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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112087
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】試料分析システム及び試料分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240813BHJP
【FI】
G01N27/62 Y
G01N27/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016934
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 悠佑
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041HA01
2G041LA03
2G041LA09
2G041MA01
2G041MA04
2G041MA05
(57)【要約】
【課題】定量イオンピーク及び確認イオンピークの関係の適否を認識しながら、定量イオンピーク及び確認イオンピークを個別的に編集できるようにする。
【解決手段】ピーク編集時に編集支援像118が表示される。編集支援像118には、定量イオンピーク及び確認イオンピークのピーク比(IQ比)に関する複数の情報が含まれる。それらの情報には、誤差率(IQ比誤差率)126、及び、誤差率の判定結果128が含まれる。ピーク編集に伴って誤差率126及び判定結果128がリアルタイムで更新される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数のピークセットを処理するプロセッサと、
前記プロセッサに接続された表示器と、
を含み、
前記各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成され、
前記プロセッサは、ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像を生成すると共に前記編集支援像を前記表示器へ出力し、
前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットの編集に伴って前記編集支援像中の前記評価結果が更新される、
ことを特徴とする試料分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の試料分析システムにおいて、
前記評価結果には、前記特定ピークセットに基づいて演算されたピーク比の評価結果が含まれる、
ことを特徴とする試料分析システム。
【請求項3】
請求項2記載の試料分析システムにおいて、
前記ピーク比の評価結果は、前記ピーク比の誤差率の評価結果であり、
前記編集支援像には、更に前記誤差率を示す情報が含まれ、
前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットの編集に伴って前記編集支援像中の前記誤差率を示す情報及び前記誤差率の評価結果が更新される、
ことを特徴とする試料分析システム。
【請求項4】
請求項1記載の試料分析システムにおいて、
前記プロセッサは、前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットを表す定量イオンピーク像及び確認イオンピーク像を含むピークセット画像を前記表示器へ出力すると共に、前記ピークセットの評価結果に基づいて、前記定量イオンピーク像及び前記確認イオンピーク像の表示態様を変更する、
ことを特徴とする試料分析システム。
【請求項5】
請求項1記載の試料分析システムにおいて、
前記プロセッサは、前記試料から分離された複数の化合物の質量分析により生成された複数の化合物情報からなる化合物テーブルを生成すると共に前記化合物テーブルを前記表示器へ出力し、
前記各化合物情報には、前記各化合物から得られたピークセットの評価結果が含まれ、
前記プロセッサは、前記ピーク編集の実行中に前記化合物テーブルの内容を維持し、前記ピーク編集の終了後に前記化合物テーブルの内容を更新する、
ことを特徴とする試料分析システム。
【請求項6】
試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数のピークセットを処理する工程と、
ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像を生成すると共に前記編集支援像をユーザーへ提供する工程と、
を含み、
前記各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成され、
前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットの編集に伴って前記編集支援像中の前記評価結果が更新される、
ことを特徴とする試料分析方法。
【請求項7】
試料分析システムにおいて実行されるプログラムであって、
試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数のピークセットを処理する機能と、
ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像を生成すると共に前記編集支援像をユーザーへ提供する機能と、
を含み、
前記各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成され、
前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットの編集に伴って前記編集支援像中の前記評価結果が更新される、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析システム及び質量分析方法に関し、特に、複数の抽出イオンクロマトグラムに含まれる定量イオンピーク及び確認イオンピークの編集を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の定量分析に際しては、試料分析システムが利用される。試料分析システムは、例えば、ガスクロマトグラフ、質量分析装置、及び、情報処理装置により構成される。ガスクロマトグラフにおいて、試料から複数の化合物が順次抽出される。それらの複数の化合物が質量分析装置へ順次導入される。質量分析装置において、複数の化合物に対して質量分析が順次実行される。その際、各化合物の定量精度を保証するために、化合物ごとに定められた定量イオン(Quantification ion)及び確認イオン(Identification ion)が検出される。
【0003】
例えば、化合物のマススペクトルにおいて、最も大きなピークに対応するイオンが定量イオンとして定められ、2番目に大きなピークに対応するイオンが確認イオンとして定められる。定量イオンは、ターゲットイオンとも呼ばれる。確認イオンは、参照イオンとも呼ばれ、化合物ごとに複数の確認イオンが参照されることもある。
【0004】
試料分析システム内の情報処理装置において、質量分析により検出された定量イオンの強度を時間経過に従ってプロットすることにより、定量イオンの抽出イオンクロマトグラム(定量イオンクロマトグラム)が作成される。これと同様に、質量分析により検出された確認イオンの強度を時間経過に従ってプロットすることにより、確認イオンの抽出イオンクロマトグラム(確認イオンクロマトグラム)が作成される。抽出イオンクロマトグラムは、マスクロマトグラムとも呼ばれる。
【0005】
定量イオンクロマトグラムにおいて、分析対象の各化合物に対して定められた保持時間付近に現れるピーク(定量イオンピーク)が検出される。これと同様に、確認イオンクロマトグラムにおいて、分析対象の各化合物に対して定められた保持時間付近に現れるピーク(確認イオンピーク)が検出される。これにより、複数の化合物に対応する複数のピークセットが得られる。各ピークセットは定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成される。それらのピークは、いずれも、化合物特有の代表ピークである。
【0006】
情報処理装置での情報処理をより詳しく説明すると、公知のピーク検出法に従って、化合物ごとに、定量イオンクロマトグラムに含まれる定量イオンピークが検出され、そのピーク面積又はピーク高さが求められる。これと同様に、公知のピーク検出法に従って、化合物ごとに、確認イオンクロマトグラムに含まれる確認イオンピークが検出され、そのピーク面積及びピーク高さが求められる。そして、化合物ごとに、定量イオンについてのピーク面積又はピーク高さと確認イオンについてのピーク面積又はピーク高さとの比として、実測ピーク比が算出される。化合物ごとに、実測ピーク比が当該化合物の基準ピーク比と比較され、これによりピーク比誤差率が演算される。その上で、ピーク比誤差率の適否が判定される。ピーク比は、I/Q又はIQ比とも呼ばれる。ピーク比誤差率の適否の判定はレシオチェックとも呼ばれる。
【0007】
そのようなレシオチェックと並行して、化合物ごとに、定量イオンピークが生じた実測保持時間が当該化合物の基準保持時間と比較され、これにより保持時間誤差が演算される。その上で、保持時間誤差の適否が判定される。化合物ごとに、ピークセットのチェックを通じて当該ピークセットが適正なものであると判定された場合に、定量イオンピークが当該化合物由来のものであると判断される。その判断に従って、当該化合物の定量が実施され、あるいは、当該化合物の定量結果が適正なものであると判断される。
【0008】
抽出イオンクロマトグラムに含まれる各ピークを自動的に検出する場合、ピークの重なり等に起因して、ピークを正しく抽出できないことがある。そこで、試料分析システムは、自動的に抽出されたピークを観察しながら当該ピークをマニュアルで修正するピーク編集機能(ピーク編集モード)を有している(例えば、特許文献1を参照)。ピーク編集においては、ベースラインの修正等により、ピークを構成する領域やピークの高さが修正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6036304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ピーク編集の目的は、誤ったピーク検出結果の是正にあるが、究極的には、誤って計算されたピークセット評価値(ピーク比誤差率等)の是正にある。そのような観点から、ピーク編集作業を支援することが求められている。
【0011】
本発明の目的は、ユーザーによるピーク編集を支援することにある。あるいは、本発明の目的は、定量イオンピーク及び確認イオンピークの関係の適否を認識しながら、定量イオンピーク及び確認イオンピークを個別的に編集できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る試料分析システムは、試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数のピークセットを処理するプロセッサと、前記プロセッサに接続された表示器と、を含み、前記各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成され、前記プロセッサは、ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像を生成すると共に前記編集支援像を前記表示器へ出力し、前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットの編集に伴って前記編集支援像中の前記評価結果が更新される、ことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る質量分析方法は、試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数のピークセットを処理する工程と、ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像を生成すると共に前記編集支援像をユーザーへ提供する工程と、を含み、前記各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成され、前記ピーク編集の実行中において、前記特定ピークセットの編集に伴って前記編集支援像中の前記評価結果が更新される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ユーザーによるピーク編集を支援できる。あるいは、本発明によれば、定量イオンピーク及び確認イオンピークの関係の適否を認識しながら、定量イオンピーク及び確認イオンピークを個別的に編集できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る試料分析システムの構成例を示すブロック図である。
図2】ピークアレイ及び抽出イオンクロマトグラムを示す図である。
図3】表示例を示す図である。
図4】化合物テーブルの一例を示す図である。
図5】ピーク編集の一例を示す図である。
図6】編集支援像の第1例を示す図である。
図7】動作例を示すフローチャートである。
図8】表示色の割り当てを示す図である。
図9】編集支援像の第2例を示す図である。
図10】編集支援像の第3例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る試料分析システムは、プロセッサ及びそれに接続された表示器を有する。プロセッサは、試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数の抽出イオンクロマトグラムに含まれる複数のピークセットを処理するものである。各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成される。プロセッサは、ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像を生成すると共に編集支援像を表示器へ出力する。ピーク編集の実行中において、特定ピークセットの編集に伴って編集支援像中の評価結果が更新される。
【0018】
上記構成によれば、ユーザーは、編集支援像を参照しながら特定ピークセットの編集を行える。編集支援像には、特定ピークセットの評価結果が含まれるので、定量イオンピーク及び確認イオンピークの関係の適否を認識しながら、定量イオンピーク及び確認イオンピークを個別的に編集することができる。よって、特定ピークセットの編集作業を適正化又は効率化できる。
【0019】
特定ピークセットは、ユーザーにより選択された編集対象である。具体的には、特定ピークセットを構成する定量イオンピーク及び確認イオンピークの内で、両方又は一方が編集対象となる。編集要否はユーザーにより判断される。ピーク編集の概念には、ピーク面積又はピーク高さの変更を伴うピーク修正が含まれる。具体的には、ピーク編集の概念には、ベースラインシフト、垂直線によるピーク分割、ピーク結合、ピーク形状の修正、等が含まれる。通常、各イオンピークを構成する領域の定義が修正される。実施形態において、編集支援像に含まれる評価結果には、例えば、ピーク比評価結果(レシオチェック結果)が含まれる。編集支援像に含まれる評価結果に更に保持時間評価結果(保持時間チェック結果)が含まれてもよい。編集支援像に特定ピークセットから演算された複数の数値情報が含まれてもよい。
【0020】
実施形態においては、特定ピークセットの編集に伴って編集支援像の内容がリアルタイムで更新され、あるいは、特定ピークセットの編集に伴って編集支援像の内容が繰り返し更新される。編集支援像の内容の変化を参照しながら特定ピークセットの編集を行える。編集の行き過ぎを防止するために、特定ピークセットの修正量を表す情報が表示されてもよい。特定ピークセットの評価結果がグラフにより表現されてもよい。上記のリアルタイムでの更新は、ピーク編集のためにユーザーにより操作される表示要素の移動中における(つまり表示要素の位置の確定前における)、計算の繰り返し及び表示更新の繰り返しを意味する。
【0021】
実施形態において、ピーク比の評価結果は、ピーク比の誤差率の評価結果である。編集支援像には、誤差率を示す情報及び誤差率の評価結果が含まれる。ピーク編集の実行中において、特定ピークセットの編集に伴って、編集支援像において、誤差率を示す情報及び誤差率の評価結果が更新される。編集支援像に更にピーク比(IQ比)等の情報が含まれてもよい。
【0022】
実施形態において、プロセッサは、ピーク編集の実行中において、特定ピークセットを表す定量イオンピーク像及び確認イオンピーク像を含むピークセット画像を表示器へ出力する。また、プロセッサは、上記のピークセットの評価結果に従って定量イオンピーク像及び確認イオンピーク像の表示態様を変更する。この構成によれば、2つのピーク像の表示態様の観察を通じて評価結果を直感的に認識でき、また、編集支援像の参照により特定ピークセットについての詳細な情報又は具体的な情報を得られる。
【0023】
実施形態において、プロセッサは、試料から分離された複数の化合物の質量分析により生成された複数の化合物情報からなる化合物テーブルを生成すると共に化合物テーブルを表示器へ出力する。各化合物情報には、各化合物から得られたピークセットの評価結果が含まれる。プロセッサは、ピーク編集の実行中に化合物テーブルの内容を維持し、ピーク編集の終了後に化合物テーブルの内容を更新する。
【0024】
編集支援像に含まれる評価結果は仮の評価結果(又は中間的な評価結果)であり、ピーク編集の終了時に、仮の評価結果が正式な評価結果となる。ピーク編集の終了時点で、正式な評価結果が化合物テーブルに反映される。
【0025】
実施形態に係る質量分析方法では、試料から分離された複数の化合物の質量分析により得られた複数のピークセットが処理される。具体的には、ピーク編集の実行中において、編集対象となった特定ピークセットの評価結果を含む編集支援像が生成され、その編集支援像がユーザーへ提供される。各ピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成される。ピーク編集の実行中において、特定ピークセットの編集に伴って編集支援像中の評価結果が更新される。
【0026】
上記の質量分析方法は、ソフトウエアの機能により実現され得る。その場合、上記の質量分析方法を実行するプログラムが、情報処理装置へ、ネットワークを介して又は可搬型記憶媒体を介して、インストールされる。情報処理装置は、上記のプログラムを格納する非一時的記憶媒体を有する。
【0027】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る試料分析システムが示されている。この試料分析システムは、試料に含まれる複数の化合物の定量分析において用いられる。試料分析システムは、測定部10及び情報処理装置12により構成される。測定部10は、ガスクロマトグラフ14及び質量分析装置15により構成される。
【0028】
ガスクロマトグラフ14において、試料から複数の化合物が順次分離される。それらの化合物が質量分析装置15へ順次導入される。ガスクロマトグラフ14に代えて液体クロマトグラフが用いられてもよい。
【0029】
質量分析装置15は、そこに順次導入される複数の試料に対して質量分析を順次実行する。質量分析装置15は、イオン源16、質量分析器18、及び、検出器20を有する。イオン源16において、各試料がイオン化される。イオン化方法として各種のイオン化方法を採用し得る。イオン化により生じたイオンが質量分析器18へ導入される。質量分析器18は、例えば、四重極型質量分析器により構成される。質量分析器18を通過したイオンが検出器20で検出される。
【0030】
実際には、試料ごとに事前に設定されている質量電荷比(m/z)条件を満たす複数のイオン(複数の抽出イオン)に対して質量分析が適用される。当該複数のイオンは、具体的には、定量イオン及び確認イオンである。試料ごとに定められた検出期間において、定量イオンを検出するための第1の質量電荷比、及び、確認イオンを検出するための第2の質量電荷比が交互に設定される。これにより、定量イオンの強度情報の時間的な変化及び確認イオンの強度情報の時間的な変化を表す検出信号22が得られる。検出信号22に対して信号処理を適用する電気回路についてはその図示が省略されている。
【0031】
なお、化合物ごとに複数の確認イオンが検出されてもよい。質量電荷比を繰り返し走査することによりマススペクトル列が取得されてもよい。一般に、化合物のマススペクトルにおいて、もっとも大きいピークに対応するイオンが定量イオンとされ、2番目に大きいピークに対応するイオンが確認イオンとされる。
【0032】
情報処理装置12は、具体的には、コンピュータにより構成される。情報処理装置12は、情報処理部24、入力器26、表示器28、メモリ30等を有している。情報処理部24は、プロセッサにより構成され、そのプロセッサは、例えば、プログラムを実行するCPUである。情報処理部24が複数のプロセッサにより構成されてもよい。
【0033】
入力器26は、キーボード、ポインティングデバイス等により構成される。表示器28は、液晶表示器、有機EL表示デバイス等により構成される。メモリ30には、質量分析において必要となる情報が格納されている。メモリ30には、質量分析により生成された情報も格納される。実施形態においては、後述するように、メモリ30に化合物リストを構成する複数の情報が格納される。
【0034】
図1においては、情報処理部24が発揮する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。情報処理部24は、クロマトグラム生成部34、ピーク検出部36、保持時間判定部38、IQ比演算部40、保持時間評価部42、及び、IQ比評価部44を含む。情報処理部24により、質量分析装置15の動作が制御される。
【0035】
クロマトグラム生成部34は、質量分析装置15から出力された検出信号22に基づいて、抽出イオンクロマトグラム(EIC:Extracted Ion Chromatogram)を生成するモジュールである。保持時間軸上には、複数の化合物に対応する複数の検出期間が定められている。化合物ごとに、その化合物に対応する検出期間内において、定量イオンを検出するための第1質量電荷比、及び、確認イオンを検出するための第2質量電荷比、が交互に設定される。クロマトグラム生成部34は、複数の検出期間にわたって得られる、特定の複数の質量電荷比に対応した一連の検出信号に基づいて、2つの抽出イオンクロマトグラムとして、定量イオンクロマトグラム及び確認イオンクロマトグラムを生成する。
【0036】
ピーク検出部36は、定量イオンクロマトグラムに含まれる、複数の化合物に対応した複数の定量イオンピークを検出する。また、ピーク検出部36は、確認イオンクロマトグラムに含まれる、複数の化合物に対応した複数の確認イオンピークを検出する。ピークの検出に際しては公知のピーク検出方法を用い得る。これにより、複数の化合物に対応した複数のピークセットが特定される。各ピークセットは、各化合物特有の定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成される。
【0037】
保持時間判定部38は、化合物ごとに、定量イオンピークが生じた保持時間を判定する。確認イオンピークを基準として保持時間が特定されてもよいし、定量イオンピーク及び確認イオンピークの両方に基づいて保持時間が特定されてもよい。ピークの重心又は頂点に基づいて保持時間が特定されてもよい。以下においては、保持時間判定部38により判定された保持時間を実測保持時間と称する。
【0038】
IQ比演算部40は、化合物ごとに、ピーク比であるIQ比(I/Q)を演算する。IQ比は、具体的には、定量イオンピークの強度を分母とし、確認イオンピークの強度を分子とする比率である。各ピークの強度は例えば各ピークの面積である。各ピークの高さ等によって各ピークの強度が特定されてもよい。以下においては、IQ比演算部40が演算したIQ比を実測IQ比と称する。
【0039】
保持時間評価部42は、化合物ごとに、基準保持時間を特定する。その上で、保持時間評価部42は、化合物ごとに、実測保持時間と基準保持時間を比較し、それらの差として保持時間誤差を演算する。具体的には、実測保持時間-基準保持時間の計算により、保持時間誤差を求める。保持時間に関する他の誤差を保持時間誤差と定めてもよい。
【0040】
保持時間評価部42は、保持時間誤差が第1許容範囲内に属するか否かを判定する。保持時間誤差が第1許容範囲内に属する場合には適正(OK)を判定し、保持時間誤差が第1許容範囲から外れている場合には不適正(NG)を判定する。適正が判定された場合、評価対象となった特定ピークセットが特定の化合物にアサインされる。保持時間評価部42はアサインチェック部として機能する。
【0041】
IQ比評価部44は、化合物ごとに、基準IQ比を特定する。その上で、IQ比評価部44は、化合物ごとに、実測IQ比及び基準IQ比に基づいて、IQ比誤差率を演算する。具体的には、[(実測IQ比-基準IQ比)/基準IQ比]*100(%)の計算により、IQ比誤差率を求める。IQ比に関する他の誤差率(又は他の誤差)をIQ比誤差率と定めてもよい。
【0042】
IQ比評価部44は、IQ比誤差率が第2許容範囲内に属するか否かを判定する。IQ比誤差率が第2許容範囲内に属する場合には適正(OK)を判定し、IQ比誤差率が第2許容範囲から外れている場合には不適正(NG)を判定する。IQ比評価部44はレシオチェック部として機能する。
【0043】
2つの評価結果つまり2つの判定結果が表示処理部48に送られている。実施形態においては、複数の化合物に対して共通の第1許容範囲が用いられており、これと同様に、複数の化合物に対して共通の第2許容範囲が用いられている。もっとも、化合物ごとに、第1許容範囲及び第2許容範囲が個別的に定められてもよい。
【0044】
表示処理部48は、表示器28に表示される画像を生成するモジュールである。実施形態に係る表示処理部48は、テーブル生成部49、編集支援像生成部50及びピークセット表示処理部51を有する。テーブル生成部49は、後に詳述するように、化合物テーブルを生成する。編集支援像生成部50は、後に詳述するように、編集支援像を生成する。ピークセット表示処理部51は、後に詳述するように、ピーク編集の実行中にピークセット画像を表示する。
【0045】
ピーク編集部37は、ユーザーの指示に従って、ユーザーにより選択された特定ピークセット(定量イオンピーク、確認イオンピーク)を編集するものである。例えば、選択されたピークにおいて面積計算の対象となる部分が修正され、あるいは、選択されたピークの形状が修正される。ピーク編集の実行中において、ピーク編集の内容が編集支援像及びピークセット像にリアルタイムで反映される。ピーク編集の終了時点で、ピーク編集の結果が化合物テーブルに反映される。
【0046】
具体的に説明すると、ピーク編集において、編集のための表示要素(点、線等)をユーザーが移動させている最中において(つまり表示要素の移動中において)、各時刻における表示要素の位置に基づいてIQ比等の計算及び計算結果の評価が繰り返し実行される(リアルタイムでの計算及び評価)。これに伴って、編集支援像の内容が繰り返し更新される(リアルタイムでの表示内容更新)。このように、ピーク編集の過程が編集支援像に逐次的かつ即時に反映されるので、ユーザーの編集作業を支援することが可能となる。表示要素の移動が完了し、その位置が確定した時点で、定量値等が演算される。つまり、ピーク編集の結果が化合物テーブルに反映される。もっとも、ピーク編集の最中において、定量値等をリアルタイムで計算及び表示してもよい。
【0047】
表示器28には、化合物テーブルが表示される。ピーク編集の実行時に、ユーザーにより選択された特定ピークセットを表すピークセット画像が表示器28に表示され、また、特定ピークセットに対応する編集支援像が表示器28に表示される。
【0048】
図2には、保持時間軸(RT軸)、質量電荷比軸(m/z軸)及び強度軸によって定義される座標空間が示されている。座標空間にはピークアレイ52が含まれる。例えば、第1検出期間において、質量分析器に対して質量電荷比a及び質量電荷比bを交互に設定することにより、定量イオンピークP1a及び確認イオンピークP1bが観測される。それらのピークはそれぞれ保持時間軸上のピークである。第1検出期間内において定量イオンピークP1aが生じた保持時間T1が特定される。第2検出期間においては、定量イオンピークP2a及び確認イオンピークP2bが観測され、第2検出期間内において保持時間T2が特定される。第3検出期間においては、定量イオンピークP3a及び確認イオンピークP3bが観測され、第3検出期間内において保持時間T3が特定される。
【0049】
このような観測の結果、保持時間軸上の複数の定量イオンピークP1a,P2a,P3aを含む定量イオンクロマトグラム54が生成される。同様に、保持時間軸上の複数の確認イオンピークP1b,P2b,P3bを含む確認イオンクロマトグラム(図示せず)が生成される。
【0050】
図3には、表示器に表示される画像の一例が示されている。画像56には、化合物テーブル60、ピークセット画像64、及び、ポップアップウインドウ70が含まれる。化合物テーブル60における縦軸は保持時間軸に相当している。
【0051】
化合物テーブル60は、試料から分離された複数の化合物に対応する複数の行を有している。各行には、ピークセットに基づいて演算又は判定された複数の情報が含まれる。ピーク編集の実行開始時に、例えば、化合物テーブル60における特定の行62が選択される。特定の行62は、典型的には、NG評価結果を含む行である。特定の行62の選択により、特定の行62(つまり特定の化合物)に対応する特定ピークセットを表すピークセット画像64が表示され、また、ポップアップウインドウ70が表示される。
【0052】
ピークセット画像64は、特定ピークセットにおける定量イオンピークを表す定量イオンピーク像66、及び、特定ピークセットにおける確認イオンピークを表す確認イオンピーク像68からなる。それらのピーク像66,68における横軸は保持時間軸であり、それらのピーク像66,68における縦軸は強度軸である。
【0053】
ポップアップウインドウ70には、編集対象となった特定ピークセットに対応する編集支援像72が含まれる。ピーク編集の実行中において、ピーク編集に伴って編集支援像72の内容がリアルタイムで更新される。具体的には、編集支援像72には、特定ピークセットの評価結果が含まれるところ、その評価結果がピーク編集に伴ってリアルタイムで更新される。
【0054】
図4には、化合物リストの具体例が示されている。図示された化合物リスト100は、複数の化合物に対応した複数の行101を有する。各行101は、複数の情報により構成される。それらの複数の情報には、図示の例において、化合物名102、IQ比情報110、保持時間情報111、及び、定量値112が含まれる。IQ比情報110には、基準値(基準IQ比)103、実測値(実測IQ比)104、誤差率(IQ比誤差率)105、及び、評価結果(IQ比評価結果)106が含まれる。保持時間情報111には、基準値(基準保持時間)、実測値(実測保持時間)、誤差(保持時間誤差)、及び、評価結果(保持時間評価結果)が含まれる。定量値112は、例えば、確認イオンピーク面積値、化合物濃度、等である。
【0055】
図5には、編集前のピークセット画像(左側)及び編集後のピークセット画像(右側)が示されている。
【0056】
編集前のピークセット画像には、定量イオンピーク像78及び確認イオンピーク像82が含まれる。定量イオンピーク像78において面積演算の対象が塗り潰し領域80である。塗り潰し領域80には隣接ピークが含まれる。同様に、確認イオンピーク像82において面積演算の対象が塗り潰し領域84である。塗り潰し領域84には隣接ピークが含まれる。
【0057】
編集後のピークセット画像には、定量イオンピーク像78A及び確認イオンピーク像82Aが含まれる。定量イオンピーク像78Aにおいて、ベースラインシフト(符号86を参照)により、塗り潰し領域80Aから隣接ピークが除外されている。同様に、確認イオンピーク像82Aにおいて、垂直線によるピーク分割(符号87を参照)により、塗り潰し領域84Aから隣接ピークが除外されている。上記のようなピーク編集は、ユーザーからの指示に従って実施される。ベースラインや垂直線はそれぞれピーク編集のための表示要素である。それらの各端点がユーザーの操作対象とされてもよい。線や点以外の図形がピーク編集のための表示要素として用いられてもよい。
【0058】
実施形態においては、特定ピークセットのリアルタイム評価結果に従って、ピークセット画像を構成する定量イオンピーク像及び確認イオンピーク像の塗り潰し色がリアルタイムで変更される。これについては後に説明する。
【0059】
図6には、編集支援像の第1例が示されている。図示された編集支援像118は、IQ比に関する複数の情報を有する。それらの複数の情報には、基準値(基準IQ比)120、実測値(実測IQ比)122、許容範囲(IQ比誤差率許容範囲)124、誤差率(IQ比誤差率)126、及び、判定結果(IQ比誤差率判定結果)128が含まれる。
【0060】
編集支援像118には、定量イオンピークに関する複数の情報も含まれる。それらの複数の情報には、図示の例では、高さ130、ピーク幅132、面積134等が含まれる。
【0061】
符号119は、ピーク編集前の複数の情報を示している。図示のように、ピーク編集の実行中に、実測値122、誤差率126、判定結果128、高さ130、ピーク幅132、面積134、等がリアルタイムで変化する。編集支援像118に更に他の情報を含めてもよい。例えば、SN比に関する情報を含めてもよい。
【0062】
ユーザーは、仮の評価結果を含む編集支援像118の内容を参照しながら、ピーク編集作業を実施することが可能となる。その際、定量イオンピーク像及び確認イオンピーク像の塗り潰し色を参照することにより、ピークセットの仮の評価結果を直感的に認識することもできる。
【0063】
図7には、ピーク編集時の動作例がフローチャートとして示されている。S10では、例えば、化合物テーブル上において特定の化合物つまり特定の行が選択される。すると、S12及びS14が並列的に実行される。S12では、特定の行に対応する特定ピークセット画像が表示される。S14では、特定の行に対応する編集支援像が表示される。
【0064】
S16では、ユーザーにより特定ピークセットが編集される。その編集過程において、S18において、ピーク修正の内容が編集支援像に反映され、且つ、S20において、ピーク修正の内容がピークセット画像に反映される。
【0065】
S22では、他のピークセットに対してピーク編集を行うか否かが判断される。ピーク編集の継続が判断された場合、S10以降の各工程が再度実行される。S22において、ピーク編集の終了が判断された場合、S24において、それまでに実施されたピーク編集の結果が化合物テーブルに反映される。具体的には、ピーク編集対象となった1又は複数の化合物に対応する1又は複数の化合物情報が更新される。
【0066】
図8には、塗り潰し色を決定する条件90が示されている。化合物ごとに、実測保持時間が許容範囲内にある場合、同定成立(アサイン成立)が判断され、一方、実測保持時間が許容範囲から外れる場合、同定不成立(アサイン不成立)が判断される。
【0067】
同定成立の場合であって、IQ比誤差率が許容範囲内にある場合に、符号91Aが示すように、第1色(例えば緑色)が決定される。同定成立の場合であって、IQ比誤差率が許容範囲外となる場合、符号91Bが示すように、第2色(例えば黄色)が決定される。
【0068】
同定不成立の場合であって、IQ比誤差率が許容範囲内にある場合に、符号91Cが示すように、第3色(例えば水色)が決定される。同定不成立の場合であって、IQ比誤差率が許容範囲外となる場合、符号91Dが示すように、第4色(例えば青色)が決定される。
【0069】
上記のように決定された色で、定量イオンピーク像及び確認イオンピーク像が塗り潰される。ピーク編集作業の進行に伴って、例えば、符号92が示すように、塗り潰し色が変化する。
【0070】
図9には、編集支援像の第2例が示されている。図示された編集支援像138は、IQ比に関する複数の情報120~128(図6参照)の他、化合物名140、保持時間に関する複数の情報142~148、及び、マニュアル編集済みフラグ150を有している。保持時間に関する複数の情報142~148には、具体的には、基準値(保持時間基準値)142、実測値(保持時間実測値)144、許容範囲(保持時間誤差許容範囲)145、誤差(保持時間誤差)146、及び、判定結果(保持時間誤差判定結果)148が含まれる。
【0071】
編集支援像138によれば、IQ比及び保持時間の両面から編集結果を総合的に評価することが可能となる。また、マニュアル編集済みの有無を容易に確認できる。
【0072】
図10には、編集支援像の第3例が示されている。図示された編集支援像151には、図6及び図9に示したような複数の数値情報152の他、グラフ154が含まれる。グラフ154において、バー156の高さ158がリアルタイムで演算された誤差率を示している。グラフ154の中央が誤差率ゼロに相当している。グラフ154は許容範囲160を示す2つのラインも有する。高さ158が2つのラインの間にあるか否かにより誤差率の適否を確認できる。バー162の色は、図8に示した条件に従って決定される。編集支援像151によれば、編集作業の進行に伴う誤差率の変化を直感的に認識することが可能となる。保持時間について同様のグラフを表示してもよい。
【0073】
上記実施形態に係る試料分析システムは、例えばダイオキシンの定量分析において用いられる。その場合において、同じ同族体に帰属する複数の異性体が分析対象とされてもよい。もちろん、ダイオキシン以外の試料の定量分析で上記の試料分析システムが用いられてもよい。化合物テーブルに含まれる複数の項目、及び、編集支援像に含まれる複数の項目をユーザーが任意に選択できるようにしてもよい。
【0074】
上記実施形態においては、編集支援像がポップアップウインドウの中に表示されていたが、編集支援像の表示位置が固定されてもよい。上記実施形態によれば、編集支援像の位置を自由に変更できるので、化合物テーブルにおいて参照したい情報を確実に露出させることができ、また、ピークセット像との関係で任意の位置に編集支援像を位置決めることが可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 測定部、14 ガスクロマトグラフ、15 質量分析装置、12 情報処理装置、24 情報処理部、38 保持時間判定部、40 IQ比演算部、42 保持時間評価部、44 IQ比評価部、48 表示処理部、49 テーブル生成部、50 編集支援像生成部、51 ピークセット表示処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10