(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112100
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】抑止時間算出装置及び抑止時間算出方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/16 20220101AFI20240813BHJP
B61L 29/00 20060101ALI20240813BHJP
B60M 3/06 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
B61L27/16
B61L29/00 Z
B60M3/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016957
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】中東 太一
(72)【発明者】
【氏名】國松 武俊
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161JJ22
5H161JJ24
5H161JJ27
5H161JJ29
5H161NN11
(57)【要約】
【課題】列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間の短縮や列車運行にかかる消費電力量の削減を図る技術の提供。
【解決手段】ダイヤ乱れ時に、抑止対象列車の発車を抑止した場合に繰り下がる鳴動予定期間が他の列車の鳴動予定期間と重複する第1重複時間が抑止前より減少しない抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出し、抑止対象列車の発車を抑止した場合に繰り下がる力行予定期間が他の列車のブレーキ予定期間と重複する第2重複時間が抑止前より減少しない抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出し、第1非悪化時間範囲と第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に抑止対象列車の抑止時間を決定する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出装置であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得する運行実績取得手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動予定期間を予測する鳴動予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出する第1非悪化時間範囲算出手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車の前記抑止可能地点の発車後の力行予定期間を予測する力行予定期間予測手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記他の列車毎に、ブレーキ予定期間を予測するブレーキ予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記力行予定期間が前記他の列車の前記ブレーキ予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出する第2非悪化時間範囲算出手段と、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定する抑止時間決定手段と、
を備える抑止時間算出装置。
【請求項2】
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出装置であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得する運行実績取得手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第1踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第1踏切を通過すると仮定した場合の第1鳴動予定期間を予測する第1鳴動予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第1鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第1鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出する第1非悪化時間範囲算出手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第2踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第2踏切を通過すると仮定した場合の第2鳴動予定期間を予測する第2鳴動予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第2鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第2鳴動予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出する第2非悪化時間範囲算出手段と、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定する抑止時間決定手段と、
を備える抑止時間算出装置。
【請求項3】
前記抑止時間決定手段は、前記抑止時間候補範囲において、前記第1重複時間及び前記第2重複時間に基づく所与の決定条件を満たす時間を前記抑止時間として決定する、
請求項1又は2に記載の抑止時間算出装置。
【請求項4】
前記決定条件は、前記第1重複時間と前記第2重複時間とのどちらを優先するかを示す優先設定を含み、
前記抑止時間決定手段は、
前記優先設定が前記第1重複時間を優先することを示す場合に、前記抑止時間候補範囲から前記第1重複時間に基づく絞り込みを行った後に前記第2重複時間に基づく絞り込みを行って時間範囲を絞り込んで前記抑止時間を決定し、
前記優先設定が前記第2重複時間を優先することを示す場合に、前記抑止時間候補範囲から前記第2重複時間に基づく絞り込みを行った後に前記第1重複時間に基づく絞り込みを行って時間範囲を絞り込んで前記抑止時間を決定する、
請求項3に記載の抑止時間算出装置。
【請求項5】
前記第1非悪化時間範囲は、前記第1重複時間が増加又は減少する変化範囲と、増加と減少との間の定常範囲とを有し、
前記第2非悪化時間範囲は、前記第2重複時間が増加又は減少する変化範囲と、増加と減少との間の定常範囲とを有し、
前記抑止時間決定手段は、
前記第1重複時間に基づく前記絞り込みの処理として、A)絞り込み前の時間範囲に当該第1重複時間の前記定常範囲が重なる場合には当該重なる範囲を絞り込み結果として算出し、B)当該第1重複時間の前記変化範囲のみが重なる場合には当該重なる範囲のうちの当該第1重複時間が最大となる時間を絞り込み結果として算出し、
前記第2重複時間に基づく前記絞り込みの処理として、a)絞り込み前の時間範囲に当該第2重複時間の前記定常範囲が重なる場合には当該重なる範囲を絞り込み結果として算出し、b)当該第2重複時間の前記変化範囲のみが重なる場合には当該重なる範囲のうちの当該第2重複時間が最大となる時間を絞り込み結果として算出する、
請求項4に記載の抑止時間算出装置。
【請求項6】
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車の前記抑止可能地点の次の駅の到着に係る着遅延時間が増加しない所定の非増加条件を満たす抑止の時間範囲である遅延非悪化時間範囲を算出する遅延非悪化時間範囲算出手段、
を更に備え、
前記抑止時間決定手段は、前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲と前記遅延非悪化時間範囲との共通範囲を前記抑止時間候補範囲として算出する、
請求項1又は2に記載の抑止時間算出装置。
【請求項7】
所定の走行方向に走行する列車のみを前記抑止対象列車として選択する手段、
を更に備える請求項1又は2に記載の抑止時間算出装置。
【請求項8】
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出方法であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車の前記抑止可能地点の発車後の力行予定期間を予測することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記他の列車毎に、ブレーキ予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記力行予定期間が前記他の列車の前記ブレーキ予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出することと、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定することと、
を含む抑止時間算出方法。
【請求項9】
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出方法であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第1踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第1踏切を通過すると仮定した場合の第1鳴動予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第1鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第1鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第2踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第2踏切を通過すると仮定した場合の第2鳴動予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第2鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第2鳴動予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出することと、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定することと、
を含む抑止時間算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤ乱れ時に、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
計画ダイヤに従った列車運行において、上下方向の各列車の通過タイミングを揃えることで踏切の鳴動時間の短縮を図る技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、駅間の運転曲線や運転時分の割り振りを適切に定めることで、列車運行にかかる消費電力量の削減(省エネ運転)を図る技術も知られている(例えば、特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6177474号公報
【特許文献2】特許第5202369号公報
【特許文献3】特許第6296716号公報
【特許文献4】特開2022-97855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、列車運行に乱れが生じた場合(ダイヤ乱れ時)には、計画ダイヤ通りの運行がなされないので、計画ダイヤに従った列車運行を前提とした上述の技術では想定した効果を得るのが困難と考えられる。特に、列車の運行密度が高い線区ほど、多少の運行遅れを含むダイヤ乱れの発生頻度が相対的に高く、ダイヤ乱れ時には踏切の鳴動時間の長期化や列車運行にかかる消費電力量の増加が発生し易い。そのため、ダイヤ乱れ時において、踏切の鳴動時間の短縮や列車運行にかかる消費電力量の削減を図る技術が望まれている。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間の短縮や列車運行にかかる消費電力量の削減を図る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出装置であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得する運行実績取得手段(例えば、
図16の運行実績取得部202)と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動予定期間を予測する鳴動予定期間予測手段(例えば、
図16の鳴動予定期間予測部206)と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出する第1非悪化時間範囲算出手段(例えば、
図16の踏切非悪化時間範囲算出部208)と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車の前記抑止可能地点の発車後の力行予定期間を予測する力行予定期間予測手段(例えば、
図16の力行予定期間予測部210)と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記他の列車毎に、ブレーキ予定期間を予測するブレーキ予定期間予測手段(例えば、
図16のブレーキ予定期間予測部212)と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記力行予定期間が前記他の列車の前記ブレーキ予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出する第2非悪化時間範囲算出手段(例えば、
図16の電力非悪化時間範囲算出部214)と、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定する抑止時間決定手段(例えば、
図16の抑止時間決定部218)と、
を備える抑止時間算出装置である。
【0007】
他の発明として、
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出方法であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記踏切を通過すると仮定した場合の鳴動予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車の前記抑止可能地点の発車後の力行予定期間を予測することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記他の列車毎に、ブレーキ予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記力行予定期間が前記他の列車の前記ブレーキ予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出することと、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定することと、
を含む抑止時間算出方法を構成してもよい。
【0008】
第1の発明等によれば、列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間の短縮及び列車運行にかかる消費電力量の削減を図ることができる。つまり、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車を適切な抑止時間で抑止することで、踏切の鳴動時間を短縮するとともに、列車運行にかかる消費電力量を削減することができる。抑止時間は、抑止対象列車と他の列車との踏切の鳴動予定期間が重複する第1重複時間が抑止前より減少しない第1非悪化時間範囲と、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車後の力行予定期間と他の列車のブレーキ予定時間とが重複する第2重複時間が抑止前より減少しない第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内で決定する。これにより、少なくとも抑止前より、踏切の鳴動時間が長くなることがないとともに、列車運行にかかる消費電力量が増加することがないような抑止時間とすることができる。また、比較的容易な計算で抑止時間を算出することができること、抑止対象列車に対する指示が抑止時間の通知で済むことも、ダイヤ乱れ時の対策として有用である。
【0009】
第2の発明は、
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出装置であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得する運行実績取得手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第1踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第1踏切を通過すると仮定した場合の第1鳴動予定期間を予測する第1鳴動予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第1鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第1鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出する第1非悪化時間範囲算出手段と、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第2踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第2踏切を通過すると仮定した場合の第2鳴動予定期間を予測する第2鳴動予定期間予測手段と、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第2鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第2鳴動予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出する第2非悪化時間範囲算出手段と、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定する抑止時間決定手段と、
を備える抑止時間算出装置である。
【0010】
他の発明として、
計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合に、所与の抑止対象列車の所与の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出方法であって、
列車運行に係る運行実績時刻を取得することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第1踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第1踏切を通過すると仮定した場合の第1鳴動予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第1鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第1鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出することと、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車を含む第2踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で前記第2踏切を通過すると仮定した場合の第2鳴動予定期間を予測することと、
前記抑止対象列車の前記抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の前記第2鳴動予定期間が前記抑止対象列車以外の列車である他の列車の前記第2鳴動予定期間と重複する第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出することと、
前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に前記抑止対象列車の前記抑止可能地点での抑止時間を決定することと、
を含む抑止時間算出方法を構成してもよい。
【0011】
第2の発明等によれば、列車運行に乱れが生じた場合に、2つの踏切の鳴動時間の短縮を図ることができる。つまり、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車を適切な抑止時間で抑止することで、踏切の鳴動時間を短縮することができる。抑止時間は、抑止対象列車と他の列車との第1踏切の鳴動予定期間が重複する第1重複時間が抑止前より減少しない第1非悪化時間範囲と、抑止対象列車と他の列車との第2踏切の鳴動予定期間が重複する第2重複時間が抑止前より減少しない第2非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内で決定する。これにより、少なくとも抑止前より、第1踏切及び第2踏切それぞれの鳴動時間が長くなることがないような抑止時間とすることができる。また、比較的容易な計算で抑止時間を算出することができること、抑止対象列車に対する指示が抑止時間の通知で済むことも、ダイヤ乱れ時の対策として有用である。
【0012】
第3の発明は、上述の発明において、
前記抑止時間決定手段は、前記抑止時間候補範囲において、前記第1重複時間及び前記第2重複時間に基づく所与の決定条件を満たす時間を前記抑止時間として決定する、
抑止時間算出装置である。
【0013】
第3の発明によれば、第1重複時間及び第2重複時間それぞれをどの程度の長さとするかを考慮して抑止時間を決定することができる。例えば、抑止対象列車と他の列車との鳴動予定期間が重複する時間を長くすることで踏切の鳴動時間を短縮することや、抑止対象列車の力行予定期間と他の列車のブレーキ予定期間とが重複する時間を長くすることで消費電力量を削減すること、等を考慮して抑止時間を決定することができる。
【0014】
第4の発明は、上述の発明において、
前記決定条件は、前記第1重複時間と前記第2重複時間とのどちらを優先するかを示す優先設定を含み、
前記抑止時間決定手段は、
前記優先設定が前記第1重複時間を優先することを示す場合に、前記抑止時間候補範囲から前記第1重複時間に基づく絞り込みを行った後に前記第2重複時間に基づく絞り込みを行って時間範囲を絞り込んで前記抑止時間を決定し、
前記優先設定が前記第2重複時間を優先することを示す場合に、前記抑止時間候補範囲から前記第2重複時間に基づく絞り込みを行った後に前記第1重複時間に基づく絞り込みを行って時間範囲を絞り込んで前記抑止時間を決定する、
抑止時間算出装置である。
【0015】
第4の発明によれば、抑止時間候補範囲から第1重複時間及び第2重複時間のそれぞれに基づく時間範囲の絞り込みを行って抑止時間を決定するが、優先設定に従った順に絞り込みを行う。これにより、例えば、優先設定が示すほうの重複時間を最大化するように抑止時間を決定することができる。つまり、踏切の鳴動時間の短縮と列車運行にかかる消費電力量の削減とのどちらを優先するか、第1踏切及び第2踏切のどちらの鳴動時間の短縮を優先するか、といったことを考慮して抑止時間を決定することができる。
【0016】
第5の発明は、上述の発明において、
前記第1非悪化時間範囲は、前記第1重複時間が増加又は減少する変化範囲と、増加と減少との間の定常範囲とを有し、
前記第2非悪化時間範囲は、前記第2重複時間が増加又は減少する変化範囲と、増加と減少との間の定常範囲とを有し、
前記抑止時間決定手段は、
前記第1重複時間に基づく前記絞り込みの処理として、A)絞り込み前の時間範囲に当該第1重複時間の前記定常範囲が重なる場合には当該重なる範囲を絞り込み結果として算出し、B)当該第1重複時間の前記変化範囲のみが重なる場合には当該重なる範囲のうちの当該第1重複時間が最大となる時間を絞り込み結果として算出し、
前記第2重複時間に基づく前記絞り込みの処理として、a)絞り込み前の時間範囲に当該第2重複時間の前記定常範囲が重なる場合には当該重なる範囲を絞り込み結果として算出し、b)当該第2重複時間の前記変化範囲のみが重なる場合には当該重なる範囲のうちの当該第2重複時間が最大となる時間を絞り込み結果として算出する、
抑止時間算出装置である。
【0017】
第5の発明によれば、例えば、優先設定に従って第1重複時間又は第2重複時間を最大化するように、順に抑止時間候補範囲を絞り込んで抑止時間を決定することができる。
【0018】
第6の発明は、上述の発明において、
前記計画ダイヤに対する前記運行実績時刻の遅延時分に基づいて、前記抑止対象列車の前記抑止可能地点の次の駅の到着に係る着遅延時間が増加しない所定の非増加条件を満たす抑止の時間範囲である遅延非悪化時間範囲を算出する遅延非悪化時間範囲算出手段(例えば、
図16の遅延非悪化時間範囲算出部216)、
を更に備え、
前記抑止時間決定手段は、前記第1非悪化時間範囲と前記第2非悪化時間範囲と前記遅延非悪化時間範囲との共通範囲を前記抑止時間候補範囲として算出する、
抑止時間算出装置である。
【0019】
第6の発明によれば、抑止対象列車の抑止可能地点の次の駅の到着に係る着遅延を増加させないように、抑止時間を決定することができる。
【0020】
第7の発明は、上述の発明において、
所定の走行方向に走行する列車のみを前記抑止対象列車として選択する手段(例えば、
図16の抑止対象列車選択部204)、
を更に備える抑止時間算出装置である。
【0021】
第7の発明によれば、複数の列車を抑止対象列車として抑止する場合に、これらの抑止対象列車の走行方向を同一とすることで、抑止対象列車それぞれに関する抑止時間の算出を簡単化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図4】列車運行にかかる消費電力量の削減の概要説明図。
【
図18】2つの踏切の鳴動時間の短縮の概要説明図。
【
図19】2つの踏切についての抑止時間と鳴動重複時間との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0024】
[概要]
本実施形態は、運転士が列車を運転する区間において、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合(ダイヤ乱れ時)に、踏切の鳴動時間の短縮や列車運行にかかる消費電力量の削減のために、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車をどの程度抑止すれば実現できるか、その抑止時間を算出するものである。具体的には、できる限り踏切の鳴動時間を短縮するとともに列車運行にかかる消費電力量を削減するような抑止対象列車に対する抑止時間を算出する。但し、抑止時間によっては鳴動時間や消費電力量が増加(悪化)し得るため、鳴動時間及び消費電力量がともに少なくとも現状(抑止前)より増加しないような抑止時間とする。ダイヤ乱れ時には、既に各列車に遅延が生じている状態であるので、ある程度発車を抑止しても列車運行に過大な影響を与える可能性は小さいと考えられる。しかし、抑止によって遅延が著しくなることを回避するために、遅延をも考慮して抑止時間を算出する。
【0025】
(A)踏切の鳴動時間
図1は、列車の抑止による踏切の鳴動時間の短縮の概要を説明する図である。
図1では、縦方向を線路に沿った位置とし、横方向を時刻として、p駅~q駅間の列車スジを破線で示している。上方向が上り方向、下方向が下り方向である。p駅~q駅間には踏切が設けられている。そして、列車の通過方向別に、当該踏切の手前方に鳴動開始点が定められ、当該踏切の奥方に鳴動終了点が定められている。列車が鳴動開始点に到達する時刻(鳴動開始予定時刻:黒色の丸印)から鳴動終了点に到達する時刻(鳴動終了予定時刻:黒色の三角印)までの期間が、当該列車が踏切を単独で通過した場合の鳴動予定期間(斜線ハッチングの横長の帯形状の期間)となる。
【0026】
図1の左側においては、下り列車である列車Aのマーク(黒色の下向き五角形)をp駅の停車時刻の位置に、上り列車である列車Bのマーク(黒色の上向き五角形)をq駅の停車時刻の位置に示している。列車A,Bそれぞれの予測ダイヤに対応する列車スジを太い破線で示している。予測ダイヤとは、計画ダイヤ及び運行実績時刻から予測されるダイヤであって、現在時刻以降の列車運行を、計画ダイヤに従った走行時分で走行したとして予測されるダイヤである。ダイヤ乱れが発生している場合には、最新の運行実績時刻をもとに計画ダイヤの各列車スジを遅延させることで予測ダイヤを作成することができる。
【0027】
そして、列車A,Bがこの予測ダイヤに従って走行した場合の鳴動予定期間A,Bを、斜線ハッチングを施した横長の帯形状で示している。この場合、列車Aが列車Bより先に踏切を通過するが、列車Aが単独で踏切を通過した場合の鳴動予定期間Aと、列車Bが単独で踏切を通過した場合の鳴動予定期間Bとの一部が重複している。従って、列車Aが鳴動開始点に到達した時刻(鳴動開始予定時刻)から、列車Bの鳴動終了点に到達した時刻(鳴動終了予定時刻)までの期間が、踏切の鳴動予定期間(以下、「合計鳴動予定期間」という)となる。
【0028】
次いで、
図1の右側に示すように、列車Aのp駅の発車を抑止すると、その抑止時間だけ、列車Aの鳴動予定期間Aが繰り下がる。鳴動予定期間Aが繰り下がることで、列車A,Bそれぞれの鳴動予定期間の重複期間が長くなり、その結果、踏切の合計鳴動予定期間が短くなる。このように、複数の列車がほぼ同時に踏切を通過する場合に、何れかの列車(以下、「抑止対象列車」という。
図1の例では、列車A)の発車を抑止することで、当該踏切の合計鳴動予定期間を短くすることができる。
【0029】
つまり、踏切の合計鳴動予定期間の長さ(合計鳴動予定時間)は、当該踏切を通過する各列車の鳴動予定期間が重複する鳴動重複期間の長さ(第1重複時間である鳴動重複時間)に応じて決まり、この鳴動重複期間の長さ(第1重複時間である鳴動重複時間)は、抑止対象列車の抑止時間に応じて変化する。したがって、踏切の合計鳴動予定期間を短くするには、重複鳴動時間(重複鳴動期間の長さ)をできるだけ長くするように抑止時間を決定することが望ましい。
【0030】
図2は、抑止対象列車の抑止時間と第1重複時間である鳴動重複時間(抑止対象列車の鳴動予定期間と他の列車の鳴動予定期間とが重複する期間の長さ)との関係の一例を示す図である。
図2では、横軸を抑止対象列車の抑止時間ΔT、縦軸を鳴動重複時間としたグラフを示している。また、
図1に示した列車A,Bの関係に対応した例としており、現状(抑止前。抑止時間ΔT=0(ゼロ))において、列車A,Bそれぞれの鳴動予定期間が一部重複している。
【0031】
図2に示すように、鳴動重複時間は、現状(抑止時間ΔT=0)から抑止時間ΔTの増加に伴って増加し、各列車(列車A,B)の鳴動開始予定時刻が揃う時点(抑止時間ΔT1)で最大となる。次いで、当該時点(抑止時間ΔT1)から各列車(列車A,B)の鳴動終了予定時刻同士が揃う時点(抑止時間ΔT2)までは、鳴動重複時間は一定である。そして、当該時点(抑止時間ΔT2)以降は、鳴動重複時間は、抑止時間ΔTの増加に伴って減少し、抑止対象列車(列車A)の鳴動開始予定時刻と、他の列車(列車B)の鳴動終了予定時刻とが揃う時点(抑止時間ΔT4)で0(ゼロ)となる。なお、現状から抑止時間ΔTが減少(早発に相当)すると、抑止対象列車の鳴動予定期間が繰り上がることで鳴動重複時間は減少する。
【0032】
このように、抑止対象列車の抑止時間と鳴動重複時間(抑止対象列車と他の列車との鳴動予定期間の重複期間の長さ)との関係を示すグラフは台形形状となる。つまり、抑止時間ΔTの範囲は、重複鳴動時間が変化(増加又は減少)する抑止時間ΔTの範囲である変化範囲(ΔT=ΔT0~ΔT1,ΔT3~ΔT4)と、増加と減少との間である鳴動重複時間が一定の抑止時間ΔTの範囲である定常範囲(ΔT=ΔT1~ΔT2:台形形状の上底に相当)とを有する。変化範囲は、更に、鳴動重複時間が増加する増加範囲(抑止時間ΔT=ΔT0~ΔT1)と、鳴動重複時間が減少する減少範囲(抑止時間ΔT=ΔT3~ΔT4)とに分けられる。
【0033】
本実施形態では、踏切の鳴動時間(合計鳴動予定時間)が少なくとも現状よりも長くならないように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。このため、現状(抑止時間ΔT=0)での鳴動重複時間を閾値時間Th1とし、この閾値時間Th1以上であることを非減少条件とする。ここでの非減少条件とは、第1重複時間である鳴動重複時間が抑止前より減少しないことを示す条件である。なお、鳴動重複時間が閾値時間Th1以上となる抑止時間ΔTの範囲(
図2の例では、0≦ΔT≦ΔT3、の時間範囲)を踏切非悪化時間範囲という。踏切非悪化時間範囲とは、非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲であって、踏切の鳴動時間(合計鳴動予定時間)が現状より長くならない(悪化しない)範囲のことである。また、鳴動重複時間が閾値時間Th1未満となる抑止時間ΔTの範囲(
図2の例では、ΔT<0、ΔT3<ΔT、の時間範囲)を踏切悪化時間範囲という。踏切悪化時間範囲とは、非減少条件を満たさない抑止の時間範囲であって、踏切の鳴動時間(合計鳴動予定時間)が現状より長くなる(悪化する)範囲のことである。
【0034】
図2では、抑止対象列車(列車A)の当該踏切の鳴動予定期間と、ほぼ同時に踏切を通過する1台の他の列車(列車B)の当該踏切の鳴動予定期間とが重複する例を示したが、抑止対象列車の抑止時間を更に増加させることで、当該他の列車に続行する別の他の列車(対向列車)と、当該踏切の鳴動予定期間が重複することになる。
【0035】
図3は、抑止対象列車の抑止時間と、抑止対象列車の鳴動予定期間が踏切を通過予定の複数の他の列車(対向列車)それぞれの鳴動予定期間と重複する期間の長さ(鳴動重複時間)と、の関係の一例を示す図である。
図3では、
図2と同様に、横軸を抑止時間ΔT、縦軸を鳴動重複時間としたグラフを示している。
図3に示すように、抑止対象列車の抑止時間を増加してゆくと、他の列車(列車B,C,D,・・)それぞれと、順次、鳴動予定期間が重複する。その鳴動重複時間は、同様に、抑止時間ΔTの増加に伴って増加・一定・減少するといった台形形状をなす。また、鳴動重複時間と閾値時間Th1との大小関係に応じて、踏切非悪化時間範囲及び踏切悪化時間範囲が定められる。
【0036】
なお、本実施形態は、踏切の鳴動時間(合計鳴動予定時間)を短くすることが目的であるため、抑止対象列車を基準とする鳴動予定期間の重複を考慮する他の列車は、当該踏切の通過方向が抑止対象列車とは逆方向である列車、つまり、抑止対象列車の対向列車とする。
【0037】
(B)列車運行にかかる消費電力量
図4は、列車の抑止による列車運行にかかる消費電力量の削減の概要を説明する図である。
図4では、
図1と同様に、縦方向を線路に沿った位置とし、横方向を時刻として、p駅~q駅間の列車スジを破線で示している。上方向が上り方向、下方向が下り方向である。
【0038】
図4の左側においては、下り列車である列車Aのマーク(黒色の下向き五角形)をp駅の停車時刻の位置に、上り列車である列車Bのマーク(黒色の上向き五角形)をq駅の停車時刻に位置に示している。列車A,Bそれぞれの予測ダイヤに対応する列車スジを太い破線で示している。また、駅間の列車の運転曲線は予め定められているとし、その運転曲線に従った場合の列車Aのp駅からの発車後の力行予定期間Aと、列車Bのp駅への到着前のブレーキ予定期間Bとを斜線ハッチングの横長の帯形状で示している。
図4の例では、列車Aの力行予定期間Aと、列車Bのブレーキ予定期間Bとの一部が重複している。この重複期間が、列車Bの回生電力が列車Aの力行によって消費される期間である回生有効期間となる。
【0039】
次いで、
図4の右側に示すように、列車Aのp駅の発車を抑止すると、その抑止時間だけ、列車Aの力行予定期間Aが繰り下がる。力行予定期間が繰り下がることで、列車Aの力行予定期間Aと列車Bのブレーキ予定期間Bとが重複する回生有効期間が長くなり、その結果、p駅~q駅間の列車A,Bの運行にかかる消費電力量が減少する。このように、複数の列車が近傍に位置する場合に、何れかの列車(以下、「抑止対象列車」という。
図4の例では、列車A)の発車を抑止することで、列車運行にかかる消費電力量を減少させることができる。
【0040】
つまり、列車運行にかかる消費電力量は、抑止対象列車の力行予定期間と他の列車のブレーキ予定期間とが重複する回生有効期間の長さ(第2重複時間である回生有効時間)に応じて決まり、この回生有効期間の長さ(第2重複時間である回生有効時間)は、抑止対象列車の抑止時間に応じて変化する。したがって、列車運行にかかる消費電力量を減少させるには、回生有効時間(回生有効期間の長さ)をできるだけ長くするように抑止時間を決定することが望ましい。
【0041】
図5は、抑止対象列車の抑止時間と第2重複時間である回生有効時間との関係の一例を示す図である。
図5では、横軸を抑止対象列車の抑止時間ΔT、縦軸を回生有効時間としたグラフを示している。また、
図4に示した列車A,Bの関係に対応した例としており、現状(抑止前。抑止時間ΔT=0(ゼロ))において、列車Aの力行予定期間Aと列車Bのブレーキ予定期間Bとが一部重複している。
【0042】
図5に示すように、抑止対象列車の抑止時間と回生有効時間との関係を示すグラフは、
図2に示した抑止時間と鳴動重複時間との関係を示すグラフと同様の台形形状となる。つまり、抑止時間ΔTの範囲は、回生有効時間が変化(増加又は減少)す変化範囲(ΔT=ΔT5~ΔT6,ΔT7~ΔT9)と、増加と減少との間である回生有効時間が一定の定常範囲(ΔT=ΔT6~ΔT7:台形形状の上底に相当)とを有する。変化範囲は、更に、回生有効時間が増加する増加範囲(抑止時間ΔT=ΔT5~ΔT6)と、回生有効時間が減少する減少範囲(ΔT=ΔT7~ΔT9)とに分けられる。
【0043】
また、本実施形態では、列車運行にかかる消費電力量が少なくとも現状よりも増加しないように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。このため、
図2と同様に、現状(抑止時間ΔT=0)での回生有効時間を閾値時間Th2とし、この閾値時間Th2以上であることを非減少条件とする。ここでの非減少条件とは、第2重複時間である回生有効時間が抑止前より減少しないことを示す条件である。なお、回生有効時間が閾値時間Th2以上となる抑止時間ΔTの範囲(
図5の例では、0≦ΔT≦ΔT8、の時間範囲)を電力非悪化時間範囲という。電力非悪化時間範囲とは、非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲であって、消費電力量が現状より増加しない(悪化しない)範囲のことである。また、回生有効時間が閾値時間Th2未満となる抑止時間ΔTの範囲(
図5の例では、ΔT<0,ΔT8<ΔT、の時間範囲)を電力悪化時間範囲という。電力悪化時間範囲とは、非減少条件を満たさない抑止の時間範囲であって、消費電力量が現状より増加する(悪化する)範囲のことである。
【0044】
また、
図5では、抑止対象列車(列車A)の力行予定期間が、抑止対象列車(列車A)の近傍に位置する1台の他の列車(列車B)のブレーキ予定期間と重複する例を示したが、同様に、抑止対象列車の抑止時間を更に増加させることで、抑止対象列車に接近する別の他の列車(対向列車に限らず、回生電力を融通できる列車であればよい)それぞれのブレーキ予定期間と重複させることができる。
【0045】
図6は、抑止対象列車の抑止時間と、抑止対象列車を基準とした複数の他の列車それぞれとの回生有効期間の長さ(回生有効時間)と、の関係の一例を示す図である。
図6では、
図5と同様に、横軸を抑止時間ΔT、縦軸を鳴動重複時間としたグラフを示している。
図6に示すように、抑止対象列車の抑止時間を増加してゆくと、接近する他の列車(列車B,C,D,・・)それぞれと、順次、そのブレーキ予定期間と重複する。重複する期間の長さである回生有効時間は、同様に、抑止時間ΔTの増加に伴って増加・一定・減少するといった台形形状をなす。また、回生有効時間と閾値時間Th2との大小関係に応じて、電力非悪化時間範囲及び電力悪化時間範囲が定められる。
【0046】
(C)次駅の着遅延
図7は、列車の次駅の着遅延を説明する図である。
図7では、
図1と同様に、縦方向を線路に沿った位置とし、横方向を時刻として、p駅~q駅間の列車スジを破線で示している。上方向が上り方向、下方向が下り方向である。
図7においては、先行列車である列車Zのp駅からの発車に遅延(発遅延)が生じており、この遅延に起因する開通待ちのために、続行列車である列車Aのq駅への到着に遅延が生じている。列車A,Zそれぞれの予測ダイヤに対応する列車スジを太い破線で示している。また、列車Zの細い破線の列車スジは、計画ダイヤに基づく列車スジである。
【0047】
この場合、列車Aのp駅からの発車を抑止しても、その抑止時間が開通待ちによる到着の遅延時間以下であるならば、次駅であるq駅への到着予定時刻は変わらない。つまり、
図7において、太い一点鎖線で示す列車スジとなっても、次駅であるq駅への到着予定時刻は変わらない。このように、先行列車(
図7の例では、列車Z)の遅延により続行列車(抑止対象列車。
図7の例では、列車A)に開通待ちが生じている場合に、続行列車の発車を抑止しても次駅の到着に生じる遅延が増加しない場合がある。
【0048】
図8は、抑止対象列車の抑止時間と、次駅の増加する着遅延時間との関係の一例を示す図である。
図8では、横軸を抑止対象列車の抑止時間ΔT、縦軸を着遅延時間としたグラフを示している。また、
図7に示した列車A,Zの関係に対応した例としており、現状(抑止前。抑止時間ΔT=0(ゼロ))において、列車Aのp駅からの発車待ち(次駅であるq駅までの開通待ち)が生じている。
図8に示すように、着遅延時間は、抑止時間ΔTが開通待ちによる到着の遅延時間ΔT10に達するまでは0(ゼロ)であり、遅延時間ΔT10を超えると抑止時間ΔTの増加に伴って増加し、その値はその超過時間(=ΔT-ΔT10)となる。
【0049】
本実施形態では、次駅への着遅延が少なくとも現状よりも増加しないように、抑止対象列車の抑止時間を決定する。このため、
図2と同様に、現状(抑止時間ΔT=0)での着遅延時間を閾値時間Th3(
図8の例では、0(ゼロ))とし、この閾値時間Th3以下であることを、抑止対象列車の抑止可能地点である抑止駅の次の駅の到着に係る着遅延時間が増加しない非増加条件とする。なお、着遅延時間が閾値時間Th3以下となる抑止時間ΔTの範囲(
図8の例では、0≦ΔT≦ΔT10の時間範囲)を遅延非悪化時間範囲という。遅延非悪化時間範囲とは、非増加条件を満たす抑止の時間範囲であって、着遅延時間が現状より増加しない(悪化しない)範囲のことである。また、閾値時間Th3を超える抑止時間ΔTの範囲(
図8の例では、ΔT10<ΔT、の時間範囲)を遅延悪化時間範囲という。遅延悪化時間範囲とは、非増加条件を満たさない抑止の時間範囲であって、着遅延時間が現状より増加する(悪化する)範囲のことである。なお、開通待ちにより列車の次駅の更なる着遅延が生じる場合以外にも、例えば、後続列車が遅延し、後続の更なる混雑・遅延の増大を防止するため、後続との列車間隔を縮小させたい場合においては、間隔調整の観点で当該列車にも一定の遅延が許容されるため、その調整許容時間を本実施形態の閾値時間として扱うことも可能である。
【0050】
(D)抑止時間の決定
本実施形態では、踏切の鳴動時間、列車運行にかかる消費電力量、及び、抑止対象列車の次駅の着遅延、の3つの要素が、少なくとも現状から悪化しないように抑止対象列車の抑止時間を決定する。このため、
図9に示すように、これらの3つの要素それぞれについての現状より悪化しない抑止時間の時間範囲である非悪化時間範囲の共通範囲を、抑止時間の候補の範囲である抑止時間候補範囲とし、当該範囲内で抑止時間を決定する。
【0051】
図9は、抑止時間候補範囲の一例を示す図である。
図9では、上から順に、第1重複時間である(a)鳴動重複時間、第2重複時間である(b)回生有効時間、及び、(c)次駅の着遅延時間のそれぞれと、共通の抑止時間ΔTとの関係を示すグラフを示している。また、3つの要素それぞれの非悪化時間範囲の共通範囲である抑止時間候補範囲を、網掛けハッチングの縦長の帯形状として示している。なお、抑止時間の上限である探索範囲を設定し、この探索範囲内で抑止時間候補範囲を定めている。
【0052】
次駅の着遅延時間については、遅延非悪化時間範囲内では一定であるので、残りの2つの要素である鳴動重複時間、及び、回生有効時間のみを考える。また、この2つの要素のどちらを優先するかを設定し、その優先設定に従って、抑止時間候補範囲内で、鳴動重複時間、及び、回生有効時間を最大化するように抑止時間を決定する。具体的には、鳴動重複時間及び回生有効時間のうち、優先する一方(第1優先)の要素を最大化するように抑止時間候補範囲を絞り込んだ後に、その絞り込んだ抑止時間候補範囲内で、更に他方(第2優先)の要素を最大化するように抑止時間候補範囲を絞り込む。そして、その絞り込んだ後の抑止時間候補範囲内で最小の時間を、抑止時間として決定する。
【0053】
図10は、抑止時間を決定する処理(抑止時間決定処理)の流れを示すフローチャートである。先ず、抑止時間候補範囲に、第1優先の要素の定常範囲が含まれるか否かを判断する(ステップS1)。定常範囲が含まれるならば(ステップS3:YES)、抑止時間候補範囲のうちの、その第1優先の要素の定常範囲と重なる範囲を、新たな抑止時間候補範囲として更新する(ステップS5)。定常範囲が含まれないならば(ステップS3:NO)、抑止時間候補範囲内であって第1優先の要素が最大となる抑止時間を、新たな抑止時間候補範囲として更新する(ステップS7)。
【0054】
次いで、第1優先の要素に基づく更新後(絞り込み後)の抑止時間候補範囲に対して、同様に第2優先の要素に基づく抑止時間候補範囲の更新(絞り込み)を行う。すなわち、抑止時間候補範囲に、第2優先の要素の定常範囲が含まれるか否かを判断する(ステップS9)。定常範囲が含まれるならば(ステップS11:YES)、抑止時間候補範囲のうちの、その第2優先の要素の定常範囲と重なる範囲を、新たな抑止時間候補範囲として更新する(ステップS13)。定常範囲が含まれないならば(ステップS11:NO)、抑止時間候補範囲内であって第2優先の要素が最大となる抑止時間を、新たな抑止時間候補範囲として更新する(ステップS15)。
【0055】
その後、第1優先及び第2優先に基づく更新後(絞り込み後)の抑止時間候補範囲内の最小の時間を、抑止時間として決定する(ステップS17)。
【0056】
このように、抑止時間候補範囲の絞り込みは、鳴動重複時間及び回生有効時間の各要素を最大化するようになされるから、抑止時間候補範囲に鳴動重複時間及び回生有効範囲の定常範囲が含まれるか否かに応じて絞り込む範囲が決まる。その結果、どちらを優先するかによって、決定される抑止時間が異なり得る。
【0057】
図11~
図14は、抑止時間の決定の具体例である。
図11~
図14の何れにおいても、横軸を共通の抑止時間ΔTとし、上から順に、鳴動重複時間及び回生有効時間のそれぞれと、抑止時間ΔTとの関係を示すグラフを示している。また、抑止時間候補範囲を網掛けハッチングの縦長の帯形状で示している。
【0058】
図11は、抑止時間候補範囲に、鳴動重複時間及び回生有効時間の両方の要素の定常範囲が含まれる例である。この例では、
図11に示すように、鳴動重複時間が第1優先である場合には、先ず、抑止時間候補範囲は、鳴動重複時間の定常範囲と重なる範囲Da1に絞り込まれる(
図10のステップS5に相当)。次いで、第2優先である回生有効時間の定常範囲と重なる範囲Da2に絞り込まれる(
図10のステップS13に相当)。そして、この範囲Da2内の最小時間ΔTaが、抑止時間として決定される(
図10のステップS17に相当)。なお、
図11の例では、優先設定を逆にした場合、つまり、回生有効時間を第1優先、鳴動時間を第2優先とした場合であっても、決定される抑止時間は同じとなる。
【0059】
図12,
図13は、抑止時間候補範囲に、鳴動重複時間及び回生有効時間の一方の要素のみの定常範囲が含まれる例である。
図12,
図13では、抑止時間候補範囲に鳴動重複時間の定常範囲が含まれる例を示している。
【0060】
この例では、
図12に示すように、鳴動重複時間が第1優先である場合には、先ず、抑止時間候補範囲は、鳴動重複時間の定常範囲と重なる範囲Db1に絞り込まれる(
図10のステップS5に相当)。次いで、抑止時間候補範囲である範囲Db1には、第2優先である回生有効時間の定常範囲が含まれないから、変化範囲と重なる範囲、つまり当該範囲Db1内の回生有効時間が最大となる時間ΔTbである時間範囲Db2に、抑止時間候補範囲が絞り込まれる(
図10のステップS15に相当)。ここで、時間範囲Db2は、1つの特定の時間そのものとなっている。そして、この抑止時間候補範囲内の最小時間、つまり、当該範囲Db2そのものである時間ΔTbが抑止時間として決定される(
図10のステップS17に相当)。
【0061】
また逆に、この例において、
図13に示すように、回生有効時間が第1優先である場合には、抑止時間候補範囲には、回生有効時間の定常範囲が含まれないから、変化範囲と重なる範囲、つまり抑止時間候補範囲内の回生有効時間が最大となる時間ΔTcである時間範囲Dc1に、抑止時間候補範囲が絞り込まれる(
図10のステップS7に相当)。次いで、第2優先である鳴動重複時間の定常範囲は、絞り込まれた後の抑止時間候補範囲である時間範囲Dc1に含まれないから、変化範囲と重なる範囲、つまり当該範囲Dc1そのものである時間ΔTcそのものに絞り込まれる(
図10のステップS15に相当)。そして、この抑止時間候補範囲内の最小時間、つまり、当該範囲Dc2そのものである時間ΔTcが抑止時間として決定される(
図10のステップS17に相当)。
【0062】
このように、抑止時間候補範囲に鳴動重複時間及び回生有効時間の一方の要素のみの定常範囲が含まれる場合には、どちらの要素を第1優先とするかによって、決定される抑止時間が異なり得る。
【0063】
図14,
図15は、抑止時間候補範囲に、鳴動重複時間及び回生有効時間の何れの要素の定常範囲も含まれない例である。この例では、
図14に示すように、鳴動重複時間が第1優先である場合には、抑止時間候補範囲には鳴動重複時間の定常範囲が含まれないから、変化範囲と重なる範囲、つまり当該抑止時間候補範囲内の鳴動重複時間が最大となる時間ΔTdそのものとしての時間範囲Dd1に、抑止時間候補範囲が絞り込まれる(
図10のステップS7に相当)。次いで、抑止時間候補範囲である時間範囲Dd2には、第2優先である回生有効時間の定常範囲は含まれないから、変化範囲と重なる範囲、つまり当該範囲Dd1そのものである時間ΔTdである時間範囲Dd2に絞り込まれる(
図10のステップS15に相当)。そして、抑止時間候補範囲そのものである時間ΔTdが、抑止時間として決定される(
図10のステップS17に相当)。
【0064】
また逆に、
図15に示すように、回生有効時間が第1優先である場合には、抑止時間候補範囲には回生有効時間の定常範囲が含まれないので、回生有効時間が最大となる抑止時間候補範囲内の時間ΔTeそのものとしての時間範囲De1が、抑止時間候補範囲として絞り込まれる(
図10のステップS7に相当)。次いで、抑止時間候補範囲である時間範囲De1には、第2優先である鳴動重複時間の定常範囲は含まれないから、変化範囲と重なる範囲、つまり当該範囲De1そのものである時間ΔTeである時間範囲De2に絞り込まれる(
図10のステップS15に相当)。そして、抑止時間候補範囲そのものである時間ΔTeが、抑止時間として決定される(
図10のステップS17に相当)。
【0065】
このように、抑止時間候補範囲に鳴動重複時間及び回生有効時間の両方の要素の定常範囲が含まれない場合には、どちらの要素を第1優先とするかによって、決定される抑止時間が異なり得る。
【0066】
[機能構成]
図16は、抑止時間算出装置1の機能構成の一例である。
図16によれば、抑止時間算出装置1は、運行管理システムの一機能として実現される装置であり、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、抑止時間算出装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。また、抑止時間算出装置1は、独立した単体の装置として構成することとしてもよいし、列車の運行管理システム等の全体システムに機能的に組み込んだ構成としてもよい。後者の場合には、組み込み先のシステムや装置が本実施形態の抑止時間算出装置と言える。
【0067】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0068】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、抑止時間算出装置1の全体制御を行う。
【0069】
また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、運行実績取得部202、抑止対象列車選択部204、鳴動予定期間予測部206、踏切非悪化時間範囲算出部208、力行予定期間予測部210、ブレーキ予定期間予測部212、電力非悪化時間範囲算出部214、遅延非悪化時間範囲算出部216、及び、抑止時間決定部218を有する。
【0070】
処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0071】
処理部200は、抑止時間算出プログラム302に従った処理を実行することで、計画ダイヤに基づく列車運行に乱れが生じた場合(ダイヤ乱れ時)に、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車を抑止する抑止時間を算出する抑止時間算出処理(
図17参照)を実行する。
【0072】
運行実績取得部202は、駅に到着した列車の着時刻又は駅から発車した列車の発時刻を随時取得することで、列車運行に係る新たな運行実績時刻を取得する。例えば、通信部108を介して、運行管理システムを構成する他の外部装置から取得することができる。取得した運行実績時刻は、実績ダイヤデータ312として記憶される。
【0073】
抑止対象列車選択部204は、所定の走行方向に走行する列車のみを抑止対象列車として選択する。走行方向は、例えば、上り方向又は下り方向を示し、操作部102や通信部108を介した指示入力として取得することができる。
【0074】
鳴動予定期間予測部206は、計画ダイヤに対する運行実績時刻の遅延時分に基づいて、抑止対象列車を含む踏切を通過予定の列車毎に、当該列車が単独で踏切を通過すると仮定した場合の鳴動開始予定時刻から鳴動終了予定時刻までの鳴動予定期間を予測する。
【0075】
具体的には、ダイヤ乱れ時に、最新の運行実績時刻(実績ダイヤデータ312)をもとに計画ダイヤの各列車スジを遅延させることで予測ダイヤを作成し、その予測ダイヤに基づいて鳴動予定期間を予測する。踏切には通過方向別に基準鳴動時分が定められており、予測ダイヤに基づく鳴動開始予定時刻に基準鳴動時分を加算して鳴動終了予定時刻を算出する。また、列車が駅に到着した場合に、当該列車が当該駅を発車する予定時刻を予測して当該列車の鳴動予定期間を予測する。鳴動開始予定時刻は、踏切の鳴動開始点への到達時刻であり、計画ダイヤに従った運行が遅延時分だけ遅れてなされるものとして算出する(
図1参照)。
【0076】
計画ダイヤは、計画ダイヤデータ310として記憶されている。作成した予測ダイヤは、予測ダイヤデータ314として記憶される。踏切の鳴動開始点や基準鳴動時分は、踏切管理情報318として記憶されている。
【0077】
踏切非悪化時間範囲算出部208は、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の鳴動予定期間が抑止対象列車以外の列車である他の列車の鳴動予定期間と重複する第1重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲を算出する。
【0078】
具体的には、抑止対象列車が抑止駅に到着したときに、当該抑止駅に対応する踏切を通過予定の対向列車それぞれと鳴動予定期間が重複する第1重複時間である鳴動重複時間と、当該抑止駅からの発車を抑止する場合の抑止時間との関係を求める。そして、現状(抑止前)の鳴動重複時間を時間閾値とし、鳴動重複時間が当該時間閾値以上となる抑止時間の範囲を踏切非悪化時間範囲とし、それ以外の範囲を踏切悪化時間範囲とする(
図2,
図3参照)。踏切非悪化時間範囲は、非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第1非悪化時間範囲のことである。抑止可能地点である抑止駅は、抑止駅リスト316として記憶されている。
【0079】
力行予定期間予測部210は、計画ダイヤに対する運行実績時刻の遅延時分に基づいて、抑止対象列車の抑止可能地点の発車後の力行予定期間を予測する。
【0080】
具体的には、ダイヤ乱れ時に、抑止対象列車の抑止可能地点である抑止駅の発車後の力行予定期間を予測ダイヤに基づいて予測する。駅間には走行方向別に運転曲線が定められている。そのため、抑止駅の発車予定時刻を力行開始予定時刻とし、この力行開始予定時刻に力行時分を加算して力行終了予定時刻を算出し、力行開始予定時刻から力行終了予定時刻までの期間を力行予定期間として予測する。また、抑止対象列車が抑止駅に到着した場合に、当該抑止対象列車が当該駅を発車する予定時刻を予測して当該抑止対象列車の力行予定期間を予測する(
図4参照)。
【0081】
ブレーキ予定期間予測部212は、計画ダイヤに対する運行実績時刻の遅延時分に基づいて、他の列車毎に、ブレーキ予定期間を予測する。
【0082】
具体的には、ダイヤ乱れ時に、予測ダイヤに基づいて列車のブレーキ予定期間を予測する。駅間には走行方向別に運転曲線が定められている。そのため、列車の駅の到着予定時刻をブレーキ終了予定時刻とし、このブレーキ終了予定時刻からブレーキ時分を減算してブレーキ開始予定時刻を算出し、ブレーキ開始予定時刻からブレーキ終了予定時刻までの期間をブレーキ予定期間として予測する(
図4参照)。駅間の走行方向別の運転曲線は、運転曲線情報320として記憶されている。
【0083】
電力非悪化時間範囲算出部214は、第2重複時間が、抑止前より減少しないことを示す所定の非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲を算出する。第2重複時間とは、抑止可能地点からの抑止対象列車の発車を抑止した場合に繰り下がる当該抑止対象列車の力行予定期間が他の列車のブレーキ予定期間と重複する時間のことである。
【0084】
具体的には、抑止対象列車が抑止駅に到着したときに、第2重複時間である回生有効時間と、抑止時間との関係を求める。回生有効時間は、抑止対象列車の当該抑止駅の発車後の力行予定期間が他の列車それぞれのブレーキ予定期間と重複する時間のことである。そして、現状(抑止前)の回生有効時間を時間閾値として、回生有効時間が当該時間閾値以上となる抑止時間の範囲を電力非悪化時間範囲とし、それ以外の範囲を、非減少条件を満たさない電力悪化時間範囲とする(
図5,
図6参照)。電力非悪化時間範囲とは、非減少条件を満たす抑止の時間範囲である第2非悪化時間範囲のことである。
【0085】
遅延非悪化時間範囲算出部216は、計画ダイヤに対する運行実績時刻の遅延時分に基づいて遅延非悪化時間範囲を算出する。遅延非悪化時間範囲とは、抑止対象列車の抑止可能地点の次の駅の到着に係る着遅延時間が増加しない所定の非増加条件を満たす抑止の時間範囲のことである。
【0086】
具体的には、抑止対象列車が抑止駅に到着したときに、先行列車の発遅延に伴う開通待ちによって生じる抑止対象列車の次駅への着遅延時間を算出する。そして、この着遅延時間以下となる抑止時間の範囲を、非増加条件を満たす抑止の時間範囲である遅延非悪化時間範囲とし、着遅延時間を超える抑止時間の範囲を、非増加条件を満たさない抑止の時間範囲である電力悪化時間範囲とする(
図7,
図8参照)。
【0087】
抑止時間決定部218は、第1非悪化時間範囲である踏切非悪化時間範囲と、第2非悪化時間範囲である電力非悪化時間範囲と、遅延非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内に抑止対象列車を抑止可能地点で抑止する抑止時間を決定する。また、抑止時間候補範囲において、第1重複時間である鳴動重複時間及び第2重複時間である回生有効時間に基づく所与の決定条件を満たす時間を抑止時間として決定する。
【0088】
また、決定条件は、第1重複時間である鳴動重複時間と第2重複時間である回生有効時間とのどちらを優先するかを示す優先設定を含む。抑止時間決定部218は、優先設定が鳴動重複時間を優先することを示す場合に、抑止時間候補範囲から鳴動重複時間に基づく絞り込みを行った後に回生有効時間に基づく絞り込みを行って時間範囲を絞り込んで抑止時間を決定する。優先設定が回生有効時間を優先することを示す場合には、抑止時間候補範囲から回生有効時間に基づく絞り込みを行った後に鳴動重複時間に基づく絞り込みを行って時間範囲を絞り込んで抑止時間を決定する。
【0089】
また、踏切非悪化時間範囲は、第1重複時間である鳴動重複時間が増加又は減少する変化範囲と、増加と減少との間の定常範囲とを有する。第2重複時間である電力非悪化時間範囲は、回生有効時間が増加又は減少する変化範囲と、増加と減少との間の定常範囲とを有する。抑止時間決定部218は、鳴動重複時間に基づく絞り込みの処理として、A)絞り込み前の時間範囲に当該鳴動重複時間の定常範囲が重なる場合には当該重なる範囲を絞り込み結果として算出し、B)当該鳴動重複時間の変化範囲のみが重なる場合には当該重なる範囲のうちの当該鳴動重複時間が最大となる時間を絞り込み結果として算出する。また、回生有効時間に基づく絞り込みの処理として、a)絞り込み前の時間範囲に当該回生有効時間の定常範囲が重なる場合には当該重なる範囲を絞り込み結果として算出し、b)当該回生有効時間の変化範囲のみが重なる場合には当該重なる範囲のうちの当該回生有効時間が最大となる時間を絞り込み結果として算出する(
図9~
図14参照)。
【0090】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が抑止時間算出装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、抑止時間算出プログラム302と、計画ダイヤデータ310と、実績ダイヤデータ312と、予測ダイヤデータ314と、抑止駅リスト316と、踏切管理情報318と、運転曲線情報320と、決定抑止情報322とが記憶される。
【0091】
決定抑止情報322は、決定した抑止に関する情報であり、各通告について、抑止対象列車と、抑止駅と、抑止時間とを対応付けて格納している。
【0092】
[処理の流れ]
図17は、抑止時間算出装置1が実行する抑止時間算出処理の流れを説明するフローチャートである。
【0093】
先ず、初期設定として、1)抑止対象列車の走行方向である抑止方面、2)抑止に際して鳴動重複時間(踏切の鳴動時間の短縮)及び回生有効時間(列車運行にかかる消費電力量の削減)のどちらを優先するかの優先順位、3)抑止時間の上限である探索時間、を設定する(ステップS101)。
【0094】
次いで、任意の列車が駅に到着又は駅から発車したならば(ステップS103:YES)、運行実績取得部202が、駅に到着した全ての列車の着時刻、又は、駅から発車した全ての列車の発時刻を、運行実績時刻として取得する(ステップS105)。続いて、鳴動予定期間予測部206が、取得した運行実績時刻の計画ダイヤに対する遅延時分を算出し、その遅延時分に基づいて、各列車の鳴動予定期間を予測する(ステップS107)。また、取得した運行実績時刻の計画ダイヤに対する遅延時分に基づいて、力行予定期間予測部210が各列車の力行予定期間を予測し、ブレーキ予定期間予測部212が各列車のブレーキ予定期間を予測する(ステップS109)。
【0095】
次いで、抑止対象列車が抑止駅に到着したならば(ステップS111:YES)、踏切非悪化時間範囲算出部208は、抑止対象列車が他の列車(対向列車)それぞれに対して、鳴動予定期間が重複する重複鳴動時間が現状(抑止前)より長くなる抑止時間の範囲である踏切非悪化時間範囲を算出する。また、電力非悪化時間範囲算出部214は、抑止対象列車の力行予定期間が他の列車それぞれのブレーキ予定期間と重複する回生有効時間が現状(抑止前)より長くなる抑止時間の範囲である電力非悪化時間範囲を算出する。また、遅延非悪化時間範囲算出部216は、現状(抑止前)より長くなる抑止時間の範囲である遅延非悪化時間範囲を算出する(ステップS113)。
【0096】
次いで、抑止時間決定部218は、遅延非悪化時間範囲、踏切非悪化時間範囲、及び、電力非悪化時間範囲、の共通範囲を抑止時間候補範囲として算出する(ステップS115)。続いて、抑止時間算出処理(
図10参照)を実行することで、優先設定に従い、抑止対象列車の抑止駅からの発車の抑止時間を抑止時間候補範囲内で決定する(ステップSS117)。そして、決定した抑止時間を外部出力する(ステップS119)。
【0097】
その後、処理を終了するか否かを判断し、終了しないならば(ステップS121:NO)、ステップS103に戻る。終了するならば(ステップS121:YES)、本処理(抑止時間算出処理)を終了する。
【0098】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、列車運行に乱れが生じた場合に、踏切の鳴動時間の短縮及び列車運行にかかる消費電力量の削減を図ることができる。つまり、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車を適切な抑止時間で抑止することで、踏切の鳴動時間を短縮するとともに、列車運行にかかる消費電力量を削減することができる。抑止時間は、抑止対象列車と他の列車との踏切の鳴動予定期間が重複する第1重複時間である鳴動重複時間が抑止前より減少しない第1非悪化時間範囲である踏切非悪化時間範囲と、抑止対象列車の抑止可能地点からの発車後の力行予定期間と他の列車のブレーキ予定時間とが重複する第2重複時間である回生有効時間が抑止前より減少しない第2非悪化時間範囲である電力非悪化時間範囲との共通範囲である抑止時間候補範囲内で決定する。これにより、少なくとも抑止前より、踏切の鳴動時間が長くなることがないとともに、列車運行にかかる消費電力量が増加することがないような抑止時間とすることができる。また、比較的容易な計算で抑止時間を算出することができること、抑止対象列車に対する指示が抑止時間の通知で済むことも、ダイヤ乱れ時の対策として有用である。
【0099】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0100】
(A)考慮する要素
上述の実施形態では、踏切の鳴動時間、列車運行にかかる消費電力量、及び、次駅の着遅延、の3つの要素が現状(抑止前)より悪化しないように抑止対象列車の抑止時間を決定することとした。つまり、第1非悪化時間範囲である踏切非悪化時間範囲、第2非悪化時間範囲である電力非悪化時間範囲、及び、遅延非悪化時間範囲、の共通範囲を抑止時間候補範囲として当該範囲内で抑止時間を決定することとした。これを、これらの3つの要素のうち2つ又は1つの要素が現状(抑止前)より悪化しないように抑止時間を決定するようにしてもよい。この場合、考慮する要素にかかる非悪化時間範囲の共通範囲を抑止時間候補範囲とすればよい。
【0101】
(B)2つの踏切の鳴動時間の短縮
また、2つの踏切(第1踏切及び第2踏切)それぞれの鳴動時間を短縮するような抑止時間を決定するようにしてもよい。この場合、同様に、踏切それぞれについて、抑止対象列車の抑止時間と鳴動重複時間との関係のグラフから踏切非悪化時間範囲を算出し、これらの踏切非悪化時間範囲の共通範囲を抑止時間候補範囲とすればよい。
【0102】
図18は、列車の抑止による2つの踏切の鳴動時間の短縮の概要を説明する図である。
図18では、
図1と同様に、縦方向を線路に沿った位置とし、横方向を時刻として、p駅~q駅間の列車スジを破線で示している。p駅~q駅間には、2つの踏切(第1踏切であるX踏切、及び、第2踏切であるY踏切)が設けられている。そして、下り列車である列車A、及び、上り列車である列車B,Cそれぞれが、X,Y踏切それぞれを単独で通過した場合の鳴動予定期間を斜線ハッチングの横長の帯形状で示している。具体的には、列車A,B,Cそれぞれが、単独で第1踏切である踏切Xを通過すると仮定した場合の第1鳴動予定期間である鳴動予定期間Ax,Bx,Cxと、単独で第2踏切であるY踏切を通過すると仮定した場合の第2鳴動予定期間である鳴動予定期間Ay、By,Cyとを示している。この場合、抑止対象列車である列車Aのp駅の発車を抑止すると、その抑止時間だけ列車AのX,Y踏切それぞれについての鳴動予定期間Ax,Ayが繰り下がる。これによって、X,Y踏切それぞれにおける列車B,Cそれぞれの鳴動予定期間Bx,By,Cx,Cyとの重複期間が変化する。
【0103】
図19は、抑止対象列車の抑止時間と鳴動重複時間との関係の一例を示す図である。
図19では、横軸の抑止時間ΔTを共通として、上側に、第1踏切であるX踏切についての抑止対象列車である列車Aと列車B,Cそれぞれとの鳴動予定期間が重複する第1重複時間である鳴動重複時間の関係のグラフを示し、下側に、第2踏切であるY踏切についての抑止対象列車である列車Aと列車B,Cそれぞれとの鳴動予定期間が重複する第2重複時間である鳴動重複時間の関係のグラフを示している。
【0104】
上述の実施形態と同様に、現状(抑止前。抑止時間ΔT=0(ゼロ))での鳴動重複時間を閾値時間とし、この閾値時間以上であることを、鳴動重複時間が抑止前より減少しないことを示す非減少条件とする。そして、鳴動重複時間がこの閾値時間以上となる抑止時間の範囲を踏切非悪化時間範囲とする。つまり、第1踏切であるX踏切についての第1重複時間である鳴動重複時間が閾値時間Th4以上となる抑止時間の範囲を、非減少条件を満たす第1非悪化時間範囲である第1踏切非悪化時間範囲とし、第2踏切であるY踏切についての第2重複時間である鳴動重複時間が時間閾値Th5以上となる抑止時間の範囲を、非減少条件を満たす第2悪化時間範囲である第2踏切非悪化時間範囲とする。そして、第1非悪化時間範囲である第1踏切非悪化時間範囲と、第2非悪化時間範囲である第2踏切非悪化時間範囲と、の共通範囲を抑止時間候補範囲として当該範囲内で抑止時間を決定する。
【符号の説明】
【0105】
1…抑止時間算出装置
200…処理部
202…運行実績取得部
204…抑止対象列車選択部
206…鳴動予定期間予測部
208…踏切非悪化時間範囲算出部
210…力行予定期間予測部
212…ブレーキ予定期間予測部
214…電力非悪化時間範囲算出部
216…遅延非悪化時間範囲算出部
218…抑止時間決定部
300…記憶部
302…抑止時間算出プログラム
310…計画ダイヤデータ
312…実績ダイヤデータ
314…予測ダイヤデータ
316…抑止駅リスト
318…踏切管理情報
320…運転曲線情報
322…決定抑止情報