IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図1
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図2
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図3
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図4
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図5
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図6
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図7
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図8
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図9
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図10
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図11
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図12
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図13
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図14
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図15
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図16
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図17
  • 特開-位置判定装置、位置判定システム 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112120
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】位置判定装置、位置判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/02 20100101AFI20240813BHJP
   G01S 13/82 20060101ALI20240813BHJP
   G01S 13/76 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
G01S11/02
G01S13/82
G01S13/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016994
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寛尚
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AB15
5J070AC02
5J070AE20
5J070AF03
5J070AH34
5J070AK07
5J070AK40
5J070BC00
(57)【要約】
【課題】車両の周辺環境に起因してキーデバイスの位置を誤判定することを低減可能な位置判定装置、位置判定システムを提供する。
【解決手段】DK-ECUは、所定の組み合わせのアンカー同士に測距通信を実行させることにより、当該アンカー間の距離の測定値である測距値を取得する。DK-ECUは、アンカー間の測距値が、事前登録されているアンカー間の距離との差を計測誤差として算出する。DK-ECUは、計測誤差が所定の閾値以上である場合には、周辺環境は反射環境であると判定し、キーデバイスが対象エリアに存在すると判定するための閾値を、通常環境用の閾値から、反射環境用の閾値に変更する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対するキーデバイスの位置を判定する位置判定装置であって、
前記キーデバイスと無線通信を実施可能に構成されている複数の無線モジュール(2)と通信するための通信回路(6)と、
複数の前記無線モジュールのそれぞれから入力されるデータに基づいて前記キーデバイスの位置を判定する判定部(4)と、を備え、
前記判定部は、
複数の前記無線モジュールのうちの1つと前記キーデバイスとの無線通信である第1通信をもとに、前記無線モジュールから前記キーデバイスまでの距離に関連するデータである第1データを取得することと、
前記無線モジュール同士の無線通信である第2通信を、複数の前記無線モジュールの少なくとも2つに実施させることにより、前記無線モジュール同士の距離に関連するデータである第2データを取得することと、
前記第2データに基づいて前記車両の周辺環境を判定することと、
前記周辺環境についての判定結果と前記第1データに基づいて、前記キーデバイスが所定の対象エリアに存在するか否かを判定することと、を実施する位置判定装置。
【請求項2】
前記周辺環境を識別するための環境判定用閾値が保存されている環境判定用データ記憶部(M2)を備え、
前記判定部は、前記第2データに応じて定まる、前記無線モジュール同士の距離と前記環境判定用閾値とを比較し、その比較結果をもとに前記周辺環境の種別を判定するように構成されている、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項3】
前記周辺環境を識別するためのパラメータである環境判定用閾値が保存されている環境判定用データ記憶部(M2)と、
前記キーデバイスが前記対象エリアに存在するか否かを判定するための、前記周辺環境の種別毎のエリア判定用閾値が保存されているエリア判定用データ記憶部(M3)と、を備え、
前記判定部は、
前記第2データに基づいて特定される前記無線モジュール同士の距離値と、前記環境判定用閾値とを比較することによって前記周辺環境の種別を判定し、
前記判定部によって判定された前記周辺環境に対応づけられている前記エリア判定用閾値と、前記第1データに基づいて特定される、前記無線モジュールから前記キーデバイスまでの距離値とを比較することにより、前記キーデバイスが前記対象エリアにあるか否かを判定する、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項4】
前記無線モジュール同士の距離を示すデータと、前記周辺環境を識別するためのパラメータである環境判定用閾値が保存されている環境判定用データ記憶部(M2)を備え、
前記判定部は、前記第2データに基づいて特定される前記無線モジュール同士の距離値と、前記環境判定用データ記憶部に保存されている前記距離である事前登録値とに基づいて、前記周辺環境がマルチパス環境であるか否かを判定する請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項5】
前記判定部は、
複数の前記無線モジュールのそれぞれにおける前記第1通信をもとに、複数の前記無線モジュールのそれぞれから前記第1データを取得し、
前記無線モジュール毎の前記第1データに基づいて、複数の前記無線モジュールの中から他の前記無線モジュールと無線通信を実施させる前記無線モジュールの組み合わせを選択し、
選択した前記無線モジュールの組み合わせにおいて前記第2通信を実施させる請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記第2データに基づく前記周辺環境の判定を実施してから、少なくとも1つの前記無線モジュールに前記第1通信を実施させる、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項7】
前記車両が駐車されていることを示す信号を受信する受信部(7)を備え、
前記判定部は、
前記信号に基づき前記車両が駐車されているか否かを判定し、
前記車両が駐車されている場合に、少なくとも2つの前記無線モジュールに前記第2通信を実施させるように構成されている、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項8】
前記判定部は、
駐車された際の位置情報又は周辺監視センサの出力信号に基づいて、前記車両の隣に他車両が駐車可能な場所に駐車されたか否かを判定し、
前記車両の隣に他車両が駐車可能な場所に駐車されていると判定している場合には、所定の第1間隔で定期的に前記第2通信を実施させることにより、前記周辺環境の判定結果を定期更新する一方、
前記車両の隣に他車両が駐車可能な場所に駐車されていると判定していない場合には、定期的な前記第2通信を実施させないか、又は、前記第1間隔よりも長い第2間隔で前記第2通信を実施させる、請求項7に記載の位置判定装置。
【請求項9】
前記無線通信は、Bluetooth(登録商標)信号を用いて実施される請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項10】
ユーザによって携帯されるキーデバイスと無線通信を実施可能に構成されている複数の無線モジュール(2)と、
車両に対するキーデバイスの位置を判定する位置判定装置(1)と、を含む位置判定システムであって、
前記位置判定装置は、
複数の前記無線モジュールと通信するための通信回路(6)と、
複数の前記無線モジュールのそれぞれから入力されるデータに基づいて前記キーデバイスの位置を判定する判定部(4)と、を備え、
前記判定部は、
複数の前記無線モジュールのうちの1つと前記キーデバイスとの無線通信である第1通信をもとに、前記無線モジュールから前記キーデバイスまでの距離に関連するデータである第1データを取得することと、
前記無線モジュール同士の無線通信である第2通信を、複数の前記無線モジュールの少なくとも2つに実施させることにより、前記無線モジュール同士の距離に関連するデータである第2データを取得することと、
前記第2データに基づいて前記車両の周辺環境を判定することと、
前記周辺環境についての判定結果と前記第1データに基づいて、前記キーデバイスが所定の対象エリアに存在するか否かを判定することと、を実施し、
前記無線モジュールは、
前記第1通信を実行し、前記第1データを前記判定部に送信することと、
前記判定部からの指示に基づき前記第2通信を実行し、前記第1データを前記判定部に送信することと、を実施する位置判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キーデバイスの位置を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の車載通信機におけるキーデバイスからの信号の受信状況に基づいて、キーデバイスの位置検出を行うアクセスモジュールが開示されている。特許文献1に開示のアクセスモジュールは、キーデバイスと複数の周波数の連続波信号を送受信することよって複数の位相差情報を生成し、デバイス距離を測る。ここでのデバイス距離は、車載通信機からキーデバイスまでの距離である。周波数ごとの位相差情報は、往復飛行時間、換言すれば、車載通信機からキーデバイスまでの距離を示すデータとして用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-524644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波の飛行時間をもとにデバイス距離を測定する場合では、車両の周辺環境の状況によって、デバイス距離の値(以降、測距値とも記載)にばらつきが生じうる。例えばマルチパス環境では、反射波成分に起因して測距値は真値よりも大きい値となりうる。その結果、車両を基準として定まる所定の対象エリア内にキーデバイスが存在するにも関わらず、キーデバイスが対象エリア外に存在すると誤判定することが起こりうる。
【0005】
本開示は、上記の課題に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、車両の周辺環境に起因してキーデバイスの位置を誤判定することを低減可能な位置判定装置、位置判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される位置判定装置は、車両に対するキーデバイスの位置を判定する位置判定装置であって、キーデバイスと無線通信を実施可能に構成されている複数の無線モジュール(2)と通信するための通信回路(6)と、複数の無線モジュールのそれぞれから入力されるデータに基づいてキーデバイスの位置を判定する判定部(4)と、を備え、判定部は、複数の無線モジュールのうちの1つとキーデバイスとの無線通信である第1通信をもとに、無線モジュールからキーデバイスまでの距離に関連するデータである第1データを取得することと、無線モジュール同士の無線通信である第2通信を、複数の無線モジュールの少なくとも2つに実施させることにより、無線モジュール同士の距離に関連するデータである第2データを取得することと、第2データに基づいて車両の周辺環境を判定することと、周辺環境についての判定結果と第1データに基づいて、キーデバイスが所定の対象エリアに存在するか否かを判定することと、を実施する。
【0007】
上記位置判定装置が備える判定部は、単に、キーデバイスまでの距離を示す第1データだけを用いてキーデバイスが対象エリア内に存在するのか否かを判定するのではない。上記判定部は、無線モジュール同士の通信によって得られる、無線モジュール間の距離を示す第2データに基づいて車両の周辺環境を判定し、第1データに加えて当該周辺環境の判定結果をもとにキーデバイスが対象エリア内に存在するのか否かを判定する。
【0008】
この構成は、周辺環境が反射環境である場合には周辺環境が反射環境ではない場合に比べて第2データをもとに定まる距離の計測値が増大することから、第2データは周辺環境の判断材料として機能しうるといった知見に基づいて創出されたものである。上記構成によれば、周辺環境に応じた方法/条件にてキーデバイスが対象エリア内に存在するか否かが判定されることとなる。そのため、車両の周辺環境に起因してキーデバイスの位置を誤判定することを低減できる。
【0009】
また本開示に含まれる判定システムは、ユーザによって携帯されるキーデバイスと無線通信を実施可能に構成されている複数の無線モジュール(2)と、車両に対するキーデバイスの位置を判定する位置判定装置(1)と、を含む位置判定システムであって、位置判定装置は、複数の無線モジュールと通信するための通信回路(6)と、複数の無線モジュールのそれぞれから入力されるデータに基づいてキーデバイスの位置を判定する判定部(4)と、を備え、判定部は、複数の無線モジュールのうちの1つとキーデバイスとの無線通信である第1通信をもとに、無線モジュールからキーデバイスまでの距離に関連するデータである第1データを取得することと、無線モジュール同士の無線通信である第2通信を、複数の無線モジュールの少なくとも2つに実施させることにより、無線モジュール同士の距離に関連するデータである第2データを取得することと、第2データに基づいて車両の周辺環境を判定することと、周辺環境についての判定結果と第1データに基づいて、キーデバイスが所定の対象エリアに存在するか否かを判定することと、を実施し、無線モジュールは、第1通信を実行し、第1データを判定部に送信することと、判定部からの指示に基づき第2通信を実行し、第1データを判定部に送信することと、を実施する。
【0010】
上記位置判定システムは、上記の位置判定装置と同様の作用に同様の効果を奏する。
【0011】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両用電子キーシステムの全体像を示す図である。
図2】車載システムの構成を示すブロック図である。
図3】アンカーの搭載位置の一例を示す図である。
図4】アンカーの構成を示すブロック図である。
図5】測距通信の流れを示すシーケンス図である。
図6】ストレージが保持するデータを説明するための図である。
図7】アンカーペア毎の事前登録値の一例を示す図である。
図8】車両に設定されている対象エリアの一例を示す図である。
図9】駐車中のDK-ECUの作動を示すフローチャートである。
図10】アンカーの作動を説明するためのフローチャートである。
図11】環境判定にかかるDK-ECUの作動を説明するためのフローチャートである。
図12】右環境判定処理のフローチャートである。
図13】左環境判定処理のフローチャートである。
図14】後方環境判定処理のフローチャートである。
図15】測距通信を実施する順番の一例を示すタイムチャートである。
図16】測距通信を実施する順番の他の例を示すタイムチャートである。
図17】駐車時のDK-ECUの作動の一例を示すフローチャートである。
図18】アンカーの他の搭載パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。また、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。種々の補足や変形例などは、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については他の箇所に記載の説明を適用することができる。
【0014】
<全体構成について>
本実施形態の車両用電子キーシステムは、図1に示すように、キーデバイス9と車載システム10を備える。キーデバイス9は、ユーザによって携帯される、車両Hvの鍵として機能するデバイスである。車載システム10は車両Hvに搭載されたシステムである。車載システム10は、デジタルキーECU(以降、DK-ECUと記載する)1を含む。ECUは、Electronic Control Unitの略であって、電子制御装置を意味する。DKはデジタルキー(Digital Key)の略である。以下では車両Hvを自車両と記載することがある。
【0015】
DK-ECU1とキーデバイス9はいずれも近距離通信を実施可能に構成されている。ここでの近距離通信とは、実質的な通信可能距離が1mから30m、最大でも100m程度となる所定の近距離無線通信規格に準拠した通信を指す。ここでの近距離通信の規格としては、Bluetooth(登録商標)Low Energy(以降、Bluetooth LE)や、Wi-Fi(登録商標)等を採用することができる。近距離通信はSR(Short Range)通信と言い換えられても良い。
【0016】
本開示では、近距離通信のための通信モジュールを無線モジュールとも記載する。また、以下では、近距離通信がBluetooth LEに準拠した無線通信である場合を例にとって、各部の作動を説明する。なお、近距離通信では、2.4GHz帯に属する複数(例えば40個)のチャネルが使用されうる。無線モジュール間でやりとりされる無線信号には、送信元或いは宛先を示すコードが含まれうる。送信元や宛先は、デバイスIDなどで表現されうる。
【0017】
<キーデバイス9について>
キーデバイス9は、近距離通信機能を備えた、携帯可能な情報処理端末である。キーデバイス9としては、スマートフォンや、ウェアラブルデバイス等など、多様な通信端末を採用することができる。ウェアラブルデバイスは、ユーザの身体に装着されて使用されるデバイスであって、リストバンド型、腕時計型、指輪型、メガネ型、イヤホン型など、多様な形状のものを採用可能である。キーデバイス9は、ユーザデバイスや携帯デバイスなどと呼ぶこともできる。
【0018】
なお、キーデバイス9は、車両Hvの電子キーとしての専用デバイスであるスマートキーであってもよい。スマートキーは、車両Hvの購入時に、車両Hvとともにオーナに譲渡されるデバイスである。スマートキーは車両Hvの付属物の1つと解することができる。スマートキーは、扁平な直方体型や、扁平な楕円体型(いわゆるフォブタイプ)、カード型など、多様な形状を採用可能である。スマートキーは、車両用携帯機、キーフォブ、キーカード、アクセスキーなどと呼ばれうる。
【0019】
キーデバイス9は、少なくともデバイス制御部とデバイス内無線モジュールを備える。デバイス制御部は、キーデバイス9全体の動作を制御するモジュールである。デバイス制御部は、デバイスプロセッサ、メモリ、ストレージ、入出力回路等を備えた、コンピュータとして構成されていてよい。デバイスプロセッサは、種々の演算処理を行う構成であって、例えばCPU(Central Processing Unit)であってよい。メモリは、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の記憶媒体である。ストレージは、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。
【0020】
ストレージには、キーデバイス9のデバイスIDと、DK-ECU1との無線認証処理で使用される鍵コードが保存されている。鍵コードは暗号キーなどとも呼ばれうる。ストレージには、キーデバイス9を車両Hvの鍵として機能させるためのアプリケーションソフトウェアであるデジタルキーアプリがインストールされていてよい。デジタルキーアプリは、DK-ECU1とのセキュアな通信、及び、DK-ECU1からの問い合わせ/要求への応答を実施するためのアプリである。本開示ではアプリケーションソフトウェアを単にアプリと記載することがある。
【0021】
デバイス内無線モジュールは、キーデバイス9が備える無線モジュールである。デバイス内無線モジュールの構成及び機能は、後述するアンカー2と同様であってよい。なお、デバイス内無線モジュールは、データ通信のための変調信号の他に、後述する測距用の信号として、所定波形の連続波(CW:Continuous Wave)信号を送受信可能に構成されていてよい。CW信号の波形は、正弦波であってもよいし3角波であっても良い。デバイス内無線モジュールは、車載システム10が備えるアンカー2と同様の構成とすることができる。
【0022】
デバイス制御部は、キーデバイス9がDK-ECU1と通信接続していない場合、アドバタイズ信号を所定の送信間隔でデバイス内無線モジュールに送信させる。アドバタイズ信号は、自分自身の存在を他のデバイスに通知(すなわちアドバタイズ)するための無線信号である。デバイス制御部は、デバイス内無線モジュールがDK-ECU1からの接続要求を受信したことに基づいて、DK-ECU1との通信接続処理を実施する。デバイス制御部は、DK-ECU1との通信接続が確立したことに基づいて、近距離通信による認証処理(以降、無線認証処理)を実施してもよい。無線認証処理はチャレンジ-レスポンス方式によって実施されうる。デバイス制御部は、無線認証処理の一部として、DK-ECU1からチャレンジコードを受信した場合には、鍵コードを用いてレスポンスコードを生成し、DK-ECU1に返送してもよい。
【0023】
デバイス制御部は、DK-ECU1からの要求に基づき、測距通信を実行する。測距通信とは、通信を行っている装置同士の距離を測定するための無線通信である。キーデバイス9は、DK-ECU1からの要求に基づき、指定されたチャネルのCW信号をデバイス内無線モジュールに送信させる。測距通信の詳細については別途後述する。
【0024】
<車載システムについて>
車載システム10は、図2に示すように、DK-ECU1と、複数のアンカー2と、車内ネットワーク3と、アクションセンサ3Aと、周辺監視センサ3Bと、ロケータ3Cとを含む。DK-ECU1は複数のアンカー2のそれぞれと専用の通信ケーブルで接続されている。また、DK-ECU1は、車内ネットワーク3を介して、アクションセンサ3A、周辺監視センサ3B、及びロケータ3Cと接続されている。車内ネットワーク3は、車両Hv内に構築されている通信ネットワークである。車内ネットワーク3の規格としては、Controller Area Network(CAN:登録商標)や、Ethernet(登録商標)、FlexRay(登録商標)など、多様な規格を採用可能である。もちろん、ここに開示する装置同士の接続形態は一例であって適宜変更されてよい。
【0025】
DK-ECU1は、アンカー2との協働により、デバイス位置を判定するECUである。本開示でのデバイス位置とは、車両Hvに対するキーデバイス9の相対位置を意味する。DK-ECU1は、複数のアンカー2とキーデバイス9との通信状況に基づいてキーデバイス9が車両Hvに予め設定されている判定対象エリア内に存在するか否かを判定する。DK-ECU1が位置判定装置に相当する。キーデバイス9はユーザに対応するものであるため、デバイス位置を判定することはユーザの位置を判定することに相当する。よって、デバイス位置との記載はユーザ位置と読み替えられても良い。
【0026】
車両HvにおけるDK-ECU1の搭載位置は任意の箇所とされてよい。例えばDK-ECU1は、車両Hvの左Cピラーに取り付けられている。Cピラーは、車両Hvが備えるピラーのうち、前から3番目のピラーを指す。もちろん、DK-ECU1は、インストゥルメントパネル内、オーバーヘッドコンソール、右Cピラー、又は運転席の座席下に取り付けられていてもよい。
【0027】
アンカー2は、デバイス位置の判定に利用される無線モジュールである。アンカー2もまた、デバイス内無線モジュールと同様に、データ通信のための変調信号の他に、チャネルごとのCW信号を送受信可能に構成されている。アンカー2は、DK-ECU1からの指示に基づき、キーデバイス9又は他のアンカー2と測距通信を実施する。測距通信の相手は、DK-ECU1によって指定されうる。
【0028】
車載システム10は、アンカー2として図3に示すように、アンカー2A、2B、2C、2D、2P、2Qを備える。アンカー2Aは、車両Hvの右前コーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Aは、右前輪付近、フロントバンパの右端、右サイドミラーなどに配置されていて良い。なお、アンカー2の搭載位置の説明における或る部材の付近とは、当該部材から0.3m以内となる範囲と解されて良い。アンカー2Aは右前方アンカー又は第1アンカーなどと言い換えられてよい。アンカー2Bは、車両Hvの左前コーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Bは、左前輪付近、フロントバンパの左端、左サイドミラーなどに配置されていて良い。アンカー2Bは左前方アンカー又は第2アンカーなどと言い換えられてよい。
【0029】
アンカー2Cは、車両Hvの右後ろコーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Aは、右後輪付近、リアバンパの右端などに配置されていて良い。アンカー2Cは右後方アンカー又は第3アンカーなどと言い換えられてよい。アンカー2Dは、車両Hvの左後ろコーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Dは、左後輪付近、リアバンパの左端などに配置されていて良い。アンカー2Dは左後方アンカー又は第4アンカーなどと言い換えられてよい。
【0030】
アンカー2P、2Qは車内に配置されているアンカー2である。アンカー2Pは、車室内において、アンカー2Qよりも前方に配置されている。例えばアンカー2Pは、インストゥルメントパネルや、フロントガラスの上端部、センターコンソールなどに配置されている。アンカー2Pは、室内前方アンカー又は第5アンカーなどと言い換えられてよい。アンカー2Qは、車内において、アンカー2Pよりも後方に配置されたアンカー2である。例えばアンカー2Qは、後部座席の中央部や、後部座席の上方に位置する天井部、トランクルームなどに配置されている。アンカー2Qは、室内後方アンカー又は第6アンカーなどと言い換えられてよい。
【0031】
各アンカー2の構成や性能は実質的に同一であってよい。なお、アンカー2A~2Dは何れも車両Hvの外面部に取り付けられていることから、室外機あるいは外側アンカーと呼ぶことができる。アンカー2P~2Qは何れも車内に取り付けられていることから、室内機あるいは車内アンカーと呼ぶことができる。
【0032】
各アンカー2は、DK-ECU1の指示に従って動作する。各アンカー2は、DK-ECU1からの指示に基づいて起動し、測距通信を実施する。アンカー2が通信可能な状態は、活性状態(アクティブ状態)、又はウェイク状態などと言い換える事ができる。測距通信を実行したアンカー2は、自発的に又はDK-ECU1からの指示に基づき動作を停止する。動作が停止した状態は、消費電力を低減可能な状態であって、節電状態/節電モードと呼ぶことができる。節電状態は、電源がオフの状態であってもよいし、一部の機能が停止/無効化した状態であってもよい。節電状態は、スリープ状態、無効状態などと言い換え可能である。本開示におけるアンカー2の起動とは、節電状態から通信可能な状態に移行することを意味する。DK-ECU1及びアンカー2を含む構成が位置判定システムに相当する。アンカー2の詳細については後述する。
【0033】
アクションセンサ3Aは、車両Hvに対するユーザの操作(アクション)を検出するためのセンサである。アクションは、操作又は指示と言いかえることもできる。車両Hvに対するアクションとしては、施錠操作や開錠操作、スタートスイッチの押下、ブレーキペダルの踏み込みなどが挙げられる。アクションセンサ3Aには、外側ドアハンドルに設けられたドアセンサ、スタートスイッチ、ブレーキペダルセンサ、及び着座センサの一部又は全部が含まれてよい。DK-ECU1は、ドアセンサへのタッチ操作を開錠操作/施錠操作として検出しうる。DK-ECU1は、アクションセンサ3Aの出力信号に基づき、車両Hvに対するユーザのアクションを認識しうる。
【0034】
なお、ドアセンサは、車両Hvのドアを開錠及び施錠するためのユーザ操作を検出するためのセンサである。ドアセンサは、タッチセンサであってもよいし、プッシュ式のスイッチであってもよい。スタートスイッチはユーザが車両電源をオン/オフを切り替えるためのプッシュスイッチである。スタートスイッチはパワースイッチとも呼ばれうる。アクションセンサ3Aは、任意の要素であって省略されても良い。
【0035】
周辺監視センサ3Bは、車両Hvの周囲に存在する障害物を検出するためのセンサである。本開示における障害物とは、電波を反射しうる物体である。壁や柱、他車両などの立体物が、障害物に該当しうる。周辺監視センサ3Bは、カメラ、ソナー、ミリ波レーダ、又はLiDARであってよい。周辺監視センサ3Bは、車両周辺に障害物が存在するか否かを示すデータ、あるいは、障害物の位置を示すデータをDK-ECU1に出力する。なお、カメラ画像又は探査波の送受信結果に基づき車両周辺に障害物が存在するか否か/障害物の位置を特定する機能の一部又は全部は、DK-ECU1が備えていても良いし、他のECU(例えば物体認識ECU)が備えていても良い。周辺監視センサ3Bは、任意の要素であって省略されても良い。
【0036】
ロケータ3Cは、車両Hvの位置(以降、自車位置)を特定する装置である。ロケータ3Cは、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を備える。GNSS受信機は、複数の測位衛星から送信される測位信号をもとに現在位置座標を示すデータを生成する装置である。ロケータ3Cは、GNSS受信機が算出する現在位置座標の時系列データをもとに、自車位置を特定する。DK-ECU1は、車両電源がオンである間、ロケータ3Cから定期的に自車位置を示すデータを取得してよい。ロケータ3Cは任意の要素であって省略されても良い。
【0037】
なお、DK-ECU1には、上記以外にも多様な車載デバイスが直接的に又は間接的に接続されうる。例えばDK-ECU1は、ボディECUや、電源ECU、セルラーモジュール、NFCモジュールなどと、車内ネットワークを介して/専用ケーブルを用いて相互通信可能に接続されている。ボディECUは、ヘッドライトや、メータ表示、ドアロックモータなどを制御するECUである。電源ECUは、車両Hvに搭載された車両電源のオン/オフを制御するECUである。車両電源は、車両Hvが走行する際にオンとなる電源である。セルラーモジュールは、4Gや5Gといったセルラー通信を実施する通信モジュールである。NFCモジュールは、近接場通信(Near Field Communication)を実施するための通信モジュールである。NFCは、通信可能距離が数cmから10cm程度となる通信である。通信可能な距離の観点においてNFCと本開示の近距離は異なる(異質な)通信方式と解されて良い。
【0038】
<アンカーの構成について>
ここではアンカー2の構成及び機能について説明する。アンカー2は、図4に示すようにアンテナ21、RFコア22、及び、無線コントローラ23を備える。
【0039】
アンテナ21は、近距離通信に用いられる周波数帯、すなわち2.4GHz帯の電波を送受信するためのアンテナエレメントである。2.4GHz帯とは、近距離通信に使用される複数のチャネル(0~39Ch)を包含する周波数帯と解されてよい。アンテナ21はRFコア22と電気的に接続されている。チャネルは周波数と言い換えられてよい。近距離通信で使用可能な複数のチャネルのうち、実際の通信に使用されるチャネル(換言すれば使用周波数/使用チャネル)は、周波数ホッピングにより、あるいは、無線コントローラ23からの指示により、経時的に切り替わる。
【0040】
RFコア22は、無線信号の送受信にかかる信号処理を行う回路モジュールである。RFコア22は変調回路や復調回路、周波数変換回路、増幅回路、ローカル発振器などを含みうる。また、RFコア22は、アンテナ21に向けて信号を出力したり、アンテナ21からの信号を受信したりするための入出力端子を備える。RFコア22は、無線コントローラと相互通信可能に接続されている。RFコア22は、アンテナ21で受信した信号を復調し、無線コントローラ23に提供する。また、RFコア22は、無線コントローラ23から入力された送信データを変調し、アンテナ21から電波として放射させる。RFコア22はICチップ(つまり送受信IC)として実現されていても良い。無線コントローラ23が通信コントローラに相当する。
【0041】
RFコア22は、データ通信用の変調信号の他、測距用の機能として、チャネルごとのCW信号を送受信可能に構成されている。また、RFコア22は、受信強度検出部E1及び受信位相検出部E2を備える。受信強度検出部E1は、受信した信号の受信強度を計測する機能部である。受信強度検出部E1は、検出した受信強度を示すデータを無線コントローラ23に出力する。受信強度の測定値そのものは、RSSI(Received Signal Strength Indicator/Indication)とも呼ばれうる
【0042】
受信位相検出部E2は、CW信号を受信した際に、ローカル発振器の出力信号に対する受信信号の位相角である受信位相を検出する回路である。受信位相は、受信信号のI(In-Phase)成分に対するQ(Quadrature-Phase)成分の比を入力値とするアークタンジェントの出力値であってよい。受信位相は、ベースバンドまで周波数を落としたIQ信号に基づいて特定されても良い。検出された受信位相情報は、通信相手との距離(例えばデバイス距離)の算出に使用される。デバイス距離は、アンカー2からキーデバイス9まで距離である。
【0043】
RFコア22は、CW信号の受信位相の検出値を、使用周波数を示す情報(例えばチャネル番号)と対応付けて無線コントローラ23に出力する。RFコア22は、使用周波数が切り替わるたびに、測距処理の一環として、CW信号の送信及び受信位相の検出を行う。つまり、無線コントローラ23には、周波数ごとの受信位相を示すデータが提供される。
【0044】
無線コントローラ23は、RFコア22を制御するマイクロコンピュータである。無線コントローラ23は、プロセッサ24、メモリ25、ストレージ26及び入出力回路27を含む。無線コントローラ23は、DK-ECU1とのデータの受け渡しを制御する役割を担う。具体的には、無線コントローラ23は、RFコア22から入力された受信データをDK-ECU1に提供する。また、無線コントローラ23は、DK-ECU1から入力された送信用のデータをRFコア22に出力する。
【0045】
無線コントローラ23は、RFコア22から、周波数ごとのキーデバイス9/他のアンカー2からの信号の受信強度を示すデータを取得する。受信信号の送信元は、受信信号に含まれるデバイスIDによって識別されて良い。無線コントローラ23は、送信元毎及びチャネルごとの受信強度を示すデータをDK-ECU1に送信する。
【0046】
また、無線コントローラ23は、DK-ECU1からの指示に基づき、キーデバイス9/他のアンカー2と測距通信を行い、RFコア22からチャネルごとの受信位相を取得する。そして、チャネルごとの受信位相を示すデータをもとに通信相手との距離を算出し、DK-ECU1に送信する。
【0047】
<測距通信の概要>
図5は、1ウェイ方式による測距通信の流れの一例を示すシーケンス図である。1ウェイ方式は、キーデバイス9から送信される周波数ごとのCW信号の初期位相が一定であることを前提として、キーデバイス9から送信されたCW信号の受信位相をそのまま距離の算出材料として採用する方式である。図5に例示する測距通信は、ステップS101~S113を含む。1ウェイ方式による測距通信は、測距の実施条件等を調整するための準備フェイズと、実際にCW信号を送受信することで受信位相を収集する収集フェイズと、を含みうる。なお、図5の説明におけるアンカー2は、車載システム10が備える任意の無線モジュール(例えばアンカー2A)であってよい。図5の説明におけるアンカー2は、無線モジュール/ゲートウェイモジュール5に読み替えられてよい。
【0048】
なお、測距通信を行う2つの無線モジュールは、役割の観点においてイニシエータとリフレクタに分けられる。イニシエータは、測距通信の開始を要求する側の無線モジュールである。リフレクタは、イニシエータからのリクエストに基づいてCW信号を送信する側の無線モジュールである。リフレクタはレスポンダと呼ぶこともできる。以下ではアンカー2がイニシエータとして作動する場合について説明する。もちろん、イニシエータはキーデバイス9であってもよい。いずれの無線モジュールがイニシエータ/リフレクタとして作動するかは、DK-ECU1によって制御されてよい。
【0049】
ステップS101は、イニシエータとしてのアンカー2が、キーデバイス9に向けて測距開始リクエストを送信するステップである。測距開始リクエストは、測距通信を開始することを要求する無線信号である。キーデバイス9は、測距開始リクエストを受信したことに基づいてアンカー2に向けて肯定的な応答信号(いわゆるAck)を返送する(S102)。
【0050】
アンカー2は、キーデバイス9から測距開始リクエストに対するAckを受信したことに基づいて、測距設定通知信号を送信する(S103)。測距設定通知信号は、測距のための通信の実施にかかる諸元を示す無線信号である。測距通信の実施にかかる諸元には、初期位相の設定値、ホッピング間隔、チャネル遷移量、及び初期周波数の一部又は全部が含まれて良い。初期位相の設定値は、基本的には0に設定されてよい。ホッピング間隔は、周波数を切り替える時間、換言すれば、1つの周波数を維持する時間を表す。ホッピング間隔は、コネクションインターバル(Connection Interval)とも呼ばれうる。チャネル遷移量は、チャネル切り替え時におけるチャネルの変化量を示すパラメータである。チャネル遷移量は、ホップインクリメント(hopIncrement)とも呼ばれうる。初期周波数(換言すれば初期チャネル)は、一連の測距通信において最初に送信するCW信号の周波数である。初期周波数はランダムに決定されてよい。周波数の情報はチャネル番号で表現されうる。図5では初期チャネルが「i」である場合を示している。
【0051】
キーデバイス9は、測距設定通知信号を受信したことに基づいて、アンカー2に向けてAckを返送する(S104)。アンカー2は、キーデバイス9からのAckを受信したことに基づいてCWリクエストを送信し、初期周波数の信号を受信可能な状態に遷移する(S105)。CWリクエストは、初期周波数でのCW信号の送信を要求する無線信号である。無線信号を受信可能な状態は、受信状態、スキャン状態と言い換えることもできる。
【0052】
キーデバイス9は、CWリクエストを受信したことに反応して、初期周波数でのCW信号の送信を開始する(S106)。CW信号の送信は、開始から一定時間経過したタイミングで停止されうる。アンカー2は、キーデバイス9からのCW信号を受信すると、受信位相を検出し、当該受信位相データを周波数情報(チャネル番号)とともにメモリ25に保存する(S107)。受信位相は、キーデバイス9が送信したCW信号と、アンカー2が受信したCW信号の位相差である。受信位相は、送受信位相差、単周波位相差、或いは1次位相差と呼ぶことができる。
【0053】
アンカー2及びキーデバイス9は、ステップS103にて事前に合意しているホッピング間隔で自動的に使用周波数を切り替える(S108)。変更後の周波数は、変更前の周波数と事前合意しているチャネル遷移量とから一意に定まりうる。変更後の使用チャネルは、変更前のチャネル番号にホップインクリメントの設定値を加算した番号のチャネルとなりうる。図5のステップS108では使用チャネルを「i」から「j」に切り替える場合を示している。本開示では、1つの周波数における位相情報を収集するための一連の通信シーケンスを、位相計測通信と称する。ステップS105からS107までの一連の処理が位相計測通信に相当する。なお、イニシエータによるCWリクエストの送信は任意の要素であって省略されても良い。リフレクタとしてのキーデバイス9は、事前に決定されたスケジュールで自動的にCW信号を送信するように設定されていても良い。
【0054】
アンカー2とキーデバイス9は使用チャネルの切り替えが完了すると、新たな使用チャネルにおいて位相計測通信を実施する。すなわち、アンカー2は、使用チャネルを切り替えると、新たな使用チャネルの信号を受信可能な状態に遷移する。キーデバイス9は、新たな使用チャネル「j」でのCW信号を送信する。アンカー2は、切り替え後の周波数における受信位相を観測する。
【0055】
測距通信においてアンカー2とキーデバイス9は、データ通信に使用可能な全チャネルでの受信位相を収集するまで、チャネルの切り替えと位相計測通信のセットを繰り返す。なお、アンカー2及びキーデバイス9は、予め決められている必要数分のチャネルごとの受信位相を収集できたタイミングで、繰り返し処理を終了しても良い。ここでの必要数は、データチャネルの数と同じであってもよいし、それよりも小さくともよい。受信位相を集めるチャネルの数が多いほど後述する測距精度は高まりうる。一方で、測距通信に要する時間や消費電力が増大しうる。必要数は、3や4、5、8、10、16などであってもよい。
【0056】
アンカー2は、必要数のチャネルごとの受信位相を収集できたタイミングでクローズ信号をキーデバイス9に向けて送信する(S110)。クローズ信号は、測距通信を終了することを通知するためのデータ信号である。キーデバイス9はクローズ信号を受信したことに基づいて、通常のデータ通信モードに移行してよい。通常のデータ通信モードは、音声データなど所定のデータを送受信可能な状態に相当する。クローズ信号の送受信は任意の要素であって、省略されても良い。キーデバイス9は、クローズ信号を受信したことに基づいてアンカー2にAckを返しても良い(S111)。
【0057】
イニシエータの無線コントローラ23は、チャネルごとの受信位相の収集が完了すると、チャネルごとの受信位相に基づいて、位相変化係数(α)を算出する(S112)。位相変化係数は、周波数の変化に応じて受信位相が変化する度合いを示すパラメータである。位相変化係数は、位相変化度、位相シフト量、或いは、位相‐周波数間の相関係数と呼ぶこともできる。
【0058】
位相変化係数は、任意の2つの周波数である第1周波数と第2周波数のそれぞれで観測された受信位相をもとに算出される。仮に第1周波数と第2周波数の差である差分周波数をΔf、第1周波数及び第2周波数のそれぞれで観測されている受信位相の差である周波数間位相差をΔφ、位相変化係数をαとすると、α=Δφ/Δfの関係を有する。なお、周波数間位相差(Δφ)は、異なる2つの周波数で観測される受信位相の差である。周波数間位相差は、2周波位相差あるいは2次位相差と呼ぶことができる。周波数間位相差は、使用周波数の変化による位相角の変位量に対応する。
【0059】
例えば無線コントローラ23は、周波数ごとの受信位相に基づいて周波数と受信位相の関係を示す回帰直線を算出し、当該回帰直線の傾きを位相変化係数として採用する。回帰直線の傾きが、周波数の変位量に対する受信位相の変化量を示すためである。回帰直線及びその傾きは、最小二乗法など、多様な方法で算出されてよい。当該構成によれば、複数の周波数の組み合わせごとの周波数間位相差及び差分周波数に基づいた、位相変化係数が算出可能となる。
【0060】
そして、無線コントローラ23は、位相差変化係数を用いてキーデバイス9と測距通信を行ったアンカー2を基準とするデバイス距離(D)を算出する(S113)。デバイス距離をDとすると、差分周波数Δf、周波数間位相差(Δφ)の間には、D∝C・Δφ/(2π・Δf)=C・α/2πの関係がある。無線コントローラ23は当該関係式をもとに、デバイス距離を算出してよい。例えばDK-ECU1は、D=k・C・α/2πを用いてデバイス距離を算出する。
【0061】
式中のパラメータ「C」は電波の伝搬速度(3×10^8m/sec)を表す。パラメータ「k」は、設計値であって1.0や0.5に設定される。kの値は、片道分距離として算出するか、往復距離として算出するかに応じた値が設定されて良い。無線コントローラ23は、デバイス距離の算出が完了すると、測距結果データをDK-ECU1に送信する。測距結果データは、デバイス距離を示すデータセットであってよい。
【0062】
本実施形態では無線コントローラ23がデバイス距離を算出するが、機能配置はこれに限定されない。イニシエータの無線コントローラ23は、測距結果データとしてチャネルごとの位相データをDK-ECU1に送信し、DK-ECU1が受信したチャネル毎の位相データをもとに位相変化係数及びデバイス距離を算出しても良い。また無線コントローラ23が測距結果データとして位相変化係数をDK-ECU1に送信し、DK-ECU1が位相変化係数に基づく距離算出を実施しても良い。チャネルごとの受信位相、位相変化係数、又はデバイス距離を示すデータが第1データに相当する。
【0063】
以上では、アンカー2とキーデバイス9との間で行われる測距通信について説明した。アンカー2とキーデバイス9との間で行われる測距通信が第1通信に相当する。なお、各アンカー2は、DK-ECU1以外のECUの指示に基づいてキーデバイス9との測距通信(つまり第1通信)を実施するように構成されていても良い。各アンカー2は、キーデバイス9からの要求に基づいて第1通信を実施するように構成されていても良い。また、各アンカー2は、内部のタイマーを用いて所定間隔で起動して第1通信を実施しても良い。
【0064】
また、アンカー2同士の測距通信も上記と同様の手順で実施されてよい。便宜上、アンカー2同士の測距通信をアンカー間測距通信と称する。アンカー間測距通信が第2通信に相当する。測距通信を行うアンカー2の組み合わせ及びその役割分担(イニシエータ/リフレクタ)は、DK-ECU1によって決定されて良い。本開示では測距通信によって算出される無線モジュール間の距離の値を、実際の距離との区別とのため、測距値とも記載する。デバイス距離との記載は、測距値と読み替えられてよい。なお、距離の算出材料としての受信位相は、1ウェイ方式の他、パッシブ2ウェイ方式、アクティブ2ウェイ方式などによって取得可能である。パッシブ2ウェイ方式やアクティブ2ウェイ方式に関しては別途補足として後述する。
【0065】
<DK-ECUの構成について>
DK-ECU1は、図2に示すようにメインコントローラ4、ゲートウェイモジュール5、アンカー接続回路6、及びLANインターフェース7を備える。メインコントローラ4は、デバイス位置の判定にかかる種々の処理を実行するコンピュータである。メインコントローラ4は、メインプロセッサ41、メモリ42、及びストレージ43を備える。メインプロセッサ41は、CPUである。メインプロセッサ41はECUプロセッサなどと呼ぶことができる。メモリ42は、揮発性の記憶媒体(例えばRAM)である。
【0066】
ストレージ43は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ43は、図6に示すようにプログラム記憶部M1と、環境判定用データ記憶部M2と、エリア判定用データ記憶部M3とを含む。プログラム記憶部M1は、位置判定プログラムが保存されている記憶領域である。位置判定プログラムは、コンピュータをDK-ECU1として機能させるためのインストラクションを含むプログラムである。位置判定プログラムは、メインプロセッサ41によって実行される。メインプロセッサ41が位置判定プログラムを実行することは、当該位置判定プログラムに対応する位置判定方法が実行されることに相当する。
【0067】
環境判定用データ記憶部M2は、環境判定用データが保存されている記憶領域である。環境判定用データは、所定の組み合わせにおけるアンカー間測距通信の結果に基づいてメインプロセッサ41が車両Hvの周辺環境を判定するためのデータである。本実施形態において周辺環境の種別は、反射環境と見通し環境とに区分される。反射環境は、車両Hvから所定距離(例えば2.5m/5.0m)以内に壁などの障害物がある環境を指す。反射環境は、アンカー2からするとキーデバイス9からの信号として、直接波だけでなく、一定値以上の強度を有する反射波を受信しうる環境を指す。反射環境は、マルチパス環境、又は、NLOS(Non Line Of Sight)環境と言い換えられても良い。
【0068】
見通し環境とは、反射環境ではない環境、つまり、車両Hvから所定距離以内に壁などの障害物がない環境を指す。見通し環境は、通常環境、又は、LOS(Line Of Sight)環境と言い換えられても良い。なお、メインコントローラ4は、周辺環境を車両Hvの右環境、左環境、及び後方環境の3つに分けて判定しても良い。本開示における右環境とは車室外において車両Hvの右側の環境を指す。また、左環境とは車室外において車両Hvの左側の環境を指す。後方環境とは、車室外において車両Hvの後方の環境を指す。
【0069】
環境判定用データは、アンカー間の距離の事前登録値と、環境判定用閾値を含む。事前登録値は、見通し環境において実際に測距通信を行うことによって(つまり試験によって)計測された値であってよい。また、事前登録値は、設計値であっても良い。環境判定用データは、アンカー2の組み合わせ毎の事前登録値を含む。具体的には、環境判定用データは、図7に示すように、第1~第7ペアのそれぞれにおける事前登録値を含む。
【0070】
なお、第1ペアはアンカー2A、2Cの組み合わせである。第2ペアはアンカー2B、2Dの組み合わせである。第3ペアはアンカー2C、2Dの組み合わせである。第4ペアはアンカー2A、2Pの組み合わせである。第5ペアはアンカー2B、2Pの組み合わせである。第6ペアはアンカー2C、2Qの組み合わせである。第7ペアはアンカー2D、2Qの組み合わせである。なお、図7に示す値は一例であって、適宜変更可能である。ペア毎の事前登録値は、各アンカー2の搭載位置や姿勢に応じて変更されうる。アンカー2の組み合わせのことを本開示ではアンカーペアとも記載する。
【0071】
環境判定用閾値は、アンカー間の測距値と事前登録値との差である計測誤差に基づいて、周辺環境が反射環境か見通し環境かを識別するためのパラメータである。すなわち、環境判定用閾値は計測誤差に対する閾値である。当該環境判定用閾値は、反射環境で生じる計測誤差の範囲と、通常環境で生じうる計測誤差の範囲に基づいて決定されて良い。他の構成として環境判定用閾値は、アンカー間の測距値そのものに対する閾値であってもよい。例えば、環境判定用閾値は、事前登録値に、見通し環境で生じうる計測誤差の想定値を加えた値に設定されていても良い。
【0072】
エリア判定用データ記憶部M3は、エリア判定用データが保存されている記憶領域である。エリア判定用データは、キーデバイス9と各アンカー2との測距通信によって算出されるデバイス距離に基づいてデバイス位置をメインプロセッサ41が判定するためのデータである。本実施形態の車両Hvには、判定対象とするエリアとして、車内、近傍エリア、及びその他エリアが設定されている。
【0073】
近傍エリアは、車外において車両Hvから所定の作動距離以内となる領域を指す。作動距離は例えば1.0m、1.5m、2.0mなどに設定される。近傍エリアは、自動的な車両Hvの開錠/施錠を実施可能なエリアと解することができる。近傍エリアは、パッシブエントリエリアと言い換えられても良い。近傍エリアは、図8に示すように右エリアRA、左エリアLA、後方エリアBAに区分されている。つまり、メインプロセッサ41は、キーデバイス9が車内、右エリアRA、左エリアLA、後方エリアBA、及びその他のいずれのエリアに存在するかを判定するように構成されている。
【0074】
右エリアRAは、車外のうち、右ドアハンドル又は右Bピラーから作動距離以内となる範囲であってよい。左エリアLAは、車外のうち、左ドアハンドル又は左Bピラーから作動距離以内となる範囲であってよい。後方エリアBAは、トランクドアハンドル又はリアバンパの中央部から作動距離以内となる範囲であってよい。メインコントローラ4は後述するように、対象エリアに対応するアンカー2を用いて計測されるデバイス距離が所定値未満であることに基づいて、そのエリア内にキーデバイス9が存在すると判定する。
【0075】
エリア判定用データは、デバイス位置を判定するためのデバイス距離に対応する閾値として、通常閾値と反射環境用閾値とを含む。通常閾値は、周辺環境が見通し環境であると判定されている場合に適用されるデバイス距離に対する閾値である。また、反射環境用閾値は、周辺環境が反射環境であると判定されている場合に適用されるデバイス距離に対する閾値である。反射環境用閾値は、通常閾値よりも所定量大きい値に設定されている。仮に通常閾値が1.5mである場合、反射環境用閾値は1.8mなどに設定されうる。
【0076】
その他、ストレージ43には、キーデバイス9のデバイスID及び各アンカー2の車両Hvにおける搭載位置を示すデータが格納されていてよい。なお、環境判定用データは、必ずしもDK-ECU1にローカル保存されている必要はない。メインコントローラ4は、環境判定用データをサーバからダウンロードして利用するように構成されていても良い。環境判定用データの記憶媒体は、メモリ42やキャッシュメモリであってもよい。エリア判定用データの記憶媒体も、メモリ42又はキャッシュメモリなどであってよい。また、環境判定用データ及びエリア判定用データは、位置判定プログラムに組み込まれていても良い。
【0077】
ゲートウェイモジュール5は、DK-ECU1に内蔵された無線モジュールである。ゲートウェイモジュール5は、デバイス内無線モジュールと同様に、データ通信のための変調信号の他に、チャネルごとのCW信号を送受信可能に構成されている。ゲートウェイモジュール5には、走行用電源がオフに設定されている間も、車載バッテリの電力が供給される。ゲートウェイモジュール5は、車載バッテリから供給される電力を用いて、車両Hvが駐車されている間も常にあるいは間欠的に待ち受け状態となる。
【0078】
ゲートウェイモジュール5は、定期的にスキャンを行い、キーデバイス9との接続を試行する。なお、メインコントローラ4は、ゲートウェイモジュール5がキーデバイス9と通信接続したことに基づいて起動し、後述する位置判定処理を実行するように構成されていても良い。メインコントローラ4は、ゲートウェイモジュール5がキーデバイス9からの信号を受信していない場合には、動作を停止した状態を維持するように構成されていても良い。
【0079】
アンカー接続回路6は、メインコントローラ4が複数のアンカー2のそれぞれと通信するための回路モジュールである。アンカー接続回路6が通信回路に相当する。アンカー接続回路6は、アンカー2との通信方式に準拠したPHYチップ及びケーブルコネクタなどを含みうる。アンカー接続回路6は、アンカー2から入力される信号を、メインコントローラ4が受信可能な形式に変換して、メインコントローラ4に出力する。また、メインコントローラ4から入力されたデータに対して所定の信号処理を施してアンカー2に向けて出力する。
【0080】
LANインターフェース7は、メインコントローラ4が車内ネットワーク3を介しての他の車載装置と通信するための回路モジュールである。LANインターフェース7は、車内ネットワーク3の通信規格に準拠したPHYチップ及びケーブルコネクタなどを含みうる。LANインターフェース7は、CANやイーサネット(登録商標)、UARTなどのインターフェースにおいて、論理信号を実際の電気的な信号に変換するチップセットなどを含んでいても良い。LANインターフェース7が受信部に相当する。
【0081】
<メインコントローラの機能>
メインコントローラ4は、ゲートウェイモジュール5及び複数のアンカー2の動作を個別に制御する。メインコントローラ4は、所定のイベントの発生、換言すれば所定のユーザアクションを検出した場合に、巡回測距処理を実行する。巡回測距処理は、複数のアンカー2に所定順にキーデバイス9と測距通信を実施させる処理である。巡回測距処理は、ゲートウェイモジュール5とキーデバイス9との測距通信を含んでいても良いし含まなくとも良い。イベントの発生は、ボディECUが検知しても良いし、各種センサやECUから入力される信号に基づいてメインコントローラ4が検知してもよい。巡回測距処理を行うイベントは、ゲートウェイモジュール5とキーデバイス9との通信接続や、ユーザアクションの検出などであってよい。
【0082】
また、メインコントローラ4は、環境判定処理として、複数のアンカーペアに所定の順番で測距通信を実施させてもよい。例えばメインコントローラ4は、車両Hvが駐車されたことをトリガとして、環境判定処理を実行し、その判定結果を保持するように構成されていても良い。
【0083】
メインコントローラ4は、巡回測距処理の結果として得られるアンカー2ごとのデバイス距離データに基づいてデバイス位置を判定する。デバイス位置は、前述の通り、車内、右エリアRA、左エリアLA、後方エリアBA、その他エリアといった、車両Hvに事前に設定されている複数のエリア/ゾーンで表現されうる。本開示では判定対象とするエリアを対象エリアとも記載する。
【0084】
各対象エリアは、各アンカー2で観測されたデバイス距離(換言すれば測距値)の組み合わせによって形成される。例えばメインコントローラ4は、アンカー2A、2Cでの測距値が所定の閾値(例えば2.0m)未満であり、アンカー2P、2Qの測距値が所定値以上、所定値未満であることに基づいて、デバイス位置は右エリアRAであると判定してよい。メインコントローラ4は、アンカー2B、2D、2P、2Qのそれぞれで観測された測距値が所定範囲に収まっていることに基づいて、デバイス位置は左エリアLAであると判定してよい。後方エリアBAの判定に関しても、複数のアンカー2で観測された測距値の組み合わせが、後方エリアBA用の判定条件を満たしていることに基づいてキーデバイス9が後方エリアBAに存在するか否かを判定して良い。
【0085】
前述のエリア判定用データは、キーデバイス9が対象エリア内にいるか否かを切り分けるためのアンカー2毎の測距値に対する条件(上限/下限としての閾値)を含むデータである。1つのエリアを形成するアンカー2毎の測距値に対する閾値は、複数パターン登録されていて良い。なお、或るアンカー2で観測された測距値とは、当該アンカー2で観測された位相データをもとに算出されたデバイス距離を意味する。デバイス位置判定における或るアンカー2での測距値との記載は、当該アンカー2を基準とするデバイス距離と解されてよい。
【0086】
なお、その他エリアは、車両Hvから所定の準備距離以内となる範囲である準備エリアと、それよりも遠方である無効エリアとに区分されていても良い。準備距離は例えば6mや8m、10mなどに設定されていて良い。準備エリアは、右準備エリア、左準備エリア、後方準備エリアに細分化されていてもよい。車両Hvには対象エリアとして、前方エリアと前方準備エリアとが設定されていても良い。前方エリアは、車両Hvの前端から作動距離未満となるエリアである。前方準備エリアは、車両Hvの前端からの距離が作動距離以上、準備距離未満となるエリアであってよい。
【0087】
また、メインコントローラ4は、巡回測距処理の結果に基づいて簡易的にデバイス存在方向を判定してもよい。デバイス存在方向とは、車両Hv/車内アンカーからみてキーデバイス9が存在している方向である。デバイス存在方向は、右、左、後方、前方などで表現されうる。メインコントローラ4は、デバイス位置の判定結果を示すデータであるデバイス位置データを、ボディECU等、所定のECUに送信してよい。
【0088】
<DK-ECUの作動例>
図9は、駐車されている車両Hvにユーザが接近するシーンにおけるDK-ECU1のより具体的な作動例を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートは、ゲートウェイモジュール5がキーデバイス9と通信接続してから、メインコントローラ4がデバイス位置を初回判定するまでの流れを示している。便宜上、キーデバイス9との通信接続から初回位置判定にかかる一連の処理を、ユーザ接近反応処理と称する。図9に示すようにユーザ接近反応処理は、ステップS201~S210を含みうる。各ステップは図9に示す矢印に沿って順に実行されてよい。
【0089】
なお、ステップS201を実施する時点において、キーデバイス9は車両Hvから十分に離れており、キーデバイス9とゲートウェイモジュール5は未接続である。ユーザ接近反応処理は、車両Hvが駐車されている間、あるいは、キーデバイス9とゲートウェイモジュール5とが通信接続していない間、定期的に実行されて良い。
【0090】
ステップS201は、ゲートウェイモジュール5がスキャンを行い、キーデバイス9を探索するステップである。ゲートウェイモジュール5は、プログラムに従って自動的にスキャンを実行しうる。なお、ゲートウェイモジュール5はメインコントローラ4からの指示に基づきスキャンを実行しても良い。また、スキャンは開錠操作など、所定のユーザ操作をトリガとして実行されても良い。
【0091】
ステップS202は、ステップS201のスキャン結果としてキーデバイス9を発見したか否かをゲートウェイモジュール5の無線コントローラが判定するステップである。ステップS202は、キーデバイス9からのアドバタイズを受信したか否かを判定するステップと解されても良い。キーデバイス9を発見した場合、DK-ECU1はステップS203を実行する。一方、キーデバイス9を発見しなかった場合には、本フローは終了され、所定のスキャンインターバルが経過したタイミングで再度ステップS201から本シーケンスが実行される。
【0092】
ステップS203は、ゲートウェイモジュール5がキーデバイス9と通信接続を確立するステップである。ステップS204は、メインコントローラ4が各アンカー2と連携して、巡回測距処理を実行するステップである。つまり、ステップS204は複数のアンカー2が順にキーデバイス9と測距通信を実施する。
【0093】
ステップS205は、メインコントローラ4が各アンカー2から、キーデバイス9についての測距値(つまりデバイス距離)を取得するステップである。ステップS206は、ステップS205で取得したアンカー2ごとの測距値に基づいて、デバイス位置の簡易判定を行う。簡易判定は、デバイス位置を仮判定する処理であってよい。簡易判定は、デバイス存在方向を判定する処理であっても良い。例えば測距値が最小であるアンカー2の位置、測距値が2番目に小さいアンカー2の組み合わせに基づいてデバイス方向が前後左右のどちらに該当するかを判定しても良い。例えば測距値が最小であるアンカー2と2番目に小さいアンカーの組み合わせが、アンカー2Aと2C、2Aと2P、あるいは2Cと2Qである場合には、キーデバイス9は車両Hvの右に存在すると判定しても良い。その他の方向に関しても、アンカー2ごとの測距値の大小関係から判定されて良い。
【0094】
もちろん、ステップS206は、エリア判定用データに含まれる各種閾値を用いてデバイス位置を判定するステップであってもよい。また、ステップS206は、環境判定においてアンカー間測距通信を実施させるペア数を1つ又は2つ程度まで削減するためのステップである。後述するステップS207にて、3以上のペアにアンカー間測距通信を実施させる構成においては、ステップS206は省略されて良い。
【0095】
ステップS207は、所定のアンカーペアに、アンカー間測距通信を実施させるステップである。例えばステップS206にてキーデバイス9が車両Hvの右側に存在すると判定されている場合には、第1ペアにアンカー間測距通信を実施させる。またステップS206にてキーデバイス9が車両Hvの左側に存在すると判定されている場合には、第2ペアにアンカー間測距通信を実施させる。ステップS206にてキーデバイス9が車両Hvの後方に存在すると判定されている場合には、第3ペアにアンカー間測距通信を実施させる。なお、ステップS206が実施していない場合や、ステップS206の結果としてキーデバイス9が存在する方向/位置が特定できなかった場合、メインコントローラ4はステップS207にて第1~第3ペアのそれぞれに順番に測距通信を実施させても良い。
【0096】
ステップS208は、ステップS207でアンカー間測距通信を実施したイニシエータとしてのアンカー2から、アンカー間の距離データ(換言すれば測距値)を取得するステップである。
【0097】
ステップS209は、ステップS208で取得したアンカー間の距離データに基づいて周辺環境を判定するステップである。周辺環境の判定にかかるメインコントローラ4の詳細については、図11を用いて後述する。
【0098】
ステップS210は、周辺環境に対する判定結果に応じたエリア判定用データを用いてデバイス位置を判定するステップである。例えば車両右側は反射環境と判定されている場合には、右エリアRAの存否判定には反射環境用閾値を用いる。ここでの存否判定とは、対象エリア内にキーデバイス9が存在するか否かの判定を指す。存否判定は内外判定と言い換えられてもよい。
【0099】
反射環境用閾値は前述の通り、通常閾値よりも大きく設定されている。仮に通常閾値が1.0mである場合、反射環境用閾値は1.1mや1.2mなどに設定されている。通常閾値と反射環境用閾値の差、換言すれば、反射環境用閾値が備える通常閾値からの増大量は、反射波によって増大しうる測距値の大きさに適合するように設定されている。つまり、反射波によって測距値が0.4m程度大きくなることが試験等にて特定されている場合には、反射環境用閾値は通常閾値よりも0.4m大きい値に設定される。なお、ここで示した具体的な数値は一例であって、種々の閾値は試験又はシミュレーションにて決定されて良い。
【0100】
<アンカーの作動例>
図10は、任意の1つのアンカー2の作動の一例を示すフローチャートである。各ステップは、図10に示す矢印の順に実行されてよい。図10に示すフローチャートは、アンカー2が起動してから再びスリープ状態に戻るまでの流れを示している。図10に示すステップS301は、アンカー2がDK-ECU1から入力される制御信号に基づいて起動するステップである。なお、ステップS301を実施する時点において、アンカー2はスリープ状態である。DK-ECU1がアンカー2に他の装置と通信を実施させる必要がない場合にはアンカー2をスリープ状態にすることにより、システム全体の消費電力の低減を図る。アンカー2は起動するとステップS302を実行する。
【0101】
ステップS302はアンカー2がキーデバイス9と測距通信を実施するステップである。なお、ステップS302は、測距結果データとして、チャネル毎の受信位相データ又は位相変化係数をDK-ECU1に報告するステップであってもよい。その場合、対応するS205は、DK-ECU1がアンカー2から提供されるデータをもとに測距値を算出するステップとすることができる。なお、本開示における「取得」には、他の装置/センサから入力されたデータなどを元に内部演算によって生成/検出することも含まれる。システム内の機能配置は適宜変更であるためである。
【0102】
ステップS302は、DK-ECU1からアンカー2に、キーデバイス9を測距対象とする測距指示信号が入力されたことに基づいて実行されてよい。測距指示信号は、測距通信を実施するように指示する信号である。測距指示信号は、測距通信の対象(通信相手)を示すデータである対象データを含みうる。測距対象はデバイスIDなどで表現されて良い。キーデバイス9をターゲットとする測距指示信号は、測距対象がキーデバイス9に指定された測距指示信号と解されて良い。測距指示信号は、アンカー2がイニシエータとリフレクタのどちらとして作動するのかといった、測距通信における役割を示すコードを含んでいてもよい。
【0103】
ステップS303は、キーデバイス9との測距通信の結果に基づきデバイス距離を算出し、DK-ECU1を送信するステップである。ステップS304は、他のアンカー2と測距通信を実施するステップである。ステップS304は、DK-ECU1から他のアンカー2をターゲットとする測距指示信号が入力されたことに基づいて実行されてよい。
【0104】
ステップS305は、他のアンカー2との測距通信の結果に基づき、アンカー間距離データを生成し、DK-ECU1を送信するステップである。ステップS305は、DK-ECU1からの指示に基づき、複数の他のアンカーを対象として複数回実施されても良い。
【0105】
ステップS306は、アクティブ状態からスリープ状態に移行するステップである。ステップS306は、DK-ECU1からの指示に基づいて実施されてよい。アンカー2は、予め定められている他のアンカー2との測距通信が完了したことに基づいて自動的にスリープ状態に移行しても良い。
【0106】
なお、図10では1回の起動において、キーデバイス9との測距通信と、他のアンカー2との測距通信を連続的に実施するパターンを示しているが、アンカー2の作動はこれに限定されない。アンカー2は、測距通信を実施するたびにスリープ状態に移行しても良い。具体的にはステップS303が完了したタイミングでアンカー2はスリープ状態に移行しても良い。アンカー2は、測距通信のたびに、起動とスリープを繰り返すように構成されていても良い。
【0107】
<周辺環境の判定について>
次に図11図14を用いて周辺環境の判定手順の一例について説明する。図11は周辺環境の判定に係るDK-ECU1の作動の一例を示すフローチャートである。本開示では、周辺環境の判定に係る一連の処理を環境判定処理とも称する。環境判定処理はステップS401、S410~S412、S420、S430、S440、S450、S460を含む。
【0108】
ステップS401は、デバイス位置の簡易判定を行うステップである。ステップS401は、前述のステップS206と同様に、直前に実施された巡回測距処理の結果に基づいて実施されて良い。簡易判定処理の結果、キーデバイス9が車両Hvの右側に存在すると判定した場合には(S410 YES)、ステップS411として右環境判定処理を実施する。右環境判定処理の詳細は後述する。一方、簡易判定処理の結果、キーデバイス9が車両Hvの右側には存在しないと判定した場合(S410 NO)、キーデバイス9が車両Hvの左側に存在するか否かを判定する(S411)。なお、直近所定時間以内に巡回測距処理が実行されていない場合など、デバイス位置が不明な場合には、DK-ECU1は環境判定処理としてS450を実行するように構成されていて良い。
【0109】
メインコントローラ4は、簡易判定処理にてキーデバイス9が車両Hvの左側に存在すると判定した場合には(S411 YES)、ステップS430として左環境判定処理を実施する。左環境判定処理の詳細は後述する。一方、簡易判定処理の結果、キーデバイス9が車両Hvの右にも左にも存在しないと判定した場合(S411 NO)、キーデバイス9が車両Hvの後方に存在するか否かを判定する(S412)。
【0110】
メインコントローラ4は、簡易判定処理にてキーデバイス9が車両Hvの後方に存在すると判定した場合には(S412 YES)、ステップS440として後方環境判定処理を実施する。後方環境判定処理の詳細は後述する。一方、簡易判定処理の結果、キーデバイス9の位置が後方でもない場合(S412 NO)、複方位判定処理を実施する(S450)。
【0111】
ステップS460は、ステップS210に対応するステップである。ステップS460においてメインコントローラ4は、以上の処理にて選択されたエリア判定用閾値を用いてデバイス位置を判定する。
【0112】
右環境判定処理は、図12に示すようにステップS421~S424を含む。ステップS421は、DK-ECU1が第1ペアとしてのアンカー2A、2Cに測距通信を実施させるステップである。ステップS422は、ステップS421での測距通信に基づいて定まる計測誤差と、環境判定用閾値との比較により、車両右側が反射環境か否かを判定するステップである。
【0113】
ここでの計測誤差とは、測距値から事前登録値を減算した値を引いた値である。右環境の判定に使用される計測誤差は、アンカー2A、2C間の測距値と、アンカー2A、2Cの距離の事前登録値との差分であってよい。環境判定用閾値は例えば1.0mや1.5mに相当する値に設定されていてよい。
【0114】
計測誤差が環境判定用閾値以上である場合(S422 YES)、メインコントローラ4は、車両右側は反射環境と判定し、右エリアRAにおける存否判定に反射環境用閾値を用いることを決定する(S423)。一方、計測誤差が環境判定用閾値未満である場合(S422 NO)、メインコントローラ4は、車両右側は見通し環境と判定し、右エリアRAにおける存否判定に通常閾値を用いることを決定する(S424)。上記構成は、第1ペアでの測距値が、本来の距離から所定値以上大きいことに基づいて車両右側が反射環境であると判定する構成に相当する。
【0115】
なお、車両右側が反射環境か否かの判定に使用する計測誤差は、第1ペアでの計測誤差に限定されない。メインコントローラ4は、第4ペアでの計測誤差と環境判定用閾値との比較結果を用いて車両右側が反射環境か否かを判定しても良い。第1ペアや第4ペアは、車両右側の環境判定に使用可能なペアであることから、右系ペアと呼ぶことができる。メインコントローラ4は少なくとも1つの右系ペアでの測距通信の結果に基づいて、車両右側が反射環境か否かを判別してよい。右系ペアは、車両Hvの右側面部に配置されたアンカー2とその他の任意の位置に配置されたアンカー2の組み合わせであってよい。メインコントローラ4は、右環境判定処理が完了すると、ステップS423又はS424で選択したエリア判定用閾値を用いてステップS460の位置判定を実施する。
【0116】
左環境判定処理は、図13に示すようにステップS431~S434を含む。ステップS431は、DK-ECU1が第2ペアとしてのアンカー2B、2Dに測距通信を実施させるステップである。ステップS432は、ステップS431での測距通信に基づいて定まる計測誤差と、ストレージ43に保存されている環境判定用閾値との比較により、車両左側が反射環境か否かを判定するステップである。左環境の判定に使用される計測誤差は、アンカー2B、2D間の測距値と、アンカー2B、2Dの距離の事前登録値との差分であってよい。計測誤差が環境判定用閾値以上である場合(S432 YES)、メインコントローラ4は、車両左側は反射環境と判定し、左エリアLAにおける存否判定に反射環境用閾値を用いることを決定する(S433)。一方、計測誤差が環境判定用閾値未満である場合(S432 NO)、メインコントローラ4は、車両左側は見通し環境と判定し、左エリアLAにおける存否判定に通常閾値を用いることを決定する(S434)。
【0117】
上記構成は、第2ペアでの測距値が、本来の距離から所定値以上大きいことに基づいて車両左側が反射環境であると判定する構成に相当する。なお、車両左側が反射環境か否かの判定に使用する計測誤差は、第2ペアでの計測誤差に限定されない。メインコントローラ4は、第5ペアでの計測誤差と環境判定用閾値との比較結果を用いて車両左側が反射環境か否かを判定しても良い。第2ペアや第5ペアは、車両左側の環境判定に使用可能なペアであることから、左系ペアと呼ぶことができる。左系ペアは、車両Hvの左側面部に配置されたアンカー2とその他の任意の位置に配置されたアンカー2の組み合わせであってよい。メインコントローラ4は少なくとも1組の左系ペアでの測距通信の結果に基づいて、車両左側が反射環境か否かを判別してよい。メインコントローラ4は、左環境判定処理が完了すると、ステップS433又はステップS434で選択したエリア判定用閾値を用いてステップS460の位置判定を実施する。
【0118】
後方環境判定処理は、図14に示すようにステップS441~S444を含む。ステップS441は、DK-ECU1が第3ペアとしてのアンカー2C、2Dに測距通信を実施させるステップである。ステップS442は、ステップS441での測距通信に基づいて定まる計測誤差と、ストレージ44に保存されている環境判定用閾値との比較により、車両後方が反射環境か否かを判定するステップである。後方環境の判定に使用される計測誤差は、アンカー2C、2D間の測距値と、アンカー2C、2Dの距離の事前登録値との差分であってよい。計測誤差が環境判定用閾値以上である場合(S442 YES)、メインコントローラ4は、車両後方側は反射環境と判定し、後方エリアBAにおける存否判定に反射環境用閾値を用いることを決定する(S443)。一方、計測誤差が環境判定用閾値未満である場合(S442 NO)、メインコントローラ4は、車両後方は見通し環境と判定し、後方エリアBAにおける存否判定に通常閾値を用いることを決定する(S444)。
【0119】
上記構成は、第3ペアでの測距値が、本来の距離から所定値以上大きいことに基づいて車両後方が反射環境であると判定する構成に相当する。なお、車両後方が反射環境か否かの判定に使用する計測誤差は、第3ペアでの計測誤差に限定されない。メインコントローラ4は、その他のペアでの測距通信の結果に基づいて、車両後方側が反射環境か否かを判別してよい。メインコントローラ4は、後方環境判定処理が完了すると、ステップS443又はS444で選択したエリア判定用閾値を用いてステップS460の位置判定を実施する。
【0120】
複方位判定処理は、右環境判定処理、左環境判定処理、後方環境判定処理を順に/並列的に実施する処理であってよい。例えば駐車直後の環境判定処理など、巡回測距処理に先立って行われる環境判定処理は、複方位判定処理であってよい。環境判定処理のS401、S410~S412は省略されてもよい。換言すれば、キーデバイス9の位置が不明である場合の環境判定処理は、S450としての複方位判定処理であってよい。
【0121】
ところで、環境判定用閾値は、前述の通り、計測誤差に対する閾値ではなく、事前登録値に所定値を加えた値に設定されていてもよい。その場合には、ステップS422、S432、及びS442は、アンカー間の測距値が環境判定用閾値以上であるか否かを判定するステップに変更されてよい。
【0122】
<通信手順例>
DK-ECU1は、図15に示すように、巡回測距処理の結果に応じてキーデバイス9が存在する位置(方向)を推定し、当該推定結果に応じて定まるペアでアンカー間測距通信を実施させても良い。当該構成によれば、リアルタイムに環境種別を特定可能となる。その結果、周囲の環境がリアルタイムで変化しても、その環境に合ったエリア形成ができるといった利点を有する。なお、図15では巡回測距処理の結果、キーデバイス9は車両右側に存在すると判定した場合を例示している。
【0123】
また、図15に示す通信手順によれば、環境種別の判定を行う方向をキーデバイス9が存在しうる方向に限定できるため、アンカー間測距通信の実施頻度を低減できる。なお、他の態様として、メインコントローラ4は、キーデバイス9が存在しうる方向に限定せずに、巡回測距処理を行う度に複方位判定処理を実施してもよい。また、メインコントローラ4は巡回測距処理を所定回数(例えば3回)するごとに、複方位判定処理を実施するように構成されていても良い。環境種別判定のためのアンカー間測距通信の実行間隔は、巡回測距処理の実行間隔に比べて大きく(つまり疎に)設定されていても良い。
【0124】
また、他の通信手順例としてDK-ECU1は、巡回測距処理を実行する前に環境判定処理(具体的には複方位判定処理)を実施することで、周辺環境の種別を判定するように構成されていても良い。DK-ECU1は、事前の環境判定処理の判定結果が有効である間は、巡回測距処理は定期実行する一方、アンカー間測距通信は停止するように構成されていても良い。図16は、上記のように事前に環境判定処理を行うパターンの通信手順の一例を示す図である。事前の環境判定処理は、例えば車両Hvが駐車されたときに実行されて良い。図16に示す例では事前の環境判定処理として第1ペア、第2ペア、第3ペアのみ、測距通信を実施させる場合を例示しているが、事前の環境判定処理として測距通信を実施させるペアはこれに限定されない。第4ペアや第5ペア、第6ペアにも測距通信を実施させてもよい。
【0125】
事前の環境判定処理を行う構成によれば、アンカー間測距通信の実施頻度の低減に伴う消費電力の抑制といった効果が期待できる。また、事前の環境判定処理を行う構成によれば、キーデバイス9が車両Hvに近づいて来たときに、事前選択しておいたエリアごとのエリア判定用閾値を基にデバイス位置の判定を実施できる。その結果、システムの応答性を高める効果が期待できる。また、事前に環境判定処理を行うパターンによれば、環境判定と位置判定を実行するタイミングを分散させることになるため、ユーザ接近時におけるメインプロセッサ41の処理負荷を低減する効果が期待できる。
【0126】
事前の環境判定処理の結果の有効期間は、例えば1分や10分、1時間などの一定値であってよい。また、メインコントローラ4は、車両Hvが駐車されている間は、駐車直後の判定結果を有効とし続けていても良い。メインコントローラ4は、車両Hvの周囲に他車両が停止したこと又は自車側方に停車していた他車両が消失したことが周辺監視センサ3Bにて検知された場合に、それ以前の環境判定結果を破棄して、環境判定処理を再実施するように構成されていても良い。メインコントローラ4は、車両Hvが駐車されている間、定期的に(例えば1時間間隔で)周辺監視センサ3Bを起動させ、周辺障害物の発生/消失を判定しても良い。
【0127】
なお、比較構成としては、周辺監視センサ3Bの検出結果をそのまま環境種別の判定結果として使用する構成も考えられる。ただし、当該比較構成では、実際には反射環境ではないにも関わらず、反射環境と見なして、エリアを拡張させてしまう恐れが生じる。周辺環境の種別として周辺監視センサ3Bの検出結果をそのまま使用するのではなく、アンカー間測距通信の結果をもとに環境種別を判定する構成によれば、実際の通信環境に応じた閾値設定を適用可能となる。
【0128】
<効果>
開発者らは、車両Hvの周辺における障害物の有無による測距値への影響を検証する試験を実施したところ、周辺環境によって測距通信の結果(つまり測距値)が変動することを発見した。具体的には、車両Hvが反射環境下にある場合には、見通し環境下にある場合よりも、測距値が大きく算出されることを発見した。例えばアンカー2とキーデバイス9が、見通し環境下においては1.0mの測距値が得られる位置関係であっても、反射環境下では1.2mの測距値が算出されることがある。
【0129】
ところで、デバイス位置判定にかかる比較構成としては、測距値が一定値未満である場合にはキーデバイスが近傍エリア内に存在すると判定する構成が想定される。このような比較構成では、反射環境下において近傍エリア内と判定される実際のエリアは、見通し環境下よりも狭まってしまう。反射環境下では測距値が大きめに見積もられるためである。その結果、実際にはユーザが近傍エリア内に存在するにもかかわらず、近傍エリア外と判定される事象が起こりうる。換言すれば、車両Hvに対してキーデバイス9が同じ位置にあったとしても、周辺環境に応じてデバイス位置の判定結果にばらつきが生じうる。
【0130】
そのような課題に対し、本実施形態のDK-ECU1は、環境を判別したのちに、それぞれ環境に合った閾値(条件)を用いてデバイス位置を判定する。すなわち、反射環境においては、見通し環境時に適用される値よりも所定量大きい値に設定された反射環境用閾値を用いてデバイス位置を判定する。本実施形態の構成によれば、例えばキーデバイス9が右エリアRA内に存在するにも関わらず、キーデバイス9は右エリアRA内には存在しないと誤判定するおそれを低減できる。左エリアLAや後方エリアBAの存否判定においても同様である。このような本実施形態によれば、システムの誤作動又はシステムの作動遅れによってユーザを戸惑わせてしまうおそれも低減できる。また、本実施形態によれば周辺環境に由来するデバイス位置の判定結果のばらつきを低減できる。
【0131】
また、本実施形態においては、車両周辺を右、左、後方等に細分化して、エリア毎に反射環境か否かの判定を行う。本実施形態によれば、例えば車両Hvの左側にのみ壁があるような環境においては、左側は反射環境と判定する一方、右や後方は見通し環境と判定される。その結果、左エリアLAの存否判定には反射環境用閾値が適用される一方、右エリアRA及び後方エリアBAの存否判定には通常閾値が適用される。本実施形態によれば、車両左側が反射環境であることに引きずられて右エリアRAや後方エリアBAを本来の設計範囲よりも広げてしまう恐れを低減できる。
【0132】
<測距方法の変形例>
各アンカー2は、チャネルごとの位相情報の代わりに/それと合わせて、ラウンドトリップ時間(RTT:Round Trip Time)計測し、当該RTTを用いてデバイス距離及び他のアンカー2までの距離を算出しても良い。RTTは、応答を要求する所定の無線信号を送信してからキーデバイス9からの応答信号を受信するまでの時間である。RTTは、無線信号の往復飛行時間に相当する。RTTを計測するための信号を送受信することもまた測距通信の一例に相当する。アンカー2は、RTTから所定の補正値を減算した値の半分値に、電波の伝搬時間を乗じることでデバイス距離を算出してもよい。ここでの補正値は、キーデバイス9での応答処理時間及びアンカー2内での遅延時間などを相殺するためのパラメータである。
【0133】
<環境種別の判定方法の変形例>
本開示の構成の開発者らは、車両Hvの周辺における障害物の有無による測距値への影響を検証する上記試験を実施することにより、反射環境下においては、測距値だけでなく、受信強度も大きくなるといった知見を得た。そのような事情から、メインコントローラ4は、アンカー間の測距値ではなく、他のアンカーからの信号の受信強度を用いて周辺環境を判定するように構成されていても良い。例えばメインコントローラ4は、アンカー2Aで観測されるアンカー2Cからの信号の受信強度が所定値以上である場合に、右側が反射環境と判定し、当該受信強度が所定値未満である場合には見通し環境と判定しても良い。また、メインコントローラ4は、アンカー間の測距値と受信強度の両方を用いて環境種別を判定するように構成されていても良い。例えばメインコントローラ4は、右系ペアでの測距値が所定値以上であり、且つ、受信強度が所定値以上である場合に、右環境は反射環境であると判定しても良い。メインコントローラ4は、左環境や後方環境についても同様に、対応するアンカーペアでの受信強度情報を用いて反射環境か否かを判定してよい。
【0134】
さらに、本開示の開発者らは、デバイス位置を変更しつつ上記試験を実施することにより、測距通信を行う無線モジュール同士が離れているほど、反射による測定誤差は大きくなる、といった知見を得た。そのような事情から、キーデバイス9が車両Hvから所定値(例えば3m)以上離れているか否かに応じて、環境種別に応じた閾値を適用するか否かを変更しても良い。メインコントローラ4は、キーデバイス9が車両Hvから所定値以上離れている場合には環境種別の判定及びその判定結果に応じた閾値の変更を実施する。一方、キーデバイス9と車両Hvとの距離が所定値未満である場合には環境種別の判定を省略し、環境種別に応じてエリア判定用閾値を変更する処理も実行しないように構成されていても良い。
【0135】
キーデバイス9が車両Hvから所定値以上離れているか否かは、例えば、ゲートウェイモジュール5で観測されるデバイス距離データを用いて判定されて良い。また、メインコントローラ4は巡回測距処理の結果として、測距値が所定値未満のアンカー2が存在しない場合に、キーデバイス9が車両Hvから所定値以上離れていると判定しても良い。
【0136】
なお、DK-ECU1は、近傍エリアにキーデバイス9が存在するか否かを判定するものに限らず、車両Hvから準備距離以内となるエリアにキーデバイス9が存在するか否かを判定するものであってもよい。本開示が適用される位置判定装置にとっての対象エリアは準備エリアなど、任意のエリアであってよい。
【0137】
<デバイス位置の判定方法の補足>
上述した実施形態では測距値としてのデバイス距離が種々の閾値で定義される所定範囲(所定条件)を充足している場合に、対象エリアに判定するものとしたが、対象エリアの存否判定に使用するパラメータは、測距値に限定されない。DK-ECU1は、キーデバイス9からの信号の受信強度が所定範囲に収まっていることに基づいて対象エリア内にキーデバイス9が存在すると判定するよう構成されていても良い。
【0138】
その場合、エリア判定用閾値は受信強度の対する閾値であってよい。また、前述の試験により、反射環境においては見通し環境よりも受信強度が高くなることが確認されている。そのため、反射環境においてデバイス位置の判定に使用する受信強度に対する閾値(つまり反射環境用閾値)は、見通し環境時において使用される閾値(つまり通常閾値)よりも所定量大きい値に設定されていてよい。
【0139】
<駐車後のDK-ECUの作動の変形例>
DK-ECU1は、車両Hvが駐車された場所が並列駐車場であるか否かに応じて、駐車中の作動を変更しても良い。並列駐車場は、車両Hvの隣に他車両が駐車可能な場所に相当する。具体的には、並列駐車場は、車両Hvの駐車位置の右又は左に駐車枠又は所定サイズの空間が存在する場所と解されてよい。並列駐車場では駐車中における周辺環境が動的に変わりうる。例えば駐車時点では左右に障害物が無かったとしても、その後、他車両が車両Hvの隣に止まることもある。つまり、駐車直後は見通し環境であったとしてもその後反射環境となることが起こりうる。
【0140】
本変形例は上記の着想に基づいて創出されたものであって、例えばDK-ECU1は並列駐車場に駐車したことを検知した場合には、駐車中も定期的に環境判定処理を実施しても良い。図17は当該技術思想に対応する処理の流れの一例を示すフローチャートであってステップS51~S54を含む。ステップS51以降の処理は、車両Hvが駐車されたことに基づいて開始されて良い。
【0141】
ステップS51は、車両Hvが駐車された際の周辺監視センサ3Bの検出結果、又は、自車位置データに基づいて自車駐車位置が並列駐車場に該当するか否かを判定するステップである。メインコントローラ4は、車両Hvが駐車された際、周辺監視センサ3Bにて車両Hvの右/左に他車両が検出されている場合に、自車駐車位置が並列駐車場に該当すると判定してよい。また、メインコントローラ4は、車両Hvが駐車された際、周辺監視センサ3B(特にカメラ)にて、車両Hvの隣に駐車枠線/輪止めが検出されている場合に、自車駐車位置が並列駐車場に該当すると判定してよい。その他、メインコントローラ4は、車両Hvが駐車された際の自車位置座標に対応する地図データを参照し、駐車場所が商業施設などである場合には、自車駐車位置が並列駐車場に該当すると判定してよい。自車駐車位置は、車両Hvが駐車された場所を指す。
【0142】
ステップS51の判定の結果、自車駐車位置が並列駐車場に該当すると判定した場合(S52 YES)、メインコントローラ4は、所定の第1間隔で定期的に環境判定処理を実行するように動作設定を行い(S53)、本フローを終了する。第1間隔は1時間や30分などであってよい。
【0143】
一方、ステップS51の判定の結果、自車駐車位置が並列駐車場に該当するとは判定しなかった場合(S52 NO)、メインコントローラ4は1回だけ環境判定処理を実行し(S54)、本フローを終了する。自車駐車位置が並列駐車場に該当するとは判定しなかった場合、メインコントローラ4は駐車中における定期的な環境判定処理は実行しない。あるいは、メインコントローラ4は、自車駐車位置が並列駐車場ではない場合には、自車駐車位置が並列駐車場ではない場合よりも長い第2間隔で環境判定処理を定期的に実行するように動作設定を行ってもよい。第2間隔は3時間や6時間などであってよい。
【0144】
上記の構成によれば、車両Hvが駐車された場所の属性/特性に応じた制御が実行される。仮に自車駐車位置が並列駐車場である場合には、環境判定処理の実施頻度を低減できるため、消費電力をより一層低減可能となる。
【0145】
その他、DK-ECU1は、車両Hvが駐車された際の周辺監視センサ3Bの出力データに基づいて障害物検出方向を特定し、特定された障害物検出方向に関してのみ環境種別を判定するように構成されていても良い。障害物検出方向は、障害物が検出されている方向であって、例えば、駐車のための走行中の周辺監視センサ3B(例えばソナー)の検出結果に基づいて特定されて良い。駐車のための走行中とは、駐車される前の低速走行(徐行)であって、速度が所定値(例えば10km/m)未満である状態を指す。ソナーが作動している状態が、駐車のための走行中とみなされても良い。仮に駐車のための後退時に左後方に障害物が検出されていた場合には左が障害物検出方向に設定されうる。メインコントローラ4は、障害物検出方向に対応するアンカーペアに測距通信を実施させることにより、障害物検出方向が真に(実態的に)反射環境に該当するのかを判別して良い。メインコントローラ4は、障害物が検出されていない方向に関しては通常環境と見なしてよい。
【0146】
上記構成によれば、反射環境である方向に絞って環境判定のためのアンカー間測距通信が実行されることとなる。つまり、アンカー間測距通信の実施頻度を低減できる。そのため、消費電力をより一層抑制可能となる。
【0147】
<アンカー搭載位置の変形例>
アンカー2の搭載位置は、図3に示す配置パターンに限定されない。例えば車載システム10は、図18に示すようにアンカー2E、2F、2G、2Pを備えていても良い。アンカー2Eは、右前座席用の外側ドアハンドルに内蔵されたアンカー2である。アンカー2Eは、右Bピラーや、右サイドミラー、右サイドシル、ルーフの右縁部などに配置されていても良い。アンカー2Eは右アンカーと呼ぶことができる。アンカー2Eは右エリアの存否判定用のアンカー2に相当する。
【0148】
アンカー2Fは、左前座席用の外側ドアハンドルに内蔵されたアンカー2である。アンカー2Fは、左Bピラーや、左サイドミラー、左サイドシル、ルーフの左縁部などに配置されていても良い。アンカー2Fは左アンカーと呼ぶことができる。アンカー2Fは左エリアの存否判定用のアンカー2に相当する。アンカー2Gは、リアバンパの中央部又はトランクドアハンドル、リアウインドウの上端又は下端に配置されたアンカー2である。アンカー2Gは、後方アンカーと呼ぶことができる。アンカー2Pは前述の通り、車内に配置されたアンカー2であって、例えばインストゥルメントパネルや天井部等に配置されている。アンカー2Gは後方エリアの存否判定用のアンカー2に相当する。
【0149】
図18に示す搭載パターンにおいては、DK-ECU1は、アンカー2E、2P間における測距値/受信強度が所定値以上である場合に車両右側が反射環境と判定し、所定値未満である場合には見通し環境であると判定してもよい。また、DK-ECU1は、アンカー2F、2P間における測距値/受信強度が所定値以上である場合に車両左側が反射環境と判定し、所定値未満である場合には見通し環境であると判定してもよい。DK-ECU1は、アンカー2G、2P間、アンカー2G、2E間、又は、アンカー2G、2F間における測距値/受信強度が所定値以上である場合に車両左側が反射環境と判定してよい。
【0150】
なお、アンカー2E~2Gを備える構成においても、車載システム10はアンカー2Pに加えてアンカー2Qを備えていても良い。また、車載システム10は車両Hvの前端中央部に配置された前方アンカーを備えていてもよい。
【0151】
<アンカー制御の変形例>
アンカー2は、ゲートウェイモジュール5が測距処理を行うタイミングで起動し、キーデバイス9から送信されたCW信号を傍聴(スニファリング/スニッフィング)し、周波数ごとの受信位相及び受信強度を検出しても良い。スニファリング/スニッフィングは、複数のアンカー2が、ゲートウェイモジュール5から提供されるチャネル情報を用いてキーデバイス9-ゲートウェイモジュール5間の通信を傍聴する技術である。チャネル情報は、ゲートウェイモジュール5とキーデバイス9とのデータ通信に使用するチャネルを示す情報(以降、チャネル情報)である。チャネル情報は、具体的なチャネル番号であっても良いし、使用チャネルの遷移規則を示すパラメータ(いわゆるホップインクリメント)であってもよい。チャネル情報は、現在の使用チャネル番号と、ホップインクリメントを含むことが好ましい。チャネル情報は、メインコントローラ4経由で各アンカー2に展開されても良い。また、チャネル情報は、ゲートウェイモジュール5から直接的に、換言すればメインコントローラ4を介さずに、各アンカー2に展開されても良い。
【0152】
Bluetooth LEなどの近距離通信では、通信接続後は周波数ホッピングが行われるため、通常は、通信接続しているゲートウェイモジュール5しか、キーデバイス9からのデータ信号を捕捉できない。これに対し、スニファリング技術によれば、チャネル情報を各アンカー2に展開されるため、アンカー2もまた、キーデバイス9からのデータ信号を捕捉可能となる。アンカー2は、チャネル情報を参照することにより、近距離で使用可能な多数のチャネルのうち、何れのチャネルを受信すれば、キーデバイス9からの信号を受信できるのかを認識可能となるためである。また、その結果、アンカー2は、通信接続せずともキーデバイス9からの信号の受信強度や受信位相、受信時間等を検出可能となる。よって、スニファリング技術の適用した構成によれば、複数の無線モジュールが並列的に測距処理を実施可能となるといった利点を有する。
【0153】
<チャネルごとの受信位相の収集方法の補足>
アンカー2は、アクティブ2ウェイ方式又はパッシブ2ウェイ方式によって周波数ごとの送受信位相差を取得し、それらを用いて位相変化係数/周波数間位相差を算出しても良い。
【0154】
アクティブ2ウェイ方式は、イニシエータとリフレクタとがCW信号を互いに送受信し合うことで各々が送信信号と受信信号との位相差を検出し、これら2つの位相差を用いて単周波位相差を特定する方式である。アクティブ2ウェイ方式は、イニシエータ及びリフレクタがCW信号を互いに送受信する工程と、リフレクタが観測した受信位相(θr)をイニシエータにむけて送信する工程を含む。
【0155】
イニシエータの初期位相をδi、リフレクタの初期位相をδr、イニシエータ-リフレクタ間の片道分の距離に応じた本来観測されるべき送受信位相差をφ、対象周波数をfとすると、θr=φ+δi-δr、θi=φ-δi+δrの関係を有する。当該関係式に基づけば、θiとθrの平均値は、イニシエータ及びリフレクタのそれぞれの初期位相成分が相殺された、送受信位相差(φ)となる。よって、イニシエータは、イニシエータでの受信位相とリフレクタでの受信位相の平均値を送受信位相差として算出できる。なお、ここでは片道分の伝搬による位相差を想定しているため、θiとθrの平均値を送受信位相差としている。他の態様として、送受信位相差として往復分の伝搬による位相差を想定する場合、送受信位相差は、θi+θrで求めることができる。
【0156】
パッシブ2ウェイ方式もまた、イニシエータとリフレクタとがCW信号を互いに送受信し合う方式である。アクティブ2ウェイ方式との相違点としては、リフレクタはイニシエータから送信されてきたCW信号の受信位相を、送信信号の初期位相に反映して送信する点にある。パッシブ2ウェイ方式によれば、イニシエータが観測する受信位相には、リフレクタの初期位相成分は含まれない。イニシエータで観測される受信位相は、壁などの反射物で反射されて返ってきたCW信号を受信した場合と同じ値となる。その結果、イニシエータは、リフレクタから受信位相を取得することなく、対象チャネルでの送受信位相差を算出可能となる。パッシブ2ウェイ方式によれば、アクティブ2ウェイ方式に比べて、リフレクタが受信位相メッセージを送信する必要がないといった利点を有する。
【0157】
<無線モジュールの通信方式の補足>
アンカー2とキーデバイス9との通信方式は、Bluetooth LEに限定されず、Bluetooth Classicであってもよい。Bluetooth信号は、Bluetooth LEに準拠した無線信号であってもよいし、Bluetooth Classicに準拠した無線信号であってもよい。また、将来的に創出されうる新たなBluetooth規格に準拠した無線信号もまた、Bluetooth信号に含まれてよい。さらに、アンカー2とキーデバイス9との通信方式は、Wi-Fiや、UWB-IR(Ultra Wide Band - Impulse Radio)、EnOcean(登録商標)、Zigbee(登録商標)などであってもよい。ゲートウェイモジュール5とキーデバイス9との通信方式も同様に、多様な方式を採用可能である。
【0158】
<付言(1)>
本開示には以下の構成も含まれる。
[構成(1)]
車両に対するキーデバイスの位置を判定する位置判定装置であって、
キーデバイスと無線通信を実施可能に構成されている複数の無線モジュール(2)と通信するための通信回路(6)と、
複数の無線モジュールのそれぞれから入力されるデータに基づいてキーデバイスの位置を判定する判定部(4)と、を備え、
判定部は、
複数の無線モジュールのうちの1つとキーデバイスとの無線通信である第1通信をもとに、無線モジュールからキーデバイスまでの距離に関連するデータである第1データを取得することと、
無線モジュール同士の無線通信である第2通信、複数の無線モジュールの少なくとも2つに実施させることにより、無線モジュール同士の距離に関連するデータである第2データを取得することと、
第2データに基づいて車両の周辺環境を判定することと、
第1データが所定の条件を充足していることに基づいてキーデバイスが所定の対象エリアに存在すると判定することと、
第1データに基づいてキーデバイスが対象エリアに存在するか否かを判定するための条件を、周辺環境についての判定結果に応じて変更することと、を実施する位置判定装置。
【0159】
なお、「第1通信をもとに」との記載は、「第1通信の結果/状況に基づいて」と言い換えられて良い。第1通信は、無線モジュールへの判定部の指示に基づいて実施されても良いし、その他の装置からの指示に基づいて実行されても良い。或る無線モジュールによる第1通信は、タイマーなどを用いて当該無線モジュールが自発的に実行するように構成されていても良い。第1通信は第1測距通信あるいはキー距離計測通信と言い換えられてよい。第2通信は、第2測距通信あるいはアンカー間距離計測通信と言い換えられて良い。第1データは、キーデバイス1から送信された信号の受信強度/飛行時間/位相情報にもとづいて特定されて良い。第2データも、他のアンカーから送信された信号の受信強度/飛行時間/位相情報にもとづいて特定されて良い。
【0160】
<付言(2)>
本開示に示す種々のフローチャートは何れも一例であって、フローチャートを構成するステップの数や、処理の実行順は適宜変更可能である。本開示における無線信号/データ/メッセージ/パケット/フレーム/パッケージ/データセット/情報などの記載は互いに言い換えられてよい。
【0161】
本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に記憶されていればよい。本開示にはコンピュータを無線コントローラ23又はメインコントローラ4として機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体等の形態も本開示の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0162】
1 DK-ECU(位置判定装置)、2 アンカー(無線モジュール)、4 メインコントローラ(判定部)、5 ゲートウェイモジュール、6 アンカー接続回路(通信回路)、7 LANインターフェース(受信部)、9 キーデバイス、41 デバイスプロセッサ、M2 環境判定用データ記憶部、M3 エリア判定用データ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18