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特開2024-112133評価用治具及びノイズ抑制体の評価方法並びにノイズ抑制基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112133
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】評価用治具及びノイズ抑制体の評価方法並びにノイズ抑制基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240813BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H05K1/02 C
H05K1/02 N
G01R29/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017012
(22)【出願日】2023-02-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発のうち“不要電波の高分解能計測・解析技術を活用したノイズ抑制技術の研究開発”」成果に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 利行
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 健一
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA03
5E338BB02
5E338BB12
5E338CC02
5E338CC06
5E338CD02
5E338CD12
5E338EE13
5E338EE60
(57)【要約】
【課題】 回路基板に内蔵されるノイズ抑制体を評価するための評価用治具及びそれを用いたノイズ抑制体の評価方法を提供すること。
【解決手段】 評価用治具10は、誘電体部12と、誘電体部の上面上に形成された信号線14と、誘電体部12の下面上に形成されたグランドプレーン16と、信号線14とグランドプレーン16との間に位置するように誘電体部12内に設けられた受容部18とを備える。評価用治具10は、受容部18に受容されたノイズ抑制体の評価に用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体部と、前記誘電体部の上面上に形成された信号線と、前記誘電体部の下面上に形成されたグランドプレーンと、前記信号線と前記グランドプレーンとの間に位置するように前記誘電体部内に設けられた受容部とを備え、前記受容部に受容されたノイズ抑制体の評価に用いられる評価用治具。
【請求項2】
請求項1記載の評価用治具であって、
前記誘電体部は、上側誘電体層と、下側誘電体層と、入力側誘電体部と、出力側誘電体部とを備えており、
前記入力側誘電体部及び前記出力側誘電体部は、上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層との間に挟まれていると共に、前記上下方向と直交する水平方向において互いに離間して配置されており、
前記受容部は、前記上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層に挟まれると共に前記水平方向において前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部に挟まれており、
前記信号線は、前記上側誘電体層の上面上に形成されると共に前記水平方向に延びており、
前記グランドプレーンは、前記下側誘電体層の下面上に形成されている
評価用治具。
【請求項3】
請求項1記載の評価用治具であって、
前記誘電体部は、上側誘電体層と、下側誘電体層と、中間誘電体部と、入力側誘電体部と、出力側誘電体部とを備えており、
前記中間誘電体部と前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部とは、上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層との間に挟まれており、
前記中間誘電体部は、前記上下方向と直交する水平方向において前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部との間に配置されており、
前記受容部は、前記上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層に挟まれると共に前記水平方向において前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部に挟まれており、
前記受容部は、前記上下方向と前記水平方向との双方と直交する所定方向において、前記中間誘電体部と隣接しており、
前記信号線は、前記上側誘電体層の上面上に形成されると共に前記水平方向に延びており、
前記グランドプレーンは、前記下側誘電体層の下面上に形成されている
評価用治具。
【請求項4】
請求項1記載の評価用治具であって、
前記誘電体部の誘電率は4.3以下である
評価用治具。
【請求項5】
請求項3記載の評価用治具であって、
前記誘電体の誘電率は3.7以下である
評価用治具。
【請求項6】
請求項1記載の評価用治具であって、
前記誘電体部の厚みは0.3mm以上1.0mm以下である
評価用治具。
【請求項7】
請求項6記載の評価用治具であって、
前記誘電体部の厚みは0.3mm以上0.5mm以下である
評価用治具。
【請求項8】
誘電体部と、前記誘電体部の上面上に形成された信号線と、前記誘電体部の下面上に形成されたグランドプレーンと、前記信号線と前記グランドプレーンとの間に位置するように前記誘電体部内に設けられた受容部とを備える評価用治具の前記受容部に評価対象となるノイズ抑制体を受容し、
前記信号線の両端をネットワークアナライザのポート1とポート2とに接続して反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定し、
測定した反射SパラメータS11M及び透過SパラメータS21Mを用いて下記式(1)に基づいて伝送減衰率Rtpを計算する
【数1】
ノイズ抑制体の評価方法。
【請求項9】
上側誘電体層と、前記上側誘電体層の上面上に形成された信号線と、下側誘電体層と、前記下側誘電体層の下面上に形成されたグランドプレーンと、上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層とに挟まれたノイズ抑制体とを備えるノイズ抑制基板。
【請求項10】
請求項9記載のノイズ抑制基板であって、
前記上側誘電体層は、前記下側誘電体層より薄い
ノイズ抑制基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制体の評価に用いられる評価用治具及びそれを用いたノイズ抑制体の評価方法並びにノイズ抑制基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ノイズ抑制体を内蔵したプリント基板を開示している。特許文献1のプリント基板は、柔軟性を有するプラスチックシート基材をベース基板として備えている。プラスチック基材上には下側のノイズ抑制体が形成されている。下側のノイズ抑制体上には絶縁体層が形成され、その絶縁体層上に信号線やグランド線並びにパッシブ素子やアクティブ素子などが形成されている。さらに、信号線やグランド線等の上に別の絶縁体層を介して上側のノイズ抑制体が形成されている。上側のノイズ抑制体の上面には、表面保護絶縁体層が形成されている。すなわち、特許文献1のプリント基板においては、信号線やグランド線等が二つのノイズ抑制体の間に挟まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-92475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、回路基板と回路基板とをつなぐケーブルから不要電波が放射されると、その不要電波が送受信アンテナやそのキャリア周波数に干渉するといった問題が起こり得る。その問題に対する対応策の一つとして、特許文献1のように回路基板にノイズ抑制体を内蔵することが有効であると予想される。一方、特許文献1のプリント基板内におけるノイズ抑制体の配置が効果的であるかどうかは分からない。また、現状では、どのようなノイズ抑制体を回路基板に内蔵するとどの周波数帯に有効なのか等について適切に評価する手段がない。
【0005】
そこで、本発明は、回路基板に内蔵されるノイズ抑制体を評価するための評価用治具及びそれを用いたノイズ抑制体の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、ノイズ抑制体を回路基板内にどのような位置に設けると効果的かについて調べた。その結果、信号線とグランドの間に磁界が集中していることから、特許文献1のような位置ではなく、信号線とグランドプレーンとの間にノイズ抑制体を配置する方が効果的であると見出した。すなわち、本発明の発明者らは、ノイズ抑制体を備える回路基板についての効果的かつ必須の構造について見出した。この知見に基づき、ノイズ抑制体の評価に用いられる評価用治具を創作した。
【0007】
また、本発明では、回路基板において生じたノイズがその回路基板から延びるケーブルを通して不要電波として外部に放射されることを問題ある事象として想定している。従って、回路基板内にノイズ抑制体を内蔵して、その内蔵によりケーブルから放射される不要電波がどのように変化したかを評価すれば、ノイズ抑制体の効果を測定できるものと考えられる。一方で、ケーブルから放射される不要電波を観測するためにはケーブル近傍にアンテナを配置して不要電波を受信する必要があるが、アンテナの感度や配置などにより評価にバラつきが生じる可能性がある。そこで、本発明の発明者らは、所望とするノイズ抑制体の効果の測定を安定して簡易に行い得る方法を新たに創作した。以下、本発明による評価用治具及びそれを用いたノイズ抑制体の評価方法について記載する。
【0008】
本発明は、第1の評価用治具として、誘電体部と、前記誘電体部の上面上に形成された信号線と、前記誘電体部の下面上に形成されたグランドプレーンと、前記信号線と前記グランドプレーンとの間に位置するように前記誘電体部内に設けられた受容部とを備え、前記受容部に受容されたノイズ抑制体の評価に用いられる評価用治具を提供する。
【0009】
また、本発明は、第2の評価用治具として、第1の評価用治具であって、
前記誘電体部は、上側誘電体層と、下側誘電体層と、入力側誘電体部と、出力側誘電体部とを備えており、
前記入力側誘電体部及び前記出力側誘電体部は、上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層との間に挟まれていると共に、前記上下方向と直交する水平方向において互いに離間して配置されており、
前記受容部は、前記上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層に挟まれると共に前記水平方向において前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部に挟まれており、
前記信号線は、前記上側誘電体層の上面上に形成されると共に前記水平方向に延びており、
前記グランドプレーンは、前記下側誘電体層の下面上に形成されている
評価用治具を提供する。
【0010】
また、本発明は、第3の評価用治具として、第1の評価用治具であって、
前記誘電体部は、上側誘電体層と、下側誘電体層と、中間誘電体部と、入力側誘電体部と、出力側誘電体部とを備えており、
前記中間誘電体部と前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部とは、上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層との間に挟まれており、
前記中間誘電体部は、前記上下方向と直交する水平方向において前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部との間に配置されており、
前記受容部は、前記上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層に挟まれると共に前記水平方向において前記入力側誘電体部と前記出力側誘電体部に挟まれており、
前記受容部は、前記上下方向と前記水平方向との双方と直交する所定方向において、前記中間誘電体部と隣接しており、
前記信号線は、前記上側誘電体層の上面上に形成されると共に前記水平方向に延びており、
前記グランドプレーンは、前記下側誘電体層の下面上に形成されている
評価用治具を提供する。
【0011】
また、本発明は、第4の評価用治具として、第1の評価用治具であって、
前記誘電体部の誘電率は4.3以下である
評価用治具を提供する。
【0012】
また、本発明は、第5の評価用治具として、第3の評価用治具であって、
前記誘電体の誘電率は3.7以下である
評価用治具を提供する。
【0013】
また、本発明は、第6の評価用治具として、第1の評価用治具であって、
前記誘電体部の厚みは0.3mm以上1.0mm以下である
評価用治具を提供する。
【0014】
また、本発明は、第7の評価用治具として、第6の評価用治具であって、
前記誘電体部の厚みは0.3mm以上0.5mm以下である
評価用治具を提供する。
【0015】
また、本発明は、第1のノイズ抑制体の評価方法として、
誘電体部と、前記誘電体部の上面上に形成された信号線と、前記誘電体部の下面上に形成されたグランドプレーンと、前記信号線と前記グランドプレーンとの間に位置するように前記誘電体部内に設けられた受容部とを備える評価用治具の前記受容部に評価対象となるノイズ抑制体を受容し、
前記信号線の両端をネットワークアナライザのポート1とポート2とに接続して反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定し、
測定した反射SパラメータS11M及び透過SパラメータS21Mを用いて下記式(1)に基づいて伝送減衰率Rtpを計算する
【数1】
ノイズ抑制体の評価方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、第1のノイズ抑制基板として、
上側誘電体層と、前記上側誘電体層の上面上に形成された信号線と、下側誘電体層と、前記下側誘電体層の下面上に形成されたグランドプレーンと、上下方向において前記上側誘電体層と前記下側誘電体層とに挟まれたノイズ抑制体とを備えるノイズ抑制基板を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、第2のノイズ抑制基板として、第1のノイズ抑制基板であって、
前記上側誘電体層は、前記下側誘電体層より薄い
ノイズ抑制基板を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の評価用治具によれば、評価対象となるノイズ抑制体を受容部に受容して評価を行うことで、回路基板において生じたノイズが外部に出ていくことが当該ノイズ抑制体によりどのくらい抑制されたのかを適切に評価することができる。
【0019】
また、本発明のノイズ抑制体の評価方法によれば、アンテナの配置などに気を使うことなく、より簡易な方法で妥当な評価結果を得ることができる。
【0020】
また、本発明は、ノイズ抑制体の評価方法を検討していく過程で知り得た事項に基づき、ノイズ抑制体を内蔵するノイズ抑制基板を構成している。したがって、本発明のノイズ抑制基板によれば、基板内で生じたノイズが外部に伝搬することを適切に抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態による評価用治具を示す概略斜視図である。評価用治具には、エンドランチコネクタが取り付けられている。エンドランチコネクタは、破線で示されている。
図2図1の評価用治具の変形例を示す概略斜視図である。上側誘電体層及び信号線は、省略されている。評価用治具は、少なくとも一つの中間誘電体を有している。中間誘電体のうちの一つは、破線で示されている。
図3】ケーブルから放射されるノイズに対するノイズ抑制体の影響を評価するために使用される測定システムを示す概略図である。
図4図3の測定システムを用いて第1実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出したラインデカップリング率Rdlと距離Lとの関係を示すグラフである。ここでは、周波数820MHzのラインデカップリング率Rdlを示した。
図5図3の測定システムを用いて第1実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出したIEC62333-2に記載のラインデカップリング率Rdlと周波数fとの関係を示すグラフである。
図6】本発明の一実施の形態によるノイズ抑制体の評価方法に用いられる測定システムを示す概略図である。
図7図6の測定システムを用いて第1実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出した伝送減衰率Rtpと周波数fとの関係を示すグラフである。
図8】本発明の第2実施例による被測定物を示す概略斜視図である。
図9】本発明の第3実施例による被測定物を示す概略斜視図である。
図10】本発明の第4実施例による被測定物を示す概略斜視図である。
図11図6の測定システムを用いて第2実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出した伝送減衰率Rtpと周波数fとの関係を示すグラフである。
図12図6の測定システムを用いて第3実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出した伝送減衰率Rtpと周波数fとの関係を示すグラフである。
図13図6の測定システムを用いて第4実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出した伝送減衰率Rtpと周波数fとの関係を示すグラフである。
図14】本発明の第5実施例による被測定物を示す概略斜視図である。
図15】本発明の第6実施例による被測定物を示す概略斜視図である。
図16図6の測定システムを用いて第5実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出した伝送減衰率Rtpと周波数fとの関係を示すグラフである。
図17図6の測定システムを用いて第6実施例による被測定物のSパラメータを測定した結果に基づき算出した伝送減衰率Rtpと周波数fとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照すると、本発明の一実施の形態による評価用治具10は、誘電体部12と、信号線14と、グランドプレーン16と、受容部18とを備えている。受容部18を備えている点を除いて、評価用治具10は、マイクロストリップラインと同様の構造を有している。
【0023】
図1に示されるように、評価用治具10は、矩形の板状又はシート状の形状を有している。以下の説明において、評価用治具10の厚み方向を便宜的に上下方向と規定する。本実施の形態において、上下方向はZ方向である。+Z方向が上方であり、-Z方向が下方である。
【0024】
図1から理解されるように、誘電体部12は、上下方向に沿って見たとき、矩形の形状を有している。詳しくは、誘電体部12は、上下方向と直交する第1水平方向(水平方向)に長く、上下方向及び第1水平方向の両方と直交する第2水平方向(所定方向)に短い矩形の形状を有している。本実施の形態において、第1水平方向は、X方向であり、第2水平方向は、Y方向である。
【0025】
図1に示されるように、信号線14は、誘電体部12の上面上に形成されている。信号線14は、第1水平方向に延びている。信号線14は、第1水平方向において、誘電体部12の一端から他端にまで延びている。第2水平方向において、信号線14の幅は、誘電体部12の幅よりも小さい。グランドプレーン16は、誘電体部12の下面上に形成されている。グランドプレーン16は、誘電体部12の下面全体を覆っている。
【0026】
図1から理解されるように、受容部18は、信号線14とグランドプレーン16との間に位置するように誘電体部12内に設けられている。本実施の形態において、受容部18は、上下方向において、信号線14とグランドプレーン16とから等距離の位置にある。また、本実施の形態において、受容部18は、第1水平方向において、誘電体部12の両端から離れており、誘電体部12の中央に位置している。また、本実施の形態において、受容部18は、第2水平方向において、誘電体部12を貫通している。ただし、本発明は、これに限られない。受容部18は、信号線14とグランドプレーン16との間に位置していればよく、信号線14とグランドプレーン16とから等距離の位置になくてもよい。また、受容部18は、第2水平方向において、誘電体部12を貫通してなくてもよい。
【0027】
図1に示されるように、本実施の形態において、誘電体部12は、上側誘電体層121と、下側誘電体層123と、入力側誘電体部125と、出力側誘電体部127とを備えている。入力側誘電体部125及び出力側誘電体部127は、上下方向において上側誘電体層121と下側誘電体層123との間に挟まれている。また、入力側誘電体部125及び出力側誘電体部127は、第1水平方向おいて互いに離間して配置されている。この構成において、受容部18は、上下方向において上側誘電体層121と下側誘電体層123に挟まれる。また、受容部18は、第1水平方向において入力側誘電体部125と出力側誘電体部127に挟まれる。さらに、信号線14は、上側誘電体層121の上面上に形成されて第1水平方向に延びている。加えて、グランドプレーン16は、下側誘電体層123の下面上に形成されている。ただし、本発明はこれに限られない。誘電体部12は、一つ、二つ又は三つの部材で構成されてもよいし、五つ以上の部材で構成されてもよい。
【0028】
図2に示されるように、評価用治具10Aは、上記構成に加えて、さらに一つ又は二つの中間誘電体部129を備えてもよい。図1及び図2から理解されるように、中間誘電体部129は、上下方向において上側誘電体層121と下側誘電体層123との間に挟まれる。また、中間誘電体部129は、第1水平方向において入力側誘電体部125と出力側誘電体部127との間に配置される。中間誘電体部129が一つの場合、中間誘電体部129は、第2水平方向において、評価用治具10Aの一方の端部に配置される。中間誘電体部129が二つの場合、中間誘電体部129は、第2水平方向において、評価用治具10Aの両方の端部に夫々配置されるとともに、互いに離れて配置される。いずれの場合も、受容部18は、第2水平方向において、中間誘電体部129と隣接する。中間誘電体部129が一つの場合、受容部18は、第2方向において、評価用治具10Aの他方の端部側に開いている。中間誘電体部129の数が二つの場合、受容部18は、第2水平方向において、中間誘電体部129の間に位置している。この場合、受容部18は、その周り全体を誘電体部12で囲まれることになる。
【0029】
図1の評価用治具10又は図2の評価用治具10Aは、ノイズ抑制体を受容部18に受容した状態で使用される。ノイズ抑制体は、できるだけ隙間を生じないように受容部18に受容させる。ノイズ抑制体は、特に限定されないが、例えば、ノイズ抑制シートであってよい。また、評価用治具10又は10Aには、図1に示されるように、エンドランチコネクタ20が取り付けられてよい。評価用治具10又は10Aへのエンドランチコネクタ20の取付けを容易にするため、グランドプレーン16の下面側にグランドプレート(図示せず)を設けてもよい。また、誘電体部12又は上側誘電体層121の上面には、エンドランチコネクタ20のボルト(図示せず)に対応する位置に、パッド145(図8参照)を形成してもよい。
【0030】
図1の評価用治具10又は図2の評価用治具10Aは、回路基板に接続されたケーブルから放射される不要電波の抑制に関し、ノイズ抑制体を回路基板に内蔵させた場合の効果を評価するために使用される。その評価方法として、図3に示される測定システム30を用いる方法が考えられる。しかしながら、この方法は、ケーブル36及びアンテナ34を必要とする上、測定も困難である。そこで、本発明は、より簡易な方法を提供しようとするものである。本発明によるノイズ抑制体の評価方法により、ノイズ抑制体に対して妥当な評価を行えることを示すため、まず、図3に示される測定システム30を用いてノイズ抑制体の評価を行った。
【0031】
図3に示される測定システム30は、ネットワークアナライザ32と、アンテナ34と、ケーブル36とを有する。ネットワークアナライザ32のポート1は、被測定物40の信号線の一方の端部に接続され、ポート2は、アンテナ34に接続される。ケーブル36の一方の端部は、被測定物40の信号線の他方の端部に接続される。ケーブル36は、信号線と同一方向(第1水平方向)に延びている。ケーブル36の他方の端部は、100[Ω]の負荷で終端されている。第1水平方向において、被測定物40の信号線の中央からケーブル36の他方の端部までの長さは50cmである。
【0032】
ノイズ抑制体の評価に先立ち、評価基準となるマイクロストリップ線路(MSL)の透過SパラメータS21Rを測定した。即ち、被測定物40としてマイクロストリップ線路を用いた。なお、マイクロストリップ線路は、評価用治具10の受容部18に評価用治具10の誘電体部12を構成するものと同じ誘電体を入れたものに相当する。アンテナ34は、第1水平方向において、マイクロストリップ線路の中央からL[cm]の位置に配置される。また、アンテナ34は、第1水平方向と直交する方向(上下方向)において、ケーブル36から所定の距離だけ離れた位置、例えば10[cm]離れた位置に配置される。こうして、ネットワークアナライザ32を用いて、L[cm]の位置における透過SパラメータS21Rを測定した。ここで、透過SパラメータS21Rは、被測定物40がマイクロストリップ線路の場合の透過Sパラメータの絶対値をデシベル表示したものである。
【0033】
次に、被測定物40として、受容部18にノイズ抑制体(図示せず)を受容させた評価用治具10(実施例1)を用いた。ノイズ抑制体として、3種類のノイズ抑制シートを用意した。具体的には、NiZn系フェライト複合シート(NiZn)と、カルボニル鉄粉複合シート(CIP)と、扁平センダスト複合シート(SD)を用意した。
【0034】
図3の測定システム30を用いて、用意した評価用治具10のL[cm]の位置における透過SパラメータS21Mを測定した。ここで、透過SパラメータS21Mは、受容部18にノイズ抑制体を受容させた場合の透過Sパラメータの絶対値をデシベル表示したものである。
【0035】
次に、測定結果に基づいて、ケーブル36から放射される不要電波に対するノイズ抑制体の抑制効果を示すラインデカップリング率Rdlを求めた。詳しくは、マイクロストリップ線路の透過SパラメータS21Rと受容部18にノイズ抑制体を挿入したときの評価用治具10の透過SパラメータS21Mとからラインデカップリング率Rdlを求めた。即ち、Rdl=S21R-S21M[dB]を算出した。周波数に対するラインデカップリング率Rdlは、L=30[cm]のときの透過SパラメータS21R及びS21Mを用いて算出した。算出結果を図4及び図5に示す。
【0036】
図4及び図5に示されるように、受容部18にノイズ抑制体を受容した評価用治具10のラインデカップリング率Rdlは、正の値を取る。このことから、ノイズ抑制体を信号線14とグランドプレーン16との間に位置するように誘電体部12に内蔵すると、ケーブル36からの放射ノイズの抑制に効果があることが理解される。換言すると、評価用治具10の受容部18にノイズ抑制体を受容したものと同じ構造を持つ回路基板は、その回路基板に接続されたケーブルから放射されるノイズを抑制することができる。換言すると、この構造を持つ回路基板は、ノイズ抑制基板として利用できる。
【0037】
次に、図6に示される測定システム70を用いて、被測定物40の反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定した。詳しくは、被測定物40の信号線の両端に、ネットワークアナライザのポート1とポート2とを同軸ケーブルを用いて接続し、反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定した。被測定物40として、マイクロストリップ線路(MSL)と、実施例1と同じ構造の評価用治具10とを用いた。評価用治具10の受容部18に受容させるノイズ抑制体として、NiZn系フェライト複合シート(NiZn)と、カルボニル鉄粉複合シート(CIP)と、扁平センダスト複合シート(SD)を用いた。そして、得られた反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mから、式(1)を用いて伝送減衰率Rtpを算出した。なお、式(1)は、マイクロストリップ線路上にノイズ抑制体を貼付した場合の伝送減衰率に関する規格であるIEC62333-2に記載された伝送減衰率の式と同じものである。算出結果を図7に示す。
【数2】
【0038】
図5図7とを比較すると、図7に示される伝送減衰率Rtpの周波数特性は、図5に示されるラインデカップリング率Rdlの周波数特性と同様の傾向を示していることが理解される。これは、図3に示されるようにアンテナ34を用いてケーブル36から放射される不要電波を検出しなくても、より簡易な構成の図6の測定システム70を用いた測定結果に基づいて、ある程度妥当な評価を行えることを意味する。つまり、ケーブル及びアンテナを用いずとも、図6の測定システムを用いて、ケーブルから放射される不要電波に対するノイズ抑制体の影響を評価することが可能である。
【0039】
以上のことから理解されるように、本実施の形態によるノイズ抑制体の評価方法は、評価用治具10の受容部18にノイズ抑制体を受容し、信号線14の両端をネットワークアナライザのポート1とポート2とに接続して反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定し、測定した反射SパラメータS11M及び透過SパラメータS21Mを用いて上記式(1)に基づいて伝送減衰率Rtpを計算するというものである。この方法により、アンテナ34を用いてケーブル36から放射される不要電波を検出し、透過SパラメータS21R及びS21Mからラインデカップリング率Rdlを求めた場合と同様に、ノイズ抑制体の評価を行うことが可能である。
【0040】
次に、本実施の形態によるノイズ抑制体の評価方法を用いて、いくつかの実施例(実施例2~6)について評価を行った。各実施例は、評価用治具10の受容部18にノイズ抑制体42を受容させたもの、即ち評価用基板である。
【0041】
まず、上側誘電体層の厚みT及び下側誘電体層の厚みTと、伝送減衰率Rtpとの関係を調べることにした。図8から図10に示されるように、3種類の評価用基板10-1~10-3(実施例2~4)を用意した。
【0042】
図8から図10から理解されるように、評価用基板10-1~10-3の夫々において、入力側誘電体部125の厚みTinと出力側誘電体部127の厚みToutは互いに等しい。これらの厚みを基準厚みTrefとすると、ノイズ抑制体42の厚みTnsは、基準厚みTrefに等しい。図8に示される実施例2の評価用基板10-1において、上側誘電体層の厚みT及び下側誘電体層の厚みTは、ともに基準厚みTrefよりも厚い。図9に示される実施例3の評価用基板10-2において、上側誘電体層の厚みTは、基準厚みTrefに等しく、下側誘電体層の厚みTは、基準厚みTrefよりも厚い。図10に示される実施例4の評価用基板10-3において、上側誘電体層の厚みTは、基準厚みTrefよりも厚く、下側誘電体層の厚みTは、基準厚みTrefに等しい。
【0043】
評価用基板10-1~10-3(実施例2~4)の各々について、ノイズ抑制体42として、NiZn系フェライト複合シート(NiZn)と、カルボニル鉄粉複合シート(CIP)と、扁平センダスト複合シート(SD)を用意した。図6の測定システムを用いて
各評価用基板10-1~10-3(実施例2~4)の反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定し、式(1)に基づいて伝送減衰率Rtpを求めた。その結果を、図11から図13に示す。
【0044】
図11から図13までの図から理解されるように、上側誘電体層121の厚みTが厚い方が、伝送減衰率Rtpが低い。このことから、ノイズ抑制体42は、信号線14とグランドプレーン16との間であって、より信号線14に近い位置にある方が高いノイズ抑制効果を示すことが理解できる。換言すると、ノイズ抑制基板では、上側誘電体層121の厚みは下側誘電体層123の厚みよりも薄い方がノイズ抑制に効果的である。
【0045】
次に、ノイズ抑制体42の厚みTnsと、伝送減衰率Rtpとの関係について調べることにした。図9の評価用基板10-2に加えて、図14及び図15に示される2種類の評価用基板10-4及び10-5(実施例5、6)を用意した。評価用基板10-2、10-4、10-5の全厚みは、互いに等しい。すなわち、評価用基板10-2、10-4、10-5の誘電体部12の厚みは、互いに等しい。図9に示される実施例3の評価用基板10-2において、ノイズ抑制体42の厚みTnsは、基準厚みTrefに等しい。図14に示される実施例5の評価用基板10-4において、ノイズ抑制体42の厚みTnsは、評価用基板10-2における基準厚みTrefの2倍に等しい。すなわち、評価用基板10-4のノイズ抑制体42の厚みTnsは、評価用基板10-2のノイズ抑制体42の厚みTnsの2倍である。また、評価用基板10-4の下側誘電体層123の厚みTは、評価用基板10-2の下側誘電体層123の厚みTの2/3である。図15に示される実施例6の評価用基板10-5において、ノイズ抑制体42の厚みTnsは、評価用基板10-2における基準厚みTrefの3倍に等しい。すなわち、評価用基板10-5のノイズ抑制体42の厚みTnsは、評価用基板10-2のノイズ抑制体42の厚みTnsの3倍である。また評価用基板10-5の下側誘電体層123の厚みTは、評価用基板10-2の下側誘電体層123の厚みTの1/3である。
【0046】
評価用基板10-2についての伝送減衰率Rtpは、図12に示すとおりである。評価用基板10-4~10-5(実施例5、6)の各々について、実施例2~4の場合と同様に、反射SパラメータS11Mと透過SパラメータS21Mとを測定し、式(1)に基づいて伝送減衰率Rtpを求めた。その結果を、図16及び図17に示す。
【0047】
図12図16及び図17から理解されるように、ノイズ抑制体42の厚みが厚くなると伝送減衰率Rtpが増加する。このことから、本実施の形態によるノイズ抑制体の評価方法により、評価用治具10を用いて、ノイズ抑制体42の厚みTnsの相違に基づく伝送減衰率Rtpの違いを適切に評価できていると判断できる。
【0048】
なお、本実施の形態によるノイズ抑制体の評価方法による評価をより適切に行うには、評価用基板又は評価用治具10の誘電体部12が以下に掲げる要件を満たしていることが好ましい。
【0049】
まず、誘電体部12の誘電率が4.3より大きいと、高周波帯で誘電正接tanδが大きくなり、評価用治具10の損失が増してしまう。例えば、誘電体層12として4.3を超える誘電体を備えるマイクロストリップ線路(評価用治具の受容部に誘電体を入れたものに相当)の場合、それ自体の損失が大きすぎて、受容部18内の誘電体をノイズ抑制体42に置き換えたときの変化を適切に観測することができない。また、誘電率が4.3より大きいとマイクロストリップ線路に準TEMモード以外の高次モードが加わるため、10GHz以上の周波数で伝送減衰率Rtpをうまく測定できない。したがって、誘電体部12の誘電率は4.3以下であることが好ましい。さらに、誘電率が3.7より大きいとマイクロストリップ線路に準TEMモード以外の高次モードが加わるため、30GHz以上の周波数で伝送減衰率Rtpをうまく測定できない。そのため、30GHz以上の周波数帯での評価を適切に行うためには、誘電体部の誘電率は、3.7以下であることがさらに好ましい。
【0050】
また、誘電体部12の厚みが厚いと、高周波帯で誘電正接tanδが大きくなり、評価用治具10の損失が増してしまう。したがって、誘電体部12の厚みはある程度薄い方が好ましい。具体的には、誘電体部12の厚みは0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以上0.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
以上、本発明について、いくつかの実施の形態を掲げて説明してきたが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変形、変更が可能である。
【0052】
例えば、ノイズ抑制体42は、第2水平方向において、評価用治具10の外側へはみ出していてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10,10A 評価用治具
10-1,10-2,10-3,10-4,10-5,10-6,10-7 評価用基板
12 誘電体部
121 上側誘電体層
123 下側誘電体層
125 入力側誘電体部
127 出力側誘電体部
129 中間誘電体部
14 信号線
145 パッド
16 グランドプレーン
18 受容部
20 エンドランチコネクタ
30 測定システム
32 ネットワークアナライザ
34 アンテナ
36 ケーブル
40 被測定物
42 ノイズ抑制体
70 測定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図17