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特開2024-112099工具損傷検知システムにおける画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112099
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】工具損傷検知システムにおける画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/24 20060101AFI20240813BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20240813BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
B23Q17/24 Z
B23Q17/09 C
G01B11/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016954
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】敷村 達也
(72)【発明者】
【氏名】石野 嘉章
【テーマコード(参考)】
2F065
3C029
【Fターム(参考)】
2F065AA63
2F065CC10
2F065FF01
2F065FF42
2F065JJ03
2F065JJ08
2F065JJ26
2F065QQ01
2F065QQ04
2F065QQ24
2F065QQ33
3C029DD08
3C029DD20
3C029EE20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】切削工具刃先の損傷状態を(工作機械に設置された)カメラから得られた画像を基にして、AIに判定させるための画像を得るための優れた画像処理方法、即ち、工具損傷検知システムにおける優れた画像処理方法を提供することにある。
【解決手段】工具損傷検知システムにおける撮影した工具刃先画像の画像処理方法であって、画像処理される測定対象物を抽出する測定対象物抽出工程と、前記測定対象物抽出工程にて抽出した測定対象物の画像処理範囲を設定する測定範囲設定工程と、前記測定範囲設定工程にて設定した画像処理範囲から切れ刃を検出し選定する切れ刃選定工程と、前記測定範囲設定工程にて設定した画像処理範囲から摩耗部を検出し選定する摩耗部選定工程と、前記摩耗部選定工程にて選定された摩耗部の摩耗幅を測定する摩耗幅測定工程を備えることを特徴とする工具損傷検知システムにおける画像処理方法とした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具損傷検知システムにおける撮影した工具刃先画像の画像処理方法であって、
画像処理される測定対象物を抽出する測定対象物抽出工程と、
前記測定対象物抽出工程にて抽出した測定対象物の画像処理範囲を設定する測定範囲設定工程と、
前記測定範囲設定工程にて設定した画像処理範囲から切れ刃を検出し選定する切れ刃選定工程と、
前記測定範囲設定工程にて設定した画像処理範囲から摩耗部を検出し選定する摩耗部選定工程と、
前記摩耗部選定工程にて選定された摩耗部の摩耗幅を測定する摩耗幅測定工程を備えることを特徴とする工具損傷検知システムにおける画像処理方法。
【請求項2】
前記切れ刃選定工程において、切れ刃が分断されていた際、前記分断された切れ刃を結合させる切れ刃結合工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の工具損傷検知システムにおける画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具損傷検知システムにおける(工作機械に設置されたカメラ等で)撮影した工具刃先画像の画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の生産性向上を目的として、工作機械に設置されたカメラからの画像にて加工作業状態を監視すること、及び加工作業毎に切削工具刃先の損傷状態を(工作機械に設置された)カメラからの画像にて監視することが行われている。さらに、AIを使った機械学習の手法等を用いて、(切削工具刃先の)使用可否を判定すること、即ち、切削工具刃先の損傷状態を判定すること(切削工具刃先の損傷を検知すること)が行われている。切削工具刃先の損傷状態を、AIを使った画像認識によって監視することにより、切削工具刃先の画像から(切削工具刃先が)使用可能状態か、使用不可能状態かをAIに判定させるもので、膨大な量の切削工具刃先の画像を学習させた学習モデルを使用する。
【0003】
一方、加工作業毎に切削工具刃先の損傷状態を(工作機械に設置された)カメラから得られた画像を基に判定する際、AIに判定させるための画像を得るための画像処理方法は、(切削工具刃先の損傷状態を判断するための)判定精度を向上するために非常に重要である。出願人らは、かかる状況に鑑み、(切削工具刃先の損傷状態を判定するための画像を得るための)画像処理方法について、鋭意研究開発を重ね本発明に至ったのである。
【0004】
特許文献1には、「切削中の工具刃先および被削材の加工面の少なくとも一方の状態をリアルタイムで高精度に解析できる切削加工監視システムを提供する(特許文献1:要約の課題」ことを課題として、「撮像視野内の工具刃先が同一位置となるように旋削工具に対して位置決めされ、工具刃先を連続的に撮影するカメラと、カメラが撮影した複数の画像を、各画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する分類部と、複数のパターンのうち所定のパターンに分類された画像から、工具刃先および被削材Wの加工面の少なくとも一方の状態を解析する解析部を備える(特許文献1:要約の解決課題より抜粋)」切削加工監視システム(特許文献1:発明の名称)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-143752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る切削加工監視システム(特許文献1:発明の名称)は、カメラが撮影した「複数の画像」を、各画像に写った情報に基づいて複数のパターンのいずれかに分類する分類部と、複数のパターンのうち所定のパターンに分類された画像から、工具刃先および被削材Wの加工面の少なくとも一方の状態を解析する解析部を備えている。そして、特許文献1における「複数の画像」とは、旋削加工中の工具刃先および被削材の加工面を、カメラにより連続的に、リアルタイムで撮影(少なくとも毎秒10コマ以上の画像を撮影)した画像である。思うに、解析すべき画像データが膨大になってしまうように思われるので、その膨大な画像データを保存するための手段(方法)が別途必要となり、その分、コストや手間も掛かってしまい好ましく無い。
【0007】
本発明の目的は、切削工具刃先の損傷状態を(工作機械に設置された)カメラから得られた画像を基にして、AIに判定させるための画像を得るための優れた画像処理方法、即ち、工具損傷検知システムにおける優れた画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、工具損傷検知システムにおける撮影した工具刃先画像の画像処理方法であって、
画像処理される測定対象物を抽出する測定対象物抽出工程と、
前記測定対象物抽出工程にて抽出した測定対象物の画像処理範囲を設定する測定範囲設定工程と、
前記測定範囲設定工程にて設定した画像処理範囲から切れ刃を検出し選定する切れ刃選定工程と、
前記測定範囲設定工程にて設定した画像処理範囲から摩耗部を検出し選定する摩耗部選定工程と、
前記摩耗部選定工程にて選定された摩耗部の摩耗幅を測定する摩耗幅測定工程を備えることを特徴とする工具損傷検知システムにおける画像処理方法であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記切れ刃選定工程において、切れ刃が分断されていた際、前記分断された切れ刃を結合させる切れ刃結合工程を備える工具損傷検知システムにおける画像処理方法であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法により、切削工具刃先の損傷状態を(工作機械に設置された)カメラから得られた画像を基にして、AIに判定させるための画像を得るための優れた画像処理方法、即ち、工具損傷検知システムにおける優れた画像処理方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】切削工具における切れ刃を説明するための図である。
図2】工具損傷検知システムにおける画像処理方法の全工程流れ図である。
図3】測定対象物抽出工程を説明するための図である。
図4】測定範囲設定工程を説明するための図である。
図5】切れ刃選定工程を説明するための図である。
図6】摩耗部選定工程を説明するための図である。
図7】摩耗幅測定工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<切削工具における切れ刃>
本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法の一実施形態について説明する前に切削工具における切れ刃について説明する。図1は、切削工具における切れ刃を説明するための図である。尚、本明細書においては、画像処理が進むにつれて「抽出→検出→選定」と記載を変化させている。
【0013】
切削工具に於いて、すくい面20の端部と逃げ面30の端部が形成する線状の箇所を切れ刃10という(図1参照)。切削工具は切れ刃10が被切削物に食い込むことによって切削を行うことになる。すくい面20は、切削工具に於いて切削を行う主の面で、すくい面20上を切り屑が通過していくことになる。逃げ面30は、切削加工した面と工具の切れ刃が干渉することを防ぐために角度を付けたもので、切削工具と切削加工面の接触を防ぐために逃がした面である(図1参照)。
【0014】
<工具損傷検知システムにおける画像処理方法>
以下、本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法の一実施形態について、図2図7に基づいて詳細に説明する。図2は、本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法の全工程流れ図である。画像処理とは、主にコンピュータを使用して画像を変形したり、色合いを変えたり、別の画像と合成したり、画像から何らかの情報を取り出したりする処理全般を指す。本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法においては、切削工具刃先の画像から切削工具刃先の損傷状態を検知できる情報を取り出すことになるが、具体的には切削工具刃先の摩耗した部分(摩耗部)の摩耗幅を測定すること(摩耗幅測定工程)が目的である。図2に記載したように、工具損傷検知システムにおける画像処理方法は、測定対象物抽出工程→測定範囲設定工程→切れ刃選定工程→摩耗部選定工程→摩耗幅測定工程という流れになっている。以下に其々の工程について説明する。
【0015】
<測定対象物抽出工程>
図3は、測定対象物抽出工程を説明するための図である。測定対象物抽出工程は、画像処理方法の(全工程の)流れにおいて前処理とも言える工程である。測定対象物抽出工程は、得られた画像生データを二値化処理した後、面積フィルタにてノイズ除去をする工程である。画像生データ(図3(a)参照)に対して二値化処理をすると、測定対象物と背景の境界部分にノイズが発生する(図3(b)参照)ので、面積フィルタによるノイズ除去を行う。面積フィルタによるノイズ除去は、面積フィルタ((図3(c)参照)の枠内から外れた部分はノイズと見做して除去する)により除去する。
【0016】
尚、二値化処理とは、画像を白と黒の2色に変換する処理のことである。二値化処理では、1画素が0~255階調のグレー画像を、設定した「閾値」を境として黒(0)と白(1)の二値に変換することになる。即ち、閾値以上の画素を白、閾値未満の画素を黒に変換する。
【0017】
<測定範囲設定工程>
図4は、測定範囲設定工程を説明するための図である。図4(d)に記載したように、測定対象物抽出工程を経た画像における工具刃先の摩耗部分を含んだ測定範囲を絞り込んだ形で抽出する(図4(d)枠内)。測定範囲設定工程は、画像処理時間の短縮、及び誤検知を防ぐための工程であり、測定対象物抽出工程にて抽出した測定対象物から一定の範囲縮小したものを検査範囲とする(図4(d)参照)。
【0018】
<切れ刃選定工程>
図5は、切れ刃選定工程を説明するための図である。工具損傷検知システムにおける画像処理方法においては、摩耗部を選定して(選定した摩耗部の)摩耗幅を測定することを最終目標にしている。一方で、摩耗部と切れ刃は繋がっているので、その境界線を明確にする必要がある。本発明の基本思想としては、先ず、切れ刃の範囲を明確にすることが(切れ刃と)摩耗部との境界線を明確にすることになり、(最終目標である)摩耗部の範囲を明確にすることに繋がると考える。
【0019】
切れ刃選定工程においては、先ず、平均化処理(ぼかす処理)を行う(図5(e)参照)。平均化処理に使用する移動平均フィルタ(別名:平均化フィルタ、単に平滑化フィルタともいう)は、画素間の平均値をとるフィルタであり、画像をぼかして滑らかにする効果がある。平均値をとるため、画素毎の輝度値の差を抑え、(外乱)ノイズ等を抑える効果がある。
【0020】
移動平均フィルタ(別名:平均化フィルタ、単に平滑化フィルタともいう)は、注目画素、及びその周辺の画素の輝度値を用いて、輝度値を平均し、処理後画像の輝度値とする手法である。例えば、注目画素、及びその周辺の画素(例えば、3×3画素、5×5画素)の輝度値(の合計)に、所定のレート(例えば、3×3画素であれば1/9、5×5画素であれば、1/25)を掛け合わせて輝度値を求め処理後画像の輝度値とする。また、輝度とは、光源の明るさに対して人間の感じる量のことである。ディスプレイ等の明るさの指標として用いられる。輝度は観測者が対象を見たときの明るさを表す指標でもあり、テレビ等の面光源の明るさを表す指標としてよく用いられる。
【0021】
切れ刃選定工程では、平均化処理した画像の白色部分を膨張させる処理(図5(e)参照)を行った後,輝度値(例えば、輝度値の違いを赤(R)、緑(G)等の色別にすることで表示する)により切れ刃の検出を行う。具体的には、所定の輝度を基準として切れ刃(図5(f)においてRと記載)を検出する。切れ刃検出時には、切れ刃以外の部分も検出されてしまうため(図5(f)においてGと記載)、長さフィルタ(所定の長さから外れた部分はノイズとして除去する)により、切れ刃を選定する(図5(g)においてRと記載)。切れ刃選定工程で選定された切れ刃(図5(g)参照)は、後工程の摩耗部選定工程において(ベースとして)画像処理に使用されることになる。
【0022】
<切れ刃結合工程>
切れ刃選定工程において、切れ刃が(画像上)分断されていた際、分断された切れ刃同士を結合させる切れ刃結合工程を行う。切れ刃結合工程では、分断された切れ刃と切れ刃との間を切れ刃が存在するものと見做して、(画像上)結合させるような画像処理を行うことになる。
【0023】
<摩耗部選定工程>
図6は、摩耗部選定工程を説明するための図である。摩耗部選定工程は、切れ刃選定工程、及び切れ刃結合工程にて切れ刃が明確にされた状態で摩耗部を検出し、選定することになる。摩耗部選定工程では、平均化処理した画像の黒色部分を膨張させる処理を行った後,輝度値により(所定の輝度を基準として)摩耗部の検出を行う(図6(h)でGと記載された部分が摩耗部である)。
【0024】
この時、摩耗部以外の部分も検出されてしまうため、面積フィルタ(所定の面積から外れた部分はノイズとして除去する)により摩耗部を(第一次)選定し、さらに、切れ刃選定工程にて検出した切れ刃(図5(g)参照)を使用し,面積フィルタ処理(第一次選定)後の画像と、切れ刃選定工程にて検出した切れ刃(図5(g))を下方向に合成する。この際、面積フィルタ処理後の画像において選定した摩耗部と、図5(g)の切れ刃部分が重なった部分を摩耗部とし、面積フィルタ処理後の画像において選定した摩耗部と図5(g)の切れ刃部分と重ならない部分をノイズ(対象外)とすることで摩耗部を(第二次)選定する(図6(i)拡大図においてGと記載)。
【0025】
尚、切れ刃部と摩耗部の間に隙間が生じる場合があるため、面積フィルタ処理後の画像において選定した摩耗部と、図5(g)の切れ刃部分を結合したものから、図5(g)の切れ刃部の差分を取り、隙間の補間を行う。
【0026】
<摩耗幅測定工程>
図7は、摩耗幅測定工程を説明するための図である。図7の枠内が摩耗部である(図7(l)参照:(n)拡大図参照)。工具損傷検知システムにおける画像処理方法の最終工程として摩耗幅測定を行う。摩耗幅測定は、図7(l)(または図7(n))の摩耗部と示された範囲内のピクセル数にて(摩耗幅の)測定を行う。摩耗幅測定の結果で切削工具刃先の損傷状態を判定することになる。
【0027】
<工具損傷検知システムにおける画像処理方法の効果>
工具損傷検知システムにおける画像処理方法にて、切削工具刃先の損傷状態を(工作機械に設置された)カメラから得られた画像を基にして、AIに判定させるための画像を得るための優れた画像処理方法、即ち、工具損傷検知システムにおける優れた画像処理方法を提供することができるようになった。
【0028】
<工具損傷検知システムにおける画像処理方法の変更例>
本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法は、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、測定対象物抽出工程、測定範囲設定工程、切れ刃選定工程、切れ刃結合工程、摩耗部選定工程、摩耗幅測定工程等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る工具損傷検知システムにおける画像処理方法は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、切削工具刃先の損傷状態が、使用可能状態か、使用不可能状態かをAIに判定させる工具損傷検知システムにおける画像処理方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
10・・切れ刃
20・・すくい面
30・・逃げ面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7