(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112138
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】風力診断評価装置、風力診断評価方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20240813BHJP
F03D 80/70 20160101ALI20240813BHJP
F03D 7/04 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
F03D17/00
F03D80/70
F03D7/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017020
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】吉水 謙司
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】谷山 賀浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏雅
(72)【発明者】
【氏名】仲村 岳
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亮
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB02
3H178BB05
3H178BB54
3H178BB56
3H178DD08X
3H178DD12Z
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178EE02
3H178EE06
3H178EE17
3H178EE23
3H178EE26
3H178EE34
(57)【要約】
【課題】風力発電装置の起動時における軸受の損傷リスクを軽減することが可能な風力診断評価装置を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る風力診断評価装置は、風力で回転するブレードと、ブレードの回転力で発電する発電機と、回転力を発電機に伝達する回転軸と、回転軸に設置される軸受と、を少なくとも備える風力発電装置の風力診断評価装置である。この風力診断評価装置は、風力によってブレードに加わる風荷重を解析する風荷重解析部と、風荷重解析部の解析結果に基づいて、風力発電装置の起動時における軸受の状態量を評価する軸受状態評価部と、軸受状態評価部の評価結果に基づいて、起動時における風力発電装置の発電量を含む出力指令値を設定する出力設定部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力で回転するブレードと、前記ブレードの回転力で発電する発電機と、前記回転力を前記発電機に伝達する回転軸と、前記回転軸に設置される軸受と、を少なくとも備える風力発電装置を診断評価する風力診断評価装置であって、
前記風力によって前記ブレードに加わる風荷重を解析する風荷重解析部と、
前記風荷重解析部の解析結果に基づいて、前記風力発電装置の起動時における前記軸受の状態量を評価する軸受状態評価部と、
前記軸受状態評価部の評価結果に基づいて、前記起動時における前記風力発電装置の発電量を含む出力指令値を設定する出力設定部と、
を備える、風力診断評価装置。
【請求項2】
前記風荷重解析部は、前記風力発電装置の起動後も前記風荷重を解析し、
前記軸受状態評価部は、前記起動後の前記風荷重の解析結果に基づいて、前記起動後における前記状態量を予測し、
前記出力設定部は、前記起動後における前記状態量に基づいて前記出力指令値を設定する、請求項1に記載の風力診断評価装置。
【請求項3】
前記風力に関連する風況を解析する風況解析部をさらに備え、
前記風荷重解析部は、前記風況解析部の解析結果に基づいて前記風荷重を計算する、請求項1または2に記載の風力診断評価装置。
【請求項4】
前記風況解析部は、前記解析結果として平均風速を計算し、
前記風荷重解析部は、前記平均風速に基づいて前記風荷重の平均値を計算し、
前記軸受状態評価部は、前記平均値に基づいて前記状態量を評価する、請求項3に記載の風力診断評価装置。
【請求項5】
前記風況解析部は、前記風況の解析結果として乱流強度を計算し、
前記風荷重解析部は、前記乱流強度に基づいて前記風荷重の最大値を計算し、
前記軸受状態評価部は、前記最大値に基づいて前記状態量を予測する、請求項3に記載の風力診断評価装置。
【請求項6】
複数の風況条件の各々に対する鉛直方向の風速分布を示す風況解析データベースと、前記風速分布に対応する複数の荷重解析条件の各々に対する風荷重を前記出力指令値ごとに示す荷重解析データベースと、を格納する記憶部をさらに備え、
前記風況解析部は、前記風況解析データベースを用いて前記風速分布を選出し、
前記風荷重解析部は、前記荷重解析データベースを用いて、複数の出力指令値ごとに、前記風況解析部によって特定された風速分布に対応する風荷重を選出する、請求項3に記載の風力診断評価装置。
【請求項7】
前記風力発電装置が、前記発電機、前記回転軸、および前記軸受を収容するナセルと、前記ナセルを支持するタワーと、をさらに備え、
前記風荷重解析部は、少なくとも1つ以上のフロアで計測された前記タワーのひずみ量を用いて前記ブレードに加わる風荷重を計算する、請求項6に記載の風力診断評価装置。
【請求項8】
前記風荷重解析部は、前記ブレードの根元部分からの距離が異なる3つ以上の計測ポイントで計測された前記ブレードのひずみ量を用いて前記ブレードに加わる風荷重を計算する、請求項6に記載の風力診断評価装置。
【請求項9】
前記軸受状態評価部は、少なくとも3点以上の計測ポイントで計測された前記軸受の変位量を用いて前記軸受に加わる軸受荷重を計算し、計算した軸受荷重を用いて前記状態量を評価する、請求項6に記載の風力診断評価装置。
【請求項10】
前記軸受状態評価部は、前記状態量として前記軸受に形成される油膜の厚さを評価する、請求項6に記載の風力診断評価装置。
【請求項11】
前記記憶部は、前記軸受が過去に損傷したときの油膜厚さに基づいて設定されたしきい値を示す過去損傷データベースをさらに格納し、
前記軸受状態評価部は、前記油膜の厚さと前記しきい値との比較結果に基づいて前記状態量を評価する、前記請求項10に記載の風力診断評価装置。
【請求項12】
前記軸受状態評価部の評価結果に基づいて、前記風力発電装置の起動時における前記軸受の残存寿命を計算する軸受寿命計算部をさらに備え、
前記出力設定部は、前記軸受寿命計算部の計算結果に基づいて前記出力指令値を設定する、請求項6に記載の風力診断評価装置。
【請求項13】
前記出力設定部は、前記軸受寿命計算部の計算結果と、前記風力発電装置の起動時から設計寿命時間までの売電利益と、前記軸受の交換で生じるコストに基づいて、前記出力指令値を設定する、請求項12に記載の風力診断評価装置。
【請求項14】
風力で回転するブレードと、前記ブレードの回転力で発電する発電機と、前記回転力を前記発電機に伝達する回転軸と、前記回転軸に設置される軸受と、を少なくとも備える風力発電装置を診断評価する風力診断評価方法であって、
前記風力によって前記ブレードに加わる風荷重を解析し、
前記風荷重の解析結果に基づいて、前記風力発電装置の起動時における前記軸受の状態量を評価し、
前記軸受の状態量を評価した結果に基づいて、前記起動時における前記風力発電装置の発電量を含む出力指令値を設定する、風力診断評価方法。
【請求項15】
風力で回転するブレードと、前記ブレードの回転力で発電する発電機と、前記回転力を前記発電機に伝達する回転軸と、前記回転軸に設置される軸受と、を少なくとも備える風力発電装置を診断評価するプログラムであって、
前記風力によって前記ブレードに加わる風荷重を解析する処理と、
前記風荷重の解析結果に基づいて、前記風力発電装置の起動時における前記軸受の状態量を評価する処理と、
前記軸受の状態量を評価した結果に基づいて、前記起動時における前記風力発電装置の発電量を含む出力指令値を設定する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、風力診断評価装置、風力診断評価方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置では、風の乱れ等によりブレードに加わる荷重が増大する場合がある。この場合、機械部品の損傷リスクが高まる懸念がある。このため、発電出力を低下させた、通常時よりも低出力の運転状態への切り替えを行う運転制御方法が提案されている。このような出力抑制を伴う運転制御方法では、発電量の損失が生じるものの、機械部品に対する荷重を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3962645号公報
【特許文献2】特許第6421134号公報
【特許文献3】特開2021-88972号公報
【特許文献4】特許第7009237号公報
【特許文献5】特表2022-530198号公報
【特許文献6】特開2020-112035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
風力発電装置に設けられた機械部品の一つに、ブレードの回転力を発電機に伝達する回転軸に設置される軸受がある。この軸受は、乱流等の悪風況下で風力発電装置が起動するときに損傷しやすくなる。
【0005】
しかし、従来の運転制御では、ブレードに加わる荷重ではなく、風速の値に基づいて起動停止を判断する。そのため、上記のような起動時の過負荷による軸受の損傷に対処することが困難である。
【0006】
本発明が解決しようする課題は、風力発電装置の起動時における軸受の損傷リスクを軽減することが可能な風力診断評価装置、風力診断方法、およびプログラムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る風力診断評価装置は、風力で回転するブレードと、ブレードの回転力で発電する発電機と、回転力を発電機に伝達する回転軸と、回転軸に設置される軸受と、を少なくとも備える風力発電装置の風力診断評価装置である。この風力診断評価装置は、風力によってブレードに加わる風荷重を解析する風荷重解析部と、風荷重解析部の解析結果に基づいて、風力発電装置の起動時における軸受の状態量を評価する軸受状態評価部と、軸受状態評価部の評価結果に基づいて、起動時における風力発電装置の発電量を含む出力指令値を設定する出力設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、風力発電装置の起動時における軸受の損傷リスクを軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】風力発電装置の概略的な構成を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る風力診断評価装置およびデータ収集装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図5】荷重解析データベースの一例を示す図である。
【
図6】過去損傷データベースの一例を示す図である。
【
図7】残存寿命データベースを説明するための図である。
【
図8】第1実施形態に係る演算部の演算処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】軸受の残存寿命の計算方法を説明するための図である。
【
図10】風力発電装置10の総運転時間と売電利益との関係の一例を出力指令値ごとに示した図である。
【
図11】(a)は風力発電装置の正面図であり、(b)は地上から高さH1におけるタワーの上面図であり、(c)は地上から高さH2におけるタワーの上面図であり、(d)は、各フロアの風荷重の方向と大きさを示す模式図である。
【
図12】(a)は風力発電装置の正面図であり、(b)はひずみ計測データの一例を示す図であり、(c)は風荷重とアジマス角との関係を示す図である。
【
図13】第2実施形態に係る風力診断評価装置およびデータ収集装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図14】第2実施形態に係る制御部の制御動作の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、風力発電装置の概略的な構成を示す模式図である。
図1に示す風力発電装置10は、筐体であるナセル1と、ナセル1を下方から支持する支柱であるタワー2と、複数のブレード3と、複数のブレード3を支持するハブ4と、を備える。風力発電装置10は、洋上に設置されてもよいし、陸上に設置されてもよい。
【0012】
ナセル1には、回転軸5、軸受6、変速機構7、および発電機8が収容されている。回転軸5の一端は、軸受6によって、ハブ4に回転可能に固定されている。回転軸5の他端は、変速機構7と連結されている。
【0013】
変速機構7は、適宜のカップリング機構などを介して発電機8と連結されている。本実施形態では、3つのブレード3の基端部が、回転方向に120度の間隔をおいてハブ4に固定されている。なお、本実施形態では、変速機構7が設けられていない構成であってもよい。この場合、回転軸5の他端は、発電機8に連結される。
【0014】
風力発電装置10の運転中において、ハブ4および回転軸5と共に一体となって回転する複数のブレード3は、風力から得た流体エネルギを回転エネルギに変換する。この回転エネルギは、回転軸5によって変速機構7を介して発電機8へ伝達される。このとき、変速機構7が回転速度を減速又は増速する。発電機8は、伝達された回転エネルギを用いて発電する。
【0015】
風況計測器9は、ナセル1の外周部に設置されている。風況計測器9は、風向を計測可能な風速計や風向を計測可能な風向計として機能する風速センサの一例である。風況計測器9は、風力発電装置10が設置された設置エリアで、例えば風速の平均および風速の変化を示す風況データを計測する。
【0016】
図2は、軸受6の構造例を示す断面図である。本実施形態では、軸受6は、複数のころ61と、軸受外輪部62と、潤滑油63と、軸受内輪部64と、を有する転がり軸受である。各ころ61は、潤滑油63内で回転する。風力発電装置10の起動時には、ころ61と、軸受外輪部62、軸受内輪部64との間の隙間が小さくなる。そのため、これらの隙間にそれぞれ形成される潤滑油63の油膜の厚さtも小さくなる。そのため、乱流等の状況下で風力発電装置10が、定格発電量の出力指令値に基づいて運転し始めると、軸受6に過大な荷重が加えられる場合がある。この場合、軸受6が損傷しやすくなって、寿命が短くなってしまう。
【0017】
そこで、本実施形態では、風力診断評価装置20が、データ収集装置30に収集されたた種々のデータを用いて風力発電装置10の起動時の出力指令値を設定する。なお、風力診断評価装置20およびデータ収集装置30の設置エリアは、特に限定されない。例えば、風力診断評価装置20は、風力発電装置10の運転制御装置40の周辺に設置されてもよい。
【0018】
図3は、第1実施形態に係る風力診断評価装置20およびデータ収集装置30の概略的な構成を示すブロック図である。風力診断評価装置20およびデータ収集装置30は、有線接続されていてもよいし、ネットワークを介して無線接続されていてもよい。
【0019】
まず、データ収集装置30に収集されるデータについて説明する。データ収集装置30は、例えば、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)データ31、温度計測データ32、気象予測データ33、変位計測データ34、ひずみ計測データ35、および風況計測データ36を収集する。
【0020】
SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)データ31は、風力発電装置10の運転を監視制御するためのデータである。SCADAデータ31には、例えば、発電量、風速、風向、ブレード3のピッチ角およびヨー角などが示されている。SCADAデータ31の風速および風向は、例えば風況計測器9によって計測された風況データである。
【0021】
温度計測データ32には、気温や軸受6の温度などが示されている。気温は、例えば風況計測器9によって計測された温度データである。軸受6の温度は、例えば熱電対を用いて計測された温度データである。
【0022】
気象予測データ33には、例えば気象庁から提供されるMSM(Meso Scale Model)やLFM(Local Forecast Model)といった気象解析モデルが含まれている。
【0023】
変位計測データ34には、風力の荷重による軸受6の変位量δが示されている。変位量δは、例えば
図2に示すように、上記荷重によって点αから点βまでの径方向および軸方向の相対的な変位量である。変位計測データ34には、変位センサ(不図示)によって計測された3点以上の変位量δが示されている。
【0024】
ひずみ計測データ35は、ブレード3のひずみ量とタワー2のひずみ量との少なくとも一方を示す。ブレード3のひずみ量は、ひずみセンサ(不図示)を用いて1つ以上のブレード3で少なくとも2点以上計測される。タワー2のひずみ量は、複数のひずみセンサ(不図示)を用いて計測される。ひずみセンサは、少なくとも1箇所以上のフロアの外周部において、周方向に離れた3点以上の計測ポイントに設置される。具体的には、フロアの外周部が1箇所であれば、ブレード3に加わるスラスト荷重を計測することができる。また、地上からの高さが異なるフロアの外周部が2箇所以上であればブレード3に加わるモーメント荷重を計測することができる。
【0025】
風況計測データ36は、風力発電装置10の周辺に設置された風況実測装置50(
図1参照)によって計測された実測データを示す。風況実測装置50は、例えばLiDAR(Light Detection And Ranging)である。LiDARは、レーザー光を大気中に放射して大気からの散乱光を受信、そのドップラー周波数から風速と風向を観測する。
【0026】
次に、風力診断評価装置20の構成について説明する。風力診断評価装置20は、
図3に示すように、通信部21と、操作部22と、表示部23と、記憶部24と、演算部25と、を備える。以下、各部について説明する。
【0027】
通信部21は、データ収集装置30と通信するときに通信インターフェースとして機能する。
【0028】
操作部22は、ユーザの操作入力を受け付ける。操作部22は、例えばキーボードやマウス等の入力デバイスを有する。
【0029】
表示部23は、演算部25の演出結果等の種々の画像を表示する。表示部23は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスを有する。
【0030】
記憶部24は、風況解析データベース241、荷重解析データベース242、過去損傷データベース243、および残存寿命データベース244を格納する。以下、各データベースについて説明する。
【0031】
風況解析データベース241は、複数の風況条件の各々に対する鉛直方向の風速分布を示す。ここで、
図4を参照して風況解析データベース241の風速分布について説明する。
【0032】
図4は、風速分布の一例を示す図である。
図4では、横軸はタワー2の立地地点の風速を示し、縦軸はその立地地点の標高を示す。
図4には、3つの風況条件C1、C2、C3の風速分布が示されている。各風況条件には、風速、風向、乱流強度、および気温などが含まれる。乱流強度は、風速の標準偏差を平均風速で除した値である。なお、
図4では、ナセル1のある位置における風速分布を示す。しかし、ナセル1は、タワー2を中心にして回転可能である。そのため、風況解析データベース241の風速分布には、ナセル1の回転位置に応じて
図1に示すYZ平面の風速プロファイルが含まれる。ここで
図1に示すXYZ座標軸では、ハブ4の高さ位置かつ風車に風が流入する先端位置を原点としている。X軸は、回転軸5に沿った方向である。Z軸は、鉛直方向である。Y軸は、X軸およびZ軸に直交する方向である。なお、本実施形態では、アップウィンド式風車を対象にしているため、原点位置がハブ4の位置になっている。ただし、本実施形態では、ダウンウィンド式風車を対象としてもよい。この場合には、原点は、風が流入するナセル1の先端部(
図1の黒丸部分参照)となるため、X軸の方向は、
図1に示す向きとは逆向きとなる。
【0033】
図5は、荷重解析データベース242の一例を示す図である。
図5に示す荷重解析データベース242は、複数の荷重解析条件の各々に対する風荷重Fを複数の出力指令値ごとに示す。各荷重解析条件は、上記風速分布に対応する。また、風荷重Fは、風力によってブレード3に加わる荷重である。また、複数の出力指令値は、風力発電装置10(発電機8)の発電量が互いに異なっている。各出力指令値に対応する風荷重Fは、風速分布、乱流強度、回転軸5の回転数、およびブレード3のピッチ角などの荷重解析条件に基づいて予め計算されている。本実施形態では、風荷重Fは、同じ風が吹いたときに迎角を変化させたときのブレード3が受けるスラスト荷重である。
【0034】
図6は、過去損傷データベース243の一例を示す図である。
図6に示す過去損傷データベース243は、複数の出力指令値ごとに、軸受6に形成される油膜厚さのしきい値を示す。過去損傷データベース243に示されるしきい値は、軸受6が過去に損傷したときの油膜厚さに基づいて予め出力指令値ごとに予め設定されている。例えば、風力発電装置10の起動時に出力指令値aが設定されている場合、起動時における軸受6の油膜厚さtがしきい値t
th1を下回っていると、軸受6が損傷する可能性が高くなる。
【0035】
図7は、残存寿命データベース244を説明するための図である。残存寿命データベース244には、風力発電装置10の運転時間の経過に伴って軸受6の寿命がどの程度消費されるかを表すデータが登録されている。
図7に示す残存寿命データベース244では、風力発電装置10の総運転時間と、軸受6の残存寿命率とが関連付けられている。残存寿命率は、風力発電装置10の総運転時間が0であるときの寿命1.0に対して、ある出力指令値で運転時間が経過したときの消費寿命を差し引いた残存寿命の割合を示す。残存寿命データベース244は、実線で示される実績データであってもよいし、点線で示される平均データであってもよい。平均データは、複数の実績データを平均処理した平均寿命消費率である。
【0036】
上述した各データベースは、演算部25の演算処理に用いられる。演算部25は、データ取得部251と、風況解析部252と、風荷重解析部253と、軸受状態評価部254と、軸受寿命計算部255と、出力設定部256と、を有する。なお、各部の機能が、例えばコンピュータプログラムに基づいて演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)によって実現される場合、このコンピュータプログラムは、記憶部24に記憶される。
【0037】
ここで、風力診断評価装置20による風力診断評価方法として、演算部25の演算処理について説明する。
【0038】
図8は、第1実施形態に係る演算部25の演算処理の手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ取得部251が、通信部21を介してデータ収集装置30からデータを取得する(ステップS11)。本実施形態では、データ取得部251は、例えばSCADAデータ31および温度計測データ32を取得する。なお、ステップS11では、データ取得部251は、風況計測データ36も取得してよい。
【0039】
次に、風況解析部252が、データ取得部251によって取得されたデータと、風況解析データベース241とを用いて風況解析を行う(ステップS12)。ステップS12では、まず、風況解析部252は、SCADAデータ31に示された風速や風向等に基づいて風況条件を特定する。続いて、風況解析部252は、特定した風況条件に対応する風速分布を風況解析データベース241から選出する。続いて、風況解析部252は、選出した風速分布に基づいて、軸受6等が収容されたナセル1の地上からの高さH(
図4)を含むブレード3全体に作用する風速分布を求める。
【0040】
なお、ステップS11でデータ取得部251が風況計測データ36も取得している場合には、ステップS1において、風況解析部252は、風況計測データ36から高さHを含むブレード3全体に作用する風速分布を求める。この場合、風況解析部252は、高さHを含むブレード3全体に作用する風速分布について、例えば、風況解析データベース241から求めた値と、風況計測データ36から求めた値とに同じまたは異なる重み付け係数をそれぞれ乗算して加算した値を風況解析結果として出力する。
【0041】
また、ステップS12では、風況解析部252は、高さH(
図4)における風速の所定時間内の平均を示す平均風速、または乱流強度を求めてもよい。
【0042】
風況解析部252の風況解析が終了すると、次に、風荷重解析部253が、風況解析部252の風況解析結果と、荷重解析データベース242とを用いて、風荷重を解析する(ステップS13)。ステップS13では、まず風荷重解析部253は、風況解析部252の風況解析結果、具体的には高さHを含むブレード3全体に作用する風速分布における風速に基づいて荷重解析条件を特定する。続いて、風荷重解析部253は、特定した荷重解析条件に対応する風荷重を、荷重解析データベース242から出力指令値ごとに選定する。このように、ステップS13では、風荷重解析部253が、荷重解析データベース242を用いて風況解析部252の風況解析結果を風荷重に変換する。
【0043】
なお、ステップS12で風況解析部252が平均風速を求める場合には、荷重解析データベース242には、風荷重の平均値が予め登録されている。そのため、ステップS13では、風荷重解析部253は、高さHにおける平均風速に基づいて荷重解析条件を特定し、特定した荷重解析条件に対応する風荷重の平均値を荷重解析データベース242から出力指令値ごとに選定する。なお、この平均風速は、例えば、予め設定された評価時間幅内に複数回計測された風速の平均値であってもよいし、風速分布に示された鉛直方向における(各標高の)複数個の風速の平均値であってもよい。
【0044】
また、ステップS12で風況解析部252が乱流強度を求める場合には、荷重解析データベース242には、風荷重の最大値が予め登録されている。そのため、ステップS13では、風荷重解析部253は、高さHにおける乱流強度に基づいて荷重解析条件を特定し、特定した荷重解析条件に対応する風荷重の最大値を荷重解析データベース242から出力指令値ごとに選定する。
【0045】
風荷重解析部253の荷重解析が終了すると、次に、軸受状態評価部254が、風荷重解析部253の解析結果と、過去損傷データベース243とを用いて、風力に対する軸受6の状態量を評価する(ステップS14)。ステップS14では、まず軸受状態評価部254は、軸受要素モデルを用いて、風荷重によって軸受6に加わる軸受荷重を計算する。軸受要素モデルは、例えば、出力指令値ごとに求められた風荷重を軸受6のころ61に加わる面圧に換算するための計算モデルである。この計算モデルは、ころ61の数、形式、およびころ61と軸受外輪部62、軸受内輪部64との隙間等に応じて予め決められている。本実施形態では、ころ61に加わる面圧の積分値が、軸受荷重に相当する。なお、ステップS13で風荷重解析部253が風荷重の平均値または最大値を選定する場合には、軸受状態評価部254によって軸受荷重の平均値または最大値が計算される。
【0046】
続いて、軸受状態評価部254は、軸受荷重および軸受6の温度に基づいて、出力指令値ごとに潤滑油63の油膜厚さtを計算する。このとき、軸受状態評価部254は、データ取得部251によって取得されたSCADAデータ31または温度計測データ32から軸受6の温度を特定する。また、軸受状態評価部254は、軸受荷重および軸受6の温度をパラメータとする所定式を用いて、油膜厚さtを算出する。この所定式は、例えば、松山博樹著、「転がり軸受の高効率化とトライボロジー」、JTEKT ENGINEERING JOURNAL No.1009、2011年を参照して導出することができる。
【0047】
続いて、軸受状態評価部254は、出力指令値ごとに、算出した油膜厚さtと、過去損傷データベース243のしきい値tthとを比較する。油膜厚さtがしきい値tth以下となる出力指令値が存在する場合、軸受状態評価部254は、その出力指令値では、風力発電装置10の起動時に軸受6が損傷する可能性が高いと評価する。この場合、例えば軸受状態評価部254は、その出力指令値を表示部23に表示させる。
【0048】
一方、油膜厚さtがしきい値t
thよりも大きい出力指令値が存在する場合、軸受寿命計算部255が、残存寿命データベース244を用いて、その出力指令値で風力発電装置10を起動した時の軸受6の残存寿命を計算する(ステップS15)。ここで、
図9を参照してステップS15について説明する。
【0049】
図9は、例えば、油膜厚さtがしきい値t
thよりも大きい3つの出力指令値a,b,c(a<b<c)が存在する場合、軸受寿命計算部255は、まず、残存寿命データベース244を用いて、総運転時間が時間T1となるときを風力発電装置10の起動時と特定し、時間T1における軸受6の残存寿命率を特定する。続いて、軸受寿命計算部255は、出力指令値a,b,cごとに、時間T1以降の軸受6の残存寿命率の変化量、換言すると軸受6の寿命消費量を算出する。このとき、軸受寿命計算部255は、例えば、
図9に示すように、総運転時間と残存寿命率との関係を1次関数の直線で表す平均データを用いて、寿命消費量を算出することができる。
【0050】
上記のように軸受寿命計算部255が風力発電装置10の起動時からの軸受6の残存寿命を計算すると、出力設定部256が、軸受寿命計算部255の計算結果を用いて、風力発電装置10の起動時における出力指令値を設定する(ステップS16)。ステップS16では、出力設定部256は、軸受寿命計算部255によって残存寿命が計算された出力指令値a~出力指令値cの中で、風力発電装置10の総運転時間が設計寿命時間T2に達した時点で残存寿命率が0となっていない条件を満たし、発電量が最も高い出力指令値bを、風力発電装置10の起動時における出力指令値として設定する。ただし、出力設定部256は、寿命だけでなく、例えば、売電により得られる利益も考慮して出力指令値を設定してもよい。
【0051】
図10は、風力発電装置10の総運転時間と売電利益との関係の一例を出力指令値ごとに示した図である。
図10では、横軸は風力発電装置10の総運転時間を示す。縦軸は売電利益を示す。売電利益は、売電量に売電単価を乗算した売電収益から設備維持費差し引いた金額である。この設備維持費には、軸受6の交換で生じるコストが含まれている。
【0052】
出力設定部256は、例えば、出力指令値a~出力指令値cのそれぞれについて、過去の実績額またはこの実績額を平均化した平均額に基づいて、風力発電装置10の起動時(時間T1)から設計寿命時間T2までの売電利益を予想する。
図9に示すように、風力発電装置10の起動時に出力指令値cが設定されていると、設計寿命時間T2よりも前の時間T3で残存寿命率が0となる。この場合、軸受6の交換が必要になる。そのため、
図10に示すように、出力指令値cが設定されている場合には、時間T3で売電利益が減少する。
【0053】
出力設定部256は、例えば、設計寿命時間T2の時点で売電利益が最も多くなる出力指令値を、風力発電装置10の起動時における出力指令値として設定する。
図10の例では、設計寿命時間T2の時点で出力指令値bの売電利益が最も多い。この場合、出力設定部256は、出力指令値bを風力発電装置10の起動時における出力指令値として設定する。
【0054】
なお、出力設定部256による出力指令値の選定方法は、設計寿命時間T2における売電利益に限定されない。例えば、夏季には、風力が弱くなるため、売電益も少なくなる。そこで、出力設定部256は、軸受6の交換時期(時間T3)が夏季になると推定される場合には、出力指令値cを選定して売電利益の最大化を図ってもよい。また、出力設定部256が出力指令値を設定する際には、軸受6の予備品の状況といったパラメータを加えてもよい。例えば、予備品が十分に確保されている場合には、直ちに軸受6の交換作業を開始できるため、交換作業を短縮できる。これにより、交換コストが軽減されるため、売電利益の減少を必要最小限に抑えることができる。
【0055】
最後に、出力設定部256は、設定した出力指令値を、運転制御装置40に出力する。運転制御装置40は、出力設定部256によって設定された出力指令値に基づいて風力発電装置10の運転を制御する。
【0056】
以上説明した本実施形態によれば、風力診断評価装置20が、ブレード3の風荷重に基づいて軸受6の残存寿命を予測し、予測した残存寿命に基づいて風力発電装置10の起動時における出力指令値を設定する。このように、風力診断評価装置20は、風況がブレード3を介して軸受6に影響を及ぼす残存寿命を診断した上で、出力指令値を設定する。そのため、風力発電装置10の起動時における軸受6の損傷リスクを軽減することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、風力診断評価装置20は、風力発電装置10の起動後も、上述したステップS11~ステップS16の処理を実行してもよい。この場合、ステップS11では、データ取得部251は、気象予測データ33も取得する。続いて、ステップS12では、風況解析部252は、気象予測データ33を用いて今後の風速分布を推定する。
【0058】
続いて、ステップS13では、風荷重解析部253が、ステップS12で推定された風速分布を用いて今後の風荷重を予測する。続いて、ステップS14では、軸受状態評価部254が、ステップS13で予測された風荷重を用いて軸受6の状態量(油膜厚さt)を計算する。続いて、ステップS15では、軸受寿命計算部255がステップS14で計算された軸受6の状態量を用いて、軸受6の残存寿命を計算する。最後に、ステップS16では、出力設定部256が、ステップS15で計算された軸受6の残存寿命に基づいて、風力発電装置10の起動時における出力指令値を設定する。この場合、風力発電装置10の運転中の風荷重の予測精度が向上するので、軸受6の残存寿命の計算精度も向上する。よって、風力発電装置10の運転中も軸受6の損傷リスクを軽減することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態では、風力診断評価装置20が、風力発電装置10の起動後も出力指令値を設定する場合、軸受状態評価部254が、軸受6に設置された振動センサ(不図示)によって計測された振動値を軸受6の状態量として評価してもよい。この振動値が大きいと、軸受6の損傷リスクが高くなり、寿命が短く成り得る。そのため、出力設定部256は、軸受6の振動値が小さくなるように出力指令値を設定する。
【0060】
(変形例1)
以下、第1実施形態の変形例1について説明する。ここでは、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0061】
本実施形態では、ステップS11において、データ取得部251は、ひずみ計測データ35も取得する。本変形例に係るひずみ計測データ35は、タワー2のひずみ量を計測したデータを示す。このひずみ計測データ35は、ステップS13で風荷重解析部253が風荷重を解析する際に用いられる。ここで、
図11(a)~
図11(d)を参照して、本変形例に係る風荷重解析ステップを説明する。
【0062】
図11(a)は、風力発電装置10の正面図である。
図11(a)に示すように、本変形例では、タワー2において、地上から高さH1となるフロアのひずみ量と、地上から高さH2(>H1)となるフロアのひずみ量とが、ひずみセンサ(不図示)によって計測される。なお、ひずみ量を計測するフロアは、少なくとも1箇所であればよく、2箇所より多くてもよい。
【0063】
図11(b)は、地上から高さH1におけるタワー2の上面図である。また、
図11(c)は、地上から高さH2におけるタワー2の上面図である。
図11(b)および
図11(c)において、ひずみ量は、タワー2の外周部と中心との成す中心角が、0°、90°、180°、270°となるポイントで計測される。タワー2の正面が、中心角0°に相当する。なお、本変形例では、タワー2の各フロアにおいて、4ポイントのひずみ量を計測しているが、ひずみ量の計測ポイントは、少なくとも3ポイント以上であればよい。
【0064】
風荷重解析部253は、各計測ポイントで計測されたひずみ量の計測値から荷重方向と風荷重の大きさをフロアごとに計算する。例えば、4つの計測ポイントの中で、0°、90°の計測値が、180°、270°の計測値よりも大きい場合、風荷重解析部253は、0°から90°の範囲を荷重方向の範囲として特定する。また、0°の計測値と90°の計測値との差に応じて、荷重方向および風荷重をフロアごとに計算する。
【0065】
図11(d)は、各フロアの風荷重の方向と大きさを示す模式図である。
図11(d)は、高さH1の風荷重F
H1と、高さH2の風荷重F
H2とをベクトルで示している。風荷重解析部253は、これら2つの風荷重をベクトル演算して、地上から高さHの風荷重F
Hを求める。
【0066】
続いて、風荷重解析部253は、第1実施形態で説明した荷重解析データベース242から選定した風荷重Fと、タワー2のひずみ量に基づいて計算した風荷重FHとに同じまたは異なる重み付け係数をそれぞれ乗算して加算した値を風荷重解析結果として出力する。その後、第1実施形態と同様に、ステップS14~ステップS16の処理が実行される。
【0067】
以上説明した本変形例によれば、風荷重解析部253は、風況解析結果だけでなくタワー2のひずみ量も用いて風荷重を解析する。そのため、風荷重を高精度に計算することができる。これにより、軸受6の残存寿命の予測精度も向上する。よって、風力発電装置10の起動時における出力指令値をより適切に設定することが可能となる。
【0068】
(変形例2)
以下、第1実施形態の変形例2について説明する。ここでも、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0069】
本実施形態では、ステップS11において、データ取得部251は、ひずみ計測データ35も取得する。本変形例に係るひずみ計測データ35は、ブレード3のひずみ量を計測したデータである。取得されたひずみ計測データ35は、ステップS13で風荷重解析部253が風荷重を解析する際に用いられる。ここで、
図12(a)~
図12(c)を参照して、本変形例に係る風荷重解析ステップを説明する。
【0070】
図12(a)は、風力発電装置10の正面図である。
図12(a)に示すように、本変形例では、各ブレード3の根元部分からの距離がそれぞれ異なる4つの計測ポイントi、j、k、mのひずみ量が、ひずみセンサ(不図示)によって計測される。なお、ひずみ量の計測ポイントは、4つに限定されず、少なくとも2つであればよい。
【0071】
図12(b)は、ひずみ計測データ35の一例を示す図である。
図12(b)は、計測ポイントmで計測されたひずみの経時的な変化を示す。風荷重解析部253は、各計測ポイントのひずみ量を一定時間で平均する。続いて、風荷重解析部253は、ひずみ量の平均値と、ブレード3の材料定数と、ブレード3のアジマス角とを用いた関数式によって、各計測ポイントの風荷重を計算する。
【0072】
図12(c)は、風荷重とアジマス角との関係を示す図である。
図12(c)では、横軸はブレード3のアジマス角を示し、縦軸は風荷重を示す。風荷重解析部253は、
図12(c)に示す4つの計測ポイントi、j、k、mの風荷重を積分することによって、ブレード3の根元部分に加わる荷重とモーメントを計算する。ブレード3の根元にはナセル1が設けられ、軸受6はナセル1に収容されている。そのため、ブレード3の根元部分の荷重は、軸受6に加わる荷重に近い値となる。
【0073】
続いて、風荷重解析部253は、第1実施形態で説明した荷重解析データベース242から選定した風荷重Fと、ブレード3のひずみ量に基づいて計算した風荷重とに同じまたは異なる重み付け係数をそれぞれ乗算して加算した値を風荷重解析結果として出力する。その後、第1実施形態と同様に、ステップS14~ステップS16の処理が実行される。
【0074】
以上説明した本変形例によれば、風荷重解析部253は、風況解析結果だけでなくブレード3のひずみ量も用いて風荷重を解析する。そのため、本変形例においても風荷重を高精度に計算することができる。これにより、軸受6の残存寿命の予測精度も向上する。よって、風力発電装置10の起動時における出力指令値をより適切に設定することが可能となる。
【0075】
なお、本変形例では、風荷重解析部253は、風荷重を解析する際、変形例1で説明したタワー2のひずみ量を用いてもよい。この場合、風荷重解析部253は、第1実施形態で説明した荷重解析データベース242から選定した風荷重Fと、第1変形例で説明したタワー2のひずみ量に基づく風荷重FHと、本変形例で説明したブレード3のひずみ量に基づく風荷重と、に同じまたは異なる重み付け係数をそれぞれ乗算して加算した値を風荷重解析結果として出力する。これにより、風荷重が、風況解析結果、ブレード3のひずみ量、およびタワー2のひずみ量に基づいて計算されるため、風荷重の精度がさらに高くなる。したがって、軸受6の残存寿命の予測精度もさらに向上するため、風力発電装置10の起動時における軸受6の損傷リスクをより一層軽減することが可能となる。
【0076】
(変形例3)
以下、第1実施形態の変形例3について説明する。ここでも、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0077】
本実施形態では、ステップS11において、データ取得部251は、変位計測データ34も取得する。変位計測データ34は、第1実施形態で説明したように、軸受6の径方向における変位量δを計測したデータである(
図2参照)。取得された変位計測データ34は、ステップS14で軸受状態評価部254が軸受荷重を解析する際に用いられる。本変形例に係る軸受荷重解析ステップを説明する。
【0078】
軸受状態評価部254は、少なくとも3点以上の計測ポイントで計測された変位量δに基づいて、回転軸5が押し込まれた量や回転軸5の傾きを算出する。続いて、軸受状態評価部254は、回転軸5の押し込みや回転軸5の傾きによって生じる軸受荷重やモーメントを、軸受6の変位量との関係式に基づいて計算する。
【0079】
続いて、軸受状態評価部254は、第1実施形態で説明した軸受要素モデルから算出した軸受荷重と、軸受6の変位量に基づく軸受荷重とに同じまたは異なる重み付け係数をそれぞれ乗算して加算した値を軸受荷重解析結果とする。その後は、第1実施形態と同様の処理が実行される。
【0080】
以上説明した本変形例によれば、軸受荷重が、風況解析および風荷重解析だけでなく、軸受6の変位量にも基づいて計算されている。そのため、軸受荷重の計算精度が高くなる。したがって、軸受6の残存寿命の予測精度も向上するため、風力発電装置10の起動時における軸受6の損傷リスクをさらに軽減することが可能となる。
【0081】
(第2実施形態)
図13は、第2実施形態に係る風力診断評価装置20aおよびデータ収集装置30の概略的な構成を示すブロック図である。
図13では、上述した第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0082】
本実施形態に係る風力診断評価装置20aは、第1実施形態に係る風力診断評価装置20の構成要素に加えて、制御部26をさらに備える。制御部26は、演算部25で設定された出力指令値に基づいて風力診断評価装置20の運転を制御する。すなわち、本実施形態に係る風力診断評価装置20aには、第1実施形態で説明した運転制御装置40の機能が制御部26に内蔵されている。ここで、
図14を参照して、風力発電装置10の起動時における制御部26の制御動作について説明する。
【0083】
図14は、第2実施形態に係る制御部26の制御動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、まず、制御部26は、演算部25から上述した第1実施形態または変形例1~変形例3のいずれかの方法で設定された出力指令値を示すデータや、風速データを取得する(ステップS21)。この風速データは、データ収集装置30のSCADAデータ31であってもよいし、風況計測データ36であってもよい。
【0084】
次に、制御部26は、風速データに示された風速の計測値が、カットイン風速よりも大きくて、かつカットアウト風速よりも小さい風速条件を満たすか否かを判定する(ステップS22)。カットイン風速は、風力発電装置10が発電可能な風速の最小値である。一方、カットアウト風速は、風力発電装置10が発電可能な風速の最大値である。
【0085】
計測値が、上記風速条件を満たすと、制御部26は、演算部25で設定された出力指令値で風力発電装置10を起動させる(ステップS23)。風力発電装置10では、出力指令値に含まれる発電量に到達するように、ブレード3のピッチ角や発電機8のトルク値が設定される。
【0086】
なお、本実施形態では、演算部25が、風力発電装置10の起動後も出力指令値の設定動作を継続する場合には、制御部26も、演算部25で設定された出力指令値に基づく風力発電装置10の運転制御を継続する。
【0087】
以上説明した本実施形態においても、第1実施形態と同様に、風力発電装置10の起動時における出力指令値が、風況がブレード3を介して軸受6に影響を及ぼす残存寿命を診断した上で設定される。そのため、風力発電装置10の起動時における軸受6の損傷リスクを軽減することができる。
【0088】
また、本実施形態では、風力診断評価装置20aが、風力発電装置10の運転制御機能も有しているため、第1実施形態で説明した運転制御装置40が不要になる。これにより、最適化された出力指令値による風力発電装置10の運転制御を、1台の装置によって実現することが可能となる。
【0089】
以上、実施形態を幾つか説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0090】
1:ナセル
2:タワー
3:ブレード
4:ハブ
5:回転軸
6:軸受
7:変速機構
8:発電機
9:風況計測器
10:風力発電装置
20、20a:風力診断評価装置
21:通信部
22:操作部
23:表示部
24:記憶部
25:演算部
26:制御部
30:データ収集装置
31:SCADAデータ
32:温度計測データ
33:気象予測データ
34:変位計測データ
35:ひずみ計測データ
36:風況計測データ
40:運転制御装置
50:風況実測装置
241:風況解析データベース
242:荷重解析データベース
243:過去損傷データベース
244:残存寿命データベース
251:データ取得部
252:風況解析部
253:風荷重解析部
254:軸受状態評価部
255:軸受寿命計算部
256:出力設定部