(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112078
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】材料評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240813BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20240813BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/70
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016923
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】平尾 理恵
(72)【発明者】
【氏名】平田 優介
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘広
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029CC01
4B029FA11
4B029GB06
4B063QA01
4B063QA06
4B063QQ05
4B063QR66
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】アッセイ液を用いて平板状材料を評価する方法において、操作を簡便化し、経時的な測定を可能にする。
【解決手段】貫通孔を有する枠状のアダプタを用意し、貫通孔の一方の開口を形成するアダプタの端部が、評価対象物である平板状材料に接するように、平板状材料の表面にアダプタを固着させ、平板状材料を評価するためのアッセイ液をアダプタの貫通孔内に配置して、アッセイ液内において、平板状材料の表面の特定の状態に応じて進行する反応を進行させ、貫通孔内のアッセイ液に対してアダプタの外部に配置した照射部から照射光を照射し、アダプタの外部に配置した検出部において、照射光の照射の結果としてアッセイ液との反応から得られる検出光を検出し、検出光を検出した検出結果を用いて、平板状材料の表面における前記特定の状態を評価する材料評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料評価方法であって、
貫通孔を有する枠状のアダプタを用意し、
前記貫通孔の一方の開口を形成する前記アダプタの端部が、評価対象物である平板状材料に接するように、前記平板状材料の表面に前記アダプタを固着させ、
前記平板状材料を評価するためのアッセイ液を前記アダプタの前記貫通孔内に配置して、前記アッセイ液内において、前記平板状材料の表面の特定の状態に応じて進行する反応を進行させ、
前記貫通孔内の前記アッセイ液に対して前記アダプタの外部に配置した照射部から照射光を照射し、
前記アダプタの外部に配置した検出部において、前記照射光の照射の結果としてアッセイ液との反応から得られる検出光を検出し、
前記検出光を検出した検出結果を用いて、前記平板状材料の表面における前記特定の状態を評価する
材料評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の材料評価方法であって、
前記平板状材料の表面における前記特定の状態の評価は、前記検出光の経時的な変化を継続的に検出することにより行う
材料評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の材料評価方法であって、
前記平板状材料および前記アダプタとして、複数の平板状材料およびアダプタを用意し、
マルチウェルプレートの各ウェル内において、一対の前記平板状材料と前記アダプタとを固着させると共に、各アダプタの前記貫通孔内にアッセイ液を配置し、
前記マルチウェルプレートを対象として、前記照射光の照射および前記検出光の検出を行う
材料評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載の材料評価方法であって、
前記アダプタとして複数のアダプタを用意し、
前記平板状材料の表面への前記アダプタの固着は、前記平板状材料の異なる複数の位置の各々に、前記アダプタを固着させることによって行う
材料評価方法。
【請求項5】
請求項1に記載の材料評価方法であって、
前記照射部および前記検出部は、前記アダプタが有する前記貫通孔の他方の開口から前記貫通孔の軸線方向に沿って、前記アダプタから離間した位置に設けられている
材料評価方法。
【請求項6】
請求項1に記載の材料評価方法であって、
前記アダプタとして、少なくとも前記貫通孔の一方の開口を形成する端部を含む部位が粘着性樹脂によって形成されるアダプタを用い、
前記粘着性樹脂が有する粘着性を利用して、前記平板状材料の表面に前記アダプタを着脱可能に固着させる
材料評価方法。
【請求項7】
請求項1に記載の材料評価方法であって、
前記アッセイ液として、蛍光タンパク質で標識された模擬ウイルス粒子を含む液を用い、
前記検出部が前記検出光として検出した蛍光の強度により、前記平板状材料の表面における前記特定の状態として、前記平板状材料の表面における抗ウイルス性を評価する
材料評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、評価対象材料の表面の状態を評価するための種々の方法が知られている。例えば、JIS R1756:2020には、抗ウイルス加工を施した製品の表面における抗ウイルス性を評価する方法が記載されている。ここでは、評価対象物である試験片(5cm角)上にウイルス液を滴下してフィルム(4cm角)で被覆して所定条件で培養し、その後、試験片とフィルムからウイルスを洗い出して、得られた洗浄液中のウイルス数を寒天培地に生じるプラーク数として測定する方法が記載されている。
【0003】
また、液体試料を対象とする測定する方法としては、マイクロプレート等を用いた種々の方法が知られている。例えば、非特許文献1では、マイクロリアクターアレイを用いて生体分子を検出するバイオアッセイの方法であって、ハイスループットアッセイが可能になる方法が開示されている。そして、特許文献1には、液体試料の吸光度を光学的に測定するのに適したマイクロチップアセンブリが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rikiya Watanabe et al., Lab Chip, 2018, 18, 2849-2853
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したJISに規定される抗ウイルス性の評価方法では、試験片と接触させたウイルス液を含む上記洗浄液を寒天培地上で培養する工程を伴うため、液体を回収するサンプリング操作や培養に係る操作など、煩雑な操作を行う必要があった。また、上記した抗ウイルス性の評価方法では、試験片とウイルス液とを接触させて特定の時間が経過したときに、ウイルス液を含む液の回収および培養等を含む操作を行って評価するため、試験片とウイルス液とを接触させる時間が制限されて、試験片とウイルス液とを接触させた後の経時的な変化の時間分解能を高めることが困難であった。既述した特許文献1や非特許文献1に記載のように、液体試料を対象とする評価方法では、マイクロリアクターアレイやマイクロチップアセンブリ等の装置に液体試料とアッセイ液とを投入して光学的手法等を用いて測定する方法のように、比較的簡便な操作による評価が可能であった。また、測定のタイミングが特に制限されることなく、液体試料の経時変化に対応する測定が可能であった。しかしながら、平板状材料のような固体の材料と、評価のためのアッセイ液と、を接触させて評価する方法においては、このような簡便な測定方法は知られておらず、評価のための操作の簡便化や、測定の時間分解能を高めることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、材料評価方法が提供される。この材料評価方法では、貫通孔を有する枠状のアダプタを用意し、前記貫通孔の一方の開口を形成する前記アダプタの端部が、評価対象物である平板状材料に接するように、前記平板状材料の表面に前記アダプタを固着させ、前記平板状材料を評価するためのアッセイ液を前記アダプタの前記貫通孔内に配置して、前記アッセイ液内において、前記平板状材料の表面の特定の状態に応じて進行する反応を進行させ、前記貫通孔内の前記アッセイ液に対して前記アダプタの外部に配置した照射部から照射光を照射し、前記アダプタの外部に配置した検出部において、前記照射光の照射の結果としてアッセイ液との反応から得られる検出光を検出し、前記検出光を検出した検出結果を用いて、前記平板状材料の表面における前記特定の状態を評価する。
この形態の材料評価方法によれば、平板状材料の表面に固着させたアダプタ内のアッセイ液において、平板状材料の表面の特定の状態に応じた反応を進行させ、アッセイ液に対して照射光を照射すると共に、照射の結果としてアッセイ液との反応から得られる検出光を検出して、平板状材料の表面の特定の状態を評価する。そのため、平板状材料を評価するための測定時に、アッセイ液の回収や回収したアッセイ液の処理等の操作が不要になり、評価のための操作を簡便化することができる。また、アッセイ液中で上記反応が進行する状態で検出光を検出することができるため、測定のタイミングが制限されることがなく、測定の時間分解能を高めて経時的な測定を容易に行うことができる。
(2)上記形態の材料評価方法において、前記平板状材料の表面における前記特定の状態の評価は、前記検出光の経時的な変化を継続的に検出することにより行うこととしてもよい。このような構成とすれば、検出光の測定値の時間に対する傾き等の測定値の変化の傾向を求めることにより、より精度良く平板状材料を評価することが可能になる。また、検出のためにアッセイ液の回収や回収したアッセイ液の処理等の特別な操作が不要であるため、より短い時間間隔での継続的な検出が可能になり、評価の際の時間分解能を高めることができる。
(3)上記形態の材料評価方法において、前記平板状材料および前記アダプタとして、複数の平板状材料およびアダプタを用意し、マルチウェルプレートの各ウェル内において、一対の前記平板状材料と前記アダプタとを固着させると共に、各アダプタの前記貫通孔内にアッセイ液を配置し、前記マルチウェルプレートを対象として、前記照射光の照射および前記検出光の検出を行うこととしてもよい。このような構成とすれば、マルチウェルプレートを対象として検出を行うことができるため、多数の平板状材料を評価対象物として一度に評価するハイスループット評価を容易に行うことができる。また、共通する形状のアダプタを用いる場合には、用意する平板状材料の大きさを精度良く揃えることなく、平板状材料の単位面積当たりの評価が可能になる。
(4)上記形態の材料評価方法において、前記アダプタとして複数のアダプタを用意し、前記平板状材料の表面への前記アダプタの固着は、前記平板状材料の異なる複数の位置の各々に、前記アダプタを固着させることによって行うこととしてもよい。このような構成とすれば、平板状材料を切断等することなく、平板状材料の表面における複数の所望の箇所の評価を同時に行うことができる。また、評価対象箇所の位置情報と、検出結果との対応付けが容易になり、平板状材料の表面の位置ごとの評価を容易に行うことができる。
(5)上記形態の材料評価方法において、前記照射部および前記検出部は、前記アダプタが有する前記貫通孔の他方の開口から前記貫通孔の軸線方向に沿って、前記アダプタから離間した位置に設けられていることとしてもよい。このような構成とすれば、照射部と検出部とを含む測定装置の構成を簡素化することができる。また、貫通孔の開口から照射光の照射および検出光の取得を行うため、アダプタの材料にかかわらず検出および評価を行うことができる。
(6)上記形態の材料評価方法において、前記アダプタとして、少なくとも前記貫通孔の一方の開口を形成する端部を含む部位が粘着性樹脂によって形成されるアダプタを用い、前記粘着性樹脂が有する粘着性を利用して、前記平板状材料の表面に前記アダプタを着脱可能に固着させることとしてもよい。このような構成とすれば、アダプタの固着の動作を簡素化できると共に、アダプタの固着に起因する平板状材料の表面の損傷を抑えることができる。また、アダプタの再利用が可能になる。
(7)上記形態の材料評価方法において、前記アッセイ液として、蛍光タンパク質で標識された模擬ウイルス粒子を含む液を用い、前記検出部が前記検出光として検出した蛍光の強度により、前記平板状材料の表面における前記特定の状態として、前記平板状材料の表面における抗ウイルス性を評価することとしてもよい。このような構成とすれば、感染性を有しない模擬ウイルス粒子を用いることで、より高い安全性を確保しつつ、抗ウイルス性を評価することができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、材料評価方法において用いるアダプタや、材料の抗菌性の評価方法や、材料の抗ウイルス性の評価方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2A】アダプタを用いて材料評価方法を実行する様子を模式的に表す説明図。
【
図2B】アダプタを用いて材料評価方法を実行する様子を模式的に表す説明図。
【
図3】アダプタを用いて材料評価方法を実行する様子を模式的に表す説明図。
【
図4】アダプタを用いない材料評価方法の一例を示す説明図。
【
図6】第2実施形態の変形例の材料評価方法の説明図。
【
図7】第3実施形態の材料評価方法の様子を示す説明図。
【
図8】アダプタの密着性を評価した結果をまとめた説明図。
【
図9A】実施例のアダプタを用いたタイムラプス測定の結果を示す説明図。
【
図9B】フィルム密着法によるタイムラプス測定の結果を示す説明図。
【
図9C】アダプタを用いた逐次サンプリング測定の結果を示す説明図。
【
図10】VLP-RFPを用いた抗ウイルス評価を行った結果を示す説明図。
【
図11】1価の銅イオンの溶出を評価した結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としての材料評価方法を表す説明図であり、
図2Aおよび
図2Bは、アダプタ10を用いて上記材料評価方法を実行する様子を模式的に表す説明図である。本実施形態の材料評価方法は、評価対象物である平板状材料20の表面の特定の状態を評価する方法である。
図1、
図2A、
図2B、および後述する
図3には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。X軸およびY軸は水平方向を示し、Z軸は鉛直方向を示す。+Z方向が、鉛直上方を示す。
図2Aは断面図を表し、
図2Bは平面図を表す。
図2Bにおいて、
図2Aの断面図の位置をA-A断面として示している。
【0010】
本実施形態の材料評価方法を実行する際には、まず、評価対象物である平板状材料20、および、アダプタ10を用意する(工程T100)。アダプタ10は、貫通孔12を有する枠状の部材である。
図2Aおよび
図2Bではアダプタ10を円筒状に表しているが、アダプタ10は異なる形状であってもよく、例えば、三角形や矩形を含む多角形形状の断面を有する筒状とすることができる。アダプタ10において貫通孔12の一方の開口を形成する端部14(以下、一方の端部14とも呼ぶ)は、平板状材料20への固着を容易にするために、アダプタ10の軸線方向に垂直な平面を形成する形状であることが望ましい。また、アダプタ10は、後述するアッセイ液と実質的に反応しない材料により構成すればよい。アッセイ液との反応に関連して、アダプタ10は、実質的に吸水性を有しない材料により構成することが望ましい。
【0011】
次に、平板状材料20における評価対象となる表面に、アダプタ10の上記一方の端部14を固着させる(工程T110)。平板状材料20とアダプタ10との固着は、液密な状態、すなわち、アダプタ10の貫通孔12内に後述するアッセイ液を配置したときに、アッセイ液が平板状材料20とアダプタ10との界面から実質的に漏れない密着性が保たれるものであればよい。なお、
図2Aおよび
図2Bに示すように、アダプタ10としては、平板状材料20よりも断面形状が小さく、アダプタ10の外周全体が平板状材料20の外周からはみ出すことなく平板状材料20上に配置することができる部材を用いればよい。
【0012】
平板状材料20へのアダプタ10の固着は、アダプタ10における少なくとも一方の端部14を含む部位が粘着性樹脂により形成される場合には、粘着性樹脂が有する粘着性を利用して行えばよい。すなわち、アダプタ10の一方の端部14を、平板状材料20の表面に押し当てることにより、アダプタ10を平板状材料20の表面に密着させればよい。このような構成とすれば、アダプタ10を平板状材料20に押し当てるという簡便な動作により、容易にアダプタ10の固着を行うことができる。アダプタ10を構成する粘着性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)や、シリコーンゴムや、ブタジエンゴムを用いることができる。高い密着性を得られる観点からは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が、より望ましい。また、種々のアッセイ液との反応性が低いという観点からは、シリコーンゴムやポリジメチルシロキサン(PDMS)が、より望ましい。このようにして平板状材料20にアダプタ10を固着させる場合には、樹脂の硬度が過度に高いと、十分な密着性を得ることが困難になり易く、樹脂の硬度が過度に低いと、アダプタ10内にアッセイ液を保持した状態で十分な密着性を保持する強度を得ることが困難になる。そのため、平板状材料20の表面粗さや、平板状材料20とアダプタ10との固着の相性等を考慮して、十分な密着性が得られるように、アダプタ10を構成する粘着性樹脂の種類や硬度等を適宜選定すればよい。
【0013】
あるいは、平板状材料20へのアダプタ10の固着は、接着剤を介して行ってもよい。用いる接着剤の種類に特に制限は無いが、例えば、 シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤を用いることができる。接着剤は、平板状材料20やアダプタ10との接着の相性等を考慮して十分な接着性が得られるように、また、アッセイ液と実質的に反応しないものを、適宜選択すればよい。接着剤を用いる場合には、アダプタ10の材料に粘着性は不要となるため、アダプタ10の材料の選択の自由度が増す。例えば、樹脂以外のガラス等の材料によりアダプタ10を構成することとしてもよい。ただし、上記したようにアダプタ10の粘着性を利用してアダプタ10を平板状材料20に着脱可能に固着する場合には、アダプタ10の固着の動作をより簡素化することが可能になると共に、アダプタ10との固着に起因して平板状材料20の表面が損傷することを抑えることができる。なお、着脱可能とは、平板状材料20からアダプタ10を引き剥がしたときに、平板状材料20の表面に実質的にアダプタ10の一部を残留させることなく、平板状材料20の表面からアダプタ10を除去できることをいう。このようにアダプタ10と平板状材料20とを着脱可能にすることで、アダプタ10の再利用が可能になる。
【0014】
工程T110において平板状材料20にアダプタ10を固着させた後は、アダプタ10の貫通孔12内にアッセイ液30を配置して、このアッセイ液30内において、平板状材料20の表面の特定の状態に応じて進行する反応を進行させる(工程T120)。その後、アッセイ液30に対して、アダプタ10の外部に配置した照射部40から照射光を照射する(工程T130)。そして、アダプタ10の外部に配置した検出部45において、上記照射光の照射の結果としてアッセイ液30との反応によって得られる検出光を検出し、検出結果を用いて平板状材料20の表面における特定の状態を評価する(工程T150)。
【0015】
ここで、用いられるアッセイ液30、アッセイ液30内で進行する反応、および、照射光や検出光の種類は、評価対象である平板状材料20の表面における評価対象項目としての「特定の状態」に応じて適宜設定される。評価すべき「特定の状態」は、当該特定の状態の程度によってアッセイ液30内で進行する反応の量が変化し、進行した反応の量を光学的に検出可能であればよい。そのため、評価対象項目としての「特定の状態」は、例えば平板状材料20の表面粗さのように当該表面に固有の測定値を示して、アッセイ液中で進行する反応の量として検出し難い状態は含まない。
【0016】
本実施形態の材料評価方法は、例えば、評価対象物である平板状材料20の表面の抗菌性や抗ウイルス性を評価するために用いることができる。具体的には、例えば、抗菌処理や抗ウイルス処理を施した部材の表面における抗菌性や抗ウイルス性を評価するために用いることができる。抗菌性を評価する場合には、アッセイ液30として、抗菌性を発揮する対象となる細菌を含む溶液を用い、アッセイ液30内において、平板状材料20の表面が有する抗菌性によってアッセイ液30中の細菌が減少する反応(細菌の死滅が進行する反応)を進行させればよい。この場合には、工程T130~工程T150に対応する抗菌性の評価方法は、アッセイ液30中に残存する生菌の量を光学的に検出可能な方法とすればよい。例えば、細胞膜における損傷の有無(細菌の生死)により細胞膜の透過性が異なる2種類の核酸結合蛍光色素をアッセイ液30に加えて、各々の色素に応じた蛍光強度の経時的な変化を測定することにより、抗菌性を評価することができる。具体的には、例えば、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit(Thermo Fisher Scientific社)のような市販キットに含まれる蛍光色素を用いることができる。
【0017】
抗ウイルス性を評価する場合には、例えば、蛍光タンパク質を付与したウイルス粒子や模擬ウイルス粒子をアッセイ液30に加え、上記粒子と平板状材料20の表面とを反応させて、上記蛍光タンパク質に由来する蛍光強度の経時的な低下を測定すればよい。模擬ウイルス粒子(VLP:Virus Like Particle)とは、ウイルスと同様の外部構造を有し、遺伝子を有しないために感染性を有しない粒子であり、ウイルス粒子を用いるよりも安全性に優れた評価を行うことができる。蛍光タンパク質は特に限定されず、例えば、赤色蛍光タンパク質(RFP:Red Fluorescence Protein)、緑色蛍光(GFP:Green Fluorescence Protein)、黄色蛍光タンパク質(YFP:Yellow Fluorescence Protein)、青色蛍光タンパク質(BFP:Blue Fluorescence Protein)など、種々の蛍光タンパク質を用いることができるが、特に、赤色蛍光タンパク質RFPを好適に用いることができる。赤色蛍光タンパク質(RFP)を付与した模擬ウイルス粒子(以下、RFPを付与したVLPをVLP-RFPとも呼ぶ)のように、蛍光タンパク質を付与した模擬ウイルス粒子を用いるならば、蛍光タンパク質の構造変化による蛍光の消失をウイルス構造タンパク質の構造変化の指標として、抗ウイルス性を評価することができる。このような、蛍光タンパク質を付与した模擬ウイルス粒子を用いた抗ウイルス性の評価方法は、イオンが抗ウイルス性を有する銅や銀等の金属を含む平板状材料20であって、このような金属のイオンの溶出により抗ウイルス性が発揮される平板状材料20の評価において、特に有用である。
【0018】
あるいは、抗菌性や抗ウイルス性を評価する場合に、細菌やウイルスや模擬ウイルス粒子を用いて実際に抗菌性や抗ウイルス性がアッセイ液30中で発揮される様子を評価する方法の他に、例えば、抗菌性や抗ウイルス性を有する物質のアッセイ液30中への溶出を検出する方法を採用してもよい。例えば、銅や銀などの金属は、イオンが抗菌性や抗ウイルス性を有することが知られているが、平板状材料20の表面がこのような金属を含む場合には、アッセイ液30中に溶出する上記金属のイオンを測定することにより、平板状材料20の表面の抗菌性や抗ウイルス性を評価することができる。金属イオンの検出は、例えば、特定の金属イオンに特異的に結合して蛍光を呈する物質を、アッセイ液30に加えることによって行うことができる。具体的には、例えば銅イオンの溶出を検出するためには、1価の銅イオンに特異的に結合して緑色蛍光を呈する蛍光プローブであるCopper Green(五稜化薬株式会社製)を好適に用いることができる。
【0019】
また、本開示の材料評価方法は、抗菌性や抗ウイルス性の評価とは異なる目的に用いてもよく、例えば、平板状材料20の表面からの金属イオン等の何らかの特定成分の溶出の程度の評価に適用することとしてもよい。
【0020】
照射部40は、アッセイ液30で進行する反応の程度を検出可能にする照射光をアッセイ液30に照射できればよく、検出部45は、照射光の照射の結果としてアッセイ液30との反応から得られる検出光を検出可能であればよい。既述したようにアッセイ液30に蛍光性物質を加えて、アッセイ液30中で進行する反応を蛍光分析により評価する場合には、照射部40は、用いた蛍光性物質に応じた励起光を照射可能であればよい。また、検出部45は、励起光の照射によりアッセイ液30中で生じる蛍光の強度を検出可能であればよい。蛍光分析を行うための照射部40および検出部45を備える測定装置としては、アダプタ10の形状や配置の態様に応じて、例えば、プレートリーダや蛍光スキャナや蛍光顕微鏡等を用いることとすればよい。なお、平板状材料20の表面の特定の状態を評価するための測定は、アッセイ液30内において平板状材料20の表面の特定状態に応じて進行する反応の程度を、アッセイ液30内の特定物質を光学的に検出することによって評価可能になるものであればよく、上記した蛍光強度測定の他、例えば、表面プラズモン共鳴やラマン分光法を採用することも可能である。
【0021】
図2Aでは、照射部40および検出部45が、貫通孔12の他方の開口(+Z方向側の端部の開口)から貫通孔12の軸線方向に沿ってアダプタ10から離間した位置に設けられている様子を示している。このように、アダプタ10に対して照射部40および検出部45を同じ方向に配置することで、測定装置の構成を簡素化することができる。また、上記のような配置とすれば、アッセイ液30に対して貫通孔12の開口から照射光の照射および検出光の取得を行うため、アダプタ10の材料に関わらず、例えばアダプタ10の材料が照射光や検出光を透過させない材料であっても、測定を行うことができる。
【0022】
図3は、アダプタ10を用いて材料評価方法を実行する様子を模式的に表す説明図であり、照射部40および検出部45の配置を
図2Aとは異なる配置とした例を示す図である。
図3では、照射部40と検出部45とは、アダプタ10を間に介して対向するように配置されており、照射部40からはアダプタ10の側面に向かって(
図3ではX軸方向に)照射光が照射され、検出部45は、アダプタ10の側面を透過した検出光を検出する。
図3の構成を採用する場合には、アダプタ10は、照射光および検出光が十分に透過可能となるように十分に透明な材料、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)等の透明樹脂やガラス等により構成すればよい。アッセイ液30内で進行する反応の結果として照射光の照射時に検出光を生じる物質がアッセイ液10中に存在する場合には、照射部40および検出部45を
図3の配置としても、材料評価を行うことができる。
【0023】
以上のように構成された本実施形態の材料評価方法によれば、評価対象物である平板状材料20の表面にアダプタ10を固着させ、アダプタ10内にアッセイ液30を配置して、このアッセイ液30内において、平板状材料20の表面の特定の状態に応じて進行する反応を進行させる。そして、アッセイ液30に照射光を照射すると共に、照射の結果としてアッセイ液30との反応から得られる検出光を検出して、上記した特定の状態を評価する。そのため、平板状材料20を評価するための測定を行う際に、平板状材料20の表面と反応したアッセイ液30の回収や回収したアッセイ液30の処理等の操作が不要になり、評価のための操作を簡便化することができる。また、アッセイ液30内で上記の反応が進行する状態で検出光を検出することができるため、平板状材料20の表面の評価のための測定のタイミングが制限されることがなく、経時的な測定(例えば、特定の時間間隔で継続的に行う測定)が可能になる。そして、継続的な測定を行う場合に、測定のためにアッセイ液30をサンプリング(回収)するなどの特別な操作を要しないことにより、極めて短い時間間隔で測定を繰り返し行うことが可能になるため、極めて高い時間分解能で経時的な測定を行うことができる。さらに、上記したアッセイ液30のサンプリング等の操作に起因する測定結果のバラツキを抑えて、評価の精度を高めることができる。
【0024】
このように、経時的に繰り返し測定することにより、測定値の時間に対する傾き等の測定値の変化の傾向によって評価することが可能になる。そのため、例えば、照射光や検出光の吸収・反射などの種々の影響を測定値が受けてバラツキが生じ得る場合であっても、測定値の傾き等の変化の傾向で評価することにより、アッセイ液中で進行する反応の程度を異なる平板状材料間で精度良く比較することが可能になる。ただし、本実施形態の材料評価方法は、特定の評価対象物に対して継続的な測定を行うために用いる他、例えば、反応開始から一定の時間が経過したときに測定する方法に適用してもよい。
【0025】
また、本実施形態の材料評価方法によれば、枠状のアダプタ10の貫通孔12内にアッセイ液30を配置するため、検出光の検出の際に、アッセイ液30の液高を確保することが容易になる。液高を確保できることにより、平板状材料20の表面の状態や平板状材料20の厚みやアッセイ液30の表面張力等の影響を抑えて、アッセイ液30の液面の均一性を確保することができ、その結果、測定値を安定化することができる。また、
図2Aのようにアダプタ10の上方に検出部45を配置する場合には、検出の精度は、一般に検出器のZ軸精度により定まるため、アッセイ液30の液高を確保できることにより、十分な精度で検出することが容易になる。
【0026】
図4は、本実施形態の材料評価方法とは異なる材料評価方法の一例として、アダプタ10を用いることなく平板状材料20の表面にアッセイ液30を接触させて評価する方法を示す説明図である。
図4に示す方法では、まず、平板状材料20の表面にアッセイ液30を滴下し(
図4(A))、平板状材料20の表面におけるアッセイ液30を滴下した部位をフィルム50で覆って密着させることにより(
図4(B))、平板状材料20とフィルム50との間にアッセイ液30を封じる(
図4(C))。ここで、フィルム50として透明なフィルムを用い、フィルム50の上方において
図2Aのように照射部40および検出部45を配置して測定を行う場合には、平板状材料20上にフィルム50が密着されているためにアッセイ液30の液面の均一性を保つことは可能になる。しかしながら、アッセイ液30の液高は、平板状材料20とフィルム50との間の距離であり、極めて小さいため、例えば、検出精度がZ軸精度により定まる光学系の検出部45を用いる場合には、平板状材料20のわずかな厚みの差によって測定値がばらついて、検出精度が低下する可能性がある。これに対して、本実施形態の材料評価方法では、液高が十分に確保可能であるため、検出精度を容易に確保することができる。
【0027】
また、本実施形態の材料評価方法によれば、評価対象物である平板状材料20の表面に密着させたアダプタ10内にアッセイ液30を配置して、評価に係る反応を進行させるため、同じ形状のアダプタ10を用いて複数の平板状材料20を評価対象とする場合には、評価対象面積を一定にして、評価結果を比較することが容易になる。また、複数の平板状材料20を用いて評価対象面積を一定にして評価する際に、平板状材料20を切断する場合であっても、アダプタ10の開口を覆う大きさであればよく、厳密に大きさを揃える必要がないため、平板状材料20の切断を伴う評価に係る動作を簡素化することができる。
【0028】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態の材料評価方法の様子を示す説明図である。第2実施形態の材料評価方法では、マルチウェルプレート60を用いる。第2実施形態では、
図2Aに示した平板状材料20の表面の評価の動作を、マルチウェルプレート60の各ウェル62内において実行する。具体的には、平板状材料20およびアダプタ10を複数用意し、マルチウェルプレート60の各ウェル62内において、一対の平板状材料20とアダプタ10とを固着させて、
図2Aに示したような平板状材料20の表面にアダプタ10を密着させた構造を配置する。そして、各アダプタ10の貫通孔12内にアッセイ液30を配置し、その後、マルチウェルプレート60を対象として、照射光の照射および検出光の検出を行う。例えば、マルチウェルプレート60の上方に配置した照射部40から照射光を照射すると共に、マルチウェルプレート60の上方に配置した検出部45において検出光を検出する。
【0029】
このような構成とすれば、第1実施形態の材料評価方法と同様の効果が得られると共に、マルチウェルプレート60を用いることにより、プレートリーダを用いた測定が可能になる。そのため、多数の平板状材料20を評価対象物として一度に評価すること、すなわち、多数の平板状材料20のハイスループット評価を行うことが可能になる。このとき、測定のためにアッセイ液30をサンプリングする必要がないため、サンプリング動作に起因する測定値のバラツキを抑えつつ、短い時間間隔で継続的な測定を行うことができ、経時的な変化の測定を、高い時間分解能にて精度良く行うことができる。なお、第2実施形態の材料評価方法では、マルチウェルプレート60が有するウェル62の数および大きさによって、一度に評価できる平板状材料20の数の上限と、各ウェル62の中に配置可能な平板状材料20およびアダプタ10の大きさが定まる。
【0030】
マルチウェルプレート60を用いて平板状材料20の表面の特定の状態を評価する方法としては、例えば、アダプタ10を用いることなく、各ウェル62内に平板状材料20およびアッセイ液30を加える方法も考えられる。しかしながら、このような方法では、平板状材料20の密度が比較的低くウェル62内で平板状材料20が沈まない場合には測定が困難になる。また、平板状材料20の表面の特定の状態を単位面積当たりで評価したい場合には、ウェル62内に配置する各平板状材料20の大きさを揃えるために、平板状材料20の切断の精度を高める必要が生じる。また、平板状材料20における測定対象面とは異なる裏面の影響や、平板状材料20の厚みの影響により、測定精度が低下する可能性がある。第2実施形態の材料評価方法によれば、共通する形状のアダプタ10を用いることにより、上記した問題の発生を抑えることができる。
【0031】
図6は、第2実施形態の変形例としての材料評価方法の様子を示す説明図である。
図6では、
図5に示す単一の貫通孔12を有するアダプタ10に代えて、複数の貫通孔112を有するアダプタ110を用い、マルチウェルプレート60に代えて、ワンウェルプレート160を用いている。ここでは、アダプタ110の各貫通孔112の一方の開口(
図6中の下方の開口)が平板状材料20によって覆われるようにアダプタ110と平板状材料20とを密着させて、アダプタ110と平板状材料20とをワンウェルプレート160のウェル162内に配置する。そして、各貫通孔112内にアッセイ液30を配置して、既述した第2実施形態と同様に測定を行えばよい。アダプタ110の材料、および、アダプタ110と平板状材料20との材料密着の方法は、第1実施形態と同様にすることができる。
【0032】
このように、複数の貫通孔112を有するアダプタ110を用いる場合であっても、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、アダプタ110および貫通孔112の大きさや配置は任意に設定可能であるが、市販のマルチウェルプレートの大きさや市販のマルチウェルプレートにおけるウェルの配置に対応する配置とすることで、市販のプレートリーダを用いて容易にハイスループット評価を行うことが可能になる。
【0033】
第2実施形態の変形例の材料評価方法において、
図6に示すように、平板状材料20として、アダプタ110が有する複数の貫通孔112の一方の開口を覆う大きさの平板状材料20を用いるならば、このような大きさの平板状材料20の表面における異なる位置、すなわち、各貫通孔112の位置に対応する異なる位置における特定の状態を評価することができる。あるいは、各々の貫通孔112ごとに異なる平板状材料20を用意して、各貫通孔112の一方の開口を、それぞれ異なる平板状材料20で覆うこととしてもよい。この場合には、アダプタ110が有する貫通孔112の数を平板状材料20の数の上限として、複数の異なる平板状材料20について一度に評価を行うことができる。
【0034】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態の材料評価方法の様子を示す説明図である。第3実施形態の材料評価方法では、第1実施形態と同様のアダプタ10を複数用いる。第3実施形態では、
図7に示すように、単一の平板状材料20の表面の異なる箇所の各々にアダプタ10を固着させ、その後、各々のアダプタ10の貫通孔12内にアッセイ液30を配置し、アッセイ液30に対して照射部40から照射光を照射すると共に、検出部45において検出光を検出する。照射部40および検出部45を備える測定装置は、上記のように任意の位置に配置したアダプタ10を検出対象とすることができれば、特に限定されない。例えば、蛍光性物質を含むアッセイ液30を用いて、アッセイ液30中で進行する反応を蛍光分析により評価する場合には、蛍光スキャナを用いて平板状材料20の広い範囲を一度にスキャンしたり、蛍光顕微鏡等を用いて所望の箇所を測定したりすることができる。アダプタ10の材料、および、アダプタ10と平板状材料20との材料密着の方法は、第1実施形態と同様にすることができる。
【0035】
このような構成とすれば、第1実施形態の材料評価方法と同様の効果が得られると共に、平板状材料20の表面における評価したい特定箇所の各々にアダプタを配置することで、複数の所望の箇所の評価を同時に行うことができる。
図5に示したような第2実施形態の方法によっても、評価対象物である単一の平板状材料20の異なる箇所の評価を同時に行うことができるが、平板状材料20を切断する必要がある。第3実施形態の材料評価方法によれば、平板状材料20を切断する必要がないため、平板状材料20を損傷することなく平板状材料20の複数箇所を評価することができる。また、第3実施形態によれば、平板状材料20の表面における位置情報と評価結果とを正確に結びつけることが容易になる。そのため、例えば、表面に抗菌処理や抗ウイルス処理を施した平板状材料20上の異なる複数箇所を評価対象とする場合には、平板状材料20を切断等することなく、部位によって処理にムラが生じている状態等を容易に評価することができる。
【0036】
また、第3実施形態の材料評価方法において、アダプタ10を粘着性樹脂により形成し、粘着性樹脂が有する粘着性を利用してアダプタ10を平板状材料20に固着させるならば、平板状材料20の表面を評価した後に、平板状材料20の表面からアダプタ10を取り外すことが容易になる。このとき、適切な粘着性を発揮するように粘着性樹脂を適宜選択することにより、平板状材料20の表面や、平板状材料20の表面に設けた処理層、例えば抗菌処理層や抗ウイルス処理層等を損傷することなく、平板状材料20の表面からアダプタ10を除去することが可能になる。そのため、平板状材料20の表面の特定の状態を評価した後の平板状材料20を、表面の特定の状態に応じた用途に用いることができる。
【0037】
D.他の実施形態:
上記した各実施形態では、評価対象物の平板状材料20として、平板状部材を用いたが、評価対象物は平板状部材に限定されず、例えば、組織切片や細胞のような生体由来の試料を平板状材料20として用いてもよい。例えば、組織切片や細胞中の特定の分子を染色等により検出する場合に、染色により生じた経時変化を測定することにより、上記特定分子の量を精度良く検出することができる。また、組織切片や細胞の種々の箇所にアダプタ10を配置して、部位ごとに染色液を使い分けることにより、部位ごとに異なる分子を精度良く検出することができる。
【0038】
あるいは、組織切片に対して蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(FISH法)を適用して、蛍光ラベルを付加したプローブを細胞内のmRNAに結合させることにより、細胞内で発現している遺伝子の種類と量を解析する際に、既述したアダプタ10を用いてもよい。この場合には、組織切片の種々の箇所にアダプタ10を配置して評価することで、組織内の部位による差を解析する(例えば組織が脳であれば、脳の領域ごとに分けて解析する)ことができる。
【実施例0039】
<材料評価用アダプタの作製と密着性の評価>
アダプタを構成する材料の粘着性を利用して評価対象物である平板状材料とアダプタとを固着させる場合には、アダプタと評価対象物との密着性は、アダプタの表面状態および評価対象物の表面状態による分子間相互作用に応じて定まる。以下では、種々の樹脂を用いて作製したアダプタと、種々の評価対象物との間の密着性を評価した結果を示す。
【0040】
(アダプタの作製)
アダプタを作製するために、樹脂シートとして、ポリジメチルシロキサン(PDMS)シート、シリコーンゴムシート、ブタジエンゴムシート、エラストマー粘着シート、および、ポリウレタンシートを用意した。PDMSシートは、以下のようにして作製した。まず、樹脂材料であるSILPOT184(ダウ・東レ株式会社製)の主剤重量10に対して硬化剤重量1を計り取り、よく混ぜ合わせた後に10cmディッシュに22g注ぎ入れた。その後、気泡を取り除くため真空デシケータにて15分脱気を行い、ブロワを用いて表面に残った気泡を除去した。75℃の乾燥炉中にて60分で硬化を行い、直径100mm、厚さ4mmのPDMSシートを得た。シリコーンゴムシートおよびブタジエンゴムシートは、スタンダードテストピース株式会社より入手した。シリコーンゴムシートとしては、硬度が異なる3種のシートを用意した。エラストマー粘着シートは、アズワン株式会社より入手した。ポリウレタンシートは、山田化学株式会社より入手した。上記の樹脂シートとしては、いずれも厚さ4mmのシートを入手した。全ての樹脂シートを、ハンドプレス機(株式会社福井機工商会製、カムシステムハンドプレス)を用いて直径10mmの円形にカットし、得られた円形部材について、当該円形部材の中心を円の中心としてさらに直径7mmの円形にカットして、ドーナツ状の評価用樹脂アダプタを得た。すなわち、外径10mm、内径7mm、高さ4mmのドーナツ状のアダプタを得た。
【0041】
(アダプタの密着性の評価)
評価対象物として種々の平板状材料を用いることを想定して、樹脂2種類(ポリプロピレンとポリスチレン)、金属3種類(銅、銀、アルミニウム)およびガラスの各々によって形成される板状部材を、平板状材料として用意した。各板状部材を1cm角にカットした試験片を、24ウェルプレート(株式会社グライナー・ジャパン社製)に1試験片/ウェルになるように入れ、既述した各アダプタを試験片の上に載せ、試験片とアダプタとを密着させるようにピンセットで押し付けた。アッセイ液のモデルとして、目視判別しやすいように青色色素で呈色した蒸留水使用した。試験片上に配置した各アダプタの貫通孔内に、上記アッセイ液を80μLずつ滴下し、アッセイ液が漏れたか否かを目視により判定した。
【0042】
図8は、アダプタの密着性を評価した結果をまとめた説明図である。目視によるアッセイ液の漏れの評価は、アダプタ内へのアッセイ液の滴下の直後だけでなく、さらに、プレートリーダ内の攪拌など測定中の振動によりアダプタが評価材料上でずれることを想定し、上記24ウェルプレートに対して振動を加えた後にも行った。振動の付与は、BioShaker M・BR-022UP(タイテック株式会社製)を用いて300rpm、30秒の条件にて攪拌することにより行った。
図8では、目視によりアッセイ液の漏れが認められなかった場合には「○」、漏れが認められた場合には「×」と記載している。エラストマー粘着シートとポリウレタンシートにより作製したアダプタは、振動を加える前から漏れが認められた(評価は「×」であった)。シリコーンゴムシート、PDMSシート、およびブタジエンゴムシートを用いて作製したアダプタは、振動を加える前後いずれにおいても漏れは認められなかった(評価は「○」であった)。なお、
図8では、各樹脂シートのゴム硬度を測定した結果も併せて示している。ゴム硬度は、ゴム硬度計(ムラテックKDS株式会社製)を用いて測定した。
【0043】
<抗菌試験をモデルとした評価方法の比較>
(評価方法比較の条件)
アダプタを用いる本開示に係る材料評価方法と、他の材料評価方法とについて、抗菌試験をモデルとして比較を行った。抗菌試験は、抗菌性を有することが知られている銅板と、実質的に抗菌性を有しないポリプロピレン板とを、評価対象物である平板状材料として用いて、両者の測定結果を比較することにより行った。アダプタを用いる方法においては、アダプタとして、外径:10mm、内径:7mm、厚さ:4mmの円筒状のPDMS製アダプタを使用した。
【0044】
抗菌試験は、細菌を含むアッセイ液と平板状材料とを接触させた後に、生細菌に特有の蛍光が消失する様子を指標として行った。蛍光を指標とした細菌の生死判定は、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いて行った。上記キットには性質の異なる2種類の蛍光色素(SYTO9色素とPropidium iodide色素)が含まれており、SYTO9色素は細菌の膜を透過して核酸に結合し、緑色蛍光を呈する。一方、Propidium iodide色素は膜が破壊された細菌(死細菌)の核酸のみに結合して赤色蛍光を呈すると共に、SYTO9色素の蛍光を減弱させる。そのため、生細菌は緑色蛍光を呈色し、死細菌は赤色蛍光を呈色する。緑色蛍光強度を測定することにより、生細菌の割合を測定することができる。
【0045】
抗菌試験のためにアッセイ液に加える細菌としては、大腸菌(Escherichia coli 、NBRC106373) を使用した。大腸菌は、カルシウム添加LB培地で培養した後、反応を阻害する培地成分を除去するために培養液1mLを遠心分離(10,000g、1分、25℃)して上清を除去し、1mLの8.5%NaCl水溶液で2回洗浄した。その後、6.7×107CFU(Colony Forming Unit)/mLになるように、8.5%NaCl水溶液で調整した。試験に用いたカルシウム添加LB培養液は、ForMedium社より購入したLB培養液に、終濃度2mMになるように塩化カルシウム(富士フィルム和光純薬株式会社)を添加して作製した。アッセイ液は、以下のように調製した。すなわち、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kitに含まれるComponent A (SYTO9色素)3μLとComponent B(Propidium iodide色素)3μLとを1mLの滅菌水で懸濁し、上記で調整した大腸菌液と等量で混合後、暗室にて室温で15分間インキュベートしたものをアッセイ液とした。各色素の最終濃度は、SYTO9色素が6μM、Propidium iodide色素が30μMである。
【0046】
(アダプタを用いたタイムラプス測定)
本開示に係る実施例の材料評価方法として、
図5に示す方法により、アダプタを用いたタイムラプス測定を行った。ここで、タイムラプス測定とは、測定途中で測定対象に対してさらなる操作を加えることなく、特定の時間間隔で継続的に測定を行うことをいう。具体的には、平板状材料である1cm角にカットした銅板(厚さ:1mm)とポリプロピレン板(厚さ:1mm)を、24ウェルプレート(株式会社グライナー・ジャパン社製、ブラック)に1ウェル当たり1枚ずつ入れ、各材料の上にPDMS製アダプタを載せてピンセットで押し付けて密着させた。そして、アダプタの貫通孔内に80μLのアッセイ液を滴下後、プレートリーダ(infinite 500、テカンジャパン株式会社)にセットし、励起波長485nm、測定波長535nmでFluorescence Top Readingモードにて1分おきにタイムラプス測定した。
【0047】
(フィルム密着法によるタイムラプス測定)
比較例の材料評価方法として、
図4に示したように、アダプタを用いることなく平板状材料の表面にアッセイ液を接触させてアッセイ液をフィルムで封じて評価する方法(フィルム密着法)を行った。具体的には、平板状材料である1cm角にカットした銅板(厚さ:1mm)とポリプロピレン板(厚さ:1mm)を、24ウェルプレート(株式会社グライナー・ジャパン社製、ブラック)に1ウェル当たり1枚ずつ入れ、各材料の上に既述したアッセイ液を6μL滴下した。その後、8mm角のストマッカーシートをかぶせてピンセットで密着させた後、プレートリーダ(infinite 500、テカンジャパン株式会社)にセットし、励起波長485nm、測定波長535nmでFluorescence Top Readingモードにて1分おきにタイムラプス測定した。
【0048】
(アダプタを用いた逐次サンプリング測定)
上記フィルム密着法とは異なる他の比較例の材料評価方法として、
図5と同様にアダプタを用いるものの、反応が進行するアッセイ液中の蛍光をタイムラプス測定するのではなく、反応が進行するアッセイ液を逐次サンプリングして測定して評価する方法を行った。具体的には、平板状材料である1cm角にカットした銅板(厚さ:1mm)とポリプロピレン板(厚さ:1mm)を、24ウェルプレート(株式会社グライナー・ジャパン社製、ブラック)に1ウェル当たり1枚ずつ入れ、各材料の上にPDMS製アダプタを載せてピンセットで押し付けて密着させた。そして、アダプタの貫通孔内に80μLのアッセイ液を滴下した。その後、貫通孔12内のアッセイ液を逐次的にサンプリング(回収)した。すなわち、貫通孔内にアッセイ液を滴下した後、5分、10分、15分経過後、各々のタイミングでアッセイ液を回収し、50μLを96ウェルプレートに移してプレートリーダ(infinite 500、テカンジャパン株式会社)にセットし、励起波長485nm、測定波長535nmでFluorescence Top Readingモードにて蛍光強度を測定した。
【0049】
図9Aは、実施例としてのアダプタを用いたタイムラプス測定の結果を示す説明図であり、
図9(B)は、比較例としてのフィルム密着法によるタイムラプス測定の結果を示す説明図であり、
図9(C)は、比較例としてのアダプタを用いた逐次サンプリング測定の結果を示す説明図である。
図9(A)~
図9(C)において、横軸は、測定開始からの経過時間(平板状材料とアッセイ液との接触時間)を示し、縦軸は、測定開始時(アッセイ液における反応開始時)における蛍光強度を100%としたときの相対的な蛍光強度を示す。
図9(A)~
図9(C)では、銅板とポリプロピレン板の各々について、独立した試験を3回ずつ行った結果の平均値を示しており、エラーバーは標準偏差を示す。
【0050】
図9Aに示すように、実施例であるアダプタを用いたタイムラプス測定によれば、平板状材料として銅板を用いた場合には、平板状材料としてポリプロピレン板を用いた場合とは異なり、経時的な蛍光強度の低下が観察され、良好に抗菌試験を行うことができることが確認された。ここで、アダプタを用いたタイムラプス測定では、アダプタ内のアッセイ液に対して照射光を照射して検出光を検出するため、測定ごとのサンプリング動作が不要であり、例えば1分間隔のような短い時間間隔での測定が可能になる。また、単一の試験片を用いた継続的な測定が可能であるため、省力化しつつハイスループット評価を行うことができることが確認された。
【0051】
これに対して、
図9(B)に示すように、フィルム密着法によるタイムラプス測定によれば、平板状材料として銅板を用いた場合と平板状材料としてポリプロピレン板を用いた場合との間で差異が見られるものの、測定値のバラツキが大きく、多検体同時測定では検体間差がバラツキに埋もれてしまう可能性があり、抗菌性の評価方法としては精度が不十分であると考えられる。このような測定値のバラツキの原因の一つとしては、アッセイ液の液高の不足が考えられる。
【0052】
また、
図9(C)に示すように、アダプタを用いた逐次サンプリング測定によれば、平板状材料として銅板を用いた場合と平板状材料としてポリプロピレン板を用いた場合との間の測定値の差異は、
図9Aに示す結果と同程度であり、測定値のバラツキも比較的小さかった。ただし、測定ごとにアッセイ液をサンプリングする必要があるため、例えば反応開始から5分以内の測定や、5分間隔よりも短い時間間隔で測定することによる測定ポイント数の増加は困難であり、時間分解能に制限があることが確認された。
【0053】
<抗ウイルス試験への適用可能性の確認>
本開示に係るアダプタを用いた材料評価方法を、抗ウイルス試験にも適用可能であることを確認した。同時に多数の材料を評価するハイスループット評価による抗ウイルス材料の評価を可能にするために、ここでは、蛍光タンパク質を付与した模擬ウイルス粒子である既述したVLP-RFPとマルチウェルプレートとプレートリーダとを用いて、同時に多検体測定できる評価系を設定した。VLP-RFPは、ウイルスの外殻タンパク質と同じくタンパク質を主成分としており、蛍光を発する発色団という構造を有する。この構造が変化すると蛍光が消失するため、蛍光消失をウイルス外殻タンパク質の構造変化の指標とした。すなわち、検出される蛍光強度の低下の程度を、抗ウイルス性の指標とした。
【0054】
(VLP-RFPの構造)
使用した模擬ウイルス粒子(VLP)は、エンベロープの無いタイプのバクテリオファージP22由来であり、ウイルスのカプシドタンパク質(Coat Protein;CP)と、足場タンパク質(Scaffold Protein;SP)から足場タンパク質SP遺伝子の1-489塩基に対応する163アミノ酸を除いたものと、で構成されている。上記カプシドタンパク質CPをコードするDNA配列は配列番号1に示し、カプシドタンパク質CPのアミノ酸配列は配列番号2に示している。また、足場タンパク質SPをコードするDNA配列から1-489の塩基を除いたDNA配列は配列番号3に示し、対応するアミノ酸配列は配列番号4に示している。上記足場タンパク質SPのN末端には、リンカー配列を介してRFPを融合した。RFPを融合した上記足場タンパク質SPのことを、「RFP融合SP」とも呼ぶ。リンカー配列のDNA配列は配列番号5に示し、対応するアミノ酸配列は配列番号6に示している。また、上記RFPをコードするDNA配列は配列番号7に示し、RFPのアミノ酸配列は配列番号8に示している。
【0055】
(発現用プラスミドの作製方法)
VLP発現用プラスミド作製に必要なDNA断片のクローニングは、合成DNAを鋳型として、隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて目的のDNA断片を増幅し、NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEB社製、NEBuilderは登録商標) 等を用いて順次DNA断片を結合することにより行った。クローニングしたDNA断片は、Golden Gate法に準拠したプラスミドセット用いて、ベクターに結合して発現用プラスミドを作製した。Golden Gate法は、Type IIS制限酵素およびT4DNAリガーゼを用いて、予め設計した順序で複数のDNA断片をベクターに挿入する、周知の遺伝子集積方法である。作製した発現用プラスミドは、基本構造として、lacO配列融合プロモーターであるT7lac、既述した1-489塩基を除いた足場タンパク質SP遺伝子とRFP遺伝子との融合遺伝子で構成される遺伝子発現ユニット、T7lacプロモーター、および、バクテリオファージP22由来のカプシドタンパク質CP遺伝子とrmBターミネーターとで構成される遺伝子発現ユニット、を備える。
【0056】
(大腸菌を用いた発現方法および精製方法)
カプシドタンパク質CPとRFP融合足場タンパク質SPとの2種類を大腸菌内で共発現させると、in vivoで自己組織化し、VLP内部にRFPが配置する。そのため、上記した発現用プラスミドを大腸菌等の宿主に導入してカプシドタンパク質CPとRFP融合足場タンパク質SPとを発現させることにより、VLP-RFPが得られる。
【0057】
上記した発現用プラスミドを大腸菌BL21(DE3)株(タカラバイオ株式会社)に導入して、VLPタンパク質発現用の株とした。VLPタンパク質等の発現は、AIM -Terrific Broth Base including Trace elements 培地(ForMedium社)を用いたオートインダクション法によって行った。VLPタンパク質等を発現した大腸菌は、遠心分離(10,000g、3分)して集菌後、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate-buffered saline;PBS)に懸濁し、再度の遠心分離(10,000g、3分)により大腸菌ペレットとして回収した。回収した大腸菌ペレットをPBSに再懸濁後、氷上でチューブを冷却しながら30秒間隔で5時間超音波処理を行なった。超音波処理により破砕した大腸菌を遠心分離(12,000g、30分)して上清を回収し、細胞片を除去した。上清に含まれる細胞片をさらに除去するために、孔径0.2μmの濾過フィルター(ADVANTEC社)で濾過して、VLP-RFP画分を得た。
【0058】
得られたVLP-RFP分画に、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿によってウイルス濃縮を行うための試薬であるPEG-it(System Biosciences社)を体積比25%添加して攪拌し、-80℃で一晩放置した後に、室温で融解させて遠心分離(4,000rpm、30分、4℃)して、沈殿物としてVLP-RFPを回収した。得られた沈殿物を10mM MOPS(pH7.2)にて0.5mg/mLになるように懸濁して、抗ウイルス試験に使用した。試験に用いた10mM MOPS(pH7.2)は、株式会社同仁化学研究所より購入した生化学用緩衝剤MOPSを用いて終濃度10mMの溶液を作製した後、水酸化ナトリウムにてpH7.2に調整して作製した。
【0059】
(VLP-RFPを用いた抗ウイルス評価)
評価対象物のモデル材料として、抗ウイルス性を有することが知られている銅板と、実質的に抗ウイルス性を有しないポリプロピレン板と、を使用した。そして、
図5に示す方法により、アダプタを用いてVLP-RFPの経時的な蛍光消失を指標に抗ウイルス効果が判別できるか否かを検証した。アダプタとしては、外径:10mm、内径:7mm、厚さ:4mmの円筒状のPDMS製アダプタを使用した。アッセイ液としては、10mM MOPS(pH7.2)を用いてVLP-RFPの含有量を0.5mg/mLに調製した液を使用した。1cm角にカットした銅板(厚さ:1mm)とポリプロピレン板(厚さ:1mm)とを、24ウェルプレート(株式会社グライナー・ジャパン社製、ブラック)に1ウェル当たり1枚ずつ入れ、各材料の上にPDMS製アダプタを載せてピンセットで押し付けて密着させた。そして、アダプタの貫通孔内に80μLのアッセイ液を滴下後、プレートリーダ(infinite 500、テカンジャパン株式会社)にセットし、励起波長535nm、測定波長595nmでFluorescence Top Readingモードにて5分(300秒)おきにタイムラプス測定した。
【0060】
図10は、銅板とポリプロピレン板とを評価対象物の平板状材料として、上記のようにVLP-RFPを用いた抗ウイルス評価を行った結果を示す説明図である。横軸は、測定開始からの経過時間(平板状材料とアッセイ液との接触時間)を示し、縦軸は、測定開始時(アッセイ液における反応開始時)における蛍光強度を100%としたときの相対的な蛍光強度を示す。
図10では、銅板とポリプロピレン板の各々について、独立した試験を3回ずつ行った結果の平均値を示しており、エラーバーは標準偏差を示す。
図10に示すように、測定対象物として銅板とポリプロピレン板のいずれを用いた場合にも、蛍光強度は経時的に低下したが、低下の傾きは抗ウイルス効果を有する銅板の方が大きく、両材料に有意な差が見られ、本評価系で抗ウイルス評価ができることを確認した。
【0061】
<蛍光色素を用いた銅イオン溶出評価>
上記した抗菌試験および抗ウイルス試験は、細菌や模擬ウイルス粒子といった生物材料を用いて生物学的な応答を利用した試験、いわゆるバイオアッセイにより行ったが、さらに他のアッセイ系でも、本開示に係るアダプタを用いた材料評価方法を適用可能であることを確認した。ここでは、評価対象物である平板状材料から、抗菌性や抗ウイルス性を発揮する1価の銅イオンが溶出することを指標とする評価を行った。
【0062】
具体的には、評価対象物のモデル材料として、1価の銅イオンが溶出する銅板と、1価の銅イオンが溶出しないポリプロピレン板と、を使用した。そして、
図5に示す方法により、アダプタを用いて、アダプタ内のアッセイ液中への1価の銅イオンの溶出を、蛍光を指標にして判別できるか否かを検証した。アダプタとしては、外径:10mm、内径:7mm、厚さ:4mmの円筒状のPDMS製アダプタを使用した。アッセイ液は、1価の銅イオンに特異的に結合して緑色蛍光を呈する蛍光プローブであるCopper Green(五稜化薬株式会社製)を用いて、当該蛍光プローブの濃度が5μMになるようにPBSで調整することにより作製した。1cm角にカットした銅板(厚さ:1mm)とポリプロピレン板(厚さ:1mm)を、24ウェルプレート(株式会社グライナー・ジャパン社製、ブラック)に1ウェル当たり1枚ずつ入れ、各材料の上にPDMS製アダプタを載せてピンセットで押し付けて密着させた。そして、アダプタの貫通孔内に80μLのアッセイ液を滴下後、プレートリーダ(infinite 500、テカンジャパン株式会社)にセットし、励起波長485nm、測定波長535nmでFluorescence Top Readingモードにて5分(300秒)おきにタイムラプス測定した。
【0063】
図11は、銅板とポリプロピレン板とを評価対象物の平板状材料として、上記のように1価の銅イオンの溶出を評価した結果を示す説明図である。横軸は、測定開始からの経過時間(平板状材料とアッセイ液との接触時間)を示し、縦軸は、測定開始時(アッセイ液における反応開始時)における蛍光強度を1.0としたときの相対的な蛍光強度を示す。
図11では、銅板とポリプロピレン板の各々について、独立した試験を3回ずつ行った結果の平均値を示しており、エラーバーは標準偏差を示す。
図11に示すように、測定対象物として銅板を用いた場合には、緑色蛍光強度の経時的な増加が見られたのに対し、ポリプロピレン板を用いた場合には、緑色蛍光強度の経時的な増加は見られなかったため、本評価系で1価の銅イオン溶出評価ができることが確認された。
【0064】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0065】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
材料評価方法であって、
貫通孔を有する枠状のアダプタを用意し、
前記貫通孔の一方の開口を形成する前記アダプタの端部が、評価対象物である平板状材料に接するように、前記平板状材料の表面に前記アダプタを固着させ、
前記平板状材料を評価するためのアッセイ液を前記アダプタの前記貫通孔内に配置して、前記アッセイ液内において、前記平板状材料の表面の特定の状態に応じて進行する反応を進行させ、
前記貫通孔内の前記アッセイ液に対して前記アダプタの外部に配置した照射部から照射光を照射し、
前記アダプタの外部に配置した検出部において、前記照射光の照射の結果としてアッセイ液との反応から得られる検出光を検出し、
前記検出光を検出した検出結果を用いて、前記平板状材料の表面における前記特定の状態を評価する
材料評価方法。
[適用例2]
適用例1に記載の材料評価方法であって、
前記平板状材料の表面における前記特定の状態の評価は、前記検出光の経時的な変化を継続的に検出することにより行う
材料評価方法。
[適用例3]
適用例1または2に記載の材料評価方法であって、
前記平板状材料および前記アダプタとして、複数の平板状材料およびアダプタを用意し、
マルチウェルプレートの各ウェル内において、一対の前記平板状材料と前記アダプタとを固着させると共に、各アダプタの前記貫通孔内にアッセイ液を配置し、
前記マルチウェルプレートを対象として、前記照射光の照射および前記検出光の検出を行う
材料評価方法。
[適用例4]
適用例1または2に記載の材料評価方法であって、
前記アダプタとして複数のアダプタを用意し、
前記平板状材料の表面への前記アダプタの固着は、前記平板状材料の異なる複数の位置の各々に、前記アダプタを固着させることによって行う
材料評価方法。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の材料評価方法であって、
前記照射部および前記検出部は、前記アダプタが有する前記貫通孔の他方の開口から前記貫通孔の軸線方向に沿って、前記アダプタから離間した位置に設けられている
材料評価方法。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の材料評価方法であって、
前記アダプタとして、少なくとも前記貫通孔の一方の開口を形成する端部を含む部位が粘着性樹脂によって形成されるアダプタを用い、
前記粘着性樹脂が有する粘着性を利用して、前記平板状材料の表面に前記アダプタを着脱可能に固着させる
材料評価方法。
[適用例7]
適用例1から6までのいずれか一項に記載の材料評価方法であって、
前記アッセイ液として、蛍光タンパク質で標識された模擬ウイルス粒子を含む液を用い、
前記検出部が前記検出光として検出した蛍光の強度により、前記平板状材料の表面における前記特定の状態として、前記平板状材料の表面における抗ウイルス性を評価する
材料評価方法。