアレイアンテナのそれぞれで受信されるレーダ信号を周波数変換及びディジタル変換してビームを形成するサブアレイDBF(Digital Beam Forming)アンテナと、
前記N個のサブアレイアンテナのうち、n(n=1~N)番目以外のサブアレイアンテナの出力信号を用いて補助ビームを形成し、前記補助ビームによるSLC(Sidelobe Canceller)処理によってn番目のサブアレイアンテナに入力される不要波を抑圧する不要波抑圧手段と、
前記N個のサブアレイアンテナの前記不要波の抑圧後の信号を用いて、DBFによりΣビームを形成し、前記Σビームの信号から目標を検出し、検出された目標のレンジ-ドップラ軸の検出セルを抽出して測距・測速し、さらに前記検出セルを用いて、DBFによりΔビームを形成し、前記Σビーム及び前記Δビームによりモノパルス測角を行って、前記目標の3次元の位置を観測値として出力する目標検出手段と
を具備する。
【0006】
上記構成によれば、サブアレイアンテナ毎に不要波を抑圧した後、測角に必要なΔビームを形成することで、サブアレイアンテナ数より多いビーム数を形成する場合でも、処理規模を低減することができる。
【0007】
さらに、上記不要波抑圧手段は、検出セルに対して、N個のサブアレイアンテナの一部または全部を用いて、検出用のΣビームのサイドローブを覆う補助チャンネルのビームを形成し、Σビームと補助チャンネルのビームによりSLB(Sidelobe Blanker)処理して、誤検出を抑圧する。
【0008】
上記構成によれば、長パルスの不要波はサブアレイ毎のSLC処理により抑圧した上で、短パルスの干渉波に対して、全体のレンジ-ドップラセルに対する補助チャンネルのビームを形成することなく、検出セルのみの補助チャンネルのビームを形成することで、処理規模を低減して、長パルス及び短パルスの不要波に対してもSLB処理により不要波を抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示すレーダ装置のアンテナ開口をN(N≧2)個に分割したサブアレイアンテナの配列構成を示す概念図である。
図3図3は、図2に示すサブアレイアンテナの送受共用構成を示すブロック図である。
図4図4は、図1に示すレーダ装置に適用されるSLC処理の構成を説明するための概念図である。
図5図5は、図4に示すSLC処理によってサイドローブが抑圧される様子を示す波形図である。
図6図6は、図4に示すSLC処理によって不要波が抑圧される様子を示す波形図である。
図7図7は、図1に示すレーダ装置に適用される補助ビームの形成によって不要波が抑圧される様子を示す波形図である。
図8図8は、図1に示すレーダ装置に適用されるモノパルス測角処理を説明するための波形図である。
図9図9は、図1に示すレーダ装置に適用されるサブアレイアンテナのビーム方向を空間座標系に示す図である。
図10図10は、第2の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図である。
図11図11は、図10に示すレーダ装置に適用されるSLB処理の構成を説明するための概念図である。
図12図12は、図11に示すSLB処理によって不要波が抑圧される様子を示す波形図である。
図13図13は、図11に示すSLB処理によってΣビームのサイドローブからの目標誤検出を抑圧する様子を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1乃至図9を参照して、第1の実施形態について説明する。
【0012】
図1は第1の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。また、図2図1に示すレーダ装置に用いられるサブアレイアンテナが送受共用の構成を示す概念図、図3図2に示すサブアレイアンテナの送受共用構成を示すブロック図である。ここで、図1図2図3では、送信系統、受信系統の構成が、同一地点で送信系統のサブアレイアンテナと受信系統のサブアレイアンテナを共用するものとして説明するが、送信系統のサブアレイアンテナと受信系統のサブアレイアンテナを分離して、互い離れた地点に配置することも可能である。
【0013】
まず、図1(a)に示すレーダ装置の送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換した後、パルス変調器14でパルス変調して送信信号を生成し、図2に示すようにアンテナ開口をN分割したN系統のサブアレイアンテナ(1~N)151~15Nに入力する。
【0014】
ここで、サブアレイアンテナ15i(i=1~N)は、図3に示すように、送信給電回路A1、Ns個の送受信モジュールA21~A2Ns、受信給電回路A3を備える。
【0015】
上記送信給電回路A1は、送信系統からの送信信号をl個の送受信モジュールA2(1)~A2(l)に分配する。
【0016】
上記送受信モジュールA2(i)(i=1~l)は、送信給電回路A1からの送信信号を移相器a1で位相制御し、高出力増幅器a2で高出力増幅し、サーキュレータa3を経由して、アンテナ素子a4から送出する。また、アンテナ素子a4で受信された信号を、サーキュレータa3を経由して、低雑音増幅器a5により低雑音で増幅し、移相器a6で位相制御して、受信給電回路A3に送る。
【0017】
上記受信給電回路A3は、Ns個の送受信モジュールA21~A2Nsからの受信信号を合成して、受信サブアレイ信号として図1(b)に示す受信系統に出力する。
【0018】
図1(b)に示す受信系統では、N系統のサブアレイアンテナ(1~N)15i(i=1~N)で受信された信号を周波数変換器16iでベースバンドに周波数変換し、AD変換器17iでディジタル信号に変換する。次に、レンジ圧縮器18iでレンジ方向にパルス圧縮(非特許文献3)し、slow-time軸FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理器19iでドップラ軸(周波数領域)の信号に変換して、N(N≧2)チャンネル(以下、ch)のサブアレイアンテナ毎にレンジ-ドップラセルの信号(以下、RDデータ)を得る。
【0019】
このRDデータには、クラッタや干渉波が発生する環境下では、不要信号が含まれている。これを抑圧するために、SLC処理(非特許文献1参照)を用いる。このSLC処理について、図4乃至図6を参照して説明する。図4図1に示すレーダ装置に適用されるSLC処理の構成を説明するための概念図、図5図4に示すSLC処理によってサイドローブが抑圧される様子を示す波形図、図6図4に示すSLC処理によって不要波が抑圧される様子を示す波形図である。
【0020】
すなわち、SLC処理では、図4に示すように、主アンテナ(主ch)41の出力Y0、補助アンテナ(補助ch)42の入力X、制御ウェイト生成器43で生成される制御ウェイトWを用いて、減算器44で主アンテナ31の出力Y0から補助アンテナ42の出力W・Xを減算してアンテナ出力Yとし、相関器45でアンテナ出力Yと補助アンテナ42の入力Xとの相関をとって、相関結果を制御ウェイト生成器43にフィードバック演算することにより、角度軸サイドローブから到来する不要波を抑圧する。種々のアルゴリズムがあるが、例えば、MSN(最大SNR(Signal to Noise Ratio)法)による最急降下法を用いる場合は、アダプティブウェイトは次式となる(非特許文献2参照)。
【0021】
【数1】
【0022】
(1)式は、反復演算によりアダプティブウェイトを算出する手法であり、ウェイトが最適化されるまでに過渡応答が生じる。これを防ぐためには、SMI(Sampled Matrix Inversion:非特許文献2参照)手法がある。また、SMIでは不要信号の短時間の時間変化に対応できない場合には、例えばSMIで算出したウェイトを(1)式の初期ウェイトW(0,m)として、(1)式によるウェイト演算する手法がある。
【0023】
本実施形態では、図1(b)の受信系統に示すように、補助ビーム形成器20iでサブアレイアンテナ15i毎に補助アンテナによる補助ビームを形成し(図5(a))、SLC処理器21iでサブアレイアンテナ15i毎にSLC処理によるウェイト収束(図5(b))とヌル形成(図5(c))を行う。この場合、主chは各サブアレイアンテナであり、観測範囲全体を観測する。一方、補助chは、主ch以外のサブアレイアンテナを用いる。サブアレイアンテナが同一のアンテナの場合は、主chのビーム形状と補助chのビーム形状が図6(a)に示すように類似である。この場合、サブアレイアンテナ1chでは、主ch<補助chの条件を満足できない場合があるが、複数のサブアレイアンテナを用いることにより、図6(b)に示すように、不要波方向にヌルを形成して不要波を抑圧することができる。
【0024】
また、サブアレイアンテナ15iは主chのメインローブ方向に応答を持つため、不要波方向にヌルを形成する際に、メインローブのレベル変動が生じる場合がある。これを避けるためには、補助ch用の複数のサブアレイアンテナを用いて、図1(b)の補助ビーム形成器20iにより、主chのメインローブ方向にヌルを形成した補助ビームを用いればよい。図7に、補助ビームの形成によって不要波が抑圧される様子を示す。すなわち、主chのメインローブ方向にヌルを形成するためには、例えば、各サブアレイアンテナでは、図7(a)に示すように、メインローブ方向に向ける位相を設定した後、主ch以外のサブアレイアンテナを2ch選定して、2chの差の演算をすればよい。2chでは不要波方向の振幅レベルが不足する場合は、モノパルスビームの開口2分割によるΔビームの演算と同様に、サブアレイアンテナを複数選定して、合成した信号の差の演算をすればよい。この場合は、不要波方向にヌルを形成する場合にも、図7(b)に示すように、主chのメインローブ方向のレベル変動が小さくすることができる。
【0025】
以上は、サブアレイアンテナの受信信号(以下、サブアレイ信号)を用いて、主chと補助chによる空間軸(角度軸)のサイドローブで不要波を抑圧する手法について述べた。メインローブのクラッタを抑圧するには、空間軸では抑圧できないため、slow-time軸FFT後のドップラ軸で抑圧すればよい。
【0026】
そこで、図1(b)に示すように、SLC処理器21iの出力をDBFΣビーム形成器22に入力し、不要波を抑圧後のサブアレイ信号を用いて、DBF(非特許文献5参照)によりΣビームを形成し、そのΣビーム受信信号をCFAR検出器23に入力して、CFAR(Constant False Alarm Rate)(非特許文献4参照)処理による目標検出を行い、検出されたセル番号をセル選定器24iに出力する。セル選定器24iは、対応チャンネルのSLC処理器21iから出力されるサブアレイ信号のレンジ-ドップラ軸の検出レンジセルを選定し、選定された検出レンジセルの信号をDBFΔビーム形成器25に出力する。DBFΔビーム形成器25は、選定された検出レンジセルの信号を用いてDBF処理によりΔ(ΔAZとΔEL)ビームを形成し、Δビームの受信信号をモノパルス測角器26に出力する。
【0027】
モノパルス測角器26は、ΣビームとΔ(ΔAZ、ΔEL)ビームの受信信号からモノパルス測角(非特許文献6参照)を行う。これは、ΣビームとΔビームにより、次式で示す誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて測角する手法である。図8(a)にΣビーム及びΔビームの振幅/角度波形図、図8(b)に誤差曲線(Real[Δ/Σ])の角度/誤差電圧波形図を示す。
【0028】
【数2】
【0029】
以上の測角値と検出レンジセルの信号を測距・測速演算器27に入力して、次式により測距値を算出し、図9に示す目標の3次元の座標(X,Y,Z)を観測値として算出する。
【0030】
【数3】
【0031】
また、PRF(Pulse Repetition Frequency)で決まる速度以下の場合は、検出レンジセルに対応する検出ドップラセルにより目標速度を算出する。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置によれば、同時に形成する受信ビーム数がサブアレイアンテナの個数よりも多くなったとしても、サブアレイアンテナ毎に不要波を抑圧した後に、モノパルス測角に必要なΔビーム(ΔAZ,ΔEL)を形成するため、不要波が発生する環境下において、ビーム毎の不要波抑圧処理が不要となり、不要波環境下でも、比較的少ない処理規模で不要波を抑圧して、高精度な観測値を出力することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、サブアレイアンテナ毎にSLC処理して、不要波を抑圧する手法について述べた。ただし、SLC処理は、ウェイトを算出するために不要波が連続波や長パルスを持つ必要があり、短パルスの不要波は抑圧することができない。また、アンテナサイドローブが高い場合には、サイドロ-ブで受信した目標信号が、短パルスと同様に、不要波として誤検出になる場合がある。本実施形態では、この短パルスの不要波に対する対策について、図10乃至図13を参照して説明する。
【0034】
図10は第2の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図、図11図10に示すレーダ装置に適用されるSLB処理の構成を説明するための概念図、図12図11に示すSLB処理によって不要波が抑圧される様子を示す波形図、図13図11に示すSLB処理によってΣビームのサイドローブからの目標誤検出を抑圧する様子を示す波形図である。なお、図10において、図1(b)と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0035】
本実施形態の受信系統は、図10に示すように、最も厳しい長パルスと短パルスの複合環境下において、第1の実施形態の手法で、サブアレイアンテナ毎に補助ビーム形成器20i及びSLC処理器21iにより長パルスの不要波を抑圧し、DBFΣビーム形成器22でΣビームを形成した後、CFAR検出器12により目標検出を行う。目標が検出されたレンジセルには、Σビームのサイドロ-ブが高い場合には、サイドローブからの不要波信号が含まれる場合がある。これを抑圧するために、本実施形態ではSLB(非特許文献2参照)を行う。このSLB処理の原理を図11及び図12で説明する。
【0036】
SLB処理は、図11において、主アンテナ(主ch)51の受信信号Y1と補助アンテナ(補助ch)52の受信信号X1とを比較器53で比較し、受信信号レベルが主ch<補助chの場合に、不要波がサイドローブから受信したと判定して、スイッチ54で受信信号出力をオフすることにより、不要波を抑圧する。これは、図12(a)に示すように、主chのサイドロ-ブを覆うように補助chを選定しておき、受信信号レベルが主ch>補助chの場合には、受信オンとして主ch受信信号を出力し、図12(b)に示すように、受信信号レベルが主ch<補助chの場合には、不要波がサイドローブから受信したと判定して、受信オフとすることにより、不要波を抑圧する処理である。このように検出セル毎にSLB判定を行うことで、誤検出を抑圧することができる。
【0037】
ここで、図10に示す受信系統では、DBF補助ビーム形成器28で補助ビーム(Σ、ΔAZ,ΔEL)を形成して、CFAR検出器23からの検出セルの指定を受けて、ビーム選定器29で補助chを選定し、SLB処理器30でSLB処理を行い、検出セル選定器31で目標の検出セルを選定した後、モノパルス測角器26で測角し、測距・測速演算器27で測距値を算出し、目標の3次元の座標(X,Y,Z)を観測値として算出する。
【0038】
すなわち、本実施形態では、不要波の到来方向が未知の場合で、サイドローブが比較的低い場合には、図13(a)に示すように、主chのサイドローブ全体を覆うように、DBF補助ビーム形成器28で補助ビーム(Σ、ΔAZ,ΔEL)を形成して、ビーム選定器29で補助chを選定する。一方、主chのサイドローブが高い方向が予めわかっている場合には、図13(b)に示すように、その方向の補助chのレベルを主chのサイドローブよりも高くなるように補助ビーム(Σ、ΔAZ,ΔEL)ビーム形成する。一般に、主chのサイドローブ全体を覆う補助chを生成することが困難な場合は、サイドローブが高い方向を予め確認しておくことにより補助chを形成しやすくなる。この補助ch用のビームは、レンジ-ドップラ軸の検出セルのみについて行うことで、処理規模を低減できる。
【0039】
補助ビームyを定式化すると次の通りである。
【0040】
【数4】
【0041】
補助ウェイトWは、主chサイドローブが高い方向に指向性の高いビームを形成するように設定する。主chのサイドローブが高い方向が広範囲の場合は、周波数フィルタの設計で用いる周波数サンプリング法(非特許文献7参照)を用いて、主chのサイドローブを覆う補助ビームの指向性を空間周波数軸で設定し、その逆フーリエ変換により、補助chの複素ウェイトWを算出することができる。
【0042】
以上のSLB処理によりΣビームのサイドローブからの誤検出を抑圧できるため、CFAR検出した信号の中から目標信号のみを抽出して、モノパルス測角及び測距・測速を演算し、(5)式の演算により、3次元の観測値を出力することができる。
【0043】
以上のSLC処理及びSLB処理は、レーダ装置に適用する場合について述べたが、送信機能のない受信装置の場合で、長パルスや短パルスの不要波に対して同様の処理により、不要波を抑圧できるのは言うまでもない。
【0044】
以上実施形態のビーム形成は、簡単のために、1次元のサブアレイについて述べたが、2次元のサブアレイの場合でも、同様の方式を拡張できる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0046】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、151~15N…サブアレイアンテナ(1~N)、161~16N…周波数変換器、171~17N…AD変換器、181~18N…レンジ圧縮器、191~19N…slow-time軸FFT処理器、201~20N…補助ビーム形成器、211~21N…SLC処理器、22…DBFΣビーム形成器、23…CFAR検出器、241~24N…セル選定器、25…DBFΔビーム形成器、26…モノパルス測角器、27…測距・測速演算器、28…DBF補助ビーム形成器、29…ビーム選定器、30…SLB処理器、31…検出セル選定器、
41…主アンテナ(主ch)、42…補助アンテナ(補助ch)、43…制御ウェイト生成器、44…減算器、45…相関器、
A1…送信給電回路、A2(1)~A2(l)…送受信モジュール、A3…受信給電回路、
a1…移相器、a2…高出力増幅器、a3…サーキュレータ、a4…アンテナ素子、a5…低雑音増幅器、a6…移相器、
51…主アンテナ(主ch)、52…補助アンテナ(補助ch)、53…比較器、54…スイッチ。
図1
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図13