(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112178
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】敷設材
(51)【国際特許分類】
E01C 5/00 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
E01C5/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017071
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】502237249
【氏名又は名称】有限会社大阪セーフティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 憲道
【テーマコード(参考)】
2D051
【Fターム(参考)】
2D051AA02
2D051AA03
2D051AA08
2D051AB03
2D051AC01
2D051AF01
2D051AF07
2D051AG06
2D051AG11
2D051AH02
2D051CA07
2D051DA04
2D051DB03
(57)【要約】
【課題】路面や床面に用いられる敷設材において、防滑性を高める。
【解決手段】本発明の敷設材は、基板層2の表面に高分子化合物からなるコーティング層3を備えており、コーティング層3に層表面で開口した開口部5と、開口部5を層内部で連通させる立体網目状の微小孔4を成形して構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板層の表面に高分子化合物からなるコーティング層を備えた敷設材であって、
前記コーティング層に、層表面で開口した開口部と、該開口部を層内部で連通させる立体網目状の微小孔を成形したことを特徴とする敷設材。
【請求項2】
前記微小孔が、前記コーティング層の結晶粒界を拡張して成形されることを特徴とする請求項1に記載の敷設材。
【請求項3】
前記基板層と前記コーティング層が接する面に空隙が成形されることを特徴とする請求項1又は2に記載の敷設材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面や床面に用いられる敷設材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、路面や床面に用いられる敷設材の表面には、防水又は防汚対策や光沢効果を目的として、高分子化合物からなるコーティング材によるコーティング層が積層されている。このようなコーティング層が積層された敷設材は、本磨き仕上げされた敷設材と比較して安価かつ容易であるため、主流として利用されている(特許文献1及び2参照)。また、敷設材表面の光沢効果の劣化を敷設材に対して、その光沢効果を復元するために敷設材表面に塗布する樹脂ワックスも開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭52-11927号公報
【特許文献2】特開2004-218213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高分子化合物からなるコーティング層が積層された敷設材は吸水性又は浸水性を失うため、敷設材の表面に水が溜まる(水捌けが悪い)状態となり、歩行者が滑りやすく転倒して危険が伴うという問題があった。そのため、従来、防滑処理を行う際、高分子化合物からなるコーティング層を有する敷設材の表面に積層されたコーティング材を剥離する必要があった。その結果、従来の防滑施工では、施工後の敷設材の色や光沢が変異して外観や景観が変わってしまうという問題もある。また、光沢効果の復元のための樹脂ワックスを塗布した場合においても、敷設材表面にコーティング層を更に積層した構造となるため、その吸水性又は浸水性を失うこととなり、歩行者が滑りやすい状態も復元されてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記のような現状を検討して改善を施した敷設材を提供することを技術的課題としている。
【0006】
本発明に係る敷設材は、基板層の表面に高分子化合物からなるコーティング層を備えた敷設材であって、前記コーティング層に、層表面で開口した開口部と、該開口部を層内部で連通させる立体網目状の微小孔を成形したものである。
【0007】
本発明の敷設材は、前記微小孔が、前記コーティング層の結晶粒界を拡張して成形されるものとしてもよい。
【0008】
また、前記基板層と前記コーティング層が接する面に空隙が成形されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高分子化合物からなるコーティング材が積層された敷設材であっても滑りにくく、歩行者が転倒する危険性を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の敷設材を示す図であって、(A)は全体斜視図、(B)は側面図である。
【
図2】第一実施形態の微小孔を示す敷設材の部分拡大断面図である。
【
図3】第一実施形態の微小孔の成形領域の説明図であって、(A)はコーティング層にのみ微小孔が成形された部分拡大断面図、(B)は基板層及びコーティング層に微小孔が成形された部分拡大断面図である。
【
図4】第二実施形態の微小孔を示す敷設材の部分拡大断面図である。
【
図5】
図1に示す敷設材における断面図であって、(A)~(C)が敷設材のX-X断面の構造及びY-Y断面の構造の組み合わせが異なる断面図である。
【
図6】第二実施形態の敷設材の製造方法を説明するための部分拡大断面図であって、(A)は成形型の図、(B)は成形型にコーティング材を投入後の図、(C)は完成図である。
【
図7】第三実施形態の微小孔を示す敷設材の部分拡大断面図である。
【
図8】第四実施形態の微小孔を示す敷設材の部分拡大断面図である。
【
図9】第四実施形態の空隙部を示す部分拡大断面図である。
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
<基本構成>
本発明の基本構成について説明する。
図1に示すように、本発明の敷設材1は、基板層2の表面(上面)に、高分子化合物からなるコーティング層3を備えたものである。換言すると、敷設材1は、敷設材1の基板層2(第一層)の表面に、高分子化合物によるコーティング材を塗布又は成形することで、コーティング層3(第二層)を積層させた多層構造である。なお、本明細書において、基板層2とコーティング層3の積層方向を上下方向とするものとし、当該上限方向に対して垂直な面における一方向を、縦方向とする一方、この縦方向及び上限方向それぞれと垂直となる方向を横方向とする。
【0012】
基板層2は、敷設材1の基となる層である。例えば、天然大理石や人工大理石、御影石、タイル、セラミックタイル、ホーロー、金属、木材等で構成される。コーティング層3は、基板層2の表面に高分子化合物からなるコーティング材を積層されたものである。コーティング材は、高分子化合物で構成されており、例えば、防水又は防汚対策や光沢効果を目的とした路面又は床面用コーティング材等である。
【0013】
敷設材1には、連続した立体網目状の微小孔4が成形されている。また、敷設材1(コーティング層3)の表面には、微小孔4の出入口となる開口部5が複数開口している。微小孔4は、コーティング層3表面の開口部5をコーティング層3や基板層2内部で連通するように敷設材1内に四方八方に張り巡らされており、連通した各開口部5から水等の液体が出入り可能な構造となっている。
【0014】
敷設材1に水等の液体が通る微小孔4を設けることで、敷設材1表面の開口部5から敷設材1内の微小孔4を通じて敷設材1表面の液体が敷設材1内部に浸透する。これにより、敷設材1表面が液体で濡れた状態となった場合に歩行者が歩行した際、微小孔4を通じて敷設材1内に浸透した液体に対して作用する歩行者の歩行による外力(圧力)と液体が持つ表面張力とによる吸盤効果が生じることで、歩行者の足底と敷設材1の表面に摩擦力が大きくなり滑りを抑制できる。これにより、高分子化合物からなるコーティング材が積層された敷設材であっても滑りにくく、歩行者が転倒する危険性を防止することができる。
【0015】
[第一実施形態]
まず、本発明の敷設材1の第一実施形態について説明する。
図2に示すように、本実施形態の敷設材1は、敷設材1内に格子状の微小孔4が深さ方向(敷設材1の厚み方向)に成形されたものである。即ち、連続した立体網目状(格子状)の微小孔4が、敷設材1内に四方八方に広がって成形されている。換言すると、微小孔4は敷設材1内を縦方向及び横方向それぞれに広がることで、格子状の微小孔4が敷設材1内で立体的に展開される。なお、本実施形態では、
図1におけるX-X断面(縦方向断面)及びY-Y断面(横方向断面)それぞれが、同一又は類似の格子状で構成されている。
【0016】
図2に示すように、敷設材1内に成形された微小孔4は、水等の液体の通路(孔路)となり、敷設材1(コーティング層3)の表面に成形された各開口部5から液体が入り込んで微小孔4内に浸透する。各開口部5から浸透した液体は、微小孔4内に滞留しており、敷設材1(コーティング層3)にかかる歩行者の靴底からの圧力(底屈力:歩行などにより敷設材1を踏む力)により、微小孔4内を液体が移動しようとする。このとき、微小孔4内の液体は、連続した立体網目状(格子状)の微小孔4内を通過して連通した開口部5から排出されようとするものの、隣接する開口部5それぞれに靴底による外部圧力がかかった状態となることで、靴底で開口部5を閉じられた微小孔4が液体で充満された状態となる。
【0017】
すなわち、靴底で踏まれた開口部5の液面に発生する液体の表面張力により、靴底と敷設材1(コーティング層3)表面との間に真空状態が形成されて吸盤効果を発生し、靴底が敷設材1に吸着することとなる。また、コーティング層3内に成形された微小孔4の間隙が非常に狭いことから毛細管現象が作用し、微小孔4内の液体がコーティング層3内に引き込まれることとなるため、靴底と敷設材1表面との間の吸盤効果を高めることとなる。
【0018】
さらに、微小孔4が連続した立体網目状(格子状)構造となって、コーティング層3の深さ方向(厚み方向)だけでなく、縦横方向(厚み方向に対して垂直な面方向)にも広がっている。そのため、コーティング層3内を張り巡らされた微小孔4による毛細管現象に基づく吸着力が大きく作用して、靴底と敷設材1(コーティング層3)表面とに摩擦力を生じさせることとなる。このように、歩行者の靴底により敷設材1表面に構成される多数の開口部5が塞がれることで、歩行者の靴底により液体で充満された微小孔4が密閉されるため、靴底と敷設材1との間に吸盤効果が作用し、靴底に対して敷設材1表面による摩擦が生じて防滑を達成する。
【0019】
本実施形態によれば、連続した立体網目状(格子状)の微小孔4を備えることで、敷設材1の表面の水膜と歩行者の脚(靴底)による外部からの圧力で吸盤効果による摩擦が生じ、優れた防滑性を得ることができる。これにより、高分子化合物からなるコーティング層3(敷設材1)の表面が水等の液体で濡れたとしても滑りにくく、歩行者が転倒する危険性を防止することができる。
【0020】
本実施形態によれば、コーティング層3(敷設材1)に複数の開口部5とこの開口部5を連通させた微小孔4を備えているため、コーティング層3表面に溜まった液体をコーティング層3内に浸透できる。これにより、従来のように防滑性能を得るためにコーティング層3を剥離する必要がないため、防滑性を有した床面施工作業において、その作業効率が大幅に向上するとなる。さらに、床面に防滑性を付与するために敷設材1からコーティング層3を剥離等する必要がなくなることから、敷設材1の色や光沢が変わることなく、美観(外観)を維持したまま防滑効果も得ることができる。
【0021】
このように、本実施形態の敷設材1は、近年主流として利用されている防水又は防汚対策や光沢効果等を目的として基板層2表面に積層される高分子化合物からなるコーティング層3の特性を維持したまま、さらに防滑効果を付加することができる。また、本実施形態では、微小孔4が基板層2表面に達するように成形されることで、歩行者が敷設材1表面(コーティング層3表面)を歩いた際に、微小孔4の内壁面を通じて基板層2と歩行者の靴底とが電気的に接続されて同電位となるため、歩行者に静電気が蓄電することを防止できる。
【0022】
本実施形態の微小孔4の成形領域(範囲)について説明する。
図2に示す構成では、敷設材1の微小孔4は、コーティング層3内において、基板層2とコーティング層3の境界に達するまで形成されるものとしたが、
図3に示すように、敷設材1の微小孔4を、コーティング層3内のみに形成するものとしてもよいし、基板層2及びコーティング層3内に形成するものとしても構わない。
【0023】
図3(A)に示すように、コーティング層3内のみに微小孔4を成形した場合、基板層2の材質等を問わずに敷設材1を製造することができる。即ち、基板層2の材質等に影響されずに、微小孔4を備えた敷設材1を製造することが可能であるため、汎用性が高く、製造や施工作業が容易である。なお、コーティング層3内のみに微小孔4を成形する敷設材1において、
図2の構成のように、コーティング層3の深さ方向(厚み方向)全域に微小孔4を成形した場合でも、基板層2の材質等に影響されずに、微小孔4を備えた敷設材1を製造することが可能である。
【0024】
図3(B)に示すように、基板層2及びコーティング層3内の両方に微小孔4を成形した場合、コーティング層3(上層)から基板層2(下層)までの範囲に微小孔4が成形されるため、微小孔4の総面積(孔路の総距離)が増え、敷設材1(微小孔4)内に、より多くの液体を浸透又は滞留させることが可能である。このように、水等の液体を取り込める容量が増えるため、優れた防滑効果を得ることができる。また、微小孔4が基板層2内部に達するように成形されることで、歩行者が敷設材1表面(コーティング層3表面)を歩いた際に、微小孔4の内壁面を通じて基板層2と歩行者の靴底とが電気的に接続されて同電位となるため、歩行者に静電気が蓄電することを防止できる。
【0025】
[第二実施形態]
本発明の敷設材の第二実施形態について説明する。
図4に示すように、本実施形態の敷設材1は、梯子形状を組み合わせたあみだ状の微小孔4が成形されたものである。即ち、連続した立体網目状(梯子状)の微小孔4は、第一実施形態床となり、深さ方向に形成されるとともに縦横方向に隣接する微小孔4をつなぐ縦横方向に形成された微小孔4が同一高さで連続的に接続されるものではなく、異なる高さで敷設材1内に四方八方に広がって成形されている。
【0026】
第一実施形態と同様に、敷設材1内のコーティング層3に成形された微小孔4は、液体が浸透可能な孔路となる。即ち、コーティング層3の表面に成形された複数の開口部5から液体が入り込んで微小孔4によって敷設材1内に浸透する。複数の開口部5は、微小孔4が連続した立体網目状(梯子状)構造であるため、連通した各開口部5から微小孔4の孔路内を液体が出入り又は往来可能である。
【0027】
換言すると、敷設材1(コーティング層3)の表面で開口する各開口部5から液体が入り込んで微小孔4内に浸透する。各開口部5から浸透した液体は、微小孔4内に滞留してもよいし、連続した立体網目状(梯子状)の微小孔4内を通過して連通した各開口部5から排出されても構わない。例えば、一方の開口部5aから入り込んだ液体は、連続した立体網目状(梯子状)構造の微小孔4を通って敷設材1内に浸透するとともに、連通した他方の開口部5bから排出される。即ち、連通した各開口部5から微小孔4の孔路内を液体が出入り又は往来可能である。
【0028】
本実施形態の敷設材1は、第一実施形態と異なり、微小孔4があみだ形状に構成されることにより、微小孔4が複雑な形状となるため、微小孔4を流れる液体に抵抗を与えることとなるため、微小孔4内に浸透した液体が微小孔4内で滞留しやすくなる。その結果、歩行者が敷設材1上を歩行した際に、微小孔4内の液体が作用することによる吸盤効果が大きく作用するため、より優れた防滑効果を得ることができる。
【0029】
なお、本実施形態において、
図4の構成のように、敷設材1の微小孔4が、コーティング層3内で、基板層2とコーティング層3の境界に達するまで形成されるものとしたが、第一実施形態と同様、敷設材1の微小孔4を、コーティング層3内のみに形成するものとしてもよいし、基板層2及びコーティング層3内に形成するものとしても構わない。さらに、第一及び第二実施形態において、深さ方向に形成される微小孔4は、開口部5と連通する構成であれば、その深さ方向の長さについてバラツキがあるものであってもよい。即ち、深さ方向の微小孔4の一部が、基板層2上面に達する一方で、別の一部が基板層2に達することがないような構成であっても構わないし、さらに、基板層2内部まで形成されるものも備えるようにしても構わない。
【0030】
また、第一及び第二実施形態において、微小孔4が成形される敷設材1は、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、そのX-X断面(縦方向断面)とY-Y断面(横方向断面)が同一形状又は類似形状となるものとしたが、
図5(C)に示すように、両断面の形状が異なる形状となるものでも構わない。即ち、
図5(C)に示すように、敷設材1のX-X断面における微小孔4が格子状である一方、敷設材1のY-Y断面における微小孔4はあみだ形状であってもよい。
【0031】
さらに、上記形状に限らず、敷設材1のX-X断面及びY-Y断面における微小孔4の構造は、上記格子状及び梯子状に限らず、例えば、ハニカム構造や蟻の巣又は植物の根のように広がった形状等であってもよい。このとき、敷設材1のX-X断面及びY-Y断面における微小孔4の構造が、
図5(A)及び
図5(B)のように類似形状又は同等形状となるものとしても構わないし、
図5(C)のように別形状のものが組み合わさるものとしても構わない。
【0032】
第一及び第二実施形態の敷設材1(微小孔4)の製造方法について説明する。各実施形態の敷設材1(微小孔4)は、様々な手法で製造可能である。例えば、第一実施形態の敷設材1のように、格子状の微小孔4を形成する場合は、ドリル等の回転工具等を用いた微細深穴加工であってもよいし、レーザー光線を照射して穴あけを行うレーザー加工であってもよい。また、熱熔解積層(FDM)方式又は光造形方式による3Dプリンターによってコーティング材を基板層2表面に積層することで微小孔4及び開口部5を有するコーティング層3を成形しても構わない。この3Dプリンターによる成型方法は、第二実施形態の敷設材1のように微小孔4があみだ形状で複雑な形状となる場合に有効である。
【0033】
さらに、
図6に示すように、微小孔4の空洞部分と同一形状の中子6を消失材で基板層2表面上に構成し、中子が積層された基板層2表面に高分子材料によるコーティング材を積層してコーティング層3を成形した後、中子6の消失材を揮発又は溶解させて微小孔4及び開口部5を有するコーティング層3を基板層2表面に積層する者としても構わない。このとき、中子6を構成する消失材を、例えば、水溶性の樹脂材料で構成することで、基板層2表面にコーティング材を積層した後に中子6の消失材を水で溶解させて微小孔4及び開口部5をコーティング層3に形成するものとしてもよい。
【0034】
中子6を使用したコーティング層3の成型方法について、以下に説明する。
図6(A)に示すように、水溶性プラスチック等の消失材を用いて連続した立体網目状の中子6(中に入れる型)を基板層2表面に成形する。そして、
図6(B)に示すように、中子6を成形した基板層2表面に対して、中子6の回りに高分子化合物からなるコーティング材をオーバーモールドしてコーティング層3を成形する。その後、中子6を構成する消失材を温水中で溶解することで除去することで、
図6(C)に示すように、コーティング層3内に溶解した中子6の形状と同様の空洞が形成されて微小孔4及び開口部5が成形されることとなり、連続した立体網目状(梯子状)の微小孔4を備えた敷設材1を製造できる。
【0035】
[第三実施形態]
第三実施形態について説明する。
図7に示すように、本実施形態の敷設材1は、蟻の巣状あるいは植物の根のような形状の微小孔4が成形されたものである。即ち、連続した立体網目状(蟻の巣状あるいは植物の根状)の微小孔4が、敷設材1内に四方八方に広がって成形されている。換言すると、本実施形態の敷設材1において、その表面で開口した複数の開口部5が一面に形成されるとともに、各開口部5と連通する微細な穴又は孔(微小孔4)が敷設材1内部で不規則に形成され、蟻の巣状あるいは植物の根状のように張り巡らされている。
【0036】
上記各実施形態と同様に、敷設材1のコーティング層3内に成形された微小孔4は、液体が浸透可能な孔路となる。即ち、液体の出入口となる微小孔4の開口部5から、敷設材1(コーティング層3)表面の液体が浸透し、敷設材1(微小孔4)内に液体を取り込む。敷設材1に浸透した液体は、微小孔4の孔路内を通過することができ、微小孔4内に滞留できる。なお、本実施形態において、微小孔4は、コーティング層3内のみに形成されるものとしたが、第一及び第二実施形態と同様、基板層2及びコーティング層3の境界まで達するものとしても構わないし、基板層2内部にも形成されるものとしても構わない。
【0037】
本実施形態の敷設材1の製造方法について、第一及び第二実施形態と同様、様々な手法で製造可能である。なお、本実施形態の敷設材1は、その微小孔4の形状が第二実施形態のものと同様に複雑形状となっているため、例えば、3Dプリンターによって製造しても構わない。また、
図6に示すような消失材による中子6を用いて製造方法により、敷設材1を製造する者としても構わない。このような手法を用いることで、本実施形態に係る連続した立体網目状(蟻の巣状あるいは植物の根状)の微小孔4を備えた敷設材1を製造できる。
【0038】
[第四実施形態]
第四実施形態について説明する。
図8に示すように、本実施形態の敷設材1は、高分子化合物からなるコーティング層3の結晶粒g1,g1同士の境界(結晶粒界g2)を拡張させて微小孔4を成形したものである。即ち、連続した立体網目状の微小孔4が、結晶粒界g2を拡張して成型されるため、結晶粒g1の外周面に沿って敷設材1内に四方八方に広がって形成されることとなる。
【0039】
上記各実施形態と同様に、敷設材1内(コーティング層3)に成形された微小孔4は、液体が浸透可能な孔路となる。即ち、敷設材1(コーティング層3)の表面に成形された開口部5から液体が浸透して、微小孔4内を往来可能である。また、開口部5は、敷設材1のコーティング層3表面における結晶粒g1の外周に沿うようなリング形状となる。このとき、開口部5の間隙の幅は、結晶粒g1の外周に沿って略一定であっても構わないし、結晶粒g1の外周位置によって異なるであっても構わない。同様に、連続した立体網目状の微小孔4についても、開口部5と同様、その間隙の幅が、結晶粒g1の外周面に沿って略一定となるものであっても構わないし、結晶粒g1の外周面位置によって異なるものであっても構わない。
【0040】
本実施形態の敷設材1(微小孔4)の製造方法について説明する。本実施形態(微小孔4)は様々な方法で製造可能である。例えば、敷設材1の高分子化合物からなるコーティング層3の密着した結晶粒g1,g1同士の境界(結晶粒界)にある間隙g2を拡張させる拡張剤に、コーティング層3を成形する高分子化合物と親和性の高い浸透促進剤を混合した溶剤を、コーティング層3の表面から浸透させることによって、結晶粒界の間隙g2を拡張させて微小孔4及び開口部5を成形する。
【0041】
また、敷設材1の高分子化合物からなるコーティング層3の結晶粒g1の表面を溶解させる溶剤に、コーティング層3を成形する高分子化合物と親和性の高い浸透促進剤を混合した溶剤を、コーティング層3の表面から浸透させることによって、結晶粒g1の大きさ(結晶粒度)が小さくなり、結晶粒界(結晶粒g1,g1の境界部分)の間隙g2が実質的に拡張されることで微小孔4及び開口部5を成形する。
【0042】
なお、少なくとも拡張剤を含む溶剤を、コーティング層3だけでなく、コーティング層3下の基板層2にも浸透させて、コーティング層3(上面)から基板層2(下面)にまで微小孔4を成形するものとしても構わない。また、コーティング層3を有しない基板層2のみで構成される敷設材1であっても、本実施形態と同様に、拡張剤のみによる溶剤又は拡張剤と浸透促進剤を混合した溶剤を用いることで、基板層2における結晶粒界の間隙を拡張させて基板層2に微小孔4と開口部5を成形できる。
【0043】
コーティング層3を構成する高分子化合物と親和性の高い浸透促進剤を用いることで、拡張剤等の溶剤のみでは浸透が困難なコーティング層3の結晶粒界の間隙g2に溶剤を浸透させることが可能となる。これにより、高分子化合物からなるコーティング層3を備えた敷設材1であっても、微小孔4を成形することができる。
【0044】
高分子化合物からなるコーティング層3が積層された敷設材1が床材として敷設されている場合、既に敷設された敷設材1の表面に少なくとも拡張剤を含む溶剤を適量塗布することで、敷設材1に微小孔4及び開口部5を成形するものとしても構わない。これにより、床材として既設の敷設材1表面にコーティング層3が積層されていた場合であっても、拡張剤を含む溶剤を少なくともコーティング層3に浸透させて、コーティング層3の結晶粒界の間隙g2を拡張して微小孔4及び開口部5を成形できる。
【0045】
また、本実施形態において、
図9に示すように、微小孔4と連通する空隙部7が基板層2とコーティング層3の境界に構成されるものとしても構わない。このとき、例えば、基板層2には作用せずに高分子化合物からなるコーティング層3のみに作用する拡張剤を含む溶剤を用いて微小孔4を成形することで、コーティング層3に浸透した溶剤は基板層2に浸透することなく、コーティング層3の底(基板層2とコーティング層3との境界面Bであって基板層2上面)に滞留する。
【0046】
これにより、境界面Bのコーティング層3側に溶剤が液溜まりし、当該境界面Bに空間が空隙部7として成形される。即ち、微小孔4に連通した空隙部7が成形されることで、開口部5から浸透する水等の液体が滞留又は往来するスペースが、コーティング層3内部において増えることとなる。これにより、敷設材1内に取り込める液体量が増加することとなり、コーティング層3内での移動する液体量に基づく吸盤効果が得やすくなり、優れた防滑効果を得ることができる。
【0047】
上記各実施形態において、コーティング層3内に構成される微小孔4の大きさ(内径)は0.1~10μm以下であることが好ましい。微小孔4の内径が大きすぎると、敷設材1の表面が凸凹になり、コーティング層3特有の防水又は防汚効果や美観(光沢効果)が低下する。また、微小孔4の内径が小さすぎると、液体が微小孔4に浸透せずに防滑効果が得られない。このように、本実施形態において適切なサイズの微小孔4を成形することで、より優れた防滑効果を得られるとともに、コーティング層3が備えた特有の効果を維持することができる。なお、結晶粒g1,g1の境界となる結晶粒界の間隙g2を拡張することで微小孔4を形成する場合、結晶粒g1の境界面に沿って形成された形状となり、その間隙g2の距離(隙間厚さ)が0.1~10μmであることが好ましい。
【0048】
以上のことから明らかなように、上述の各実施形態の高分子化合物からなるコーティング層3を備えた敷設材1はそれぞれ、連続した立体網目状の微小孔4を備えることで、例えば、水が微小孔4に浸透して水による表面張力と水面に外部からの圧力(歩行等)が加わって生じる毛細管現象による吸盤効果で発生する摩擦によって滑りを制御することもできる。即ち、敷設材1は微小孔4を備えることでコーティング層3がスタッドレス化し、微小孔4が敷設材1の表面の水を取り込み、滑りの原因である水膜を敷設材1表面から除去するだけでなく、敷設材1内部に滞留することで吸盤効果を発揮することとなる。
【0049】
上述したように、本発明の敷設材1は、コーティング層3を維持したまま敷設作業を行えるため、その作業効率が向上し、コスト面においても優れる。また、既設の敷設材1にコーティング層3が積層されている場合であっても、このコーティング層3の剥離又は溶解が不要であるため、既設の敷設材1に対しても防滑性能を付加するにあたっての作業効率が向上する。また、コーティング層3の剥離又は溶解を不要とすることから、本来の敷設材1の色や質感、光沢が変異することなく、美観(外観)を維持したまま防滑効果を付加できる。このように、本発明の敷設材1は、近年主流として利用されている防水又は防汚対策や光沢効果等を目的としたコーティング層3の特性を維持したまま、さらに防滑効果を付加することができる。
【0050】
なお、本発明における各部の構成は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば、敷設材1に成形された開口部5は、敷設材1の表面に成形されていてもよいし、敷設材1の表面及び側面に成形されて構わない。また、敷設材1の大きさや、基板層2及びコーティング層3の厚さ(膜厚)は所望のサイズに適宜変更可能である。さらに、敷設材1は基板層2の表面にコーティング層3を備えたものであって、コーティング層3が異なる高分子化合物層で構成される2層以上の多層構造であってもよく、基板層2が異なる基板材で構成される2層以上の多層構造であっても構わない。
【0051】
また、上述の各実施形態において、開口部5と連通する微小孔4を備えた敷設材1は、工場等で予め化学的手法により製造されるものであってもよいし、機械的(物理的)手法により製造されるものであってもよい。又、既設の敷設材1に対して、溶剤などを敷設材1に塗布することにより、微小孔4及び開口部5を有する敷設材1を製造するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 敷設材
2 基板層
3 コーティング層
4 微小孔
5 開口部
7 空隙部