(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112095
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240813BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016948
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀志
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA07
2G015AA16
2G015AA27
2G015BA04
2G015CA05
(57)【要約】
【課題】ノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することが可能な部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラムを提供する。
【解決手段】部分放電検出装置10は、電気設備20における部分放電を検出する装置であって、電圧測定部11と、電流測定部13と、検出部17と、判定部18とを備える。電圧測定部11は、電気設備20に対して印加された所定の電圧を測定する。電流測定部13は、所定の電圧が印加された電気設備20に流れる電流を測定する。検出部17は、電圧測定部11によって測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する。判定部18は、検出部17においてインパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気設備における部分放電を検出する部分放電検出装置であって、
前記電気設備に対して印加された所定の電圧を測定する電圧測定部と、
前記所定の電圧が印加された前記電気設備に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電圧測定部において測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する検出部と、
前記検出部において前記インパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する判定部と、
を備えている部分放電検出装置。
【請求項2】
前記電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の一部のみを残すようにフィルタ処理を行うフィルタ処理部を、さらに備えており、
前記検出部は、前記フィルタ処理された電流波形を用いて前記インパルス電流を検出する、
請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記フィルタ処理部は、前記電圧波形の絶対値がゼロを通過するゼロクロスの地点から所定時間経過後にフィルタ処理を開始する、
請求項2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記電流測定部において測定された電流値の電流波形から、電源から付与された成分を除去してインパルス電流の成分のみを残すハイパスフィルタを、さらに備えている、
請求項1または2に記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記インパルス電流の検出に用いられる所定の閾値を設定する閾値設定部を、さらに備えており、
前記判定部は、前記検出部において検出された前記インパルス電流が、前記所定の閾値以上である場合に、部分放電ありと判定する、
請求項1または2に記載の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記電気設備は、開閉器、変圧器、およびケーブルの少なくとも1つを含む、
請求項1または2に記載の部分放電検出装置。
【請求項7】
電気設備における部分放電を検出する部分放電検出装置によって実行される部分放電検出方法であって、
前記部分放電検出装置の電圧測定部が、前記電気設備に対して印加された所定の電圧を測定する電圧測定ステップと、
前記部分放電検出装置の電流測定部が、前記所定の電圧が印加された前記電気設備に流れる電流を測定する電流測定ステップと、
前記部分放電検出装置の検出部が、前記電圧測定部において測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する検出ステップと、
前記部分放電検出装置の判定部が、前記検出部において前記インパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する判定ステップと、
を備えている部分放電検出方法。
【請求項8】
電気設備における部分放電を検出する部分放電検出装置によって読み込まれて各ステップが実行される部分放電検出プログラムであって、
前記部分放電検出装置の電圧測定部が、前記電気設備に対して印加された所定の電圧を測定する電圧測定ステップと、
前記部分放電検出装置の電流測定部が、前記所定の電圧が印加された前記電気設備に流れる電流を測定する電流測定ステップと、
前記部分放電検出装置の検出部が、前記電圧測定部において測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する検出ステップと、
前記部分放電検出装置の判定部が、前記検出部において前記インパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する判定ステップと、
を備えている部分放電検出方法をコンピュータに実行させる部分放電検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁低下(破壊、劣化等)に起因する部分放電を検出する部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、配電盤等に含まれる開閉器、変圧器等の比較的大きな電力を扱う電気設備について、設備の老朽化等に伴って絶縁低下、絶縁不良に起因する部分放電の発生によって電気設備に事故や不具合が発生することを防ぐため、各種提案がなされている。
例えば、特許文献1には、電気機器を停止させることなく湿度を考慮して電気機器の絶縁劣化を診断するために、部分放電音を検出し、その音の強度に応じた電圧を出力するAEセンサを用いて、電気機器の絶縁劣化を診断する機器診断装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の部分放電検出装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された部分放電検出装置では、部分放電音をAE(超音波(Acoustic Emission))センサで計測し、かつ湿度を考慮して絶縁低下の状態を診断する方法を採用しているため、電磁波等に起因するノイズの影響を受けて検出精度が低下しやすく、部分放電音を計測するAEセンサを設置する必要があるという課題がある。
【0005】
本発明の課題は、ノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することが可能な部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る部分放電検出装置は、電気設備における部分放電を検出する部分放電検出装置であって、電圧測定部と、電流測定部と、検出部と、判定部と、を備えている。電圧測定部は、電気設備に対して印加された所定の電圧を測定する。電流測定部は、所定の電圧が印加された電気設備に流れる電流を測定する。検出部は、電圧測定部によって測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する。判定部は、検出部においてインパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する。
【0007】
ここでは、電気設備の老朽化等により絶縁低下に起因する部分放電の発生時に生じるインパルス電流を、電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において検出して、部分放電の有無を判定する。
ここで、部分放電の有無を判定する対象となる電気設備には、例えば、開閉器や変圧器、ケーブル等が含まれる。
【0008】
また、インパルス電流を検出する期間には、プラスの電圧が大きくなる期間だけでなく、マイナスの電圧が小さくなる期間も含まれる。
これにより、電圧波形の絶対値が大きくなる期間においてインパルス電流を検出するか否かに応じて部分放電の有無を判定することで、電磁波等のノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することができる。
【0009】
第2の発明に係る部分放電検出装置は、第1の発明に係る部分放電検出装置であって、電圧波形の絶対値が大きくなる期間のみを残すようにフィルタ処理を行うフィルタ処理部を、さらに備えている。検出部は、フィルタ処理された波形を用いてインパルス電流を検出する。
これにより、フィルタ処理によって、電圧波形におけるインパルス電流を検出する期間を容易に選択して、部分放電の有無を判定することができる。
【0010】
第3の発明に係る部分放電検出装置は、第2の発明に係る部分放電検出装置であって、フィルタ処理部は、電圧波形の絶対値がゼロを通過するゼロクロスの地点から所定時間経過後にフィルタ処理を開始する。
これにより、電圧波形の絶対値がゼロになるゼロクロスの地点を基準にして絶対値が大きくなる方向へ移行する期間に対応する電流波形の部分において、効果的にインパルス電流の有無を検出することができる。
【0011】
第4の発明に係る部分放電検出装置は、第1または第2の発明に係る部分放電検出装置であって、電流測定部において測定された電流値の電流波形から、電源から付与された成分を除去してインパルス電流の成分のみを残すハイパスフィルタを、さらに備えている。
これにより、電流波形から電源から付与された成分を除去することで、インパルス電流の有無を容易に判定することができる。
【0012】
第5の発明に係る部分放電検出装置は、第1または第2の発明に係る部分放電検出装置であって、インパルス電流の検出に用いられる所定の閾値を設定する閾値設定部を、さらに備えている。判定部は、検出部において検出されたインパルス電流が、所定の閾値以上である場合に、部分放電ありと判定する。
これにより、所定の閾値未満のインパルス電流が検出された場合には、部分放電なしと判定することで、絶縁低下による影響が少ないと想定される状態を排除して、部分放電の有無を判定することができる。
【0013】
第6の発明に係る部分放電検出装置は、第1または第2の発明に係る部分放電検出装置であって、電気設備は、開閉器、変圧器、およびケーブルの少なくとも1つを含む。
これにより、設備の老朽化等に伴って発生する開閉器、変圧器、ケーブル等の電気設備における部分放電の有無を、ノイズの影響を回避しつつ、簡素な構成によって判定することができる。
【0014】
第7の発明に係る部分放電検出方法は、電気設備における部分放電を検出する部分放電検出装置によって実行される部分放電検出方法であって、電圧測定ステップと、電流測定ステップと、検出ステップと、判定ステップと、を備えている。電圧測定ステップでは、部分放電検出装置の電圧測定部が、電気設備に対して印加された所定の電圧を測定する。電流測定ステップでは、部分放電検出装置の電流測定部が、所定の電圧が印加された電気設備に流れる電流を測定する。検出ステップでは、部分放電検出装置の検出部が、電圧測定部において測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する。判定ステップでは、部分放電検出装置の判定部が、検出部においてインパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する。
【0015】
ここでは、電気設備の老朽化等により絶縁低下に起因する部分放電の発生時に生じるインパルス電流を、電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において検出して、部分放電の有無を判定する。
ここで、部分放電の有無を判定する対象となる電気設備には、例えば、開閉器や変圧器、ケーブル等が含まれる。
【0016】
また、インパルス電流を検出する期間には、プラスの電圧が大きくなる期間だけでなく、マイナスの電圧が小さくなる期間も含まれる。
これにより、電圧波形の絶対値が大きくなる期間においてインパルス電流を検出するか否かに応じて部分放電の有無を判定することで、電磁波等のノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することができる。
【0017】
第8の発明に係る部分放電検出プログラムは、電気設備における部分放電を検出する部分放電検出装置によって読み込まれて各ステップが実行される部分放電検出プログラムであって、電圧測定ステップと、電流測定ステップと、検出ステップと、判定ステップと、を備えている部分放電検出方法をコンピュータに実行させる。電圧測定ステップでは、部分放電検出装置の電圧測定部が、電気設備に対して印加された所定の電圧を測定する。電流測定ステップでは、部分放電検出装置の電流測定部が、所定の電圧が印加された電気設備に流れる電流を測定する。検出ステップでは、部分放電検出装置の検出部が、電圧測定部において測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する。判定ステップでは、部分放電検出装置の判定部が、検出部においてインパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する。
【0018】
ここでは、電気設備の老朽化等により絶縁低下に起因する部分放電の発生時に生じるインパルス電流を、電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において検出して、部分放電の有無を判定する。
ここで、部分放電の有無を判定する対象となる電気設備には、例えば、開閉器や変圧器、ケーブル等が含まれる。
【0019】
また、インパルス電流を検出する期間には、プラスの電圧が大きくなる期間だけでなく、マイナスの電圧が小さくなる期間も含まれる。
これにより、電圧波形の絶対値が大きくなる期間においてインパルス電流を検出するか否かに応じて部分放電の有無を判定することで、電磁波等のノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る部分放電検出装置によれば、ノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示すブロック図。
【
図2】
図1の部分放電検出装置の電圧測定部において測定される電気設備に対して印加された電圧波形と、これに対応する電流波形に含まれるインパルス電流を検出するための検出期間を示すグラフ。
【
図3】
図2の検出期間において検出されるインパルス電流を含む電流波形と、印加電圧の電圧波形との関係を示すグラフ。
【
図4】(a)は、
図3の電圧波形を示すグラフ。(b)は、(a)の電圧波形におけるゼロクロス地点を示すグラフ。(c)は、(b)のゼロクロス地点を基準にして設定されたフィルタ処理を行う開始時間とフィルタ幅とを示すグラフ。
【
図5】(a)は、
図3の電流波形に含まれるインパルス電流を示すグラフ。(b)は、(a)の電流波形をフィルタ処理した後のグラフ。
【
図6】
図5(b)のフィルタ処理後のインパルス電流に対して閾値を設定して、部分放電の有無を判定する処理を示すグラフ。
【
図7】
図1の部分放電検出装置によって実施される部分放電検出方法の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る部分放電検出装置について、
図1~
図7を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、本実施形態では、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
また、出願人は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0023】
(1)部分放電検出装置10の構成
本実施形態に係る部分放電検出装置10は、例えば、開閉器、変圧器、ケーブル等の電気設備20の老朽化等に起因して発生する部分放電を検出するための装置であって、
図1に示すように、電圧測定部11と、ゼロクロス検出部12と、電流測定部13と、ハイパスフィルタ14と、フィルタ処理部15と、閾値設定部16と、検出部17と、判定部18と、を備えている。
【0024】
ここで、本実施形態の部分放電検出装置10は、部分放電の有無を検査する対象となる電気設備に所定の電圧が印加された際に、電圧波形の絶対値が大きくなる期間(
図2のハッチング部分参照)に対応する、電気設備20に流れる電流波形の期間において、インパルス電流を検出する(
図3のch3の丸部分参照)。
電圧測定部11は、
図1に示すように、商用電源から部分放電の有無を検査する対象となる電気設備20に対して印加された所定の電圧を測定する。
【0025】
これにより、電圧測定部11において検出された電圧値によって、
図3に示す印加電圧の電圧波形(ch2)を得ることができる。
ゼロクロス検出部12は、電圧測定部11において測定された電圧値と時間経過との関係を示す電圧波形(
図4(a)参照)において、電圧値がゼロとなる地点(ゼロクロス地点)を検出する(
図4(b)参照)。ここで検出されたゼロクロス地点は、後述するフィルタ処理部15へ送られ、電流測定部13において測定された電流波形に対してフィルタ処理を行う期間の開始点を設定する際の基準となる(
図4(c)参照)。
【0026】
電流測定部13は、
図1に示すように、CT(Current Transformer)を介して、商用電源から所定の電圧が印加された電気設備20に流れる電流を測定する。
ハイパスフィルタ14は、電流測定部13に接続されており、電流測定部13において測定された電流値を示す電流波形から、商用電源の成分を除去する。
より詳細には、ハイパスフィルタ14は、
図5(a)に示す電流波形から、商用電源から付与された電流波形の部分を除去することで、
図5(b)に示すインパルス電流だけを残したグラフを得ることができる。
【0027】
フィルタ処理部15は、電圧波形の絶対値が大きくなる期間のみを残すようにフィルタ処理を行う。より具体的には、フィルタ処理部15は、
図2に示す電圧波形における電圧値がプラス側に大きくなる期間と、電圧値がマイナス側に大きくなる期間とについて、インパルス電流を検出するための検出期間として設定する。
ここで、電圧測定部11において測定された電圧値によって形成される電圧波形と、電流測定部13において測定された電流値によって形成される電流波形とは、
図3に示すような関係性を持つ。
【0028】
すなわち、
図3に示すように、電気設備20に流れる負荷電流の電流波形(ch3)は、電気設備20に印加された印加電圧の電圧波形から位相がずれているため、電圧波形における電圧値の絶対値が大きくなる期間と、電流波形における電流値の絶対値が大きくなる期間とにはずれがある。
なお、このような電圧波形の位相ずれは、負荷20が容量性の場合には90度位相が進み、負荷20が誘導性の場合には90度位相が遅れる。
【0029】
このとき、検査対象である電気設備20に部分放電が生じている場合には、
図3に示す負荷電流の波形の一部に、インパルス電流が発生する。特に、インパルス電流は、
図3に示すように、電気設備への印加電圧を示す電圧波形の電圧値の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の期間において発生していることが分かる。
このため、本実施形態の部分放電検出装置10では、
図3に示すインパルス電流をノイズの影響を受けることなく高精度に検出するために、電気設備への印加電圧を示す電圧波形の電圧値の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の期間に着目し、この期間に絞ってインパルス電流の有無を検出する。
【0030】
すなわち、フィルタ処理部15は、
図4(a)に示す電圧波形について、
図4(b)に示すゼロクロス検出部12において検出された電圧値がゼロになる地点を基準にして、
図4(c)に示すフィルタ(信号通過)を設定する期間を決定する。
具体的には、フィルタ処理部15は、
図4(b)において検出されたゼロクロス地点を基準にして、
図4(c)に示すように、ゼロクロス地点から時間tdが経過した地点をフィルタ処理の開始地点とし、フィルタ幅(時間)twでフィルタ処理を実施する。
【0031】
つまり、フィルタ処理部15において設定されたフィルタ処理を行う期間を、インパルス電流の検出期間として設定する。
これにより、検出部17は、フィルタ処理部15によってフィルタ処理された電流波形の一部の期間、すなわち、電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の期間において、インパルス電流を検出することができる。
【0032】
なお、ゼロクロス地点からの所定時間tdおよびフィルタ幅twは、インパルス電流の検出精度等に応じて適宜、変更される。
閾値設定部16は、
図6に示すように、フィルタ処理部15において設定されたフィルタリング期間(検出期間)において、インパルス電流が検出された場合に、部分放電の有無を判定するために使用される閾値を設定する。
【0033】
すなわち、インパルス電流が検出期間において検出された場合でも、判定部18が所定の閾値未満である場合には、部分放電ありと判定しない。
これにより、所定の閾値以上のインパルス電流が検出期間において検出された場合のみ、部分放電の発生ありと判定することができる。
なお、閾値設定部16において設定される閾値は、任意の値に設定が可能であって、設定された閾値の変更も可能である。
【0034】
検出部17は、電圧測定部11によって測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分(
図6のハッチング部分参照)において、インパルス電流の有無を検出する。
判定部18は、検出部17においてインパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する。特に、判定部18は、検出部17において検出されたインパルス電流が、閾値設定部16において設定された所定の閾値以上である場合に、部分放電ありと判定する。
これにより、わずかなインパルス電流を検出期間において検出した場合に、部分放電が発生していると判定しないようにすることで、部分放電の発生の検出精度を向上させることができる。
【0035】
<部分放電検出方法>
本実施形態の部分放電検出装置10は、以上のような構成を備えており、
図7に示すフローチャートに従って、部分放電検出方法を実行する。
【0036】
すなわち、ステップS11では、部分放電検出装置10の電圧測定部11が、検査対象となる電気設備に対して、商用電源から印加された所定の電圧を測定する(電圧測定ステップ)。
ここで、電圧測定部11において測定された電圧値の波形は、ゼロクロス検出部12において、電圧値がゼロになる地点(ゼロクロス地点)が検出される。
【0037】
次に、ステップS12では、部分放電検出装置10の電流測定部13が、商用電源から所定の電圧が印加された電気設備20に流れる電流値を測定する(電流測定ステップ)。
このとき、電流測定部13において測定された電流値の波形は、ハイパスフィルタ14によって商用電源から付与された成分が除去されて、インパルス電流の成分のみとなる。
次に、ステップS13では、部分放電検出装置10のフィルタ処理部15が、ステップS11において測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する、ステップS12において測定された電流波形の部分以外を除去するフィルタ処理を実施する(フィルタ処理ステップ)。
【0038】
より詳細には、フィルタ処理部15は、
図4(a)に示す電圧波形について、
図4(b)に示すように、ゼロクロス検出部12において検出された電圧値がゼロになる地点を基準にして、
図4(c)に示すフィルタ(信号通過)の期間(電流波形におけるインパルス電流の検出期間)を設定する。
すなわち、フィルタ処理部15は、電圧波形における絶対値が大きくなる方向に移行する期間を、ゼロクロス地点を基準にして検出し、電流波形におけるインパルス電流の検出期間(フィルタ部分)を設定する。
【0039】
次に、ステップS14では、部分放電検出装置10の検出部17が、ステップS13において設定されたフィルタを用いて、電流波形におけるインパルス電流の有無を検出する(検出ステップ)。
次に、ステップS15では、部分放電検出装置10の判定部18が、ステップS14において検出されたインパルス電流が、
図6に示すように、予め閾値設定部16によって設定された所定の閾値以上であるか否かを判定する(判定ステップ)。
【0040】
ここで、検出されたインパルス電流が所定の閾値以上である場合には、ステップS16へ進む。一方、検出されたインパルス電流が所定の閾値未満である場合には、ステップS11へ戻る。
次に、ステップS16では、部分放電検出装置10の判定部18が、ステップS14において検出されたインパルス電流が、ステップS15において所定の閾値以上であると判定されたため、部分放電ありと判定する(判定ステップ)。
【0041】
<主な特徴>
本実施形態の部分放電検出装置10は、
図1に示すように、電気設備20における部分放電を検出する装置であって、電圧測定部11と、電流測定部13と、検出部17と、判定部18とを備える。電圧測定部11は、電気設備20に対して印加された所定の電圧を測定する。電流測定部13は、所定の電圧が印加された電気設備20に流れる電流を測定する。検出部17は、電圧測定部11によって測定された電圧波形の絶対値が大きくなる期間に対応する電流波形の部分において、インパルス電流を検出する。判定部18は、検出部17においてインパルス電流が検出されると、部分放電の発生ありと判定する。
これにより、電圧波形の絶対値が大きくなる期間においてインパルス電流を検出するか否かに応じて部分放電の有無を判定することで、電磁波等のノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することができる。
【0042】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0043】
(A)
上記実施形態では、部分放電検出装置および部分放電検出方法として、本発明を実現した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上述した部分放電検出方法をコンピュータに実行させる部分放電検出プログラムとして本発明を実現してもよい。
【0044】
この部分放電検出プログラムは、部分放電検出装置に搭載されたメモリ(記憶部)に保存されており、CPUがメモリに保存された部分放電検出プログラムを読み込んで、ハードウェアに各ステップを実行させる。より具体的には、CPUが部分放電検出プログラムを読み込んで、上述した電圧測定ステップと、電流測定ステップと、検出ステップと、判定ステップと、を実行することで、上記と同様の効果を得ることができる。
また、本発明は、部分放電検出装置のプログラムを保存した記録媒体として実現されてもよい。
【0045】
(B)
上記実施形態では、電圧波形に含まれるインパルス電流を検出する際に、
図5(a)および
図5(b)に示すように、ハイパスフィルタ14によって、商用電源から付与される成分を除去して、インパルス電流の成分のみを残す処理を行う例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
例えば、
図5(a)に示す電流波形のまま、電流波形に含まれるインパルス電流の有無を検出してもよい。
ただし、
図6に示す所定の閾値との比較を容易にするためには、上記実施形態のように、ハイパスフィルタ14を用いて商用電源から付与された成分を除去する処理を行うことがより好ましい。
【0047】
(C)
上記実施形態では、検出されたインパルス電流に対して閾値を設定し、閾値以上のインパルス電流を検出した場合に、部分放電ありと判定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、閾値を設定せず、インパルス電流を検出した場合には部分放電ありと判定する構成であってもよい。
【0048】
(D)
上記実施形態では、電圧波形における絶対値が大きくなる期間を検出するために、ゼロクロス地点を検出し、ゼロクロス地点から所定時間後から電流波形におけるインパルス電流の検出期間を設定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、電流波形におけるインパルス電流の検出期間の設定は、ゼロクロス地点の検出以外の方法で実施されてもよい。
【0049】
(E)
上記実施形態では、部分放電の検査対象となる電気設備について、開閉器、変圧器、ケーブルを例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、他の電気設備における部分放電の検出に対して、本発明が適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の部分放電検出装置は、ノイズの影響を受けることなく、簡素な構成によって、電気設備の部分放電を精度よく検出することができるという効果を奏することから、電気設備の点検を行うシステムに対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 部分放電検出装置
11 電圧測定部
12 ゼロクロス検出部
13 電流測定部
14 ハイパスフィルタ
15 フィルタ処理部
16 閾値設定部
17 検出部
18 判定部
20 電気設備