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特開2024-112082電子顕微鏡、収差補正方法、および撮像方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112082
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】電子顕微鏡、収差補正方法、および撮像方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20240813BHJP
   H01J 37/141 20060101ALI20240813BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20240813BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20240813BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H01J37/22 501Z
H01J37/141
H01J37/153 A
H01J37/26
H01J37/28 C
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016927
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】西藤 哲史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 隆亮
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA04
5C101AA05
5C101AA13
5C101AA14
5C101AA16
5C101EE04
5C101EE08
5C101EE14
5C101EE15
5C101EE43
5C101EE45
5C101EE63
5C101GG37
5C101HH38
5C101HH47
5C101HH53
5C101HH64
5C101HH65
(57)【要約】
【課題】試料のドリフトの影響を受けにくい収差補正が可能な電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】本発明に係る電子顕微鏡は、電子光学系と、電子光学系を制御する制御部と、を含み、制御部は、電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を求める処理と、ガウス過程回帰により標準偏差が最大となる電子光学系のパラメータの最適値を求める処理と、パラメータの値を最適値として電子顕微鏡像を撮像する処理と、を行い、標準偏差を求める処理、最適値を求める処理、および電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、パラメータの値を決定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子光学系と、
前記電子光学系を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を求める処理と、
ガウス過程回帰により前記標準偏差が最大となる前記電子光学系のパラメータの最適値を求める処理と、
前記パラメータの値を前記最適値として前記電子顕微鏡像を撮像する処理と、
を行い、
前記標準偏差を求める処理、前記最適値を求める処理、および前記電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、前記パラメータの値を決定する、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記最適値を求める処理において、
前記標準偏差に基づいて、前記ガウス過程回帰により前記パラメータと前記標準偏差の関係を予測する予測モデルおよび前記予測モデルで予測される前記パラメータの値の信頼度を求め、
前記予測モデルおよび前記信頼度に基づいて、前記最適値を求める、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、
前記電子光学系は、
対物レンズと、
電子線の歪みを補正するための二回非点収差補正器と、
電子線の傾きを補正するための軸上コマ収差補正器と、
を含み、
前記パラメータを前記対物レンズの励磁として、前記標準偏差を求める処理、前記最適値を求める処理、および前記電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、前記対物レンズの励磁の値を決定して、前記対物レンズを調整する処理と、
前記パラメータを前記二回非点収差補正器において電子線の第1方向の歪みを補正するための第1励磁および電子線の前記第1方向と異なる第2方向の歪みを補正するための第2励磁として、前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返して、前記第1励磁の値および前記第2励磁の値を決定して、前記二回非点収差補正器を調整する処理と、
前記パラメータを前記軸上コマ収差補正器において電子線の第3方向の傾きを補正するための第3励磁および電子線の前記第3方向と異なる第4方向の歪みを補正するための第4励磁として、前記標準偏差を求める処理、前記最適値を求める処理、および前記電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、前記第3励磁の値および前記第4励磁の値を決定して、前記軸上コマ収差補正器を調整する処理と、
を行う、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項3において、
前記制御部は、
前記対物レンズを調整する処理を行ってから所定時間経過したか否かを判定する処理と、
前記所定時間経過したと判定した場合に、再度、前記対物レンズを調整する処理と、
を行う、電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1において、
前記制御部は、前記標準偏差を求める処理、前記最適値を求める処理、および前記電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返すごとに前記電子顕微鏡像を撮像する領域を変更する、電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記制御部は、前記パラメータの値を決定した後に、前記電子顕微鏡像を撮像する処理で撮像した前記電子顕微鏡像のピクセル数よりも多いピクセル数の電子顕微鏡像を撮像する処理を行う、電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記制御部は、前記パラメータの値を決定した後に、前記電子顕微鏡像を撮像する処理で撮像した前記電子顕微鏡像の撮像倍率よりも高い撮像倍率の電子顕微鏡像を撮像する処理を行う、電子顕微鏡。
【請求項8】
電子光学系を含む電子顕微鏡における収差補正方法であって、
電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を求める工程と、
ガウス過程回帰により前記標準偏差が最大となる前記電子光学系のパラメータの最適値を求める工程と、
前記パラメータの値を前記最適値として前記電子顕微鏡像を撮像する工程と、
を含み、
前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返して、前記パラメータの値を決定する、収差補正方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記最適値を求める工程では、
前記標準偏差に基づいて、前記ガウス過程回帰により前記パラメータと前記標準偏差の関係を予測する予測モデルおよび前記予測モデルで予測される前記パラメータの値の信頼度を求め、
前記予測モデルおよび前記信頼度に基づいて、前記最適値を求める、収差補正方法。
【請求項10】
請求項8において、
前記電子光学系は、
対物レンズと、
電子線の歪みを補正するための二回非点収差補正器と、
電子線の傾きを補正するための軸上コマ収差補正器と、
を含み、
前記パラメータを前記対物レンズの励磁として、前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返して、前記対物レンズの励磁の値を決定して前記対物レンズを調整する工程と、
前記パラメータを前記二回非点収差補正器において電子線の第1方向の歪みを補正するための第1励磁および電子線の前記第1方向と異なる第2方向の歪みを補正するための第2励磁として、前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返して、前記第1励磁の値および前記第2励磁の値を決定して、前記二回非点収差補正器を調整する工程と、
前記パラメータを前記軸上コマ収差補正器において電子線の第3方向の傾きを補正するための第3励磁および電子線の前記第3方向と異なる第4方向の歪みを補正するための第4励磁として、前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返して、前記第3励磁の値および前記第4励磁の値を決定して、前記軸上コマ収差補正器を調整する工程と、
を含む、収差補正方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記対物レンズを調整する工程を行ってから所定時間経過したか否かを判定する工程と、
前記所定時間経過したと判定した場合に、再度、前記対物レンズを調整する工程と、
を含む、収差補正方法。
【請求項12】
請求項8において、
前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返すごとに前記電子顕微鏡像を撮像する領域を変更する、収差補正方法。
【請求項13】
請求項8ないし12のいずれか1項に記載の収差補正方法により、前記電子光学系の収差を補正する工程と、
前記電子顕微鏡像を撮像する工程で撮像した前記電子顕微鏡像のピクセル数よりも多いピクセル数の電子顕微鏡像を撮像する工程と、
を含む、撮像方法。
【請求項14】
請求項8ないし12のいずれか1項に記載の収差補正方法により、前記電子光学系の収差を補正する工程と、
前記電子顕微鏡像を撮像する工程で撮像した前記電子顕微鏡像の撮像倍率よりも高い撮像倍率の電子顕微鏡像を撮像する工程と、
を含む、撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡、収差補正方法、および撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡や、走査透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡等の電子顕微鏡において、収差補正は、高分解能像を取得するうえで重要な技術である。
【0003】
例えば、特許文献1には、電子レンズの焦点および非点収差を補正する方法として、電子顕微鏡像の画像鮮鋭度に基づいて焦点補正および非点収差補正を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-108567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された収差補正方法のように、電子顕微鏡像の画像鮮鋭度などの像の形状に基づいて収差を補正する場合、試料のドリフトにより像が変形すると焦点および非点収差を正確に補正できない。
【0006】
さらに、特許文献1に開示された方法の様に、焦点位置のようなパラメータを掃引して、画像鮮鋭度のような指標が極値を持つ最適条件を探索する方法では、調整すべきパラメータが複数ある場合に、パラメータの全ての組み合わせで指標の算出を行わなければならず、補正に多大な時間を要する。例えば3つのパラメータを5条件ずつ掃引する場合、計測、算出回数は5×5×5=625となる。計測回数が増加することは所要時間が増加するのみならず、試料への電子線照射量が増えることにもなり、電子線照射による試料ダメージも増加するため、良好な顕微鏡観察が行えなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電子顕微鏡の一態様は、
電子光学系と、
前記電子光学系を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を求める処理と、
ガウス過程回帰により前記標準偏差が最大となる前記電子光学系のパラメータの最適値を求める処理と、
前記パラメータの値を前記最適値として前記電子顕微鏡像を撮像する処理と、
を行い、
前記標準偏差を求める処理、前記最適値を求める処理、および前記電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、前記パラメータの値を決定する。
【0008】
このような電子顕微鏡では、制御部は、電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を指標として電子光学系のパラメータの最適値を求めるため、例えば電子顕微鏡像における像の形状に基づいて収差を補正する場合と比べて、試料のドリフトの影響を低減できる。したがって、このような電子顕微鏡では、より正確に収差を補正できる。
【0009】
さらに、このような電子顕微鏡ではごく少数のパラメータの組み合わせでパラメータの最適値を求めることが出来るため、補正に要する時間が短くなり効率的であるだけでなく、試料ダメージも低減することが可能である。
【0010】
本発明に係る収差補正方法の一態様は、
電子光学系を含む電子顕微鏡における収差補正方法であって、
電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を求める工程と、
ガウス過程回帰により前記標準偏差が最大となる前記電子光学系のパラメータの最適値を求める工程と、
前記パラメータの値を前記最適値として前記電子顕微鏡像を撮像する工程と、
を含み、
前記標準偏差を求める工程、前記最適値を求める工程、および前記電子顕微鏡像を撮像する工程を繰り返して、前記パラメータの値を決定する。
【0011】
このような収差補正方法では、原子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を指標として電子光学系のパラメータの最適値を求めるため、例えば電子顕微鏡像における像の形状に基づいて収差を補正する場合と比べて、試料のドリフトの影響を低減できる。また、ガウス過程回帰を用いることで繰り返し回数を大幅に低減することが可能である。したがって、このような収差補正方法では、より正確に、高速に収差を補正できる。
【0012】
本発明に係る撮像方法の一態様は、
上記収差補正方法により、前記電子光学系の収差を補正する工程と、
前記電子顕微鏡像を撮像する工程で撮像した前記電子顕微鏡像のピクセル数よりも多いピクセル数の電子顕微鏡像を撮像する工程と、
を含む。
【0013】
このような撮像方法では、上記収差補正方法によって正確に収差が補正された状態でピクセル数の大きい電子顕微鏡像を得ることができる。さらに、このような撮像方法では、収差補正のために使用する電子顕微鏡像の撮像時間を短縮できる。
【0014】
本発明に係る撮像方法の一態様は、
上記収差補正方法により、前記電子光学系の収差を補正する工程と、
前記電子顕微鏡像を撮像する工程で撮像した前記電子顕微鏡像の撮像倍率よりも高い撮像倍率の電子顕微鏡像を撮像する工程と、
を含む。
【0015】
このような撮像方法では、上記収差補正方法によって正確に収差が補正された状態で撮像倍率の高い電子顕微鏡像を得ることができる。さらに、このような撮像方法では、収差補正のために使用する電子顕微鏡像の撮像において電子線の照射による試料のダメージを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】第1実施形態に係る電子顕微鏡における収差補正方法の一例を示すフローチャート。
図3】低次収差の補正の条件を示す表。
図4】1回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果。
図5】2回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果。
図6】3回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果。
図7】4回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果。
図8】ガウス過程回帰によるフィッティング結果。
図9】ガウス過程回帰によるフィッティング結果。
図10】制御部の低次収差を補正する処理の一例を示すフローチャート。
図11】制御部の対物レンズを調整する処理の一例を示すフローチャート。
図12】制御部の非点収差補正器を調整する処理の一例を示すフローチャート。
図13】制御部の軸上コマ収差補正器を調整する処理の一例を示すフローチャート。
図14】山登り法を説明するための図。
図15】山登り法を説明するための図。
図16】山登り法を説明するための図。
図17】制御部の低次収差を補正する処理の一例を示すフローチャート。
図18】制御部の低次収差を補正する処理の変形例を示すフローチャート。
図19】制御部の対物レンズを調整する処理の変形例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0018】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0019】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10と、照射光学系20と、試料ホルダー32と、結像光学系40と、撮像装置50と、環状検出器52と、検出器54と、制御部60と、操作部70と、表示部72と、記憶部74と、を含む。
【0020】
電子顕微鏡100は、TEMモードと、STEMモードと、を切り替え可能である。TEMモードでは、試料Sを透過あるいは回折した電子で試料像(TEM像)および電子回折パターンを形成し、これらを撮像装置50で撮像できる。STEMモードでは、細く絞った電子線で試料Sを走査し、各走査位置において試料Sを透過した電子を検出器54で検出することによってSTEM像(明視野STEM像)を取得できる。また、細く絞った電子線で試料Sを走査し、各走査位置において試料Sで散乱した電子を環状検出器52で検出することによってSTEM像(暗視野STEM像)を取得できる。
【0021】
電子源10は、電子線を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0022】
照射光学系20は、電子源10から放出された電子線を試料Sに照射する。照射光学系20は、例えば、コンデンサーレンズ22と、絞り24と、二回非点収差補正器26と、軸上コマ収差補正器28と、を含む。
【0023】
コンデンサーレンズ22は、電子源10から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。電子顕微鏡100では、コンデンサーレンズ22および対物レンズ42の前方磁場によって、電子線が細く絞られて電子プローブが形成される。すなわち、STEMモードでは、照射光学系20は、対物レンズ42の前方磁場によってつくられるレンズを含む。
【0024】
二回非点収差補正器26は、コンデンサーレンズ22の二回非点収差を補正する。二回
非点収差補正器26は、例えば、電子線のX方向(第1方向)の歪みを補正するためのXスティグマコイルと、電子線のY方向(第2方向)の歪みを補正するためのYスティグマコイルと、を含む。X方向およびY方向は、互いに直交する2つの軸であって、電子光学系の光軸OAに垂直な軸である。
【0025】
軸上コマ収差補正器28は、試料Sに入射する電子線を二次元的に偏向させて、軸上コマ収差を補正する。軸上コマ収差補正器28は、例えば、電子線のX方向(第3方向)の傾きを補正するためのXアライメントコイルと、電子線のY方向(第4方向)の傾きを補正するためのYアライメントコイルと、を含む。
【0026】
なお、ここでは、Xスティグマコイルが歪みを補正する第1方向とXアライメントコイルが電子線を傾ける第3方向が同じ方向(X方向)であるが、Xスティグマコイルが歪みを補正する第1方向とXアライメントコイルが電子線を傾ける第3方向が異なっていてもよい。同様に、ここでは、Yスティグマコイルが歪みを補正する第2方向とYアライメントコイルが電子線を傾ける第4方向が同じ方向(Y方向)であるが、Yスティグマコイルが歪みを補正する第2方向とYアライメントコイルが電子線を傾ける第4方向が異なっていてもよい。
【0027】
電子顕微鏡100では、コンデンサーレンズ22および対物レンズ42の前方磁場によって電子線を細く絞って電子プローブを形成し、当該電子プローブを不図示の走査偏向器で二次元的に偏向させる。これにより、電子プローブで試料Sを走査できる。
【0028】
絞り24(コンデンサー絞り)は、試料Sに照射される電子線の一部をカットする。例えば、絞り24は、互いに孔径が異なる複数の絞り孔を有している。この絞り孔を切り替えることで、電子線の開き角および照射量を調整できる。
【0029】
試料ホルダー32は、試料Sを保持している。試料ホルダー32の先端部は、試料Sを支持している。試料ホルダー32は、ゴニオメータ34を介して顕微鏡本体に取り付けられている。ゴニオメータ34は、試料ホルダー32を移動および傾斜させる駆動機構を有している。
【0030】
結像光学系40は、試料Sを透過した電子を結像させる。結像光学系40は、対物レンズ42と、中間レンズ44と、投影レンズ46と、を含む。
【0031】
結像光学系40は、TEMモードでは、試料Sを透過した電子(透過電子)で電子回折パターンおよび試料像(TEM像)を形成する。例えば、対物レンズ42によって作られる試料像(TEM像)に中間レンズ44の焦点を合わせることで、投影レンズ46の物面に試料像を作ることができる。これにより、撮像装置50で試料像を撮像できる。また、中間レンズ44の焦点距離を変えて、対物レンズ42によって作られる電子回折パターンに焦点を合わせることで、投影レンズ46の物面に電子回折パターンを作ることができる。これにより、撮像装置50で電子回折パターンを撮像できる。
【0032】
結像光学系40は、STEMモードでは、試料Sを透過した電子を検出器54に導き、試料Sで散乱された電子を環状検出器52に導く。
【0033】
照射光学系20および結像光学系40は、電子顕微鏡100の電子光学系を構成する。
【0034】
撮像装置50は、結像光学系40によってつくられた試料像や電子回折パターンを撮像する。撮像装置50は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等のデジタルカメラである。撮像装置50で撮像されたTEM像や電子回折パターンの画像データは、
制御部60に送られ、記憶部74に記憶される。
【0035】
環状検出器52は、試料Sで散乱された電子を検出する。環状検出器52は、例えば、試料Sで高角度に非弾性散乱された電子を検出する検出器であってもよい。これにより、高角度環状暗視野STEM像(HAADF-STEM像)を取得できる。
【0036】
検出器54は、試料Sを透過した電子を検出する。検出器54で試料Sを透過した電子を検出することによって明視野STEM像を取得できる。
【0037】
操作部70は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を制御部60に出力する。操作部70の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどのハードウェアにより実現することができる。
【0038】
表示部72は、制御部60によって生成された画像を表示する。表示部72には、例えば、撮像された試料像や電子回折パターンが表示される。表示部72の機能は、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)、操作部70としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0039】
記憶部74は、制御部60としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶している。また、記憶部74は、制御部60のワーク領域としても機能する。記憶部74の機能は、RAM(Random Access Memory)およびハードディスクなどにより実現できる。
【0040】
制御部60は、電子源10や、照射光学系20、試料ホルダー32、ゴニオメータ34、結像光学系40、撮像装置50、環状検出器52、検出器54などの電子顕微鏡100の各部を制御する。制御部60の機能は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processer)などの各種プロセッサで、プログラムを実行することにより実現できる。
【0041】
1.2. 収差補正方法
1.2.1. 収差補正方法の概要
デフォーカスや、二回非点収差、軸上コマ収差のような低次収差は変動しやすく、高次収差ほど安定している傾向がある。そのため、高次収差は、一度調整しておけば、その後は観察や分析が終了するまで再調整の必要がほとんど生じない。しかしながら、低次収差は、短い時間で再調整が必要となる。そのため、低次収差の補正は、収差補正のための専用試料を用いることなく、実際に観察する試料を用いて行えることが望ましい。
【0042】
収差を補正する方法として、ロンキグラム(Ronchigram)を用いて収差を補正する手法が知られている。ロンキグラムを得るためには、試料のアモルファス領域を用いた方がよく、また、原子像を撮像するための撮像用の絞りよりも大きな径の絞りが必要である。そのため、径が大きな絞りを用いてアモルファス領域にてロンキグラムを得て、収差を補正した後、径が大きな絞りから径が小さな絞りに変えて撮像したい領域に視野を移動して試料を撮像する。このようにロンキグラムを得るための条件と、撮像条件が異なるために、撮像時には、再度、低次収差を補正することが望ましい。
【0043】
第1実施形態における収差補正方法では、原子像の輝度分布の標準偏差を指標として、低次収差を補正する。つまり、暗い真空領域中に明るい原子像がボケないで明暗がはっきりした状態で撮像されているか否かが指標となる。そのため、第1実施形態における収差補正方法では、専用試料を用いることなく、実際に観察する試料を用いて、低次収差を補正できる。また、原子像の輝度分布の標準偏差は、画像中の像の形状や残存収差の種類に依存しない。そのため、原子像の輝度分布の標準偏差を、収差を評価する指標とすること
によって、例えば像の形状に基づいて収差を補正する場合と比べて、試料のドリフトの影響を低減できる。
【0044】
原子像の輝度分布の標準偏差は、例えば、原子像の各ピクセルの輝度を抽出し、抽出された各ピクセルの輝度から標準偏差を計算することで得られる。収差補正に用いられる原子像は、例えば、環状検出器52を用いて取得された、環状暗視野STEM像(ADF-STEM像)である。収差補正に用いられる原子像は、例えば、HAADF-STEM像であってもよい。
【0045】
低次収差の補正で調整する光学素子のパラメータは、対物レンズ42の励磁、二回非点収差補正器26のXスティグマコイルの励磁(第1励磁)およびYスティグマコイルの励磁(第2励磁)、軸上コマ収差補正器28のXアライメントコイルの励磁(第3励磁)およびYアライメントコイルの励磁(第4励磁)である。
【0046】
以下、対物レンズ42を励磁するための電流設定値をOL値という。また、二回非点収差補正器26のXスティグマコイルを励磁するための電流設定値をXスティグマ値といい、二回非点収差補正器26のYスティグマコイルを励磁するための電流設定値をYスティグマ値という。また、軸上コマ収差補正器28のXアライメントコイルを励磁するための電流設定値をXアライメント値といい、軸上コマ収差補正器28のYアライメントコイルを励磁するための電流設定値をYアライメント値という。
【0047】
なお、照射光学系20において、電子線を傾斜させるアライメントコイルが2段ある場合、すなわち、1段目のアライメントコイルと、2段目のアライメントコイルがある場合、軸上コマ収差の補正は、電子線の照射軸の傾きを調整できる2段目のアライメントコイルを用いる。
【0048】
第1実施形態における収差補正方法では、この5つのパラメータの最適値を求めることによって、低次収差を補正する。パラメータの最適値は、原子像の輝度分布の標準偏差を最大にする値である。パラメータの最適値は、ガウス過程回帰を用いて求める。
【0049】
ここで、上記の5つのパラメータをそれぞれ1つの軸とした5次元空間を探索すると、次元数が多いために、最適値となる可能性が低い探索領域の端の方の条件の組み合わせが多くなり(次元の呪い)、探索が非効率になる。
【0050】
そのため、5つのパラメータを複数のグループに分けて次元を下げ、それぞれのグループで最適値を探索する。パラメータの分類は、パラメータ間の独立性を考慮して行う。ここでは、分類方法として、2つの考え方を示す。
【0051】
2つの分類方法のうちの1つは、収差の次数に応じた分類である。次数が低い収差が残存しているとより高次の収差は低次の収差にかき消されて現れにくい。そのため、次数の低い順に分類する。デフォーカスと二回非点収差は、次数は同じだが対称性は異なり、デフォーカスの方が高次の収差に与える影響が大きい。そのため、デフォーカス、二回非点収差、軸上コマ収差の順に、最適値を探索する。例えば、OL値のみの1次元空間、Xスティグマ値とYスティグマ値の2次元空間、Xアライメント値とYアライメント値の2次元空間の3つのグループに分けて、この順で最適値を探索する。なお、OL値とXスティグマ値とYスティグマ値の3次元空間、Xアライメント値とYアライメント値の2次元空間の2つのグループに分けて、この順に最適値を探索してもよい。
【0052】
2つの分類方法のうちの他の1つは、パラメータ間の相関を考慮した分類である。パラメータXとパラメータYに相関があるとは、X方向に掃引して得られたピーク位置がYの
値によって変わることを意味する。
【0053】
OL値がずれていると、Xスティグマ値およびYスティグマ値が最適値からずれた特定条件においてビーム形状が原子配列と似てしまい、標準偏差が大きくなる場合がある。これは、Si単結晶に対して<110>方向から電子線を入射することによって得られるダンベル構造のように、原子配列が非常に近くなった箇所がある場合や、照射光学系20に収差補正器がなく電子プローブの径が原子間隔と同程度に大きい場合に起こり得る。この場合には、OL値、Xスティグマ値、およびYスティグマ値には、相関があるといえる。一方、Xアライメント値とYアライメント値の場合は、OL値との相関はスティグマの場合と比較して小さい。
【0054】
そのため、OL値とXスティグマ値とYスティグマ値の3次元空間、Xアライメント値とYアライメント値の2次元空間の2つのグループに分けて、最適値を探索してもよい。また、OL値とXスティグマ値の2次元空間、OL値とYスティグマ値の2次元空間、Xアライメント値とYアライメント値の2次元空間の3つのグループに分けて、最適値を探索してもよい。
【0055】
収差の次数による分類とパラメータ間の相関による分類のどちらが適しているかは、試料の種類や装置の構成によって異なる。そのため、どちらの分類方法を用いるかは、試料の種類や装置の構成に応じて決定される。
【0056】
上記のように、パラメータを分類したうえで、パラメータの最適値をガウス過程回帰で求めることによって、探索回数を低減できる。
【0057】
1.2.2. 収差補正の流れ
図2は、電子顕微鏡100における収差補正方法の一例を示すフローチャートである。
【0058】
<準備>
まず、低次収差の補正を行う前に、高次収差の補正および低次収差の粗調整を行う。高次収差の補正および低次収差の粗調整は、例えば、ロンキグラムを用いてもよいし、試料像を用いてもよい。また、専用試料を用いて高次収差の補正および低次収差の粗調整を行ってもよい。
【0059】
高次収差の補正および低次収差の粗調整として、例えば、ロンキグラムを用いたSRAM法(Segmental Ronchigram Autocorrelation function Method)や、アモルファスカーボン上に金粒子がちりばめられた専用試料の試料像を用いた逆畳み込み法をなどの公知の収差補正方法を用いることができる。専用試料を用いた場合には、高次収差の補正および低次収差の粗調整後に、観察用試料を電子顕微鏡100に導入する。導入された観察用試料の観察対象となる領域において、試料の方位(電子線の入射方向に対する試料の向き)を合わせる。SRAM法を用いて高次収差の補正および低次収差の粗調整を行った場合には、ロンキグラム用の絞りから撮像用の絞りに交換した上で視野を移動し、原子像を撮像可能な状態にする。
【0060】
<条件の設定S10>
低次収差の補正を行うために、光学素子の種類、各光学素子のパラメータの探索範囲、原子像の撮像条件、ガウス過程回帰の関数形、およびハイパーパラメータを設定する。
【0061】
図3は、低次収差の補正の条件を示す表である。図3に示す表には、光学素子の種類、各光学素子の設定値の探索範囲、撮像条件、ガウス過程回帰の関数形、およびハイパーパラメータの条件が記載されている。
【0062】
調整する光学素子は、対物レンズ42(OL)、二回非点収差補正器26(CL Stig)、軸上コマ収差補正器28の2段目のXアライメントコイルおよびYアライメントコイル(CL2 Align)である。ここでは、デフォーカス、二回非点収差、軸上コマ収差の順に、最適値を探索する。すなわち、OL値のみの1次元空間、Xスティグマ値とYスティグマ値の2次元空間、Xアライメント値とYアライメント値の2次元空間の3つのグループに分けて、最適値を探索する。なお、上述したように、グループの分け方はこれに限定されない。
【0063】
収差補正に用いるSTEM像の撮像条件として、撮像倍率、画像サイズ、照射時間を設定する。画像サイズは輝度分布から標準偏差を算出するため、ある程度の画素数が必要であり、32ピクセル×32ピクセル=1024ピクセル以上であることが望ましい。画素数が多くなるほど標準偏差を精密に算出することが出来るようになるが、撮像に時間が掛かるため、512ピクセル×512ピクセル以下であることが望ましい。
【0064】
また、原子分解能の画像を得るためには画像の分解能が原子間隔より小さくなければならない。一般に原子間隔は数100pm(ピコメートル)程度であるため、画像の分解能がその数分の1程度、およそ100pm以下となるような高い倍率が必要となる。しかし倍率が高すぎると画像内に写る原子が少なくなり、撮影位置のわずかな違いによって画像内に収まる原子数が変わり、輝度分布の標準偏差が変動してしまう。そのため、ある程度の数の原子を設定した画素数内に収められることが望ましく、数10原子程度、結晶格子が4周期分程度写っていることが望ましい。撮影条件はこれらの制約を満たす必要があり、具体的な条件は機種によって異なるが、撮像倍率の下限は、概ね40M(メガ)倍となり、上限は画素数にも依存するが、32ピクセル×32ピクセルの場合は100M(メガ)倍以下程度である。図3に示す例では、撮像倍率は、80M倍に設定されている。画像サイズは、64ピクセル×64ピクセルである。1ピクセルあたりの電子線の照射時間は、例えば、10μ秒以下程度である。図3に示す例では、1ピクセルあたりの電子線の照射時間は、8μ秒に設定されている。なお、収差補正に用いる原子像の適切な撮像条件は、装置の性能や試料の原子配列などに依存するため、それに合わせて適宜変更可能である。
【0065】
各光学素子の設定値の探索範囲は、図3に示す例では、ビット(bit)で表している。本実施の形態では、本手法による収差補正を行うに先立って、ロンキグラムを用いた収差補正を行っているため、この段階で残存している収差の量は小さい。そのため探索範囲は狭く設定することができる。図3に示す例では、OL値の探索範囲は、-32ビット以上+32ビット以下であり、フォーカスのずれ量として、-20nm以上+20nm以下に対応する。図3に示す例では、Xスティグマ値およびYスティグマ値の探索範囲は、-1024ビット以上+1024ビット以下であり、Xアライメント値およびYアライメント値の探索範囲は、-32ビット以上+32ビット以下である。これは収差に換算してそれぞれおおよそ±100nm、±1000nmに相当する。なお、適切な探索範囲は、装置の状態や安定性、収差補正器の性能に依存するため、適宜変更可能である。
【0066】
図3に示す例では、ガウス過程回帰の関数形を、誤差を含む規格化ガウシアン(規格化ガウシアン+誤差)に設定している。規格化ガウシアンは、ガウシアンカーネルと同型であるが、探索範囲や標準偏差の変動幅が変わった場合に、フィッティング関数の形状が相対的に変わるように、ハイパーパラメータ(係数)をかけたカーネル関数である。ハイパーパラメータθ,θ,θについては、後述する。
【0067】
誤差を含む規格化ガウシアンK(誤差を含むガウシアンカーネルK)は、次式(1)で表される。
【0068】
【数1】
【0069】
ただし、θ、θ、θは、ハイパーパラメータであり、x,xは入力変数ベクトルであり、δijはクローネッカーデルタである。
【0070】
光学素子を調整する順序は、上述したように収差の次数が小さい順に行う。そのため、対物レンズ42の調整、二回非点収差補正器26の調整、および軸上コマ収差補正器28の調整の順に行う。なお、光学素子を調整する順序は、試料や装置に応じて適宜変更可能である。
【0071】
<対物レンズの調整S20>
まず、電子光学系を初期状態として、原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。具体的には、まず、電子顕微鏡100において観察用試料の原子像を撮像する。撮像は、図3に示す撮像条件で行われる。すなわち、撮像倍率80M倍、画像サイズ64ピクセル×64ピクセル、1ピクセルあたりの電子線の照射時間8μ秒で撮像する。これにより、観察用試料の原子像を得ることができる。次に、撮像された原子像から、輝度分布の標準偏差を求める。以上の工程により、原子像の輝度分布の標準偏差を測定できる。
【0072】
次に、ガウス過程回帰により標準偏差が最大となる対物レンズ42のOL値を求める。
【0073】
具体的には、まず、横軸がOL値であり、縦軸が原子像の輝度分布の標準偏差であるグラフに、OL値を初期値として撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果をプロットする。次に、OL値が初期値のときの標準偏差を示す測定点がプロットされたグラフにおいて、所定の関数およびハイパーパラメータでフィッティングを行う。ここでは、所定の関数として上記式(1)を用いる。また、ハイパーパラメータとして、θ=1、θ=1、θ=10を用いる。
【0074】
図4は、1回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果である。図4では、フィッティング結果のフィッティング関数Fを実線で示し、+1σの信頼区間および-1σの信頼区間を、それぞれ破線で示している。図4に示すグラフには、OL値を初期値として撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を示す測定点P0がプロットされている。OL値の初期値は、例えば、探索範囲の中心の値である。
【0075】
図4に示すように、ガウス過程回帰によって、OL値と標準偏差の関係を予測する予測モデルとしてのフィッティング関数Fを得ることができる。さらに、ガウス過程回帰によって、予測モデル(フィッティング関数F)で予測されるOL値の信頼度を求めることができる。
【0076】
フィッティング関数Fは、OL値が初期値のときの標準偏差を示す測定点P0を通り、横軸に平行な直線で表される。2本の破線は、確率が±1σとなる範囲、すなわち、1σの信頼区間を示している。つまり、フィッティング結果には、2本の破線で示す範囲の誤差が発生することを表している。
【0077】
このようにガウス過程回帰では、単に、フィッティング関数Fが得られるだけでなく、フィッティング結果の信頼度も合わせて得られる。すなわち、ガウス過程回帰では、単に、予測モデルが得られるたけでなく、予測モデルで予測される予測結果の信頼度もあわせて得られる。そのため、ガウス過程回帰では、フィッティング関数Fの精度を高めるため
の探索位置を効率的に求めることができ、ピークを効率よく探索できる。
【0078】
ここで、ハイパーパラメータについて説明する。θは、信頼区間の最大値を表すパラメータである。θが大きいほど、信頼区間が全体的に大きくなる。例えば、図4において、θが大きいほど、フィッティング関数Fを示す実線と信頼区間を表す破線との間の距離が大きくなる。
【0079】
θは、信頼区間およびフィッティング関数Fが、どの程度急峻に変化するかを規定するパラメータである。θが大きいほど、信頼区間およびフィッティング関数Fの急峻な変化が許容される。θは探索データのノイズ(誤差)の大きさを表すパラメータである。言い換えると、θは、測定点での信頼区間の大きさを表すパラメータである。例えば、図4において、θをゼロにすると、フィッティング関数Fおよび信頼区間を示す2本の破線は、測定点P0を通る。すなわち、θをゼロにすると、測定位置において、信頼区間がゼロになる。
【0080】
図4に示すように、OL値が初期値の位置、すなわち、実際に標準偏差の測定を行った測定位置では、信頼度が高いため信頼区間が小さい。すなわち、測定位置では、フィッティング関数Fの不確かさが小さい。測定位置から離れるに従って、信頼区間が大きくなる。すなわち、測定位置から離れるに従って、フィッティング関数Fの不確かさが大きくなる。そのため、フィッティング関数Fは、横軸に平行な直線であるが、信頼区間を含めると標準偏差が最大値を示す可能性が高いのは、探索範囲の両端の位置であることがわかる。このように、信頼区間に基づいて次の探索位置を決定するUCB(Upper Confidence Bound)アルゴリズムを用いて次の探索位置を決定する。例えば、信頼区間の上限値(+1σの信頼区間)が最大となる位置は、標準偏差が最大となる可能性が高い。そのため、信頼区間の上限値が最大となる位置を、OL値の最適値、すなわち、次の探索位置とする。
【0081】
図4に示すように、標準偏差が最大となる可能性が高い対物レンズ42のOL値、すなわち、OL値の最適値は、探索範囲の両端の位置である。そのため、この探索範囲の両端のうちの一方の値、すなわち、探索範囲の下限値または探索範囲の上限値をOL値の最適値とする。求めた最適値が、フィッティング関数Fの精度を高めるための次の探索位置となる。
【0082】
このようにして、次の探索位置が決まると、次の探索位置において原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。すなわち、OL値を最適値として原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。OL値を最適値として行う標準偏差の測定は、OL値を最適値とする点を除いて、上述したOL値を初期値として行う標準偏差の測定と同様に行われる。ここでは、OL値の最適値を探索範囲の下限値として、標準偏差の測定を行った場合について説明する。
【0083】
次に、ガウス過程回帰により標準偏差が最大となる対物レンズ42のOL値を求める。このとき、図4に示す1回目のフィッティングと同様に、ハイパーパラメータとして、θ=1、θ=1、θ=10を用いる。ここでは、ハイパーパラメータθ、θ、θの値を固定したが、フィッティングを繰り返すごとに、ハイパーパラメータを公知のアルゴリズムを用いて最適化してもよい。
【0084】
図5は、2回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果である。図5に示すグラフには、測定点P0と、OL値を探索範囲の下限値として撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を示す測定点P1と、がプロットされている。なお、図5では、-1σの信頼区間を示す破線の図示を省略している。
【0085】
図5に示すように、測定点P0に加えて測定点P1がプロットされることによって、フ
ィッティング関数Fは、傾きを持ち、かつ、信頼区間も変化する。このとき、標準偏差が最大となるOL値の最適値は、図5に示すように、OL値の探索範囲の上限値である。そのため、OL値の探索範囲の上限値を最適値とする。すなわち、OL値の探索範囲の上限値を、次の探索位置とする。
【0086】
このようにして、次の探索位置が決まると、次の探索位置においても同様に原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。すなわち、OL値を最適値(探索範囲の上限値)として原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。次に、ガウス過程回帰により標準偏差が最大となる対物レンズ42のOL値を求める。
【0087】
図6は、3回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果である。図6に示すグラフには、測定点P0と、測定点P1と、OL値を探索範囲の上限値として撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を示す測定点P2と、がプロットされている。
【0088】
図6に示すように、測定点P0および測定点P1に加えて測定点P2がプロットされることによって、フィッティング関数Fが放物線上になる。図6に示すフィッティング結果から、OL値の最適値が求められる。図6に示す例では、フィッティング関数Fと信頼区間を考慮して、OL値の最適値を、OL値=Aの位置とする。例えば、信頼区間の上限を示す+1σの破線がピークとなる位置を、OL値の最適値とする。
【0089】
図7は、4回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果である。図7に示すグラフには、測定点P0と、測定点P1と、測定点P2と、OL値を、OL値=Aとして撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を示す測定点P3と、がプロットされている。
【0090】
図7では、4回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果として得られた最適値が、3回目のガウス過程回帰によるフィッティング結果として得られた最適値(OL値=A)と一致している。そのため、最適値が収束したと判断して、対物レンズ42のOL値をOL値=Aと決定する。
【0091】
ここで、図7には、信頼区間が大きい領域がある。また、標準偏差が最大となるピーク位置(OL値=A)近傍でも信頼区間に幅がある。信頼区間が大きいということは、フィッティング精度が高くないことを意味する。しかしながら、ここでの目的は、ピーク(最大値)の探索である。そのため、フィッティング精度が高くなくても、ピーク位置に確信を持つことができれば、目的は達成できる。図7に示すように、求めた最適値が、前回の最適値と一致するということは、他の位置においてピークをとる可能性が低いことを意味している。したがって、最適値を収束させることによって、標準偏差が最大となる対物レンズ42のOL値を決定できる。以上の工程により、対物レンズ42を調整できる。
【0092】
なお、対物レンズ42の調整を終了する条件は、最適値が収束した場合に限定されない。例えば、探索範囲の全体において、信頼区間の幅があらかじめ設定された大きさよりも小さくなったときに、対物レンズ42の調整を終了してもよい。
【0093】
また、収束した最適値が探索範囲の概して端に位置していた場合は、真の最適値が探索範囲外にある可能性が高いため、探索範囲を移動して、例えば最適値が範囲の最小値であった場合は探索範囲を小さい側にシフトさせて、同様の調整を行うことによって、真の最適値にたどり着くことが出来る。
【0094】
<非点収差補正器の調整S30>
次に、二回非点収差補正器26の調整を行う。まず、対物レンズ42のOL値を、対物
レンズ42の調整S20で決定された値とし、その他の電子光学系を初期状態として、原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。標準偏差の測定は、上述した対物レンズ42の調整S20における標準偏差の測定と同様に行われる。
【0095】
次に、ガウス過程回帰により標準偏差が最大となる二回非点収差補正器26のXスティグマ値およびYスティグマ値を求める。
【0096】
ここで、二回非点収差補正器26の調整では、Xスティグマ値とYスティグマ値を同時に調整する。すなわち、Xスティグマ値とYスティグマ値の2次元空間を探索する。そのため、ガウス過程回帰によるフィッティング結果は、3次元のグラフになる。
【0097】
次に、Xスティグマ値およびYスティグマ値を初期値として撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を3次元のグラフにプロットし、フィッティングを行う。フィッティングは、3次元のグラフである点を除いて、上述したOL値の最適値の探索と同様に行われる。図3に示すように、ハイパーパラメータとして、θ=1、θ=1、θ=10を用いる。
【0098】
図8は、ガウス過程回帰によるフィッティング結果である。図8に示すグラフのx1軸がXスティグマ値であり、x2軸がYスティグマ値であり、y軸が原子像の輝度分布の標準偏差である。図8には、フィッティング関数F、および±1σの信頼区間を示している。
【0099】
図8に示すように、標準偏差が最大となる可能性が高いXスティグマ値およびYスティグマ値、すなわち、Xスティグマ値およびYスティグマ値の最適値は、信頼区間が上限値をとる探索範囲の四隅の位置である。したがって、Xスティグマ値およびYスティグマ値の探索位置を探索範囲の四隅の位置として、それぞれ原子像の輝度分布の標準偏差を測定する。
【0100】
図9は、ガウス過程回帰によるフィッティング結果である。図9に示すグラフには、Xスティグマ値およびYスティグマ値を初期値として撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を示す測定点、およびXスティグマ値およびYスティグマ値を四隅の位置としてそれぞれ撮像された原子像の輝度分布の標準偏差の測定結果を示す4つの測定点がプロットされている。
【0101】
図9に示すフィッティング結果から、Xスティグマ値およびYスティグマ値の最適値を求めることができる。このようにして、Xスティグマ値およびYスティグマ値を最適値として原子像の輝度分布の標準偏差を測定し、ガウス過程回帰により標準偏差が最大となるXスティグマ値およびYスティグマ値の最適値を求め、Xスティグマ値およびYスティグマ値を最適値として原子像を撮像することを繰り返し、最適値を収束させる。例えば、求めた最適値が前回の最適値と一致した場合に、最適値が収束したと判断する。
【0102】
このようにして、原子像の輝度分布が最大となる二回非点収差補正器26のXスティグマ値およびYスティグマ値を決定できる。以上の工程により、二回非点収差補正器26を調整できる。
【0103】
<軸上コマ収差補正器の調整S40>
次に、軸上コマ収差補正器28の調整を行う。軸上コマ収差補正器28の調整では、Xアライメント値およびYアライメント値を決定する。軸上コマ収差補正器28の調整は、パラメータがXアライメント値およびYアライメント値である点を除いて、上述した二回非点収差補正器26の調整と同様であり、その説明を省略する。
【0104】
以上の工程により、低次収差を補正できる。
【0105】
1.2.3. 制御部の処理
<低次収差を補正する処理>
電子顕微鏡100では、制御部60が低次収差を補正する処理を行う。図10は、制御部60の低次収差を補正する処理の一例を示すフローチャートである。
【0106】
制御部60は、ユーザーが低次収差の補正を開始する指示を行ったか否かを判定する(S100)。図示はしないが、収差補正開始ボタンに対する押下操作が行われた場合や、GUI(Graphical User Interface)の収差補正開始ボタンに対する操作が行われた場合に、ユーザーが収差補正を開始する指示を行ったと判定する。
【0107】
制御部60は、ユーザーが収差補正を開始する指示を行ったと判定した場合(S100のYes)、対物レンズ42を調整する(S110)。
【0108】
制御部60は、対物レンズ42を調整した後、二回非点収差補正器26を調整する(S120)。制御部60は、二回非点収差補正器26を調整した後、軸上コマ収差補正器28を調整する(S130)。制御部60は、軸上コマ収差補正器28を調整した後、低次収差を補正する処理を終了する。
【0109】
<対物レンズを調整する処理>
図11は、制御部60の対物レンズ42を調整する処理S110の一例を示すフローチャートである。
【0110】
制御部60は、対物レンズ42のOL値を初期値とし(S111)、観察用試料Sの原子像を撮像する(S112)。
【0111】
制御部60は、撮像された原子像の輝度分布の標準偏差を求める(S113)。制御部60は、求めた標準偏差に基づいてガウス過程回帰によりOL値と標準偏差の関係を予測するフィッティング関数F(予測モデル)および信頼区間(予測結果の信頼度)を求める(S114)。
【0112】
次に、制御部60は、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいて、OL値の最適値を求める(S115)。制御部60は、図4図5、および図6に示すように、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいて、標準偏差が最大となる可能性が高いOL値を最適値とする。制御部60は、例えば、信頼区間の上限値が最大となる位置を、OL値の最適値とする。
【0113】
制御部60は、求めた最適値が収束したか否かを判定する(S116)。制御部60は、例えば、求めた最適値が、前回求めた最適値(または初期値)と一致した場合に、最適値が収束したと判定する。
【0114】
制御部60は、求めた最適値が収束していないと判定した場合(S116のNo)、OL値を、処理S115で求めた最適値として、原子像を撮像する(S117)。制御部60は、原子像を撮像した後(処理S117の後)、処理S113に戻って、原子像の輝度分布の標準偏差を求め(S113)、ガウス過程回帰によりOL値と標準偏差の関係を予測するフィッティング関数Fおよび信頼区間を求め(S114)、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいてOL値の最適値を求める(S115)。
【0115】
制御部60は、処理S116において、最適値が収束したと判定するまで、OL値を最適値として原子像を撮像する処理S117、原子像の輝度分布の標準偏差を求める処理S113、フィッティング関数Fおよび信頼区間を求める処理S114、OL値の最適値を求める処理S115を繰り返す。
【0116】
制御部60は、最適値が収束したと判定した場合(S116のYes)、対物レンズ42を調整する処理を終了する。対物レンズ42を調整する処理の結果、対物レンズ42のOL値を、原子像の輝度分布の標準偏差を最大にする値にできる。
【0117】
<非点収差補正器を調整する処理>
図12は、制御部60の二回非点収差補正器26を調整する処理S120の一例を示すフローチャートである。
【0118】
制御部60は、二回非点収差補正器26のXスティグマ値を初期値とし、かつ、Yスティグマ値を初期値とし(S121)、試料Sの原子像を撮像する(S122)。
【0119】
制御部60は、撮像された原子像の輝度分布の標準偏差を求める(S123)。制御部60は、求めた標準偏差に基づいてガウス過程回帰によりXスティグマ値およびYスティグマ値と、標準偏差の関係を予測するフィッティング関数F(予測モデル)および信頼区間(予測結果の信頼度)を求める(S124)。
【0120】
次に、制御部60は、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいて、Xスティグマ値の最適値およびYスティグマ値の最適値を求める(S125)。制御部60は、図8および図9に示すように、フィッティング関数Fおよび信頼区間を考慮して、標準偏差が最大となる可能性が高いXスティグマ値およびYスティグマ値を最適値とする。
【0121】
制御部60は、求めた最適値が収束したか否かを判定する(S126)。制御部60は、例えば、求めた最適値が、前回求めた最適値(または初期値)と一致した場合に、最適値が収束したと判定する。
【0122】
制御部60は、求めた最適値が収束していないと判定した場合(S126のNo)、Xスティグマ値およびYスティグマ値を、処理S125で求めた最適値として、原子像を撮像する(S127)。
【0123】
制御部60は、原子像を撮像した後(処理S127の後)、処理S123に戻って、原子像の輝度分布の標準偏差を求め(S123)、ガウス過程回帰によりXスティグマ値およびYスティグマ値と標準偏差の関係を予測するフィッティング関数Fおよび信頼区間を求め(S124)、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいてXスティグマ値およびYスティグマ値の最適値を求める(S125)。
【0124】
制御部60は、処理S126において、最適値が収束したと判定するまで、Xスティグマ値およびYスティグマ値を最適値として原子像を撮像する処理S127、原子像の輝度分布の標準偏差を求める処理S123、フィッティング関数Fおよび信頼区間を求める処理S124、Xスティグマ値およびYスティグマ値の最適値を求める処理S125を繰り返す。
【0125】
制御部60は、最適値が収束したと判定した場合(S126のYes)、二回非点収差補正器26を調整する処理を終了する。二回非点収差補正器26を調整する処理の結果、二回非点収差補正器26のXスティグマ値およびYスティグマ値を、原子像の輝度分布の標準偏差を最大にする値にできる。
【0126】
<軸上コマ収差補正器を調整する処理>
図13は、制御部60の軸上コマ収差補正器28を調整する処理S130の一例を示すフローチャートである。
【0127】
制御部60は、軸上コマ収差補正器28のXアライメント値を初期値とし、かつ、Yアライメント値を初期値とし(S131)、試料Sの原子像を撮像する(S132)。
【0128】
制御部60は、撮像された原子像の輝度分布の標準偏差を求める(S133)。制御部60は、求めた標準偏差に基づいてガウス過程回帰によりXアライメント値およびYアライメント値と、標準偏差の関係を予測するフィッティング関数F(予測モデル)および信頼区間(予測結果の信頼度)を求める(S134)。
【0129】
次に、制御部60は、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいて、Xアライメント値の最適値およびYアライメント値の最適値を求める(S135)。制御部60は、フィッティング関数Fおよび信頼区間を考慮して、標準偏差が最大となる可能性が高いXアライメント値およびYアライメント値を最適値とする。
【0130】
制御部60は、求めた最適値が収束したか否かを判定する(S136)。制御部60は、例えば、求めた最適値が、前回求めた最適値(または初期値)と一致した場合に、最適値が収束したと判定する。
【0131】
制御部60は、求めた最適値が収束していないと判定した場合(S136のNo)、Xアライメント値およびYアライメント値を、処理S135で求めた最適値として、原子像を撮像する(S137)。
【0132】
制御部60は、原子像を撮像した後(処理S137の後)、処理S133に戻って、原子像の輝度分布の標準偏差を求め(S133)、ガウス過程回帰によりXアライメント値およびYアライメント値と標準偏差の関係を予測するフィッティング関数Fおよび信頼区間を求め(S134)、フィッティング関数Fおよび信頼区間に基づいてXアライメント値およびYアライメント値の最適値を求める(S135)。
【0133】
制御部60は、処理S136において、最適値が収束したと判定するまで、Xアライメント値およびYアライメント値を最適値として原子像を撮像する処理S137、原子像の輝度分布の標準偏差を求める処理S133、フィッティング関数Fおよび信頼区間を求める処理S134、Xアライメント値およびYアライメント値の最適値を求める処理S135を繰り返す。
【0134】
制御部60は、最適値が収束したと判定した場合(S136のYes)、軸上コマ収差補正器28を調整する処理を終了する。軸上コマ収差補正器28を調整する処理の結果、軸上コマ収差補正器28のXアライメント値およびYアライメント値を、原子像の輝度分布の標準偏差を最大にする値にできる。
【0135】
1.3. 撮像方法
1.3.1. 電子顕微鏡像の撮像
上述した図2に示す収差補正方法によって電子光学系の低次収差を補正した後、観察用試料SのSTEM像を撮像する。このとき、STEM像のピクセル数を、収差補正のために撮像した原子像のピクセル数よりも多くする。このように、電子顕微鏡100における撮像方法では、観察用試料Sを撮像するときのSTEM像の画像サイズを、収差補正のために撮像したときの原子像の画像サイズよりも大きくできる。言い換えると、収差補正の
ために撮像した原子像の画像サイズを、観察用試料SのSTEM像を撮像するときの画像サイズよりも小さくできる。そのため、収差補正のために使用する原子像の撮像時間を短縮できる。
【0136】
例えば、図3に示す収差補正時の撮像条件では、画像サイズを64ピクセル×64ピクセルとしたが、観察用試料Sの撮像時の撮像条件では、画像サイズを512ピクセル×512ピクセルよりも大きくする。
【0137】
1.3.2. 制御部の処理
制御部60は、図10に示す低次収差を補正する処理が終了した後、すなわち、軸上コマ収差補正器28の調整処理S130が終了した後、試料SのSTEM像を撮像する。このとき、制御部60は、STEM像のピクセル数を、図11の原子像を撮像する処理S117、図12の原子像を撮像する処理S127、図13の原子像を撮像する処理S137における原子像のピクセル数よりも大きく設定する。制御部60は、STEM像を撮像した後、処理を終了する。
【0138】
1.4. 効果
電子顕微鏡100は、照射光学系20を有する電子光学系と、電子光学系を制御する制御部60と、を含む。また、制御部60は、電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を求める処理と、ガウス過程回帰により電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差が最大となる電子光学系のパラメータの最適値を求める処理と、パラメータの値を最適値として原子顕微鏡像を撮像する処理と、を行い、標準偏差を求める処理、最適値を求める処理、および電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、パラメータの値を決定する。
【0139】
また、制御部60は、最適値を求める処理において、電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差に基づいてガウス過程回帰によりパラメータと標準偏差の関係を予測する予測モデルおよび予測モデルで予測されるパラメータの値の信頼度を求め、予測モデルおよび信頼度に基づいてパラメータの最適値を求める。
【0140】
このように、制御部60は、電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差を指標として、収差を補正するためのパラメータの最適値を求める。画像の輝度分布の標準偏差は、像の形状に依存しないため、低解像度の画像であっても最適値を求めることができる。したがって、電子顕微鏡100では、電子顕微鏡像を短時間で撮像でき、短時間で収差を補正できる。さらに、画像の輝度分布の標準偏差は、像の形状に依存しないため、試料のドリフトにより像が変形してもその影響は小さい。したがって、電子顕微鏡100では、例えば、像の形状に基づいて収差を補正する場合と比べて、試料のドリフトの影響を低減できる。したがって、電子顕微鏡100では、正確に収差を補正できる。
【0141】
また、制御部60は、ガウス過程回帰により電子顕微鏡像の輝度分布の標準偏差が最大となる電子光学系のパラメータの最適値を求める。したがって、電子顕微鏡100では、効率よくパラメータの最適値を求めることができる。以下、その理由について他の手法と比較しながら説明する。
【0142】
ガウス過程回帰と同様のピークを探索する手法として、山登り法、再急降下法、共役勾配法などが知られている。
【0143】
図14図15、および図16は、山登り法を説明するための図である。
【0144】
山登り法は、初期値からスタートして、所定の方向および所定のステップ幅で周囲を探索してより良い条件があれば、より良い条件の方に移動するアルゴリズムである。しかし
ながら、山登り法では、精度はステップ幅によって決まる。そのため、山登り法では、精度と速度(試行回数)にトレードオフが存在する。さらに、図14に示すように、ステップ幅が大きいと最大値を含むピークを検出できない可能性が大きい。図14に示す例では、ステップ幅が大きいために、ピークではないにも関わらず、点Pがピークとして検出される。また、図15に示すように、初期値を適切に設定しなければ、ステップ幅が小さいと局所ピークにトラップされやすい。図15に示す例では、初期値が適切に設定できた場合、点Paを最大値として検出できるが、初期値が適切に設定できなかった場合、局所ピークの点Pbを最大値として検出してしまう。そのため、山登り法では、複数のステップ幅で探索したり、様々な初期値で探索したりする工夫がなされる。しかしながら、試行回数は多くなってしまう。
【0145】
また、図16に示すように、山登り法では、探索する方向が適切でない場合には、収束しにくいという問題がある。図16では、探索する方向を矢印で示し、検出されたピーク位置を点で示している。また、ピーク位置を示す点には、検出された順序を示す番号を付している。
【0146】
このように、山登り法は試行回数が多くなってしまうため、収差補正に適さない。
【0147】
このような山登り法の問題点の対策がなされたのが、再急降下法および共役勾配法である。再急降下法や共役勾配法では、探索位置における勾配を利用して探索する方向やステップ幅を決定する。そのため、速度(試行回数)の向上を図ることができ、かつ、探索する方向に起因する収束しにくさを解消できる。
【0148】
しかしながら、再急降下法や共役勾配法では、勾配を算出するために、探索位置(x,y)だけでなく、その近傍の地点(x+dx,y)、(x,y+dy)でも撮像しなければならない。また、局所ピークや、勾配がゼロになる位置にトラップされる場合がある。
【0149】
さらに、ピークの探索の障害となるのがノイズの存在である。標準偏差は、輝度ノイズの影響を受ける。輝度ノイズがあると、局所ピークが発生するために山登り法を用いることは難しい。また、輝度ノイズがあると、勾配の算出が不正確になるため、再急降下法および共役勾配法を用いることも難しい。
【0150】
輝度ノイズは、電子線の照射時間を長くしたり、撮像範囲を大きくしたりすることによって低減できる。しかしながら、電子線の照射時間を長くしたり、撮像範囲を大きくしたりすると、撮像時間が長くなってしまう。したがって、収差補正には適さない。
【0151】
これに対して、ガウス過程回帰は、指定した探索範囲全体でフィッティングを行う。さらに、ガウス過程回帰では、フィッティング結果の信頼度を算出できる。そのため、局所ピークやノイズの影響を受けにくい。
【0152】
ここで、一般的に、測定点が少ない場合には、フィッティングの精度が低いため、フィッティング結果をもとに最大値を求めることはできない。しかしながら、ガウス過程回帰では、フィッティング結果の信頼度、すなわち、フィッティング結果の不確かさを算出できる。したがって、ある位置において、信頼区間の上限値がフィッティング結果の最大値を超えない場合、その位置では最大値をとらないと判定できる。逆に、ある位置において、信頼区間の上限値がフィッティング結果の最大値を超えている場合には、その位置では最大値をとる可能性がある。
【0153】
そのため、ガウス過程回帰では、上述したように、信頼区間の上限値が最大となる位置を優先的に測定することによって、最大値およびその位置を効率よく探索できる。信頼区
間の上限値が最大となる位置がすでに測定済みであれば、その位置を再度測定しても、フィッティング結果および信頼区間ともに変化しない。そのため、結果が収束したとみなして、最大値およびその位置が確定できる。
【0154】
このように、ガウス過程回帰では、探索範囲全体において最大値を探索するため、局所ピークにトラップされない。また、測定位置を区切って選択しないため、探索範囲の大きさによらず、制御幅の最小単位刻みで探索できる。さらに、ガウス過程回帰では、測定値の誤差(ノイズ)を取り入れてフィッティングや信頼区間を算出できるため、誤差に強い。
【0155】
ガウス過程回帰では、カーネル関数を設定し、その関数に用いるハイパーパラメータを指定する。カーネル関数は、測定点から離れるにしたがってどのように信頼区間が広がっていくかを規定している。カーネル関数には、線形、ガウシアン、など様々なものがある。考慮するノイズの大きさは定数項で表される。なお、関数形は、適宜選択可能である。
【0156】
カーネル関数に用いられる係数、すなわち、ハイパーパラメータは、試行回数に直結する。第1実施形態では、ハイパーパラメータを固定した場合について説明したが、探索するごとにハイパーパラメータの最適化を行ってもよい。ハイパーパラメータの最適化は、公知のアルゴリズムを用いて行うことができる。
【0157】
なお、ガウス過程回帰では、未知の値はゼロと仮定する。そのため、初期値での標準偏差が非常に大きい場合には、探索範囲のなかで非常に大きくて急峻なピークが存在することになる。この場合、信頼区間の上限の位置(ピーク位置)が初期値から変化しないという問題が生じる。したがって、標準偏差そのものを指標にするのではなく、計測された標準偏差の平均値を差し引いたものを指標とする、あるいは測定された標準偏差と初期値での標準偏差との差を指標としてもよい。これにより、初期値がピーク位置だと誤判定する問題を防ぐことができる。
【0158】
電子顕微鏡100では、制御部60は、パラメータを対物レンズ42の励磁(OL値)として、上述した標準偏差を求める処理、最適値を求める処理、および電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、OL値を決定して対物レンズ42を調整する。また、制御部60は、パラメータを二回非点収差補正器26において電子線のX方向の歪みを補正するための励磁(Xスティグマ値)および電子線のY方向の歪みを補正するための励磁(Yスティグマ値)として、上述した標準偏差を求める処理、最適値を求める処理、および電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、Xスティグマ値およびYスティグマ値を決定して二回非点収差補正器26を調整する。また、制御部60は、パラメータを軸上コマ収差補正器28において電子線のX方向の傾きを補正するための励磁(Xアライメント値)および電子線のY方向の歪みを補正するための励磁(Yアライメント値)として、上述した標準偏差を求める処理、最適値を求める処理、および電子顕微鏡像を撮像する処理を繰り返して、Xアライメント値およびYアライメント値を決定して、軸上コマ収差補正器28を調整する。
【0159】
このように、制御部60は、OL値、Xスティグマ値およびYスティグマ値のグループ、Xアライメント値およびYアライメント値のグループの3つのグループに分けて、パラメータの調整を行うため、効率よく収差を補正できる。
【0160】
低次収差の補正では、OL値、Xスティグマ値、Yスティグマ値、Xアライメント値、およびYアライメント値の5つのパラメータを調整する。そのため、5次元空間を探索することによってパラメータの最適値を求めることができる。しかしながら、次元を高くすると、いわゆる次元の呪いのために、探索に無駄が多くなる。
【0161】
そのため、5つのパラメータをグループに分けて探索および調整を行う。低次収差の補正では、OL値とスティグマ値(Xスティグマ値およびYスティグマ値)は、独立性が高い。また、OL値とアライメント値(Xアライメント値およびYアライメント値)は、独立性が高い。また、スティグマ値とアライメント値は、独立性が高い。これは、Xスティグマ値とYスティグマ値を最適化した結果は、OL値やアライメント値にほとんど依存しないことを意味する。
【0162】
一方、Xスティグマ値とYスティグマ値は、独立性が低いため、一括して探索および調整を行った方がよい。同様に、Xアライメント値とYアライメント値は、独立性が低いため、一括して探索および調整を行った方がよい。
【0163】
よって、OL値、Xスティグマ値とYスティグマ値のグループ、Xアライメント値とYアライメント値のグループの3つのグループに分けて探索および調整を行う。このように3つのグループに分けることによって、次元の呪いによる探索の無駄を低減でき、効率よく収差を補正できる。
【0164】
なお、OL値は一次元であるため、Xスティグマ値とYスティグマ値のグループに含めてもよいし、Xアライメント値とYアライメント値のグループに含めてもよい。
【0165】
電子顕微鏡100では、制御部60は、パラメータの値を決定した後に、電子顕微鏡像を撮像する処理で撮像した電子顕微鏡像のピクセル数よりも多いピクセル数の電子顕微鏡像を撮像する処理を行う。そのため、ピクセル数の大きい電子顕微鏡像を得ることができ、かつ、収差補正のために使用する電子顕微鏡像の撮像時間を短縮できる。
【0166】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100と同様であり、その説明を省略する。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡100において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0167】
2.2. 収差補正方法
第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、制御部60が、対物レンズ42を調整してから所定時間経過したか否かを判定する処理、二回非点収差補正器26を調整してから所定時間経過したか否かを判定する処理、および軸上コマ収差補正器28を調整してから所定時間経過したか否かを判定する処理を行う点で上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100と異なる。以下では、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0168】
図17は、第2実施形態に係る電子顕微鏡100の制御部60の低次収差を補正する処理の一例を示すフローチャートである。
【0169】
制御部60は、ユーザーが低次収差の補正を開始する指示を行ったか否かを判定する(S100)。制御部60は、ユーザーが収差補正を開始する指示を行ったと判定した場合(S100のYes)、対物レンズ42の調整処理S110を終了してからの経過時間tOが、対物レンズ42の再調整が必要となる経過時間TOよりも大きいか否かを判定する(S210)。
【0170】
対物レンズ42のOL値の最適値は、経時変化する。経過時間TOは、OL値の最適値の変化が許容範囲に収まる時間に設定されている。制御部60は、例えば、図11に示す対物レンズ42の調整処理S110が終了したタイミングで経過時間tOの測定を開始する。なお、制御部60は、対物レンズ42の調整処理S110が一度も行われていない場合には、経過時間tOをTOより大きな値、例えば無限大とする。
【0171】
制御部60は、経過時間tOが経過時間TOよりも大きいと判定した場合(S210のYes)、図11に示す対物レンズ42の調整処理を行う(S110)。制御部60は、対物レンズ42の調整処理を行った後(S110の後)、処理S210に戻って、経過時間tOが経過時間TOよりも大きいか否かを判定する(S210)。
【0172】
制御部60は、経過時間tOが経過時間TOよりも大きくないと判定した場合(S210のNo)、二回非点収差補正器26の調整処理S120を終了してからの経過時間tSが、二回非点収差補正器26の再調整が必要となる経過時間TSよりも大きいか否かを判定する(S220)。
【0173】
二回非点収差補正器26のXスティグマ値の最適値およびYスティグマ値の最適値は、経時変化する。経過時間TSは、Xスティグマ値の最適値の変化およびYスティグマ値の最適値の変化が許容範囲に収まる時間に設定されている。制御部60は、例えば、図12に示す二回非点収差補正器26の調整処理S120が終了したタイミングで経過時間tSの測定を開始する。なお、制御部60は、二回非点収差補正器26の調整処理S120が一度も行われていない場合には、経過時間tSをTSより大きな値、例えば無限大とする。
【0174】
制御部60は、経過時間tSが経過時間TSよりも大きいと判定した場合(S220のYes)、図12に示す二回非点収差補正器26の調整処理を行う(S120)。制御部60は、二回非点収差補正器26の調整処理を行った後(S120の後)、処理S210に戻って、経過時間tOが経過時間TOよりも大きいか否かを判定する(S210)。
【0175】
制御部60は、経過時間tSが経過時間TSよりも大きくないと判定した場合(S220のNo)、軸上コマ収差補正器28の調整処理S130を終了してからの経過時間tAが、軸上コマ収差補正器28の再調整が必要となる経過時間TAよりも大きいか否かを判定する(S230)。
【0176】
軸上コマ収差補正器28のXアライメント値の最適値およびYアライメント値の最適値は、経時変化する。経過時間TAは、Xアライメント値の最適値の変化およびYアライメント値の最適値の変化が許容範囲に収まる時間に設定されている。制御部60は、例えば、図13に示す軸上コマ収差補正器28の調整処理S130が終了したタイミングで経過時間tAの測定を開始する。なお、制御部60は、軸上コマ収差補正器28の調整処理S130が一度も行われていない場合には、経過時間tAをTAより大きな値、例えば無限大とする。
【0177】
制御部60は、経過時間tAが経過時間TAよりも大きいと判定した場合(S230のYes)、図13に示す軸上コマ収差補正器28の調整処理を行う(S130)。制御部60は、軸上コマ収差補正器28の調整処理を行った後(S130の後)、処理S210に戻って、経過時間tOが経過時間TOよりも大きいか否かを判定する(S210)。
【0178】
制御部60は、経過時間tAが経過時間TAよりも大きくないと判定した場合(S230のNo)、低次収差を補正する処理を終了する。
【0179】
2.3. 効果
第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、制御部60は、対物レンズ42を調整する処理を行ってから所定時間経過したか否かを判定する処理と、所定時間経過したと判定した場合に、再度、対物レンズ42を調整する処理と、を行う。そのため、第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、対物レンズ42のOL値の最適値の経時変化の影響を低減でき、正確に低次収差を補正できる。
【0180】
また、第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、制御部60は、二回非点収差補正器26を調整する処理を行ってから所定時間経過したか否かを判定する処理と、所定時間経過したと判定した場合に、再度、二回非点収差補正器26を調整する処理と、を行う。そのため、第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、二回非点収差補正器26のXスティグマ値の最適値およびYスティグマ値の最適値の経時変化の影響を低減でき、正確に低次収差を補正できる。
【0181】
また、第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、制御部60は、軸上コマ収差補正器28を調整する処理を行ってから所定時間経過したか否かを判定する処理と、所定時間経過したと判定した場合に、再度、軸上コマ収差補正器28を調整する処理と、を行う。そのため、第2実施形態に係る電子顕微鏡100では、軸上コマ収差補正器28のXアライメント値の最適値およびYアライメント値の最適値の経時変化の影響を低減でき、正確に低次収差を補正できる。
【0182】
2.4. 変形例
図18は、制御部60の低次収差を補正する処理の変形例を示すフローチャートである。以下では、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0183】
対物レンズ42のOL値の最適値は、二回非点収差補正器26のXスティグマ値の最適値およびYスティグマ値の最適値、軸上コマ収差補正器28のXアライメント値の最適値およびYアライメント値の最適値と比べて、経時変化による変動が大きい。そのため、図18に示すように、制御部60は、対物レンズ42の調整処理S110、二回非点収差補正器26の調整処理S120を行った後、対物レンズ42の調整処理S1100を行う。対物レンズ42の調整処理S1100は、対物レンズ42の調整処理S110と同様に行われる。これにより、OL値の最適値の経時変化の影響を低減でき、正確に低次収差を補正できる。
【0184】
制御部60は、対物レンズ42の調整処理S1100を行った後、軸上コマ収差補正器28の調整処理S130を行う。
【0185】
3. 第3実施形態
3.1. 電子顕微鏡
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第3実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100と同様であり、その説明を省略する。以下、第3実施形態に係る電子顕微鏡100において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0186】
3.2. 収差補正方法
上述した第1実施形態では、撮像倍率を80M倍程度にして原子像を撮像し、原子像の輝度分布の標準偏差を指標として、低次収差を補正した。これに対して、第3実施形態では撮像倍率を10M倍程度の比較的低倍率にする。このような比較的低倍率のSTEM像
では、電子プローブのサイズが十分に小さくても、走査する間隔が大きくなるため、原子像は明瞭に確認できず、モアレが確認できる。
【0187】
STEM像におけるモアレは、電子線で試料を走査するときの走査パターンと、原子配列パターンと、が重なることによって生じる周期性のパターンである。そのため、モアレにおける明暗は原子像が明瞭に確認できる画像の明暗と等しく、モアレの輝度分布の標準偏差を指標とし低次収差を補正しても、原子像の輝度分布の標準偏差を指標として低次収差を補正したときと同様の結果が得られる。
【0188】
3.3. 撮像方法
制御部60は、モアレの輝度分布の標準偏差を指標として、上述した図10に示す低次収差を補正する処理を行う。このとき、制御部60は、図11の原子像を撮像する処理S117、図12の原子像を撮像する処理S127、図13の原子像を撮像する処理S137において、10M倍程度の比較的低倍率で撮像する。これにより、モアレの輝度分布の標準偏差を指標として低次収差を補正できる。
【0189】
また、制御部60は、上述した図10に示す低次収差を補正する処理を終了した後、試料SのSTEM像を撮像する。このとき、撮像倍率を、上述した処理S117、処理S127、および処理S137における撮像倍率よりも高くする。このように、電子顕微鏡100における撮像方法では、観察用試料Sを撮像するときの撮像倍率を、収差補正のために原子像を撮像するときの撮像倍率よりも大きくできる。言い換えると、収差補正のために原子像を撮像するときの撮像倍率を、観察用試料SのSTEM像を撮像するときの撮像倍率よりも小さくできる。そのため、収差が補正された状態で撮像倍率の高いSTEM像を得ることができ、かつ、収差補正のための原子像の撮像において、電子線の照射による試料Sのダメージを低減できる。
【0190】
4. 第4実施形態
4.1. 電子顕微鏡
次に、第4実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第4実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100と同様であり、その説明を省略する。以下、第4実施形態に係る電子顕微鏡100において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0191】
4.2. 収差補正方法
図19は、制御部60の対物レンズ42を調整する処理S110の変形例を示すフローチャートである。
【0192】
図19に示すように、制御部60は、対物レンズ42の調整処理S110において、原子像を撮像する領域を変更する処理S1170を行う。例えば、最適値が収束したか否かを判定する処理S116の後、原子像を撮像する処理S117の前に、原子像を撮像する領域を変更する処理S1170を行う。これにより、標準偏差を求める処理S113、フィッティング関数Fおよび信頼区間を求める処理S114、OL値の最適値を求める処理S115、原子像を撮像する処理S117を繰り返すごとに、原子像を撮像する領域が変更される。原子像を撮像する領域は、例えば、軸上コマ収差補正器28のアライメントコイルが2段ある場合は、その内の1段目のアライメントコイルを用いて変更できる。なお、原子像を撮像する領域を、ゴニオメータ34で試料Sを移動させることによって変更してもよい。
【0193】
ここで、原子像は周期的なパターンであるため、原子像の輝度分布の標準偏差は撮像す
る領域に依存しない。したがって、原子像を撮像する領域が変更されても、収差補正には影響しない。処理を繰り返すごとに原子像を撮像する領域を変更することによって、電子線の照射による試料Sのダメージを低減できる。
【0194】
なお、処理S113~処理S117の処理を繰り返す間であれば、原子像を撮像する領域を変更する処理S1170を行うタイミングは特に限定されない。
【0195】
制御部60は、図12に示す二回非点収差補正器26の調整処理S120においても、同様に、原子像を撮像する領域を変更する処理を行う。また、制御部60は、図13に示す軸上コマ収差補正器28の調整処理S130においても、同様に、原子像を撮像する領域を変更する処理を行う。
【0196】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0197】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0198】
10…電子源、20…照射光学系、22…コンデンサーレンズ、24…絞り、26…二回非点収差補正器、28…軸上コマ収差補正器、32…試料ホルダー、34…ゴニオメータ、40…結像光学系、42…対物レンズ、44…中間レンズ、46…投影レンズ、50…撮像装置、52…環状検出器、54…検出器、60…制御部、70…操作部、72…表示部、74…記憶部、100…電子顕微鏡
図1
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